説明

水溶性フッ素化合物溶出防止用資材、その製造方法、および水溶性フッ素化合物溶出防止方法

【課題】浄水ケーキの有効利用を図ることができ、フッ素で汚染された土壌や固形産業廃棄物からのフッ素の溶出を防止可能な水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の提供。
【解決手段】本発明の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、水溶性フッ素化合物によって汚染された土壌または固形産業廃棄物を処理対象として、これらの処理対象から処理対象周辺の非汚染領域へ水溶性フッ素化合物が溶出するのを防止するために使用される水溶性フッ素化合物溶出防止用資材であって、浄水ケーキの粉砕物を主成分とすることを特徴とするものである。浄水ケーキの粉砕物は、風乾あるいは150℃以下で通風加熱乾燥されたものであると好ましい。また、浄水ケーキの粉砕物に対して、さらに、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物が添加、混合されているものであると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性フッ素化合物によって汚染された土壌または固形産業廃棄物から、その周辺の非汚染領域へ水溶性フッ素化合物が溶出するのを防止するために使用される水溶性フッ素化合物溶出防止用資材と、その製造方法、および水溶性フッ素化合物溶出防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水ケーキは、浄水場での水処理過程で発生する沈澱物を加圧・脱水、あるいは天日乾燥したもので、一般的には、産業廃棄物として処分されている。しかし、産業廃棄物として排出される浄水ケーキは年々増加の一途をたどり、埋め立て処分地等の確保も困難となっている現状にある。そのため、その資源化、利用法が望まれている。
【0003】
浄水ケーキを資源化する方法としては、従来、浄水ケーキを利用して水質浄化資材を製造することが既に提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。この特許文献1に記載の水質浄化資材は、例えば、湖沼などの中に投入されたり、カラム状の容器に充填して用いられたり、あるいは、水中の懸濁物質の凝集剤として使用されたりするものである(特許文献1:段落[0038]参照)。
【特許文献1】特開平10−57804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フッ素は強い反応性を持つ物質であり、自然界では、蛍石[CaF2]、氷晶石[Na2AlF3]、燐灰石[Ca3(F2Cl)(PO43]などの鉱物として存在している。こうしたフッ素は、土壌中には平均285ppm程度が存在するものの、水や塩類溶液に可溶化するフッ素はごく少ない。
【0005】
しかし、例えば、人為的な行為等によって不安定な形態のフッ素化合物が生成されたり廃棄されたりすると、土壌のフッ素濃度が環境基準(溶出濃度:0.8mg/L)を上回るような事態に至ることもある。代表的な例を挙げれば、フッ素に汚染された工場跡地の土壌、フッ素を含有するスラッジやスラグなどの固形産業廃棄物などには、環境基準(0.8mg/L)を上回るフッ素が含まれていることもある。その場合、そのような土壌は汚染土壌と認定され、その対策が義務付けられている。
【0006】
こうした汚染土対策としては、大別すると、汚染土を現地より取り除く排土処理や、現地で汚染濃度を低減する不溶化処理などを挙げることができる。前者の排土処理は一般に汚染物質含有率の高い汚染土壌を対象として行われることが多い。しかし、多大な経費を要する上に、汚染土の運搬に伴う周辺環境の汚染問題や、今後ますます困難となる汚染土を受け入れる管理型最終処分地の確保が課題となる。
【0007】
これに対し、後者の現地での不溶化処理は、前者の排土処理に比べれば低廉であり、第二溶出基準(フッ素では24mg/L以下)の低濃度の汚染地に対する対策法として有益である。現地で処理をする方法としては、例えば、鋼矢板などで汚染土壌を囲い込み、水溶化した汚染物質を封じ込める方法がある。また、汚染土にセメント等の固化材を加えて固化することによって汚染物質を封じ込める方法などもある。
【0008】
しかし、これらの方法でも相応にコストがかかるため、より低廉で、かつ自然にも優しい汚染土対策が求められているのが実情である。
こうした背景の下、本件発明者は、浄水ケーキに着目し、フッ素で汚染された土壌や固形産業廃棄物に対して浄水ケーキ由来の資材を適用することにより、フッ素の溶出を効果的に防止できることを見いだした。
【0009】
浄水ケーキにフッ素吸着能があること自体は公知であり、例えば、上記特許文献1では、水中からのフッ素吸着に利用することが提案されている。しかし、上記特許文献1での提案は、浄水ケーキ由来の水質浄化資材についての提案にとどまり、かつ、浄水ケーキに酸化剤や鉄塩などを添加したもの材料としている。さらに、フッ素で汚染された土壌や固形産業廃棄物に対する適用、特に土壌や固形産業廃棄物からのフッ素の溶出防止に関しては、その有用性や実効性について何らの検証もなされていない。すなわち、フッ素で汚染された土壌や固形産業廃棄物に対して浄水ケーキ由来の資材を適用する技術は、これまでに類例がない新規な技術である。
【0010】
本発明は、上記のような知見に基づいて完成されたものであり、その目的は、低廉で、自然に優しく、産業廃棄物である浄水ケーキの有効利用を図る上でも有用で、フッ素で汚染された土壌や固形産業廃棄物からのフッ素の溶出を防止可能な水溶性フッ素化合物溶出防止用資材と、その製造方法、および水溶性フッ素化合物溶出防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
請求項1に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、水溶性フッ素化合物によって汚染された土壌または固形産業廃棄物を処理対象として、前記処理対象から前記処理対象周辺の非汚染領域へ前記水溶性フッ素化合物が溶出するのを防止するために使用される水溶性フッ素化合物溶出防止用資材であって、浄水ケーキの粉砕物を主成分とすることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、請求項1に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材において、前記浄水ケーキの粉砕物は、風乾あるいは150℃以下で通風加熱乾燥されたものであることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、請求項1または請求項2に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材において、前記浄水ケーキの粉砕物に対して、さらに、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物が添加、混合されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、請求項3に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材において、前記カルシウム化合物および前記マグネシウム化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物は、Ca(OH)2、CaCO3、MgO、Mg(OH)2、CaCl2、CaSO4、MgCl2、MgSO4の中から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材において、前記浄水ケーキの粉砕物は、粒径7mm以下の粉粒体であり、前記処理対象に対して添加、混合されるものであることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法は、水溶性フッ素化合物によって汚染された土壌または固形産業廃棄物を処理対象として、前記処理対象から前記処理対象周辺の非汚染領域へ前記水溶性フッ素化合物が溶出するのを防止するために使用される水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法であって、浄水ケーキを粉砕、篩別することにより、粒径7mm以下の粉粒体からなる粉砕物とすることを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法は、請求項6に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法において、前記浄水ケーキの粉砕物を、風乾あるいは150℃以下で通風加熱乾燥することを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法は、請求項6または請求項7のいずれかに記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法において、前記浄水ケーキの粉砕物に対して、さらに、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物の中から選ばれる少なくとも1種を添加、混合することを特徴とする。
【0019】
請求項9に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止方法は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載された水溶性フッ素化合物溶出防止用資材を、前記処理対象に対して添加、混合することを特徴とする。
【0020】
以上のような構成を採用した本発明の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、浄水ケーキの粉砕物を主成分とするものなので、低廉で、自然に優しく、産業廃棄物である浄水ケーキの有効利用を図る上で有用であり、ひいては、産業廃棄物の再資源化を介して廃棄物処分場の延命化にも役立つ。
【0021】
また、原料となる浄水ケーキには、多量のアルミニウムがAl(OH)3の形で含まれている。これは、浄水ケーキには、浄水場でポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸アルミニウムが、凝集剤として添加されているからである。
【0022】
そのため、このような浄水ケーキ由来の資材をフッ素で汚染された土壌や固形産業廃棄物に添加、混合すると、土壌や固形産業廃棄物に含まれるフッ素とアルミニウムが化学反応して不溶化合物が形成されることになり、フッ素の溶出を防止することができる。
【0023】
特に、本発明の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、環境基準値(0.8mg/L)から第2環境基準値(24mg/L)までの低濃度範囲のフッ素汚染物に対する濃度軽減資材として有効である。軽減処理物は現地の埋め戻し材として利用できるだけでなく、その他の埋め立て資材としても有効に利用できる。
【0024】
ところで、フッ素はカルシウム(石灰)やマグネシウムとも反応し、低溶解度化することが知られている。したがって、浄水ケーキの粉砕物に対して、さらに、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物が添加、混合されていれば、フッ素の不溶化能を向上させることができる。
【0025】
カルシウム化合物およびマグネシウム化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物としては、例えば、Ca(OH)2、CaCO3、MgO、Mg(OH)2、CaCl2、CaSO4、MgCl2、MgSO4の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を利用できる。
【0026】
また、高温条件での焼成を行うと、乾燥工程で消費するエネルギーが増大するので、この点でも、浄水ケーキの粉砕物は、風乾あるいは150℃以下で通風加熱乾燥されたものである方が好ましい。
【0027】
さらに、浄水ケーキの粉砕物は、粒径7mm以下の粉粒体であると、汚染された土壌または固形産業廃棄物に対して添加、混合する上で好適なものとなる。このような粒径の粉砕物は、浄水ケーキを粉砕、篩別することによって得ることができる。
【0028】
なお、浄水ケーキの粉砕物は、用途によっては粒径7mm以上の粒体としてもよい。例えば、浄水ケーキの粉砕物は、粒径8〜30mmの粒体であってもよく、このような粉砕物は、処理対象と非汚染領域との境界部分に充填して、透水性のあるフッ素化合物遮断壁を形成するのに好適である。
【0029】
また、浄水ケーキは、土壌中に存在するリン酸イオン、リン酸イオンと類似した行動をするヒ素、平成11年に新たに環境基準が設けられたホウ素などに対する吸着機能も備えている。
【0030】
したがって、本発明の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、これらの汚染原因物質についての溶出防止用資材としても有効であり、これらの汚染原因物質による複合汚染土や産業廃棄物の濃度軽減資材としても有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明の実施形態について一例を挙げて説明する。
[実施例1]
浄水場(高野浄水場:三重県)より採取した浄水ケーキ乾燥物(2mm篩を通過したもの(No.1A)、0.425mm篩を通過したもの(No.1B))10gmに100mlのフッ素含有溶液(13.8mg/L)を加え、時々撹拌しながら3時間室内で抽出した。その後、ろ過(No.5Cろ紙)したろ液中のフッ素濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

浄水ケーキを添加した実施例(No.1A、1B)では、ろ液中のフッ素濃度が浄水ケーキ無添加の比較例(No.1C)に比べて顕著に低下し、両者とも環境基準値である0.8mg/L以下となった。
【0033】
このように、浄水ケーキ粉粒体にはフッ素吸着能が存在することが明らかとなった。その中でも、粒径の小さいNo.1Bの方が高いフッ素吸着能を示した。
[実施例2]
各浄水場より採取した浄水ケーキを風乾させたのち、2mm以下に篩い分けた。そのもの10gに上記の実施例1と同様に100mlのフッ素含有溶液を加えてフッ素を吸着させた。その後、ろ液中のフッ素濃度を定量し、その低下度合に基づいて各浄水ケーキのフッ素吸着能を比較した。その結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

これより明らかなように、浄水ケーキはいずれもフッ素吸着能を示すが、その機能は浄水場によって異なっていた。そのうち、No.2D、2E、2H、2Iは同一水系(木曽川水系)に位置する浄水場由来のものであり、No.2A、2Cは浄水ケーキの脱水方法(2A:加圧脱水、2C:天日乾燥)を異にする同一浄水場のものである。
【0035】
[実施例3]
フッ素汚染土(水溶性フッ素:5.91mg/L)10gに0.5gあるいは1.0gの浄水ケーキ(2mm以下)を添加してよく混合した。そのものに100mlの水を加えて3時間、室内で時々攪拌しながら抽出し、その後ろ過した。
【0036】
そのろ過液(No.5Cろ紙)中のフッ素濃度を測定した。また、上記と同様に浄水ケーキを添加したものに少量の水(畑状態)を加え、一週間30度でインキュベーションしたのち、同様にろ液中のフッ素濃度を測定する処理区も設けた。それらの結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

浄水ケーキを添加したのちに抽出した試験1では浄水ケーキの添加により水溶性フッ素濃度が低下し、その低下は浄水ケーキの添加量の多いほど顕著であった。さらに、それらを一週間インキュベーションした試験2では上記以上に水溶性フッ素濃度の低下が認められた。
【0038】
この結果は、浄水ケーキの添加によってフッ素汚染土の水溶性フッ素濃度を低減するが、汚染土壌と浄水ケーキの接触期間を長くすることによって濃度低減効果がより強まることを示唆する。
【0039】
[実施例4]
フッ素汚染土(フッ素:4.90mg/L)10gに粒径を異にする浄水ケーキ1g(10%)を添加してよく混合した。そのものに100mlの水を加えて時々攪拌しながら3時間、室内で抽出した。そのろ過液(No.5Cろ紙)中の水溶性フッ素濃度を測定した。その結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

浄水ケーキを添加した実施例(No.5A〜5E)では無添加の比較例(No.5F)に比べて水溶性フッ素濃度が低下し、その低下度合は粒径の小さいものほど高かった。このことは、土壌中フッ素の不溶化を迅速、かつ効果的に行うためには細かい粒径の浄水ケーキを用いることが効果的であることを示唆する。
【0041】
[実施例5]
浄水ケーキ(高野ケーキ、粒径:2mm以下)10gに100mlの砒素溶液(10mg/L)あるいはホウ素溶液(5.72mg/L)を加え、時々かくはんしながら3時間、室内でインキュベーションした。それらろ過液中の砒素およびホウ素濃度を測定した。その結果を表5に示す。
【0042】
【表5】

これより明らかなように、浄水ケーキはフッ素のみならず、砒素およびホウ素を吸着固定し、不溶化する機能を有することが明らかとなった。
【0043】
[実施例6]
浄水ケーキ(高野浄水ケーキ、2mm以下)に消石灰を添加し、pHを8.0(10mg/100g)および10.0(70g/100g)となるように矯正した。未矯正ケーキおよび上記の矯正ケーキ10gに対して100mlのフッ素含有溶液(6.23mg/L)を加えたのち、3時間、室内で抽出した。その後、ろ過液中のフッ素濃度を測定した。その結果を表6に示す。
【0044】
【表6】

溶液中のフッ素濃度は浄水ケーキの存在によって低下したが、それ以上に浄水ケーキへの消石灰の添加が溶液中のフッ素濃度の低下に働いていた。その低下は消石灰の添加量が多いほど顕著であった。しかし、消石灰の添加によって浄水ケーキのpHは高まった。
【0045】
したがって、溶液中フッ素濃度の低下が消石灰添加によるカルシウム供給によるものか、pHの上昇によるものか、あるいはその両者の働きによるものかは不明である。しかし、浄水ケーキと消石灰の共存が溶液中のフッ素濃度の低下に寄与することは明らかである。
【0046】
[実施例7]
消石灰添加が浄水ケーキによるフッ素汚染土中の水溶性フッ素の不溶化能を増強することは実施例6で認めたが、その効果が消石灰のカルシウムによるものか、消石灰のアルカリ効果(pH上昇効果)によるものかを区別することができなかった。ここでは、pH上昇効果を有しないカルシウム塩を用いて同様の試験を行い、上記の点を明らかにすることを試みた。
【0047】
すなわち、フッ素汚染土20gに浄水ケーキ2gを加えたものに消石灰を添加した処理区(No.8C、8D)と、それと同量の塩化カルシウムを添加した処理区(No.8E、8F)を設け、よく混合したのち200mlの水を加えて3時間振とう抽出した。そのろ液中のフッ素濃度を表7に示す。
【0048】
【表7】

汚染土中の水溶性フッ素濃度は、いずれのカルシウム含有資材の添加によっても低下したが、その低下度合は消石灰に比べて塩化カルシウム添加の方が顕著であった。このことから、フッ素の不溶化はアルカリ効果よりもカルシウム効果が主体に働いているとみなされた。
【0049】
また、カルシウムと同様の効果が期待されるマグネシウムについて調査した結果が表8である。
【0050】
【表8】

これより明らかなように、マグネシウムにもカルシウムと同様に浄水ケーキによるフッ素不溶化能を増強する働きが存在することを確認することができた。
【0051】
[実施例8]
本発明の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、処理対象となるフッ素汚染土と非汚染領域との境界部分に充填して、透水性のあるフッ素化合物遮断壁を形成するのに好適である。このフッ素化合物遮断壁の性能を評価するため、以下のような実験を行った。
【0052】
まず、実験器具として、図1に示すような、アクリル製容器を用意した。このアクリル製容器は、5つの充填槽1A〜1E(各充填槽とも容量15cm×15cm×15cm)を有するもので、1つの充填槽1Aにはフッ素汚染土が充填され、残りの4つの充填槽1B〜1Eには浄水ケーキ粒(粒径:8〜30mm)が充填されている。
【0053】
また、各充填槽1A〜1Eに隣接する位置には、5つの採水槽3A〜3Eが設けられている。充填槽1A〜1Eと採水槽3A〜3Eは、流出路5および流入路7を介して連通しており、充填槽1Aへ水が流れ込むと、その水は、採水槽3A→充填槽1B→採水槽3B→充填槽1C→採水槽3C→充填槽1D→採水槽3D→充填槽1E→採水槽3Eの順に流れて(図中点線矢印参照)、最終的に採水槽3Eの外部へと流出するようになっている。
【0054】
以上のような実験器具を利用して、充填槽1Aに水道水を一定流量(550ml/時間)で5週間連続して供給した。その間、1〜5週間後に採水槽3A〜3E(採水地点#1〜#5)において通過水を採取した。これら各採水地点#1〜#5におけるフッ素濃度を表すグラフを図2に示す。
【0055】
図2から明らかなように、フッ素汚染土を通過した直後(=採水地点#1)のフッ素濃度は、環境基準(0.8mg/l)より高い値(1.38〜2.30mg/l)が5週間継続したが、浄水ケーキ槽(充填槽1B〜1E)を通過した溶液中のフッ素濃度は、1週間後の採水地点#2のものを除き、いずれも環境基準(0.8mg/l)以下にまで低下していた。
【0056】
この実験結果は、浄水ケーキ粒を透水性のあるフッ素化合物遮断壁材として用いることによって、地下水中のフッ素汚染を軽減できることを示唆するものである。すなわち、本発明の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材は、汚染土に添加、混合すると好適なのはもちろんのこと、汚染土や固形産業廃棄物などの処理対象と非汚染領域との境界部分に充填して、透水性のあるフッ素化合物遮断壁を形成する際にも利用できるものである。
【0057】
なお、透水性を確保するためには、浄水ケーキ粒の粒径は過剰に小さくない方が好ましく、その粒径の一例としては8〜30mm程度のものを用いるとよいが、この粒径の大小は施工現場の地盤がどの程度透水性のある地盤か、施工後にどの程度の透水性を確保したいのかなど、様々な条件に応じて適宜調整すればよい。
【0058】
[変形例等]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0059】
例えば、上記実施形態では、カルシウム化合物やマグネシウム化合物の具体的な例をいくつか示したが、新たな汚染原因とならない化合物であれば、他のカルシウム化合物やマグネシウム化合物を添加してもよいことはもちろんである。
【0060】
いくつかの具体例を挙げれば、CaCO3、Mg(OH)2、CaSO4、などの無機塩を添加してもよい。また、これらの無機塩以外に、ドロマイトやドマモライトなどのマグネシウムやカルシウムを含む鉱物を添加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】フッ素化合物遮断壁の性能評価用実験器具の構造図。
【図2】フッ素濃度の測定結果を表すグラフ。
【符号の説明】
【0062】
1A,1B,1C,1D,1E・・・充填槽、3A,3B,3C,3D,3E・・・採水槽、5・・・流出路、7・・・流入路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性フッ素化合物によって汚染された土壌または固形産業廃棄物を処理対象として、前記処理対象から前記処理対象周辺の非汚染領域へ前記水溶性フッ素化合物が溶出するのを防止するために使用される水溶性フッ素化合物溶出防止用資材であって、
浄水ケーキの粉砕物を主成分とする
ことを特徴とする水溶性フッ素化合物溶出防止用資材。
【請求項2】
前記浄水ケーキの粉砕物は、風乾あるいは150℃以下で通風加熱乾燥されたものである
ことを特徴とする請求項1に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材。
【請求項3】
前記浄水ケーキの粉砕物に対して、さらに、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物が添加、混合されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材。
【請求項4】
前記カルシウム化合物および前記マグネシウム化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物は、Ca(OH)2、CaCO3、MgO、Mg(OH)2、CaCl2、CaSO4、MgCl2、MgSO4の中から選ばれる少なくとも1種の化合物である
ことを特徴とする請求項3に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材。
【請求項5】
前記浄水ケーキの粉砕物は、粒径7mm以下の粉粒体であり、前記処理対象に対して添加、混合されるものである
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材。
【請求項6】
水溶性フッ素化合物によって汚染された土壌または固形産業廃棄物を処理対象として、前記処理対象から前記処理対象周辺の非汚染領域へ前記水溶性フッ素化合物が溶出するのを防止するために使用される水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法であって、
浄水ケーキを粉砕、篩別することにより、粒径7mm以下の粉粒体からなる粉砕物とする
ことを特徴とする水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法。
【請求項7】
前記浄水ケーキの粉砕物を、風乾あるいは150℃以下で通風加熱乾燥する
ことを特徴とする請求項6に記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法。
【請求項8】
前記浄水ケーキの粉砕物に対して、さらに、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物の中から選ばれる少なくとも1種を添加、混合する
ことを特徴とする請求項6または請求項7のいずれかに記載の水溶性フッ素化合物溶出防止用資材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載された水溶性フッ素化合物溶出防止用資材を、前記処理対象に対して添加、混合する
ことを特徴とする水溶性フッ素化合物溶出防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−593(P2009−593A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161461(P2007−161461)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(300056989)株式会社トークレー (5)
【Fターム(参考)】