説明

水溶性ポリアミドポリエステルの製造方法

【課題】エチレンイミンとα,β−不飽和カルボン酸を反応させるにあたって、白色固形物を生成することなく均一に反応して、分子内にアミド基とエステル基を有する水溶性ポリアミドポリエステルが得られる方法を提供する。
【解決手段】水溶液中でエチレンイミンとアクリル酸の反応を行うことにより、白色固形物を生成することなく均一に反応して、分子内にアミド基とエステル基を有する水溶性ポリアミドポリエステルが得られる、水溶性ポリアミドポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は分子内にアミド基とエステル基を有する水溶性ポリアミドポリエステルの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】J.MACROMOL.SCI.-CHEM.,A11 (2), 421(1977)にエチレンイミンとアクリル酸の共重合体についての記載があるが、水溶液中での重合については何ら記述はない。またこの文献に記載のエチレンイミンとアクリル酸の共重合体の構造において、IRスペクトルからエステル結合の存在について述べているがポリアミド構造については記述がない。エチレンイミンは塩基性物質でありアクリル酸は酸性物質なので、エチレンイミンとアクリル酸を多量に反応させると急激に発熱して危険である。そこでこの反応を実施する時は、溶媒中にエチレンイミンとアクリル酸を同時に少量ずつ供給するか、もしくはどちらか一方を反応容器に仕込んで一方を少しずつ供給する必要がある。エチレンイミンを仕込んでアクリル酸を供給した場合、アクリル酸が酸触媒となってエチレンイミンのみが単独でカチオン重合しポリエチレンイミンが生成するので、アクリル酸を仕込んでエチレンイミンを供給する必要がある。反応容器にアクリル酸と溶媒を仕込み、エチレンイミンを供給して反応を行った時、反応溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、エタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジオキサン、トルエン等の一般的な有機溶媒を用いると、エチレンイミン供給前には反応系内は無色透明な均一溶液であるが、エチレンイミンを供給するとすぐに白色固形物が析出して反応系内は不均一になる。さらにエチレンイミンを供給すると白色固形物が沈殿して撹拌が困難になり反応を継続することはできない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明はエチレンイミンとα,β−不飽和カルボン酸を反応させるにあたって、白色固形物を生成することなく均一に反応して、分子内にアミド基とエステル基を有する水溶性ポリアミドポリエステルが得られる方法を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】エチレンイミンとアクリル酸の反応を水溶液中で行うと、白色固形物を生成することなく均一に反応して、分子内にアミド基とエステル基を有する水溶性ポリアミドポリエステルが得られることを見出した。
【0005】
【発明の実施の形態】アミド基とエステル基の存在は、生成物のIRスペクトル及び13C−NMRから確認した。従来の技術であるJ.MACROMOL.SCI.-CHEM.,A11 (2), 421(1977)における結果と異なり、分子内にアミド基を有しているポリマーが生成したのは、反応中にエステル−アミド交換反応が起こったからであると推定される。エチレンイミンの供給量はアクリル酸と等量以上であればよく、好ましくはアクリル酸1当量に対してエチレンイミン1〜2当量であり、反応は無触媒で進行するので重合開始剤の添加は不要である。本発明は水溶液中での反応を特徴とするので溶媒は水を用いるが、本発明の主旨を損なわない限りにおいて他の溶媒を少量添加してもよい。重合濃度は、反応熱の除去や撹拌能力等を考慮した適切な濃度であれば特に制限はないが、濃度が低いと生産性の観点から経済的に不利であることは明らかである。反応温度は適切な重合速度が得られる温度であれば特に制限はなく、オートクレーブを用いて加圧下で反応させれば100℃以上の温度での反応も可能である。反応は撹拌装置を備えた反応容器にアクリル酸水溶液を仕込み、所定の温度でエチレンイミンを供給して行う。発熱反応なので必要により反応容器の外部ジャケットに冷却水を流して除熱を行い、所定量のエチレンイミンを供給した後に一定時間熟成させる。熟成時間は、重合濃度や重合温度、エチレンイミンの供給速度等に応じて適宜調節すればよい。
【0006】
【実施例】以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお実施例中の重量平均分子量は、ポリエチレングリコールを基準物質に用いてGPCにより測定した。
[実施例1]滴下ロート、冷却管を備えたガラス製3つ口フラスコに、アクリル酸15.3g(0.213mol)、水61.2gを仕込み、滴下ロートにエチレンイミン9.14g(0.213mol)、水36.6gを仕込んで、反応温度50℃でエチレンイミン水溶液を1時間かけて滴下した後に1時間撹拌して無色透明の反応溶液を得た。分析の結果GPCで重量平均分子量1600のポリマーが生成しており、IRスペクトルでアミド基とエステル基に由来する吸収が存在し、13C−NMRでもアミドとエステルのカルボニル基の炭素のピークが観測された。
[実施例2]実施例1と同様の反応容器に、アクリル酸10.6g(0.148mol)、水42.4gを仕込み、滴下ロートにエチレンイミン12.7g(0.295mol)、水50.8gを仕込んで、反応温度50℃でエチレンイミン水溶液を1時間かけて滴下した後に1時間撹拌して無色透明の反応溶液を得た。分析の結果GPCで重量平均分子量1900のポリマーが生成しており、IRスペクトルでアミド基とエステル基に由来する吸収が存在し、13C−NMRでもアミドとエステルのカルボニル基の炭素のピークが観測された。
[比較例1]実施例1で水のかわりにN,N−ジメチルホルムアミドを用いた以外は同様の方法で反応を行った結果、エチレンイミンを供給すると白色固形物が析出して反応系内が不均一になり、さらにエチレンイミンを加えると沈殿が生成して撹拌が困難になり反応の継続はできなかった。
[比較例2]実施例1で水のかわりにジオキサンを用いた以外は同様の方法で反応を行った結果、エチレンイミンを供給すると白色固形物が析出して反応系内が不均一になり、さらにエチレンイミンを加えると沈殿が生成して撹拌が困難になり反応の継続はできなかった。
【0007】
【発明の効果】本発明の方法によれば、エチレンイミンとα,β−不飽和カルボン酸を反応させるにあたって、白色固形物を生成することなく均一に反応して、分子内にアミド基とエステル基を有する水溶性ポリアミドポリエステルが得られる。本発明のポリアミドポリエステルは、分子内に極性基であるアミド基とエステル基を有しており、また水溶性であることから種々の用途に利用できる。例えば、分散剤や凝集剤等の添加剤、塗料用原料、特に水溶性を生かした水性塗料用原料、コーティング剤、界面活性剤、スケール防止剤、バインダー、吸水性高分子、ビルダー、エポキシ硬化剤等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得たポリアミドポリエステルのKBr錠剤法で測定したIRスペクトルである。1591、1730cm−1にそれぞれアミド基、エステル基に由来する吸収が観測される。
【図2】実施例1で得たポリアミドポリエステルのD2O中で測定した13C−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】エチレンイミンとα,β−不飽和カルボン酸を水溶液中で反応させることを特徴とする、水溶性ポリアミドポリエステルの製造方法。
【請求項2】α,β−不飽和カルボン酸がアクリル酸である、請求項1に記載の水溶性ポリアミドポリエステルの製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate