説明

水溶性ポリウロン酸およびその製造方法

【課題】
環境や人体への悪影響が少ないという多糖類本来の利点を生かしつつ、高い水溶性を持つポリウロン酸を水系溶媒で製造する方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも、多糖類を選択的に酸化する工程と、該酸化多糖類に多価カチオンを添加し水不溶化生成物を生成する工程と、該水不溶化生成物を水系溶媒で洗浄する工程と、水系溶媒で洗浄された該水不溶化生成物をイオン交換する工程で、化学式(1)から(3)のいずれかで表される水溶性ポリウロン酸を、水系溶媒で製造することを可能とした。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類由来の構造が均一なポリウロン酸を、水または水を主体とする水系溶媒で製造する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天然多糖類は新しいタイプの生分解性高分子材料として、また生体親和材料として注目され、その利用について多くの研究がなされている。天然多糖類の中でも、セルロースやキチンは、水や一般的なその他の溶媒にほとんど溶解せず、従来その利用が限られていたが、様々な誘導体化が発明され、アセトンやクロロホルムなどの有機溶媒、さらには水にも溶解するような手法が開発されてきた。しかし、これらの誘導体はその置換基の分布が均一でないことや、合成された誘導体は天然には存在しない単糖から構成されるため、導入された置換基が環境や生体に影響を及ぼす恐れがあるなどの問題があった。
【0003】
そこで最近になって、多糖類をN−オキシル化合物の触媒存在下で酸化反応を行い、水溶性のポリウロン酸を得る手法が発明された。この酸化方法は、多糖類の水分散または溶解系で2、2、6、6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)などのN−オキシル化合物と次亜塩素酸ナトリウムなどの共酸化剤を用いて系内でオキソアンモニウム塩を順次生成しながら多糖類を酸化する。
【0004】
デンプンやプルランなどの水溶性多糖類からセルロース、キチンなど様々な多糖類に適用されている。こうして酸化された多糖類はその一級水酸基のみが高い選択性で酸化され、カルボキシル基またはその塩に変換されたポリウロン酸型の構造を有する。この合成ポリウロン酸は、天然に存在する糖類からなる均一な構造を有し、高い水溶性を有するため、その有効性について様々な報告がなされている。
【0005】
前記のN−オキシル化合物を触媒に用いた多糖類の酸化は水系の反応液中、TEMPOなどのN−オキシル化合物のほかに臭化ナトリウムなどの触媒を用いるなどして、次亜塩素酸ナトリウムなどの共酸化剤により酸化が進行する。
【0006】
酸化が進行して、カルボキシル基(ナトリウム塩)が増加するに従い、澱粉などの水溶性多糖類はもちろん、セルロースやキチンなどの難溶性の多糖類も親水性が付与され、水に可溶化する。
【0007】
反応終了後は、一般的に反応水溶液をエタノールなどの貧溶媒に滴下し、水溶化した酸化多糖類を析出させる。単離後は、反応の過程で生成する食塩やその他の試薬を除去するために、水を含んだ有機溶媒で洗浄を繰り返し、最後はアセトンで脱水した後、乾燥させる方法が一般的である。
【0008】
この場合、反応自体は水系の反応であるが、単離精製に多量の有機溶媒を使用することになる。
或いは、反応水溶液を透析にかけ、透析後の水溶液を凍結乾燥させる方法もとられるが、処理が大掛かりとなり、用途が限られ、大量生産には向かない。
【特許文献1】特開2004−189924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、環境や人体への悪影響が少ないという多糖類本来の利点を生かしつつ、高い水溶性を持つポリウロン酸やその水溶液を、水系溶媒で製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、少なくとも、多糖類を選択的に酸化する工程と、該酸化多糖類に多価カチオンを添加し水不溶化生成物を生成する工程と、該水不溶化生成物を水系溶媒で洗浄する工程と、該水不溶化生成物をイオン交換する工程を有することを特徴とする、化学式(1)から(3)のいずれかで表される水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【化1】

【0011】
請求項2に記載の発明は、前記酸化工程が、前記の多糖類を水系で分散または溶解させ、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化することを特徴とする請求項1に記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記多価カチオンが、金属塩であることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記多価カチオンが、アルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項3に記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記アルカリ土類金属塩が、カルシウム塩であることを特徴とする請求項4に記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0015】
請求項6に記載の発明は、前記多価カチオンが、ポリアミンであることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0016】
請求項7に記載の発明は、前記多糖類がでんぷん、セルロース、キチン、キトサン、プルランから選ばれる1種、または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0017】
請求項8に記載の発明は、前記の水系溶媒が水または水を主体とする溶媒であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0018】
請求項9に記載の発明は、前記イオン交換の工程が、ポリウロン酸多価カチオン塩の懸濁液をイオン交換樹脂に通してイオン交換し、再度水溶化させることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0019】
請求項10に記載の発明は、前記請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする水溶性ポリウロン酸である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法により、化学構造が制御されたウロン酸構造を有する、天然多糖類由来の親水性を付与したポリウロン酸を、水系溶媒で製造することが可能となった。
【0021】
また、水系溶媒で製造することにより、生成物の安全性が高まった上、イオン交換を行うことで、良好な水溶性を持つポリウロン酸が生成することから、工業用汎用用途としての利用の他、医療用材料、薬品、食品、衛生用品、化粧品等として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法で調製されるウロン酸残基を持つ水溶性または水分散性多糖類は、多糖類の酸化により得られる。酸化される前の多糖類には、でんぷんやプルラン、ヒアルロン酸などの水溶性多糖類、さらにはセルロースやキチン等を用いることができる。原料の調達、コスト、期待される機能、また、構造をほとんど変えずに水溶化することができるといった利点を考えると、デンプン、セルロース、キチンを用いる事がより好ましい。
【0023】
セルロースやキチンなど結晶性の高い多糖類を原料とする場合は、前処理として再生処理などの結晶性を低下させるための処理を行うことが好ましい。セルロースの再生処理としては、キュプラアンモニウム法、ビスコース法等の公知の再生処理法を利用することができる。また、キチンの再生処理としても、再生後キチンの結晶性が低下していれば、その処理は限定されるものではないが、その後の利用等を考えると、再生処理により分子の切断などが起こることは好ましくない。そこで、例えばアルカリ再生処理が挙げられる。
【0024】
キチンを高濃度のアルカリに浸漬後、氷を加えながら低温下で希釈していくことにより、粘調な液体となる。ここに塩酸を加えて中和すると、フレーク状のキチンが析出する。この得られたキチンはほぼ非晶質化しており、これを十分に水洗して乾燥させずにまたは凍結乾燥した後に、酸化反応に供することにより、分子量低下を極力抑え、ほぼ全てのピラノース環6位の一級水酸基のみをカルボキシル基にまで酸化することができる。
【0025】
また、キチンの脱アセチル化物であるキトサンを原料に、均一反応下でN−アセチル化した材料を酸化反応に供してもよい。例えば、キトサンを酢酸に溶解し、メタノールで希釈後、キトサン中のアミノ基量に対して1.5〜3倍モル量の無水酢酸を添加することで、容易にN−アセチル化して、再びキチンの化学構造に戻すことができる。
【0026】
この操作を経て、十分に水洗したものを乾燥させずに、あるいは凍結乾燥して、酸化反応に供することにより、アルカリ再生キチン同様に6位の一級水酸基のみ選択性高く酸化される。
【0027】
さらにこの場合には、無水酢酸の添加量により酸化原料のN−アセチル化度をコントロールすることも可能である。
【0028】
このような多糖類の酸化によりポリウロン酸を得る酸化方法としては、一級水酸基の酸化に対する選択性が高く、できるだけ均一構造のものを得られる酸化方法をとるべきであり、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法が好ましい。
【0029】
この選択的酸化手法は、酸化度の制御が可能で、かつピラノース環の2位や3位を酸化することなく、ほとんど全てのピラノース環6位をカルボキシル基まで酸化することができる。また水系で酸化反応を行うことが可能である。
【0030】
前記のN−オキシル化合物としては、2、2、6、6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPO)などが好ましく用いられる。
【0031】
また、前記の酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。
【0032】
さらに、臭化物やヨウ化物の共存下で酸化反応を行うと、温和な条件下でも酸化反応を円滑に進行させ、カルボキシル基の導入効率を大きく改善できるため、より好ましい。N−オキシル化合物にはTEMPOを用い、臭化ナトリウムの存在下、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化反応を行うことが特に好ましい。
【0033】
ここで、N−オキシル化合物は触媒としての量で済み、例えば、多糖類の構成単糖のモル数に対し、10ppm〜5%(ppc)あれば十分であるが、0.05〜3%がより好ましい。
【0034】
また、臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択することができ、例えば、多糖類の構成単糖のモル数に対し0〜100%、より好ましくは1〜50%である。
【0035】
また、構成単糖の一級水酸基への酸化の選択性を向上させ、副反応を抑える目的で、反応温度は室温以下、より好ましくは系内を5℃以下で反応させることが望ましい。さらに、反応中は系内をアルカリ性に保つことが好ましい。このときのpHは9〜12、より好ましくはpH10〜11に保つとよい。
【0036】
さらにこの酸化方法は、酸化剤の量およびpHを一定に保つ際に添加されるアルカリの量により酸化度を制御することができる。例えば、アルカリが糖残基と等モル量添加されれば、ほぼ全てのピラノース環6位の一級水酸基がカルボキシル基にまで酸化され、水溶性のポリウロン酸が得られる。
【0037】
例えば、デンプンから得たポリウロン酸は、α−1、4−グルコピラノースおよびα−1、4−グルクロン酸を構成単糖とし、セルロースから得たポリウロン酸はβ−1、4−グルコピラノースおよびβ−1、4−グルクロン酸を構成単糖とし、キチンから得たポリウロン酸はβ−1、4−グルコサミンおよびβ−1、4−N−アセチルグルコサミンおよびβ−1、4−グルコサミヌロン酸およびβ−1、4−N−アセチルグルコサミヌロン酸を構成単糖に有している。以後、これらのポリウロン酸を順に、アミノウロン酸、セロウロン酸、キトウロン酸と称する。
【0038】
このように、例えば、臭化ナトリウムとTEMPOが触媒量存在する水溶液中で、次亜塩素酸ナトリウムを共酸化剤として用い、水酸化ナトリウムを用いてpH調整を行い、アルカリ系で酸化処理されて得られるポリウロン酸は、カルボキシル基のナトリウム塩として水に溶解している。
【0039】
次に、生成したポリウロン酸を多価カチオンで不溶化させ、水洗いする工程について述べる。ここで用いられる多価カチオンとしては、反応生成物中に存在するカルボキシル基の対イオンを交換し、沈殿、或いはゲル化すなわち水に不溶化するものであれば、特に限定されるものではなく、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、シリカ、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、バリウムなど、アルカリ土類金属塩を含めた様々な金属塩、またはポリアミンなどの有機多価カチオンなどが挙げられ、用途および必要物性などにより自由に選択することができる。
【0040】
例えば、抗菌性付与などの目的で利用するのには、銅、銀、または亜鉛などの多価金属を選択する。
【0041】
しかし、生成物の安全性、その後の脱塩処理の行い易さ、コストなどの面から、カルシウム塩であることが特に好ましい。また、カルシウム塩としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、硝酸カルシウム、クエン酸カルシウムおよび酢酸カルシウムなどの水溶性カルシウム塩が、過剰のカルシウム塩の水洗過程での除去の面から好ましい。
【0042】
多価カチオンで水に不溶化させる手法においては、特に限定されるものではないが、例えばポリウロン酸カルボキシル基量に対し、十分量の上記カチオンを含む水溶液を調製し、ポリウロン酸を含む水溶液系内に添加する。多価カチオンとしてカルシウム塩を用いた場合を例にすると、ナトリウム塩として存在するポリウロン酸は、ナトリウムがカルシウムに交換され水不溶化生成物となる。
【0043】
さらに、この水不溶化生成物を生成させる工程の前に、反応液をろ過し、反応不十分な未溶解物などの不純物を取り除く工程を行ってもよい。
【0044】
次に、この水不溶化生成物(ポリウロン酸塩)を、水系溶媒で十分洗浄する。本発明の多価カチオン塩により水不溶化したポリウロン酸塩はカチオンを経由してポリマーのカルボキシル基が架橋する構造となり、水に不溶化するため、水系溶媒で洗浄を行っても流出によるロスが少なく、デカンテーション、ろ過などにより容易に洗浄を行うことが可能である。この様な、水系溶媒による洗浄で酸化反応で用いた試薬や生成した塩、過剰のカルシウム塩などを除去することができる。
【0045】
また、洗浄の水系溶媒は純粋なイオン交換水、蒸留水はもちろん、ポリウロン酸塩の膨潤を抑えるために各種アルコール類、ケトン類、エーテル類などの有機溶媒を含んでもよい。この際含まれる有機溶媒の量としては、重量比で洗浄液100に対し0から50より少ないことが好ましい。これ以上であると、反応副生成物である塩類などの除去効率が悪く、より好ましくは有機溶媒40以下の系が好ましく、更に環境負荷を少なく、除去効率を上げるためには有機溶媒の量は20以下であることが好ましい。
【0046】
ここで、単離されたポリウロン酸カルシウム塩は安定な構造を有しており、スラリー状態はもちろん、乾燥した粉末を保存しておくこともできる。乾燥には、風乾、加熱乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥など様々な方法を用いることができる。
【0047】
次に、イオン交換の工程について説明する。上記のような酸化方法と洗浄工程により得られたポリウロン酸の金属塩たとえばカルシウム塩(COOCa型)を水に分散させ、イオン交換樹脂で処理するなどの方法によってNaやK、H、NH、Liなど主に1価の塩にイオン交換した水溶性のポリグルクロン酸を得ることができる。
【0048】
すべての処理を水系溶媒で行うことを考えると、このイオン交換樹脂を用いた方法は好ましく、処理した水溶液からイオン交換樹脂を分離したものはそのまま水溶液として利用することもできる。また、この水溶液を各種乾燥方法により乾燥することで、ポリウロン酸の固形物を得ることができる。
【0049】
さらに、本発明の製造方法では、洗浄やイオン交換工程における生成物の流出や吸着などによるロスがほとんどなく、かつ高度に精製された水溶性のポリウロン酸を高収率で得ることができる。
【0050】
以下、本発明を実施例に基いて詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
(キトウロン酸の調製)
脱アセチル化度100%のキトサンとして、大日精化工業(株)製ダイキトサン100D(VL)を用い、このキトサン10gを10%酢酸190gに溶解し、メタノール1Lで希釈し、攪拌しながら無水酢酸12.68gを加えると数分でゲル化した。これを15時間放置後、さらにメタノール1Lを加えてホモジナイザーで攪拌し、2N−NaOH水溶液を加えてpH7に中和し、これをろ過して、メタノール及び脱イオン水で十分に洗浄した後、凍結乾燥させてN−アセチル化キトサン11.6gを得た。元素分析によるN−アセチル化度は95%であった。
【0052】
前記調製したN−アセチル化キトサン10gを蒸留水200gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPOを0.1g、臭化ナトリウム2.0gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液84gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。
【0053】
そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。
【0054】
予め200gの水に30gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の水不溶化物が生じた。この水不溶化した生成物を30%のエタノールを含む水で繰り返し洗浄し、キトウロン酸カルシウム塩を得た。これをさらに100gの水に懸濁させ、イオン交換樹脂(オルガノ株式会社:アンバーライトIR120)100mLをつめたカラムに通し、イオン交換処理を行った。このキトウロン酸水溶液を凍結乾燥し、白色粉末のキトウロン酸ナトリウム塩11.5gを得た。
【実施例2】
【0055】
(アミロウロン酸の調製)
コンスターチ10gを蒸留水200gに加熱溶解させ冷却した。この溶液に、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
【0056】
反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。
【0057】
予め100gの水に11gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の水不溶化物が生成した。この水不溶化物を蒸留水で繰り返し洗浄し、アミロウロン酸カルシウム塩を得た。
【0058】
得られたアミロウロン酸カルシウム塩を100gの水に懸濁させ、イオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライトIR120)100mLをつめたカラムに通し、イオン交換処理を行った。得られたアミロウロン酸水溶液を凍結乾燥し、白色粉末のアミロウロン酸ナトリウム塩11.8gを得た。
【実施例3】
【0059】
(セロウロン酸の調製)
再生セルロースとして旭化成工業(株)製ベンリーゼを用い、再生セルロース10gを蒸留水200gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。
【0060】
ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
【0061】
反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調製した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。
【0062】
予め100gの水に20gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の水不溶化物が生じた。この水不溶化物を蒸留水で繰り返し洗浄し、セロウロン酸カルシウム塩を得た。
【0063】
得られたセロウロン酸カルシウム塩をさらに1Lの水に懸濁させ、イオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライトIR120)100mLをつめたカラムに通し、イオン交換処理を行った。得られたセロウロン酸水溶液を凍結乾燥し、白色粉末のセロウロン酸ナトリウム塩11.8gを得た。
【実施例4】
【0064】
(アミロウロン酸の調製)
水溶性でんぷん(ACROS社製)1.0gを、5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。
ここに、TEMPO19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、アミロースの固形分濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始した。
【0065】
反応温度は常に5℃以下に維持した。
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。
【0066】
グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となった。
【0067】
アルカリ添加量がグルコース残基の全モル数に対し、100%(12.34ml)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。
反応時間は2時間であった。
【0068】
予め10gの水に2.0gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の水不溶化物が生じた。この水不溶化物を蒸留水で繰り返し洗浄し、アミロウロン酸カルシウム塩を得た。
【0069】
アミロウロン酸カルシウム塩を20gの水に懸濁させ、イオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライトIR120)20mLを加え、イオン交換処理を行った。このアミロウロン酸水溶液からイオン交換樹脂を取り除き凍結乾燥し、白色粉末のアミロウロン酸ナトリウム塩1.2gを得た。
【実施例5】
【0070】
(キトウロン酸の調製)
和光純薬工業(株)製キチン10gを45%水酸化ナトリウム水溶液150gに浸漬し、室温以下で2時間攪拌した。この反応槽の周囲を氷水などで冷却し、攪拌しながら砕いた氷850gを添加した。このアルカリ処理によりキチンはほぼ溶解する。塩酸で中和し、十分に水洗した後、乾燥を行わず、得られたものを酸化原料の再生キチンとした。
【0071】
この再生キチン2.5%濃度の懸濁液200gに、蒸留水50gにTEMPOを0.08g、臭化ナトリウム1.0gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液35gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。
【0072】
予め200gの水に30gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の水不溶化物が生じた。この水不溶化した生成物を蒸留水で繰り返し洗浄し、キトウロン酸カルシウム塩を得た。これをさらに100gの水に懸濁させ、イオン交換樹脂(オルガノ株式会社:アンバーライトIR120)100mLをつめたカラムに通し、イオン交換処理を行った。このキトウロン酸水溶液を凍結乾燥し、白色粉末のキトウロン酸ナトリウム塩11.5gを得た。
【実施例6】
【0073】
(セロウロン酸の調製)
再生セルロースとして旭化成工業(株)製ベンリーゼを用い、再生セルロース10gを蒸留水500gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。
【0074】
ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。
【0075】
反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調製した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。
【0076】
予め100gの水に20gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の水不溶化物が生成した。この水不溶化物を水/エタノール混合溶液(体積比50/50)で繰り返し洗浄し、セロウロン酸カルシウム塩を得た。
【0077】
得られたセロウロン酸カルシウム塩をさらに1Lの水に懸濁させ、イオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライトIR120)100mLをつめたカラムに通し、イオン交換処理を行った。得られたセロウロン酸水溶液を凍結乾燥し、白色粉末のセロウロン酸ナトリウム塩11.8gを得た。
【0078】
<比較例1>
水溶性でんぷん(ACROS社製)1.0gを、5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。ここに、TEMPO19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、アミロースの固形分濃度が約2wt%になるよう調製した。
【0079】
反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。
【0080】
グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となった。アルカリ添加量がグルコース残基の全モル数に対し、100%(12.34ml)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。反応時間は2時間であった。
【0081】
この反応溶液を過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに、水:アセトン=1:7の溶液により十分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のポリグルクロン酸のナトリウム塩1.1gを得た。
【0082】
<比較例2>
実施例3の原料と同じ再生セルロース1.0gを、5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。
ここに、TEMPO19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、セルロースの固形分濃度が約2wt%になるよう調整した。
【0083】
反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。
【0084】
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。
【0085】
グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となった。
【0086】
アルカリ添加量がグルコース残基の全モル数に対し、100%(12.34ml)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。反応時間は2時間であった。この反応溶液を過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに、水:アセトン=1:7の溶液により十分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のセロウロン酸ナトリウム塩1.1gを得た。
【0087】
<比較例3>
実施例1と同様に、脱アセチル化度100%のキトサンとして、大日精化工業(株)製ダイキトサン100D(VL)を用い、このキトサン10gを10%酢酸190gに溶解し、メタノール1Lで希釈し、攪拌しながら無水酢酸12.68gを加えると数分でゲル化した。これを15時間放置後、さらにメタノール1Lを加えてホモジナイザーで攪拌し、2N−NaOH水溶液を加えてpH7に中和し、これをろ過して、メタノール及び脱イオン水で十分に洗浄した後、凍結乾燥させてN−アセチル化キトサン11.6gを得た。元素分析によるN−アセチル化度は95%であった。
【0088】
前記調整したN−アセチル化キトサン1.0gを、5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。ここに、TEMPO19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、キチンの固形分濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。
【0089】
反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となった。
【0090】
アルカリ添加量がグルコース残基の全モル数に対し、100%に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。反応時間は2時間であった。この反応溶液を過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに、水:アセトン=1:7の溶液により十分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のキトウロン酸ナトリウム塩1.1gを得た。
【0091】
従来の製造方法(比較例)ではポリウロン酸が水に溶解するため、水を多量に含む溶媒での洗浄が困難で、多量の有機溶剤を用いている。一方、本発明の製造方法を用いることにより、単離精製の工程において水系溶媒で洗浄することが可能で、最終的には同様の水溶性のポリウロン酸を得ることが可能である。さらに、本発明の製造方法を用いることにより、非常に高い収率で水溶性のポリウロン酸を得ることが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明により、水系溶媒での洗浄によりポリウロン酸を製造することが可能となり、生成物の安全性が高まったうえ、これらのポリウロン酸は容易に生分解し、水溶性の高いポリウロン酸が高収率で得られることから、工業用汎用用途としての利用の他、医療用材料、薬品、食品、衛生用品、化粧品等として利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、多糖類を選択的に酸化する工程と、該酸化多糖類に多価カチオンを添加し水不溶化生成物を生成する工程と、該水不溶化生成物を水系溶媒で洗浄する工程と、該水不溶化生成物をイオン交換する工程を有することを特徴とする化学式(1)から(3)のいずれかで表される水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【化1】

【請求項2】
前記酸化工程が、前記多糖類を水系で分散または溶解させ、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化することを特徴とする請求項1に記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項3】
前記多価カチオンが、金属塩であることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項4】
前記多価カチオンが、アルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項3のに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属塩が、カルシウム塩であることを特徴とする請求項4に記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項6】
前記多価カチオンが、ポリアミンであることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項7】
前記多糖類がでんぷん、セルロース、キチン、キトサン、プルランから選ばれる1種、または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項8】
前記の水系溶媒が水または水を主体とする溶媒であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項9】
前記イオン交換の工程が、ポリウロン酸多価カチオン塩の懸濁液をイオン交換樹脂に通してイオン交換し、再度水溶化させることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする水溶性ポリウロン酸。

【公開番号】特開2006−282926(P2006−282926A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107195(P2005−107195)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】