説明

水溶性塗料組成物

【課題】
マーキング等の一時的な使用目的を達した後、無公害の手段で形成された乾燥塗膜を瞬時に取り除くことができるとともに除去後の塗膜をそのまま放置することで自然消滅させることができ、且つ外部環境においても目的とする期間塗膜を保持することができる、塗料組成物を提供すること。
【解決手段】
炭酸カルシウムを主成分とする少なくとも1種の無機顔料成分(A)と、少なくとも1種のガラス転移温度−25〜40℃を有する水溶性若しくは水分散性の非セルロース系アニオン性樹脂からなるバインダー(B)と、少なくとも1種の水溶性増粘剤(C)と、水(D)とを含む、水性塗料組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物に関し、より詳しくは、マーキング等の一時的な使用の後、塗膜を除去することが可能な水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物に目視可能な塗料を一時的に付着させるマーキング手法が、玩具、文具、広告、アスファルト若しくはコンクリート舗装道路、または壁若しくは橋梁などの屋外建築物等、様々な対象に施されている。
【0003】
一時的なマーキングは、情報を一定期間保持する目的で行われるものであり、その目的を達成した後には、本来、被塗物やその周辺環境を元どおりに復元して被塗物の美観やその周辺環境を保持することが求められる。他方、野外で行なわれるマーキングにあっては、マーキングに供した塗膜が、強い雨や、雑踏及び自動車の通過等に耐え、マーキング機能を目的とする期間保持することが求められる。
【0004】
従来、屋内における一時的なマーキング目的のための手法としては、チョークと黒板と黒板ふきとをセットとするもの、あるいはマーカーペンと白板と拭き取り具とをセットとするものが広く知られている。
【0005】
一方、屋外における一時的なマーキングのための手法としては、例えば、チョーク、白墨、刷毛塗りペンキ、エアゾールスプレー、ロールコート等用いて、任意の対象物に対しマーキング材料を付着することが行なわれている。
【0006】
しかし、これら従来の手法では、対象物に付着させたマーキング材料が、目的とする期間情報を保持してその目的を達した後も除去されることなく放置され、被塗物の美観や被塗物周辺の環境を損ねていたのが現状であった。
【0007】
これに対して、本発明者は、揮発性のアルカリ物質であるアンモニアとpH指示薬とを組成物中に含ませて、pH指示薬の発する色を経時的に変化させることを可能としながら、バインダーとして、水溶性且つ生分解性の水溶性セルロースを用いて、形成した塗膜を水洗で除去でき、且つ自然分解させることを可能とした、環境適応性に優れる水性塗料組成物を提案している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−67719
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の水性塗料組成物は、バインダーとして、水溶性セルロースを用いた結果、形成される乾燥塗膜が、被塗物に付着した状態で時間の経過と共に分解されることを可能とする一方、当該乾燥塗膜が、剥離強度、耐衝撃性及び耐摩擦性の点で必ずしも充分な特性を有するものではなかった。即ち、屋外において使用される場合には、当該乾燥塗膜が、雨や雑踏及び自動車の通過等による衝撃に曝されるが、雨に曝されると水により膨潤して塗膜が破壊し易く、また雑踏及び自動車の通過等の機械的衝撃を受けると当該塗膜が比較的柔らかい塗膜であることから剥離若しくは損傷し易く、目的とする期間、所望のマーキングを保持できない場合があった。なお、セルロース系化合物は、線状で、通常高分子であり、分子が絡み易いことから、この系のバインダーに加水分解性を付与するには低分子化に寄らざるを得ず、剥離強度、耐衝撃性及び耐摩擦性を同時に付与する設計とすることは困難であった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題に鑑みなされたものであり、使用目的を達した後、無公害の手段で形成された乾燥塗膜を瞬時に取り除くことができるとともに除去後の塗膜をそのまま放置することで自然消滅させることができ、且つ剥離強度、耐衝撃性及び耐摩擦性が大きく、外部環境においても目的とする期間塗膜を保持することができる、塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明らは、上記課題を解決するため、基本的に相反する、剥離強度、耐衝撃性及び耐摩擦性という、マーキング機能を保持するために要求される特性と、無公害の手段で任意に取り除くことができ、且つその後は自然消滅させることができるという、環境適応性のために要求される特性とを、如何にして同時に充足させるかという点について鋭意検討を重ねた結果、
顔料として、環境への還元が可能で硬度の大きな「無機」の顔料を用い、バインダーとして、ガラス転移温度−20〜40℃の水溶性若しくは水分散性の非セルロース系アニオン性樹脂を用い、これらを水溶性増粘剤と共に水中に分散または溶解して、水性塗料組成物を調製したところ、これにより得られる乾燥塗膜が、ジェット水流で瞬時に除去でき且つ除去した塗膜をそのまま放置することで自然分解できるばかりか、野外の環境においても1月以上所望のマーキング機能を保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、炭酸カルシウムを主成分とする少なくとも1種の無機顔料成分(A)と、少なくとも1種のガラス転移温度−25〜40℃の非セルロース系アニオン性樹脂からなるバインダー(B)と、少なくとも1種の水溶性増粘剤(C)と、水(D)とを含むことを特徴とする水性塗料組成物を提供するものである。ここで、本願明細書中で記載する「ガラス転移温度」は、DSC測定器(マックサイエンス社製:3100S型)により測定したものである。
【0012】
本発明の水性塗料組成物においては、バインダー(B)が、ガラス転移温度−25〜35℃の非セルロース系アニオン性樹脂であることがより好ましく、具体的には、例えば、酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、水分散性アクリル樹脂、ウレタン樹脂、またはシリコンアクリル酸エステルハイブリッド樹脂等の水分散の非セルロース系アニオン性樹脂、或いは水溶性アクリル樹脂等の水溶性の非セルロース系アニオン性樹脂を挙げることができる。
【0013】
また、本発明の水性塗料組成物における水溶性増粘剤(C)としては、アルカリ活性型の増粘剤が好ましく、例えば、カルボキシル系コポリマー等を挙げることができる。またアルカリ活性型の増粘剤を含む場合には、更にアルカリ成分を含むものが好ましく、アルカリ成分としてはアンモニアが好ましい。
【0014】
本発明の水性塗料組成物は、水性塗料組成物の総重量に対して、それぞれ、無機顔料(A)を20〜65重量%、バインダー(B)を2〜6重量%、水溶性増粘剤(C)を0.5〜1.4重量%、水(D)を40〜70重量%含むものが好ましい。また、アルカリ成分としてアンモニアを含む場合には水性塗料組成物の総重量に対してアンモニアを0.1〜0.6重量%含むものが好ましい。
【0015】
本発明の水性塗料組成物は、更に、少なくとも1種の消泡剤及び/または少なくとも1種の防腐剤を含むものが好ましい。消泡剤を含む場合、当該消泡剤を水性塗料組成物の総重量に対して0.05〜1.0重量%含むものが好ましく、水性塗料組成物の総重量に対して0.05〜0.5重量%含むものがより好ましい。同様に、防腐剤を含む場合、当該防腐剤を水性塗料組成物の総重量に対して0.02〜0.10重量%含むものが好ましい。
【0016】
本発明は更に、上記水性塗料組成物を塗布することで得られる一時的なマーキング塗膜を提供する。
【0017】
本発明のマーキング塗膜は、圧力5〜20Mpaで、毎分5〜20L噴出できるノズルからの高圧ジェット水流で除去することができ、且つ除去後、自然環境で自然消滅可能なものである。
【0018】
本発明は更に、上記の水性塗料組成物を被塗物に塗布する工程を含む、一時的なマーキング方法を提供する。本発明のマーキング方法は、更に、形成された塗膜を、高圧水流で除去する工程と、除去された塗膜を自然環境に放置して自然消滅させる工程とを含むものが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、通常の塗装手段で一時的なマーキングが可能である。加えて、本発明によれば、マーキングの目的を達した後は、マーキングに供した塗膜を高圧水流で除去できるとともに、除去した塗膜をそのまま放置すれば、跡形もなく自然消滅させることができ、無公害な手段で、被塗物及びその周辺環境を元の状態に戻すことができる。更に本発明によれば、屋外におけるマーキングであっても、マーキング機能を1月以上の期間保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
I.水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、溶媒として水(D)を用い、これに炭酸カルシウムを主成分とする少なくとも1種の無機顔料(A)と、少なくとも1種のガラス転移温度−25〜40℃の水溶性若しくは水分散性の非セルロース系アニオン性樹脂からなるバインダー(B)と、少なくとも1種の水溶性増粘剤(C)とを必須成分として分散または溶解したものである。以下、本発明の水性塗料組成物を、各成分毎に具体的に説明する。
【0021】
(A)無機顔料
本発明の水性塗料組成物における無機顔料は、炭酸カルシウムを主成分とするものである。
【0022】
(イ)炭酸カルシウムは、自然界に存在する石灰石、貝殻の主成分であるばかりか炭酸ガス存在下で水に可溶となるため、目的のマーキングを達成した後塗膜を除去してそのまま放置することで自然界に還元することができる。
(ロ)また、炭酸カルシウムは水性塗料中で白色顔料として機能するとともに、他の有色顔料と組み合わせる場合には、塗料の色彩ベースとなる体質顔料としても機能し得るので、様々なマーキング機能を付与することができる。
(ハ)更に、マーキングに供される塗膜の耐衝撃性及び耐摩擦性を増大させ、野外環境での雑踏や車の通過等の機械的衝撃に対して耐性を付与することができる。
【0023】
本発明で用いられる無機顔料は、上記(イ)〜(ハ)の点で、無機顔料の総重量に対して炭酸カルシウムを、90重量%以上含有するものが好ましく、94重量%以上含有するものがより好ましい。勿論、白色のマーキングを目的とする場合には、無機顔料の総重量に対して炭酸カルシウムを100重量%含有するものが好ましい。
【0024】
また、2種以上の無機顔料を用いる場合には、目的とするマーキング機能に応じて好適な無機顔料を炭酸カルシウムと組合せればよいが、上記(イ)乃至(ハ)の点で、組み合せる無機顔料も、天然に存在する無色顔料を選択することが好ましい。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、バライタ、クレイ、マイカ、ベントナイト等を挙げることができる。
【0025】
また、塗膜の基調となる色を白色以外の有色にしたい場合には、所望の色彩となるように着色顔料を炭酸カルシウムと組合せればよい。また、着色顔料としては、例えばパーマネントレッド、酸化鉄、パーマネントイエロー等を挙げることができる。
【0026】
無機顔料の含有量は、所望のマーキング機能を付与する上で重要であるが、その一方で塗料組成物の塗工性に大きく影響する。このため、無機顔料の量は、水性塗料組成物の総重量に対して20〜65重量%とすることが好ましく、30〜60重量%とすることがより好ましく、40〜50重量%とすることが最も好ましい。20重量%未満では、塗膜の隠蔽力が小さくなりマーキングの確認が難くなり易い。またこの濃度では、塗膜の乾燥が遅くなり易い。一方、65重量%より多くなると、平滑な塗装面を得にくく、マーキングにおける作業性や、被塗物の美観性の点で問題を生じることがある。
【0027】
(B)バインダー
本発明の塗料組成物は、バインダーとして、ガラス転移温度が−25から40℃、より好ましくはガラス転移温度が−20から10℃の水溶性若しくは水分散性の非セルロース系アニオン性樹脂を含むものである。
【0028】
バインダーが、水溶性若しくは水分散性であることに加え、そのガラス転移温度が−25から40℃の非セルロース系アニオン性樹脂であるため、マーキングに供した塗膜を環境に対する影響が全くない水流で除去すること、更には除去した塗膜をそのまま放置することで自然消滅させることを可能とし、その一方で、被塗物に対する塗膜に、所望の期間のマーキングを達成する上で充分な剥離強度を付与することができる。
【0029】
このようなバインダーとしては、例えば、酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、水分散性アクリル樹脂、ウレタン樹脂、またはシリコンアクリル酸エステルハイブリッド樹脂等の水分散性の非セルロース系アニオン性樹脂、或いは水溶性アクリル樹脂等の水溶性の非セルロース系アニオン性樹脂等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を塗料組成物中に含有させることができる。本発明においては、これらバインダーの中でも、塗膜を剥離した後、塗膜が自然環境中の水分により迅速に分解して自然に戻り易い点で、酢酸ビニル樹脂またはエチレン酢酸ビニル樹脂系共重合体が好ましい。
【0030】
もっとも、より長期間のマーキング機能を保持することを要求される場合には、アクリル樹脂を使用することも好ましい。但し、アクリル樹脂を含有する場合には、アクリル樹脂のガラス転移温度が40℃を超えると、特に高圧水流による後処理において塗膜を除去し難くなるので、ガラス転移温度を40℃以内にすることに特に注意すべきである。
【0031】
バインダーの量は、塗料組成物の粘度(塗工性、塗膜の美観性に関わる)及び除去後における乾燥塗膜の分解性(多量の樹脂を含有すると、完全に分解することが困難に成り易い)の点から、水性塗料組成物の総重量に対して樹脂固形換算値で2〜6重量%とすることが好ましく、2〜5重量%とすることがより好ましく、1〜4重量%とすることが最も好ましい。
【0032】
(C)増粘剤
本発明の水性塗料組成物は、所望の塗工性を付与する一方、マーキング終了後の塗膜の除去及び分解を確保するため、水溶性の増粘剤を含有する。
【0033】
本発明の水性塗料組成物における増粘剤は、水溶性のものであればよく、例えば、ベンナイト、メチルセルロース若しくはその誘導体、カゼイン若しくはその塩、カルボキシル系コポリマー、ヒドロキシル系コポリマー等、一般的な水溶性の増粘剤を使用することができる。本発明においては、経時的な沈降に対する安定性が高い点で、アルカリ活性タイプのカルボキシル系コポリマーが好ましく、この場合には、水性塗料組成物中に更にアルカリ成分を含有するものが好ましい。
【0034】
アルカリ活性タイプの水系増粘剤と共にアルカリ成分を含有する場合、当該アルカリ成分は、本発明の水性塗料組成物のpHを6.5〜11.0の範囲に調節できるものであればよく、例えば苛性ソーダ、アンモニア等の一般的なアルカリ成分を含有することができる。中でも、乾燥塗膜の耐水性を上げることができ、延いては外部環境でのマーキング機能保持期間を延長できる点で、アンモニア等の揮発性のアルカリが好ましい。
【0035】
また、水溶性増粘剤(C)の含有量は、バインダーの含有量について述べた点と同様の点で水性塗料組成物の総重量に対して固形換算値で0.5〜1.4重量%とすることが好ましく、0.8〜1.2重量%とすることがより好ましい。
【0036】
また、アルカリ活性タイプの増粘剤と共にアルカリ成分を含有する場合、アルカリ成分の含有量は、アルカリ中和による増粘剤の増粘力を発揮させるため、水性塗料組成物のpHが6.5〜11.0の範囲になる量にすることが好ましい。例えば、アルカリ活性タイプのカルボキシル系コポリマーエマルジョンを含有することでpHが3〜5となっている水性塗料組成物の場合には、水性塗料組成物におけるアンモニアNH濃度を0.056〜0.112重量%の範囲とすることが好ましい。この場合、例えば、28重量%のアンモニア水を用い、当該アンモニア水を水性塗料組成物の総重量に対して0.2〜0.4重量%の範囲で添加すればよい。
【0037】
もっとも、水性塗料組成物に対して要求される粘度は、はけ塗り、印刷等、それを塗工する手段によって異なる。従って、目的に応じて、アンモニアの含有量を適宜増減して組成物の粘度を調節することが好ましい。また、インキ・塗料における通常の調整法に準じて、塗料組成物の変更、希釈などを行って、目的とする粘度に調整することもできる。例えば、刷毛塗りで所望のマーク(文字など)を塗装する場合には、アルカリ成分の含有量や増粘剤の濃度を調整して水性塗料組成物を200〜600mPa・secの粘度に調整することが好ましい。なお、本発明の塗料組成物は、塗布するまで初期の粘度を保持するため、アンモニア等の揮発成分や水の揮発、飛散などを防ぐことが好ましく、本発明の塗料組成物を保存する際には、密閉容器で保存することが望ましい。もっとも、使用直前に溶媒で希釈して所望の粘度とすることも可能である。
【0038】
(D)水
本発明の水性塗料組成物は、上記した各有効成分をバランス量の水に配合することにより水性塗料組成物としている。
含有させる水は、脱イオン水や蒸留水の他、水道水であってもよい。もっとも、使用する水が比較的多くの電解質を含んでいる場合には、水性塗料組成物の安定性が損なわれることがあるため、脱イオン水が好ましく、水道水を使用する際には、電解質の量が40μS/cm以下のものが好ましい。また、水の含有量は、水性塗料組成物の総重量に対して40〜70重量%とすることが好ましく、45〜65重量%とすることがより好ましい。
【0039】
(E)付加的成分
本発明の水性塗料組成物は、以上の成分を必須成分とするが、更に種々の付加的成分を添加することができる。
【0040】
例えば、上記各必須成分を攪拌し塗料組成物とする際に発生する泡を抑えるため、少なくとも1種の消泡剤を含ませることができ、微生物やバクテリアの発生による腐敗を防止するために、少なくとも1種の防腐剤を含ませることができる。これら消泡剤及び防腐剤の種類に関し特に制限はないが、消泡剤としてはシリコン系のものが好ましく、防腐剤としては、ジアゾリン系のものが好ましい。
【0041】
また、これら付加的成分を添加する場合、消泡剤の量は、水性塗料組成物の総重量に対して0.05〜1.00重量%とすることが好ましく、0.1〜0.2がより好ましい。また、防腐剤の量は、水性塗料組成物の総重量に対して0.02〜0.10重量%とすることが好ましい。もっとも、これら付加的成分の最適な含有量は、水性塗料組成物の各必須成分との相性に支配されるので、含有する各必須成分の種類に応じて好適な量を含有させることが好ましい。
【0042】
次に、本発明の水性塗料組成物を製造する方法について説明する。なお、以下に示す方法は、本発明の水性塗料生成物を製造するための一具体例に過ぎず、この方法以外の方法及び成分を用いて製造することも可能である。
【0043】
まず、溶媒として電解質を含有しない水を用い、これにアルカリ活性型の水溶性増粘剤を加え1〜10分攪拌溶解させる。次いで、アルカリ中和による増粘効果を出すためにアンモニア水を加え、撹拌時の発泡を抑制するために消泡剤を加え5〜15分攪拌し溶解する。更に溶解液に炭酸カルシウムを加え20〜40分攪拌した後、メディア型分散機で粒度20〜50μmまで分散させる。最後に、分散液に、水、水溶性若しくは水分散性の非セルロース系アニオン性樹脂のエマルジョン、防腐剤の順で添加した後10〜30分攪拌し、水性塗料組成物とする。
【0044】
II.マーキング方法
次に本発明の水性塗料組成物を用いたマーキング方法について説明する。
本発明のマーキング方法は、本発明の水性塗料組成物を被塗物へ塗布する他は特に制限はなく、従来インキや塗料等に適用されている公知の塗布方法により被塗物へ本発明の水性塗料組成物を塗布すればよい。
【0045】
もっとも、本発明の水性塗料組成物は、前述したように、乾燥後に得られる塗膜が、高圧水流で除去することができ、且つ除去された塗膜が自然環境で自然消滅可能なものである。よって、本発明のマーキング方法にあっても、更に、形成された塗膜を、高圧水流で除去する工程を含むことが好ましく、更に除去された塗膜を自然環境に放置して自然消滅させる工程を含むことがより好ましい。
【0046】
本発明のマーキング方法においては、被塗物の種類についても特に制限はない。本発明の塗料組成物を塗布することによって被塗物が著しく損傷を受けるような材質のものでなければ、形状・表面状態の如何にかかわらず塗布できる。
また、本発明のマーキング方法においては、塗膜の厚さに関しても特に制限はなく、インキ・塗料分野における通常の手法にしたがって、重ね塗りを行うことも可能である。
【0047】
III.乾燥塗膜
以上のような本発明の水性塗料組成物及びそれを用いるマーキング方法により形成される乾燥塗膜は、外部環境でマーキングに供された場合でも、所望の期間、より具体的には1月以上、マーキング機能を保持し得るものである。そして、目的とするマーキングを達成した後には、高圧の水流、より具体的には、例えば、圧力5〜20Mpaで、毎分5〜20L噴出できるノズルからの高圧ジェット水流で除去でき、更に除去後の塗膜は、自然分解によって一定期間経過後に消滅し環境に還元できるものである。従って、本発明の乾燥塗膜によれば、充分なマーキング期間を確保できるとともに、マーキング終了後には、被塗物及びその周辺環境を簡易且つ無公害の手段で復元することができる。
【0048】
このような本発明の特徴は、主に、炭酸ガス存在化で水に可溶であり、且つ硬度の大きな炭酸カルシウムを主成分とし、更に当該主成分のバインダーとして、水溶性若しくは水分散性で、所定のガラス転移温度を有する非セルロース系アニオン性樹脂を含むことに基づく。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明するが、本発明はこれら実施例に何等限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
2000mlのビーカーに水道水350重量%を入れ、これにアルカリ活性型の水溶性増粘剤(カルボキシルコポリマー、チバスペシャリティケミカル(株)、ビスカレックスHV30)0.9重量%を加え、1〜2分間攪拌をした。次に、攪拌しながらアルカリ中和による増粘効果を出すためにアンモニア水(アンモニア濃度28重量%)0.3重量%(アンモニア換算値0.084重量%)を少量づつ加え、消泡剤(ビニルポリマー等、楠本化成(株)、ディスパロンAQ-500)を0.05重量%加え均一に混合した。続けて炭酸カルシウム(白石工業(株)、ホワイトンH)45重量%を加え、30分間攪拌を続け、炭酸カルシウムを分散させた。この白色分散液をメディア型分散機で粒度20〜50μmになるまで分散させた。得られた分散液を攪拌しながら水道水16重量%と、バインダーとしてガラス転移温度−20℃のエチレン酢酸ビニル樹脂のエマルジョン(昭和高分子(株)、ポリゾールP−7)3重量%(固形分換算では1.5重量%)と、防腐剤(化合物名:ベンゾイソジアゾリン、アビシア(株)、Proxel BD20)0.2重量%とを添加し、20分間攪拌して、水性塗料組成物(1)を得た。得られた塗料組成物の粘度を、B型粘度計により測定したところ、560mPa・secであった。
【0051】
この塗料組成物(1)を用いて、当工場内の原料及び製品のトラックが毎日100台程度の頻度で出入りするアスファルト道路及びコンクリート道路、並びに実験中11日間雨に曝されたコンクリート壁、木材、および鉄板に、それぞれ、屋外において、降雨時を避けて塗料用刷毛で文字をマーキングし、マーキング後の塗膜(文字)の経時変化を観察した。その結果、何れの被塗物でも、塗膜を高圧洗浄機で除去するまでの1ヶ月間、マーキング機能を保持した。また、高圧洗浄機を用い、この塗膜に向けて圧力7Mpaで毎分7Lの高圧ジェット水流を噴出したところ、当該塗膜を除去することができた。更に除去した塗膜のスラッジを地面に放置したところ、約1年で跡形もなく消失することが確認された。
【0052】
(比較例1)
実施例1において、バインダーとしてガラス転移温度−20℃のエチレン酢酸ビニル樹脂に代え、水溶性セルロースエーテル(ガラス転移温度140℃、信越化学工業(株)、メトローズ65SH−4000)を添加したこと以外は実施例1と同様にして水性塗料組成物(2)を得た。
【0053】
この塗料組成物(2)を用いて、実施例1と同様にマーキングを行なったところ、約1週間程で何れの被塗物でも乾燥塗膜に剥離若しくは損傷が認められマーキング機能を保持できなかった。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、バインダーとしてガラス転移温度−20℃のエチレン酢酸ビニル樹脂に代え、ガラス転移温度77℃のアクリル樹脂のエマルジョン(大成ファインケミカル(株)社製、アクリットWEM030U)を添加したこと以外は実施例1と同様にして水性塗料組成物(3)を得た。
【0055】
この塗料組成物(3)を用いて、実施例1と同様にマーキングを行なったところ、何れの被塗物でも、塗膜を高圧洗浄機で除去するまでの1ヶ月間、マーキング機能を保持した。しかし、この塗膜を高圧洗浄機で除去することはできず、被塗物を元の状態に復元する事ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上述べたように、本発明の水性塗料組成物及びそれを用いるマーキング法で得られる塗膜は、野外で用いられた場合でも充分な期間マーキング機能を保持することができ、且つマーキングの目的を達した後、直ちに高圧水流で除去することができる。加えて高圧水流で除去した塗膜は、そのまま放置するだけで一定期間経過後に消失し環境に還元する。このため、本発明の水性塗料組成物及びそれを用いるマーキング法は、アスファルトまたはコンクリート舗装上になされる一時的な標識、壁や橋梁などの屋外構築物の修理位置を表示するためのマーキングなどに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを主成分とする少なくとも1種の無機顔料成分(A)と、少なくとも1種のガラス転移温度が−25〜40℃である水溶性若しくは水分散性の非セルロース系アニオン性樹脂からなるバインダー(B)と、少なくとも1種の水溶性増粘剤(C)と、水(D)とを含むことを特徴とする、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記バインダー(B)が、ガラス転移温度−25〜35℃の水溶性若しくは水分散性の非セルロース系アニオン性樹脂からなる、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
水性塗料組成物の総重量に対して、それぞれ、前記無機顔料(A)を20〜65重量%、前記バインダー(B)を2〜6重量%、前記水溶性増粘剤(C)を0.5〜1.4重量%、前記水(D)を40〜70重量%含む、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記水溶性増粘剤(C)が、アルカリ活性型の増粘剤であり、更にアルカリ成分を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記アルカリ成分がアンモニアであり、水性塗料組成物の総重量に対して0.1〜0.6重量%含む、請求項4に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
更に、少なくとも1種の消泡剤を、水性塗料組成物の総重量に対して0.05〜1.0重量%含み、少なくとも1種の防腐剤を、水性塗料組成物の総重量に対して0.02〜0.10重量%含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗布することで得られるマーキング塗膜。
【請求項8】
圧力5〜20Mpaで、毎分5〜20L噴出できるノズルからの高圧ジェット水流で除去することができ、且つ該除去された後、自然環境に放置することで自然消滅可能な、請求項7に記載のマーキング塗膜。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を被塗物に塗布する工程を含む、マーキング方法。
【請求項10】
更に、形成された塗膜を、高圧水流で除去する工程と、該除去された塗膜を自然環境に放置して自然消滅させる工程とを含む、請求項9に記載のマーキング方法。


【公開番号】特開2006−70159(P2006−70159A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255319(P2004−255319)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(504334658)大成テクノケミカル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】