説明

水溶性薬物徐放化技術

【課題】 本発明は活性物質(例えば薬物)、特に易水溶性薬物を送達するための新規経口徐放性組成物に関するものである。さらに、本発明は電荷を有するミセル形成薬物と反対電荷を有する少なくとも一つの高分子とを含有する新規組成物に関するものである。
【解決手段】 また、新規組成物を用いた方法についても提供し、本発明の方法は、電荷を有するミセル形成薬物及び、反対電荷を有する少なくとも一つの高分子を含有する医薬組成物を経口投与し、それにより該ミセル形成薬物を徐放化することを特徴する、ミセル形成薬物の徐放化方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性物質(例えば、薬物)、特に易水溶性薬物の送達のための経口投与用徐放性組成物に関する。とりわけ、本発明は、電荷を有するミセル形成薬物と反対電荷を有する少なくとも一つのポリマーを含有する新規組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の経口及び静脈投与による薬物投与は、多くの薬物の有効性を大幅に制限している。これらの投与方法は、薬物濃度を治療有効範囲に維持するのではなく、投与初期、急速に血中濃度を上昇させ、その後生体により薬物が代謝されるために速やかに治療濃度範囲以下まで低下してしまう。従い、治療効果を達成するために、薬物濃度を治療有効範囲に維持するための長期間にわたる頻回投与が余儀なくされる。この問題点を解決するために、薬物の初期バーストを回避し、薬物放出を一定レベルにする多くの徐放性製剤が開発されている。
【0003】
高分子からなる組成物は、一般的に、薬物徐放を達成するために用いられる(Langer et al. Nature 392:6679 supp. (1998)参照)。多種の成功した高分子徐放性製剤が、異なる物理的特性を有する薬物放出のために開発されている。このような製剤は、比較的疎水性および水不溶性の薬物の放出時間の延長に極めて有効である。
【0004】
しかしながら、高分子マトリックスからの速やかな薬物拡散のため、既存の徐放化技術を用いた易水溶性薬物の徐放化達成は困難とされている。従い、薬物拡散及び易水溶性薬物のバースト効果を抑制できる新たな組成物や方法が望まれている。本発明はこれらおよび他のニーズを満たすものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要約)
本発明は、とりわけ、ミセル形成薬物と反対電荷を有するポリマーを含有する経口徐放性製剤を提供する。ミセルの概念は、界面活性剤あるいは薬物キャリアーの分野でよく知られているけれども、ミセル形成薬物の徐放性組成物への応用は全く知られていない。さらに、とても驚くべきことに、本組成物は活性物質、特に水溶性薬物の徐放に非常に有効である。さらなる利点として、組成物が多量の薬物を含有する場合でさえ、本組成物は徐放を提供することができる。
【0006】
本発明は、電荷を有するミセル形成薬物と反対電荷を有する少なくとも一つの高分子、さらに必要に応じてハイドロゲル形成高分子物質および親水性基剤を含有するような経口徐放性医薬組成物を提供する。ミセル形成薬物は生理的pHにおいて正電荷あるいは負電荷を有してもよい。
【0007】
他の実施形態において、本発明はミセル形成薬物の溶出挙動を調節するための方法を提供し、これには、電荷を有するミセル形成薬物と反対電荷を有する少なくとも一つの高分子のモル比を変えることによる、または反対電荷を有する高分子の添加量を変えることによるミセル形成薬物の溶出挙動を調節する方法を含む。適したミセル形成薬物には、例えば、抗うつ薬、アドレナリンβ受容体拮抗薬、麻酔薬、抗ヒスタミン薬のようなものを含む。好ましくは、ミセル形成薬物は水溶性の薬物である。
【0008】
他の実施形態において、本発明はミセル形成薬物を徐放するための方法を提供する。これには、電荷を有するミセル形成薬物と反対電荷を有する少なくとも一つの高分子を含有する経口投与用医薬組成物を含み、これによりミセル形成薬物を徐放させる。
【0009】
他の実施形態において、本発明はミセル形成薬物を徐放するのための方法を提供する。これには、電荷を有するミセル形成薬物と反対電荷を有する少なくとも一つの高分子、さらに必要に応じてハイドロゲル形成高分子および親水性基剤を含有する経口投与用医薬組成物を含み、これによりミセル形成薬物を徐放させる。
【0010】
さらに、以下に記す図および明細書を読むことにより、本発明の目的および利点はより明確となる。
【0011】
(用語の定義)
"活性物質"という用語は、経口投与のための生理的に許容される錠剤中に含まれ得るあらゆる薬物を意味する。好ましい活性物質には、電気的に電荷を帯びたコロイド粒子を形成できるミセル形成活性物質を含む。
【0012】
"cps"または"センチポアズ"という用語は、粘度の単位であり、ミリパスカル秒である。粘度はBroolfieldまたは他の粘度測定計により測定される。例えば、Wanget al. Clin. Hemorheol. Microcirc. 19:25-31 (1998); Wang et al. J. Biochem. Biophys. Methods28:251-61 (1994); Cooke et al. J. Clin. Pathol. 41:1213-1216 (1998)参照。
【0013】
本発明中の"カラギーナン"という用語は、カラギーナン、アイリッシュ・モス、ヨーロッパおよび北アメリカの大西洋沿岸の海藻から得られる全ての水溶性抽出物を意味する。これには、FMCから商業的に供給されているGP-911、GP-812、GP-379、GP-109、GP-209の様な、例えば、Viscarin(登録商標)109 、Gelcarin(登録商標)を含む。カラギーナンは高分子量、高硫酸化されたガラクトース骨格をもつ線状分子である。これらは、ガラクトースと3,6無水ガラクトースの硫酸化された及び硫酸化されていない繰り返し単位から構成されており、これらは相互のα-(1-3)及びβ-(1-4)グリコシド結合により結合している。他のカラギーナンの商業用供給源には、シグマとヘラクレス社がある。
【0014】
本発明中で用いられる"ポリアクリル酸"または"PAA"という用語は、ポリアクリル酸系高分子全ての様式および分子量を含む。これには、例えば、B.F. Goodrich社のカーボポール971を含む。
【0015】
本発明中で用いられる"ポリエチレンオキサイド高分子"または"PEO"という用語は、ポリエチレンサイド高分子全ての様式および分子量を含む。これには、例えば、いずれもユニオンカーバイト社の商標登録名であるPolyoxWSR-303a (平均分子量700万、粘度7500-10000 cps、1%水溶液、25℃)、Polyox WSR Coagulanta (平均分子量500万、上記と同条件における粘度5500-7500cps)、Polyox WSR-301a (平均分子量400万、上記と同条件における粘度1650-5500 cps)、Polyox WSR-N-60Ka (平均分子量200万、2000-4000cps、2%水溶液、25℃)を含む。参考資料として本発明中に記載するWO 94/06414参照。
【0016】
本発明中で用いられる"ポリエチレングリコール"または“PEG”という用語は、ポリエチレングリコール高分子全ての様式および分子量を含む。これには、いずれも日本油脂社の商標登録名であるマクロゴール400、マクロゴール1500、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000を含む。
【0017】
本発明中で用いられる"ヒドロキシプロピルメチルセルロース"、"カルボキシメチルセルロースナトリウム"、"ヒドロキシエチルセルロース"および"カルボキシビニル高分子"という用語には、慣用されるものを含む。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)には、例えば、いずれも信越化学工業社の商標登録名であるメトローズ90SH100000a(上記と同条件における粘度2900-3900 cps)、メトローズ90SH30000a (粘度25000-35000 cps、2% 水溶液、20℃)を含む。カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)には、例えば、いずれも日本製紙社の商標登録名であるサンロースF-150MCa (平均分子量20万、粘度1200-1800 cps、1%水溶液、25℃)、サンロースF-1000MCa (平均分子量42000、上記と同条件における粘度8000-12000cps)、サンロースF-300MCa (平均分子量30万、上記と同条件における粘度2500-3000 cps)を含む。ヒドロキシエチルセルロース(HEC)には、例えば、いずれもダイセル化学工業社の商標登録名であるHECDaicel SE850a(平均分子量1.48 x 106、粘度2400-3000 cps、1% 水溶液、25℃)、HECDaicel SE900a(平均分子量1.56 x 106、上記と同条件における粘度4000-5000 cps)を含む。カルボキシビニルポリマーには、B.F.Goodrich社の平均分子量約25 x 105であるCarbopol 940aを含む。
【0018】
本発明中で用いられる"治療薬"という用語は、生理的に許容できる錠剤により経口投与されるあらゆる薬を意味する。
【0019】
本発明中で用いられる"ミセル形成"という用語は、電気的に電荷を帯びたコロイド粒子、配向性分子からなるイオン、あるいは二次結合によりゆるく集合した多くの化合物/分子からなる凝集体を形成できるあらゆる化合物を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、人工腸液(SIF)における400mgのPAA/PEO(ポリアクリル酸/ポリエチレンオキサイド)マトリックスからの水溶性薬物(10重量%)の放出を表す。
【図2】図2は、400mgのPAA/PEO(ポリアクリル酸/ポリエチレンオキサイド)(1:1.5)錠剤から放出された塩基性易水溶性薬物のT50とlogPの相関関係を表す。
【図3】図3は、臨界ミセル濃度(CMC)とlogPの相関関係を表す。
【図4】図4は、放出実験の使用に適した荷電薬物(正電荷または負電荷)の例を示す。
【図5】図5は、PAA/PEO(ポリアクリル酸/ポリエチレンオキサイド)マトリックスからの負電荷薬物の放出を表す。
【図6】図6は、人工胃液(SGF、図.6a)及び人工腸液(SIF、図.6b)中におけるPAA(ポリアクリル酸)/ポリサッカライドマトリックス錠剤(400mg)からの塩酸ジルチアゼムの放出を表す。
【図7】図7は、人工胃液(SGF、図.7a)及び人工腸液(SIF、図.7b)中におけるPAA(ポリアクリル酸)/硫酸化高分子マトリックス錠剤(400mg)からの塩酸ジルチアゼムの放出を表す。
【図8】図8は、人工胃液(SGF、図.8a)及び人工腸液(SIF、図.8b)中における各種マトリックス錠剤からの塩酸ジルチアゼムの放出を表す。
【図9】図9は、人工胃液(SGF)及び人工腸液(SIF)中におけるPAA(ポリアクリル酸)/カラギーナンマトリックス錠剤からの塩酸ジルチアゼム(25重量%)の放出を表す。
【図10】図10は、塩酸ジルチアゼムを25重量%含む組成物における、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン比率の最適化を表す。
【図11】図11は、人工胃液(SGF、図11a)及び人工腸液(SIF、図11b)中における異なるPAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン比率のマトリックス錠剤からの塩酸ジルチアゼム(60重量%)の放出を表す。
【図12】図12は、人工胃液(SGF、図12a)及び人工腸液(SIF、図12b)中における薬物含量の異なるPAA(ポリアクリル酸)/Viscarin 109マトリックスからの塩酸ジルチアゼムの放出を表す。
【図13】図13は、人工胃液(SGF、図13a)及び人工腸液(SIF、図13b)中におけるカラギーナンを基本とした競合システムからの塩酸ジルチアゼム(25重量%)の放出を表す。
【図14】図14は、人工胃液中におけるPAA(ポリアクリル酸)を基本とした競合システムからの塩酸ジルチアゼム(25重量%)の放出を表す。
【図15】図15は、人工胃液(図15a)及び人工腸液(図15b)中における競合システムからの塩酸ジルチアゼム(60重量%)の放出を表す。
【図16】図16は、塩酸ジルチアゼム(50重量%)のJP 2nd fluid(日本薬局方崩壊試験法第二液)中における放出に及ぼすPAA(ポリアクリル酸)添加量の影響を表す。
【図17】図17は、塩酸ジルチアゼム(50重量%)のJP 2nd fluid(日本薬局方崩壊試験法第二液)中における放出に及ぼすPAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン添加量の影響を表す。
【0021】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、とりわけ、ミセルを形成する活性物質(すなわち薬物)および反対電荷を有し、ハイドロゲルマトリックスを形成する高分子を含有する経口徐放性製剤を提供する。この組成物は、一般的に薬物と高分子賦形剤を直接打錠することにより製造される。
【0022】
有利なことに、この組成物は活性物質の極めて遅い放出速度を提供する。好ましい態様においては、反対電荷を有するポリマーと薬物ミセル間の水素結合複合体により、速やかな薬物拡散を抑制する。他の特別な理論にとらわれず、マトリックス/溶出境界においてポリマーの電荷が水酸化物イオンにより中和され、これらの結合が崩壊することにより薬物が放出されるものと思われる。
【0023】
実施形態の一つにおいて、組成物の投与回数が減少され得、それにより患者のコンプライアンスが向上され得る。さらに、(標準的な組成物で見られるような)薬物血中濃度の急激な上昇を抑制することにより、薬物の副作用を低減させることができ得る。本組成物のさらなる利点として、薬物を高用量封入しても組成物からの放出速度は有意に影響を受けないことが挙げられる。
【0024】
本発明における実施例の理論的根拠を形成する因子や事象について、ここで討議する。しかしながら、この討議により本発明を拘束的や制限的に解釈されるべきではない。本発明の理論的な基礎を述べるためのモデルにかかわらず、本発明の種々の実施形態が実施可能であることを当業者は理解するであろう。
【0025】
(本発明における活性物質)
本発明における活性物質は、ミセルを形成する薬物であれば特に限定されない。ミセル形成は抗うつ薬、アドレナリンβ受容体拮抗剤、麻酔薬、抗ヒスタミン薬、フェノチアジン類、抗アセチルコリン薬、精神安定剤、抗菌剤、抗生物質において観察されている(Attwood et al., J. Pharm. Pharmac., 30, 176-180 (1978); Attwood etal., J. Pharm. Pharmac., 31, 392-395 (1979); Attwood et al., J. Pharm.Pharmac., 38, 494-498 (1986); Attwood J. Pharm. Pharmac., 24, 751-752 (1972);Attwood et al. J. Pharm. Sci.v.63, no. 6, 988993 (1974); Attwood, J. Phar.Pharmacol., 28, 407-409 (1976)参照)。ミセルを形成する代表的な抗うつ薬には、塩酸イミプラミン、塩酸オミプラモール、塩酸アミトリプチリンを含む。ミセルを形成する代表的なアドレナリンβ受容体拮抗剤には、塩酸オキプレノロール、塩酸アセブトロール、塩酸ソラトールを含む。ミセルを形成する代表的な麻酔薬には、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン、塩酸アメソカインを含む。ミセルを形成する代表的な抗ヒスタミン薬には、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸クロルシクリジン、ジフェニルピラリン、塩酸プロメタジン、塩酸ブロムジフェンヒドラミン、塩酸トリペレナミン、マレイン酸メピラミンを含む。ミセルを形成する代表的なフェノチアジン類は、塩酸クロルプロマジン、塩酸プロメタジンを含む。他のミセル形成薬物には、精神安定剤、抗菌剤、抗生物質を含む。
【0026】
ある態様では、活性物質には、これらに限定はされないが、硫酸ベタカイン、塩酸シンクロカインBPと塩酸リグノカイン(Sigma)、塩酸プリロカインBPと塩酸ブピバカイン(Astra Pharmaceuticals)、塩酸メピバカイン(Leo)、塩酸プロパラカイン(Squibb)及び塩酸アメソカインBP(Smithand Nephew Pharmaceuticals)を含む。他の態様では、以下のような活性物質が本発明において有用である。以下に限定はされないが、これらには、4'-(1-ヒドロキシ-2-イソプロピル-アミノエチル)メタンスルフォナニファイド(Duncan,Flockhart)、ラベトロール[5-(1-ヒドロキシ-2-(1-メチル-3-フェニル-プロピルアミノ)エチル) サリチルアミド](Allen andHanburys)、アセブトロール((±)-3'-アセチル-4'-(2-ヒドロキシ-3-イソプロピルアミノプロポキシ)-ブチラニド) (May andBaker)、プロプラノロール{(±)-1-イソプロピルアミノ-3-ナフト-1'-イルオキシプロパン-2-オール}(ICI)、オキシプレノロール{(±)-1-(o-アリロキシフェノキシ)-3-イソプロピルアミノプロパン-2-オール}}(Ciba)、マレイン酸チモロール{マレイン酸(-)-1-ブチルアミノ-3(4-モルフォリノ-1,2,5-チエジアゾール-3-イル-オキシ)プロパン-2-オール}(Merck,Sharp and Dohme)、メトロプロロールラルトレール(酒石酸(±)-1-イソプロピルアミノ 3-p-(2-メトキシエチル)フェノキシプロパン-2-オール)(GeigyPharmaceuticals)を含む。他の具体例として、活性成分には、これらに限定されないが、塩酸アジフェニン(Ciba)、硫酸メチルポルジンB.P.(BeechamResearch)、塩化ラチェシノB.P.C.(Vestric)、塩酸クロルフェノキサミン(Evans Medical)、塩酸ピペリオドレート、臭化ピペンゾレート(M.C.P.Pharmaceuticals)、塩酸オルフェナドリンB.P.(Brocades, Gt Britain)、メシル酸ベンズトロピンB.P. (MerckSharp and Dohme)、臭化クリジニウム(Roche)、臭化アムブトニウム(Wyeth)、臭化ベンジロニトゥム(Parke-Davis)を含む。塩酸ジフェンヒドラミンB.P.(塩酸2-ジフェニルモトキシ -NN-ジメチルエチルアミン)及び塩酸クロルサイクリジンB.P. [塩酸1-(p-クロロジフェニルメチル)-4-メチルピペラジン]は、それぞれパークデービス社及びブローウェルカム社から入手した。塩酸臭化ジフェンヒドラミン[塩酸2-(α-p-ブロモフェニル-α-フェニルメトキシ)-NN-ジメチルエチルアミン]及び塩酸ジフェニルピラリン(塩酸4-ジフェニル-メトキシ-l-メチルピペリジン)をそれぞれ入手した。当業者は、本発明に適用できる他の活性成分についてもわかるであろう。
【0027】
好ましい実施形態として、本発明の活性物質は易水溶性薬物である。より好ましい実施形態として、本発明の活性成分は塩基性薬物である。本発明は、特に、高分子マトリックスからの速やかな拡散により、大きなバーストを示すような薬物に有用である。易水溶性薬物には無機及び有機酸の塩(プロトンの非共有結合により正電荷を有する)、恒久的に正電荷(あるいは負電荷)を有する分子、(弱酸及び強酸塩である)負電荷を有する分子を含む。例えば、易水溶性薬物は、水への溶解度が10 mg/mL以上、より好ましくは100 mg/mL以上の薬物を意味する。
【0028】
本発明の組成物に用いるために適した特定の活性物質は、電荷を有するミセル形成薬物であり、密接に関連する臨界ミセル濃度(Critical micelle concentration; CMC)及び/またはlog Pを基準に選択することができる(実施例 3参照)。オクタノール-水分配係数であるlogPは、非解離型薬物の疎水特性を反映する。ある化合物がミセルを形成する濃度の尺度であるCMCは、分子の立体化学特性、官能基の回転能力、対イオンと同様に疎水性の機能をあらわす。反対電荷を有する高分子を含有するハイドロゲルマトリックス内における電荷を有するミセル様の薬物凝集体の存在は、協力的相互作用をもたらす。高分子マトリックスからの薬物放出速度を制御するのが、この協力的相互作用である。従い、CMC及びlogPは、薬物放出速度を予測するために利用でき、本発明の組成物により徐放性を示し得る薬物を特定することができる。低いCMC及び/または高いlog Pの薬物は、本発明の組成物からゆっくりと薬物放出される一方で、ミセルを形成しにくい薬物は、標準的な経口組成物からの薬物放出と同程度の挙動で放出される。
【0029】
従い、記載の臨界ミセル濃度及び/又はミセル形成薬物と反対電荷を有するポリマーとの協力的相互作用の程度を調節する技術分野の当業者に知られているあらゆる標準的な方法により、薬物の放出挙動を調節することができる。臨界ミセル濃度及び/又は協力的相互作用の程度を調節する方法には、官能基の導入により薬物の疎水性を変化させる方法、及び薬物と高分子賦形剤との静電的相互作用を変化させるあらゆる他の方法を含む。ある態様において、本発明は、ミセル形成薬物の放出挙動を持続化させる方法を提供する。すなわち、ミセル形成薬物の臨界ミセル濃度を減少させ、それによりミセル形成薬物の放出挙動を持続化させる。
【0030】
他の様態において、本発明はミセル形成薬物の放出挙動を持続化させるさらなる方法を提供する。これらには、例えば、高分子の組成を変化させること、高分子と薬物の比率を変化させること、反対電荷を有する高分子の添加量を変化させること、同様に錠剤サイズや形状を変化させることも含む。
【0031】
ミセルの存在を判断する一つの方法として、90度の角度における光散乱の変化を測定する、すなわち、ある溶液の濃度の関数として表すS90を測定する方法がある。その後、散乱のグラフを解析する。濃度の増加とともに連続的に散乱が増大する場合、ミセルを形成していないことを表す。S90がプロットした濃度に対して屈折したグラフを示す場合、それはミセル形成を表す。臨界ミセル濃度は、モル濃度の関数であるS90、すなわち入射ビームと90度の角度における散乱を測定したグラフの変曲点から決定する。ミセル形成を測定する他の方法についても当業者には知られている。
【0032】
有益なことに、本発明の組成物の薬物含量は極めて高い。さらに、(例えば60重量%まで)薬物含量を増大させても、人工胃液(SGF)中における放出速度は有意に増大せず、実際、人工腸液(SIF)中においては、薬物含量の増大に伴い放出速度は減少する(実施例8参照)。
【0033】
ある好ましい様態として、生理的pHにおいて、ミセル形成薬物は正電荷あるいは負電荷を有する。ここで用いる生理的pHとは約0.5から約8、より好ましくは約0.5から約5.5である。生理的pHにおいて正電荷または負電荷とは、分子の全体の電荷のことを表す。すなわち、全体の電荷が正または負である限り、電荷に貢献する一つ以上の官能基を持つことができる。
【0034】
生理的pHにおいて、ミセル形成薬物または高分子が、正電荷または負電荷を有するか否かを評価する一つの方法として、分子の電荷を実験的に測定する方法がある。例えば、あるpHの適当な緩衝液またはゲルを調製し、陰極及び陽極を緩衝液またはそれに代わる電気泳動ゲル中に設置する。もし正電荷を帯びていれば、ミセル形成薬物は陰極に移動する。もしミセル形成薬物が負電荷に帯電していれば、薬物は陽極に移動する。製剤組成物中の反対電荷を有する高分子は、その反対の電極の方に移動する。例えば、ミセル形成薬物が正電荷であれば、陰極に移動する。反対電荷の高分子は陽極に移動する。
【0035】
他の評価方法として、ヘンダーソン−ハッセルベック式を用いて、ミセル形成薬物及び/又は高分子の電荷を評価することができる。ヘンダーソン−ハッセルベック式とは数学的記述であり、これは弱酸の解離定数と酸とその共役塩基の平衡濃度の観点から、酸塩基対の溶液のpHを定義するものである。pKがpHと等しい時、[Ha]は[A]と等しい。pKの値により、酸の強度に関する定量的な情報を得ることができ、極強酸は定義されていないpK値により特徴づけられ(例えば塩酸ようなpK= -log 0)、準強酸は小さなpK値により特徴づけられ、弱酸は大きなpK値により特徴づけられる。ヘンダーソン−ハッセルベック式を用いることにより、ミセル形成薬物及び/又は高分子の電荷を評価することができる。
【0036】
(I.本発明における電荷を有する高分子賦形剤)
本発明の組成物には、また、ミセル形成薬物と反対の電荷を有する少なくとも一つの高分子賦形剤または高分子を含有する。好ましい態様として、電荷を有する賦形剤とミセル形成薬物との協力的相互作用が、本発明の徐放特性の基礎となる。
【0037】
組成物は、カルボキシル基あるいは硫酸基のような負に荷電した高分子を含有することができる。これらには、以下に限定はされないが、硫酸系高分子、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、メチルメタクリル−メタクリル酸共重合体、アルギン酸、キサンタンガム、ジェランガム、グアガム、カルボキシメチルセルロース、イナゴマメガムやヒアルロン酸を含む。
【0038】
特に好ましい負電荷を有する高分子には、ポリアクリル酸及び硫酸系高分子を含む。硫酸系高分子にはカラギーナン(例えば、ビスカリン(登録商標)及び/またはゲルカリン(登録商標))及び硫酸デキストランを含む。より好ましくは、ポリアクリル酸が一つの高分子として選択される場合には、硫酸系高分子をもうひとつの高分子として選択することができる。
【0039】
好ましくは、組成物には、ゲル化した際に高粘性を示すような物理的特性を有するハイドロゲル形成高分子も含有することができ、これにより、本発明の製剤が食事の消化に伴う消化管の収縮運動に耐えることができ、消化管下部、すなわち結腸に到着するまでの間、多かれ少なかれその形状を保持することができるようになる。例えば、1%水溶液(25℃における)の粘度が1000cps以上の高分子が特に好ましい。
【0040】
高分子の特性はその分子量に依存する。本発明で使用されるハイドロゲル形成高分子は、比較的高分子量の物質、すなわち、平均分子量が200万、より好ましくは400万以上のものが好ましい。さらに、高分子は分岐鎖、直鎖、架橋あるいはそれらの組み合わせのものでもよい。
【0041】
これらの高分子の例としては、いずれもユニオンカーバイト社製のポリオックス(登録商標)WSR303(粘度平均分子量:700万、粘度:7500-10000cps(1%水溶液、25℃))、ポリオックス(登録商標)WSRCoagulant(粘度平均分子量:500万、粘度:5500-7500cps(1%水溶液、25℃))、ポリオックス(登録商標) WSR301(粘度平均分子量:400万、粘度:1650-55000cps(1%水溶液、25℃))、ポリオックス(登録商標)WSR N-60K(粘度平均分子量:200万、粘度:2000-4000cps(2%水溶液、25℃))、いずれも明成化学工業社製のアルコックス(登録商標)E-75(粘度平均分子量:200〜250万、粘度:40-70 cps(0.5%水溶液、25℃))、アルコックス(登録商標) E-100(粘度平均分子量:250〜300万、粘度:90-110cps(0.5%水溶液、25℃))、アルコックス(登録商標) E-130(粘度平均分子量:300〜350万、粘度:130-140 cps(0.5%水溶液、25℃))、アルコックス(登録商標)E-160(粘度平均分子量:360〜400万、粘度:150-160 cps(0.5%水溶液、25℃))、アルコックス(登録商標) E-240(粘度平均分子量:400〜500万、粘度:200-240cps(0.5%水溶液、25℃))、いずれも製鉄化学工業社製のPEO-8(粘度平均分子量:170〜220万、粘度:20-70 cps(0.5%水溶液、25℃))、PEO-15(粘度平均分子量:330〜380万、粘度:130-250cps(0.5%水溶液、25℃))、PEO-18(粘度平均分子量:430〜480万、粘度:250-480 cps(0.5%水溶液、25℃))などのようなポリエチレンオキサイドがあげられる。
【0042】
徐放に適したハイドロゲルタイプの製剤を提供するために、一般的に製剤は、600mg未満の重量である製剤の約10から約95重量%、より好ましくは約15から約90重量%のハイドロゲル形成高分子を含有することが好ましい。好ましくは、製剤は、製剤当たり70mg以上、より好ましくは100mg以上のハイドロゲル形成高分子を含有する。上述の量は、組成物が十分な徐放を達成するために、かなりの長時間にわたって消化管内での浸食に耐え得るものである。
【0043】
上記のハイドロゲル形成高分子は、単独あるいは二種類以上の上記ハイドロゲル形成高分子を混合して用いてもよい。
【0044】
好ましくは、特定の組み合わせ及び高分子賦形剤の割合により、胃及び小腸いずれの条件においてもpH非依存的に放出速度を最も遅くすることができる。最適な組み合わせ及び比率は、特定の活性物質及びその含有率に依存して変化し得る。
【0045】
好ましい賦形剤の組み合わせには、PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン、PAA(ポリアクリル酸)/硫酸デキストランを含む。好ましくは、高分子の比率は1:0.5、1:1あるいは1:5、最も好ましくは1:1.5である。
【0046】
好ましい賦形剤の組み合わせには、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン/PEO(ポリエチレンオキサイド)も含む。好ましくは、PAA(ポリアクリル酸)とカラギーナンの比率は、1:0.5、1:1あるいは1:5であり、最も好ましくは、1:1.5である。好ましくは、カラギーナンを加えたPAA(ポリアクリル酸)とポリエチレンオキサイドの比率は、1:0.5、1:1あるいは1:2であり、最も好ましくは、1:1.5である。
【0047】
ヒトにおいて消化管上部と同様に消化管下部においても薬物徐放を達成するために、製剤は少なくとも投与後2時間でゲル化し、さらに錠剤は消化管下部へ移動する間に浸食され、その結果、放出される。
【0048】
本発明で用いる"組成物のゲル化率"という用語は、一旦圧縮成形した錠剤を一定時間浸漬した際にゲル化した錠剤の割合を意味し、以下に示すゲル化率の測定法(試験例2参照)により決定される。製剤は消化管上部に留まっている時に吸水する。その結果、ほとんど完全にゲル化(すなわち、ゲル化率が70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)し、製剤表面が次第に浸食され薬物を放出しながら、消化管下部に移動するために、薬物は持続的かつ完全に放出され、吸収される。その結果、水がほとんど存在しない消化管下部においても徐放が達成される。特に、ゲル化率が約70%未満の時には、十分な薬物放出が得られず、薬物の生物学的利用能の低下が起こる可能性がある(EPNo. 1,205,190A1)。
【0049】
本発明中の"消化管上部"という用語は、胃から十二指腸、空腸を、"消化管下部"という用語は、回腸から結腸を意味する。
【0050】
組成物は、より高いゲル化率を達成するために親水性基剤を含有することもできる。上述したハイドロゲル形成高分子物質がゲル化する前に溶解する限り、親水性基剤に特に制限はない。例えば、この親水性基剤1gを溶解させるのに必要な水の量は好ましくは5mL以下(20 ± 5℃)であり、より好ましくは4mL以下(同条件下)である。
【0051】
この親水性基剤の例には、ポリエチレングリコール(例えば、いずれも日本油脂社の商標名であるマクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000)、ポリビニルピロリドン(例えば、BASF社の商標名であるPVP(登録商標)K30)、D-ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール、スクロース、マルトース、ラクチュロース、D-フルクトース、デキストラン(例えば、デキストラン40)、グルコースなどのサッカライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、BASF社製のクレモファー(登録商標)RH40、日光ケミカル社製のHCO-40、HCO-60)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(例えば、旭電化工業社の商標名であるPluronic(登録商標)F68)などの界面活性剤のような水溶性高分子を含む。ポリエチレングリコール、スクロース及びラクチュロースが好ましく、ポリエチレングリコール(特に、マクロゴール6000)がさらに好ましい。上記の親水性基剤は単独、あるいは複数種類を混合して用いることもできる。
【0052】
本発明において親水性基剤を添加する時、用いる比率は、好ましくは、全製剤に対して約5から約80重量%、より好ましくは5から60重量%である。
【0053】
好ましい賦形剤の組み合わせには、PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)/PEG(ポリエチレングリコール)を含む。好ましくは、PAA(ポリアクリル酸)とPEO(ポリエチレンオキサイド)の比率は、1:0.5、1:1あるいは1:5である。より好ましくは、PEG(ポリエチレングリコール)の量は、全製剤に対して5重量%から60重量%である。
【0054】
好ましい賦形剤の組み合わせには、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン/PEO(ポリエチレンオキサイド)/PEG(ポリエチレングリコール)も含む。好ましくは、PAA(ポリアクリル酸)とカラギーナンの比率は、1:0.5、1:1あるいは1:5である。好ましくは、カラギーナンを加えたPAA(ポリアクリル酸)とPEO(ポリエチレンオキサイド)の比率は、1:0.5、1:1あるいは1:2である。より好ましくは、PEG(ポリエチレングリコール)の量は、全製剤の対して5重量%から60重量%である。
【0055】
組成物には、以下に限定されないが、ポリエチレンイミン、キトサン、臭化ポリビニルピリジニウム、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートを含む一つの正電荷を有する高分子あるいは、このような高分子の組み合わせを含有することもできる。
【0056】
高分子の粘度に依存して、高分子物質は活性成分を含有するマトリックスを形成することができる。例えば、1%水溶液の粘度が1000cps以上の粘度を示す高分子は、マトリックス形成能の点から特に好ましい。
【0057】
ミセル形成薬物の徐放は、本発明の経口投与組成物の方法により達成され得る。
【0058】
(II.他の錠剤改良)
本発明の錠剤マトリックスからの薬物放出の改良は、例えば、種々のコーティング、例えば、アンバライトIRP-69とのイオン交換複合体のような、あらゆる既知の方法により達成することもできる。本発明の錠剤は、胃腸の運動性を減少させる薬物を含有すること、あるいは共投与することもできる。活性物質は、生物学的に活性な化合物を化学修飾したプロドラッグを生成するように改良することもでき、このプロドラッグはinvivoにおいて酵素、あるいは加水分解などにより活性化合物を遊離する。補助層やコーティングは、薬物放出の速度やタイミングを制御する付加的な手段を提供する拡散バリアーとして役割を果たすことができる。
【0059】
(IV.組成物添加剤)
必要に応じて、本発明の製剤は、適量の他の製薬的に許容される賦形剤(例えば、乳糖、マンニトール、ジャガイモデンプン、小麦デンプン、米デンプン、トウモロコシデンプン及び結晶セルロース)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース及びアラビアガム)、膨潤剤(例えば、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースカルシウム)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、メタケイ酸アルミニウムマグネシウム、リン酸水素カルシウム、及び無水リン酸水素カルシウム)、流動化剤(例えば、含水シリカ、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル)、着色剤(例えば、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄)、界面活性剤(例えば、硫酸ラウリルナトリウム、脂肪酸スクロースエステル)、コーティング剤(例えば、ゼイン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース)、緩衝剤(例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、クエン酸、酒石酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、アスコルビン酸)、芳香剤(例えば、1−メントール、ペパーミントオイル、及びウイキョウオイル)、保存剤(例えば、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、p-安息香酸メチル、及び安息香酸エチル)のような添加剤を含有してもよい。
【0060】
(V.製造法)
本発明の製剤は、ある形状の固形製剤であり、あらゆる通常の製法により製造することができる。代表的な製造法には、例えば、圧縮錠剤製造法を含む。これらの製造法は、混合及び、必要に応じて活性物質と電荷を有する高分子、及び必要に応じて別の添加剤との造粒、及びこれら成分/組成の圧縮成形を含む。別の製造法には、例えば、カプセル圧縮充填法、混合物を溶融させそれを流し込むことにより成形処理を施す押出成形法、射出成形法及びその他同様な方法を含む。また、例えば、糖コーティングのようなあらゆるコーティング処理を施してもよい。
【0061】
以下の実施例を例示するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
(試験法1)
この試験法は、本発明の基本的な製剤の製造法及び薬物放出の測定について説明する。
【0063】
各種薬物を含有するいくつかの組成物を製造した。薬物は乳鉢の中で賦形剤とともに手動で混合し、カルバープレスまたはオイルプレスを用い、1000ポンドの打錠圧で400mgの錠剤に圧縮成形した。11mmの円形平杵を使用した。
【0064】
(使用物質)
カーボポール971(BFGoodrich);ポリオックス303(ユニオンカーバイト);二種類のカラギーナン、ビスカリン(登録商標) 109及びゲルカリン(FMC);サンチュラルTM180 (Monsanto Pharmaceutical Ingredients)、キサンタンガムであるケルトン(登録商標) LVCR (MonsantoPharmaceutical Ingredients)、アルギン酸ナトリウムキトサン(M. W. International, Inc.);マクロゴール6000(日本油脂);メトセルK100M(ダウケミカル);ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);ガムセルロース12M31P TP(ヘラクレス);カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム;及び硫酸デキストラン(シグマ)。
【0065】
(方法)
in vitro薬物放出はinvitro溶出試験により測定した。これらの実験はアメリカ薬局方第2法、パドル回転速度100rpm、1000mLの試験液を用い、実施例1から10を実施した。薬物放出は、アメリカ薬局方に従い調製した、いずれも酵素非添加でり、pH1.2の人工胃液(SGF)、またはpH7.5の人工腸液(SIF)を用いて評価した。シンカーは全ての実験で用いた。予め決められた間隔で、サンプルを容器より採取し、波長240nmの紫外−可視吸収分光計により定量した。
【0066】
(実施例1)
この実施例は、薬物放出速度は薬物溶解度と相関せず、特異的相互作用がその放出速度に影響を及ぼすことを説明している。
【0067】
多くの塩基性易水溶性薬物(10 wt. % of drug)について、添加剤としてポリアクリル酸/ポリエチレンオキサイド(PAA/PEO)比率が1:1.5からなる混合物を直接打錠したマトリックス錠剤からの放出挙動を改変した人工腸液条件下で検討した。放出速度は(50%の薬物がマトリックスから溶液に放出されるまでの時間)T50により評価した(図1)。薬物特性と放出速度をまとめた試験結果を表1に示す。
【0068】
同様な電荷を有する薬物は、改変したSIF中において有意に異なる放出挙動を示し、薬物溶解度と相関性を示さない(図1、表1)。従い、単純な静電的相互作用単独により、水溶性薬物が徐放するのではないと結論づけることができる。
【0069】
(実施例2)
この実施例は、薬物のlog Pが本発明の組成物により徐放が達成されるかを予測するのに利用でき得ることを説明している。log Pの特性に基づき薬物放出挙動を予測でき得ることは、本発明の重要な利点の一つである。
【0070】
薬物が特定の多価電解質に結合する能力は、その臨界ミセル濃度(CMC)に依存する。しかしながら、CMC値はまれにしか薬物に利用できないため、放出速度を一般的な薬物の特徴に用いられる薬物物性と関係づける試みがなされた。上述した放出実験に用いられた薬物について(表1)、分子量、溶解度、PKa、logP、log D及び表面張力などの各種パラメーターを放出時間との相関性の観点から分析した。(非解離型薬物のオクタノール/水分配係数である)log PがT50とほぼ直線関係を示すことが明らかとなった(図2)。logPはCMCと密接な相関を示した。実際、log PとCMCの間に直線関係が成立した(図3)。各種薬物のlog PとCMC値はAttwoodの出版物から引用した。
【0071】
【表1】

(実施例3)
この実施例は、PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)の比率が1:1.5の添加剤混合物を用いることにより、恒久的な正電荷を有する分子の徐放が達成できることを説明している。
【0072】
以下の正電荷物質、すなわち一価の正電荷を持つ塩化ベンゼトニウム及び塩化ベタネコール、二価の正電荷を持つ硝酸チアミン及び塩酸チアミン、双極子であるベタインについて試験した(図4)。
【0073】
塩酸チアミンは若干早い放出を示したけれども、全ての薬物は異なる放出速度の徐放を示した(表2)。これらの結果は、薬物が強力な疎水性基を有していない場合においても、薬物が恒久的に正電荷を有している限り、電荷を有している高分子添加剤と特異的相互作用が可能であることを実証している(塩化ベタネコールの例を参照)。これに対して、薬物構造及び電荷の配置は、高分子添加剤との相互作用の程度に重要な役割を果たす(塩酸チアミン参照)。チアミン分子は、その中央部分に電荷が配置すること(図4)により、ミセル形成に影響を及ぼしているのかもしれない。
【0074】
(実施例4)
この実施例は、反対電荷を有する薬物と高分子添加剤が薬物徐放に重要であることを説明している。図5に示すように、易水溶性の負電荷薬物であるセファゾリンナトリウム及びセフメタゾールナトリウムは、負電荷を帯びているPAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)マトリックスから拡散により抜け、徐放を達成することなく、そのT50は約5時間である。
【0075】
(実施例5)
この実施例は、PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)の比率が1:1.5のマトリックスからの薬物放出に及ぼす液環境の影響について説明している。実施例1-4に記載の初期実験は、ポリアクリル酸がイオン化する人工腸液(SIF)中にて行った。胃環境下における放出速度論を評価するために、各種の水溶性薬物の溶出を改変した人工胃液(SGF)中において実施した。表3は各種薬物のSGF及びSIF中におけるT50値について比較する。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

表3に示すように、人工腸液中における放出時間は、人工胃液中よりも有意に長い。明らかなように、低pHの液中において、PAA(ポリアクリル酸)のイオン化の大部分は抑制される。これにより、PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)と薬物間の協力的な結合の形成が妨げられるかもしれない。人工胃液中における短い放出時間の他の考えられる理由として、低pH条件において、PEO(ポリエチレンオキサイド)の負に帯電した酸素原子とPAA(ポリアクリル酸)のカルボキシル基間の水素結合により高分子複合体が形成され、これによりカルボキシル基と薬物との相互作用が妨害されることが挙げられる。
【0078】
(実施例6)
この実施例は、SGF(人工胃液)及びSIF(人工腸液)の両条件において、徐放を提供する高分子添加剤の組み合わせについて説明している。
【0079】
(複数の多糖類の評価)
25重量%の塩酸ジルチアゼム(DI)を含有し、PAA(ポリアクリル酸)と組み合わせた七種類の多糖類(カラギーナン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、キトサン、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、CMC-Na(カルボキシメチルセルロースナトリウム))について、薬物放出速度を試験した(図6)。PAA(ポリアクリル酸)とカラギーナンを組み合わせることにより、SGF(人工胃液中)において最も遅い薬物放出を提供する結果が示された。この効果はおそらく、低pHにおいても負電荷を有し、カラギーナンと薬物間の相互作用を可能にするカラギーナン官能基(-SO4-)の強酸性のためと思われる。
【0080】
(他の硫酸系高分子の評価)
異なるタイプのカラギーナンと同様に硫酸デキストランについて、PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)比率1:1及び塩酸ジルチアゼム(25重量%)と組み合わせて用い、その放出速度をSGF(人工胃液)及びSIF(人工腸液)中において測定した。硫酸系高分子を含有する全ての組み合わせについて徐放が観察された(図7)。
【0081】
(PAA(ポリアクリル酸)をPEO(ポリエチレンオキサイド)に置換する効果のさらなる解析)
PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン(1:1)組成物中のPAA(ポリアクリル酸)を高分子量のPEO(ポリエチレンオキサイド)にて置換する時、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン(1:1)とPEO(ポリエチレンオキサイド)/カラギーナン(1:1)組成物のSGF(人工胃液)中における放出挙動は、約6時間にわたり重なる(図8,a)。この後、PEO(ポリエチレンオキサイド)/カラギーナンマトリックスの速い浸食により、速やかな薬物放出がおこる。これに対して、SIF(人工腸液)中においては、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン組成物がPEO(ポリエチレンオキサイド)/カラギーナン組成物よりも全時間にわたり遅い薬物放出を示す(図8,b)。従い、PAA(ポリアクリル酸)とカラギーナンの組み合わせは、SGF(人工胃液)及びSIF(人工腸液)の両方において最も良好なin vitro薬物放出特性を提供することができる。
【0082】
(SIF(人工腸液)及びSGF(人工胃液)中におけるPAA(ポリアクリル酸)/カラギーナンの放出速度比較)
図9は、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン(1:1)マトリックスからの塩酸ジルチアゼム(25重量%)の放出は、SGF(人工胃液)及びSIF(人工腸液)の両方において直線的であること、及び両液における放出速度が一致することを説明している。試験液を2時間後に取り替えた試料の溶出試験は、図9の挙動に非常に近似した直線的な放出挙動であった。
【0083】
(実施例7)
この実施例は、最適な高分子添加剤組成が試験液依存性であることを説明している(図10)。
【0084】
25重量%の塩酸ジルチアゼムを含有する組成物について、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン比が1:1の組成がSGF(人工胃液)中における最も遅い放出速度を達成した。人工腸液中における放出速度は、組成物中のPAA(ポリアクリル酸)含量の増大に伴い減少した。
【0085】
興味深いことに、高用量の塩酸ジルチアゼム(60重量%)を含む各種最適な組成が観察された。SGF(人工胃液)中においては、カラギーナン含量の増大に伴い薬物放出速度は減少し、SIF(人工腸液)中における放出速度は、添加剤比率にほぼ非依存的であった(図11)。
【0086】
これらの観察に基づき、放出挙動は、異なる試験液中における薬物/添加剤複合体の化学量論によりほぼ支配されると考えられる。
【0087】
(実施例8)
この実施例は、薬物含量を60重量%まで増大させる範囲において、薬物含量はSIF(人工腸液)中における放出速度にほとんど影響を及ぼさないことを説明している。薬物含量を50重量%まで増大させる範囲において、SGF(人工胃液)中における放出速度の増大は比較的小さい(図12)。
【0088】
(実施例9)
この実施例は、本発明の組成物が薬物徐放に優れていることを説明している。
【0089】
PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン(1:1)マトリックスからの塩酸ジルチアゼム(25%)の放出を、PAA(ポリアクリル酸)及びカラギーナンを含有する既知の組成物と比較した(Bonferoni et al., AAPS Pharm. Sci. Tech, 1(2) article 15 (2000); Bubnis etal., Proceed. Int'l. Symp. Control. Rel. Bioact. Mater., 25, p. 820 (1998);Devi et al., Pharm. Res., v.6, No 4, 313-317 (1989); Randa Rao et al., J.Contr. Rel., 12, 133-141 (1990); Baveja et al., Int. J. Pharm., 39, 39-45(1987); Stockwel et al., J. Contr. Rel. 3, 167-175 (1986); Perez-Marcos et al.,J. Pharm. Sci., v.85, No. 3 (1996); Perez-Marcos et al., Int. J. Pharm. 111,251-259 (1994); Dabbagh et al., Pharm. Dev. Tech., 4(3), 313-324 (1999);Bonferoni et al., J. Contr. Rel. 25, 119-127 (1993); Bonferoni et al., J.Contr. Rel. 30, 175-182 (1994); Bonferoni et al., J. Contr. Rel. 51, 231-239(1998); US Patent 4,777,033; EU Patent 0 205 336 B1)。
【0090】
文献に記載されているカラギーナン含有系は、カラギーナン/HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、及びカラギーナン/CMC(カルボキシメチルセルロース)を含む。全てのマトリックスは、ビスカリン109/第二の高分子(1:1)を混合したマトリックスと同様の方法で調製した。PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン(1:1)マトリックスからなる組成物は、SGF(人工胃液)及びSIF(人工腸液)のいずれにおいても有意に遅い塩酸ジルチアゼムの放出を示した(図13)。
【0091】
PAA(ポリアクリル酸)/HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)による徐放は、既に報告されている(USPatent 4,777,033; EU Patent 0 205 336 B1)。
【0092】
全ての製剤は、SIF(人工腸液)中においてT50が20時間以上の徐放を示したけれども、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン(1:1及び3:2)マトリックスからなる組成物は、SGF(人工胃液)中において、対照であるPAA(ポリアクリル酸)/HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)よりも有意に遅い塩酸ジルチアゼムの放出を示した(図14)。
【0093】
組成物中の薬物含量を60重量%まで増大させても、全ての他の競合系と比較して、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン系は最も遅い放出速度を維持する(図15)。
【0094】
(実施例10)
この実施例は、最初の組成物(PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド))及びPAA(ポリアクリル酸)/カラギーナンからなる新規組成物からの各種薬物の放出速度を比較している。
【0095】
PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)マトリックスと相互作用することが明らかとなっている種々の薬物の放出速度を、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン(1:1)マトリックスからの放出速度と比較した。ほとんどの薬物は、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナンマトリックスから0次放出に近い徐放を示した。全ての薬物ではないが、大体、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナンマトリックスからの薬物放出は、PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)マトリックスからの放出速度と比較して、SGF(人工胃液)及びSIF(人工腸液)中いずれにおいても遅延した。
【0096】
例証するために、以下の表4にSIF(人工腸液)中におけるT50値(放出時間)を示す。本研究において、PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)(1:1.5)組成物は10%の活性物質を、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン(1:1)は25%の活性物質を包含させた。
【0097】
【表4】

(試験法2)
(溶出試験)
in vitro薬物放出はinvitro溶出試験により測定した。これらの実験は日本薬局方第14改正(以降、日局とする)溶出試験第2法(パドル法)、パドル回転速度200rpm、900mLの試験液を用いて実施した。薬物放出は、pH1.2の日局崩壊試験第1液(以降、日局第1液とする)、あるいは、pH6.8の日局崩壊試験第2液(以降、日局第2液とする)を用いて評価した。シンカーは全ての実験で使用しなかった。予め決められた間隔で、サンプルを容器より採取し、波長250nmの紫外−可視吸収分光計を用いて定量した。
【0098】
(ゲル化試験)
日局第1液及び日局第2液を用いて、以下のようにゲル化試験を行った。試験錠剤を37℃の試験液に二時間浸漬させ、ゲル層を取り除き、ゲルを形成していないコア部分を取り出し、その後乾燥機にて5日間40℃で乾燥し、乾燥したコアの重量を測定した(Wobs)。組成物のゲル化率は式1より算出する。初期の錠剤重量(Winitial)からコア重量を減じた値を初期錠剤重量で除し、ゲル化率(G)を算出するために100倍した。
【0099】
ここで用いる"ゲル化率"はゲル化した錠剤部分の割合を表す。ゲル化率の算出方法は、特に制限しないが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0100】
即ち、試験錠剤を予め決められた時間浸漬させ、ゲルを形成していない部分の体積(あるいは重量)を測定し、その結果を試験開始前の錠剤体積(あるいは重量)から減じる。
【0101】
ゲル化率(G,%)=(1-(Wobs−Winitial))×100 (式1)
obs: 試験開始後のゲル化していない部分の重量
initial:試験開始前の製剤重量 (実施例11)
この実施例は、薬物放出挙動に及ぼすミセル形成薬物と反対電荷を有するポリマー添加量の影響について説明している。
【0102】
50重量%の塩酸ジルチアゼムを含有し、異なる量のPAA(ポリアクリル酸)をPEO(ポリエチレンオキサイド)/PEG(ポリエチレングリコール)(1:1)混合物と1:0(全重量に対してポリアクリル酸は50重量%)、1:1(全重量に対してポリアクリル酸は25重量%)、3:1(全重量に対してポリアクリル酸は37.5重量%)、1:3(全重量に対してポリアクリル酸は12.5重量%)または1:9(全重量に対してポリアクリル酸は5重量%)の比率で組み合わせて用いた。50重量%の塩酸ジルチアゼムを含有し、PAA(ポリアクリル酸)を含まずポリエチレンオキサイド/ポリエチレングリコール(1:1)からなる組成物を対照として調製した。試験法2に記載した方法に従い、日局第2液中における薬物放出速度を評価した(図16)。全製剤に対して5重量%というような少量のPAA(ポリアクリル酸)を含有する場合においても、PAA(ポリアクリル酸)を含有する全ての製剤において薬物徐放が達成された。結果から、ポリエチレンオキサイド/ポリエチレングリコール(1:1)混合物の代わりに、PAA(ポリアクリル酸)量を増大させるにつれて薬物放出速度は減少することも明らかとなった。
【0103】
薬物放出挙動に及ぼすPAA(ポリアクリル酸)とカラギーナン混合物の添加量の影響についても検討した。PAA(ポリアクリル酸)とカラギーナン、及びポリエチレンオキサイドとポリエチレングリコールの比率はぞれぞれ1:1に固定した。50重量%の塩酸ジルチアゼムを含有し、異なる量のPAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン(1:1)をPEO(ポリエチレンオキサイド)/PEG(ポリエチレングリコール)(1:1)混合物と1:0(全重量に対してPAA(ポリアクリル酸)及びカラギーナンはそれぞれ25重量%、25重量%)、3:1(全重量に対してPAA(ポリアクリル酸)及びカラギーナンはそれぞれ18.75重量%、18.75重量%)、1:1(全重量に対してPAA(ポリアクリル酸)及びカラギーナンはそれぞれ12.5重量%、12.5重量%)または1:3(全重量に対してPAA(ポリアクリル酸)及びカラギーナンはそれぞれ6.25重量%、6.25重量%の比率で組み合わせて用いた(図17)。
【0104】
塩酸ジルチアゼムを50重量%含有し、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナンを含まないPEO(ポリエチレンオキサイド)/PEG(ポリエチレングリコール)比が1:1からなる組成物を対照として調製した。また、その結果から、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン混合物の添加量が増大するにつれて薬物放出速度は減少することが判明した。従い、薬物放出速度は、ミセル形成薬物と反対電荷を有するポリマーの添加量を変化させることにより制御することができる。
【0105】
(実施例12)
この実施例は、本発明の組成物がゲル化に優れていることを説明している。
【0106】
塩酸ジルチアゼムを50重量%含有し、PAA(ポリアクリル酸)/カラギーナン/PEO(ポリエチレンオキサイド)/PEG(ポリエチレングリコール)の比が、1:1:0:0、1:1:1:1または1:1:3:3からなる製剤のゲル化試験を試験法2に記載の方法に従い実施した。これらの組成物の日局第1液中におけるゲル化率は、それぞれ75.0%、80.8%及び80.7%であった。
【0107】
PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)/PEG(ポリエチレングリコール)の比が1:9:9からなる製剤の場合、日局第1液及び日局第2液中におけるゲル化率は、それぞれ78.0%及び76.9%であった。
【0108】
(試験法3)
(ビーグル犬における薬物動態試験)
体重9.3から13.4kgの9頭の雄性ビーグル犬を投与前18時間絶食させた。塩酸ジルチアゼム200mgを含有する試験錠剤を水30mLと共に経口投与後、水は自由摂取としたが、最終採血終了までは食事を与えなかった。投与後0.5、1、2、3、4、6、8、10、12及び24時間に血液を採取した。その後、遠心により血漿を分離し、紫外検出による高速液体クロマトグラフィーでの定量分析に用いた。
【0109】
(実施例13)
この実施例は、invivoにおける薬物徐放に及ぼす製剤のゲル化率の影響について説明している。
【0110】
塩酸ジルチアゼム200mgを含有し、PAA(ポリアクリル酸)/PEO(ポリエチレンオキサイド)/PEG(ポリエチレングリコール)量の異なる二つの製剤(日局第1液におけるゲル化率、製剤A:63.4%、製剤B:77.6%)をビーグル犬における薬物動態学試験に使用した。製剤Aは消化管下部においてほとんど薬物を放出しなかったが、製剤Bは消化管上部と同様に消化管下部においても薬物徐放を示すことが明らかとなった。
【0111】
二つの製剤間のinvivo薬物放出を詳細に比較するために、0から24時間までの血漿中薬物濃度曲線下面積(AUC)をin vivoにおける薬物吸収量の関数として算出した。製剤BのAUC(7541.2± 2153.7 ng h/mL)は、製剤AのAUC(4346.1 ± 1811.6 ng h/mL)よりも有意に大きく、従い、低いゲル化率を示す製剤のinvivoにおける薬物放出は不完全であることが確認された。
【0112】
本明細書に記載のすべての刊行物、特許及び特許出願は参考として、全ての目的のためこの中にそのままの形で明細書に示す。発明は好ましい実施形態及び実施例を参照して記載しているが、本発明の目的はこれら記載の態様にのみ制限されない。当該技術の当業者には当然明らかなように、本発明の精神及び目的から外れることなく、上記記載の発明に対して改良及び適応が実施され得る、従い、付記した請求項により定義及び制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)生理的pHにおいて正電荷または負電荷を有する水溶性ミセル形成薬物、
(II)ポリアクリル酸である、反対電荷を有する少なくとも一つの高分子、及び
(III)カラギーナン、または硫酸デキストラン、
を含有することを特徴とする、経口徐放性医薬組成物。
【請求項2】
前記ミセル形成薬物が塩基性薬物である、請求項1に記載の経口徐放性医薬組成物。
【請求項3】
前記ミセル形成薬物が抗うつ薬、アドレナリンβ 受容体拮抗剤、麻酔薬、抗ヒスタミン薬、フェノチアジン類、精神安定剤、抗菌剤、抗生物質、抗炎症薬、鎮痛剤、解熱薬及び利尿薬からなるグループより選択される、請求項1に記載の経口徐放性医薬組成物。
【請求項4】
前記高分子の少なくとも一つがポリアクリル酸である、請求項1に記載の経口徐放性医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
前記薬物が10重量%から75重量%、ポリアクリル酸が5から50重量%である、請求項1から4のいずれかに記載の経口徐放性医薬組成物。
【請求項6】
前記薬物が10重量%から75重量%、ポリアクリル酸が5から50重量%、及びカラギーナンまたは硫酸デキストランが5重量%から50重量%である、請求項1から5のいずれかに記載の経口徐放性医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−68700(P2011−68700A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4215(P2011−4215)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【分割の表示】特願2003−543543(P2003−543543)の分割
【原出願日】平成14年11月12日(2002.11.12)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】