説明

水生生物の吸入裁断装置

【課題】比較的コンパクトな構成でありながら、水と共に吸入した水生生物を一層小さく裁断することのできる吸入裁断装置を提供する。
【解決手段】一端に吸入口4aを有し他端に排出口4bを有する筒体4と、回転駆動源10と、筒体4の内部に配置されて筒体4の軸方向に延び第1インペラー21を装着してなる第1回転軸20と、第1回転軸20の外周に回転自在に外装され第2インペラー23を装着してなる第2回転軸22と、回転駆動源の出力軸12の回転動力を第1及び第2回転軸にそれぞれ伝達し、第1回転軸と第2回転軸を相互に反対方向に回転駆動させる動力伝達機構Tとを備える。出力軸が回転駆動するのに伴って相互に反対方向に回転する第1インペラーと第2インペラーとにより、水生生物を水と共に筒体の吸入口から吸入し、第1及び第2インペラーのそれぞれに設けられた刃部24により水生生物を裁断し、筒体4の排出口4bから排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋、河川又は湖沼にて水生生物が大量発生した際に、この水生生物を駆除するために用いる吸入裁断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に日本海沿岸における大型のクラゲ(例えば、エチゼンクラゲ)の大量発生が大きな問題となっている。すなわち、この種のクラゲが大量発生すると、定置網や底引網で魚を捕獲(水揚げ)するのと同時にクラゲが大量に捕獲され、その結果、魚網が破損したり、クラゲとの接触に伴って魚の商品価値が低下したりする可能性が格段に高まるからである。また、原子力発電所や火力発電所等で海水を冷却水として使用する場合においては、取水ポンプの詰まりが発生し易くなり、発電所等を安定的に操業する上での障害となる可能性がある。
【0003】
また、河川や湖沼においては、産業排水による富栄養化などの理由によって水生植物(例えば、オオカナダモやホテイアオイ)が異常繁殖する頻度が高まっており、これに伴う河川環境の悪化や、漁業の作業効率の低下が問題視されている。
【0004】
水生動物の一種であるクラゲを効率的に駆除し得る手段として、下記の特許文献1には、海面付近を浮遊するクラゲを海水とともに吸引して裁断(破砕)し、送出する吸引破砕ポンプと、この吸引破砕ポンプの吸込み口付近に向かう水流を水面下に生じさせる水流発生装置と、を主要部としたクラゲの除去装置が記載されている。また、下記の特許文献2には、一端に吸込み口を有し、他端に吐出口を有する筒状の外筐と、該外筐の内部に配設した油圧モータ、該モータにより回転駆動されるインペラー及び切断刃と、を備えたクラゲ排出駆除機が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載の除去装置によれば、水流をさかのぼるという魚の習性を利用して、クラゲと魚とを分離することができるため、魚を極力犠牲にすることなくクラゲのみを有効に吸引して破砕することができる。なお、クラゲが破砕されることにより生成される破砕片は、吸引破砕ポンプの排出口に接続された排出管から任意の場所に廃棄されるようになっている。また、特許文献2に記載の排出駆除機によれば、油圧モータが駆動されてインペラーが回転すると、海水と共に海面付近の大型クラゲが外筐内に吸引され、吸引された大型クラゲは、インペラーの前方位置に配設された切断刃で切断される。そのため、特許文献1に記載の駆除装置と同様に、魚を極力犠牲にすることなく、大型クラゲのみを有効に吸引,裁断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−296110号公報
【特許文献2】登録実用新案第3159837号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の排出駆除機は、水流発生装置を具備していない分、特許文献1に記載の除去装置に比べて装置構成を簡素化及びコンパクト化することができ、また、クラゲの駆除作業を能率的に行い得るという利点があるが、更なる改良の余地がある。一例を挙げると、クラゲを駆除するに際しては、クラゲの大小に関わらず、クラゲを極力小さく裁断することが望まれる。しかしながら、特許文献2に記載の排出駆除機では、この要請を十分に満足することができない場合がある。
【0008】
なお、海洋で大量発生した大型クラゲを駆除する場合のみならず、河川や湖沼等で異常繁殖した水生植物を駆除する場合にも同様の要請がある。
【0009】
そこで、本発明は、比較的コンパクトな構成でありながら、水と共に吸入した水生生物を一層小さく裁断した上で排出することができる吸入裁断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために創案された本願の第1発明に係る水生生物の吸入裁断装置は、一端に吸入口を有し、他端に排出口を有する筒体と、筒体の外部に配置され、筒体の壁部を貫通して筒体の内部に挿通された出力軸を有する回転駆動源と、筒体の内部に配置されて筒体の軸方向に延び、外周に第1インペラーを装着してなる第1回転軸と、第1回転軸の外周に回転自在に外装され、外周に第2インペラーを装着してなる第2回転軸と、回転駆動源の出力軸の回転動力を第1回転軸及び第2回転軸にそれぞれ伝達し、第1回転軸と第2回転軸を相互に反対方向に回転駆動させる動力伝達機構と、を備え、第1インペラーと第2インペラーは、それぞれ、翼部の少なくとも回転方向の前縁に刃部を有し、回転駆動源の出力軸が回転駆動するのに伴って相互に反対方向に回転する第1インペラーと第2インペラーとにより、水生生物を水と共に筒体の吸入口から吸入し、第1インペラー及び第2インペラーのそれぞれに設けられた刃部により水生生物を裁断し、筒体の排出口から排出するように構成されてなるものである。
【0011】
なお、本発明でいう「水生生物」には、海面下を浮遊するクラゲ等の水生動物の他、主に河川や湖沼の水面付近に繁殖しているオオカナダモやホテイアオイ等の水生植物が含まれる。
【0012】
上記のように、本願の第1発明に係る吸入裁断装置では、回転駆動源の出力軸が回転駆動すると、相互に反対方向に回転する第1インペラーと第2インペラーとにより、水と共に水生生物が筒体の吸入口から吸入され、吸入された水生生物は第1インペラー及び第2インペラーのそれぞれに設けられた刃部により裁断され、その後、筒体の排出口から排出される。すなわち、筒体の内部(内部通路上)に、回転方向の前縁に刃部を有する第1及び第2インペラーが配置されてなることから、筒体内に吸入された水生生物の裁断回数を増加させることができる分、水生生物を一層小さく裁断することができる。特に、第1インペラーと第2インペラーは相互に反対方向に回転することから、水生生物の裁断効率を向上することができ、一層小さな裁断片とすることも容易に達成される。また、第1インペラーと第2インペラー(第1回転軸と第2回転軸)は、単一の回転駆動源によって相互に反対方向に回転することから、装置の大型化を回避することができる。
【0013】
上記の目的は、本願の第2発明に係る水生生物の吸入裁断装置によっても達成される。すなわち、本願の第2発明に係る水生生物の吸入裁断装置は、一端に吸入口を有し、他端に排出口を有する筒体と、筒体の外部に配置され、筒体の壁部を貫通して筒体の内部に挿通された出力軸を有する回転駆動源と、筒体の内部に配置されて筒体の軸方向に延び、外周に第1インペラーを装着してなる第1回転軸と、第1回転軸の外周に回転自在に外装され、外周に第2インペラーを装着してなる第2回転軸と、回転駆動源の出力軸の回転動力を第1回転軸に伝達し、第1回転軸を回転駆動させる動力伝達機構と、を備え、第1インペラーと第2インペラーは、それぞれ、翼部の少なくとも回転方向の前縁に刃部を有し、回転駆動源の出力軸が回転駆動するのに伴って回転する第1インペラーにより、水生生物を水と共に筒体の吸入口から吸入すると共に、第2インペラーを第1インペラーとは反対方向に回転させ、第1インペラー及び第2インペラーのそれぞれに設けられた刃部により水生生物を裁断し、筒体の排出口から排出するように構成されてなるものである。
【0014】
上記した本願の第1発明に係る吸入裁断装置においては、第2インペラーが、回転駆動源の出力軸が回転駆動されるのに伴って第1インペラーとは反対方向に回転するのに対し、本願の第2発明に係る吸入裁断装置では、回転駆動源の出力軸が回転駆動されるのに伴って第1インペラーが回転することにより、さらに言えば、第1インペラーが回転するのに伴って、筒体内に、吸入口から排出口へ向かう水流が生じることにより第2インペラーが第1インペラーとは反対方向に回転する。このような構成の吸入裁断装置においても、本願の第1発明に係る吸入裁断装置と同様に、水生生物を効率的に裁断することができる。また、このような構成であれば、本願の第1発明に係る吸入裁断装置に比べ、動力伝達機構の構造を簡素化することができるという利点がある。
【0015】
本願発明に係る水生生物の吸入裁断装置は、浮力調整部材をさらに備えるものとすることができる。浮力調整部材としては、例えばバラストタンクを使用することができる。バラストタンクとは、内部空間に水等の液体を貯留可能な中空の筐体であって、内部空間の貯水量(内部空間への注水量)に応じて浮力を調整することができるものである。吸入裁断装置が浮力調整部材を備えることにより、吸入裁断装置の浸水量を任意に調整することが可能となるので、水生生物の生息(生存)位置に応じて駆除作業を適切に実行することができる。なお、浮力調整部材としては、上記のバラストタンクに替えて、若しくはこれと同時にいわゆる浮子を使用することも可能である。
【0016】
吸入裁断装置は、さらに、筒体を固定的に保持するための枠体を備えるものとすることもできる。このような枠体を備えていれば、当該吸入裁断装置の取り回し性や運搬性が向上する。また、枠体は、上記の浮力調整部材を取り付け固定するための部材として活用することもできる。
【0017】
上記構成において、回転駆動源は、油圧により駆動されるものとすることができる。漁船には、油圧ポンプが装備されている場合が多いため、回転駆動源が油圧により駆動されるものであれば、上記の油圧ポンプを流用して本願発明に係る吸入裁断装置を駆動させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上に示すように、本発明に係る水生生物の吸入裁断装置によれば、単一の回転駆動源しか有さない比較的コンパクトな構成でありながら、水と共に吸入した水生生物を一層小さく裁断した上で排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る水生生物の吸入裁断装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る吸入裁断装置の一部断面を含む概略側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る吸入裁断装置の概略正面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る吸入裁断装置の概略背面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る吸入裁断装置に対する浮子の装着態様を模式的に示す正面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る吸入裁断装置の一部断面を含む概略側面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る吸入裁断装置の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る水生生物の吸入裁断装置1の概略斜視図である。同図に示す吸入裁断装置1は、大量発生した大型のクラゲ(例えばエチゼンクラゲ)を駆除すべく海面付近で浮遊させた状態、あるいは海面下にその全体を水没させた状態で使用されるものであって、一端に吸入口4aを有し、他端に排出口4bを有する筒体4と、筒体4の外部(ここでは外部上方)に配置された回転駆動源10と、筒体4の内部に配設され、筒体4内にクラゲを吸入すると共に、吸入したクラゲを裁断(切断)する吸入裁断本体Aとを備えている。図示例の吸入裁断装置1において、筒体4は、複数の縦桟2a及び横桟2bを溶接等で適宜連結して構成された枠体2に固定的に保持されており、枠体2には、浮力調整部材としてのバラストタンクFが取り付け可能である(図5を参照)。
【0022】
図2〜図4に示すように、筒体4は、軸方向(図2においては紙面左右方向)で径一定の円筒部5と、円筒部5から離反するにつれて(装置1外部に向かって)徐々に拡径した円錐状の導入部6とで構成されている。円筒部5の軸方向略中間部には、円筒部5の壁部を貫通する貫通孔5aが設けられており、この貫通孔5aを閉塞するようにして断面略T字状の連結部材7が配設されている。連結部材7は、回転駆動源10を構成する出力軸12を挿通可能な筒状部材であり、その上端には、内周に回転駆動源10を収容してなる筒状の駆動源収容部13がボルト部材にて連結され、その下端には、吸入裁断本体Aの静止側がボルト部材にて連結されている。
【0023】
駆動源収容部13に収容されてなる回転駆動源10は、油圧モータ11と、油圧モータ11の回転軸に連結され、筒体4の内部に挿通されるようにして上下方向に延びた出力軸12とを主要部として構成される。出力軸12の一端及び他端(上端及び下端)は、転がり軸受により、静止側を構成する駆動源収容部13及び連結部材7に対して回転自在に支持されている(図2では、下端を支持する転がり軸受のみを示している)。図3に示すように、駆動源収容部13の上端部には、油圧モータ11の圧油供給ポート及び圧油排出ポートにそれぞれ繋がった油圧配管P1,P2が開口している。そのため、油圧モータ11を作動させるとき、言い換えると当該吸入裁断装置1を使用するときには、まず、図示外の油圧ポンプから延びた油圧配管を油圧配管P1,P2に接続する。
【0024】
吸入裁断本体Aは、可動側と静止側とを有し、可動側は、第1回転軸20及び第2回転軸22と、第1回転軸20の外周に装着された第1インペラー21と、第2回転軸22の外周に装着された第2インペラー23と、回転駆動源10の出力軸12の回転動力を第1及び第2回転軸20,22にそれぞれ伝達する動力伝達機構Tとを主要部として構成される。
【0025】
第1回転軸20は、筒体4の中心軸線に沿って延びるように配設されており、その先端部(相対的に吸入口4aに近接した側の端部)20a外周に第1インペラー21が装着されている。第1回転軸20の基端部(相対的に排出口4bに近接した側の端部)20bは、転がり軸受によって吸入裁断本体Aの静止側に対して回転自在に支持されている。第2回転軸22は、第1回転軸20の先端部20a側の外周に回転自在に外装され、その先端部22a外周に第2インペラー23が装着されている。従って、本実施形態では、第1インペラー21と第2インペラー23とが近接配置されている。なお、第2回転軸22の基端部22bは、以下で説明する動力伝達機構Tを構成する第3傘歯車27として機能する。
【0026】
動力伝達機構Tは、回転駆動源10の出力軸12の下端外周に嵌合固定されて出力軸12と一体回転する第1傘歯車25と、第1回転軸20の外周に嵌合固定されて第1回転軸20と一体回転可能で、回転駆動源10の出力軸12よりも排出口4b側で第1傘歯車25と噛合した第2傘歯車26と、第2回転軸22の基端部22bで構成され、回転駆動源10の出力軸12よりも吸入口4a側で第1傘歯車25と噛合した第3傘歯車27とで構成される。なお、傘歯車は、ベベルギアとも称される。動力伝達機構Tがこのような構成を具備していることにより、回転駆動源10の出力軸12が回転すると、その回転動力は、第1回転軸20と第2回転軸22を相互に反対方向に回転駆動させるようにして第1回転軸20及び第2回転軸22にそれぞれ伝達される。本実施形態では、図3に示す当該吸入裁断装置1を正面視した場合において、回転駆動源10の出力軸12が回転すると、第1回転軸20及びこれに装着された第1インペラー21が時計回りに回転し、第2回転軸22及びこれに装着された第2インペラー23が反時計回り(図4に示す当該吸入裁断装置1を背面視した場合においては時計回り)に回転する。
【0027】
第1インペラー21は、第1回転軸20に外嵌される円筒状のボス部21aと、ボス部21aの周方向複数箇所(本実施形態は4箇所。図3を参照)に等間隔で配設された翼部21bとを備えている。各翼部21bのうち、第1インペラー21の回転方向前方側の縁部(前縁)21cには、切断刃として機能する刃部24が設けられている。刃部24は、各翼部21bのうち、第1インペラー21の回転方向後方側の縁部や、外周縁部に設けることもできる。なお、第1インペラー21を構成する各翼部21bは、回転駆動源10が駆動されて第1回転軸20が回転駆動されたとき、海水を筒部4の内部に吸入し得る(吸入口4aから排出口4bへと向かう水流を生じさせ得る)ように、所定方向に傾斜し、かつ捩れている。
【0028】
また、第2インペラー23は、第2回転軸22に外嵌される円筒状のボス部23aと、ボス部23aの周方向複数箇所(本実施形態は4箇所。図4を参照)に等間隔で配設された翼部23bとを備えている。各翼部23bのうち、第2インペラー23の回転方向前方側の縁部(前縁)23cには、切断刃として機能する刃部24が設けられている。刃部24は、各翼部23bのうち、第2インペラー23の回転方向後方側の縁部や、外周縁部に設けることもできる。なお、第2インペラー23を構成する各翼部23bは、回転駆動源10が駆動されて第2回転軸22が回転駆動されたとき、海水を筒部4の内部に吸入し得る(吸入口4aから排出口4bに向かう水流を生じさせ得る)ように、所定方向に傾斜し、かつ捩れている。
【0029】
本発明に係る水生生物の吸入裁断装置1は、主に以上の構成を具備しており、例えば、以下のようにして使用される。ここでは、定置網の網上げ時に、魚網内に大型クラゲが大量に捕獲されたと仮定して説明する。
【0030】
まず、漁船に装備されている油圧ポンプから延びた油圧配管を、油圧配管(の開口部)P1,P2に接続する。なお、筒体4の排出口4bには、必要に応じて排出管を接続することができる。排出管は、大型クラゲの裁断片を遠方(例えば魚網外)に排出したい場合に用いれば良い。次いで、図示外のクレーン装置を用いて、筒体4の全体が水没する程度に吸入裁断装置1を魚網内の所定位置に投入する。
【0031】
吸入裁断装置1を魚網内の所定位置に投入した後、油圧ポンプを駆動して油圧モータ11との間で圧油を行き来させ、出力軸12を回転駆動させる。出力軸12が回転駆動すると、その回転動力が動力伝達機構Tを介して第1及び第2回転軸20,22にそれぞれ伝達され、第1回転軸20と第2回転軸22とが相互に反対方向に回転駆動される。これに伴い、第1インペラー21と第2インペラー23とが相互に反対方向に回転し、魚網内で海面付近に浮遊している大型クラゲが海水と共に筒体4の吸入口4aから筒体4の内部に吸入される。吸入された大型クラゲは、海水と共に筒体の内部通路を上流側(吸入口4a側)から下流側(排出口4b側)に向かって流通し、流通する最中に第1インペラー21の翼部21b及び第2インペラー23の翼部23bのそれぞれに設けられた刃部24により小さく裁断され、その後、筒体4の排出口4bから外部に排出される。
【0032】
このように、本発明に係る吸入裁断装置1では、筒体4の内部通路上に、回転方向の前縁に刃部24を有する第1及び第2インペラー21,23が配置されており、筒体4内に吸入された大型クラゲの裁断回数を増加させることができる分、従来品に比べて大型クラゲを小さく裁断することができる。特に、第1インペラー21と第2インペラー23は相互に反対方向に回転し、さらに本実施形態では両者が近接配置されていることから、吸入口4aを介して筒体4内に吸入された大型クラゲが排出口4b側に所定量移送されると、この大型クラゲは、相互に反対方向に回転する第1インペラー21及び第2インペラー23の刃部24で同時に裁断される。そのため、大型クラゲの裁断効率を向上することができ、一層小さな裁断片とすることも容易に達成される。また、第1インペラー21と第2インペラー23(第1回転軸20と第2回転軸22)は、単一の回転駆動源10(油圧モータ11)によって相互に反対方向に回転することから、装置全体の大型化を回避することができる。
【0033】
なお、以上で示した吸入裁断装置1の枠体2には、浮力調整部材としてのバラストタンクFを取り付け固定することができる。バラストタンクFとは、内部空間に水を貯留可能な中空の筐体であって、内部空間への注水量に応じて、これを取り付けた部材に作用する浮力の大小を調整することができる部材である。従って、バラストタンクF,Fを取り付け固定しておけば、吸入裁断装置1の浸水量を任意に調整することができる。これにより、水生生物の深さ方向での生息(存在)位置に応じた吸入裁断装置1の位置調整を適切に行うことが、すなわち水生生物の駆除作業を適切に実行することができる。
【0034】
図5に、バラストタンクFの取り付け態様の一例を示す。図3及び図4にも示しているように、吸入裁断装置1を構成する枠体2のうち、吸入裁断装置1の筒体4の軸方向と直交する方向に延びる横桟2b(枠体2の底部を構成するものは除く)には、バラストタンクFの固定用ブラケットとしてのL型アングル3が取り付け固定されている。そして、吸入裁断装置1の幅方向外側から幅方向内側に向けて対称形状のバラストタンクF,Fを押し込み、L型アングル3の孔部3aとバラストタンクFの孔部Faの位置合わせを行った後(図5中、先端矢印の二点鎖線で示す)、L型アングル3とバラストタンクFとを図示外のボルト部材等で共締めすることにより、吸入裁断装置1の枠体2にバラストタンクFが取り付け固定される。両バラストタンクF,Fには、筒体4や駆動源収容部13との干渉を回避するための逃げ部が設けられている。
【0035】
なお、図5に示すバラストタンクFの取り付け態様はあくまでも一例に過ぎない。図5では、吸入裁断装置1の幅方向外側から二つのバラストタンクF,Fを取り付けるようにしたが、例えば、吸入裁断装置1の上側及び下側から二つのバラストタンクを取り付けるようにすることもできるし、三つ以上(例えば四つ)に分割されたバラストタンクを取り付けるようにすることもできる。
【0036】
図6は、本発明の他の実施形態に係る吸入裁断装置1の概略側面図(一部断面図を含む)である。同図に示す吸入裁断装置1が、図2に示すものと異なる主な点は、回転駆動源10の出力軸12の回転動力が第1回転軸20にのみ伝達され、第1回転軸20の外周に回転自在に外装された第2回転軸22には伝達されないようになっている点にある。すなわち、この実施形態においては、動力伝達機構T’が、回転駆動源10の出力軸12の下端外周に嵌合固定されて出力軸12と一体回転する第1傘歯車25と、第1回転軸20の外周に嵌合固定されて第1回転軸20と一体回転可能で、回転駆動源10の出力軸12よりも排出口4b側で第1傘歯車25と噛合した第2傘歯車26とで構成されている。また、外周に第2インペラー23を装着した第2回転軸22は、第1回転軸20の外径側に配置された転がり軸受の外輪で構成されており、当該転がり軸受の内輪は、第1回転軸20の外径側に配設されて吸入裁断本体Aの静止側で構成されている。従って、第2回転軸22はフリーに回転可能とされている。
【0037】
そして、この実施形態に係る吸入裁断装置1では、回転駆動源10の出力軸12が回転駆動されるのに伴って第1インペラー21が回転し、筒体4内に、吸入口4aから排出口4bへ向かう水流が生じることによって第2インペラー23が第1インペラー21とは反対方向に回転する。このような構成の吸入裁断装置1においても、図2に示した吸入裁断装置1と同様に、大型クラゲを効率的に裁断することができる。また、このような構成であれば、図2に示した吸入裁断装置1に比べ、動力伝達機構T’の構造、ひいては装置1全体の構造を簡素化することができるという利点がある。逆に、図2に示した吸入裁断装置1では、第2インペラー23を装着した第2回転軸22が回転駆動源10の出力軸12の回転動力によって回転駆動されることから、図6に示した吸入裁断装置1に比べて裁断力を高め得る。
【0038】
なお、図6においては図示を省略しているが、この実施形態の吸入裁断装置1にも、図5あるいは図7に示す態様で浮力調整部材としてのバラストタンクFを取り付け固定可能であることは言うまでもない。
【0039】
図7は、本発明の他の実施形態に係る吸入裁断装置1の概略正面図である。この実施形態は、上記した実施形態とは浮力調整部材としてのバラストタンクFの取り付け態様が異なっている。すなわち、上記した実施形態では筒体4等を固定的に保持するための枠体2の内方にバラストタンクFを取り付け固定したが、この実施形態では枠体2を廃し、吸入裁断装置1(駆動源収容部13)の幅方向両側にバラストタンクF,Fを高さ調整可能に配設している。このようにすれば、バラストタンクF,F内への注水量のみならず、バラストタンクF,Fの取り付け位置(高さ位置)に応じて吸入裁断装置1の浸水量を任意に調整することが可能となる。
【0040】
以上で説明した吸入裁断装置1は、海洋で大量発生した大型クラゲを駆除する場合にのみ使用可能なわけではなく、主に河川や湖沼で異常繁殖した水生植物を駆除する場合にも好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 (水生生物の)吸入裁断装置
2 枠体
3 L型アングル
4 筒体
4a 吸入口
4b 排出口
10 回転駆動源
11 油圧モータ
12 出力軸
20 第1回転軸
21 第1インペラー
21b (第1インペラーの)翼部
22 第2回転軸
23 第2インペラー
23b (第2インペラーの)翼部
24 刃部
A 吸入裁断本体
F バラストタンク(浮力調整部材)
T、T’ 動力伝達機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に吸入口を有し、他端に排出口を有する筒体と、
前記筒体の外部に配置され、前記筒体の壁部を貫通して前記筒体の内部に挿通された出力軸を有する回転駆動源と、
前記筒体の内部に配置されて前記筒体の軸方向に延び、外周に第1インペラーを装着してなる第1回転軸と、
前記第1回転軸の外周に回転自在に外装され、外周に第2インペラーを装着してなる第2回転軸と、
前記回転駆動源の出力軸の回転動力を前記第1回転軸及び前記第2回転軸にそれぞれ伝達し、前記第1回転軸と前記第2回転軸を相互に反対方向に回転駆動させる動力伝達機構と、を備え、
前記第1インペラーと前記第2インペラーは、それぞれ、翼部の少なくとも回転方向の前縁に刃部を有し、
前記回転駆動源の出力軸が回転駆動するのに伴って相互に反対方向に回転する前記第1インペラーと前記第2インペラーとにより、水生生物を水と共に前記筒体の吸入口から吸入し、前記第1インペラー及び前記第2インペラーのそれぞれに設けられた刃部により前記水生生物を裁断し、前記筒体の排出口から排出するように構成されてなる水生生物の吸入裁断装置。
【請求項2】
一端に吸入口を有し、他端に排出口を有する筒体と、
前記筒体の外部に配置され、前記筒体の壁部を貫通して前記筒体の内部に挿通された出力軸を有する回転駆動源と、
前記筒体の内部に配置されて前記筒体の軸方向に延び、外周に第1インペラーを装着してなる第1回転軸と、
前記第1回転軸の外周に回転自在に外装され、外周に第2インペラーを装着してなる第2回転軸と、
前記回転駆動源の出力軸の回転動力を前記第1回転軸に伝達し、前記第1回転軸を回転駆動させる動力伝達機構と、を備え、
前記第1インペラーと前記第2インペラーは、それぞれ、翼部の少なくとも回転方向の前縁に刃部を有し、
前記回転駆動源の出力軸が回転駆動するのに伴って回転する前記第1インペラーにより、水生生物を水と共に前記筒体の吸入口から吸入すると共に、前記第2インペラーを前記第1インペラーとは反対方向に回転させ、前記第1インペラー及び前記第2インペラーのそれぞれに設けられた刃部により前記水生生物を裁断し、前記筒体の排出口から排出するように構成されてなる水生生物の吸入裁断装置。
【請求項3】
浮力調整部材をさらに備える請求項1又は2に記載の水生生物の吸入裁断装置。
【請求項4】
前記回転駆動源は、油圧により駆動されるものである請求項1〜3の何れか一項に記載の水生生物の吸入裁断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−86278(P2012−86278A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232266(P2010−232266)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000192073)株式会社モリタホールディングス (80)
【出願人】(510274957)未来工業株式会社 (1)