説明

水生生物の養殖設備

【課題】養殖池の土壌汚染とともに水質汚染をも事前に食い止め、健全に水生生物を育成・収穫することができる養殖設備を提供する。
【解決手段】養殖設備は、窪地状に造成された養殖用地10に、その全面を覆うようにしてポリマーシート12を敷設し、その上から水を張って養殖池とするものである。ポリマーシート12を介して貯水するため、養殖池はその下の土壌から完全に隔絶された水中環境を実現することができる。池底がポリマーシート12のような人工物であっても、水生生物の健全な育成に全く影響を与えず、むしろ土壌成分の汚染から隔離されるため水質が良好に維持され、その生育環境は向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば海老のような水生生物を養殖池内で養殖する用途に適した養殖設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海老のような水生生物の養殖に関して、養殖池における水質汚染を防止し、長期間にわたって飼育に適した水質を維持しようとする先行技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この先行技術は、養殖池に水流装置を設けて養殖池の水をその周縁域に沿って循環させつつ、養殖池の非流水域に堆積した汚泥に固形塩素錠剤を投入することで、汚泥を浄化するというものである。この先行技術によれは、一旦は養殖池の底に処理対象物が汚泥として堆積するが、やがて汚泥が塩素錠剤の分解作用によって消失するため、ある程度は養殖池での土壌汚染や水質汚染が食い止められると考えられる。
【0003】
またその他の先行技術として、養殖池や干潟の底面に堆積した有機物を分解するだけでなく、水生生物の飼料として転換する手法も知られている(例えば、特許文献2参照。)。この先行技術は、養殖池の底面に非晶質の含水酸化鉄(第二酸化鉄)を散布することで、池底において微生物の繁殖を促進するというものである。すなわち、非晶質の含水酸化鉄は、土中微生物が容易に溶解性の鉄として利用できることから、これを散布することで池底において微生物相が健全に維持されると見込まれる。これにより、やがて池底に堆積した有機物(海老に与えられた餌の食べ残しや排泄物等)が微生物活動によって分解されるだけでなく、海老に有効な餌にまで転換されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−298894号公報
【特許文献2】特開2009−11271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に養殖池での汚泥は、投与した餌の食べ残しや、肥料の沈殿、養殖対象となる水生生物の排泄物(糞、脱皮殻)、植物プランクトンの死骸、その他の生物、泥土等が混ざり合うことで発生する。このような汚泥は有害物質を含むため廃棄処分が困難であり、これを不用意に廃棄した場合は周辺の環境破壊を進行させる。上述した先行技術(特許文献1,2)はいずれも、廃棄処分の困難な堆積汚泥を分解処理したり、あるいは飼料への転換を図ったりすることで土砂廃棄物の発生を抑え、自然環境の悪化を防止する点においてある程度は有効である。
【0006】
しかしながら先に挙げた先行技術(特許文献1)は、循環水流の発生により一旦は養殖池の底に相当量の汚泥を堆積させてしまうため、汚泥が完全に分解されるまでの間、堆積物(マウンド)の圧密度が上昇すると嫌気性となり、土中硫黄分を腐敗させて硫化水素(HS)の濃度上昇を招くという問題がある。この問題は後に挙げた先行技術(特許文献2)においても同様であり、たとえ非晶質の含水酸化鉄が散布された後であっても、池底の微生物が繁殖して有効に活性するまでにはある程度の時間を要するため、やはりその間に堆積物の圧密度が上昇すると嫌気性となり、腐敗が進行して硫化水素の濃度が上昇する。硫化水素濃度が上昇すると、水中の溶存酸素量が低下して養殖池が水質汚染状態となり、水生生物の成育を大きく阻害することとなる。
【0007】
また一時的にでも養殖池の底に汚泥が堆積していると、水生生物がその中に潜り込んで被毒し、その健康を害されるおそれがある。特に、収穫作業時に養殖池を排水すると、捕獲から逃れようとした水生生物が隠れ場所を求めて汚泥に潜り込むことが多く、それによってせっかく健全に育成された個体までもが最後の最後で被毒してしまうという問題も発生している。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたもので、養殖池の土壌汚染とともに水質汚染をも事前に食い止め、健全に水生生物を育成・収穫することができる養殖設備の提供を課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
【0010】
すなわち本発明の養殖設備は、窪地状に造成した養殖用地の全面を覆う状態でシート材を敷設し、このシート材を介して養殖用地内に貯水することで養殖池とする。これにより養殖池は、養殖用地の土壌から隔絶された水中環境を形成している。また、養殖用池には2系統の配管を設置し、その一方はポンプによる汲み上げに使用し、他方は濾過した後の水の環流に使用している。シート材は養殖池の底面だけでなく、周縁の斜面までをも覆うだけの広さ(面積)を有するものが好ましく、その上に水を張っても容易に破断しないだけの強度を有するものとする。ただし、水圧はシート材を介して養殖用地に支持されるため、シート材そのものが全水圧に耐える程の強度を有している必要はない。なお本発明において、養殖用地は土地を掘削して造成することもできるし、地上に囲いを設置して造成することもできる。
【0011】
本発明の養殖設備によれば、養殖池の水中環境が土壌から完全に隔絶されているため、基本的に養殖池内の生態系に対して池底の土壌は無関係となり、池底(シート材上面)に汚泥等の堆積物は発生しない。従来、水生生物の飼育には養殖池の地力や土壌環境が必須であると当然のように考えられてきたが、本発明は、海老等の水生生物が土壌から隔絶された環境下(シート材のような人工膜の上)であっても、自然環境下と何ら変わりなく健全に成長するという知見に基づくものである。これは現在、人工の水槽内で多くの水生生物が健全に育成されている事例からも容易に理解できる。これにより本発明は、養殖池内で水質汚染の原因となる堆積物の発生を防止し、良好な水中環境を得ることができる。
【0012】
ただし、養殖用地の土壌から完全に隔絶された水中環境にあっても、飼料の投与や水生生物自身の生命活動によって何らかの沈殿物(餌の食べ残しや糞、老廃物等)は発生し得る。このため本発明では、ポンプによる水の吸い上げと濾過器による濾過を合わせて行い、養殖池水を循環させて良好な水中環境の維持を図っている。これにより、水生生物の健全な育成をさらに促進し、その生産効率を向上することができる。
【0013】
加えて本発明では、養殖池を造成して水生生物を育成しても、その土壌環境に特段の悪影響を与えることがない。このため、水質汚染だけでなく土壌汚染をも防止することができ、近年の養殖産業発達の弊害である自然環境破壊の流れに対しても歯止めを掛けることができる。
【0014】
なお水循環は、以下の構成により実現するものとする。すなわち、養殖池内には、第1の配管及び第2の配管の一端を没した状態で設置する。第1の配管にはポンプを接続し、第1の配管を通じて養殖池内の水を汲み上げる。また第1の配管には濾過器を接続して設置し、ポンプに吸い込まれる水をその上流位置で濾過するものとする。これにより、水中沈殿物の除去とともにポンプの目詰まり等を防止することができる。またポンプの吐出口と第2の配管とを接続する環流経路(別の配管)を設けることで、ポンプから吐出された水を第2の配管を通じて養殖池内に環流させる。なお濾過器は、水中に混入したゴミや木の葉、草葉、枝片等を捕捉する程度のもの(例えば布メッシュ)でよい。これは、本発明において養殖池の水に土壌成分(砂粒、泥土等)が混入していないためである。
【0015】
また濾過器にて除去される沈殿物には、上記の通り土壌成分が含まれておらず、その質量は極小となる。このため、除去された沈殿物を養殖池周辺に散布し、自然乾燥させても周辺の自然環境に甚大な悪影響を及ぼすことがない。また、養殖した水生生物の収穫時に放流される池水は、その水質汚染がほとんど進行していないため、養殖池からの放流水による河川や沿岸水系に対する環境負荷を極めて小さくすることができる。
【0016】
本発明の養殖設備において、水を循環させる環流経路の途中に微細気泡発生器を設置することもできる。微細気泡発生器は、ポンプから吐き出された水に微細化した気泡を混入させる能力を有するものであり、一般に「マイクロバブル発生装置」等と称されるものを使用することができる。ここでいう「微細化した気泡」とは、例えば平均直径が50μm以下にまで微細化された気泡である。この程度まで微細化された気泡は、浮上速度が極めて遅く、池内を回流しながら水中に留まり、ほとんど水面にまで浮上してくることはない。また微細化された気泡は、加圧溶解によって水中の溶存酸素(DO)濃度を向上する。これにより、ポンプから環流させた水によって養殖池内の溶存酸素濃度を高めるとともに、陰イオンの働きによって水中で陽イオン化した汚染原因物質を中和し、無害化することができる。
【0017】
特に本発明においては、養殖池の水に土壌成分が混入していないことから、微細気泡発生器を用いても目詰まりが発生しにくく、その運用を長期間にわたり安定して行うことができるという利点がある。一般的に「マイクロバブル発生装置」は、流通させた水に微細気泡を発生させるため内部の構造が細かく構成されていることから、そこに土壌成分(砂粒、泥土等)が進入すると、容易に目詰まりを起こしてしまう。この点、本発明では微細気泡発生器に流通させる水そのものに土壌成分が含まれないことから、特に目詰まりを起こす心配がなく、日常の運用にあたりトラブルが発生しにくく、それだけ運転効率を向上することができる。
【0018】
また本発明の養殖設備において、より実用的には以下の配管構成を採用することができる。すなわち、第1の配管及び第2の配管の途中にそれぞれ第1の三方弁及び第2の三方弁を設置する。そして、ポンプの吸込方向でみて第1の三方弁より下流位置で、かつ濾過器より上流位置で第1の分岐配管を第1の配管から分岐させ、これを第2の三方弁を通じて第2の配管に接続する。また第2の配管からは、ポンプの吐出方向でみて第2の三方弁より上流位置で第2の分岐配管を分岐させ、これを第1の三方弁を通じて第1の配管に接続する。
【0019】
上記の配管構成によれば、先ず両方の三方弁について、それぞれ分岐配管を閉塞する状態にした場合、上述した通り第1の配管を通じて養殖池の水をポンプで汲み上げ、濾過した後に環流経路から第2の配管を通じて養殖池内に水を環流させることができる。次に、両方の三方弁について、それぞれ分岐配管を開通させる状態に切り換えた場合、第1の配管と第2の配管での水流方向が逆転し、今度は第2の配管及び第2の分岐配管を通じて養殖池の水をポンプで汲み上げ、これを濾過した後に環流経路から第1の分岐配管及び第1の配管を通じて養殖池内に水が環流する状態となる。
【0020】
これにより、養殖池内での水流方向(第1の配管及び第2の配管による吸込方向と吐出方向)を常に固定化することなく、適度に入れ換えながら水を循環させることができる。また、各配管での水流方向を適度に入れ替えることで、吸込口や吐出口となる部分や配管内部に沈殿物が詰まるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明の養殖設備は、水質汚染や土壌汚染を極小に抑えつつ、水生生物の生産性を向上することに寄与する。また、長期間にわたり繰り返し養殖用地を使用しても、その土壌環境に深刻な悪影響を与えることがないことから、造成した養殖用地を半永久的に使用することが可能になり、限られた養殖用地を有効に活用することができる。これにより、短期間のうちに養殖用地を放棄する必要がなくなり、別の新たな養殖用地を求めて乱開発を行うという悪循環を断ち切ることができる。
【0022】
また従来、養殖池として使用された土地は汚染の進行に伴い、その後に地力を回復するまで相当長い年月を必要としていたが、本発明で養殖池として使用された土地はほとんど汚染が進行しないことから、その使用終了後もすぐに別の用途(例えば農業用地)に転用することができる。
【0023】
さらに本発明によれば、既に従来手法よって土壌汚染され、放棄された土地であっても、そこに窪地状の養殖用地を造成してシート材を敷設し、新たに貯水するだけで健全な水中環境を有した養殖池を容易に構築することができる。これにより、現在休止中の土地を養殖用地として再利用することが可能となり、過去に養殖産業が行われていた地域の再興を促すことができる。
【0024】
また本発明では、日常的な餌やりや水生生物の健康管理作業の他に必要なのは、ポンプを稼働させて水を循環させ、濾過器で捕集した沈殿物を除去するだけであるため、定期的な浚渫作業等は必要とせず、それだけランニングコストを小さく抑えることができる。
【0025】
また本発明では薬品を一切使用していないことから、自然水系を変質させることがないし、養殖された水生生物の健全性(薬品不使用)を堂々とアピールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施形態の養殖設備の全体的な構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】養殖用地に貯水して養殖池を形成した状態を概略的に示す垂直断面図である。
【図3】養殖設備における水循環系統の構成を具体的に示す配管図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、一実施形態の養殖設備の全体的な構成を概略的に示す斜視図である。この養殖設備は、陸上の土地を窪地状に造成して養殖用地10とし、その全面を覆うようにポリマーシート12を敷設して構成されている。養殖用地10は、土地を掘削して窪地形状に造成したものでもよいし、地上に盛り土等で囲いを設置し、その内側を窪地形状に造成したものでもよい。養殖用地10の形状は、例えば平面視で矩形をなしている。これにより、ある程度の広さを有する土地一帯に多数の養殖用地10(他は図示していない)を整然と区画して造成することができる。なお養殖用地10の大きさ(面積、養殖池容積)は、これを造成する土地の実情や周辺環境に合わせて適宜に調整することができる。ここでは標準的な大きさとして養殖用地10の面積を1000m程度とし、その深さを例えば2m程度としている。
【0029】
ポリマーシート12は、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)製の樹脂シート材であり、上記のように養殖用地10の全面(底面及び四方の斜面)を覆うだけの面積を有するものを使用する。なおポリマーシート12は、図示のように養殖用地10の周囲にまで余裕を持って広がる程度の大きさを有するものでもよい。またポリマーシート12の周縁部分については、その剥離や風圧等による飛散を防止するため、例えば図示しないアンカーボルトやアンカーロープ等による固定養生を行ってもよい。
【0030】
なお図1には、養殖用地10に貯水する前の状態が示されている。この状態から養殖用地10は、その全面を覆うように敷設されたポリマーシート12の上から水を張り、そこに貯水することで養殖池を構築することができる。水張りは、例えば近接する用水路16から図示しないポンプ設備等を用いて行うものとする。また養殖用地10の周縁部より外側で、隣接する他の養殖用地10との間には、例えば日常の餌やりや保守管理を行うための作業用通路14が設けられている。
【0031】
本実施形態では、養殖池の好適な水深として例えば1.2m〜1.5m程度を想定している。この程度の水深であれば、海老(ブラックタイガー海老、車海老)のような水生生物の生育環境として好適する。なおポリマーシート12は、養殖池の水圧や貯水質量を全て支持する必要はないことから、その厚さは0.5mm程度であればよい。これにより、ポリマーシート12の調達に必要なコストを最小限に抑えることができる。
【0032】
またポリマーシート12は耐水性、耐候性の高い素材から構成されているため、一旦敷設したものを半永久的に使用することができる。ポリマーシート12は、日常的な作業に伴い作業者によって踏みつけられた程度では破断することがないし、養殖対象となる水生生物の生命活動によって毀損される(食い破られる)ようなこともない。
【0033】
養殖用地10(貯水した場合の養殖池)には、例えばその一画に角落としゲート18を設置することができる。角落としゲート18は、これを開放することで養殖池内の水を確実に用水路16へ排水するとともに、養殖した水生生物を角落としゲート18の近傍に集めることで、その収穫作業を効率化するのに役立つ。特に本実施形態では、池底が樹脂製のポリマーシート12であることから、水生生物が土中に潜り込んで隠れてしまうようなこともなく、その収穫時の作業効率が大きく向上する。
【0034】
養殖用地10には、例えば2系統の配管20,22が設置されている。これら配管20,22は、いずれも一端が養殖池の水中(底部中央)に没する状態で敷設されており、さらに水中から底面及び斜面に沿って屈曲しながら陸上まで延びている。また配管20,22には、それぞれ水中の開口端部にメッシュカバー24が装着されている。このメッシュカバー24は、配管20,22内への水生生物の進入を防止するとともに、比較的大型のゴミ類(例えば木片、木枝等)の進入を防止する。
【0035】
養殖用地10(貯水時の養殖池)の近傍の陸上において、配管20,22にはそれぞれ吸込経路26、環流経路28が接続されている。また、これら吸込経路26、環流経路28と配管20,22との間にはそれぞれ三方弁30が介挿して設置されている。そしてこれら三方弁30には、それぞれ分岐管路32,34が接続されている。なお図1中、吸込経路26や環流経路28、三方弁30、分岐管路32,34については、いずれもシンボル状に簡略化して示されている。
【0036】
図2は、養殖用地10に貯水して養殖池40を形成した状態を概略的に示す垂直断面図である。上記のように養殖池40は、ポリマーシート12を介して養殖用地10内に貯水することで形成されている。これにより養殖池40は、ポリマーシート12によって養殖用地10の土壌から完全に隔絶された水中環境を形成することができる。
【0037】
養殖池40内には、例えばパドル式エアレータ42を設置することができる。パドル式エアレータ42は、公知のように水車(パドル)を回転させて水面を攪拌し、養殖池40の水を曝気させたり、養殖池40内に水流を発生させたりするものである。上記のように養殖池40内は土壌から隔絶されているため、パドル式エアレータ42を作動させたとしても、その水流によって土壌が浸食されたり、土壌成分が捲き上げられたりするようなことはない。
【0038】
また養殖池40の近傍には、陸上にポンプヤード50が設けられている。上記の吸込経路26及び環流経路28はポンプヤード50に延びており、このポンプヤード50には、ポンプ52をはじめ吸込フィルタ(濾過器)54、マイクロバブル発生器56等の機器類が設置されている。
【0039】
図3は、養殖設備における水循環系統の構成を具体的に示す配管図である。上記のように養殖池40内には、その水中に没した状態で2系統の配管20,22が設置されている。このうち1本の配管20には三方弁30を介して吸込経路26が接続されており、この吸込経路26には上記の吸込フィルタ54が接続されている。ポンプ52は吸込フィルタ54の下流位置にあって、吸込フィルタ54とは接続配管62を介して接続されている。
【0040】
本実施形態では、吸い上げられる水に土壌成分が混入してこないことから、吸込フィルタ54には布メッシュを用いることができる。ポンプ52には、例えばカスケードタイプのものを使用し、その吸込圧力は40.79MPa(4kgf/cm)程度の能力を有するものとする。またポンプ52には、例えば連成計(圧力計)58及び吸気用ニードル弁60が付属しており、オペレータは連成計58の指針を視認しながらニードル弁60の開度を調節することができる。
【0041】
ポンプ52の吐出側には、別の接続配管64を介してマイクロバブル発生器56が接続されている。また接続配管64には、ポンプ52の吐出圧を計測するための連成計58が付属している。マイクロバブル発生器56は、ポンプ52から吐出される水流により、水中に微細化させた気泡を発生させるものであり、ここでは公知のものを適用することができる。なお発生させる微細気泡は、例えば平均直径が50μm以下のものであることが好ましい。この程度の微細気泡は、マイクロバブル発生器56のような圧力容器内では加圧溶解し、水中の溶存酸素濃度を大幅に上昇させることができる。
【0042】
マイクロバブル発生器56の出口側には上記の環流経路28が接続されており、その途中に吐出制御弁66が設置されている。吐出制御弁66は例えばボール弁であり、その開度に応じてポンプ52の吐出流量を調節することができる。
【0043】
なお上記の水循環系統において、ポンプヤード50においては耐圧性の高い鋼管を使用し、養殖池40の水中に没する配管20,22については軽量の塩化ビニル管を使用してもよい。
【0044】
本実施形態の養殖設備における水循環経路の運転は、例えば以下の2通りの要領で実施することができる。
【0045】
〔第1運転要領〕
先ず2つある三方弁30を、それぞれ分岐管路32,34へ向かう流れを閉塞させた状態で運転する。この場合、図3中に黒塗りの矢印で示されるように、養殖池40内の水は一方の配管20を通じて吸い上げられ、三方弁30を介して吸込経路26に流入する。そして、吸い上げられた水は吸込フィルタ54を経てポンプ52に至り、その吐出後はマイクロバブル発生器56を経て環流経路28に流れる。そして水は、環流経路28から三方弁30を介して他方の配管22に流れ、養殖池40内にて吐出される(図3中の黒塗り矢印)。
【0046】
〔第2運転要領〕
次に、2つある三方弁30を、それぞれ分岐管路32,34へ向かう流れを開放させた状態で運転する場合を想定する。この場合、2系統の配管20,22内部は、それぞれ分岐配管32,34に対して開通された状態となる。そしてこの場合、図3中に白抜きの矢印で示されるように、養殖池40内の水は他方の配管22を通じて吸い上げられ、三方弁30を介して分岐配管34に至り(図3中の白抜き矢印)、そこから吸込経路26内に流入する。そして、吸い上げられた水は吸込フィルタ54を経てポンプ52に至り、その吐出後はマイクロバブル発生器56を経て環流経路28に流れる。そして水は、今度は環流経路28から三方弁30を介して分岐配管34に流れ込むと、そこから一方の配管20を通じて養殖池40内にて吐出される(図3中の白抜き矢印)。
【0047】
上記のように、2通りの運転要領を適宜に切り換えることで、養殖池40内での水流方向(吸込方向、吐出方向)が常に固定化されなくなる。このため、養殖池40内の水を多様に循環させることができるし、吸込時にメッシュカバー24に付着した沈殿物を吐出時に洗い流して目詰まりを防止することができる。また、水流方向を入れ替えることで配管20,22内での詰まりをも良好に防止することができる。
【0048】
上述した本実施形態の養殖設備によれば、以下の優れた利点が得られる。
(1)養殖池40内の水に養殖用地10の土壌成分が一切混入しないため、土壌成分を原因とした汚泥発生の心配がない。
(2)その結果、水中の沈殿物は主に、水生生物に与えた餌の食べ残しや水生生物の排出物(糞、脱皮殻等)だけとなり、沈殿物の質量が従来手法に比較して激減する。
【0049】
(3)養殖池40内の沈殿物は、パドル式エアレータ42の運転によって中央底部に集められ、ポンプ52により吸い上げられて吸込フィルタ54で捕集することができる。捕集した沈殿物には、上記のように土壌汚染物が含まれないため、これを適宜に養殖用地10の周辺に散布して自然乾燥させたとしても、環境破壊や環境負荷の問題は生じない。
【0050】
(4)養殖池40に環流させる水は、マイクロバブル発生器56によって溶存酸素(DO)量が高められているため、養殖池40の溶存酸素濃度を容易に維持することができる。これにより、水生生物の成長を促進するとともに、陰イオンによる水中の滅菌作用をも向上することができる。
【0051】
(5)水中環境の向上により水生生物の成長が促進されるため、比較的短期間(例えば3.5〜4ヶ月)で幼生から成体(例えば稚海老から成体の海老)まで養殖を行うことができる。このため短サイクルで養殖作業を実施することにより、それだけ生産効率を向上することができる。
【0052】
(6)また、養殖期間が経過してもなお、養殖池40内の水に深刻な汚染が進行していないことから、これを河川や沿岸水系に放流したとしても、環境汚染を引き起こすことがない。
【0053】
(7)日常的な餌やりや水生生物の健康管理の他に必要なランニングコストとしては、ポンプ52の稼働やメンテナンスに要するものだけですむ。
【0054】
(8)水質保全や改良のために薬品類を一切使用しないため、薬物によって水生生物にダメージを与えることがなく、収穫物の健全性(薬品不使用)を堂々と市場でアピールすることができる。また薬品を不使用であるため、収穫時に放流する水の安全性をも保証することができる。
【0055】
(9)養殖池40の底面がポリマーシート12の表面であるため、収穫時に放水をしても、水生生物が土中に潜り込んで隠れてしまうようなことがなく、その作業効率を大幅に向上することができる。
【0056】
(10)さらに、たとえ一時的であっても養殖池40内に汚泥等の堆積物が生成されないため、水生生物が汚泥に潜り込んで被毒するようなこともない。これにより、収穫された水生生物の健全性を最後まで維持することができる。
【0057】
このように本実施形態の養殖設備は、従来手法と比較して養殖池40の水質汚染や土壌汚染が圧倒的に少なく、従来手法の問題点をほぼ完全に払拭することができる。また、養殖用地10やポリマーシート12を繰り返し半永久的に使用することができるため、一定の地域に養殖産業を永らく定着させ、養殖産業の発展に大きく寄与することができるし、短期間のうちに一箇所の土地を放棄して、また別の土地を開発しなければならないといった悪循環を招くこともない。
【0058】
さらに、従来手法によって既に疲弊した土地であっても、これを造成して養殖用地10とし、そこにポリマーシート12を敷設して貯水すれば、新たに健全な水中環境の養殖池40を容易に再構築することができる。これにより、現在休閑地として放棄されている土地を有効活用し、地域一帯に養殖産業の再興を促すことができる。
【0059】
本発明は上述した一実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することができる。一実施形態では、養殖用地10を平面視で矩形状としているが、その他の形状(円形、矩形以外の多角形)であってもよい。また、シート材として高密度ポリエチレン製のポリマーシート12を例に挙げているが、シート材にはその他の材料を用いることもできる。
【0060】
水循環系統を構成する配管20,22の配置は、図示のものも含めて一例に過ぎず、その配置を適宜変更してもよいし、設置する本数を増加してもよい。
【0061】
また一実施形態では水生生物として海老を例に挙げているが、本発明の養殖設備は各種の水生生物(魚介類)の養殖にも適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 養殖用地
12 ポリマーシート
14 作業用通路
16 用水路
18 角落としゲート
20,22 配管(第1,第2の配管)
24 メッシュカバー
26 吸込経路
28 環流経路
30 三方弁
32,34 分岐配管(第1,第2の分岐配管)
40 養殖池
42 パドル式エアレータ
50 ポンプヤード
52 ポンプ
54 吸込フィルタ(濾過器)
56 マイクロバブル発生器(微細気泡発生器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上に造成された窪地形状をなす養殖用地と、
前記養殖用地の全面を覆う状態で敷設されたシート材と、
前記シート材を介して前記養殖用地内に貯水することにより、前記養殖用地の土壌から隔絶された水中環境を形成する養殖池と、
前記養殖池内に没して設置された第1の配管及び第2の配管と、
前記第1の配管を通じて前記養殖池内の水を吸い込むポンプと、
前記第1の配管に接続して設置され、前記ポンプに吸い込まれる水をその上流位置で濾過する濾過器と、
前記ポンプの吐出口と前記第2の配管とを接続し、前記ポンプから吐出された水を前記第2の配管を通じて前記養殖池内に環流させる環流経路と
を備えた水生生物の養殖設備。
【請求項2】
請求項1に記載の水生生物の養殖設備において、
前記環流経路の途中に設置され、前記ポンプから吐出された水に微細化した気泡を混入させる微細気泡発生器をさらに備えた水生生物の養殖設備。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水生生物の養殖設備において、
前記第1の配管及び前記第2の配管の途中にそれぞれ設置された第1の三方弁及び第2の三方弁と、
前記ポンプの吸込方向でみて前記第1の三方弁より下流位置で、かつ前記濾過器より上流位置で前記第1の配管から分岐し、前記第2の三方弁を通じて前記第2の配管に接続される第1の分岐配管と、
前記ポンプの吐出方向でみて前記第2の三方弁より上流位置で前記第2の配管から分岐し、前記第1の三方弁を通じて前記第1の配管に接続される第2の分岐配管と
をさらに備えた水生生物の養殖設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−30442(P2011−30442A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176887(P2009−176887)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(508011061)日本環境コンサルタント株式会社 (1)
【出願人】(509214551)
【出願人】(509214562)
【Fターム(参考)】