説明

水生生物衝撃処理装置

【課題】 薬剤を用いた場合のような弊害がなく、水生生物や細菌類に対して十分な死滅効果が得られる水生生物衝撃処理装置を得る。
【解決手段】 処理水を貯留する処理室3と、該処理室3に処理水を供給する供給管5と、該供給管5と前記処理室3との連通を開閉可能に連結する供給側開閉弁装置9と、前記処理室内の処理水に衝撃水圧を発生させて処理水中の水生生物の死滅処理を行う衝撃水圧発生装置19と、前記処理室3の処理済み水を排出するための排水管11と、該排水管11と前記処理室3との連通を開閉可能に連結する排出側開閉弁装置15とを備え、前記供給側開閉弁装置9における弁部材は閉状態において前記処理室3の内壁面を構成すると共に該処理室3の他の壁面と滑らかに連続するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば船舶のバラストタンクに供給するバラスト水、循環浴用水、プール水、下水処理汚泥等の処理原水に生息する水生生物を、水中に衝撃波を発生させることで死滅処理する水生生物衝撃処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に生息する生物や細菌類を死滅処理する必要性は多岐の分野に及ぶ。その一例として例えば、船舶のバラストタンクに供給するバラスト水の処理がある。
船舶は、一般に、搭載する貨物等の重量に応じて排水量が増減するため、貨物の搭載重量が極端に少なくなるとスクリューの位置が海面に近づきすぎて船舶の推進効率が低下すると共に、船舶の走行安定性が低下することになる。これを回避するため、船内に大量のバラスト水(バルクキャリア、タンカーの場合、空船時に最大積載重量の30%程度)を注入して航行するが、このバラスト水は貨物を搭載する際に海洋投棄される。このため、バラスト水を注入した船舶出港海域の魚介類、プランクトン、プランクトンの卵や胞子、大腸菌やコレラ菌、腸球菌等の病原体細菌などの水生生物が貨物搭載地の海域に拡散し、これらが異常繁殖して生態系の変化や、海洋汚染を引き起こす可能性がある。このような事態を防止するため、バラスト水を海洋投棄する前に、バラスト水中の水生生物を排除又は死滅させる必要がある。このような、バラスト水の処理に関しては以下に示す方法装置が提案されている。
【0003】
(1)殺菌剤を添加する方法(例えば、特許文献1参照)
(2)紫外線による殺菌を行う方法
(3)船舶の主機関から排出される高温排ガスを利用してバラスト水を加熱する方法(例えば、特許文献2参照)
【特許文献1】特開平4-322788号公報
【特許文献2】特開2003-181443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記、バラスト水中の水生生物を排除又は死滅させる各方法にはそれぞれ以下に示すような問題点がある。
(1)薬剤による方法の問題点
薬剤を用いる方法は、細菌類等への殺滅効果は高いが、大型のプランクトン、プランクトンの卵や胞子などに対しては、通常の使用濃度の範囲では殺滅効果がほとんど無い。
また、薬剤の種類によってはその残留性が高いものや、毒性のある副生成物を生成するものもあるので、薬剤処理されたバラスト水を排出する港において、周辺に生息する生物を殺傷する可能性が高い。
(2)紫外線による方法の問題点
紫外線による方法の場合には、薬剤と同様細菌類等への殺滅効果は高いが、大型のプランクトン、プランクトンの卵や胞子などに対しては通常使用する紫外線強度の範囲では殺滅効果がほとんど無い。
(3)主機関から排出される高温排ガスを利用してバラスト水を加熱する方法の問題点
船舶内の主機関を必ず運転する必要があるので、停泊中や積荷の積み降ろし時など主機関を停止あるいは低負荷運転時にはバラスト水処理が行えない。
死滅処理効果が不十分であり、死滅処理に時間がかかるため、作業能率が低い。また、バラストタンクからバラスト水を海中へ排水する際にこの方法を適用すると、高温のバラスト水が排出されることにより、海中の生物に悪影響を及ぼすという問題もある。
【0005】
以上のように、従来のバラスト水の処理方法は、各処理方法それぞれの問題がある。
すなわち、薬剤、紫外線の共通の問題点として、大型のプランクトン、プラクトンの卵や胞子などに対する死滅効果が期待できない。さらに、薬剤法では残留性の高い場合には周辺に生息する生物を殺傷するという問題がある。また、主機関から排出される高温排ガスを利用してバラスト水を加熱する方法では、死滅処理効果が不十分であり、死滅処理に時間がかかるため、作業能率が低いという問題がある。
【0006】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、薬剤を用いた場合のような弊害がなく、水生生物や細菌類に対して十分な死滅効果が得られる水生生物衝撃処理装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る水生生物衝撃処理装置は、処理水を貯留する処理室と、該処理室に処理水を供給する供給管と、該供給管と前記処理室との連通を開閉可能に連結する供給側開閉弁装置と、前記処理室内の処理水に衝撃水圧を発生させて処理水中の水生生物の死滅処理を行う衝撃水圧発生装置と、前記処理室の処理済み水を排出するための排水管と、該排水管と前記処理室との連通を開閉可能に連結する排出側開閉弁装置とを備え、前記供給側開閉弁装置における弁部材は閉状態において前記処理室の内壁面を構成すると共に該処理室の他の壁面と滑らかに連続するように構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
(2)また、上記(1)に記載の供給側開閉弁装置は、処理室の軸線方向に向けて処理水が供給されるように前記処理室と供給管とを連結することを特徴とするものである。
処理室の軸線方向に向けて処理水が供給されるようにすることで、処理水の供給時に処理水が処理室にスムーズに流れ込み、水撃現象の発生を可及的に防止できる。
【0009】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載の供給側開閉弁装置及び排出側開閉弁装置における稼働部に異物が噛みこむのを防止するシール部材が設置されていることを特徴とするものである。稼働部に異物が噛みこむのを防止することで異物噛みこみによる補修費を抑えることができる。
【0010】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて供給側開閉弁装置及び排出側開閉弁装置の弁の開閉を制御する制御装置を備え、該制御装置は供給側開閉弁装置と排出側開閉弁装置の弁の開閉タイミングを同一の位相で行うように制御することを特徴とするものである。ここで、弁の開閉タイミングを同一の位相で行うとは、供給側開閉弁装置と排出側開閉弁装置の弁の開閉の開始及び終了タイミングを同じくすると共に弁開閉率を同じにすることである。
弁の開閉タイミングを同一の位相で行うことで、処理水の給排水時に流入量と同量が排出されることになり、水撃現象を防止できると共に処理水の注入及び処理済み水の排出のサイクルタイムを短縮できる。
なお、供給側開閉弁装置と排出側開閉弁装置の弁の開閉速度は、水撃現象が生じない程度の所定の速度で行うようにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、処理水に衝撃水圧を加えることにより処理水中の水生生物を衝撃水圧処理するようにしたので、水生生物を確実に死滅処理できると共に、毒物や有害物質を使用する必要がなく処理作業や処理済み水の廃棄作業の際に二次公害の心配がなく安全性に優れている。
また、供給側開閉弁装置における弁部材は供給管と前記処理室との連通が閉状態において前記処理室の内壁面を構成すると共に該処理室の他の壁面と滑らかに連続するようにしたので、衝撃水圧発生装置で発生した衝撃波が減衰することなく処理室内を伝播して効果的な衝撃水圧処理が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本実施の形態においては、バラストタンクに供給する海水を処理水として、バラストタンクに取り込む前に処理する場合を例に挙げて説明する。
図1は本発明の一実施の形態の説明図であり、船舶の横断面を模式的に示したものである。
本実施の形態の主な構成要素を概説すると、船舶内周面に設置されて海水を貯留するバラストタンク1、このバラストタンク1内の海水を処理するために一時的に貯留する処理室3、海水を直接又は海水を一旦バラストタンク1に貯留した後に、この処理室3に供給するための給水管5、給水管5に設けられた給水ポンプ7、給水管5と処理室3との連通を開閉可能に連結する供給側開閉弁装置9、処理室3で処理された海水を処理室3から排出してバラストタンク1に戻す排水管11、該排水管11に設けられた排水ポンプ13、排水管11と処理室3との連通を開閉可能に連結する排出側開閉弁装置15、排水管11に設けられて処理水を加熱するための第1熱交換器17を備えている。
また、処理室3に貯留された海水に衝撃水圧を発生させる衝撃水圧発生装置としての気体収束爆轟発生装置19、気体収束爆轟発生装置19の排ガスを処理するための排ガス処理装置21、排ガス処理装置21で処理された排ガスを煙突23に誘導する誘引ファン25、これら排ガス処理系統を繋ぐ排ガス管27、を備えている。
さらに、給水管5、排水管11、排ガス管27等に設けられた開閉弁の開閉、気体収束爆轟発生装置19への燃料ガス及び燃焼用空気の供給、着火等の各操作を自動的に行う制御装置29を備えている。
以下、上記各構成要素の主なものについて詳細に説明する。
【0013】
(1)バラストタンク
バラストタンク1は上述のように船舶の内周面に船舶の全長に渡って設けられ、横断面では略U字状をしている。バラストタンク1は船舶の長手方向、例えば10mごとに区画されて複数の独立したタンクから構成されている。したがって、図1に示したバラストタンク1は複数に区画したバラストタンクの一つの断面を示している。
船舶の船尾には海水を取り込むための取水口31が設けられ、この取水口31にはゴミ等を除去するためのフィルタ33が設置されている。また、バラストタンク1の側部下部にはバラストタンク1内の海水を排出するための排水口2が設けられている。
【0014】
(2)処理室
処理室3は、この例では長片と短片が逆になった略L字状をしており、屈曲部に処理室3と給水管5を連結する供給側開閉弁装置9が設けられている。処理室3の長片の一端側には排水管11が連結され、短片の一端側に気体収束爆轟発生装置19が接続されている。
なお、本実施の形態において処理室3を略L字状にしたのは、処理室3内の処理水が気体収束爆轟発生装置19側に浸入しないようにするためである。つまり、処理室3を上下方向に屈曲させて上方に向けて屈曲した上端側に気体収束爆轟発生装置19を設置することで、気体収束爆轟発生装置19が常に処理水よりも上方に配置されることになるので、処理水の浸入を防止できるのである。
なお、処理室3の形状は水中衝撃波の伝播しやすさ、配管等の接続の便宜等を考慮して適宜変更することができる。
【0015】
(3)供給側開閉弁装置、排出側開閉弁装置
(a)供給側開閉弁装置
供給側開閉弁装置9は、給水管5と処理室3との連通を開閉可能に連結するものである。図2は供給側開閉弁装置9と排出側開閉弁装置15の説明図であり、図2(a)が処理室3の軸線に沿った縦断面図、図2(b)は図2(a)の矢視A-A線断面図である。
供給側開閉弁装置9は、弁ブロック35と、該弁ブロック35を移動可能に収容するケーシング37と、該弁ブロック35を水平方向に移動させる油圧シリンダー39と、該油圧シリンダー39に作動油を供給する油圧発生装置40と、該油圧発生装置40を制御するコントローラ41とを備えている。
図3は弁ブロック35の説明図であり、図3(a)は弁ブロック35の上面(処理室3の一部を構成する面)側を正面としたときの正面図、図3(b)が左側面図、図3(c)が右側面図、図3(d)が底面図、図3(e)がA-A断面図、図3(f)がB-B断面図である。
【0016】
弁ブロック35は処理室3の一部を構成する面が湾曲面になったブロック体から構成されている。湾曲面には弁閉状態において処理室3の湾曲部と共に処理室3の内壁を構成する湾曲溝43が設けられている。また、湾曲溝43の隣には貫通孔45が設けられている。
図2(b)の状態は弁ブロック35を閉にした状態を示しており、このとき弁ブロック35に形成された湾曲溝43が処理室3の内壁の一部を構成する。この状態では湾曲溝43が処理室3の他の内壁面との間で凹凸を生ずることなく滑らかに連続する。このため、後述のように気体収束爆轟発生装置19によって処理室内の処理水に水中衝撃波を発生させたときに、水中衝撃波が減衰されることなく処理室内を伝播する。
【0017】
弁ブロック35はケーシング37内を水平方向に移動可能であり、貫通孔45を給水管5と連通させて、給水管5と処理室3とを連通させる。このときは、貫通孔45を介して給水管5の処理水が処理室3に供給できる。そして、給水管5が処理室3の軸線方向に向けて配置されていることから、処理水を供給した際に処理水が処理室3の内壁に衝突することなく供給されるので、処理水供給時の抵抗が少なく、水撃現象の発生を可及的に防止できる。
なお、弁ブロック35とケーシング37間には異物が噛みこむのを防止するためにシール部材46が設置されている。このシール部材46は加圧時には隙間を閉じる方向に移動又は伸縮し、不加圧時には隙間をゆるめる方向に移動又は伸縮するものであることが好ましい。例えば、加圧時に変形するゴム等の弾性体を用いる。
【0018】
(b)排出側開閉弁装置
排出側開閉弁装置15は、排水管11と処理室3との連通を開閉可能に連結するものである。
排出側開閉弁装置15は、弁ブロック47と、該弁ブロック47を移動可能に収容するケーシング49と、該弁ブロック47を水平方向に移動させる油圧シリンダー51と、該油圧シリンダー51に作動油を供給する油圧発生装置53と、該油圧発生装置53を制御するコントローラ41とを備えている。なお、弁ブロック47とケーシング49との間にはシール部材4と同様のシール部材54が設けられている。
弁ブロック47は、図4に示すように、直方体からなりその片側寄りに貫通孔55が設けられている。貫通孔55は処理室3及び排水管11と同径に設定されている。
弁ブロック47を処理室3及び排水管11に直交方向(図4の矢印方向)に移動させることで、処理室3及び排水管11との連通を開閉することができる。
なお、貫通孔55の径が処理室3と同径に設定されていることから、弁ブロック47の開閉のタイミングを給水側の弁ブロック35と同期させることにより、給排水時における処理室3の供給側と排出側の開口面積を同じにすることができる。これによって、給水時の抵抗を少なくして水撃現象を可及的に防止することができる。また、給排水の所用時間を短縮できる。
【0019】
(4)ポンプ
ポンプ7は、海水をバラストタンク1内又は処理室3に取り込む機能と、バラストタンク1内の海水を処理室3に供給する機能を有している。また、ポンプ13は処理室3内の処理水を排出させる機能を有している。
(5)排水管
排水管11はその一端が処理室3の下流端に接続され、他端がバラストタンク1の上部に連結されている。したがって、処理室3で処理されて第1熱交換器17で加熱された処理水は排水管11によってバラストタンク1の上部側に供給される。
(6)第1熱交換器
第1熱交換器17は排ガス管27によって排気される気体収束爆轟発生装置19の排ガスを熱源として処理室3で処理された処理水を加熱するものである。
【0020】
(7)気体収束爆轟発生装置
気体収束爆轟発生装置19は、爆轟波を発生させる気体収束爆轟発生部57と、気体収束爆轟発生部57に燃料を供給する燃料供給系統59と、気体収束爆轟発生部57に燃焼用空気を供給する空気供給系統61とを備えている。
図5は気体収束爆轟発生部57の断面図であり、以下図5に基づいて気体収束爆轟発生部57の構成を詳細に説明する。
気体収束爆轟発生部57は、図5に示されるように、燃料及び酸化剤の供給を受けて爆轟波を発生させる着火室63と、着火室63に連通する後述の分散部67及び収束室73からなる燃焼室64とを有している。
着火室63は円筒状に形成され、着火室63の一端部には、燃料を間欠的に着火させる着火装置としての点火栓63aが設けられている。
また、着火室63には、着火室63の軸線方向に延びる螺旋状の金属からなるシェルキンスパイラル63bが設けられている。このシェルキンスパイラル63bは、点火栓63aで燃料に着火されて生じた火炎を加速させることにより爆轟を誘起させる。
なお、着火室63には、図5に示すように、プロパン等の燃料及び燃焼用の酸化剤(空気)が供給される。
【0021】
燃焼室64を構成する本体65は、上本体65Aと下本体65Bとに分割され、シール65Cにより密封状態で、図示しないボルト等で連結されている。
上本体65Aには分散部67が設けられ、この分散部67に前述の着火室63が連通している。分散部67は、上部材69と下部材71によって形成されており、着火室63から半径方向に大きく拡径する円盤状空間67Aと、該円盤状空間67Aの外周部で周方向の複数位置に貫通形成された一次細孔67Bと、該複数の一次細孔67Bが連通する環状空間67Cと、該環状空間67Cの範囲で貫通形成された複数の二次細孔67Dとから構成されている。着火室63、分散部67、及び後述する収束室73には燃料と酸化剤の混合気が供給される。かくして、着火室63の混合気に着火され誘起された爆轟により発生した爆轟波は、円盤状空間67A、一次細孔67B、環状空間67C、そして二次細孔67Dを経て伝播されることにより分散されて次の収束室73へ導入される。
【0022】
収束室73は、下本体65Bの湾曲回転内面と下部材71の下側突出部71Aの外周面との間で形成されており、下方に向けて空間横断面が次第に小さくしかも中央部へ向けて変向するように形成されている。
下部材71の下側突出部71Aの内部空間には、段状ピストン75が上下移動自在に収められている。この段状ピストン75の大径部材75Aの上下空間のそれぞれには、油圧制御装置77からの配管77A、77Bが連通している。
【0023】
段状ピストン75の小径部材の下端部は、テーパ部分を有する弁部75Bを形成していて、下本体65Bの湾曲回転面の中央部に取り付けられた管状弁座体79と協働する。管状弁座体79は、上部に形成された大径の弁座部79Aと、ここから下方に延びる管状部79Bとを有している。弁座部79Aの上面中央には、上記段状ピストン75の下端部に形成されたテーパ部分である弁部75Bが係止するテーパ状の弁座が設けられていて、該弁座からは下方に延びて開口する筒状の噴射口81が形成され、その出口開口端部81Aで処理室3に接続されている。また収束室73には燃焼排ガスを排出する排出孔82が設けられていて、排ガス管27に接続されている。
処理室3の内部上端には圧力媒体101が収められていて、処理水の水面と接している。また、噴射口81には注水孔102と排水孔103が設けられていて、噴射口81内部の段状ピストン75と圧力媒体101との空隙に水を充填するようになっている。圧力媒体101の材質には処理水と同程度のショックインピーダンスである天然ゴム等が用いられる。気体収束爆轟発生部57で発生した爆轟波は噴射口81内部の水、圧力媒体101を介して処理水に伝播される。また、圧力媒体101により燃焼排ガスが処理室に流入することを防ぐようになっている。
なお、着火室63及び燃焼室64内では爆轟の発生により高温になるので、これを冷却するために水冷ジャケット83が設けられている。
【0024】
燃料供給系統59は燃料供給源84と、燃料供給源84の燃料を着火室63に供給するための燃料供給配管85と、燃料供給配管85に設けられて燃料ガスのガス圧力を調整する減圧弁86と、燃料ガスの流量を計測する流量計87と、を備えている。
空気供給系統61は、燃焼用空気の供給源となる小型空気圧縮機88と、小型空気圧縮機88の圧縮空気を着火室63に供給するための空気配管89と、空気配管89に設けられて空気圧力を調整する減圧弁88と、圧縮空気の流量を計測する流量計89と、を備えている。また、空気配管89の途中には第2熱交換器91が設けられており、気体収束爆轟発生装置19の排ガスを熱源として空気配管89内の空気を予熱できるようになっている。
上記のように構成された気体収束爆轟発生装置19においては、気体収束爆轟発生部57を稼動して、収束爆轟波を発生させて該収束爆轟波を処理室3内の処理水に伝播させることになるが、ここで、気体収束爆轟発生部57による収束爆轟波発生のための動作及びメカニズムを説明する。
【0025】
まず、図5に示す状態で、気体収束爆轟発生部57の着火室63において燃料と酸化剤(空気)の混合気の燃焼が行われ、爆轟を生じさせ爆轟波を発生させる。発生した爆轟波は分散部67を経て分散され収束室73へ導入される。段状ピストン75は、この状態では図5に示されるように、油圧制御装置77によって配管77Aからの背圧を受けて、該段状ピストン75の弁部75Bが弁座部79Aを閉じている。
【0026】
分散部67から収束室73に導入された複数の爆轟波は、収束室73内を下方に向けて進行するが、収束室73の断面積が下方に向けて小さくなるために、複数の爆轟波は互いに強め合いながら収束され超高圧の収束爆轟波となる。
収束爆轟波の発生に同期して、油圧制御装置77によって配管77Bから油圧が瞬間的に作用し、この瞬時の圧力により段状ピストン75が上昇し、上記弁部75Bと弁座部79Aとの間に流路が形成される。したがって、収束爆轟波は、この流路から、瞬間的に噴射口81内に充填された水に伝播され、圧力媒体101を介して処理室3内の処理水に伝播される。この動作は一秒間に数回〜数十回行うことが可能であり、処理対象の量や、水生生物のサイズ等により収束爆轟波の処理水への伝播回数を適宜調整するようにすればよい。
なお、収束室73内の燃焼排ガスが処理室側に流入することを防ぐために、収束爆轟波を伝播直後に段状ピストン75を下降させ流路を閉じる。その後、着火室63にパージ用ガスとして高圧水蒸気を送気し、着火室63及び燃焼室64内の燃焼排ガスを排気孔82から排気する。
【0027】
処理水に伝播された収束爆轟波は処理水に水中衝撃波を誘起し、この水中衝撃波が水生生物や細菌類に伝播し、衝撃的な圧縮、膨張、せん断等の力を加え、これらを死滅させる。
【0028】
次に、上記のように構成された本実施の形態の動作を説明する。
本実施の形態においては、船舶が荷揚げのために寄港した港で、荷揚げと同時に海水をバラストタンク1に注入し、航行中にバラストタンクの海水を処理する場合について説明する。
(1)まず、供給側開閉弁装置9を稼働して給水管5と処理室3の連通を開にすると共に排出側開閉弁装置15を稼働して処理室3と排水管11の連通を閉にする。この状態でポンプ7を稼働してバラストタンク1の海水を処理室3に供給する。このとき、給水管5から供給する処理水の流れが処理室3の軸線方向と一致しているので、給水時に処理水が処理室3に円滑に流入することができ、水撃現象を防止できる。
処理室3に所定の水量が注入されると、供給側開閉弁装置9を稼働して給水管5と処理室3の連通を閉にする。閉状態では弁ブロック35の湾曲溝43が処理室3の内壁を構成することになる。
(2)気体収束爆轟発生部57においては、着火室63、燃焼室64内に、理論混合比よりも空気不足条件で、燃料と酸化剤(予熱空気)を充填する。
この状態で、着火室63において燃料と酸化剤との混合気に着火され、生じた火炎がシェルキンスパイラル63bにより加速されて爆轟が誘起される。その後は前述した動作メカニズムによって処理室3内の処理水に水中衝撃波を誘起して処理水中の水生生物及び細菌類を死滅処理する。
このとき、処理室3の内面の一部は供給側開閉弁装置9の弁ブロック35の湾曲溝43によって構成されているが、湾曲溝43と処理室3との境目には凹凸がないので、ここで水中衝撃波は減衰することなく処理水中を伝播して水生生物の死滅処理を効果的に行う。
【0029】
(3)その後、気体収束爆轟発生装置19の排気弁93を全開にし、燃焼排ガスを排ガス処理装置21に排気する。このとき、排ガス管27側に流した排ガスは、第2熱交換器91、第1熱交換器17を介して排ガス処理装置21に流入する。
(4)気体収束爆轟発生装置19の排気弁93を全閉にしたのち、処理室下流側の排出側開閉弁装置15を稼働して処理室3と排水管11の連通を開にすると共に、処理室上流側の供給側開閉弁装置9を稼働して給水管5と処理室3の連通を開にする。これによって、処理済み水が排水管11から排出されると共に処理水が処理室3の上流側から供給される。
このとき、処理前のバラスト水が直接処理室外に漏洩するのを防止するため、毎回、処理室内に処理済バラスト水が一部残留するように供給側開閉弁装置9及び排出側開閉弁装置15を開閉制御するのが好ましい。
また、供給側開閉弁装置9及び排出側開閉弁装置15の開放タイミングを同期させることで、流入量と同量が排出されることになり、水撃現象を防止できると共に処理水の注入及び処理済み水の排出のサイクルタイムを短縮できる。
【0030】
(5)処理済みバラスト水は、収束爆轟排ガスを熱源とする第1熱交換器17を介して加熱し、処理前バラスト水より比重を小さくした後、バラストタンク1の上部に戻される。このとき、処理済バラスト水は加熱され比重が小さくなっているので、加熱処理前バラスト水がバラストタンク底部に偏在することになり、次の処理では処理前バラスト水が選択的に処理室3に供給されるようになる。
(6)上記(1)〜(5)の工程を所定回数繰り返し、バラストタンク内の処理前バラスト水を処理室3に移送して死滅処理を行う。
上記各工程の動作は制御装置29によって自動的又は半自動的に行われる。なお、上記工程の爆轟動作を手動で行ってもよい。
なお、海水中の処理対象物のサイズが小さいなどの理由で死滅しにくい場合には、爆轟処理毎に処理室内のバラスト水を置換するのではなく、(2)〜(4)の工程を複数回繰り返すことにより、死滅処理効果を高めることができる。また、バラスト水処理前に、収束爆轟排ガスを熱源とする熱交換器を介してバラスト水を加熱した後、収束爆轟波による処理を行うようにしてもよい。このようにすることにより、水生生物の死滅処理効率を向上できる。
処理対象物としては、バクテリア、ウィルス、細菌、酵母、カビ、植物性又は動物性プランクトン、卵、稚魚、藻類などの比較的微小サイズの水生生物が考えられる。
【0031】
以上のように本実施の形態によれば、衝撃水圧で死滅処理をするようにしたので、再現性が良くかつその効果が大きく、結果的に省エネルギーである。また、毒物や有害物質を使用しないため、処理作業や処理済バラスト水の廃棄作業の際に二次公害の心配がなく安全性に優れる。さらに、船舶の運転とは独立に処理可能であるため、船舶の運転状況と関係なく死滅処理ができフレキシビリティーが大きい。
【0032】
また、処理室3の内面の一部を弁ブロック35の滑らかに湾曲する湾曲溝43によって構成し、かつ湾曲溝43と処理室3との境目には凹凸が生じないようにしたので、水中衝撃波の減衰を防止できる。また、凹凸部がある場合にはその部分に水中衝撃波が伝播せずに未処理部分が発生する可能性があるが、本実施の形態においてはこのような未処理部分の発生を防止でき、信頼性に優れる。
【0033】
また、衝撃水圧を発生させる装置として気体収束爆轟発生装置19を用いたので、装置がコンパクトにでき、設備費安価となり、保守・点検も容易なことから維持費も安価である。さらに、暖機運転が不要であることから運転費を安価に抑えることもできる。また、ガス充填圧を調整することにより、バラスト水の性状に応じて簡単な操作で水中衝撃波の強度(死滅処理効果)を大幅に変更することができる。
また、各配管に設けた開閉弁の開閉、燃料ガス及び酸化剤の供給、着火等の操作を自動的に行う制御装置29を配設したことにより、安全性が格段に向上し、高速繰り返し運転も可能となる。
さらに、エンジンと同様に瞬間的な高圧を利用するため、高圧ガス取締法の対象外であると共に、市販燃料を使用するため、本発明の実施に際して、特殊な資格や許認可を必要としないという特徴も有する。
また、船舶内で処理が可能なことから寄港先の事情に依存せずに完全処理可能となり信頼性が高い。航行中に処理が可能なことから処理時期の選択の自由度が大きく専任従事者が不要となり運転費安価となる。また、専用発電機が不要であり、この点においても省エネルギーである。
【0034】
上記の例のように航行中に処理を行う場合には、複数のバラストタンクを、バラスト水を注入したものと空のものとに分けておき、バラスト水を処理後に空のバラストタンクに戻すようにするのが好ましい。このようにすれば、処理前のバラスト水と処理後のバラスト水が混合することなく確実かつ効率的な処理ができる。この場合、バラスト水を処理して空になったバラストタンクには側壁や底部に未処理の水生生物が残留しているので、処理済みのバラスト水により洗い流して処理するとよい。
【0035】
なお、上記の実施の形態においては、バラスト水の処理を航行中に行う例を示したが、
荷揚げと同時に海水を取水してバラストタンクに注入する前にバラスト水の処理をするようにしてもよい。
また、荷の積み込みと同時にバラスト水の処理をするようにしてもよい。
つまり、荷揚げ時にはバラスト水を処理することなくバラストタンクへ供給し、船舶が荷の積み込みのために寄港した港で荷の積み込みと同時にバラストタンク内の海水を処理しながら放流する。
【0036】
なお、上記の実施の形態においては、船舶内に水生生物衝撃処理装置を設置した例を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、寄港地に設置してもよい。この場合、1台の装置で数多くの船舶に適用できるので装置の稼働率が向上し、その結果、運転費が安価になるという効果が期待できる。
【0037】
上記実施の形態においては処理水としてバラストタンクに供給する海水を例に挙げたが、本発明の水生生物衝撃処理装置は種々の処理水に対応可能である。例えば、循環浴用水、プール水、下水処理汚泥等を処理水とすることができる。
【0038】
[実施の形態2]
図6は本発明の実施の形態2の説明図であり、処理室3と給水管5の連結部を示したものである。なお、図6においては、実施の形態1を示した図2に示した部分と同一部分及び相当部分には同一の符号を付してある。
実施の形態1では、給水管5と処理室3との接続を処理室3の屈曲部で行う例であったが、本実施の形態では処理室3の直管部において処理室3と給水管5を接続するようにしたものである。
本実施の形態における供給側開閉弁装置9は、弁ブロック94と、該弁ブロック94を移動可能に収容するケーシング95と、該弁ブロック94を水平方向に移動させる油圧シリンダー96と、該油圧シリンダー96に作動油を供給する油圧発生装置97と、該油圧発生装置97を制御するコントローラ98とを備えている。
弁ブロック94は、図6に示されるように、処理室3と給水管5との連通を閉にした状態で処理室3の内壁の一部を構成し、その内壁面が断面半円弧状に形成されている。そして、処理室3の他の内壁面との間に凹凸が生じないように構成されている。
【0039】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様に、弁ブロック94と処理室3との境目には凹凸が生じないようにしたので、水中衝撃波の減衰を防止できる。また、凹凸部を無くしたことで、未処理部分の発生を防止でき、信頼性に優れる。
なお、給水管5と処理室3の軸線とが直交し、給水管5から供給される処理水が処理室3の壁面に衝突することになるが、弁ブロック94の形状が単純化でき、コストを低減できるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態の説明図であり、船舶の横断面を模式的に示したものである。
【図2】図1の一部の詳細を説明する説明図である。
【図3】図1,図2に示した弁ブロック35の説明図である。
【図4】図1,図2に示した弁ブロック47の説明図である。
【図5】気体収束爆轟発生部57の説明図である。
【図6】本発明の実施の形態2の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 バラストタンク
3 処理室
5 給水管
7 ポンプ
9 供給側開閉弁装置
11 排水管
15 排水側開閉弁装置
19 気体収束爆轟発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理水を貯留する処理室と、該処理室に処理水を供給する供給管と、該供給管と前記処理室との連通を開閉可能に連結する供給側開閉弁装置と、前記処理室内の処理水に衝撃水圧を発生させて処理水中の水生生物の死滅処理を行う衝撃水圧発生装置と、前記処理室の処理済み水を排出するための排水管と、該排水管と前記処理室との連通を開閉可能に連結する排出側開閉弁装置とを備え、前記供給側開閉弁装置における弁部材は閉状態において前記処理室の内壁面を構成すると共に該処理室の他の壁面と滑らかに連続するように構成されていることを特徴とする水生生物衝撃処理装置。
【請求項2】
供給側開閉弁装置は、処理室の軸線方向に向けて処理水が供給されるように前記処理室と供給管とを連結することを特徴とする請求項1記載の水生生物衝撃処理装置。
【請求項3】
供給側開閉弁装置及び排出側開閉弁装置における稼働部に異物が噛みこむのを防止するシール部材が設置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水生生物衝撃処理装置。
【請求項4】
供給側開閉弁装置及び排出側開閉弁装置の弁の開閉を制御する制御装置を備え、該制御装置は供給側開閉弁装置と排出側開閉弁装置の弁の開閉タイミングを同一の位相で行うように制御することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の水生生物衝撃処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−61866(P2006−61866A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249565(P2004−249565)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】