説明

水産練製品用弾力補強剤及び水産練製品

【課題】かまぼこ等の水産練製品の弾力性を向上し、食感に優れた水産練製品を提供する。
【解決手段】本発明は、全エーテル化度が0.3〜1.0、この内の酸型エーテル化度が50〜90%であり、かつ1重量%水溶液粘度が50〜1500mpa・sである部分酸型カルボキシメチルセルロースナトリウムを含有する水産練製品用弾力補強剤であり、その水産練製品用弾力補強剤を用いて製造された弾力性が向上し、食感に優れた水産練製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉から製造される水産練製品に弾力性を付与し、食感を向上される水産練製品用弾力補強剤及びそれを用いて製造された水産練製品に関する。
【背景技術】
【0002】
たら、すけそうだら等の冷凍魚から製造されるかまぼこ、チクワ、さつま揚げ、すり身、ハムソーセージ等の水産練製品には、歯ごたえなどの食感を向上するため適度の弾力性が求められている。従来、この弾力性を得るための弾力補強剤としては、でんぷんが主に用いられている他、卵白、大豆たんぱく、グルテン等も使用されている。
【0003】
水産練製品は、冷凍魚を原料とすることが多く、冷凍魚は冷凍すり身に変性、加工、保存されるが、一般に加工、保存中に肉が硬くなりゲル形成能が下がり弾力性が低下するため、水産練製品の弾力性を得るにはゲル強度を向上することが重要であり、このため食塩水に溶解、分散された蛋白質がペーストを形成し、加熱により水を包含しながら編目構造のゼリーを形成させるようにするが、従来のでんぷん等ではゲル強度の強化、弾力補強効果が弱く、また糊化しないと弾力補強効果は得られず、従来のでんぷん等では食感の向上が充分得られないのが実状であった。
【0004】
水産練製品に弾力性を付与するものとしては、天然セルロースやカルボキシメチルセルロースカルシウムの使用が有効とされ、魚肉に対して0.01〜5%の天然セルロースの添加、0.5〜4%のカルボキシメチルセルロースカルシウムを添加することが開示されている(特許文献1、2)が、これでも充分満足できる効果は得られていない。
【特許文献1】特開昭59−205963号公報
【特許文献2】特開平4−299964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記に鑑み、魚肉のゲル強度を向上し、かまぼこ等の水産練製品の弾力性を向上し優れた食感が得られる水産練製品用弾力補強剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、このような従来の問題点に着目し鋭意研究を重ねた結果、かまぼこ、すり身、チクワ等の水産練製品の製造において、冷凍魚すり身に対して特定の特性を有する部分酸型カルボキシメチルセルロースナトリウムを添加することにより、魚肉のゲル強度が増加し、水産練製品の破断強度、破断歪が向上して製品の食感を優れたものとし、同時に圧出水分量が減少し保水性、保存性が向上することを見出したものである。
【0007】
請求項1に記載の本発明は、全エーテル化度が0.3〜1.0、この内の酸型エーテル化度が50〜90%であり、かつ1重量%水溶液粘度が50〜1500mpa・sである部分酸型カルボキシメチルセルロースナトリウムを含有することを特徴とする水産練製品用弾力補強剤である。
【0008】
また、本発明は、請求項1に記載の水産練製品用弾力補強剤を用いて製造されたことを特徴とする水産練製品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る特定の部分酸型カルボキシメチルセルロースナトリムを含む弾力補強剤を冷凍すり身等の魚肉に添加することでゲル強度、弾力性を向上し、食感に優れたかまぼこ、チクワ、さつま揚げ、すり身、ハムソーセージ等の水産練製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水産練製品用弾力補強剤は、全エーテル化度が0.3〜1.0、この内の酸型エーテル化度が50〜90%であり、かつ1重量%水溶液粘度が50〜1500mpa・sである部分酸型カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、「部分酸型CMC」という)を含有するものである。
【0011】
本はに用いる部分酸型CMCは、全エーテル化度が0.3〜1.0である。全エーテル化度が0.3未満では水産練製品に充分な弾力性と保水力が得られず、1.0を超えると保水力を得ることはできるが、水産練製品の弾力性が低下し、歯ごたえのない柔らかな食感の水産練製品が出来てしまう。
【0012】
全エーテル化度の内の酸型エーテル化度が50%未満では、粘着性が生じ練製品の製造時に練り棒等に付着して混練効果を低下させる。逆に、90%を超えると水産練製品に充分な弾力性と保水力が得られなくなる。
【0013】
部分酸型CMCの粘度は1重量%水溶液(25℃)で50〜1500mpa・sであり、この粘度が50mpa・s未満では、水産練製品に充分な保水力を付与できず食感の柔らかいものになってしまう。また、粘度が1500mpa・sを超えると硬くなり歯ごたえの強いものが得られるがすり身を練り上げる作業時に高粘度化することで製造作業を低下させる為好ましくない。
【0014】
上記部分酸型CMCのすり身等の魚肉への使用量は、特に限定されないが、魚肉量に対して0.1〜5.0重量%の添加量が好ましく、より好ましくは0.2〜3.0重量%、さらに好ましくは0.5〜2.0重量%添加し使用することである。添加量が0.1重量%未満では本発明の効果が充分となり、5.0重量%を超えてもその効果は増大せず不経済となる。
【0015】
部分酸型CMCが水産練製品に対して、ゲル強度、弾力性を付与することができるのは、次の作用によるものと考えられる。
【0016】
すなわち、たら、すけそうだら等の冷凍魚は、冷凍すり身に変性、加工、保存されるが、一般に加工、保存中に肉が硬くなりゲル形成能が低下する。水産練製品は弾力性を向上するのにゲル強度が重要であり、食塩水に溶解、分散された蛋白質がペーストを形成し、加熱により水を包含しながら編目構造のゼリーを形成する必要がある。部分酸型CMCは適当な膨潤性と水不溶性を有し、ゲル強度の強化、弾力補強に寄与し水産練製品の破断強度、破断歪が向上させ、同時に圧出水分量が減少し保水性、保存性にも貢献するものと考えられる。
【0017】
この部分酸型CMCは、従来より使用されているでんぷん等の補強剤と併用しても何ら問題はなく、併用時においても部分酸型CMCの効果は認められる。また、でんぷんは糊化しないと弾力補強効果がないが、部分酸型CMCと併用するとそれぞれの特徴が強化された相乗効果をもたらすこともできる。
【0018】
なお、上記水産練製品には、本発明に係る弾力補強剤の他に、通常水産練製品に添加される、例えば、甘味料、pH調整剤、ビタミン類、ナトリウム塩等の酸化防止剤、呈味料(核酸、アミノ酸など)などの成分を添加してもよい。
【実施例】
【0019】
[部分酸型CMCの製造法]
〈CMC−Naの製造〉
2軸の撹拌翼を備えた容量3リットルのニーダー型反応機に、家庭用ミキサー等で粉砕したパルプ100gを仕込んだ。原料パルプとして、リンターパルプSHVE(バッカイ(株)製)およびN−DSP(日本製紙ケミカル株式会社製)を表1に記載の重量比で配合したものを使用した。IPA:水を重量比で70:30に調整した反応溶媒400g(IPA:水=280g:120g)に、表1に示した所定量の水酸化ナトリウムを溶解させて40℃に調整した溶液を反応機内に添加し、60分間撹拌し、アルカリセルロースを生成した。
【0020】
そののち、表1に示した所定量のモノクロル酢酸を等重量のIPAに溶解させた溶液を、30〜50℃で60分間かけて反応熱を抑えながら仕込んだ。仕込み後、30分間かけて85℃に昇温し、75〜90℃でエーテル化反応を60分間行った。反応機には冷却管を設置してIPAの気化発散を防止した。そののち、スラリー状の中和物を反応機より取り出し、遠心分離してIPA/水を除去した。固形分を30〜80%に調整し、CMC−Na(A)〜(E)を得た。
【0021】
【表1】

【0022】
得られたCMC−Na(A)〜(E)に対して、表2で示す配合量の20%硫酸を添加し30分間撹拌後、さらに70℃、50分間加熱して酸型CMC(A)〜(E)を調整した。
【0023】
【表2】

【0024】
得られた酸型CMC(A)〜(E)の粗生成物に対して、重量比で20倍となるように80%メタノール水溶液を添加し、30℃、50分撹拌した。撹拌後、遠心分離機でメタノール水溶液を遠心分離する操作を4回繰り返し、その後、固形分濃度50重量%の酸型CMC(A)〜(E)を調整した。
【0025】
この酸型CMC(A)〜(E)に水酸化ナトリウムを含む80%メタノール水溶液を添加し、スラリー状の溶液を調整し、30℃で50分間撹拌させ、部分酸型CMC(A)〜(E)を製造した。
【0026】
酸型CMCおよび水酸化ナトリウムの配合量は表3に示す。得られた部分酸型CMC(A)〜(E)を下記方法で分析した。分析値は表4に示す通りである。
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
[部分酸型CMCの分析方法]
〈水分の算出〉
試料1〜2gを秤量ビンに精密にはかりとり、105±2℃の定温乾燥機中において4時間乾燥し、デシケーター中にて冷却した後フタをして重さをはかり、その減料から水分を算出した。
【0030】
水分(%)={減量(g)/試料(g)}×100
〈1重量%水溶液粘度〉
300mlのトールビーカーに約2.5gの試料を精秤し、純水180mlを加えて均一に試料を分散させる。次に10%水酸ナトリウム水溶液を20ml加えて均一に分散させる。この水溶液に、試料中の水分を求め、1%水溶液を得るために必要な水量を下式により求める。
必要な水量(g)={試料(g)×(99−水分(%))}−(180+20)
この必要な水量を加えて、ガラス棒にて分散させる。
【0031】
上記溶液を一夜間放置後、マグネチックスターラーで約5分間かきまぜ、完全な溶液としたのち、口径約4.5mm、高さ約145mmのフタつき容器に移し、30分間25±0.2℃の恒温槽に入れ、溶液が25℃になればガラス棒でゆるくかきまぜて、BM型粘度計の適当なローターおよびガードを取り付け、ローターを回転させ開始3分後の目盛りを読みとる(回転数は30rpm、あるいは60rpm)。ローターNo、回転数によって係数を乗じて粘度値とする。
粘度=読取り目盛×係数(mPa・s)
【0032】
〈全エーテル化度(DS)〉
(1)全ナトリウム塩型CMCのDS
試料1g(純分換算)を磁性ルツボに入れて600℃で灰化し、灰化によって生成した酸化ナトリウムをN/10のHSO100mlを添加して中和した。次に、過剰のHSOをN/10のNaOHでフェノールフタレインを指示薬として滴定し、その滴下量Amlを用いて下記式より全ナトリウム塩型CMCのDSを求めた。
全ナトリウム塩型CMCのDS={162×(100f−Af)}/{10000−80(100f−Af)}
ここでf:N/10のHSOの力価
ここでf:N/10のNaOHの力価
【0033】
(2)得られた部分酸型CMCのCMC−Na化度および酸型CMC化度
試料1g(純分換算)を純水200mlとN/10のNaOH100mlが入っているフラスコ内に入れて溶解した。次に、過剰のN/10のNaOHをN/10のHSOでフェノールフタレインを指示薬として滴定し、その滴下量Bmlを得た。
【0034】
次に、別の試料1g(純分換算)を磁性ルツボに入れて600℃で灰化し、灰化によって生成した酸化ナトリウムをN/10のHSO100mlを添加して中和した。次に、過剰のHSOをN/10のNaOHでフェノールフタレインを指示薬として滴定し、その滴下量Cmlを得た。
【0035】
次に、次式によってCMC−Na化度および酸型CMC化度を求めた。
CMC−Na化度={162×(100f−Cf)}/{10000−58(100f−Bf)−80(100f−Bf)}
酸型CMC(CMC−H)化度=162×(100f−Bf)/{10000−58(100f−Bf)−80(100f−Cf)}
ここでf:N/10のHSOの力価
:N/10のNaOHの力価
【0036】
[試料(かまぼこ)の調整]
市販のすけそうだらを解体し、肉部分のみを切り取り、ケンウッドミキサーですりつぶす。このすり身100gに0.3%の食塩水30gを加え、表4に記載の部分酸型CMC(A)〜(E)を表5、6に記載の添加率で加えて4℃で20分間混練した。生成したすり身を呉羽化学工業(株)製クレハロンフィルム径30mmに入れて40℃で20分放置後、80℃で30分間加熱しかまぼこを作製し、16時間冷凍保存した。室温(25℃)に解凍した後、かまぼこの下記評価を行った。結果を表5に示す。
【0037】
[物性評価方法]
〈破断強度(g)〉
不動工業(株)製 NRM 2010−CW型レオメーターを使用し、φ10mmの球状プランジャーを用い、table speed(60mm/min)にてかまぼこの破断強度(g)を測定した。値が大きいほうが好ましい。
【0038】
〈破断歪(mm)〉
上記破断強度測定時の破断歪(mm)を測定した。歪の小さいほうが好ましい。
【0039】
〈圧出水分量(%)〉
東洋濾紙(株)製 No.3、9cm径の2層間に、厚さ約2mmにスライスしたかまぼこ2gを挟み、1kg/cmで3分間圧を加えて濾紙が吸収した水分増加量より圧出水分量を求めた。圧出水分量が少ない方が好ましい。
【0040】
〈食感評価〉
かまぼこを食し、下記基準に従い官能評価した。
◎: 弾力性がありシコシコ感が強い。
○:弾力性はあるがシコシコ感が弱い。
△: 弾力性、シコシコ感を感じない。
×: 柔らかく単なる魚肉のかたまりである。
【0041】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の弾力補強剤は魚肉から製造される、かまぼこ、チクワ、さつま揚げ、すり身、ハムソーセージ等の水産練製品に使用し食感を向上することができ、特にたら、すけそうだら等の冷凍魚から製造される水産練製品に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全エーテル化度が0.3〜1.0、この内の酸型エーテル化度が50〜90%であり、かつ1重量%水溶液粘度が50〜1500mpa・sである部分酸型カルボキシメチルセルロースナトリウムを含有することを特徴とする水産練製品用弾力補強剤。
【請求項2】
請求項1に記載の水産練製品用弾力補強剤を用いて製造されたことを特徴とする水産練製品。

【公開番号】特開2009−11188(P2009−11188A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173820(P2007−173820)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】