説明

水田の水位調節装置

【課題】 水田、特に棚田への給水と水位設定とが簡単に行える水田の水位調節装置を提供する。
【解決手段】 水田に連通する給排水口4aを設けた給排水パイプ4と、給排水パイプ4の下流側の水位設定枡5と、給排水パイプ4の上流側の逆流防止枡6と、逆流防止枡の上流側の用水供給弁7とを備え、水位設定枡5及び逆流防止枡6は、高さ調節可能な越流堰52,62をそれぞれ有している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水田の水位調節装置に関し、詳しくは、水田の農道部分に設置して田面水位を一定に保つための水位調節装置であって、特に、上位の水田から下位の水田に用水を順次供給する棚田に適した水位調節装置に関する。
【0002】
【従来の技術】傾斜地に階段状に水田が設けられたいわゆる棚田では、上位の水田と下位の水田とを区分する畦畔に両者の連絡通路となる溝を設け、この溝を介して上位の水田から下位の水田に用水を順次供給する田越し灌漑が採用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、この田越し灌漑の場合には、それぞれの畦畔に連絡通路となる畦畔を形成する作業が厄介であり、また、この溝の周辺部では稲の成育が悪くなるということがあった。すなわち、連絡通路となる溝を低温用水が絶え間なく流れると、この溝の周辺部では、低温用水の影響を受けて稲の成育が悪くなるという問題があった。
【0004】一方、農村の都市化に伴って農家の兼業化が進行するとともに、就業時間の短縮及び制限から農作業等の自動化及び省力化の要請が強まっており、水田の給水管理や施肥管理等の省力化が望まれている。
【0005】そこで本発明は、水田、特に棚田への給水と水位設定とが簡単に行える水田の水位調節装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の水田の水位調節装置は、水田の耕作区に連通する給排水口を設けた給排水パイプと、該給排水パイプの下流側に接続して田面水位を一定に維持するための水位設定枡と、給排水パイプの上流側に接続して給排水パイプ内の用水が上流側に逆流するのを防止するための逆流防止枡と、逆流防止枡の上流側に設けた用水供給弁とを備え、水位設定枡及び逆流防止枡は、高さ調節可能な越流堰をそれぞれ有しており、上流側の用水路から用水供給弁を介して逆流防止枡に流入した用水が、水位設定枡の越流堰より高位置に設定された逆流防止枡の越流堰を越えて給排水パイプに流入することにより給排水口から耕作区へ給水され、該耕作区の余剰の用水や雨水が給排水口から給排水パイプを介して水位設定枡に流入し、水位設定枡の越流堰を越えて下流側の用水路に流出するように構成したことを特徴としている。
【0007】さらに、前記越流堰が高さ調節可能な筒体であって、逆流防止枡の越流堰は、逆流防止枡の底部に上向きに開口した流入口内に前記筒体を上下動可能に嵌合したものであり、水位設定枡の越流堰は、水位設定枡の底部に上向きに開口した流出口内に前記筒体を上下動可能に嵌合したものであることを特徴としている。
【0008】また、前記用水供給弁の上流側を、前記用水供給弁を介して用水供給パイプに接続し、前記水位設定枡の下流側を、排水パイプに接続していることを特徴としている。
【0009】さらに、本発明の水田の水位調節装置は、水田の耕作区に連通する給排水口を設けた給排水パイプと、該給排水パイプの下流側に接続して田面水位を一定に維持するための水位設定枡と、給排水パイプの上流側に接続する上流側用水路及び水位設定枡の下流側に接続する下流側用水路とからなり、水位設定枡は、水位設定枡の底部に上向きに開口した流出口内に筒体を上下動可能に嵌合した水位設定用の越流堰を有しており、上流側の用水路から給排水パイプに流入した用水が給排水口から耕作区へ給水され、該耕作区の余剰の用水や雨水が給排水口から給排水パイプを介して水位設定枡に流入し、水位設定枡の越流堰を越えて下流側の用水路に流出するように構成したことを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明を、図面を参照してさらに詳細に説明する。図1乃至図6は、本発明の水田の水位調節装置の一形態例を示すもので、図1は階段状に設けられた棚田に本発明の水位調節装置を設置した状態を示す概略断面図,図2は水位調節装置の斜視図、図3R>3は概略断面図、図4は概略平面図、図5は水位調節装置を傾斜地に設置した場合の配管概略図、図6は水位調節装置を緩傾斜地に設置した場合の配管概略図である。
【0011】水位調節装置1は、階段状に設けられた棚田の畦畔や農道部分に設置されるもので、上位の耕作区2に設置された水位調節装置1と下位の耕作区2に設置された水位調節装置1とは、用水路(用水パイプ)3を介して接続しており、最上位の耕作区2に設置された水位調節装置1の上流側の用水路3には、給水タンク(図示せず)等の水源が接続している。
【0012】水位調節装置1は、耕作区2に連通する給排水口4aを設けた給排水パイプ4と、この給排水パイプ4の下流側に接続した水位設定枡5と、給排水パイプ4の上流側に接続した逆流防止枡6と、逆流防止枡6の上流側に設けた用水供給弁7とにより形成されている。用水供給弁7は、通常のゲートバルブ等の開閉弁からなるもので、操作ロッド7hにより開度を調節することにより、用水の供給や停止を行うことができる。
【0013】水位設定枡5は、軸線を鉛直方向に向けて設置した円筒状の本体部51の内部に、耕作区2の田面水位を一定に維持するための越流堰52を設けたもので、本体部51の側壁には、前記給排水パイプ4に接続する流入口53が設けられ、底部には、下流側の用水路3に接続する流出口54が上向きに開口した状態で設けられている。
【0014】越流堰52は、前記流出口54を形成する鉛直方向のパイプ54p内にパイプ52pを上下動可能に嵌合したものであって、パイプ52pには、本体部51の上方に延びる操作ロッド52hが設けられている。この操作ロッド52hの上部と本体部51とには、パイプ52pの位置、即ち越流堰52の高さ位置を表示するための目盛りM及び指標Nが設けられている。なお、パイプ54pとパイプ52pとの間には、水密性を図るとともに適度な摺動抵抗を与えるためのゴム製のシールパッキンを設けることが好ましい。
【0015】逆流防止枡6は、水位設定枡5と略同様の構造を有するものであって、軸線を鉛直方向に向けて設置した円筒状の本体部61の内部に、耕作区2からの用水の逆流を防止するための越流堰62が設けられている。また、本体部61の側壁には、前記給排水パイプ4に接続する流出口63が設けられ、底部には、上流側の用水路3に接続する流入口64が上向きに開口した状態で設けられている。
【0016】越流堰62は、前記流入口64を形成する鉛直方向のパイプ64p内にパイプ62pを上下動可能に嵌合したものであって、パイプ62pには、本体部61の上方に延びる操作ロッド62hが設けられている。また、前記同様に、操作ロッド62hと本体部61とには、越流堰62の高さ位置を表示する目盛りM及び指標Nが設けられており、パイプ64pとパイプ62pとの間にはシールパッキンを設けることが好ましい。
【0017】また、前記給排水パイプ4は、水平方向に設置したパイプの中央部側方に前記給排水口4aを設け、両端を、前記逆流防止枡6の流出口63と水位設定枡5の流入口53とにそれぞれ接続したものであって、耕作区2の底面が給排水口4aの中心になるように位置設定されている。
【0018】このように構成した水位調節装置1は、越流堰52と越流堰62とを所定の高さ位置に設定した状態で用いるもので、通常は、水位設定枡5の越流堰52を田面水位Lに応じた高さに、逆流防止枡6の越流堰62をそれよりも高い位置に設定する。この状態で用水供給弁7を開くと、上流側の用水路3から供給される用水は、まず、逆流防止枡6において、流入口64のパイプ64pからパイプ62p内を上昇して越流堰62を越え、流出口63を通って給排水パイプ4内に流入し、給排水口4aから耕作区2に供給される。
【0019】耕作区2の水位が所定水位以上に上昇すると、給排水パイプ4内の用水は、水位設定枡5の越流堰52を越えてパイプ52p及びパイプ54p内を流下し、流出口54から下流側の用水路3に流出する。すなわち、耕作区42に供給された余剰の用水や雨水は、給排水口4aから給排水パイプ4内に逆流し、水位設定枡5の越流堰52を越えて下流側の用水路3に流出する。したがって、耕作区2の水位が所定水位に達すると、逆流防止枡6を経て供給された余剰の用水は、耕作区2に供給されることなく水位設定枡5から下流側に排出される。このようにして各耕作区2の田面水位が一定に維持される。
【0020】このような用水管理を行うと、各耕作区2への用水の供給量を少なくできるため、上位の耕作区2から下位の耕作区2にわたって満遍なく用水を供給できるようになり、下位側の耕作区2で水不足が発生することもなくなる。また、耕作区2の田面水位が一定に維持されている状態では、耕作区2内の用水は外部に排出されないため、耕作区2に施用された農薬や肥料等が用水や雨水と共に外部に流出することも少なく、環境破壊の問題を招来するおそれもない。
【0021】さらに、逆流防止枡6を設けたことにより、用水の供給を停止した場合でも、耕作区2内の用水が上流側の用水路3に逆流することを防止できる。また、逆流防止枡6の越流堰62の高さと用水供給弁7の開度を適当に設定することにより、最適な用水供給状態が得られる。例えば、一度に大量の用水を必要とする水田の代掻き時には、用水供給弁7を全開状態にして逆流防止枡6の越流堰62を押し下げるとともに、水位設定枡5の越流堰52を引き上げることにより、水位調節装置1に供給される用水の全量を耕作区2に供給することができ、短時間で所定水位に上昇させることができる。逆に、耕作区2内の水を抜くときには、水位設定枡5の越流堰52を一杯に押し下げればよい。あるいは、パイプ54pからパイプ52pを抜き取るようにしてもよい。このとき、給排水口4aの近傍を掘り下げておくことにより、耕作区2内の水をより確実に短時間で排水することができる。
【0022】このような水位調節装置1を図1に示すような傾斜地の棚田に設置する場合は、上流側からの用水の供給が落差により自然に行えるので、図5に示すように、各耕作区2に沿ってU字溝等からなる1本の用水路3を設け、水位調節装置1の用水供給弁7側を最寄りの用水路3に接続し、水位設定枡5側を下位の耕作区2に対応した用水路3に接続すればよい。これにより、最寄りの用水路3から水位調節装置1に流入した用水の余剰分等は、水位設定枡5から下位の用水路3に自然に流下する。
【0023】一方、緩傾斜地に設けられた水田に水位調節装置1を設置する場合は、各耕作区2に沿って用水供給パイプ31と排水パイプ32とを設け、水位調節装置1の用水供給弁7側を用水供給パイプ31に、水位設定枡5側を排水パイプ32に、それぞれ接続することにより、水位設定枡5からの排水を確実に行うことができる。
【0024】図7は本発明の水田の水位調節装置の他の形態例を示す概略断面図である。この水位調節装置11は、前記形態例と同様の、給排水口4aを有する給排水パイプ4と、この給排水パイプ4の下流側に接続した水位設定枡5とにより形成したもので、上流側の逆流防止枡6を省略したものである。すなわち、上流側の用水路3から常に所定量以上の用水が供給され、逆流を防止する必要がない場合は、上流側の逆流防止枡6を省略することができる。給排水パイプ4及び水位設定枡5の構成は、前記形態例と同様に形成することができるので、前記形態例装置における構成要素と同一の構成要素には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0025】このように、特定の条件下においては、給排水パイプ4と水位設定枡5とからなる水位調節装置11を用いても、前記水位調節装置1と同様の作用効果を得ることができる。
【0026】なお、水位設定枡や逆流防止枡及び給排水パイプの形状は、上記形態例に限るものではなく、水位調節装置の設置条件に応じて最適な形状を適宜に選択することができる。また、越流堰の構造を蛇腹状にしたり、ゲート式にしたりすることもできる。さらに、各操作ロッドを、例えばねじ込み構造等により着脱可能に形成しておくことにより、必要時以外に越流堰等が操作されることを防止でき、操作ロッドに代えてモーター等により遠隔操作可能に形成することもでき、コンピューター等を使用して自動的に制御することも可能である。
【0027】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の水田の水位調節装置によれば、水田耕作区の田面水位を簡単な操作で一定に制御することができる。特に、棚田における灌漑を効率よく行うことができ、稲の成育に悪影響を及ぼすこともなくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の水位調節装置の設置例を示す概略断面図である。
【図2】 水位調節装置の斜視図である。
【図3】 同じく概略断面図である。
【図4】 同じく概略平面図である。
【図5】 水位調節装置を傾斜地に設置した場合の配管概略図である。
【図6】 水位調節装置を緩傾斜地に設置した場合の配管概略図である。
【図7】 水位調節装置の他の形態例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
1…水位調節装置、2…耕作区、3…用水路、31…用水供給パイプ、32…排水パイプ、4…給排水パイプ、4a…給排水口、5…水位設定枡、51…本体部、52…越流堰、53…流入口、54…流出口、6…逆流防止枡、61…本体部、62…越流堰、63…流出口、64…流入口、7…用水供給弁、7h…操作ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水田の耕作区に連通する給排水口を設けた給排水パイプと、該給排水パイプの下流側に接続して田面水位を一定に維持するための水位設定枡と、給排水パイプの上流側に接続して給排水パイプ内の用水が上流側に逆流するのを防止するための逆流防止枡と、逆流防止枡の上流側に設けた用水供給弁とを備え、水位設定枡及び逆流防止枡は、高さ調節可能な越流堰をそれぞれ有しており、上流側の用水路から用水供給弁を介して逆流防止枡に流入した用水が、水位設定枡の越流堰より高位置に設定された逆流防止枡の越流堰を越えて給排水パイプに流入することにより給排水口から耕作区へ給水され、該耕作区の余剰の用水や雨水が給排水口から給排水パイプを介して水位設定枡に流入し、水位設定枡の越流堰を越えて下流側の用水路に流出するように構成したことを特徴とする水田の水位調節装置。
【請求項2】 前記越流堰は、高さ調節可能な筒体であって、逆流防止枡の越流堰は、逆流防止枡の底部に上向きに開口した流入口内に前記筒体を上下動可能に嵌合したものであり、水位設定枡の越流堰は、水位設定枡の底部に上向きに開口した流出口内に前記筒体を上下動可能に嵌合したものであることを特徴とする請求項1記載の水田の水位調節装置。
【請求項3】 前記用水供給弁の上流側は、前記用水供給弁を介して用水が供給される用水供給パイプに接続し、前記水位設定枡の下流側は、用水を排出する排水パイプに接続していることを特徴とする請求項1記載の水田の水位調節装置。
【請求項4】 水田の耕作区に連通する給排水口を設けた給排水パイプと、該給排水パイプの下流側に接続して田面水位を一定に維持するための水位設定枡と、給排水パイプの上流側に接続する上流側用水路及び水位設定枡の下流側に接続する下流側用水路とからなり、水位設定枡は、水位設定枡の底部に上向きに開口した流出口内に筒体を上下動可能に嵌合した水位設定用の越流堰を有しており、上流側の用水路から給排水パイプに流入した用水が給排水口から耕作区へ給水され、該耕作区の余剰の用水や雨水が給排水口から給排水パイプを介して水位設定枡に流入し、水位設定枡の越流堰を越えて下流側の用水路に流出するように構成したことを特徴とする水田の水位調節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平10−178938
【公開日】平成10年(1998)7月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−343066
【出願日】平成8年(1996)12月24日
【出願人】(596029085)株式会社パディ研究所 (28)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)