説明

水田作業機におけるエンジンの取付構造

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、歩行型田植機等の水田作業機におけるエンジンの取付構造に関するものである。
【0002】
【従来技術及び発明が解決しようとする課題】一般に、この種歩行型田植機等の水田作業機においては、機体前部にエンジンおよびトランスミツシヨンケースが配設されている。しかるに従来では、エンジンとトランスミツシヨンケースとを前後に並ぶよう配置していたため、機体全長がどうしても長くなつて、機体重量の増加や旋回能力の低下が問題となつていた。そこで、トランスミツシヨンケースの上方にエンジンを配設して機体の全長を短くすることが提案されるが、トランスミツシヨンケースの上面部にエンジンを取付ける場合には、トランスミツシヨンケースとエンジンとの間にエンジン取付部材を介装する必要が生じることから、エンジンの配設位置がどうしても高くなつてしまい、このため機体前部が高くなつて前方視界を広く確保し得ないという新たな欠点が生じ問題となつている。
【0003】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの欠点を一掃することができる水田作業機におけるエンジンの取付構造を提供することを目的として創案されたものであつて、トランスミツシヨンケースの上方にエンジンを配設するにあたり、前記トランスミツシヨンケースの一側部を上方に向けて突設してエンジン動力入力機構が内装される入力ケース部を形成し、該入力ケース部にエンジンの側面を一体的に取付支持したことを特徴とするものである。そして本発明は、この構成によつて、エンジンの配設位置を可及的に低くして前方視界を広く確保することができるようにしたものである。
【0004】
【実施例】次に、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。図面において、1は歩行型の田植機であつて、該田植機1は、前方にエンジン2を搭載する一方、後方には前低後高の苗載台3が設けられ、そして機体走行にタイミングを合わせた植付け爪4の植付作動によつて苗載台3から単位植付苗を掻取つて田面に植付けるが、これらの基本構成は何れも従来通りである。
【0005】5は前記エンジン2の動力を入力するトランスミツシヨンケースであつて、該トランスミツシヨンケース5は、左右ケース6、7および中間ケース8によつて形成されるものであるが、内装される変速機構は、第一〜第五の変速軸S1〜S5を備え、そして第一変速軸S1が入力したエンジン動力を、第三変速軸S3から走行系に出力する一方、第四変速軸S4に設けられるスプロケツト9から植付系に出力すべく構成されている。
【0006】5aは前記トランスミツシヨンケース5に形成される入力ケース部であつて、該入力ケース部5aは、左ケース6および中間ケース8を上方に突出した上端部によつて形成されるものである。つまりこのものは、トランスミツシヨンケース5の左端部から上方に向けて突出し、その内部には、エンジン2の出力軸2aにスプライン嵌合する入力ギヤ10と、該入力ギヤ10および第一変速軸S1の固定ギヤ11に噛合する中間ギヤ12とが内装されている。
【0007】さらに、13はスペーサであつて、該スペーサ13は、エンジン2の出力軸突出側面にボルト14を用いて一体的に取付けられるが、さらにスペーサ13は、前記左ケース6および中間ケース8を貫通するボルト15を用いてトランスミツシヨンケース5の入力ケース部5aに一体的に固定されている。即ち、エンジン2をトランスミツシヨンケース5の上方に配設するにあたり、トランスミツシヨンケース5の上面にエンジン2を取付けるのではなく、トランスミツシヨンケース5の左側部を上方に向けて突出形成した入力ケース部5aの側面にエンジン2の側面を取付支持しており、これによつてエンジン2の下面とトランスミツシヨンケース5の上面とを僅かな間隙Kを存して可及的に近接させることができるようになつている。
【0008】一方、前記第四変速軸S4のスプロケツト9から出力される植付系動力は、チエン16を介してスプロケツト17に伝動されると共に、植付伝動軸に兼用される第五変速軸S5に伝動された後、伝動ケース18内のチエン19を介して機体後部の植付け爪4等に伝動されるが、前記スプロケツト17と第五変速軸S5との間には、植付系動力を断続するための植付クラツチ機構20が介設されている。この植付クラツチ機構20は、対向面にそれぞれ噛合爪が形成される固定クラツチ21および可動クラツチ22を備え、そして固定クラツチ21はスプロケツト17に一体的に連結される一方、可動クラツチ22は第五変速軸S5にスプライン嵌合して軸芯方向スライド自在となつている。つまり、可動クラツチ22にはシフトフオーク23が連繋され、該シフトフオーク23の操作によつて可動クラツチ22の噛合状態を選択することにより植付系動力を断続操作できるようになつている。
【0009】24はトランスミツシヨンケース5内に突設されるストツパであつて、該ストツパ24は、前記可動クラツチ22のフランジ部22aに対向するよう設けられ、そしてフランジ部22aと接当する状態では可動クラツチ22の切り側へのスライドを規制する一方、フランジ部22aの切欠き22b位置に一致する状態ではこれを許容するようになつている。即ち、前記フランジ部22aの切欠き22bは、植付け爪4が上方に位置する状態でストツパ位置に一致するよう形成され、この様にして植付け爪4の定位置停止機構が構成されている。
【0010】さらに、25はトランスミツシヨンケース5の外面部に設けられるシフトレバーであつて、該シフトレバー25は、シフト軸26を介して前記シフトフオーク23に一体的に連結されるものであり、そしてシフトレバー25の一端部には、植付クラツチレバー27に連繋される操作ロツド27aの前端が枢結される一方、他端部には、シフトフオーク23を入り側に付勢するための戻し弾機28が連繋されているが、シフトレバー25と操作ロツド27aとの連結部は、シフトレバー25の切り方向への揺動を常時許容するべく長孔25aに形成されている。即ち、植付クラツチ機構20は、植付け爪4に過負荷が作用した場合に、可動クラツチ22が戻し弾機28の付勢力に抗して切り側にスライドして動力伝動を断つ所謂トルクリミツタに兼用されている。
【0011】ところで、前記シフトレバー25の他端部には、戻し弾機28を係着するための係着孔25bが形成されるが、該係着孔25bは、戻し弾機28の付勢方向に沿つて複数形成され、そして何れの係着孔25bに係着するかを選択することによつて戻し弾機28の付勢力を調整できるよう構成されている。つまり、トルクリミツタの作動負荷を調整可能であるが、この調整は、従来の如くトランスミツシヨンケース5に内装される弾機の付勢力調整によつて行うことなく、トランスミツシヨンケース5の外部に設けられる戻し弾機28の付勢力調整によつてなされることになるため、トランスミツシヨンケース5の分解を不要にして調整作業を著しく簡略化することができる。
【0012】また、29は田植機1の後部に設けられるハンドルであつて、該ハンドル29は、平面視Y字状に形成されるものであるが、その基端部は、機体フレームに兼用される前記伝動ケース18と一体に連結されており、これによつて構造を簡略化すると共に、組立て性を向上させることができるようになつている。
【0013】叙述の如く構成された本発明の実施例において、トランスミツシヨンケース5の上方にエンジン2を配設するものであるが、エンジン2は、トランスミツシヨンケース5の上面に取付けられることなく、トランスミツシヨンケース5の左側部を上方に向けて突出形成した入力ケース部5aの側面にスペーサ13を介して取付支持されている。つまり、エンジン2の下面とトランスミツシヨンケース5の上面との間に、エンジン取付部材を介設する必要がなく、トランスミツシヨンケース5の一側部を上方に向けて突設して形成した入力ケース部5aがエンジン2の取付支持部材となり、このため、エンジン2を支持するための入力ケース部5aがトランスミツシヨンケース5と一体化した強固なケース構造になるだけでなく、トランスミツシヨンケース5と入力ケース部とを各別に用意して固定する場合に必要なケース同志の突合せ面と専用の固定部材とが不要になつて、その分、コンパクト化、構造の簡略化を計ることができる。しかも、エンジン2をトランスミツシヨンケース5の上方位置に可及的に近接配置できることになり、この結果、機体前部の高さ寸法を低く設定して前方視界を広く確保することができる。
【0014】さらに、実施例のエンジン取付構造は、エンジン2とトランスミツシヨンケース5の間にスペーサ13を介設するのみの極めて簡略なものであり、しかもスペーサ13は、左ケース6と中間ケース8との固定をするためのボルト15を兼用してトランスミツシヨンケース5に固定されるため、軽量化およびコストダウンに大いに寄与することができる。
【0015】
【作用効果】以上要するに、本発明は叙述の如く構成されたものであるから、トランスミツシヨンケースの上方にエンジンを配設して機体全長を短くしようとするものでありながら、トランスミツシヨンケースの一側部を上方に向けて突設して形成した入力ケース部にエンジンの側面を一体的に取付支持したため、エンジンを支持するための入力ケース部がトランスミツシヨンケースと一体化した強固なケース構造になるだけでなく、トランスミツシヨンケースと入力ケース部とを各別に用意して固定する場合に必要なケース同志の突合せ面と専用の固定部材とが不要になつて、その分、コンパクト化、構造の簡略化を計ることができる。しかも、トランスミツシヨンケースと入力ケース部とをエンジン下面とトランスミツシヨンケース上面との間にエンジン取付部材の介設スペースを確保することが不要となつて、エンジンをトランスミツシヨンケースに近接配置できることになる。従つて、エンジンの配設位置を可及的に低くし得て、この結果、機体の前部高さを低く抑えて前方視界を広く確保することができ、もつて操作性の向上を計れる許りか、作業精度の向上にも貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】田植機の平面図である。
【図2】エンジンの取付状態を示す側面図である。
【図3】同上一部切欠き背面図である。
【図4】トランスミツシヨンケースの要部断面図である。
【図5】植付クラツチ機構の断面図である。
【図6】可動クラツチの正面図である。
【図7】シフトレバーの正面図である。
【図8】機体フレームの平面図である。
【符号の説明】
1 田植機
2 エンジン
5 トランスミツシヨンケース
5a 入力ケース部
13 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 トランスミツシヨンケースの上方にエンジンを配設するにあたり、前記トランスミツシヨンケースの一側部を上方に向けて突設してエンジン動力入力機構が内装される入力ケース部を形成し、該入力ケース部にエンジンの側面を一体的に取付支持したことを特徴とする水田作業機におけるエンジンの取付構造。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図4】
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【特許番号】第2919164号
【登録日】平成11年(1999)4月23日
【発行日】平成11年(1999)7月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−73284
【出願日】平成4年(1992)2月25日
【公開番号】特開平5−229349
【公開日】平成5年(1993)9月7日
【審査請求日】平成10年(1998)2月25日
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【参考文献】
【文献】実開 平3−98124(JP,U)
【文献】実開 昭51−149007(JP,U)
【文献】実公 昭50−19927(JP,Y2)