説明

水田用の除草作業機

【課題】弾力性及び可撓性を有する線材を放射方向に突設した除草輪を、苗条に臨ませて回転駆動し進行させることにより、苗の損傷を防止しながら除草を行うことができる水田用の除草作業機を提供する。
【解決手段】機体を走行させながら除草をする水田用の除草作業機3であって、回転駆動される横向きの除草軸23に、弾力性及び可撓性を有する線材33を放射方向に密植状態で突設した除草輪を軸支し、該除草輪を苗条の直上方に位置させ苗条方向に隣接する苗の株間で線材33を接地させて撓ませながら、除草輪を回転駆動させることにより除草するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗の植付け後に圃場の雑草を除去する水田用の除草作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、苗の植付け後に圃場の雑草を除去する水田用の除草作業機は、植付け苗条の条間を除草する条間除草機構と、苗条における隣接する苗の株間を除草する株間除草機構を備えたものが公知となっている(例えば特許文献1参照。)。
この除草作業機の条間除草機構は、プレス成形された複数の除草爪を回転させる在来の田車と同様の除草ロータとし、株間除草機構は該除草ロータの前方で各苗条に臨む位置において、複数(3本)の線材を下向きに垂設し、その下方端部に後向きに屈折した除草作用部を有するタインを左右に往復移動させる構造となっている。
【0003】
また畑作用の除草作業機ではあるが、走行機体の前部に装着されて苗条の左右に隣接する条間を、弾性ワイヤよりなる除草爪を横向きの除草軸に放射状に突設した、トラクタロータリ状の除草爪本体を高速回転させて除草する除草機が公知となっている(例えば特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3624211号公報
【特許文献2】特開2009−33981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示される水田用の除草作業機は、苗条の条間を回転する除草ロータによって除草すると共に、株間を線材の左右往復運動によって除草するので、苗の全体に対し雑草の取り残しを防止した除草を行おうとするものである。然しながら、上記株間除草機構は上方から垂設されるタインが苗に真横から直接接当することがあるため、特に苗が小さい時期に行われる除草初期においては、タインの除草作用部が根部を損傷させて除草後の苗の成長を阻害する。また地面の凹凸等によりタイン下端の除草作用部が雑草の根部より深くなると除草効果がほとんどなく、地面に対する除草作業機の高さ制御も煩雑になる等の欠点がある。
【0006】
また上記特許文献2に示される畑作用の除草作業機は、除草爪本体を高速回転させながら除草軸に突設した除草爪によって条間の地面を打ち叩いて進み、条間内の雑草を土壌ごと粉砕・埋没させて除草するものである。
然し、この除草作業機は苗条が大きく曲がっているときや、蛇行運転されたりする場合に、除草爪は条間から一側に向けて外れることになり、外れ方向に植立されている苗も打ち叩いて進むことになる。従って、高速回転する除草爪は、弾性を有していてもワイヤの自重が大きく遠心力によって強く棒状に伸びた状態で回転するので、苗に対してワイヤが強く接当し葉茎の腰折れや裂損、並びに根を傷付ける等の損傷を生じ易いものである。また同時に除草爪は、他側にある苗条から離れるために株間の除草ができない等の欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の水田用の除草作業機は、第1に、機体を走行させながら除草をする水田用の除草作業機3において、回転駆動される横向きの除草軸23に、弾力性及び可撓性を有する線材33を放射方向に密植状態で突設した除草輪29を軸支し、該除草輪29を苗条の直上方に位置させ苗条方向に隣接する苗の株間で線材33を接地させて撓ませながら、除草輪29を回転駆動させることにより除草するように構成したことを特徴としている。
【0008】
第2に、除草輪29は、苗条の上方に臨む株間除草輪21と、該株間除草輪21に隣接し苗条の条間に臨ませる条間除草輪22とからなることを特徴としている。
【0009】
第3に、株間除草輪21が有する線材33の先端回転直径と、条間除草輪22が有する線材50の先端回転直径とを略等しくすると共に、条間除草輪22の線材50を、株間除草輪21の線材33より短くしたことを特徴としている。
【0010】
第4に、条間除草輪22を、線材50を突設したブラシ除草体43を取付輪体41に着脱可能に取付けて構成すると共に、ブラシ除草体43と硬質な除草爪51を突設した除草爪体52とを付替え自在に構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、回転駆動される横向きの除草軸に、弾力性及び可撓性を有する線材を放射方向に密植状態で突設した除草輪を軸支したことにより、除草輪を苗条の直上方に位置させ回転駆動しながら進行させるとき、線材は苗条方向に隣接する苗の株間で接地し撓みながら株間の除草を確実に行う。このとき線材は弾力性及び可撓性を有しているので、葉茎部や株元との接触により前後及び側方に向けて撓むため苗の損傷を防止することができる。また地面に対する除草作業機3の多少の高さの変化や地面の凹凸に対し、線材33は接地抵抗に応じ撓み量を変え屈伸しながら地表面に追従し回転するので、接地面全体の除草を均等的に行うことができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、除草輪は、苗条の上方に臨む株間除草輪と、該株間除草輪に隣接し苗条の条間に臨ませる条間除草輪とから構成したことにより、株間除草輪を苗条に一致させて進行し株間の除草を確実に行うと共に、苗条に隣接する条間の除草を条間除草輪によって同時に能率よく行うことができる。また蛇行運転が行われた場合に、苗に条間除草輪の線材が接触しても当該線材は弾力的に撓むため苗の損傷を防止しながら株際の除草を行うので、除草作業を容易にすることができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、株間除草輪が有する線材の先端回転直径と、条間除草輪が有する線材の先端回転直径とを略等しくすると共に、条間除草輪側の線材を株間除草輪側の線材より短くしたことにより、株間除草輪は長く撓み易い線材によって苗との強い接触を防止し、株間の除草を苗の損傷を防止しながら確実に行ない、また条間除草輪は短く腰の強い線材によって条間に繁茂する雑草を確実に除草すると共に、蛇行運転時等に苗に接触する線材は弾力的に撓むため苗の引き抜きを防止し株際の除草を行うことができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、条間除草輪を、線材を突設したブラシ除草体を取付輪体に着脱可能に取付けて構成すると共に、ブラシ除草体と硬質な除草爪を突設した除草爪体とを付替え自在に構成したことにより、苗が小さい除草初期に、取付輪体にブラシ除草体を取付けた条間除草輪による条間の除草を行うことがきるので、走行機体が大きく蛇行したり旋回されるような場合に線材が苗に接触したとしても、線材が弾力性を有して根部との強い接触による損傷や苗の引き抜き等を防止することができる。また苗が成長した除草後期等において、条間除草輪は硬質の除草爪体を取付けることができるので、繁茂した条間内の雑草を除草爪によって土の反転作用により確実に除草することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】除草機の側面図である。
【図2】除草作業機の要部の構成を示す全体背面図である。
【図3】除草部の全体側面図である。
【図4】株間除草輪の側面図である。
【図5】条間除草輪の側面図である。
【図6】株間除草輪の作用を示す側面図である。
【図7】除草作業部の別実施形態を示す背面図である。
【図8】除草作業部のさらに別実施形態の要部を示す背面図である。
【図9】除草作業機の別実施形態を示す斜視図である。
【図10】移植25日後のコナギ発生調査の実験データを表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1,図2において符号1は、従来公知の乗用田植機と同様の走行機体である。この走行機体1は左右の前輪2及び後輪2aを備え、該前輪2及び後輪2aは圃場(水田)に植え付けられている4条分の苗条を跨いで移動することができる。そして、走行機体1の後部に対し、除草作業機3を装着することにより除草機として使用される。
【0017】
走行機体1の前部には、エンジンルームを覆うボンネット4が設けられている。ボンネット4の後方には運転席6が設けられている。運転席6内には座席7が設けられている。座席7の前方にはフロント操作パネル8が設けられている。フロント操作パネル8にはステアリングハンドル9や主変速レバー11等が備えられている。
【0018】
走行機体1の後部には昇降リンク機構12が設けられている。該昇降リンク機構12は油圧シリンダ13の伸縮動作によって上下昇降駆動される。この昇降リンク機構12の終端部に設けられるヒッチホルダ14には、除草作業機3が作業機フレーム15の前部に構成されるブラケット16を介し、着脱可能に取り付けられ且つ左右方向にローリング自在に取り付けられる。
【0019】
作業機フレーム15は、ブラケット16から後方に延設される左右の縦フレーム17と、該縦フレーム17の後部を連結する横フレーム18と、該横フレーム18の左右端に垂設される軸支フレーム19等から構成されている。
そして、左右の軸支フレーム19の下部に除草軸23の両端を回転自在に軸支し、該除草軸23に本発明に関わる株間除草輪21と条間除草輪22等からなる除草輪29を軸支している。
【0020】
作業機フレーム15は、左右の縦フレーム17の中間に走行機体1から伝動軸25を介して入力される伝動ケース26を固設しており、該伝動ケース26から左側の縦フレーム17に取付けたチェンケース27に対し伝動パイプ28内の伝動軸を介して伝動するようにしている。チェンケース27は左側の後輪2aの後方に配設され、ケース下部に除草軸23の中途部を嵌挿した状態で軸支している。
【0021】
これにより、除草軸23はチェンケース27内のチェンを介して伝動され、株間除草輪21と条間除草輪22とからなる除草輪29を、矢印方向(機体進行方向)に回転駆動させる。
また除草輪29はその上方を、左右の縦フレーム17の間で作業機フレーム15に固設される、側面視で半円弧状をなす除草部カバー31によって覆っている。
【0022】
上記のように構成される実施形態の除草輪29は図2で示すように、6条分の苗条に対し除草作業を行うことができる。即ち、各株間除草輪21はその幅中心が各苗条に臨むように除草軸23に軸支され、条間除草輪22は各株間除草輪21に隣接し条間に臨むように軸支している。
これにより除草作業機3は、回転駆動される株間除草輪21を苗条の直上を進行させるので、株間及び苗株元の周囲(苗際)の除草を苗の損傷を抑制して行い、且つ条間除草輪22によって条間の除草を効率よく行う。
【0023】
次に、各株間除草輪21と条間除草輪22の構造及び作用について説明する。先ず図2〜図6で示すように株間除草輪21は、6角形断面をなす除草軸23に軸支されるボス部32の外周に、ナイロン等のプラスチック材からなる弾力性及び可撓性を有する線材33を放射方向に密植状態で突設している。この線材33は線径が2ミリ以下で自重が小さいものであること、及び複数本の線材33をブラシ状に束ねて形成した線材束(ブラシ部)33aにした状態で、ボス外周及びボス長さ方向に一定の疎間隔状態に植設されることが望ましい。この場合にはブラシ部33aは、各線材33の基部側が収束された状態で先端側が広げられた密植状態になり、細く撓み易い線材33であっても、基部側の強度を有する腰が強い状態で、先端側が苗の葉茎部に柔らかく接触することになる。
【0024】
また図4で示すように株間除草輪21は、ボス部32を左右対称に2分割した分割ボス部34,35で構成しており、これを前記除草軸23に両外から嵌め合わせることにより軸孔36を形成することができる。そして、各ボス部34,35は除草軸23に嵌め合わせた状態で、その両端にボルト37を挿入しナット38を螺挿し締着することにより、除草軸23の所定位置に株間除草輪21を簡単に構成することができる。
【0025】
また株間除草輪21は、ボス部32の幅を100ミリ程度とし、ボス軸方向に3個のブラシ部33aを突設したブラシ列と、2個のブラシ部33aを突設したブラシ列とが、ボス外周面において交互に齟齬するように周方向に等間隔を有して配設されている。(図2,図4)これにより株間除草輪21は、線材33の先端突設幅(ブラシ幅)がボス幅と等しいか又は広い幅となり、ブラシ幅の中央に苗条の苗が対向位置するようにして、苗の上方から接地させることができる。これにより株間除草輪21は、株間及び苗の左右等の苗際全体に接地して除草をするようにしている。
【0026】
次に、条間除草輪22について図2,図3,図5を参照し説明する。この条間除草輪22は、除草軸23に対し在来の田車と同様に挿脱自在に位置決め固定して取付けられる取付輪体41と、該取付輪体41の外周側に横設される複数の取付座42に着脱自在に取付けられるブラシ除草体43等からなる。
取付輪体41は、除草軸23に嵌挿される円盤状板の中心に取付孔44を穿設した左右の取付板46と、該左右の取付板46を外周方向に等間隔を有して放射方向姿勢で接続する取付座42とからなる。
【0027】
ブラシ除草体43は、上記取付座42に複数のボルト47とナット48によって着脱自在に取付けられる長方形のブラシ基板49と、該ブラシ基板49の外側端面に前記株間除草輪21と同様に、ナイロン等のプラスッチック材からなり一定の弾力性と可撓性を有する複数本の線材50を突設している。尚、この線材50は線径が3ミリ以下で自重が小さいものであること、及び前記線材33と比較し強い弾力性を有した曲がり難い部材にしている。また各線材50は複数本のものをブラシ状に束ねて形成した線材束(ブラシ部)50aとし、ブラシ基板49に疎間隔に植設される。また隣接するブラシ除草体43に突設されるブラシ部50aを互いに齟齬するように設けることにより、条間の田面全体を確実に除草することができる。
【0028】
上記取付輪体41は、左右の取付板46を長さを異にした取付座42によって接続することにより、各所で必要とされる除草幅に製作することができる。そして、除草幅に対応する取付輪体41と同じ幅のブラシ除草体43を取付座42に取付けることにより、各除草幅を有する条間除草輪22が構成されて、除草軸23の所定位置に装着される。
これにより除草輪29は図2に示すように、左右の後輪2aの間(轍幅内)にある4条分の苗条に対向して4個の株間除草輪21が配設され、隣接する株間除草輪21の間には広幅の条間除草輪22が配置される。
【0029】
そして、除草軸23に装着される最外側の条間除草輪22は、条間幅(300ミリ程度)の2分の1から3分の1程度の中間幅となしている。また後輪2a,2aが通過する条間は、当該後輪2aが有するタイヤラグの形状によって田面が耕された状態になって除草されるため、対向する背後位置への条間除草輪22の配設を省略していると共に、後輪2aによって耕された部位を滑走することにより平坦に均す橇体(図示せず)を設けている。尚、一般的に各苗条の株間は、100〜300ミリ程度に設定される。
【0030】
上記のように構成される除草輪29において、実施形態の株間除草輪21は、ボス部32の直径を100ミリ程度とし、且つ線材33の回転軌跡先端の直径を370ミリ程度にしている。また条間除草輪22はブラシ基板49の外側端回転軌跡の直径を250ミリ程度にし、線材50の先端回転軌跡の直径を350ミリ程度にしている。尚、除草輪29の回転方向は、機体を走行させて除草を行うときの前、後輪2,2aの回転方向と同じであり、除草軸23の回転数は150〜400rpmの範囲の回転を選択することができ、圃場の状態や苗の成長並びに株間の間隔等に対応して、株間除草輪21及び条間除草輪22は走行速度よりも速い周速となるように適宜選択されるものである。
【0031】
これによれば、昇降リンク機構12を介して除草作業機3を下降させ、除草輪29を接地させて除草作業を行うとき、図3で示すように条間除草輪22の線材50の先端を、湛水面Sの下位にある田面(地面)Gに接地させた状態にすると、株間除草輪21の線材33の先端は、前記線材回転軌跡先端の直径の差異分だけ地中に突入させて回転することになる。
【0032】
そして、株間除草輪21の線材33は、その長さを条間除草輪22の線材50より85ミリ程度と長くして用いているので、苗に接当したとき柔らかな弾力性を有して撓み易くしている。従って、株間除草輪21が苗を上方から踏み付けるように回転しながら前進するとき、線材33は苗に柔らかく接触し撓みながら苗を回転方向に向けて後方に曲げて逃がすため苗の損傷を防止することができる。また密植状の線材33の先端は地中に深く突入するので、除草作用を確実に行うことができる等の特徴がある。
一方、条間除草輪22の線材50は、上記線材33よりも短かくすることにより腰を強くしているため、苗際(苗の株元周り)よりも多く繁茂している条間の雑草を、湛水中で田面(地表)の泥土と共に、掻き回しながら除草を促進する等の特徴がある。
【0033】
また線材50は、必要により線材33より線径を太くしたり強い弾力性を有する材質のものを選択することができる。この場合には当該線材50を有するブラシ除草体43を取付座42に付替えることにより、条間除草輪22はより腰の強い線材50によって、成長繁茂した雑草を確実に除草することができる。
また株間除草輪21も同様に、線径或いは材質を異ならせた線材33を有するボス部32を用意しておくことにより、これを除草初期、中期、末期等の除草時期に合わせて選択することができ、苗の成長に適応した各時期に育つ雑草を苗傷みを抑制しながら簡単に除草することができる。
【0034】
次に、以上のように構成される除草作業機3による除草作業について説明する。先ず除草機は走行機体1の後部に備えた除草作業機3を下降し、除草輪29を田面に接地させて前進走行することにより、除草軸23を介して条間除草輪22と株間除草輪21を回転駆動して除草作業を行う。これにより6条苗列分の各条間は各条間除草輪22によって除草され、且つ当該条間除草輪22では除草不能とされる株間及び苗際の除草を、条間除草輪22の線材50より弱くて撓み易い弾力性を有する線材33を束ねて突設した株間除草輪21によって、苗を傷めることなく効率よく除草することができる。
【0035】
このとき矢印方向に回転する株間除草輪21は、図6で示すように上方に位置し伸直状態にある線材33が回転によって接地すると、該線材33を田面Gへの突入抵抗により弾力性に抗して矢印A方向(反回転方向)に撓ませ、除草軸23の略直下において撓み量を最大にする。
次いで、この線材33は、回転により地中抵抗が少なくなることに伴い、自身の弾力性によって地中で伸直方向に復帰動しながら、田面Gから抜け出る際に地中抵抗が解除されることによって、矢印B方向(回転方向)に向けて急反転(バネ反転)する。
【0036】
これにより株間及び株元の側方に生えている苗際の雑草は、この除草時期においては根が短い浅根であることから、線材33の反回転方向の撓みによって地中に押し込まれて埋没し除草(沈み除草)される。また押し込まれなかった雑草は、地中から弾力性により伸直状に戻る線材33に引っ掛けられ、強制的な回転と撓んだ線材33が矢印B方向に反転する復元力により引抜かれ、後方に向けて跳ね上げられ水面Sに浮遊状態になって除草(浮き除草)される。尚、水面Sに浮遊状態になった雑草は、その成長が阻害されやがて枯れるので除草されたことになる。また埋没された雑草や新たな雑草が芽生えたとしても、この頃には苗が大きく生長しているので、日光が遮られて雑草の成長は抑制される。
【0037】
また苗条に一致するように配設される株間除草輪21は、線材33が苗を図6で示すように回転方向(後方)に曲げた状態で、線材33の先端を隣接する苗の間(株間)に入り込ませるので、前記した除草作業をスムーズに行い株間の除草をより確実に行う。
このとき粗間隔に突設されているブラシ部33aの密植状に束ねられた各線材33は、株元や葉茎部に柔らかく接触し自身の弾力性及び可撓性によって、前後及び側方に向けて曲がって撓むと共に、その接触を前進及び回転によって速やかに解除する。従って、従来困難とされていた株間の除草を、除草時の苗の損傷を防止しながら精度よく容易に行うことができると共に、簡潔な除草構造にすることができる等の特徴がある。
【0038】
尚、この際に株間除草輪21によって傾倒される傾倒苗は、線材33が線材50より撓み易い構成になっているため、根部側の苗成長点を屈曲したり傷めることなく柔らかく苗を曲げること、及び湛水中で曲がったり傾倒される苗は葉茎部が水面S上に速やかに浮き上がることになる。従って、この苗は成長復帰力により数時間で元の起立姿勢に復帰するので、雑草が除去された状態でより順調に成長するものである。
また上記のような初期除草時期での雑草の根部の長さは数センチであるのに対し、稲苗の根部長さは既に5センチ以上に成長しているため、例え線材33が苗根部に接触したとしても、雑草のように根が掘り起こされたり大きく損傷を受けたりすることはないものである。また撓み易い線材33は、地中に数センチ程度侵入する長さにすることもでき、根部の損傷を防止しながら苗際の除草をより確実に行うことができる。
【0039】
さらに、苗条に対向する株間除草輪21とその両側に条間除草輪22を備えた除草作業機3は、除草作業時に走行機体1が少々蛇行運転されたとしても、株間除草輪21が十分な除草幅を有しているので、苗の損傷を防止すると共に株間の除草を支障なく行うことができる。また例えば、走行機体1が大きく蛇行したり除草作業機3が適切に上昇されないまま旋回されるような場合には、車体後方で株間除草輪21が側方に振られて苗条から外れるため、外れた苗条には隣接する条間除草輪22が回転しながら接触することになる。このような場合に苗は、条間除草輪22の線材50に一時的に接触するが、当該線材50は線材33より短い長さで可撓性を有しているため、根部との強い接触や苗の引き抜き等を生じさせることなく、苗際の除草を支障なく行うことができる。さらに、地面に対する除草作業機3の高さに多少の変化があっても、また地面の凹凸に対しても、株間除草輪21と条間除草輪22の線材33,50は、接地抵抗に応じ撓み量を変え屈伸しながら地表面に追従し回転するので、従来のように除草作用部が、雑草の根部より深く入り込んで除草不能となるようなことがなく、接地面全体の除草を漏れなく均等的に行うことができると共に、地面に対する除草作業機3の高さ制御を行い易くすることができる等の特徴がある。
【0040】
次に、上記除草作業機3による除草作業実験の態様及び除草調査データについて、図10を参照し説明する。この実験調査は、苗を移植したまま除草をしない無除草の水田区(A区)と、苗を移植してから3日後に1回だけ除草を行った水田区(B区)と、移植10日後に1回だけ除草を行った水田区(C区)と、移植3日後と10日後との2回の除草を行った水田区(D区)とにおいて、苗を移植してから25日を経た後に1ヘーホメートル当たりの株間面積に生育し存在している雑草(コナギ)の発生本数を数えたものである。これにより、除草輪29による株間の除草効果の確認と好適な除草作業を検討した。
【0041】
調査の結果は上記図10で示すように、除草をしないまま25日間放置したA区の雑草(コナギ)発生数は、718本であった。また1回除草の雑草(コナギ)発生数は、B区で280本でありC区で65本であった。また2回除草のD区における雑草(コナギ)発生数は、15本であった。これによれば1回除草を行うときは、3日後よりも10日後に除草を行うことにより高い除草効果があることが認められた。この原因としては、3日後では雑草(コナギ)の発生が揃わず除草作業後に雑草(コナギ)が新たに発生したためと推察される。除草回数は1回よりも2回以上行うことが効果的であることが認められた。
【0042】
次に、図7,図8に示す除草輪29の別実施形態について説明する。尚、前記実施形態のものと同様な構成及び作用については説明を省略する。先ず図7に示す除草輪29は、除草軸23の左右と中央部位に、弾力性及び可撓性を有する線材33を密植状態で放射方向に突設した各所定長さのボス部32を、着脱自在に取付けることにより構成にしている。この例による除草輪29は、各ボス部32の軸方向に突設した線材33を苗条の直上方に臨ませ且つ苗条の条間に臨ませることができ、苗条方向に隣接する苗の株間で線材33を接地させて撓ませることにより除草し、他の線材33により条間の除草を同時に行うことができる。
【0043】
さらに、除草輪29は除草軸23に前記取付輪体41を用いることなく、各ボス部32を利用して株間除草輪21と条間除草輪22とを構成するので、除草輪29の軽量化を図ることができる等の利点がある。
尚、上記構成による除草輪29は、除草初期においてはボス部32の全長に同じ線材33を突設したものを使用してもよく、また除草中期並びに除草後期においては、各除草時期に適応した腰の強さを有する線材33並びに線材50をボス部32の適正位置に突設し、前記実施形態のものと同様な各除草作用を備えた株間除草輪21と条間除草輪22を構成して使用することもできる。
【0044】
また株間除草輪21と条間除草輪22を、両者の対応するボス部32を個別に分割して各ボス部32毎に線材33と線材50を突設して構成することもできる。この場合には、各除草時期毎に適応した除草ができる腰の強さを有する線材33並びに線材50を突設したものの使用を、利便性を有して適切に選択することができる利点がある。このとき条間除草輪22側のボス部32は、その直径を大きくすると、線材50の長さを線材33より短くして腰を強くすることができる。
【0045】
次に、除草輪29のさらに別実施形態について図8を参照し説明する。この除草輪29は、前記各条間除草輪22の取付輪体41に、ブラシ除草体43に代えて在来の除草用田車に使用されるものと同様な、鉄板製の板爪等からなる硬質な除草爪51を取付けて使用する例を示している。この場合には、前記条間除草輪22の取付輪体41に横設される取付座42から、線材50を有するブラシ除草体43を取外したのち、各除草幅に対応する除草爪51の長さと本数を有する除草爪体52を、その基部を上記取付座42に、ボルト47とナット48によって取付けることにより、田車型の条間除草輪22を簡単に構成することができる。
【0046】
この構成による除草作業機3は、条間除草輪22の取付輪体41を変更することなく、線材50を有するブラシ除草体43と、除草爪51を有する除草爪体52とを、安価な構成によって簡単に付替えることができる。
従って、上記除草輪29を備えた除草作業機3は、苗の植付けから日数が少ない除草初期において、ブラシ除草体43による条間の除草を苗の損傷を防止しながら行うことができる。また各株間除草輪21の両側に各所定の除草幅を有する田車型の条間除草輪22を備えた除草輪29を簡単に構成することができる。
また田車型の条間除草輪22は、条間に接地し回転する各除草爪51が、田面Gの地表を反転させながら掘り起こすことにより除草すると共に、地中への酸素の供給を同時に行うことができる。
【0047】
尚、上記各実施形態における除草輪29は、除草軸23を走行機体1側から駆動するものに限定することなく、除草作業機3側に設けたモータ等の駆動源によって回転駆動させたり、例えば除草作業機3の機体側に設置されて接地することにより回転する接地駆動部材から、適宜な増速機構を介して回転駆動するようにしてもよい。
また線材33及び線材50は、プラスチック材の他に一定の弾力性と可撓性を有する鋼線や繊維材にすることもできる。
【0048】
さらに、除草作業機3は、線材33を除草軸23の外周に少なくとも苗条の直上方に臨む除草幅(例えば100ミリ程度)で放射方向に突設した除草輪29の構造にする場合には、当該除草輪29の後方に別の除草軸等の取付部材を設けると共に、該取付部材に前記形態の条間除草輪22或いは在来構造による多車型やレーキ型の除草具を装着することによって条間の除草を行うことができる。
【0049】
次に、除草作業機3の別実施形態について図9を参照し説明する。この除草作業機3は歩行式であって、機体フレーム56の前方で回転駆動される除草輪29(前側除草輪29a)と、後方で回転駆動される除草輪29(後側除草輪29b)とを設け、前後に配置される両除草輪29によって株間の除草と条間の除草とを同時期に複数回(図示例では2回)行う、複数回除草をすることができる。尚、前側除草輪29aと後側除草輪29bは、前記図7で説明した除草輪29と同様な構成により線材33を配設している。また除草作業機3は必要により除草輪29を追加すると、同時に3回除草をすることができる。
【0050】
即ち、この除草作業機3は、機体フレーム56をベースフレーム57と該ベースフレーム57の後部に一体的に延設される二股状のハンドル58とから構成しており、ベースフレーム57にはエンジン59と伝動ケース61を載置している。
伝動ケース61はエンジン動力を入力し左外側に設置した分配伝動ケース61aから、チェンケース62を介し後側除草輪29bを回転駆動し、且つ伝動パイプ63を介し前側除草輪29aを回転駆動することができる。
【0051】
この構成において前側除草輪29aの除草軸23は、分配伝動ケース61aから前方に向けて延設される伝動パイプ63と、該伝動パイプ63と対をなすように伝動ケース61から延設される支持パイプ65との前部に回転自在に軸支している。
一方、後側除草輪29bの除草軸23は、ベースフレーム57の左側に固設されるチェンケース62と右側に固設される軸支フレーム64の下部に回転自在に軸支している。そして、この除草軸23には、チェンケース62と軸支フレーム64の間にドラム状の接地輪67を軸装していると共に、左右に突出する軸部に後側除草輪29bを軸支している。
【0052】
実施形態の前側除草輪29aは、前方において機体の中央(接地輪67の左右)に位置する2条の苗条の株間と、当該苗条に隣接する中央及びその左右の条間の除草を行う。また後方左右の各後側除草輪29bは、接地輪67の左右に隣接する2条の苗条の株間とその条間の除草を行う。
そして、伝動パイプ64と支持パイプ65の前部には、前側除草輪29aの両側前部で条間に接地して滑走させる橇体68を設けている。また接地輪67のドラム表面には、田面に突入して接地駆動力を高めると共に、条間の除草を行う突起爪69を多数突設している。
【0053】
以上のように構成される除草作業機3は、図9で示すように接地輪67を条間に位置させ橇体68及び接地輪67が機体重量を支えた状態で、前側除草輪29aと後側除草輪29bとを回転駆動すると前進しながら除草作業を行う。即ち、機体は接地輪67の接地回転による走行駆動力によって前進走行すると共に、前側除草輪29aと後側除草輪29bとが各対応する苗条及び条間の除草をする。
【0054】
このとき機体中央側の2条の苗条とその間の条間並びに左右に隣接する条間とは、前側除草輪29aと後側除草輪29bによって2回除草が行われる。また外側に位置する外側苗条は、機体を旋回させて復路走行を行う際に、後側除草輪29bが外側苗条の上を再び接地回転して除草することにより2回除草が行われる。
従って、圃場に植立している4条分の苗条の除草及びその条間除草を、能率よく2回除草(複数段除草)を行うことができると共に、1回除草によって柔らかくなった地面に対し2回目の除草を行うので除草精度を高めることができる。
【0055】
さらに、実施形態の除草作業機3は、複数苗条に跨る前側除草輪29aと後側除草輪29bとを備えているので、重量のあるエンジン59等の搭載する場合でも、機体の沈下を防止しながら安定的に支持することができる。また前側除草輪29a及び後側除草輪29bは、各除草軸23に密植状態で放射方向に突設した弾力性及び可撓性を有する線材33,(50)を備えているので、地面の凹凸に対しそれぞれの接地抵抗に応じて撓み量を変えながら回転するため、接地面全体の除草を漏れなく行うと共に、走行駆動力を効率よく発揮することができる等の特徴がある。
【0056】
一方、除草作業機3の小型軽量化或いは小規模圃場での利便性を必要とする除草をする場合には、例えば前側除草輪29aを省略し後側除草輪29bだけで除草を行う形態、又は後側除草輪29bを省略し前側除草輪29aだけで除草を行う形態にしてもよい。
この場合に、接地輪67を備えることが望ましいが機体の軽量簡潔化が求められる場合に、接地輪67を省略すると共に接地滑走用の橇体を設けることができる。尚、いずれの場合でも各除草輪29は、機体重量並びに雑草の種類や生育状態に対応し、太さと長さ並びに弾力性を備えた線材33,50を選択して構成される。
【符号の説明】
【0057】
1 走行機体
3 除草作業機
21 株間除草輪
22 条間除草輪
23 除草軸
29 除草輪
33,50 線材
43 ブラシ除草体
51 除草爪
52 除草爪体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体を走行させながら除草をする水田用の除草作業機(3)において、回転駆動される横向きの除草軸(23)に、弾力性及び可撓性を有する線材(33)を放射方向に密植状態で突設した除草輪(29)を軸支し、該除草輪(29)を苗条の直上方に位置させ苗条方向に隣接する苗の株間で線材(33)を接地させて撓ませながら、除草輪(29)を回転駆動させることにより除草するように構成したことを特徴とする水田用の除草作業機。
【請求項2】
除草輪(29)は、苗条の上方に臨む株間除草輪(21)と、該株間除草輪(21)に隣接し苗条の条間に臨む条間除草輪(22)とからなる請求項1記載の水田用の除草作業機。
【請求項3】
株間除草輪(21)が有する線材(33)の先端回転直径と、条間除草輪(22)が有する線材(50)の先端回転直径とを略等しくすると共に、条間除草輪(22)の線材(50)を、株間除草輪(21)の線材(33)より短くした請求項2記載の水田用の除草作業機。
【請求項4】
条間除草輪(22)を、線材(50)を突設したブラシ除草体(43)を取付輪体(41)に着脱可能に取付けて構成すると共に、ブラシ除草体(43)と硬質な除草爪(51)を突設した除草爪体(52)とを付替え自在に構成した請求項2又は3記載の水田用の除草作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−187073(P2012−187073A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55058(P2011−55058)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】