説明

水田用除草装置

【課題】植付けられた苗条を跨いで移動可能な作業車両に備える水田用除草装置により、田植え後の水田に生える雑草を湛水状態で除去する際、苗条に沿って移動する作業車両が耕盤の変化等により左右に蛇行して水田用除草装置が左右に振れ、それによって苗が押し倒されて損傷が発生するといった不具合を解消する。
【解決手段】水田用除草装置10を横軸中心に回転する除草車30からなる回転式の除草手段31,32,33と、弾性を有するレーキ式の除草手段35,36とで構成すると共に、前記回転式の除草手段31,32,33がレーキ式の除草手段35,36より作業車両11に近接する状態で、両除草手段31,32,33,35,36を前後に並べて配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植え後の水田に生える雑草を湛水状態で除去する水田用除草装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、田植え後の苗が活着した状態の水田を移動しながら水田に生える雑草を湛水状態で除去する水田用除草装置として、作業車両の前部に移動方向に対して左右に往復揺動するツースを左右幅方向に複数個設け、その揺動により雑草の根部或いは茎葉部にツースを作用させて雑草を湛水面に浮き上がらせると共に、当該ツースを苗の茎葉に接触すべく苗列に沿って移動可能に配設した第1の除草作業装置と、作業車両の後部に湛水中を撹拌すべく苗の条間に沿って移動しながら回転する除草ロータを複数個設けた第2の水田除草装置を備えた構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
更に特許文献1においては、第1の水田除草装置と第2の水田除草装置とを、共に作業車両の後部または前部に昇降自在に連結し、両水田除草装置を取り付けるための昇降機構の兼用化を図ることが提案されている。
【特許文献1】特開2000−92906号公報(第2−3頁、図1−図4、図7−図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献1に提案されている第1の水田除草装置と第2の水田除草装置とを、共に作業車両の後部または前部に昇降自在に連結するものでは、両水田除草装置を強制駆動させるための駆動機構が複雑化してコスト高となり、また図7〜図9に示される別実施例の如く作業車両の後部に両水田除草装置を連結した構成のものでは、第2の水田除草装置である除草ロータよりも前側、即ち作業車両の近傍に第1の水田除草装置であるツースが配設されており、植付けられた苗条に沿って移動する作業車両が水田の耕盤の変化等により左右に蛇行した場合は、前記ツースよりも作業車両から離れた位置に配設されている除草ロータが左右に大きく振れ、それによって苗が押し倒されて損傷が発生するといった不具合を有しており、十分なものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、植付けられた苗条を跨いで移動可能な作業車両に備える水田用除草装置であって、前記水田用除草装置を横軸中心に回転する除草車からなる回転式の除草手段と、弾性を有するレーキ式の除草手段とで構成すると共に、前記回転式の除草手段がレーキ式の除草手段より作業車両に近接する状態で、両除草手段を前後に並べて配置したことを第1の特徴としている。
【0006】
そして、前記水田用除草装置は、苗条の条間で作用する回転式の除草手段と、苗条の株間で作用するレーキ式の除草手段と、苗条の条間で作用するレーキ式の除草手段とからなり、且つその順に作業車両の後部に配置して構成したことを第2の特徴としている。
【0007】
また、植付けられた苗条を跨いで移動可能な作業車両に備える水田用除草装置であって、前記水田用除草装置を横軸中心に回転する除草車からなる回転式の除草手段で構成すると共に、前記除草車が偏心回転するように構成したことを第3の特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、植付けられた苗条を跨いで移動可能な作業車両に備える水田用除草装置であって、前記水田用除草装置を横軸中心に回転する除草車からなる回転式の除草手段と、弾性を有するレーキ式の除草手段とで構成すると共に、前記回転式の除草手段がレーキ式の除草手段より作業車両に近接する状態で、両除草手段を前後に並べて配置したことによって、植付けられた苗条に沿って移動する作業車両が水田の耕盤の変化等により左右に蛇行したとしても、除草車からなる回転式の除草手段は、作業車両に近接する状態で配置されているので左右に大きく振れることがなく、この回転式の除草手段によって苗が押し倒されて損傷が発生するといった不具合を軽減させることができる。また、回転式の除草手段よりも作業車両から離れた位置に配置されているレーキ式の除草手段は弾性を有しており、作業車両が左右に蛇行することによりレーキ式の除草手段の先端が苗に接触しても、当該除草手段の弾性によって苗の折れや引き抜きが発生することを回避できる。
【0009】
そして、請求項2の発明によれば、前記水田用除草装置は、苗条の条間で作用する回転式の除草手段と、苗条の株間で作用するレーキ式の除草手段と、苗条の条間で作用するレーキ式の除草手段とからなり、且つその順に作業車両の後部に配置して構成したことによって、苗条の条間に生える雑草を二種類の除草手段、即ち回転式の除草手段とレーキ式の除草手段でもって確実に除去することができると共に、苗条の株間に生える雑草を効率的にレーキ式の除草手段で除去することができる。更に苗条の株間で作用するレーキ式の除草手段が、苗条の条間で作用するレーキ式の除草手段よりも作業車両に近接するように配置してあるので、作業車両が左右に蛇行した場合でも苗条の株間で作用するレーキ式の除草手段の先端と苗の根部との不要な接触が起こり難くなり、両者の接触によって苗の根部の損傷が発生することを軽減できるようになる。
【0010】
また、請求項3の発明によれば、植付けられた苗条を跨いで移動可能な作業車両に備える水田用除草装置であって、前記水田用除草装置を横軸中心に回転する除草車からなる回転式の除草手段で構成すると共に、前記除草車が偏心回転するように構成したことによって、回転式の除草手段に生じる不円滑な回転ムラ、即ち周速差を利用して回転式の除草手段に巻き付こうとする長い雑草や、切藁等を自動的に脱落させることができるので、回転式の除草手段への雑草や、切藁等の巻き付きを減少させることが可能になり、更に当該除草手段に巻き付いた雑草や、切藁等を除去する作業頻度が低減され、連続して除草作業を行うことができるようになって作業性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、本発明の水田用除草装置10を作業車両11の後方に取り付けた状態を示す側面図と平面図である。
【0012】
前記作業車両11は、一般的な乗用型田植機の本機部を利用したものであって、当該作業車両11は、左右の前輪12及び後輪13に支持される走行機体14を有し、この走行機体14の前部にはボンネット15で覆われたエンジン16が搭載されると共に、ボンネット15の後方にはステアリングハンドル17や主変速レバー18等を備えた操縦部19、及び運転席21等が配設されており、水田に植付けられた苗条を跨いで移動することができる。
【0013】
そして、走行機体14の後部には昇降リンク機構22が設けられており、この昇降リンク機構22の終端部のヒッチホルダ23を介して水田用除草装置10を着脱可能に取り付けている。尚、昇降リンク機構22は油圧シリンダ24の伸縮動作により上下に昇降連動するが、これらの基本的な構成は何れも従来通りであり詳細な説明を省略する。
【0014】
次に水田用除草装置10の構成について説明する。水田用除草装置10は、ヒッチホルダ23にローリング可能に支承すると共に、作業車両11の幅方向(左右方向)に横設した角パイプ製のローリングフレーム25をベースとして取り付けたセンタフロート26、左右のサイドフロート27、走行機体14の進行方向に対する横軸中心に自由回転可能な除草車30からなる回転式の除草手段31,32,33、及びレーキ式の除草手段であるのレーキ35,36等から構成している。尚、前記除草車30は田面との接地抵抗によって走行機体14の進行方向に転動する。
【0015】
更に詳しくは、ローリングフレーム25の左右両側には、支持フレーム41,41が後方に向けて延設してあり、この支持フレーム41,41に所定の前後間隔を存して横設したレーキ取り付けバー42,42に、前記レーキ35,36を所定の間隔を存して幅方向に取り付けることができるようになっている。また、支持フレーム41,41の終端部には、水田用除草装置10を接地姿勢で支持する左右一対のスタンド43,43を折り畳み可能に設けている。
【0016】
そして、センタフロート26は、ヒッチホルダ23の下部に延設した支持部材23aに上下揺動可能に支承すると共に、作業車両11である乗用型田植機の本機部に備える従来の油圧感知機構45を利用して、田面の湛水状態や土質に応じた水田用除草装置10の高さ調節が自動的に行えるようになっている。一方、左右のサイドフロート27は、前記支持フレーム41,41の基端部から垂下する支持部材46,46に上下揺動可能に支承すると共に、左右の前輪12及び後輪13と走行機体14の幅方向でラップする位置に配設してあって、当該前輪12及び後輪13の車輪後消し作用も兼ねている。
【0017】
また、上述した回転式の除草手段31は、センタフロート26の後方に配置すべく、ローリングフレーム25の幅方向中間位置から垂下する支持部材47に取り付けてある。つまり、回転式の除草手段31は、図2において、植え付けられた苗条に便宜上付与した記号N1〜N8のうち、中央の苗条N4とN5の条間で除草手段として作用する。
【0018】
同様に、回転式の除草手段32は、センタフロート26の左側に隣接する苗条N4とN3との条間、及びセンタフロート26の右側に隣接する苗条N5とN6との条間に配置すべく、ローリングフレーム25から垂下する支持部材47に取り付けてある。つまり、回転式の除草手段32は、苗条N4とN3との条間、及び苗条N5とN6との条間で除草手段として作用する。
【0019】
更に、回転式の除草手段33は、左側のサイドフロート27の外側に隣接する苗条N2とN1との条間、及び右側のサイドフロート27の外側に隣接する苗条N7とN8との条間に配置すべく、ローリングフレーム25から垂下する支持部材47に取り付けてある。つまり、回転式の除草手段33は、苗条N2とN1との条間、及び苗条N7とN8との条間で除草手段として作用する。
【0020】
また、前側のレーキ取り付けバー42には、苗条N2、N3、N4,N5,N6,N7,N8に対応して、これらの苗条の株を挟み込むような先端形状を備えて弾性を有するレーキ35を螺着してあり、このレーキ35が苗条の株間で除草手段として作用する。
【0021】
そして、後側のレーキ取り付けバー42には、回転式の除草手段31の後方で中央の苗条N4とN5との条間、左側回転式の除草手段32の後方で苗条N3とN4との条間、右側回転式の除草手段32の後方で苗条N5とN6との条間、最左側回転式の除草手段33の後方で苗条N1とN2との条間、及び最右側回転式の除草手段の33後方で苗条N7とN7との条間に対応し、これら条間の除草手段として作用する末広がりの先端形状を備えて弾性を有するレーキ36を螺着してある。
【0022】
尚、上述したローリングフレーム25から垂下する支持部材47に取り付けられている回転式の除草手段31,32,33は、何れもローリングフレーム25と支持部材47
との間で高さ調節できる構成になっており、またレーキ式の除草手段35,36も前後のレーキ取り付けバー42,42に対して高さ調節可能な取り付け構成になっている。
【0023】
また、左右の後輪13の後方、即ち苗条N2とN3との条間及び苗条N6とN7との条間には、当該後輪13のラグによる田面の泥土の巻き込み作用によって得られる除草効果と、その後方に配設したサイドフロート27による車輪後消し作用による整地効果が期待できることから特別な除草手段を設けていない。
【0024】
以上説明したように構成した水田用除草装置10は、横軸中心に回転する除草車30からなる回転式の除草手段31,32,33と、弾性を有するレーキ式の除草手段であるレーキ35,36とで構成すると共に、前記回転式の除草手段31,32,33がレーキ式の除草手段35,36より作業車両11に近接する状態で、両除草手段31,32,33,35,36を前後に並べて配置したことによって、植付けられた苗条に沿って移動する作業車両11が水田の耕盤の変化等により左右に蛇行したとしても、除草車30からなる回転式の除草手段31,32,33は、作業車両11に近接する状態で配置されているので左右に大きく振れることがなく、この回転式の除草手段31,32,33によって苗が押し倒されて損傷が発生するといった不具合を軽減させることができる。
【0025】
また、回転式の除草手段31,32,33よりも作業車両11から離れた位置に配置されているレーキ式の除草手段35,36は弾性を有しており、作業車両11が左右に蛇行することによりレーキ式の除草手段35,36の先端が苗に接触しても、当該除草手段35,36の弾性によって苗の折れや引き抜きが発生することを回避できる。
【0026】
更に、前記水田用除草装置10を、苗条の条間で作用する回転式の除草手段31,32,33と、苗条の株間で作用するレーキ式の除草手段35と、苗条の条間で作用するレーキ式の除草手段36とで構成し、且つその順に作業車両11の後部に配置して構成したことによって、苗条の条間に生える雑草を二種類の除草手段、即ち回転式の除草手段31,32,33とレーキ式の除草手段35でもって確実に除去することができると共に、苗条の株間に生える雑草を効率的にレーキ式の除草手段36で除去することができる。更に苗条の株間で作用するレーキ式の除草手段35が、苗条の条間で作用するレーキ式の除草手段36よりも作業車両11に近接するように配置してあるので、作業車両11が左右に蛇行した場合でも苗条の株間で作用するレーキ式の除草手段35の先端と苗の根部との不要な接触が起こり難くなり、両者の接触によって苗の根部の損傷が発生することを軽減できるようになる。
【0027】
また、前記水田用除草装置10は、水田に植付けられた苗条を跨いで移動可能な作業車両11の後部に備える昇降リンク機構22を介して取り付けた牽引方式の除草装置であって、当該水田用除草装置10を構成する回転式の除草手段31,32,33、及びレーキ式の除草手段35,36を、強制的に回転または揺動させる駆動機構を特別に設けなくて済むので製作コストの低減が図れる。
【0028】
そして、前記水田用除草装置10による除草は、植付けられた苗が活着した状態の水田の湛水深さを除草後の雑草が浮き上がる程度の深さとし、且つ苗条の条間及び株間に植生している雑草の根部の土壌を、水田用除草装置10を構成する回転式の除草手段31,32,33の除草車30と、レーキ式の除草手段であるレーキ35,36で撹拌しながら、当該雑草を引き抜くことができるように水田用除草装置10の高さを適宜調節することによって、湛水面に浮き上げられた雑草を枯死させて精度の高い除草作業が能率的に行えるようになる。
【0029】
即ち、図1に示すように、回転式の除草手段31,32,33を構成する除草車30の掻き込み爪30aの先端と、その後方で苗条の株間で作用するレーキ式の除草手段を構成するレーキ35の先端を略同高さに調節して、当該レーキ35の先端と苗の根部との不要な接触を回避すると共に、更にその後方において苗条の条間で作用するレーキ式の除草手段を構成するレーキ36の先端を、前記レーキ35の先端よりも深く調節することによって当該レーキ36による能率的な除草作業が行える。
【0030】
また、上述した回転式の除草手段31,32,33は、図1及び図3に示す側面図のように、外周に複数の掻き込み爪30aを有して横軸中心に自由回転する前後に二連の除草車30,30を備えているが、両除草車30,30の回転軸Sを本来の回転中心Pから図示寸法Lの如く偏心させて設けることによって、両除草車30,30が偏心回転するように構成し、以って両除草車30,30に生じる不円滑な回転ムラ、即ち周速差を利用して両除草車30,30に巻き付こうとする長い雑草や、切藁等を自動的に脱落させることができるので、両除草車30,30への雑草や、切藁等の巻き付きを減少させることが可能になり、更に両除草車30,30に巻き付いた雑草や、切藁等を除去する作業頻度が低減され、連続して除草作業を行うことができるようになって作業性が向上する。
【0031】
尚、前記回転式の除草手段31,32,33を構成する除草車30は二連に設けなくてもよく、また当該除草車30は、図4及び図5に示すように、外周に設けた複数の板30bに波状の掻き込み歯Tを形成してなる籠状のロータであってもよく、本実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】水田用除草装置を作業車両の後方に取り付けた状態を示す側面図。
【図2】同上平面図。
【図3】回転式の除草手段である除草車の側面図。
【図4】除草車の別実施例を示す側面図。
【図5】図4におけるA矢視図。
【符号の説明】
【0033】
10 水田用除草装置
11 作業車両
30 除草車
31 回転式の除草手段
32 回転式の除草手段
33 回転式の除草手段
35 レーキ式の除草手段
36 レーキ式の除草手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植付けられた苗条を跨いで移動可能な作業車両(11)に備える水田用除草装置(10)であって、前記水田用除草装置(10)を横軸中心に回転する除草車(30)からなる回転式の除草手段(31,32,33)と、弾性を有するレーキ式の除草手段(35,36)とで構成すると共に、前記回転式の除草手段(31,32,33)がレーキ式の除草手段(35,36)より作業車両(11)に近接する状態で、両除草手段(31,32,33,35,36)を前後に並べて配置したことを特徴とする水田用除草装置。
【請求項2】
前記水田用除草装置(10)は、苗条の条間で作用する回転式の除草手段(31,32,33)と、苗条の株間で作用するレーキ式の除草手段(35)と、苗条の条間で作用するレーキ式の除草手段(36)とからなり、且つその順に作業車両(11)の後部に配置して構成したことを特徴とする請求項1に記載の水田用除草装置。
【請求項3】
植付けられた苗条を跨いで移動可能な作業車両(11)に備える水田用除草装置(10)であって、前記水田用除草装置(10)を横軸中心に回転する除草車(30)からなる回転式の除草手段(31,32,33)で構成すると共に、前記除草車(30)が偏心回転するように構成したことを特徴とする水田用除草装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−61014(P2006−61014A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243820(P2004−243820)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】