説明

水硬性粉体の製造方法

【課題】水硬性化合物の粉砕効率が良いこと、及び得られる水硬性組成物の硬化時の圧縮強度を向上させるセメント等の水硬性粉体が得られることを、単一の化合物を用いて両立する水硬性粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】凝固点0℃以下のアルカノールアミンの存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を経てC3Aの含有量が0.5〜9.5重量%の水硬性粉体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性化合物の粉砕工程において、粉砕効率が向上され、更に水硬性組成物の硬化時の圧縮強度を向上できる水硬性粉体が得られる、水硬性粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性化合物、例えばポルトランドセメントクリンカー、高炉スラグ等を粉砕して種々の水硬性粉体が製造されている。例えば、ポルトランドセメントは、石灰石、粘土、鉄さい等の原料を焼成して得られたクリンカーに適量の石膏を加え、粉砕して製造される。その際、粉砕効率を上げるために、ジエチレングリコールやトリエタノールアミンなどの粉砕助剤が用いられている。粉砕工程においては水硬性化合物をできるだけ能率良く所望の粒径にすることが望ましい。このため、従来、粉砕工程において粉砕助剤を使用することが行われている。
【0003】
特許文献1には、ハンドリング性のよい顆粒化した超微粒子を用いて物性改善効果を十分に確保することができる高強度セメントの製造方法を提供することを目的として、クリンカーを粉砕するに際し、クリンカー100重量部に、粒径1μm以下の超微粒子からなる粒径2mm未満の顆粒状物質50重量部以下と、粉砕助剤とを添加して粉砕する高強度セメントの製造方法が開示されており、前記粉砕助剤として、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン類及びジエチレングリコール等のグリコール類が挙げられている。
【0004】
また特許文献2には、得られる混合セメント組成物がポルトランドセメントの最低の標準に合致する7日及び28日圧縮強度曲線を示すものを提供することを目的として、トリイソプロパノールアミン等の少なくとも1個の炭素数3〜5のヒドロキシアルキル基を有する高級トリアルカノールアミンを添加して用いることが記載されている。
【0005】
更に特許文献2には、高級トリアルカノールアミンに関して、「C4AFの水和の間に、溶液中に副生成物として鉄(III)イオンが生成する。鉄(III)イオンは水和セメントに見られる高いpHにおいて極端に不溶性であるので、直ちに無定形水酸化鉄(III)ゲルとして沈澱する。このゲルはセメント粒子を被覆し、全体としてのセメントの水和を遅らせる傾向を有する。本件高級トリアルカノールアミンは高いpHにおいて鉄との錯体形成に作用してこの鉄に富んだ被覆の除去を助け、これによりセメントの強度成長を改良する」ことが記載されている(7頁右上欄9〜19行)。
【0006】
一方、水硬性組成物の強度向上を目的として、特許文献3には、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された水硬性組成物に、アルカノールアミン等の強度増進剤を配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−147984号公報
【特許文献2】特開平3−183647号公報
【特許文献3】特開2002−145651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2の水硬性粉体の製造方法では、水硬性化合物の粉砕性の向上と得られる水硬性粉体を用いた水硬性組成物の硬化時の圧縮強度の向上とを両立するには、粉砕性を向上させる化合物と圧縮強度を向上させる化合物とを併用する必要があった。また、特許文献3では、粉砕性の向上については何ら言及されていない。
【0009】
本発明の課題は、水硬性化合物の粉砕効率が良いこと、即ち、所望の粒径に到達するまでの時間を短縮することができること、及び得られる水硬性組成物の硬化時の圧縮強度を向上させるセメント等の水硬性粉体が得られることを、単一の化合物を用いて両立する水硬性粉体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
水硬性化合物の粉砕助剤として、ジエチレングリコールが優れることが知られている。また、水硬性粉体を用いた水硬性組成物の硬化時の圧縮強度の向上には、トリイソプロパノールアミン等のアミン化合物が優れることが知られている。本発明者は、ジエチレングリコールの凝固点が他の粉砕助剤の凝固点よりも低いこと(例えば、ジエチレングリコールが−6.5℃、トリイソプロパノールアミンが45℃、トリエタノールアミンが22℃)に着目し、圧縮強度の向上に有利なアミン化合物の検討を進めた結果、凝固点0℃以下のアルカノールアミンを用いることで、水硬性化合物の粉砕性と水硬性組成物の硬化時の圧縮強度の向上が両立できることを見出した。そして、それら凝固点0℃以下のアルカノールアミンが、C3Aの含有量が0.5〜9.5重量%である水硬性粉体を製造する際の粉砕において効果を顕著に発現することを見出した。
【0011】
本発明は、凝固点0℃以下のアルカノールアミンの存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する、C3Aの含有量が0.5〜9.5重量%の水硬性粉体の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られたC3Aの含有量が0.5〜9.5重量%の水硬性粉体に関する。
【0013】
また、本発明は、凝固点0℃以下のアルカノールアミンからなる水硬性化合物用の粉砕助剤に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水硬性化合物の粉砕効率が良いこと、即ち、所望の粒径に到達するまでの時間を短縮することができること、及び得られる水硬性組成物の硬化時の圧縮強度を向上させるセメント等の水硬性粉体が得られることを、単一の化合物を用いて両立する水硬性粉体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
粉砕助剤による粉砕性が向上する理由は2つあると考えられる。第1の理由は静電気的な凝集(アグロメレーション)を抑制する点である。水硬性化合物、例えばセメントクリンカーを粉砕すると、結晶粒界破壊と結晶粒内破壊が起こるとされている。結晶粒内破壊が起こると、Ca−O間のイオン結合が切断され、陽イオン(Ca2+)が過剰に存在する表面と陰イオン(O2-)が過剰に存在する表面とが生じ、これらが粉砕機の衝撃作用によって静電気引力がおよぶ距離まで圧縮されて、凝集することで、粉砕効率が悪くなるとされている。
【0016】
第2の理由は、空気中の水分や、粉砕助剤の希釈水、添加する二水石こう結晶水からの脱水等で生じた水により、粉砕粒子同士が水分を介して凝集する、液架橋を抑制する点である。すなわち、乾式粉砕において、空気中の水分等により、粉砕粒子同士が水分による液架橋を起こすことで、粉砕粒子間の水分がクッションの役割となり、粉砕効率が悪くなるとされている。
【0017】
本発明に係る、凝固点0℃以下のアルカノールアミンを、水硬性化合物を粉砕する際に存在させることで、短時間で所望の粒径にまで粉砕することができる。詳しい作用機作は不明なるも、該アルカノールアミンは凝固点が低いため通常の粉砕条件では結晶化しにくい、すなわち分子の運動エネルギーが高いため、被粉砕物表面に分子の単分子層が短時間で、かつ比較的少ない添加量で生成されるために静電気的なアグロメレーションと、水分による液架橋を抑制し、粉砕効率が良好になるものと推定される。更に該アルカノールアミンがアルキル基を有する場合には、アルキル基を被粉砕物表面から外側に配向させることで、水分による液架橋の抑制がより効果的に発揮するものと推定される。また、C3A等の間隙質の含有量が多い水硬性粉体を得る場合は、粉砕工程は機械力支配となり、粉砕助剤に用いる化合物の違いによる差が小さくなるものと推察され、C3Aの含有量が9.5重量%以下の水硬性化合物を粉砕する際に凝固点0℃以下のアルカノールアミンは粉砕効率を向上させる効果を発現させると推定される。
【0018】
一方、水硬性組成物の硬化時の圧縮強度を向上させるためには、各鉱物(C3S、C2S、C3A、C4AF)の水和反応率向上による水硬性組成物の空隙率減少、更に水和生成物の緻密化が効果的であると考えられる。特に接水から3日及び7日、もしくはそれ以上の長期圧縮強度を向上させるためには、特に水和生成物の緻密化が効果的であり、中でもC3A、C4AFと石こうからなる水和生成物である針状結晶のエトリンガイトから緻密なモノサルフェートへの水和反応を促進することが、接水から3日以上の長期圧縮強度向上に効果的であると推定される。本発明に係るアルカノールアミンが石膏の溶解を促進するカルシウムの適度なキレート作用を持つことにより、C3Aの含有量が0.5重量%以上において、C3Aと石膏等との硬化反応を促進すると推定される。
【0019】
本発明に係る凝固点0℃以下のアルカノールアミンは、特許文献2に記載されたC4AFの水和の際に生成する無定形水酸化鉄のゲルの除去を促進する機構とは異なり、アルカノールアミン骨格により石こうの溶解を促進するため、エトリンガイトからモノサルフェートへの水和反応を促進しているものと推定される。
【0020】
凝固点0℃以下のアルカノールアミンとして、アルキルジアルカノールアミン、ジアルキルモノアルカノールアミン等が挙げられる。これらの中でも、水硬性化合物の粉砕性向上と、得られる水硬性粉体を用いた水硬性組成物の硬化時の圧縮強度向上とを両立させる観点から、アルキルジアルカノールアミンが好ましい。本発明に係るアルカノールアミンの凝固点は、0℃以下であり、水硬性化合物の粉砕性の観点から、−5℃以下が好ましく、−10℃以下がより好ましい。また、凝固点は、取り扱い性及び圧縮強度向上の観点から、−100℃以上が好ましく、−80℃以上がより好ましく、−60℃以上が更に好ましく、−30℃以上がより更に好ましい。これらを総合して、−100〜0℃が好ましく、−80〜−5℃がより好ましく、−60〜−10℃が更に好ましく、−30〜−10℃がより更に好ましい。凝固点は、凝固点測定(JIS K0065)の値を用いることができる。なお、本発明では、JIS K0065による凝固点が明確でない場合、融点測定(JIS K0064)及び流動点測定(JIS K2269)の少なくとも何れか一方の値が0℃以下であれば、凝固点0℃以下のアルカノールアミンと見なしてよい。
【0021】
具体的には、アルキルジアルカノールアミンとして、炭素数1〜4の直鎖アルキル基を有するアルキルジエタノールアミンが挙げられる。炭素数1〜4の直鎖アルキル基を有するアルキルジエタノールアミンとして、N−メチルジエタノールアミン(凝固点−21℃)、N−エチルジエタノールアミン(凝固点−50℃)、N−n−プロピルジエタノールアミン及びN−n−ブチルジエタノールアミン(凝固点−45℃)が挙げられる。水硬性化合物の粉砕時間の短縮の観点から、N−メチルジエタノールアミン及びN−エチルジエタノールアミンが好ましい。得られる水硬性粉体を用いた水硬性組成物の硬化体の、接水から硬化時の3日後、7日後及び28日後の圧縮強度向上の観点から、N−メチルジエタノールアミンが好ましい。
【0022】
凝固点0℃以下のアルカノールアミンは、市販品を用いることができる。凝固点0℃以下のアルカノールアミンは、水への溶解性を高める観点から、塩として使用することができる。塩としては、硫酸塩、酢酸塩、塩化物塩、ギ酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、水酸化物塩及びそれらの混合物から選択した塩の混合物が挙げられる。凝固点0℃以下のアルカノールアミンの水溶性を向上することで、取扱い性に優れたものとすることができる。なお、本発明に係るアルカノールアミンを塩として使用する場合、後述の使用量等の重量は、塩の重量そのものではなく、アミン換算の重量を使用する。
【0023】
本発明に係る凝固点0℃以下のアルカノールアミンは、常温、例えば20℃において、液状であるので、水硬性化合物を粉砕に用いる際の秤量や添加操作等の作業性に優れるものである。凝固点0℃以下のアルカノールアミンは、濃度100重量%の液状として用いることができるが、更に取扱いを容易にする観点から、水溶液として用いても良い。その場合の凝固点0℃以下のアルカノールアミンの濃度は、水硬性化合物の粉砕時間の短縮の観点から、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、30重量%以上が更に好ましく、35重量%以上がより更に好ましく、40重量%以上がより更に好ましく、50重量%以上がより更に好ましい。凝固点0℃以下のアルカノールアミンの濃度は、作業性等の取り扱い性を向上する観点から、99.5重量%以下が好ましく、99重量%以下がより好ましい。これらの観点を総合すると、凝固点0℃以下のアルカノールアミンの濃度を水溶液として用いる場合、その濃度は、10〜99.5重量%が好ましく、20〜99.5重量%がより好ましく、30〜99重量%が更に好ましく、40〜99重量%がより更に好ましく、50〜99重量%がより更に好ましい。該アミンは、そのまま使用する(濃度100%)、又は水溶液として濃度30〜99重量%、更に40〜99重量%、より更に50〜99重量%で使用するのが好ましい。
【0024】
本発明の水硬性粉体の製造方法では水硬性化合物を粉砕し水硬性粉体を得る。水硬性化合物とは、水と反応して硬化する性質をもつ物質、及び単一物質では硬化性を有しないが2種以上を組み合わせると水を介して相互作用により水和物を形成し硬化する化合物をいう。一般に、水硬性化合物はアルカリ土類金属の酸化物とSiO2、Al23、Fe23、TiO2、P25、ZnOなどの酸化物が常温又は水熱条件下で水和物を形成する。また、水硬性粉体に含まれる鉱物として、例えば、セメントでは、3CaO・SiO2(C3S:エーライト)、2CaO・SiO2(C2S:ビーライト)、3CaO・Al23(C3A:カルシウムアルミネート)、4CaO・Al23・Fe23(C4AF:カルシウムアルミノフェライト)を含んでおり、水硬性化合物もこれらの成分を含有するものが使用できる。
【0025】
本発明に係る水硬性化合物において、本発明に係る凝固点0℃以下のアルカノールアミンによる水硬性化合物の粉砕時間の短縮の観点から、得られる水硬性粉体中のC3Aの含有量は、9.5重量%以下であり、9.0重量%以下が好ましい。また、水硬性組成物の硬化時の24時間後及び7日後の圧縮強度向上の観点から、得られる水硬性粉体中のC3Aの含有量は、0.5重量%以上であり、1.0重量%以上が好ましく、5.0重量%以上がより好ましく、7.0重量%以上が更に好ましく、8.0以上がより更に好ましい。これらの観点を総合すると、得られる水硬性粉体中のC3Aの含有量は、0.5〜9.5重量%、好ましくは1.0〜9.0重量%、より好ましくは5.0〜9.0重量%、更に好ましくは7.0〜9.0重量%、より更に好ましくは8.0〜9.0重量%となるように水硬性化合物の成分を調整することが好ましい。水硬性化合物のC3S及びC2Sに対する間隙質としてのC3Aを、粉砕後の水硬性粉体中で上記範囲の含有量とするには、例えば、水硬性化合物の製造における焼成工程で、水硬性化合物(例えばクリンカー)の原料を、1250℃以上、好ましくは1300〜1450℃、更に好ましくは1350〜1450℃で焼成する方法が挙げられる。
【0026】
さらに、水硬性組成物の硬化時の24時間後及び7日後の圧縮強度向上の観点から、得られる水硬性粉体中のC4AFは11重量%以下、更に0.1〜10重量%、より更に0.1〜9.5重量%となるように水硬性化合物の成分を調整することが好ましい。水硬性粉体中のC3A及びC4AFの含有量は、実施例に示した各鉱物の定量の方法で測定する。
【0027】
水硬性化合物としては、例えば、セメントに含有される鉱物(C3S、C2S、C3A、C4AF)、スラグ、フライアッシュ、石灰石、鉄さい、石膏、アルミナ、焼却灰等が挙げられ、水硬性粉体の原料として用いることができる。
【0028】
水硬性粉体としてポルトランドセメントを得る場合、例えば、石灰石、粘土、鉄さい等の原料を焼成して得られた水硬性化合物であるクリンカー(セメントクリンカーとも言い、石膏が入っている場合もある。)を予備粉砕し、適量の石膏を加え、仕上粉砕して、ブレーン値2500cm2/g以上の比表面積を有する粉体として製造される。ブレーン値とは、ブレーン比表面積測定法により測定された比表面積のことである。本発明は、C3Aの含有量が0.5〜9.5重量%の水硬性粉体を製造するものであり、通常、水硬性化合物、例えばクリンカー中のC3A含有量がこの範囲内のものを使用することで達成される。また、石膏等、その他の材料を用いる場合は、それらの組成を考慮して、粉砕後の水硬性粉体中のC3A含有量が所定範囲となるように添加量を調整する。本発明には、凝固点0℃以下のアルカノールアミンの存在下で、クリンカーを粉砕する工程を有する、ポルトランドセメントの製造方法が包含される。
【0029】
本発明に係る凝固点0℃以下のアルカノールアミンは、前記水硬性化合物、好ましくはクリンカー粉砕の際の粉砕助剤として、好適には仕上粉砕での粉砕助剤として用いられる。凝固点0℃以下のアルカノールアミンは、短時間で所望の粒径に粉砕する観点から、粉砕に用いられる原料の水硬性化合物、例えばセメントクリンカー100重量部に対して固形分で0.001〜0.20重量部、より0.003〜0.15重量部、更に0.005〜0.10重量部、より更に0.01〜0.10重量部、より更に0.02〜0.10重量部、より更に0.03〜0.10重量部、より更に0.03〜0.07重量部の存在量となるように用いることが好ましい。この量は、水硬性化合物を粉砕する工程で存在させる前記アルカノールアミンの全量に基づくものであり、具体的には、水硬性化合物の粉砕が終了するまで、更には、目標とするブレーン値に到達するまでに存在させる前記アルカノールアミンの全量に基づくものである。
【0030】
凝固点0℃以下のアルカノールアミンを存在させて粉砕を行うには、水硬性化合物、例えばクリンカーを含む原料に凝固点0℃以下のアルカノールアミンを添加して行うことが好ましい。添加する方法としては、凝固点0℃以下のアルカノールアミンの液状物、もしくは凝固点0℃以下のアルカノールアミンと他の成分とを含む液状混合物を、好ましくは水溶液の状態で、滴下、噴霧等により供給する方法が挙げられる。他の成分としては、消泡剤、水、凝固点0℃以下のアルカノールアミン以外の公知の粉砕助剤等が挙げられる。水硬性化合物を含む原料への前記アルカノールアミンの添加もしくは前記アルカノールアミンとその他の成分の添加は、最終的に使用される全量を一括で添加してもよいし、分割して添加してもよい。また、連続的又は間欠的に供給して添加してもよい。
【0031】
また、凝固点0℃以下のアルカノールアミンを存在させて粉砕を行う際に、酸を併用することで水硬性化合物の粉砕性及び水硬性組成物の硬化時の7日後の圧縮強度を向上することができる。酸としては硫酸及び酢酸が挙げられる。酸の使用量としては、水硬性化合物の粉砕性及び水硬性組成物の硬化時の7日後の圧縮強度向上の観点から、凝固点0℃以下のアルカノールアミン1モルに対して、0.1〜5モルが好ましく、0.3〜2.5モルがより好ましく、0.5〜1.0モルが更に好ましい。
【0032】
酸は、粉砕性を向上及び7日強度を向上する観点から、粉砕に用いられる原料の水硬性化合物、例えばセメントクリンカー100重量部に対して 0.00025〜0.165重量部、更に0.001〜0.124重量部、更に0.005〜0.085重量部、より更に0.007〜0.060重量部、より更に0.010〜0.030重量部、より更に0.010〜0.020重量部の存在量となるように用いることが好ましい。
【0033】
本発明の水硬性粉体の製造方法では、原料、用途等により、適当な粒径の粉体が得られるよう、粉砕の条件を調整すればよい。一般に、比表面積、ブレーン値が2500〜5000cm2/g、更に3000〜4000cm2/gの粉体となるまで、水硬性化合物、例えばクリンカーの粉砕を行うことが好ましい。目的のブレーン値は、例えば粉砕時間を調整することにより得ることができる。粉砕時間を長くするとブレーン値が大きくなり、短くするとブレーン値が小さくなる傾向がある。
【0034】
本発明において、水硬性化合物の粉砕に使用される粉砕装置は、特に限定されないが、例えばセメントなどの粉砕で汎用されているボールミルを挙げることができる。該装置の粉砕媒体(粉砕ボール)の材質は、被粉砕物(例えばセメントクリンカーの場合、カルシウムアルミネート)と同等又はそれ以上の硬度を有するものが望ましく、一般に入用可能な市販品では、例えば鋼、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、チタニア、タングステンカーバイド等を挙げることができる。
【0035】
本発明の製造方法で得られる水硬性粉体では、水硬性化合物の粉砕性向上の観点から、凝固点0℃以下のアルカノールアミンを水硬性粉体中、0.0005〜0.20重量%、より0.003〜0.15重量%、更に0.0025〜0.10重量%、更に0.005〜0.10重量%、より更に0.01〜0.10重量%、より更に0.015〜0.10重量%、より更に0.015〜0.07重量%含有することが好ましい。
【0036】
また、本発明の製造方法により得られた水硬性粉体は、本発明の製造時の水硬性化合物の粉砕時間の短縮の観点から、水硬性粉体中のC3Aの含有量が、9.5重量%以下であり、9.0重量%以下が好ましい。また、水硬性組成物の硬化時の圧縮強度向上の観点から、水硬性粉体中のC3Aの含有量が、0.5重量%以上であり、1.0重量%以上が好ましく、5.0重量%以上がより好ましく、7.0重量%以上が更に好ましく、8.0以上がより更に好ましい。これらを総合して、水硬性粉体中のC3Aの含有量が0.5〜9.5重量%であり、1.0〜9.0重量%が好ましく、5.0〜9.0重量%がより好ましく、7.0〜9.0重量%がより更に好ましく、8.0〜9.0重量%がより更に好ましい。更に水硬性組成物の硬化時の圧縮強度向上の観点から、水硬性粉体中のC4AFの含有量は、11重量%以下、更に0.1〜10重量%、より更に0.1〜9.5重量%であることが好ましい。水硬性粉体中のC3A及びC4AFの含有量は、実施例に示した各鉱物の定量の方法で測定する。
【0037】
本発明に係る凝固点0℃以下のアルカノールアミンは粉砕助剤として、水硬性化合物の粉砕に用いられ、粉砕効率が良く、水硬性組成物の硬化時の圧縮強度を向上させることができる。
【0038】
本発明に係る凝固点0℃以下のアルカノールアミンは、水硬性化合物用、なかでもクリンカー用の粉砕助剤として好適である。すなわち、水硬性化合物を粉砕する際に、粉砕助剤として、凝固点0℃以下のアルカノールアミンを用いる、水硬性化合物の粉砕方法が提供される。その場合、粉砕時間の短縮の観点から、水硬性化合物100重量部に対して、固形分で凝固点0℃以下のアルカノールアミン0.001〜0.5重量部、0.001〜0.2重量部、より0.005〜0.2重量部、更に0.01〜0.1重量部の存在量となるように用いることが好ましい。なかでも粉砕時間の短縮の観点から、クリンカー100重量部に対して、固形分で凝固点0℃以下のアルカノールアミン0.001〜0.20重量部、より0.003〜0.15重量部、より0.005〜0.10重量部、より更に0.01〜0.10重量部、より更に0.02〜0.10重量部、より更に0.03〜0.1重量部、より更に0.03〜0.07重量部の存在量となるように用いることが好ましい。
【0039】
凝固点0℃以下のアルカノールアミンの水溶液を用いる場合は、水硬性化合物の粉砕時間の短縮の観点から、該水溶液の量は、水硬性化合物100重量部に対して、0.20重量部以下が好ましく、0.15重量以下がより好ましく、0.10重量部以下が更に好ましく、0.08重量部以下がより更に好ましい。さらに、水硬性化合物の粉砕性と水硬性化合物を粉砕に用いる際の秤量や添加操作等の作業性の観点から、水硬性化合物100重量部に対して該水溶液の水の量が0.0001〜0.20重量部であることが好ましく、0.0001〜0.10重量部であることがより好ましく、0.001〜0.10重量部であることがより好ましく、0.001〜0.08重量部であることがより好ましく、0.001〜0.07重量部であることがより更に好ましく、0.001〜0.05重量部であることが更に好ましい。この水の量は、水硬性化合物を粉砕する工程で用いられる水溶液の全量に基づくものであり、具体的には、水硬性化合物の粉砕が終了するまで、更には、目標とするブレーン値に到達するまでに用いられる水溶液の全量に基づくものである。
【0040】
凝固点0℃以下のアルカノールアミンは、2種以上を併用してもよいが、1種を用いることが好ましい。本発明では、単一化合物で水硬性化合物の粉砕効率と水硬性組成物の硬化時の圧縮強度の向上に優れるものであるが、さまざまな粉砕条件に対応するため、更に、凝固点0℃以下のアルカノールアミン以外の公知の粉砕助剤と併用して使用することができる。例えば、公知の粉砕助剤であるジエチレングリコールや他のアルカノールアミン(トリエタノールアミンやジエタノールアミン等)、安全性の観点から天然成分であるグリセリン、グリセリンのエチレンオキシド付加物、グリセリンのプロピレンオキシド付加物等を配合しても良い。
【0041】
水硬性組成物中の空気量増大現象による強度低下を抑制する観点から、更に消泡剤を併用することができる。また、消泡剤を、水硬性化合物の粉砕時に存在させることで、得られる水硬性粉体の表面に消泡剤を均一に分布させ、前記抑制効果をより効果的に発現させることもできる。すなわち、凝固点0℃以下のアルカノールアミンと消泡剤との存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する、水硬性粉体の製造方法により、所望の粒径に到達するまでの時間を短縮することができる粉砕効率の良い、空気量増大現象による水硬性組成物の硬化時の圧縮強度低下を抑制できるセメント等の水硬性粉体が得られる水硬性粉体の製造方法が提供できる。
【0042】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤及びエーテル系消泡剤が好ましく、シリコーン系消泡剤ではジメチルポリシロキサンがより好ましく、脂肪酸エステル系消泡剤ではポリアルキレングリコール脂肪酸エステルがより好ましく、エーテル系消泡剤ではポリアルキレングリコールエーテルがより好ましい。
【0043】
前記消泡剤の中でも、空気量増大現象による水硬性組成物の硬化時の圧縮強度低下を抑制できる観点から脂肪酸エステル系消泡剤が好ましい。
【0044】
シリコーン系消泡剤は水と相溶性のある乳化タイプが好ましく、そのような乳化タイプのものとしては、KM−70、KM−73A〔何れも信越シリコーン(株)〕、TSAシリーズ(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)、FSアンチフォームシリーズ〔東レ・ダウコーニング(株)〕、アンチフォームE−20〔花王(株)〕等の市販品が挙げられる。
【0045】
脂肪酸エステル系消泡剤としては、ポリアルキングリコール脂肪酸エステルを主成分とするものとしてレオドールTW−L120〔花王(株)〕、ニコフィックス、フォームレックス〔何れも日華化学(株)〕等の市販品が挙げられる。
【0046】
エーテル系消泡剤としては、ポリアルキレングリコールエーテルとしては、ポリオキシプロピレン(平均付加モル数3)ラウリルエーテル〔消泡剤No.8、花王(株)〕、ポリオキシプロピレン(平均付加モル数3)ポリオキシエチレン(平均付加モル数1)ラウリルエーテル〔消泡剤No.11、花王(株)〕や、SNデフォーマー15−P、フォーマスターPC〔何れもサンノプコ(株)〕、アデカプルロニックシリーズ〔(株)アデカ〕等の市販品が挙げられる。
【0047】
凝固点0℃以下のアルカノールアミン(a)と消泡剤(b)の重量比は、空気量増大現象による強度低下を抑制できる観点から、(a)/(b)=99/1〜50/50が好ましく、より97/3〜60/40、更に95/5〜70/30が好ましい。なお、凝固点0℃以下のアルカノールアミン(a)と消泡剤(b)の重量比は有効分(固形分)換算で算出される。
【0048】
また、本発明の粉砕助剤には、水硬性化合物の粉砕性及び水硬性組成物の硬化時の7日後の圧縮強度向上する観点から、更に酸を配合することができる。酸としては硫酸及び酢酸が挙げられる。酸の使用量としては、水硬性化合物の粉砕性及び水硬性組成物の硬化時の7日後の圧縮強度向上の観点から、凝固点0℃以下のアルカノールアミン1モルに対して、0.1〜5モルが好ましく、0.3〜2.5モルがより好ましく、0.5〜1.0モルが更に好ましい。
【0049】
本発明の製造方法により得られた水硬性粉体を用いた水硬性組成物は硬化時の圧縮強度が向上されたものとなる。そして、前記水硬性粉体中のC3Aの含有量が0.5〜9.5重量%である場合に効果が顕著に発揮される。水硬性粉体としては、ポルトランドセメント、高炉スラグ、アルミナセメント、フライアッシュ、石灰石、石膏等が挙げられる。
【0050】
本発明の製造方法により得られた水硬性粉体は、コンクリート構造物やコンク-リート製品の材料として用いることができる。本発明の製造方法により得られた水硬性粉体を用いたコンクリートは、接水から3日後、7日後、及び28日後の圧縮強度が向上するので、例えば、本発明の製造方法により得られた水硬性粉体に、接水後の初期材齢強度が低い水硬性粉体(高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石等)を配合・置換しても、本発明未実施の水硬性粉体を用いた場合と比較して、同等以上の、接水から3日後、7日後、及び28日後の圧縮強度を得ることが出来る、等の利点を有する。
【実施例】
【0051】
〔実施例1〜4及び比較例1〜7〕
以下の使用材料を以下の配合量で用いて、一括仕込みし、ボールミルにより粉砕したときの粉砕効率(目標ブレーン値までの到達粉砕時間)と、得られたセメントを使用した水硬性組成物の硬化時の圧縮強度試験を以下のように評価した。結果を表1に示す。実施例4では、さらに消泡剤(脂肪酸エステル系消泡剤、日華化学(株)製、フォームレックス797)をアルカノールアミン90重量部に対して10重量部併用した。
【0052】
(1−1)使用材料
・クリンカー:成分が、CaO:約65%、SiO2:約22%、Al23:約5%、Fe23:約3%、MgO他:約3%(重量基準)となるように、石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料等を組み合わせて焼成したものを、クラッシャー及びグラインダーにより一次粉砕して得た、普通ポルトランドセメント用クリンカー(3.5mmふるい通過物)。
・二水石膏:SO3量45.93重量%の石膏
・粉砕助剤:表1参照。
【0053】
(1−2)配合量
・クリンカー:1000g
・二水石膏:37.0g(クリンカー100重量部に対してSO3量1.7重量部)
・粉砕助剤:表1の化合物を、水硬性化合物(クリンカー)100重量部に対する添加量が表1の通りとなるように、50重量%水溶液で使用した。
【0054】
(1−3)ボールミル
株式会社セイワ技研製AXB−15を用い、ステンレスポット容量は18リットル(外径300mm)とし、ステンレスボールは30mmφ(呼び1・1/4)を30個、20mmφ(呼び3/4)を70個の合計100個を使用し、ボールミルの回転数は、35rpmとした。また、粉砕途中で粉砕物を一部排出しサンプリングした。
【0055】
(1−4)粉砕到達時間
目標ブレーン値を3300±100cm2/gとし、粉砕開始から60分、75分、90分後のサンプルについてブレーン値を測定し、目標ブレーン値3300cm2/gに達する時間をマイクロソフト社製マイクロソフトエクセル2003の二次回帰式により求めた。その時間を最終到達時間(粉砕到達時間)として粉砕を終了した。なお、ブレーン値の測定は、セメントの物理試験方法(JIS R 5201)に定められるブレーン空気透過装置を使用した。この試験での粉砕到達時間の相違は、実機レベルではより大きな差となってあらわれる。粉砕時間が短いほど粉砕性に優れることを示す。なお、この粉砕到達時間において得られたセメント中の含有量は、C3Sが63.1重量%、C2Sが16.2重量%、C3A8.6重量%、C4AFが8.5重量%であった。また、このセメントは、後述の表4中のセメントCに相当する。
【0056】
なお、水硬性粉体中の各鉱物の定量は、以下の方法で行った(他の実施例等でも同様)。粉末X線装置として、RINT-2500((株)リガク製)を用い、測定条件として、ターゲットCuKα、管電流40mA、管電圧200kV、走査範囲5〜70deg.2θ、走査条件はステップ走査、ステップ幅0.02°、計数時間2秒に設定した。そして、試料の水硬性粉体2.7gに0.3gの標準物質『α−コランダム(Al2O3)』を添加し、標準物質のピーク面積を基準として、Rietveld解析ソフトにて定量した。Rietveld解析ソフトは(株)リガク製のPDXL Ver.1.8を使用した。
【0057】
(1−5)圧縮強度試験
セメントの物理試験方法(JIS R 5201)附属書2(セメントの試験方法−強さの測定)に従った。用いたセメントは、前記で得られたブレーン値3300±100cm2/gのものである。圧縮強度が大きい方がコンクリート製品や構造物の製造の観点から望ましい。
【0058】
【表1】

【0059】
粉砕助剤として凝固点0℃以下のアルカノールアミンを用いる実施例1〜4では、粉砕到達時間と圧縮強度の両者で優れていることが解かる。比較例1のジエチレングリコール及び比較例4のジエタノールアミンを用いた場合は、圧縮強度が劣る。比較例5のトリイソプロパノールアミンを用いた場合は、粉砕到達時間が劣る。比較例2、3及び6のアミンを用いた場合は、粉砕到達時間と圧縮強度の両者で実施例1〜4よりも劣る。
【0060】
〔実施例5及び比較例8〕
粉砕助剤としてN−メチルジエタノールアミン又はトリイソプロパノールアミンの50%水溶液を使用し、これらのアミンを表2に示す濃度で含有する水溶液で用いる以外は実施例1と同様にしてクリンカーの粉砕を行い、粉砕到達時間を求めた。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
水溶液濃度が同じ条件でN−メチルジエタノールアミンとトリイソプロパノールアミンとを比較すると、N−メチルジエタノールアミンの粉砕性が常に優れていることが解る。
【0063】
〔実施例6〕
粉砕助剤としてN−メチルジエタノールアミンを使用し、表3に示す添加量で用いる以外は実施例1と同様にしてクリンカーの粉砕を行い、粉砕到達時間を求めた。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
N−メチルジエタノールアミンの添加量がクリンカー100重量部に対し0.04重量部、0.06重量部で粉砕到達時間が最小になり、粉砕効率がより良好であることが解る。
【0066】
〔参考例1〜18、実施例7〜14及び比較例9〜24〕
表4に示すセメントA〜Gを、クリンカーと添加材を粉砕して製造するにあたり、粉砕助剤として表5〜11に示した化合物をクリンカー100重量部に対して0.04重量部使用した場合の効果を評価した。粉砕助剤は50%水溶液で添加した。クリンカーはセメントA〜Gに対応する組成のものを使用し、添加材は石膏を用いた。実施例1と同様にしてクリンカーの粉砕を行い、粉砕到達時間を求めた。また、実施例1と同様に圧縮強度試験を行い、7日後の圧縮強度を測定した。結果を、粉砕助剤を添加しない場合を基準(100)とする相対値で表5〜11に示した。
【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
【表8】

【0072】
【表9】

【0073】
【表10】

【0074】
【表11】

【0075】
3Aの含有量の異なるセメントの製造において、C3Aが0.5〜9.5重量%のセメント(表7〜表10)において、N−メチルジエタノールアミン及びN−エチルジエタノールアミンの粉砕性が他の粉砕助剤よりも優れ、7日後の圧縮強度も向上していることが解る。表5、表6及び表11は参考例である。C3Aの含有量が0.4重量%のセメント(表11)では、N−メチルジエタノールアミン及びN−エチルジエタノールアミンの粉砕性が他の粉砕助剤よりも優れているが、7日後の圧縮強度は基準よりも低下した。各セメント種のC3AにおけるN−メチルジエタノールアミン及びN−エチルジエタノールアミンの粉砕性と7日後の圧縮強度を整理した表を表12に示した。
【0076】
【表12】

【0077】
〔実施例15〜19、比較例25〜29〕
表4に示すセメントDを、クリンカーと添加材を粉砕して製造するにあたり、粉砕助剤として表13に示した化合物を使用した場合の効果を評価した。クリンカーはセメントDに対応する組成のものを使用し、添加材は二水石膏を用いた。酢酸又は硫酸を粉砕助剤の50%水溶液と混合して添加した。実施例1と同様にしてクリンカーの粉砕を行い、粉砕到達時間を求めた。また、実施例1と同様に圧縮強度試験を行い、7日後の圧縮強度を測定した。結果を、粉砕助剤を添加しない場合を基準(100)とする相対値で表13に示した。
【0078】
【表13】

【0079】
* 実施例15は実施例9に、比較例25は比較例13に、比較例28は比較例16に、それぞれ相当する。
** ( )内のモルは、アミン1モルに対する酢酸又は硫酸のモル数である。
【0080】
N−メチルジエタノールアミンに、酢酸又は硫酸を併用することで、N−メチルジエタノールアミンを単独で用いた場合と比べて粉砕性及び7日後の圧縮強度がより向上することがわかる。一方、トリイソプロパノールアミンと酢酸を併用しても、トリイソプロパノールアミンを単独で用いた場合と比べて粉砕性は向上せず、7日後の圧縮強度は低下することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝固点0℃以下のアルカノールアミンの存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する、C3Aの含有量が0.5〜9.5重量%の水硬性粉体の製造方法。
【請求項2】
前記アルカノールアミンが炭素数1〜4の直鎖アルキル基を有するアルキルジエタノールアミンである、請求項1記載の水硬性粉体の製造方法。
【請求項3】
前記アルカノールアミンが、N−メチルジエタノールアミンである、請求項1又は2記載の水硬性粉体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカノールアミンの存在量が、水硬性化合物100重量部に対して0.001〜0.2重量部である、請求項1〜3いずれか記載の水硬性粉体の製造方法。
【請求項5】
前記アルカノールアミンを含有する水溶液を用いて前記アルカノールアミンを存在させ、該水溶液の水の量が、水硬性化合物100重量部に対して、0.001〜0.1重量部である、請求項1〜4いずれか記載の水硬性粉体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の製造方法で得られたC3Aの含有量が0.5〜9.5重量%の水硬性粉体。
【請求項7】
凝固点0℃以下のアルカノールアミンからなる水硬性化合物用の粉砕助剤。