説明

水硬性組成物用早強剤

【課題】短期強度の向上効果に優れた水硬性組成物用早強剤を提供する。
【解決手段】(A)2価アルコール及び2価アルコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上と(B)硫酸化剤とを反応させて得られる化合物(a)からなる水硬性組成物用早強剤、及び当該化合物(a)を含有する水硬性組成物用添加剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用早強剤、水硬性組成物用添加剤組成物及び水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製品は、セメント、骨材、水、及び分散剤(減水剤)等の材料を混練し、様々な型枠に打設し、養生(硬化)工程を経て製品化される。初期材齢に高い強度を発現することは、生産性(型枠の回転率の向上)の観点から重要であり、そのために、(1)セメントとして早強セメントを使用する、(2)混和剤として各種ポリカルボン酸系化合物を使用してセメント組成物中の水量を減少させる、(3)養生方法として蒸気養生を行う、などの対策が講じられている。今日では、より高い生産性の要求等から、養生工程の更なる短縮化が望まれることがあり、例えば、養生時間16時間で高い強度(初期強度)を発現することが必要な場合がある。通常、養生工程において、蒸気などの加熱作業工程など複雑な工程が組み込まれているが、これら工程の設計変更による初期強度の向上対策は実用的な手法とはなりにくい。そこで、工程変更を伴わずに簡単に初期強度の高いコンクリートが得られる方法が、製造コスト等の点から、市場では切望されている。
【0003】
また、通常、蒸気養生による養生時間の短縮化が図られているが、蒸気使用に伴うエネルギーコストの高騰に繋がり、エネルギーコストの削減(蒸気養生時間の短縮・養生温度の低減)の観点からも上記方法が切望されている。
【0004】
特許文献1には、グリセリン又はグリセリン誘導体と特定のポリカルボン酸系共重合体とを含有するセメント用強度向上剤が開示されている。また、特許文献2には、2価アルコールであるポリエーテル化合物及びその硫酸化物とスルホン酸基含有共重合体とを併用するセメント混和剤が開示されている。また、特許文献3には、多糖類の硫酸化物がセメント添加剤として開示されている。特許文献2及び3には原料の多価アルコールを硫酸化することによって凝結時間が早くなること(早く固まること)又は、室温で例えば16時間以内の早期強度(初期強度)が向上することの示唆はない。
【特許文献1】特開2006−282414号公報
【特許文献2】特開平9−194244号公報
【特許文献3】特開平7−10624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、初期強度を向上させる、即ち、早強性を向上させる水硬性組成物用早強剤を提供することであり、また、このような初期強度の向上を達成しつつ表面美観に優れた水硬性組成物硬化体、例えばコンクリート製品が得られる、水硬性組成物用添加剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(A)2価アルコール及び2価アルコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上〔以下、(A)成分という〕と(B)硫酸化剤〔以下、(B)成分という〕とを反応させて得られる化合物(a)〔以下、化合物(a)という〕からなる水硬性組成物用早強剤であって、前記化合物(a)が、前記(A)成分の水酸基1モル当り平均0.1〜0.9モルの前記(B)成分を反応させたものである、水硬性組成物用早強剤に関する。
【0007】
また、本発明は、(A)2価アルコール及び2価アルコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上の化合物の硫酸モノエステル〔以下、化合物(a’)という〕を含有する水硬性組成物用早強剤に関する。
【0008】
また、本発明は、上記本発明の早強剤、及び分散剤とを含有する、水硬性組成物用添加剤組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、上記本発明の早強剤と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有する水硬性組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、上記本発明の早強剤を含有するコンクリート製品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、初期強度、即ち短期早強性を向上させる水硬性組成物用の早強剤及びこれを用いた水硬性組成物用添加剤組成物が提供される。本発明の早強剤を用いると、早強性が向上し、養生時間短縮により作業時間を短縮でき、生産性が向上する。しかも、こうした効果を、設備や工程の特別な変更なしに簡単に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<化合物(a)>
化合物(a)は、(A)成分と(B)成分とを反応させて得られる化合物であって、早強性の向上に寄与する成分(早強剤)である。化合物(a)は、(A)成分の硫酸化物であり、通常、(A)成分の硫酸モノエステル、すなわち、化合物(a’)を含む。かかる化合物(a’)は早強性の向上に寄与する成分(早強剤)である。以下、化合物(a)という場合、化合物(a’)が包含される場合もある。
【0013】
また、(A)成分のうち、2価アルコールの炭素数は、2個以上であり、好ましくは4個以上である。また、化合物(A)の炭素数は、好ましくは30個以下であり、より好ましくは14個以下であり、更に好ましくは9個以下である。化合物(A)のより好ましい形態としては、2価アルコールが窒素を含まず、炭素、水素、酸素の3つの元素から構成される化合物から得られるものである。即ち、(A)成分のうち、2価アルコールの炭素数は2〜30が好ましく、4〜14がより好ましく、4〜9が更に好ましい。
【0014】
2価アルコールとしては、ポリビニルアルコール(水酸基数3〜20)、ポリグリシドール(水酸基数3〜20)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、本発明においては、短期早強性の観点から2価アルコールとして、ジエチレングリコール、1,2−ブタンジオールが好適であり、更にジエチレングリコールが好適である。
【0015】
(A)成分としては、2価アルコールのアルキレンオキシド(以下、AOと表記する)付加物を使用することができる。AOは、エチレンオキシド(以下、EOと表記する)及びプロピレンオキシド(以下、POと表記する)から選ばれる1種以上が好ましい。
【0016】
本発明では、(A)成分は、短期早強性の観点からジエチレングリコール、及び1,2−ブタンジオールのAO付加物から選ばれる1種以上が好ましい。
【0017】
化合物(a)は、コンクリートの初期強度、例えば、打設後、気中養生(20℃)、16時間後の強度、を向上させる、即ち短期早強性を向上させるという観点から、(A)成分の水酸基1モル当たり、平均0.1〜0.9モル、好ましくは平均0.2〜0.7モル、より好ましくは平均0.4〜0.6モルの(B)成分を反応(硫酸化)させた化合物が用いられる。
【0018】
(A)成分の硫酸化の程度を示す指標として硫酸化度を用いることができる。この硫酸化度とは、(A)成分の水酸基が硫酸化された度合いを示し、例えば、エチレングリコールでは最大で2.0である。2個の水酸基のうち、平均2個、1個及び0.5個の水酸基が、硫酸化された時、それぞれ硫酸化度は2.0、1.0及び0.5という。化合物(a)は、硫酸化度が0.5〜1.5、更に0.5〜1.0が好ましい。硫酸化度が2.0の(A)成分の硫酸化物では、本発明の効果を得ることができない。
【0019】
なお、化合物(a)は、(A)成分、(A)成分の水酸基が1つ硫酸化された化合物(硫酸モノエステル)、及び(A)成分の水酸基が2つ硫酸化された化合物(硫酸ジエステル)の混合物として入手できる。その場合、該混合物の平均の硫酸化度が0.5〜1.5であることが好ましい。すなわち、本発明の水硬性組成物用早強剤は、(A)成分の硫酸モノエステルを含む硫酸エステル混合物であって、硫酸化度が0.5〜1.5である硫酸エステル混合物を含有するものであってもよい。また、該混合物中の(A)成分の比率は0〜20重量%が好ましく、モノ硫酸エステルの比率は20〜60重量%が好ましく、ジエステルの比率は20〜40重量%が好ましい。
【0020】
化合物(a)は、(A)成分に(B)成分を反応させて得られる。その製造方法は、公知の方法に準じて行うことができる。(B)成分としては、SO3ガスや液体SO3等の無水硫酸、硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、無水硫酸・ルイス塩基錯体等が挙げられる。好ましくは、SO3ガスや液体SO3等の無水硫酸、発煙硫酸、である。硫酸化の方法としては、例えば、硫酸を用いる方法、クロルスルホン酸を用いる方法、無水硫酸を用いる方法等の液相法、不活性ガスで希釈したガス状の無水硫酸を用いる方法等の気液混合法(好ましくは薄膜式硫酸化反応器を用いる方法)が挙げられる。副生物の生成を抑える観点から気液混合法が好ましく、更に、不純物が少なく、経済性に優れる観点から不活性ガスで希釈したガス状の無水硫酸を用いる方法が好ましい。
【0021】
本発明の水硬性組成物用早強剤は、水硬性粉体100重量部に対する化合物(a)の添加量が、0.01〜10重量部となるように用いられることが好ましい。即ち、本発明の水硬性組成物用早強剤は、水硬性粉体100重量部に対して、化合物(a)が0.01〜5重量部の割合で使用されることがより好ましく、更に好ましくは0.05〜3重量部、さらにより好ましくは0.1〜2重量部である。
【0022】
本発明の早強剤は、セメント中に含まれる石膏成分の溶解促進によるアルミネート(C3A)のモノサルフェート生成を促進すると共に、エーライト(C3S)由来の水酸化カルシウムの生成および析出を促進しているものと推測される。つまり、早期強度に寄与されるC3A及びC3S両者の水和を促進する事で、硬化を加速し、早期強度が向上しているものと思われる。
【0023】
よって、一分子中の水酸基、エーテル基、カルボキシル基およびエステル基由来から選ばれる一種以上の酸素原子と、カルシウムイオンが2〜4座配位構造を形成し得る化合物が好ましい。
【0024】
本発明の化合物(a)は、通常の早強剤と同様、水硬性組成物の調製時に水硬性粉体等と混合して使用できる。また、クリンカー等の水硬性化合物を、化合物(a)を存在下で粉砕して水硬性粉体とし、これを用いて水硬性組成物を調製してもよい。
【0025】
本発明の化合物(a)は、通常、リン酸エステル系重合体、ポリカルボン酸系共重合体、スルホン酸系共重合体、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、リグニン系重合体等の分散剤(コンクリート混和剤)として知られている成分と併用されることが好ましい。好適な併用成分が、後述の(C)成分及び(D)成分であり、より好ましくは(C)成分、又は(C)成分と(D)成分の併用である。
【0026】
<水硬性組成物用添加剤組成物>
本発明では、本発明の水硬性組成物用早強剤〔化合物(a)〕と、前記分散剤とを含有する水硬性組成物用添加剤組成物を提供することができる。該分散剤は、水硬性組成物硬化体の早強性向上の観点から、後述の(C)成分のリン酸エステル系重合体及び(D)成分の共重合体から選ばれる1種以上の共重合体が好ましい。
【0027】
<(C)成分>
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性組成物硬化体の早強性向上の観点から、下記一般式(C1)で表される単量体1と、下記一般式(C2)で表される単量体2と、下記一般式(C3)で表される単量体3とを、pH7以下で共重合して得られるリン酸エステル系重合体(C)〔以下、(C)成分という〕を含有する。(C)成分は特開2006−52381号公報に記載の公知の化合物である。
【0028】
【化1】

【0029】
〔式中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、R3は水素原子又は−COO(AO)nX、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基、pは0又は1の数、nはAOの平均付加モル数であり、3〜200の数、Xは水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。〕
【0030】
【化2】

【0031】
〔式中、R4は水素原子又はメチル基、R5は炭素数2〜12のアルキレン基、m4は1〜30の数、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(1/2原子)を表す。〕
【0032】
【化3】

【0033】
〔式中、R6及びR8は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基、R7及びR9は、それぞれ独立に炭素数2〜12のアルキレン基、m5及びm6は、それぞれ独立に1〜30の数、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(1/2原子)を表す。〕
【0034】
(C)成分は、単量体1と、単量体2及び単量体3を含む混合単量体とを、pH7以下で共重合して得られるリン酸エステル系重合体である。
【0035】
[単量体1]
単量体1について、一般式(C1)中のR3は水素原子が好ましく、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基が好ましく、エチレンオキシ基(以下、EO基)を含むことがより好ましく、EO基が70モル%以上、更に80モル%以上、更に90モル%以上、より更に全AOがEO基であることが好ましい。また、Xは水素原子又は炭素数1〜18、更に1〜12、更に1〜4、更に1又は2のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。具体的には、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステル、ω−メトキシポリオキシアルキレンアクリル酸エステル等を挙げることができ、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステルがより好ましい。ここで、一般式(C1)中のnは、重合体の水硬性組成物に対する分散性と低粘性付与効果の点で、3〜200であり、好ましくは4〜120である。また、平均n個の繰り返し単位中にAOが異なるもので、ランダム付加又はブロック付加又はこれらの混在を含むものであっても良い。AOは、EO基以外にもプロピレンオキシ基等を含むことができる。
【0036】
[単量体2]
単量体2としては、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステル、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)アクリル酸エステル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートアシッドリン酸エステル等が挙げられる。中でも、製造の容易さ及び製造物の品質安定性の観点から、リン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルが好ましい。
【0037】
[単量体3]
単量体3としては、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステル、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)アクリル酸〕エステル等が挙げられる。中でも、製造の容易さ及び製造物の品質安定性の観点から、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルが好ましい。
【0038】
単量体2及び単量体3の何れも、これらの化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などであっても良い。
【0039】
単量体2のm4並びに単量体3のm5及びm6は、分散性の観点から、それぞれ1〜20が好ましく、1〜10が更に好ましく、1〜5がより好ましい。
【0040】
単量体2及び単量体3として、これらを含む混合単量体を用いることができる。すなわち、モノエステル体とジエステル体とを含む市販品を使用することができ、例えば、ホスマーM、ホスマーPE、ホスマーP(ユニケミカル)、JAMP514、JAMP514P、JMP100(何れも城北化学)、ライトエステルP−1M、ライトアクリレートP−1A(いずれも共栄社化学)、MR200(大八化学)、カヤマー(日本化薬)、Ethyleneglycol methacrylate phosphate(アルドリッチ試薬)などとして入手できる。
【0041】
本発明の(C)成分であるリン酸エステル系重合体は、重量平均分子量(Mw)が10,000〜150,000であることが好ましい。また、Mw/Mnが1.0〜2.6であることが好ましい。ここでMnは数平均分子量である。分散効果の発現や粘性低減効果の観点から、Mwが10,000以上が好ましく、より好ましくは12,000以上、更に好ましくは13,000以上、更に好ましくは14,000以上、より更に好ましくは15,000以上で、架橋による高分子量化、ゲル化の抑制や性能面では分散効果や粘性低減効果の観点から、150,000以下が好ましく、より好ましくは130,000以下、更に好ましくは120,000以下、更に好ましくは110,000以下、より更に好ましくは100,000以下であり、従って、前記両者の観点から、好ましくは12,000〜130,000、より好ましくは13,000〜120,000、更に好ましくは14,000〜110,000、より更に好ましくは15,000〜100,000である。この範囲のMwを有し、かつMw/Mnが1.0〜2.6であることが好ましい。ここに、Mw/Mnの値は分子量分布の分散度を示し、1に近いほど分子量分布が単分散に近づき、1から離れる(大きくなる)ほど分子量分布が広くなることを意味する。
【0042】
上記のようなMw/Mn値を持つ本発明に係るリン酸エステル系重合体は、ジエステル構造に基づく分岐構造を有する重合体でありながら、分子量分布が非常に狭いという大きな特徴がある。このような本発明のリン酸エステル系重合体は後述する製造方法により好適に製造できる。
【0043】
上記のような本発明に係るリン酸エステル系重合体のMw/Mnは、実用的な製造容易性、分散性、粘性低減効果、及び材料、温度に対する汎用性を確保する観点から、1.0以上であり、分散性及び粘性低減効を両立する観点から、2.6以下であり、好ましくは2.4以下、より好ましくは2.2以下、更に好ましくは2.0以下、より更に好ましくは1.8以下であり、前記2点を総合した観点から、好ましくは1.0〜2.4、より好ましくは1.0〜2.2、更に好ましくは1.0〜2.0、より更に好ましくは1.0〜1.8である。
【0044】
本発明に係るリン酸エステル系重合体のMw及びMnは、特開2006−52381号公報記載のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定されたものである。なお、本発明におけるリン酸エステル系重合体のMw/Mnは、該重合体のピークに基づいて算出されたものとする。
【0045】
上記のようなMw/Mnを満たすリン酸エステル系重合体は、ジエステル体である単量体3による架橋を抑制することにより適度な分岐構造となり、分子内に密に吸着基が存在する構造を形成するものと考えられる。また分散度Mw/Mnを所定範囲に抑制することで同一サイズの分子が単分散した系に近づくため、吸着対象物質(例えばセメント粒子)に対する吸着量も多くすることが可能と考えられる。この両者を満足することで、セメント粒子等の吸着対象物質に密にパッキングすることが可能となり、分散性と粘性低減効果の両立に有効であると推定している。
【0046】
また、上記条件でのGPC法で得られる分子量分布を示すチャートのパターンにおいて、分子量10万以上の面積が当該チャート全体の面積の5%以下であることが、分散性(必要添加量低減)や粘性低減効果の点でより好ましい。
【0047】
なお、本発明に係るリン酸エステル系重合体は、下記条件の1H−NMRにより、単量体由来の二重結合が消失していることから、単量体1、2及び3にそれぞれ由来する構成単位を有すると推定される。
1H−NMR条件]
水に溶解した重合体を減圧乾燥したものを3〜4重量%の濃度で重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定する。二重結合の残存率は、5.5〜6.2ppmの積分値により測定される。なお、1H−NMRの測定は、Varian社製「Mercury 400 NMR」を用い、データポイント数42052、測定範囲6410.3Hz、パルス幅4.5μs、パルス待ち時間10s、測定温度25.0℃の条件で行った。
【0048】
すなわち、上記のようなMw/Mn値を持つリン酸エステル系重合体は、その構成単位として、単量体1由来の構成単位、単量体2由来の構成単位及び単量体3由来の構成単位を含む。これらの構成単位は、単量体1、2、及び3のエチレン性不飽和結合が開裂して付加重合することにより重合体中に取り込まれた各単量体由来の構成単位である。重合体中のこれら構成単位の比率は、仕込み比率に依存し、共重合に用いる単量体が単量体1〜3のみの場合、各構成単位のモル比は、単量体の仕込みモル比とほぼ一致すると考えられる。
【0049】
《リン酸エステル系重合体の製造方法》
(C)成分は、公知の方法で製造することができる。例えば、特開2006−52381号公報に記載の方法が挙げられる。
【0050】
本発明では(C)成分は、2種以上、更に3種以上を用いることができる。(C)成分を複数選択する基準は、水硬性組成物の組成、構成材料、性能等によるが、例えば、一般式(C1)で表される単量体1の割合が単量体の総量中1〜55モル%の共重合体(C1a)と、単量体1の割合が単量体の総量中55モル%超の共重合体(C1b)とを含む組み合わせが望ましい。更に、(C1a)、(C1b)に加えて第3の共重合体を選択する場合、つまり全部で3種の共重合体を用いる場合は、(C1b)が2種となるようにすることが好ましく、更に(C1b)の1つ(第2の共重合体)が、単量体1の割合が単量体の総量中55モル%超65モル%以下の共重合体であり、(C1b)のもう1つ(第3の共重合体)が、単量体1の割合が単量体の総量中65モル%超の共重合体であることが好ましい。
【0051】
<(D)成分>
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性組成物硬化体の早強性向上の観点から、(D)成分として、特定の共重合体を含有することができる。(D)成分は、(D)成分を含む混和剤、例えば水硬性組成物用分散剤として入手できるものを使用できる。
【0052】
(D)成分は、下記一般式(D1−1)で示される単量体(イ)と、下記一般式(D1−2)で示される単量体及び下記一般式(D1−3)で示される単量体から選ばれる単量体(ロ)とを構成単位として含む共重合体である。
【0053】
【化4】

【0054】
〔式中、
R13、R14:水素原子又は−CH3
R15:水素原子又は−COO(AO)nX
A2:炭素数2〜4のアルキレン基
X1:水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基
m’:0〜2の数
n’:2〜300の数
p’:0又は1の数
を示す。〕
【0055】
【化5】

【0056】
〔式中、
R16、R17、R18:同一でも異なっていてもよく、水素原子、−CH3又は(CH2)rCOOM2であり、(CH2)rCOOM2はCOOM1又は他の(CH2)rCOOM2と無水物を形成していてもよく、その場合、それらの基のM1、M2は存在しない。
M1、M2:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基又は置換アルキルアンモニウム基
r:0〜2の数
を示す。〕
【0057】
【化6】

【0058】
〔式中、
R19:水素原子又は−CH3
Z1:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基又は置換アルキルアンモニウム基
を示す。〕
【0059】
式(D1−1)中のn’個のアルキレングリコールA2Oは、同一でも異なっていてもよく、異なる場合はランダム付加でも、ブロック付加でも良い。
【0060】
ポリアルキレングリコールの重合効率を考慮すると、その付加モル数n’は300以下であることが必要で、150以下が好ましく、130以下がより好ましい。セメント分散性の観点から2〜300モルである。
【0061】
単量体(イ)の具体例として、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端低級アルキル基封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸、マレイン酸との(ハーフ)エステル化物や、(メタ)アリルアルコールとのエーテル化合物、及び、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、(メタ)アリルアルコールへのエチレンオキシド、プロピレンオキシド付加物が好ましく用いられ、一般式(D1−1)中のR15は水素原子が好ましく、p’=1、m’=0が好ましい。アルキレンオキシド(式(D1−1)中のA2O基)はオキシエチレン基が好ましい。より好ましくはアルコキシ、更に好ましくはメトキシポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物である。
【0062】
式(D1−2)で表される単量体として、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸系単量体、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸系単量体、又はこれらの塩、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、好ましくは、(メタ)アクリル酸又はこれらのアルカリ金属塩である。
【0063】
式(D1−3)で表される単量体として、(メタ)アリルスルホン酸又はこれらの塩、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
【0064】
単量体(ロ)は、共重合体の分子量制御の観点より、式(D1−2)で表される単量体のみを使用することが更に好ましい。
【0065】
(D)成分を構成する単量体混合物中の単量体(イ)と単量体(ロ)の合計量は50重量%以上、更には80重量%以上、更には100重量%が好ましい。単量体(イ)と単量体(ロ)以外の共重合可能な単量体として、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0066】
(D)成分は、公知の方法で製造することができる。例えば、特開平11−157897号公報の溶液重合法が挙げられ、水や炭素数1〜4の低級アルコール中、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の重合開始剤存在下、要すれば、亜硫酸ナトリウムやメルカプトエタノール等を添加し、50〜100℃で0.5〜10時間反応させればよい。
【0067】
(D)成分は、重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/標準物質ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算/水系)が10000〜100000、更に10000〜80000の範囲が好ましい。
【0068】
なお、(D)成分を含む水硬性組成物用分散剤を用いる場合は、該分散剤は、(D)成分を、好ましくは1〜50重量%、更に好ましくは10〜40重量%、より好ましくは20〜30重量%含有する。また、(D)成分が、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物中、好ましくは10〜45重量%、更に好ましくは10〜40重量%、より好ましくは20〜30重量%の含有量となるように該分散剤を用いることが好ましい。一般に、該分散剤の残部は、水、消泡剤、その他成分である。
【0069】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物において、化合物(a)の含有量は、5〜95重量%が好ましく、更に好ましくは10〜50重量%、更により好ましくは20〜30重量%である。脱型強度の向上、即ち早強性の向上の観点から5重量%以上が好ましく、また、製品の均一安定化の観点から95重量%以下が好ましい。
【0070】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物において、水硬性粉体100重量部に対する化合物(a)の添加量は、0.01〜10重量部が好ましい。すなわち、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性粉体100重量部に対して、化合物(a)が0.01〜5重量部の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。
【0071】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物において、(C)成分の含有量は、モルタル粘性の低下の観点から5重量%以上が好ましく、また、製品の均一安定化の観点から50重量%以下が好ましい。即ち、5〜50重量%が好ましく、更に好ましくは10〜40重量%、より好ましくは20〜35重量%である。
【0072】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、コンクリートの流動性の観点から、水硬性粉体100重量部に対して、(C)成分が0.01〜10重量部の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜1重量部である。
【0073】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物においては、早強性の観点から、化合物(a)の総量と(C)成分の総量の重量比が(C)/(a)=15/85〜96/4であることが好ましく、更に好ましくは25/75〜80/20、更により好ましくは50/50〜80/20である。
【0074】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物においては、製品の扱いやすさの観点から、化合物(a)と(C)成分の合計含有量が当該組成物中10〜100重量%であることが好ましく、更に好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20〜40重量%である。
【0075】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、早強性の観点から、水硬性粉体100重量部に対して、化合物(a)と(C)成分の合計で0.1〜10重量部の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.2〜5重量部、より好ましくは0.2〜1重量部である。
【0076】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物が(D)成分を含む場合は、コンクリートの流動性向上の観点から、水硬性粉体100重量部に対して、(D)成分が0.01〜10重量部の割合で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜1重量部である。
【0077】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物が(D)成分を含有する場合、コンクリートの流動性向上の観点から、当該組成物中の(C)成分と(D)成分の合計含有量は5〜50重量%、更に10〜40重量%が好ましい。その場合、(C)成分と(D)成分の重量比が(D)/(C)=1/100〜80/100であることが好ましい。この重量比において、(D)成分が占める上限値は(D)/(C)=65/100、更に40/100、より更に25/100が好ましい。一方、(D)成分が占める下限値は(D)/(C)=3/100、更に10/100が好ましい。
【0078】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、各種セメントを始めとし、水和反応によって硬化性を示すあらゆる無機系の水硬性粉体に使用することができる。本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は粉末状でも液体状でもよい。液体状の場合は、作業性、環境負荷低減の観点から、水を溶媒ないし分散媒とするもの(水溶液等)が好ましい。
【0079】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。セメント以外の水硬性粉体として、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてよい。セメントと混合されたシリカヒュームセメントや高炉セメントを用いてもよい。
【0080】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、その他の添加剤を含有することもできる。例えば、樹脂石鹸、飽和もしくは不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルカンスルホネート、ポリオキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル(塩)、ポリオキシアルキレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル(塩)、蛋白質材料、アルケニルコハク酸、α−オレフィンスルホネート等のAE剤;グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸等のオキシカルボン酸系、デキストリン、単糖類、オリゴ糖類、多糖類等の糖系、糖アルコール系等の遅延剤;起泡剤;増粘剤;珪砂;AE減水剤;塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、沃化カルシウム等の可溶性カルシウム塩、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物等、硫酸塩、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸塩、チオ硫酸塩、蟻酸(塩)、アルカノールアミン等の早強剤又は促進剤;発泡剤;樹脂酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコーン、パラフィン、アスファルト、ワックス等の防水剤;高炉スラグ;流動化剤;ジメチルポリシロキサン系、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル系、鉱油系、油脂系、オキシアルキレン系、アルコール系、アミド系等の消泡剤;防泡剤;フライアッシュ;メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物系、アミノスルホン酸系等の高性能減水剤;シリカヒューム;亜硝酸塩、燐酸塩、酸化亜鉛等の防錆剤;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、β−1,3−グルカン、キサンタンガム等の天然物系、ポリアクリル酸アミド、ポリエチレングリコール、オレイルアルコールのエチレンオキシド付加物もしくはこれとビニルシクロヘキセンジエポキシドとの反応物等の合成系等の水溶性高分子;(メタ)アクリル酸アルキル等の高分子エマルジョンが挙げられる。これらの成分は、水硬性組成物用分散剤に配合されていてもよい。
【0081】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、生コンクリート、コンクリート振動製品分野の外、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、石膏スラリー用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の種々のコンクリートの何れの分野においても有用である。
【0082】
<水硬性組成物>
本発明は、上記本発明の水硬性組成物用早強剤又は水硬性組成物用添加剤組成物と、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性組成物を提供する。
【0083】
本発明の水硬性組成物は、水及び水硬性粉体(セメント)を含有する、ペースト、モルタル、コンクリート等であるが、骨材を含有してもよい。骨材として細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0084】
該水硬性組成物は、水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の重量百分率(重量%)、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記される。〕が65重量%以下、更に60重量%以下、更に55重量%以下、より更に50重量%以下であることが好ましい。また、20重量%以上、更に30重量%以上が好ましい。従って、W/Pの範囲として、20〜65重量%、更に20〜60重量%、更に30〜55重量%、より更に30〜50重量%が好ましい。
【0085】
また、本発明の水硬性組成物は、必要に応じて、更に分散剤を含有することができる。かかる分散剤とは、前記の(C)成分や(D)成分等の分散剤又は公知の分散剤が挙げられる。本発明においては、(C)成分と(D)成分を併用することが好ましい。
【0086】
好ましい(C)成分と(D)成分の組み合わせ等は、前記の水硬性組成物用添加剤組成物における好ましい態様と同じで有れば良い。従って、本発明は、水硬性粉体と骨材に、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物と水を配合する水硬性組成物の製造方法を提供する。
【0087】
また、本発明は、上記本発明の水硬性組成物用早強剤又は水硬性組成物用添加剤と水硬性粉体と水と、更に、必要に応じて骨材及び/又は分散剤とを含有する水硬性組成物を硬化させてコンクリート製品を製造することができる。本発明の早強剤を含有するコンクリート製品は、蒸気加熱等のエネルギーを必要とせず製造でき、生産性を向上させることから環境に対しても優れたものである。
【実施例】
【0088】
<使用した成分>
(1)化合物(a)
化合物(a)として、それぞれ以下の製造例1、2で得られた化合物a−1、a−2を用いた。
【0089】
製造例1〔ジエチレングリコール硫酸化物(a−1)(硫酸化度1.0)の製造〕
ジエチレングリコール(DEG)を薄膜式硫酸化反応器(内径14mmφ、長さ4m) を使用してSO3濃度約1容量%(空気にて希釈)、反応モル比〔SO3/DEG〕=1.0(DEGの水酸基1モル当りSO3が0.5モル)、温度34〜64℃にて硫酸化した。得られた硫酸化物553.2g(酸価:310.8mgKOH/g)を8.7重量%水酸化ナトリウム水溶液中1070.7gに添加し、水溶液のpHを調整し、DEG硫酸化物(a−1)(硫酸化度1.0)の水溶液を得た。該水溶液のpHは12.1、揮発分は70.5重量%、硫酸ナトリウムは0.1重量%以下であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1224cm-1に確認した。
【0090】
製造例2〔1,2−ブタンジオールEO平均1モル付加物の硫酸化物(a−2)(硫酸化度1.0)の製造〕
(1)1,2−ブタンジオールEO平均1モル付加物
2リットルの攪拌機を備えたオートクレーブに1,2−ブタンジオールとKOHをぞれぞれ223.5g、1.4g仕込み、約600rpmで撹拌し、系内を窒素置換した後、155℃になるまで昇温した。上記反応混合物に圧力0.1〜0.3MPa(ゲージ圧)、温度155℃でエチレンオキシド(以下、EOと表記する)を109.1g(1,2−ブタンジオール1モルに対し、EO1モル相当)導入した。所定量のEOの導入後、圧力低下が見られなくなった後(反応終了後)、温度を80℃まで冷却し、1,2−ブタンジオールEO平均1モル付加物334gを得た。
【0091】
(2)1,2−ブタンジオールEO平均1モル付加物の硫酸化物(a−2)
(1)で得られた1,2−ブタンジオールEO平均1モル付加物を薄膜式硫酸化反応器(内径14mmφ、長さ4m)を使用してSO3濃度約1容量%(空気にて希釈)、反応モル比〔SO3/1,2−ブタンジオールEO平均1モル付加物〕=1.0(1,2−ブタンジオールEO平均1モル付加物の水酸基1モル当りSO3が0.5モル)、温度35〜60℃にて硫酸化した。得られた硫酸化物532.4g(酸価:262mgKOH/g)を5.3重量%水酸化ナトリウム水溶液中1864gに添加し、水溶液のpHを調整し、1,2−ブタンジオールEO平均1モル付加物の硫酸化物(a−2)(硫酸化度1.0)の水溶液を得た。該水溶液のpHは8.5、揮発分は75.5重量%、硫酸ナトリウムは0.1重量%以下であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1217cm-1に確認した。
【0092】
(2)比較の化合物
比較の化合物として、以下の比較製造例1で得られた化合物を用いた。
比較製造例1〔DEG硫酸化物(硫酸化度2.0)の製造〕
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)730.9gに液体SO3 80.1g(1.00モル)を0℃で、攪拌しながら1時間で滴下した。更に、DEG53.1g(0.5モル)を30分かけて滴下した(DEGの水酸基1モル当りSO3が1.0モル)。滴下終了後、10℃まで昇温して1時間攪拌した。反応混合物にイオン交換水200.0gを注ぎ、32重量%水酸化ナトリウム水溶液131g(1.05モル)で中和した。ロータリーエバポレーターでN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を留去して、更にイオン交換水を添加して反応物840.6gを得た。未反応のDEGを溶剤(メタノール/ヘキサン=2/1)にて抽出し、DEG硫酸化物(硫酸化度2.0)の水溶液を得た。該水溶液は、pHが11.0であり、揮発分(105℃、2時間)が80.1重量%、硫酸ナトリウムは1.2重量%であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1217cm-1に確認した。
【0093】
(3)(C)成分
(C)成分として、それぞれ以下の製造例C−1、C−2で得られた共重合体C−1、C−2を用いた。
【0094】
〔製造例C−1〕(共重合体C−1の製造)
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水395gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω-メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの付加モル数23:新中村化学製NKエステルM230G)261g、ホスマーM〔2−ヒドロキシエチルメタクリレートモノリン酸エステルと2−ヒドロキシエチルメタクリレートジリン酸エステルとの混合物、ユニケミカル(株)〕67.3g、及びメルカプトプロピオン酸4.3gを水141gに混合溶解した溶液と、過硫酸アンモニウム8.0gを水45gに溶解した溶液の2者を、それぞれ1.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、1時間熟成し、更に過硫酸アンモニウム1.8gを水10gに溶解した溶液を30分かけて滴下し、引き続き1.5時間熟成した。この一連の間の反応系の温度は80℃に保たれた。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、30%水酸化ナトリウム溶液66gで中和し、分子量37000の共重合体C−1を得た。その後、イオン交換水を用いて固形分20%に調整した。
【0095】
〔製造例C−2〕(共重合体C−2の製造)
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水355gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。60重量%のω-メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの付加モル数120:エステル純度97%水溶液)509g、ホスマーM〔2−ヒドロキシエチルメタクリレートモノリン酸エステルと2−ヒドロキシエチルメタクリレートジリン酸エステルとの混合物、ユニケミカル(株)〕35.6g、及びメルカプトプロピオン酸2.0gを混合溶解した溶液と、過硫酸アンモニウム2.9gを水45gに溶解した溶液の2者を、それぞれ1.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、1時間熟成し、更に過硫酸アンモニウム0.6gを水15gに溶解した溶液を30分かけて滴下し、引き続き1.5時間熟成した。この一連の間の反応系の温度は80℃に保たれた。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、30%水酸化ナトリウム溶液35.0gで中和し、分子量48000の共重合体C−2を得た。その後、イオン交換水を用いて固形分20%に調整した。
【0096】
(4)(D)成分
(D)成分として、それぞれ以下の製造例D−1〜D−5で得られた共重合体D−1〜D−5を用いた。
【0097】
〔製造例D−1〕(共重合体D−1の製造)
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水141gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。60重量%のω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数120:エステル純度100%)水溶液300g、メタクリル酸(試薬:和光純薬工業(株))25.9g、及びメルカプトプロピオン酸1.96gを混合溶解した溶液と、過硫酸アンモニウム3.82gを水45gに溶解した溶液の2者を、それぞれ1.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、1時間熟成し、更に過硫酸アンモニウム1.53gを水15gに溶解した溶液を30分かけて滴下し、引き続き1.5時間熟成した。この一連の間の反応系の温度は80℃に保たれた。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、48%水酸化ナトリウム溶液19.4gで中和し、重量平均分子量70000の共重合体D−1を得た。その後、イオン交換水を用いて固形分20%に調整した。
【0098】
〔製造例D−2〕(共重合体D−2の製造)
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水333gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23:新中村化学製NKエステルM230G)300g、メタクリル酸(試薬:和光純薬工業(株))69.7g、及びメルカプトプロピオン酸6.3gを水200gに混合溶解した溶液と、過硫酸アンモニウム12.3gを水45gに溶解した溶液の2者を、それぞれ1.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、1時間熟成し、更に過硫酸アンモニウム4.9gを水15gに溶解した溶液を30分かけて滴下し、引き続き1.5時間熟成した。この一連の間の反応系の温度は80℃に保たれた。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、48%水酸化ナトリウム溶液50.2gで中和し、重量平均分子量43000の共重合体D−2を得た。その後、イオン交換水を用いて固形分20%に調整した。
【0099】
〔製造例D−3〕(共重合体D−3の製造)
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水145gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23:新中村化学製NKエステルAM230G)の70%水溶液を230g、アクリル酸(試薬:和光純薬工業(株)純度:99%)32.1gの混合溶液と、メルカプトプロピオン酸1.44gを水28.6gに混合溶解した溶液と、及び過硫酸アンモニウム1.34gを水13.4gに溶解した溶液の3者を、それぞれ1.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。更に過硫酸アンモニウム0.67gを水6.7gに溶解した溶液を30分かけて滴下し、その後1時間熟成した。この一連の間の反応系の温度は80℃に保たれた。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、40%水酸化ナトリウム溶液53gで中和し、重量平均分子量43000の共重合体D−3を得た。その後、イオン交換水を用いて固形分20%に調整した。
【0100】
〔製造例D−4〕(共重合体D−4の製造)
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水225g、及びポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数30)アリルエーテル300gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。マレイン酸(試薬:和光純薬工業(株)純度:99%)47.4g、及びメルカプトプロピオン酸3.7gを水137gに混合溶解した溶液と、過硫酸アンモニウム7.1gを水90gに溶解した溶液の2者を、それぞれ2.5時間かけて上記反応容器中に滴下した。その後、2時間熟成し、更に過硫酸アンモニウム2.8gを水45gに溶解した溶液を60分かけて滴下し、引き続き2時間熟成した。この一連の間の反応系の温度は80℃に保たれた。熟成終了後に40℃以下に冷却した後、48%水酸化ナトリウム溶液26.6gで中和し、重量平均分子量31000の共重合体D−4を得た。その後、イオン交換水を用いて固形分20%に調整した。
【0101】
〔製造例D−5〕(共重合体D−5の製造)
攪拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に、ポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数100)アリルエーテルの65%水溶液を406g仕込み、65℃まで昇温した。そこに2%過酸化水素水溶液20.1gを滴下した。滴下後、アクリル酸38.4gを3.0時間かけて滴下し、それと同時に3−メルカプトプロピオン酸(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、試薬)1.26g、L−アスコルビン酸0.52g、イオン交換水33.8gを混合溶解した単量体溶液を3.5時間かけて滴下した。滴下終了後、65℃を1時間維持し反応を終了した。その後、20%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、重量平均分子量60000の共重合体D−5を得た。その後、イオン交換水を用いて固形分20%に調整した。
【0102】
<モルタルの調製及び評価>
(1)モルタルの調製
表1に示す配合条件で、モルタルミキサー((株)ダルトン製 万能混合撹拌機 型式:5DM-03-γ)を用いて、セメント(C)、細骨材(S)を投入し空練りを10秒行い、目標スランプ21±1cm、目標空気連行量2±1%となるよう、水硬性組成物用添加剤組成物(固形分25重量%の水溶液として用いた)を含む練り水(W)を加え、低速回転にて60秒、更に高速回転にて120秒間本混練りした。なお、化合物(a)とその他の成分と分散剤(有効分濃度)のセメント重量に対する添加量(重量%)は表2の通りであり、表2に示す添加量となるように練り水に添加して用いた。
【0103】
【表1】

【0104】
・セメント(C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)の普通ポルトランドセメント/住友大阪セメント(株)の普通ポルトランドセメント=1/1、重量比)、密度3.16g/cm3
・細骨材(S):城陽産、山砂、FM=2.67、密度2.56g/cm3
・水(W):水道水
【0105】
(2)モルタル評価
モルタルについて、以下に示す試験法にしたがって、脱型強度、スランプフローをそれぞれ評価した。評価結果を表2に示した。
【0106】
(2−1)脱型強度の評価
JIS A 1132に基づき、円柱型プラモールド(底面の直径:5cm、高さ10cm)に、二層詰め方式によりモルタルを充填し、20℃の室内にて16時間気中(20℃)養生を行った供試体を作製し、JIS A 1108に基づいて試供体の圧縮強度を測定した。なお、各例の圧縮強度について、比較例1−1の強度に対する相対値を強度比(%)として表2に併記した。
【0107】
(2−2)スランプフローの評価
前記の方法にて調製したモルタルを、JIS R 5201に基づき、直ちにフローコーンに2層詰めし、フローコーンを正しく上の方に取り去り、最大と認める方向と、これに直角な方向の長さを測定した。尚、JIS R 5201記載の落下運動は行っていない。
【0108】
【表2】

【0109】
表中、添加量は、セメント100重量部に対する各成分の有効分に基づく添加量(重量部)である。なお、比較例1−3のジエチレングリコール硫酸化物における「(B)成分の反応モル数」は、(A)成分の水酸基1モル当りの(B)成分の反応モル数である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2価アルコール及び2価アルコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上と(B)硫酸化剤とを反応させて得られる化合物(a)からなる水硬性組成物用早強剤であって、前記化合物(a)が、前記(A)の水酸基1モル当り平均0.1〜0.9モルの前記(B)を反応させたものである、水硬性組成物用早強剤。
【請求項2】
(A)2価アルコール及び2価アルコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上の化合物の硫酸モノエステルを含有する水硬性組成物用早強剤。
【請求項3】
前記(A)が、ジエチレングリコール、及び1,2−ブタンジオールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上の化合物である請求項1又は2記載の水硬性組成物用早強剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の水硬性組成物用早強剤と分散剤とを含有する水硬性組成物用添加剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項記載の水硬性組成物用早強剤と、水硬性粉体と、骨材と、水とを含有する水硬性組成物。
【請求項6】
更に、分散剤を含有する請求項5記載の水硬性組成物。
【請求項7】
請求項1〜3の何れか1項記載の水硬性組成物用早強剤を含有するコンクリート製品。

【公開番号】特開2010−24099(P2010−24099A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187727(P2008−187727)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】