説明

水硬性組成物

【課題】 本発明は、建築工事において左官職人がモルタル仕上げを行う左官材料に関し、製造工程や品質管理を煩雑にし、また原材料コストの上昇にもつながる多種多様な微量添加剤を極力用いることなく、ハンドリング性(可使時間)と、こて塗り作業性と、速硬性・早期強度発現性とに優れた水硬性組成物を提供することを目的とした。
【解決手段】 本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機微粉末と、樹脂成分とを含み、細骨材と流動化剤とを含まない水硬性組成物であって、無機微粉末は、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを含み、水硬性組成物は、粒子径150μmを超える粒子を含まないことを特徴とする水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築物に施工する作業性と速硬性と寸法安定性とに優れる水硬性組成物と、水硬性組成物を用いて得られるコンクリート構造体に関する。
さらに本発明は、各種建築物のコンクリート床に鏝塗り施工する作業性と速硬性と寸法安定性とに優れ、微妙な段差を修正する際のすり合わせ施工が可能な水硬性組成物と、水硬性組成物を用いて得られるコンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート表面のモルタル塗仕上げは、施工が簡易であり経済的にも安価であることから多種多様な箇所で用いられている。最も汎用的なモルタル塗仕上げ工法は、使用材料としてポルトランド系セメントと砂を用いて、これに適当量の水を加えたセメントモルタルをコンクリートの表面に左官鏝を用いて塗り付ける方法である。
【0003】
また、左官鏝を用いたモルタル塗仕上げ工法の作業性や仕上り性などの向上をはかるために、ポルトランド系セメントと砂に、さらに流動化剤や増粘剤や消泡剤や軽量骨材などの多種多様な添加剤を配合したものが考案され、実用化されている。
【0004】
モルタル塗仕上げに用いる組成物として、特許文献1には、主に左官工法によってモルタルやコンクリート系の構造物の修復に用いるのに好適なセメント系の厚付けモルタルに関し、軽量骨材と普通骨材からなる細骨材又は軽量骨材からなる細骨材、ポルトランドセメント、アルミナセメント、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩、膨張材、増粘剤及び減水剤を含有してなる厚付けモルタルが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、可使時間が長く、しかも可使時間内での流動性の変動が小さいため施工性に優れるとともに、超速硬性で早期開放が可能なモルタルに関し、アルミナセメント100重量部に対して、ポルトランドセメント20〜300重量部、石膏1
0〜100重量部、硬化促進剤0.1〜5重量部及び硬化遅延剤0.1〜5重量部を含有するモルタルが開示されている。
【0006】
特許文献3には、道路舗装やトンネルコンクリートの補修等の覆工時に使用する急硬性組成物として、セメント、カルシウムアルミネート、石膏、凝結調整剤、及びアクリル酸エステル共重合体エマルジョンを含有してなる急硬性セメント組成物が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−320783号公報
【特許文献2】特開2002−356363号公報
【特許文献3】特開2007−217212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
建設工事現場でも機械化による各種の省力化工法が開発・実用化されつつあるが、モルタル仕上げを行う工程については、依然として左官職人に依存しているのが現状である。モルタル仕上げ作業は、微妙な調整に熟練度が要求されるが、一方で、それを担える左官職人については、高齢化や就業者数の減少により左官職人が不足する状況となっている。このため、より短工期で効率的にモルタル仕上げが可能な左官材料が求められている。
本発明は、建築工事において左官職人がモルタル仕上げを行う左官材料に関し、製造工程や品質管理を煩雑にし、また原材料コストの上昇にもつながる多種多様な微量添加剤を極力用いることなく、ハンドリング性(可使時間)と、鏝塗り作業性と、速硬性・早期強度発現性とに優れた水硬性組成物を提供することを目的とした。
さらに本発明は、建築工事において、特にコンクリート床の段差を補正する場合に、左官職人が左官鏝を用いてスムースな床面を容易にかつ良好に仕上げることが可能な左官材料に関し、ハンドリング性(可使時間)と、鏝塗り作業性と、速硬性・早期強度発現性とに優れ、すり合わせ施工が可能な水硬性組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究開発に取組んだ結果、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分と、特定の無機微粉末成分と、樹脂成分とを含み、流動化剤などを含まない水硬性組成物を用いることによって、流動性を極力抑制して水硬性モルタルの保形性を確保しながらも優れた鏝塗り作業性を有し、ハンドリング性(可使時間)が長く、所定の可使時間が経過したのちに速やかに硬化が進行して、早期強度発現が良好な水硬性組成物を見出した。また、水硬性組成物の構成成分の粒度を限定することによって、水硬性モルタルの優れた保形性を活かして、施工面の微妙な段差を補正してスムースな仕上がり面を容易に形成できる水硬性組成物を見出して本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の第1は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機微粉末と、樹脂成分とを含み、細骨材と流動化剤とを含まない水硬性組成物であって、無機微粉末は、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを含み、水硬性組成物は、粒子径150μmを超える粒子を含まないことを特徴とする水硬性組成物である。
本発明の第2は、前記本発明の水硬性組成物と水とを混練して得られる鏝塗り施工用の水硬性モルタルである。
本発明の第3は、前記本発明の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルをコンクリート床上面に鏝塗り施工して得られるコンクリート床構造体である。
【0011】
本発明の水硬性組成物について好ましい様態を以下に示す。これらは複数組合せることができる。
1)水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルは、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、50〜80mmであること。
2)水硬性成分(100質量%)は、アルミナセメント35〜60質量%、ポルトランドセメント20〜50質量%及び石膏15〜35質量%からなり、水硬性成分100質量部に対して、無機微粉末は120〜200質量部の範囲であり、樹脂成分は2.0〜8.0質量部の範囲であること。
3)水硬性成分、無機微粉末及び樹脂成分の合計質量は、水硬性組成物(100質量%)中、98質量%以上であること。
4)無機微粉末は、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを含み、さらに粘土鉱物質微粉末を含むこと。
5)粘土鉱物質微粉末は、ロウ石微粉末であること。
6)水硬性組成物は、さらに凝結調整剤を含み、増粘剤と消泡剤とを含まないこと。
7)水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルの硬化体表面のショア硬度は、水硬性モルタルを鏝塗り施工したのち2時間後に5以上であり、3時間後に15以上であり、6時間後に30以上であり、24時間後に60以上であること。
8)水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタル硬化体の長さ変化率は、材齢7日のモルタル硬化体で0〜−0.05%の範囲であり、材齢28日のモルタル硬化体で0〜−0.08%の範囲であること。
9)水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルは、コンクリート床上面に0.1〜80mmの施工厚で鏝塗り施工されること。
10)水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルは、コンクリート床上面に鏝ですり合わせ施工されること。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水硬性組成物は、速硬性・速乾性に優れる水硬性成分と、特定の無機微粉末成分と、樹脂成分とを含み、流動化剤などを含まない水硬性組成物であり、流動性を極力抑制して水硬性モルタルの保形性を確保しながらも優れた鏝塗り作業性を有し、ハンドリング性(可使時間)が長く、所定の可使時間が経過したのちに速やかに硬化が進行して、良好な早期強度発現性を提供するものである。さらに、水硬性組成物の構成成分の粒度を限定することによって、水硬性モルタルの優れた保形性により、施工面の微妙な段差を補正してスムースな仕上がり面を容易に形成できるものである。
本発明は、多種多様な微量添加剤の添加を極力回避しつつ、水硬性モルタルの性能向上をはかった結果、左官職人が要望する特性を十二分に達成しつつ、水硬性組成物の製造工程や品質管理を容易なものとでき、また原材料コストの上昇も最小限に留めることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機微粉末と、樹脂成分とを含み、細骨材と流動化剤とを含まない水硬性組成物であって、無機微粉末は、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを含み、水硬性組成物は、粒子径150μmを超える粒子を含まない水硬性組成物である。
【0014】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むことにより、優れた速硬性を有する水硬性モルタルと、良好な寸法変化率を有する水硬性モルタル硬化体とを得ることができる。
【0015】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0016】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いることができる。
【0017】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用でき、特に無水石膏を好適に用いることができる。
石膏は、水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0018】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることが好ましい。
水硬性成分は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計を100質量%とした場合に、
好ましくはアルミナセメント35〜60質量%、ポルトランドセメント20〜50質量%及び石膏15〜35質量%からなる組成、
さらに好ましくはアルミナセメント40〜50質量%、ポルトランドセメント25〜40質量%及び石膏17〜27質量%からなる組成
特に好ましくはアルミナセメント42〜46質量%、ポルトランドセメント32〜38質量%及び石膏20〜25質量%からなる組成
を用いることにより、速硬性・速乾性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少なく、クラックの発生を抑制した硬化体が得られやすいために好ましい。
【0019】
本発明では、コンクリート下地に水硬性モルタルを施工する場合に、良好な鏝塗り作業性を確保するために、細骨材を用いずに特定の粒度を有する無機微粉末を選択して用いる。
本発明では、水硬性モルタルを用いて鏝塗り作業により、コンクリート下地の微妙な段差、例えば0.1〜1mmの段差や微小な凹凸を平滑に仕上げるためのすり合わせ施工に好適に対応できるように、粒子径が150μm以上の粒子を含まない無機微粉末を選択して用いる。
【0020】
無機微粉末としては、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを含むものを好ましく用いることができ、良好な鏝塗り作業と優れた保形性とを併せ持った水硬性モルタルと、高い強度特性を有する水硬性モルタルの硬化体とを得ることができる。
【0021】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対して、無機微粉末が
好ましくは120〜200質量部、さらに好ましくは135〜190質量部、より好ましくは150〜180質量部、特に好ましくは160〜170質量部の範囲で使用することによって、良好な鏝塗り作業性と優れた保形性とが得られることから好ましい。
【0022】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対して、高炉スラグ微粉末が
好ましくは20〜120質量部、さらに好ましくは30〜90質量部、より好ましくは40〜75質量部、特に好ましくは50〜65質量部の範囲であることが好ましく、
石灰石微粉末が
好ましくは50〜180質量部、さらに好ましくは65〜150質量部、より好ましくは80〜130質量部、特に好ましくは90〜110質量部の範囲であることが好ましい。
本発明では、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを前記の範囲で用いることによって、良好な鏝塗り作業性と優れた保形性とが得られることから好ましい。
【0023】
本発明で用いる高炉スラグ微粉末は、特に限定されるものではなく市販のものを用いることができる。
高炉スラグ微粉末の粉末度(ブレーン比表面積)は、3,000〜5,000cm/gのものを好適に用いることができる。ブレーン比表面積が3,000cm/g未満の場合、鏝塗り作業を行った水硬性モルタルの保形性を高める効果が乏しくなることから好ましくなく、5,000cm/gを超えると水硬性モルタルの粘性が高くなる傾向が顕著になって鏝塗り作業性を阻害することがあるため好ましくない。
【0024】
本発明で用いる石灰石微粉末は、特に限定されるものではなく市販のものを用いることができる。
石灰石微粉末の粉末度(ブレーン比表面積)は、3,000〜5,000cm/gのものを好適に用いることができる。ブレーン比表面積が3,000cm/g未満の場合、鏝塗り作業を行った水硬性モルタルの保形性を高める効果が乏しくなることから好ましくなく、5,000cm/gを超えると水硬性モルタルの粘性が高くなる傾向が顕著になって鏝塗り作業性を阻害することがあるため好ましくない。
【0025】
本発明では、無機微粉末として、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを含み、さらに粘土鉱物質微粉末を含む無機微粉末をより好ましく用いることができ、良好な鏝塗り作業と優れた保形性とを併せ持った水硬性モルタルと、より優れた強度特性を有する水硬性モルタルの硬化体とを得ることができる。
【0026】
粘土鉱物質微粉末としては、カオリナイト、ハロイサイト、スメクタイト、タルク、パイロフィライト(ロウ石)、セリサイト、バーミキュライト及びセピオライトなどの粘土鉱物質の微粉末から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
特に、ロウ石(パイロフィライト)微粉末は、水硬性組成物に配合した場合の滑性付与効果が高く、ロウ石(パイロフィライト)微粉末を水硬性組成物に所定量配合して水硬性モルタルを調製した場合、左官鏝を用いてすり合わせ施工する際の鏝塗り作業性がさらに向上し、水硬性モルタルの硬化体強度が一層向上することから好ましい。
【0027】
粘土鉱物質微粉末の使用量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは、1〜20質量部の範囲、さらに好ましくは3〜18質量部の範囲、より好ましくは5〜15質量部の範囲、特に好ましくは8〜12質量部の範囲とすることにより、良好な鏝塗り作業性と施工後の保形性とを有する水硬性モルタルが得られ、また水硬性モルタルの硬化体特性も向上することから好ましい。
粘土鉱物質微粉末の使用量が前記の範囲より過剰に使用した場合には、モルタルの粘性が高くなり過ぎて鏝塗り作業性が低下する傾向を示すことから粘土鉱物質微粉末は前記の範囲で用いることが好ましい。
【0028】
本発明で用いる粘土鉱物質微粉末は、特定の粒度構成を有するものを使用することが好ましい。
粘土鉱物質微粉末は、粘土鉱物質微粉末(100質量%)中に、
好ましくは粒子径が1μmを超えて48μm以下の粒子を80〜99質量%含むこと、
さらに好ましくは粒子径が1μmを超えて48μm以下の粒子を85〜98質量%含むこと、特に好ましくは粒子径が1μmを超えて48μm以下の粒子を90〜95質量%含むことによって、鏝塗り作業時に優れたすりあわせ施工性が得られ、水硬性モルタルの硬化体特性についてもその向上効果が高いことから好ましい。
【0029】
また、本発明で使用する粘土鉱物質微粉末は、粘土鉱物質微粉末(100質量%)中に、粒子径が1μm以下の粒子及び粒子径が96μm超の粒子を含まず、粒子径が1μmを超えて6μm以下の粒子を25〜50質量%含み、粒子径が6μmを超えて12μm以下の粒子を5〜40質量%含み、粒子径が12μmを超えて24μm以下の粒子を5〜40質量%含み、粒子径が24μmを超えて48μm以下の粒子を5〜40質量%含み、粒子径が48μmを超えて96μm以下の粒子を1〜20質量%含むことが好ましく、粒子径が1μm以下の粒子及び粒子径が96μm超の粒子を含まず、粒子径が1μmを超えて6μm以下の粒子を27〜40質量%含み、粒子径が6μmを超えて12μm以下の粒子を8〜30質量%含み、粒子径が12μmを超えて24μm以下の粒子を8〜30質量%含み、粒子径が24μmを超えて48μm以下の粒子を8〜30質量%含み、粒子径が48μmを超えて96μm以下の粒子を2〜15質量%含むことがさらに好ましく、粒子径が1μm以下の粒子及び粒子径が96μm超の粒子を含まず、粒子径が1μmを超えて6μm以下の粒子を28〜35質量%含み、粒子径が6μmを超えて12μm以下の粒子を10〜25質量%含み、粒子径が12μmを超えて24μm以下の粒子を10〜25質量%含み、粒子径が24μmを超えて48μm以下の粒子を10〜25質量%含み、粒子径が48μmを超えて96μm以下の粒子を5〜10質量%含むことが特に好ましい。
粘土鉱物質微粉末が、前記範囲の粒度構成を有することにより、鏝塗り作業時に優れたすり合わせ施工性が得られ、水硬性モルタルの硬化体特性についてもその向上効果が高いことから好ましい。
【0030】
また、粘土鉱物質微粉末の平均粒子径は、好ましくは5μm〜30μmの範囲、さらに好ましくは8μm〜25μmの範囲、特に好ましくは12μm〜18μmの範囲であることが、鏝塗り作業時に優れたすり合わせ施工性が得られ、水硬性モルタルの硬化体特性についてもその向上効果が高いことから好ましい。
【0031】
本発明の水硬性組成物で使用する樹脂成分としては、特に限定されるものではなく、市販のポリマーエマルションや再乳化形樹脂粉末などから適宜選択して使用することができる。
本発明の水硬性組成物では、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから構成成分をプレミックス化して供給することが好ましい。このため樹脂成分については、粉末状の再乳化形樹脂粉末を好適に使用することができる。
【0032】
本発明の水硬性組成物は、水硬性モルタルを施工した場合の硬化体表面の乾燥による皺や気泡跡の発生や、材料分離によるブリーディング水の発生を防止して、硬化体表面の仕上りを大幅に向上させる効果とともに、硬化体の弾性を高めてひび割れの発生を防止する効果と、硬化体と下地との接着強度を向上させる効果とを付与するために再乳化形樹脂粉末を使用する。再乳化形樹脂粉末を用いることによって前記の効果が得られ、耐久性及び耐候性に優れたモルタル硬化体を得ることができる。
【0033】
樹脂成分の製造方法については特にその種類・プロセスは限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また樹脂成分としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂成分の表面に付着しているものを用いることができる。
樹脂成分は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化形の樹脂粉末を用いることが好ましい。
【0034】
樹脂粉末としては、酢酸ビニルエステル重合体樹脂系、エチレン/酢酸ビニルエステル共重合体樹脂系、酢酸ビニルエステル/バーサチック酸ビニルエステル共重合体樹脂系、アクリル酸エステル共重合体樹脂系、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂系、アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体樹脂系の再乳化形樹脂粉末を用いることができる。
特に、本発明では、アクリル酸エステル/酢酸ビニルエステル/バーサチック酸ビニルエステル共重合体樹脂系の再乳化形樹脂粉末、及び/又は、保護コロイドアクリルエマルジョンから製造されたアクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合体の再乳化形樹脂粉末を好適に用いることができる。
アクリル共重合系の再乳化形樹脂粉末を用いる場合は、その1次粒子がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されているものを好適に用いることができる。
再乳化形樹脂粉末の1次粒子表面が、ポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されていることによって、再乳化の過程で速やかに且つ均一にもとのエマルジョンの状態(樹脂粉末化前の1次粒子の状態)、すなわち、水硬性モルタル中に1次粒子が均一に分散した状態を実現することができることから好ましい。
【0035】
樹脂成分は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは2.0〜8.0質量部、より好ましくは2.5〜7.5質量部、さらに好ましくは3.0〜7.0質量部、特に好ましくは3.5〜6.5質量部を配合したものを好ましく用いることができる。
樹脂成分の割合が、上記範囲より大きい場合、水を加えて得られる水硬性モルタルの粘度が高くなり、鏝塗り作業性が低下することがあり、また、上記範囲より小さい場合には、硬化体の乾燥クラックを防止する効果と引張り強度の向上効果が小さくなる傾向があることから、樹脂成分は前記の範囲で用いることが好ましい。
【0036】
本発明では、一般的に細骨材として用いられる珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類は使用しない。一般的な細骨材は、粒子径150μm以上の粒子を含むため、これを用いた水硬性モルタルを用いて鏝塗り施工によってすり合わせ施工を行った場合、スムースなすり合わせ施工面が得られないためである。
【0037】
また、本発明では、水硬性モルタルの流動性を向上させるために用いられる流動化剤(或いは減水剤)を使用しない。一般的に、流動化剤を用いることによって、水硬性モルタルを調製する場合に少ない水量で良好な流動性状を得ることができるが、水硬性モルタルを鏝塗り施工して、大小の傾斜を有する施工表面を形成するような場合には、その流動性によって形成していた傾斜面を保形できないことがある。
本発明は、流動化剤(或いは減水剤)を用いないことによって、鏝塗り施工によって傾斜面を形成する場合でも、施工された水硬性モルタルの保形性を高めることができ、特にすり合わせ施工を行った微妙な傾斜面を有する箇所の仕上がり性を高めることができる。
【0038】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機微粉末と、樹脂成分とを含む水硬性組成物である。
本発明では、水硬性組成物(100質量%)中、水硬性成分、無機微粉末及び樹脂成分の合計質量が、好ましくは98.0質量%以上、さらに好ましくは98.5質量%以上、より好ましくは99.0質量%以上、さらに好ましくは99.5質量%以上であることが好ましい。
本発明では、水硬性組成物の主要成分である水硬性成分、無機微粉末及び樹脂成分の含有比率を高め、高価な副成分である各種添加剤の使用を極力抑制することによって、水硬性組成物を製造する工程を簡素化できるとともに、使用原材料などの品質管理の煩雑さを大幅に軽減することができる。
【0039】
本発明の水硬性組成物は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機微粉末と、樹脂成分とを含み、さらに凝結調整剤を含むことが好ましい。
凝結調整剤は、使用する水硬性成分や水硬性組成物の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤、または、凝結遅延剤と凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択することによって、水硬性組成物の可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができるため好ましい。
本発明では、凝結調整剤として凝結遅延剤のみを使用することができ、良好なハンドリング性を確保した上で、適度な速硬性を緩やかに発現させることができる。
【0040】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤の一例として、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸類や、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。
【0041】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムやL−酒石酸ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0042】
凝結遅延剤は、1種または2種類以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜2.0質量部であり、より好ましくは0.1〜1.8質量部、さらに好ましくは0.2〜1.5質量部、特に好ましくは0.25〜1.2質量部の範囲で用いることにより好適な可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0043】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができ、凝結遅延剤と併せて凝結促進剤を用いる場合、例えば、好適な凝結促進効果を有するリチウム塩を用いることが好ましい。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
上記リチウム塩に硫酸アルミニウム、硫酸カリウム、アルミン酸ナトリウム等の凝結促進成分を併用することが、更に凝結促進効果が発揮されることから、さらに好ましい。
特に、凝結遅延剤と併せて凝結促進剤を用いる場合、好適な凝結促進効果を有するリチウム塩と硫酸アルミニウムとを併用することでより高い凝結促進効果を得ることができる。
【0044】
本発明の水硬性組成物は、主要成分である水硬性成分、無機微粉末及び樹脂成分の含有比率を高め、高価な副成分である各種添加剤の使用を極力抑制することを特徴とするものであり、増粘剤や消泡剤を含まないことが好ましい。高価な副成分である各種添加剤の使用を抑制することによって、水硬性組成物を製造する工程を簡素化できるとともに、使用原材料などの品質管理の煩雑さを大幅に軽減することができる。
【0045】
水硬性組成物を構成する場合に、好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを含む無機微粉末と、樹脂成分とを含み、細骨材と流動化剤とを含まないものである。
さらに、水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末と粘土鉱物質微粉末とを含む無機微粉末と、樹脂成分と、凝結調整剤(凝結遅延剤、または、凝結遅延剤と凝結促進剤)とを含み、細骨材と流動化剤と増粘剤と消泡剤とを含まないものである。
【0046】
本発明では、前記の構成成分を混合機で混合し、水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0047】
水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、水硬性モルタルを製造することができ、そのモルタルを硬化させて水硬性モルタルの硬化体を得ることができる。
【0048】
水硬性組成物は、水と混合・攪拌して水硬性モルタルを製造することができ、水の添加量を調整することにより、水硬性モルタルの流動性状、可使時間、鏝塗り作業性、すり合わせ施工性、保形性、水硬性モルタルの硬化体強度などを調整することができる。
本発明では、水硬性組成物(S)と水(W)とを質量比(W/S)が、
好ましくは0.20〜0.40の範囲、
さらに好ましくは0.24〜0.31の範囲、
より好ましくは、0.25〜0.30の範囲、
特に好ましくは0.26〜0.29の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
水硬性組成物(S)と水(W)とを質量比(W/S)を、前記の好ましい範囲とすることで、優れた鏝塗り作業性(鏝送り性、鏝伸び性、鏝切れ性、鏝離れ性、鏝ちぎれ性)と、鏝塗りすり合わせ施工性とを得ることができる。
さらに、前記の好ましい範囲では、質量比(W/S)の変化に対して、安定した鏝塗り作業性(鏝送り性、鏝伸び性、鏝切れ性、鏝離れ性、鏝ちぎれ性)と、鏝塗りすり合わせ施工性とを得ることができる。
【0049】
本発明で使用する水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルについて、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、
好ましくは50〜80mm、
さらに好ましくは50.2〜75mm、
特に好ましくは50.5〜70mmに調整されていることが、施工の容易さ及び適正な鏝塗り作業性が得られ、ダレがなく良好な保形性を有する水硬性モルタルを得られることから好ましい。フロー値が、80mmを超えると、水硬性モルタルを鏝塗り施工して傾斜を有する施工面を形成した場合に、良好な保形性が得られないことがあるため好ましくない。
【0050】
水硬性モルタルの施工厚さは、コンクリート下地表面の凹凸状態などによって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができ、コンクリート表面の最も凸部分上面を基準にして、
好ましくは施工厚さ0.1mm〜80mmの範囲、
さらに好ましくは施工厚さ0.12mm〜70mmの範囲、
より好ましくは施工厚さ0.14mm〜50mmの範囲、
特に好ましくは施工厚さ0.15mm〜30mmの範囲で鏝塗り施工することが好ましい。
特に本発明の水硬性組成物は、施工厚さが上記の好ましい範囲で鏝塗り施工することにより、最も好適な作業性を安定して得ることができる。
【0051】
本発明で用いる水硬性モルタルは、良好な施工性を確保するために充分な可使時間(ハンドリングタイム)を有している。
水硬性モルタルの可使時間は、水硬性モルタルの調製から
好ましくは30分間であり、
さらに好ましくは40分間であり、
特に好ましくは50分間である。
【0052】
水硬性モルタルは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、水硬性モルタルの調製・施工から3時間以内に硬化を開始し、硬化の進行に伴って硬化体の表面硬度が上昇し、硬化体表面の含水量が低下する。
水硬性モルタル硬化体表面のショア硬度は、水硬性モルタルを調製・施工してから、
好ましくは3時間後に15以上、
さらに好ましくは2時間後に7以上、
より好ましくは2時間後に10以上、
特に好ましくは1時間後に2以上のショア硬度を有し、
モルタル施工(打設・鏝仕上げ)が終了した後、速やかに硬化が進行することによって、優れた強度特性を有する水硬性モルタルの硬化体を得ることができる。
【0053】
水硬性モルタル硬化体の曲げ強さは、材齢7日の硬化体では、好ましくは2N/mm以上、さらに好ましくは3N/mm以上、特に好ましくは4N/mm以上の曲げ強さを発現し、材齢28日の硬化体では、好ましくは4N/mm以上、さらに好ましくは4.5N/mm以上、特に好ましくは5N/mm以上の曲げ強さを発現する。
また、水硬性モルタル硬化体の圧縮強さは、材齢7日のモルタル硬化体では、好ましくは15N/mm以上、さらに好ましくは20N/mm以上、特に好ましくは22N/mm以上の圧縮強さを発現し、材齢28日のモルタル硬化体では、好ましくは20N/mm以上、さらに好ましくは24N/mm以上、特に好ましくは25N/mm以上の圧縮強さを発現する。
【0054】
本発明の水硬性組成物は、速硬性・速乾性に優れた特性を有しており、速やかに良好な硬化状態と表面乾燥状態を得ることができることから、仕上げ材の施工工程などの次工程への移行が翌日〜3日後には可能となり、施工効率を大幅に向上させることができる。
【0055】
水硬性モルタル硬化体の長さ変化率は、材齢7日のモルタル硬化体で、好ましくは0〜−0.05%、さらに好ましくは0〜−0.03%、特に好ましくは0〜−0.025%の範囲であり、材齢28日のモルタル硬化体で、好ましくは0〜−0.08%、さらに好ましくは0〜−0.07%、特に好ましくは0〜−0.05%の範囲である。
本発明の水硬性組成物は、前記範囲の長さ変化率の特性を有することから、硬化体自体のクラック発生を防止でき、さらに下地となるコンクリート床との間で高い接着力を保持できる。また、上記の長さ変化率の範囲を外れた場合には、水硬性モルタルの硬化体の硬化収縮によってクラックが生じることがあるため好ましくない。
【0056】
本発明の水硬性組成物と水と混合して調製した水硬性モルタルは、左官鏝などを用いて各種建築物の床面、壁面及び天井面などに塗付け施工することができる。
特に、本発明の水硬性組成物と水と混合して調製した水硬性モルタルは、左官鏝などを用いて各種建築物のコンクリート床面の微小な段差部分を補修・補正仕上げする場合のすり合わせ施工が可能な水硬性モルタルとして好適に用いることができる。
さらに、本発明の水硬性モルタル硬化体の上面には、塗り床材や貼り床材などの各種仕上げ材を適宜選択して施工することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0058】
(特性の評価方法)
(1)モルタルの流動性評価:
・フロー値の測定法:
JASS 15M−103に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの樹脂製パイプ(内容積100ml)を設置し、練り混ぜたモルタルを樹脂製パイプの上端まで充填した後、パイプを鉛直方向に引き上げる。モルタルの広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とし、モルタルの流動性を評価する。
【0059】
(2)モルタルの鏝塗り作業性評価:
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、JIS A 5304舗装用コンクリート平板に規定する300mm×300mm×60mmのコンクリート平板にモルタルを約3〜5mmの厚みで塗り付けて、鏝塗り作業時のモルタルの送り、伸び、切れ、離れ、ちぎれの5項目について評価を行う。
また、モルタルをコンクリート平板の表面に約1mmの厚みで塗り付けたのち、左官鏝を用いてすりあわせ部を形成し、鏝塗りすり合わせ性およびすり合わせ部の保形性について評価を行う。
1)送り(重さ)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行う。
2)伸び(塗り面積)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行う。
3)切れ(鏝残り)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行う。
4)離れ(塗面の仕上げ易さ)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行う。
5)ちぎれ(塗面の均一性)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行う。
6)鏝塗りすり合わせ性a(すり合わせ部の形成)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行う。
7)鏝塗りすり合わせ性b(すり合わせ部の保形性:ダレによる変形)の評価
4:大変良好、3:良好、2:実用上問題なし、1:実用上問題あり、0:実用不可、の5段階で行う。
【0060】
(3)モルタル硬化体の表面特性の評価:
・ショア硬度の測定法:
水硬性モルタルを流し込んだ時点から所定の経過時間において、硬化した表面にスプリング式硬度計タイプD型(上島製作所製)を用いて任意の3〜5カ所に垂直に押し付ける。その時のスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間のショア硬度とし表面硬度を評価する。
【0061】
(4)モルタルの圧縮強度(N/mm)および曲げ強度(N/mm)の評価:
JIS R 5201に示される4×4×16cmの型枠に調製したモルタルを型詰めして、温度20℃、湿度65%で24時間気中養生した後、脱型し、さらに気中で所定期間(7日、28日)追加養生して成型体を得る。成型体は、JIS R 5201記載の方法に従い測定する。
5)長さ変化の評価:
長さ変化の測定試験については、JIS A 1129−2のコンタクトゲージ方法に準じて行った。JIS R 5201に示される4×4×16cmの型枠にチップを取り付け、調製したモルタルを型詰めして、温度20℃、湿度65%で24時間気中養生した後、脱型し、成型体を得る。成型体は、JIS A 1129−2記載の方法に従い所定材齢ごとに測定する。
【0062】
(使用材料):以下の材料を使用した。
1)水硬性組成物 : 下記の原材料を表1に示す配合割合で混合した水硬性組成物を使用した。
・アルミナセメント : フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g。
・ポルトランドセメント : 早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g。
・石膏 : II型天然無水石膏、国際商事社製、ブレーン比表面積3460cm/g。
・無機微粉末A : 高炉スラグ微粉末、リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g。
・無機微粉末B : 石灰石微粉末(炭酸カルシウム微粉末)、有恒鉱業社製、TM−1号、ブレーン比表面積4830cm/g。
・無機微粉末C : 粘土鉱物質微粉末(ロウ石微粉末)、平均粒子径=14.8μm、埼玉礦業社製。粒度構成を表5に示す。
・樹脂粉末 : 酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル/アクリル酸エステルの共重合体、日本合成化学社製、LDM2071P。
・凝結遅延剤A : L−酒石酸ナトリウム、扶桑化学工業社製。
・凝結遅延剤B : 重炭酸ナトリウム、東ソー社製。
【0063】
(モルタルの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、表1に示す配合割合で調製した水硬性組成物と水とを、表1に示す割合でそれぞれ配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して水硬性モルタルを調製した。
【0064】
[実施例1〜15]
表1に示す成分を配合した水硬性組成物を用いて水硬性モルタルを調製し、流動性、鏝塗り作業性、水硬性モルタル硬化体の長さ変化率及び水硬性モルタル硬化体の強度特性を測定した。測定結果を表2、表3および表4に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
(1)水比(水と水硬性組成物との配合比率)が異なる条件(水比=25%〜30%)で調製された水硬性モルタル(実施例1〜実施例5)、および、水比=26%、28%で調製された水硬性モルタル(実施例6〜実施例7)は、表2に示すようにフロー値は52〜63mmと極めて流動性状が小さい特性を示しているが、いずれも良好な鏝塗り作業性が得られた。また、すり合わせ施工性も良好であり、すり合わせ施工後のダレも認められず、良好な保形性を示した。
(2)表2に示すように、実施例2、4、6、7は、材齢7日の圧縮強度が20N/mm以上を示し、材齢7日の曲げ強度が4N/mm以上を示し、材齢28日の圧縮強度が25N/mm以上を示し、材齢28日の曲げ強度が5N/mm以上を示し、優れた強度発現性を示した。また、実施例6、7の場合、実施例2、4と比較して材齢7日の曲げ強度および材齢28日の圧縮強度、曲げ強度について、水比の増加による強度の低下が少ない。これにより、作業性を向上させるために水比を増加しても強度物性の低下を軽減することができる。これは無機微粉末として高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とロウ石微粉末とを併用したことによるものと推察される。
また、水硬性モルタル硬化体の長さ変化率は、実施例2、4の場合に材齢7日時点で−0.01%未満の収縮を示し、材齢28日時点で−0.03%未満の収縮を示しており、長さ変化率が極めて小さい値を示した。実施例6、7の場合は、材齢7日時点で−0.025%未満の収縮を示し、材齢28日時点で−0.035%未満の収縮を示しており、長さ変化率が極めて小さい値を示した。
(3)表3に示すように、実施例8〜15は、施工厚さが5mm、10mmのいずれの場合も優れた速硬性を示し、水硬性モルタルを調製・施工して3時間後にはショア硬度15以上、2時間後にはショア硬度7以上を示した。特に無機微粉末として高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを用いた実施例8〜13の場合、水硬性モルタルを調製・施工して2時間後にはショア硬度10以上、1時間後にショア硬度2以上の値を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機微粉末と、樹脂成分とを含み、細骨材と流動化剤とを含まない水硬性組成物であって、無機微粉末は、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを含み、水硬性組成物は、粒子径150μmを超える粒子を含まないことを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性組成物と水とを混合・混練して調製した水硬性モルタルは、JASS 15M−103に準拠したフロー試験で測定したフロー値が、50〜80mmであることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
水硬性成分(100質量%)は、アルミナセメント35〜60質量%、ポルトランドセメント20〜50質量%及び石膏15〜35質量%からなり、水硬性成分100質量部に対して、無機微粉末は120〜200質量部の範囲であり、樹脂成分は2.0〜8.0質量部の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
水硬性成分、無機微粉末及び樹脂成分の合計質量は、水硬性組成物(100質量%)中、98質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
無機微粉末は、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とを含み、さらに粘土鉱物質微粉末を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
粘土鉱物質微粉末は、ロウ石微粉末であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
水硬性組成物は、さらに凝結調整剤を含み、増粘剤と消泡剤とを含まないことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルの硬化体表面のショア硬度は、水硬性モルタルを鏝塗り施工したのち2時間後に5以上であり、3時間後に15以上であり、6時間後に30以上であり、24時間後に60以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項9】
水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタル硬化体の長さ変化率は、材齢7日のモルタル硬化体で0〜−0.05%の範囲であり、材齢28日のモルタル硬化体で0〜−0.08%の範囲であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項10】
水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルは、コンクリート床上面に0.1〜80mmの施工厚で鏝塗り施工されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項11】
水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルは、コンクリート床上面に鏝ですり合わせ施工されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練して得られる鏝塗り施工用の水硬性モルタル。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルをコンクリート床上面に鏝塗り施工して得られるコンクリート床構造体。

【公開番号】特開2010−18496(P2010−18496A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181510(P2008−181510)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】