説明

水稲育苗箱における固形肥料施用方法、及びその利用

【課題】固形肥料を選択的に固定する固形肥料施用方法等を提供する。
【解決手段】水稲育苗箱における固形肥料施用方法であって、液体の存在下で反応させることでゲルが生成する物質Aと物質Bとの組み合わせを少なくとも用い、物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料、及び他方を含む液体を準備し、当該固形肥料を、水稲育苗箱内の土壌表面又は土壌代替物の表面に施用し、当該液体と接触させてゲルを生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水稲育苗箱における固形肥料施用方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水稲の栽培においては、苗を育苗箱で所定期間栽培し、その後本田に移植して栽培を続行する方法が一般的である。本田において水稲を適正に生育させるために、適正な量の肥料の施用(施肥)が行われる。
【0003】
上記施肥は本田に肥料を施用することで行うこともできるが、他の方法として育苗箱の表土に肥料を予め施用する方法がある。この方法は、簡便であり、本田移植後に肥料効果を発揮させることが可能である等多くの利点がある。一方、育苗箱を運搬するとき、及び田植え機に設置するとき等に育苗箱を傾けると、肥料が育苗箱からこぼれ落ちるという問題がある。この問題に対して、粒状肥料と、所定の水溶解性を示す多糖類系高分子化合物とを水稲育苗箱の表土に施用し、水稲育苗箱の表土を灌水することによって、多糖類系高分子化合物で水稲育苗箱の表土に粒状肥料を固着させるという方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国公開特許公報:特開2009−101号公報(公開日2009年1月8日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の粒状肥料施用方法では、粒状肥料が接触していない部分の表土及びその下の土壌まで多糖類系高分子の粘性溶液により固着されるという問題が生じる。その結果、例えば、水稲の生育に悪影響を与えうる。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、固形肥料を選択的に固定する固形肥料施用方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、液体の存在下で反応させることでゲルが生成する物質の組み合わせを用いて、肥料の近傍へ選択的にゲルを生成させ、当該ゲルを用いて柔軟に肥料を固定することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明に想到するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る固形肥料施用方法は、液体の存在下で反応させることでゲルが生成する物質Aと物質Bとの組み合わせを少なくとも用い、上記物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料を準備する工程Aと、上記物質A又は物質Bの他方を含む液体を準備する工程Bと、工程Aで準備した固形肥料を、水稲育苗箱内の土壌表面又は土壌代替物の表面に施用し、当該固形肥料と工程Bで準備した液体とを接触させてゲルを生成する工程Cとを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る固形肥料施用方法において、生成される上記ゲルが耐水性であることが好ましい場合がある。
【0010】
ここで、耐水性のゲルとしては、例えばアルギン酸カルシウムゲル又はアルギン酸マグネシウムゲルが挙げられる。
【0011】
本発明に係る固形肥料施用方法において、上記物質Aがアルギン酸と1価カチオンとの塩であり、上記物質Bが上記液体中で多価カチオンを生成する物質であることが好ましい。
【0012】
また、多価カチオンを生成する物質が、カルシウム塩又はマグネシウム塩を含むことが好ましい。
【0013】
さらに、上記カルシウム塩として硫酸カルシウムを含むことが好ましい。
【0014】
さらに、上記物質Bが硫酸カルシウムを含むものである場合、当該物質Bは石膏であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る固形肥料施用方法において、上記物質Aがアルギン酸と1価カチオンとの塩である場合、当該物質Aはアルギン酸ナトリウムであることが好ましい。
【0016】
本発明に係る固形肥料施用方法において、上記液体中で多価カチオンを生成する上記物質Bが上記固形肥料の表面に付着され、上記物質Aが上記液体に含まれるものであることが好ましい。
【0017】
本発明に係る固形肥料施用方法では、上記固形肥料が、被膜により被覆された尿素肥料である場合がある。
【0018】
本発明に係る固形肥料施用方法では、上記工程Cは、工程Aで準備した固形肥料を、水稲育苗箱内の土壌表面又は土壌代替物の表面に施用した後に、工程Bで準備した液体を当該土壌表面又は土壌代替物の表面に供給することにより行われることが好ましい。
【0019】
本発明はまた、上記の固形肥料施用方法が施されていることを特徴とする水稲苗床を提供する。
【0020】
本発明はさらに、上記の水稲苗床で水稲苗を栽培することを特徴とする水稲栽培方法を提供する。
【0021】
本発明に係る水稲栽培方法では、湛水した状態で栽培することが好ましい。
【0022】
本発明はまた、上記の固形肥料施用方法に用いられる固形肥料固定キットであって、上記物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料と、上記物質A又は物質Bの他方とを備えることを特徴とする固形肥料固定キットを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、固形肥料を選択的に固定する固形肥料施用方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1において、ゲルにより肥料を固定した状態を示す図である。
【図2】本発明の実施例1において、田植え当日の水稲苗の生育状況の結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例1において、田植え時の水稲苗の草丈を比較した結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例1において、水稲苗の根張りの変化を示す図である。
【図5】本発明の実施例1において、田植え時のマット強度を比較した結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例1において、田植え日当日の水稲苗10cm角の根の乾燥重を比較した結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例1において、水稲の収穫量を比較した結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例3において、水稲の収穫量を比較した結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例4において、水稲の収穫量を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(本発明に係る固形肥料施用方法の概要)
本発明に係る固形肥料施用方法は、水稲育苗箱における固形肥料施用方法であって、液体の存在下で反応させることでゲルが生成する物質Aと物質Bとの組み合わせを少なくとも用い、上記物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料を準備する工程Aと、上記物質A又は物質Bの他方を含む液体を準備する工程Bと、工程Aで準備した固形肥料を、水稲育苗箱内の土壌表面又は土壌代替物の表面に施用し、当該固形肥料と工程Bで準備した液体とを接触させてゲルを生成する工程Cとを含むことを特徴の一つとする。
【0026】
上記の方法によれば、例えば、以下の利点1)〜4)を有する。
1)物質Aと物質Bとが接触する場合のみにゲルが形成されるため、固形肥料を選択的に固定することが出来る。例えば、工程Aで準備した固形肥料を土壌表面又は土壌代替物の表面上にまばらに施用した場合は、固形肥料の表面近傍のみに選択的にゲルが形成され、当該ゲルを介して(ゲルが土壌等の表面に噛み込むことで)固形肥料が固着される。また例えば、工程Aで準備した固形肥料を土壌表面又は土壌代替物の表面上に敷き詰めるように施用した場合は、固形肥料を含むように板状のゲルが形成されて、この板状のゲルが土壌表面又は土壌代替物の表面に固定される。
2)上記の通り、物質Aと物質Bとが接触しない限りゲルが生成しない。例えば、物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料を水稲育苗箱の土壌表面等に施用した状態で降雨等があった場合でも、ゲルは生成しない。よって、不所望なゲルの生成により固形肥料が固着することを防止することができる。
3)土壌又は土壌代替物を不所望に固着するおそれが比較的少なく、水稲苗の生育に影響を与えるおそれが比較的少ない。すなわち、ゲルは、実質的には、工程Aで準備した固形肥料が施用された土壌表面近傍又は土壌代替物の表面近傍でのみ形成される。そして、形成されたゲルは半固形物質であるため、土壌内部又は土壌代替物の内部へは侵入し難い。そのため、ゲルが土壌又は土壌代替物を不所望に固着するおそれが比較的少ない。
4)上記の通り、固形肥料は、ゲルにより、土壌又は土壌代替物に柔軟に固定される。すなわち、接着剤に相当する粘性溶液を用いた肥料の固着方法と比較して、土壌又は土壌代替物を不所望に固着するおそれが比較的少ない。
以下、上記工程A〜工程Cをより詳細に説明する。
【0027】
(工程A及び工程B)
工程Aは、液体の存在下で反応させることでゲルが生成する物質Aと物質Bとの組み合わせを少なくとも用い、上記物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料を準備する工程である。工程Bは、上記物質A又は物質Bの他方を含む液体を準備する工程である。
【0028】
<物質A及び物質B>
本発明で使用する物質A及び物質Bは、液体の存在下で反応させることでゲルが生成する組み合わせであればよい。ここで、生成するゲルの種類は特に限定されないが、例えば、アルギン酸カルシウムゲル、アルギン酸マグネシウムゲル等のアルギン酸と多価カチオンとのゲル;カッパ型、又はイオタ型のカラギナンゲル;ネイティブ型、又は脱アシル型等のジェランガムゲル;等が挙げられる。これら例示の中でも、アルギン酸と多価カチオンとのゲル、カラギナンゲル、ジェランガムゲル等の耐水性に優れたゲル(耐水性ゲル)が好ましく、アルギン酸カルシウムゲル、アルギン酸マグネシウムゲル、カッパ型のカラギナンゲル、ネイティブ型のジェランガムゲルが耐水性の観点ではより好ましい。生成するゲルは1種類のみでもよく、2種類以上であってもよい。
【0029】
生成するゲルが耐水性である場合には、水分過多な環境(例えば、プール育苗環境、水田環境等の湛水環境)でもゲルが溶解し難く、固形肥料の固定効果を期待することができる。そのため田植え後も長期間にわたり固形肥料を苗の周囲にとどめておくことが可能となり、効果的に肥効を発揮させられる。また、固形肥料がゲルにより被覆されているため、田植え後に、固形肥料の成分が湛水中に急速に溶出することが防止される。さらに、後述する工程Cによりゲルを形成した後に、不所望な(例えば過剰量の)物質A又は物質Bを水で洗い流すことも可能となる。
【0030】
上記物質Aと物質Bとの組み合わせは生成するゲルの種類に応じて適宜選択できる。以下の説明では、物質Aをゲルの基本骨格を与える物質として、物質Bを当該基本骨格同士を結びつける(架橋する)物質として説明を行う。
【0031】
生成するゲルが例えばアルギン酸と多価カチオンとのゲルの場合は、物質Aがアルギン酸と1価カチオンとの塩であり、物質Bが上記液体中で多価カチオンを生成する物質である組み合わせが挙げられる。アルギン酸と1価カチオンとの塩(物質A)は、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、等が挙げられる。多価カチオンを生成する物質(物質B)には、上記液体に溶解性を示す各種カルシウム塩、各種マグネシウム塩、等が挙げられる。カルシウム塩としては、特に限定されないが例えば、硫酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、燐酸カルシウム、等がある。水稲苗の生育への影響の観点からは、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、等が好ましい。また、ゲルの形成速度の観点からは、硫酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、等が好ましい。すなわち、硫酸カルシウム又はパントテン酸カルシウムがより好ましいカルシウム塩であり、コストの観点も考慮すると硫酸カルシウムが特に好ましい。物質A及び物質Bは純物質である必要はなく、混合物(組成物)でもよい。例えば、硫酸カルシウムを主成分として含む組成物として、汎用農業資材である石膏等が挙げられ、水酸化カルシウムを主成分として含む組成物として消石灰が挙げられる。また、上記マグネシウム塩としては、硫酸マグネシウム、パントテン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、燐酸マグネシウム、等がある。
【0032】
生成するゲルがジェランガムゲルの場合、物質Aがネイティブ型、又は脱アシル型等のジェランガムであり、物質Bが上記液体中でカチオンを生成する物質である。液体中でカチオンを生成する物質とは、多価カチオンを生成する上記物質の他、1価カチオンを生成する各種ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0033】
生成するゲルがカラギナンゲルの場合、物質Aがカッパ型、又はイオタ型のカラギナンであり、物質Bが上記液体中でカチオンを生成する物質である。液体中でカチオンを生成する物質とは、ジェランガムゲルの場合と同様である。
【0034】
<液体>
本発明で使用する液体は、上記物質Aと物質Bとのゲル生成反応の場を提供する。液体は、例えば、物質A及び物質Bの少なくとも一方を溶解可能なものが好ましい。液体はまた生成したゲルを膨潤させる。液体の種類は特に限定されないが、水稲との親和性を考慮すれば水が特に好ましい。
【0035】
<固形肥料>
固形肥料は、一定の形状を有する肥料を広く指し、その形状及び大きさに特に限定はない。形状は、球状、角状、棒状、円柱状等いずれでもよく、大きさは、例えば、数mm〜数cm程度のものが挙げられる。また、肥料の種類も、尿素、硫安等の窒素肥料;燐酸質肥料;カリウム肥料;これら成分の混合肥料等、特に限定されることなく使用することができる。また、肥料の種類は、魚粕、干魚、骨粉、乾燥菌体肥料等の有機肥料、又は各種無機肥料であってもよい。固形肥料は、肥料成分の溶出時期を調整するために表面が樹脂等で被覆された肥料(被覆肥料と称する場合がある)でもよい。さらに、複数の種類の固形肥料を同時に使用することもできる。水稲はその生育において多量の窒素分を要求するという観点では、固形肥料の種類は窒素肥料、又は窒素肥料を含有する混合肥料であることが好ましく、さらにはその表面が樹脂等で被覆された被覆肥料(コーティング肥料)であることが好ましい。被覆肥料は肥料成分の溶出を生育に応じてコントロール可能であり、その結果、必要な肥料成分量を大幅に低減することができる。
【0036】
<工程Aの詳細>
工程Aにおいて、上記固形肥料に、上記物質A又は物質Bの一方を表面に付着させる方法には特に限定はないが、例えば、物質A又は物質Bを粉末状にして固形肥料にまぶす方法がある。この場合に、バインダ又は水等を予め固形肥料の表面に塗布し、ついで粉末状の物質A又は物質Bをまぶしてもよい。また、物質A又は物質Bを液状にしたもので肥料を覆い、乾かす方法もある。肥料が粉末状である場合には、物質A又は物質Bに肥料を練り込むこともできる。これらの方法により、上記物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料が準備される。
【0037】
物質Aをゲルの基本骨格を与える物質とし、物質Bを当該基本骨格同士を結びつける(架橋する)物質とした場合、ゲル生成の効率の観点では、物質Bを固形肥料の表面に付着させることがより好ましい。なお、物質Bが固形肥料の表面に付着される場合は、物質Aが液体中に含まれるもの(他方)となる。
【0038】
物質A又はBの、固形肥料に対する施用割合は、ゲルの生成による固形肥料の固定が可能な範囲で適宜設定すればよく、例えば、固形肥料の種類、大きさ、又は形状等から適宜設定すればよい。例えば、石膏を固形肥料の表面に付着させる場合には、固形肥料100gに対して、石膏を2.5g以上で10g以下の範囲内で用いることが好ましく、5g以上で7.5g以下の範囲内で用いることがより好ましい。
【0039】
<工程Bの詳細>
工程Bにおいて、上記物質A又は物質Bの他方を含む液体を準備する方法は特に限定されないが、例えば、物質A又は物質Bを粉末状にして液体中に混合する方法がある。この場合は、液体を加熱したり、攪拌したりしてもよい。なお、物質A又はBが液体に含まれるとは、物質A又はBの少なくとも一部が液体に溶解している状態であることが好ましい。
【0040】
物質Aをゲルの基本骨格を与える物質とし、物質Bを当該基本骨格同士を結びつける(架橋する)物質とした場合、ゲル生成の効率の観点では、物質Aを液体に含ませることがより好ましい。また、液体の一例たる水への溶解性に優れるという観点では、物質Aがアルギン酸と1価カチオンとの塩であることが好ましい。なお、物質Aが液体中に含まれるものとなる場合は、物質Bが固形肥料の表面に付着されるもの(一方)となる。また、工程Bにおけるゲルの生成を防止するため、工程Bにおいて調製される上記液体は上記物質Aと物質Bとが同時には含まれないことが特に好ましい。
【0041】
物質A又はBの、液体に対する使用量は、ゲルの生成による固形肥料の固定が可能な範囲で適宜設定すればよく、例えば、液体に対するその溶解度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、アルギン酸と1価カチオンとの塩を含む液体を準備する場合は、液体としての水100gに対して、当該塩を0.5g以上で4g以下の範囲内で用いることが好ましく、1g以上で2g以下の範囲内で用いることがより好ましい。
【0042】
工程Aと工程Bとを行う順序は特に限定されず、両工程を実質的に同時に行ってもよいし、工程Aを先行して行っても、工程Bを先行して行ってもよい。これら工程A・Bは工程Cに先立って行われていればよいが、好ましくは工程Cを行う直前(工程Cを行う当日)に行う。
【0043】
(工程C)
工程Cは、工程Aで準備した固形肥料を、水稲育苗箱内の土壌表面又は土壌代替物の表面に施用し、当該固形肥料と工程Bで準備した液体とを接触させてゲルを生成する工程である。
【0044】
工程Cに供される水稲育苗箱は、内部に、上記土壌又は土壌代替物(両者を合わせて培土と総称する場合がある)が収納されているものである。ここで、土壌代替物とは、水稲育苗の目的で土壌に代えて使用可能な固形培地を指し、水耕培地は除かれる。土壌代替物は特に限定されないが、具体的には例えば、天然又は人工繊維を主原料として製造された成型マット、人工培土等が挙げられる。
【0045】
工程Cにおいて、工程Bで準備した液体を工程Aで準備した固形肥料に接触させる方法には特に限定はないが、例えば、1)工程Aで準備した固形肥料を土壌表面又は土壌代替物の表面に施用し、その上から工程Bで準備した液体をかける方法が挙げられる。2)また、工程Bで準備した液体を予め土壌表面又は土壌代替物の表面にかけておき、その上に工程Aで準備した固形肥料を施用することもできる。ゲルの生成効率の観点では、1)の方法がより好ましい。なお、工程Bで準備した液体を水稲育苗箱にかけるために、ジョウロの他、公知のノズル、パイプ、ホース等を使用することができ、自動手動を問わない。
【0046】
水稲育苗箱内の土壌表面又は土壌代替物の表面への固形肥料の施用量は、固形肥料の種類等に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。例えば、固形肥料が窒素肥料であって、水稲の生育に必要な全量を水稲育苗箱内に一度に施用する場合は、例えば1.0kg/m以上で6kg/m以下の範囲内となるように施用すればよく、1.8kg/m以上で6kg/m以下の範囲内となるように施用することが好ましく、2.5kg/m以上で6kg/m以下の範囲内となるように施用することがより好ましく、3kg/m以上で5kg/m以下の範囲内となるように施用することがさらに好ましい。
【0047】
水稲育苗箱内の土壌表面又は土壌代替物の表面への固形肥料の施用時期は、育苗開始直後から田植え直前までのいずれの時期であってもよいが、肥料成分の溶出により水稲苗が徒長するおそれをより効率的に防止する観点では、固形肥料が窒素肥料の場合は、田植えの10日前〜当日の間に施用することが好ましく、田植えの7日前〜当日に施用することがより好ましく、田植えの前日又は当日に施用するのがさらに好ましい。また、固形肥料が窒素肥料以外の場合でも、固形肥料の施用時期は窒素肥料と同様にすることが好ましい。
【0048】
なお、本発明において、肥料成分の溶出の制御は、土壌表面又は土壌代替物の表面へ固形肥料を施用する方法(上のせ法)を基本にし、1)上記した固形肥料施用の時期、及び、2)被覆尿素肥料の使用、等を適宜組み合わせて実現されている。水稲育苗箱内での育苗期間中に、肥料成分の溶出を抑制すれば、水稲苗の徒長が防止され、かつ根張りの悪化が防止(苗マット強度の低下防止)される。その結果、田植え機での田植えに好適な水稲苗が得られる。また、水稲苗が徒長していなければ、状況に応じて田植え日を1週間〜10日程度、延期することも可能になる。また、本発明では上記上のせ法を利用するために、本田の肥沃度、及び本田に対する水稲苗の植栽密度等に応じて、適宜、施肥量の変更が容易である。
【0049】
また別の観点では、上記工程Cは、水稲種子が播種された水稲育苗箱に対して、所定の大きさ(例えば、水稲育苗箱の上面から水稲苗の先端が飛び出す程度以上)にまで水稲苗が生育している状態で行われることが好ましい。特に固形肥料を土壌表面又は土壌代替物の表面上に敷き詰めるように施用する場合、水稲苗が所定の大きさにまで生育していれば、土壌表面等へのゲルの噛み込みに加え、水稲苗の茎の下部がゲルに取り囲まれることを利用して固形肥料をより一層確実に固定することができる。なお、水稲種子の播種は、土壌又は土壌代替物の任意の深さに行うことができるが、例えば5mm以上で10mm以下の範囲内の深さに播種される。
【0050】
(水稲苗床)
本発明に係る水稲苗床とは、上記した本発明に係る固形肥料施用方法が施された水稲育苗箱を基本構成単位とし、水稲苗が生育しているものを指す。換言すれば、当該水稲苗床は、1)水稲育苗箱、2)水稲育苗箱内に格納された土壌又は土壌代替物、3)土壌又は土壌代替物の表面上に形成された固形肥料を含むゲル、及び、4)水稲苗、を含んで形成される。
【0051】
また、上記水稲苗床は、ゲルを介して固定される固形肥料以外の他の肥料成分が、土壌又は土壌代替物の中又は表面に含まれていてもよい。さらに、必要に応じて、殺虫剤、植物成長調整剤、pH調整剤等を更に添加することもできる。
【0052】
(水稲栽培方法)
本発明において水稲栽培方法(育苗方法)とは、水稲育苗箱に水稲種子(例えば、催芽もみ又は乾もみ)を播種又は幼苗を植えた後に工程Cを行うまでの期間、及び、工程C以降で田植え前までの期間に適用される栽培方法を指す。水稲栽培方法は特に限定はないが、例えばプール育苗法等の常時湛水した状態で栽培する方法が好ましい。ゲルの生成時の副産物及び未反応物をプール育苗槽等の水に溶出させることができ、水稲苗への影響をより防ぐことができるからである。また、本発明では、固形肥料をのせるスペースを確保するため育苗培土が減量される場合があるが、育苗培土の減少に起因する保水量減少の影響を補うことができるからである。ただし、常時湛水した状態で栽培しない場合であっても、ゲル形成後すぐに田植えをすれば副産物又は未反応物の影響は抑えられる。
【0053】
なお、プール育苗法とは、パイプハウス内にビニール等を用いて簡易水槽(プール)を作り、当該簡易水槽内に水稲育苗箱を配置して、常時湛水した状態で育苗を行う方法を指す。プール育苗法は、灌水作業、温度管理を簡略化でき、また育苗障害が少なくなるという利点を有する。
【0054】
(固形肥料固定キット)
本発明は、上記の固形肥料施用方法に用いられる固形肥料固定キットであって、物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料と、上記物質A又は物質Bの他方と、を備えたものを提供することができる。この固形肥料固定キットは、上記物質A又は物質Bの他方を溶解又は懸濁する液体をさらに含んでいてもよい。また、物質A又は物質Bの他方は液体に含まれた(溶解又は懸濁された)状態であってもよい。本発明に係る固形肥料固定キットはさらに、当該キットの使用法を記載した使用説明書を含んでいてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこの例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
(育苗)
実施例及び参考例とも、水稲の品種は「にこまる」を使用した。被覆尿素肥料(固形肥料に相当)は「苗箱まかせ100日タイプ」(ジェイカムアグリ製)を用いた。育苗用土(土壌に相当)としてJA育苗用土を用いた。全てプール育苗法で行った。場所は福岡県南部の圃場である。
【0057】
実施例及び参考例とも、まず、水稲種子を塩水選(比重選別)したのち、殺菌・殺虫剤で24時間種子消毒した。その後、水に浸種して1日〜2日間、催芽を行った。水稲育苗箱(29cm×58cm×2.8cm:「苗箱」と称する。)内に上記育苗用土を敷き詰めた。ここで実施例1(上のせ法)では苗の生えたマット上に被覆尿素肥料をのせるスペースを確保するため7mm厚になるように、参考例1(通常育苗法)では14mm厚になるように上記育苗用土を敷き詰めた。参考例2(床土混合法)では、参考例1において水稲種子の下になる用土量(14mm厚)から混和する被覆尿素肥料の容積を除いた量の育苗用土を用い、当該育苗用土を被覆尿素肥料と均一に混合して敷き詰めた。参考例3(少量培地)では7mm厚になるように育苗用土を敷き詰めた。
【0058】
実施例及び参考例とも、充分に潅水を行った後に、2010年6月22日に、育苗用土上に180gの催芽もみを均一になるように播種し、その上から育苗用土で7mm程度覆土し、再度潅水した。播種、覆土の終わった苗箱を発芽器に1〜2日入れ、発芽を促進した。発芽を確認したら、苗箱を育苗用プールに並べ、苗が緑化するまで寒冷紗で遮光した。苗が緑化したら寒冷紗を取り除き、田植えまで育苗した。
【0059】
被覆尿素肥料は、慣行栽培の総窒素施用量の60〜80%相当を10a当たりの植え付け苗箱数で割って箱当たりの施用量を決めるとされている。そのため、総窒素施用量8kg/10a、苗箱数を10a当たり20箱と想定して、被覆尿素肥料の窒素含量が40%であるので苗箱1個当たり800gの施用とした(窒素量は慣行栽培の総窒素施用量の80%に相当する)。被覆尿素肥料は、実施例1と参考例2でのみ苗箱に施用した。なお、参考例2では、上記の通り、上のせ法ではなく、被覆尿素肥料は種子下にある育苗用土に混合して施用した。
【0060】
実施例1では、田植え前日に被覆尿素肥料を苗箱1個当たり800g準備し、霧吹きで水を吹きかけて湿らせた後、粉砕した石膏40g(肥料重量に対して5%)を混合して被覆尿素肥料に石膏を粉衣させた。この石膏粉衣被覆尿素肥料を苗マット(育苗用土表面)上に均一になるように散布して載せ、その上からアルギン酸ナトリウム水溶液(1重量%濃度)を1リットル均一に散布した。このとき、被覆尿素肥料に付着した石膏のカルシウムイオンとアルギン酸イオンとが結合し、アルギン酸カルシウムゲルができ、被覆尿素肥料が苗マット上に固定された。アルギン酸カルシウムゲルは、水中であっても崩壊は少なく、柔軟性があるため田植え作業時にも肥料の落下はほとんど認められなかった。アルギン酸カルシウムゲルの生成時に、硫酸ナトリウムが副次的に生成するが、水溶性が高いため、プール育苗槽の水に溶け出して水稲苗への影響は無い。
【0061】
図1は、実施例1の方法により、被覆尿素肥料がアルギン酸カルシウムゲルで苗マット上に固定された状態を示す。
【0062】
図2は、各苗の田植え日当日の生育状況を示す。図2中左側から順に、参考例2、参考例3、参考例1、及び実施例1に相当する。図3に、実施例1、参考例1、参考例2で、田植え日当日の苗の草丈を比較した結果を示す。従来法である床土混合法(参考例2)では実施例1に比べて苗の草丈が高くなった。これは育苗期間中に、気温、水温が高かったため、被覆尿素肥料からの尿素の溶出が進んだからである。それに対し、実施例1では田植え前日に苗床上に被覆尿素肥料を施用するため、被覆尿素肥料からの尿素の溶出がほとんどなく、田植え後は田植え時同時施用とほぼ同等の溶出が期待できる。
【0063】
図4に、田植え日当日における、苗の根張り変化を示す。図4中左側は参考例2を、右側は実施例1に相当する。図5に、実施例1、参考例1、参考例2で、田植え時のマット強度を比較した結果を示す。マット強度の測定法は(参考文献:高橋行継・吉田智彦 2006. 群馬県稲麦二毛作地帯における水稲箱全量基肥栽培のプール育苗法に関する検討. 日作紀 75:119-125.)の記載に従って行った。実施例1は参考例2の3倍以上のマット強度を示した。図6に、田植え日当日における、苗の周囲10cm角の根の乾燥重を比較した結果を示す。実施例1は参考例2よりも重かった。これは、上記のように参考例2では尿素が溶出し、根の発達阻害が起きたためである。
【0064】
(田植え)
田植えは2010年7月6日に行い、上のせ区(実施例1)、床土混合区(参考例2)をそれぞれ3反復で設けた。実施例1及び参考例2では、本田に対する窒素肥料の施肥は行っていない。一方、参考例1で育苗した苗を、基肥窒素量5kg/10aを施用した本田に田植えして、さらに追肥窒素量3kg/10aで管理したもの(参考例4)及び、参考例1で育苗した苗を、窒素肥料無施用の本田に田植えしたもの(参考例5)についてもそれぞれ3反復で設けた。
【0065】
図7に収穫量を比較した結果を示す。実施例1及び参考例2は同等の収穫量であった。また、それらは施用窒素量を20%減らしても通常施肥(参考例4)並の生育、収穫量が得られたことから、水稲の根近傍に肥料が位置することにより肥料効率が高まったものと考えられた。つまり、実施例1では被覆尿素肥料が耐水性のゲルにより固定され、水稲の根近傍に位置していたと考えられる。
【0066】
<参考例>
固形肥料を表土に施用し、次いで、その上から石膏粉を振りかけ、さらに、その上からアルギン酸ナトリウム水溶液をかけてゲルを作る方法による固定を試みた。
【0067】
(方法)
本参考例では、上記実施例1と同様に、苗箱内に上記育苗用土を7mm厚になるよう敷き詰めた。被覆尿素肥料を苗箱1個当たり800g準備し、育苗用土表面上に均一になるように散布して載せた。次いで、粉砕した石膏40g(肥料重量に対して5%)をその上に振りかけ、さらにその上からアルギン酸ナトリウム水溶液(1重量%濃度)を1リットル均一に散布した。
【0068】
(結果と考察)
参考例の条件では、肥料が何重にもなっており、石膏がのっている部分のみにゲルができるため、肥料の固定が不十分であった。したがって、参考例の方法で固定を十分なものにするためには、石膏及びアルギン酸ナトリウムの量を増やす必要があると考えられる。また、肥料が重ならない(一層で広がる)程度の量であれば、固形肥料を表土に施用し、次いで、その上から石膏粉を振りかけ、さらに、その上からアルギン酸ナトリウム水溶液をかけてゲルを作る方法を用いることができることもわかった。
【0069】
<実施例2>
本実施例では、様々な窒素肥沃度の土壌に、様々な窒素施用量を適用した。
【0070】
(育苗)
水稲の品種は「にこまる」を使用した。被覆尿素肥料は「苗箱まかせ100日タイプ」を用いた。育苗用土としてJA育苗用土を用いた。全てプール育苗法で行った。場所は福岡県南部の圃場であって、表1に熱水抽出性窒素量を示す通り土壌の窒素肥沃度が異なる化成連用圃場又は有機物連用圃場である。
【0071】
実施例及び参考例とも、実施例1と同様の方法で、水稲種子の催芽を行った。また、実施例2(上のせ法)では、実施例1と同様の苗箱内に、7mm厚になるように上記育苗用土を敷き詰めた。参考例6(通常育苗法)では14mm厚になるように上記育苗用土を敷き詰めた。
【0072】
実施例及び参考例とも、充分に潅水を行った後に、2011年6月3日に、実施例1と同様の方法で播種し、その後発芽を行い、田植えまで育苗した。
【0073】
苗箱数を本田10a当たり20箱植え付けると想定して、上のせ法(実施例2)の総窒素施用量を、1.6kg/10a(上のせ1.6)、3.2kg/10a(上のせ3.2)、4.8kg/10a(上のせ4.8)、又は6.4kg/10a(上のせ6.4)とした。これらの窒素量は、それぞれ慣行栽培の総窒素施用量の20、40、60、80%に相当するものである。2011年6月20日に、被覆尿素肥料を苗箱当たりそれぞれ200、400、600、800g準備し、霧吹きで水を吹きかけて湿らせた後、粉砕した石膏をそれぞれ10、20、30、40g(肥料重量に対して5%)混合して被覆尿素肥料に石膏を粉衣させた。この石膏粉衣被覆尿素肥料を苗マット(育苗用土表面)上に均一になるように散布して載せ、その上からアルギン酸ナトリウム水溶液(1重量%濃度)をいずれも1リットル均一に散布した。これにより、実施例1と同様、アルギン酸カルシウムゲルができ、被覆尿素肥料が苗マット上に固定された。なお、参考例6では、苗箱に被覆尿素肥料を施用していない。
【0074】
(田植え)
田植えは2011年6月24日に行い、土壌の窒素肥沃度が互いに異なる、化成連用(有機物無施用)、稲わら1t/年連用、稲ワラ堆肥2t/年連用、及び麦わら0.6t/年連用の土壌のそれぞれについて、総窒素施用量が異なる上のせ区(実施例2)をそれぞれ2反復で設けた。実施例2では、本田に対する窒素肥料の施肥は行っていない。一方、参考例6で育苗した苗を、基肥窒素量5kg/10aを施用した本田に田植えして、さらに追肥窒素量3kg/10aで管理したもの(標準施肥)及び、参考例6で育苗した苗を、窒素肥料無施用の本田に田植えしたもの(無窒素)についても、それぞれ2反復で設けた。リン酸及びカリウムの施用量は、全区をリン酸8kg/10a、カリウム8kg/10aに揃えた。
【0075】
表1に収穫量(精玄米量)を比較した結果を示す。また、表2に玄米の外観品質を比較した結果を示す。なお、玄米の外観品質は、日本穀物検定協会による試験研究機関向けの等級格付けであり、出荷された玄米の各品種の持つ特徴、形状、色、艶、病虫害をチェックして格付けされる(詳細は、http://www.kokken.or.jp/を参照のこと)。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
上のせ法の収穫量は、化成連用において上のせ4.8以上、稲わら1t/年連用において上のせ1.6以上、稲ワラ堆肥2t/年連用において上のせ3.2以上、麦わら0.6t/年連用において上のせ6.4の場合に標準施肥とほぼ同等の収穫量及び玄米の外観品質を得ることができた。
【0079】
<実施例3>
本実施例では、苗箱内施肥法の現地適応性を検討した。
【0080】
(育苗)
水稲の品種は「にこまる」を使用した。被覆尿素肥料は「苗箱まかせ100日タイプ」を用いた。育苗用土としてJA育苗用土を用いた。全てプール育苗法で行った。場所は福岡県うきは市吉井町徳丸の農家圃場である。
【0081】
実施例3及び参考例7では、農家がプール育苗した苗(農家苗)及び発明者がプール育苗した苗(発明者苗)を用いた。まず、いずれの苗も実施例1と同様の方法で、水稲種子の催芽を行った。また、実施例3の農家苗(上のせ法)及び発明者苗(上のせ法)では、実施例1と同様の苗箱内に、7mm厚になるように上記育苗用土を敷き詰めた。参考例7の農家苗(通常育苗法)では14mm厚になるように上記育苗用土を敷き詰めた。参考例7の発明者苗(床土混合法)では、参考例2に準じて上記育苗用土を敷き詰めた。参考例7の発明者苗(床土混合法)の総窒素施用量は、4.0kg/10aとした。
【0082】
農家苗については、実施例及び参考例とも、充分に潅水を行った後に、2011年5月22日に、実施例1と同様の方法で播種し、その後発芽を行い、田植えまで育苗した。発明者苗については、2011年6月3日に播種した。
【0083】
苗箱数を本田10a当たり20箱植え付けると想定して、上のせ法(実施例3)の総窒素施用量を、農家苗では4.0kg/10a、4.8kg/10a、5.6kg/10a、又は6.4kg/10aとした。これらの窒素量は、それぞれ慣行栽培の総窒素施用量の50、60、70、80%に相当するものである。2011年6月20日に、被覆尿素肥料を苗箱当たりそれぞれ500、600、700、800g準備し、霧吹きで水を吹きかけて湿らせた後、粉砕した石膏をそれぞれ25、30、35、40g(肥料重量に対して5%)混合して被覆尿素肥料に石膏を粉衣させた。この石膏粉衣被覆尿素肥料を苗マット(育苗用土表面)上に均一になるように散布して載せ、その上からアルギン酸ナトリウム水溶液(1重量%濃度)をいずれも1リットル均一に散布した。これにより、実施例1と同様、アルギン酸カルシウムゲルができ、被覆尿素肥料が苗マット上に固定された。上のせ法(実施例3)の発明者苗では、総窒素施用量を4.8kg/10aとし、2011年6月20日に、同様にアルギン酸カルシウムゲルによって被覆尿素肥料を苗マット上に固定した。なお、参考例7の農家苗(通常育苗法)では、苗箱に被覆尿素肥料を施用していない。
【0084】
(田植え)
田植えは2011年6月25日に行い、各総窒素施用量の農家苗及び発明者苗の上のせ区(実施例3)をそれぞれ2反復で設けた。実施例3では、本田に対する窒素肥料の施肥は行っていない。一方、参考例7の農家苗を、基肥一発肥料(N:P:K=20:12:12)を田植え時に側条施肥した本田に田植えしたもの(側条施肥8kg/10a)及び、参考例7の農家苗を、窒素肥料無施用の本田に田植えしたもの(無窒素)についても、それぞれ2反復で設けた。また、参考例7の発明者苗(用土混和4kg/10a)についても、それぞれ2反復で設けた。リン酸及びカリウムの施用量は、全区をリン酸4.8kg/10a、カリウム4.8kg/10aに揃えた。
【0085】
図8に収穫量(精玄米量)を比較した結果を示す。また、表3に玄米の外観品質を比較した結果を示す。上のせ法の農家苗について、農家慣行である側条施肥(窒素施用量8kg/10a)の60%の窒素施用量である4.8kg/10aでほぼ等しい収穫量を得ることができ、玄米の外観品質に差はなかった。
【0086】
【表3】

【0087】
<実施例4>
本実施例では、上のせ法に使用する被覆尿素肥料を変更した。
【0088】
(育苗)
水稲の品種は「にこまる」を使用した。被覆尿素肥料は「LPSS100」(ジェイカムアグリ製)、又は「LPSS100」と「ロング424-40」(ジェイカムアグリ製)とを組み合わせたもの(「LPSS100+ロング424-40」)を用いた。育苗用土としてJA育苗用土を用いた。全てプール育苗法で行った。場所は福岡県南部の圃場である。
【0089】
実施例及び参考例とも、実施例1と同様の方法で、水稲種子の催芽を行った。また、実施例4(上のせ法)では、実施例1と同様の苗箱内に、7mm厚になるように上記育苗用土を敷き詰めた。参考例8(床土混合法)では、参考例2に準じて、上記育苗用土を被覆尿素肥料(苗箱まかせ100日タイプ)と均一に混合して敷き詰めた。参考例8の総窒素施用量は、4.8kg/10aとした。参考例9(通常育苗法)では14mm厚になるように上記育苗用土を敷き詰めた。
【0090】
実施例及び参考例とも、充分に潅水を行った後に、2011年6月17日に、実施例1と同様の方法で播種し、その後発芽を行い、田植えまで育苗した。
【0091】
苗箱数を本田10a当たり20箱植え付けると想定して、上のせ法(実施例4)の総窒素施用量を、LPSS100では4.8kg/10aとし、LPSS100+ロング424-40では3.2kg/10a+1.6kg/10aとした。これらの窒素量は、慣行栽培の総窒素施用量の60%に相当するものである。2011年7月7日に、実施例4について、実施例1に準じて、アルギン酸カルシウムゲルによって、被覆尿素肥料を苗マット上に固定した。なお、参考例8及び参考例9では、苗箱に被覆尿素肥料を施用していない。
【0092】
(田植え)
田植えは2011年7月8日に行い、実施例4(LPSS100又はLPSS100+ロング424-40)及び参考例8(苗箱まかせ用土混和)をそれぞれ2反復で設けた。実施例4では、本田に対する窒素肥料の施肥は行っていない。一方、参考例9で育苗した苗を、基肥窒素量5kg/10aを施用した本田に田植えして、さらに追肥窒素量3kg/10aで管理したもの(標準施肥)についても2反復で設けた。リン酸及びカリウムの施用量は、全区をリン酸8kg/10a、カリウム8kg/10aに揃えた。
【0093】
図9に収穫量(精玄米量)を比較した結果を示す。また、表4に玄米の外観品質を比較した結果を示す。上のせ法で使用する被覆尿素肥料を、LPSS100に変更した場合、「苗箱まかせ」の床土混合法と同等の収穫量及び玄米の外観品質が得られた。このように、様々な種類の肥料を用いることができ、栽培地の気温(地温、水温)、水稲の品種及び生育パターン等に応じて肥料を選択し得る。
【0094】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、水稲育苗箱における固形肥料施用方法等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水稲育苗箱における固形肥料施用方法であって、
液体の存在下で反応させることでゲルが生成する物質Aと物質Bとの組み合わせを少なくとも用い、
上記物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料を準備する工程Aと、
上記物質A又は物質Bの他方を含む液体を準備する工程Bと、
工程Aで準備した固形肥料を、水稲育苗箱内の土壌表面又は土壌代替物の表面に施用し、当該固形肥料と工程Bで準備した液体とを接触させてゲルを生成する工程Cと
を含むことを特徴とする固形肥料施用方法。
【請求項2】
上記ゲルが耐水性であることを特徴とする請求項1記載の固形肥料施用方法。
【請求項3】
上記ゲルがアルギン酸カルシウムゲル又はアルギン酸マグネシウムゲルであることを特徴とする請求項2記載の固形肥料施用方法。
【請求項4】
上記物質Aがアルギン酸と1価カチオンとの塩であり、上記物質Bが上記液体中で多価カチオンを生成する物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固形肥料施用方法。
【請求項5】
上記物質Bが、カルシウム塩又はマグネシウム塩を含むことを特徴とする請求項4記載の固形肥料施用方法。
【請求項6】
上記物質Bが、硫酸カルシウムを上記カルシウム塩として含むことを特徴とする請求項5記載の固形肥料施用方法。
【請求項7】
上記物質Bが石膏であることを特徴とする請求項6記載の固形肥料施用方法。
【請求項8】
上記物質Aがアルギン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項4〜7の何れか一項に記載の固形肥料施用方法。
【請求項9】
上記物質Bが上記固形肥料の表面に付着され、上記物質Aが上記液体に含まれるものであることを特徴とする請求項4〜8の何れか一項に記載の固形肥料施用方法。
【請求項10】
上記固形肥料が、被膜により被覆された尿素肥料であることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の固形肥料施用方法。
【請求項11】
上記工程Cは、工程Aで準備した固形肥料を、水稲育苗箱内の土壌表面又は土壌代替物の表面に施用した後に、工程Bで準備した液体を当該土壌表面又は土壌代替物の表面に供給することにより行われることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の固形肥料施用方法。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項に記載の固形肥料施用方法が施されていることを特徴とする水稲苗床。
【請求項13】
請求項12記載の水稲苗床で水稲苗を栽培することを特徴とする水稲栽培方法。
【請求項14】
湛水した状態で栽培することを特徴とする請求項13記載の水稲栽培方法。
【請求項15】
請求項1〜11の何れか一項に記載の固形肥料施用方法に用いられる固形肥料固定キットであって、
上記物質A又は物質Bの一方を表面に付着させた固形肥料と、
上記物質A又は物質Bの他方と、
を備えることを特徴とする固形肥料固定キット。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−235779(P2012−235779A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104140(P2012−104140)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】