説明

水系における微生物防除剤組成物、微生物防除剤製剤、及び、水系における微生物防除方法

【課題】低濃度の添加でも高い微生物防除効果が得られ、保存安定性が高く、かつ、薬注ポンプや薬注配管などに腐食などの障害を引き起こす恐れの少ない微生物防除剤組成物、微生物防除剤製剤、及び、微生物防除方法を提供する。
【解決手段】トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩とトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とを有効成分として含有する水系における微生物防除剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開放循環冷却水系などの水系における微生物防除剤組成物、微生物防除剤製剤、及び、これらを用いた微生物防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四級ホスホニウム塩系化合物は、微生物の繁殖を制御する薬剤として、あるいは殺菌殺藻剤として公知であり(特開昭57−204286号公報(特許文献1)、特開平8−40811号公報(特許文献2))、本発明者等も、アメーバ殺滅剤として提案を行っている(特開2002−308713公報(特許文献3))。
【0003】
このようなホスホニウム塩系化合物のうち、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩は、微生物の繁殖を抑制する効果、特に開放循環冷却水系等で発生する粒状緑藻に対する防除効果が弱く、高濃度の添加が必要となることが問題であった。
【0004】
一方、トリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩は微生物の防除効果には優れるものの、薬品自体の安定性が低く、長期に保存したときに分離、沈殿、分解等を生じないようにするためには、酸性製剤とすることが必須であり、このような薬剤を水系に添加する際に、薬注ラインの液漏れや腐食を避けるためには、薬注ポンプや薬注配管の材質に制約を受ける等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−204286号公報
【特許文献2】特開平8−40811号公報
【特許文献3】特開2002−308713公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決する、すなわち、低濃度の添加でも高い微生物防除効果が得られ、保存安定性が高く、かつ、薬注ポンプや薬注配管などに腐食などの障害を引き起こす恐れの少ない微生物防除剤組成物、微生物防除剤製剤、及び、微生物防除方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩とトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とを組み合わせることで、上記問題を解決することができることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明の微生物防除剤組成物は、請求項1に記載の通り、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩とトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とを有効成分として含有することを特徴とする水系における微生物防除剤組成物である。
【0009】
また、本発明の微生物防除剤製剤は、請求項2に記載の通り、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩とトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とを有効成分として含有し、該有効成分の合計含有量が0.1重量%以上50重量%以下であり、かつ、pHが9.0以上12.0以下の水性製剤であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の水系における微生物防除方法は、請求項3に記載の通り、請求項1に記載の水系における微生物防除剤組成物、または、請求項2に記載の微生物防除剤製剤を微生物防除対象水系に添加することを特徴とする微生物防除方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩とトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とを組み合わせる構成により、これら薬剤の単独使用の際に生じる問題点を解消させ、低濃度の添加でも高い微生物防除効果が得られ、保存安定性が高く、薬注ポンプや薬注配管などに腐食などの障害を引き起こす恐れの少ない微生物防除剤組成物および微生物防除剤製剤とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩と、トリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とはいずれも、水溶性の塩であればどのような塩でも良く、無機酸との塩であっても有機酸との塩であっても構わない。このような塩の例としては、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0013】
本発明において、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩とトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とは、重量比で1:100〜50:1となるように用いることが高い微生物防除効果が得られるので好ましい。さらに好ましい範囲は1:20〜5:1である。これら薬剤は、有効成分の合計含有量が0.1重量%以上50重量%以下であり、かつ、pHが9.0以上12.0以下の水性製剤とすることにより、保存安定性に優れた製剤となり、かつ、製剤品としての金属に対する腐食性が極めて小さくなるので、薬注ポンプや薬注配管などに腐食などの障害を引き起こすリスクが格段に減少する。より好ましい製剤品としてのpH範囲は、10.0以上12.0以下である。
【0014】
トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩とトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とは、微生物防除目的の水系水に対して、有効成分の合計添加濃度として1mg/L以上500mg/L以下となるように添加することが好ましい。添加濃度が1mg/L未満であると充分な微生物防除効果が得られないときがあり、また、500mg/Lを超えて添加しても、添加量の増加に見合う微生物防除効果の増加は得られにくく、かつ、添加水系での泡立ちが生じやすくなる。最適な添加範囲は5mg/L以上100mg/L以下である。
【0015】
本発明の水系における微生物防除剤組成物では、本発明の効果が妨げられない範囲で、さらにその特性を改良するなどの目的で、例えばアクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体、燐酸系重合体、ホスホン酸、ホスフィン酸、あるいはこれらの水溶性塩、などのスケール防止剤、例えば5-クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド等のアルデヒド系化合物、過酸化水素、ヒドラジン、塩素系殺菌剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、臭素系殺菌剤およびヨウ素系殺菌剤、さらにピリチオン系化合物、ジチオール系化合物、メチレンビスチオシアネートなどのチオシアネート系化合物、四級アンモニウム塩系化合物、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩およびトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩以外の四級ホスホニウム塩系化合物、ピリジニウム塩系化合物、ヨーネンポリマー等のカチオン系化合物、などのスライム防止剤、例えばベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等のアゾール類、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系化合物、例えばニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノカルボン酸系化合物、例えばグルコン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸、フィチン酸、琥珀酸、乳酸等の有機カルボン酸など、各種の水処理剤を添加することができ、その場合も本発明に含まれる。
【実施例】
【0016】
<実施例1>
千葉県内にある工場の、粒状緑藻が発生した冷却水系より採取した粒状緑藻、及び、冷却水を用いて、以下の試験を行った。
【0017】
上記粒状緑藻を、上記冷却水に乾燥重量が冷却水1mLあたり0.1mgとなるように添加、懸濁して試験水とした。この試験水を20mL容のL型試験管に15mLずつ分取し、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウムクロライド(略号:TBDDP)、及び、トリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウムクロライド(略号:TBHDP)を表1に示す濃度(mg/mL)となるように添加し、その後30℃、30rpmで10000ルクスの光を蛍光灯で照射しながら振盪培養し、培養開始後、2日目、4日目、及び、7日目に試験水の色調を観察し、緑色が初期(培養開始直後)と同程度である場合を+、増殖して緑色が濃くなった場合を++とし、一方、緑色が若干褪色した場合を士、完全に褪色して黄白色となった場合を−と判定した。こうして調べた結果を、表1に併せて示した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1より、本発明にかかる水系における微生物防除剤組成物を添加した系では低濃度の添加でも、迅速で高い粒状緑藻の防除効果が得られることが判る。
【0020】
<実施例2>
イオン交換水に、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウムクロライド、及び、トリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウムクロライドを表2に示す濃度(重量%)に最終的になるように添加し、水酸化カリウムまたは硫酸を用いてpHを3.0〜12.5の範囲となるよう調整した微生物防除剤製剤を調製し、密閉状態で暗所に55℃で保管し、これらの安定性を評価した。保管開始10日以内に分離や沈殿が生じた場合を安定性が充分でないとして”×”、1ヶ月後にも分離や沈殿が生じない場合を充分な安定性が得られるとして”○”として評価した。結果を表2に併せて示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表2により、トリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩単独配合時には、酸性製剤の場合には安定性に優れているが、アルカリ性製剤とすると安定性が劣ることが、また、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩単独配合時にはアルカリ性製剤でも安定性が高い(但し、このとき微生物防除力が弱く実用性に乏しい)ことが、さらに、これら両薬剤の混合系ではpH12.0以下のアルカリ性製剤で格段に高い安定性が得られること、pH12.0を超えた場合には不安定となることがそれぞれ判る。尚、ホスホニウム塩系化合物はpH12.0を超えると分解が生じるので、製剤品として現実的な条件とは言えない。
【0023】
<実施例3>
イオン交換水に、トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウムクロライド、及び、トリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウムクロライドを、それぞれ5重量%に最終的になるように添加し、水酸化カリウムまたは硫酸を用いてpHを3.0〜11.9の範囲となるよう調整した微生物防除剤製剤を調製し、それぞれふた付きの1Lのポリエチレン製容器に1Lずつ入れ、30℃に保つとともに、これら微生物防除剤製剤に表面積0.272dmの研磨鋼板(SPCC−SB)を浸漬した後、容器を密閉し、60rpmで攪拌しながら3日間の腐食試験を行った。試験終了後に鋼板の腐食減量を測定し、その値から腐食速度(mdd(mg/dm/日))を算出した。その結果を表3に示す。また、比較のために、微生物防除剤製剤の代わりに、つくば市水を用いて行った同様の腐食試験での腐食速度は、125mddであった。
【0024】
【表3】

【0025】
表3より本発明の水系における微生物防除剤組成物において、pHが3.0の製剤品は腐食速度が220mddと大きく、薬注ポンプや薬注配管などに腐食などの障害を引き起こすリスクが高いこと、pH9.0以上の製剤品では腐食速度はつくば市水より小さく、薬注ポンプや薬注配管などに腐食などの障害を引き起こすリスクを低減できることが判る。特にpHが10.0以上12.0以下の範囲では腐食速度が極めて小さく、微生物防除剤製剤として最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩とトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とを有効成分として含有することを特徴とする水系における微生物防除剤組成物。
【請求項2】
トリn−ブチルn−ドデシルホスホニウム塩とトリn−ブチルn−ヘキサデシルホスホニウム塩とを有効成分として含有し、該有効成分の合計含有量が0.1重量%以上50重量%以下であり、かつ、pHが9.0以上12.0以下の水性製剤であることを特徴とする微生物防除剤製剤。
【請求項3】
請求項1に記載の水系における微生物防除剤組成物、または、請求項2に記載の微生物防除剤製剤を微生物防除対象水系に添加することを特徴とする水系における微生物防除方法。

【公開番号】特開2010−235510(P2010−235510A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85034(P2009−85034)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【Fターム(参考)】