説明

水系農薬組成物

【課題】 従来の方法より水希釈液を散布後の風雨等による有効成分の剥離、流亡を合理的、且つ高効率に防ぎ、保持性を高めることを可能とした水系農薬組成物を提供する。
【解決手段】 (A)マイクロクリスタリンワックス、(B)界面活性剤及び(C)農薬有効成分を含有することを特徴とする水系農薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原液もしくは水希釈液を散布する際に、対象物に対する有効成分の保持性を高めることを可能とした水系農薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
原液のままもしくは原液を水に希釈して散布し、マーキング剤や農薬などの有効成分を対象物に保持させる場合に問題となるのが散布後の風雨による剥離、流亡である。マーキング剤であれば当然ながら必要期間マーキング効果を保持させる必要があり、また農薬などの有効成分、特に浸透移行性を有さないものについては十分な効果を得るためには一定期間、固体表面に保持させる必要性がある。したがって、必要な効果を得るために、施用者は、過剰な量、回数の散布を行なうこととなり、その結果として多大の労力、経済的負担、環境問題を引き起こす要因となる。
【0003】
活性成分の動植物体上での保持性を高める目的で、施用前の水希釈散布液に添加する展着剤がある。このような展着剤は、散布液の表面張力を下げ、濡れ難い動植物体表面に、均一に拡がり易くすることで、保持性を高めるものが一般的であるが、これら展着剤の主成分には、親水性の高いポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルやポリオキシエチレンアルキルエーテル等が使用されている為、降雨等による流亡を抑えることができないばかりか、むしろ逆効果となる場合もある。また、特定の界面活性剤を配合することで、有効成分の植物体への浸透移行性を高める展着剤も市販されているが、効果が得られる有効成分が限定されることや、非浸透移行性の農薬有効成分、補助成分等には効果が期待できない。更には、ポリオキシアルキレン樹脂酸エステルやパラフィン等を主成分とする展着剤もあるが、製造の容易さから乳化剤を比較的多く含んでいたり、溶剤を用いている場合があり、降雨により乾燥後の展着剤が簡単に再乳化してしまい、有効成分とともに流亡してしまう。この様な展着剤は、降雨による流亡を防ぐ効果は必ずしも十分とは言えず、薬害、残留等の観点からも使用上の制約を受けてしまう場合がある。また、実際の使用場面での煩雑さからあらかじめ製剤中に保持性を高める成分を組み込むことが求められる場面が多い。しかしながら市販されている水希釈液に添加するタイプの展着剤をそのまま製剤中に組み込んで製品化することは同様に、種々の問題を有しており適当ではない。
【0004】
一方、製剤に第三物質を組み込む形で、有効成分の保持性を高めるための様々な製剤設計上の工夫が研究され、既に報告されている。例えば、2%水溶液の粘度が10〜2000mPa・sのカルボキシメチルセルロースもしくはその塩を含有させた顆粒水和剤(特許文献1参照)、特定の水溶性物質で表面を表衣した顆粒水和剤(特許文献2参照)等がある。顆粒状水和剤の場合、同時に粒の崩壊性能も要求されるため水溶性物質が用いられるが、水溶性物質は降雨等による流亡を抑制できず、最適な物質とは言えない。また、部分けん化型のポリビニルアルコール水溶液を含有させた水和剤(特許文献3参照)、ソルビタントリオレートを含有させた乳剤、水和剤、フロアブル剤、顆粒水和剤(特許文献4参照)、HLB2〜13のポリオキシエチレン樹脂酸エステルもしくは流動パラフィンを配合させたフロアブル剤(特許文献5参照)等の記載があるが、ポリビニルアルコール等には耐雨性の性能限界があり、また、ソルビタントリオレートやポリオキシエチレン樹脂酸エステルのようなHLBの低い親油性の界面活性剤、もしくは流動パラフィンでは、水性製剤中での相溶性に欠け、添加量によっては物性上問題のある分離、増粘を引き起こす恐れがある。また、適当な乳化剤を用いて、これらの非水溶性物質を乳化状態で製剤中に安定に組み込むことも可能であるが、乳化剤を多く使用しないと安定な乳化物が得られ難い。そもそも、付着乾燥後も、耐雨性を発揮する物質が液状であると再乳化し易いが、安定な乳化物を得るために使用した乳化剤は、降雨による再乳化を更に助長するため、活性成分の動植物体での保持性は不十分である。
【0005】
【特許文献1】特開2005−132741公報
【特許文献2】特許第2694926号公報
【特許文献3】特開平8−217604公報
【特許文献4】国際公開97/46092号パンフレット
【特許文献5】国際公開2005/006863号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の方法より水希釈液を散布後の風雨等による有効成分の剥離、流亡を合理的、且つ高効率に防ぎ、保持性を高めることを可能とした水系農薬組成物を得る方法を見出すことを目的とする。また、この組成物は取り扱い上、及び環境負荷の面においても優れている必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、マイクロクリスタリンワックスを固形分に対して通常より少ない界面活性剤使用量で水系分散体とすることで、水系農薬組成物への配合を簡便にすることに成功し、かつ、驚くべきことに、既存の展着剤を組成物中に配合した場合と比較して、有効成分の動植物体表面への保持性に明らかな優位性を有することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は(A)マイクロクリスタリンワックス、(B)界面活性剤及び(C)農薬有効成分を含有することを特徴とする水系農薬組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象物に対する有効成分の保持性を高めることができるため、長期にわたる効果の持続が期待され、散布回数、散布量、散布濃度の低減に繋がり、施用者の労力、コスト、環境負荷、薬害などの問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用される(A)マイクロクリスタリンワックスは、一般的には、炭素数が約30〜60、分子量は約500〜800で融点が40〜110℃の範囲にあり、組成的に結晶の小さいイソパラフィンやシクロパラフィンを、一般的なパラフィンワックスと比較して多く含んでいるものであるが、所望の性能を得る点で融点が60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。
【0011】
本発明で使用される(A)マイクロクリスタリンワックスは、機械乳化機を使用して、少量の界面活性剤で水系分散体とし、水系農薬組成物中に組み込むことができる。使用できる機械乳化機は、バッチ式、連続式のどちらでもよく、市販されている超高速乳化分散機、メディア式乳化分散機、高圧噴射式乳化分散機等が挙げられるが、これらの限りではない。マイクロクリスタリンワックス水系分散体のメディアン径は、高い保持性と分散安定性を得る点で1nm〜1μmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましく、30〜350nmであることが特に好ましい。(A)マイクロクリスタリンワックスの水系農薬組成物中の含有量は、1〜50質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、3〜10質量%が特に好ましい。
【0012】
水系分散体作製時に使用される(B)界面活性剤の具体例を挙げると、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンスチリル(1〜3モル)フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシアルキレンひまし油エーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテル、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩、アルキル硫酸塩、(モノ及びジ)アルキルスルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンスチリル(1〜3モル)フェニルエーテル硫酸塩、脂肪酸塩、脂肪酸アルキルタウリン塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンスチリル(1〜3モル)フェニルエーテルリン酸塩、ポリカルボン酸塩、ロート油、ポリアルキレングリコール硫酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、等の陽イオン界面活性剤、ジアルキルアミノエチルベタイン、アルキルベタイン、脂肪酸アミドアルキルベタイン、アルキルスルホベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられるが、これらの限りではない。水系農薬組成物とした際に必要以上に表面張力を下げることを防ぐため、水系分散体作製時に使用される(B)界面活性剤の使用量は、安定性を維持する範囲で極力少ないほうが好ましい。具体的には、(A)100質量部に対して0.1〜3質量部が好ましく、0.2〜2質量部が更に好ましく、0.3〜1.5質量部が特に好ましい。また、水系農薬組成物全体における含有量は0.05〜2.5質量%が好ましく、0.1〜1.5質量%がより好ましい。水系分散体としての表面張力値は、35〜72mN/mが好ましく、更に好ましくは50〜72mN/mである。
【0013】
本発明に係わる(C)農薬有効成分とは、殺菌成分、殺虫成分、除草成分等、農薬全般に使用される成分や、マーキング(着色)成分等が挙げられ、液体、固体にかかわらず特に制約されるものではないが、流亡によって効果が減じてしまうもの、例えば予防や保護作用を有する殺菌成分、マーキング(着色)成分に特に有用である。(C)農薬有効成分の水系農薬組成物中の含有量は0.5〜50質量%が好ましい。
【0014】
本発明の水系農薬組成物には、この他に、分散剤、乳化剤、拡展剤、防腐剤、消泡剤、増粘剤、凍結防止剤、分解防止剤等を必要に応じて用いることもできる。
【0015】
次に、実施例により、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
実施例1
マイクロクリスタリンワックス(日本精蝋株式会社製Hi−Mic1080;融点84℃)200gを溶解後、アニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ソルポール7509;ai20%)10g、イオン交換水290gを加えプレミックスし、高圧噴射式乳化分散機にて水系分散体(ai40%)を作製した。作製した水系分散体を12.5部(固形純分5部)と、マーキング成分(着色剤リオフレッシュ)3.75部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水82.75部を混合し、水系農薬組成物を得た。
実施例2
実施例1のマイクロクリスタリンワックス水系分散体を12.5部(固形純分5部)と、マーキング成分(着色剤ローダミンB)0.38部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水86.12部を混合し、水系農薬組成物を得た。
実施例3
実施例1のマイクロクリスタリンワックス分散体を43.75部(固形純分17.5部)と、農薬成分(殺菌剤キノンドーフロアブル)50部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水6.25部を混合し、水系農薬組成物を得た。
実施例4
実施例1のHi−Mic1080をマイクロクリスタリンワックス(日本精蝋株式会社製Hi−Mic1070;融点80℃)に変え、同様の方法で水系分散体とした後、作製した水系分散体を12.5部(固形純分5部)と、マーキング成分(着色剤リオフレッシュ)3.75部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水82.75部を混合し、水系農薬組成物を得た。
実施例5
実施例1のHi−Mic1080をマイクロクリスタリンワックス(日本精蝋株式会社製Hi−Mic1045;融点72℃)に変え、同様の方法で水系分散体とした後、作製した水系分散体を12.5部(固形純分5部)と、マーキング成分(着色剤リオフレッシュ)3.75部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水82.75部を混合し、水系農薬組成物を得た。
実施例6
実施例1のHi−Mic1080をマイクロクリスタリンワックス(日本精蝋株式会社製Hi−Mic2045;融点64℃)に変え、同様の方法で水系分散体とした後、作製した水系分散体を12.5部(固形純分5部)と、マーキング成分(着色剤リオフレッシュ)3.75部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水82.75部を混合し、水系農薬組成物を得た。
実施例7
実施例1の水系分散体を12.5部(固形純分5部)と、マーキング成分(着色剤リオフレッシュ)3.75部、水83.75部を混合し、水系農薬組成物を得た。
比較例1
マーキング成分(着色剤リオフレッシュ)3.75部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水96.25部を混合し、水系農薬組成物を得た。
比較例2
アビオンE(アビオンコーポレーション製 パラフィンエマルション系展着剤ai24%)20.8部(固形純分5部)と、マーキング成分(着色剤リオフレッシュ)3.75部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水74.45部を混合し、水系農薬組成物を得た。
比較例3
実施例1のHi−Mic2045をパラフィンワックス(ParaffinWax115 日本精蝋株式会社製 融点48℃)に変え、菜種油水系分散体(ai40%)を作製した。作製した水系分散体を12.5部(固形純分5部)と、マーキング成分(着色剤リオフレッシュ)3.75部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水82.75部を混合し、水系農薬組成物を得た。
比較例4
まくぴか(石原産業製 シリコーン系展着剤ai93%)5部と、マーキング成分(着色剤リオフレッシュ)3.75部、ノニオン系界面活性剤(東邦化学工業株式会社製ペグノールST−9)1部、水90.25部を混合し、水系農薬組成物を得た。
【0017】
水系分散体の粒子径測定は、動的光散乱式粒度分析計 マイクロトラックUPA(HONEYWELL社製)にて行なった。表面張力測定は、水分分散体1部をイオン交換水10部で希釈し、デュヌイ式表面張力計(島津製作所製)にて行なった。結果を表1に示す。
【0018】
次に、得られた組成物の保持性の評価方法を試験例により、説明する。
例1
実施例1、2、4及び比較例1、2、4で得られた組成物を、融点52℃の白蝋でコートしたプレート上に塗布し、40℃で72時間保持した。プレートを水に5分間浸漬後、プレートを取り除き、浸漬させた水の吸光度を測定した。サンプル毎の塗布した量とマーキング成分の濃度を考慮し、予め作製した検量線からプレート上の有効成分の保持率(%)を算出した。結果を表2に示す。
保持率(%)= 100−(測定着色剤濃度
/塗布した量が全て浸漬させた水に流亡した場合の着色剤濃度)*100
試験例2
実施例3で得られた組成物を、試験例1と同様の方法で浸漬させた水を得て、原子吸光にて銅イオン濃度を測定した。サンプル毎の塗布した量と銅イオン濃度を考慮し、予め作製した検量線からプレート上の有効成分の保持率(%)を算出した。結果を表2に示す。
保持率(%)= 100−(測定銅イオン濃度
/塗布した量が全て浸漬させた水に流亡した場合の銅イオン濃度)*100
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
表2から、マイクロクリスタリンワックスの水系分散体を水系農薬組成物に配合することが、有効成分の保持性を高めることは明らかである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)マイクロクリスタリンワックス、(B)界面活性剤及び(C)農薬有効成分を含有することを特徴とする水系農薬組成物。
【請求項2】
(A)マイクロクリスタリンワックスのメディアン径が1nm〜1μmであることを特徴とする請求項1の水系農薬組成物。
【請求項3】
(A)マイクロクリスタリンワックスを1〜50質量%、(B)界面活性剤を0.05〜2.5質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水系農薬組成物。

【公開番号】特開2011−251917(P2011−251917A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125267(P2010−125267)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】