説明

水系防錆塗料組成物

【課題】建築及び建材などの各種金属部材への防錆塗料用途において、塗料組成物の貯蔵安定性が良好で、十分な防錆性と上塗り塗料との耐水付着性に優れる塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを主成分とする水系防錆塗料組成物を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸他を含む塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスの固形分100質量部に対して、特定のシランカップリング剤を0.05〜3質量部含んでなることを特徴とする水性防錆塗料組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築及び建材などの各種金属部材への防錆塗料用途において、塗料組成物の貯蔵安定性が良好で、十分な防錆性と、上塗り塗料との耐水付着性に優れる塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを主成分とする水系防錆塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護に対する関心が高まり、塗料に対する溶剤規制や重金属に対する規制が強化されるなどの影響で溶剤系塗料から水系塗料へ移行する動きが活発となっており、溶剤系塗料と同等の性能を有する防錆性、防湿性に優れた水系塗料が強く望まれている。種々の水系塗料用樹脂の中で特に塩化ビニリデン系共重合体ラテックス樹脂は、水蒸気透過率や酸素透過率が低いなどのバリヤ性に優れていることから、防錆塗料用樹脂として非常に適している。
【0003】
防錆塗料としては、塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスにタンニン酸を混合した防錆塗料組成物が特許文献1に開示されている。この防錆塗料組成物は、塩化ビニリデン樹脂のバリヤ作用とタンニン酸と酸化鉄とのキレート反応との相乗効果により優れた防錆性能を示している。しかしこの塗料組成物は、20℃以上の温度で貯蔵中に変化が生じてタンニンの効果が序々に薄れ、防錆性が次第に低下するなどの問題があった。また塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスに防錆顔料であるトリポリリン酸アルミニウムと多価アルコール化合物を混合した防錆塗料組成が特許文献2に開示されている。ところがこの水性防錆塗料組成物を下塗り塗料として塗装後、上塗りに各種塗料を塗装した場合、下塗り塗膜と上塗り塗膜との弾性率の違いが大きいことに起因する付着性不良が発生するという問題があった。一方、上塗り塗膜との付着性を向上させることを目的として、塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスにシリコン樹脂系レベリング剤を混合した水性塗料組成が特許文献3に開示されている。しかしながら、この水性防錆塗料組成物を下塗りした塗膜上に、上塗り塗料を塗装した塗膜を水に浸せきした場合、上塗り塗膜と下塗り塗膜の吸水率の差が大き過ぎることに起因する体積膨張差が生じ、この体積膨張差から発生するひずみを吸収するだけの付着力が十分でないため、下塗りと上塗りの塗膜の間で膨れが生じるなどの問題があった。
【特許文献1】特開昭63−105073号公報
【特許文献2】特開平5−140501号公報
【特許文献3】特開平5−156199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、塗料組成物の貯蔵安定性が良好で、十分な防錆性、及び上塗りとの耐水付着性に優れる塗膜を形成し得る塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスを主成分とする水系防錆塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスに、特定のシランカップリング剤を使用した水性防錆塗料組成物においてのみ貯蔵安定性が良好で、防錆性、及び上塗りとの耐水付着性に優れることを見いだし、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第1は、塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)80〜95質量%、カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)0.5〜5質量%、これらと共重合可能な1種または2種以上のその他のビニル系単量体(C)3〜15質量%を含む混合物を乳化重合して形成される塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスと、シランカップリング剤とを含む組成物であって、該塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスの固形分100質量部に対して該シランカップリング剤を0.05〜3質量部含むことを特徴とする水性防錆塗料組成物である。
本発明の第2は、塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)中の塩化ビニルの比率が0〜25質量%であることを特徴とする上記第1に記載の水性防錆塗料組成物である。
本発明の第3は、カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)がアクリル酸、メタクリル酸の中から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする上記第1又は2に記載の水性防錆塗料組成物である。
本発明の第4は、シランカップリング剤がエポキシ基を有するシランカップリング剤、クロロプロピル基を有するシランカップリング剤、イソシアネート基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記第1〜3のいずれか一つに記載の水性防錆塗料組成物である。
【0006】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
本発明の塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)の合計量は80〜95質量%であり、好ましくは85〜93質量%である。80質量%以上でバリア性が向上し、十分な防錆性を発現出来る。一方、95質量%以下とすることで上塗りとの付着性を向上させることが出来る。また塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)中の塩化ビニルの比率は0〜25質量%であり、好ましくは5〜20質量%の範囲である。塩化ビニルの比率が増すと塩化ビニリデン系共重合樹脂中の結晶性が低下して付着性向上に寄与するが、塩化ビニルの比率が25質量%以上ではバリヤ性が低下し結果的に防錆性が低下する。
【0007】
本発明の塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスには、カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)が共重合される。カルボン酸基ビニル系単量体を使用することにより、顔料との分散性が良好になり、防錆性が向上するばかりでなく、被塗物や上塗り塗膜との付着性も良好になる。カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。そのなかでも好ましいのは、アクリル酸、メタクリル酸である。
【0008】
カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)の量は0.5〜5質量%であり、好ましくは1〜3質量%の範囲である。0.5質量%以上で顔料との分散性が良くなり、付着性が向上するとともに、十分な防錆性を発現させることが出来る。一方、5質量%以下とすることで塗膜中の親水性物質が好ましい量となり、本発明が目指す耐水付着性を発現出来る。
【0009】
塩素系ビニル単量体(A)及びカルボン酸基含有ビニル系単量体(B)と共重合可能なその他のビニル系単量体(C)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル等のエチレン系α,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステル単量体が挙げられる。また、例えば、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリル等の二トリル基を有する単量体も同様に挙げられる。また、エチレン系α、β−不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、アクリルアミド等のエチレン系α、β−不飽和カルボン酸のアクリルアミド化合物、酢酸ビニル等のビニルエステル、酢酸アリル等のアリルエステル、アリルメチルエーテル等のアリルエーテル等が挙げられ、さらにスチレン系化合物も挙げられる。
【0010】
塩素系ビニル単量体(A)及びカルボン酸基含有ビニル系単量体(B)と共重合可能なその他のビニル系単量体(C)の量は3〜15質量%であり、好ましくは5〜10質量%の範囲である。3質量%以上で塩化ビニリデン系共重合樹脂の結晶性が低下し、成膜性が向上するばかりでなく、樹脂自体の弾性率が低くなり付着性が向上する。一方、15質量%以下とすることで塩化ビニリデン系共重合樹脂中の塩化ビニリデン量が減少することなく好ましい量となり、十分な防錆性を発現させることが出来る。
【0011】
塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスは、上記した各単量体を上記範囲内で混合し、重合開始剤、界面活性剤等を添加して乳化重合することにより得られるが、重合開始剤、界面活性剤等の種類は特に限定されない。この乳化重合は従来と同様の方法で実施することが出来る。
【0012】
さらに、本発明の水性防錆塗料用塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスは、そのままコーティング剤としてクリヤー皮膜を形成させるために使用することもできるし、必要に応じて、一般的に使用されている種々の成分、たとえば、消泡剤、レオロジー調整剤、増粘剤、分散剤、及び、界面活性剤等の安定化剤、湿潤剤、可塑剤、着色剤、ワックス、シリコーンオイルなどを添加してもよい。また、必要に応じて、着色顔料、体質顔料、防錆顔料を配合して使用することも可能である。
【0013】
本発明の塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスにシランカップリング剤を配合することで、該塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスを主成分とした水性防錆塗料組成物を下塗り塗料とした塗膜は、上塗り塗料との耐水付着性の向上に大きく寄与する。
【0014】
シランカップリング剤としては、末端にアルコキシシランを有する化合物で有れば特に制限されないが、同時にビニル基、エポキシ基、スチル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、ケチミノ基などを有するものが用いられる。特に、エポキシ基、クロロプロピル基、イソシアネート基、メルカプト基を有するシランカップリング剤が塗料組成物の保存安定性保持や下塗り塗膜と上塗り塗膜との耐水付着性向上の観点から選ばれる。エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられ、特に、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。クロロプロピル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。イソシアネート基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0015】
シランカップリング剤の量は、塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスの固形分100質量部に対して0.05〜3質量部であり、好ましくは0.1〜2質量部である。0.05質量部以上で、本発明の目的である上塗り塗料との耐水付着性が十分発揮出来、3質量部以下とすることで塗料組成物の保存安定性を維持させることが出来る。
【0016】
本発明の水性防錆塗料組成物を塗布する方法としては、被塗物表面にエアースプレー、エアーレス、ロールコーター、カーテンフローコート、ロールコート、浸漬等の公知の方法を用いることが出来、塗布後は常温または加熱下で所定時間保持して乾燥する。
【0017】
本発明の水性防錆塗料組成物はそのまま防錆塗料皮膜として使用できるが、美装性、耐候性などを保持させる目的で上記水性防錆塗料皮膜の上に、上塗り塗料を塗装することも可能である。上塗り塗料としては、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、シリコン樹脂系、塩化ビニル樹脂系などの溶剤系や水系の上塗り塗料が挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスを主成分とする水系防錆塗料組成物の下塗り塗膜として用いることで、上塗り塗料との耐水付着性に優れる塗膜を形成することが出来る。
本発明の塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスとシランカップリング剤からなる水性防錆塗料組成物は、塗料組成物の貯蔵安定性が良好で、十分な防錆性、各種上塗り塗料との耐水付着性に優れており、各種被塗物への防錆塗料として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施例などにより本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の部及び%はそれぞれ質量部、及び質量%を示す。
【実施例1】
【0020】
塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスを下記の方法により製造した。ガラスライニングを施した耐圧反応器中に純水82部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.2部、過硫酸ナトリウム0.1部を仕込み、攪拌しながら脱気を行ったのち、内容物の温度を50℃に保った。別の容器に塩化ビニリデン(VDC)73部、塩化ビニル(VC)17部、アクリル酸(AA)2部、ブチルアクリレート(BA)8部を計量混合してモノマー混合物を作成した。該モノマー混合物の内10部を上記耐圧反応器中に一括添加し、内圧が降下するまで重合した。続いて、残りのモノマー混合物90部を15時間にわたって連続的に定量して圧入した。並行してアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.8部を10時間にわたって連続的に定量圧入した。この間内容物を攪拌しながら50℃に保ち、内圧が十分に降下するまで反応を進行させた。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は仕込み比にほぼ等しい。かくして得られたラテックスを水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去したのち、固形分を60%に調整した。
【0021】
このようにして得られた塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスを用いて下記に示す配合組成で水性防錆塗料を作製した。
<水性防錆塗料の作製>
純水16.35部、ブチルグリコール(成膜助剤:和光純薬工業(株)製)1.89部、Benton LT(増粘剤:NL.Induatries Inc.製)0.13部、SNデフォーマーH2(消泡剤:サンノプコ(株)製)0.20部、シンペロニックPE/F87 30%水溶液(安定化剤:ICI Chem.& Ply.社製)3.43部、サーフィノール104E(湿潤剤:日信化学工業(株)製)0.30部、Proxel BD(防腐剤:Avecia製)0.05部、BYK154(分散剤:BYK Chemie Gmbh製)0.50部、K−white84(防錆顔料:テイカ(株)製)5.96部、トダカラー120ED(着色顔料:戸田工業(株)製)3.28部、タルクMS(体質顔料:日本タルク(株)製)20.37部を容器に仕込み、VMA GETZMANN GmbH社製 DISPERMAT GMBH−D−51580にて毎分10000回転で20分間攪拌して顔料分散液を調製した。ついでこの顔料分散液に、予め10%アンモニア水にてpH4に調整した上記塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックス45.40部、KBM−703(シランカップリング剤:信越化学工業(株)製3−クロロピルトリメトキシシラン)0.16部(塩化ビニリデン系共重合樹脂の固形分比0.5%)を加えたのち、10%亜硝酸ナトリウム(フラッシュラスト防止剤:和光純薬工業(株)製)1.14部、CS−12(成膜助剤:チッソ(株)製)1.00部を加えて均一なるまで攪拌して水性防錆塗料を得た。
【0022】
ついで上塗り付着性評価に用いる上塗り塗料を下記に示す配合組成で作製した。
<上塗り塗料の作製>
プロピレングリコール(成膜助剤:和光純薬工業(株)製)2.1部、水3部、AMP95(pH調整剤:AngusChemicalCompany製)0.2部、Dehydran1293(消泡剤:CognisCompany製)0.5部、サーフィノール104E(湿潤剤:日信化学工業(株)製)0.4%、オロタン165A(分散剤:ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)6.2部、を容器に仕込み、VMA GETZMANN GmbH社製 DISPERMAT GMBH−D−51580にて毎分10000回転で10分間攪拌して顔料分散液を調製した。ついでこの顔料分散液にポリトロンF830(バインダー:旭化成ケミカルズ(株)製アクリルラテックス)53.7部、メトキシブタノール(成膜助剤:和光純薬工業(株)製)5部、ブチルジグリコール(成膜助剤:和光純薬工業(株)製)5部、Dehydran1293(消泡剤:CognisCompany製)0.8部、CoatexBR100P(増粘剤:CognisCompany製)5部を加えて均一になるまで攪拌して上塗り塗料を得た。
【0023】
上述のようにして得られた水性防錆塗料と上塗り塗料を用いて、下記に示す試験方法で試験を実施した。
【0024】
<塗料組成物の貯蔵安定性試験>
プラスチック容器に入れて密封した水性防錆塗料を40℃熱風乾燥機に1ヶ月保存し、20℃に冷却後の塗料の固化状態を目視観察した。なお保存安定性の評価は以下の基準とした。
○;容器を斜めに傾けたときに塗料に流動性がある
×;容器を斜めに傾けたときに塗料に流動性がない
【0025】
<防錆性試験>
JIS K 5600−1−4に準処して処理、調整した研磨鋼板にアプリケーターを用いて水性防錆塗料を乾燥塗膜が40μmとなるように塗装し、乾燥させたのち、端部と背面も同一水性防錆塗料を用いて塗装した。この塗装板を20℃、55%RH雰囲気下、一週間乾燥した。このようにして得られた塗板をJIS K 5600−7−1に準処して耐中性塩水噴霧性の試験を240時間行った。なお防錆性の評価は以下の基準とした。
○;膨れがなく、スクラッチからの錆巾が1mm以下
△;膨れがあるが、スクラッチからの錆巾が1mm以下
×;膨れがあり、スクラッチからの錆巾が1mm以上
【0026】
<上塗りとの耐水付着性試験>
JIS K 5600−1−4に準処して処理、調整した研磨鋼板(寸法:70×150×1t)にアプリケーターを用いて水性防錆塗料を乾燥塗膜が40μmとなるように塗装し、乾燥させたのち、端部と背面も同一水性防錆塗料を用いて塗装した。この塗装板を20℃、55%RH雰囲気下、一日間乾燥した。ついでこの乾燥塗膜の上にアプリケーターを用いて上塗り塗料を塗装し、20℃、55%RH雰囲気下、一週間乾燥した。下塗りと上塗りの乾燥塗膜が合計90μmのものを得た。このようにして得られた塗板を、約600mLの水を入れた1Lのプラスチック容器に入れて、開口部を防湿ラップフィルムでシールしたのち、20℃の水中に1週間浸漬して膨れの状態を観察した。さらに水中から取出したのち、20℃、55%RH雰囲気下、1週間乾燥後、水に浸せきした部分の付着性をJIS K 5600−5−6(クロスカット法)に準処して測定した。なお耐水付着性の膨れの評価は下記の基準とした。また、乾燥塗膜の付着性の評価は、JIS K 5600−5−6の試験結果の分類に従った。
[膨れの評価]
○;水浸せき部、非浸せき部ともに膨れなし
△;水浸せき部に膨れがあるが、非浸せき部には膨れなし
×;水浸せき部、非浸せき部ともに膨れあり
[乾燥塗膜の付着性の評価]
0;カットの縁が完全で滑らかで、どの格子の目にもはがれがない
1;カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない
2;塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。
クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない
3;塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に15%を超えるが35%を上回ることはない
4;塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に35%を超えるが65%を上回ることはない
5;はがれの程度が分類4を超える場合
【実施例2】
【0027】
実施例1における水性防錆塗料組成中のKBM−703(シランカップリング剤:信越化学工業製の3−クロロピルトリメトキシシラン)を0.27部(塩化ビニリデン系共重合樹脂の固形分比1.0%)とした以外は実施例1と同様にした。
【実施例3】
【0028】
実施例1における水性防錆塗料組成中のKBM−703(シランカップリング剤:信越化学工業製の3−クロロピルトリメトキシシラン)の代わりにKBM−403(シランカップリング剤:信越化学工業製の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)とした以外は実施例1と同様にした。
【実施例4】
【0029】
実施例1における水性防錆塗料組成中のKBM−703(シランカップリング剤:信越化学工業製の3−クロロピルトリメトキシシラン)の代わりにKBM−9007(シランカップリング剤:信越化学工業製の3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)とした以外は実施例1と同様にした。
【実施例5】
【0030】
実施例1における水性防錆塗料組成中のKBM−703(シランカップリング剤:信越化学工業製の3−クロロピルトリメトキシシラン)の代わりにKBM−803(シランカップリング剤:信越化学工業製の3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)とした以外は実施例1と同様にした。
【実施例6】
【0031】
実施例1におけるモノマー混合物を塩化ビニリデン(VDC)80部、塩化ビニル10部、アクリル酸(AA)3部、ブチルアクリレート(BA)7部とした以外は実施例1と同様にした。
【実施例7】
【0032】
実施例1におけるモノマー混合物を塩化ビニリデン(VDC)90部、アクリル酸(AA)3部、ブチルアクリレート(BA)7部とした以外は実施例1と同様にした。
【0033】
<比較例1>
実施例1における水性防錆塗料組成中のKBM−703(シランカップリング剤:信越化学工業製の3−クロロピルトリメトキシシラン)を0部とした以外は実施例1と同様にした。
【0034】
<比較例2>
実施例1における水性防錆塗料組成中のKBM−703(シランカップリング剤:信越化学工業製の3−クロロピルトリメトキシシラン)を1.36部(塩化ビニリデン系共重合樹脂の固形分比5.0%)とした以外は実施例1と同様にした。
【0035】
<比較例3>
実施例1におけるモノマー混合物を塩化ビニリデン(VDC)55部、塩化ビニル30部、アクリル酸(AA)5部、ブチルアクリレート(BA)10部とした以外は実施例1と同様にした。
【0036】
<比較例4>
実施例1におけるモノマー混合物を塩化ビニリデン(VDC)90部、塩化ビニル5部、アクリル酸(AA)0部、ブチルアクリレート(BA)5部とした以外は実施例1と同様にした。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜7と比較例1〜4を比較すると、本発明の水性防錆塗料組成物は貯蔵安定性が良好で、防錆性、上塗りとの耐水付着性のいずれの特性も優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、塗料組成物の貯蔵安定性が良好で、防錆性、上塗り塗料との耐水付着性に優れる塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを主成分とする水系防錆塗料組成物を提供できる。従って、建築及び建材などの各種金属部材への防錆塗料として好適に使用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)80〜95質量%、カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)0.5〜5質量%、これらと共重合可能な1種または2種以上のその他のビニル系単量体(C)3〜15質量%を含む混合物を乳化重合して形成される塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスと、シランカップリング剤とを含む組成物であって、該塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスの固形分100質量部に対して該シランカップリング剤を0.05〜3質量部含むことを特徴とする水性防錆塗料組成物。
【請求項2】
塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)中の塩化ビニルの比率が0〜25質量%であることを特徴とする請求項1に記載の水性防錆塗料組成物。
【請求項3】
カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)がアクリル酸、メタクリル酸の中から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性防錆塗料組成物。
【請求項4】
シランカップリング剤がエポキシ基含有シランカップリング剤、クロロプロピル基含有シランカップリング剤、イソシアネート基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性防錆塗料組成物。

【公開番号】特開2010−70603(P2010−70603A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237734(P2008−237734)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】