水素ガスセンサ用固体イオン伝導体、及びそれを用いた水素ガスセンサ
【課題】耐熱性が向上し、高温条件下でも電解質膜が劣化せず、高温高湿保管試験でも、長時間の駆動動作において耐久性が向上した、水素ガスセンサ用として用いられる固体イオン伝導体、及びそれを用いた水素ガスセンサを提供する。
【解決手段】フッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含む水素ガスセンサ用固体イオン伝導体、及び水素ガスセンサである。
【解決手段】フッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含む水素ガスセンサ用固体イオン伝導体、及び水素ガスセンサである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスセンサ用として用いられる固体イオン伝導体であって、固体イオン伝導体としてフッ素樹脂とプロトン導電性電解質の複合電解質膜を含むことを特徴とする水素ガスセンサ用固体イオン伝導体、及びそれを用いた水素ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に代表される水素エネルギーシステムを構成するうえで、水素の濃度を精度良く検出する水素ガスセンサの必要性は極めて高い。
【0003】
このような水素ガスセンサにおいて、プロトン導電体膜を使用した水素ガスセンサが知られているが、従来の水素ガスセンサは、セラミック固体電解質や半導体等の無機系材料を用いたものであり、接触燃焼式や熱線半導体式の水素ガスセンサが主流である。接触燃焼式は、白金コイルや白金触媒膜上で水素ガスを燃焼させ、発熱による温度変化をコイルやサーミスタの抵抗値で検出する方法であり、1000ppm以下の低濃度の水素ガスを測定しにくいことや可燃性ガスにも反応するためガス選択性がないという問題があった。一方、熱線半導体式は、SnO2等の半導体に吸着した酸素が水素ガスと結合して脱離することによる抵抗変化により検出する方式であり、低濃度でも測定可能であるが、ガス吸着反応によるため応答速度が遅いという問題があった。また、いずれの方式においても300℃程度に加熱して使用するためヒータを備える必要があり、センサシステムの消費電力が大きくなるという問題があった。
【0004】
そのため、プロトン導電体膜として固体高分子電解質膜を用いたものが検討されている(例えば、特許文献1、及び特許文献2)。特許文献1では、水素ガスセンサに用いられるプロトン導電体膜として、ナフィオン膜のような固体高分子膜を用いており、また、特許文献2では、光硬化性樹脂等の樹脂とイオン液体を混合した高分子電解質膜が使用されている。しかしながら、特許文献1で使用される固体高分子膜及び特許文献2の樹脂は、いずれも耐湿熱性が低く、耐熱性が劣り、また、高温高湿での耐久性が劣るため、燃料電池システム内や自動車内部等の高温高湿条件下で長期間使用する場合には、水素ガスセンサとしての信頼性に欠けるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号2008/093813号パンフレット
【特許文献2】国際公開番号2009/011368号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性が向上し、高温条件下でも電解質膜が劣化せず、高温高湿保管試験でも、長時間の駆動動作において耐久性が向上した、水素ガスセンサ用として用いられる固体イオン伝導体、及びそれを用いた水素ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、水素ガスセンサ用に用いられる固体イオン伝導体において、耐熱性が高く撥水性のあるフッ素樹脂を樹脂成分として用いることが水素ガスセンサの高温高湿条件下においても耐久性を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を提供する。
【0009】
項1.フッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含む水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0010】
項2.フッ素樹脂が耐熱性樹脂である項1に記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0011】
項3.フッ素樹脂が、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である項1又は2に記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0012】
項4.プロトン導電性電解質の含有量が、フッ素樹脂100重量部に対して、25〜500重量部である項1〜3のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0013】
項5.フッ素樹脂の融点が、140℃以上である項1〜4のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0014】
項6.プロトン導電性電解質が、イオン液体である項1〜5のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0015】
項7.イオン液体が、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、及びピロリジニウム塩よりなる群から選ばれる少なくも1種である項1〜6のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0016】
項8.項1〜7のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサであって、固体イオン伝導体を挟んで一対の電極が形成された水素ガスセンサ。
【0017】
項9.項1〜7のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサであって、基板上に一対の電極が形成され、その上に固体イオン伝導体が形成された水素ガスセンサ。
【0018】
項10.一対の電極の少なくとも一側面に触媒層が形成されている項8又は9に記載の水素ガスセンサ。
【0019】
以下、本発明の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体について、詳細に説明する。
【0020】
本発明の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体は、フッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含むことを特徴とする。
【0021】
フッ素樹脂としては、ナフィオンのようなフッ素樹脂を構成するモノマー単位中にスルホン酸基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基等の極性基を有さないものが耐熱性の観点から好ましく、具体的には、ビニリデンフルオライド(VdF)単位、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位、テトラフルオロエチレン(TFE)単位、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)単位、フッ化ビニル(VF)単位、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)単位等を1種又は2種以上有する重合体又は共重合体が挙げられる。なお、PAVE単位におけるアルキル基としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜3であり、具体的には、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)単位、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)単位、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)単位のものが挙げられる。
【0022】
また、前記の重合体又は共重合体に対して、さらに、エチレン、プロピレン等の単量体を用いて共重合体としてもよい。
【0023】
フッ素樹脂の具体例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、VdF−HFP共重合体、TFE−PAVE共重合体、TFE−HFP共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン(Et−TFE)共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体等が挙げられるが、これらの中で、耐湿熱性と成形性において良好であるという点から、PVdF、VdF−HFP共重合体が好ましい。
【0024】
フッ素樹脂は、耐熱性樹脂であることが好ましく、高融点、及び高ガラス転移点を有することが好ましい。フッ素樹脂の融点としては、フッ素樹脂の種類にもよるが、電解質膜の耐熱安定性が向上し、熱変形等による電極との接触不良等が発生しない点から、140℃以上が好ましく、140〜350℃程度が好ましく、160〜250℃程度がさらに好ましい。また、フッ素樹脂のガラス転移点は、ガラス転移温度が低いほど、低温でも電解質膜の機械的物性や電気的物性が維持されやすく、センサの低温動作性が良くなる点で良好であるという観点から、100℃以下が好ましく、−50℃以下がより好ましい。なお、フッ素樹脂及びガラス転移温度は、ISO3146に準拠してDSC測定法により測定することが可能である。
【0025】
また、前記のフッ素樹脂以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂と混合することが可能である。フッ素樹脂以外の樹脂としては、光硬化樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられ、光硬化樹脂としては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、不飽和ポリエステル樹脂、ジアゾ樹脂、アジド樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、尿素樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂、アリル樹脂等が挙げられ、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の汎用樹脂の他にポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド等のエンジニアリングプラスチック、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等のスーパーエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
【0026】
プロトン導電性電解質としては、特に限定されるものではなく、例えば、イオン液体や、常温付近の温度でもプロトン導電性が得られる固体電解質であるホスホシリケート、尿素シリケート、ウラニルリン酸水和物、モリブドリン酸水和物等が挙げられる。
【0027】
イオン液体としては、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、脂肪族アンモニウム塩、脂環式アンモニウム塩、脂肪族ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0028】
イミダゾリウム塩の具体例としては、式(1):
【0029】
【化1】
【0030】
で表されるものが挙げられる。
【0031】
式(1)中、R1a〜R5aは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
【0032】
また、式(1)中のX−としては、ハロゲンイオン、ホスホン酸イオン、ホウ酸イオン、トリフラートアニオン、イミドイオン等が挙げられる。式(1)中のX−におけるハロゲンイオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等が挙げられ、ホスホン酸イオンを形成するホスホン酸としては、ジメチルホスホン酸、ジエチルホスホン酸が挙げられ、イミドイオンを形成するイミドとしては、ビスフルオロスルホニルイミド等が挙げられる。
【0033】
式(1)の具体的としては、1−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチルイミダゾリウムイオン、1−n−プロピルイミダゾリウムイオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウムイオン、1,3−ジエチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−n−プロピルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、2−エチル−1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,3−ジメチル−n−プロピルイミダゾリウムイオン、1,3,4−トリメチルイミダゾリウムイオン、2−エチル−1,3,4−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムイオン等のイミダゾリウムイオンと、前記X−との塩が挙げられる。
【0034】
ピリジニウム塩の具体例としては、式(2):
【0035】
【化2】
【0036】
で表されるものが挙げられる。
【0037】
式(2)中、R1b〜R6bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0038】
また、式(2)中のX−としては、前記と同じものが挙げられる。
【0039】
式(2)の具体的としては、1−ブチル−3−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−ピリジニウムイオン、1−エチル−3−メチルピリジニウムイオン、1−エチルピリジニウムイオンと、前記X−との塩が挙げられる。
【0040】
アンモニウム塩の具体例としては、式(3):
【0041】
【化3】
【0042】
で表されるものが挙げられる。
【0043】
式(3)中、R1c〜R4cは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0044】
また、式(3)中のX−としては、前記と同じものが挙げられる。
【0045】
式(3)の具体的としては、シクロヘキシルトリメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、エチルジメチルプロピルアンモニウムイオン等と、前記X−との塩が挙げられる。
【0046】
ホスホニウム塩の具体例としては、式(4):
【0047】
【化4】
【0048】
で表されるものが挙げられる。
【0049】
式(4)中、R1d〜R4dは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0050】
また、式(4)中のX−としては、前記と同じものが挙げられる。
【0051】
式(4)の具体的としては、シクロヘキシルトリメチルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、トリブチルメチルホスホニウムイオンと、前記X−との塩が挙げられる。
【0052】
ピロリジニウム塩の具体例としては、式(5):
【0053】
【化5】
【0054】
で表されるものが挙げられる。
【0055】
式(5)中、R1e及びR2eは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
【0056】
また、式(5)中、X−は、前記と同じものが挙げられる。
【0057】
式(5)の具体的としては、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム、1−メチル−1−プロピルピロリジニウム、1−オクチル−1−メチルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウムと、前記X−との塩が挙げられる。
【0058】
固体電解質としては、種々のものがあるが、常温からプロトン導電性を発現するものとして、例えば、ホスホシリケート、尿素シリケート、ウラニルリン酸水和物、モリブドリン酸水和物等が好ましい。
【0059】
プロトン導電性電解質の含有量は、水素センサの信号電圧が増加し感度が向上するため良好であるという点から、フッ素樹脂100重量部に対して、25重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましく、100重量部以上がさらに好ましい。また、プロトン導電性電解質の含有量は、樹脂成分が相対的に少なくならず、電解質膜の成膜性が良好であるという点から、500重量部以下が好ましく、300重量部以下がより好ましく、200重量部以下がさらに好ましい。
【0060】
前記のフッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含む固体イオン伝導体を水素ガスセンサに用いる場合、水素ガスセンサが、後述する形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサである場合には、自立膜を製造するための成膜性や膜の強度を付与するために、固体イオン伝導体中に無機層状化合物等を添加してもよい。
【0061】
無機層状化合物としては、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトや有機変性モンモリロナイト、スメクタイト等が挙げられる。
【0062】
無機層状化合物の含有量は、膜の補強効果や溶液の増粘効果が十分に得られるという点から、フッ素樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましく、2重量部以上がさらに好ましい。また、無機層状化合物の含有量は、樹脂と配合した際に、溶液が高粘度にならず、成膜性が良好であり、また溶液が短時間でゲル化しにくいという点から、フッ素樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましい。
【0063】
本発明の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサは、前記固体イオン伝導体を挟んで一対の電極が形成されているように構成される。水素ガスセンサの構成は、例えば、以下の形態1に示される基板を有する構造のものや、形態2に示される積層構造を有するもの等が例示される。
【0064】
形態1の基板を有する構造としては、図1に示す断面図のような構成を有する。図1に示すように、形態1の水素ガスセンサは、基板1上に、一対の電極を載せ、その電極を覆うように固体イオン伝導体2が被覆された構成をとる。電極は、一方は水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3であり、もう一方は、触媒層として機能しない電極4である。このような構成をとることにより、水素ガス5が固体イオン伝導体の層を介して触媒を兼ねた電極3においてプロトンと電子に分解され、この水素分解反応の起電力により、触媒を兼ねた電極3ともう一方の電極4との間の電位差が生じる。ネルンストの式より水素分解反応の起電力は水素ガス濃度に依存しているので、この電位差を測定することによって、水素ガス5の濃度検知が可能となる。
【0065】
水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3として用いられる材料としては、水素ガスをプロトンに反応させる機能を有するものであれば、特に限定されないが、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニア、希土類金属等等の金属又はその合金;モリブデンカーバイド(Mo2C)、タングステンカーバイド(WC)等の炭化金属;酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコン等の遷移金属酸化物、鉄やコバルト等の金属ポルフィリン及びフタロシアニン等の遷移金属錯体等を用いることができる。その他に、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレン−ジアミノ−金属(金属=Ni,Fe,V等)、N,N’−モノ−8−キノリル−σ−フェニレンジアミノ−金属(金属=Ni,Fe,V等)等の有機金属触媒;ピロロピロール赤色顔料、ジピリジル誘導体等の有機化合物が挙げらる。これらの中で、触媒性能と化学的安定性の点から、白金電極、モリブデンカーバイド(Mo2C)が好ましい。
【0066】
形態1の水素ガスセンサにおける水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3の厚さとしては、触媒反応が十分に進み、良好な出力信号が得られるという点から、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。また、電極3の厚さとしては、触媒材料が貴金属であり高価なためコストの観点から、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。
【0067】
電極4としては、電極3のような触媒能を有さないものであれば特に限定されないが、例えば、カーボン電極、ステンレス鋼等が挙げられ、これらの中で、耐腐食性を有する点から、カーボン電極が好ましい。
【0068】
電極4の厚さとしては、印刷やコーティングで塗布成膜しやすい点から、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、電極4の厚さとしては、その上に電解質膜を塗布成膜しやすい点から、20μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0069】
固体イオン伝導体2の膜厚は、充分なプロトン導電が得られ、センサの信号電圧が小さくならず、感度が良好となるという点から、30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。また、固体イオン伝導体2の膜厚は、成膜時に膜の収縮応力による膜の基板からの剥離が生じにくくなるという点から、2000μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。
【0070】
前記一対の電極において、電極間の距離(固体イオン伝導体2を挟んだ電極3と電極4との距離)としては、固体イオン導電体の抵抗が小さくならず、出力電圧も小さくならない点、及び電極間が短絡しやすくならないという点から、10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、300μm以上がさらに好ましい。また、電極間の距離としては、イオン導電体の抵抗(インピーダンス)が大きくなならず、出力信号にノイズが重畳されにくい点から、5000μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましい。
【0071】
なお、形態1に示される基板を有する構造の水素ガスセンサにおいて、基板1と電極3又は4との間に、固体イオン導電体と基板1の熱膨張率差や剛性の差が大きいためにイオン導電体が剥離しやすい場合等には、イオン導電体との密着性を向上させるために、樹脂層6を設けておいてもよい(図2参照)。
【0072】
水素ガスセンサとして形態1のような構成をとる場合、小型化、軽量化、フレキシブル化が可能であり、センサの用途や設置場所を拡大することができる。また、センサの組立が容易になり生産性を向上させることもできる。
【0073】
形態2の水素ガスセンサとしては、例えば、図3に示されるものが挙げられる。図3に示すように、形態2の水素ガスセンサは、固体イオン伝導体層2を電極で挟む構造をとり、一方に、プロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3を備え、もう一方に、触媒層として機能しない電極4を備える。プロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3は、そのまま電極としても用いてもよく、また、さらに、電極3上に通気性を有する電極7を設けてもよい(図4)。さらに、プロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3(通気性電極を設ける場合には通気性を有する電極7)、及び電極4の上に、イオン導電体を均一に押圧しながら形状保持して、計測部に確実に電気接続するための通電電極として、さらにSUS電極8を設けてもよい(図4参照)。なお、SUS電極8を設けた際には、水素ガス5を吹き込むための孔9が必要となる。
【0074】
このような構成をとることにより、水素ガス5が吹き込まれると、触媒を兼ねた電極3に接触し、水素ガスが分解されてプロトンと電子が発生する。その際に、水素分解反応の起電力によって、電極4と触媒を兼ねた電極3との間の電位差が生じる。ネルンストの式よりこの起電力は水素ガス濃度に依存しているので、この電位差を測定することによって、水素ガスの濃度検知が可能となる。
【0075】
水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3としては前記の形態1に示される基板を有する構造のものと同様のものを用いることができる。
【0076】
形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサにおける水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3の厚さとしては、触媒反応が十分に進み、良好な出力信号が得られる点から、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。また、電極3の厚さとしては、水素ガスが通りにくくならず、触媒材料が貴金属であり高価なためにコストを抑えることができるという点から、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
【0077】
形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサにおける電極4としては、前記の電極3のような触媒能を有さないものであれば特に限定されないが、例えば、カーボン電極、ステンレス鋼等が挙げられ、これらの中で、耐腐食性の観点から、カーボン電極が好ましい。
【0078】
電極4の厚さとしては、自立性があり、組立時に破損しにくいという点から、10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。また、電極4の厚さとしては、膜厚方向の電気抵抗を小さくして抵抗損失を少なくすることができるという点から、2000μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。
【0079】
形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサにおける固体イオン伝導体2の膜厚は、膜の抵抗(インピーダンス)が小さくならず、信号電圧も小さくならない点、及び膜を挟んだ電極の変形等による電極の短絡が少ないという点から、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましい。また、固体イオン伝導体2の膜厚は、膜の抵抗(インピーダンス)が大きくならず、信号電圧にノイズが重畳しにくいという点から、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。
【0080】
なお、前述のように、形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサにおいて用いられる固体イオン伝導体2の層は、成膜性や膜の強度を付与するために、固体イオン伝導体中に無機層状化合物等を添加したものを用いてもよい。
【0081】
必要に応じて積層される電極7としては、前記電極4で用いられるものが挙げられるが、水素ガス5を触媒を兼ねた電極3に接触させる必要があるため、通気性を有する必要がある。このため、電極7の形状としては、例えば、多孔質の金属体、金属繊維メッシュや炭素繊維のカーボンクロス、カーボンペーパー等が必要となる。
【0082】
水素ガスセンサとして形態2に示される積層構造を有する構成をとる場合、イオン導電体を電極で挟む構造のため、広い面積のイオン導電体を使用すれば、電極や触媒膜との接触面積を大きくして反応量を増やすことができるため、高感度なセンサを作製することが容易になる。また、電解質膜表面にある触媒膜が直接水素ガスと接する構造のため、反応が早く、応答速度の速いセンサを製造することができる。
【0083】
前記電極は、いずれもスパッタリング、真空蒸着、電子照射、CVD、PVD、含浸、スプレーコート、スプレー熱分解、練りこみ、吹き付け、ロールやコテによる塗り付け、スクリーン印刷、混錬法、光電解法、コーティング法、ゾルゲル法、ディップ法等の公知の方法により形成することができる。
【0084】
本発明の水素ガスセンサは、固体イオン伝導体における樹脂成分としてフッ素樹脂を含有するため、水素ガスセンサの耐熱性が向上し、高温条件下でも電解質膜を劣化させず、高温高湿保管試験でも、長時間の駆動動作においても耐久性を向上させることができる。
【0085】
そのため、水素ガス漏れ検知用の用途だけでなく、高温高湿環境である燃料電池システム内の水素濃度検知用としても好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0086】
本発明の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体は、樹脂成分としてフッ素樹脂を含有するため、水素ガスセンサとしての用途に用いた場合、耐熱性が向上し、高温条件下でも電解質膜を劣化させず、高温高湿保管試験でも、長時間の駆動動作においても耐久性を向上させることができる。そのため、水素ガス漏れ検知用の用途だけでなく、高温高湿環境である燃料電池システム内の水素濃度検知用としても適用できるものと期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】形態1の水素ガスセンサを模式的に表した断面図である。
【図2】形態1の水素ガスセンサの一態様を模式的に表した断面図である。
【図3】形態2の水素ガスセンサを模式的に表した断面図である。
【図4】形態2の水素ガスセンサの一態様を模式的に表した断面図である。
【図5a】実施例1において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図5b】図5aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図5c】実施例1において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図6a】比較例1において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図6b】図6aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図6c】比較例1において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図7a】比較例2において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図7b】図7aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図7c】比較例2において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図8a】実施例2において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図8b】図8aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図8c】実施例2において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図9a】比較例3において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図9b】図9aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図9c】比較例3において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図10a】実施例3において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図10b】図10aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図10c】実施例3において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図11a】実施例4において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図11b】図11aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図11c】実施例4において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図12a】実施例5において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図12b】図11aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図12c】実施例5において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0088】
[実施例]
以下、比較例と共に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0089】
・実施例1(電解質がフッ素樹脂(PVDF)+イオン液体系電解質膜である水素ガスセンサ)
図2に示す断面図のような構成を有する形態1の基板を有する水素ガスセンサを製造した。
【0090】
<白金対電極基板の形成>
基板1としてPETフィルム(東レ(株)製のルミラーU2)の上に、触媒を兼ねた電極3として形成される白金を、樹脂層6であるポリイミドフィルム(東レデュポン(株)製(厚み30μm))上にスパッタリング製膜し、1mm幅に短冊状にカットした。カットした短冊状の白金触媒層を有するポリイミドフィルムをPETフィルム上に2本、厚み188μmの0.5mm間隔にシリコーン系粘着材で貼り付け固定した。
【0091】
<触媒層の形成>
片方のポリイミドフィルム上に有する白金電極を触媒(白金触媒層)層とし、他方のポリイミドフィルム上に、電極4であるカーボンペースト((株)アサヒ化学研究所製のFTU−30)を専用溶剤((株)アサヒ化学研究所製の#155)で希釈して塗布し、熱風循環オーブンで100℃、1時間乾燥してカーボン電極を形成した。
【0092】
<電解質膜の形成>
固体イオン伝導体2としてビニリデンフロライド(VdF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合樹脂とイオン液体の複合体膜を形成した。VdFとHFPの共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(アルケマ(株)製のカイナー#2801、HFPの含有割合:11モル%)200gを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)800gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Aを調製した。
【0093】
溶液Aを2gと、イオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルホニルイミド(第一工業製薬(株)製のIL110))を0.2g加えて、撹拌混合した。
【0094】
得られた混合物を対電極基板の中央部に10μL滴下し、膜が2つの電極を覆うように塗布し、熱風循環オーブンで140℃、2時間乾燥して成膜した。
【0095】
<湿熱耐久性の評価>
得られた水素ガスセンサを60℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、15時間、105時間、258時間、418時間、578時間、739時間、及び1037時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、水素応答の評価を行なった。
【0096】
<水素ガス応答性の評価>
水素ガスセンサに空気ベースの水素ガス5(25℃、dry)を曝気して、水素ガスセンサの白金電極とカーボン電極の間の電位差をデジタルマルチメータ(岩通計測(株)製のVOAC7411)にて測定した。
【0097】
センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスを0.5L/min流量で30秒間曝気し、30秒間停止する操作を交互に繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定した。センサの出力電圧は、水素ガスと接触すると上昇し、水素ガスの曝気を停止すると低下した。測定結果を図5a〜図5cに示す。なお、図5aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図5bは、図5aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図5cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0098】
図5a〜5cに示すように、実施例1の水素ガスセンサは、高温高湿60℃、90%の条件に保管すると、初期に比べて信号電圧(出力電圧の変化)は少し低下し、ベース電圧も変動したが、1000時間を越えてもなお、70mV程度の充分な水素応答信号電圧が得られており、水素ガスセンサとして機能していることがわかる。
【0099】
・比較例1(電解質膜が、スルホン化した炭化水素系プロトン電解質膜である水素ガスセンサ)
電解質膜としてスルホン化スチレン−エチレン共重合体溶液(Aldrich社製のスチレン−エチレンランダム共重合体(Poly(styrene-ran-ethylene))の1−プロパノール溶液(5重量%))を対電極基板の中央部に1μL滴下し、膜が2つの電極を覆うように塗布し、熱風循環オーブンで80℃で1時間乾燥して成膜した以外は、実施例1と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0100】
得られた水素ガスセンサを60℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、105時間、258時間、及び418時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0101】
測定結果を図6a〜図6cに示す。なお、図6aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図6bは、図6aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図6cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0102】
図6a〜6cに示すように、比較例1の水素ガスセンサを高温高湿60℃、90%の条件に保管すると、100時間程度までは、正常な水素応答が得られているが、250時間では水素応答が異常になっており、水素ガスセンサとして機能していないことがわかる。すなわち、炭化水素系電解質膜は高温高湿条件での耐久性が低いことがわかる。
【0103】
・比較例2(電解質膜が、UV硬化樹脂+イオン液体の複合高分子電解質膜である水素ガスセンサ)
電解質膜としてエポキシアクリレート紫外線硬化樹脂(日本ユピカ(株)製のネオポール8318)とイオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルホニルイミド(第一工業製薬(株)製のIL110))を重量比2:1の割合で混合し攪拌脱泡して複合型高分子電解質溶液を調製した。
【0104】
これを対電極基板に2つの電極を覆うように塗布し、その後、紫外線照射して硬化成膜化した以外は、実施例1と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0105】
得られた水素ガスセンサを60℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、15時間、105時間、及び258時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0106】
測定結果を図7a〜図7cに示す。なお、図7aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図7bは、図7aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図7cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0107】
図7a〜図7cに示すように、比較例2の水素ガスセンサを高温高湿60℃、90%の条件に保管すると、100時間程度までは、正常な水素応答が得られているが、250時間では水素応答が異常になっており、水素ガスセンサとして機能していないことがわかる。すなわち、炭化水素系電解質膜は高温高湿条件での耐久性が低いことがわかる。
【0108】
・実施例2(電解質がフッ素樹脂(PVDF)+イオン液体系電解質膜である水素ガスセンサ)
図4に示す断面図のような構成を有する形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサを製造した。
【0109】
<電解質膜の形成>
固体イオン伝導体2としてVdF−HFP共重合樹脂とイオン液体の複合体膜を形成した。VdFとHFPの共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(アルケマ(株)製のカイナー#2801、HFPの含有割合:11モル%)を20g、DMAc80gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Aを調製した。有機変性モンモリロナイト(コープケミカル(株)製のルーセンタイトSTN)20gを、DMAc80gに加え、ボールミルにて均一分散を行って固形分濃度20重量%の溶液Bを調製した。
【0110】
溶液Aと溶液BをA:B=99.5:0.5(重量比)で調合し、ペイントシェイカーで混合し、固形分濃度20重量%、該固形分中の有機変性モンモリロナイト濃度0.5重量%の溶液を得た。
【0111】
得られた溶液10gにイオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルホニルイミド:第一工業製薬(株)製のIL110)1gを加えて、攪拌混合した。
【0112】
得られた混合溶液2mLを、5cm角の正方形状の表面を離型処理した金型枠に流し込んで、140℃の熱風循環オーブンで3時間乾燥して、プロトン導電層であるVDF−HFP共重合樹脂とイオン液体との複合電解質膜を形成した。
【0113】
<触媒層の形成>
得られた複合電解質膜の片面に、白金をターゲットとしたRFスパッタリングにより触媒を兼ねた電極3である白金触媒層を形成した。なお、スパッタリングは、アルゴンガス流量20sccm、投入電力300W、成膜時間30秒の条件下で行った。
【0114】
<センサの組立>
片面に白金触媒層を形成したプロトン導電層をφ13mmの形状に切り出し、電極4及び7としてφ12mmの通気性電極であるカーボンペーパーで両面を挟み、さらにこれを、外周がφ26mmで、中央部にφ6mmの孔9が形成されたステンレス製のドーナツ状のSUS電極8としてSUS電極板で両面を挟んでネジ止めして、水素ガスセンサを製作した。
【0115】
<湿熱耐久性の評価>
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RHの高温高湿槽に保管して、所定の時間毎に取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、水素応答の評価を行った。
【0116】
<水素ガス応答性の評価>
水素ガスセンサに空気ベースの水素ガス5(25℃、dry)を曝気して、水素ガスセンサの白金電極とカーボン電極の間の電位差をデジタルマルチメータ(岩通計測(株)製のVOAC7411)で測定した。
【0117】
センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスを0.5L/min流量で30秒間曝気し、30秒間停止する操作を交互に繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定した。センサの出力電圧は、水素ガスと接触すると上昇し、水素ガスが停止すると低下する。測定結果を図8a〜図8cに示す。なお、図8aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図8bは、図8aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図8cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0118】
図8a〜図8cに示すように、実施例2の水素ガスセンサを高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、初期に較べて信号電圧(出力電圧の変化)は低下し、ベース電圧も変動するが、5〜10mV程度の水素応答信号電圧は得られており、500時間を越えても水素ガスセンサとして機能していることがわかる。
【0119】
すなわち、従来の炭化水素系電解質膜に較べて、高温高湿条件での耐久性が著しく向上していることがわかる。
【0120】
比較例3(電解質膜が、スルホン化した炭化水素系プロトン電解質膜である水素ガスセンサ)
<電解質膜の構成>
固体高分子電解質としてカーボン含有スルホン化スチレンエチレン共重合体の膜を形成した。
【0121】
スルホン化スチレン−エチレン共重合体溶液(Aldrich製のスチレン−エチレンランダム共重合体(Poly(styrene-ran-ethylene))、5重量%1−プロパノール溶液)に、カーボンブラック(三菱化学製の#4000B)を固形分比1.5重量%となるように混合し、超音波ホモジナイザーで10分攪拌し、スターラーで30分攪拌して、キャスト溶液を調製した。
【0122】
得られた溶液8mlを5cm角の正方形状の金型枠に流し込んで、80℃の熱風循環オーブンで2時間乾燥して、カーボン含有スルホン化スチレンエチレン共重合体の電解質膜を形成した。得られた電解質膜を用いた以外は、実施例2と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0123】
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、22時間、及び90時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0124】
測定結果を図9a〜図9cに示す。なお、図9aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図9bは、図9aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図9cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0125】
図9a〜図9cに示すように、比較例3の水素ガスセンサを高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、初期に対して、22時間経過後の水素ガスセンサは信号電圧がセロになり水素応答しなくなり、水素ガスセンサとして機能していないことがわかる。
【0126】
・実施例3(電解質膜が、フッ素樹脂(PVDF)+尿素シリケート電解質膜である水素ガスセンサ))
<尿素シリケートゲルの作製>
1−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)尿素(TMSU)0.75M/Lと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(HTFSI)0.25M/Lと、尿素0.25M/Lと、水4M/Lと、塩酸0.01M/Lのメタノール溶液30gを調製し、スターラーで3時間攪拌し尿素シリケートゾル液を得た。
【0127】
このゾル液を50℃の恒温槽で乾燥して固化させた後に、150℃、3時間熱処理をして、乳鉢で粉砕して、尿素シリケートゲルの粉末を得た。
【0128】
<電解質膜の構成>
固体高分子電解質としてPVDF(アルケマ製のカイナー#301F)と尿素シリケート電解質の複合体膜を形成した。PVDF樹脂20gをDMAc180gに溶解させ、固形分濃度10重量%の溶液Aを調製した。
【0129】
有機変性モンモリロナイト(コープケミカル(株)製のルーセンタイトSTN)20gを、DMAc80gに加え、ボールミルにて均一分散を行って、固形分濃度20重量%の溶液Bを調製した。
【0130】
溶液Aと溶液BをA:B=99.5:0.5で調合しペイントシェイカーで混合し、固形分濃度20重量%、該固形分中の有機変性モンモリロナイトの濃度0.5重量%の溶液を得た。この溶液10gとDMAc4gと尿素シリケート1gを攪拌混合し、PVDFと尿素シリケート電解質の複合電解質溶液を調製した。
【0131】
得られた溶液4mLを5cm角の正方形状の表面を離型処理した金型枠に流し込んで、140℃の熱風循環オーブンで3時間乾燥して、PVDFと尿素シリケート電解質の複合電解質膜を形成した。得られた電解質膜を用いた以外は、実施例2と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0132】
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、123時間、及び257時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0133】
測定結果を図10a〜図10cに示す。なお、図10aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図10bは、図10aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図10cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0134】
図10a〜図10cに示すように、実施例3の水素ガスセンサにおいて、尿素シリケート系は電解質膜が高抵抗のためベース電圧がドリフトしやすく信号電圧も小さいが、水素応答の信号電圧は得られている。高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、信号電圧とベース電圧はあまり変化せず、水素応答信号は得られており、250時間を越えても水素ガスセンサとして機能していることがわかる。すなわち、従来の炭化水素系電解質膜に較べて、高温高湿条件での耐久性が著しく向上していることがわかる。
【0135】
・実施例4(電解質膜が、フッ素樹脂(VdF−HFP共重合体)+イオン液体系電解質膜である水素ガスセンサ)
<電解質膜の構成>
固体高分子電解質としてVdF−HFP共重合体とイオン液体の複合体膜を形成した。VdFとHFPの共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(アルケマ(株)製のカイナー#2801、HFPの含有割合:11モル%)20gを、DMAc80gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Aを調製した。
【0136】
この溶液10gとイオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルホニルイミド:第一工業製薬製のIL110)1gを加えて、攪拌混合した。
【0137】
この溶液2mLを5cm角の正方形状の表面を離型処理した金型枠に流し込んで、
140℃の熱風循環オーブンで3時間乾燥して、VdF−HFP共重合体とイオン液体の複合電解質膜を形成した。
【0138】
得られた電解質膜を用いた以外は、実施例2と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0139】
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、188時間、及び327時間に取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0140】
測定結果を図11a〜図11cに示す。なお、図11aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図11bは、図11aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図11cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0141】
図11a〜図11cに示すように、実施例4の水素ガスセンサにおいて、高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、信号電圧は低下し、ベース電圧も変動したが、数10mVの水素応答信号は得られており、327時間を越えても水素ガスセンサとして機能していることがわかる。これにより、実施例1に対して、モンモリロナイトを添加しない電解質膜を使用した場合でも、従来の炭化水素系の電解質膜を使用したものに較べて、高温高湿条件での耐久性が向上しているということがわかる。
【0142】
・実施例5(電解質膜が、フッ素樹脂(PVDF)+ホスホシリケートゲル電解質膜である水素ガスセンサ))
<ホスホシリケートゲルの作製>
テトラエトキシシラン1M/Lと、リン酸1M/Lと、水4M/Lと、塩酸0.01M/Lとエタノール8M/Lの溶液100gを調製し、スターラーで3時間撹拌し尿素シリケートゾル液を得た。このゾル液を50℃の恒温槽で2週間乾燥してゲル化し固化させた後に乳鉢で粉砕し、150℃、3時間熱処理をした後に、さらに乳鉢で粉砕して、ホスホシリケートゲルの粉末を得た。
【0143】
このホスホシリケートゲル粉末20gをDMAC80gに溶解してボールミルで分散して、固形分濃度20%のホスホシリケートゲルのスラリー液Aを調整した。
【0144】
<電解質膜の構成>
固体高分子電解質としてPVDF(アルケマ製のカイナー#301F)とホスホシリケートゲル電解質の複合体膜を形成した。PVDF樹脂20gをDMAc80gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Bを調製した。
【0145】
この溶液B5gとホスホシリケートゲルのスラリー液A10gを攪拌混合して、PVDFとホスホシリケートゲル電解質の複合電解質溶液を調製した。
【0146】
得られた溶液2.5gを5cm角の正方形状の表面を離型処理した金型枠に流し込んで、100℃の熱風循環オーブンで4時間乾燥して、PVDFと尿素シリケート電解質の複合電解質膜を形成した。得られた電解質膜を用いた以外は、実施例2と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0147】
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、94時間、 351時間、578時間、813時間及び952時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0148】
測定結果を図12a〜図12cに示す。なお、図12aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図12bは、図12aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図12cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0149】
図12a〜図12cに示すように、実施例5の水素ガスセンサにおいて、良好な水素応答の信号電圧が得られている。高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、信号電圧はほぼ安定で、ベース電圧も初期以外はほとんど変動せず、安定な水素応答信号が得られており、952時間を越えても水素ガスセンサとして機能していることがわかる。すなわち、従来の炭化水素系電解質膜に較べて、高温高湿条件での耐久性が著しく向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0150】
1 基板
2 固体イオン伝導体
3 触媒を兼ねた電極
4 電極
5 水素ガス
6 樹脂層
7 通気性を有する電極
8 SUS電極
9 孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスセンサ用として用いられる固体イオン伝導体であって、固体イオン伝導体としてフッ素樹脂とプロトン導電性電解質の複合電解質膜を含むことを特徴とする水素ガスセンサ用固体イオン伝導体、及びそれを用いた水素ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に代表される水素エネルギーシステムを構成するうえで、水素の濃度を精度良く検出する水素ガスセンサの必要性は極めて高い。
【0003】
このような水素ガスセンサにおいて、プロトン導電体膜を使用した水素ガスセンサが知られているが、従来の水素ガスセンサは、セラミック固体電解質や半導体等の無機系材料を用いたものであり、接触燃焼式や熱線半導体式の水素ガスセンサが主流である。接触燃焼式は、白金コイルや白金触媒膜上で水素ガスを燃焼させ、発熱による温度変化をコイルやサーミスタの抵抗値で検出する方法であり、1000ppm以下の低濃度の水素ガスを測定しにくいことや可燃性ガスにも反応するためガス選択性がないという問題があった。一方、熱線半導体式は、SnO2等の半導体に吸着した酸素が水素ガスと結合して脱離することによる抵抗変化により検出する方式であり、低濃度でも測定可能であるが、ガス吸着反応によるため応答速度が遅いという問題があった。また、いずれの方式においても300℃程度に加熱して使用するためヒータを備える必要があり、センサシステムの消費電力が大きくなるという問題があった。
【0004】
そのため、プロトン導電体膜として固体高分子電解質膜を用いたものが検討されている(例えば、特許文献1、及び特許文献2)。特許文献1では、水素ガスセンサに用いられるプロトン導電体膜として、ナフィオン膜のような固体高分子膜を用いており、また、特許文献2では、光硬化性樹脂等の樹脂とイオン液体を混合した高分子電解質膜が使用されている。しかしながら、特許文献1で使用される固体高分子膜及び特許文献2の樹脂は、いずれも耐湿熱性が低く、耐熱性が劣り、また、高温高湿での耐久性が劣るため、燃料電池システム内や自動車内部等の高温高湿条件下で長期間使用する場合には、水素ガスセンサとしての信頼性に欠けるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号2008/093813号パンフレット
【特許文献2】国際公開番号2009/011368号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性が向上し、高温条件下でも電解質膜が劣化せず、高温高湿保管試験でも、長時間の駆動動作において耐久性が向上した、水素ガスセンサ用として用いられる固体イオン伝導体、及びそれを用いた水素ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、水素ガスセンサ用に用いられる固体イオン伝導体において、耐熱性が高く撥水性のあるフッ素樹脂を樹脂成分として用いることが水素ガスセンサの高温高湿条件下においても耐久性を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を提供する。
【0009】
項1.フッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含む水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0010】
項2.フッ素樹脂が耐熱性樹脂である項1に記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0011】
項3.フッ素樹脂が、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である項1又は2に記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0012】
項4.プロトン導電性電解質の含有量が、フッ素樹脂100重量部に対して、25〜500重量部である項1〜3のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0013】
項5.フッ素樹脂の融点が、140℃以上である項1〜4のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0014】
項6.プロトン導電性電解質が、イオン液体である項1〜5のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0015】
項7.イオン液体が、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、及びピロリジニウム塩よりなる群から選ばれる少なくも1種である項1〜6のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【0016】
項8.項1〜7のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサであって、固体イオン伝導体を挟んで一対の電極が形成された水素ガスセンサ。
【0017】
項9.項1〜7のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサであって、基板上に一対の電極が形成され、その上に固体イオン伝導体が形成された水素ガスセンサ。
【0018】
項10.一対の電極の少なくとも一側面に触媒層が形成されている項8又は9に記載の水素ガスセンサ。
【0019】
以下、本発明の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体について、詳細に説明する。
【0020】
本発明の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体は、フッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含むことを特徴とする。
【0021】
フッ素樹脂としては、ナフィオンのようなフッ素樹脂を構成するモノマー単位中にスルホン酸基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基等の極性基を有さないものが耐熱性の観点から好ましく、具体的には、ビニリデンフルオライド(VdF)単位、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位、テトラフルオロエチレン(TFE)単位、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)単位、フッ化ビニル(VF)単位、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)単位等を1種又は2種以上有する重合体又は共重合体が挙げられる。なお、PAVE単位におけるアルキル基としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜3であり、具体的には、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)単位、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)単位、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)単位のものが挙げられる。
【0022】
また、前記の重合体又は共重合体に対して、さらに、エチレン、プロピレン等の単量体を用いて共重合体としてもよい。
【0023】
フッ素樹脂の具体例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、VdF−HFP共重合体、TFE−PAVE共重合体、TFE−HFP共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン(Et−TFE)共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体等が挙げられるが、これらの中で、耐湿熱性と成形性において良好であるという点から、PVdF、VdF−HFP共重合体が好ましい。
【0024】
フッ素樹脂は、耐熱性樹脂であることが好ましく、高融点、及び高ガラス転移点を有することが好ましい。フッ素樹脂の融点としては、フッ素樹脂の種類にもよるが、電解質膜の耐熱安定性が向上し、熱変形等による電極との接触不良等が発生しない点から、140℃以上が好ましく、140〜350℃程度が好ましく、160〜250℃程度がさらに好ましい。また、フッ素樹脂のガラス転移点は、ガラス転移温度が低いほど、低温でも電解質膜の機械的物性や電気的物性が維持されやすく、センサの低温動作性が良くなる点で良好であるという観点から、100℃以下が好ましく、−50℃以下がより好ましい。なお、フッ素樹脂及びガラス転移温度は、ISO3146に準拠してDSC測定法により測定することが可能である。
【0025】
また、前記のフッ素樹脂以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂と混合することが可能である。フッ素樹脂以外の樹脂としては、光硬化樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられ、光硬化樹脂としては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、不飽和ポリエステル樹脂、ジアゾ樹脂、アジド樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、尿素樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂、アリル樹脂等が挙げられ、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の汎用樹脂の他にポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド等のエンジニアリングプラスチック、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等のスーパーエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
【0026】
プロトン導電性電解質としては、特に限定されるものではなく、例えば、イオン液体や、常温付近の温度でもプロトン導電性が得られる固体電解質であるホスホシリケート、尿素シリケート、ウラニルリン酸水和物、モリブドリン酸水和物等が挙げられる。
【0027】
イオン液体としては、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、脂肪族アンモニウム塩、脂環式アンモニウム塩、脂肪族ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0028】
イミダゾリウム塩の具体例としては、式(1):
【0029】
【化1】
【0030】
で表されるものが挙げられる。
【0031】
式(1)中、R1a〜R5aは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
【0032】
また、式(1)中のX−としては、ハロゲンイオン、ホスホン酸イオン、ホウ酸イオン、トリフラートアニオン、イミドイオン等が挙げられる。式(1)中のX−におけるハロゲンイオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等が挙げられ、ホスホン酸イオンを形成するホスホン酸としては、ジメチルホスホン酸、ジエチルホスホン酸が挙げられ、イミドイオンを形成するイミドとしては、ビスフルオロスルホニルイミド等が挙げられる。
【0033】
式(1)の具体的としては、1−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチルイミダゾリウムイオン、1−n−プロピルイミダゾリウムイオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウムイオン、1,3−ジエチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−n−プロピルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、2−エチル−1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,3−ジメチル−n−プロピルイミダゾリウムイオン、1,3,4−トリメチルイミダゾリウムイオン、2−エチル−1,3,4−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−n−オクチルイミダゾリウムイオン等のイミダゾリウムイオンと、前記X−との塩が挙げられる。
【0034】
ピリジニウム塩の具体例としては、式(2):
【0035】
【化2】
【0036】
で表されるものが挙げられる。
【0037】
式(2)中、R1b〜R6bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0038】
また、式(2)中のX−としては、前記と同じものが挙げられる。
【0039】
式(2)の具体的としては、1−ブチル−3−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−ピリジニウムイオン、1−エチル−3−メチルピリジニウムイオン、1−エチルピリジニウムイオンと、前記X−との塩が挙げられる。
【0040】
アンモニウム塩の具体例としては、式(3):
【0041】
【化3】
【0042】
で表されるものが挙げられる。
【0043】
式(3)中、R1c〜R4cは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0044】
また、式(3)中のX−としては、前記と同じものが挙げられる。
【0045】
式(3)の具体的としては、シクロヘキシルトリメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、エチルジメチルプロピルアンモニウムイオン等と、前記X−との塩が挙げられる。
【0046】
ホスホニウム塩の具体例としては、式(4):
【0047】
【化4】
【0048】
で表されるものが挙げられる。
【0049】
式(4)中、R1d〜R4dは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0050】
また、式(4)中のX−としては、前記と同じものが挙げられる。
【0051】
式(4)の具体的としては、シクロヘキシルトリメチルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、トリブチルメチルホスホニウムイオンと、前記X−との塩が挙げられる。
【0052】
ピロリジニウム塩の具体例としては、式(5):
【0053】
【化5】
【0054】
で表されるものが挙げられる。
【0055】
式(5)中、R1e及びR2eは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
【0056】
また、式(5)中、X−は、前記と同じものが挙げられる。
【0057】
式(5)の具体的としては、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム、1−メチル−1−プロピルピロリジニウム、1−オクチル−1−メチルピロリジニウム、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウムと、前記X−との塩が挙げられる。
【0058】
固体電解質としては、種々のものがあるが、常温からプロトン導電性を発現するものとして、例えば、ホスホシリケート、尿素シリケート、ウラニルリン酸水和物、モリブドリン酸水和物等が好ましい。
【0059】
プロトン導電性電解質の含有量は、水素センサの信号電圧が増加し感度が向上するため良好であるという点から、フッ素樹脂100重量部に対して、25重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましく、100重量部以上がさらに好ましい。また、プロトン導電性電解質の含有量は、樹脂成分が相対的に少なくならず、電解質膜の成膜性が良好であるという点から、500重量部以下が好ましく、300重量部以下がより好ましく、200重量部以下がさらに好ましい。
【0060】
前記のフッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含む固体イオン伝導体を水素ガスセンサに用いる場合、水素ガスセンサが、後述する形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサである場合には、自立膜を製造するための成膜性や膜の強度を付与するために、固体イオン伝導体中に無機層状化合物等を添加してもよい。
【0061】
無機層状化合物としては、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトや有機変性モンモリロナイト、スメクタイト等が挙げられる。
【0062】
無機層状化合物の含有量は、膜の補強効果や溶液の増粘効果が十分に得られるという点から、フッ素樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましく、2重量部以上がさらに好ましい。また、無機層状化合物の含有量は、樹脂と配合した際に、溶液が高粘度にならず、成膜性が良好であり、また溶液が短時間でゲル化しにくいという点から、フッ素樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましい。
【0063】
本発明の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサは、前記固体イオン伝導体を挟んで一対の電極が形成されているように構成される。水素ガスセンサの構成は、例えば、以下の形態1に示される基板を有する構造のものや、形態2に示される積層構造を有するもの等が例示される。
【0064】
形態1の基板を有する構造としては、図1に示す断面図のような構成を有する。図1に示すように、形態1の水素ガスセンサは、基板1上に、一対の電極を載せ、その電極を覆うように固体イオン伝導体2が被覆された構成をとる。電極は、一方は水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3であり、もう一方は、触媒層として機能しない電極4である。このような構成をとることにより、水素ガス5が固体イオン伝導体の層を介して触媒を兼ねた電極3においてプロトンと電子に分解され、この水素分解反応の起電力により、触媒を兼ねた電極3ともう一方の電極4との間の電位差が生じる。ネルンストの式より水素分解反応の起電力は水素ガス濃度に依存しているので、この電位差を測定することによって、水素ガス5の濃度検知が可能となる。
【0065】
水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3として用いられる材料としては、水素ガスをプロトンに反応させる機能を有するものであれば、特に限定されないが、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニア、希土類金属等等の金属又はその合金;モリブデンカーバイド(Mo2C)、タングステンカーバイド(WC)等の炭化金属;酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコン等の遷移金属酸化物、鉄やコバルト等の金属ポルフィリン及びフタロシアニン等の遷移金属錯体等を用いることができる。その他に、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレン−ジアミノ−金属(金属=Ni,Fe,V等)、N,N’−モノ−8−キノリル−σ−フェニレンジアミノ−金属(金属=Ni,Fe,V等)等の有機金属触媒;ピロロピロール赤色顔料、ジピリジル誘導体等の有機化合物が挙げらる。これらの中で、触媒性能と化学的安定性の点から、白金電極、モリブデンカーバイド(Mo2C)が好ましい。
【0066】
形態1の水素ガスセンサにおける水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3の厚さとしては、触媒反応が十分に進み、良好な出力信号が得られるという点から、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。また、電極3の厚さとしては、触媒材料が貴金属であり高価なためコストの観点から、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。
【0067】
電極4としては、電極3のような触媒能を有さないものであれば特に限定されないが、例えば、カーボン電極、ステンレス鋼等が挙げられ、これらの中で、耐腐食性を有する点から、カーボン電極が好ましい。
【0068】
電極4の厚さとしては、印刷やコーティングで塗布成膜しやすい点から、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、電極4の厚さとしては、その上に電解質膜を塗布成膜しやすい点から、20μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0069】
固体イオン伝導体2の膜厚は、充分なプロトン導電が得られ、センサの信号電圧が小さくならず、感度が良好となるという点から、30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。また、固体イオン伝導体2の膜厚は、成膜時に膜の収縮応力による膜の基板からの剥離が生じにくくなるという点から、2000μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましく、500μm以下がさらに好ましい。
【0070】
前記一対の電極において、電極間の距離(固体イオン伝導体2を挟んだ電極3と電極4との距離)としては、固体イオン導電体の抵抗が小さくならず、出力電圧も小さくならない点、及び電極間が短絡しやすくならないという点から、10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、300μm以上がさらに好ましい。また、電極間の距離としては、イオン導電体の抵抗(インピーダンス)が大きくなならず、出力信号にノイズが重畳されにくい点から、5000μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましい。
【0071】
なお、形態1に示される基板を有する構造の水素ガスセンサにおいて、基板1と電極3又は4との間に、固体イオン導電体と基板1の熱膨張率差や剛性の差が大きいためにイオン導電体が剥離しやすい場合等には、イオン導電体との密着性を向上させるために、樹脂層6を設けておいてもよい(図2参照)。
【0072】
水素ガスセンサとして形態1のような構成をとる場合、小型化、軽量化、フレキシブル化が可能であり、センサの用途や設置場所を拡大することができる。また、センサの組立が容易になり生産性を向上させることもできる。
【0073】
形態2の水素ガスセンサとしては、例えば、図3に示されるものが挙げられる。図3に示すように、形態2の水素ガスセンサは、固体イオン伝導体層2を電極で挟む構造をとり、一方に、プロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3を備え、もう一方に、触媒層として機能しない電極4を備える。プロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3は、そのまま電極としても用いてもよく、また、さらに、電極3上に通気性を有する電極7を設けてもよい(図4)。さらに、プロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3(通気性電極を設ける場合には通気性を有する電極7)、及び電極4の上に、イオン導電体を均一に押圧しながら形状保持して、計測部に確実に電気接続するための通電電極として、さらにSUS電極8を設けてもよい(図4参照)。なお、SUS電極8を設けた際には、水素ガス5を吹き込むための孔9が必要となる。
【0074】
このような構成をとることにより、水素ガス5が吹き込まれると、触媒を兼ねた電極3に接触し、水素ガスが分解されてプロトンと電子が発生する。その際に、水素分解反応の起電力によって、電極4と触媒を兼ねた電極3との間の電位差が生じる。ネルンストの式よりこの起電力は水素ガス濃度に依存しているので、この電位差を測定することによって、水素ガスの濃度検知が可能となる。
【0075】
水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3としては前記の形態1に示される基板を有する構造のものと同様のものを用いることができる。
【0076】
形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサにおける水素ガスをプロトンに反応させる触媒を兼ねた電極3の厚さとしては、触媒反応が十分に進み、良好な出力信号が得られる点から、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。また、電極3の厚さとしては、水素ガスが通りにくくならず、触媒材料が貴金属であり高価なためにコストを抑えることができるという点から、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
【0077】
形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサにおける電極4としては、前記の電極3のような触媒能を有さないものであれば特に限定されないが、例えば、カーボン電極、ステンレス鋼等が挙げられ、これらの中で、耐腐食性の観点から、カーボン電極が好ましい。
【0078】
電極4の厚さとしては、自立性があり、組立時に破損しにくいという点から、10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。また、電極4の厚さとしては、膜厚方向の電気抵抗を小さくして抵抗損失を少なくすることができるという点から、2000μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。
【0079】
形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサにおける固体イオン伝導体2の膜厚は、膜の抵抗(インピーダンス)が小さくならず、信号電圧も小さくならない点、及び膜を挟んだ電極の変形等による電極の短絡が少ないという点から、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましい。また、固体イオン伝導体2の膜厚は、膜の抵抗(インピーダンス)が大きくならず、信号電圧にノイズが重畳しにくいという点から、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。
【0080】
なお、前述のように、形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサにおいて用いられる固体イオン伝導体2の層は、成膜性や膜の強度を付与するために、固体イオン伝導体中に無機層状化合物等を添加したものを用いてもよい。
【0081】
必要に応じて積層される電極7としては、前記電極4で用いられるものが挙げられるが、水素ガス5を触媒を兼ねた電極3に接触させる必要があるため、通気性を有する必要がある。このため、電極7の形状としては、例えば、多孔質の金属体、金属繊維メッシュや炭素繊維のカーボンクロス、カーボンペーパー等が必要となる。
【0082】
水素ガスセンサとして形態2に示される積層構造を有する構成をとる場合、イオン導電体を電極で挟む構造のため、広い面積のイオン導電体を使用すれば、電極や触媒膜との接触面積を大きくして反応量を増やすことができるため、高感度なセンサを作製することが容易になる。また、電解質膜表面にある触媒膜が直接水素ガスと接する構造のため、反応が早く、応答速度の速いセンサを製造することができる。
【0083】
前記電極は、いずれもスパッタリング、真空蒸着、電子照射、CVD、PVD、含浸、スプレーコート、スプレー熱分解、練りこみ、吹き付け、ロールやコテによる塗り付け、スクリーン印刷、混錬法、光電解法、コーティング法、ゾルゲル法、ディップ法等の公知の方法により形成することができる。
【0084】
本発明の水素ガスセンサは、固体イオン伝導体における樹脂成分としてフッ素樹脂を含有するため、水素ガスセンサの耐熱性が向上し、高温条件下でも電解質膜を劣化させず、高温高湿保管試験でも、長時間の駆動動作においても耐久性を向上させることができる。
【0085】
そのため、水素ガス漏れ検知用の用途だけでなく、高温高湿環境である燃料電池システム内の水素濃度検知用としても好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0086】
本発明の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体は、樹脂成分としてフッ素樹脂を含有するため、水素ガスセンサとしての用途に用いた場合、耐熱性が向上し、高温条件下でも電解質膜を劣化させず、高温高湿保管試験でも、長時間の駆動動作においても耐久性を向上させることができる。そのため、水素ガス漏れ検知用の用途だけでなく、高温高湿環境である燃料電池システム内の水素濃度検知用としても適用できるものと期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】形態1の水素ガスセンサを模式的に表した断面図である。
【図2】形態1の水素ガスセンサの一態様を模式的に表した断面図である。
【図3】形態2の水素ガスセンサを模式的に表した断面図である。
【図4】形態2の水素ガスセンサの一態様を模式的に表した断面図である。
【図5a】実施例1において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図5b】図5aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図5c】実施例1において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図6a】比較例1において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図6b】図6aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図6c】比較例1において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図7a】比較例2において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図7b】図7aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図7c】比較例2において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図8a】実施例2において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図8b】図8aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図8c】実施例2において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図9a】比較例3において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図9b】図9aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図9c】比較例3において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図10a】実施例3において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図10b】図10aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図10c】実施例3において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図11a】実施例4において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図11b】図11aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図11c】実施例4において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【図12a】実施例5において、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表したグラフである。
【図12b】図11aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフである。
【図12c】実施例5において、試験時間に対して信号電圧をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0088】
[実施例]
以下、比較例と共に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0089】
・実施例1(電解質がフッ素樹脂(PVDF)+イオン液体系電解質膜である水素ガスセンサ)
図2に示す断面図のような構成を有する形態1の基板を有する水素ガスセンサを製造した。
【0090】
<白金対電極基板の形成>
基板1としてPETフィルム(東レ(株)製のルミラーU2)の上に、触媒を兼ねた電極3として形成される白金を、樹脂層6であるポリイミドフィルム(東レデュポン(株)製(厚み30μm))上にスパッタリング製膜し、1mm幅に短冊状にカットした。カットした短冊状の白金触媒層を有するポリイミドフィルムをPETフィルム上に2本、厚み188μmの0.5mm間隔にシリコーン系粘着材で貼り付け固定した。
【0091】
<触媒層の形成>
片方のポリイミドフィルム上に有する白金電極を触媒(白金触媒層)層とし、他方のポリイミドフィルム上に、電極4であるカーボンペースト((株)アサヒ化学研究所製のFTU−30)を専用溶剤((株)アサヒ化学研究所製の#155)で希釈して塗布し、熱風循環オーブンで100℃、1時間乾燥してカーボン電極を形成した。
【0092】
<電解質膜の形成>
固体イオン伝導体2としてビニリデンフロライド(VdF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合樹脂とイオン液体の複合体膜を形成した。VdFとHFPの共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(アルケマ(株)製のカイナー#2801、HFPの含有割合:11モル%)200gを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)800gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Aを調製した。
【0093】
溶液Aを2gと、イオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルホニルイミド(第一工業製薬(株)製のIL110))を0.2g加えて、撹拌混合した。
【0094】
得られた混合物を対電極基板の中央部に10μL滴下し、膜が2つの電極を覆うように塗布し、熱風循環オーブンで140℃、2時間乾燥して成膜した。
【0095】
<湿熱耐久性の評価>
得られた水素ガスセンサを60℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、15時間、105時間、258時間、418時間、578時間、739時間、及び1037時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、水素応答の評価を行なった。
【0096】
<水素ガス応答性の評価>
水素ガスセンサに空気ベースの水素ガス5(25℃、dry)を曝気して、水素ガスセンサの白金電極とカーボン電極の間の電位差をデジタルマルチメータ(岩通計測(株)製のVOAC7411)にて測定した。
【0097】
センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスを0.5L/min流量で30秒間曝気し、30秒間停止する操作を交互に繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定した。センサの出力電圧は、水素ガスと接触すると上昇し、水素ガスの曝気を停止すると低下した。測定結果を図5a〜図5cに示す。なお、図5aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図5bは、図5aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図5cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0098】
図5a〜5cに示すように、実施例1の水素ガスセンサは、高温高湿60℃、90%の条件に保管すると、初期に比べて信号電圧(出力電圧の変化)は少し低下し、ベース電圧も変動したが、1000時間を越えてもなお、70mV程度の充分な水素応答信号電圧が得られており、水素ガスセンサとして機能していることがわかる。
【0099】
・比較例1(電解質膜が、スルホン化した炭化水素系プロトン電解質膜である水素ガスセンサ)
電解質膜としてスルホン化スチレン−エチレン共重合体溶液(Aldrich社製のスチレン−エチレンランダム共重合体(Poly(styrene-ran-ethylene))の1−プロパノール溶液(5重量%))を対電極基板の中央部に1μL滴下し、膜が2つの電極を覆うように塗布し、熱風循環オーブンで80℃で1時間乾燥して成膜した以外は、実施例1と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0100】
得られた水素ガスセンサを60℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、105時間、258時間、及び418時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0101】
測定結果を図6a〜図6cに示す。なお、図6aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図6bは、図6aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図6cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0102】
図6a〜6cに示すように、比較例1の水素ガスセンサを高温高湿60℃、90%の条件に保管すると、100時間程度までは、正常な水素応答が得られているが、250時間では水素応答が異常になっており、水素ガスセンサとして機能していないことがわかる。すなわち、炭化水素系電解質膜は高温高湿条件での耐久性が低いことがわかる。
【0103】
・比較例2(電解質膜が、UV硬化樹脂+イオン液体の複合高分子電解質膜である水素ガスセンサ)
電解質膜としてエポキシアクリレート紫外線硬化樹脂(日本ユピカ(株)製のネオポール8318)とイオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルホニルイミド(第一工業製薬(株)製のIL110))を重量比2:1の割合で混合し攪拌脱泡して複合型高分子電解質溶液を調製した。
【0104】
これを対電極基板に2つの電極を覆うように塗布し、その後、紫外線照射して硬化成膜化した以外は、実施例1と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0105】
得られた水素ガスセンサを60℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、15時間、105時間、及び258時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0106】
測定結果を図7a〜図7cに示す。なお、図7aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図7bは、図7aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図7cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0107】
図7a〜図7cに示すように、比較例2の水素ガスセンサを高温高湿60℃、90%の条件に保管すると、100時間程度までは、正常な水素応答が得られているが、250時間では水素応答が異常になっており、水素ガスセンサとして機能していないことがわかる。すなわち、炭化水素系電解質膜は高温高湿条件での耐久性が低いことがわかる。
【0108】
・実施例2(電解質がフッ素樹脂(PVDF)+イオン液体系電解質膜である水素ガスセンサ)
図4に示す断面図のような構成を有する形態2に示される積層構造を有する水素ガスセンサを製造した。
【0109】
<電解質膜の形成>
固体イオン伝導体2としてVdF−HFP共重合樹脂とイオン液体の複合体膜を形成した。VdFとHFPの共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(アルケマ(株)製のカイナー#2801、HFPの含有割合:11モル%)を20g、DMAc80gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Aを調製した。有機変性モンモリロナイト(コープケミカル(株)製のルーセンタイトSTN)20gを、DMAc80gに加え、ボールミルにて均一分散を行って固形分濃度20重量%の溶液Bを調製した。
【0110】
溶液Aと溶液BをA:B=99.5:0.5(重量比)で調合し、ペイントシェイカーで混合し、固形分濃度20重量%、該固形分中の有機変性モンモリロナイト濃度0.5重量%の溶液を得た。
【0111】
得られた溶液10gにイオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルホニルイミド:第一工業製薬(株)製のIL110)1gを加えて、攪拌混合した。
【0112】
得られた混合溶液2mLを、5cm角の正方形状の表面を離型処理した金型枠に流し込んで、140℃の熱風循環オーブンで3時間乾燥して、プロトン導電層であるVDF−HFP共重合樹脂とイオン液体との複合電解質膜を形成した。
【0113】
<触媒層の形成>
得られた複合電解質膜の片面に、白金をターゲットとしたRFスパッタリングにより触媒を兼ねた電極3である白金触媒層を形成した。なお、スパッタリングは、アルゴンガス流量20sccm、投入電力300W、成膜時間30秒の条件下で行った。
【0114】
<センサの組立>
片面に白金触媒層を形成したプロトン導電層をφ13mmの形状に切り出し、電極4及び7としてφ12mmの通気性電極であるカーボンペーパーで両面を挟み、さらにこれを、外周がφ26mmで、中央部にφ6mmの孔9が形成されたステンレス製のドーナツ状のSUS電極8としてSUS電極板で両面を挟んでネジ止めして、水素ガスセンサを製作した。
【0115】
<湿熱耐久性の評価>
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RHの高温高湿槽に保管して、所定の時間毎に取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、水素応答の評価を行った。
【0116】
<水素ガス応答性の評価>
水素ガスセンサに空気ベースの水素ガス5(25℃、dry)を曝気して、水素ガスセンサの白金電極とカーボン電極の間の電位差をデジタルマルチメータ(岩通計測(株)製のVOAC7411)で測定した。
【0117】
センサ表面に4000ppm濃度(空気ベース)の水素ガスを0.5L/min流量で30秒間曝気し、30秒間停止する操作を交互に繰り返して、水素ガスの接触による電圧変化を測定した。センサの出力電圧は、水素ガスと接触すると上昇し、水素ガスが停止すると低下する。測定結果を図8a〜図8cに示す。なお、図8aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図8bは、図8aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図8cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0118】
図8a〜図8cに示すように、実施例2の水素ガスセンサを高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、初期に較べて信号電圧(出力電圧の変化)は低下し、ベース電圧も変動するが、5〜10mV程度の水素応答信号電圧は得られており、500時間を越えても水素ガスセンサとして機能していることがわかる。
【0119】
すなわち、従来の炭化水素系電解質膜に較べて、高温高湿条件での耐久性が著しく向上していることがわかる。
【0120】
比較例3(電解質膜が、スルホン化した炭化水素系プロトン電解質膜である水素ガスセンサ)
<電解質膜の構成>
固体高分子電解質としてカーボン含有スルホン化スチレンエチレン共重合体の膜を形成した。
【0121】
スルホン化スチレン−エチレン共重合体溶液(Aldrich製のスチレン−エチレンランダム共重合体(Poly(styrene-ran-ethylene))、5重量%1−プロパノール溶液)に、カーボンブラック(三菱化学製の#4000B)を固形分比1.5重量%となるように混合し、超音波ホモジナイザーで10分攪拌し、スターラーで30分攪拌して、キャスト溶液を調製した。
【0122】
得られた溶液8mlを5cm角の正方形状の金型枠に流し込んで、80℃の熱風循環オーブンで2時間乾燥して、カーボン含有スルホン化スチレンエチレン共重合体の電解質膜を形成した。得られた電解質膜を用いた以外は、実施例2と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0123】
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、22時間、及び90時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0124】
測定結果を図9a〜図9cに示す。なお、図9aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図9bは、図9aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図9cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0125】
図9a〜図9cに示すように、比較例3の水素ガスセンサを高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、初期に対して、22時間経過後の水素ガスセンサは信号電圧がセロになり水素応答しなくなり、水素ガスセンサとして機能していないことがわかる。
【0126】
・実施例3(電解質膜が、フッ素樹脂(PVDF)+尿素シリケート電解質膜である水素ガスセンサ))
<尿素シリケートゲルの作製>
1−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)尿素(TMSU)0.75M/Lと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(HTFSI)0.25M/Lと、尿素0.25M/Lと、水4M/Lと、塩酸0.01M/Lのメタノール溶液30gを調製し、スターラーで3時間攪拌し尿素シリケートゾル液を得た。
【0127】
このゾル液を50℃の恒温槽で乾燥して固化させた後に、150℃、3時間熱処理をして、乳鉢で粉砕して、尿素シリケートゲルの粉末を得た。
【0128】
<電解質膜の構成>
固体高分子電解質としてPVDF(アルケマ製のカイナー#301F)と尿素シリケート電解質の複合体膜を形成した。PVDF樹脂20gをDMAc180gに溶解させ、固形分濃度10重量%の溶液Aを調製した。
【0129】
有機変性モンモリロナイト(コープケミカル(株)製のルーセンタイトSTN)20gを、DMAc80gに加え、ボールミルにて均一分散を行って、固形分濃度20重量%の溶液Bを調製した。
【0130】
溶液Aと溶液BをA:B=99.5:0.5で調合しペイントシェイカーで混合し、固形分濃度20重量%、該固形分中の有機変性モンモリロナイトの濃度0.5重量%の溶液を得た。この溶液10gとDMAc4gと尿素シリケート1gを攪拌混合し、PVDFと尿素シリケート電解質の複合電解質溶液を調製した。
【0131】
得られた溶液4mLを5cm角の正方形状の表面を離型処理した金型枠に流し込んで、140℃の熱風循環オーブンで3時間乾燥して、PVDFと尿素シリケート電解質の複合電解質膜を形成した。得られた電解質膜を用いた以外は、実施例2と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0132】
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、123時間、及び257時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0133】
測定結果を図10a〜図10cに示す。なお、図10aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図10bは、図10aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図10cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0134】
図10a〜図10cに示すように、実施例3の水素ガスセンサにおいて、尿素シリケート系は電解質膜が高抵抗のためベース電圧がドリフトしやすく信号電圧も小さいが、水素応答の信号電圧は得られている。高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、信号電圧とベース電圧はあまり変化せず、水素応答信号は得られており、250時間を越えても水素ガスセンサとして機能していることがわかる。すなわち、従来の炭化水素系電解質膜に較べて、高温高湿条件での耐久性が著しく向上していることがわかる。
【0135】
・実施例4(電解質膜が、フッ素樹脂(VdF−HFP共重合体)+イオン液体系電解質膜である水素ガスセンサ)
<電解質膜の構成>
固体高分子電解質としてVdF−HFP共重合体とイオン液体の複合体膜を形成した。VdFとHFPの共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(アルケマ(株)製のカイナー#2801、HFPの含有割合:11モル%)20gを、DMAc80gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Aを調製した。
【0136】
この溶液10gとイオン液体(メチルエチルイミダゾリウム−ビスフルオロスルホニルイミド:第一工業製薬製のIL110)1gを加えて、攪拌混合した。
【0137】
この溶液2mLを5cm角の正方形状の表面を離型処理した金型枠に流し込んで、
140℃の熱風循環オーブンで3時間乾燥して、VdF−HFP共重合体とイオン液体の複合電解質膜を形成した。
【0138】
得られた電解質膜を用いた以外は、実施例2と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0139】
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、188時間、及び327時間に取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0140】
測定結果を図11a〜図11cに示す。なお、図11aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図11bは、図11aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図11cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0141】
図11a〜図11cに示すように、実施例4の水素ガスセンサにおいて、高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、信号電圧は低下し、ベース電圧も変動したが、数10mVの水素応答信号は得られており、327時間を越えても水素ガスセンサとして機能していることがわかる。これにより、実施例1に対して、モンモリロナイトを添加しない電解質膜を使用した場合でも、従来の炭化水素系の電解質膜を使用したものに較べて、高温高湿条件での耐久性が向上しているということがわかる。
【0142】
・実施例5(電解質膜が、フッ素樹脂(PVDF)+ホスホシリケートゲル電解質膜である水素ガスセンサ))
<ホスホシリケートゲルの作製>
テトラエトキシシラン1M/Lと、リン酸1M/Lと、水4M/Lと、塩酸0.01M/Lとエタノール8M/Lの溶液100gを調製し、スターラーで3時間撹拌し尿素シリケートゾル液を得た。このゾル液を50℃の恒温槽で2週間乾燥してゲル化し固化させた後に乳鉢で粉砕し、150℃、3時間熱処理をした後に、さらに乳鉢で粉砕して、ホスホシリケートゲルの粉末を得た。
【0143】
このホスホシリケートゲル粉末20gをDMAC80gに溶解してボールミルで分散して、固形分濃度20%のホスホシリケートゲルのスラリー液Aを調整した。
【0144】
<電解質膜の構成>
固体高分子電解質としてPVDF(アルケマ製のカイナー#301F)とホスホシリケートゲル電解質の複合体膜を形成した。PVDF樹脂20gをDMAc80gに溶解させ、固形分濃度20重量%の溶液Bを調製した。
【0145】
この溶液B5gとホスホシリケートゲルのスラリー液A10gを攪拌混合して、PVDFとホスホシリケートゲル電解質の複合電解質溶液を調製した。
【0146】
得られた溶液2.5gを5cm角の正方形状の表面を離型処理した金型枠に流し込んで、100℃の熱風循環オーブンで4時間乾燥して、PVDFと尿素シリケート電解質の複合電解質膜を形成した。得られた電解質膜を用いた以外は、実施例2と同様の方法にて、水素ガスセンサを製造した。
【0147】
得られた水素ガスセンサを85℃、90%RH高温高湿槽に保管して、初期、94時間、 351時間、578時間、813時間及び952時間にそれぞれ取り出して、常温常湿(25℃、50%RH)環境で2時間放置して乾燥させた後に、実施例1と同様の方法にて、水素応答の評価を行なった。
【0148】
測定結果を図12a〜図12cに示す。なお、図12aは、水素ガスの接触時間に対する出力電圧の変化を表し、図12bは、図12aのグラフの横軸をそれぞれの所定の保管時間に分けて表したグラフであり、図12cは、試験時間に対して、信号電圧をプロットしたグラフである。
【0149】
図12a〜図12cに示すように、実施例5の水素ガスセンサにおいて、良好な水素応答の信号電圧が得られている。高温高湿85℃、90%の条件に保管すると、信号電圧はほぼ安定で、ベース電圧も初期以外はほとんど変動せず、安定な水素応答信号が得られており、952時間を越えても水素ガスセンサとして機能していることがわかる。すなわち、従来の炭化水素系電解質膜に較べて、高温高湿条件での耐久性が著しく向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0150】
1 基板
2 固体イオン伝導体
3 触媒を兼ねた電極
4 電極
5 水素ガス
6 樹脂層
7 通気性を有する電極
8 SUS電極
9 孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含む水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項2】
フッ素樹脂が耐熱性樹脂である請求項1に記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項3】
フッ素樹脂が、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である請求項1又は2に記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項4】
プロトン導電性電解質の含有量が、フッ素樹脂100重量部に対して、25〜500重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項5】
フッ素樹脂の融点が、140℃以上である請求項1〜4のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項6】
プロトン導電性電解質が、イオン液体である請求項1〜5のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項7】
イオン液体が、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、及びピロリジニウム塩よりなる群から選ばれる少なくも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサであって、固体イオン伝導体を挟んで一対の電極が形成された水素ガスセンサ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサであって、基板上に一対の電極が形成され、その上に固体イオン伝導体が形成された水素ガスセンサ。
【請求項10】
一対の電極の少なくとも一側面に触媒層が形成されている請求項8又は9に記載の水素ガスセンサ。
【請求項1】
フッ素樹脂とプロトン導電性電解質を含む水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項2】
フッ素樹脂が耐熱性樹脂である請求項1に記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項3】
フッ素樹脂が、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である請求項1又は2に記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項4】
プロトン導電性電解質の含有量が、フッ素樹脂100重量部に対して、25〜500重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項5】
フッ素樹脂の融点が、140℃以上である請求項1〜4のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項6】
プロトン導電性電解質が、イオン液体である請求項1〜5のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項7】
イオン液体が、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、及びピロリジニウム塩よりなる群から選ばれる少なくも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサであって、固体イオン伝導体を挟んで一対の電極が形成された水素ガスセンサ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の水素ガスセンサ用固体イオン伝導体を用いた水素ガスセンサであって、基板上に一対の電極が形成され、その上に固体イオン伝導体が形成された水素ガスセンサ。
【請求項10】
一対の電極の少なくとも一側面に触媒層が形成されている請求項8又は9に記載の水素ガスセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【公開番号】特開2012−63216(P2012−63216A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206887(P2010−206887)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
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