説明

水素ガス除去装置

【課題】 耐久性及び水素ガス除去効率を向上し得る水素ガス除去装置を提供する。
【解決手段】 水素ガス除去対象装置の装置内にて発生する水素ガスを金属酸化物を含む酸化部Oxにて酸化して除去するように構成された水素ガス除去装置であって、
酸化部Oxが、補強材Rにて補強される状態の金属酸化物の多孔状焼結体51にて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス除去対象装置の装置内にて発生する水素ガスを金属酸化物を含む酸化部にて酸化して除去するように構成された水素ガス除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる水素ガス除去装置は、吸収式冷凍機等の水素ガス除去対象装置の装置内で発生する水素ガスを酸化部にて酸化して凝縮可能な状態にすることで、水素ガスを除去するように構成したものである。
つまり、水素ガス除去対象装置の一例としての吸収式冷凍機では、再生器、凝縮器、吸収器及び蒸発器、並びに、それらを接続する配管等を構成する装置構成材として、一般に鉄やステンレス鋼等の金属が用いられ、冷媒と吸収剤の組み合わせとして、水と臭化リチウムの組み合わせやアンモニアと水の組み合わせ等が用いられるものであり、その装置構成材の鉄やステンレス鋼が冷媒や吸収剤溶液と反応して水素ガスが発生する。この水素ガスは吸収式冷凍機内においては凝縮することがなく、蒸発器や吸収器等の気相部に滞留して、低圧が要求される蒸発器や吸収器等の器内圧力が次第に上昇することになるので、吸収式冷凍機の能力が低下することになる。
そこで、水素ガス除去装置を設けて、吸収式冷凍機内の水素ガスを除去するようにして、吸収式冷凍機の能力低下を抑制するようになっている。
【0003】
このような水素ガス除去装置において、従来では、酸化部を、金属酸化物を担持させた多孔質球状アルミナにて構成していた。
ちなみに、銅イオンを含む水溶液に多孔質球状アルミナを浸漬して、多孔質球状アルミナに銅イオンを含浸し、これを高温で酸化させることにより、多孔質球状アルミナに金属酸化物としての酸化銅を担持させる(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−32942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような水素ガス除去装置は、水素ガス除去対象装置の装置内にて発生する水素ガスを酸化部の金属酸化物にて酸化することにより、換言すれば、水素ガス除去対象装置の装置内にて発生する水素ガスにて酸化部の金属酸化物を還元させることにより、水蒸気を発生させて水素ガスを除去するものである。従って、水素ガスによる酸化部の金属酸化物の還元が進行して、酸化部における金属酸化物の含有量が少なくなると、水素ガス除去能力が低下するので、酸化部を金属酸化物の含有量が多い状態にする水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスが必要である。この水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスでは、例えば、金属酸化物の還元が進行した酸化部を水素ガス除去対象装置から取り出して酸素含有雰囲気中で加熱することにより、金属を酸化させて金属酸化物の含有量を多くして、そのように金属酸化物の含有量を多くした酸化部を水素ガス除去対象装置に装填することになる。
【0006】
そして、内部が満たされた状態と仮定したときの酸化部全体の体積に対する金属酸化物の体積の比率(以下、金属酸化物の体積効率と記載する場合がある)を大きくするほど、酸化部における金属酸化物の含有量が水素ガス除去能力に影響が現れる程度に少なくなるまでの時間を長くすることが可能となって、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くすることが可能となる。
【0007】
又、このような水素ガス除去装置は、酸化部による水素ガスの酸化反応を促進させるために、通常、酸化部を加熱する加熱手段を設けて、その加熱手段にて加熱する状態で酸化部を酸化反応させる。
従って、酸化部は、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスが繰り返し行われることにより、加熱と冷却が繰り返されることになる。
【0008】
しかしながら、従来は、酸化部を、金属酸化物を担持させた多孔質球状アルミナにて構成するものであり、その多孔質球状アルミナは加熱と冷却が繰り返される熱衝撃に対して脆いため、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスが繰り返し行われて、酸化部の加熱と冷却が繰り返されると、酸化部にクラックが生じ易い。
又、従来では、酸化部は多孔質球状アルミナが主体となって形成されるので、酸化部における金属酸化物の体積効率を大きくし難いため、酸化部における金属酸化物の含有量が水素ガス除去能力に影響が現れる程度に少なくなるまでの時間が短いので、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を高くする必要がある。
【0009】
つまり、従来では、酸化部の主体となる多孔質球状アルミナが熱衝撃に対して脆いことに加えて、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を高くする必要かあることから、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスが高い頻度で繰り返し行われて酸化部の加熱と冷却が繰り返されると、酸化部にクラックが生じ易くて酸化部が割れ易いため、耐久性を向上させる面で改善の余地があった。
【0010】
又、多孔質球状アルミナは、熱伝導率が低く、しかも、クラックが生じ易くてクラックが生じると熱伝導が一層悪くなることから、酸化部を加熱手段にて加熱するに当たって、その加熱効率が低いので、水素ガス除去効率を向上させる面で改善の余地があった。
【0011】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性及び水素ガス除去効率を向上し得る水素ガス除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の水素ガス除去装置は、水素ガス除去対象装置の装置内にて発生する水素ガスを金属酸化物を含む酸化部にて酸化して除去するように構成されたものであって、
第1特徴構成は、前記酸化部が、補強材にて補強される状態の金属酸化物の多孔状焼結体にて構成されている点を特徴とする。
【0013】
即ち、酸化部が、補強材にて補強される状態の金属酸化物の多孔状焼結体(以下、単に多孔状焼結体と称する場合がある)にて構成されていて、多孔状焼結体が補強材にて補強されているので、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスが繰り返し行われて、酸化部の加熱と冷却が繰り返されて熱衝撃が加えられても、多孔状焼結体にクラックが生じ難いようにすることが可能となる。
ちなみに、補強材としては、金属等の展延性に優れた材料にて形成すると、一層クラックが入り難いようにすることが可能となるので、好ましい。
【0014】
又、補強材は多孔状焼結体を補強するものであって、多孔状焼結体を所望通りに補強できれば十分であるので、酸化部を、補強材の含有比率を小さくし且つ金属酸化物の含有比率を大きくして、金属酸化部を主体として形成することが可能となる。
そして、酸化部を金属酸化部を主体として形成することが可能となることから、金属酸化物の体積効率を大きくすることが可能となり、酸化部における金属酸化物の含有量が水素ガス除去能力に影響が現れる程度に少なくなるまでの時間を長くすることが可能となるので、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くすることが可能となる。
【0015】
つまり、酸化部自体がクラックが生じ難い構造であり、しかも、酸化部にクラックを生じさせる原因となる水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くすることが可能となるので、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスが繰り返し行われて酸化部の加熱と冷却が繰り返されても、酸化部にクラックが生じ難くて酸化部を割れ難いようにすることが可能となるので、耐久性を向上させることができる。
【0016】
又、補強材を、金属等の熱伝導率の高い材料にて形成することにより、酸化部を加熱手段にて加熱するに当たって、熱伝導率の高い補強材を媒介として熱伝導させて、酸化部における熱伝導を促進させることが可能となるので、加熱効率を向上させて水素ガス除去効率を向上させることが可能となる。
従って、耐久性及び水素ガス除去効率を向上し得る水素ガス除去装置を提供することができるようになった。
【0017】
第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、
前記多孔状焼結体が、金属酸化物の粉末、前記補強材及び前記金属酸化物よりも沸点が低いバインダーの混合物をそのバインダーの沸点よりも高温に加熱して前記金属酸化物の粉末を前記補強材にて補強される状態で焼結させて形成される点を特徴とする。
【0018】
即ち、金属酸化物の粉末、補強材及び金属酸化物よりも沸点が低いバインダーの混合物をそのバインダーの沸点よりも高温に加熱すると、バインダーが気化して混合物から抜けてその抜けた部分が細孔となる状態で金属酸化物の粉末が焼結することになって、補強材にて補強される状態で金属酸化物の粉末が多孔状に焼結するので、補強材にて補強される状態の多孔状焼結体が形成される。
ちなみに、金属の粉末、補強材及びバインダーの混合物を加熱して、その加熱過程で金属を酸化させながら焼結させて、補強材にて補強される状態の多孔状焼結体を形成したり、あるいは、金属の粉末、補強材及びバインダーの混合物を加熱して金属の粉末を焼結させて、その焼結後に金属を酸化させて、補強材にて補強される状態の多孔状焼結体を形成する場合が考えられるが、これらの場合は、多孔状焼結体中に酸化されていない金属部分が残る虞があり、金属酸化物の体積効率を大きくする上で、多少不利となる。
これに対して、金属酸化物そのものの粉末、補強材及びバインダーの混合物を加熱して、補強材にて補強される状態の多孔状焼結体を形成するようにすると、金属酸化物の体積効率を大きくする上で好ましい。
従って、金属酸化物の体積効率を一層大きくして、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を一層低くすることが可能になるので、耐久性を一層向上させることができるようになった。
【0019】
第3特徴構成は、上記第1又は第2特徴構成に加えて、
前記金属酸化物に対する前記補強材の重量比率が2〜20%である点を特徴とする。
【0020】
即ち、本願発明の発明者らは、酸化部の耐久性及び水素ガス除去効率を向上すべく鋭意研究し、上記第1又は第2特徴構成を備えたものにおいて、金属酸化物に対する補強材の重量比率を2〜20%の範囲に設定すると、酸化部の耐久性及び水素ガス除去効率を向上させるようにする上で好ましいことを見出した。
【0021】
つまり、金属酸化物に対する補強材の重量比率を2%よりも小さくすると、補強材の量が少な過ぎるので、補強材にて多孔状焼結体を補強する補強力が弱くなって耐久性を十分に向上させ難く、又、熱伝導を十分に促進させ難い。一方、金属酸化物に対する補強材の重量比率を20%よりも大きくすると、補強材による多孔状焼結体の補強力を強くすると共に熱伝導を十分に促進させることができるものの、金属酸化物の体積効率が小さくなって、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度が高くなるので、多孔状焼結体にクラックを生じさせる原因となる多孔状焼結体が膨張、収縮する機会が多くなって、耐久性を十分に向上させ難い。
【0022】
そして、金属酸化物に対する補強材の重量比率を2〜20%の範囲に設定すると、金属酸化物の体積効率を大きくして水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くするようにしながら、補強材にて多孔状焼結体を補強する補強力を強くことが可能となると共に、酸化部における熱伝導を十分に促進させて加熱効率を十分に向上させることが可能となって、耐久性及び水素ガス除去効率を十分に向上させることができることを見出したのである。
従って、金属酸化物に対する補強材の重量比率を2〜20%の範囲に設定することにより、耐久性及び水素ガス除去効率を一層向上することができるようになった。
【0023】
第4特徴構成は、上記第1〜第3特徴構成のいずれかに加えて、
前記補強材が、前記金属酸化物と同じ金属の線材にて構成されている点を特徴とする。
【0024】
即ち、補強材を金属酸化物と同じ金属の線材にて構成することにより、膨張度、収縮度がそれぞれ多孔状焼結体の膨張度、収縮度と略同等な金属の線材を無秩序に分散させた状態で多孔状焼結体中に存在させて、多孔状焼結体を補強するようにすることが可能となる。
【0025】
つまり、多孔状焼結体中に無秩序状態で分散して存在する金属の線材により、多孔状焼結体を十分に補強することが可能となり、しかも、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの繰り返しにより酸化部の加熱と冷却が繰り返されても、多孔状焼結体中に存在する金属の線材は多孔状焼結体と同様に膨張、収縮して、多孔状焼結体にクラックが一層生じ難くなるので、酸化部を一層割れ難いようにすることが可能となる。
従って、耐久性を一層向上させるようにする上で好ましい手段を提供することができるようになった。
【0026】
第5特徴構成は、上記第4特徴構成に加えて、
前記線材の径が0.01〜1mmの範囲であり、長さが0.5〜8mmの範囲である点を特徴とする。
【0027】
即ち、本願発明の発明者らは、酸化部の耐久性を向上すべく鋭意研究し、上記第4特徴構成を備えたものにおいて、補強材を構成する金属の線材の径を0.01〜1mmの範囲に、長さを0.5〜8mmの範囲にそれぞれ設定すると、酸化部の耐久性を向上させるようにする上で好ましいことを見出した。
【0028】
つまり、補強材を金属酸化物と同じ金属の線材にて構成する場合、通常は、複数の線材にて構成することになる。
そして、複数の線材にて多孔状焼結体を補強するに当たって、その線材の径が0.01mmよりも細い場合は、多孔状焼結体を補強するための線材そのものの強度が弱い。又、複数の線材を互いに絡み合わせると補強力を一層強くすることが可能となるが、線材の長さが0.5mmよりも短い場合は、線材を絡み合わせ難い。従って、線材の径が0.01mmよりも細い場合、及び、線材の長さが0.5mmよりも短い場合のいずれの場合も、多孔状焼結体を補強する補強力を強くし難くて、耐久性を十分に向上させ難い。
又、線材の径が1mmよりも太い場合や、長さが8mmよりも長い場合は、いずれの場合も、複数の線材をそれの金属酸化物に対する重量比率を適正な状態に維持する状態で多孔状焼結体の全体にわたって満遍なく分散させ難いことから、多孔状焼結体を補強する補強力を強くし難くて、耐久性を十分に向上させ難い。
【0029】
そして、補強材を構成する金属の線材の径を0.01〜1mmの範囲に、長さを0.5〜8mmの範囲にそれぞれ設定すると、多孔状焼結体の補強用として十分な強度を備えた複数の線材を、それの金属酸化物に対する重量比率を適正な状態に維持しながら、互いに絡み合わせた状態で多孔状焼結体の全体にわたって満遍なく分散させることが可能になって、酸化部の耐久性を十分に向上させることができることを見出した。
従って、補強材を構成する金属の線材の径を0.01〜1mmの範囲に、長さを0.5〜8mmの範囲にそれぞれ設定することにより、耐久性を一層向上することができるようになった。
【0030】
第6特徴構成は、上記第1〜第3特徴構成のいずれかに加えて、
前記補強材が、前記金属酸化物と同じ金属にて形成された網状体にて構成されている点を特徴とする。
【0031】
即ち、膨張度、収縮度がそれぞれ多孔状焼結体の膨張度、収縮度と略同等な網状体にて、多孔状焼結体が補強される。
【0032】
つまり、補強材を金属酸化物と同じ金属にて形成された網状体にて構成することにより、補強材を例えば複数の粒状体の如き互いに分離状態の複数の部材にて構成する場合に比べて、補強力を強くすることが可能となって、多孔状焼結体を十分に補強することが可能となる。
しかも、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの繰り返しにより酸化部の加熱と冷却が繰り返されても、網状体は多孔状焼結体と同様に膨張、収縮して、多孔状焼結体にクラックが一層生じ難くなるので、酸化部を一層割れ難いようにすることが可能となる。
又、補強材を金属酸化物と同じ金属にて形成された網状体にて構成することにより、補強材を例えば複数の粒状体の如き互いに分離状態の複数の部材にて構成する場合に比べて、酸化部における熱伝導を一層促進させて、水素ガス除去効率を一層向上させることが可能となる。
従って、耐久性及び水素ガス除去効率を一層向上させるようにする上で好ましい手段を提供することができるようになった。
【0033】
第7特徴構成は、上記第6特徴構成に加えて、
前記網状体が10〜100メッシュであり、その網状体を形成する線材の径が0.01〜1mmの範囲である点を特徴とする。
【0034】
即ち、本願発明の発明者らは、酸化部の耐久性を向上すべく鋭意研究し、上記第6特徴構成を備えたものにおいて、網状体を10〜100メッシュ(メッシュサイズとも称する)とし、その網状体を形成する線材の径を0.01〜1mmの範囲に設定すると、酸化部の耐久性を向上させるようにする上で好ましいことを見出した。ちなみに、メッシュとは、25.4mm(1インチ)の中の網の目の数として定義されるものである。
【0035】
つまり、網状体のメッシュが10メッシュよりも小さい場合、及び、網状体を形成する線材の径が0.01mmよりも細い場合のいずれも、多孔状焼結体を補強するための網状体そのものの強度が弱くて、多孔状焼結体を補強する補強力を強くし難くいので、耐久性を十分に向上させ難い。
又、網状体のメッシュが100メッシュよりも大きい場合や、網状体を形成する線材の径が1mmよりも太い場合は、いずれの場合も、網状体をそれの金属酸化物に対する重量比率を適正な状態に維持する状態で多孔状焼結体中に極力広い範囲にわたって存在させ難いことから、多孔状焼結体を補強する補強力を強くし難くて、耐久性を十分に向上させ難い。
【0036】
そして、補強材を構成する網状体を10〜100メッシュとし、その網状体を形成する線材の径を0.01〜1mmの範囲に設定すると、多孔状焼結体の補強用として十分な強度を備えた網状体を、それの金属酸化物に対する重量比率を適正な状態に維持しながら、多孔状焼結体中に極力広い範囲にわたって存在させるようにすることが可能となって、酸化部の耐久性を十分に向上させることができることを見出した。
従って、補強材を構成する網状体を10〜100メッシュとし、その網状体を形成する線材の径を0.01〜1mmの範囲に設定することにより、耐久性を一層向上することができるようになった。
【0037】
第8特徴構成は、上記第1〜第7特徴構成のいずれかに加えて、
前記金属酸化物が酸化第2銅(CuO)である点を特徴とする。
【0038】
即ち、酸化第2銅は酸化力が強いので、金属酸化物として酸化第2銅を用いることにより、水素ガス除去能力を一層向上させることができる。
従って、水素ガス除去能力を一層向上させるようにする上で好適な手段を提供することができるようになった。
【0039】
第9特徴構成は、上記第1〜第8特徴構成のいずれかに加えて、
前記水素ガス除去対象装置が吸収式冷凍機である点を特徴とする。
【0040】
即ち、吸収式冷凍機内において上述のように発生する水素ガスが、酸化部の金属酸化物にて酸化されて凝縮可能な状態の水蒸気となって、水素ガスが除去される。
そして、酸化部を補強材にて補強される状態の多孔状焼結体にて構成することにより、上記の第1特徴構成において説明したのと同様に、酸化部自体をクラックが生じ難い構造とし、しかも、酸化部にクラックを生じさせる原因となる水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くすることが可能となるので、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスが繰り返し行われて酸化部の加熱と冷却が繰り返されても、酸化部にクラックが生じ難くて酸化部を割れ難いようにすることが可能となるので、耐久性を向上させることができる。
又、上記の第1特徴構成において説明したのと同様に、補強材を熱伝導率の高い材料にて形成することにより、酸化部を加熱手段にて加熱する加熱効率を向上させて水素ガス除去効率を向上させることが可能となる。
従って、耐久性及び水素ガス除去効率を向上し得る吸収式冷凍機用の水素ガス除去装置を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、図面に基づいて、本発明を吸収式冷凍機用の水素ガス除去装置に適用した場合の第1実施形態を説明する。
先ず、図1に基づいて、水素ガス除去装置Eを備えた二重効用の吸収式冷凍機について説明する。
この吸収式冷凍機は、冷媒として水を用い、吸収剤として臭化リチウムを用いるものであり、冷媒液を蒸発させる蒸発器1、その蒸発器1で発生した冷媒蒸気を吸収剤の水溶液である吸収液に吸収させる吸収器2、その吸収器2にて冷媒蒸気を吸収した低濃度の吸収液(以下、希液と称する場合がある)を加熱して希液から冷媒蒸気を発生させる高温再生器3、その高温再生器3による冷媒蒸気の発生で中濃度になった吸収液(以下、中液と称する場合がある)を高温再生器3にて発生した冷媒蒸気にて加熱して冷媒蒸気を更に発生させる低温再生器4、高温再生器3及び低温再生器4で発生された冷媒蒸気を凝縮させる凝縮器5、及び、吸収式冷凍機内で発生した水素ガスを除去する水素ガス除去装置E等を設けて構成し、吸収器2には、低温再生器4による冷媒蒸気の発生で高濃度になった吸収液(以下、濃液と称する場合がある)を供給するようになっている。
【0042】
以下、吸収式冷凍機の各部について説明を加える。
蒸発器1と吸収器2は、容器6を用いて一体的に構成してある。つまり、容器内6を通気自在な状態で仕切り体7にて横方向に仕切り、その容器6内の一方側に、冷媒液を散布する冷媒散布具8と、その冷媒散布具8にて冷媒液が散布される蒸発器コイル9と、冷媒散布具8から散布された冷媒液を溜める蒸発器液溜部10とを配設して、蒸発器1を構成し、又、容器6内の他方側に、濃液を散布する吸収液散布具11と、その吸収液散布具11にて濃液が散布される吸収器コイル12とを配設すると共に、蒸発器1にて発生した冷媒蒸気を吸収した希液を貯留する吸収器液溜部13を容器6の底部に形成して、吸収器2を構成してある。
【0043】
蒸発器液溜部10には、後述する凝縮器5の凝縮器液溜部14から冷媒液を冷媒液供給路15を通じて供給し、その蒸発器液溜部10の冷媒液を冷媒ポンプ16により冷媒液循環路17を通じて冷媒散布具8に圧送するようにしてある。
吸収液散布具11には、後述する低温再生器4の低温再生器液溜部18から濃液を濃液路19を通じて供給するようにしてある。
【0044】
そして、蒸発器コイル9には冷水取り出し用の冷水路20を通じて冷水を通流させ、吸収器コイル12には冷却水路21を通じて冷却水を通流させている。尚、この冷却水路21は、吸収器コイル12、後述する凝縮器5の凝縮器コイル22の順に冷却水を通流させるように配管してある。
【0045】
吸収器液溜部13の希液を吸収液ポンプ23にて希液路24を通じて高温再生器3に供給し、その高温再生器3において、ガスバーナ25の燃焼により吸収液を加熱して冷媒蒸気を発生させる。
図中の26は、高温再生器3で発生した冷媒蒸気から吸収液を分離する分離器であり、その分離器26にて吸収液を分離した冷媒蒸気を、冷媒蒸気路27を通じて、後述する低温再生器4の低温再生器コイル28を通過させた後、凝縮器5内に供給するようにしてある。
この分離器26には、冷媒蒸気に随伴する液滴状の吸収液を分離する分離具26aを内装してある。
【0046】
又、図中の29は、温水取り出し用の温水器であり、この温水器29は、冷媒蒸気取り出し路30を通じて高温再生器3から取り出した冷媒蒸気と温水路31を通流する湯水とを熱交換させて、冷媒蒸気の顕熱と凝縮潜熱により湯水を加熱して、温水路31を通じて湯を取り出すように構成してある。
【0047】
低温再生器4と凝縮器5は、容器32を用いて一体的に構成してある。つまり、容器32内を通気自在な状態で仕切り体33にて横方向に仕切り、その容器32内の一方側に、中液路34を通じて高温再生器3から中液が供給される前記低温再生器液溜部18と、冷媒蒸気路27を通じて高温再生器3から冷媒蒸気が供給される前記低温再生器コイル28とを設けて、低温再生器4を構成し、又、容器32内の他方側に、前記凝縮器液溜部14と、前記冷却水路21を通じて冷却水が供給される前記凝縮器コイル22とを設けて、凝縮器5を構成してある。
【0048】
そして、低温再生器4において、低温再生器コイル28を通流する冷媒蒸気にて低温再生器液溜部18の吸収液を加熱して冷媒蒸気を発生させて吸収液を濃縮し、そのように濃縮した濃液を前記濃液路19を通じて吸収器2の吸収液散布具11に供給するようになっている。
凝縮器5において、冷媒蒸気路27を通じて高温再生器3から供給される冷媒蒸気、及び、仕切り体33を通過して低温再生器4から供給される冷媒蒸気を凝縮器コイル22を通流する冷却水にて冷却して凝縮させて、その冷媒液を凝縮器液溜部14に溜め、その凝縮器液溜部14の冷媒液を冷媒液供給路15を通じて蒸発器1の蒸発器液溜部10に供給するようになっている。
【0049】
又、中液路34を通流する中液により希液路24を通流する希液を加熱する高温熱交換器35、及び、濃液路19を通流する濃液により希液路24を通流する希液を加熱する低温熱交換器36を設けてある。
【0050】
この吸収式冷凍機は、冷水路20を通じて冷水を取り出す冷房運転と、温水路31を通じて温水を取り出す暖房運転とに切り換え自在なように構成してあり、その冷暖切換用として、希液路24に希液路開閉弁37を、中液路34に中液路開閉弁38をそれぞれ設けると共に、冷媒蒸気路27に、冷媒蒸気路開閉弁39を分離器26と低温再生器コイル28との間、及び、その低温再生器コイル28と凝縮器5との間のそれぞれに位置させて設けてある。
そして、冷房運転を実行するときは、吸収液ポンプ23及び冷媒ポンプ16を作動させ、且つ、希液路開閉弁37、中液路開閉弁38及び2個の冷媒蒸気路開閉弁39を全て開弁し、暖房運転を実行するときは、吸収液ポンプ23及び冷媒ポンプ16を停止させ、且つ、希液路開閉弁37、中液路開閉弁38及び2個の冷媒蒸気路開閉弁39を全て閉弁することになる。
【0051】
つまり、冷房運転においては、高温再生器3及び低温再生器4にて発生した冷媒蒸気を凝縮器5に供給して、その冷媒蒸気を凝縮器コイル22の作用により凝縮させて、冷媒液を凝縮器液溜部14に貯留し、その凝縮器液溜部14の冷媒液を蒸発器液溜部10に供給する。そして、その蒸発器液溜部10の冷媒液を冷媒ポンプ16により冷媒散布具8から蒸発器1内に散布し、その散布冷媒液を蒸発器コイル9の作用にて蒸発させて、その蒸発による気化熱奪取により、蒸発器コイル9を通流する冷水を冷却して、冷水路20を通じて冷水を取り出すようになっている。
一方、低温再生器4からの吸収液を吸収液散布具11から吸収器2内に散布して、その散布吸収液に蒸発器1にて発生した冷媒蒸気を吸収させ、その冷媒蒸気の吸収により濃度が低くなった吸収液を高温再生器3、低温再生器4を順次経由させて通流させて、高温再生器3及び低温再生器4のそれぞれにおいて吸収液から冷媒蒸気を発生させて吸収液を濃縮し、濃縮した吸収液を前述のように吸収液散布具11から吸収器2内に散布するようになっている。
又、吸収器2にて濃液が冷媒蒸気を吸収することにより生じた吸収熱を吸収器コイル12を通流する冷却水に与え、凝縮器5にて冷媒蒸気が凝縮することにより発生する凝縮熱を凝縮器コイル22を通流する冷却水に与えて、吸収熱及び凝縮熱を冷却水を通じて外部に取り出すようになっている。
【0052】
更に、この吸収式冷凍機には、吸収液や冷媒の循環系における低圧部(例えば、蒸発器1又は吸収器2)に吸引作用する吸引部41、及び、その吸引部41にて吸引された水素ガスを貯留する貯留タンク42を設け、前記水素ガス除去装置Eをその貯留タンク42に設けることにより、吸収式冷凍機の機内で発生した水素ガスを貯留タンク42において水素ガス除去装置Eにて除去することで、水素ガス発生による機内の圧力上昇(特に、低圧が要求される蒸発器1や吸収器2における器内圧力の上昇)を防止して吸収式冷凍機の能力低下を防止するようにしてある。
【0053】
前記吸引部41は、エジェクタ44を用いて、吸収液ポンプ23にて送出される希液の一部を駆動流体として容器6内における吸収器構成空間、即ち吸収器2に吸引路46を通じて吸引作用する構成であり、吸収液ポンプ23にて送出される希液の一部を駆動流体として希液分岐路45にてエジェクタ44に導いて、その希液の高速流動により吸引路46を通じて吸収器2に吸引作用して、吸収器2の器内気体(冷媒蒸気及び水素ガスを含む)を吸入するように構成してある。ちなみに、上述のように蒸発器1と吸収器2は、容器6内に互いに連通状態に構成してあるので、蒸発器1の器内気体(冷媒蒸気及び水素ガスを含む)をも、吸引路46を通じて吸引する。
【0054】
貯留タンク42は、U字状の噴出路47にてエジェクタ44の噴出口に接続した状態で配置し、エジェクタ44から噴出された希液と器内気体との混合流体を噴出路47を通じて貯留タンク42内にその底部から供給して、貯留タンク42内において希液と不凝縮性の水素ガスとを気液分離状態にて貯留するように構成してある。
噴出路47には、貯留タンク42からエジェクタ44への流体の逆流を阻止するチェックバルブ48を設けてある。
又、貯留タンク42と吸収器2とをU字状の希液戻し路49にて接続してあり、その希液戻し路49を通じて、貯留タンク42にて水素ガスと分離した希液を吸収器2の吸収器液溜部13に戻すように構成してある。
【0055】
次に、図2に基づいて、水素ガス除去装置Eについて説明を加える。
この水素ガス除去装置Eは、金属酸化物(この実施形態では酸化第2銅(CuO))を含む酸化部Oxと、その酸化部Oxを加熱する加熱手段としての電気ヒータ52と、それら酸化部Ox及び電気ヒータ52を装着する耐食金属製の装置ブロック53とを備えており、貯留タンク42内の水素ガスを金属酸化物にて酸化させて凝縮可能な状態(水蒸気)にすることで、機内の水素ガスを除去するように構成してある。
また、電気ヒータ52により酸化部Oxを加熱して酸化反応を促進することで効率的に機内の水素ガスを除去するようにしてある。
【0056】
図3に示すように、前記酸化部Oxは、補強材Rにて補強される状態の金属酸化物の多孔状焼結体51にて構成してある。
又、金属酸化物に対する補強材Oxの重量比率を2〜20%の範囲に設定してある。
そして、この実施形態では、補強材Rを、前記金属酸化物と同じ金属(この実施形態では銅)の線材58にて構成し、その線材58の径を0.01〜1mmの範囲に、長さを0.5〜8mmの範囲にそれぞれ設定してある。
【0057】
次に、図2に基づいて、水素ガス除去装置Eを貯留タンク42に取り付ける取り付け構成について説明する。
貯留タンク42を形成する器壁における貯留タンク42の気相部を囲繞する器壁42a(この実施形態では上壁)には水素ガス除去装置Eの取付口42bを形成してあり、多孔状焼結体51及び電気ヒータ52を装着した装置ブロック53を貯留タンク42の外部から上記取付口42bに挿入した状態で器壁42aに対し連結固定することにより、水素ガス除去装置Eを貯留タンク42に取り付ける。
【0058】
また、この取り付けにおいて、装置ブロック53は貯留タンク42の内部と外部とに跨らせた状態でボルトなどの連結及び連結解除操作が自在な連結手段により器壁42aに連結固定し、装置ブロック53と器壁42aとの間はシール手段によりシールする。
【0059】
すなわち、水素ガス除去装置Eは、それが貯留タンク42の器壁の一部(略言すれば、取付口42bに対する蓋)を形成する状態にして貯留タンク42の器壁42aに対し着脱自在に取り付けてあり、これにより、製作時における水素ガス除去装置Eの組み付けやその後における水素ガス除去装置Eのメンテナンス等を容易にする。
【0060】
装置ブロック53には、それを器壁42aに取り付けた状態において貯留タンク42の気相部に開口させる酸化部収容孔53aと貯留タンク42の外部に開口させるヒータ挿入孔53bを形成してあり、多孔状焼結体51は酸化部収用孔53aに収容して装置ブロック53に装着し、電気ヒータ52はヒータ挿入孔53bに対し嵌入状に挿入して装置ブロック53に装着してある。
すなわち、貯留タンク42内の水素ガスをフィルタ54を通じ酸化部収容孔53aに流入させることで、その水素ガスを酸化部収容孔53a内において電気ヒータ52による加熱下で多孔状焼結体51と反応させるように、また、電気ヒータ52はメンテナンス時などにおいて貯留タンク42の気密を破ることなく装置ブロック53から取り外せるようにしてある。
【0061】
又、水素ガスにより多孔状焼結体51の金属酸化物の還元が進行して、金属酸化物の含有量が少なくなって、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスが必要となると、水素ガス除去装置Eを貯留タンク42から取り外して、多孔状焼結体51を酸化部収容孔53aから取り出す。そして、取り出した多孔状焼結体51を酸化雰囲気にて加熱して金属(この実施形態では銅)を酸化させて、水素ガス除去能力を回復させる。
【0062】
又、水素ガス除去装置Eには、多孔状焼結体51の温度を検出する加熱温度センサ57を装備してある。
そして、吸収式冷凍機の運転制御を司る制御器55は、前記加熱温度センサ57の検出温度が設定温度になるように電気ヒータ52の出力を調整する酸化部温度制御を実行するように構成してある。前記設定温度は120〜250°Cの範囲内に設定して、制御器55に記憶させてある。
【0063】
前記多孔状焼結体51の製作方法について説明を加える。
この多孔状焼結体51は、金属酸化物(この実施形態では酸化第2銅)の粉末、補強材R(この実施形態では多数の線材58)、及び、前記金属酸化物よりも沸点が低いバインダー(この実施形態ではポリビニールアルコール)の混合物をそのバインダーの沸点よりも高温に加熱して、金属酸化物の粉末を補強材Rにて補強される状態で多孔状に焼結させて形成する。
【0064】
更に説明を加えると、金属酸化物、補強材R及びバインダーの混合物を所定の形状(円柱状、球状、立方体状、直方体状等)に加圧成形して、そのように加圧成形した金属酸化物、補強材R及びバインダーの混合物をバインダーの沸点よりも高温に加熱してバインダーを気化させて、金属酸化物の粉末を補強材Rにて補強される状態で多孔状に焼結させて、多孔状焼結体51を形成する。
金属酸化物、補強材R及びバインダーの混合物を所定の形状に加圧成形するに当たっては、極力大きい形状に成形して、多孔状焼結体51を極力大きく形成するようにして、酸化部収容孔53aに収容する多孔状焼結体51の個数を極力少なくする(例えば、2〜5個程度)ようにしてある。ちなみに、この実施形態では、前記混合物を円柱状に成形することにより、多孔状焼結体51を円柱状に形成し、その円柱状の多孔状焼結体51の複数個を積み重ねて、全体として、酸化部収用孔53aに収容可能な円柱状となるようにしてある。
【0065】
つまり、酸化部Oxを構成する多孔状焼結体51の個数を少なくすることにより、多孔状焼結体51の取扱いを容易にして、製作時における水素ガス除去装置Eの組み付けや、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスを一層簡略化している。
【0066】
以下、前記多孔状焼結体51の製作条件について説明する。
即ち、多孔状焼結体51の製作条件である金属酸化物の粉末の粒径、補強材Rの量(金属酸化物に対する重量比率)、バインダーの量(金属酸化物に対する重量比率)、金属酸化物の粉末、補強材R及びバインダーの混合物の成形圧力、焼成温度、並びに、焼成時間夫々は以下に記載する範囲内で所定の値に設定する。
【0067】
金属酸化物の粉末の粒径:0.1〜50μm、好ましくは、0.1〜10μm
補強材Rの量 :2〜20wt%、好ましくは、5〜10wt%
バインダーの量 :0.1〜10wt%、好ましくは、1〜5wt%
成形圧力 :9.8〜294MPa、好ましくは、19.6〜98MPa
焼成温度 :400〜1100°C、好ましくは、500〜1000°C
焼成時間 :0.2〜6h、好ましくは、0.5〜3h
【0068】
尚、バインダーの量は、例えば、多孔状焼結体51の密度を4.0〜6.0g/cm3の範囲内の所定に設定したり、多孔状焼結体51の平均細孔半径を300〜3000nmの範囲内の所定の値に設定するように、上記の範囲内で所定の値に設定する。
ちなみに、多孔状焼結体51の平均細孔半径は、水銀圧入法、ガス吸着法等の種々の測定法による細孔分布測定装置を用いて測定した値であり、この実施形態では、株式会社島津製作所製の水銀圧入法によるオートポア9220型の細孔分布測定装置を用いて測定した値である。
【0069】
多孔状焼結体51の密度を4.0〜6.0g/cm3の範囲内に設定すると、以下に説明するように、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くすると共に、水素ガス除去性能を高くすることができるようにする上で好ましい。
即ち、多孔状焼結体51の密度を4.0g/cm3よりも小さく設定すると、金属酸化物の体積効率が小さくなり、又、還元反応に伴って亀裂が発生し易いので、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度が高くなる傾向となり、多孔状焼結体51の密度を6.0g/cm3よりも大きく設定すると、金属酸化物の体積効率が大きくなって、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くすることが可能となるものの、多孔状焼結体51の細孔が微細過ぎて水素ガスが多孔状焼結体内に浸透し難くなるので、水素ガス除去性能が低くなり易い。
【0070】
そして、多孔状焼結体51の密度を4.0〜6.0g/cm3の範囲に設定すると、金属酸化物の体積効率を大きくしながら、水素ガスが多孔状焼結体内に浸透し易いようにすることが可能となって、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くすると共に、水素ガス除去性能を高くすることができるのである。
【0071】
又、多孔状焼結体51の平均細孔半径を300〜3000nmの範囲に設定すると、以下に説明するように、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスにかかわる負担を軽減すると共に、水素ガス除去能力を向上させることができるようにする上で好ましい。
即ち、多孔状焼結体51の平均細孔半径を3000nmよりも大きく設定すると、金属酸化物の体積効率が小さくなるので、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度が高くなる傾向となり、多孔状焼結体51の平均細孔半径を300nmよりも小さく設定すると、金属酸化物の体積効率が大きくなって、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くすることが可能となるものの、多孔状焼結体51の細孔が微細過ぎて水素ガスが多孔状焼結体内に浸透し難くなるので、水素ガス除去性能が低くなり易い。
【0072】
そして、多孔状焼結体51の平均細孔半径を300〜3000nmの範囲に設定すると、金属酸化物の体積効率を大きくしながら、水素ガスが多孔状焼結体51内に浸透し易くすることが可能となって、水素ガス除去能力回復のためのメンテナンスの頻度を低くすると共に、水素ガス除去性能を高くすることができるのである。
【0073】
次に、多孔状焼結体51を形成するに当たって、金属酸化物に対する補強材Rの重量比率を大きくするほど多孔状焼結体51における熱伝導を促進できることを検証した結果を説明する。
この検証試験では、金属酸化物に対する補強材Rの重量比率を異ならせた複数の多孔状焼結体51にて、貯留タンク42内の圧力を通常運転状態の低圧状態(例えば、9.33kPa)にした状態で、多孔状焼結体51を常温から200°Cにまで昇温させるのに要する時間(以下、昇温所要時間と称する場合がある)を比較することにより、多孔状焼結体51における熱伝導を比較した。尚、補強材Rとして、径が0.05mm、長さが5mmの線材58を用いた。
【0074】
補強材Rを金属酸化物に対する重量比率で20%添加して形成した多孔状焼結体51の場合、前記昇温所要時間は4時間であった。
又、補強材Rを添加せずに形成した多孔状焼結体51の場合、前記昇温所要時間は18時間であり、補強材Rを金属酸化物に対する重量比率で0.5%添加して形成した多孔状焼結体51の場合、前記昇温所要時間は15時間であった。
つまり、金属酸化物に対する補強材Rの重量比率を大きくするほど多孔状焼結体51における熱伝導を向上できることを検証できた。
【0075】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態を説明するが、この第2実施形態では、多孔状焼結体51が異なる以外は、第1実施形態と同様に構成してあるので、第1実施形態と同じ構成要素や同じ作用を有する構成要素については説明を省略し、主として、多孔状焼結体51について説明する。
即ち、図1に示すように、水素ガス除去装置Eを備えた二重効用の吸収式冷凍機は、第1実施形態と同様の構成であり、図2に示すように、水素ガス除去装置Eは、貯留タンク42に第1実施形態と同様の構成にて取り付けてある。
【0076】
この第2実施形態では、前記多孔状焼結体51は、第1実施形態と同様に、金属酸化物に対する補強材Oxの重量比率を2〜20%の範囲に設定して形成するが、図4に示すように、補強材Oxを、金属酸化物と同じ金属(この実施形態では銅)にて形成された網状体59にて構成し、その網状体59のメッシュサイズを10〜100メッシュの範囲に、その網状体59を形成する線材の径を0.01〜1mmの範囲にそれぞれ設定してある。
【0077】
前記多孔状焼結体51の製作方法について説明を加えると、この多孔状焼結体51は、第1実施形態と同様に、金属酸化物(この実施形態では酸化第2銅)の粉末、補強材R(この実施形態では網状体59)、及び、前記金属酸化物よりも沸点が低いバインダー(この実施形態ではポリビニールアルコール)の混合物をそのバインダーの沸点よりも高温に加熱して金属酸化物の粉末を補強材Rにて補強される状態で多孔状に焼結させて形成する。ちなみに、この実施形態では、図4に示すように、複数の網状体59を間隔を開けて並べた状態で、多孔状焼結体51中に存在させるようにしてある。
【0078】
更に説明を加えると、第1実施形態と同様に、金属酸化物、補強材R及びバインダーの混合物を、極力大きい形状に成形して、多孔状焼結体51を極力大きく形成するようにして、酸化部収容孔53aに収容する多孔状焼結体51の個数を極力少なくする(例えば、2〜5個程度)ようにしてある。
【0079】
前記多孔状焼結体51の製作条件、即ち、金属酸化物の粉末の粒径、補強材Rの量(金属酸化物に対する重量比率)、バインダーの量(金属酸化物に値する重量比率)、金属酸化物の粉末、補強材R及びバインダーの混合物の成形圧力、焼成温度、並びに、焼成時間夫々は、上記の第1実施形態において説明したのと同様の範囲内で所定の値に設定する。
【0080】
又、第1実施形態と同様に、バインダーの量は、例えば、多孔状焼結体51の密度を4.0〜6.0g/cm3の範囲内の所定に設定したり、多孔状焼結体51の平均細孔半径を300〜3000nmの範囲内の所定の値に設定するように、上記の範囲内で所定の値に設定する。
【0081】
次に、補強材Rを前記網状体59にて構成することにより、補強材Rを上記の第1実施形態の複数の線材58の如き互いに分離状態の多数の部材にて構成する場合に比べて、酸化部Oxにおける熱伝導を一層促進できることを検証した結果を説明する。
【0082】
この検証試験では、補強材Rとして、0.05mmの径の線材にて100メッシュに形成した網状体59を用いた。
金属酸化物に対する補強材Rの重量比率が20%の場合、補強材Rとして網状体59を用いた場合、前記昇温所要時間は3時間であり、補強材Rとして互いに分離状態の多数の線材58を用いた場合、前記昇温所要時間は、上記の第1実施形態において説明したように4時間である。
つまり、補強材Rを前記網状体59にて構成することにより、補強材Rを互いに分離状態の多数の部材にて構成する場合に比べて、酸化部Oxにおける熱伝導を一層促進できることを検証できた。
【0083】
〔別実施形態〕
次に別実施形態を説明する。
(イ) 水素ガス除去装置Eの設置箇所は、上記の各実施形態において例示した貯留タンク42に限定されるものではない。
例えば、図5に示すように、上記の各実施形態において設置した吸引部41及び貯留タンク42を省略して、水素ガス除去装置Eを分離器26に設けたり、図6に示すように、更に、分離器26を省略して、高温再生器3の気相部に設けても良い。
これらの場合、前記吸引部41及び貯留タンク4を省略することができるので、構造を簡略化して低廉化を図ることが可能となる。
水素ガス除去装置Eを高温再生器3に設ける場合、図6に示すように、高温再生器3の気相部に設けられる内装分離具26aよりも冷媒蒸気通流方向における下流側の部分に設けるのが望ましい。
又、水素ガス除去装置Eを分離器26や高温再生器3に設ける場合、上記の各実施形態と同様に、水素ガス除去装置E(具体的には装着ブロック53)をそれが器壁の一部を形成する状態にして分離器26や高温再生器3の器壁に対し着脱自在に連結固定する構造、及び、水素ガス除去装置Eを分離器26や高温再生器3の器壁に取り付けた状態において電気ヒータ52を分離器26や高温再生器3の気密性を破ることなく分離器26や高温再生器3の外部から取り外し可能な構造にするのが望ましい。
【0084】
又、例えば、上記の各実施形態において、水素ガス除去装置Eを貯留タンク42に加えて、分離器26や高温再生器3に設ける等、水素ガス除去装置Eを複数箇所に設けても良い。
【0085】
(ロ) 補強材Rの具体例としては、上記の各実施形態において例示した金属酸化物と同じ金属の線材58や、金属酸化物と同じ金属にて形成された網状体59に限定されるものではない。
例えば、金属酸化物とは異なる金属の線材や網状体にて構成しても良い。
又、複数の粒状体にて構成しても良い。
又、線材を螺旋状に成形した螺旋状体、線材を渦巻状に成形した渦巻体、線材を三次元の格子状に編んだ立体格子体にて構成しても良い。
【0086】
又、補強材Rを前記網状体59にて構成する場合、上記の第2実施形態においては、複数の網状体59を間隔を開けて並べた状態で多孔状焼結体51中に存在させるようにしたが、多網状体59を螺旋状に巻いた状態で多孔状焼結体51中に存在させるようにしても良い。
【0087】
(ハ) 多孔状焼結体51の製作方法は、上記の各実施形態において例示した方法、即ち、金属酸化物の粉末、補強材R及びバインダーの混合物をそのバインダーの沸点よりも高温に加熱する方法に限定されるものではなく、種々の方法が可能である。
例えば、金属の粉末、補強材R及びバインダーの混合物をバインダーの沸点よりも高温に加熱して、その加熱過程で金属を酸化させながら焼結させる方法、あるいは、金属の粉末、補強材R及びバインダーの混合物をバインダーの沸点よりも高温に加熱して金属の粉末を焼結させて、その焼結後に金属を酸化させる方法が可能である。
【0088】
(ニ) 上記の各実施形態では、前記酸化部Oxを複数個の多孔状焼結体51にて構成する場合について例示したが、酸化部Oxを1個の多孔状焼結体51にて構成しても良い。この場合は、金属酸化物、補強材R及びバインダーの混合物を、酸化部収容孔53aよりもやや小さい形状に加圧成形して、それを加熱することにより、多孔状焼結体51を酸化部収容孔53aに収容可能な形状に形成するようにして、酸化部Oxを1個の多孔状焼結体51にて構成する。
【0089】
(ホ) 酸化部Oxとしての多孔状焼結体51を加熱する加熱手段の具体構成としては、上記の各実施形態において例示した電気ヒータ52を熱源とする構成に限定されるものではなく、例えば、高温再生器3のガスバーナ25の燃焼排ガスを熱源とする構成等、種々の構成が可能である。
【0090】
(ヘ) 多孔状焼結体51を形成する金属酸化物としては、上記の各実施形態において例示した酸化第2銅に限定されるものではなく、一酸化ニッケル(NiO)、一酸化コバルト(CoO)、酸化クロム、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化鉛、酸化マンガン、酸化アルミ等、還元反応により水素ガスを酸化させて凝縮可能な状態にし得るものであれば、どのような金属酸化物でも良い。
尚、多孔状焼結体51を形成する金属酸化物として、一酸化ニッケルを用いる場合、その一酸化ニッケルの多孔状焼結体51の密度は、5.0〜6.5g/cm3の範囲が好ましく、又、多孔状焼結体51を形成する金属酸化物として、一酸化コバルトを用いる場合、その一酸化コバルトの多孔状焼結体の密度は、4.0〜6.2g/cm3の範囲が好ましい。
又、多孔状焼結体51を形成するために金属酸化物の粉末に混合させるバインダーとしては、上記の各実施形態において例示したポリビニールアルコールに限定されるものではなく、例えば、サリチル酸、樟脳(C1016O、二環式飽和テルペンケトン)、ステアリン酸等の金属塩を用いることが可能である。
【0091】
(ト) 水素ガス除去対象装置の具体例は、上記の実施形態において例示した如き二重効用の吸収式冷凍機に限定されるものではない。
例えば、水素ガス除去対象装置を吸収式冷凍機とする場合、上記の実施形態の如き二重効用のもの以外に、単効用や三重効用のものでも良い。又、冷媒と吸収剤の組み合わせは、上記の実施形態の如き水と臭化リチウムの組み合わせ以外に、アンモニアと水の組み合わせ等、種々の冷媒と吸収剤の組み合わせのものが可能である。
又、吸収式冷凍機以外に、装置内にて水素ガスを発生する種々の装置を本発明の水素ガス除去装置による水素ガス除去対象とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】第1及び第2実施形態に係る水素ガス除去装置を備えた吸収式冷凍機の構成図
【図2】第1及び第2実施形態に係る水素ガス除去装置及びその取り付け構造を示す縦断面図
【図3】第1実施形態に係る水素ガス除去装置の酸化部の一部切り欠き図
【図4】第2実施形態に係る水素ガス除去装置の酸化部の一部切り欠き図
【図5】別実施形態に係る水素ガス除去装置を備えた吸収式冷凍機の構成図
【図6】別実施形態に係る水素ガス除去装置を備えた吸収式冷凍機の構成図
【符号の説明】
【0093】
51 多孔状焼結体
58 線材
59 網状体
Ox 酸化部
R 補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス除去対象装置の装置内にて発生する水素ガスを金属酸化物を含む酸化部にて酸化して除去するように構成された水素ガス除去装置であって、
前記酸化部が、補強材にて補強される状態の金属酸化物の多孔状焼結体にて構成されている水素ガス除去装置。
【請求項2】
前記多孔状焼結体が、金属酸化物の粉末、前記補強材及び前記金属酸化物よりも沸点が低いバインダーの混合物をそのバインダーの沸点よりも高温に加熱して前記金属酸化物の粉末を前記補強材にて補強される状態で焼結させて形成される請求項1記載の水素ガス除去装置。
【請求項3】
前記金属酸化物に対する前記補強材の重量比率が2〜20%である請求項1又は2記載の水素ガス除去装置。
【請求項4】
前記補強材が、前記金属酸化物と同じ金属の線材にて構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素ガス除去装置。
【請求項5】
前記線材の径が0.01〜1mmの範囲であり、長さが0.5〜8mmの範囲である請求項4記載の水素ガス除去装置。
【請求項6】
前記補強材が、前記金属酸化物と同じ金属にて形成された網状体にて構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素ガス除去装置。
【請求項7】
前記網状体が10〜100メッシュであり、その網状体を形成する線材の径が0.01〜1mmの範囲である請求項6記載の水素ガス除去装置。
【請求項8】
前記金属酸化物が酸化第2銅(CuO)である請求項1〜7のいずれか1項に記載の水素ガス除去装置。
【請求項9】
前記水素ガス除去対象装置が吸収式冷凍機である請求項1〜8のいずれか1項に記載の水素ガス除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−138498(P2006−138498A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326362(P2004−326362)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】