説明

水素センサ

【解決手段】水素センサは、膜(14)によって閉じられたハウジング(10)を備えており、膜(14)はパラジウムで形成されており、水素のみを選択的に透過させる。ハウジング(10)は排気され、ピラニ圧力センサ(22)を有している。膜(14)及びピラニ圧力センサ(22)は夫々担体(11,12)に取り付けられている。両方の担体(11,12) は、互いに隣接して直接連結されているか、又は連結部分(25)によって距離を隔てて維持されている。水素センサは、比較的大きな膜表面とハウジングの小さな容積とにより高感度であり応答時間が短い。水素センサは、小型に構成されることができ、吸込み式漏れ検出器の操作部に一体化され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムの膜によって閉じられた気密なハウジングを備えた水素センサに関しており、圧力センサを含んでいる。
【背景技術】
【0002】
このような水素センサは、国際公開第2006/008253号パンフレット(インフィコン(Inficon ))に述べられている。水素センサは膜を備えており、膜は、水素に対して選択的な透過性を有し、気密なハウジングを閉じている。ハウジングはペニング圧力センサを収容しており、ペニング圧力センサは2つの平行な陰極板を有し、2つの陰極板間に陽極リングが配置されている。電圧源が、陰極板と陽極リングとの間に印加される直流電圧を供給する。ペニングタイプの放電に必要な磁場が、閉じたハウジングの外側に設けられた永久磁石によって生成される。水素を吸い込み、水素分圧を下げるゲッターポンプがハウジングに連結されている。ハウジングの検出室が、絞り通路を通ってゲッターポンプに連結されている。大気からの水素が、水素に選択的な透過性を有する膜を通って検出室に入ると、検出室内の圧力が上昇する。水素が絞り通路により遅れてゲッターポンプに達するので、検出室内の圧力が上昇する。この圧力上昇が、圧力センサによって検出され、水素の侵入として評価される。定常状態の条件下でも、検出室内の分圧は、周囲の分圧より低い。
【0003】
独国特許出願公開第10031882号明細書(レイボルド(Leybold ))では、ヘリウム又は水素のためのセンサが述べられており、センサは、検出されるべき気体に選択的に作用する通路を有する真空気密なハウジングを備えている。ハウジングはガラスで形成されており、選択的に作用する通路は、シリコン材料で形成された膜であり、膜上に、開口部を有するシリコンディスクと加熱要素とが配置されている。ハウジングはペニングセンサを保持している。ハウジングは真空ポンプに連結されていない。ペニングセンサのペニングタイプの放電が、ゲッターポンプとしても機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/008253号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
真空科学技術雑誌(J. Vac. Sci. Technol.),A 26(3) ,米国真空学会(the American Vacuum Society)の2008年5月/6月,352 −359頁には、カール・ジョーストン(Karl Jousten)氏による「ピラニ真空計の気体種依存性に関して」(On the gas species dependence of Pirani vacuum gauges)という表題の論文が発表されており、ピラニ圧力センサの原理について述べている。ピラニ圧力センサは、気体の熱伝導率を測定し、測定された熱伝導率から圧力を決定する装置である。この装置では、熱伝導率が圧力に比例するという事実が利用されている。加熱要素から周囲ガスを通って、温度が略一定である筐体への熱伝達が測定される。加熱要素は、温度の維持に必要な加熱量が測定されるように動作するホイートストンブリッジの一部である。他のピラニ圧力センサでは、加熱量は一定に維持されており、加熱要素の抵抗又は温度が圧力の指標として測定される。ピラニ圧力センサは、気体に応じて変わる修正係数を、信号を評価するときに考慮する必要があるので、夫々の気体に関して適切に較正される必要がある。
【0006】
本発明は、水素に対して高感度であり反応時間が短く小型に製造され得る水素センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
水素センサは、請求項1に定義されている。水素センサは、排気され気密なポンプ無しのハウジングを備えている。これは、ハウジングがポンプ、例えばゲッターポンプに連結されていないことを意味する。ハウジングは、水素にのみ選択的に透過性を有するパラジウム膜により閉じられている。このため、周囲雰囲気中の水素の分圧と等しい全圧力がハウジングに生じる。
【0008】
特には、パラジウム膜が第1の担体上に配置されており、気体非消費式圧力センサが第2の担体上に配置されている。第1の担体及び第2の担体の両方が直接連結されているか、又はガラス管により距離を隔てて維持されている。パラジウム膜及びピラニ圧力センサの両方が加熱要素を有するが、ピラニ圧力センサの加熱要素からの熱伝達がパラジウム膜の加熱要素によって妨げられないように、パラジウム膜及びピラニ圧力センサは互いから熱的に切り離されている。パラジウム膜は一定の温度に加熱され、パラジウム膜の加熱によってハウジング内で生じる熱的作用が一定であることを考慮すべきである。
【0009】
本発明によれば、気体を消費しない圧力センサが使用されている。このような圧力センサには、熱伝導真空計及びキャパシタンスゲージが含まれる。ピラニ圧力センサは熱伝導真空計である。このような圧力センサには、1つの伝導体から周囲ガスを通って別の伝導体までの熱伝導を測定する計器が更に含まれる。熱伝導はガス圧力によって決まる。キャパシタンスゲージは膜を備えており、膜にガス圧力が一側から作用する。膜はコンデンサの一部であり、コンデンサの静電容量が圧力の関数として変化する。静電容量の変化が電気的に測定される。キャパシタンスゲージとは対照的に、ペニング圧力センサは気体消費式である。全てのイオン化センサは気体消費式センサに属する。
【0010】
ピラニ真空計のような熱伝導真空計は、高感度且つ小型であるという利点を有する。ポンプ機能、つまり吸込性能がハウジング内で作用しない。同一の水素(H2)分圧が、センサの周囲のようにハウジングの内部で生じる。センサの時定数τ、つまり63%の圧力均等化までの時間が、容積と膜のコンダクタンス値との比率によって主に決定される。
τ = 容積/コンダクタンス値
【0011】
大気圧で水素濃度cが1ppm であるとき、水素分圧pH2は1・10-3mbarである。この水素分圧は、市販のピラニセンサによって確実に検出され得る。エムケーエス(MKS )社のマイクロピラニ(MikroPirani )では、10-4mbar未満の全圧力が検出され得る。より高いピラニフィラメント温度が、感度の更なる向上を可能にする。
【0012】
本発明の利点は、高感度、短い時定数、水素以外の他の気体への交差感度の回避、及び耐用寿命である。更なる重要な利点は小型の点にあり、小型により、吸込み式漏れ検出器の操作部への水素センサの一体化が可能になる。このような吸込み式漏れ検出器は、単に大気を吸い込むべく気体を運ぶ装置を必要とするだけであり、試験ガス分析のための真空ポンプを必要としない。水素センサは大気圧下で動作する。
【0013】
本発明の水素センサでは、吸込性能無しで、ハウジング内の水素(H2)分圧は周囲の分圧と等しい。センサの時定数は、以下の式(1)に示されているように、センサセルの内部容積V とパラジウム膜の水素コンダクタンス値Lmembraneとの比率から与えられる。
τ63 = V/Lmembrane (1)
【0014】
吸込量Sがセンサの内部に存在する場合、センサ内の分圧p0に対する周囲の分圧p1の比率は、以下の通りになる。
P1/P0 = S/L+1 (2)
ここで、Lは膜のコンダクタンス値である。
【0015】
この場合、センサの時定数は、センサセルの内部容積V と吸込量Sとの比率から与えられる。
τ63 = V/S (3)
【0016】
センサ内の吸込性能は、センサの時定数が1秒という限度を超えることなく多少大きなセンサ容積を可能にする。しかしながら、この場合、ピラニシステムが十分な精度で圧力を検出することができないので、センサ内の水素分圧は下げられる(式(2)参照)。
【0017】
本発明によれば、1秒未満のセンサの時定数が、センサ内の吸込性能無しで約1cm3 のセンサ容積に関して達成される。このようなシステムでは、全圧力はマイクロメカニカルピラニシステムを用いて測定され得る。1000mbarの周囲圧力で1ppm の水素を検出するためにセンサ内のピラニシステムの感度は十分である。ピラニシステムによる検出の気体種への依存性は、水素の場合、検出感度に確実な効果をもたらす。
【0018】
熱伝導真空計では、水素は窒素より更に感度良く検出され得る。水素の熱伝導係数は窒素N2の熱伝導係数より7.2 倍高い。更に、加熱フィラメントが、純粋な水素雰囲気中でより高い温度で作動されることができ、それにより、検出限界も好ましい影響を受ける。
【0019】
ハウジングの選択的に水素に透過性を有する壁はパラジウムの材料で形成されており、パラジウムには、水素と水素の同位体(H2,D2,T2,HD,HT及びDT)にのみ透過性を有するという作用がある。他の全ての成分については、透過性は無視し得るほど低い。従って、水素は他の気体から分離され得る。パラジウム膜は、シリコンの担体上に設けられ、シリコンの担体と共にパラジウム膜のチップを形成している。チップの実際的な実施形態では、パラジウム膜は、300 ℃で9.6 乃至1.7 cm3/s の範囲内で高い水素コンダクタンス値を有する。シリコンの担体は、薄いパラジウム膜が大気圧に耐え得るようにパラジウム膜を支持する機能を有する。パラジウム膜の厚さは、5μm 未満であり、特には2μm 未満であることが好ましい。パラジウム膜を支持する第1の担体は、幅が200 μmである複数の開口部、つまり複数の窓を有しており、1000mbarを超える全差圧P を耐えることが可能である。
【0020】
多孔質シリコンが担体の材料として使用されている場合、非常に薄い膜厚が可能である。膜のコンダクタンス値は膜の厚さに反比例する。しかしながら、鋼又はパラジウムのような担体の他の材料が可能である。
【0021】
面積が1.5 cm2 であり厚さが1μm であるパラジウム(Pd)膜によって閉じられた1cm3 の容積では、周囲の水素分圧が、時定数τが1秒である状態で生じる。より小さなセンサ容積及び/又はより薄いパラジウム(Pd)膜の表面では、更に短い時定数が達成され得る。このため、漏れ検出器に気体調整技術を使用する可能性が更に提示される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る水素センサの実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を、唯一の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【0024】
水素センサは気密なハウジング10を備えており、ハウジング10は、一端部がシリコンで形成された第1の担体11によって閉じられており、反対側の端部がシリコンで形成された第2の担体12によって閉じられている。第1の担体11及び第2の担体12はハウジング10の端壁を形成している。ハウジング10のガス容積は、可能な限り小さい。
【0025】
第1の担体11はシリコン材料で形成された板であり、板の厚さは、板が大気圧に耐えることができるほど十分大きい。第1の担体11は、多数の開口部13を有している。これらの開口部13は貫通穴である。パラジウムの膜14が、第1の担体11の外側に設けられている。膜14は、約1μmの厚さの薄膜である。
【0026】
ハウジング10の内側に、第1の担体11は、突出する周縁部16に囲まれた凹部15を有している。膜14は直流電流によって加熱されてもよく、又は、追加の加熱層を有してもよい。別の可能性によれば、第1の担体11がオーム加熱器として使用されるか、又は膜14が放射加熱器を使用して加熱される。本実施形態では、加熱電流用の電流コネクタ17,18 が膜14に設けられている。
【0027】
第2の担体12もシリコンで形成されている。第2の担体12は、ハウジング10の内部に面する側に凹部20を有しており、凹部20は周縁部21に囲まれている。ピラニ圧力センサ22が、端壁の内側で凹部20に固定されている。ピラニ圧力センサ22は、例えばホイートストンブリッジを形成するフィラメントから構成されている。加熱要素がピラニ圧力センサ22上に形成されており、加熱要素の熱が膜14を通過する水素によって運ばれる。ピラニ圧力センサ22の構造及び機能に関して、真空科学技術雑誌(J. Vac. Sci. Technol.),A26(3) ,米国真空学会(the American Vacuum Society)の2008年5月/6月,352 −359頁参照。
【0028】
第1の担体11及び第2の担体12は、互いに直接連結されてもよい。それにより、最小限度の可能な密閉された容積が達成される。このため、センサの非常に速い反応が可能になる。50nm3 の容積では、50ミリ秒のセンサの時定数が達成され得る。夫々の担体への膜及びピラニフィラメントの連結は、シリコンが使用される場合、接着法を使用して行われ得る。しかしながら、十分な耐熱性を有する接着剤が使用されてもよい。
【0029】
加熱された膜14の温度がピラニ圧力センサ22の動作にほとんど影響を及ぼさないようにするために、第1の担体11及び第2の担体12は、本例ではガラス管である連結部分25によって離隔配置されている。連結部分25は長尺状であり、断面が小さく長手方向の通路26を有している。通路26の断面積は、膜14の表面積の多くとも5分の1である。このため、センサの反応時間が短くなるようにハウジング10の容積が小さく維持される。
【0030】
ハウジング10内の空気が、センサの製造中に排出される。センサが使用されるとき、大気からの水素が膜14を透過することができ、それにより、ハウジング10の外側の水素分圧と等しい全圧力がハウジング10内で生じる。この圧力は、ピラニ圧力センサ22によって測定される。
【0031】
据付の主装置と主装置に対して移動可能な操作部とを備えており、吸込み先端部が操作部に設けられている吸込み式漏れ検出器に、水素センサは特に適している。水素センサは、吸込み式漏れ検出器の操作部に一体化され得るほど小型に構成されている。気体の流れが30sccmであり、試験ガスとして5%の水素(H2)を構成するガスを使用する場合、5・10-6mbar・l/s の漏れ速度が、5・10-4mbarの分圧検出限界で検出され得る。
【0032】
吸込み式漏れ検出器への適用では、空気中の約0.5 ppm の水素割合が、信号検出に確実な効果をもたらす。このため、5・10-4mbarの水素分圧オフセットが常時測定される。ピラニ圧力センサの特性により、5・10-4mbar未満の圧力変化が検出され得るように、一定の圧力オフセットでより高い信号分解能が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム膜(14)によって閉じられポンプ無しの気密なハウジング(10)を備えており、
前記パラジウム膜(14)は、複数の開口部(13)を有する第1の担体(11)上に配置されており、
第2の担体(12)を有する気体非消費式圧力センサ(22)を更に備えており、
前記第1の担体(11)及び第2の担体(12)は、互いに直接連結されているか、又は連結部分(25)によって離隔配置されていることを特徴とする水素センサ。
【請求項2】
前記パラジウム膜(14)の厚さは5μm 未満であることを特徴とする請求項1に記載の水素センサ。
【請求項3】
前記パラジウム膜(14)の実効表面積は少なくとも1.5 cm2 であり、
前記連結部分(25)は、断面が前記パラジウム膜(14)の実効表面積の多くとも5分の1である通路(26)を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素センサ。
【請求項4】
前記第1の担体(11)及び/又は第2の担体(12)は、多孔質シリコンで形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水素センサ。
【請求項5】
前記水素センサは吸込み式漏れ検出器の操作部に一体化されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水素センサ。
【請求項6】
前記気体非消費式圧力センサ(22)は熱伝導式圧力センサであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水素センサ。
【請求項7】
前記熱伝導式圧力センサはピラニ圧力センサであることを特徴とする請求項6に記載の水素センサ。
【請求項8】
前記気体非消費式圧力センサはキャパシタンスマノメータであることを特徴とする請求項1に記載の水素センサ。

【図1】
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【公表番号】特表2012−530914(P2012−530914A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516634(P2012−516634)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058308
【国際公開番号】WO2010/149519
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(500469855)インフィコン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (43)
【氏名又は名称原語表記】Inficon GmbH
【住所又は居所原語表記】Bonner Strasse 498, D−50968 Koeln, Germany