説明

水素吸収磁気冷凍材料の製造方法

【課題】 水素を良好に吸収させることができる水素吸収磁気冷凍材料の製造方法を提案する。
【解決手段】 水素を含浸させることでキュリー温度が変化する磁気冷凍材料反応室に入れて300℃、大気圧水素雰囲気下で1時間熱処理し、続いて、300℃、真空雰囲気下で3時間熱処理した。3時間経過後、徐々に温度を低下させ、磁気冷凍材料の熱処理温度を続く本アニール処理の温度である280℃まで下げた。次に、磁気冷凍材料の熱処理温度を280℃としたまま、真空雰囲気から大気圧水素雰囲気に変更し、1時間熱処理した。その後、徐々に温度を低下させ、室温まで雰囲気温度を下げた。以上の工程により、磁気冷凍材料に水素を吸収させた水素吸収磁気冷凍材料を製造した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を吸収させてキュリー温度を変化させた水素吸収磁気冷凍材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境配慮型の冷凍技術として、クリーンでエネルギー効率の高い磁気冷凍技術の研究が進められている。磁気冷凍は磁性体である磁気冷凍材料に外部から磁場を加えて磁気熱量効果を発現させるものであり、磁気熱量効果を示す温度は磁気冷凍材料の材質によって異なる。磁気冷凍を効果的に行うためには、磁気熱量効果を示す温度を調整することが望まれる。
【0003】
磁気冷凍材料としてLa(Fe,Si)13系材料が高い磁気熱量効果を示すことが知られている。また上記磁気冷凍材料は水素を吸収させることでキュリー温度が変化し、磁気熱量効果を室温で示すことも知られている。例えば、加圧水素雰囲気下で100〜300℃の温度で熱処理を施すことで、水素を吸収させる水素吸収反応プロセスが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−96547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の水素吸収反応プロセスでは、磁気冷凍材料に吸収できる水素量が不足して、キュリー温度を目的とする温度まで上げることが困難であったり、磁気冷凍材料の内部まで水素を均一に吸収させることが難しく、キュリー温度にばらつきが生じたりするという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、水素を良好に吸収させることができる水素吸収磁気冷凍材料の製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、水素吸収磁気冷凍材料の製造方法であって、まず、第1熱処理工程として、水素を吸収させることでキュリー温度が変化する磁気冷凍材料を、水素雰囲気下にて第1の温度で熱処理して水素を吸収させる。次に、第2熱処理工程として、磁気冷凍材料を減圧雰囲気下または不活性ガス雰囲気下にて熱処理して水素を脱離させる。そして、第3熱処理工程として、磁気冷凍材料を水素雰囲気下にて上記第1の温度よりも低い第2の温度で熱処理して水素を吸収させることを特徴とする。なお、水素吸収磁気冷凍材料とは、水素雰囲気での熱処理によって水素を吸収させてなる磁気冷凍材料のことを指す。
【0008】
このような水素吸収磁気冷凍材料の製造方法では、磁気冷凍材料に多くの水素を吸収させることができる。従って、キュリー温度が高い磁気冷凍材料の製造が可能となる。
また、上記製造方法では磁気冷凍材料に対して水素が高い均一性で吸収されるので、品質(キュリー温度)のばらつきを小さくすることができる。
【0009】
このように、上記製造方法では水素を磁気冷凍材料に良好に吸収させることができる。
なお上述した効果が得られる理由は明らかではないが、一度水素吸収の処理を行うことで磁気冷凍材料内の水素拡散の障壁が小さくなり、その結果従来の水素吸収反応プロセスよりも水素を吸収しやすくなるためであると考えられる。
【0010】
磁気冷凍材料としては、請求項2に記載されているように、NaZn13結晶構造を主相とするLa(FeSi)13系材料を用いることができる。この磁気冷凍材料を用いる場合、請求項3に記載のように、第1の温度を270〜300℃としてもよい。また、請求項4に記載のように、第2熱処理工程における熱処理を270〜300℃で行ってもよい。
【0011】
第2熱処理工程は上述したように、減圧雰囲気下または不活性ガス雰囲気下にて熱処理する工程である。もちろん減圧雰囲気かつ不活性ガス雰囲気下にて熱処理を行ってもよい。また、請求項5のように、10Pa以下の真空中で熱処理を行ってもよい。真空中で熱処理を行うことで、水素の脱離を促進させることができる。なお真空度は非常に高くしてもよく、例えば10-5Pa以下の超高真空であってもよい。
【0012】
第2熱処理工程は、請求項6に記載のように、所定の温度で磁気冷凍材料を所定時間熱処理した後、さらに、温度を徐々に低下させながら熱処理する工程としてもよい。低下させる温度は第2の温度、即ち第3熱処理工程における熱処理温度までとしてもよい。その場合にはその温度まで低下した後に第3熱処理工程を行うことができる。また低下させる温度は室温でもよい。その場合、前アニール処理後に取り出して磁気冷凍材料の状態を確認できるため、状態のよいものだけを選んで本アニール処理を行うことができる。
【0013】
第3熱処理工程は、請求項7に記載のように、第1熱処理工程および第2熱処理工程を複数回繰り返した後に行うこととしても良い。第1熱処理工程および第2熱処理工程を複数回繰り返すことで、より良好に水素を磁気冷凍材料に吸収させることができるようになる。
【0014】
また、上述した問題を解決するためになされた請求項8に記載の発明は、水素吸収磁気冷凍材料の製造方法であって、水素を吸収させることでキュリー温度が変化する磁気冷凍材料を、水素雰囲気下にて第1の温度で熱処理して水素を吸収させる第1工程と、水素雰囲気下にて第1の温度よりも低い第2の温度へ徐々に低下させながら熱処理する第2工程と、水素雰囲気下にて第2の温度で熱処理する第3工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
このような水素吸収磁気冷凍材料の製造方法では、磁気冷凍材料に多くの水素を吸収させることができる。従って、キュリー温度が高い磁気冷凍材料の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の熱処理温度(アニール処理温度)と処理時間(アニール処理時間)との関係を表す図である。
【図2】実施例7の熱処理温度(アニール処理温度)と処理時間(アニール処理時間)との関係を表す図である。
【図3】実施例11の熱処理温度(アニール温度)と処理時間(アニール処理時間)との関係を示す図である。
【図4】熱処理温度(アニール温度)とキュリー温度との関係を示すグラフである。
【図5】実施例11〜13の熱処理温度(アニール処理温度)とキュリー温度との関係を示すグラフである。
【図6】変形例の熱処理温度(アニール処理温度)と処理時間(アニール処理時間)との関係を表す図である。
【図7】従来の熱処理温度(アニール処理温度)と処理時間(アニール処理時間)との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
<水素を吸収させた磁気冷凍材料の製造>
[実施例1]
本実施例では、磁気冷凍材料として、NaZn13結晶構造を主相とするLa(FeSi)13系材料を用いた。この磁気冷凍材料は、水素を吸収させることでキュリー温度が変化し、磁気冷凍材料の動作温度(磁気熱量効果を示す温度)が変化する。当該磁気冷凍材料に、以下の工程によって水素を吸収させた。
【0018】
本実施例における磁気冷凍材料の熱処理温度(アニール処理温度)と熱処理時間(アニール処理時間)との関係を表す図を図1に示す。本実施例では、2回のアニール処理(前アニール処理、本アニール処理)を行う。前アニール処理とは本アニール処理によって水素を吸収させ易くするための前処理であり、本アニール処理によって目的とする水素吸収を行う。図1において、実線で示される部分は水素を吸収するプロセスであり、破線で示される部分は水素を脱離するプロセスである。
【0019】
(1)前アニール処理
(1.1)第1熱処理工程
まず、上記磁気冷凍材料を反応室に入れて300℃、大気圧水素雰囲気下で1時間熱処理した。この処理により、磁気冷凍材料に水素を吸収させた。
【0020】
(1.2)第2熱処理工程
続いて反応室内を真空とし、300℃、真空雰囲気下で1時間熱処理した。真空度は5×10-1Paとした。1時間経過後、徐々に温度を低下させ、磁気冷凍材料の熱処理温度を続く本アニール処理の温度である280℃まで下げた。この処理により磁気冷凍材料から水素を脱離させた。
【0021】
(2)本アニール処理(第3熱処理工程)
次に、磁気冷凍材料の熱処理温度を280℃としたまま、反応室内を真空雰囲気から大気圧水素雰囲気に変更し、1時間熱処理した。その後、徐々に温度を低下させ、室温(20℃)まで雰囲気温度を下げた。この処理により、再度水素を磁気冷凍材料に吸収させた。
【0022】
以上の工程により、磁気冷凍材料に水素を吸収させた水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
[実施例2]
本アニール処理における熱処理温度を270℃とした点以外は実施例1と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0023】
[実施例3]
本アニール処理における熱処理温度を250℃とした点以外は実施例1と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0024】
[実施例4]
本アニール処理における熱処理温度を240℃とした点以外は実施例1と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0025】
[実施例5]
前アニール処理の第1熱処理工程および第2熱処理工程における熱処理温度を280℃とし、第3熱処理工程(本アニール処理)における熱処理温度を260℃とした点以外は実施例1と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0026】
[実施例6]
前アニール処理の第1熱処理工程および第2熱処理工程における熱処理温度を270℃とし、第3熱処理工程(本アニール処理)における熱処理温度を250℃とした点以外は実施例1と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0027】
[実施例7]
本実施例では、実施例1と同様の磁気冷凍材料に水素を吸収させた。
本実施例における磁気冷凍材料の熱処理温度(アニール処理温度)と熱処理時間(アニール処理時間)との関係を表す図を図2に示す。
【0028】
(1)前アニール処理
(1.1)第1熱処理工程
まず、実施例1と同様に、磁気冷凍材料を反応室内で300℃、大気圧水素雰囲気下で1時間加熱した。
【0029】
(1.2)第2熱処理工程
続いて反応室内を真空とし、300℃、真空雰囲気下で1時間熱処理した。真空度は5×10-1Paとした。1時間経過後、徐々に温度を低下させ、室温(20℃)まで雰囲気温度を下げた。この処理により、水素を吸収させた磁気冷凍材料から水素を脱離させた。
【0030】
(2)本アニール処理(第3熱処理工程)
次に、磁気冷凍材料を280℃、大気圧水素雰囲気下で1時間熱処理した。その後、徐々に温度を低下させ、室温(20℃)まで雰囲気温度を下げた。この処理により、再度水素を磁気冷凍材料に吸収させた。
【0031】
以上の工程により、水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
[実施例8]
本アニール処理における熱処理温度を270℃とした点以外は実施例7と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0032】
[実施例9]
本アニール処理における熱処理温度を250℃とした点以外は実施例7と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0033】
[実施例10]
本アニール処理における熱処理温度を240℃とした点以外は実施例7と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0034】
[実施例11]
本実施例では、実施例1の第2熱処理工程のような真空雰囲気下での水素脱離の工程を行わずに、さらに水素を吸収させた。本実施例における磁気冷凍材料の熱処理温度(アニール処理温度)と熱処理時間(アニール処理時間)との関係を表す図を図3に示す。
【0035】
(1)前アニール処理
本実施例ではまず、実施例1と同様に、磁気冷凍材料を反応室内で300℃、大気圧水素雰囲気下で1時間加熱した。
【0036】
続いて、反応室内の温度を300℃から0.6℃毎分の温度勾配で低下させ、2時間かけて本アニール処理温度である228℃まで低下させた。これらの処理により、さらに水素を吸収させた。
【0037】
(2)本アニール処理
次に、磁気冷凍材料を228℃、大気圧水素雰囲気下で0.1時間熱処理をした。その後、徐々に温度を低下させ室温(20℃)まで雰囲気温度を下げた。この処理により、所定の熱処理温度で吸収させる水素を磁気冷凍材料に固定させた。
【0038】
以上の工程により、水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
[実施例12]
本アニール処理における熱処理温度を280℃とした点以外は実施例11と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0039】
[実施例13]
本アニール処理における熱処理温度を267℃とした点以外は実施例11と同様の工程により水素吸収磁気冷凍材料を製造した。
【0040】
<磁気冷凍材料の評価>
実施例1〜4で製造した水素吸収磁気冷凍材料のキュリー温度を測定した。参考例として、実施例1の前アニール処理と同様の処理のみを行った磁気冷凍材料のキュリー温度を測定した。また比較例として、従来法(一定温度で一度アニール処理を行う方法、図7参照)で水素吸収を行った磁気冷凍材料のキュリー温度を測定した。比較例は、300℃、280℃、270℃、250℃、240℃で熱処理を行った。
【0041】
熱処理温度(アニール温度)とキュリー温度との関係を示すグラフを図4に示す。グラフにおけるアニール温度とは本アニール処理(第3熱処理工程)における熱処理温度を示す。また、キュリー温度は水素の吸収量と対応しており、水素の吸収量が多いほどキュリー温度は高くなる。
【0042】
グラフ中、丸形のプロットが実施例1〜4を示し、三角形のプロットが比較例を示し、四角形のプロットが前アニール処理と同様の処理のみを行ったものを示す。また、線Aが実施例1〜4のプロットの傾向を示しており、線Bが比較例のプロットの傾向を示している。
【0043】
図4のグラフから明らかなように、第3熱処理工程において240℃,250℃の熱処理を行った場合(実施例3,4)には、磁気冷凍材料のキュリー温度が好適な範囲まで上昇した。一方、240℃、250℃の熱処理を行った比較例のものはキュリー温度が充分に上昇しなかった。即ち、240〜250℃の範囲においては、比較例よりも非常に良好に水素吸収を行うことができた。
【0044】
なお、図4のグラフには示していないが、第3熱処理工程での熱処理温度を180℃〜260℃の範囲で変化させた場合に、同じ熱処理温度にて従来法で製造した、即ち同じ熱処理温度で1回のみアニール処理をした磁気冷凍材料よりもキュリー温度が上昇した。即ち、180〜260℃の範囲において、比較例よりも非常に良好に水素吸収を行うことができた。
【0045】
また、第3熱処理工程において280℃,270℃の熱処理を行った実施例1,2の磁気冷凍材料は、測定されたキュリー温度は比較例のものと同様の値となった。しかしながら、実施例1,2の手法で製造した磁気冷凍材料は水素が均一的に材料に吸収されており、その結果、磁気冷凍材料全体としてキュリー温度のばらつきが少なく均一化させることができた。一方比較例のものは、磁気冷凍材料の位置によってキュリー温度にばらつきが生じた。
【0046】
なお、図4のグラフには示されていないが、実施例5〜10についても、キュリー温度が図4の線A付近の値となり、良好に水素を吸収させることができた。
なお、別途試験を行い、以下のような結果を得た。
【0047】
第1熱処理工程の熱処理温度を第3熱処理工程よりも高い温度とした場合に、水素の吸収量を増加させたり、水素吸収の均一性を高めることができた。一方、第1熱処理工程の熱処理温度が第3熱処理工程と同じ温度か、それ以下の温度であれば、水素吸収は従来法の場合と同様になった。
【0048】
第1熱処理工程における熱処理温度は、270〜300℃の範囲で良好な結果を得ることができた。
第2熱処理工程も同様に、270〜300℃の範囲で良好な結果を得ることができた。
【0049】
図5に実施例11〜13で水素吸収を行ったときの熱処理温度(アニール温度)とキュリー温度との関係を示した。結果から任意のアニール温度で十分水素が入ったと考えられ、実施例1〜4のプロットと同様の結果となった。
【0050】
[発明の効果]
La(FeSi)13系材料に対して、第1熱処理工程において第3熱処理工程よりも高い温度で水素吸収を行うことで、キュリー温度が高い磁気冷凍材料の製造が可能となる。また第2熱処理工程では真空中で熱処理を行うことで、水素の脱離を促進させることができるため、水素の脱離に必要なエネルギーと時間を抑制できる。
【0051】
また、上記製造方法では磁気冷凍材料における水素の均一性が高くなるため、キュリー温度のばらつきを小さくすることができる。
また、第2熱処理工程では、所定の熱処理温度で磁気冷凍材料を所定時間(1時間)熱処理した後、さらに、温度を徐々に低下させながら熱処理することで、所定の温度で順次水素が吸収されていくため、短い時間で水素の吸収が行える、という効果を奏することができる。
【0052】
また、実施例11〜13のように、水素雰囲気下で前アニール処理として高温(300℃)で熱処理をした後に徐々に温度を低下させ、228〜280℃で本アニール処理を行うことにより、磁気冷凍材料に多くの水素を吸収させることができた。なお、本実施例においては前アニール処理の温度が本アニール処理の温度よりも高くなっていれば、各熱処理温度や温度低下の温度勾配などは様々な条件とすることができる。例えば、本アニール処理の温度は220℃や180℃としてもよい。
【0053】
[変形例]
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0054】
例えば、上記実施例においては、前アニール処理の第1熱処理工程において、300℃、大気圧水素雰囲気下で1時間熱処理する工程を例示したが、この処理は上記条件に限定されず、熱処理温度や時間、雰囲気圧力などを適宜調整して適切な条件とすることができる。
【0055】
また、第2熱処理工程では、第1熱処理工程と同様の300℃で真空雰囲気下にて3時間熱処理する工程を例示したが、この処理も上記条件に限定されず、適宜調整して適切な条件とすることができる。例えば、減圧雰囲気下で熱処理してもよく、不活性ガス雰囲気としたり、不活性ガスの減圧雰囲気としてもよい。なお、真空あるいは減圧雰囲気とすることで、水素脱離の処理を迅速に行うことができ、処理時間の短縮が可能となる。特に、10Pa以下の真空中であると、より顕著に処理時間を短縮することができる。
【0056】
また同様に、第3熱処理工程の処理条件も、磁気冷凍材料が目的とするキュリー温度となるように水素吸収が可能となるように適宜調整することができる。
また、第3熱処理工程(本アニール処理)の前に、前アニール処理(第1熱処理工程および第2熱処理工程)を複数回繰り返し行ってもよい。これにより、水素がより吸収されやすくなり、水素吸収の均一性を高めることができるようになる。
【0057】
また、図6に示すように、前アニール処理の第2熱処理工程において、本アニール処理の熱処理温度よりも低い温度(例えば150℃)まで処理温度を下げた後、本アニール処理の温度(例えば280℃)まで上昇させてもよい。このような製造方法であれば水素吸収速度が遅くなるため、磁気冷凍材料へのダメージを少なくすることができる。
【0058】
第2熱処理工程では、第1熱処理工程と同じ温度にする必要はなく、水素が磁気冷凍材料から脱離する温度であればよい。
また磁気冷凍材料として、実施例とは異なる材質の磁性体を用いてもよい。その場合には、キュリー温度が適切な温度となるように熱処理温度などの処理条件を適宜調整するとよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を吸収させることでキュリー温度が変化する磁気冷凍材料を、水素雰囲気下にて第1の温度で熱処理して水素を吸収させる第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程の後、前記磁気冷凍材料を減圧雰囲気下または不活性ガス雰囲気下にて熱処理して水素を脱離させる第2熱処理工程と、
前記第2熱処理工程の後、前記磁気冷凍材料を水素雰囲気下にて前記第1の温度よりも低い第2の温度で熱処理して水素を吸収させる第3熱処理工程と、を有する
ことを特徴とする水素吸収磁気冷凍材料の製造方法。
【請求項2】
前記磁気冷凍材料として、NaZn13結晶構造を主相とするLa(FeSi)13系材料を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の水素吸収磁気冷凍材料の製造方法。
【請求項3】
前記第1の温度は、270〜300℃である
ことを特徴とする請求項2に記載の水素吸収磁気冷凍材料の製造方法。
【請求項4】
前記第2熱処理工程における熱処理は、270〜300℃で行う
ことを特徴とする請求項3に記載の水素吸収磁気冷凍材料の製造方法。
【請求項5】
前記第2熱処理工程は、10Pa以下の真空中で行う
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水素吸収磁気冷凍材料の製造方法。
【請求項6】
前記第2熱処理工程は、所定の温度で前記磁気冷凍材料を所定時間熱処理した後、さらに、温度を徐々に低下させながら熱処理する工程である
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の水素吸収磁気冷凍材料の製造方法。
【請求項7】
前記第1熱処理工程および前記第2熱処理工程を複数回繰り返した後に前記第3熱処理工程を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の水素吸収磁気冷凍材料の製造方法。
【請求項8】
水素を吸収させることでキュリー温度が変化する磁気冷凍材料を、水素雰囲気下にて第1の温度で熱処理して水素を吸収させる第1工程と、
前記磁気冷凍材料を水素雰囲気下にて前記第1の温度よりも低い第2の温度へ徐々に低下させながら熱処理する第2工程と、
前記磁気冷凍材料を水素雰囲気下にて前記第2の温度で熱処理する第3工程と、を有する
ことを特徴とする水素吸収磁気冷凍材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−87294(P2013−87294A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225696(P2011−225696)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】