水素吸蔵材料
【課題】 水素吸蔵量に優れた水素吸蔵材料を提供すること。
【解決手段】 水素吸蔵能を有する金属微粒子と、上記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、該特性基により上記金属微粒子と結合している有機化合物と、上記特性基の一部と結合した金属イオンと、を含有する水素吸蔵材料。
【解決手段】 水素吸蔵能を有する金属微粒子と、上記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、該特性基により上記金属微粒子と結合している有機化合物と、上記特性基の一部と結合した金属イオンと、を含有する水素吸蔵材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵材料に関し、より詳しくは、燃料電池自動車、水素輸送トレーラー、水素内燃機関などに利用が期待されている水素ガスを貯蔵するための水素吸蔵材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素吸蔵材料としてゼオライトや活性炭を代表とする細孔を有する構造に物理的に水素を吸蔵する研究や、水素吸蔵合金に関する研究が精力的に行われている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、細孔を有する化合物として多孔性金属錯体の使用が検討されている。特許文献1には、金属と有機物から構成されるガス吸着用の多孔質材料として均一なミクロ孔を設計、制御し、ガス吸蔵能を向上させている技術が開示されている。
【0004】
また、下記非特許文献1には、水素吸蔵能を有する金属を合金化させることで水素吸蔵温度及び放出温度を低下させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−342249号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】田村英雄監修、「水素吸蔵合金−基礎から最先端技術まで−」、NTS inc.(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された発明は、水素吸蔵量については十分ではないという問題がある。
【0008】
また、上記非特許文献1に記載された技術でも、水素吸蔵量は必ずしも十分ではないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水素吸蔵量に優れた水素吸蔵材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、水素吸蔵能を有する金属微粒子と、上記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、該特性基により上記金属微粒子と結合している有機化合物と、上記特性基の一部と結合した金属イオンと、を含有する水素吸蔵材料を提供する。
【0011】
かかる水素吸蔵材料は、金属微粒子をそのまま使用した場合と比較して、水素吸蔵量を向上させることができる。水素吸蔵量を向上できる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、上記本発明の水素吸蔵材料は、金属微粒子に有機化合物が結合した構造を有しているため、金属微粒子同士の密着が有機化合物により抑制され、金属微粒子の水素原子に接触可能な表面積が向上し、水素吸蔵量が向上すると考えられる。更に、有機化合物の存在により金属微粒子同士間に空隙が形成され、その空隙に水素分子を物理的に吸蔵することが可能となると考えられる。なお、有機化合物が上記特性基を2以上有することで、金属微粒子と有機化合物とが交互に結合した2次元又は3次元網目構造が形成されやすく、水素分子を物理的に吸蔵可能な空隙が形成されやすいと考えられる。また、上記本発明の水素吸蔵材料においては、有機化合物中の特性基の一部と結合した金属イオンを有することにより、有機化合物が結合した金属微粒子同士が更に金属イオンを介して結合し、2次元又は3次元網目構造がより形成されやすくなると考えられる。このような金属イオンによる架橋によって、金属微粒子の集合体を大きくすることができ、水素原子を物理的に吸蔵可能な空隙を増やすことができると考えられる。そのため、上記本発明の水素吸蔵材料において、水素原子は、金属微粒子に化学的に吸蔵されるとともに、金属微粒子同士間の空隙にも水素分子を物理的に吸蔵されることとなり、水素吸蔵量を向上させることができると考えられる。
【0012】
本発明の水素吸蔵材料において、上記金属微粒子はPd、V及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む粒子であることが好ましい。金属微粒子が上記金属を含むことにより、金属微粒子による水素原子の優れた化学的吸蔵量を得ることができる。そのため、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0013】
本発明の水素吸蔵材料において、上記有機化合物は芳香環を有する化合物であることが好ましい。芳香環を有することで有機化合物の分子の剛直性が増し、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成することができる。その結果、水素吸蔵材料は、金属微粒子による水素原子の化学的吸蔵量、及び、金属微粒子同士間の空隙による水素分子の物理的吸蔵量の双方をより向上させることができ、水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明の水素吸蔵材料において、上記有機化合物はイソシアノ基、ピリジル基、カルボキシル基、ホスフィノ基からなる群より選択される少なくとも1種の上記特性基を有する化合物であることが好ましい。これらの特性基は、金属微粒子と配位結合により結合しやすく、安定した結合状態が得られるため、水素吸蔵材料において金属微粒子同士の密着を抑制する効果、及び、金属微粒子同士間に空隙を形成する効果がより安定して奏される。そのため、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより安定して向上させることができる。
【0015】
本発明の水素吸蔵材料において、上記金属イオンは、鉄イオン及び亜鉛イオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンであることが好ましい。これらの金属イオンは、有機化合物中の特性基と結合しやすく、これらの金属イオンによる架橋によって、金属微粒子の集合体をより大きくすることができ、水素原子を物理的に吸蔵可能な空隙をより増やすことができる。
【0016】
本発明の水素吸蔵材料は、2以上の上記金属微粒子が上記有機化合物を介して結合した構造、及び、2以上の上記金属微粒子が上記有機化合物と上記金属イオンとを介して結合した構造を有することが好ましい。このように、有機化合物によって2以上の金属微粒子が連結されるだけでなく、有機化合物と金属イオンとを介して2以上の金属微粒子が連結されることにより、金属微粒子の集合体を大きくすることができ、水素原子を物理的に吸蔵可能な空隙を増大させることができる。また、上記構造を有することにより、金属微粒子同士が密着することをより十分に抑制することができる。その結果、水素吸蔵材料において、金属微粒子による水素原子の化学的吸蔵量、及び、金属微粒子同士間の空隙による水素原子の物理的吸蔵量の双方をより向上させることができ、水素吸蔵量をより向上させることができる。なお、かかる効果は、有機化合物が適度な剛直性を有していることで、より有効に奏される。
【0017】
更に、水素吸蔵材料において、金属微粒子には上記特性基を2以上有する有機化合物が複数結合しており、それら複数の有機化合物が更に他の金属微粒子に結合していることが好ましい。これにより、金属微粒子と有機化合物とが交互に結合した2次元又は3次元網目構造が形成され、水素原子の物理的吸蔵量が飛躍的に向上し、水素吸蔵材料の水素吸蔵量を大幅に向上することができる。また、金属イオンの存在により、有機化合物中の金属微粒子と結合していない余った特性基に金属イオンが結合し、当該金属イオンを介して有機化合物が結合した金属微粒子同士を結合させることができるため、より高密度な2次元又は3次元網目構造が形成され、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水素吸蔵量に優れた水素吸蔵材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】比較例1で得られた水素吸蔵材料(ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られた水素吸蔵材料(ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料)におけるパラジウム微粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図3】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物のプロトンNMRスペクトルである。
【図4】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物のMALDI−MSスペクトルである。
【図5】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の透過型電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料におけるパラジウム微粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図8】実施例1で得られた水素吸蔵材料(Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例2で得られた水素吸蔵材料(Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例3で得られた水素吸蔵材料(Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例4で得られた水素吸蔵材料(Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図12】金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図13】金属イオン架橋後のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図14】実施例1〜4、比較例1及び参考例1の水素吸蔵材料の温度303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
本発明の水素吸蔵材料は、水素吸蔵能を有する金属微粒子と、上記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、該特性基により上記金属微粒子と結合している有機化合物と、上記特性基の一部と結合した金属イオンと、を含有するものである。以下、各構成要素について説明する。
【0022】
金属微粒子は、水素吸蔵能を有するものであれば特に制限されない。金属微粒子は、例えば、水素吸蔵能を有する金属により構成される。金属微粒子を構成する金属としては、例えば、Pd、V、Ti、Mg、Ni、Pt等が挙げられる。なお、金属微粒子は、Pd、V及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。金属微粒子を構成する金属としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上の金属を用いる場合は合金として用いてもよい。
【0023】
金属微粒子の平均粒径は、0.1〜100nmであることが好ましく、1〜10nmであることがより好ましく、2〜8nmであることが特に好ましい。金属微粒子の平均粒径が0.1nm未満であると、金属微粒子における水素原子の化学的吸蔵量が低下する傾向があり、100nmを超えると、金属微粒子同士間の空隙における水素原子の物理的吸蔵量が低下する傾向がある。特に、金属微粒子の平均粒径が1〜10nmの範囲内であると、金属微粒子による水素原子の化学的吸蔵量、及び、金属微粒子同士間の空隙による水素原子の物理的吸蔵量の双方が非常に良好となり、水素吸蔵材料は、より優れた水素吸蔵量を得ることができる傾向がある。更に、金属微粒子の平均粒径が1〜10nmの範囲内であると、金属微粒子と有機化合物とが交互に結合した2次元又は3次元網目構造を形成しやすくなり、水素吸蔵材料の水素吸蔵量を大幅に向上することができる傾向がある。
【0024】
ここで、金属微粒子の平均粒径は、水素吸蔵材料を透過型電子顕微鏡で観察することで金属微粒子の粒径を測定し、それら測定した粒径の平均値として求められる。
【0025】
有機化合物は、上記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、水素吸蔵材料において該特性基により金属微粒子と結合しているものである。この有機化合物は、特に制限されないが、金属微粒子同士の密着を抑制し、金属微粒子同士間に十分な空隙を形成するために有利なことから、適度な剛直性を有する化合物であることが好ましい。そして、適度な剛直性が得られることから、有機化合物は芳香環を有する化合物であることが好ましい。芳香環としては、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環のいずれであってもよいが、芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。なお、有機化合物は、芳香環を1つ有するものであってもよく、2つ以上有するものであってもよい。有機化合物が2つ以上の芳香環を有する場合、それらの芳香環は同一でも異なっていてもよい。
【0026】
有機化合物における特性基は、配位結合、共有結合、イオン結合等により金属微粒子と結合可能な基であれば特に制限されない。この特性基として具体的には、イソシアノ基、ピリジル基、ホスフィノ基、スルホニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等が挙げられる。これらの中でも、金属微粒子との結合性が良好であることから、イソシアノ基、ピリジル基及びホスフィノ基が好ましい。なお、有機化合物中の2以上の特性基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0027】
また、水素吸蔵材料は、上記特性基を2以上有する有機化合物を介して、2以上の金属微粒子が結合した構造を有することが好ましい。これにより、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成でき、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0028】
更に、有機化合物は、分子の両末端に上記特性基を有することが好ましい。これにより、上記のように当該有機化合物を介して2以上の金属微粒子が結合した場合に、有機化合物の両末端に金属微粒子が結合するため、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成でき、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0029】
また、有機化合物の分子の長さは、0.5〜20nmであることが好ましく、0.7〜10nmであることがより好ましい。ここで、有機化合物の分子の長さは、金属微粒子に結合している一端と、該一端から最も遠い上記特性基を有する他端との距離を意味する。この分子の長さは、使用する有機化合物の構造から求めることができる。分子の長さが0.5nm未満であると、金属微粒子同士間の空隙による水素分子の物理的吸蔵量が低下する傾向があり、20nmを超えると、水素吸蔵量が低下する傾向がある。
【0030】
有機化合物の分子量は特に制限されないが、水素吸蔵材料の水素吸蔵量を効率的に向上させる観点から、50〜2000であることが好ましく、100〜1800であることがより好ましい。
【0031】
上述した有機化合物の具体例としては、例えば、1,4−フェニレンジイソシアニド、4,4’−ジイソシアノビフェニル、4,4’−ジイソシアノ−p−ターフェニル、4,4’−(ジフェニルホスフィノ)ビフェニル、4,4’−ビフェニルジチオール、4’,4’’’’−(1,4−フェニレン)ビス(2,2’:6’,2’’−テルピリジン)等が挙げられる。
【0032】
また、上記有機化合物の好適な例として、テルピリジル基を4つ有する有機化合物が挙げられる。テルピリジル基を4つ有する有機化合物は、テルピリジル基が特に金属微粒子との結合性が良好であるとともに、テルピリジル基を4方向に有する立体的な構造を有しており、金属微粒子への修飾に異方性を持つため、金属微粒子と有機化合物とが交互に結合した3次元網目構造が形成されやすく、水素分子を物理的に吸蔵可能な空隙が形成されやすいと考えられる。また、配位子交換反応等によりテルピリジル基を4つ有する有機化合物を金属微粒子に配位結合させる場合、その過程で金属微粒子同士の融合を促進させ、配位子である有機化合物の立体構造により金属微粒子の粒径を均一にすることができると考えられる。更に、上記有機化合物は、分子の4つの末端にテルピリジル基を有するため、当該有機化合物を介して2以上の金属微粒子が結合した場合に、有機化合物の末端に金属微粒子が結合することとなる。そのため、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成でき、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0033】
上述したテルピリジル基を4つ有する有機化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
[式(1)中、Xは炭素原子又はケイ素原子を示し、Yは単結合、或いは、下記一般式(2)又は(3)で表される基を示す。]
【0034】
【化2】
[式(2)中、R1は水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基を示し、R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、nは1又は2を示す。]
【0035】
【化3】
[式(3)中、R4は水素原子、メチル基又はエチル基を示し、mは1〜3の整数を示す。]
【0036】
上記一般式(1)において、Yは上記一般式(2)又は(3)で表される基であることが好ましい。また、上記一般式(2)において、nは1又は2を示すが、1であることが特に好ましい。更に、上記一般式(3)において、mは1〜3の整数を示すが、1又は2であることが特に好ましい。上記一般式(1)において、Yが上記一般式(2)又は(3)で表される基である場合、n又はmの値を調整することで、水素吸蔵材料の粒径や、金属微粒子間の空隙を調整することができる。
【0037】
上記テルピリジル基を4つ有する有機化合物は、例えば、カップリング反応により合成することができる。カップリング反応としては、反応操作が簡便であり、目的のテルピリジル基を4つ有する有機化合物が得られやすいことから、触媒にパラジウム化合物を用いる鈴木カップリング反応が好ましい。
【0038】
鈴木カップリング反応により合成を行う場合、例えば、上記一般式(1)で表されるテルピリジル基を4つ有する有機化合物は、下記一般式(1−a)で表される化合物と、下記一般式(1−b)で表される化合物とをカップリングすることにより合成することができる。
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】
上記一般式(1−a)において、X及びYは一般式(1)中のX及びYと同義であり、Zはハロゲン原子を示す。
【0042】
カップリング反応は、公知の方法で行うことができ、例えば、原料化合物を触媒等の存在下、溶媒中で加熱還流することによって行うことができる。溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン等と、水とからなる二層系溶媒を用いることが好ましい。
【0043】
水素吸蔵材料において、金属イオンは、有機化合物の特性基の一部と結合したものであり、その種類は、有機化合物の特性基と結合できるものであれば特に制限されない。金属イオンとして具体的には、鉄イオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、チタンイオン、イリジウムイオン、白金イオン、ニオブイオン、タンタルイオン、バナジウムイオン、マンガンイオン、タングステンイオン、ロジウムイオン、ルテニウムイオン、ニッケルイオン、錫イオン、ジルコニウムイオン、銅イオン、コバルトイオン、パラジウムイオン、イットリウムイオン、ユウロピウムイオン、ランタンイオン等が挙げられる。これらの中でも、特性基との結合性が良好であることから、鉄イオン、亜鉛イオンが好ましい。なお、金属イオンは金属塩として添加する。金属塩として具体的には、Zn(BF4)2、ZnCl2、Fe(BF4)2、FeCl2、AlCl3、TiCl4、IrCl3、PtCl4、NbCl5、TaCl5、VCl3、Mn(CH3CO2)3、WCl4、RhCl3、TiCl3、IrBr3、RuCl3、NiCl2、SnCl4、ZrCl4、CuCl2、CoCl2、PtCl2、MnCl2、PdCl2、YCl3、EuCl3、LaCl3、SnCl2等が挙げられる。
【0044】
水素吸蔵材料は、上記有機化合物と上記金属イオンとを介して2以上の金属微粒子が結合した構造、より具体的には、(金属微粒子−有機化合物)n−金属イオン−(有機化合物−金属微粒子)nが順次結合した構造を有することが好ましい。これにより、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成でき、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。また、金属微粒子の集合体をより大きくすることができ、水素原子を物理的に吸蔵可能な空隙をより増やすことができる。
【0045】
水素吸蔵材料において、有機化合物、金属微粒子、金属イオンの含有割合は特に制限されないが、水素吸蔵材料の全量に占める金属微粒子の含有量が10〜90質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。この含有量が10質量%未満であると、金属微粒子による水素原子の化学的吸蔵量が低下する傾向があり、90質量%を超えると、金属微粒子同士間の空隙による水素分子の物理的吸蔵量が低下する傾向がある。
【0046】
また、水素吸蔵材料の全量に占める金属イオンの含有量は、0.03〜5質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましい。この含有量が0.03質量%未満であると、金属微粒子の架橋度が低下する傾向があり、5質量%を超えると、水素吸蔵量が低下する傾向がある。
【0047】
以上説明した水素吸蔵材料は、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0048】
まず、金属塩化物等の金属含有化合物を原料として溶媒中に溶かし、界面活性剤または配位子で金属分子を保護しながら還元剤で還元することで金属微粒子を合成させた後、金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有する有機化合物を加えて金属微粒子と結合させることで、金属微粒子に有機化合物が結合した複合材料を得る。
【0049】
次に、金属微粒子に有機化合物が結合した複合材料を有機溶媒に分散させた分散液と、金属塩を有機溶媒に溶解した溶液とを混合することにより、金属イオンを有機化合物の特性基の一部に結合させる。このとき、金属イオンは、有機化合物の特性基のうちの、金属微粒子と結合していない特性基と結合することとなる。これにより、目的の水素吸蔵材料を得ることができる。複合材料を分散させる有機溶媒しては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム等を用いることができる。また、金属塩を溶解させる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒を用いることができる。
【0050】
上記製造方法によれば、2以上の金属微粒子が有機化合物を介して結合した構造、及び、2以上の金属微粒子が有機化合物と金属イオンとを介して結合した構造を有する水素吸蔵材料を得ることができる。なお、水素吸蔵材料の製造方法は、上記の方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
[比較例1]
(ジクロロビスアセトニトリルパラジウム(II)の合成)
大気下で、塩化パラジウム(田中貴金属社製)24.8gを脱水アセトニトリル(和光純薬工業製、試薬特級)625mLに溶解し、3日間室温で激しく攪拌した。反応終了後、この溶液を吸引濾過して固体を濾取し、その固体を室温で一晩真空乾燥して橙色のジクロロビスアセトニトリルパラジウム(II)を30.3g(収率83%)得た。
【0052】
(ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料の合成)
合成したジクロロビスアセトニトリルパラジウム(II)1.30gと、テトラ−n−オクチルアンモニウムブロミド(Alfa Aesar社製)10.94gとを脱水テトラヒドロフラン(和光純薬工業社製、試薬特級)160mLに溶解し、ジクロロビスアセトニトリルパラジウム(II)溶液を調製した。この溶液に還元剤である水素化トリエチルホウ素リチウム・テトラヒドロフラン1M溶液(関東化学社製)15mLを一気に加えて室温で一時間攪拌した。攪拌終了後、ペンチルイソシアニド(ALDRICH社製)1.5mLを加え、室温で一時間攪拌した。その後、窒素雰囲気に保ったまま減圧してテトラヒドロフランを留去し、溶媒量が数mL程度になるまで濃縮した。得られた濃縮液に脱水メタノール(和光純薬工業製、試薬特級)60mLを加えて洗浄し、ブリッジ濾過にて洗浄液を濾別した。この洗浄を2回行った後、生成物を大気下でアセトニトリル及びメタノールで洗浄した。洗浄後、減圧乾燥を行い、水素吸蔵材料として、0.72gのペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料を得た。
【0053】
(ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料の分析)
得られたペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料について、透過型電子顕微鏡(FE−TEM、Hitachi HF−2000)分析を行った。TEM像を図1に示した。なお、図1に示したTEM像は、ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料をジクロロメタンに分散させたパラジウム微粒子分散液を、TEMの支持膜などの基板上に滴下し、大気中、室温で乾燥させた試料を観察したものであり、図中の「Pd」がパラジウム微粒子である。また、TEM像から任意の300個のパラジウム微粒子の粒径を測定した結果、その粒径分布から、パラジウム微粒子は2.4±0.7nmの平均粒径であることが確認された。パラジウム微粒子の粒径分布を図2に示した。なお、図2中の横軸(粒径)において、「1.5」は1.0nm超1.5nm以下、「2」は1.5nm超2.0nm以下、「2.5」は2.0nm超2.5nm以下、「3」は2.5nm超3.0nm以下、「3.5」は3.0nm超3.5nm以下、「4」は3.5nm超4.0nm以下、「4.5」は4.0nm超4.5nm以下、「5」は4.5nm超5.0nm以下、の粒径範囲をそれぞれ意味する。
【0054】
[実施例1]
(テルピリジル基を4つ有する有機化合物の合成)
2,6-Di(pyridin-2-yl)pyridin-4-yl-4-boronicacidを文献(Michael,S. Bice, H. Prasenjit, M. Org. Lett., 2008, 10(12), 2513)に従って、Tetrakis[4-(iodo)phenyl]methaneを文献(Isabelle, A. et. al.,J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 8177)に従って、それぞれ合成した。2,6-Di(pyridin-2-yl)pyridin-4-yl-4-boronic acidを1.45g(5.29mmol)と、Tetrakis[4-(iodo)phenyl]methaneを0.77g(0.93mmol)とを、Pd(PPh3)4触媒(220mg、0.19mmol)、炭酸ナトリウム(2.96g、27.9mmol)及びトリフェニルホスフィン(1.22g、4.65mmol)の存在下、窒素バブリングしたトルエン(150mL)、水(100mL)及びTHF(100mL)の二層系溶媒で33日間加熱還流を行った(鈴木カップリング)。反応後、析出した固体を濾別し、クロロホルムで洗浄して、目的物である下記式(4)で表される有機化合物(以下、「テルピリジル基含有化合物」と言う)を得た(805mg、収率70%)。
【0055】
【化6】
【0056】
(テルピリジル基含有化合物の分析1)
得られたテルピリジル基含有化合物について、プロトンNMR分析を行った。プロトンNMRスペクトルを図3に示した。プロトンNMRスペクトルから、上記式(4)で表される目的の化合物と1Hの数が一致し、また8.6〜8.8ppm付近に3H、7.8ppm及び7.4ppm付近に1Hずつあり、これはテルピリジンに共通するピークであるため、目的物の合成が確認された。
【0057】
(テルピリジル基含有化合物の分析2)
得られたテルピリジル基含有化合物について、MALDI−TOF−MS分析を行った。MALDI−TOF−MSスペクトルを図4に示した。上記式(4)で表される目的物の分子量は1244.5であり、その存在がMALDI−MSスペクトルで確認された。
物性値:1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ8.76 (1H, s), 8.72 (1H, d,J = 3.9Hz), 8.67 (1H, d, J = 8.1Hz), 7.88 (1H, dd, J = 1.7, 5.9Hz), 7.84 (1H,d, J = 8.1Hz), 7.48(1H, d, J = 8.5Hz), 7.32-7.37(1H, m); MALDI-TOF-MS 1245.1 (M+)
【0058】
(テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成)
合成したテルピリジル基含有化合物(24.9mg)と、比較例1で作製した平均粒径2.4±0.7nmのペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料(535mg)とを、クロロホルム中(25mL)、常温で7日間攪拌することにより配位子交換反応を行った。これにより、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料を得た。
【0059】
(テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の分析)
得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料について、透過型電子顕微鏡(FE−TEM、Hitachi HF−2000)分析を行った。得られたTEM像を図5及び図6に示した。なお、図5及び図6に示したTEM像は、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料をジクロロメタンに分散させたパラジウム微粒子分散液を、TEMの支持膜などの基板上に滴下し、大気中、室温で乾燥させた試料を観察したものであり、図中の「Pd」がパラジウム微粒子である。また、TEM像から任意の300個のパラジウム微粒子の粒径を測定した結果、その粒径分布から、パラジウム微粒子は3.6±0.4nmの平均粒径であることが確認された。すなわち、配位子交換反応前の複合材料(比較例1)と比較して、平均粒子サイズの増加と共に、粒径分布の減少が確認された。また、金属微粒子の架橋も確認された。パラジウム微粒子の粒径分布を図7に示した。
【0060】
(Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成1)
得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(15mg)を、塩化メチレン(10mL)に分散した。この分散液に0.1mM ZnCl2エタノール溶液(1mL)を加えて常温で3日間攪拌することで、Znイオンをテルピリジル基の一部に結合させ、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料同士の金属イオン架橋を行った。これにより、水素吸蔵材料として、Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(Znイオンの含有量:0.3質量%)を得た。
【0061】
[実施例2]
(Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成2)
実施例1と同様の方法で作製したテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(15mg)を、塩化メチレン(10mL)に分散した。この分散液に0.1mM Zn(BF4)2・6〜7H2Oエタノール溶液(1mL)を加えて常温で3日間攪拌することで、Znイオンをテルピリジル基の一部に結合させ、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料同士の金属イオン架橋を行った。これにより、水素吸蔵材料として、Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(Znイオンの含有量:0.3質量%)を得た。
【0062】
[実施例3]
(Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成1)
実施例1と同様の方法で作製したテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(15mg)を、塩化メチレン(10mL)に分散した。この分散液に0.1mM FeCl2・4H2Oエタノール溶液(1mL)を加えて常温で3日間攪拌することで、Feイオンをテルピリジル基の一部に結合させ、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料同士の金属イオン架橋を行った。これにより、水素吸蔵材料として、Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(Feイオンの含有量:0.3質量%)を得た。
【0063】
[実施例4]
(Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成2)
実施例1と同様の方法で作製したテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(15mg)を、塩化メチレン(10mL)に分散した。この分散液に0.1mM Fe(BF4)2・6H2Oエタノール溶液(1mL)を加えて常温で3日間攪拌することで、Feイオンをテルピリジル基の一部に結合させ、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料同士の金属イオン架橋を行った。これにより、水素吸蔵材料として、Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(Feイオンの含有量:0.3質量%)を得た。
【0064】
(金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料のTEM分析)
実施例1〜4で得られた金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料について、透過型電子顕微鏡(FE−TEM、Hitachi HF−2000)分析を行った。得られたTEM像をそれぞれ図8〜図11に示した。なお、図8〜図11に示したTEM像は、金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料をジクロロメタンに分散させたパラジウム微粒子分散液を、TEMの支持膜などの基板上に滴下し、大気中、室温で乾燥させた試料を観察したものである。実施例1〜4のいずれの架橋方法においても、パラジウム微粒子の結合数が10個以下の微小クラスターはほぼなくなり、図5及び図6に示した金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料と比較して、クラスターサイズが成長していることが確認された。
【0065】
(金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の窒素吸着量評価)
実施例1で得られた金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料は、窒素吸着で分析した細孔容積はほぼゼロだったのに対し、実施例1で最終的に得られたZnCl2で架橋したテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料は、細孔容積0.04cm3/g程度となった。金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の窒素吸着等温線(77K)を図12に、金属イオン架橋後のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(実施例1の水素吸蔵材料)の窒素吸着等温線(77K)を図13に、それぞれ示す。
【0066】
(金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の水素吸蔵量の測定)
実施例1〜4及び比較例1で得られた水素吸蔵材料、並びに、実施例1で得られた金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(これを「参考例1」とする)について、温度303Kにおける水素吸蔵量を測定した。水素吸蔵量は(株)レスカ製の水素吸蔵量測定装置を用い、水素吸蔵材料の入ったサンプル管部分を303Kの水槽に浸した状態で測定を行った。303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を図14に示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵材料に関し、より詳しくは、燃料電池自動車、水素輸送トレーラー、水素内燃機関などに利用が期待されている水素ガスを貯蔵するための水素吸蔵材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素吸蔵材料としてゼオライトや活性炭を代表とする細孔を有する構造に物理的に水素を吸蔵する研究や、水素吸蔵合金に関する研究が精力的に行われている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、細孔を有する化合物として多孔性金属錯体の使用が検討されている。特許文献1には、金属と有機物から構成されるガス吸着用の多孔質材料として均一なミクロ孔を設計、制御し、ガス吸蔵能を向上させている技術が開示されている。
【0004】
また、下記非特許文献1には、水素吸蔵能を有する金属を合金化させることで水素吸蔵温度及び放出温度を低下させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−342249号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】田村英雄監修、「水素吸蔵合金−基礎から最先端技術まで−」、NTS inc.(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された発明は、水素吸蔵量については十分ではないという問題がある。
【0008】
また、上記非特許文献1に記載された技術でも、水素吸蔵量は必ずしも十分ではないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水素吸蔵量に優れた水素吸蔵材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、水素吸蔵能を有する金属微粒子と、上記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、該特性基により上記金属微粒子と結合している有機化合物と、上記特性基の一部と結合した金属イオンと、を含有する水素吸蔵材料を提供する。
【0011】
かかる水素吸蔵材料は、金属微粒子をそのまま使用した場合と比較して、水素吸蔵量を向上させることができる。水素吸蔵量を向上できる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、上記本発明の水素吸蔵材料は、金属微粒子に有機化合物が結合した構造を有しているため、金属微粒子同士の密着が有機化合物により抑制され、金属微粒子の水素原子に接触可能な表面積が向上し、水素吸蔵量が向上すると考えられる。更に、有機化合物の存在により金属微粒子同士間に空隙が形成され、その空隙に水素分子を物理的に吸蔵することが可能となると考えられる。なお、有機化合物が上記特性基を2以上有することで、金属微粒子と有機化合物とが交互に結合した2次元又は3次元網目構造が形成されやすく、水素分子を物理的に吸蔵可能な空隙が形成されやすいと考えられる。また、上記本発明の水素吸蔵材料においては、有機化合物中の特性基の一部と結合した金属イオンを有することにより、有機化合物が結合した金属微粒子同士が更に金属イオンを介して結合し、2次元又は3次元網目構造がより形成されやすくなると考えられる。このような金属イオンによる架橋によって、金属微粒子の集合体を大きくすることができ、水素原子を物理的に吸蔵可能な空隙を増やすことができると考えられる。そのため、上記本発明の水素吸蔵材料において、水素原子は、金属微粒子に化学的に吸蔵されるとともに、金属微粒子同士間の空隙にも水素分子を物理的に吸蔵されることとなり、水素吸蔵量を向上させることができると考えられる。
【0012】
本発明の水素吸蔵材料において、上記金属微粒子はPd、V及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む粒子であることが好ましい。金属微粒子が上記金属を含むことにより、金属微粒子による水素原子の優れた化学的吸蔵量を得ることができる。そのため、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0013】
本発明の水素吸蔵材料において、上記有機化合物は芳香環を有する化合物であることが好ましい。芳香環を有することで有機化合物の分子の剛直性が増し、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成することができる。その結果、水素吸蔵材料は、金属微粒子による水素原子の化学的吸蔵量、及び、金属微粒子同士間の空隙による水素分子の物理的吸蔵量の双方をより向上させることができ、水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明の水素吸蔵材料において、上記有機化合物はイソシアノ基、ピリジル基、カルボキシル基、ホスフィノ基からなる群より選択される少なくとも1種の上記特性基を有する化合物であることが好ましい。これらの特性基は、金属微粒子と配位結合により結合しやすく、安定した結合状態が得られるため、水素吸蔵材料において金属微粒子同士の密着を抑制する効果、及び、金属微粒子同士間に空隙を形成する効果がより安定して奏される。そのため、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより安定して向上させることができる。
【0015】
本発明の水素吸蔵材料において、上記金属イオンは、鉄イオン及び亜鉛イオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンであることが好ましい。これらの金属イオンは、有機化合物中の特性基と結合しやすく、これらの金属イオンによる架橋によって、金属微粒子の集合体をより大きくすることができ、水素原子を物理的に吸蔵可能な空隙をより増やすことができる。
【0016】
本発明の水素吸蔵材料は、2以上の上記金属微粒子が上記有機化合物を介して結合した構造、及び、2以上の上記金属微粒子が上記有機化合物と上記金属イオンとを介して結合した構造を有することが好ましい。このように、有機化合物によって2以上の金属微粒子が連結されるだけでなく、有機化合物と金属イオンとを介して2以上の金属微粒子が連結されることにより、金属微粒子の集合体を大きくすることができ、水素原子を物理的に吸蔵可能な空隙を増大させることができる。また、上記構造を有することにより、金属微粒子同士が密着することをより十分に抑制することができる。その結果、水素吸蔵材料において、金属微粒子による水素原子の化学的吸蔵量、及び、金属微粒子同士間の空隙による水素原子の物理的吸蔵量の双方をより向上させることができ、水素吸蔵量をより向上させることができる。なお、かかる効果は、有機化合物が適度な剛直性を有していることで、より有効に奏される。
【0017】
更に、水素吸蔵材料において、金属微粒子には上記特性基を2以上有する有機化合物が複数結合しており、それら複数の有機化合物が更に他の金属微粒子に結合していることが好ましい。これにより、金属微粒子と有機化合物とが交互に結合した2次元又は3次元網目構造が形成され、水素原子の物理的吸蔵量が飛躍的に向上し、水素吸蔵材料の水素吸蔵量を大幅に向上することができる。また、金属イオンの存在により、有機化合物中の金属微粒子と結合していない余った特性基に金属イオンが結合し、当該金属イオンを介して有機化合物が結合した金属微粒子同士を結合させることができるため、より高密度な2次元又は3次元網目構造が形成され、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水素吸蔵量に優れた水素吸蔵材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】比較例1で得られた水素吸蔵材料(ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られた水素吸蔵材料(ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料)におけるパラジウム微粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図3】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物のプロトンNMRスペクトルである。
【図4】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物のMALDI−MSスペクトルである。
【図5】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の透過型電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例1で得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料におけるパラジウム微粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図8】実施例1で得られた水素吸蔵材料(Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例2で得られた水素吸蔵材料(Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例3で得られた水素吸蔵材料(Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例4で得られた水素吸蔵材料(Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図12】金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図13】金属イオン架橋後のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の窒素吸着等温線を示すグラフである。
【図14】実施例1〜4、比較例1及び参考例1の水素吸蔵材料の温度303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
本発明の水素吸蔵材料は、水素吸蔵能を有する金属微粒子と、上記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、該特性基により上記金属微粒子と結合している有機化合物と、上記特性基の一部と結合した金属イオンと、を含有するものである。以下、各構成要素について説明する。
【0022】
金属微粒子は、水素吸蔵能を有するものであれば特に制限されない。金属微粒子は、例えば、水素吸蔵能を有する金属により構成される。金属微粒子を構成する金属としては、例えば、Pd、V、Ti、Mg、Ni、Pt等が挙げられる。なお、金属微粒子は、Pd、V及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。金属微粒子を構成する金属としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上の金属を用いる場合は合金として用いてもよい。
【0023】
金属微粒子の平均粒径は、0.1〜100nmであることが好ましく、1〜10nmであることがより好ましく、2〜8nmであることが特に好ましい。金属微粒子の平均粒径が0.1nm未満であると、金属微粒子における水素原子の化学的吸蔵量が低下する傾向があり、100nmを超えると、金属微粒子同士間の空隙における水素原子の物理的吸蔵量が低下する傾向がある。特に、金属微粒子の平均粒径が1〜10nmの範囲内であると、金属微粒子による水素原子の化学的吸蔵量、及び、金属微粒子同士間の空隙による水素原子の物理的吸蔵量の双方が非常に良好となり、水素吸蔵材料は、より優れた水素吸蔵量を得ることができる傾向がある。更に、金属微粒子の平均粒径が1〜10nmの範囲内であると、金属微粒子と有機化合物とが交互に結合した2次元又は3次元網目構造を形成しやすくなり、水素吸蔵材料の水素吸蔵量を大幅に向上することができる傾向がある。
【0024】
ここで、金属微粒子の平均粒径は、水素吸蔵材料を透過型電子顕微鏡で観察することで金属微粒子の粒径を測定し、それら測定した粒径の平均値として求められる。
【0025】
有機化合物は、上記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、水素吸蔵材料において該特性基により金属微粒子と結合しているものである。この有機化合物は、特に制限されないが、金属微粒子同士の密着を抑制し、金属微粒子同士間に十分な空隙を形成するために有利なことから、適度な剛直性を有する化合物であることが好ましい。そして、適度な剛直性が得られることから、有機化合物は芳香環を有する化合物であることが好ましい。芳香環としては、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環のいずれであってもよいが、芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。なお、有機化合物は、芳香環を1つ有するものであってもよく、2つ以上有するものであってもよい。有機化合物が2つ以上の芳香環を有する場合、それらの芳香環は同一でも異なっていてもよい。
【0026】
有機化合物における特性基は、配位結合、共有結合、イオン結合等により金属微粒子と結合可能な基であれば特に制限されない。この特性基として具体的には、イソシアノ基、ピリジル基、ホスフィノ基、スルホニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等が挙げられる。これらの中でも、金属微粒子との結合性が良好であることから、イソシアノ基、ピリジル基及びホスフィノ基が好ましい。なお、有機化合物中の2以上の特性基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0027】
また、水素吸蔵材料は、上記特性基を2以上有する有機化合物を介して、2以上の金属微粒子が結合した構造を有することが好ましい。これにより、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成でき、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0028】
更に、有機化合物は、分子の両末端に上記特性基を有することが好ましい。これにより、上記のように当該有機化合物を介して2以上の金属微粒子が結合した場合に、有機化合物の両末端に金属微粒子が結合するため、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成でき、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0029】
また、有機化合物の分子の長さは、0.5〜20nmであることが好ましく、0.7〜10nmであることがより好ましい。ここで、有機化合物の分子の長さは、金属微粒子に結合している一端と、該一端から最も遠い上記特性基を有する他端との距離を意味する。この分子の長さは、使用する有機化合物の構造から求めることができる。分子の長さが0.5nm未満であると、金属微粒子同士間の空隙による水素分子の物理的吸蔵量が低下する傾向があり、20nmを超えると、水素吸蔵量が低下する傾向がある。
【0030】
有機化合物の分子量は特に制限されないが、水素吸蔵材料の水素吸蔵量を効率的に向上させる観点から、50〜2000であることが好ましく、100〜1800であることがより好ましい。
【0031】
上述した有機化合物の具体例としては、例えば、1,4−フェニレンジイソシアニド、4,4’−ジイソシアノビフェニル、4,4’−ジイソシアノ−p−ターフェニル、4,4’−(ジフェニルホスフィノ)ビフェニル、4,4’−ビフェニルジチオール、4’,4’’’’−(1,4−フェニレン)ビス(2,2’:6’,2’’−テルピリジン)等が挙げられる。
【0032】
また、上記有機化合物の好適な例として、テルピリジル基を4つ有する有機化合物が挙げられる。テルピリジル基を4つ有する有機化合物は、テルピリジル基が特に金属微粒子との結合性が良好であるとともに、テルピリジル基を4方向に有する立体的な構造を有しており、金属微粒子への修飾に異方性を持つため、金属微粒子と有機化合物とが交互に結合した3次元網目構造が形成されやすく、水素分子を物理的に吸蔵可能な空隙が形成されやすいと考えられる。また、配位子交換反応等によりテルピリジル基を4つ有する有機化合物を金属微粒子に配位結合させる場合、その過程で金属微粒子同士の融合を促進させ、配位子である有機化合物の立体構造により金属微粒子の粒径を均一にすることができると考えられる。更に、上記有機化合物は、分子の4つの末端にテルピリジル基を有するため、当該有機化合物を介して2以上の金属微粒子が結合した場合に、有機化合物の末端に金属微粒子が結合することとなる。そのため、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成でき、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。
【0033】
上述したテルピリジル基を4つ有する有機化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
[式(1)中、Xは炭素原子又はケイ素原子を示し、Yは単結合、或いは、下記一般式(2)又は(3)で表される基を示す。]
【0034】
【化2】
[式(2)中、R1は水素原子、メチル基、エチル基又はフェニル基を示し、R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、nは1又は2を示す。]
【0035】
【化3】
[式(3)中、R4は水素原子、メチル基又はエチル基を示し、mは1〜3の整数を示す。]
【0036】
上記一般式(1)において、Yは上記一般式(2)又は(3)で表される基であることが好ましい。また、上記一般式(2)において、nは1又は2を示すが、1であることが特に好ましい。更に、上記一般式(3)において、mは1〜3の整数を示すが、1又は2であることが特に好ましい。上記一般式(1)において、Yが上記一般式(2)又は(3)で表される基である場合、n又はmの値を調整することで、水素吸蔵材料の粒径や、金属微粒子間の空隙を調整することができる。
【0037】
上記テルピリジル基を4つ有する有機化合物は、例えば、カップリング反応により合成することができる。カップリング反応としては、反応操作が簡便であり、目的のテルピリジル基を4つ有する有機化合物が得られやすいことから、触媒にパラジウム化合物を用いる鈴木カップリング反応が好ましい。
【0038】
鈴木カップリング反応により合成を行う場合、例えば、上記一般式(1)で表されるテルピリジル基を4つ有する有機化合物は、下記一般式(1−a)で表される化合物と、下記一般式(1−b)で表される化合物とをカップリングすることにより合成することができる。
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】
上記一般式(1−a)において、X及びYは一般式(1)中のX及びYと同義であり、Zはハロゲン原子を示す。
【0042】
カップリング反応は、公知の方法で行うことができ、例えば、原料化合物を触媒等の存在下、溶媒中で加熱還流することによって行うことができる。溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン等と、水とからなる二層系溶媒を用いることが好ましい。
【0043】
水素吸蔵材料において、金属イオンは、有機化合物の特性基の一部と結合したものであり、その種類は、有機化合物の特性基と結合できるものであれば特に制限されない。金属イオンとして具体的には、鉄イオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、チタンイオン、イリジウムイオン、白金イオン、ニオブイオン、タンタルイオン、バナジウムイオン、マンガンイオン、タングステンイオン、ロジウムイオン、ルテニウムイオン、ニッケルイオン、錫イオン、ジルコニウムイオン、銅イオン、コバルトイオン、パラジウムイオン、イットリウムイオン、ユウロピウムイオン、ランタンイオン等が挙げられる。これらの中でも、特性基との結合性が良好であることから、鉄イオン、亜鉛イオンが好ましい。なお、金属イオンは金属塩として添加する。金属塩として具体的には、Zn(BF4)2、ZnCl2、Fe(BF4)2、FeCl2、AlCl3、TiCl4、IrCl3、PtCl4、NbCl5、TaCl5、VCl3、Mn(CH3CO2)3、WCl4、RhCl3、TiCl3、IrBr3、RuCl3、NiCl2、SnCl4、ZrCl4、CuCl2、CoCl2、PtCl2、MnCl2、PdCl2、YCl3、EuCl3、LaCl3、SnCl2等が挙げられる。
【0044】
水素吸蔵材料は、上記有機化合物と上記金属イオンとを介して2以上の金属微粒子が結合した構造、より具体的には、(金属微粒子−有機化合物)n−金属イオン−(有機化合物−金属微粒子)nが順次結合した構造を有することが好ましい。これにより、金属微粒子同士の密着をより十分に抑制することができるとともに、金属微粒子同士間の空隙をより十分に形成でき、水素吸蔵材料の水素吸蔵量をより向上させることができる。また、金属微粒子の集合体をより大きくすることができ、水素原子を物理的に吸蔵可能な空隙をより増やすことができる。
【0045】
水素吸蔵材料において、有機化合物、金属微粒子、金属イオンの含有割合は特に制限されないが、水素吸蔵材料の全量に占める金属微粒子の含有量が10〜90質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。この含有量が10質量%未満であると、金属微粒子による水素原子の化学的吸蔵量が低下する傾向があり、90質量%を超えると、金属微粒子同士間の空隙による水素分子の物理的吸蔵量が低下する傾向がある。
【0046】
また、水素吸蔵材料の全量に占める金属イオンの含有量は、0.03〜5質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましい。この含有量が0.03質量%未満であると、金属微粒子の架橋度が低下する傾向があり、5質量%を超えると、水素吸蔵量が低下する傾向がある。
【0047】
以上説明した水素吸蔵材料は、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0048】
まず、金属塩化物等の金属含有化合物を原料として溶媒中に溶かし、界面活性剤または配位子で金属分子を保護しながら還元剤で還元することで金属微粒子を合成させた後、金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有する有機化合物を加えて金属微粒子と結合させることで、金属微粒子に有機化合物が結合した複合材料を得る。
【0049】
次に、金属微粒子に有機化合物が結合した複合材料を有機溶媒に分散させた分散液と、金属塩を有機溶媒に溶解した溶液とを混合することにより、金属イオンを有機化合物の特性基の一部に結合させる。このとき、金属イオンは、有機化合物の特性基のうちの、金属微粒子と結合していない特性基と結合することとなる。これにより、目的の水素吸蔵材料を得ることができる。複合材料を分散させる有機溶媒しては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム等を用いることができる。また、金属塩を溶解させる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒を用いることができる。
【0050】
上記製造方法によれば、2以上の金属微粒子が有機化合物を介して結合した構造、及び、2以上の金属微粒子が有機化合物と金属イオンとを介して結合した構造を有する水素吸蔵材料を得ることができる。なお、水素吸蔵材料の製造方法は、上記の方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
[比較例1]
(ジクロロビスアセトニトリルパラジウム(II)の合成)
大気下で、塩化パラジウム(田中貴金属社製)24.8gを脱水アセトニトリル(和光純薬工業製、試薬特級)625mLに溶解し、3日間室温で激しく攪拌した。反応終了後、この溶液を吸引濾過して固体を濾取し、その固体を室温で一晩真空乾燥して橙色のジクロロビスアセトニトリルパラジウム(II)を30.3g(収率83%)得た。
【0052】
(ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料の合成)
合成したジクロロビスアセトニトリルパラジウム(II)1.30gと、テトラ−n−オクチルアンモニウムブロミド(Alfa Aesar社製)10.94gとを脱水テトラヒドロフラン(和光純薬工業社製、試薬特級)160mLに溶解し、ジクロロビスアセトニトリルパラジウム(II)溶液を調製した。この溶液に還元剤である水素化トリエチルホウ素リチウム・テトラヒドロフラン1M溶液(関東化学社製)15mLを一気に加えて室温で一時間攪拌した。攪拌終了後、ペンチルイソシアニド(ALDRICH社製)1.5mLを加え、室温で一時間攪拌した。その後、窒素雰囲気に保ったまま減圧してテトラヒドロフランを留去し、溶媒量が数mL程度になるまで濃縮した。得られた濃縮液に脱水メタノール(和光純薬工業製、試薬特級)60mLを加えて洗浄し、ブリッジ濾過にて洗浄液を濾別した。この洗浄を2回行った後、生成物を大気下でアセトニトリル及びメタノールで洗浄した。洗浄後、減圧乾燥を行い、水素吸蔵材料として、0.72gのペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料を得た。
【0053】
(ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料の分析)
得られたペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料について、透過型電子顕微鏡(FE−TEM、Hitachi HF−2000)分析を行った。TEM像を図1に示した。なお、図1に示したTEM像は、ペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料をジクロロメタンに分散させたパラジウム微粒子分散液を、TEMの支持膜などの基板上に滴下し、大気中、室温で乾燥させた試料を観察したものであり、図中の「Pd」がパラジウム微粒子である。また、TEM像から任意の300個のパラジウム微粒子の粒径を測定した結果、その粒径分布から、パラジウム微粒子は2.4±0.7nmの平均粒径であることが確認された。パラジウム微粒子の粒径分布を図2に示した。なお、図2中の横軸(粒径)において、「1.5」は1.0nm超1.5nm以下、「2」は1.5nm超2.0nm以下、「2.5」は2.0nm超2.5nm以下、「3」は2.5nm超3.0nm以下、「3.5」は3.0nm超3.5nm以下、「4」は3.5nm超4.0nm以下、「4.5」は4.0nm超4.5nm以下、「5」は4.5nm超5.0nm以下、の粒径範囲をそれぞれ意味する。
【0054】
[実施例1]
(テルピリジル基を4つ有する有機化合物の合成)
2,6-Di(pyridin-2-yl)pyridin-4-yl-4-boronicacidを文献(Michael,S. Bice, H. Prasenjit, M. Org. Lett., 2008, 10(12), 2513)に従って、Tetrakis[4-(iodo)phenyl]methaneを文献(Isabelle, A. et. al.,J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 8177)に従って、それぞれ合成した。2,6-Di(pyridin-2-yl)pyridin-4-yl-4-boronic acidを1.45g(5.29mmol)と、Tetrakis[4-(iodo)phenyl]methaneを0.77g(0.93mmol)とを、Pd(PPh3)4触媒(220mg、0.19mmol)、炭酸ナトリウム(2.96g、27.9mmol)及びトリフェニルホスフィン(1.22g、4.65mmol)の存在下、窒素バブリングしたトルエン(150mL)、水(100mL)及びTHF(100mL)の二層系溶媒で33日間加熱還流を行った(鈴木カップリング)。反応後、析出した固体を濾別し、クロロホルムで洗浄して、目的物である下記式(4)で表される有機化合物(以下、「テルピリジル基含有化合物」と言う)を得た(805mg、収率70%)。
【0055】
【化6】
【0056】
(テルピリジル基含有化合物の分析1)
得られたテルピリジル基含有化合物について、プロトンNMR分析を行った。プロトンNMRスペクトルを図3に示した。プロトンNMRスペクトルから、上記式(4)で表される目的の化合物と1Hの数が一致し、また8.6〜8.8ppm付近に3H、7.8ppm及び7.4ppm付近に1Hずつあり、これはテルピリジンに共通するピークであるため、目的物の合成が確認された。
【0057】
(テルピリジル基含有化合物の分析2)
得られたテルピリジル基含有化合物について、MALDI−TOF−MS分析を行った。MALDI−TOF−MSスペクトルを図4に示した。上記式(4)で表される目的物の分子量は1244.5であり、その存在がMALDI−MSスペクトルで確認された。
物性値:1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ8.76 (1H, s), 8.72 (1H, d,J = 3.9Hz), 8.67 (1H, d, J = 8.1Hz), 7.88 (1H, dd, J = 1.7, 5.9Hz), 7.84 (1H,d, J = 8.1Hz), 7.48(1H, d, J = 8.5Hz), 7.32-7.37(1H, m); MALDI-TOF-MS 1245.1 (M+)
【0058】
(テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成)
合成したテルピリジル基含有化合物(24.9mg)と、比較例1で作製した平均粒径2.4±0.7nmのペンチルイソシアニド−パラジウム微粒子複合材料(535mg)とを、クロロホルム中(25mL)、常温で7日間攪拌することにより配位子交換反応を行った。これにより、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料を得た。
【0059】
(テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の分析)
得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料について、透過型電子顕微鏡(FE−TEM、Hitachi HF−2000)分析を行った。得られたTEM像を図5及び図6に示した。なお、図5及び図6に示したTEM像は、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料をジクロロメタンに分散させたパラジウム微粒子分散液を、TEMの支持膜などの基板上に滴下し、大気中、室温で乾燥させた試料を観察したものであり、図中の「Pd」がパラジウム微粒子である。また、TEM像から任意の300個のパラジウム微粒子の粒径を測定した結果、その粒径分布から、パラジウム微粒子は3.6±0.4nmの平均粒径であることが確認された。すなわち、配位子交換反応前の複合材料(比較例1)と比較して、平均粒子サイズの増加と共に、粒径分布の減少が確認された。また、金属微粒子の架橋も確認された。パラジウム微粒子の粒径分布を図7に示した。
【0060】
(Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成1)
得られたテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(15mg)を、塩化メチレン(10mL)に分散した。この分散液に0.1mM ZnCl2エタノール溶液(1mL)を加えて常温で3日間攪拌することで、Znイオンをテルピリジル基の一部に結合させ、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料同士の金属イオン架橋を行った。これにより、水素吸蔵材料として、Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(Znイオンの含有量:0.3質量%)を得た。
【0061】
[実施例2]
(Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成2)
実施例1と同様の方法で作製したテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(15mg)を、塩化メチレン(10mL)に分散した。この分散液に0.1mM Zn(BF4)2・6〜7H2Oエタノール溶液(1mL)を加えて常温で3日間攪拌することで、Znイオンをテルピリジル基の一部に結合させ、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料同士の金属イオン架橋を行った。これにより、水素吸蔵材料として、Znイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(Znイオンの含有量:0.3質量%)を得た。
【0062】
[実施例3]
(Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成1)
実施例1と同様の方法で作製したテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(15mg)を、塩化メチレン(10mL)に分散した。この分散液に0.1mM FeCl2・4H2Oエタノール溶液(1mL)を加えて常温で3日間攪拌することで、Feイオンをテルピリジル基の一部に結合させ、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料同士の金属イオン架橋を行った。これにより、水素吸蔵材料として、Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(Feイオンの含有量:0.3質量%)を得た。
【0063】
[実施例4]
(Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の合成2)
実施例1と同様の方法で作製したテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(15mg)を、塩化メチレン(10mL)に分散した。この分散液に0.1mM Fe(BF4)2・6H2Oエタノール溶液(1mL)を加えて常温で3日間攪拌することで、Feイオンをテルピリジル基の一部に結合させ、テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料同士の金属イオン架橋を行った。これにより、水素吸蔵材料として、Feイオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(Feイオンの含有量:0.3質量%)を得た。
【0064】
(金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料のTEM分析)
実施例1〜4で得られた金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料について、透過型電子顕微鏡(FE−TEM、Hitachi HF−2000)分析を行った。得られたTEM像をそれぞれ図8〜図11に示した。なお、図8〜図11に示したTEM像は、金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料をジクロロメタンに分散させたパラジウム微粒子分散液を、TEMの支持膜などの基板上に滴下し、大気中、室温で乾燥させた試料を観察したものである。実施例1〜4のいずれの架橋方法においても、パラジウム微粒子の結合数が10個以下の微小クラスターはほぼなくなり、図5及び図6に示した金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料と比較して、クラスターサイズが成長していることが確認された。
【0065】
(金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の窒素吸着量評価)
実施例1で得られた金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料は、窒素吸着で分析した細孔容積はほぼゼロだったのに対し、実施例1で最終的に得られたZnCl2で架橋したテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料は、細孔容積0.04cm3/g程度となった。金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の窒素吸着等温線(77K)を図12に、金属イオン架橋後のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(実施例1の水素吸蔵材料)の窒素吸着等温線(77K)を図13に、それぞれ示す。
【0066】
(金属イオン架橋テルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料の水素吸蔵量の測定)
実施例1〜4及び比較例1で得られた水素吸蔵材料、並びに、実施例1で得られた金属イオン架橋前のテルピリジル基含有化合物−パラジウム微粒子複合材料(これを「参考例1」とする)について、温度303Kにおける水素吸蔵量を測定した。水素吸蔵量は(株)レスカ製の水素吸蔵量測定装置を用い、水素吸蔵材料の入ったサンプル管部分を303Kの水槽に浸した状態で測定を行った。303Kにおける平衡圧力と水素吸蔵量との関係を図14に示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵能を有する金属微粒子と、
前記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、該特性基により前記金属微粒子と結合している有機化合物と、
前記特性基の一部と結合した金属イオンと、
を含有する水素吸蔵材料。
【請求項2】
前記金属微粒子がPd、V及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む粒子である、請求項1記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
前記有機化合物が芳香環を有する化合物である、請求項1又は2記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
前記有機化合物がイソシアノ基、ピリジル基、カルボキシル基、ホスフィノ基からなる群より選択される少なくとも1種の前記特性基を有する化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
前記金属イオンが、鉄イオン及び亜鉛イオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項6】
2以上の前記金属微粒子が前記有機化合物を介して結合した構造、及び、2以上の前記金属微粒子が前記有機化合物と前記金属イオンとを介して結合した構造を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項1】
水素吸蔵能を有する金属微粒子と、
前記金属微粒子と結合可能な特性基を2以上有し、且つ、該特性基により前記金属微粒子と結合している有機化合物と、
前記特性基の一部と結合した金属イオンと、
を含有する水素吸蔵材料。
【請求項2】
前記金属微粒子がPd、V及びTiからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む粒子である、請求項1記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
前記有機化合物が芳香環を有する化合物である、請求項1又は2記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
前記有機化合物がイソシアノ基、ピリジル基、カルボキシル基、ホスフィノ基からなる群より選択される少なくとも1種の前記特性基を有する化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
前記金属イオンが、鉄イオン及び亜鉛イオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項6】
2以上の前記金属微粒子が前記有機化合物を介して結合した構造、及び、2以上の前記金属微粒子が前記有機化合物と前記金属イオンとを介して結合した構造を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水素吸蔵材料。
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図7】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−131120(P2011−131120A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290540(P2009−290540)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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