説明

水素生成物質の製造方法及びその装置

【課題】 水素原子が付与される物質を還元物質で水素生成物質に変えるときに、還元物質が液相中に残留しないために、水素生成物質のみを所定の濃度にまで引き上げることができる水素生成物質の製造方法を提供する。
【解決手段】 水素生成物質の製造方法は、反応槽2に水素原子が付与される物質21を供給する物質供給工程と、化学反応するときに分解する還元物質22を反応槽2に供給する還元物質供給工程と、水素原子が付与される物質21に還元物質22を化学反応させて水素生成物質23を生成する化学反応工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成物質を生成する水素生成物質の製造方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油などの化石燃料に替わるクリーンな燃料の代表として水素が注目されている。
【0003】
この水素の生成原料を製造する方法に関連して、アメリカのGA(General Atomic)社から水をヨウ素及び二酸化硫黄で分解するIS法(Iodine-Sulfur Method)が提案されている(例えば、特許文献1〜7参照)。
【0004】
この手法は、高温ガス炉で発生する熱エネルギーを利用し、ヨウ素と二酸化硫黄を使用して、水を水素と酸素に分解するというものである。
【0005】
IS法の主要な反応は、3工程から成り立っている。水とヨウ素と二酸化硫黄を70〜100℃において反応させて、水素の原料であるヨウ化水素を生成する。このときに硫酸も同時に生成されるが、ヨウ化水素と硫酸を分離する。2番目の工程として、ヨウ化水素を400℃で熱分解して目的の水素を得る。3番目の工程では、硫酸を900 ℃の高温で熱分解して二酸化硫黄に戻す。ヨウ素はヨウ化水素の熱分解で得られるので、二酸化硫黄と共に再利用する。上述のように、IS法とは、二酸化硫黄、ヨウ素及び熱エネルギーを使用して水を水素と酸素に分解しているので、熱化学分解法とも称されている。
【0006】
このヨウ化水素を水素とヨウ素に分解する反応について、1897年にドイツのM.Bodensteinによって詳細に調査研究がされている。ヨウ化水素分解反応(Bodensteinの反応)は均一気相反応であり、400℃近傍において水素とヨウ素に解離させ、ヨウ化水素、水素及びヨウ素の混合平衡気体として存在させる。この圧平衡定数は50程度と求められており、解離度は22%である。
【0007】
一方、ヨウ化水素はヨウ素に二酸化硫黄あるいは亜硫酸水を作用させることにより酸化還元反応をおこして容易に得ることができる。
【0008】
またこのIS法について、日本原子力研究所において1980年代から基礎研究が行われてきた。ヨウ素と二酸化硫黄を反応させて、ヨウ化水素とし、そのヨウ化水素を水素とヨウ素に分解することによって、燃料である水素を取り出す反応についての研究が進められてきた。
【0009】
なお、ヨウ素と二酸化硫黄はそれぞれ反応生成物を分解することにより再度取り出すことが可能である。実質的には、IS法は、ヨウ素と二酸化硫黄を触媒とした水の分解反応と捉えることができる。
【特許文献1】特公昭60−52081号公報
【特許文献2】特公昭60−48442号公報
【特許文献3】特公平04−37001号公報
【特許文献4】特公平04−37002号公報
【特許文献5】米国特許第4089939号明細書
【特許文献6】米国特許第4089940号明細書
【特許文献7】米国特許第4127644号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来のIS法においては、ヨウ素と二酸化硫黄と水を反応させて目的物のヨウ化水素を生成するためには、生成物である硫酸を分離しなければならない。このためには、多量のヨウ素が必要であり、硫酸水溶液とヨウ素/ヨウ化水素を含んだ水溶液とに2相分離する必要があるという課題がある。
【0011】
また、分離した硫酸を熱分解して再び二酸化硫黄として利用するためには、900℃以上の高温下で行う必要があるという課題がある。
【0012】
さらに、ヨウ化水素を分離抽出することなく得るためには、ヨウ化水素以外の化合物が混在しない水溶液系として取り出すことが必要であるという課題がある。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、水素原子が付与される物質に化学反応するときに分解する還元物質を化学反応させて水素生成物質を生成する水素生成物質の製造方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の水素生成物質の製造方法においては、反応槽に水素原子を付与する物質を供給する物質供給工程と、化学反応するときに分解する還元物質を前記反応槽に供給する還元物質供給工程と、前記水素原子が付与される物質に還元物質を化学反応させて水素生成物質を生成する化学反応工程と、を有することを特徴とするものである。
【0015】
また、上記目的を達成するため、本発明は、ヨウ素、二酸化硫黄及び水を化学反応させてヨウ化水素を生成する水素生成物質の製造方法において、未反応の前記ヨウ素に還元物質としてヒドラジンを作用させて硫黄の生成を低減又は防止するものであること、を特徴とするものである。
【0016】
また、上記目的を達成するため、本発明の水素生成物質の製造装置においては、水素原子が付与される物質に還元物質を化学反応させて水素生成物質を生成する反応槽と、前記還元物質から変化した気体を排気する前記反応槽の上部に設けた排気管と、前記水素原子が付与される物質から変化した水素生成物質を含む水溶液を保管する保管容器と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水素原子が付与される物質に還元物質を化学反応させて水素生成物質に変化するときに、還元物質が気相に移行するために、水素生成物質を含む水溶液のみを所定の濃度にまで引き上げることができる。このため、水素生成物質を含む水溶液の液相が1相であるため、副反応により還元物質から変化した物質がさらに他の物質に変化する恐れがない。
【0018】
また、ヨウ化水素を二酸化硫黄とヨウ素と水から生成する場合には、2相液として容器に移送される。このとき未反応のヨウ素にヒドラジンを作用させることにより下相液のヨウ化水素濃度を高めることができると同時に副反応で生成する硫黄単体も溶解することができる。このため、硫黄単体により液移送の配管が閉塞することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る水素生成原料の製造方法及びその装置の実施の形態について、図1乃至図3を参照して説明する。ここで、同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施の形態の水素生成原料製造装置の構成を示す構成図である。
【0021】
反応槽2の中に水素原子が付与される物質(例えば、ヨウ素等のハロゲン)21を配管1から注入する。還元物質(例えば、シュウ酸等の有機酸)22を配管3から注入し、ポンプ4を用いて反応槽2の中を循環させ水素原子が付与される物質21と還元物質22とを反応させる。還元物質22が水素原子が付与される物質21を還元し、水素原子が付与された物質である水素生成物質23(例えば、ヨウ化水素)を生成した後に循環を止める。この後バルブ5を開き、この水素生成物質23を配管6を介して保管容器7へ移送する。保管容器7内で水素原子が付与された物質である水素生成物質23と還元物質22から変化した物質を分離した後に、水素原子が付与された物質である水素生成物質23のみを配管8から分離して取り出す。
【0022】
このように構成された本実施の形態において、反応槽2内で水素原子が付与される物質21に対して、還元物質22が有する水素原子あるいは水等の溶媒が持つ水素原子を、化学反応させることにより付与することができる。このとき、還元物質22と水素原子が付与される物質21が十分に混合されるようにポンプ4を使用して循環させる。保管容器7へ移送された反応生成物、すなわち水素原子が付与された物質である水素生成物質23と還元物質から変化した物質は、それぞれの密度等の物理化学的性質を利用して分離し、水素原子が付与された物質である水素生成物質23を配管8から単離する。
【0023】
本実施の形態によれば、ポンプ4を使用して反応槽2の中で還元物質22と水素原子が付与される物質21を循環させて混合することにより、水素生成物質23の生成量を引き上げることができる。また、保管容器7内で各反応生成物の物理化学的性質の違いを利用することにより、水素原子が付与された物質である水素生成物質23の回収率を引き上げることができる。
【0024】
図2は、本発明の第2の実施の形態の水素生成原料製造装置の構成を示す構成図である。
【0025】
この本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態に、還元物質22から変化した物質24を処理する手段を追加して設けたものであり、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0026】
反応槽2に注入された還元物質22は、ポンプ4により反応槽2内で水素原子が付与される物質21と循環混合中に反応して、気相に移行する。このとき気相に移行した還元物質22から変化した物質(例えば、二酸化炭素)24は排気タンク9を経て大気中に放出される。同時に、排気タンク9の内壁に付着する反応生成物は、バルブ11を介して溶媒貯蔵タンク12から供給される溶媒を循環ポンプ10により循環することにより洗浄されて、反応槽2へ回収される。この反応槽2における反応の後に、保管容器7へ移送された水素原子が付与された物質である水素生成物質23は分離工程を経ることなく配管8を経由して次工程へ移送される。
【0027】
このように構成された本実施の形態において、反応槽2内で、水素原子が付与される物質21に対して、還元物質22が有する水素原子あるいは水等の溶媒が持つ水素原子を、化学反応させることにより付与すると同時に還元物質が分解して気相に移行して、還元物質22は液相中の反応生成物中に残留しない。
【0028】
水素原子を付与する作用を持ち気体として分解される還元物質として、有機酸であるシュウ酸、ギ酸又は窒素化合物であるヒドラジン等を選定する。
【0029】
水素原子が付与される物質としてヨウ素を選択した場合の反応式は、下記の(1)〜(3)式のようになる
+ H → 2HI + 2CO (1)
+ HCOOH → 2HI + CO (2)
2I + N → 4HI + N (3)
このように構成された本実施の形態において、有機酸などの炭素化合物は分解後に二酸化炭素に変化し気相に移行する。また、窒素化合物であるヒドラジンは分解後に窒素となり気相に移行する。
【0030】
本実施の形態によれば、分解して気体となって気相へ移行する還元物質を使用することにより、還元物質から変化した物質と水素原子が付与された物質である水素生成物質23を分離する必要がなく、水素を生成する原料として水素を付与した物質を単離せずに得ることができる。
【0031】
図3は、本発明の第3の実施の形態の水素生成原料製造装置の構成を示す構成図である。この本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態に未反応の水素原子が付与される物質21に対して還元物質を注入する手段を追加して設けたものであり、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
保管容器7に移送された水素原子が付与された物質である水素生成物質23及び未反応の水素原子が付与される物質21に対して、バルブ13を開放して、還元物質貯蔵タンク14中の還元物質22aを、配管15を介して注入する。保管容器7内において、還元物質22aと水素原子が付与される物質21とを反応させて水素原子が付与された物質である水素生成物質23を生成した後に、水素原子が付与された物質である水素生成物質23を、配管8を経由して次工程へ移送する。
【0033】
このように構成された本実施の形態において、水素を付与する物質としてヨウ素を選択し、還元物質としてヒドラジンを使用した場合に、上述の(3)式に示す反応が起きる。このとき、保管容器7内の液相には、水素原子が付与された物質としてヨウ化水素のみが生成する。このヨウ化水素が所定の濃度に到達した段階で、このヨウ化水素を配管8を介して次工程、すなわちヨウ化水素の濃縮又は分解し水素を製造する工程(図示せず)へ移送する。
【0034】
本実施の形態によれば、未反応の水素原子が付与される物質21を還元物質22で水素原子が付与された物質である水素生成物質23に変えるときに、還元物質は気相に移行し液相中に残留しないために、水素製造の原料である水素生成物質23のみを所定の濃度にまで引き上げることができる。また、水素製造の原料である水素生成物質23が溶解している液相は1相だけであるため、副反応により還元物質から変化した物質がさらに他の物質に変化する恐れがなく、この取り扱いが簡便である。
【0035】
なお、従来のヨウ素、二酸化硫黄及び水を反応槽2において化学反応させてヨウ化水素を生成する場合には、ヨウ化水素および硫酸の2相液として保管容器7に移送される。このとき、未反応のヨウ素に還元物質としてヒドラジンを作用させることにより、下相液のヨウ化水素濃度を高めることができる。同時に、副反応で生成する硫黄単体も溶解することができる。この硫黄単体の溶解により、硫黄単体に起因して配管が閉塞することを防止することができる。
【0036】
さらに、本発明は、上述したような各実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施の形態の水素生成原料製造装置の構成を示す構成図。
【図2】本発明の第2の実施の形態の水素生成原料製造装置の構成を示す構成図。
【図3】本発明の第4の実施の形態の水素生成原料製造装置の構成を示す構成図。
【符号の説明】
【0038】
1…配管、2…反応槽、3…配管、4…ポンプ、5…バルブ、6…配管、7…保管容器、8…配管、9…排気管、10…ポンプ、11…バルブ、12…溶媒貯蔵タンク、13…バルブ、14…還元物質貯蔵タンク、15…配管、21…水素原子が付与される物質、22…還元物質、23…水素生成物質、24…還元物質から変化した物質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽に水素原子が付与される物質を供給する物質供給工程と、
化学反応するときに分解する還元物質を前記反応槽に供給する還元物質供給工程と、
前記水素原子が付与される物質に還元物質を化学反応させて水素生成物質を生成する化学反応工程と、
を有することを特徴とする水素生成物質の製造方法。
【請求項2】
前記物質供給工程は、前記水素原子が付与される物質としてハロゲンを使用するものであること、を特徴とする請求項1記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項3】
前記物質供給工程は、前記ハロゲンとしてヨウ素を使用するものであること、を特徴とする請求項1又は2記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項4】
前記還元物質供給工程は、前記還元物質が化学反応するときに気相に移行するものであること、を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項5】
前記還元物質供給工程は、前記還元物質として有機酸を使用するものであること、を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項6】
前記還元物質供給工程は、前記有機酸としてシュウ酸及びギ酸から選択された少なくとも1種を使用するものであること、を特徴とする請求項5記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項7】
前記還元物質供給工程は、前記還元物質として窒素化合物を使用するものであること、を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項8】
前記還元物質供給工程おいて、前記窒素化合物としてヒドラジンを使用するものであること、を特徴とする請求項7記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項9】
前記化学反応工程において、前記ハロゲンに還元剤を作用させて水素生成物質としてハロゲン化水素を生成するものであること、を特徴とする請求項2記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項10】
前記化学反応工程は、前記ハロゲン化水素としてヨウ化水素を生成するものであること、を特徴とする請求項9記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項11】
前記化学反応工程において、前記還元物質が気体に移行し、前記ヨウ化水素を含む水溶液を生成するものであること、を特徴とする請求項10記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項12】
前記化学反応工程の後に、前記ヨウ素に還元物質を作用させてヨウ化水素の濃度を制御するヨウ化水素濃度制御工程をさらに有すること、を特徴とする請求項11記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項13】
前記ヨウ化水素濃度制御工程において、前記還元物質としてヒドラジンを作用させるものであること、を特徴とする請求項12記載の水素生成物質の製造方法。
【請求項14】
ヨウ素、二酸化硫黄及び水を化学反応させてヨウ化水素を生成する水素生成物質の製造方法において、未反応の前記ヨウ素に還元物質としてヒドラジンを作用させて硫黄の生成を抑制するものであること、を特徴とする水素生成物質の製造方法。
【請求項15】
水素原子が付与される物質に還元物質を化学反応させて水素生成物質を生成する反応槽と、
前記還元物質から変化した気体を排気する前記反応槽の上部に設けた排気管と、
前記水素原子が付与される物質から変化した水素生成物質を含む水溶液を保管する保管容器と、
を有することを特徴とする水素生成物質の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−151700(P2006−151700A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339971(P2004−339971)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)