水素貯蔵容器への水素充填方法および水素充填監視装置
【課題】水素貯蔵合金容器への水素充填に際し、充填完了に至る残り時間を定量的に示すことを可能にする。
【解決手段】水素貯蔵容器への水素充填に際し充填進行に従って変化する物理量を所定時間毎に測定する測定手段10、13と、物理量の時間変化を近似式にフィッティングさせる近似式算出手段20と、近似式に基づいて充填完了までの残り時間を算出する残り時間算出手段20を備える。水素の充填完了の予測時間を容易に算出できる。充填作業を効率よく行うことができる。複数の水素貯蔵容器に水素を連続して充填する場合、初期水素残量が容器ごとに異なっていても充填完了時間を予測することで充填作業を短縮化できる。一般利用者などは、水素充填時間の予測により時間を有効利用できる。
【解決手段】水素貯蔵容器への水素充填に際し充填進行に従って変化する物理量を所定時間毎に測定する測定手段10、13と、物理量の時間変化を近似式にフィッティングさせる近似式算出手段20と、近似式に基づいて充填完了までの残り時間を算出する残り時間算出手段20を備える。水素の充填完了の予測時間を容易に算出できる。充填作業を効率よく行うことができる。複数の水素貯蔵容器に水素を連続して充填する場合、初期水素残量が容器ごとに異なっていても充填完了時間を予測することで充填作業を短縮化できる。一般利用者などは、水素充填時間の予測により時間を有効利用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素吸蔵合金などの水素貯蔵材料を用いた水素貯蔵容器に水素を充填する際の水素充填方法および水素充填監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金などの水素貯蔵材料を用いた水素貯蔵容器では、水素の放出がなされた後には、再度水素を充填して繰り返し使用がなされている。この水素貯蔵容器に対する従来の水素充填手法では、充填の短時間化技術や自動化技術などの創意工夫はなされてきたが、充填完了までの時間を定量的に予測する技術はこれまで検討されてこなかった。したがって、水素残量が毎回異なる水素貯蔵容器へ水素を充填する場合、充填装置に接続された貯蔵容器の圧力、温度あるいは水素流量を定期的にチェックして充填が完了しているか否かを判断する必要がある。このため、複数の貯蔵容器を連続して水素充填する際、効率的な充填作業が望むことが難しい。水素充填の完了を検出する装置としては、特許文献1で提案されているものがある。この装置では、水素吸蔵合金容器の温度を一定に保つように水素流量を調整し、合金のPCT特性に基づいた満充填圧力に達すると水素充填を完了するものと判定をする。
【特許文献1】特開平8−128597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、充填の完了をある程度正確に知ることができるが、水素貯蔵容器の温度が一定となるように水素流量を随時調整しているため、水素流量を調整しない場合に比べて充填時間が長くなり、装置コストも高くなる。何より、充填完了までの予測時間の算出ができないため、効率的な水素充填は期待できない。
また、水素充填に必要な時間は1時間以上に及ぶこともあるが、充填完了までの時間を定量的に予測することができないと、一般利用者が水素充填設備において水素貯蔵容器に水素を充填する際、いつ頃終了するのか分からず、時間の有効利用ができないなどの問題がある。
【0004】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、水素充填完了までの予測時間を算出することができる水素充填方法および水素充填監視装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明のうち、請求項1記載の発明は、水素貯蔵容器への水素充填に際し、該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定し、前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングして、前記水素の充填完了の予測時間を算出することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項1記載の発明において、前記充填完了の予測時間の算出は、充填完了時に示す前記物理量に基づいて前記近似式から求めることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記測定中に、前記近似式を前記物理量の変化に基づいて適時修正をし、修正された近似式に基づいて再度、前記水素の充填完了までの予測時間を算出することを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記物理量が充填水素流量、水素圧力、水素貯蔵容器重量、水素貯蔵容器温度、冷却媒体温度、水素貯蔵容器表面歪み、供給側水素残量のいずれかであることを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、算出された前記充填完了時間が異常であるか否かの判定を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項5記載の発明において、算出された前記充填完了時間が異常であると判定される場合に、異常時制御を行うことを特徴とする。
【0011】
請求項7記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項6記載の発明において、前記異常時制御が、異常を知らせる通知であることを特徴とする。
【0012】
請求項8記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項6または7に記載の発明において、前記異常時制御が、水素の充填処理を自動的に停止するものであることを特徴とする。
【0013】
請求項9記載の水素充填監視装置の発明は、水素貯蔵容器への水素充填に際し該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定する測定手段と、該測定手段により得られる前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングさせる近似式算出手段と、前記近似式に基づいて充填完了までの残り時間を算出する残り時間算出手段とを備えることを特徴する。
【0014】
請求項10記載の水素充填監視装置の発明は、請求項9記載の発明において、前記残り時間算出手段で算出された残り時間を通知する通知手段を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項11記載の水素充填監視装置の発明は、請求項9または10に記載の発明において、前記残り時間算出手段で算出された残り時間が異常であるか否かを判定する残り時間異常判定手段を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項12記載の水素充填監視装置の発明は、請求項9〜11のいずれかに記載の発明において、前記異常判定手段によって異常判定がなされたときに、異常時動作を行わせる異常時制御手段を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項13記載の水素充填監視装置の発明は、請求項12記載の発明において、前記異常時動作が、異常であることを通知する動作であることを特徴とする。
【0018】
請求項14記載の水素充填監視装置の発明は、請求項12または13記載の発明において、前記異常時動作が、水素充填処理を自動停止させる動作であることを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明の水素貯蔵容器への水素充填方法によれば、水素充填時に水素流量や温度などの物理量を定期的に計測し、その時間変化を適切な近似式にフィッティングすることで、充填完了までの推定時間を逐次算出することができる。
上記測定される物理量は充填初期から完了までを通じて測定可能な変化を伴うものが適切である。また、測定における時間間隔は、近似式の適切な算出ができることなどを考慮して適宜定めることができる。以下に適用可能な物理量とその特徴を列記する。
【0020】
(充填水素流量)
水素流量の充填に伴う経時変化を図1に示す。充填開始直後は充填圧力に比べて容器内部圧力が低いため、充填水素流量は急激に増加してピークに達するが、速やかに圧力が均衡するので流量は落ちる。その後、水素流量は水素貯蔵材料の水素吸収速度に等しい値に落ち着き、充填完了まで徐々に降下していく。水素が満充填に至ると流量は0となる。なお、充填水素流量は、充填に用いる供給管などに例えば流量計などを配置することで測定することができる。
【0021】
(水素圧力)
水素貯蔵容器内圧力の充填に伴う経時変化を図2に示す。充填開始直後から、容器内圧力は充填圧力とほぼ同じ値になるまで急激に上昇する。これは、水素貯蔵材料の水素吸収速度が低く、水素供給過剰となるので、充填圧力と容器内圧力との間に圧力差がほとんど発生しないためである。しかしながら、充填完了まで若干の差圧が存在するので、これを利用して残り時間を計算することは不可能ではない。なお、水素圧力は、例えば圧力計などにより測定することができる。
【0022】
(水素貯蔵容器重量)
容器重量の充填に伴う経時変化を図3に示す。一般的な貯蔵容器では、満充填時の水素の重量は容器全体の重量に比べて数%程度であり、十分重量計測で判別できる変化である。しかしながら、重量測定の際、水素貯蔵容器に水滴等の付着や部品等の脱落があると水素充填進行度の見積もりに誤差が生じることから、実際の適用には困難な点が多い。なお、容器重量は例えばロードセルなどにより測定することができる。
【0023】
(水素貯蔵容器温度)
容器表面および内部温度の充填に伴う経時変化を図4に示す。水素貯蔵材料は一般に水素を吸収すると発熱する特性を持つため、充填開始直後の容器温度は急速に上昇する。しかしながら、水素貯蔵材料の水素吸収平衡圧力は温度とともに上昇するので、平衡圧力が充填水素圧力とバランスする温度となったら水素吸収が停止し、温度もそれ以上上昇しなくなる。一方、容器表面から外部冷却媒体によって熱を奪われていくため、一転して徐々に温度が降下していく。熱伝達しやすい容器表面ほど温度が早く降下し始め、容器中心部はそれに遅れて温度降下する。充填が完了すると、容器温度は冷却媒体温度で一定となる。容器温度は、例えば熱電対などを用いた温度計により測定することができる。
【0024】
(冷却媒体温度)
水素貯蔵容器の冷却媒体が流路に沿って流れている場合、その入口温度と出口温度の差を計測することでも充填進行を読み取ることが可能である。流量が同じであれば、充填が進むにしたがって温度差が小さくなり、充填が完了すると温度差が0となる。該冷却媒体温度も例えば熱電対などを用いた温度計により測定することができる。
【0025】
(容器表面歪み)
容器表面歪みの充填に伴う経時変化を図5に示す。水素貯蔵材料は一般に水素を吸収するとその体積を増大させるため、水素貯蔵容器の表面歪みは水素充填に伴って増大する。充填が完了すると、所定の歪み量に達する。歪み量は、例えば歪み計などにより測定することができる。
【0026】
上記物理量の他に、今後開発が期待される水素残量計の出力も同様に充填完了予測時間の計算に用いることが可能であり、要は水素の充填進行に従って変化をする物理量であれば、上記以外でも測定の対象として残り時間の算出に利用することができる。
上記物理量は、既知の測定装置などの測定手段を用いて測定できるものであればよく、本発明としては、特に測定手段の構成が限定されるものではない。
【0027】
測定された物理量データはその時の経過時間データとともにプログラマブルコンピュータなどに記録することができる。該記憶は、RAMやフラッシュメモリ、HDDなどの随時書込み読出しが可能な記憶手段に対し行うことができる。
なお、充填初期は各物理量が安定しないため、充填開始後適当な時間待機してから計測を始めてもよい。近似式の次数に応じた必要データ数(n次式であれば必要データ数は最低n+1組)が集まったならば、近似式パラメータの計算を実施し、近似式へのフィッティングを行う。該計算は、CPUとこれを動作させるプログラムなどにより構成される近似式算出手段により行うことができる。近似式が導出されたならば、物理量の変数に充填完了の指標値を代入し、経過時間を演算することができる。このときの指標値としては、充填水素流量を用いる場合は0、容器表面温度ならば冷却媒体温度といったように理論的な到達値に設定するのも良いが、予備試験の結果から任意に設定するのが望ましい。指標値は、測定する物理量に合わせて定められる。計算で得られた完了に至る経過時間から現在までの経過時間を差し引くことで充填完了までの予測時間を算出することができる。これらのシーケンスは定期計測の度に実行され、充填完了予測時間を逐次更新していくのが望ましい。
【0028】
得られた充填完了予測時間は、デジタル表示で具体的な時間を表示したり、数段階のランプでおおよその時間を指示したりする方法で逐次ユーザーに通知することができ、また、適宜の通信手段(LAN、ネットワーク、電話回線など)を介して通知をすることも可能であり、通知方法は特に限定されない。測定物理量が充填完了の指標値に達した場合、ランプの点灯や音声などでユーザーに充填完了の旨を通知することも可能である。
【0029】
また、充填完了予測時間が極端に長く、水素リーク等のおそれがある場合などに備えて異常の判定を行うことができる。異常判定では、予め適正と考えられる充填間時間を設定しておき、この充填完了時間との対比によって異常か否かの判定を行うことができる。また、異常の程度を段階的に定めるようにしてもよい。異常であると判定される場合には、予め定めた異常時制御を行うことができる。例えば、操作者や保守者に異常の通知(警報など)を発したりすることができる。また、水素充填装置を制御して水素充填作業を停止させることも可能である。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明の水素貯蔵容器への水素充填方法によれば、水素貯蔵容器への水素充填に際し、該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定し、前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングして、前記水素の充填完了の予測時間を算出するので、水素充填までに要する時間を容易に予測することができ、充填作業を効率よく行うことができる。例えば、複数の水素貯蔵容器に水素を連続して充填する必要があり、しかも初期水素残量が容器ごとに異なっていて一律の充填時間では時間効率が悪い場合、本発明によって充填完了時間を予測することで充填作業を短縮化する効果が見込まれる。さらに、一般利用者にとっては、水素充填時間を予測することで、無用に充填完了を待ち続けることなく、時間を有効に使うことができる。
また、充填完了予測時間が極端に長い結果となった場合は、水素リークのおそれがある場合などに異常をユーザーに報知するなどの適切な対応することが可能になる。
【0031】
さらに、本発明の水素充填監視装置によれば、水素貯蔵容器への水素充填に際し該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定する測定手段と、該測定手段により得られる前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングさせる近似式算出手段と、前記近似式に基づいて充填完了までの残り時間を算出する残り時間算出手段とを備えるので、充填予測時間を容易に算出することができ、上記効果が確実に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態を図6〜8に基づいて説明する。
図6に示されるシステムは、水素充填装置を構成する水素ボンベ1と水素供給管2と水素貯蔵容器3とを備えており、水素ボンベ1に一端を接続した水素供給管2の他端に水素貯蔵容器3が接続されている。水素貯蔵容器3は、内部に図示しない水素吸蔵合金が収容されており、外部表面は、冷却水導入管4aと冷却水排出管4bとが接続された冷却水ジャケット4でカバーされている。なお、上記では水素貯蔵容器における冷却方法は、外部冷却式となっているが、内部冷却式のものであっても同様に適用可能であり、本発明としては水素貯蔵容器の構造が特に限定されるものではない。
【0033】
また、上記水素供給管2には、水素充填装置として開閉弁5とレギュレータ6とが介設されている。また、水素供給管2には、レギュレータ6の下流側に、測定手段である水素流量計10を挟んで電磁開閉弁11、12が介設されており、それぞれ制御部20に電気的に接続されている。該接続により、水素流量計10の測定結果は制御部20に出力可能となっており、また、電磁開閉弁11、12の開閉動作は制御部20により制御可能となっている。また、前記水素貯蔵容器3の外表面には、該水素貯蔵容器3の外表面温度を測定する、測定手段である温度計13が設置されており、該温度計13は、前記制御部20に電気的に接続されて、その測定結果が制御部20に出力可能とされている。
また、前記制御部20には、操作者が視認できるように水素充填残り時間を表示する、通知手段であるインジケータ14が接続され、さらに、操作者に音で通知を行うブザー14が接続されている。また、制御部20には、経過時間を測定するタイマ21とデータの記憶、読出しを行う、フラッシュメモリ、HDDなどの記憶部22が接続されている
【0034】
上記した制御部20は、例えばCPUとこれを動作させるプログラムとを主にして構成することができる。該制御部20は、上記した水素流量計10や温度計13で得られる物理量の測定結果を受けて、水素充填に伴う物理量の時間的変化をフィッティングさせる近似式の算出が可能になっており、本発明の近似式算出手段としての機能を有している。上記により得られる近似式からは、水素の充填完了時における物理量を予め把握しておくことで水素充填完了予測時間を算出することができる。したがって、制御部20は、残り時間算出手段としての機能を有している。
【0035】
また、制御部20では、予め正常と判定される充填完了時間データを記憶部22に記憶させておき、これを読み出して予測される充填完了時間と対比することで充填の異常判定を行うことができる。したがって制御部20は、本発明の残り時間異常判定手段としての機能を有している。さらに制御部20は、後述するように、異常判定に従って電磁開閉弁11、12やブザー15の動作を制御することができ、異常時制御手段としての機能も有している。
【0036】
上記した制御部20、流量計10、電磁制御弁11、12、温度計13、インジケータ14、ブザー15、タイマ21および記憶部22は、本発明の水素充填監視装置を構成している。該水素充填監視装置は、水素充填装置とは独立したものでもよく、または水素充填装置に包含されるものであってもよい。
【0037】
次に、上記水素充填装置および充填監視装置を用いた水素充填方法を図7のフローチャートを参照しつつ説明する。
水素の充填開始に際しては、開閉弁2、電磁弁11、12を開き、水素ボンベ1から水素供給管2を通して水素貯蔵容器3への水素の供給を開始する(ステップS1)。水素の供給に際してはレギュレータ6で流れ調整がなされて水素が水素貯蔵容器3に導入される。また、水素の供給に伴って冷却水ジャケット4に冷却水導入管4aと冷却水排出管4bを通して冷却水を通水し、水素貯蔵容器3の冷却を行う。水素貯蔵容器3では、水素吸蔵に伴う水素吸蔵合金の発熱が上記冷却水により冷却され、円滑に水素吸蔵が進行する。
【0038】
上記した水素の充填を予め定めた安定待機時間まで続行し(ステップS2)、安定待機時間経過後前記した物理量の測定を開始する(ステップS3)。なお、経過時間は、前記したタイマ21のカウントにより行うことができ、測定開始時には、測定物理量に応じた充填完了指標値qf、近似式に必要な次数kを設定しておく。該充填完了指標値qfおよび必要次数kは、予め記憶部22に記憶させておき、これを読み出すことで設定を行うことができる。
【0039】
該物理量の測定においては、流量計10において水素供給管2を流れる水素の流量を予め定めた所定の時間毎に測定し、測定データを制御部20に送出する。また、同じく、該測定においては、温度計13によって水素貯蔵容器3の外表面温度を所定時間毎に測定し、測定データを制御部20に送出する。なお、測定データは、流量計10、温度計13のいずれかによって得られるものであればよく、両方をそれぞれ用いることも可能である。
測定データは、計測点数n、経過時間tn、計測物理量qnとして逐次得られ(ステップs4)、制御部20の制御によって記憶部22のデータテーブルに格納される(ステップs5)。次ステップs6では、計測物理量qnが、充填完了指標値qfを越えているか否かの判定がなされ、越えていると判定される場合には、充填完了とする(ステップs7)。ステップs7では、制御部20の制御によって充填完了をブザー15で報知することができ、また、電磁開閉弁11、12を閉とすることもできる。
【0040】
上記ステップs6で、計測物理量qnが、充填完了指標値qfを越えてない場合、次いで計測点数nが必要次数kに達したか否かの判定がなされる(ステップs8)。ここで計測点数nが必要次数kに達していない場合、ステップs4に戻り、さらに測定が継続され、測定データ数を積み増す。
一方、ステップs7で計測点数nが必要次数kに達していると判定される場合、制御部20においてデータテーブルに格納された前記データが読み出され、該データに基づいて近似式の算出が行われ、測定物理量の時間的変化のフィッティングがなされる(ステップs9)。該近似式によって、充填完了指標値qfを用いて充填完了となる完了予測経過時間tfを算出する。次いで、それまでに経過した時間を積算し、該完了予測経過時間tfから前記積算経過時間を差し引いて、充填完了に至る残り時間を算出する(ステップs10)。算出結果は、制御部20の動作によって前記したインジケータ14にデジタル表示される(ステップS11)。次いで、完了予測経過時間tfが予め設定した正常水素充填完了時間の範囲内あるか否かの判定を行い、範囲外にある場合には異常であるとの判定を行い、異常時制御処理を行う(ステップs13)。正常水素充填完了時間は例えば記憶部22に予め格納しておき、必要に応じて読み出すことができる。上記判定が正常である場合、計測物理量が充填完了指標値qfに達するまで上記処理(ステップs4〜s12)を繰り返し行う。
【0041】
異常時制御処理では、図8に示すように、前記測定手段による測定を終了し(ステップs130)、ブザー15による異常報知により警報を発する(ステップs131)。該異常報知では、前記した充填完了時のブザー報知とは内容を異にすることで、区別が可能である。次いで、電磁開閉弁11、12を閉じて水素充填処理を中止する。これにより水素漏れなどによる不具合を早期に回避することが可能になる。なお、指標となる正常水素充填完了時間を段階的なものとして複数定めることで異常判定を段階的に行って、異常が小とされる場合に警報を発し、異常が大とされる場合に水素充填の完了を行うようにしてもよい。
以上、上記実施形態に基づいて本発明の内容を説明したが、本発明が上記説明内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【実施例1】
【0042】
以下、本発明の実施例を説明する。
図6に示す装置構成において、水素貯蔵容器として、定格水素貯蔵量200NLの水素貯蔵合金内蔵キャニスターを用いた場合の水素充填試験を実施した。このときの充填水素圧力は1MPaGとし、貯蔵容器は5℃の冷水で冷却した。
【0043】
上記水素充填試験において、充填試験での水素貯蔵量(充填水素流量の積算値)、充填水素流量、容器表面温度の3種類のパラメータの経時変化をまとめ、図9に示した。
充填開始直後は充填水素流量、容器表面温度ともに急上昇するが、30秒〜1分程度でピークを迎え、続いてなだらかに減少し始める。充填水素流量が計測限界以下となった時点を充填完了とすると、流量、容器表面温度ともに充填完了までほぼ直線的に減少しているのが読み取れる。そこで、前記実施形態で示した図7のシーケンスを利用して直線近似式を適用した場合の充填完了時間予測結果を以下に説明する。
【0044】
充填水素流量、容器表面温度ともほぼ直線減少に安定する2分後から、1分間隔でそれぞれの物理量を計測する。そして3組の計測データが収集できた時点、すなわち4分後から2分ごとに最小二乗法による直線式を導出した。このとき、充填水素流量の充填完了指標値は1NL/min、容器表面温度の充填完了指標値は22℃とした。図10に充填水素流量、図11に容器表面温度の直線近似グラフ推移を示す。また、図12に実際の充填完了までの残り時間と、充填水素流量および容器表面温度それぞれから予測された残り時間との対比を示す。図に示すように、充填水素流量、容器表面温度とも充填が進むにつれて、実際の充填完了までの残り時間に一致する傾向を示した。特に、容器表面温度はほぼ直線的な時間変化をしているため、直線近似によって非常によい精度で残り時間が予測できた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】水素貯蔵容器への水素充填に伴う、水素流量の経時変化を示す模式図である。
【図2】同じく、容器内水素圧力の経時変化を示す模式図である。
【図3】同じく、水素貯蔵容器重量の経時変化を示す模式図である。
【図4】同じく、水素貯蔵容器温度の経時変化を示す模式図である。
【図5】同じく、水素貯蔵容器表面ひずみの経時変化を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態の水素充填監視装置を含むシステムの構成図である。
【図7】本発明の一実施形態の水素充填方法を示すフローチャートである。
【図8】同じく、水素充填方法の一部工程を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例における測定物理量の経時変化を示す模式図である。
【図10】同じく、充填水素流量に関し、最小二乗法による直線近似式を適用したグラフである。
【図11】同じく、容器表面温度に関し、最小二乗法による直線近似式を適用したグラフである。
【図12】同じく、実際の充填完了までの残り時間と充填水素流量および容器表面温度それぞれから予測された残り時間との対比を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1 水素ボンベ
2 水素供給管
3 水素貯蔵容器
4 冷却ジャケット
10 流量計
11 電磁開閉弁
12 電磁開閉弁
13 温度計
14 インジケータ
15 ブザー
20 制御部
21 タイマ
22 記憶部
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素吸蔵合金などの水素貯蔵材料を用いた水素貯蔵容器に水素を充填する際の水素充填方法および水素充填監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金などの水素貯蔵材料を用いた水素貯蔵容器では、水素の放出がなされた後には、再度水素を充填して繰り返し使用がなされている。この水素貯蔵容器に対する従来の水素充填手法では、充填の短時間化技術や自動化技術などの創意工夫はなされてきたが、充填完了までの時間を定量的に予測する技術はこれまで検討されてこなかった。したがって、水素残量が毎回異なる水素貯蔵容器へ水素を充填する場合、充填装置に接続された貯蔵容器の圧力、温度あるいは水素流量を定期的にチェックして充填が完了しているか否かを判断する必要がある。このため、複数の貯蔵容器を連続して水素充填する際、効率的な充填作業が望むことが難しい。水素充填の完了を検出する装置としては、特許文献1で提案されているものがある。この装置では、水素吸蔵合金容器の温度を一定に保つように水素流量を調整し、合金のPCT特性に基づいた満充填圧力に達すると水素充填を完了するものと判定をする。
【特許文献1】特開平8−128597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、充填の完了をある程度正確に知ることができるが、水素貯蔵容器の温度が一定となるように水素流量を随時調整しているため、水素流量を調整しない場合に比べて充填時間が長くなり、装置コストも高くなる。何より、充填完了までの予測時間の算出ができないため、効率的な水素充填は期待できない。
また、水素充填に必要な時間は1時間以上に及ぶこともあるが、充填完了までの時間を定量的に予測することができないと、一般利用者が水素充填設備において水素貯蔵容器に水素を充填する際、いつ頃終了するのか分からず、時間の有効利用ができないなどの問題がある。
【0004】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、水素充填完了までの予測時間を算出することができる水素充填方法および水素充填監視装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明のうち、請求項1記載の発明は、水素貯蔵容器への水素充填に際し、該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定し、前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングして、前記水素の充填完了の予測時間を算出することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項1記載の発明において、前記充填完了の予測時間の算出は、充填完了時に示す前記物理量に基づいて前記近似式から求めることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記測定中に、前記近似式を前記物理量の変化に基づいて適時修正をし、修正された近似式に基づいて再度、前記水素の充填完了までの予測時間を算出することを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記物理量が充填水素流量、水素圧力、水素貯蔵容器重量、水素貯蔵容器温度、冷却媒体温度、水素貯蔵容器表面歪み、供給側水素残量のいずれかであることを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、算出された前記充填完了時間が異常であるか否かの判定を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項5記載の発明において、算出された前記充填完了時間が異常であると判定される場合に、異常時制御を行うことを特徴とする。
【0011】
請求項7記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項6記載の発明において、前記異常時制御が、異常を知らせる通知であることを特徴とする。
【0012】
請求項8記載の水素貯蔵容器への水素充填方法の発明は、請求項6または7に記載の発明において、前記異常時制御が、水素の充填処理を自動的に停止するものであることを特徴とする。
【0013】
請求項9記載の水素充填監視装置の発明は、水素貯蔵容器への水素充填に際し該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定する測定手段と、該測定手段により得られる前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングさせる近似式算出手段と、前記近似式に基づいて充填完了までの残り時間を算出する残り時間算出手段とを備えることを特徴する。
【0014】
請求項10記載の水素充填監視装置の発明は、請求項9記載の発明において、前記残り時間算出手段で算出された残り時間を通知する通知手段を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項11記載の水素充填監視装置の発明は、請求項9または10に記載の発明において、前記残り時間算出手段で算出された残り時間が異常であるか否かを判定する残り時間異常判定手段を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項12記載の水素充填監視装置の発明は、請求項9〜11のいずれかに記載の発明において、前記異常判定手段によって異常判定がなされたときに、異常時動作を行わせる異常時制御手段を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項13記載の水素充填監視装置の発明は、請求項12記載の発明において、前記異常時動作が、異常であることを通知する動作であることを特徴とする。
【0018】
請求項14記載の水素充填監視装置の発明は、請求項12または13記載の発明において、前記異常時動作が、水素充填処理を自動停止させる動作であることを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明の水素貯蔵容器への水素充填方法によれば、水素充填時に水素流量や温度などの物理量を定期的に計測し、その時間変化を適切な近似式にフィッティングすることで、充填完了までの推定時間を逐次算出することができる。
上記測定される物理量は充填初期から完了までを通じて測定可能な変化を伴うものが適切である。また、測定における時間間隔は、近似式の適切な算出ができることなどを考慮して適宜定めることができる。以下に適用可能な物理量とその特徴を列記する。
【0020】
(充填水素流量)
水素流量の充填に伴う経時変化を図1に示す。充填開始直後は充填圧力に比べて容器内部圧力が低いため、充填水素流量は急激に増加してピークに達するが、速やかに圧力が均衡するので流量は落ちる。その後、水素流量は水素貯蔵材料の水素吸収速度に等しい値に落ち着き、充填完了まで徐々に降下していく。水素が満充填に至ると流量は0となる。なお、充填水素流量は、充填に用いる供給管などに例えば流量計などを配置することで測定することができる。
【0021】
(水素圧力)
水素貯蔵容器内圧力の充填に伴う経時変化を図2に示す。充填開始直後から、容器内圧力は充填圧力とほぼ同じ値になるまで急激に上昇する。これは、水素貯蔵材料の水素吸収速度が低く、水素供給過剰となるので、充填圧力と容器内圧力との間に圧力差がほとんど発生しないためである。しかしながら、充填完了まで若干の差圧が存在するので、これを利用して残り時間を計算することは不可能ではない。なお、水素圧力は、例えば圧力計などにより測定することができる。
【0022】
(水素貯蔵容器重量)
容器重量の充填に伴う経時変化を図3に示す。一般的な貯蔵容器では、満充填時の水素の重量は容器全体の重量に比べて数%程度であり、十分重量計測で判別できる変化である。しかしながら、重量測定の際、水素貯蔵容器に水滴等の付着や部品等の脱落があると水素充填進行度の見積もりに誤差が生じることから、実際の適用には困難な点が多い。なお、容器重量は例えばロードセルなどにより測定することができる。
【0023】
(水素貯蔵容器温度)
容器表面および内部温度の充填に伴う経時変化を図4に示す。水素貯蔵材料は一般に水素を吸収すると発熱する特性を持つため、充填開始直後の容器温度は急速に上昇する。しかしながら、水素貯蔵材料の水素吸収平衡圧力は温度とともに上昇するので、平衡圧力が充填水素圧力とバランスする温度となったら水素吸収が停止し、温度もそれ以上上昇しなくなる。一方、容器表面から外部冷却媒体によって熱を奪われていくため、一転して徐々に温度が降下していく。熱伝達しやすい容器表面ほど温度が早く降下し始め、容器中心部はそれに遅れて温度降下する。充填が完了すると、容器温度は冷却媒体温度で一定となる。容器温度は、例えば熱電対などを用いた温度計により測定することができる。
【0024】
(冷却媒体温度)
水素貯蔵容器の冷却媒体が流路に沿って流れている場合、その入口温度と出口温度の差を計測することでも充填進行を読み取ることが可能である。流量が同じであれば、充填が進むにしたがって温度差が小さくなり、充填が完了すると温度差が0となる。該冷却媒体温度も例えば熱電対などを用いた温度計により測定することができる。
【0025】
(容器表面歪み)
容器表面歪みの充填に伴う経時変化を図5に示す。水素貯蔵材料は一般に水素を吸収するとその体積を増大させるため、水素貯蔵容器の表面歪みは水素充填に伴って増大する。充填が完了すると、所定の歪み量に達する。歪み量は、例えば歪み計などにより測定することができる。
【0026】
上記物理量の他に、今後開発が期待される水素残量計の出力も同様に充填完了予測時間の計算に用いることが可能であり、要は水素の充填進行に従って変化をする物理量であれば、上記以外でも測定の対象として残り時間の算出に利用することができる。
上記物理量は、既知の測定装置などの測定手段を用いて測定できるものであればよく、本発明としては、特に測定手段の構成が限定されるものではない。
【0027】
測定された物理量データはその時の経過時間データとともにプログラマブルコンピュータなどに記録することができる。該記憶は、RAMやフラッシュメモリ、HDDなどの随時書込み読出しが可能な記憶手段に対し行うことができる。
なお、充填初期は各物理量が安定しないため、充填開始後適当な時間待機してから計測を始めてもよい。近似式の次数に応じた必要データ数(n次式であれば必要データ数は最低n+1組)が集まったならば、近似式パラメータの計算を実施し、近似式へのフィッティングを行う。該計算は、CPUとこれを動作させるプログラムなどにより構成される近似式算出手段により行うことができる。近似式が導出されたならば、物理量の変数に充填完了の指標値を代入し、経過時間を演算することができる。このときの指標値としては、充填水素流量を用いる場合は0、容器表面温度ならば冷却媒体温度といったように理論的な到達値に設定するのも良いが、予備試験の結果から任意に設定するのが望ましい。指標値は、測定する物理量に合わせて定められる。計算で得られた完了に至る経過時間から現在までの経過時間を差し引くことで充填完了までの予測時間を算出することができる。これらのシーケンスは定期計測の度に実行され、充填完了予測時間を逐次更新していくのが望ましい。
【0028】
得られた充填完了予測時間は、デジタル表示で具体的な時間を表示したり、数段階のランプでおおよその時間を指示したりする方法で逐次ユーザーに通知することができ、また、適宜の通信手段(LAN、ネットワーク、電話回線など)を介して通知をすることも可能であり、通知方法は特に限定されない。測定物理量が充填完了の指標値に達した場合、ランプの点灯や音声などでユーザーに充填完了の旨を通知することも可能である。
【0029】
また、充填完了予測時間が極端に長く、水素リーク等のおそれがある場合などに備えて異常の判定を行うことができる。異常判定では、予め適正と考えられる充填間時間を設定しておき、この充填完了時間との対比によって異常か否かの判定を行うことができる。また、異常の程度を段階的に定めるようにしてもよい。異常であると判定される場合には、予め定めた異常時制御を行うことができる。例えば、操作者や保守者に異常の通知(警報など)を発したりすることができる。また、水素充填装置を制御して水素充填作業を停止させることも可能である。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明の水素貯蔵容器への水素充填方法によれば、水素貯蔵容器への水素充填に際し、該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定し、前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングして、前記水素の充填完了の予測時間を算出するので、水素充填までに要する時間を容易に予測することができ、充填作業を効率よく行うことができる。例えば、複数の水素貯蔵容器に水素を連続して充填する必要があり、しかも初期水素残量が容器ごとに異なっていて一律の充填時間では時間効率が悪い場合、本発明によって充填完了時間を予測することで充填作業を短縮化する効果が見込まれる。さらに、一般利用者にとっては、水素充填時間を予測することで、無用に充填完了を待ち続けることなく、時間を有効に使うことができる。
また、充填完了予測時間が極端に長い結果となった場合は、水素リークのおそれがある場合などに異常をユーザーに報知するなどの適切な対応することが可能になる。
【0031】
さらに、本発明の水素充填監視装置によれば、水素貯蔵容器への水素充填に際し該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定する測定手段と、該測定手段により得られる前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングさせる近似式算出手段と、前記近似式に基づいて充填完了までの残り時間を算出する残り時間算出手段とを備えるので、充填予測時間を容易に算出することができ、上記効果が確実に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態を図6〜8に基づいて説明する。
図6に示されるシステムは、水素充填装置を構成する水素ボンベ1と水素供給管2と水素貯蔵容器3とを備えており、水素ボンベ1に一端を接続した水素供給管2の他端に水素貯蔵容器3が接続されている。水素貯蔵容器3は、内部に図示しない水素吸蔵合金が収容されており、外部表面は、冷却水導入管4aと冷却水排出管4bとが接続された冷却水ジャケット4でカバーされている。なお、上記では水素貯蔵容器における冷却方法は、外部冷却式となっているが、内部冷却式のものであっても同様に適用可能であり、本発明としては水素貯蔵容器の構造が特に限定されるものではない。
【0033】
また、上記水素供給管2には、水素充填装置として開閉弁5とレギュレータ6とが介設されている。また、水素供給管2には、レギュレータ6の下流側に、測定手段である水素流量計10を挟んで電磁開閉弁11、12が介設されており、それぞれ制御部20に電気的に接続されている。該接続により、水素流量計10の測定結果は制御部20に出力可能となっており、また、電磁開閉弁11、12の開閉動作は制御部20により制御可能となっている。また、前記水素貯蔵容器3の外表面には、該水素貯蔵容器3の外表面温度を測定する、測定手段である温度計13が設置されており、該温度計13は、前記制御部20に電気的に接続されて、その測定結果が制御部20に出力可能とされている。
また、前記制御部20には、操作者が視認できるように水素充填残り時間を表示する、通知手段であるインジケータ14が接続され、さらに、操作者に音で通知を行うブザー14が接続されている。また、制御部20には、経過時間を測定するタイマ21とデータの記憶、読出しを行う、フラッシュメモリ、HDDなどの記憶部22が接続されている
【0034】
上記した制御部20は、例えばCPUとこれを動作させるプログラムとを主にして構成することができる。該制御部20は、上記した水素流量計10や温度計13で得られる物理量の測定結果を受けて、水素充填に伴う物理量の時間的変化をフィッティングさせる近似式の算出が可能になっており、本発明の近似式算出手段としての機能を有している。上記により得られる近似式からは、水素の充填完了時における物理量を予め把握しておくことで水素充填完了予測時間を算出することができる。したがって、制御部20は、残り時間算出手段としての機能を有している。
【0035】
また、制御部20では、予め正常と判定される充填完了時間データを記憶部22に記憶させておき、これを読み出して予測される充填完了時間と対比することで充填の異常判定を行うことができる。したがって制御部20は、本発明の残り時間異常判定手段としての機能を有している。さらに制御部20は、後述するように、異常判定に従って電磁開閉弁11、12やブザー15の動作を制御することができ、異常時制御手段としての機能も有している。
【0036】
上記した制御部20、流量計10、電磁制御弁11、12、温度計13、インジケータ14、ブザー15、タイマ21および記憶部22は、本発明の水素充填監視装置を構成している。該水素充填監視装置は、水素充填装置とは独立したものでもよく、または水素充填装置に包含されるものであってもよい。
【0037】
次に、上記水素充填装置および充填監視装置を用いた水素充填方法を図7のフローチャートを参照しつつ説明する。
水素の充填開始に際しては、開閉弁2、電磁弁11、12を開き、水素ボンベ1から水素供給管2を通して水素貯蔵容器3への水素の供給を開始する(ステップS1)。水素の供給に際してはレギュレータ6で流れ調整がなされて水素が水素貯蔵容器3に導入される。また、水素の供給に伴って冷却水ジャケット4に冷却水導入管4aと冷却水排出管4bを通して冷却水を通水し、水素貯蔵容器3の冷却を行う。水素貯蔵容器3では、水素吸蔵に伴う水素吸蔵合金の発熱が上記冷却水により冷却され、円滑に水素吸蔵が進行する。
【0038】
上記した水素の充填を予め定めた安定待機時間まで続行し(ステップS2)、安定待機時間経過後前記した物理量の測定を開始する(ステップS3)。なお、経過時間は、前記したタイマ21のカウントにより行うことができ、測定開始時には、測定物理量に応じた充填完了指標値qf、近似式に必要な次数kを設定しておく。該充填完了指標値qfおよび必要次数kは、予め記憶部22に記憶させておき、これを読み出すことで設定を行うことができる。
【0039】
該物理量の測定においては、流量計10において水素供給管2を流れる水素の流量を予め定めた所定の時間毎に測定し、測定データを制御部20に送出する。また、同じく、該測定においては、温度計13によって水素貯蔵容器3の外表面温度を所定時間毎に測定し、測定データを制御部20に送出する。なお、測定データは、流量計10、温度計13のいずれかによって得られるものであればよく、両方をそれぞれ用いることも可能である。
測定データは、計測点数n、経過時間tn、計測物理量qnとして逐次得られ(ステップs4)、制御部20の制御によって記憶部22のデータテーブルに格納される(ステップs5)。次ステップs6では、計測物理量qnが、充填完了指標値qfを越えているか否かの判定がなされ、越えていると判定される場合には、充填完了とする(ステップs7)。ステップs7では、制御部20の制御によって充填完了をブザー15で報知することができ、また、電磁開閉弁11、12を閉とすることもできる。
【0040】
上記ステップs6で、計測物理量qnが、充填完了指標値qfを越えてない場合、次いで計測点数nが必要次数kに達したか否かの判定がなされる(ステップs8)。ここで計測点数nが必要次数kに達していない場合、ステップs4に戻り、さらに測定が継続され、測定データ数を積み増す。
一方、ステップs7で計測点数nが必要次数kに達していると判定される場合、制御部20においてデータテーブルに格納された前記データが読み出され、該データに基づいて近似式の算出が行われ、測定物理量の時間的変化のフィッティングがなされる(ステップs9)。該近似式によって、充填完了指標値qfを用いて充填完了となる完了予測経過時間tfを算出する。次いで、それまでに経過した時間を積算し、該完了予測経過時間tfから前記積算経過時間を差し引いて、充填完了に至る残り時間を算出する(ステップs10)。算出結果は、制御部20の動作によって前記したインジケータ14にデジタル表示される(ステップS11)。次いで、完了予測経過時間tfが予め設定した正常水素充填完了時間の範囲内あるか否かの判定を行い、範囲外にある場合には異常であるとの判定を行い、異常時制御処理を行う(ステップs13)。正常水素充填完了時間は例えば記憶部22に予め格納しておき、必要に応じて読み出すことができる。上記判定が正常である場合、計測物理量が充填完了指標値qfに達するまで上記処理(ステップs4〜s12)を繰り返し行う。
【0041】
異常時制御処理では、図8に示すように、前記測定手段による測定を終了し(ステップs130)、ブザー15による異常報知により警報を発する(ステップs131)。該異常報知では、前記した充填完了時のブザー報知とは内容を異にすることで、区別が可能である。次いで、電磁開閉弁11、12を閉じて水素充填処理を中止する。これにより水素漏れなどによる不具合を早期に回避することが可能になる。なお、指標となる正常水素充填完了時間を段階的なものとして複数定めることで異常判定を段階的に行って、異常が小とされる場合に警報を発し、異常が大とされる場合に水素充填の完了を行うようにしてもよい。
以上、上記実施形態に基づいて本発明の内容を説明したが、本発明が上記説明内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【実施例1】
【0042】
以下、本発明の実施例を説明する。
図6に示す装置構成において、水素貯蔵容器として、定格水素貯蔵量200NLの水素貯蔵合金内蔵キャニスターを用いた場合の水素充填試験を実施した。このときの充填水素圧力は1MPaGとし、貯蔵容器は5℃の冷水で冷却した。
【0043】
上記水素充填試験において、充填試験での水素貯蔵量(充填水素流量の積算値)、充填水素流量、容器表面温度の3種類のパラメータの経時変化をまとめ、図9に示した。
充填開始直後は充填水素流量、容器表面温度ともに急上昇するが、30秒〜1分程度でピークを迎え、続いてなだらかに減少し始める。充填水素流量が計測限界以下となった時点を充填完了とすると、流量、容器表面温度ともに充填完了までほぼ直線的に減少しているのが読み取れる。そこで、前記実施形態で示した図7のシーケンスを利用して直線近似式を適用した場合の充填完了時間予測結果を以下に説明する。
【0044】
充填水素流量、容器表面温度ともほぼ直線減少に安定する2分後から、1分間隔でそれぞれの物理量を計測する。そして3組の計測データが収集できた時点、すなわち4分後から2分ごとに最小二乗法による直線式を導出した。このとき、充填水素流量の充填完了指標値は1NL/min、容器表面温度の充填完了指標値は22℃とした。図10に充填水素流量、図11に容器表面温度の直線近似グラフ推移を示す。また、図12に実際の充填完了までの残り時間と、充填水素流量および容器表面温度それぞれから予測された残り時間との対比を示す。図に示すように、充填水素流量、容器表面温度とも充填が進むにつれて、実際の充填完了までの残り時間に一致する傾向を示した。特に、容器表面温度はほぼ直線的な時間変化をしているため、直線近似によって非常によい精度で残り時間が予測できた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】水素貯蔵容器への水素充填に伴う、水素流量の経時変化を示す模式図である。
【図2】同じく、容器内水素圧力の経時変化を示す模式図である。
【図3】同じく、水素貯蔵容器重量の経時変化を示す模式図である。
【図4】同じく、水素貯蔵容器温度の経時変化を示す模式図である。
【図5】同じく、水素貯蔵容器表面ひずみの経時変化を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態の水素充填監視装置を含むシステムの構成図である。
【図7】本発明の一実施形態の水素充填方法を示すフローチャートである。
【図8】同じく、水素充填方法の一部工程を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例における測定物理量の経時変化を示す模式図である。
【図10】同じく、充填水素流量に関し、最小二乗法による直線近似式を適用したグラフである。
【図11】同じく、容器表面温度に関し、最小二乗法による直線近似式を適用したグラフである。
【図12】同じく、実際の充填完了までの残り時間と充填水素流量および容器表面温度それぞれから予測された残り時間との対比を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1 水素ボンベ
2 水素供給管
3 水素貯蔵容器
4 冷却ジャケット
10 流量計
11 電磁開閉弁
12 電磁開閉弁
13 温度計
14 インジケータ
15 ブザー
20 制御部
21 タイマ
22 記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素貯蔵容器への水素充填に際し、該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定し、前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングして、前記水素の充填完了の予測時間を算出することを特徴とする水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項2】
前記充填完了の予測時間の算出は、充填完了時に示す前記物理量に基づいて前記近似式から求めることを特徴とする請求項1記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項3】
前記測定中に、前記近似式を前記物理量の変化に基づいて適時修正をし、修正された近似式に基づいて再度、前記水素の充填完了までの予測時間を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項4】
前記物理量が充填水素流量、水素圧力、水素貯蔵容器重量、水素貯蔵容器温度、冷却媒体温度、水素貯蔵容器表面歪み、供給側水素残量のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項5】
算出された前記充填完了時間が異常であるか否かの判定を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項6】
算出された前記充填完了時間が異常であると判定される場合に、異常時制御を行うことを特徴とする請求項5記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項7】
前記異常時制御が、異常を知らせる通知であることを特徴とする請求項6記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項8】
前記異常時制御が、水素の充填処理を自動的に停止するものであることを特徴とする請求項6または7に記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項9】
水素貯蔵容器への水素充填に際し該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定する測定手段と、該測定手段により得られる前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングさせる近似式算出手段と、前記近似式に基づいて充填完了までの残り時間を算出する残り時間算出手段とを備えることを特徴する水素充填監視装置。
【請求項10】
前記残り時間算出手段で算出された残り時間を通知する通知手段を備えることを特徴とする請求項9記載の水素充填監視装置。
【請求項11】
前記残り時間算出手段で算出された残り時間が異常であるか否かを判定する残り時間異常判定手段を備えることを特徴とする請求項9または10に記載の水素充填監視装置。
【請求項12】
前記異常判定手段によって異常判定がなされたときに、異常時動作を行わせる異常時制御手段を備えることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の水素充填監視装置。
【請求項13】
前記異常時動作が、異常であることを通知する動作であることを特徴とする請求項12記載の水素充填監視装置。
【請求項14】
前記異常時動作が、水素充填処理を自動停止させる動作であることを特徴とする請求項12または13記載の水素充填監視装置。
【請求項1】
水素貯蔵容器への水素充填に際し、該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定し、前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングして、前記水素の充填完了の予測時間を算出することを特徴とする水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項2】
前記充填完了の予測時間の算出は、充填完了時に示す前記物理量に基づいて前記近似式から求めることを特徴とする請求項1記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項3】
前記測定中に、前記近似式を前記物理量の変化に基づいて適時修正をし、修正された近似式に基づいて再度、前記水素の充填完了までの予測時間を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項4】
前記物理量が充填水素流量、水素圧力、水素貯蔵容器重量、水素貯蔵容器温度、冷却媒体温度、水素貯蔵容器表面歪み、供給側水素残量のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項5】
算出された前記充填完了時間が異常であるか否かの判定を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項6】
算出された前記充填完了時間が異常であると判定される場合に、異常時制御を行うことを特徴とする請求項5記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項7】
前記異常時制御が、異常を知らせる通知であることを特徴とする請求項6記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項8】
前記異常時制御が、水素の充填処理を自動的に停止するものであることを特徴とする請求項6または7に記載の水素貯蔵容器への水素充填方法。
【請求項9】
水素貯蔵容器への水素充填に際し該水素の充填進行に従って変化をする所定の物理量を所定時間毎に測定する測定手段と、該測定手段により得られる前記物理量の時間変化を近似式にフィッティングさせる近似式算出手段と、前記近似式に基づいて充填完了までの残り時間を算出する残り時間算出手段とを備えることを特徴する水素充填監視装置。
【請求項10】
前記残り時間算出手段で算出された残り時間を通知する通知手段を備えることを特徴とする請求項9記載の水素充填監視装置。
【請求項11】
前記残り時間算出手段で算出された残り時間が異常であるか否かを判定する残り時間異常判定手段を備えることを特徴とする請求項9または10に記載の水素充填監視装置。
【請求項12】
前記異常判定手段によって異常判定がなされたときに、異常時動作を行わせる異常時制御手段を備えることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の水素充填監視装置。
【請求項13】
前記異常時動作が、異常であることを通知する動作であることを特徴とする請求項12記載の水素充填監視装置。
【請求項14】
前記異常時動作が、水素充填処理を自動停止させる動作であることを特徴とする請求項12または13記載の水素充填監視装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−138973(P2007−138973A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329634(P2005−329634)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】
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