説明

水膨潤性フィブリル化繊維及びそれを用いたシート状物

【課題】現行の水膨潤性フィブリル化繊維である芳香族ポリアミドフィブリッドの分散性、接着性、乾燥収縮性等バインダー性能を高めたフィブリル繊維を提供する。
【解決手段】パラ型芳香族ポリアミドからなり、 篩い分け試験において線間隔37μm、42メッシュ金網の捕集割合が3wt%以下、且つ線間隔10μm、140メッシュ金網通過分が30wt%以上であり、含水率が70〜99%であり、且つ繊維径100nm以下のフィブリルを有する水膨潤性フィブリル化繊維とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能紙等の用途で使用されるフィブリル化繊維及びそれを含有するシート状物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電池・キャパシタセパレータ、電気絶縁紙、フィルターペーパー、プリント配線基板用基材、湿式摩擦材紙などに代表される高機能紙の紙力増強を目的として、様々な手法が提案されている。例えば、(1)抄紙密度を上げる、(2)繊維状結合材を添加するなどである。これらの手法が有効な場合もあるが、含浸紙の分野においては未だ効果的な方法が見出せていない。
【0003】
即ち、(1)の方法は、製造時の機械的な制約のために限界があり、強度の改良にはそれほど貢献しない。また、(2)の方法に関しては、特開昭58−197400号公報にセルロースパルプ繊維を水中に懸濁させ、高圧化にホモジナイザーを繰り返し通過させる特殊な叩解手段を適用させて製造されたマイクロフィブリル化セルロースを結合材として添加する手法が提案され、抄紙原料中に少量添加することで、確かに紙力の増強は見られるが、この繊維はセルロースからなるため、耐熱性などの面でその使用分野に制約がでるといった問題点がある。
【0004】
一方、特開平3−152130号公報及び特公平8−19633号公報では原料に耐熱性に優れる芳香族ポリアミドなどの剛直鎖合成高分子短繊維を用い、高圧化でのホモジナイザー処理で叩解処理を施した微細なフィブリルを数多く有する繊維状物を抄紙原料に添加することで、フィブリル同士の絡合によりペーパーシート強度が向上し、また、ポリマー自体の物性も反映して耐熱性、電気絶縁性にも優れたペーパーシートが得られることを考案している。しかし、ホモジナイザー処理により発生した剛直鎖合成高分子短繊維のフィブリルによる紙補強メカニズムは微細なフィブリル同士の絡合のみであり、補強効果は十分とは言えなかった。
【0005】
これに対し、WO2004/099476号公報、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等に示される芳香族ポリアミドフィブリッドは、繊維内部に多量の水分を保持しているために乾燥時に大きく収縮し、又芳香族ポリアミドフィブリッド同士もしくは他成分を接着するバインダー機能を発揮することが知られている。したがって、これらを添加した紙の補強メカニズムは繊維の接着、絡合のみではなく、絡合した状態での乾燥収縮による抱きかかえ効果も加わってさらに強度の高いシート状物が得られる。しかしながら、繊維径の大きい成分を多量に含む芳香族ポリアミドフィブリッドは抄造法などによりシート化した際にフィブリッドの分散性が悪く、十分にそのバインダー機能が活かされていなかった。又さらに接着性や乾燥収縮性の向上したフィブリル化繊維が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭58−197400号公報
【特許文献2】特開平3−152130号公報
【特許文献3】特公平8−19633号公報
【特許文献4】WO2004/099476号公報
【特許文献5】特公昭35−11851号公報
【特許文献6】特公昭37−5732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現行芳香族ポリアミドフィブリッドの分散性、接着性、乾燥収縮性等バインダー性能を高めたフィブリル繊維を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特定の有機高分子重合体からなり、 篩い分け試験において線間隔37μm、42メッシュ金網の捕集割合が3wt%以下、且つ線間隔10μm、140メッシュ金網通過分が30wt%以上であり、含水率が70〜99%であり、繊維径100nm以下のフィブリルを有する水膨潤性フィブリル化繊維とする。
【発明の効果】
【0009】
該水膨潤性フィブリル化繊維は、有機高分子重合体溶液を水系凝固液中に導入し、攪拌等のせん断をかけた状態で凝固させることによって得られた有機高分子重合体含水成形物及び/又は該有機高分子重合体含水成形物を原料として叩解処理して得られたものであり、繊維結晶構造内部に多量に水を保持しているため公知のリファイナーやビーター、ミル、高圧ホモジナイザー、摩砕装置等で処理することによって容易に繊維粒子サイズを細かくすることが出来、又繊維径100nm以下の微細なフィブリルを多量に有するものとすることが出来る。その結果として表面積が大幅に増大するためフィブリッド同士もしくは他成分との接着や絡合が増加するだけでなく、乾燥収縮も増大しバインダー機能が向上する。本発明の水膨潤性フィブリル化繊維を含むシート状物は大幅に強度等が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明でいう水膨潤性フィブリル化繊維とは、一般的なフィブリル化繊維(一般的にフィブリル化繊維とは、繊維形成性重合体の短繊維をリファイナーやビーター、ミル、高圧ホモジナイザー、摩砕装置等の装置によりその主軸に沿って機械的、物理的にランダムに解裂して形成された多数のフィブリルを有する繊維状物を指す)と異なり、微小のフィブリルを多数有する微小短繊維で且つ繊維の結晶構造が強固に形成されること無く、非結晶状態で水分子又は水分が結晶構造内に存在するようなもの(単にフィブリッドとも呼ぶこともある)のフィブリル化度合いが更に進んだものを指す。このような水膨潤性フィブリル化繊維は有機高分子重合体溶剤溶液を有機高分子重合体の貧溶媒或いは非溶媒凝固液中に導入し、攪拌等のせん断をかけた状態で凝固させることによって得られた微小のフィブリルを有する薄葉状、鱗片状の小片、又は、ランダムにフィブリル化した微小繊維を更に叩解処理して得られる。
【0011】
本発明における「有機高分子重合体」としては、パラ型全芳香族ポリアミドや、メタ型全芳香族ポリアミド、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)ホモポリマー等があげられるが、有機高分子重合体の種類、構造、重合度などは特に限定されるものではなく、溶剤に溶解可能な有機高分子重合体で、且つその有機高分子重合体が水を主体とした凝固液で凝固される有機高分子重合体および溶媒であれば特に限定されるものではない。
【0012】
本発明において、「芳香族ポリアミド」とは、アミド結合の60%以上、好ましくは85%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物を意味する。このような芳香族ポリアミドとしては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。高耐熱性および耐化学薬品性の観点から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、もしくは、その共重合体であるポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミドが好ましい。
【0013】
本発明における好ましい水膨潤性フィブリル化繊維としては、例えば、WO2004/099476号公報、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等に記載された方法により、アラミド重合体溶液をその沈澱剤とを剪断力の存在する系において混合することにより製造されるフィブリッドや、特公昭59−603号公報に記載された方法により、光学的異方性を示す高分子重合体溶液から成形した分子配向性を有する成形物に、叩解等の機械的剪断力を与えてランダムにフィブリル化させたものを例示することができる。
【0014】
又本発明の水膨潤性フィブリル化繊維は製造工程で乾燥、その製造において一旦乾燥工程を経ている芳香族ポリアミド短繊維をリファイナーやビーター、ミル、高圧ホモジナイザー、摩砕装置等の処理により高度にフィブリル化させた芳香族ポリアミドパルプとは異なり、乾燥時に大きな収縮を示す。このとき、水膨潤性フィブリル化繊維同士及び他成分を抱きかかえた状態で乾燥収縮するため、優れたバインダー性能を有する。
【0015】
含水率が70wt%以上であれば上記で説明した方法で得られた水膨潤性フィブリル化繊維に限定されるものではなく、例えば、フィルムやフィラメント製造工程において意図的に乾燥させずに上記のような叩解等のフィブリル化処理を施して得られた水膨潤性フィブリル化繊維でもかまわない。
【0016】
また、本発明の水膨潤性フィブリル化繊維の粒子サイズとして、JIS P−8207で規定されている篩い分け度試験機を用いて、42メッシュ金網の捕集割合が3wt%以下かつ、140メッシュ金網通過分が30wt%以上であることが必要で、50wt%以上であることがより好まく、80wt%以上であることがさらに好ましい。該水膨潤フィブリル化繊維の含水率が70〜99wt%であっても、42メッシュ金網捕集分が3wt%以上もしくは140メッシュ金網通過分が30wt%以下であるときは、これらを用いてシート状物を作成しても水膨潤フィブリル化繊維の分散性が悪いため均質なシートが得られず、十分な強力が得られない。
【0017】
また、一般的にパルプもしくはフィブリッド等のフィブリル化した繊維を紙用バインダーとして用いる場合、繊維同士の絡合が重要となるため、それらの接触面積、つまりバインダーとして用いるフィブリル化繊維の比表面積が大きい方が紙強力の向上に対する寄与が大きい。したがって、本発明の水膨潤性フィブリル化繊維は繊維同士の接触面積を増大させるために100nm以下の径の超極細フィブリルを有するものとしている。100nm以下の径のフィブリルとは例えば図1に示すようなものを例示することが出来る。
【0018】
このようなフィブリルを有する水膨潤性フィブリル化繊維は、WO2004/099476号公報、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等に記載された方法により得られたフィブリッドを更にリファイナーやビーター、ミル、高圧ホモジナイザー、摩砕装置等により叩解、微細化することにより得ることができるし、又前述のフィブリッドから微小サイズのものを公知の分級装置を用いて分級することによっても得ることができる。好ましくは前者の方法で得られたものである。但し本発明の要件を満足するものであれば両者を混合して用いても差し支えない。
【0019】
製造した水膨潤性フィブリル化繊維の42メッシュ金網捕集分が3wt%以上もしくは140メッシュ金網通過分が30wt%以下である場合、または100nm以下のフィブリル径を有していない場合は、再度ディスクリファイナー、ビーター、高圧ホモジナイザー、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によ離解、叩解処理を施すことができる。
【0020】
更に本発明の水膨潤性フィブリル化繊維は、含水率は70〜99wt%であることが必要である。含水率が70wt%未満の場合、乾燥収縮に基づくバインダー性能が劣り、紙等に添加した際に十分な機械的強度が得られない。また、含水率が99wt%以上であると、水を多量に含むため取り扱い性が悪い。
【0021】
一般的なフィブリル化繊維と呼ばれるものは、乾燥した短繊維を再度水に分散させ、リファイナーやビーター、ミル、高圧ホモジナイザー、摩砕装置等を用いてフィブリルを形成させるが、この場合多量の水に浸してもその多くは繊維表面への吸着水であり、水膨潤フィブリル化繊維のように繊維構造内部に水分が入り込んでいる状態でなく、そのため乾燥収縮による抱き込み効果(=バインダー性能)が乏しい。
【0022】
一方、本発明の水膨潤性フィブリル化繊維は、湿潤時に繊維同士及び他成分を絡合させた状態で乾燥させると、繊維内部の水が抜けることによる乾燥時の収縮作用で、強固なバインダー性能を発揮する。
【0023】
ここで含水率としては以下の式で算出される。
{(含水時の繊維重量)−(絶乾時の繊維重量)}/(含水時の繊維重量)*100
【0024】
更にバインダー性能に大きく寄与する繊維の乾燥収縮率の測定は次のような手法を用いた。
対象繊維のみを用いて公知の湿式抄造法により100g/mの紙を抄造し、抄造直後の湿紙シート面積と、その湿紙シートを無圧下、乾燥後のシート面積から算出する。
S=[(S1−S2)/S1]×100
ここでS:乾燥収縮率(%)
S1:TAPPI式手漉き抄造マシーンを使用して得られたパラ型アラミドフィブリッド100g/mの湿紙状態でのシート面積
S2:120℃で5時間乾燥後のシート面積
【0025】
ここでバインダーとして使用するためには、対象繊維の乾燥収縮率は10〜70%であることが好ましく、15〜50%であることがより好ましい。乾燥収縮率が10%を下回る場合はバインダーとしての拘束力が不十分となり、70%を上回る場合は取り扱いが困難となる。
【0026】
本発明の水膨潤性フィブリル化繊維を用いてシート状物とするには、既知の方法を用いて行うことができる。例えば、水膨潤性フィブリル化繊維および他の繊維成分を乾式ブレンドした後、気流を利用してシートを形成する乾式抄造法、水膨潤性フィブリル化繊維と他の繊維成分を液体媒体中で分散混合した後、網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する湿式抄造法、水膨潤性フィブリル化繊維と他の成分を水系スラリーとして、公知のスプレー装置でメッシュ金網や織編物又は不織布等の布帛上にスプレー塗布し乾燥するスプレーコーティング法などを適用することができる。本発明の水膨潤性フィブリル化繊維の場合140メッシュ以上の非常に細かいフィブリル繊維を多く含むためコーティング法が好ましく適用できる。
【0027】
例えば本発明の水膨潤性フィブリル化繊維と後述する機能性フィラーを水に分散させて水系スラリーとする。スラリーを適度な濃度に希釈して、公知のスプレー装置により基材上にコーティングし、乾燥してシート状物を形成することが好ましい。基材としては不織布や織編物等の繊維構造物やメッシュ金網等が好ましい。
【0028】
水系スラリーの調整方法としては、まず機能性フィラーと水膨潤性フィブリル化繊維とを水を分散媒として分散させたスラリーを作製する。離解機などの公知の撹拌装置を用いて十分に離解することにより、各成分が均一に分散したスラリーを得ることができる。又効果を阻害しない範囲で基材との接着性を向上させる目的でスラリーに樹脂バインダー成分を添加することもできる。
【0029】
シート化に際し使用できる他成分としては、天然セルロース繊維、溶剤紡糸セルロース繊維等のセルロース系繊維、アクリル、ポリオレフィン、ポリエステル、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、全芳香族ポリアゾメジン、ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの樹脂からなる単繊維や複合繊維、これらをフィブリル化したものやバクテリアセルロースなどの有機繊維、 炭素繊維、セラミックス繊維、スラグウール、グラスウールなどの無機繊維が挙げられる。
【0030】
更にシート化に際し使用できる他成分として、活性炭、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、顔料、チタン、シリカ、鉄、フェライト、ガリウム、砒素、砂、土、すす、チタン酸バリウム、光酸化触媒チタン、トルマリン、モザナイト、さんご礁粉体、多孔質シリカ、キシリトール、蛍光染料樹脂粉末、お茶殻の粉体、キト酸粉体、シルクパウダー、各種抗菌剤、金、銀、銅、白金、コバルト、水素貯蔵合金など機能性フィラーが挙げられる。フィラーの粒子径としては、サブミクロン〜数10μmのものを捕捉しやすいが、これに限定されるものでは無い。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
水膨潤性フィブリル化繊維の物性評価は下記の通り行った。
含水率:
{(含水時の繊維重量)−(絶乾時の繊維重量)}/(含水時の繊維重量)*100
にしたがって算出した。
篩い分け試験:
JIS P−8207に準拠して下記の通り行った。
対象とする繊維材料を絶乾重量で2.0g採取し、水2.0Lとともに離解機(熊谷理機製;標準パルプ離解機)を使用して3000rpmで3分間離解し、固形分濃度約0.2wt%のスラリーを作成した。
その後、第1槽を22メッシュ金網、第2槽を42メッシュ金網、第3槽を100メッシュ金網、第4槽を140メッシュ金網としたJIS8207に規定された篩い分け度試験機(熊谷理機製; )を用いて15分間サイズ分離処理を実施した。
さらに、各メッシュ金網で捕集した固形分をそれぞれ採取し、オーブンを使用して120℃で12時間乾燥処理をし、各メッシュ金網毎に捕集分の重量をそれぞれ秤量し、また、投入繊維重量と各メッシュ金網で捕集した繊維重量の差を140メッシュ金網通過分とした。
繊維径の測長:
繊維径の測長は0.05wt%濃度の希薄スラリーを試料台にドロップし乾燥後、導電処理したものを走査型電子顕微鏡(日本電子製;JSM6330F)で3万倍に拡大してランダムに5視野を観察し、3視野以上に100nm以下の繊維が含まれることで対象繊維が径100nm以下のフィブリルを有することとした。
尚、5視野における100nm以下の繊維の平均含有量を次の通り分別した。
×・・・全く観察されない
△・・・1視野平均10本未満
○・・・1視野平均10〜30本
◎・・・1視野平均30本以上
乾燥収縮率:
上述した方法に従って行った。
【0032】
[実施例1]
芳香族ポリアミドフィブリッド(帝人トワロン製、WO2004/099476の手法に準じて作製)の固形分濃度0.2wt%の水分散体を作成後、既存のディスクリファイナー(熊谷理機製;KRK高濃度ディスクリファイナー)を用いてクリアランス=0.02mm、パス回数=10の処理条件で処理した後、脱水して含水率が94.3wt%の水膨潤性フィブリル化繊維を得た。篩い分け試験結果は表1の通りである。
【0033】
[実施例2]
実施例1で使用した芳香族ポリアミドフィブリッドを100gに水10Lを加えて、公知の離解機を用いて十分に攪拌し固形分濃度約3.0wt%のスラリーを得た。得られた分散液を特開2003−193387に記載の高圧ホモジナイザーを用いて500kg/cmの圧力でホモジナイザー処理を3回行った後、脱水して含水率が88.6wt%の水膨潤性フィブリル化繊維を得た。篩い分け試験結果は表1の通りである。
【0034】
[比較例1]
芳香族ポリアミドフィブリッド(帝人トワロン製、WO2004/099476の手法に準じて作製)そのものを用いた。含水率は92.7wt%であった。篩い分け試験結果は表1の通りである。
【0035】
[比較例2]
実施例1で得られた水膨潤性フィブリル化繊維をオーブンで105℃、10分間熱処理を施し、含水率が63.0wt%の水膨潤性フィブリル化繊維を得た。篩い分け試験結果は表1の通りである。
【0036】
[比較例3]
芳香族ポリアミド短繊維(帝人テクノプロダクツ製)を叩解処理してフィブリル化した芳香族ポリアミドフィブリル化繊維パルプ(帝人テクノプロダクツ製、トワロン1097)を用いて実施例2と同様の処理を行い含水率85.9wt%のフィブリル化繊維を得た。篩い分け試験結果は表1の通りである。
【0037】
[比較例4]
市販の微細繊維状アラミド(ダイセル化学工業製、ティアラ)を比較例4とした。篩い分け試験結果は表1の通りである。
【0038】
[評価結果]
実施例1の水膨潤性フィブリル化繊維は比較例1のフィブリッドを更にディスクリファイナー処理して微細化したものであるが、篩い分け試験で分かる通りこの処理によって微細化が進行している。又、バインダーとして重要である径100nm以下のフィブリルの大幅な増大が見られた。
【0039】
実施例2のフィブリル化繊維は比較例1を高圧ホモジナイザー処理したものであるが、この処理によっても更に微細化が進行し、バインダーとして重要である径100nm以下のフィブリルの増大が見られるのがわかる。得られた繊維のSEM代表図を図1に示す。この図からも明らかなように、100nm以下の非常にフィブリル径の小さい繊維が多数確認された。
【0040】
一方比較例1は含水率及び径100nm以下のフィブリルの点では条件を満たすものの、篩い分け試験の結果が不適当であり分散性で問題であった。繊維のSEM写真の一例を図2に示す。100nm以下のフィブリル径の小さい繊維は見られるものの実施例1に比べ量的に少なく、又繊維粒径が大きいものが見られるのが分かる。
【0041】
比較例2は比較例1の水膨潤性フィブリル化繊維に熱処理を加え含水率を低下させたものであるが、この熱処理によりサイズの増大及び乾燥収縮率の低下が確認されたが、この原因は熱処理により繊維内部の水分が低下し、又フィブリル化繊維同士が結着することにより凝集塊を形成したことが考えられる。
【0042】
比較例3は強固な結晶構造を有する短繊維から作成された芳香族ポリアミドフィブリル化繊維に高圧ホモジナイザー処理をしたものであり、繊維のSEM代表図を図3に示す。確かに高圧ホモジナイザー処理による繊維の微細化が確認されたが、バインダーとして重要である乾燥収縮率が小さく、図1と比較してもそのフィブリル径は明らかに大きく、バインダーとしての性能は実施例1,2と比べて劣ることが分かる。
【0043】
比較例4は比較例3と同様、有機高分子重合体溶液を水系凝固液中に導入し、攪拌等のせん断をかけた状態で凝固させることによって得られた本発明の水膨潤性フィブリル化繊維とは異なるため、乾燥収縮が小さくバインダーとしての性能が実施例1、2と比べて劣ることが分かる。
【0044】
[フィブリル化繊維を含有するシートの作成]
本発明の水膨潤性フィブリル化繊維を含有するシートの物性評価は次の通りに行った。
シート厚み:JIS P8118に準拠
シート目付:JIS P8124に準拠
シート引張強度:JIS P8113に準拠
【0045】
[実施例3]
実施例1で得られた水膨潤性フィブリル化繊維15重量部とポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製 テクノーラ 0.55dtex)を6mmに切断したアラミド短繊維85重量部を水5000重量部とともにJIS標準離解機を用いて3000rpmで3分間離解し、抄紙用スラリーを得た。つぎにこのスラリーをTAPPI式角型手漉きシートマシーンにて抄造し、プレス脱水後、120℃の乾燥機にて5時間乾燥させることでシート状物を得た。
【0046】
[実施例4]
実施例3において実施例1で得られた水膨潤性フィブリル化繊維の代わりに実施例2で得られた水膨潤性フィブリル化繊維としたこと以外は同様の方法でシート状物を得た。
【0047】
[比較例5]
実施例3において水膨潤性フィブリル化繊維の代わりに比較例1の水膨潤フィブリル化繊維を用いた以外は同様の方法でシート状物を得た。
【0048】
[比較例6]
実施例3において水膨潤性フィブリル化繊維の代わりに比較例2で得られた一旦乾燥して含水率を低下させた水膨潤性フィブリル化繊維としたこと以外は同様の方法でシート状物を得た。
【0049】
[比較例7]
実施例3において使用した水膨潤性フィブリル化繊維の代わりに比較例3で得られたフィブリル化繊維としたこと以外は同様の方法でシート状物を得た。
【0050】
[評価結果]
実施例3、4では実施例1、2の水膨潤性フィブリル化繊維を使用してシート化したものであるが、比較例1と比べてシートの引っ張り強度が大きく向上している。これは、水膨潤フィブリル化繊維の微細化が進行して水膨潤性フィブリル化繊維の接触面積が増え、バインダーとして他成分繊維との絡合、収縮及び接着性の向上、及びシート内での水膨潤性フィブリル化繊維の分散性が向上したためと考えられる。
【0051】
また、比較例5では比較例4と比べてさらにシートの引張強度が低下している。これは熱処理により繊維内部に存在する水分量が低下したため乾燥収縮性が低下したことと、水膨潤性フィブリル化繊維が凝集し、シート内で分散性が悪化したためと考えられる。
【0052】
また、比較例6では実施例1の水膨潤性フィブリル化繊維を一旦乾燥して含水率が70%以下に低下させた水膨潤フィブリル化繊維を使用したため乾燥収縮率が十分でなくシートの引張強度が低下したものと考えられる。比較例7では短繊維製造工程で一旦乾燥工程を経ており、繊維内部の水分は存在せず、よって乾燥収縮が小さくバインダー性能が不十分であるため、シートの引張強度が低いと考えられる。
【0053】
次に本発明のフィブリル化繊維を含む水系スラリーのスプレーコーティング性能評価を実施した。
【0054】
[スプレーコーティング方法]
本発明のフィブリル化繊維とフィラーを水に分散させ水系スラリーを得た後、これを公知のスプレー装置に投入し、基材上へ塗布後、乾燥させてコーティング層を形成する。
評価は下記内容を実施した。
・目視によるコーティングムラ
・ 断面のSEM観察によるコーティング層の厚み
・ スコッチテープ法によるコーティング層の密着性
幅15mm、長さ120mmの接着面を有する粘着テープ(住友スリーM株式会社製、商品名「スコッチテープ」)をコーティング層表面に押し当てた後、粘着テープを引き剥がして、粘着面へのコーティング物の付着を目視で判定。
【0055】
[実施例5]
実施例1で得られた水膨潤性フィブリル化繊維を絶乾重量換算で50量部と粉末状活性炭(クラレケミカル製、RP−15(比表面積1250m/g))50重量部と水1000重量部を公知のミキサーを用いて湿式混練し、コーティング用組成物を得た。
得られたコーティング用組成物をスプレー装置(アネスト岩田 W101)に投入し、スプレー圧;5kgf/cm、吐出量10cc/minで、被コーティング基材(帝人テクノプロダクツ製、メタアラミド不織布、寸法;20×20cm、坪量;480g/m)上に均一に塗布した。このとき均一にコーティングできるように、被コーティング基材を白色の濾紙上に配置することで基材表面に液溜りが発生するのを抑制した。これを乾燥機にて120℃×2hrで十分に乾燥処理を施し、シート状物を得た。
【0056】
[実施例6]
実施例5において、被コーティング基材として厚さ32μm(気孔率57%)の銅製エキスパンドメタル(日本金属工業株式会社製)を用いた他は同様に行ってシート状物を得た。
【0057】
[比較例8]
実施例3において使用した水膨潤性フィブリル化繊維の代わりに比較例4の微細繊維状アラミドを用いたこと以外は同様の方法でシート状物を得た。
【0058】
[比較例9]
実施例5において、実施例1で得られた水膨潤性フィブリル化繊維を使用する代わりに比較例1で使用したものを用いた。その結果スプレーノズルが詰まりコーティングができなかった。
【0059】
[評価結果]
実施例5、6、比較例8から本発明の水膨潤性フィブリル化繊維は目つまりもなく均一でバインダー性能が強くコーティング層の密着性に大きく寄与することがわかる。さらに、比較例9では繊維サイズが大きすぎるため、良好なコーティング層が得られなかった。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、耐熱性、化学的安定性、及びバインダー機能に優れた繊維状バインダーを提供できるため、電池・キャパシタセパレータ、電気絶縁紙、フィルターペーパー、プリント配線基板用基材、湿式摩擦材紙などに代表される高機能紙の機械的、熱的、化学的物性を向上させることに有効である。
また、コーティング性も良好であるため、電池・キャパシタ電極層の形成にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の水膨潤性フィブリル化繊維の一例。
【図2】比較例1の水膨潤性フィブリル化繊維。
【図3】一般的なフィブリル化繊維。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子重合体からなる水膨潤性フィブリル化繊維であって、該水膨潤性フィブリル化繊維が、有機高分子重合体溶液を水系凝固液中に導入し、攪拌等のせん断をかけた状態で凝固させることによって得られた有機高分子重合体含水成形物及び/又は該有機高分子重合体含水成形物を原料として叩解処理して得られたもので、下記要件を満足することを特徴とする水膨潤性フィブリル化繊維。
a)篩い分け試験において線間隔37μm、42メッシュ金網の捕集割合が3wt%以下、且つ線間隔10μm、140メッシュ金網通過分が30wt%以上であること。
b)含水率が70〜99%であること。
c)繊維径100nm以下のフィブリルを有すること。
【請求項2】
水膨潤性フィブリル化繊維が、凝固工程以降に加熱乾燥することなく得られたものである請求項1に記載の水膨潤性フィブリル化繊維。
【請求項3】
水膨潤性フィブリル化繊維の乾燥収縮率が10%以上である請求項1〜2いずれかに記載の水膨潤性フィブリル化繊維。
【請求項4】
有機高分子重合体が炭化又は溶融温度が300℃以上である有機高分子重合体である請求項1〜3いずれか1項記載の水膨潤性フィブリル化繊維。
【請求項5】
有機高分子重合体が芳香族ポリアミドである請求項1〜4にいずれか1項記載の水膨潤性フィブリル化繊維。
【請求項6】
叩解処理が、リファイナー、ビーター、ミル、高圧ホモジナイザー、摩砕装置の群から選ばれる1種以上の方法である請求項1〜5記載の水膨潤性フィブリル化繊維。
【請求項7】
該フィブリル化繊維が篩い分け試験において線間隔10μm、140メッシュ金網通過分が50wt%以上である請求項1〜6いずれか1項記載の水膨潤性フィブリル化繊維。
【請求項8】
該フィブリル化繊維が篩い分け試験における線間隔10μm、140メッシュ金網通過分が80wt%以上である請求項1〜7いずれか1項記載の水膨潤性フィブリル化繊維。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか記載の水膨潤性フィブリル化繊維を含むシート状物。
【請求項10】
下記要件を満足する水膨潤性フィブリル化繊維を水系スラリーとし、基材上にスプレー塗布後乾燥させることを特徴とするシート状物の製造方法。
a)篩い分け試験において線間隔37μm、42メッシュ金網の捕集割合が3wt%以下、且つ線間隔10μm、140メッシュ金網通過分が30wt%以上であること。
b)含水率が70〜99%であること。
c)繊維径100nm以下のフィブリルを有すること。
【請求項11】
水系スラリーが機能性フィラーを含む請求項10記載のシート状物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−255550(P2008−255550A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292149(P2007−292149)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】