説明

水試料又は他の流体試料における汚染物質の存在を測定するための装置

複数の試料隔室を含む本体を備えている、流体試料の質を検査するための装置であって、この装置は、汚染試薬保持手段をさらに備えることを特徴しており、汚染試薬保持手段は、装置内に複数の使用分の汚染試薬を保持するように構成されており、且つ、汚染試薬の使用分をそれぞれ対応の試料隔室内にある流体試料に加えることができるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
水に関するミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)が評価するように、微生物で汚染された飲料水は下痢の主要原因であり、毎年180万人の死亡に(その多くが発展途上国における子供である)関与する(WHO、2004)。一方、新しい水検査技術の開発は、北アメリカ及びヨーロッパにおける水会社のニーズによって決められ、規制当局で規定した厳しい基準を守るようになっており、最近では、バイオテロリズムを懸念するようになっている。発展途上国では、基本的な水検査装置、熟練した技術者及び適当な実験セットさえめったに入手できない。その結果、技術開発の目標と病気の現状との間には食い違いが生じている。適当な検査法の開発におけるこの失敗は、発展途上国のみで一般的に見られる病気に対処するための薬を開発することにおける、製薬会社による投資不足と似ている。
【0002】
津波及び地震のような天災が起きると、死亡の多くは、災害そのものに直接起因するのではなく、その後の病気の発生(特に汚染された飲料水からの病気)に起因すると機関では報告している。災害後に飲料水源を検査することは、スタッフ、資源、通信インフラ及び輸送インフラの厳しい不足による特別な問題を抱えている。
【0003】
世界保健機関(WHO)では飲料水水質ガイドラインを発表している。飲料水の細菌学的水質について、WHOのウェブページには、「飲むことを目的とする全ての水は、任意100mlの試料から大腸菌(E. coli)又は耐熱性大腸菌が検出されてはいけない」と記載されている。この厳しい基準を守ることが要求されているが、北方における多くの先進国では達成できるが、多くの発展途上国では当面達成できない可能性がある。これは、水を農村地域にある水源地(例えば、川又は天然泉等)から引いてくる場所に特に当てはまる。
【0004】
現在、多くの他の利用できる水検査技術は先進国用に設計されている。これは、水検査製品の市場は、発展途上国(ここで、政府は、水検査に利用できる限られた資金のみ有する。)より先進国でかなり大きいからである。多くの水検査技術(例えば標準の膜ろ過手法等)は、現地で収集され、アイス条件下にある移送容器に保存されて、微生物研究所に輸送された水試料を必要とする。微生物研究所は、ガラス製のインキュベータ、実験台、危険性の高い廃棄物を処理する設備及び冷蔵庫のような試料を検査するために適当な設備並びに水検査に取りかかる熟練した技術者を有する必要がある。
【0005】
発展途上国の僻地では、これらの設備の多くを簡単に入手することができない。まず、研究所まで水試料を輸送するためのアイスを入手することが不可能であろう。最も近い微生物研究所がかなり遠く離れている可能性もあり、困っている政府関係の衛生検査技師は非常に限られた輸送手段のみ利用可能かもしれない。地元で研究所を設立することも困難であろう。電気幹線は、利用できないか、断続的に利用できる可能性があり、且つ、作業台及び給水を有する建物さえ見つけるのが困難かもしれない。多くの発展途上国組織は、水検査に高い消費コストを与えることができないかもしれない。発展途上国の多くの農村地域には、より複雑な水検査手順(例えば、指示菌の最確数(MPN)を数えるか、又は試料の適当な希釈を行う等)を実施できる熟練した人員が不足している。
【0006】
近年、水を検査するための現地用キットの開発に若干進歩がある。サリー大学は「DelAgua」キットを開発しており、さらに販売されて、発展途上国においてそして災害救済機関によって、現地で用いられている。このキットは膜ろ過技術に基づいており、熟練した技術者を必要とし、また時間がかかる。最近、単純な「あり/なし」の結果を提供するために、硫化水素(HS)を用いた検査方法が開発されている。これらの検査方法の評価(Sobsey and Pfaender, 2002)によると以下のような結論が出されている(37頁)。「様々な改良におけるHS方法は多くの異なる水場でテストされており、その結果により、この方法は、処理又は非処理した糞便汚染水を検査ための適当な手法であることを示していると報告されている。この方法は、低コスト(大腸菌分析コストのおおよそ20%)、単純さ及び環境試料への応用し易さを含む利点を有する」。しかしながら、このレポートでは、HS検査の評価において、いくつかの不足についても言及しており、「これらの不足により、飲料水における糞便汚染を測定するために、HS検査方法を広く及び明白に推薦することができない。飲料水及びその源における糞便汚染を測定するためのこの検査には、信頼性、特定性及び感度に関するかなり多くの不確実性が残っている」とコメントしている。
【0007】
従来の研究所検査には、100mlの水試料を採取すること及びこれをろ過膜に通すことが含まれている。ろ過膜に付いている残留物は、その後汚染試薬と共に培養される。インキュベーション期間後、汚染されたコロニーは手作業で数えられる。近年、いくつかの製造業では、発色酵素基質(nutrient indicators)を用いて全体的な大腸菌群及び大腸菌を検出する試薬を作り出している。大腸菌は、発色酵素基質を代謝する酵素を産生して、色を変化させるか、又は蛍光を発する。したがって、これらの試薬は、視覚又はレーザ検査によって大腸菌を識別することができる。既知の試料検査キットは、たくさんの(50〜97)個別試料収容ウェルを有する大きな封止可能なブリスタ包装に併せて一つのこのような発色酵素基質を用いている。発色酵素基質はブリスタ包装の中に注がれると、水試料と混合し、ブリスタ包装が封止されると、個別ウェルの全てが、試料及び発色酵素基質の混合物で充填される。適当なインキュベーション期間後、積極的な結果(汚染を表示する)を示す試料ウェルの数は数えられて、cfu/100mlによる汚染レベルを推定するために統計分析される。しかしながら、試料及び発色酵素の混合、ブリスタ包装の充填、積極的な結果のカウント及び統計分析の全ては、熟練した人員又は教育を受けた人員を必要とするので、未熟な個人又は教育を受けていない個人による一般的な(例えば発展途上国における)使用には相応しくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、上記不利を実質的に克服した、流体試料の質を検査するための方法及び装置が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様によると、複数の試料隔室を含む本体を備えている、流体試料の質を検査するための装置が提供されており、この装置は汚染試薬保持手段を更に備えることを特徴としている。汚染試薬保持手段は、装置内に複数の使用分の汚染試薬を保持するように構成されており、且つ、汚染試薬の使用分をそれぞれ対応の試料隔室内にある流体試料に加えることができるように構成されている。
【0010】
複数の試料隔室のうちの少なくとも一つの容積が、複数の試料隔室の他のものの容積と異なることが好ましい。これにより、試料水質の表示は、汚染が検出された試料隔室の数から簡単に予測できる。つまり、低い汚染レベルでは、より大きな容積を有する試料隔室のみ汚染を表示し、より高い汚染レベルでは、より小さな隔室も汚染を表示するであろう。
【0011】
追加的に又は代替的に、汚染試薬保持手段は、それぞれの試料隔室から汚染試薬の複数の使用分を隔離する破裂性膜を備えてもよい。代替的に、汚染試薬保持手段は、各試料隔室に配置された透過性膜を備えてもよく、これにより、汚染試薬は試料隔室内に取り外せないように配置され、水試料と混合することができる。さらなる実施形態において、汚染試薬は、各使用分が、カートリッジから試料隔室の中に機械的に分与される(例えば、カートリッジに対する分与部材の直線移動の態様又は回転移動の態様によって)ことができるように構成されているカートリッジ機構内に保持されてもよい。
【0012】
追加的に又は代替的に、少なくとも一部分の試料隔室が透明であるか、又は少なくとも不透明体ではなく、それにより、汚染試薬によって表される任意可視的な表示は肉眼で容易に見ることができる。
【0013】
好ましい実施形態において、本装置は、装置温度が第1温度閾値を下回る任意温度にあるときを表示するように構成された第1可視的表示器を更に備えてもよい。追加的に、本装置は、装置温度が第2温度閾値を上回る任意温度にあるときを表示するように構成された第2可視的表示器を更に備えてもよい。低い方の閾値(以下「低閾値」という)及び高い方の閾値(以下「高閾値」という)は、汚染微生物が著しい成長率を有する温度の極限値を表している(高閾値を上回ると、微生物が死ぬが、低閾値を下回ると、微生物の成長率が事実上停止する)。好ましい実施形態において、可視的表示器は、特定温度閾値(高閾値又は低閾値)を超えたとき、色のような外観が不可逆的に変化する感温性化学物質を備えている。化学物質は感温性液晶又はロイコ染料を含んでもよい。
【0014】
さらに好ましい実施形態において、本装置は、汚染微生物のインキュベーション期間が終了したときを表示するように構成された第3可視的表示器を更に備えてもよい。第3可視的表示器は装置温度を、したがって、インキュベートされた試料の温度を好ましく感知してもよい。追加的に、第3可視的表示器は、汚染物質の成長率と同じ比率で、色のような可視的な外観を変える化学物質を好ましく含んでもよい。言い換えれば、第3可視的表示器は汚染の温度依存性質を模擬したものである。適当な化学物質は、拡散型表示器、酵素表示器又は重合反応表示器のような時間温度表示器(TTIs)を含む。
【0015】
追加的に又は代替的に、本装置は、インキュベーション工程を容易にするために提供される熱源を収容するように構成された熱源隔室を更に備えてもよい。本装置は、加熱パッド、発熱化学物質の一つ以上の分与分、相変換材料の一つ以上の分与分又は任意これらの組合せなどのような熱源を備えてもよい。発熱化学物質の場合、これらは可溶性材料(好ましくは厚さを変える材料)の中に被包されてもよく、それにより、発熱化学反応は、被包材料が溶解する期間に亘って引き起こされる。電源が手に入らない場所で本装置が使用されるため、電源供給のような外部電源又は第三者電源の入手に頼らず、汚染微生物がよくインキュベーションされる適当なレベルに装置の温度を維持するための一つ以上の手段を提供することが有利である。
【0016】
追加的に又は代替的に、本装置は中和剤保持手段を更に備えてもよく、この中和剤保持手段は、装置内に中和用剤を保持するように構成されており、作動時、試料隔室の中に中和用剤を分与するように構成されている。中和剤保持手段は、試料隔室から中和剤を隔離する破裂性膜を備えてもよい。中和剤の目的は、インキュベーション後、任意汚染微生物を殺すことによって流体試料中の汚染物質を除去し、無害な汚染試薬を与えることにある。
【0017】
好ましい実施形態において、本装置の本体は細長く、第1端面及び第2端面を有してもよく、試料隔室は、細長い本体において、両端面の間に延びている複数の細長い薬室(chamber)を備える。この装置は、端面を覆って締結するように、且つ、液密状に試料隔室を封止するように構成された少なくとも一つの端末キャップを更に備えてもよい。汚染試薬保持手段は、端末キャップ内に好ましく配置されてもよく、中和用剤も同様である。
【0018】
代替的な実施形態において、本装置の本体は、複数の凹部又はウェルを有する平面要素を備えてもよく、この凹部は試料隔室を構成する。汚染試薬の使用分は各凹部の中に保持されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態を、添付図面を参照しながら、非制限的な例のみの目的で説明する。
【0020】
図1は本発明の第1実施形態の分解図を示している。水検査用装置は、その形状において略細長い本体1を備えており、そこに形成された複数の個別の試料隔室3を有する。図示の実施形態において、試料隔室は、本装置の本体1の全長さを貫いて延びている細長い経路を備えている。好ましい実施形態において、10個の個別の試料隔室が提供される(明瞭化のために、図1には少数のみ図示されている)。本装置の本体1は第1端面及び第2端面を有する。液密状に本体1の端面を覆って固定するように構成されている第1端末キャップ5が設けられており、このようにして、試料隔室の一端部が封止される。同じく、液密状に本体1の対向端面を覆って固定するように構成されている第2端末キャップ7も設けられており、このようにして、試料隔室の対向端部が封止される。第1端末キャップ5は、汚染試薬保持機構によって端末キャップ5内に保持される複数の汚染試薬使用分9を有する。汚染試薬の使用分は端末キャップ5内に配置され、それにより、端末キャップ5が本装置の本体1の一端部を覆って気密に締結されたとき、各使用分は、それぞれの試料隔室の端部に近接して物理的に配置されることができる。この空間的な整合を確保するために、一つ以上の協働連結金具が端末キャップ5及び本装置の本体1に設けられてもよい(図1には図示せず)。汚染試薬保持機構は、所望のとき、汚染試薬の個別の使用分が対応する試料隔室の中に導入できるように構成されている。
【0021】
汚染試薬機構の第1構成を図2に概略的に示す。図2は、汚染試薬保持機構が配置されている第1端末キャップ5の断面図を概略的に示している。汚染試薬保持機構は、薄い金属ホイルのような破裂性膜11を備えており、端末キャップ5の外端面に結合している破裂性膜11は、ブリスタ包装13の下面に結合している。多くのブリスタはブリスタ包装で形成されており、各ブリスタは汚染試薬の一使用分を収容している。ブリスタ包装は、変形プラスチックのような変形材料で製造されることが好ましく、これにより、一定の限界を超える圧力がブリスタ包装に加えられると、汚染試薬が破裂性膜11を破って、対応する試料隔室の中に自由に入ることができる。代替的な実施形態において、汚染試薬保持機構は、各試料隔室内に配置されている別個のメッシュ袋を備えており、各メッシュ袋は汚染試薬の一使用分を収容している。これにより、試料隔室の中に導入された流体試料は、メッシュ袋の通気孔を通って汚染試薬と自由に混合することができる。他の実施形態において、汚染試薬の一使用分は、端末キャップ内の適当な格納部内に配置されるように構成されている多数の隔室「薬包(cartridge)」内に格納されてもよい。薬包から個別の使用分を圧迫する適当な「プランジャー」装置が端末キャップに設けられており、キャップの直線移動又は回転移動によって、プランジャーが薬包の方へ迫ることができるように、プランジャーはカップに機械的に連結されている。他の機械的な着脱機構は当技術分野の当業者ならば想像できるであろう。
【0022】
対向端末キャップ7は、上記の汚染試薬保持機構と同様な形状の中和試薬保持機構を含んでもよく、この中和試薬保持機構は中和試薬の一つ以上の使用分を保持しており、中和試薬は、試料隔室の中身が化学的及び生物学的に不活性状態となるように、必要なときに、試料隔室の中身と混合される。これは、使用後、処理が行われる処理所を化学的又は生物学的に汚染することなく装置の中身を安全に捨てることができるために好ましい。
【0023】
代替的な実施形態において、単一の端末キャップのみ提供されてもよく、この場合、本体1の一端はいかなる開口も有せず形成される。この際、汚染試薬保持機構及び中和試薬保持機構の両方はその単一の端末キャップ内に配置されてもよい。
【0024】
流体試料(例えば、水)を検査するために、個別の試料隔室が水試料で充填される。これは、可能であれば、端末キャップのどちらか一方を装置の本体に取り付けて、この装置を水源に浸すことによって最も簡単に達成され得る。充填されると、試料隔室の両方の端末キャップは、個別の試料隔室を封止するように装置の本体の各端面を覆って固定される。その後、汚染試薬の個別の使用分を各試料隔室内に導入することができるように、汚染試薬保持機構が作動される。その後、本装置は、試料の中にある任意汚染生物が検知レベルまで増えることができるように、しばらくインキュベーションされる必要がある。温度範囲は7℃〜44℃であり、この温度範囲を超えると、水試料内にある例えば任意大腸菌はコロニーを作るであろう。しかし、使用時の温度にはインキュベーション熱源、絶縁手段又は冷却手段のいずれかを設ける必要があるため、この温度は簡単に維持できない。冷却よりむしろ何らかの熱源を必要とすることが最も可能性がある。本装置のサイズが小さいため、必要な加熱は、装置をヒトの体に対して(家庭用単一検査に適する)又は家畜の皮膚に対して固定することによって達成できるであろう。図1に示した実施形態において、実質的に円筒状である本装置の本体は、この本体の長手方向の軸に沿って形成された中心経路を有し、且つ、この中心隔室を取り囲んで配置された試料隔室を有する。したがって、中心隔室は、適当な熱源(例えば、発熱化学物質の内臓型包装等)を収容するために用いられてもよく、発熱化学物質は、装置が最初に試料水源に浸されたときに作動される。なお、他の熱源が隔室内に配置されてもよく、例えば、2つ以上の発熱化学物質を混合することによって誘発される化学的加熱要素、予熱された(例えば加熱した水の中に浸すことによって予熱された)熱パッド、太陽電池式加熱要素又は電池式加熱要素等がある
【0025】
別の実施形態において、被包型発熱化学物質の部分は中心空洞の中に配置され、流体(試料流体から採取される)と混合されたとき、発熱化学物質は被包が溶けた後のみ作用することができるように、被包材料は可溶性のものであり、このようにして、加熱作用の誘発に遅延時間を提供している。被包の厚さを変更することによって、誘発される発熱化学物質における比率は、全体的な加熱効果を延長するように調節することができる。別の実施形態において、提供された端末キャップの一つ以上が被包型発熱化学物質を収容してもよく、これにより、必要なとき、これらは装置の中心空洞の中に放出されてもよい。
【0026】
別の実施形態において、熱源は装置内に相変化物質を含むことによって提供されてもよく、相変化物質は、相を変えるために(例えば固相から液相に)、任意周囲材料から熱を引き出すか、又は任意周囲材料に熱を与えるいずれかの性質を特徴としている。このようにして、空洞は、液相から固相に変化するとき周囲環境に熱を与える相変化物質で充填されてもよく、相変化は、充填された装置を直射日光のような直接型熱源下に置くことによって簡単に誘発されてもよい。同様に、中心空洞の使用に置き換えるか、その使用を拡大するように、装置の壁は、このような相変化材料の一つ以上の袋を格納するように形成されてもよい。
【0027】
外部電源なしに(又は限られた電源のみを持って)装置を加熱又は冷却する能力は、無停電電源又は信頼できる電源が得られない田舎又は僻地で装置が使用される状況において特に有利である。
【0028】
研究所の理想条件において、流体試料は、例えば約18時間、35℃でインキュベーションされてもよい。しかしながら、使用目的は非研究所条件で使用することにあるため、このような一定の温度を維持することが保証できず、したがって、インキュベーション期間中に装置がさらされる温度分布の働きと共にインキュベーション期間が変化するであろう。その結果として、明白な方法で、インキュベーションが完成したかどうか、又はインキュベーションが成功したかどうかを表示するために、本発明の好ましい実施形態には、一つ以上の可視的表示器が設けられている。インキュベーションの成功に関して、重要な汚染物質が大腸菌(E. coli)又は他の大腸菌群(coliforms)である場合、装置の温度が約7℃の既述の最低温度を下回るか、約44℃の上限温度値を上回るとインキュベーションは成功的ではないであろう。したがって、第1可視的表示器17が設けられるとよい。この表示器は適当な感温化学物質を備えることが好ましく、この感温化学物質は、約44℃を上回る温度にさらされると、その外観が不可逆的に変化する。この化学物質は、閾値を超える温度にさらされると、色を赤色に変えることができるように選ばれることがより好ましく、このようにして、装置が過度の温度にさらされ、インキュベーションが有効ではないことが可視的に表示できる。また、第2可視的表示器が設けられるとよく、この場合もやはり、約7℃の最低閾値を下回る温度にさらされると、その外観が不可逆的に変化する適当な化学物質を備えることが好ましい。外観は青色に変わることが好ましく、このようにして、装置が、耐えられる最低閾値を下回る温度にさらされていることを表示し、インキュベーションが早めに終わることが表示できる。適当な化学物質の例には、液晶又はロイコ染料が含まれる。液晶は、ノナン酸コレステリル又はシアノビフェニルのような有機ポリマを用い、これらは、温度によってこれらの配向は変化し、それにより、結晶形状における相対変化は可視光スペクトル内に入って、ヒトの目で見ると色の変化をもたらすことができる。代替的に、これらは可視光を完全に遮断して、黒色となる。これらの液晶は、ペイント溶剤に浮遊するか、被包される。他の色が透明な有機ポリマ(すなわち、ロイコ染料)は、スピロラクトン(spirolactanes),フルオラン(fluoranes)、スピロピラン(spiropyrans)、フルギド(fulgides)である。図1に示した実施形態において、第1可視的表示器及び第2可視的表示器は、装置の本体1の外面上に配置された小さい円盤又は円の形状をしているが、装置の他の場所に配置されてもよい。
【0029】
また、本体の外面上には第3可視的表示器が配置されており、第3可視的表示器は、インキュベーション工程が成功的に完了したときを表示するように構成されている。上述のように、成功的なインキュベーションに必要な時間は、適当な温度条件とすれば、装置がさらされている温度範囲に応じて変化するであろう。したがって、好ましい実施形態において、第3可視的表示器21は、ある期間に亘って可視的な外観を変化するように構成されている化学物質を備えており、これによって、外観を変えるこのような化学物質における比率は、さらされている温度曲線に対応する大腸菌群のインキュベーション比率に厳密に適合することができる。言い換えれば、可視的な外観を変えるこのような化学物質における比率は、それがさらされている温度に依存している。適当な化学物質は、時間−温度−表示器/積分器(TTIs)である。これらは、拡散型表示器(diffusion basedindicators)、酵素表示器(enzymatic indicators)及び重合反応表示器(solid state polymerization reaction indicators)の三つの主要類型に分類される。後者のグループは、付加重合されて、積分された時間−温度条件を表す不可逆的色変化を与える化合物である。好ましい実施形態において、図1に示したように、第3可視的表示器は、インキュベーション期間に亘って、累積的な態様で可視的な外観を変える長方形のストリップを含み、それにより、ストリップの全体が可視的な外観を変えると、インキュベーションが完了したと見なされる。
【0030】
第1可視的表示器及び第2可視的表示器に関連して上記の化学物質と同様な機能性を有する他の非化学的な可視的表示器が設けられてもよいことは、当業者にとって当然理解できるであろう。例えば、電気的表示機構が、一つ以上の温度センサー、適当な閾値化電気回路網及び可視的ディスプレイを利用して容易に考えられる。なお、本発明の範囲内にある可能性があるとはいえ、非化学的解決策は、複雑性及びコストの増加から好ましくない。
【0031】
他の実施形態において、装置の中心空洞15内に熱源又は冷却源を設けるより、図1に示したように装置の外側を覆って固定するように構成されているプラスチックスリーブが設けられてもよく、このプラスチックスリーブは、熱源又は冷却手段を分けるための袋又は発熱源を含む袋を随意含んでもよい。別の実施形態において、設けられたソーラーパネルと併用して、バッテリー電源又はソーラー電源で電気的に作動する加熱機構又は冷却機構が設けられてもよい。
【0032】
前もって説明したように、汚染レベルの数値化した量をcfu/100mlで確立させるために、規制当局では、膜ろ過及び最確数(MPN)法を受け入れている。非研究所条件及び非当業者という状況で測定するためにかなり複雑になることとは別に、この手法は数量化程度を提供しており、数量化程度は、試料水源の一般的な水質レベルを簡単に表示することに必要とされるだけではない。しかしながら、単なる糞便汚染のあり又はなしの表示を超えて、異なる水質レベルの幾つの表示を提供することも望まれている。子供又は免疫不全者がこの水の受領者であることが好ましく、この場合、これらの人に与える水は、別の方法で与えられる水より高い水質の水であることが好ましい。
【0033】
本発明の実施形態において、水試料の水質は、例えば0〜10cfu/100ml、10〜100cfu/100ml及び100+cfu/100mlの三つの異なる汚染レベルで区別されてもよい。出願人は、95%の信頼度で、10cfu/100ml未満又は10cfu/100mlを超える汚染を識別するために必要な試料の最低量は37.5mlであると決めた。また、出願人は、高い汚染レベルにおいて、汚染の可視的な表示を与えるための汚染試薬は、小さい試料サイズのみに必要であることに気が付いた。したがって、本発明の好ましい実施形態において、例えば2×10ml、2×5ml、2×2.5ml、2×1ml及び2×0.5mlの異なる容積の10個の試料隔室が設けられ、総容積が38mlであり、すなわち、95%の信頼度で最低汚染レベルを識別するために必要な最低量を超える。試料隔室の容積が異なるため、汚染の可視的な表示を示す隔室の数を簡単に数えることにより、適当な全般的な汚染レベルを決定することが可能となる。さらに、可視的な表示を示す隔室の全体的な数だけでよく、隔室の異なるサイズを区別する必要はない。したがって、簡単な記録には、概算の汚染レベルを汚染の可視的な表示を示す隔室の数に関連付けする装置が提供されてもよい。算数が分からない人さえ10まで数えることができそうなので、装置の好ましい実施形態において、10個の隔室が設けられる。同時に、汚染を示す試料隔室を計算に入れることによって、汚染レベルのより正確な表示が当業者に推測されるであろう。また、95%以外の信頼度が要求されるか、それを受け入れることができるとき、試料隔室の数及び全体的な容積は変化してもよい。例えば、信頼度が最大レベルにあるとき、試料隔室の全体的な容積は増加させるべきである。
【0034】
本発明の装置の代替的な実施形態は図3〜図5に概略的に示される。図3に示した平面図には、複数の試料隔室33を有する主要平面要素31が設けられている。水試料が装置の中に導入された後、装置を閉鎖するために、シール35が設けられる。第1可視的表示器37、第2可視的表示器39及び第3可視的表示器41が主要要素上に提供されており、図1に示した実施形態について前もって説明したように実装されてもよい。図3の装置の側面図を示す図4は、一連の試料隔室33を通る断面図である。試料隔室は主要要素31内に凹部又はウェルとして形成される。封止カバー43が設けられており、封止カバーは、主要要素31の一端に取り外せないように取り付けられるのが好ましく、その対向端においてシール35の一部分を有する。使用において、シール35は開放されており、このようにして、導入すべき試料流体が装置の中に入ることができる。その後、封止カバーは主要要素31を覆って閉鎖され、シール35の手段によってそこに封止される。このようにして、カバー43は個別の試料隔室33を隔離することができる。図4に示した実施形態において、試料隔室を形成する凹部の側壁より下の方の部分に透過性膜45が設けられており、透過性膜は個別の試料隔室内に汚染試薬49の個別の使用分を保持するために提供される。図5は、図3及び図4に示された実施形態のさらなる変化を示しており、図5には、前もって説明したように、インキュベーションに助力するための加熱源を収容するように、例えば更にフレキシブルな膜の態様で追加的な隔室515が提供されてもよい。
【0035】
好ましい実施形態において、インキュベーション期間の後、汚染の存在を表示するために、汚染試薬は可視的な色変化を発生する発色酵素基質を含む。したがって、好ましい実施形態において、各試料隔室の少なくとも一部分が透明であるか、不透明体ではなく、中身を可視的に検査することができる。また、試料隔室が種々の容積である場合には、未熟な使用者によって報告される検査結果に影響する可能性があるので、試料隔室の不透明体ではない部分については、どの試料隔室かすぐ明瞭ではないように全てを同じサイズ又は外観にすることが好ましい。これは、透明な「窓」の後にある試料隔室のサイズを簡単に変えることによって達成できるが、流体試料の視覚厚さを変えることができることによって、個別の隔室間で知覚色の深さを変える効果を有する可能性がある。これは望ましくない(未熟又は老練なユーザーが、汚染されてないものとして、汚染表示器の光影を明らかに示すのみである試料隔室を不当に引く可能性がある)ので、試料隔室の内部形状は、透明な部分に対向する隔室の物理的な深さを、隔室の全体的な容積にかかわらず同様にすることがより好ましい。
【0036】
完全な研究所施設が利用できない世界の田舎又は僻地で利用されることを主に意図したが、この装置は(軍事用途又は災害地域のような)他の状況において用いられても好ましいであろう。上記実施形態は大部分が飲料水水質について言及しているが、本発明の装置は(例えば、川、湖水又は動物乳のような他の流体まで)他の水源に用いられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態の分解図である。
【図2】図1の装置の端末キャップの詳細図である。
【図3】本発明の第2実施形態の平面図である。
【図4】図3の実施形態の断面における側面図である。
【図5】図3及び図4に示した実施形態の更なる変形の側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試料隔室を含む本体を備えている、流体試料の質を検査するための装置において、
当該装置内に複数の使用分の汚染試薬を保持するように構成されている汚染試薬保持手段であり、前記汚染試薬の前記使用分をそれぞれ対応の前記試料隔室内にある前記流体試料に加えることができるように構成されている汚染試薬保持手段を更に備えることを特徴とする、装置。
【請求項2】
複数の前記試料隔室のうちの少なくとも一つの容積が、複数の前記試料隔室の他のものの容積と異なる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記汚染試薬保持手段が、前記汚染試薬の複数の前記使用分を個別の前記試料隔室から隔離するための破裂性膜を備えている、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記汚染試薬保持手段が、前記試料隔室のそれぞれに配置された透過性膜を備えている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記試料隔室が不透明体ではない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
当該装置の温度が第1温度閾値を下回ったときを表示するように構成されている第1可視的表示器を更に備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記装置の温度が第2温度閾値を上回ったときを表示するように構成されている第2可視的表示器を更に備える、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記第1可視的表示器及び前記第2可視的表示器が、温度閾値を超えたときに外観が不可逆的に変化する感温性化学物質を含む、請求項6又は7に記載の装置。
【請求項9】
前記汚染試薬のインキュベーション期間が終了したときを表示するように構成されている第3可視的表示器を更に備える、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記第3可視的表示器が、当該装置の温度に対する感応性が高い、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記第3可視的表示器が、当該装置の経験温度で、前記汚染物質と同じ速さで可視的な外観を変える化学物質を含む、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
熱源を収容するように構成されている熱源隔室を更に備える、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
熱源を更に備える、請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
当該装置内に中和用剤を保持するように構成されている汚染試薬中和剤保持手段であり、作動したときに前記試料隔室の中に前記中和用剤を分与するように構成されている汚染試薬中和剤保持手段を更に備える、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記汚染試薬中和剤保持手段が、前記試料隔室から前記中和用剤を隔離する破裂性膜を備える、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記本体は細長く、第1端面及び第2端面を有し、前記試料隔室は、前記第1端面と前記第2端面の間に延びている複数の細長い薬室を備える、請求項1〜15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記第1端面及び前記第2端面のそれぞれを覆って締結するように、且つ、液密状に前記試料隔室を封止するように構成されている第1端末キャップ及び第2端末キャップを更に備える、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記汚染試薬保持手段が前記第1端末キャップ内に配置されている、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記本体が、複数の凹部が形成された平面要素を備えており、前記凹部が前記試料隔室を構成している、請求項1〜18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記汚染試薬の前記使用分がそれぞれの前記凹部内に保持されている、請求項20に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−518623(P2009−518623A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542841(P2008−542841)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004520
【国際公開番号】WO2007/063337
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(300002942)ザ ユニバーシティ オブ ブリストル (10)
【Fターム(参考)】