説明

水質改善方法及び装置

【課題】水域の水面付近の水性植物を確実に除去でき、かつ水域中の他の生物の生息環境に影響を与えない水質改善方法を提供する。
【解決手段】水域10の水面付近の水性植物21及び水2を含む流動体20を遮光容器31の暗室をなす内部31aに導入する。遮光容器31は好ましく管状とする。水性植物21の少なくとも一部が枯死するまで上記流動体20遮光容器内31aに留まらせる。その後、上記流動体20のうち少なくとも水23を遮光容器31から排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水質を改善する方法及び装置に関し、特に湖、沼、池、ダム、水田などの、水流が小さいか滞留しがちな水域に適した水質改善方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
湖沼、池、ダムなどの水域には、窒素やリンを含む栄養塩が流れ込むことにより藻類やウキクサなどの水性植物が異常繁殖しやすい。これらの水性植物は、水域の上部(水面上及び水面近くの水中)に生息して光合成を行い、炭酸ガスを固定しながら増えていく。水性植物が枯死すると、沈降して水底のヘドロとして堆積する。夜間は水性植物やヘドロによる水中酸素の消費が起きて水中の溶存酸素が減り、生物の生育に適さない環境になる。
【0003】
水域の環境を改善するために、特許文献1では、水底のヘドロに特殊シート部材を被せている。特殊シート部材の下側は嫌気環境になり、ヘドロが分解される。分解に伴なってメタンガスが発生する。特殊シート部材の一部をメッシュにし、このメッシュから上記メタンガスを透過させることで、特殊シート部材が舞い上がらないようにしている。
【0004】
特許文献2では、水中硬化セメントで水底のヘドロを固めている。セメントの亀裂部には漏斗状のガス採取管を被せ、このガス採取管の上端を水面まで伸ばす。ヘドロの分解で生じたメタンガスは、亀裂部から出て、ガス採取管に導かれて水面上の大気に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−008487号公報
【特許文献2】特公昭59−14280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上掲特許文献に記載の技術は、水域の水面付近の水性植物を除去するには適さない。また、水域の底部の状態を面的に広範囲にわたって変えてしまうために、コストがかかるだけでなく、水域中の他の生物の生息環境を悪化させるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明方法は、水域の水質を改善する水質改善方法であって、
前記水域の水面付近の水性植物及び水を含む流動体を遮光容器の暗室をなす内部に導入し、前記流動体を前記水性植物の少なくとも一部が枯死するまで前記遮光容器内に留まらせ、その後、前記流動体のうち少なくとも水を前記遮光容器から排出することを特徴とする。
【0008】
前記遮光容器内の暗室環境では水性植物が光合成できず、かつ水中の溶存酸素が当該水性植物自身やバクテリア等の他の生物の生命活動によって欠乏してくる。そのため、やがて水性植物が枯死して沈降する。また、酸素欠乏によって嫌気性細菌の活動が活発になり、遮光容器内の有機物を分解して酸化させるとともに窒素含有栄養塩(硝酸イオン、亜硝酸イオン等)を還元させる(式1)。
NO3 + H + (有機物) → N2 + CO2 + H2O (式1)
なお、式1において各項の係数は無視されている。これによって、脱窒が進み、栄養塩の一種である窒素濃度が低下する。この水を排出部から排出する。排出先は、前記水域でもよく、前記水域に連なる河川等でもよく、その他の場所でもよい。これによって、水域の水面付近の水性植物を減らし、水質を改善できる。所要コストも小さくできる。なお、排出先を河川にすると、遮光容器内で固形有機物から溶け出した水溶性の有機物や未分解の栄養塩が河川に流出するが、河川は淀みがなく溶存酸素量が多いために、上記水溶性の有機物や未分解の栄養塩が速やかに分解される。
上記方法によれば、たとえ、前記遮光容器を前記水域の水底に配置したとしても、水底の一部分が遮光容器で覆われるだけであり、水底の状態を面的に広範囲にわたって変えてしまうことはなく、生物の生息環境を悪化させるおそれが小さい。
【0009】
前記流動体を、前記遮光容器内の遮光路の上流端から前記遮光路に導入し、かつ前記遮光容器内に留まる期間中、前記遮光路の下流側へ向けて流し、その後、前記遮光路の下流端から排出することが好ましい。これによって、遮光容器に先に導入された水を先に遮光容器から出すことができる。遮光容器に後から導入された水が先に導入された水よりも先に排出されるのを防止できる。この結果、水を連続的に確実に水質改善したうえで排出できる。
【0010】
前記遮光容器は、管状であることが好ましい。管状の遮光容器の一端から流動体を導入し、他端から流動体を排出することによって、遮光容器に先に導入された水を確実に先に遮光容器から出すことができる。また、管状の遮光容器を前記水底に配置した場合、水底の遮光容器で覆われる部分が帯状になる。したがって、遮光容器によって影響を受ける水底領域を確実に狭くでき、生物の生息環境を充分に護ることができる。
【0011】
前記流動体中の水が前記遮光容器内に留まる期間は、例えば一日から七日である。これによって、前記水性植物の少なくとも一部を確実に枯死させることができる。
【0012】
前記遮光容器内の底部には前記水性植物の枯死体が沈殿する。この沈殿物(ヘドロ)が前記嫌気性細菌の活動によって分解される(式2)。
CxHyOz → aCO2 + bCH4 +cH2O (式2)
ここで、x=a+b,y=4b+2c,z=2a+cを満たす。たとえばx=6,y=12,z=6のとき、a=3,b=3,c=0となる(式3)。
C6H12O6 → 3CO2+ 3CH4 (式3)
式2及び式3に示すように、沈殿物の分解によってメタンが発生する。前記遮光容器から排出される水にはメタンが含まれる。メタンの温室効果係数は20(炭酸ガスの20倍)である。
そこで、前記排出する流動体から分離したガスを収集することが好ましい。これによって、メタンが大気中に放出されるのを防止でき、温暖化の促進を防止又は抑制できる。更には、収集したガスからメタンを抽出して貯蔵し、燃料等として活用できる。或いは、収集したメタンを燃焼処理することにしてもよい。
【0013】
前記遮光容器に溜まった沈殿物を前記遮光容器から排出して燃料又は肥料として供することにしてもよい。これによって、前記沈殿物(ヘドロ)を資源化できる。前記沈殿物(ヘドロ)にはリンが固定化されているため、良好な肥料となる。前記沈殿物の排出は、定期的に行なうことにしてもよく、沈殿物の量がある程度になったとき行なうことにしてもよい。
【0014】
また、本発明装置は、水域の水質を改善する水質改善装置であって、
内部に暗室をなす遮光路が形成された遮光容器と、
前記遮光路の上流端に連なり、前記前記水域の水面付近の水性植物及び水を含む流動体を取り込む導入部と、
前記遮光路の下流端に連なり、前記流動体を排出する排出部と、
を備え、前記流動体が前記遮光路内を流通する期間が、前記水性植物の少なくとも一部が暗室環境下で枯死する期間以上になるよう、前記遮光路の流路長及び流路断面積並びに前記流動体の取り込み流量が設定されていることを特徴とする。
これによって、前記水を遮光容器内における流通期間中に確実に水質改善できる。前記水を連続的に遮光路に流し、連続的に処理できる。遮光容器に先に導入された水を確実に先に遮光容器から出すことができる。遮光容器に後から導入された水が先に導入された水よりも先に排出されるのを確実に防止できる。
【0015】
前記遮光容器が、樹脂を含む遮光性材質にて構成されていることが好ましい。遮光容器の主成分を樹脂にすることで材料コストを低くできる。
【0016】
前記排出部に、前記流動体中のガスを収集する収集部を接続することが好ましい。これによって、メタンが大気中に放出されるのを防止でき、温暖化の促進を防止又は抑制できる。前記収集部は、前記排出部に対して機能的に、すなわち排出部からのガスを収集可能に接続されていればよく、排出部に物理的に接続されている必要はない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水域の水面付近の水性植物を減らして水質を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る水質改善装置を水域での使用状態で示す、図2のI−I線に沿う断面図である。
【図2】図2は、図1のII−II線に沿う前記水質改善装置の断面図である。
【図3】図3は、本発明の第2実施形態に係る水質改善装置の断面図である。
【図4】図4は、本発明の第3実施形態に係る水質改善装置の断面図である。
【図5】図5は、本発明の第4実施形態に係る水質改善装置の断面図である。
【図6(a)】図6(a)は、水質改善装置の遮光容器の変形例(本発明の第5実施形態)を示し、図6(b)のVIa−VIa線に沿う上記遮光容器の平面断面図である。
【図6(b)】図6(b)は、図6(a)のVIb−VIb線に沿う上記遮光容器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1及び図2は、本発明の第1実施形態を示したものである。本発明の水質改善は、湖、沼、池等の水域10に適用される。水域10の水2の流れは充分に小さい。より好ましくは、水2が滞留している。水域10に上流河川11が流入していてもよい。水域10から下流河川12が流出していてもよい。河川11,12に代えて地下水脈であってもよい。
【0020】
水域10内の水2にはアンモニア、硝酸、亜硝酸、燐酸等の栄養塩が含まれている。また、上流河川11に生活排水が混じっていると、それが水域10に流れ込むことで、水2の栄養塩濃度が一層高くなる。
【0021】
水域10の水面付近(水面上又は水面近くの水中)には、藻類やウキクサ等の水生植物21が浮遊している。水生植物21は、上記栄養塩を養分として吸収しながら光合成を行なって繁殖する。
【0022】
図1に示すように、水域10には水質改善装置3が設置されている。水質改善装置3は、装置本体30と、ポンプ40と、収集部50を備えている。装置本体30は、管状の遮光容器31と、管状の導入部32と、管状の排出部34を含み、全体として管状(長い容器状)になっている。
【0023】
遮光容器31を含む装置本体30の全体が、遮光性の材質にて構成されている。上記遮光性材質は、好ましくは樹脂を主成分として含む。遮光性材質として、樹脂とアルミ箔の積層膜や、黒色系の着色剤を練り込んだ樹脂等が挙げられる。遮光性材質の主成分を構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。装置本体30の外壁の肉厚は、例えば5μm〜500μm程度である。
【0024】
遮光容器31は、導入部32及び排出部34よりも充分に大きな流路断面積を有する管状になっている。上述したように、遮光容器31が遮光性材質にて構成されていることから、遮光容器31の内部が暗室をなす遮光路31a(遮光室)になっている。遮光路31aは流動体20で満たされている。流動体20は、水域10の水面付近の水2及び該水2に担持された水性植物21等の浮遊物が導入部23を介して取り込まれたものである。更に、遮光路31aの底部には、沈殿物22が堆積している。沈殿物22は、主に上記水性植物21の枯死体によって形成されたヘドロである。
環状の遮光容器31の太さ、ひいては環状の遮光容器31の長さ方向と直交する流路断面積Aは、全長にわたって一定である必要は無く、例えば遮光容器31の中央部を両端部より太くしてもよい。
【0025】
図2に示すように、遮光容器31の長さ方向と直交する断面は、扁平な円形になっている。遮光路31aの流路長L及び流路断面積Aは、水が遮光路31aを通過するのに1日〜7日程度要する大きさになるように、流動体20の取り込み流量との関係で設定されている。遮光容器31の大きさは、水域10の規模、処理すべき水の量等に応じて適宜設定されるが、例えば流路長LはL=10m〜5000m程度である。流路断面積Aは、例えばA=0.1m〜100m程度、乃至はA=1m〜10m程度である。遮光容器31の高さは例えば約0.5m以上であり、水域10の水2の対流の障害になるのを避ける観点からは、遮光容器31の高さは水流れ水深の半分程度以下が好ましい。遮光容器31の幅は例えば約2m程度である。流動体20の取り込み流量については後述する。
【0026】
遮光容器31は、水域10の底部(水底)に配置されている。水底の帯状部分10bが管状の遮光容器31で覆われる。帯状部分10bの長さは、遮光容器31の長さLに対応する。帯状部分10bの幅は、遮光容器31の幅に対応する。水底の帯状部分10b以外の部分10aは、遮光容器31に隠れることなく露出している。露出部分10aは、帯状部分10bより充分に広い。
【0027】
遮光容器31の一端(上流端)に導入部32が連なっている。導入部32は、遮光容器31と同じ遮光性材質からなり、遮光容器31と一体形成されている。
なお、導入部32が遮光容器31とは異なる材質にて構成されていてもよい。導入部32は、遮光性を有していなくてもよい。
【0028】
導入部32は、管状の遮光容器31より細い管状になっている。導入部32は、上下に延びている。導入部32の上端部は、水域10の水面付近に位置している。導入部32の下端部が遮光容器31に一体に連なっている。導入部32の直径は、例えば数cm〜数十cm程度であり、好ましくは10cm〜20cm程度である。
【0029】
導入部32の上端部にポンプ40が設けられている。ポンプ40は、液体と一緒に固体をも吸い込んで吐出可能なポンプであることが好ましい。このようなポンプ40として、例えば羽根ポンプ等の遠心式ポンプが挙げられる。ポンプ40は、浮き(図示省略)によって水域10の水面に浮かぶように支持されている。水域10の水深が浅い(例えば数m程度である)場合は、水底から支柱を立設し、この支柱の上端部にポンプ40を支持させてもよい。
【0030】
ポンプ40の周側面には、吸込口41が設けられている。好ましくは、複数の吸込口41がポンプ40の周方向に間隔を置いて設けられている。或いは、吸込口41は、ポンプ40の周方向に沿う環状になっている。ポンプ40は、ほぼ全方向(360度)から流動体20を取り込むことができる。吸込口41には、木切れや浮遊ゴミ等の邪魔な固形物の侵入を防止する網を設けることが好ましい。ポンプ40の底部には、吐出口42が設けられている。この吐出口42に導入部32の上端部(上流端)が接続されている。ポンプ40の駆動によって、水面付近の水2及び水性植物21を含む流動体20が取り込まれ、導入部32を介して遮光容器31へ送られる。流動体20の取り込み流量は、例えば0.1m/分〜10m/分程度である。
【0031】
図1に示すように、遮光容器31の他端(導入部32とは反対側の下流端)に排出部34が連なっている。排出部34は、遮光容器31と同じ遮光性材質からなり、遮光容器31と一体形成されている。
なお、排出部34が遮光容器31とは異なる材質にて構成されていてもよい。排出部34は、遮光性を有していなくてもよい。
【0032】
排出部34は、管状の遮光容器31より細い管状になっている。排出部34の直径は、例えば数cm〜数十cm程度であり、好ましくは10cm〜20cm程度である。排出部34は、水底の遮光容器31から水面へ向けて上へ延びている。排出部34の先端の排出口34eは、水域10の水面近くの水中に配置されている。しかも、排出口34eは、水域10における河川12の流出部の付近の岸辺に配置されている。水域10の岸辺に排出部34の先端部を支持する支持部材を設置してもよい。排出部34の先端部を浮きによって支持してもよい。なお、排出口34eを岸辺から離して水域10の中央部に配置してもよい。または、排出部34を河川12まで延ばしてもよく、排出口34eを河川12の水中又は水面上に配置してもよい(図4参照)。或いは、排出口34eを別の水域に配置してもよい。
【0033】
排出部34の先端に収集部50が接続されている。収集部50は、排出部34に対して機能的(排出部34からのガスを収集可能)に接続されていればよく、排出部34に物理的に接続されている必要はない。収集部50は、捕捉器51と、ガス路52を含む。捕捉器51は、逆さ漏斗状ないしは底部開口の容器状になっている。捕捉器51は、排出口34eの真上に少し離れて排気口34eに被さるように配置されている。捕捉器51は、水面の少し上に配置されているが、捕捉器51の全部または下側部が水中に漬かっていてもよい。排出口34eからの流出体にガスが含まれていると、このガスが上昇して捕捉器51に捕捉される。捕捉器51からガス路52が延びている。ガス路52が利用部53に接続されている。上記捕捉されたガスが、ガス路52を介して利用部53へ供給される。利用部53は、上記ガスからメタン(CH4)を抽出して精製する抽出・精製部や、精製したメタンガスを貯留するボンベを含む。利用部53が、メタンの燃焼部を含んでいてもよい。
【0034】
上記構成の水質改善装置3を用いて水域10の水質を改善する方法を説明する。
ポンプ40を駆動して、水域10の水面付近の水2及び水生植物21を含む流動体20を吸込口41から取り込む。この流動体20を、導入部32を経て、遮光容器31内の遮光路31aに送る。流動体20は、遮光路31a内を下流側(図1において右)へ流れる。
【0035】
遮光路31aは暗室環境であるために水生植物21が光合成できない。また、遮光路31a内の水中の溶存酸素は、当該水性植物21自身やバクテリア等の他の生物の生命活動によって消費され、欠乏してくる。そのため、やがて水性植物21が枯死する。流動体20は、水性植物21の少なくとも一部が枯死するまで、遮光路31a内を下流へ向けて流通しながら遮光路31a内に留まる。水性植物21が枯死するまでの期間は、遮光路31aへの導入から大略1日〜2日間程度である。流動体20が遮光路31a内を流通する期間が上記枯死までの期間(1日〜2日間程度)以上になるよう、遮光容器13の流路長L及び流路断面積A、並びにポンプ40による流動体20の取り込み流量を設定する。なお、ポンプ40は、連続的に駆動してもよく、ある時間間隔で間欠的に駆動してもよい。
【0036】
例えば、水域10が、面積約5ha、平均深さ5mの沼であり、河川11から生活排水が水域10に1日当たり平均1000m程度流れ込むものとする。この場合、ポンプ40によって毎分100L(1日当たり144m)の水2を、導入部32を経て、流路断面積A=2m程度の遮光路31aに送る。この場合、遮光路31aの長さLをL=144m程度にすることで、水性植物21を充分に枯死させることができる。水性植物21の枯死体は、酸素等が抜けることで遮光路31a内の底部に沈降して堆積し、沈殿物22(ヘドロ)となる。水性植物21の枯死沈降によって、遮光路31a内の流動体20の殆どが水23(液成分)だけになる。
【0037】
また、遮光路31a内は、酸素の欠乏によって嫌気環境になる。そのため、嫌気性細菌の活動が活発になる。嫌気細菌は、遮光路31a内の水中の有機物を分解して酸化させるとともに窒素含有栄養塩(硝酸イオン、亜硝酸イオン等)を還元させる(式1)。これによって、遮光路31aの下流に向かうにしたがって、水23の脱窒が進み、栄養塩のうち特に窒素含有塩の濃度が低下する。このようにして、水23を水質改善できる。この水質改善された水23を、遮光路31aから排出部34に送出し、排出口34eから水域10へ戻し、又は河川12へ排出する。水23を河川12に排出した場合、水23に含まれていた水溶性有機物や未分解栄養塩も一緒に河川12に流出するが、河川12は、湖沼等の水域10とは違って淀みがなく溶存酸素量が多いために、上記水溶性有機物や未分解栄養塩を速やかに分解できる。
【0038】
一方、遮光路31aの底部のヘドロ22は、嫌気性細菌によって発酵して分解され、メタンや水素等のガスを放出する(式2)。遮光容器31の内壁の上側部には、上記ヘドロ22からのガスや、上記窒素含有栄養塩の還元ガス等が溜まる。このガス24が、流動体20と共に遮光路31aの下流側へ流れ、更に排出部34を通って排出口34eから水23と一緒に排出される。排出後のガス24は、水23から分離されて水面上へ出て捕捉器51にて捕捉される。したがって、ガス24中のメタンが環境に放出されるのを防止でき、温暖化の促進を防止又は抑制できる。捕捉したガス24は、ガス路52を経て利用部53に送る。利用部53において、ガス24からメタンを抽出して燃料等として活用できる。
なお、メタンを利用部53には送らずに、捕捉部51にて捕捉後、燃焼させて炭酸ガスに変換して、大気に放出してもよい。その場合でも、メタンをそのまま大気に放出するよりも温暖化係数を小さくできる。
【0039】
遮光路31a内のヘドロ22の堆積量が大きくなったときは、ポンプ40の出力を高くし、ヘドロ22を排出部34へ押し出して排出口34eから排出することにしてもよい。ヘドロ22には、生体時の水性植物21が養分として吸収したリンが含まれている。したがって、上記排出したヘドロ22を肥料として利用できる。或いは、上記ヘドロ33を燃料として利用してもよい。これによって、ヘドロ22を資源化できる。
ヘドロ22を遮光容器31内において完全に分解させてメタン化してもよい。
【0040】
水質改善装置3によれば、遮光容器31を水域10の水底に設置したとしても、水底の帯状の一部分10bだけが遮光容器31で覆われるに留まり、水底の状態を面的に広範囲にわたって変えてしまうことはなく、生物の生息環境を悪化させるおそれが小さい。また、水2を連続的に改善処理でき、所要コストも小さくできる。
【0041】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において、既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を適宜省略する。
図3は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態の水質改善装置3Aでは、ポンプ40が水域10の水底に設置されている。したがって、ポンプ40を安定的に固定できる。ポンプ40の上部に吸込口41が設けられ、ポンプ40の側部に吐出口42が設けられている。
【0042】
更に、第2実施形態では、導入部32が、遮光容器31から分離されている。導入部32は、ポリエチレン等の硬質の樹脂管にて構成されていてもよく、ステンレス等の金属管にて構成されていてもよい。導入部32は、鉛直に向けられ、その下端部が吸込口41に連結されている。導入部32の上端部が、上向きに開口された状態で水面近くの水中に配置されている。導入部32の上端開口には、木切れや浮遊ゴミ等の邪魔な固形物の侵入を防止する網(図示省略)を設けることが好ましい。
【0043】
ポンプ40の吐出口42に遮光容器31の上流端が直接的に連なっている。導入部32と遮光容器31の間にポンプ40が介在されている。
【0044】
第2実施形態によれば、ポンプ40の駆動によって、水面付近の水2及び水性植物21を含む流動体20が、導入部32の上端開口から導入部32内に吸い込まれる。そして、ポンプ40を経て、遮光路31aへ送り込まれる。
【0045】
本発明において、流動体20を装置本体30に取り込んで流通させる駆動源40は必ずしも必要でない。図4は、本発明の第3実施形態を示したものである。第3実施形態の水質改善装置3Bでは、ポンプ40が省略されている。遮光容器31と一体をなす導入部32の上端部(上流端)が、水域10の水面付近の水中に上向きで配置されている。導入部32の上端部は、浮き等によって支持されている。好ましくは、導入部32の上端開口に網を設ける点は第2実施形態と同様である。
【0046】
排出部34は、水域10から流出河川12へ延ばされている。排出部34の先端の排出口34eは、河川12の水中に配置されている。排出口34eを河川12の水面上に配置してもよい。
【0047】
第3実施形態において重要な点は、排出部34の排出口34eが、導入部32の上端開口より低所に配置されていることである。この高低差によって、水域10の水面付近の水2及び水性植物21を含む流動体20が導入部32内に入り込んで遮光路31aへ送られ、更に遮光路31aを流通した後、排出部34を経て、排出口34eから排出される。したがって、ポンプ40等の駆動源が不要であり、設備コストを一層低減できる。また、導入部32の上端開口と排出口34eの高低差を調節することによって、流動体20の取り込み流量を調節でき、更には遮光路31a内での流動体20の流速を調節でき、ひいては流動体20が遮光路31a内に留まる期間を調節できる。更に、排出部34又は導入部32に流量調節弁を設けて、流動体20の流速を調節し、ひいては流動体20が遮光路31a内に留まる期間を調節してもよい。
【0048】
図5は、本発明の第4実施形態を示したものである。第4実施形態では、水域10の河川12への流出部に堰6が設けられている。堰6は開閉可能及び開度調節可能であることが好ましい。堰6を閉めたり開度を調節したりすることによって、水域10の流れを抑えることができる。これによって、水性植物21を水2と一緒に装置本体30に確実に取り込むことができる。
【0049】
遮光容器31は、必ずしも管状でなくてもよい。
図6(a)及び図6(b)は、本発明の第5実施形態を示したものである。第5実施形態は、遮光容器の変形例に係る。装置本体30Bの遮光容器33は、箱形ないしは直方体形をしている。遮光容器33の内部には1又は複数(図では2つ)の仕切り35が設けられている。これら仕切り35によって、遮光容器33の内部に、1つの遮光路33aが形成されている。遮光容器33が遮光性材質にて構成され、遮光路33aが暗室である点は、既述の実施形態と同様である。図6(a)に示すように、遮光路33aは、ジグザグ(つづら折り状)になっている。なお、遮光路33aを迷路状(ラビリンス状)にしてもよい。遮光路33aの一端(上流端)に導入部32が接続されている。遮光路33aの他端(下流端)に排出部34が接続されている。この変形例では、導入部32及び排出部34が、遮光容器33の互いに反対側の壁に接続されているが、これら導入部32及び排出部34が遮光容器33の互いに同じ側の壁に接続されていてもよい。
【0050】
水性植物21及び水2を含む流動体20が、導入部32から遮光路33aに導入される。流動体20が遮光路33aに沿って流れる過程で、水性植物21が漸次枯死する。したがって、遮光路33aの下流側の部分になるほど、水質改善が進む。
【0051】
上記箱形の遮光容器33が水域10の水底に設置されている。水底の遮光容器33にて覆われた部分10cは、四角形になっている。これによって、遮光容器によって影響を受ける水底部分をコンパクトにできる。
【0052】
この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をなすことができる。
例えば、遮光容器31は、必ずしも遮光性材料にて構成されている必要はない。水域10が深くて、遮光容器31を光が届かない深部に設置できる場合は、遮光容器31が遮光性でなくても、容器内部31aを暗室環境にできる。
実施形態では、遮光容器31が水底に設置されているが、これに限られず、遮光容器31を水域10の水中に浮遊させてもよく、水面上に浮かべて配置してもよい。そうすると、水底の環境への影響を一層小さくできる。或いは、遮光容器31を地上に設けて、水域10と地上の遮光容器31とを導入部32にて連結してもよい。地上の建造物内に遮光容器31を収容してもよい。上記建造物の収容室を暗室にすれば、遮光容器31自体が遮光性でなくても、容器内部31aを暗室環境にできる。
遮光容器31内において、流動体20が下流側へ流通せずに、静流状態で滞留していてもよい。
遮光容器31が1つの出入り口を有していてもよい。この出入り口を導入部32と排出部34として兼用してもよい。流動体20を上記出入り口から遮光容器31内に導入して、水性植物21の少なくとも一部が枯死する期間中、上記流動体20を遮光容器31内に静流状態で滞留させ、上記期間の経過後、上記流動体20を上記出入り口から排出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、湖沼や池等の水を改善するのに適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 水域
10a 水底の露出部分
10b,10c 水底の遮光容器にて覆われた部分
11 流入河川
12 流出河川
2 水域の水
20 流動体
21 水生植物
22 沈殿物(ヘドロ)
23 水質改善中又は水質改善された水
24 ガス
3,3A,3B 水質改善装置
30,30B 装置本体
31 遮光容器
31a 遮光路(暗室をなす容器内部)
32 導入部
33 遮光容器
33a 遮光路(暗室をなす容器内部)
34 排出部
34e 排出口
40 ポンプ
41 吸込口
42 吐出口
50 収集部
51 捕捉器
52 ガス路
53 利用部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水域の水質を改善する水質改善方法であって、
前記水域の水面付近の水性植物及び水を含む流動体を遮光容器の暗室をなす内部に導入し、前記流動体を前記水性植物の少なくとも一部が枯死するまで前記遮光容器内に留まらせ、その後、前記流動体のうち少なくとも水を前記遮光容器から排出することを特徴とする水質改善方法。
【請求項2】
前記流動体を、前記遮光容器内の遮光路の上流端から前記遮光路に導入し、かつ前記遮光容器内に留まる期間中、前記遮光路の下流側へ向けて流し、その後、前記遮光路の下流端から排出することを特徴とする請求項1に記載の水質改善方法。
【請求項3】
前記流動体中の水が前記遮光容器内に留まる期間が、1日〜7日であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水質改善方法。
【請求項4】
前記遮光容器を前記水域の水底に配置することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水質改善方法。
【請求項5】
前記排出する流動体から分離したガスを収集することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の水質改善方法。
【請求項6】
前記遮光容器に溜まった沈殿物を前記遮光容器から排出して燃料又は肥料として供することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の水質改善方法。
【請求項7】
水域の水質を改善する水質改善装置であって、
内部に暗室をなす遮光路が形成された遮光容器と、
前記遮光路の上流端に連なり、前記前記水域の水面付近の水性植物及び水を含む流動体を取り込む導入部と、
前記遮光路の下流端に連なり、前記流動体を排出する排出部と、
を備え、前記流動体が前記遮光路内を流通する期間が、前記水性植物の少なくとも一部が暗室環境下で枯死する期間以上になるよう、前記遮光路の流路長及び流路断面積並びに前記流動体の取り込み流量が設定されていることを特徴とする水質改善装置。
【請求項8】
前記遮光容器が管状であることを特徴とする請求項7に記載の水質改善装置。
【請求項9】
前記遮光容器が、樹脂を含む遮光性材質にて構成されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の水質改善装置。
【請求項10】
前記排出部に、前記流動体中のガスを収集する収集部を接続したことを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の水質改善装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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