説明

水質浄化システム及び水質浄化方法

【課題】広い設置スペースや高額の設備コストを必要としない小規模のシステムであるにも拘らず、被処理水中に含まれる窒素やリンを大幅に削減することが可能で、特に沼や池などの閉鎖水域内の自然水の清浄化のために好適な水質浄化システムを提供すること。
【解決手段】河川、池、沼等の自然水からなる被処理水を汲み上げるポンプと、該ポンプにより汲み上げられた被処理水が供給される第一の処理槽と、該第一の処理槽を通過した被処理水が供給される第二の処理槽と、前記第一の処理槽内の被処理水中に空気を供給するための曝気手段と、前記第一及び第二の処理槽内に配設された揺動床式の微生物担持体とを備えていることを特徴とする水質浄化システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水質浄化システムに関し、より詳しくは、河川、沼、池等の汚濁した自然水を清浄化するための水質浄化システム及び水質浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場等の排水処理施設が整備されるに伴って河川の水質が改善されつつある。
しかし、沼や池などの閉鎖水域においては、生活排水に含まれる窒素やリンが流入することにより富栄養化が進行し、プランクトンの異常増殖によるアオコの大量発生等が問題となっている。
【0003】
従来より、河川、沼、池等の自然水の水質を浄化するためのシステムは、大規模なものから小規模なものまで数多く提案されている。
しかしながら、多段階の処理工程を有する大規模なシステムは、水質浄化能力の点では優れているものの、一般に、広い設置スペースを必要とし、設置コストも高額であることから、小規模な河川の支流や沼等の周辺に設置することは困難である。
一方、処理工程が少ない小規模なシステムは、広い設置スペースを必要とせず、設備コストも低額で済むことから、小規模な河川の支流や沼等の周辺に設置するには適しているが、水質浄化能力の点で不十分であるという大きな問題がある。
【0004】
このような問題点に鑑みて、下記特許文献1には、設置スペースの削減と高い浄化能力の両立を目的として考案された水質浄化施設が提案されている。
特許文献1に開示された水質浄化施設は、受水槽と、略球形状のろ材を充填したろ材槽と、表面に微生物を付着させた接触材を充填した接触材槽と、ろ材槽と接触材槽との間に設けられた中間槽とから構成されている。
【0005】
しかしながら、この水質浄化施設は、大規模なシステムではないものの、4つの槽を設置する必要があることから、ある程度広い設置スペースを必要とする。そのため、小さい沼などに設置する場合にはスペースの制約を受けて設置できないおそれがある。
また、この水質浄化施設は、ろ材槽及び接触材槽に被処理水を順次通過させることにより処理を行うものであり、被処理水中に含まれる窒素やリンは接触材槽のみにおいて分解させる構造であるため、窒素やリンの分解処理能力が十分に得られない。
更に、接触材槽内における水の流れについて全く考慮がなされていないため、接触材と被処理水とを効率良く接触させることができず、その結果、接触材を設けていても十分な処理効率を得ることができない。
【0006】
【特許文献1】特開平7−265611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、広い設置スペースや高額の設備コストを必要としない小規模のシステムであるにも拘らず、被処理水中に含まれる窒素やリンを大幅に削減することが可能な高い浄化処理能力を有し、特に沼や池などの閉鎖水域内の自然水を清浄化するために好適に使用できる水質浄化システム及び水質浄化方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、河川、池、沼等の自然水を浄化するための水質浄化システムであって、前記自然水からなる被処理水を汲み上げるポンプと、該ポンプにより汲み上げられた被処理水が供給される第一の処理槽と、該第一の処理槽を通過した被処理水が供給される第二の処理槽と、前記第一の処理槽内の被処理水中に空気を供給するための曝気手段と、前記第一及び第二の処理槽内に配設された揺動床式の微生物担持体とを備えていることを特徴とする水質浄化システムに関する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記第二の処理槽は、該槽の内壁と前記微生物担持体の側面との間を仕切る仕切板を備えており、該仕切板は、該槽内の水面位置から前記微生物担持体の下端よりもやや上方位置までに亘って配置されており、前記第一の処理槽から供給される被処理水は、前記仕切板と前記内壁との間の空間に供給されることを特徴とする請求項1記載の水質浄化システムに関する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記第二の処理槽にて処理された後の被処理水は、該槽の上部から取り出されることを特徴とする請求項2記載の水質浄化システムに関する。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記第二の処理槽内に配設された微生物担持体の密度が、前記第一の処理槽内に配設された微生物担持体の密度に比べて大きいことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の水質浄化システムに関する。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記第一の処理槽は、前記微生物担持体の側面の上端から下端までに沿うように邪魔板を備えており、前記曝気手段による空気の供給部は、前記邪魔板と槽内壁との間であって且つ該邪魔板の下端部より僅かに上方位置に配設されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の水質浄化システムに関する。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記第一の処理槽において、前記微生物担持体と水面との距離が、前記微生物担持体と槽底面との距離並びに前記邪魔板と槽内壁との距離に比べて小さいことを特徴とする請求項5記載の水質浄化システムに関する。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記微生物担持体に担持される微生物が、前記自然水中に生息する微生物であることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の水質浄化システムに関する。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記微生物が、藻類及び動物性プランクトンであることを特徴とする請求項7記載の水質浄化システムに関する。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項1乃至8いずれかに記載の水質浄化システムを用いた水質浄化方法であって、河川の上流部及び下流部を堰き止めることにより閉鎖水域を形成し、前記ポンプを河川の中流部又は下流部に設置し、前記第二の処理槽にて処理された後の被処理水を河川の上流部に排水することを特徴とする河川の水質浄化方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、第一の処理槽及び第二の処理槽の2つの槽のみで処理ができるため、広い設置スペースや高額の設備コストを必要としない小規模のシステムとなる。しかも、第一の処理槽及び第二の処理槽内に揺動床式の微生物担持体が配設されているため、第一の処理槽及び第二の処理槽にて被処理水中に含まれる窒素を分解してリンを微生物の体内に取り込ませることで、窒素及びリンを大幅に減少させることができ、コンパクトで高い浄化処理能力を発揮することが可能なシステムとすることができる。また、第一の処理槽内の微生物担持体から脱落した微生物を、第二の処理槽内の微生物担持体で捕捉することができるため、長期間に亘って高い処理能力を維持することが可能となる。更に、自然水中にある汚泥や固形浮遊物についても微生物担持体で捕捉して除去することができる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、第一の処理槽から供給される被処理水を、第二の処理槽の下端近傍の側面から微生物担持体の内部を通って上昇させることができるため、微生物による分解処理を確実に行わせることができるとともに、被処理水中に含まれる汚泥や固形浮遊物についても微生物担持体に確実に捕捉させることが可能となる。また、被処理水を微生物担持体の側面から取り入れることができるため、槽の深さを浅くすることができ、第二の処理槽を小型化することができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、第二の処理槽にて処理された後の被処理水が、該槽の上部から取り出されることにより、第二の処理槽に供給された被処理水を確実に微生物担持体の内部を通過させて取り出すことが可能となる。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、第二の処理槽内に配設された微生物担持体の密度が、第一の処理槽内に配設された微生物担持体の密度に比べて大きいことから、第一の処理槽においては微生物担持体に付着する汚泥の量を少なくして内部への水の通過を円滑にして処理効率の低下を防ぐとともに、第二の処理槽においては微生物担持体に汚泥を確実に捕捉して池や沼等に再び汚泥が戻されることを防ぐことができる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、第一の処理槽内に供給された被処理水が直接微生物担持体の側面から入ることが邪魔板により防がれるとともに、曝気手段により微生物担持体の底部を通過した被処理水を邪魔板と槽内壁との間に導いて上昇流へと転換させることができる。そのため、第一の処理槽内において、微生物担持体の上方から下方へと循環する流れを確実に作り出すことができ、微生物による分解処理を非常に効率良く行わせることが可能となる。
【0022】
請求項6に係る発明によれば、第一の処理槽において、微生物担持体と水面との距離が、邪魔板と槽内壁との距離に比べて小さいことにより、邪魔板と槽内壁との間に形成された上昇流が微生物担持体と水面との間(即ち、微生物担持体の上方)に流れ込むときに流速が増すこととなる。そのため、微生物担持体の上方に流れ込んだ被処理水は、すぐに下方へと流下することがなく、微生物担持体の上方空間に行き渡った後に流下するようになり、被処理水を微生物担持体の全体にわたって満遍なく通過させることができ、微生物による分解処理の効率を格段に向上させることが可能となる。
更に、微生物担持体と槽底面との距離が、微生物担持体と水面との距離に比べて大きいことにより、微生物担持体の内部を通過した被処理水を、槽の底面に到達する前に邪魔板と槽内壁との間に導くことができ、微生物担持体の上方から下方へと循環する流れを確実に作り出して、微生物による分解処理を非常に効率良く行わせることが可能となる。
【0023】
請求項7に係る発明によれば、微生物担持体に担持される微生物が、自然水中に生息する微生物であることから、既存の生態系を壊すことなく、河川、沼、池などの自然水を浄化することができる。
【0024】
請求項8に係る発明によれば、微生物が藻類及び動物性プランクトンであることから、微生物担持体内において窒素やリンが藻類により吸収されて分解されるとともに、動物性プランクトンが藻類を食することで藻類が過剰に増殖することが防がれる。このように、微生物担持体内において食物連鎖が起こることにより、長期間に亘って優れた分解処理能力を発揮することが可能となる。
【0025】
請求項9に係る発明によれば、河川の上流部及び下流部を堰き止めて閉鎖水域を形成することにより、小規模なシステムにて河川を効率的に浄化することが可能となる。また、ポンプを河川の中流部又は下流部に設置し、第二の処理槽にて処理された後の被処理水を河川の上流部に排水することにより、堰き止められた閉鎖水域に水の流れをつくりだして広い範囲を効率良く浄化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る水質浄化システム及び水質浄化方法の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る水質浄化システムは、河川、池、沼等の自然水を浄化するためのシステムである。特に、沼や池などの閉鎖水域内の自然水を浄化するためのシステムとして好適に利用される。また、後述する如く、本来は閉鎖水域ではない河川に対して人工的に閉鎖水域を形成して適用することもできる。
【0027】
図1は本発明に係る水質浄化システムの構成を示す概略図である。
本発明に係る水質浄化システムは、河川、池、沼等の自然水(被処理水)を汲み上げる水中ポンプ(1)と、この水中ポンプ(1)により汲み上げられた被処理水が供給される第一の処理槽(2)と、この第一の処理槽(2)を通過した被処理水が供給される第二の処理槽(3)と、第一の処理槽(2)内の被処理水中に空気を供給するための曝気手段(4)と、第一及び第二の処理槽内に夫々配設された揺動床式の微生物担持体(5)(6)を備えている。
【0028】
水中ポンプ(1)により汲み上げられた被処理水は、導水管(7)を通って第一の処理槽(2)へと導かれる。導水管(7)の中途部には、流量計(8)及びバルブ(9)が取り付けられており、これら流量計及びバルブによって第一の処理槽(2)へと供給する被処理水の水量を管理・調節することが可能となっている。
導管(6)の下流側端部は第一の処理槽(2)の上部において開口しており、ポンプ(1)により汲み上げられた被処理水は、第一の処理槽(2)の上方から供給される。
【0029】
第一の処理槽(2)の内部には揺動床式の微生物担持体(5)が配設されている。
本発明において用いられる揺動床式の微生物担持体(5)とは、微生物を担持する部材が水流に伴って揺れ動く、即ち揺動することができる構成を有しているものである。
かかる微生物担持体(5)としては、例えば、ポリエステルフィラメント糸等からなる経糸と、この経糸から放射状に突出されたアクリル繊維等からなる房状の緯糸とから形成された糸材が、複数本並設された構成のものが用いられる。
【0030】
このような微生物担持体(5)では、房状の緯糸によって微生物を含んだ多くの汚泥を保持することができるとともに、房状の緯糸が揺動することにより水中の窒素やリンなどとの接触機会が増加するため、高い窒素やリンの削減能力を発揮することができる。
更に、房状の緯糸が揺動することによって、緯糸上に過剰に付着した汚泥が連続的に剥離するようになり、常に一定量の汚泥のみを保持することが可能となり、汚泥の一斉剥離や閉塞が生じることを防ぐことができる。
また、水流が糸材同士の間を乱流を生じながら通過することで、逆洗の効果が得られ、固定床のように定期的な逆洗の必要がない。
【0031】
第一の処理槽(2)の底面と微生物担持体(5)の底面との間には空間が形成されている。この空間は、微生物担持体(5)を台上に載置するか若しくは上から吊り下げることにより形成される。この空間は、後述する第二の処理槽(3)の底面と微生物担持体(6)の底面との間の空間よりも広く(深く)なっており、ポンプ(1)により汲み上げられた被処理水中に含まれる汚泥等の固形分を底部に堆積させることが可能となっている。
また、第一の処理槽(2)の底部近傍にはバルブを備えた排水管(10)が接続されており、第一の処理槽(2)内の被処理水を上記した空間の下方から適宜排出することが可能とされている。
【0032】
第一の処理槽(2)の内部は、後述する曝気手段(4)により空気が供給されることによって好気性雰囲気となっている。具体的には、第一の処理槽(2)の被処理水中の溶存酸素(DO:Dissolved Oxygen)量は、例えば7.0〜10.0mg/Lとされる。
【0033】
第一の処理槽(2)の内部に配設された微生物担持体(5)には、水中ポンプ(1)により汲み上げられた河川、池、沼等の自然水中に生息している微生物が捕捉されて担持される。
具体的には、河川、池、沼等の自然水中に生育している藻類や動物性プランクトンが微生物担持体(5)に担持される。
微生物担持体(5)に担持された藻類は、被処理水中に含まれる窒素やリン等の栄養素と二酸化炭素を取り入れて太陽光を用いて光合成を行う。これにより、第一の処理槽(2)内に供給された被処理水中に含まれる窒素及びリンが減少する。また、動物性プランクトンは増殖した藻類を食して二酸化炭素を排出する。
【0034】
曝気手段(4)は、図示例ではブロワが示されている。(以下、ブロワ(4)という)
ブロワ(4)により発生した気流は、送気管(11)を通って第一の処理槽(2)の内部へと導かれる。送気管(11)の中途部には、バルブ(12)、流量計(13)、サイレンサ(14)が取り付けられており、バルブ(12)及び流量計(13)によって第一の処理槽(2)へと供給する空気量を管理・調節することが可能となっている。
【0035】
第一の処理槽(2)の内部には、微生物担持体(5)の側面の上端から下端までに沿うように邪魔板(18)が配設されている。
そして、送気管(11)の下端開口部(空気の供給部)は、図示の如く、邪魔板(18)と槽内壁との間であって且つ邪魔板(18)の下端部より僅かに上方位置に配置されている。
送気管(11)の開口部(空気の供給部)から吐出された空気(気泡)は、邪魔板(18)に沿って上昇し、これに伴って微生物担持体(5)の側面に沿って上昇する水流がつくり出される。
【0036】
第一の処理槽(2)において、微生物担持体(5)と水面との距離は、微生物担持体(5)と槽底面との距離並びに邪魔板(18)と槽内壁との距離に比べて小さくなっている。
より具体的には、微生物担持体(5)と水面との距離は、微生物担持体(5)と槽底面との距離並びに邪魔板(18)と槽内壁との距離の半分以下に設定されている。
【0037】
本発明では、上記した邪魔板(18)、空気供給部、微生物担持体(5)の位置関係が非常に重要であり、これらの位置関係が適切に設定されることで、処理効率を格段に向上させることが可能となる。
以下、3者の位置関係により導かれる作用効果について、より詳しく説明する。
先ず、微生物担持体(5)の側面の上端から下端までに沿うように配設された邪魔板(18)により、第一の処理槽(2)内に供給された被処理水は、直接に微生物担持体の側面から入ることが防がれる。そして、曝気手段による空気の供給部が、邪魔板(18)と槽内壁との間であって且つ邪魔板(18)の下端部より僅かに上方位置に配設されていることにより、供給された空気は邪魔板(18)の下端部を越えて微生物担持体(5)側へと流れることがなく、確実に邪魔板(18)と槽内壁との間を流れることとなり、その結果、邪魔板(18)と槽内壁との間において非常に指向性の強い上昇流がつくり出される。
【0038】
そして、微生物担持体(5)と水面との距離が、邪魔板(18)と槽内壁との距離に比べて小さいことにより、邪魔板(18)と槽内壁との間に形成された上昇流は、微生物担持体(5)と水面との間(即ち、微生物担持体の上方)に流れ込むときに流速が増す。
そのため、微生物担持体(5)の上方に流れ込んだ被処理水は、すぐに下方へと流下することなく、微生物担持体(5)の上方空間に行き渡った後に流下するようになる。その結果、被処理水を微生物担持体(5)の全体にわたって満遍なく通過させることができ、微生物による分解処理の効率を格段に向上させることが可能となる。
【0039】
更に、微生物担持体(5)と槽底面との距離が、微生物担持体(5)と水面との距離に比べて大きいことにより、微生物担持体(5)の内部を上方から下方に向けて通過した被処理水は、流速が低下する。
ここで、上述したように、邪魔板(18)と槽内壁との間においては、非常に指向性の強い上昇流がつくり出されているため、微生物担持体(5)の内部を上方から下方に向けて通過した被処理水は、槽の底面に到達する前に邪魔板と槽内壁との間に導かれて上昇流となる。
【0040】
上記したように、邪魔板(18)、空気供給部、微生物担持体(5)の位置関係が適切に設定されることで、第一の処理槽(2)内に、微生物担持体(5)の内部を満遍なく通過して一定方向に循環する循環流を確実につくり出すことが可能となり、その結果、微生物担持体(5)に担持された微生物による分解能力を最大限に発揮させることができるようになり、処理効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0041】
第二の処理槽(3)は、第一の処理槽(2)からオーバーフローした被処理水を導水管(15)を介して取り入れる槽であり、その内部には、第一の処理槽(2)と同じ構造を有する揺動床式の微生物担持体(6)が配設されている。
また、第二の処理槽(3)の底面と微生物担持体(6)の底面との間にも空間が形成されている。この空間は、微生物担持体(6)を台上に載置するか若しくは上から吊り下げることにより形成されている。
そして、第二の処理槽(3)の底部近傍にはバルブを備えた排水管(17)が接続されており、第二の処理槽(3)内の被処理水を上記した空間の下方から適宜排出することが可能とされている。
【0042】
第二の処理槽(3)は、第一の処理槽(2)よりも小型(小容積)の槽である。
具体的には、第二の処理槽(3)の容積は第一の処理槽(2)の容積の約半分とされている。
そして、処理槽の容積に対して微生物担持体の占める割合(体積占有率)は、第一の処理槽(3)では約50〜55%、第二の処理槽(4)では約85〜90%となっており、第二の処理槽では第一の処理槽の約2倍の体積占有率となっている。
【0043】
第二の処理槽(3)は、第一の処理槽(2)内の溶存酸素が多い被処理水が供給される。そのため、外部から空気は供給されないが、被処理水中の溶存酸素も比較的多くなっている。具体的には、例えば溶存酸素量は7.0〜10.0mg/Lとされる。
【0044】
第二の処理槽(3)の内部に配設された微生物担持体(6)には、水中ポンプ(1)により汲み上げられて第一の処理槽(2)を通過した、河川、池、沼等の自然水中に生息している微生物が捕捉されて担持される。
具体的には、河川、池、沼等の自然水中に生育している藻類や動物性プランクトンが微生物担持体(6)に担持される。
微生物担持体(6)に担持された藻類は、被処理水中に含まれる窒素やリン等の栄養素と二酸化炭素を取り入れて太陽光を用いて光合成を行う。これにより、第二の処理槽(3)内に供給された被処理水中に含まれる窒素及びリンが減少する。また、動物性プランクトンは増殖した藻類を食して二酸化炭素を排出する。
【0045】
第二の処理槽(3)は、槽の内壁と微生物担持体(5)の側面との間を仕切る仕切板(16)を備えている。
仕切板(16)は、第二の処理槽(3)内の水面位置から微生物担持体(5)の下端よりもやや上方位置までに亘って配置されている。
導水管(15)の下流側端部は、仕切板(16)と槽の内壁との間の空間において開口されており、第一の処理槽(2)から供給される被処理水は、上方から当該空間に向けて供給される。
【0046】
これにより、第一の処理槽(2)から供給される被処理水は、仕切板(16)に沿って下降した後、第二の処理槽(3)の底部近傍から微生物担持体(6)の内部を通って上昇することとなり、微生物による分解処理を確実に効率良く行わせることが可能となる。
また、被処理水中に含まれる異物(汚泥や浮遊物質等)についても、微生物担持体(5)に捕捉させることが可能となる。
【0047】
第二の処理槽(3)内に配設された微生物担持体(6)の密度は、第一の処理槽(2)内に配設された微生物担持体(5)の密度に比べて大きくなっている。
例えば、上述した微生物担持体を構成する経糸が、微生物担持体(5)では10cm間隔、微生物担持体(6)では7.5cm間隔とされている。
このように、第二の処理槽(3)内に配設された微生物担持体(6)の密度は、第一の処理槽(2)内に配設された微生物担持体(5)の密度に比べて大きいことにより、第一の処理槽(2)では微生物担持体(5)に付着する汚泥の量を少なくして内部への水の通過を円滑にして処理効率の低下を防ぐことができる。そして、第二の処理槽(3)では微生物担持体(6)に汚泥を確実に捕捉することができ、これにより池や沼等に再び汚泥が戻されることを防ぐことが可能となり、池や沼等に堆積するヘドロの量を削減することができる。
【0048】
第二の処理槽(3)にて処理された後の被処理水は、該槽の上部から取り出されて再び河川、池、沼等の自然水中へと戻される。
このように、第二の処理槽(3)にて処理された後の被処理水を、該槽の上部から取り出すことにより、第二の処理槽(3)に供給された被処理水を確実に微生物担持体(6)の内部を通過させて取り出すことが可能となる。
【0049】
上記したように、第一の処理槽(2)においては微生物担持体(5)の上方から下方に向けて被処理水が通過し、第二の処理槽(3)においては微生物担持体(6)の下方から上方に向けて被処理水が通過する。
微生物担持体(5)(6)は、上方と下方において明るさや溶存酸素量等の環境が異なっているため、上方と下方では生育する微生物の種類や数が異なるようになる。このような状況下で、一方の槽では上方から下方への水流、他方の槽では下方から上方への水流をつくり出すことで、第一の処理槽(2)と第二の処理槽(3)において生育する微生物の種類や数に変化をつけることができ、これにより、システム全体として微生物による処理能力を向上させることが可能となる。
【0050】
図2は本発明に係る水質浄化システムを用いた水質浄化方法の一例を示す概略平面図である。
図示例は、本発明に係る水質浄化システムを河川に対して適用した例、具体的には河川の本流に合流する支流に対して適用した例を示している。
本発明に係る水質浄化システムを河川に対して適用する場合、先ず河川の上流部及び下流部を堰き止めることにより閉鎖水域を形成する。
次いで、ポンプ(1)を河川の中流部又は下流部に設置し(図示例では中流部)、その他の設備(20)(第一の処理槽及び第二の処理槽)を上流部に設置する。
そして、ポンプ(1)により汲み上げられた閉鎖水域の自然水(被処理水)を、上述した第一の処理槽(2)及び第二の処理槽(3)に順次供給し、第二の処理槽(3)にて処理された後の被処理水を河川の上流部に排水する。
【0051】
このように、河川の上流部及び下流部を堰き止めて閉鎖水域を形成することにより、小規模なシステムにて河川を効率的に浄化することが可能となる。
また、ポンプを河川の中流部又は下流部に設置し、第二の処理槽にて処理された後の被処理水を河川の上流部に排水することによって、堰き止められた閉鎖水域において人工的に水の流れをつくりだして広い範囲を効率良く浄化することが可能となる。
尚、水量が少ない河川の場合には、河川の下流部のみを堰き止めた状態で、本発明に係る水質浄化システムを用いてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明に係る水質浄化システムの実施例を挙げることによって、本発明の効果をより明確にする。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例)
図1に示す構成を有する浄化システムを用いて、図2に示すように河川(大冠農業用水路)の支流の上流及び下流を堰き止めて閉鎖水域(長さ約120m、幅約4m)をつくり出した後、当該閉鎖水域内の自然水の浄化処理を行った。
使用したシステムは、第一の処理槽の容積が1120L(微生物担持体の容積:575L)、第二の処理槽の容積が600L(微生物担持体の容積:531L)であり、ブロワにより第一の処理槽の内部に0.25m/分以下(曝気強度4〜6)の割合で空気を供給した。
システム稼動前の水と、稼動10日後の水を夫々採取して、水素イオン濃度(pH)、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質量(SS)、窒素量(T−N)、リン量(T−P)、透明度を測定した。
結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、本発明に係る水質浄化システムの稼動10日後には、水素イオン濃度(pH)、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質量(SS)、窒素量(T−N)、リン量(T−P)、透明度の全ての項目において、稼動前に比べて大幅な改善が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、河川、池、沼などの自然水中に含まれる窒素やリンを減少させて富栄養化を防止するために利用される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る水質浄化システムの構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る水質浄化システムを用いた水質浄化方法の一例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ポンプ
2 第一の処理槽
3 第二の処理槽
4 曝気手段
5 微生物担持体
6 微生物担持体
16 仕切板
18 邪魔板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川、池、沼等の自然水を浄化するための水質浄化システムであって、
前記自然水からなる被処理水を汲み上げるポンプと、
該ポンプにより汲み上げられた被処理水が供給される第一の処理槽と、
該第一の処理槽を通過した被処理水が供給される第二の処理槽と、
前記第一の処理槽内の被処理水中に空気を供給するための曝気手段と、
前記第一及び第二の処理槽内に配設された揺動床式の微生物担持体と
を備えていることを特徴とする水質浄化システム。
【請求項2】
前記第二の処理槽は、該槽の内壁と前記微生物担持体の側面との間を仕切る仕切板を備えており、
該仕切板は、該槽内の水面位置から前記微生物担持体の下端よりもやや上方位置までに亘って配置されており、
前記第一の処理槽から供給される被処理水は、前記仕切板と前記内壁との間の空間に供給されることを特徴とする請求項1記載の水質浄化システム。
【請求項3】
前記第二の処理槽にて処理された後の被処理水は、該槽の上部から取り出されることを特徴とする請求項2記載の水質浄化システム。
【請求項4】
前記第二の処理槽内に配設された微生物担持体の密度が、前記第一の処理槽内に配設された微生物担持体の密度に比べて大きいことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の水質浄化システム。
【請求項5】
前記第一の処理槽は、前記微生物担持体の側面の上端から下端までに沿うように邪魔板を備えており、
前記曝気手段による空気の供給部は、前記邪魔板と槽内壁との間であって且つ該邪魔板の下端部より僅かに上方位置に配設されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の水質浄化システム。
【請求項6】
前記第一の処理槽において、
前記微生物担持体と水面との距離が、前記微生物担持体と槽底面との距離並びに前記邪魔板と槽内壁との距離に比べて小さいことを特徴とする請求項5記載の水質浄化システム。
【請求項7】
前記微生物担持体に担持される微生物が、前記自然水中に生息する微生物であることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の水質浄化システム。
【請求項8】
前記微生物が、藻類及び動物性プランクトンであることを特徴とする請求項7記載の水質浄化システム。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の水質浄化システムを用いた水質浄化方法であって、
河川の上流部及び下流部を堰き止めることにより閉鎖水域を形成し、
前記ポンプを河川の中流部又は下流部に設置し、
前記第二の処理槽にて処理された後の被処理水を河川の上流部に排水する
ことを特徴とする河川の水質浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−273994(P2009−273994A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126430(P2008−126430)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(305019967)デンセツ商事株式会社 (3)
【Fターム(参考)】