説明

水酸化コバルトのコロイド溶液及びその製造方法

【課題】シングルナノサイズを有し且つ狭い粒度分布を有する水酸化コバルト粒子を含むコロイド溶液を提供する。
【解決手段】水酸化コバルト粒子と高分子分散剤とを含むコロイド溶液であって、前記高分子分散剤が、アクリル系重合体及び/又はその塩から選ばれる少なくとも1種であり、前記水酸化コバルト粒子の粒度分布の累積質量の50%となる粒子径D50が3.5〜4.5nmであり、且つ、前記水酸化コバルト粒子の粒度分布の累積質量の90%となる粒子径D90が前記粒子径D50の2.0倍以下であることを特徴とするコロイド溶液、並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化コバルトのコロイド溶液及びその製造方法に関し、具体的には、シングルナノメートルサイズを有する水酸化コバルト粒子のコロイド溶液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルサイズを有する物質は、ミクロンオーダーのサイズを有する物質と比較してマトリックスとの界面が飛躍的に増大すること、また、バルク材料とは異なる特異な特性を発現しうること等の理由から、幅広い分野において様々な工学的応用が期待されている。
ナノメートルサイズを有する物質は、一般的に1nm〜数十nmのサイズを有する物質を指す。中でも、1nm〜10nmのシングルナノメートルサイズを有する物質は、数十nmのサイズを有する物質と比較して、さらに、上記したような効果が大きいことから、大いに期待される材料の1つである。
【0003】
例えば、触媒の活性を向上させるためには、結晶面の制御と共に、1次粒子の微小化による比表面積の向上も有効である。また、リチウム電池等の電極活物質も、電極性能を向上させるために、均一で微小なものが求められている。そのため、触媒物質や電極活物質等のナノメートルサイズ化、さらには、シングルナノメートルサイズ化が望まれている。
【0004】
従来、酸化コバルトやコバルト複合酸化物(例えば、コバルト酸リチウム等)等のコバルト化合物は、様々な用途に使用されている。例えば、酸化コバルトは、自動車等の内燃機関から排出される排ガス中に含まれる一酸化炭素の浄化触媒等として、また、コバルト酸リチウムは、リチウム電池等の正極活物質等として使用されている。これら酸化コバルトやコバルト複合酸化物の原料として用いられるコバルト化合物粒子にも、ナノメートルサイズ化、さらにはシングルナノメートルサイズ化が望まれている。
【0005】
例えば、特許文献1には、粒度分布幅の狭い四酸化三コバルトを製造することを目的の1つとする製造方法であって、水溶性二価コバルト化合物を水系媒液中で中和・酸化することを特徴とする四酸化三コバルトの製造方法が開示されている。特許文献1に記載の製造方法では、分散剤は用いられていない。
【0006】
また、特許文献2には、一次粒子の平均粒径1〜150nm銅微粒子が少なくともその表面の一部が分散剤で覆われて水溶液中に分散されている、銅微粒子分散水溶液の製造方法であって、(i)銅イオンを分散剤の存在下で、特定のpHに調整したアンモニア水溶液中でアンモニアとの反応により水溶性の銅アンミン錯体を得る工程(工程1)、(ii)前記工程1で得られた銅アンミン錯体を含む水溶液に、還元剤を添加して還元反応により少なくとも表面の一部が分散剤で覆われた銅微粒子を形成する工程(工程2)を含むことを特徴とする銅微粒子分散水溶液の製造方法が開示されている。
【0007】
一方、特許文献3には、微小サイズで単分散性に優れた金属微粒子を製造することを目的として、金属微粒子の製造過程における還元剤分解による副生ガス発生を抑制した金属微粒子の製造方法が開示されている。具体的には、分解性の還元剤と析出性物質とを少なくとも含有する第1の溶液と、金属微粒子を作製する金属原子又は金属イオンを含有する第2の溶液とを液相法により混合反応させて金属微粒子を形成する混合工程を備えた金属微粒子の製造方法であって、前記混合工程の前に、前記第1の溶液を所定温度に冷却する冷却工程又は前記第1の溶液のpHを所定領域に調整するpH調整工程を備えることを特徴とする金属微粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−68750号公報
【特許文献2】特開2009−256779号公報
【特許文献3】特開2008−81772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法で得られる四酸化三コバルトは、平均粒子径が0.03〜0.1μmというサブミクロンオーダーであり、比表面積が小さい。
一方、特許文献2において、分散剤としてポリアクリル酸が例示されているが、実施例で実際に使用されているのは、ポリビニルピロリドンのみである。本発明者らの知見によれば、ポリビニルピロリドンのようなアミン系の高分子分散剤では、金属微粒子の凝集を充分に抑制することができないため、シングルナノサイズを有し、且つ、均一な粒度分布を有する(すなわち、粒度分布が狭い)金属微粒子、特に水酸化コバルト微粒子を得ることはできない。
以上のように、従来、シングルナノサイズを有し且つ均一な粒度分布を有する水酸化コバルト粒子を得ることは困難であった。
【0010】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、シングルナノサイズを有し且つ狭い粒度分布を有する水酸化コバルト粒子を含むコロイド溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のコロイド溶液は、水酸化コバルト粒子と高分子分散剤とを含むコロイド溶液であって、
前記高分子分散剤が、アクリル系重合体及び/又はその塩から選ばれる少なくとも1種であり、
前記水酸化コバルト粒子の粒度分布の累積質量の50%となる粒子径D50が3.5〜4.5nmであり、且つ、前記水酸化コバルト粒子の粒度分布の累積質量の90%となる粒子径D90が前記粒子径D50の2.0倍以下であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明のコロイド溶液は、シングルナノサイズを有し且つ粒度分布が狭い水酸化コバルト粒子を含むものであり、該コロイド溶液を原料として用いることで、高比表面積を有するコバルト酸化物粒子等のコバルト化合物粒子を得ることが可能である。
【0013】
本発明のコロイド溶液の製造方法は、水酸化コバルト粒子と高分子分散剤とを含むコロイド溶液の製造方法であって、
(1)溶媒溶解性コバルト化合物と該コバルト化合物を溶解可能な溶媒とを含む第1の原料溶液、及び
(2)中和剤とアクリル系重合体及び/又はその塩からなる高分子分散剤とを含み、前記中和剤の含有量が前記第1の原料溶液に含まれる全てのコバルトイオンを中和するために必要な量の0.5倍を超えて1.2倍未満である第2の原料溶液を、
せん断速度3000sec−1以上の領域で混合することを特徴とするものである。
【0014】
本発明のコロイド溶液の製造方法によれば、シングルナノサイズの水酸化コバルト粒子を高分散状態で含有する、上記本発明のコロイド溶液を得ることができる。
【0015】
本発明のコロイド溶液の製造方法において、前記第2の原料溶液(2)における前記中和剤の含有量は、前記第1の原料溶液(1)に含まれる全てのコバルトイオンを中和するために必要な量の0.8倍以上1.1倍以下であることが好ましい。
また、前記中和剤の具体例としてはアンモニアが挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シングルナノサイズを有し且つ狭い粒度分布を有する水酸化コバルト粒子を含むコロイド溶液を得ることができる。従って、本発明により提供されるコロイド溶液を用いることによって、シングルナノサイズ及び狭い粒度分布を有し、高比表面積を有するコバルト化合物粒子を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例で得られたコロイド溶液に含まれる水酸化コバルト粒子の粒度分布曲線(累積分布)である。
【図2】実施例で得られたコロイド溶液に含まれる水酸化コバルト粒子の粒度分布曲線(頻度分布)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明のコロイド溶液について説明する。
本発明のコロイド溶液は、水酸化コバルト粒子と高分子分散剤とを含むコロイド溶液であって、
前記高分子分散剤が、アクリル系重合体及び/又はその塩から選ばれる少なくとも1種であり、
前記水酸化コバルト粒子の粒度分布の累積質量の50%となる粒子径D50(以下、単に「粒子径D50」ということがある。)が3.5〜4.5nmであり、且つ、前記水酸化コバルト粒子の粒度分布の累積質量の90%となる粒子径D90(以下、単に「粒子径D90」ということがある)が前記粒子径D50の2.0倍以下であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明のコロイド溶液に含有される水酸化コバルト粒子は、まず、粒子径D50、つまり累積質量換算における平均粒径が3.5〜4.5nmであり、シングルナノサイズの累積質量平均粒径を有している。
さらに、本発明のコロイド溶液に含有される水酸化コバルト粒子は、粒子径D90が粒子径D50の2.0倍以下、つまり、D90/D50≦2.0を満たす粒度分布を有している。D90/D50は、粒径分布の広さを示す指標値であり、実質1以上となるが、1に近いほど単分散状態に近く、粒度分布が狭いことを示す。
【0020】
すなわち、本発明のコロイド溶液は、均一な粒度分布を有するシングルナノサイズの水酸化コバルト粒子を含有する。このように、シングルナノサイズ及び狭い粒度分布を有する水酸化コバルト粒子を含有する、本発明のコロイド溶液を原料として用いることによって、シングルナノサイズを有し、比表面積が大きなコバルト化合物粒子を製造することが可能となる。
【0021】
本発明のコロイド溶液は、例えば、後述する本発明のコロイド溶液の製造方法によって、調製することができる。
【0022】
本発明において、水酸化コバルト粒子の粒度分布の累積質量50%となる粒子径D50及び累積質量90%となる粒子径D90は、コロイド溶液に含まれる水酸化コバルト粒子の粒度分布曲線から求めることができる。水酸化コバルト粒子の粒度分布曲線は、公知の方法により求めることができ、例えば、動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置等、光散乱法を利用した装置を用いることができる。具体的な装置として、例えば、大塚電子株式会社製、ELS−Zが挙げられる。
【0023】
本発明のコロイド溶液において、水酸化コバルト粒子は、アクリル系重合体及び/又はその塩からなる高分子分散剤(以下、単に「アクリル系高分子分散剤」ということがある)によってその表面が覆われ、保護されている。尚、水酸化コバルト粒子は、表面全体がアクリル系高分子分散剤に覆われている状態の他、少なくとも一部の表面がアクリル系高分子分散剤に覆われている状態でもよい。
アクリル系高分子分散剤は、コロイド溶液中の水酸化コバルト粒子の表面を覆うように存在し、水酸化コバルト粒子の分散性を良好に維持する作用を有するものであればよく、特に限定されない。
【0024】
具体的なアクリル系高分子分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等のアクリル系重合体、並びに、これらアクリル系重合体の塩が挙げられる。アクリル系重合体の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
好ましいアクリル系高分子分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムが挙げられる。
本発明のコロイド溶液は、アクリル系高分子分散剤を1種のみ含有していても或いは2種以上を含有していてもよい。
【0025】
コロイド溶液におけるアクリル系高分子分散剤の量は、水酸化コバルト粒子の分散性を良好に維持することができればよく、特に限定されないが、コロイド溶液中に含まれるコバルトイオン1モルに対して、700g以上であることが好ましく、2400g以下であることが好ましい。
コロイド溶液おけるアクリル系高分子分散剤とコバルトイオンの比率は、コロイド溶液調製時における各材料の仕込み比率で調整すればよい。
【0026】
コロイド溶液の溶媒は特に限定されず、コロイド溶液調製時に使用するコロイド化合物の溶解性、アクリル系高分子分散剤の親水性や親油性等に応じて、適宜選択すればよい。具体的には、例えば、イオン交換水等が挙げられる。
本発明のコロイド溶液には、その他成分が含有されていてもよい。
【0027】
次に、本発明のコロイド溶液の製造方法について説明する。
本発明のコロイド溶液の製造方法は、水酸化コバルト粒子と高分子分散剤とを含むコロイド溶液の製造方法であって、
(1)溶媒溶解性コバルト化合物と該コバルト化合物を溶解可能な溶媒とを含む第1の原料溶液、及び
(2)中和剤とアクリル系重合体及び/又はその塩からなる高分子分散剤とを含み、前記中和剤の含有量が前記第1の原料溶液に含まれるコバルトイオンを中和するために必要な量の0.5倍を超えて1.2倍未満である第2の原料溶液を、
せん断速度3000sec−1以上の領域で混合することを特徴とするものである。
【0028】
第1の原料溶液(1)は、少なくとも溶媒溶解性コバルト化合物及び溶媒を含む。
溶媒溶解性コバルト化合物は、コバルトイオンの供給源であり、溶媒溶解性を有していれば特に限定されず、例えば、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩酸コバルト、酢酸コバルト、ギ酸コバルト等が挙げられ、中でも硝酸コバルトが好ましい。溶媒溶解性コバルト化合物は、無水物でも水和物でもよい。
溶媒は、上記コバルト化合物を溶解し、コバルトイオンを生成させることができれば特に限定されず、例えば、イオン交換水等が挙げられる。
【0029】
第1の原料溶液(1)において、溶媒溶解性コバルト化合物と溶媒との比率は特に限定されないが、通常、コバルトイオン濃度が0.01モル/L以上であることが好ましく、0.5モル/L以下であることが好ましい。
第1の原料溶液(1)の調製方法は特に限定されず、溶媒と溶媒溶解性コバルト化合物とを任意の方法で混合すればよい。
【0030】
第2の原料溶液(2)は、少なくとも中和剤とアクリル系重合体及び/又はその塩からなる高分子分散剤とを含む。
中和剤は、溶媒溶解性コバルト化合物が溶解した第1の原料溶液(1)を中和して、水酸化コバルト粒子を析出できるものであればよく、使用する溶媒溶解性コバルト化合物に合わせて適宜選択すればよい。
溶媒溶解性コバルト化合物として上記に記載したような化合物を用いる場合には、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸アンモニウム等のアンモニウム化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリが挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法の大きな特徴の1つは、第2の原料溶液(2)における中和剤の含有量を、上記第1の原料溶液(1)に含まれる全てのコバルトイオン(Co2+)を中和するために必要な量(以下、「中和量」ということがある)の0.5倍を超えて1.2倍未満とする点にある。中和剤の含有量を、中和量の0.5倍を超える量とすることで中和反応を確実に進行させることができると共に、中和量の1.2倍未満とすることで生成した水酸化コバルト粒子の溶解を防止することができる。
第2の原料溶液(2)の中和剤含有量は、上記第1の原料溶液に含まれる全てのコバルトイオンを中和するために必要な量の0.8倍以上1.1倍以下であることが好ましく、特に1.0以上1.1倍以下であることが好ましい。
【0032】
アクリル系重合体及び/又はその塩からなる高分子分散剤(アクリル系高分子分散剤)を用いることも、本発明の製造方法の大きな特徴の1つである。アクリル系高分子分散剤については、上記本発明のコロイド溶液において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
第2の原料溶液(2)におけるアクリル系高分子分散剤の含有量は、第1の原料溶液(1)と第2の原料溶液(2)とから得られるコロイド溶液において、水酸化コバルト粒子の分散性を良好に維持することができればよく、特に限定されない。好ましくは、第1の原料溶液(1)に含まれるコバルト1モルに対して、450g以上であることが好ましく、900g以下であることが好ましい。
【0033】
第2の原料溶液(2)の溶媒は、中和剤を溶解できれば、特に限定されず、例えば、イオン交換水等を用いることができる。
第2の原料溶液(2)における溶媒量は、得られる第2の原料溶液の体積が、第1の原料溶液の体積と同じになるように調整することが好ましい。
第2の原料溶液の調製方法は特に限定されず、中和剤、アクリル系高分子分散剤及び溶媒を任意の方法で混合すればよい。
【0034】
本発明において、第1の原料溶液(1)及び第2の原料溶液(2)は、せん断速度3000sec−1以上の領域で混合される。せん断速度3000sec−1以上の領域で第1及び第2の原料溶液を混合することも本発明の大きな特徴である。3000sec−1以上の高せん断条件下、コバルトイオンを中和し、水酸化コバルトを析出させることによって、シングルナノサイズを有し、粒度分布が狭い水酸化コバルト粒子を得ることができる。せん断速度が3000sec−1未満であると、水酸化コバルト粒子の凝集が起こってしまう。上記せん断速度は、好ましくは、4500sec−1以上である。
尚、上記第1の原料溶液及び第2の原料溶液をスターラーで混合(つまり、せん断速度3000sec−1未満)しても、本発明のコロイド溶液に含まれるような粒度分布を有する水酸化コバルト粒子は得られないことが本発明者らにより確認されている。
【0035】
上記のような高せん断速度で第1及び第2の原料溶液を混合する装置としては、次のような高速攪拌装置を用いることができる。すなわち、少なくとも2つ以上の異なる原料溶液を別々に下記反応室内に導入できる機構(以下、導入機構という場合がある。)と、2つ以上の異なる原料溶液を3000sec−1以上のせん断速度で混合させるせん断機構を有する反応室と、を備える装置である。
導入機構としては、具体的には、高速攪拌装置内に2つ以上の異なる原料溶液を独立に供給できる装置、及び、該溶液供給装置から供給される原料溶液を反応室へと運搬するノズルを備える構成が挙げられる。
反応室は、第1及び第2の原料溶液を上記高せん断条件で混合できるよう、微小空間を有している。ここで微小空間とは、上記第1及び第2の原料溶液を反応させて、水酸化コバルト粒子を得ることができるのに充分な容積を有する空間であり、具体的には、数ナノ立方メートル〜数マイクロ立方メートルの容積を有する空間が好ましい。また、反応室は、反応室への原料溶液の導入路及び反応室からの目的生成物の排出路を除いて密閉された空間であることが好ましい。
反応室におけるせん断機構としては、2つ以上の異なる原料溶液を3000sec−1以上のせん断速度で混合させることができる高速攪拌機構であれば特に限定されない。具体的には、ローターとステーターとを備えたホモジナイザーであって、ローターの回転数を調整することでせん断速度を調整できるものが挙げられる。
【0036】
得られた水酸化コバルト粒子含有コロイド溶液は、必要に応じて、水酸化コバルト粒子をろ過、洗浄、乾燥して使用することができる。
【0037】
本発明により提供されるコロイド溶液は、既述したように、シングルナノサイズを有する均一な水酸化コバルト粒子を含有する。従って、本発明のコロイド溶液を用いることによって、高比表面積を有するコバルト化合物粒子を得ることが可能であり、触媒物質や電極活物質等の性能向上が期待できる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
<水酸化コバルト粒子含有コロイド溶液の調製>
Co(NO・6HO 3.64g(0.0125モル)と、イオン交換水125gとを混合し、第1の原料溶液(コバルトイオン濃度0.1モル/L)を調製した。
一方、アンモニア水(アンモニア濃度25%)1.87g(アンモニア0.0275モル)と、ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量1200)21.9gと、イオン交換水100gとを混合し、第2の原料溶液を調製した。
【0039】
尚、第1の原料溶液の調製と第2の原料溶液の調製において使用したイオン交換水の量は、第1の原料溶液と第2の原料溶液の体積が同じになる量とした。
また、第2の原料溶液に含有されるアンモニア量は、第1の原料溶液に含有される全てのCo2+イオンを中和するのに必要な量の1.1倍(0.0125×2×1.1=0.0275モル)である。
【0040】
次に、得られた第1の原料溶液と第2の原料溶液とを、高速攪拌装置を用いて混合し、Co(OH)粒子含有コロイドを得た。高速攪拌装置による混合は、第1の原料溶液及び第2の原料溶液を、それぞれ、2.5ml/minで供給しながら、せん断速度7000sec−1(回転速度10000rpm)、室温で1時間行った。尚、反応室に供給する、スタートアップ溶液のpHは9.2〜9.6になるようにアンモニアを加えて調整した。
攪拌開始初期のコロイドの色は桃色で、時間経過と共に青緑色に変化した。桃色及び青緑色は、粉末状態のCo(OH)の色(結晶の色)と一致することから、得られたコバルト含有コロイド溶液には、Co(OH)粒子を含有すると考えられる。
【0041】
<水酸化コバルト粒子の評価>
得られたCo(OH)粒子含有コロイド溶液について、動的光散乱法による粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、ELS−Z)を用いて、粒度分布を測定した。結果を図1(累積分布)及び図2(頻度分布)に示す。尚、図1及び図2の累積及び頻度は、質量換算して求めたものである。
図1に示すように、得られたコロイド中のCo(OH)粒子は、D50=4.5nm、D90=8.1nm、D90/D50=1.8であった。また、図2より、得られたコロイド中のCo(OH)粒子は、粒度分布がシャープであり、均一な粒径を有していることがわかる。
尚、上記と同様にして複数回(n=3)、水酸化コバルト粒子含有コロイド溶液を調製したところ、D50=3.5〜4.5nm、D90=3.5〜8.1nm、pH9.2のコロイド溶液が得られた。尚、得られたコロイド溶液中に含まれる粒子について、散乱強度分布から得られた平均粒径及びσ値(分散)より平均粒径を求めたところ、5.5±3.3nmであった。また、得られたコロイド溶液は、調製後1日経過した後においても緑青色を呈しており、水酸化コバルト粒子に変化は生じなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化コバルト粒子と高分子分散剤とを含むコロイド溶液であって、
前記高分子分散剤が、アクリル系重合体及び/又はその塩から選ばれる少なくとも1種であり、
前記水酸化コバルト粒子の粒度分布の累積質量の50%となる粒子径D50が3.5〜4.5nmであり、且つ、前記水酸化コバルト粒子の粒度分布の累積質量の90%となる粒子径D90が前記粒子径D50の2.0倍以下であることを特徴とする、コロイド溶液。
【請求項2】
水酸化コバルト粒子と高分子分散剤とを含むコロイド溶液の製造方法であって、
(1)溶媒溶解性コバルト化合物と該コバルト化合物を溶解可能な溶媒とを含む第1の原料溶液、及び
(2)中和剤とアクリル系重合体及び/又はその塩からなる高分子分散剤とを含み、前記中和剤の含有量が前記第1の原料溶液に含まれる全てのコバルトイオンを中和するために必要な量の0.5倍を超えて1.2倍未満である第2の原料溶液を、
せん断速度3000sec−1以上の領域で混合することを特徴とする、コロイド溶液の製造方法。
【請求項3】
前記第2の原料溶液(2)における前記中和剤の含有量が、前記第1の原料溶液(1)に含まれる全てのコバルトイオンを中和するために必要な量の0.8倍以上1.1倍以下である、請求項2に記載のコロイド溶液の製造方法。
【請求項4】
前記中和剤がアンモニアである、請求項2又は請求項3に記載のコロイド溶液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−219328(P2011−219328A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92481(P2010−92481)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】