説明

水門開閉装置

【課題】コストアップすることなく、扉体が自重降下される際の降下速度を適正化する水門開閉装置を提供する。
【解決手段】水門を開閉する扉体の自重降下に伴って回転する回転軸2と、該回転軸2に連結される差動歯車装置3と、該差動歯車装置3から2方向に延び、回転軸2からの回転出力に対する減速比の異なる高速側回転軸17及び低速側回転軸14と、該高速側回転軸17及び低速側回転軸14のそれぞれに連結される遠心ブレーキ4a、4bと、差動歯車装置3から延びる高速側回転軸17及び低速側回転軸14に連結され、回転軸2からの回転出力が差動歯車装置3の高速側回転軸17から低速側回転軸14に伝達されるように切り替える電磁ブレーキ5a、5bとを備えているので、コストアップすることなく、扉体が自重降下される際の降下速度を適正化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水門を開閉する扉体が自重降下される際の降下速度を適正化する水門開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の水門開閉装置では、扉体が自重降下する際には、その回転軸に対して1系統の減速比が採用されることで、降下速度を一定にして降下させていた。
しかしながら、この従来の手法では、降下速度が一定であるため、閉時間の短縮のため降下速度を速く設定すると床面に到達した際に扉体が損傷する虞があり、一方、扉体が損傷しないように、降下速度を遅く設定すると閉時間(降下時間)が長くなり好ましくない。
【0003】
このような問題を対策するべく降下速度を可変する方法として、回転軸の回転出力に対して油圧ポンプを使用した油圧制動が採用されているが、油交換等のメンテナンス費用等コストアップとなる。また、油漏れ等の不具合も懸念される。
【0004】
また、扉体の閉時間を短縮する方法として、ポールチェンジ電動機により速度変換機能を持たせて閉操作時のみ高速度にする方法や、自重降下から電動機運転に切り替える方法等があるが、電動機運転に動力電源が必要になり、停電時等交流電源がなく、速度変換ができない虞がある。
【0005】
なお、特許文献1には、被駆動軸に、扉体が自重降下する際、その降下速度を調節する遠心ブレーキが連結され、これにより、停電時、無動力においても扉体は自重で降下するが、降下する際には遠心ブレーキによって、扉体の降下速度が一定速度以下となるように調節される水門開閉装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−146522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来方法では、扉体の降下速度を可変させるために複雑な構造が必要となり、コストアップの要因となり積極的に採用することができない。
さらに、特許文献1の水門開閉装置では、遠心ブレーキが備えられ、扉体の降下速度が一定速度以下になるように構成されているが、扉体の降下速度を可変させることができず、上述した問題を解決することはできない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、(大幅に)コストアップすることなく、扉体が自重降下される際の降下速度を適正化する水門開閉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、水門を開閉する扉体の自重降下に伴って回転する回転軸と、該回転軸に連結される差動歯車装置と、該差動歯車装置から2方向に延びる出力部と、該各出力部のそれぞれに連結される制動手段と、前記差動歯車装置から延びる各出力部のうち少なくとも一つの出力部に連結され、前記回転軸からの回転出力が前記差動歯車装置の各出力部のうち一方から他方または両方に伝達されるように切り替える出力切替手段と、を備えたことを特徴とするものである。
請求項1の発明では、扉体が床面から高い位置にある場合には、出力切替手段により、回転軸からの回転出力を一方の出力部に伝達させつつ、該出力部の回転を制動手段により制動するものの、扉体は高速で降下され、その後、扉体が床面に接近した時点で、出力切替手段により、回転軸からの回転出力を一方の出力部から他方の出力部または両方の出力部に伝達されるように切り替えて、該出力部の回転の制動手段により制動して、扉体を低速で床面に到達させる。
これにより、扉体が床面から高い位置にある場合には、降下速度をある程度高速で降下させ、床面に接近した時点では、低速で降下させながら床面に到達させることができるので、降下時間を短縮させることができると共に、扉体を安全に床面に到達させることができる。
なお、扉体の地面からの高さに対応して、出力切替手段により回転軸からの回転出力を一方の出力部から他方の出力部に切り替える形態では、差動歯車装置から2方向に延びる出力部は、回転軸からの回転出力に対する減速比が異なるように構成する方が好ましい。一方、扉体の地面からの高さに対応して、出力切替手段により回転軸からの回転出力を一方の出力部から他方の出力部を含む両方の出力部に切り替える形態では、差動歯車装置から2方向に延びる出力部は、回転軸からの回転出力に対する減速比が略同じになるように構成してもよい。
【0010】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記各出力部は、前記回転軸からの回転出力に対する減速比が異なっており、前記出力切替手段は、前記差動歯車装置から延びる各出力部のうち、回転軸からの回転出力に対して減速比が大きく設定された出力部のみに連結されることを特徴とするものである。
請求項2の発明では、差動歯車装置により回転軸からの回転出力に対して減速比を2系統で出力するようにして、扉体が床面から高い位置にある場合には、出力切替手段により、回転軸からの回転出力を減速比の小さい一方の出力部に伝達させつつ、該出力部の回転を制動手段により制動するものの、扉体は高速で降下され、その後、扉体が床面に接近した時点では、出力切替手段により、回転軸からの回転出力を減速比の小さい一方の出力部から減速比の大きい他方の出力部を含む両方の出力部に伝達されるように切り替えて、各出力部の回転の制動手段により制動して、扉体を低速で床面に到達させる。この形態の場合には、扉体が床面に接近した時点で、出力切替手段により、回転軸からの回転出力を減速比の小さい一方の出力部から、減速比の大きい他方の出力部を含む両方の出力部に伝達されるように切り替えるため、扉体が床面に接近した時点では、2つの出力部の回転に対して制動手段により制動が付加されるようになる。
【0011】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記制動手段は遠心ブレーキであり、前記出力切替手段は電磁ブレーキであることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、電磁ブレーキにより、回転軸からの回転出力の、差動歯車装置の各出力部への伝達を許容または規制することで、回転軸からの回転出力を差動歯車装置の2つの出力部のうちいずれか一方または両方に伝達されるように切り替え、遠心ブレーキにより、差動歯車装置の各出力部の回転出力を制動する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水門開閉装置によれば、複雑な構造を採用することなく、扉体が自重降下する際、その降下速度を扉体の床面からの高さに対応して適正化することができるので、降下時間を短縮させつつ、扉体を安全に床面に到達させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る水門開閉装置を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態に係る水門開閉装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図1及び図2に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る水門開閉装置は、水門を開閉する扉体を自重降下させる際の降下速度を扉体の床面からの高さに対応して適正化することで、扉体の降下時間を短縮させつつ、扉体を安全に床面に到達させることできるものである。
【0015】
まず、本発明の第1の実施形態に係る水門開閉装置1aを図1に基いて説明する。
なお、図1には、扉体を自重降下させる際の降下速度を扉体の床面からの高さに対応して適正化すべく要部を図示している。このため扉体の図示は省略している。
図1に示すように、第1の実施形態に係る水門開閉装置1aでは、扉体が自重降下する際に回転する回転軸2に差動歯車装置3が連結される。すなわち、回転軸2に固定された回転軸側歯車7に、主軸8に固定された主軸側歯車9が噛み合っている。この主軸8にはボスを介して主軸8と直交するように複数の差動歯車軸10が固定される。これら差動歯車軸10にベアリングを介して差動歯車11が軸支される。また、主軸8には、ベアリングを介して中間歯車12が軸支されており、この中間歯車12と差動歯車11が噛み合っている。この中間歯車12に第1低速側歯車13がボルト固定され、該第1低速側歯車13に、低速側回転軸14(出力部)に軸支される第2低速側歯車15が噛み合っている。また、差動歯車11には、高速側回転軸17(出力部)に軸支される高速側歯車18が噛み合っている。
本実施の形態では、差動歯車装置3から2方向に延びる低速側回転軸14及び高速側回転軸17の、回転軸2の回転出力に対する減速比が相違しており、図視下方に延びる低速側回転軸14の減速比が、図視右方に延びる高速側回転軸17の減速比よりも大きく設定される。
【0016】
また、差動歯車装置3から延びる高速側回転軸17には、制動手段である遠心ブレーキ4aが連結される。
遠心ブレーキ4aは、次のように構成される。すなわち、高速側回転軸17と連結される遠心ブレーキ側主軸17aと直交する方向にシャフト20が固定される。該シャフト20の両端にハウジング21の内周面に接触するようにブレーキブロック22、22が固定される。そして、各ブレーキブロック22、22が遠心ブレーキ側主軸17a(高速側回転軸17)の回転により遠心力を受け、ハウジング21の内壁面との間の摩擦力により高速側回転軸17の回転を制動する。
【0017】
さらに、差動歯車装置3から延びる高速側回転軸17には、遠心ブレーキ4aよりも先端側に出力切替手段である電磁ブレーキ5aが連結される。
電磁ブレーキ5aは、次のように構成される。すなわち、高速側回転軸17に遠心ブレーキ側主軸17aを介して連結される電磁ブレーキ側主軸17bの先端部にブレーキディスク25がスプライン係合されている。該ブレーキディスク25がアーマチュア26(磁気回路を形成する可動鉄片)とプレート27との間に配置される。そして、コイルバネ28によりアーマチュア26を介してブレーキディスク25をプレート27に圧着して電磁ブレーキ側主軸17b(高速側回転軸17)の回転を規制する。一方、外部からコイル30に通電されると、アーマチュア26がフィールド29側に吸引されることで、ブレーキディスク25の拘束が解除されて、電磁ブレーキ側主軸17b(高速側回転軸17)の回転が許容される。
また、差動歯車装置3から延びる低速側回転軸14にも、上述した遠心ブレーキ4a及び電磁ブレーキ5aと同等の遠心ブレーキ4b及び電磁ブレーキ5bが連結されており、以後の説明を容易にするために符号を相違させている。
【0018】
以上説明した、第1の実施形態に係る水門開閉装置1aの作用、特に、扉体が自重降下される際の作用を説明する。
まず、低速側回転軸14に連結された電磁ブレーキ5bへの通電を行わず、低速側回転軸14の回転が規制された状態を維持する。一方、高速側回転軸17に連結された電磁ブレーキ5aへ通電して、高速側回転軸17の回転を許容した状態とする。
この状態で扉体を自重降下させると、回転軸2からの回転出力は差動歯車装置3を介して高速側回転軸17に所定の減速比で伝達されることで、高速側回転軸17の回転トルクが低下され、遠心ブレーキ4aの制動により扉体の降下速度は遅くなるものの、依然として高速にて降下される。
【0019】
次に、扉体が床面に接近した時点で、低速側回転軸14側の電磁ブレーキ4aへ通電して、低速側回転軸14の回転規制を開放すると共に、高速側回転軸17側の電磁ブレーキ5aへの通電を解除して、高速側回転軸17の回転を規制する。
この操作により、回転軸2からの回転出力が差動歯車装置3を介して高速側回転軸17から低速側回転軸14に切り替わって伝達される。その結果、該回転出力は差動歯車装置3を介して低速側回転軸14に所定の減速比で伝達され、低速側回転軸14の回転トルクが高速側回転軸17の回転トルクよりも低下して、低速側回転軸14の回転出力を遠心ブレーキ4bにより制動することで扉体の降下速度がさらに遅くなり低速にて床面に到達するようになる。
【0020】
次に、本発明の第2の実施形態に係る水門開閉装置1bを図2に基いて説明する。
第2の実施形態に係る水門開閉装置1bを説明する際には、第1の実施形態に係る水門開閉装置1aとの相違点のみを説明する。
図2に示すように、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bでは、差動歯車装置3における、中間歯車12にボルト固定された第1低速側歯車13に、2つの第2低速側歯車15、15がそれぞれ噛み合い、各第2低速側歯車15、15は低速側回転軸14、14にそれぞれ軸支される。
また、一方(図2において下方)の低速側回転軸14には、上述した遠心ブレーキ4bが連結されており、他方(図2において上方)の低速側回転軸14には、上述した電磁ブレーキ5bが連結される。
また、第1の実施形態に係る水門開閉装置1aでは、高速側回転軸17に電磁ブレーキ5aが連結されて構成されていたが、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bの高速側回転軸17には、電磁ブレーキ5aは連結されておらず、遠心ブレーキ4aだけが連結される。
【0021】
そして、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bにより扉体を自重降下させる際には、まず、他方(図2において上方)の低速側回転軸14に連結された電磁ブレーキ5bへの通電を行わず、他方の低速側回転軸14の回転が規制された状態を維持する。これにより、一方(図2において下方)の低速側回転軸14の回転も規制された状態となる。
この状態で扉体を自重降下させると、回転軸2からの回転出力は差動歯車装置3を介して高速側回転軸17に所定の減速比で伝達されることで、高速側回転軸17の回転トルクが低下され、遠心ブレーキ4aの制動により扉体の降下速度が遅くなるものの、依然として高速にて降下される。
【0022】
次に、扉体が床面に接近した時点で、他方の低速側回転軸14側の電磁ブレーキ5bへ通電して、他方の低速側回転軸14の回転規制を開放すると共に、一方の低速側回転軸14の回転規制も開放される。
この操作により、回転軸2からの回転出力が差動歯車装置3を介して高速側回転軸17から高速側回転軸17及び低速側回転軸14の両方に切り替わって伝達される。その結果、該回転出力は、差動歯車装置3を介して高速側回転軸17及び低速側回転軸14の両方に所定の減速比でそれぞれ伝達され、高速側回転軸17及び低速側回転軸14それぞれの回転出力を各遠心ブレーキ4a、4bで制動することで、扉体の降下速度がさらに遅くなり低速で床面に到達するようになる。
なお、第2の実施形態に係る水門開閉装置1bでは、差動歯車装置3から延びる高速側回転軸17及び低速側回転軸14は、回転軸2からの回転出力に対する減速比がそれぞれ異なるように設定(減速比が2系統)されているが、略同じになるように設定(減速比は1系統)してもよい。
【0023】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る水門開閉装置1a、1bでは、自重降下する扉体が床面から高い位置にある場合は、電磁ブレーキ5a、5bの作動により、回転軸2からの回転出力が、該回転出力に対する減速比の小さい高速側回転軸17に伝達され、扉体は遠心ブレーキ4aの制動により降下速度は遅くなるものの、ある程度高速で降下される。その後、扉体が床面に接近した時点で、電磁ブレーキ5a、5bの作動により、回転軸2からの回転出力は、高速側回転軸17から低速側回転軸14(第1の実施形態)に、または、高速側回転軸17及び低速側回転軸14の両方に(第2の実施形態)に切り替わり、遠心ブレーキ4a、4b(第1の実施形態では遠心ブレーキ4b、第2の実施形態では遠心ブレーキ4a及び4bの両方)の制動により降下速度がさらに遅くなり低速で床面に到達するようになる。
これにより、扉体を自重降下させる際の降下速度を、扉体の床面からの高さに対応して適正化することで、扉体の降下時間を短縮させつつ、扉体を安全に床面に到達させることできる。
【0024】
また、本発明の実施の形態に係る水門開閉装置1a、1bは、従来の油圧ポンプによる制動方法と比較して、オイル等の交換部品も抑制することができ、コストアップを抑制できる。しかも、オイル漏れ等を懸念する必要もない。
さらに、本発明の実施の形態に係る水門開閉装置1a、1bでは、電源が直流電源のみで作動させることが出来るので、動力電源(交流電源等)が必要なく、非常用電源を使用でき、非常時での遠隔操作が可能になる。
【符号の説明】
【0025】
1a、1b 水門開閉装置,2 回転軸,3 差動歯車装置,4a、4b 遠心ブレーキ(制動手段),5a、5b 電磁ブレーキ(出力切替手段),11 差動歯車,14 低速側回転軸(出力部),17 高速側回転軸(出力部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水門を開閉する扉体の自重降下に伴って回転する回転軸と、
該回転軸に連結される差動歯車装置と、
該差動歯車装置から2方向に延びる出力部と、
該各出力部のそれぞれに連結される制動手段と、
前記差動歯車装置から延びる各出力部のうち少なくとも一つの出力部に連結され、前記回転軸からの回転出力が前記差動歯車装置の各出力部のうち一方から他方または両方に伝達されるように切り替える出力切替手段と、
を備えたことを特徴とする水門開閉装置。
【請求項2】
前記各出力部は、前記回転軸からの回転出力に対する減速比が異なっており、前記出力切替手段は、前記差動歯車装置から延びる各出力部のうち、回転軸からの回転出力に対して減速比が大きく設定された出力部のみに連結されることを特徴とする請求項1に記載の水門開閉装置。
【請求項3】
前記制動手段は遠心ブレーキであり、前記出力切替手段は電磁ブレーキであることを特徴とする請求項1または2に記載の水門開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−242313(P2010−242313A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89153(P2009−89153)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000241290)豊国工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】