説明

水面直接施用油性懸濁製剤

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、除草剤の水田における水面直接施用油性懸濁剤に関するものである。
〔従来の技術〕
従来、水田用除草剤の製剤には粒剤、乳剤、水和剤および水性懸濁剤等がある。粒剤は特別の機具を必要とせず、比較的容易に散布ができるため最も広く普及している。しかし、粒剤は除草剤成分の含有量が少量であると共に、製剤化にはクレー、ベントナイト、タルク、カオリン等のキャリアーおよび結合剤、界面活性剤等を混合し、造粒、乾燥等の工程を経るため製造コストが高くなるほか、散布のまきむらによる効果のばらつきを生じやすい等の欠点がある。
乳剤は有機溶媒に対する溶解度の低い除草剤の場合には適用できず、また有機溶剤に起因する引火性、臭気、人畜小動物に対する毒性、作物によっては薬害を生じる場合がある等の欠点がある。
水和剤は、散布液を調製する際に水和剤自身が微粉末として飛散する等の作業環境上の問題点がある。
近年、固体農薬原体を微粉砕化し、水を分散媒として界面活性剤、水溶性高分子等を混合して懸濁安定化した水性懸濁剤(フロアブル剤)が使用されるようになってきている。この製剤は、分散媒に水を用いているので有機溶剤に起因する薬害、引火性、臭気、人畜小動物に対する毒性の問題点もなく、薬効も乳剤と同程度の効果を期待できる等の利点を有している。しかし、長期保存中に分離、ハードケーキング等を生じやすく、また使用できる除草剤原体も融点の高い、水溶解度の低い、かつ化学的に安定な固体のものに限定されるという欠点がある。
さらに、上述した乳剤、水和剤および水性懸濁剤を施用する際には、多量の水に希釈して散布しなければならず、多大な労力と時間を必要とし、散布機も必要とするという欠点がある。
〔発明が解決しようとする課題〕
従来の剤型は上述のような欠点を有しているが、本発明者らはこれらの問題点を解決するとともに、散布時における省力化をはかる目的で、多量の水に希釈することなく、散布機や特別の機具を使用することなく、湛水下の水田の水面に直接散布することによって、薬剤が水面上を急速に拡散し、その後水中に均一に分散して有効な除草効果を発揮する油性懸濁製剤を見出し、本発明を完成するに至った。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は除草剤活性成分として、2′,3′−ジクロロ−4−エトキシメトキシベンズアニリド(除草剤活性成分Aとする)を5〜40重量%、N−(2−クロロイミダゾ−〔1,2−α〕ピリジン−3−イルスルホニル)−N′−(4,6−ジメトキシ−2−ピリミジニル)ウレア(除草剤活性成分Bとする)を0.3〜2.5重量%含有し、鉱物油または植物油を分散媒とし、HLBが3〜10のノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤を配合してなることを特徴とする、水田における水面直接施用油性懸濁製剤を提供するものである。
本発明の水面直接施用油性懸濁製剤は、微粉砕化された除草剤原体を、分散媒に鉱物油または植物油を用い、HLBが3〜10のノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤を配合したもので、水中に滴下することによって水面拡展性および自己乳化性を発揮するものである。施用する場合は作業者が水田に入ることなく、水田水面の1点または数カ所に滴下することにより、薬剤が水面上を従来の製剤をはるかに越えた広範囲に拡展し、その後水中に均一に分散して充分な除草効果を発揮する。従来の乳剤、水和剤および水性懸濁剤では、多量の水で希釈した散布液を作業者が水田に入って散布するため、散布機による散布液の拡がりは数m2〜10m2程度なので、広い水田に施用するには多大の労力と時間を必要とするものであるが、本発明はこの点を根本的に解決し散布の省力化を可能にした。また水性懸濁製剤は除草剤原体の水溶解度が100ppm(25℃)以上のものには、ハードケーキング等の理由で適用できないが、本発明はこの制限はなく、広範囲の除草剤原体に適用が可能である。
本発明の油性懸濁製剤はHLBが3〜10のノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤を配合して、懸濁安定性、水中での乳化性および水面拡展性の効果を示すものであるが、HLBが3〜10以外のものでは懸濁安定性、水中での乳化性および水面拡展性が悪くなり、除草効果の低下や薬害の発生等の問題を生じる。
本発明に用いることのできるHLBが3〜10のノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン植物油、ポリオキシエチレン硬化植物油、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルポリマー、ポリオキシアルキレンベンジル化フェニル(またはフェニルフェニル)エーテル、ポリオキシアルキレンスチリル化フェニル(またはフェニルフェニル)エーテル、アルキルベンゼンスルホネート、ジアルキルスルホサクシネート、アルキルナフタレンスルホネート、ナフタレンスルホネートホルマリン縮合物、アルキルサルフェート(またはホスフェート)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート(またはホスフェート)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート(またはホスフェート)、ポリオキシアルキレンベンジル化フェニル(またはフェニルフェニル)エーテルサルフェート(またはホスフェート)、ポリオキシアルキレンスチリル化フェニル(またはフェニルフェニル)エーテルサルフェート(またはホスフェート)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマーサルフェート(またはホスフェート)、等があげられるが、これらに限定されるものではない。
本発明において用いることのできる油性分散媒としては、化学的に不活性で極性基をあまり含まず、臭気の極めて弱い、引火点の高い鉱物油および植物油があり、鉱物油としては農薬用マシン油、パラフィン油、ナフテン油、ミネラルスピリット等、植物油としては大豆油、綿実油、パーム油、サフラワー油等があげられるが、これらに限定されるものではない。
以上の他に、必要に応じて各種添加剤、例えば分解防止剤、酸化防止剤、増粘補助剤、懸濁安定化補助剤等を添加、使用することは何らさしつかえない。
本発明の油性懸濁製剤は、ピンミル、ジェット・オ・マイザー等の乾式粉砕機であらかじめ除草剤活性成分を20〜50ミクロン程度に粉砕したものに、油性分散媒と界面活性剤を混合し、ボールミル、サンドミル、ダイノミル等の湿式粉砕機で微粉砕化処理を行うことにより得ることができる。こうして得られた油性懸濁製剤の平均粒径は1〜3ミクロン程度である。
〔実施例〕
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に示す。
(実施例1)
あらかじめジェット・オ・マイザー〔セイシン企業(株)製〕で乾式粉砕した除草剤活性成分A16.0重量%および除草剤活性成分B1.0重量%、大豆油73.0重量%、ソルポール3969〔東邦化学工業(株)製登録商標(以下ソルポールとは東邦化学(株)製登録商標である)・ノニオン性界面活性剤・アニオン性界面活性剤併用HLB5.9〕10.0重量%を、合計重量が100gになるように、サンドグラインダー〔五十嵐機械製造(株)製〕の400mlベッセルに仕込み、直径1.5〜2.0mmのガラスビーズ100mlを加え、ディスクを周速5.8m/sで30分間回転して、平均粒径1.5ミクロンに微粉砕化された均一な油性懸濁製剤を得た(これを製剤No.1とする)。
(実施例2)
あらかじめジェット・オ・マイザーで乾式粉砕した除草剤活性成分A16.0重量%および除草剤活性成分B1.0重量%、農薬マシン油73.0重量%、ソルポール2401D−3(ノニオン性界面活性剤・アニオン性界面活性剤併用HLB8.9)10.0重量%を混合し、実施例1と同一の微粉砕化条件によって、平均粒径1.5ミクロンに微粉砕化された均一な油性懸濁製剤を得た(これを製剤No.2とする)。
(実施例3)
あらかじめジェット・オ・マイザーで乾式粉砕した除草剤活性成分A16.0重量%および除草剤活性成分B1.0重量%、綿実油73.0重量%、ソルポール3876(ノニオン性界面活性剤・アニオン性界面活性剤併用HLB5.5)10.0重量%を混合し、実施例1と同一の微粉砕化条件によって、平均粒径1.5ミクロンに微粉砕化された均一な油性懸濁製剤を得た(これを製剤No.3とする)。
(実施例4)
あらかじめジェット・オ・マイザーで乾式粉砕した除草剤活性成分A8.0重量%および除草剤活性成分B0.5重量%、スピンドル油81.5重量%、ソルポール3733(ノニオン性界面活性剤・アニオン性界面活性剤併用HLB6.3)10.0重量%を混合し、実施例1と同一の微粉砕化条件によって、平均粒径1.5ミクロンに微粉砕化された均一な油性懸濁製剤を得た(これを製剤No.4とする)。
(実施例5)
あらかじめジェット・オ・マイザーで乾式粉砕した除草剤活性成分A32.0重量%および除草剤活性成分B2.0重量%、農薬マシン油54.0重量%、ソルポール2401D−3の12.0重量%を混合し、実施例1と同一の微粉砕化条件によって、平均粒径1.5ミクロンに微粉砕化された均一な油性懸濁製剤を得た(これを製剤No.5とする)。
(比較例1)
あらかじめジェット・オ・マイザーで乾式粉砕した除草剤活性成分A16.0重量%および除草剤活性成分B1.0重量%、大豆油73.0重量%、ソルポール2934(ノニオン性界面活性剤・アニオン性界面活性剤併用HLB13.2)10.0重量%を混合し、実施例1と同一の微粉砕化条件によって、平均粒径1.5ミクロンに微粉砕化された均一な油性懸濁製剤を得た(これを製剤No.比−1とする)。
(比較例2)
あらかじめジェット・オ・マイザーで乾式粉砕した除草剤活性成分A16.0重量%および除草剤活性成分B1.0重量%、大豆油73.0重量%、ソルポール7513(ノニオン性界面活性剤・アニオン性界面活性剤併用HLB2.5)10.0重量%を混合し、実施例1と同一の微粉砕化条件によって、平均粒径1.5ミクロンに微粉砕化された均一な油性懸濁製剤を得た(これを製剤No.比−2とする)。
(比較例3)
あらかじめジェット・オ・マイザーで乾式粉砕した除草剤活性成分A16.0重量%および除草剤活性成分B1.0重量%、グリコール5.0重量%、ザンサンガム0.1重量%、水72.7重量%、ソルポール3741の5.2重量%を混合し、実施例1と同一の微粉砕化条件によって、平均粒径1.5ミクロンに微粉砕化された均一な水性懸濁製剤を得た(これを製剤No.比−3とする)。
(比較例4)
あらかじめジェット・オ・マイザーで乾式粉砕した除草剤活性成分A5.3重量%および除草剤活性成分B0.33重量%、クレー57.37重量%、ベントナイト30.0部、ソルポール9047K2.0重量%、ソルポールT−26の1.0重量%、ソルポール5181の4.0重量%を混合し、水10.0重量%相当を添加して混練後、押し出し式造粒機を用いて造粒し、乾燥後粒径0.6mmの粒剤を得た(これを製剤No.比−4とする)。
(比較例5)
除草剤活性成分A16.0重量%、除草剤活性成分B1.0重量%、イソホロン20.0重量%、ジメチルホルムアミド19.0重量%、キシレン19.0重量%、ソルポール7537の18.0重量%、ソルポール3778の7.0重量%を混合し、乳剤を得た(これを製剤No.比−5とする)。
(試験例1)水面拡展性試験 代かき直後にノビエとホタルイの種子を播種した水田に1m×12mの単位区を設け、液状製剤は末端の1カ所に、通常使用の有効成分相当量を滴下処理し、粒剤は区内全面に均一散布した。
処理3週間後に長軸方向に1mずつ目印をつけ、区内の除草効果を無処理区と比較しながら観察調査した。結果を第1表に示す。
観察調査の基準は次の通りである。
除草効果 薬害 0:無処理区同様 0:無し 1: 20%防除 1:20%害 2: 40 〃 2:40 〃 3: 60 〃 3:60 〃 4: 80 〃 4:80 〃 5: 完全防除 5:完全枯死(以下の試験例もこの基準に準ずる)




(試験例2)雑草発生期処理 代かき直後に各種雑草種子と塊茎を投げ入れた水田に常法による稚苗を移植し、ここに10m×10mの単位区を設け、移植1週間後の雑草の発生期に、液状製剤は中心部1点に原液を灌注処理し、粒剤は区内に均一に散布した。処理1カ月後に区内を中心より2.5m以内5カ所と、2.5m以遠8カ所に1m2の目印をつけ試験例1と同様に観察調査を行った。
結果を第2表に示す(数値はそれぞれの平均値であり、小数点以下第2位を四捨五入した)。


(試験例3)雑草生育期処理 試験例2と同様にして準備した水田に5m×20mの単位区を設け、雑草の生育期(ノビエ3華期)に液状製剤は5m軸中央部2カ所よりそれぞれ半量ずつ灌注処理した。
粒剤は区内に入り全面に均一散布した。
処理1カ月後に区内10カ所に1m2の目印をつけ、試験例1と同様に観察調査をした。
結果を第3表に示す(数値は平均値を示す)。


〔発明の効果〕
以上、試験例に示されるように、本発明により処理が極めて簡単になり、非常な労力軽減が可能となった。なお、除草活性成分が有効に働き、特に雑草が大きくなってからの処理でも効果が高く、やや早い時期の処理ならかなり薬量を減らすことも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】除草剤活性成分として、2′,3′−ジクロロ−4−エトキシメトキシベンズアニリドを5〜40重量%、N−(2−クロロイミダゾ−〔1,2−α〕ピリジン−3−イルスルホニル)−N′−(4,6−ジメトキシ−2−ピリミジニル)ウレアを0.3〜2.5重量%含有し、鉱物油または植物油を分散媒とし、HLBが3〜10のノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤を配合してなることを特徴とする、水田における水面直接施用油性懸濁製剤。

【特許番号】第2915073号
【登録日】平成11年(1999)4月16日
【発行日】平成11年(1999)7月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−124021
【出願日】平成2年(1990)5月16日
【公開番号】特開平4−21613
【公開日】平成4年(1992)1月24日
【審査請求日】平成9年(1997)4月25日
【出願人】(999999999)保土谷化学工業株式会社
【出願人】(999999999)東邦化学工業株式会社
【出願人】(999999999)武田薬品工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 平2−9805(JP,A)
【文献】特開 平1−254604(JP,A)