氷−対象物間の界面を変更するためのシステムおよび方法
【課題】氷−対象物間の界面を熱的に変更するためのシステムおよび方法を提供すること。
【解決手段】1つのシステムには、ある大きさのパワーを発生するように構成される電源が含まれる。パワーの大きさは、界面での氷の界面層を融解するのに十分であり、通常、界面層の厚みは1μm〜1mmの範囲である。コントローラを用いて、電源がパワーの大きさを発生する継続時間を制限し、不必要な熱エネルギーが環境中へ散逸することを制限しても良い。パルス状の加熱エネルギーを変調して界面へ送ることで、対象物と氷との間の摩擦係数が変更される。
【解決手段】1つのシステムには、ある大きさのパワーを発生するように構成される電源が含まれる。パワーの大きさは、界面での氷の界面層を融解するのに十分であり、通常、界面層の厚みは1μm〜1mmの範囲である。コントローラを用いて、電源がパワーの大きさを発生する継続時間を制限し、不必要な熱エネルギーが環境中へ散逸することを制限しても良い。パルス状の加熱エネルギーを変調して界面へ送ることで、対象物と氷との間の摩擦係数が変更される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連特許出願)
本出願は、米国仮出願第60/356,476号(2002年2月11日出願)の利益を主張する。なお、この文献は本明細書において参照により取り入れられている。また本出願は、米国仮出願第60/398,004号(2002年7月23日出願)の利益を主張する。なお、この文献は本明細書において参照により取り入れられている。また本出願は、米国仮出願第60/404,872号(2002年8月21日出願)の利益を主張する。なお、この文献は本明細書において参照により取り入れられている。
【背景技術】
【0002】
背景
氷は、多くの問題を種々の工業界に対して示している。このような問題の1つの例は、航空工業界で見ることができ、氷が航空機の表面に形成される場合である。航空機たとえば翼の表面上に氷があると、航空機にとって危険な状態が生じる可能性が、特に航空機が飛行中の場合にある。他の例は、陸上輸送業界で見ることができ、氷が自動車のウィンドシールド上に形成される場合である。ウィンドシールド上に氷があると、自動車のドライバにとって危険な運転環境が生じる可能性がある。このような表面から氷を除去することによって、危険な状態を最小限にすることができる。
【0003】
現在、氷を除去するシステムとしては、抵抗素子にパワーを加えて熱を発生させる電気ヒータがある。現在の他のシステムとしては、化学反応を起こして氷を熱的に溶解させる化学溶液がある。電気ヒータは、ある大きさのパワーを抵抗素子に加えて、電気ヒータと接触している表面から氷をすべて直接かつ対応して融解する。化学溶液は、氷を熱的に溶解させ得るが、長期間は続かず、自然環境にとって望ましくない条件を生み出す。これらのシステムは、氷をすべて完全に融解しようとしているため、効率が悪い。
【0004】
氷を除去する方法として、機械的なスクレーパを用いることが挙げられる。機械的なスクレーパは、氷が対象物の表面に付着する問題に対処するために用いられることが多い。しかし機械的なスクレーパは、手持ち式で操作がしにくいことが多い。さらに機械的なスクレーパは、氷の除去にいつも効果があるというわけではなく、氷が付着した表面を傷つけることもある。
【0005】
対象物の表面から氷を適切に除去することができない場合、破壊的な結果になりかねない可能性がある。たとえば、飛行中の航空機上に過剰な氷があると、航空機の揚力を低下させて、一部の航空機コンポーネントの適切な動作を拒む可能性があって危険である。他の例としては、自動車ウィンドシールド上に氷が蓄積することがある。氷を除去しないと、ドライバの視力が悪くなって、ドライバが車両をもはや適切に操縦できないほどになることが考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
以下の特許および特許出願は、有用な背景を与えるものであるため、本明細書において参照により取り入れられている。米国特許第6,027,075号明細書、米国特許第6,427,946号明細書、PCT出願PCT/米国/第25124号明細書(1999年10月26日出願)、PCT出願PCT/米国/第28330号明細書(1999年11月30日出願)、PCT出願PCT/米国/第01858号明細書(2002年1月22日出願)、PCT出願PCT/米国00/35529号明細書(2000年12月28日出願)、米国特許出願第09/971,287号明細書(2001年10月4日出願)、および米国特許出願第09/970,555号明細書(2001年10月4日出願)。
【0007】
一態様においては、パルス除氷器システムによって、界面から対象物の表面までが加熱されて、氷および/または雪(本明細書で用いる場合、氷および/または雪を「氷」と示すこともある)と表面との付着が剥離される。必要なエネルギーを減らすために、パルス除氷器の一実施形態では、非金属固体材料(氷および雪を含む)内での熱伝搬が非常に低速であることが検討され、加熱パワーが界面に、熱が界面ゾーンから遠くへ逃げることに対して十分に短い時間の間、加えられる。その結果、ほとんどの熱は、氷の非常に薄い層(以後「界面の氷」)のみを加熱および融解するのに用いられる。本システムは、ある大きさのパワーを発生するように構成された電源を含んでいる。一態様においては、パワーの大きさは実質的に、界面での氷を融解するのに用いられるエネルギーの大きさに反比例する関係にある。またパルス除氷器システムは、パワーの大きさを電源が発生する継続時間を制限するように構成されるコントローラを含んでいる。一態様においては、継続時間は実質的に、パワーの大きさの2乗に反比例する関係にある。電源はさらに、電圧をパルス状にできるスイッチング電源を含んでいても良い。パルス状の電圧を、貯蔵デバイス、たとえばバッテリまたはキャパシタによって供給しても良い。こうしてバッテリまたはキャパシタを用いて、界面と熱連絡している加熱素子へパワーを供給することができる。任意に、パルス状の電圧を直接に加熱素子へ供給して、表面での氷の付着を剥離しても良い。他の態様においては、加熱素子には、伝導性材料の薄膜、または半導体材料を含む薄膜が含まれる。半導体材料の場合、薄膜を通して見ることが妨げられないため、乗用車ウィンドシールドとともに、たとえば「対象物」として、容易に用いることができる。電源は、パワーを変調して半導体材料へ送って、パワーを熱エネルギーに変換しても良い。変調されたパワーによって、表面に対する氷の付着を剥離可能な適切な大きさの熱エネルギーが伝達される。
【0008】
ある態様においては、キャパシタは、スーパーキャパシタまたはウルトラキャパシタの何れかである。他のある態様においては、電源は、フライホイールおよび/または高電圧電源である。電源からのパワーを熱エネルギーに変換して、対象物の表面に対する氷の付着を剥離することができる。たとえばシステムは、電源を用いて、氷および雪を、航空機、タイヤ、自動車ウィンドシールド、ボート、道路、橋、歩道、冷凍機、冷蔵庫、建造物、滑走路、または窓の表面から除去しても良い。当業者であれば、他の対象物を、パルス除氷器システムによって除去しても良いことが理解される。
【0009】
他の態様においては、サーマル・トランスファ・システムは、加熱素子と接続された熱貯蔵器サブ・システムを用いる。加熱素子には、金属などの熱伝導性材料が含まれていても良い。加熱素子にはさらに、加熱素子に取り付けられたメンブレンが含まれていても良い。メンブレンはたとえば、膨らませることが可能であって、メンブレンが膨張したときに、除氷すべき対象物の表面に熱が伝達することが防止される。メンブレンが収縮すると、加熱素子から熱エネルギーが表面へ伝達されて、表面への氷の付着が剥離される。メンブレンを頻繁に膨張および収縮して、表面への熱エネルギー伝達を変調することができる。
【0010】
サーマル・トランスファ・システムの他の態様においては、加熱素子には、断熱材によって分離された熱伝導性材料の2つの領域が含まれている。熱伝導性材料の領域の少なくとも一方は移動可能に断熱材に取り付けられていて、領域が特定の仕方で位置したときに、2つの領域が互いに物理的に接触するようになっている。少なくとも一方の領域の動きをある周波数で変調することで、熱伝導性材料の一方の領域から適切な大きさの熱エネルギーが他方の領域へ伝達されるようにしても良い。熱エネルギーを伝達するこによって、他方の領域の表面への氷の付着が剥離される。
【0011】
一態様においては、対象物と氷との間の界面において界面の氷を熱的に変更するための方法が提供される。方法には、加熱エネルギーを界面に加えて氷の界面層を融解するステップが含まれる。そして、加えるステップは、継続時間が、界面に加えられる加熱エネルギーの氷内での熱拡散距離が氷の界面層の厚みを越えて延びないように制限される。
【0012】
一態様においては、加熱エネルギーを加えるステップは、パワーを界面に、少なくとも氷の界面層の融解に用いられるエネルギーの大きさにほぼ反比例する大きさで加えるステップを含む。関連する態様においては、継続時間を制限するステップは、パワーを界面に加えるステップの継続時間を、継続時間が少なくともパワーの大きさの2乗にほぼ反比例するように、制限するステップを含む。
【0013】
一態様においては、加熱エネルギーを加えるステップは、パワーを界面に、少なくとも界面氷の融解に用いられるエネルギーの大きさに実質的に反比例する大きさで加えるステップを含み、継続時間を制限するステップは、継続時間を、継続時間が実質的にパワーの大きさの2乗に反比例するように、制限するステップを含む。
【0014】
一態様においては、方法は、氷の界面層の再凍結を促進して、対象物と氷との間の摩擦係数に影響を及ぼすさらなるステップを含む。一例として、促進するステップは、(1)継続時間を制限するステップの後に再凍結を待つステップと、(2)冷気を界面に吹き付けるステップと、(3)水霧を界面に与えるステップと、のうちの1つまたは複数を含んでいても良い。
【0015】
本明細書におけるある態様においては、対象物は、航空機構造、ウィンドシールド、鏡、ヘッドライト、パワー・ライン、スキー・リフト構造、ウィンドミルのロータ表面、ヘリコプタのロータ表面、屋根、デッキ、建造物構造、道路、橋構造、冷凍機構造、アンテナ、人工衛星、鉄道構造、トンネル構造、ケーブル、道路標識、スノー・シューズ、スキー、スノーボード、スケート、およびシューズのうちの1つである。
【0016】
他の態様においては、加熱エネルギーを界面に加えるステップは、加熱エネルギーを界面に加えて厚みが約5cm未満の氷の界面層を融解するステップを含む。一態様においては、方法のステップが継続時間を、氷の界面層の厚みが約1mm未満となるように制限する。関連する態様においては、熱拡散距離がさらに、パルス継続時間を制限することによって、界面の氷の厚みが約1μm〜1mmのとなるように制限される。
【0017】
一態様においては、継続時間を制限するステップが、加熱エネルギーを界面に最大100秒の間加えるステップを含む。他の態様においては、継続時間を制限するステップが、加えられる熱エネルギーの継続時間を約1ms〜10sに限定する。
【0018】
他の態様においては、加熱エネルギーを界面に加えるステップが、界面と熱連絡する加熱素子、対象物内の加熱素子、および/または界面と接触している加熱素子にパワーを加えるステップを含む。関連する態様においては、加熱エネルギーを加えるステップが、加熱素子によってパワーに電気的に抵抗するステップを含んでいても良い。
【0019】
一態様においては、加えるステップと制限するステップとを周期的に行なって、対象物と氷との間の所望の摩擦係数を発生させる。
【0020】
一態様においては、界面層が再凍結した後にパワーを界面に再び加えて、対象物が氷の上を移動する間の氷と対象物との間の摩擦係数を選択的に制御する。
【0021】
当業者であれば、ある態様において、本発明の範囲から逸脱することなく、氷に雪が含まれるか、または氷を雪と交換しても良いことが分かる。
【0022】
一態様においては、対象物は、シューズ、スノーボード、またはスキーなどのスライダである。
【0023】
また、対象物と氷との間の摩擦係数を制御する方法であって、
(1)パワーをパルス状にして対象物と氷との間の界面に送って、界面での氷の界面層を融解して摩擦係数を減少させるステップと、
(2)界面での界面氷の再凍結を促進して、摩擦係数を増加させるステップと、
(3)ステップ(1)および(2)を、制御可能な方法で繰り返して、対象物と氷との間の平均の摩擦係数を制御するステップと、含む方法が提供される。
【0024】
一態様においては、再凍結を促進するステップが、対象物を氷の上で移動させて対象物の温度を下げるステップを含む。たとえば、乗用車のタイヤを加熱した後に回転させて(乗用車の動作中に)、加熱されたタイヤを、氷で覆われた道路と接触させて再凍結を促進しても良い。
【0025】
一態様においては、パワーをパルス状にするステップが、第1の空気を対象物(たとえば車両タイヤ)上に吹き付けるステップであって第1の空気の温度は凍結よりも高いステップと、氷と接触している対象物を動かすステップとを含む。関連する態様においては、再凍結を促進するステップが、第2の空気を対象物(たとえば、タイヤ)上に吹き付けるステップであって第2の空気の温度は第1の空気の温度よりも低いステップを含む。
【0026】
また、氷または雪と接するように意図された表面を有するスライダが提供される。電源(たとえば、バッテリ)がパワーを発生する。加熱素子が、パワーを表面で熱に変換するように構成され、熱は界面での氷の界面層を融解するには十分である。コントローラが、パワーを加熱素子へ送ることを制御して、スライダと氷または雪との間の摩擦係数を制御する。
【0027】
一例として、スライダは、シューズ、スノーボード、スキー、またはスノー・シューズの形態を取っても良い。
【0028】
一態様においては、スライダは、スキー、スケート、またはスノーボードの形態であり、コントローラは、ユーザ命令に応答して、表面に加えるパワーを変調してスライダのスピードが制御可能となるようにする。このようにして、たとえば、スキーヤは必要に応じて、本人のスキー傾斜をくだるスピードを制御しても良い。
【0029】
さらに他の態様においては、ウィンドシールド除氷器が提供される。ウィンドシールド除氷器は、ウィンドシールドと、ウィンドシールドとともに配置される実質的に透明な加熱素子であって、加えられたパワーに応答して、ウィンドシールド上の氷の界面層を融解するのに十分な大きさで熱を発生する加熱素子とを有する。
【0030】
一態様においては、加熱素子は、電子ギャップが約3eVよりも大きい視覚的に透明な半導体材料から選択される。たとえば、材料は、ZnO、ZnS、およびこれらの混合物のうちの1種であっても良い。
【0031】
他の態様においては、加熱素子は、透明の導体材料から選択される。たとえば、透明の導体材料は、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化スズ、薄い金属膜、およびこれらの混合物のうちの1種であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、対象物と氷との間の界面を変更する1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図2】図2は1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図3】図3は1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図4】図4は1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図5】図5は1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図6】図6は、航空機翼に適用される1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図7】図7は、1つのパルス除氷器加熱素子ラミネートを示す図である。
【図8】図8は、1つのパルス除氷器加熱素子を示す図である。
【図9】図9は、1つのパルス除氷器装置に対する所定の時間に渡る典型的な熱拡散距離を示す図である。
【図10】図10は、1つのパルス除氷器装置に対する所定の時間に渡る典型的な熱拡散距離を示す図である。
【図11】図11は、1つのパルス除氷器システムに対する除氷時間および除氷エネルギーの依存性を示すグラフである。
【図12】図12は、氷−対象物間の界面を変更するための1つのHF除氷器システムを示す図である。
【図13】図13は、1つのHF除氷器システムを示す図である。
【図14】図14は、1つのHF除氷器システムの分析を示す図である。
【図15】図15は、1つのHF除氷器システムで使用するための1つのインターデジタル回路を示す組立図である。
【図16】図16は、1つのHF除氷器システムで使用するための典型的なインターデジタル回路を示す図である。
【図17】図17は、氷伝導率および氷誘電率の周波数依存性を示すグラフである。
【図18】図18は、1つのHF除氷器を特徴づける典型的な回路を示す図である。
【図19】図19は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図20】図20は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図21】図21は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図22】図22は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図23】図23は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図24】図24は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図25】図25は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図26】図26は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図27】図27は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図28】図28は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図29】図29は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図30】図30は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図31】図31は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図32】図32は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図33】図33は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図34】図34は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図35】図35は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図36】図36は、対象物−氷間の界面を変更するための1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図37】図37は、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図38】図38は、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図39】図39は、熱除氷器伝達システムとの比較を示す1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図40】図40は、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図41】図41は、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図42】図42は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図43】図43は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図44】図44は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図45】図45は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図46】図46は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図47】図47は、1つのスライダの特徴を示す図である。
【図48】図48は、1つのスライダの特徴を示す図である。
【図49】図49は、氷−対象物間の界面での摩擦変化のテストを示す1つのスライダ装置を示す図である。
【図50】図50は、スキーの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図51】図51は、スキーの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図52】図52は、スノーボードの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図53】図53は、シューズの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図54】図54は、タイヤの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図55】図55は、1つのスライダのテスト構成を示す図である。
【図56】図56は、トラックの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図57】図57は、スキーの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図58】図58は、タイヤの形態の1つのスライダを示す図である。
【図59】図59は、1つのスライダのテスト構成を示す図である。
【図60】図60は、あるスライダの摩擦係数とスライダに取り付けられた加熱素子に印加される電圧との間の典型的な関係を示すグラフである。
【図61】図61は、あるスライダの静的な力と、雪の上に及ぼされるスライダの法線圧力との間の典型的な関係を示す図である。
【図62】図62は、あるスライダの摩擦係数と取り付けられた加熱素子に印加される電圧との間の典型的な関係を示すグラフである。
【図63】図63は、1つのスライダの摩擦係数とスライダの停止に必要な時間との間の典型的な関係を示すグラフである。
【図64】図64は、1つのスライダの摩擦係数と取り付けられた加熱素子に印加される電圧との間の他の典型的な関係を示すグラフである。
【図65】図65および66は、1つのスライダ熱エネルギーおよび冷却時間を示すグラフである。
【図66】図66は、1つのスライダ熱エネルギーおよび冷却時間を示すグラフである。
【図67】図67は、スライダがタイヤを形成する実施形態における摩擦増大を示す1つのスライダの1つの分析を示す図である。
【図68】図68は、スライダと雪との間の1つの摩擦分析を示す図である。
【図69】図69は、スライダと雪との間の1つの摩擦分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(図面の詳細な説明)
以下に説明するある実施形態は、対象物と氷との間の界面を変更するシステムおよび方法に関する。一実施形態においては、たとえば、システムがエネルギーを、氷(雪)と対象物の表面との間の界面に加えて、表面から氷を除去し、対象物を「除氷」する。他の実施形態においては、たとえば、システムが氷−対象物界面における氷の界面層での融解を変調して、融解した界面層が迅速に再凍結して対象物表面と氷との間の摩擦係数が変更されるようにする。
【0034】
除氷器またはスライダのある実施形態では、交流(AC)高周波数(HF)電源を用いるが、除氷器またはスライダの他の実施形態では、直流(DC)電源および/または熱エネルギー伝達システム(たとえば、熱貯蔵器システム)を用いる。
【0035】
後述するあるセクションは、以下の見出しで分類される。パルス除氷器システム、パルス除氷器システムで用いられる加熱素子、パルス除氷器システム分析、HF除氷器システム、HF除氷器システムで用いるためのインターデジタル回路、HF除氷器システム分析、サーマル・トランスファ除氷器システム、サーマル・トランスファ除氷器システム分析、摩擦係数の操作方法、および摩擦係数操作の分析。
【0036】
パルス除氷器システムを説明するあるセクションでは、たとえば、ある実施形態において、対象物の表面に付着する氷の表面層を融解することによって氷を除去する動作が説明される。また、あるパルス除氷器システムの加熱素子を用いて界面層を融解しても良い。これはたとえば、DCまたはAC電源への電気接続を通して行なう。パルス除氷器システムの他のある実施形態では、氷−対象物間の界面での加熱を、対象物が凍結するように(非加熱の周期の間に)、および摩擦係数が対象物と氷との間で変化するように、変調する。あるパルス除氷器は、スライダとして、またはスライダとともに動作する。これについ
ては、後述する。
【0037】
HF除氷器システムを説明するあるセクションでは、たとえば、ある実施形態において、対象物の表面に付着する氷の表面層を融解することによって氷を除去する動作が説明される。たとえば、あるHF除氷器システムのインターデジタル電極を、界面層を融解するために用いても良いし、またAC電源によって電力を供給しても良い。
【0038】
HF除氷器システムの他のある実施形態を用いて、氷と「スライダ」との間の摩擦係数を変更しても良い。本明細書で用いる場合、「スライダ」は、氷および/または雪と接することが考えられる対象物である。スライダは、その上で、氷および/または雪との相互作用、ならびにスライダと氷および/または雪との間の摩擦係数との相互作用に起因して、「スライド」しても良い。スライダの例としては、これに限定されないが、タイヤ、スキー、スノーボード、シューズ、スノーモービル・トラック、小型そり、航空機着陸装置などが挙げられる。
【0039】
サーマル・トランスファ除氷器システムを説明するあるセクションでは、ある実施形態を用いて、対象物の表面に付着する氷の表面層を融解することによって氷を除去しても良い。サーマル・トランスファ除氷器システムを、熱エネルギーを貯蔵する熱貯蔵器サブ・システムを含むように記述することができる。これらの貯蔵器サブ・システム内の熱エネルギーを、対象物−氷間の界面と熱連絡する加熱素子へ伝達しても良い。サーマル・トランスファ除氷器システムのある実施形態では、熱エネルギーを貯蔵して、そのエネルギーを対象物−氷間の界面に、選択的におよび/または制御可能な仕方で伝達する。
【0040】
以下の他のある実施形態では、氷とスライダとの間の摩擦係数を、スライダに隣接する氷の界面層を融解することによって変更するシステムを説明する。融解するとすぐに、氷の界面層は再凍結して、スライダと氷との間に結合が形成される。この結合は、スライダおよび氷に対する摩擦係数を増加させる「ブレーキ」として機能する。次に、このようなシステムは、界面層を再融解して結合を壊し、摩擦係数を再び変更する。この対象物−氷間の界面での凍結および再凍結の変調された相互作用によって、摩擦係数を所望の量に制御しても良い。この制御された摩擦係数はたとえば、クロス・カントリ・スキー、スノー・シューズ、シューズ、タイヤ、スノーボード、スケートなどのデバイス、および氷および雪と相互作用する他のデバイスにおいて有用である。
【0041】
(パルス除氷器システム)
次に、パルス除氷器システムについて説明する。パルス除氷器システムを用いて、対象物の表面から氷を除去しても良い。また以下のシステムを用いて、氷の界面層を融解しても良いし、および/または対象物−氷間の界面の摩擦係数を変更しても良い。これについては後で詳述する。
【0042】
図1に、対象物16と氷11との間の界面15を変更するための1つのパルス除氷器システム10を示す。システム10は、電源12、コントローラ14、および加熱素子13を含んでいる。一実施形態においては、電源12は、界面15での界面の氷(以後、「界面氷」)を融解するのに用いられるエネルギーの大きさに実質的に反比例する大きさのパワーを発生するように構成される。加熱素子13が、電源12に結合されていて、界面15においてパワーを熱に変換するようになっている。コントローラ14が電源12に結合されていて、加熱素子13がパワーを熱に変換する継続時間を制限するようになっている。一実施形態においては、加熱素子13が界面15においてパワーを熱に変換する継続時間は実質的に、パワーの大きさの2乗に反比例する。
【0043】
より詳細には、加熱パワー密度W(ワット/m2)を、時間tの間、氷と基板との間の界面に加えると、熱は、氷内を距離lDiだけ、および基板内を距離lDSだけ伝搬する。これらの加熱層の厚み、およびそれらの個々の熱容量によって、どの程度熱が吸収されるかが求まる。λiおよびλSが、氷および基板の個々の熱伝導率であり、ρiおよびρSが個々の密度であり、CiおよびCSが個々の熱容量であるならば、氷内の熱流束Qiおよび基板内の熱流束QSに対して、以下の式が、熱交換の当業者によって理解される。
【0044】
【数4】
ここで、Tm−Tは界面の温度変化である。
【0045】
【数5】
方程式(0−1)〜方程式(0−4)を、界面から脱出する総熱量に対して解くことで
、以下の式が導き出される。
【0046】
【数6】
ここで、Wは界面上の加熱パワー密度密度である。
【0047】
一実施形態においては、その結果、前述の代数的な分析によって、1つのパルス除氷器システムおよび付随する方法において必要なパワーに対する概算的な結果が返ってくる。正確な数学的な考察によって、偏微分方程式の系を解くことで、除氷時間tおよび除氷エネルギーQに対して、以下の典型的な実施形態が予測される。
【0048】
この例では、コントローラ14が、パワーを加熱素子13へ送る時間を、以下の関係に従って制御しても良い。
【0049】
【数7】
ここで、Tmは氷の融解温度、Tは周囲温度、Aは熱伝導係数、ρは材料密度、Cは材料熱容量(添え字「i」は氷および/または雪を示し、添え字「s」は基板材料を示す)、およびWは平方メートル当たりのパワーである。
【0050】
この例ではまた、コントローラ14は、加熱素子13へ送るパワーの大きさを制御して、界面14でのエネルギーQがパワーの大きさに実質的に反比例するようにする。この例では、コントローラ14はパワーの大きさを、以下の関係式に従って制御する。
【0051】
【数8】
したがって、所望の温度に到達する(たとえば界面15での氷を融解する)ためのエネルギーを少なくするために、加熱パワーWを増加させる一方で、加熱パワーを加える時間を短くする。比較として、方程式0−5の簡単化された分析結果は、方程式1−2のより精密な解答とは、π/4=0.875だけ異なる。これらの方程式は、熱拡散長がターゲット対象物の厚み(たとえば、界面15内の界面氷)を下回る場合の短いパワー・パルスを記述するのに、特に有用である。
【0052】
一実施形態においては、界面氷の非常に薄い層の融解と、厚みがdheaterの薄いヒータの加熱とに用いられるエネルギー、Qmin、を加えることによって、より正確な近似が見出される。
【0053】
【数9】
ここで、liは層厚み、ρiは氷密度、qiは氷の融解潜熱、およびCheaterおよびρheaterはそれぞれヒータ比熱容量および密度である。したがって、例では、コントローラ14は、パワーの大きさを以下の関係に従って制御しても良い。
【0054】
【数10】
方程式1−4のエネルギーは、平方メートル当たりで与えられる(J/m2)。対流熱交換を方程式1−4に加えることもできる。しかしこの項は、加熱パルス継続時間が非常に短いために、通常は無視される。基板および/または氷層が、熱拡散長(それぞれ方程式0−3、方程式0−4)よりも短い場合、エネルギーは方程式1−4での値をさらに下回る。
【0055】
例示的な動作では、システム10を、たとえば自動車とともに用いて、ウィンドシールド(対象物16としての)から氷11を除去しても良い。この例では、加熱素子13は透明でウィンドシールド16内に埋め込まれ、電源12およびコントローラ14は協同して、方程式1−1および1−2に従って界面15での界面氷を融解させるのに十分なパワーを提供する。
【0056】
システム10の動作をさらに示すために、氷の特性を考えてみる。
【0057】
【数11】
典型的なウィンドシールド(基板として)の特性は、以下の通りである。
【0058】
【数12】
方程式1−1に基づいて、パワー・レートが100kW/m2において−10℃から始まって氷の融点(0℃)に達するまでの時間は、ガラスまたはガラス様基板16について、t≒0.142秒である。方程式1−3からの補正によって、約0.016秒を継続時間に、すなわち約10%を、加えても良い。ピーク加熱パワーを、10分の1に(たとえば100kW/m2から10kW/m2に)減らすことによって、この時間は約2桁増加する。比較として、−30℃では、W=100kW/m2での総除氷時間は、1.42秒もの長さである。したがってW=100kW/m2および−10℃での対応する総除氷エネルギーQを、次のように規定しても良い。
【0059】
【数13】
しかし、同じ温度の−10℃およびより低いパワーのW=10kW/m2において、方程式1−4によって与えられるエネルギーQは以下の通りである。
【0060】
【数14】
この結果は、W=100キロ・ワット/m2における値よりも、ほぼ1桁だけ大きい。
【0061】
前述の例の1つの利点は、従来技術のシステムと比較して、使用される除氷エネルギーが約1桁だけ減ることである。これは、パワー・レートを約1桁だけ増加させるとともに、パワーを印加する時間を約2桁だけ短くすることによって、なされる。パワーを界面15に印加する時間を制限することによって、熱エネルギーが環境およびバルク氷11中に流れ出ることが、制限される。その代わり、パワー・パルスが短くなった結果、より多くのエネルギーが、界面15に従って残って、界面氷を融解することになる。
【0062】
図2に、一実施形態による1つのパルス除氷器システム20を示す。除氷器システム20は、DC電源22、充電キャパシタ26、抵抗性加熱素子28およびスイッチ24を有する。DC電源22は、スイッチ24がノード23上で閉じたときにキャパシタ26を充電するためのパワーを供給するように構成されている。キャパシタ26は、ノード25を介して抵抗性加熱素子28に協調的に結合されたときに、図1の方程式にしたがってある大きさのパワーを供給するように構成されている。スイッチ24は、たとえば、コントローラまたはマイクロプロセッサによって動作可能に制御されて、スイッチ24がノード25上で閉じたときに、図1の方程式1−1にしたがって、キャパシタ26からの電流をパルス状にして抵抗性加熱素子28へ送る。一例では、スイッチ24がノード23上で閉じたときに、DC電源22はキャパシタ26を充電する。キャパシタ26が充電されたらすぐに、スイッチ24はノード25上で開閉して、抵抗性加熱素子28へ電流を放電する。そして抵抗性加熱素子28は、対象物界面(たとえば、界面15、図1)での氷の界面層を融解するのに十分な加熱パワーを発生させる。パルス除氷器システム20の応用例に依存するが、界面層を融解することは、対象物の表面から氷を除去し、表面上でのその形成を防ぎ、および/またはその付着強度を変更し、および/または氷または雪と対象物との間の摩擦係数を変えるのに有用である。
【0063】
図3に、一実施形態による1つのパルス除氷器システム30を示す。パルス除氷器システム30は、一対のパワー・バス32、加熱素子34、キャパシタ38、スイッチ36、および電源37を含む。パルス除氷器システム30は、要素34に隣接する氷を除去するように構成されている(たとえば要素34は、除氷すべき対象物とともに、除氷すべき対象物内に、および/または除氷すべき対象物上に配置される)。図3の例示した実施形態においては、キャパシタ38は、貯蔵容量が約1000Fで電位が約2.5Vのスーパーキャパシタであり、たとえばマクスウェル・テクノロジ(Maxwell Technology)製のPC2500スーパーキャパシタである。またこの実施形態においては、加熱素子34は、50μmシートのステンレス鋼ホイルが1cm厚みのプレキシガラス・プレートに取り付けられており、また電源37は2.5VDC電源である。スイッチ36は、高電流機械的スイッチとして動作して、電源37がパワーを加熱素子34へ供給する継続時間を制限しても良い。任意に、スイッチ36は、コントローラたとえば図1のコントローラ14から制御を受ける電気スイッチとして動作する。加熱素子34の抵抗は、約6mΩである。初期のパワー密度が約40kW/m2、総貯蔵エネルギーが約3.125kJ、および総エネルギー密度が約83.33kJ/m2である場合、パルス除氷器システム30は、周囲温度が約−10℃において、エネルギー密度として約40kJ/m2を用いて、約375cm2の表面積上の約2cmの氷をほぼ1秒で効果的に除氷する。
【0064】
パルス除氷器システム30の他の実施形態においては、キャパシタ38は乗用車バッテリたとえばEverStart&commat(エバー・スタート&コマット)(登録商標)社のピーク電流が約1000A、電位が約12Vの乗用車バッテリである。またこの実施形態においては、加熱素子34は、100μmシートのステンレス鋼ホイルが1cm厚みのプレキシガラス・プレートに取り付けられている。スイッチ36は、たとえばスタータ・ソレノイドスイッチであっても良い。初期のパワー密度が約25kW/m2である場合、パルス除氷器システム30は、周囲温度が約−10℃において、エネルギー密度として約50kJ/m2を用いて、約375cm2の表面積上に成長した約2cmの氷を、ほぼ2秒で、効果的に除氷する。他の実施形態においては、電源37は、キャパシタ38を充電する2.5VDC電源である。
【0065】
図4に、一実施形態による1つのパルス除氷器システム40を示す。パルス除氷器システム40は、DC電源42、キャパシタ45、抵抗性加熱素子46、DCDCコンバータ44、およびスイッチ48を用いている。DC電源42は、スイッチ48がノード41上で閉じたときに、キャパシタ45を充電するために、DCDCコンバータ44を介してパワーを供給するように構成されている。DCDCコンバータ44は、DC電源42からの電圧を「ステップ・アップ」するように構成しても良い。一例では、DCDCコンバータ44は、DC電源42のパワーをブーストするブースト・エレクトロニクスを有している。一実施形態においては、キャパシタ45は、抵抗性加熱素子46にノード43を介して協調的に結合していて、図1の方程式にしたがってある大きさのパワーを供給するように構成されている。そしてスイッチ48は、コントローラまたはマイクロプロセッサなどの変更手段によって動作可能に制御されて、スイッチ48がノード43上で閉じたときに、キャパシタ45からの電流をパルス状にして抵抗性加熱素子46内へ入れることを、たとえば図1に方程式1−1に従って行なう。一例では、DC電源42は、スイッチ48がノード41上で閉じたときにキャパシタ45を充電する。キャパシタ45が充電されたらすぐに、スイッチ48がノード43上で開閉して、抵抗性加熱素子46内へ電流を放電する。そして抵抗性加熱素子46は、氷の界面層を融解するのに十分な加熱パワーを発生する。パルス除氷器システム40の応用例に依存するが、氷の界面層を融解することは、たとえば、対象物の表面から氷を除去し、表面上でのその形成を防ぎ、および/またはその付着強度を変更し、および/または氷と対象物との間の摩擦係数を変えるのに有用である。またパルス除氷器システム40は、大きな電源を利用することができないとき、または雪と接触する対象物の表面積が小さいとき、たとえばシューズ(シューズ684、図61など)の場合に、有用である。一実施形態においては、パルス除氷器システム40は「パルス・ブレーキ」(後で詳述する)として用いられる。
【0066】
図5に、一実施形態による1つのパルス除氷器システム50を示す。パルス除氷器システム50は、対象物を除氷するように構成されている。パルス除氷器システム50は、除氷器62、一対のパワー・バス64、熱電対63、熱電対モジュール52、増幅器54、バッテリ58、スタータ/ソレノイド59、キャパシタ61、ソリッド・ステート・リレー(SSR)60、およびコンピュータシステム57を有している。除氷器62は、パワー・バス64に結合して、パワーをバッテリ58から受け取るようになっている。コンピュータシステム57は、除氷器62に熱電対モジュール52および増幅器54を通して結合していて、除氷器62についての温度情報を熱電対63を通して受け取るようになっている。コンピュータシステム57は、アナログ−デジタル(A/D)コンバータボード・55を含んでいても良い。アナログ−デジタル(A/D)コンバータボード55は、アナログ形態の温度情報を受け取って、アナログ温度情報をデジタル・フォーマットに変換して、コンピュータシステム57によって使用するように構成されている。またコンピュータシステム57は、除氷器62にSSR60を介して結合していて、除氷器62に加えるパワーの継続時間および大きさを、たとえば、図1の方程式にしたがって、制御するようになっている。一例では、コンピュータシステム57は、SSR60およびスタータソレノイド59を動作可能に制御して、バッテリ58からのパワーを除氷器62へ加えるようになっている。
【0067】
SSR60の代わりに、インダクタ68およびスイッチ65を用いても良い。またスタータ−ソレノイド59は、インダクタ67およびスイッチ66を含んでいても良い。コンピュータシステム57はさらに、トランジスタ・トランジスタ・ロジック(TTL)モジュール56を含んで、制御情報をSSR60へ送ることで、インダクタ68がステップ入力をTTLモジュール56から受けたときに、インダクタ68がスイッチ65を閉じるようにしても良い。スイッチ65が閉じたらすぐに、キャパシタ61がインダクタ67内へ放電してスイッチ66を閉じる。スイッチ66が閉じたらすぐに、バッテリ58がパワーを除氷器62へ送る。一実施形態においては、コンピュータシステム57は、熱電対63によって決定されるように温度が所定のレベルまで上がったときに、除氷器62からのパワーを切り離す。一例では、コンピュータシステム57は、温度情報を、熱電対63から熱電対モジュール52および増幅器54を介して、受け取る。熱電対モジュール52は、温度情報をコンピュータシステム57へ中継する。増幅器54は、温度情報を増幅して、A/Dコンバータボード55がコンピュータシステム57に対する温度情報をデジタル化するようにする。除氷器62の温度が、氷の界面層を融解するのに十分な所定のレベルに達したらすぐに、コンピュータシステム57はTTLモジュール56に命令を出して、スイッチ65をインダクタ68を介して開けるようにする。スイッチ65が開くのは、パワーを除氷器62から切り離すべきであるとコンピュータシステム57が判断したときである。そのため、インダクタ67はもはや電圧を維持しないため、キャパシタ61は放電して、スイッチ66は開く。こうして、インダクタ67はキャパシタ61の充電を開始する。
【0068】
一実施形態においては、除氷器62は、50μm厚みのステンレス鋼から形成され、小さいエアロホイルの前縁(たとえば、航空機翼の前方の露出部分)に取り付けられる。この実施形態においては、エアロホイルは長さが約20cmで厚みが約5cmであり、また除氷器62は寸法が約20cmx10cmである。
【0069】
システム50を以下のようにテストした。除氷器62を、エアロホイル内に形成して、凍結風トンネル内に配置する。除氷器62を、約142km/時の空気スピードで、約−10℃において、約20μmの水滴を用いて、テストした。大気の氷がエアロホイル上に形成された。氷が約5mmから10mmの厚みに成長した後、コンピュータシステム57からバッテリ58に命令を出して、たとえば図5で説明したように、パワーを除氷器62にパルス状で加えるようにする。パワー密度Wが約100kW/m2で、パワー・パルス継続時間tが約0.3秒である場合、除氷器62は氷からエアロホイルまでの界面層を融解して、エアロホイル表面への氷の付着が実質的に変更および/または破壊されるようにする。その後、氷は、エアロホイル表面から、空気抵抗力によって除去することができる。この例でのパルス継続時間は、ウィンドシールド除氷器の例の場合よりも長い。と言うのは、金属−ホイルヒータ内の熱容量の方が大きいからからである。
【0070】
図6に、一実施形態により、航空機翼80に適用した1つのパルス除氷器システム70を示す。パルス除氷器システム70は、電源74およびコントローラ78を有している。電源74は、界面73で氷の界面層の融解に用いられるエネルギーの大きさに実質的に反比例する大きさのパワーを発生するように構成されている。図示したように、界面73は、氷および/または雪と接触する航空機翼80の表面である。またパルス除氷器システム70は、加熱素子75が電源74に結合されていて、パワーを界面73での熱に変換するようになっている。システム70は、コントローラ78が電源74に結合されていて、加熱素子75がパワーを熱に変換する継続時間を制限するようになっている。パワーが加えられる継続時間は、たとえばパワーの大きさの2乗に反比例する。
【0071】
一実施形態においては、システム70は、氷検出器72および温度センサ76も含んでいる。温度センサ76が界面73に結合されていて、界面73での温度を検出するようになっている。温度センサ76は、界面73に関する温度情報を、フィードバック信号の形態で、コントローラ78に供給する。そしてコントローラ78は、温度情報を処理して、パワーを加熱素子75および/または界面73へ加える仕方を制御する。
【0072】
氷検出器72は、界面73上の氷の厚みを検出するように構成されている。氷検出器72はたとえば、氷厚みの測定を容易にする電極のグリッドを含んでいても良い。氷の誘電率は、水および空気の誘電率とは異なる特有のものであるので、氷の存在および厚みを、氷検出器72の電極間キャパシタンスを測定することによって決定しても良い。氷検出器72は、氷に関する情報(たとえば、氷の存在および厚み)をコントローラ78へ中継する。コントローラ78は、情報を処理して、パワーを加熱素子75へいつ加えるべきかを決定する。一実施形態においては、航空機翼80上の氷がある厚みに達したら、コントローラ78は、氷を除去すべきであると自動的に決定した後、電源74を動作可能に制御してパワーを加熱素子75へ加える。
【0073】
次に、システム70の動作特性の例について説明する。除氷器環境として、周囲温度Tが約−10℃、空気スピードが約320km/時、および航空機翼80の厚みが約10cmであり、対流熱交換係数hcが約1200ワット/K・m2(実験データに基づく)であるものを考える。
【0074】
比較として、従来技術の除氷器システムの動作は、パワーWを航空機翼80の表面へ加えて、航空機翼80の表面での温度Tmを氷の凝固点(たとえば、0℃)よりも上に維持するように行なわれる。これは以下の方程式の通りである。
【0075】
【数15】
そのパワーを3分間の間維持することによって大量のエネルギーQとなる。これは、以下の方程式から決定される。
【0076】
【数16】
一方で、パルス除氷器システム70が、従来技術の除氷器システムとは異なるのは、数ある特徴の中でも、すべての氷を融解するのとは対照的に、界面における氷の界面層を融解することである。一例では、パルス除氷器システム70は、氷のエアロホイルを、30kジュール/m2だけを用いて取り除く。パルス間の間隔が3分間である場合、パルス除氷器システム70が消費するのは、以下のような非常に低い「平均的な」パワーである。
【0077】
【数17】
すなわち、方程式6−3の結果は、方程式6−2により従来技術の電熱除氷器で使用されるもののたった1.4%である。
【0078】
一実施形態においては、パルス除氷器システム70は、加熱素子75へのエネルギーを、図1の方程式に従ってパルス状にする。加熱素子75はたとえば、界面73での氷の界面層を融解するために、電極のグリッドを含んでいても良い。氷の厚みがあるプリセット値(たとえば、3mm)に達したら、コントローラ78は電源74に命令を出して、短いパルスのパワーを加熱素子75へ送るようにする。パルスの継続時間は、温度センサ76から与えられる温度、電源74から供給されるパワー、および基板材料の物理的特性(たとえば、航空機翼80および/または加熱素子75の表面)に依存する。たとえば、パワーを加えるパルス継続時間は、図1の方程式1−1に従っても良い。
【0079】
一実施形態においては、パルス除氷器システム70は、第2の温度センサ(図示せず)を加熱素子75の付近で用いることで、パワー制御を向上させる。たとえば、パルス・パワーを加えたときに界面の温度が所定の値に達したらすぐに、コントローラ78から電源74に命令を出してパワーを加熱素子75から切り離し、エネルギー使用量を一定に保っても良い。
【0080】
種々のヒータたとえばHF誘電損失ヒータおよびDCヒータを用いた実験の結果、前述した理論的予想に適合する結果が得られている。本明細書のある実施形態においては、除氷領域が大きすぎて電源が領域全体を同時に加熱することができない場合、除氷をセクションごとに行なっても良い。一例として、これらのセクションを除氷することによって、構造全体を順次除氷しても良い。航空機に付随する空気抵抗力によってさらに氷がエアロホイルから除去されることがある。しかし、航空機翼80の最も前方に進んだ部分(たとえば、仕切り板)を未凍結の状態に保つには時間がかかるため、方程式6−3に示した平均のパワーが増えることが考えられる。他のヒータをパルス除氷器システム70とともに用いことも、本発明の範囲から逸脱しないならば良い。たとえば、多くの航空機で見られる高温のブリード・エア・ヒータである。
【0081】
(パルス除氷器システムで用いられる加熱素子)
以下の実施形態のうちいくつかにおいて、種々のパルス除氷器システムで用いられる加熱素子について説明する。これらの加熱素子はたとえば、パワーをDC電源などの電源から受け取った後、対象物の表面対氷間の界面における氷の界面層を融解する。氷の界面層が融解したらすぐに、後で詳述するような応用例などの所望の応用例に依存して、氷をたとえば除去または再凍結する。
【0082】
図7に、氷を構造92から除去することを、たとえば図1の方程式に従ってパワーを加えることによって行なう、典型的なパルス除氷器加熱素子ラミネート90を示す。ラミネート90は、電気絶縁および基板断熱材94、電気伝導層96、および保護層98を含んでいる。層96はパワーを受け取り、そのパワーを熱に変換して、氷の除去および/または構造92上での氷の形成の防止を行なう。層96はたとえば、本明細書で説明した種々の加熱素子の1つである。一実施形態においては、ラミネート90は、構造92に取り付けられた複数の別個のコンポーネントを含むことで、氷を別個に除去する(たとえば、セルごとに、またはセクションごとに除去する)ことができる「セル」を形成している。
【0083】
一実施形態においては、ラミネート90に送ることができるパワーは、約10kW/m2〜100kW/m2の範囲である。したがって、このようなパワーを送るために選択する電源は、所望の除氷時間および外部温度に依存するが、容量が約10kJ/m2〜100kJ/m2でなければならない。これらの特性を有するある電源は、化学的バッテリの形態であり、たとえば乗用車バッテリ、スーパーキャパシタ、ウルトラキャパシタ、電解キャパシタ、発電機に結合されたフライホイール、DC/DCおよびDC/ACインバータ、およびこれらの組み合わせである。
【0084】
最新の化学的バッテリは、貯蔵される電気エネルギーが高密度であることが知られている(たとえば、鉛バッテリの場合に約60kJ/kg)。しかし、化学的バッテリは、パワー密度が比較的低い。たとえば、乗用車バッテリは、最大で約1000Aを12ボルトで約10秒の間、送ることができ、これはパワーとして約12kWに対応する。典型的な乗用車バッテリは、容量が約Q≒12Vx100Ax3600秒=4.32・106Jと大きい。したがって、パルス除氷器システムおよび方法で用いる場合、乗用車バッテリは、最大で約1.5m2の領域を効果的に除氷することができる。この領域は、自動車ウィ
ンドシールドに対しては理想的である。
【0085】
スーパーキャパシタおよびウルトラキャパシタは、ピークパワーおよびピーク容量の両方に対して良好な電源として知られている。あるスーパーキャパシタは、10kJ/kgを貯蔵することができ、1.5kW/kgのパワーを送ることができる(たとえば、マクスウェル・テクノロジ(MaxwellTechnology)製のPC2500スーパーキャパシタ)。電源としては、スーパーキャパシタは、パルス除氷器システム内のラミネート90ととともに用いることに非常に適していることが考えられる。
【0086】
軽い複合材料で形成されたフライホイールを発電機に結合することによって、別のエネルギー貯蔵器が得られる。あるフライホイールは、最大で約2MJ/kgまで貯蔵することができ、また発電機と結合すれば、パワー密度として約100kW/kgを送ることができる。一例としては、モータ−発電機は最初、モータとして動作して、フライホイールを高スピードまで回転させる。モータは、低電力源たとえば100ワット〜1000ワット源(たとえば、バッテリ)を用いる。ピークパワーが必要な場合には、モータ発電機のコイルを、低電力源から外して、低インピーダンス負荷(たとえば、電気伝導層96)に接続することによって、フライホイールに貯蔵された運動エネルギーを熱に転化させる。
【0087】
パルス方法除氷器のある用途では、高電気インピーダンスの(たとえば、自動車ウィンドシールド除氷器の抵抗性加熱素子)を用いても良く、したがって高電圧電源を必要としても良い。たとえば、自動車ウィンドシールド除氷器は、約120ボルトを、また最大で240ボルトまでを用いても良い。この電圧は、典型的な乗用車バッテリの出力電圧(たとえば、約12ボルト)およびスーパーキャパシタの電圧(たとえば、約2.5ボルト)を上回っている。バッテリ・バンクを用いて電圧を上げる代わりに、DC/ACインバータまたはステップ・アップDC/DCコンバータを用いて電圧を上げることができる。
【0088】
薄い電気加熱層(たとえば、電気伝導層96、図7)が、要求されるエネルギーおよび除氷熱慣性を下げるのに有用である。層96として用いても良い材料の例は、薄い金属ホイル、たとえばステンレス鋼ホイル、チタンホイル、銅ホイル、およびアルミニウムホイルである。金属、合金、伝導性金属酸化物、伝導性繊維(たとえば、カーボン・ファイバ)および伝導性ペイントをスパッタリングすることも用いて良い。層96の典型的な厚みは、約50nm〜100μmの範囲であっても良い。しかし他の範囲、たとえば約10nm〜1mmの範囲も用いて良い。
【0089】
1つの任意の実施形態においては、保護層98が、層96を過酷な環境から保護するように構成されている。たとえば、層98は層96を、磨耗、侵食、高速衝突、および/または引っかきから保護する。保護層98は、誘電体でも伝導体でも良く、また層96に直接塗布しても良い。たとえば層96は、熱伝導特性が比較的良好で、機械的強度が比較的高くでも良い。保護層98として用いても良い材料の例としては、TiN、TiCN、タングステン・カーバイド、WC、Al203、SiO2、Cr、Ni、CrNi、TiO2、およびAlTiOが挙げられる。保護層98を層96に塗布することを、スパッタリング、化学的気相成長法(「CVD」)、物理的気相成長法(「PVD」)、および/またはゾル・ゲル方法(たとえば、シリカ粒子のコロイド懸濁液をゲル化して固体を形成する)。スパッタリングは、当業者に知られている。これは、基板を真空チャンバ内に配置することを含んでいても良い。受動的ソース・ガス(たとえばアルゴン)によって生成されたプラズマによって、イオン衝撃を発生して基板上のターゲットに向けて送ることによって、基板材料を「スパッタリング」する。スパッタリングされた材料は、チャンバ壁および基板上に集まる。CVDおよびPVD技術も当業者には知られている。
【0090】
パルス法の除氷器に必要とされるエネルギーは、基板特性(たとえば、方程式1−1、1−2、1−4の
【0091】
【数18】
)に依存する可能性があるため、基板材料が低密度、低熱容量、および/または低熱伝導性である場合には、除氷パワーを下げることができる。多くのポリマーは、積(ρSCSλS)が小さく、一方で金属は、積(ρSCSλS)が大きい。固体発泡体も積(ρSCSλS)は小さい。ガラスの積(ρSCSλS)は、典型的なポリマーのそれよりも大きいが、金属のそれよりは比較的小さい。応用例に依存して、基板の断熱材94は、約100nm〜1mmの厚みとすることができるが、通常は約0.1mm〜20mmの厚みである。
【0092】
図8に、一実施形態による1つのパルス除氷器加熱素子100を示す。加熱素子100は、対象物上の氷の界面層の融解を、パルス状のエネルギーを受け取ることによって、たとえば図1の方程式にしたがって、行なうように構成されている。たとえば、パワーを、加熱素子100に端子101および102において加えて、加熱素子100が氷の界面層を融解するようにしても良い。本明細書で説明したような電源によってパワーを加熱素子100に加えて、氷の界面層を融解しても良い。加熱素子100の応用例に依存するが、氷の界面層を融解することは、対象物の表面から氷を除去し、表面上でのその形成を防ぎ、および/またはその付着強度を変更し、および氷と対象物との間の摩擦係数を変えることに、有用であると考えられる。素子100は、たとえば、除氷すべき対象物表面に、表面内に、または表面に隣接して、配置しても良い。
【0093】
(パルス除氷器システム分析)
次に、種々のパルス除氷器システムのある動作特性について、分析して説明する。以下の典型的な分析では、加熱素子からの熱がどのようにして氷内に拡散して氷を対象物から除去するかを示すために、ある成分値を例示する。
【0094】
図9に、1つのパルス除氷器装置120を示す。例示的に、氷124が熱伝導性基板126に付着して、氷−対象物界面122を形成している。本明細書で説明したような加熱素子を、界面122とともに(たとえば、基板126内に)配置して、パルス状のエネルギーを界面122へ送ることを促進する。基板126が表わす構造は、たとえば航空機翼、乗用車ウィンドシールド、窓、外部鏡、ヘッドライト、ウィンドミルのロータ、建造物、道路構造、橋、冷蔵庫、アンテナ、通信塔、列車、鉄道、トンネル、道路標識、パワー・ライン、高圧線、スキー・リフト構造またはスキー・リフト・ケーブルである。
【0095】
図10に、氷−対象物界面122での温度Tから、氷124および基板126を通しての、所定の時間t(たとえば、t1およびt2)に渡る熱拡散距離を例示的に示す。X軸123は、図9に示す通り、界面122に垂直な距離を表わし、Y軸125は温度Tを表わす各曲線t1またはt2は、界面122の反対側である熱伝導性基板126および氷124内への熱拡散距離に対する時間を表わす。図示したように、各曲線t1およびt2のピークは、Y軸125上の融点温度127にあり、すなわち、界面122において氷の界面層を融解するのに十分な温度である。
【0096】
2つの曲線t1およびt2は、氷の界面層を融解するパルス状のパワーによって決まる。図示したように、t1はt2を下回っており、したがって、より高いパワー・レートに対応している。いずれの曲線t1およびt2の下で加えられるパルス状のエネルギー量も、界面122で氷の界面層を融解するのには十分であるので、このようなパルス状のエネルギーを、t1に従って加えることが好ましい。その結果、より高いパワー・レートを用いることになるが、全体としてはt2と比較して用いるパワーは小さい。
【0097】
より詳細には、X軸123と一致する長さLに渡る拡散時間tに対する以下の方程式を考える。
【0098】
【数19】
ここで、Dは熱拡散係数の係数であり、以下の式によって記述される。
【0099】
【数20】
ここでλは熱伝導性係数、ρは材料密度、およびcは材料の熱容量である。継続時間のより短いパワーのパルスを界面122へ加えることで、加熱される氷の界面層が薄くなる。必要に応じて、加熱パワー継続時間を制御することによって、界面122へのフォーカスが良好になる。一実施形態においては、界面122へ加えられる時間tおよびエネルギーQ(氷124の界面層を周囲温度Tから融点温度127まで加熱するため)は、図1に関連して説明した方程式に従う。図1の方程式を用いることによって、装置120を用いて除氷するときのエネルギーが節約される。加えて、加熱パルス間の時間tを制御して、時間tが氷の成長速度および氷厚みに対する許容範囲によって規定されるようにしても良い。たとえば、氷が、航空機翼上で約3mmの厚みに達したときに、たとえば図6の関連で説明したように、フィードバック・メカニズムによって、装置120が氷124を除去することができる。
【0100】
図11に、一実施形態により、乗用車ウィンドシールドに加えられた、1つのパルス除氷器システムに対する加熱パワー密度への、除氷時間および除氷エネルギー(たとえば、熱エネルギー)の依存性を示す。たとえば、0.5μm層の伝導性の酸化インジウム・スズ(ITO)を、ガラス製で寸法が約10cmx10cmx5mmのウィンドシールドの一方の側にコーティングして、パルス除氷器システム内の加熱素子として用いても良い。氷が、約−10℃の環境においてウィンドシールド上で約2cm厚みに成長したときに、約60HzのACパワーのパルスを加熱素子へ加えて、氷の界面層を加熱する。氷の界面層が融解したらすぐに、重力の力によって氷を除去しても良い。氷の界面層を融解するのに必要な熱エネルギーQは、パワーを加熱素子へ加える時間およびパワー密度に依存しても良い。図11に、このような依存性を例示する。ここで、Y軸132は除氷時間および除氷エネルギーを表わし、X軸133は加熱パワー・レートWを表わす。時間を秒で表わし、エネルギーをキロ・ジュール/m2で表わす。
【0101】
2つのプロット130および131は実質的に、図1の方程式1−4で与えられる理論的な予想に一致する。たとえば、プロット130および131によって、除氷時間が加熱パワー・レートWの2乗に反比例し、一方で、熱エネルギーQは加熱パワー・レートWの1乗にほぼ反比例することが、示されている。したがって、このようなパルス除氷器システムによって、氷を対象物から除去するために、または対象物上でのその形成を防ぐために、加熱素子へ送られる平均のパワーの大きさが小さくなる。
【0102】
(HF除氷器システム)
次に、HF除氷器システムについて説明する。HF除氷器システムはたとえば、対象物の表面から氷を除去するために用いられる。前述したように、HF除氷器システムによって対象物−氷間の界面において氷の界面層を融解して、表面への氷の付着を剥離、変更、および/または破壊するようにしても良い。氷の付着が剥離されたらすぐに、氷を表面から、たとえば重力および/またはウィンドシアの力によって、除去しても良い。
【0103】
図12に、一実施形態によるHF除氷器システム140を示す。HF除氷器システム140は、バイファイラ巻きコイル141が誘電体基板142上に埋め込まれている。例示的に、氷および/または雪143は、誘電体基板142の表面144に付着した状態で示されている。コイル141に誘電体層をコーティングして、機械的および環境的な劣化を防ぐように、および/または空気の電気絶縁破壊を防ぐようにしても良い。コイル141の巻き線は、誘電体基板142上で距離Dだけ間隔が開けられている。パワーをコイル142に、たとえば図1の方程式に従って加えると、HF除氷器システム140が、氷および/または雪143の付着を表面144から剥離しまたは変更する。次に、HF除氷器システム140の典型的な動作特性について説明する。
【0104】
典型的な氷の平方メートル当たりのキャパシタンスは、以下の通りである。
【0105】
【数21】
また平方メートル当たりのHFのコンダクタンスは以下の通りである。
【0106】
【数22】
ここでDはメートルで示し、Tはケルビンで示す。空気の電気絶縁破壊は、ほぼ以下の値の電圧VBで起こる。
【0107】
【数23】
海面で計算し、また空気絶縁破壊の電界として約30kV/cmを用いているため、平均2乗平方根D(rms)電圧VBはほぼ以下の値となる。
【0108】
【数24】
デザイン上の好みの問題として、最大電圧は、(方程式10−4)のVBの約70%であると決定した。これは安全上の考慮からである。したがって、Vmaxを以下のように決定した。
【0109】
【数25】
方程式12−2および12−5を組み合わせることで、最大加熱パワーWmaxが以下のように決定される。
【0110】
【数26】
HF除氷器システム140の除氷時間を、以下の方程式に従って、「安全な」電圧を加えることによって、ヒューリスティックに決定する。
【0111】
【数27】
コイル141内で0.5mmワイヤを仮定し、安全な電圧として600ボルトrmsを仮定して、HF除氷器システム140の除氷時間は、周囲温度−30℃で表面144にて氷143の界面層を融解するのに、約13秒であるとヒューリスティックに決定される。他の除氷時間は、周囲温度−20℃において約4.3秒であり、周囲温度−10℃において約1.2秒であると、ヒューリスティックに決定される。
【0112】
典型的な氷の成長速度は1.5mm/分を超えないことが分かっている。したがって、約3分間ごとに表面144から氷を落としたい(たとえば除氷したい)場合には、除氷に対するおおよその平均パワーを以下のように計算することができる。
【0113】
(方程式12−8)−30℃にて1.75kW/m2。
【0114】
0.2インチ幅の仕切り板に氷がない状態を保つために必要なパワー密度の決定は、40kW/m2の典型的なパワー密度を仮定して、8インチ幅の保護バンドのパワー密度を方程式10−8の各パワー密度に加えることによって行なっても良い。たとえば、5mm幅の仕切り板に8インチ幅の保護バンドが付いたものに対する典型的なパワー密度は、以下のようにして決定される。
【0115】
(方程式12−9)W=40(kワット/m2)・0.2インチ/8インチ=1kワット/m2。
【0116】
したがって、方程式10−9を方程式12−8のパワー密度に加えることによって、以下の結果が得られる。
【0117】
(方程式12−8)−30℃にて4.1kW/m2。
【0118】
したがって、−30℃でのHF除氷器システム140に対するパワー密度(たとえば、4.1kW/m2)は、従来技術のDCヒータのそれの約10%のみである。
【0119】
図13に、一実施形態による他のHF除氷器システム150を例示する。HF除氷器システム150は、複数の電極154が、誘電体基板152上に、インターデジタル電子回路の形態で埋め込まれている。HF除氷器システム150は、氷151を表面156から、電力を電極154にHFのAC電源155から加えることによって、除去する。HF除氷器システム150の除氷特性は、加熱パワー密度が実質的に回路寸法aおよびbに依存することである。ここでaは電極154間の距離であり、bは電極幅である。一実施形態においては、電極154は織り込まれてメッシュになっている。
【0120】
電力を電極154に加えると、図示したように、電界線153が電極154の周りに形成される。HF除氷器システム150では、回路コンダクタンスGは、誘電体基板152上方の電界線153によって引き起こされる平方メートル当たりの回路キャパシタンスCに比例する。たとえば、以下の通りである。
【0121】
【数28】
ε0は自由空間での誘電率(たとえばε0=8.85・10−12F/m)、εは氷の比誘電率、およびσは氷の伝導率である。a=bを仮定して、以下のように結論することができる。
【0122】
【数29】
ここで、lは、aプラスbに等しく、構造周期としても知られている。平均的な電界Eは、以下の通りである。
【0123】
【数30】
ここでVは、除氷器システム150のHFの回路に加えられるrms電圧である。したがって、立方メートルあたりの加熱パワーWは、以下の通りである。
【0124】
【数31】
したがって、最大加熱パワーWmaxがHF除氷器システム150内で、最大可能電界Emax(たとえば、絶縁破壊電界)によって制限される場合には、Wmaxは、以下の方程式に従う。
【0125】
【数32】
したがってこの実施形態においては、Wmaxは、lの増加とともに直線的に増加する。加えて、Wmaxの体積密度WmaxVは、lに依存しない。その理由は以下の通りである。
【0126】
【数33】
したがって、Wを一定に保つためには、lの増加とともにEを増加させる。したがって、コロナ放電がまったく存在しないようにEを小さくすることができる(たとえば、ポリマー基板および電極絶縁を用いる場合には有益である)。
【0127】
実験的に、HF除氷器システム150を、−12℃において、種々の加熱パワーおよび電圧で、また電極の寸法がa=b=75μm(たとえば、5μmのポリイミド膜たとえばカプトン(登録商標)ポリイミド「カプトン」をコーティングした場合)で、動作させた。以下の結果が得られた。
【0128】
【数34】
新しい寸法a=b=500μm(たとえば、mmの構造周期)を課せば、新しい構造周期と以前の構造周期との比の平方根としてパワー成長を維持する電圧は、以下のような結果になる。
【0129】
【数35】
HF除氷器システム150の利点の1つは、その回路を、曲面上であってもフォトリソグラフィを用いずに製造できるということである。また電界強度を小さくするレートを、実質的にlの増加と同じにすることができる。
【0130】
(HF除氷器システムで用いるためのインターデジタル回路)
以下に、HF除氷器システム内の加熱素子として用いても良いインターデジタル回路の実施形態および分析を示す。加熱素子は、HF−ACパワーをAC電源から受け取るように構成しても良く、また対象物の表面−氷間の界面で氷の界面層を融解するために用いても良い。氷の界面層が融解したすぐに、氷を除去または再凍結しても良いが、これは、以下のセクション「摩擦係数操作の方法」で後述されるように所望する応用例に依存する。
【0131】
図14に、一実施形態による図13のHF除氷器システム140の分析を示す。この分析では、改善されたa/b比が所定のlに対して決定される。たとえば、
【0132】
【数36】
ここでG’はセル当たりのコンダクタンスである。コンダクタンスがキャパシタンスに比例するため、G’はセル当たりキャパシタンスに以下のように比例する。
【0133】
【数37】
方程式14−2から、加熱パワーを以下のように決定することができる。
【0134】
【数38】
ここで0≦a≦lである。図14のグラフに示すように、Eを一定に保つと、最大加熱パワーWmaxに、a/l≒0.576である点159で到達する(たとえば、l=a+bであるので近似a≒bが比較的良好である)。加熱パワーWは、a=b=0.5lであるならば、最大加熱パワーWmaxのほぼ97%である。また図14のグラフでは、比10%および90%が個々の点157および158で例示されており、これらの点では、加熱パワーWが最大加熱パワーWmaxの17%および43%である。対照的に、電圧が一定に維持されると、電極(たとえば、寸法「b」)が広くなるにつれて、加熱パワーの量が増加する。
【0135】
図15に、一実施形態による典型的なインターデジタル回路の組立図160−163を示す。図15のインターデジタル回路は、除氷器システム、たとえば前述したHF除氷器システムおよびパルス除氷器システムで、用いても良い。図160では、インターデジタル回路を最初に、厚いアルミニウムホイル171の一方の側を硬質陽極酸化することによって(たとえば、「硬質陽極酸化層172」)、組み立てる。図161では、硬質陽極酸化されたアルミニウムホイル171/172を、ポリマー基板174に粘着剤173を用いて物理的に取り付ける。図162に示すように、硬質陽極酸化されたアルミニウムホイル171/172をポリマー基板174に取り付けたらすぐに、アルミニウムホイル171を全体の構造からエッチングおよび/またはパテニングすることによって(たとえば、パテニングされたエッジ175)、電極を形成する。その後、デザインの選択の問題として、構造を曲げるか、または望ましい形状にはめ込む。図163に示すように、アルミニウムホイル171の残りの露出面を硬質陽極酸化して、形成された電極を封入するとともに、曲げによって生じた硬質陽極酸化層172のクラックを直す。
【0136】
図160−163に、インターデジタル回路を形成する方法の1つを示したが、インターデジタル回路を形成する他の方法も本発明の範囲内である。他の方法の例としては、銅ホイルをエッチングおよび/またはパテニングして銅電極を形成し、銅電極をカプトン基板に取り付けることが挙げられる。図16に、カプトン基板上の銅インターデジタル回路の一例を示す。
【0137】
図16には、一実施形態による典型的なインターデジタル回路180の2つの図を示す。インターデジタル回路180は、銅陽極181、インターデジタル電極182、銅陰極183、およびカプトン基板184を含んでいる。インターデジタル回路180は、図15で説明した仕方に類似する仕方で形成しても良い。図185に、インターデジタル回路180の等角投影図を示し、図186に、上から見た図を示す。図186に示すように、インターデジタル回路180のピッチによって、インターデジタル電極182の電極間の遠位の間隔が規定される。またインターデジタル回路180のピッチによって、銅陽極181の電極間の遠位の間隔を規定しても良い。インターデジタル回路180のずらしによって、インターデジタル電極182の電極と銅陽極181の電極との間の間隔が規定される。インターデジタル回路180の幅によって、陽極181の電極の幅寸法が規定される。またインターデジタル回路180の幅によって、インターデジタル電極182の電極の幅寸法を規定しても良い。
【0138】
インターデジタル回路180を用いて、対象物と氷および/または雪との間の摩擦を、電力をインターデジタル電極182に加えることによって、変更しても良い。たとえば、図1の方程式に従って、DC電力をインターデジタル電極182に加えても良い。他の例では、AC電力をインターデジタル電極182に加えても良い。
【0139】
一実施形態においては、インターデジタル回路180は、温度変化による対象物と氷または雪との間の自然な摩擦変化と相まって、対象物表面−氷間の界面の摩擦係数を変更する。たとえば、鋼製の対象物「スライダ」が氷上をスライドして速度が3.14m/秒の場合に、氷上のスライダの摩擦係数は、−15℃での0.025から−1℃での0.01へと降下する。スライダと直接接触する氷の温度を上げるために、インターデジタル回路180は、HF電界を用いて直接氷を加熱することもできるし、またはスライダの表面を加熱することもできる。
【0140】
インターデジタル回路180を、通常氷および雪と接触しているスライダ表面に取り付けても良い。ACまたはDC電力のいずれかをインターデジタル回路180に加えて、スライダの表面を加熱しても良い。たとえば、図1の方程式に従って電力をスライダの表面に加えることによって、氷および/または表面を加熱しても良いし、またスライダ表面と氷との間の摩擦係数を変えても良い。
【0141】
一実施形態においては、HFのAC電力をインターデジタル回路180に加えて、氷を直接加熱する。HFパワーをインターデジタル回路180の電極に加えると、図13の電界線153などの電界線が、氷の界面層内に浸透して、ジュールの電気加熱が氷内に、以下のように発生する。
【0142】
(方程式16−1)Wh=σi・E2
ここで、Whは、立方メートルあたりのワットで示した加熱パワーであり、σiは氷または雪の伝導率であり、Eは電界強度である。電界が氷または雪に浸透する深さは、インターデジタル回路180の電極間の距離d、またはピッチ、とほぼ同じである。したがって、加熱パワーWhは以下の方程式に従う。
【0143】
【数39】
ここでVはrmsAC電圧である。方程式16−2のパワーWhは、単位体積当たりの電気パワーに関係しているが、氷/スライダ界面の平方メートル当たりのパワーWsの方が重要である。平方メートル当たりのパワーWsを見積もるために、パワーWhに加熱層の厚み、ほぼd(すでに示した)をかける。したがって、平方メートル当たりのパワーWsは、以下の方程式のようになる。
【0144】
【数40】
電界強度Ebの空気の電気絶縁破壊によって制限されることが考えられる。すなわち、
【0145】
【数41】
方程式16−3および16−4から、スライダ単位領域当たりで測定したHF電圧の最大加熱パワーに対する関係が、以下のように導き出される。
【0146】
【数42】
−10℃での実質的に純粋な氷の場合、高周波数(たとえば、10kHz超)での氷の伝導率は、約2・10−5S/mである。伝導率σiの値、電界強度Eb、および距離D≒0.25mm(たとえば、HF除氷器内の典型的な寸法)を方程式16−5に入力して、HF−加熱パワーに対する最大限度が定められる。
【0147】
(方程式16−6)Ws≦45kW/m2。
【0148】
氷の界面層の温度をΔTだけ上げるために用いられる、より現実的なパワーは、以下の方程式に従って計算することができる。
【0149】
【数43】
ここでvはスライダ速度、ρは氷または雪の密度、aはスライダ幅、Cは氷の比熱容量、lDは氷または雪内の熱拡散長である。熱拡散長lDは、以下の形である。
【0150】
【数44】
ここでtは、氷の特定の位置がスライダと接触している時間で、以下の形である。
【0151】
【数45】
ここでLはスライダの長さであり、Dは熱拡散係数であって以下の形である。
【0152】
【数46】
ここでλは、氷または雪の熱伝導率である。方程式16−8、16−9および16−10を方程式16−7へ代入することによって、氷とスライダとの間の摩擦係数変更するためにの以下のパワー見積もり値が得られる。
【0153】
【数47】
実際的な数値例として、全体の幅がほぼa=10−1mで長さがL=1.5mである2つのスキーでインターデジタル回路180を用いて、スキーと雪との間の摩擦係数を変更する。スキーは速度v=10m/秒で移動していると仮定する。雪の密度ρは、以下の通りである。
【0154】
【数48】
雪の界面層の温度変化ΔTは、以下の通りである。
【0155】
(方程式16−13)ΔT=1℃。
【0156】
雪の比熱容量Cは、以下の通りである。
【0157】
【数49】
これらの値から、必要なパワーの見積もり値Wspeedを以下のように計算することができる。
【0158】
(方程式16−15)Wspeed=134W。
【0159】
実際に雪と常に接触しているのは、スキーのほんの一部だけであると考えられるため、必要なパワーの見積もり値Wspeedは、さらに小さくなって、以下のように、Wspeedの一部、またはWspeed−fractionとなる可能性がある。
【0160】
【数50】
ここでWはスキーヤの重量であり、Hは雪の圧縮強度をパスカル(Pa)で示したものである。スキーヤが重く(たとえば、100kg)、H=105Paの場合、Wspeed−fractionは、以下のように計算することができる。
【0161】
【数51】
したがって、摩擦係数を変更するのに必要なHFパワーは、以下の通りである。
【0162】
【数52】
この実施形態では、インターデジタル回路180の応用例の1つを示しているが(たとえば、スキーへの応用)、当業者であれば、インターデジタル回路180を用いて氷と他の対象物(たとえば、スノーボードおよびスノー・シューズを含む)の表面との間の摩擦係数を変更しても良いことを、理解するであろう。
【0163】
(HF除氷器システム分析)
次に、種々のHF除氷器システムのある動作特性について分析し、説明する。以下の典型的な分析では、ある成分値を変化させて、種々の条件を例示する。たとえば、環境条件を変える、および/または熱伝達方法を変えるなどである。
【0164】
図17に、氷伝導率および氷誘電率の周波数依存性を例示するグラフ190を示す。グラフ190では、Y軸193は誘電率εを表わし、X軸194は周波数を表わしている。またグラフ190では、図16のインターデジタル回路180インターデジタル回路用のHF加熱パワーがまとめられている。
【0165】
電気伝導性材料を電界E内に置くと、立方メートル当たりの熱密度Wは以下のように発生する。
【0166】
(方程式17−1)W=σE2
ここで、σは材料の電気伝導率(たとえば、氷の伝導率)である。方程式17−1から明らかなように、熱密度は伝導率に直線的に比例し、電界強度に二次関数的に依存する。したがって、加熱レートを上げるためには、すなわち除氷時間を短くするためには、氷伝導率および/または電界強度を上げれば良い。
【0167】
氷の電気伝導率は、温度、周波数、および氷中の不純物に依存する。氷と対象物の表面との間の摩擦係数を変更するために用いるACパワーの周波数を調整することによって、氷伝導率を例示的に上げる。したがって、氷伝導率の周波数依存性は、以下のように書いても良い。
【0168】
【数53】
ここでσSおよびσ∞は、それぞれ氷の静的およびHF伝導率であり、ωはACパワーの径方向周波数であり、τDは氷の誘電緩和時間である。
【0169】
グラフ190では、典型的な温度環境である約−10.1℃において周波数が増加すると、伝導率が変化する。たとえば、曲線191では周波数が増加すると伝導率は増加するが、曲線192では周波数が増加すると伝導率は減少する。したがって、曲線191および192は、HF加熱パワーの周波数を調整することで氷−対象物界面の伝導率を変える異なる方法を例示している。
【0170】
グラフ190では、−10.1℃において、氷の電気伝導率は、ほぼ10kHzにて約0.1S/mである。氷の伝導率は、温度が下がると急激に減衰する。すなわち、−30℃での氷の伝導率は、−10℃での氷の伝導率よりも、約1桁小さい。
【0171】
HF除氷器加熱素子、たとえば図16のインターデジタル回路180の寸法は、氷の伝導率および所望の加熱レートに依存することが考えられる。すなわち、平方メートル当たりの熱W’を氷の界面層の厚み内で、印加電圧Vを用いて電極間の距離dで発生するときには、電界強度Eは以下の方程式に従う。
【0172】
(方程式17−3)E=V/d。
【0173】
したがって平方メートル当たりの熱W’は、以下の式に従う。
【0174】
(方程式17−4)W’=W・d。
【0175】
方程式17−1〜17−4を組み合わせた後に、平方メートル当たりの加熱パワーが、以下のように導き出される。
【0176】
(方程式17−5)W’=σ・V2/d。
【0177】
一例として、乗用車ウィンドシールドに対する典型的な加熱密度は、約1kW/m2であり、典型的な印加電圧Vは約100ボルトである。これらの値および氷伝導率に対する値を方程式17−5で用いることによって、電極のピッチに対して約0.1mmの値が得られる。この例では、電極ピッチに対する典型的な見積もり値を示しているが、他の実施形態では異なっていても良い。たとえば、氷伝導率および電極寸法は、電極を覆う保護層の厚みおよび電気特性に依存しても良い。
【0178】
図18に、一実施形態によるHF除氷器を特徴づける典型的な回路200を示す。回路200は、AC電源201、キャパシタ203、キャパシタ204、抵抗器202、および抵抗器205を有している。抵抗器202は、電源201とキャパシタ203とに結合し、電源201の内部抵抗を表わす抵抗Rsを有している。抵抗器205は、キャパシタ204に並列に結合し、氷の抵抗を表わす抵抗Riを有している。キャパシタ204は、氷の層のキャパシタンスを表わすキャパシタンスCiを有している。キャパシタ203は、抵抗器205とキャパシタ204とに結合され、除氷電極(たとえば図12に示して説明したコイル141)上の保護誘電体層のキャパシタンスを表わすキャパシタンスCdを有している。回路200は、本発明のある除氷システムをシミュレートし分析するのに適した電気回路図を表わしている。
【0179】
図19〜23では、一実施形態による回路200のあるテスト分析をグラフで例示しており、ここでは、回路200において、誘電体層が電極を包んでいる(たとえば、図16のインターデジタル回路180などの回路において、誘電体層が電極を包んでいる)。この実施形態においては、回路200の特徴は、以下の表19−1のようであっても良い。
【0180】
(表19−1)
【0181】
【数54】
【0182】
【数55】
【0183】
【数56】
ここでε0は自由空間での誘電率、fは増分周波数、ωは径方向周波数でfの関数、Tは増分周囲温度(K)、τDは氷の誘電緩和時間、εSは氷の静的誘電率、εinfは氷の高周波数誘電率、σinfは氷の高周波数伝導率、σ0は氷の静的伝導率、εは氷誘電率(たとえば、周波数fおよび温度Tの関数)、σは氷伝導率(たとえば、周波数fおよび温度Tの関数)、dは保護誘電体層の厚み、εdは保護誘電体層lの誘電率、Vは電圧、Ziは氷のインピーダンス(たとえば、周波数f、温度T、および距離dの関数)、Z(f、T、d)は、氷が電極を覆っている場合の総回路インピーダンス(たとえば、周波数f、温度T、および距離dの関数)、Iは印加電流(たとえば、周波数f、温度T、および距離dの関数)、Piは、氷を加熱するために送られるパワー(たとえば、周波数f、温度T、および距離dの関数)、εWは水に対する誘電率、σWは水に対する伝導率、RWは水の抵抗、CWは水のキャパシタンス、Z(T、d)は、氷が電極を覆っている場合の総回路インピーダンス(たとえば、周波数fおよび距離dの関数)、ZWは水に対するインピーダンス(たとえば、周波数fおよび距離dの関数)、IWは印加電流(たとえば、周波数fおよび距離dの関数)、およびPWは水に送られるパワー(たとえば、周波数fおよび距離dの関数)である。電力を、以下の場合の両方に対して計算した。すなわち、氷が電極を覆っている場合、および氷が融解して水が電極と接触している場合である。
【0184】
図19では、加熱パワーの、電極上の誘電体コーティングの厚みに対する依存性を、加熱パワーが20℃の蒸留水中で発生した場合(すなわち、プロット210)、および−10℃の氷中で発生した場合(すなわちプロット211)について例示する。図19では、Y軸213は、m2当たりの加熱パワーを表わし、およびX軸212は、誘電体コーティングの厚みをメートルで表わす。この実施形態においては、コーティングはアルミナ・コーティングであった。ACパワーの周波数は、電圧が約500ボルトrmsの場合に約20kHzであった。コーティング厚みが約25μmの場合に、水および氷に対する加熱パワーはほぼ等しい。
【0185】
図20では、加熱パワーの、周波数に対する依存性を、加熱パワーが20℃の蒸留水中で発生した場合(すなわち、プロット220)、および−10℃の氷中で発生した場合(すなわちプロット221)について例示する。図20では、Y軸223は加熱パワーをワット/m2で表わし、X軸222は周波数をHzで表わす。周波数が約20kHzの場合に、水および氷に対する個々の加熱パワーは等しい。氷が融解する除氷器上のコールドまたはホット・パッチを防ぐために、水および氷に対する加熱パワーをマッチングさせることは、有用なことである。
【0186】
図21では、加熱パワーの、温度に対する依存性を、加熱パワーが水中で発生した場合について例示する(たとえば、プロット230)。図21では、Y軸は231は加熱パワーをワット/m2で表わし、X軸232は温度をKで表わす。したがって、HF除氷器の電極上の誘電体コーティングを用いて、除氷器性能を調整しても良い。
【0187】
図22では、熱伝達係数(ワット/m2・K)の空気速度(m/秒)への依存性を例示する(すなわち、プロット240)。図22では、Y軸241は熱伝達係数hを表わし、X軸242は速度vを表わす。図22は、平坦なウィンドシールド上の除氷および/または防氷に対するHFパワーの計算を決定する際に役立つことが考えられる。図22で用いるウィンドシールドのサイズは0.5mである。例示した実施形態においては、回路200は、ウィンドシールドに適用する際に、除氷モードおよび防氷モードなどの異なるモードを有するHF除氷器として動作する。表19−2に、乗用車ウィンドシールドに対する対流熱交換係数を計算する際に用いるマスキャド・ファイルを示す。
【0188】
(表19−2)
【0189】
【数57】
ここで、vは空気速度、Lはウィンドシールド表面の長さ、Reはレイノルズ数の範囲105〜107、h(v、L)は熱伝達係数(たとえば、電圧およびLの関数)、kは空気熱伝導率、およびPrは空気プラントル数、νは空気運動粘度係数である。この実施形態においては、約30m/秒および長さが約0.5mの場合の熱伝達係数h(v、L)は、89.389W/m2Kであった。したがって図22は、熱伝達係数h(v、L)の、空気速度に対する関係をグラフで例示している(プロット240)。
【0190】
図23では、回路200の最小限のHFパワーWminの、外部温度T(°)に対する依存性を、車両速度が10m/秒の場合(プロット252)、20m/秒場合(プロット251)、および30m/秒の場合(プロット250)ついて、例示している。図23では、Y軸253は最小限のHFパワーWmin(ワット/m2)を表わし、X軸254は温度Tを表わす。以下の表19−3(マスキャド・ファイル)に、ウィンドシールドの外面を約1℃に維持するための最小限の加熱パワーWmin示す。
【0191】
(表19−3)
【0192】
【数58】
ここで、Sはウィンドシールド領域である。
【0193】
すなわち、プロット250、251、および252は、回路200を用いて車両の速度vに従ってパワーを印加することについて決定を下す際に、役立つことが考えられる。
【0194】
図24〜26では、図18の回路200の他の分析をグラフで例示しており、ここでは、回路200において、誘電体層が電極を包んでいる(たとえば、図16のインターデジタル回路180などの回路において、誘電体層が電極を包んでいる)。この実施形態においては、回路200の特徴は、以下の表24−1(マスキャド・ファイル)のようであっても良い。
【0195】
(表24−1)
【0196】
【数59】
【0197】
【数60】
ここで、変数は、表19−1で見られるものと同じであるが、値は異なっている。たとえば、σWは、水に対する伝導率であって、同じ値5x10−4S/mである。
【0198】
図24〜26では、加熱パワーの依存性を、加熱パワーが20℃の蒸留水中で発生した場合(個々の図24、25、26のプロット261、270、281)、および−10℃の氷中で発生した場合(個々の図24、25、26のプロット260、271、280)についてグラフで例示しており、図ごとに誘電体層の厚みが異なっている。すなわち、10−5m(図24)、10−6m(図25)、2・10−5m(図26)である。図24、25および26に示した加熱パワーは、ACパワーの周波数に依存している。周波数が増加すると、氷の界面層を融解するために用いられる印加パワーの量は横ばいになる。AC電圧は約500vであった。図24から示されるように、コーティング厚みが約10μm(10−5m)の場合には、水および氷に対するそれぞれの加熱パワーは実質的に等しい。
【0199】
図27〜29では、回路200のあるテスト分析をグラフで示しており、ここでは、回路200をスライダ(たとえば後で詳述するようなもの)に適用している。この実施形態においては、スライダの下での雪温度の変化を考慮に入れている。回路200の特徴は、以下の表26−1(マスキャド・ファイル)のようであっても良い。
【0200】
(表27−1)
【0201】
【数61】
ここでpは雪密度、xは、スライダから雪内部への距離、Cは、雪の熱容量、λは雪の熱伝導係数、Wは加熱パワー、Dは雪の熱拡散係数、tは、パワーを加える継続時間、aはスライダ幅、Lはスライダの長さ、Vはスライダ速度、yは積分変数、Wspeedは、スライダのスピードに対する加熱パワー、およびΔは過熱温度Δである。
【0202】
図27に、スライダからの距離に対する雪過熱温度Δ(たとえば、摂氏温度℃)の依存性を例示する。図27では、Y軸295は過熱温度Δ(℃)を表わし、X軸294はスライダからの距離(メートル)を表わす。加熱パワーWが約1キロ・ワット/m2であるとして、プロット290、291、292、および293は、加熱パルスのおおよその継続時間がt=0.1秒、0.2秒、0.5秒、および1秒の場合に対する温度依存性を、それぞれ例示する。図28に、HFパワーとして密度1000ワット/m2を加えたときの、雪スライダ界面温度の、時間に対する依存性(プロット300)を例示する。図28では、Y軸301は過熱温度D(℃)を表わし、X軸302は時間(秒)を表わす。
【0203】
図29に、スライダが約30m/秒の速度vで移動しているときに、界面温度を1℃だけ上げるのに必要な加熱パワーを例示する。図29では、Y軸311は加熱パワーWspeedを表わし、X軸312は速度vを表わす。この例では、スライダが約5m/秒で移動する場合に、加熱パワーは約100ワットである。加熱パワーWspeedが、速度vに対してプロットされている(プロット310)。
【0204】
図30〜35に、1つの除氷器システムの対流を通しての熱伝達、および1つのHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を例示するグラフを示す。この例では、定常解(たとえば、一定パワー)を典型的に特徴づけている。図30に、熱伝達係数hcの、空気速度に対する依存性(プロット320)を、円筒形のエアロホイル(航空機翼の前縁)を仮定した場合について示す。図30では、Y軸321は熱伝達係数hcを表わし、X軸322は速度vを表わす。エアロホイルに対する熱伝達係数hcは、以下の表30−1にしたがって計算しても良い。
【0205】
(表30−1)(マスキャド・ファイル)
【0206】
【数62】
ここでvは空気速度であり、Dはエアロホイル直径である。レイノルズ数として約1.9x105を用いた場合に、熱伝達係数hcのおおよそ半分が、エアロホイルの前方セクションに起因すると考えられる。
【0207】
一例では、熱伝達係数hcとして約165ワット/m2KをHF除氷器で用いた場合に、パワーWとして平方メートル当たり約4.5キロ・ワットが生成される。除氷器には、厚みdで熱伝導性係数がλdのポリマー層が含まれている。氷が除氷器上に、厚みLで成長する。氷の熱伝導係数はλであり、氷の加熱される界面層の厚みは、ほぼ1つの電極間間隔または約0.25mmである。氷の界面層の定常状態での過熱温度であるΔ=Ti−Ta(ここでTiは界面温度であり、Taは周囲温度である)を、以下の表30−2(マスキャド・ファイル)に従って計算しても良い。
【0208】
(表30−2)
【0209】
【数63】
図31に、定常状態(定常解)の過熱Δ(℃)の、氷厚み(メートル)に対する依存性を示す。図31では、Y軸335は過熱dを表わし、X軸336は厚みLを表わす。プロット330では、定常状態の過熱(℃)の、氷厚み(メートル)に対する依存性を、理論的に完全な絶縁層を除氷器とエアロホイルとの間に仮定した場合について示し、一方でプロット331では、2mm厚みのテフロン(登録商標)膜が除氷器とエアロホイルとの間にある場合に対する依存性を示す。除氷性能は、厚みがほぼ1mmを超えたとき(理論的に完全な絶縁層の場合に点333、2mm厚みのテフロン(登録商標)膜の場合に点334)に、最大となる。
【0210】
図32に、定常状態過熱Δ(℃)の、電極サイズ(メートル)に対する依存性を(プロット340)、完全な絶縁層および1cm厚みの氷を仮定した場合について示す。図32では、Y軸341は過熱Δを表わし、X軸342は電極サイズlを表わす。この例では、氷の界面層上でバブリングが見られる場合がある。バブリングは、氷の気化(たとえば蒸気)の結果であり、110℃超によって過熱された証拠である。
【0211】
動作環境で用いたときに、除氷器の性能は、研究室環境で達成される性能よりも良好であることが考えられる。たとえば、エアロホイル上で成長している大気の氷は、物理的特性が固体氷の物理的特性とは異なっている。大気の氷には、未凍結の水および/または気泡が含まれている可能性がある。大気の氷に対するこれらの付加物によって、氷の熱伝導性および密度が下がることが考えられる。たとえば、水の熱伝導性はほぼ0.56W/mKであるのに対し、固体氷の熱伝導性はほぼ2.22W/mKである。氷の界面層(たとえば、除氷器に隣接する氷の層)は、残りの氷よりも温度が高く、また水を含んでいる場合がある。
【0212】
熱交換の除氷器を運転環境条件で用いた場合のモデリングは、氷の熱伝導係数λを約0.5W/mKと2.22W/mKとの間の数であると概算することによって、行なっても良い。一例を、以下の表30−3に従って計算する。
【0213】
(表30−3)
【0214】
【数64】
図33に、定常状態(定常解)の過熱Δ(℃)の、氷厚み(メートル)への依存性を示す。図33では、Y軸355は過熱Δを表わし、X軸356は厚みLを表わす。プロット350では、定常状態の過熱(℃)の、氷厚み(メートル)への依存性を、理論的に完全な絶縁層を除氷器とエアロホイルと間に仮定した場合について示し、一方でプロット351では、2mm厚みのテフロン(登録商標)膜が除氷器とエアロホイルとの間にある場合に対する依存性を示す。除氷性能は、氷厚みがほぼ1mmを超えたとき(理論的に完全な絶縁層の場合に点352、2mm厚みのテフロン(登録商標)膜の場合に点353)に最大となる。
【0215】
不均一な電力パワー分布が除氷電極付近に存在することによって、氷の界面層のバブリングが生じる場合もある。たとえば、電極表面の局所的なパワー密度は、電界強度の変動が原因で、平均的なパワーを約1桁だけ超す可能性がある。したがって、パワーが平均的なパワーを超える場所で電極が氷の界面層を加熱する速度は、他の場所で蒸気を発生させるために加熱する速度よりも速いことが考えられる。
【0216】
時間に依存する解の結果は、定常状態の解の結果と異なることが考えられる。たとえば、氷は熱拡散係数の小さい材料であるので、HFパワーが氷の界面層へ加えられたときに、「熱波」が氷の中を伝搬する。したがって、氷の薄い層を、氷の熱絶縁層と考えても良い。したがって、除氷器がパワーを加えるのは、主にその層のみであると考えられる。時間に依存する温度曲線Δ(x、t)(図4のプロット360、361、362、363)は、以下の表30−4に従って計算しても良い。
【0217】
(表30−4)(マスキャド・ファイル)
【0218】
【数65】
ここでρは氷密度、Cは氷の氷熱容量、λは氷の熱伝導係数、xはヒータからの距離、Wは平方メートル当たりの印加パワー、Dは熱拡散係数、およびtは、パワーを印加する(たとえば、熱パルスとして)継続時間である。図34に、パワーWとして約4.5キロ・ワット/m2を、固体氷、未凍結水、および気泡からなる大気の氷の混合物(熱伝導係数λが1W/m・K)に、200秒、100秒、25秒、および5秒の時間でそれぞれ加えた場合に対する、プロット360、361、362、および363を例示する。図34では、Y軸365は過熱Δを表わし、X軸366はヒータからの距離を表わす。
【0219】
界面温度(すなわち、氷の界面層の温度)の典型的な拡散時間τは、以下の表30−5に従って計算される。
【0220】
(表30−5)(マスキャド・ファイル)
【0221】
【数66】
図35に、界面温度が時間に依存する様子を例示するために、界面の過熱温度Δ(℃)の、時間に対する依存性を示す。図35では、Y軸371は過熱Δを表わし、X軸372は時間を表わす。短パルスの加熱を加えた場合に、熱エネルギーを最小限にして、かつ依然として氷の界面層を融解するようにすることができる。たとえば、熱エネルギーを以下の表30−6に従って計算しても良い。
【0222】
(表30−6)(マスキャド・ファイル)
【0223】
【数67】
ここでtは、氷の界面層の所望の過熱温度Δに到達するのにかかる時間であり、Qは、その温度に到達するのに必要な総熱エネルギーである。図1の場合と同様に、総熱エネルギーQは実質的に印加パワーWに反比例しており、パワー出力がより高い除氷器を用いることで、総電力が節約されることが考えられる。
【0224】
(サーマル・トランスファ除氷器システム)
以下の実施形態においては、サーマル・トランスファ除氷器システムについて説明する。サーマル・トランスファ除氷器システムは、対象物の表面から氷を除去するために用いても良い。一部の実施形態においては、以下のシステムを用いて、氷の界面層を融解し、また対象物表面と氷の界面の摩擦係数を変更しても良い。一例では、このようなサーマル・トランスファ除氷器システムが、熱エネルギーを貯蔵して、熱エネルギーを加熱源から加熱素子に、断続的に伝達(または加熱供給)する。
【0225】
図36に、一実施形態による1つのサーマル・トランスファ除氷器システム460を示す。サーマル・トランスファ除氷器システム460を、2つの状態、460Aおよび460Bで例示する。サーマル・トランスファ除氷器システム460は、電源464、断熱材462、加熱素子466、メンブレン470、およびメンブレンバルブ468を含んでいる。サーマル・トランスファ除氷器システム460は、氷472を、航空機、航空機翼、タイヤ、自動車ウィンドシールド、ボート、航空機、道路、橋、歩道、冷凍機、冷蔵庫、建造物、滑走路、および窓などの対象物の表面(たとえば、メンブレン470の外面471など)から除去するように構成されている。サーマル・トランスファ除氷器システム460は熱貯蔵器となっていて、熱が貯蔵されたらすぐにそれを熱パルスとして氷−対象物界面に、必要に応じて加えるようになっていても良い。電源464には、スイッチング電源、バッテリ、キャパシタ、フライホイール、および/または高電圧電源が含まれていても良い。キャパシタは、スーパーキャパシタまたはウルトラキャパシタであっても良い。
【0226】
状態460Aでは、メンブレン470は、メンブレンバルブ468を通るガスによって膨張されている。典型的なガスには、空気、または熱絶縁特性を有する他のガスが含まれていても良い。パワーを加熱素子466へ加えると、パワーはある大きさの熱エネルギーに変換されて、加熱素子466に貯蔵される。状態460Bに示すように、加熱素子466に貯蔵された熱エネルギーは界面層473へ、メンブレン470を収縮させることによって、伝達される。メンブレン470が収縮されるときに、熱エネルギーが加熱素子466から界面層473へ伝達されて界面層473を融解し、その結果、氷472が除去される。一実施形態においては、状態460Bは、氷472の界面層を融解するのに必要な間だけ維持される。
【0227】
図37に、一実施形態による1つのサーマル・トランスファ除氷器システム480を示す。サーマル・トランスファ除氷器システム480を、2つの状態、480Aおよび480Bで例示する。サーマル・トランスファ除氷器システム480には、電源484、断熱材486、および加熱素子482が含まれている。サーマル・トランスファ除氷器システム480は、氷492を、対象物493の表面491から除去するように構成されている。対象物493は、本明細書で説明した対象物の種類であっても良い。サーマル・トランスファ除氷器システム480は熱貯蔵器となっていて、熱が貯蔵されたらすぐにそれを熱パルスとして表面491での氷−対象物界面に、必要に応じて加えて、界面氷を融解するようになっていても良い。
【0228】
状態480Aでは、加熱素子482が、断熱材486を「サンドイッチする」2つの層482Aおよび482Bとして示されている。断熱材486は、加熱素子層482Aと482Bとの間に移動可能に取り付けられていて、両方の層がスライドして互いと接触するようになっている。電源484は、ある大きさのパワーを加熱素子482に加える。電源484は、1つまたは複数の図36に記載した電源であっても良い。パワーを加熱素子482へ加えると、パワーが熱エネルギーに変換される。層482Aが層482Bと接触状態にあると、熱エネルギーが加熱素子482から氷492の界面層へ、界面層を融解するのに十分な量で伝達する。一実施形態においては、加熱素子層482Aと482Bとを互いに対して頻繁に動かすことで、断熱材486が周期的に層482Aと482Bとを熱的に絶縁して、熱エネルギーが表面491での氷の界面層に周期的に伝達されるようにする。熱エネルギーを周期的に伝達することで界面層に実現する平均のエネルギーによって、対象物に氷がない状態が維持される。
【0229】
加熱素子482は、伝導性材料で形成されていても良く、たとえば金属、金属合金ホイル、誘電体基板上の薄い金属層、基板上の薄い金属酸化物層、伝導性ポリマー膜、伝導性ペイント、伝導性粘着剤、ワイヤー・メッシュおよび伝導性繊維などである。透明の導体の例としては、Sn02、ITO、TiN、およびZnOが挙げられる。伝導性繊維の例としては、カーボン・ファイバが挙げられる。
【0230】
図38に、一実施形態による1つのサーマル・トランスファ除氷器システム500を示す。熱エネルギー伝達除氷器500には、電源504、加熱素子502、水ポンプ508、タンク506、およびチューブ510が含まれている。サーマル・トランスファ除氷器システム500は、氷512を対象物の表面511から除去するように構成されている。サーマル・トランスファ除氷器システム500は、熱貯蔵器として動作して、熱が貯蔵されたらすぐにそれを熱パルスとして表面511での氷−対象物界面に加えることができるようになっていても良い。
【0231】
電源504は、パワーを加熱素子502へ加える。電源504は、1つまたは複数の図36に記載した電源であっても良い。パワーを加熱素子502へ加えると、パワーが熱エネルギーに変換される。加熱素子502は、タンク506内の熱伝導性液体の温度を上げる。熱伝導性液体には、水またはいくつかの他の熱伝導性液体が含まれていても良い。熱伝導性液体を、チューブ510を通して、ポンプ508によってポンピングする。熱伝導性液体がチューブ510内へポンピングされると、熱エネルギーが表面511での氷512の界面層へ伝達される。熱エネルギーが界面層へ伝達されると、氷512の付着が、表面511から剥離される。一実施形態においては、熱伝導性液体が頻繁にチューブ510を通してポンプ508によってポンピングされて、熱エネルギーが界面層に実質的に周期的に伝達されることで、界面に熱エネルギーが供給されてこのエネルギーが平均化され、対象物から氷がない状態が維持される。
【0232】
図39に、パルス除氷器システム520を示す。システム520は、図37および38のサーマル・トランスファ除氷器システムと、以前に説明したシステム(たとえば、図1のシステム)との間の違いを対照させるために示している。この実施形態においては、氷528は例示的に、表面531に、表面531に隣接する対象物−氷界面において、付着している。パルス除氷器システム520には、電源524、1つまたは複数の加熱素子526、ならびに層522Aおよび522Bが含まれている。パルス除氷器システム520は、氷528を、層522Bの表面531から除去するように構成されている。たとえば層522Bは、除氷すべき対象物、たとえばウィンドシールド、である。
【0233】
加熱素子526は、層522B内に埋め込まれ、また電源524に電気的に接続されて、パワーを電源524から受け取る。一例では、層522Aおよび522Bは、ウィンドシールド内でまたはウィンドシールドとして用いるための実質的に透明な材料で形成されている。電源524からパワーが加熱素子526(透明であっても良い)へ送られると、熱エネルギーが加熱素子526から放射されて、層522Bの表面531に対する氷528の付着が剥離される。一実施形態においては、電源524からパワーが加熱素子526へ、図1の方程式に従って送られる。電源524は、たとえば、1つまたは複数の図36に記載した電源であっても良い。
【0234】
したがってパワーを加熱素子526へ加えると、パワーがある大きさの熱エネルギーへ変換される。熱エネルギーが、表面531での氷の界面層528へ伝達されて、表面531上への氷528の付着が剥離される。一実施形態においては、パワーが頻繁に加熱素子526に律動的に送られて、熱エネルギーが界面層に実質的に周期的に、方程式1−1に記載されるような周期的な継続時間の間、伝達される。
【0235】
比較として、サーマル・トランスファ除氷器システムの電源(たとえば、図37および38でのそれぞれの電源484および504)から、パワーが加熱素子に送られ、次にこのパワーによって熱エネルギーが生成される。次に、サーマル・トランスファ除氷器システムは、熱エネルギーを、熱エネルギーとして氷−対象物の界面に加えられるまで、貯蔵する。
【0236】
パルス除氷器システム520の加熱素子526は、たとえば、金属、金属合金ホイル、誘電体基板上の薄い金属層、基板上の薄い金属酸化物層、実質的に透明の導体、伝導性ポリマー膜、伝導性ペイント、伝導性粘着剤、ワイヤー・メッシュおよび/または伝導性繊維で形成されていても良い。透明の導体の例としては、Sn02、ITO、TiN、およびZnOが挙げられる。伝導性繊維の例としては、カーボン・ファイバが挙げられる。また加熱素子526には、パワーを熱エネルギーへ変換するように構成された半導体デバイスが、含まれていても良い。複数の加熱素子を用いることによって、必要なエネルギー全体を、分割することまたは別個に決定することができる。たとえば、表面531のセグメント535が、その領域内の氷の界面層の融解に必要とするエネルギーは、表面531全体に対する氷の界面層を融解する場合と比べて、かなり小さい。したがって、氷528の付着を剥離するために瞬時に必要なエネルギーは、セグメントまたはセクションの全体に順次にパルス的に送って氷528を表面531全体から時間をかけて別個に剥離したときに、小さくなる。
【0237】
図40に、一実施形態による1つのサーマル・トランスファ除氷器システム540を示す。サーマル・トランスファ除氷器システム540には、熱伝導体542(たとえば、「ホット・プレート」)、誘電体プレート546、および加熱素子544(たとえば、薄い金属ホイル)が含まれている。サーマル・トランスファ除氷器システム540は、対象物上の氷545の界面層を、熱エネルギーをパルス状にして氷545へ送ることで融解するように構成されている。たとえば、サーマル・トランスファ除氷器システム540は、加熱パワーが加熱素子544に加えられたときに氷545の界面層が融解するように、対象物の表面に対して位置づけられていても良い。
【0238】
一実施形態においては、熱伝導体542によってパワーが熱エネルギーに変換される。熱エネルギーは熱伝導体542から加熱素子544へ、誘電体プレート546中の孔547を通して伝達される。一例では、熱伝導体542が振動して、熱伝導体542が加熱素子544に接触したときに、熱伝導体542から熱エネルギーが加熱素子544へ伝達されて、次にこの熱エネルギーが氷の界面層を融解するようにする。サーマル・トランスファ除氷器システム540の応用例に依存するが、氷の界面層を融解することは、対象物の表面から氷を除去し、表面上でのその形成を防ぎ、またはその付着強度を変更し、および氷と対象物との間の摩擦係数を変えることに、有用であると考えられる。
【0239】
一実施形態においては、サーマル・トランスファ除氷器システム540を、「パルス・ブレーキ」として用いる。この場合には、熱伝導体542が、スライダの底面(氷と接する)に取り付けられた加熱素子544に接触したときに、加熱パルスが熱伝導体542から加熱素子544へ伝達される。ブレーキングが必要なときには、熱伝導体542が加熱素子544に数ミリ秒の間、誘電体プレート546中の孔547を通して接触して、氷が融解する「ホット・スポット」が形成される。熱伝導体542を引っ込めた後、通常、融解スポットは数ミリ秒で凍結して、スライダ底面と氷との間に結合が生じる。
【0240】
パルス・ブレーキのパラメータの1つは、氷/雪が融解してそして再凍結するのにかかる時間である。界面の冷却が氷または雪とスライダ底面との間で行なわれた場合、その時間は、以下のように見積もっても良い。
【0241】
【数68】
ここで、Tmは氷の融解温度、Tは周囲温度、λは熱伝導性係数、ρは材料密度、およびcは材料の熱容量(添え字「snow」は氷および/または雪を示し、添え字「ski」はスライダ底面として用いられる材料を示す)、Wは平方メートル当たりのパワー、Qは、分散すべき熱エネルギー、およびSはスライダ底面領域である。
【0242】
図41に、図36の一実施形態により作製されテストされた1つのサーマル・トランスファ・システム560を示す。この実施形態においては、サーマル・トランスファ・システム560には、約6インチの直径および1mm厚みの2つのアルミニウム・ディスク562および563が含まれている。一実施形態においては、ディスク562および563の内面をラッピングおよびバフ仕上げして、光放射率を減らす。ディスク562および563の外面を、約15%の硫酸溶液中で陽極酸化して、厚みが約10μm〜12μmの酸化アルミニウム被膜を得る(硬質陽極酸化)。ディスク562および563を、プレキシガラス・リング569に、ゴム製Oリング570Bによって取り付ける。ディスク562および563をさらに、プレキシガラス・リング572に、したがってバルブ571に、ゴム製Oリング570Aによって取り付ける。
【0243】
またサーマル・トランスファ・システム560は、ディスク563に取り付けられた加熱素子565を含み、また電力を電源566から受け取って、パワーを熱エネルギーに変換するように構成されている。加熱素子565は、カプトン・ポリイミド基板568に封入されたカーボン・ホイルを含んでいる。熱電対564がディスク563に、加熱素子565内の孔579を通して、熱伝導性の接着剤によって取り付けられていても良い。この実施形態においては、熱電対564は、加熱素子565から熱がディスク563に伝達されたときに、ディスク562の温度を制御するように構成されている。一実施形態においては、電源566は、約20Vを供給するように構成されたDC電源である。
【0244】
真空ポンプがバルブ571に物理的に結合して、「低温」および「高温」ディスクを接触させ、熱エネルギーを高温ディスクから低温ディスクへ伝達しても良い。たとえば、電源566がパワーを加熱素子565へ供給するときに、加熱素子565がパワーを熱エネルギーへ変換して、そのエネルギーをディスク563へ伝達することによって、高温ディスクが形成される。真空ポンプが空気をチャンバ573から引いて、チャンバ573を潰し、そしてディスク562をディスク563と接触させる(たとえば、低温ディスク)。ディスク562がディスク563に接触したらすぐに、ディスク563の熱エネルギーがディスク562へ伝達する。熱エネルギーの伝達がもはや要求されないときには、真空ポンプによってチャンバ573を空気で膨張させて、ディスク562と563とを分離する。
【0245】
約−10℃において、および氷がディスク562およびサーマル・トランスファ・システム560上に垂直位置で成長している場合、ほぼ10〜25ワットのパワーが加熱素子565に加えられたときに、ディスク563が約20℃まで加熱される。真空ポンプが空気をチャンバ573から引いて、ディスク562および563が互いに接触するようにしたときに、氷577がディスク562から、たとえば重力によって、除去される。通常、空気がチャンバ573内で用いられるが、他の断熱ガスを代わりに、チャンバ573内で用いても良い。
【0246】
(サーマル・トランスファ除氷器システム分析)
以下の説明では、種々のサーマル・トランスファ除氷器システムを分析し、その動作特性を示す。たとえば、キャパシタンスが既知(たとえば、図18のCi)のある温度における氷などの種々の材料の特性を分析する。これらの分析では、成分値によって、種々の条件、たとえば環境条件および/または熱伝達方法などを例示する。
【0247】
図42−46に、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの典型的な分析を例示するグラフを示す。この例では、サーマル・トランスファ除氷器システムは、第1および第2の熱伝導体と、熱容量が等しい加熱素子とを有する。このシステムは、空気ギャップを介しての自然対流の熱交換Nuによって特徴づけることができる。すなわち、2つの熱伝導体が互いに接触したときに、加熱素子が第1の熱伝導体を加熱して、第2の熱伝導体の温度を約275.5Kにする。このようなシステムは、以下の表42−1によって特徴づけることができる(図41のディスク562、563間の空気の自然対流に対するヌッセルト数を計算する)。
【0248】
(表42−1)(マスキャド・ファイル)
【0249】
【数69】
ここで、Tsは基板材料(ディスク562)の温度、Thは加熱素子(ディスク563)の温度、υは空気運動粘度、Lはディスク562および563間の距離、gは重力加速度、β空気熱膨張係数、Prは空気プラントル数、Tmは氷融解温度、TSはディスク562の増分温度、Δは温度差、Raは空気レイリー数、Nu1、Nu2はヌッセルト数である。
【0250】
したがって図42(プロット580)に、ヌッセルト数の、外部温度(低温ディスク562)に対する依存性を示す。表42−2では、ディスク562および563間の自然対流熱伝達率が計算されている。
【0251】
(表42−2)(マスキャド・ファイル)
【0252】
【数70】
ここで、λaは空気の熱伝導性係数、Wc/2は、ヒータがディスク563をTsからThへ加熱しするときの、平均的な熱伝達率である。図42では、Y軸581は対流Nuを表わし、X軸582は基板材料の温度Tsを表わす。図43(プロット590)に、空気ギャップを通しての平均的な熱損失Wcを示す。図43では、Y軸591は対流熱伝達Wc/2、X軸592は基板材料の温度Tsを表わす。
【0253】
図44に、背面絶縁材(たとえば、第1の熱伝導体を支持する絶縁材、プロット600)を通しての熱伝達Winを例示する。この実施形態においては、絶縁材は、硬質ポリウレタン発泡体であり、厚みlが約0.025mで熱伝導性係数λaが約0.026である。ヒーティング・トランスファWinを、以下の表42−3に従って計算することができる(背面絶縁層を通しての熱損失)。
【0254】
(表42−3)(マスキャド・ファイル)
【0255】
【数71】
したがって、空気ギャップを通しての放射熱伝達WRは、以下の表42−4に従って計算しても良い(放射を通しての熱損失)。
【0256】
(表42−4)(マスキャド・ファイル)
【0257】
【数72】
ここで、εは、ディスク562および563エミッタンスのエミッタンスであり、σはステファン・ボルツマン定数である。表42−4から、放射熱伝達WRを、図44の温度Ts(TsおよびTmは前に定義済み)の関数としてプロットすることができる(プロット600)。図44では、Y軸601は放射熱伝達WRを表わし、X軸602は基板材料の温度TSを表わす。
【0258】
図45に、加熱素子からの平均的な総熱損失Wを例示する(プロット610)。図45では、Y軸611は平均的な総熱損失Wを表わし、X軸612は基板材料の温度TSを表わす。加熱素子の温度はTmとThとの間で反復するため、加熱素子と環境との間での平均的な温度差は、ほぼ(3/4)*(Th−Ts)である。平均的な総熱損失Wは、以下の表42−5に従って計算しても良い(環境に対する総熱損失)。
【0259】
(表42−5)(マスキャド・ファイル)
【0260】
【数73】
図46に、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムで用いられる電源からの平均的なパワーWmを例示する。図46では、Y軸623は平均的なパワーWmを表わし、X軸624は温度を表わす。平均的なパワーの結果を、3つの周囲コールド・プレート温度Tsの関数として表わす(プロット620、621および622)。加熱素子を基板材料の温度TSからThまで加熱するのに必要な熱エネルギーの総量Qを、2つの成分Q1およびQ2として計算する。Q1は、加熱素子の熱容量に起因する熱エネルギーであり、Q2はヒータから環境へトランスファされる熱エネルギー(システムからの総エネルギー損
失)である。熱エネルギーの総量Qは、以下の表42−6に従って計算しても良い。
【0261】
(表42−6)(マスキャド・ファイル)
【0262】
【数74】
ここで、dは加熱素子の厚み、tは、熱が交換される継続時間(たとえば熱パルスに対する)、Cは材料熱容量、λは熱伝導性係数、ρは材料密度(添え字「i」は氷および/または雪を示し、添え字「s」は基板材料、大抵はアルミニウム合金を示す)、TSは基板の温度、Thは加熱素子の温度、およびTmは氷の温度である。この例のサーマル・トランスファ除氷器システム(除氷は3分間(180秒)ごと)で用いられる電源からの平均的なパワーを、以下の表42−7に従って計算しても良い
(表42−7)(マスキャド・ファイル)
【0263】
【数75】
一例では、前述の特性を有する除氷器システムは、エアロホイル(たとえば、航空機翼)除氷器に対して有用である。このような除氷器システムは、1mm厚みのアルミニウム合金で形成することができ、小さいエアロホイルの前縁(すなわち、航空機翼の前方の露出部分)の後方に取り付けることができる。この例では、エアロホイルは長さが約20cmで、厚みが約5cmである。除氷器の寸法は約20cmx10cmである。空気スピードが約142km/時、ほぼ−10℃で約20μmの水滴の場合に、大気の氷がエアロホイル上に形成される。氷が約5mm〜10mmの厚みまで成長した後に、コンピュータシステム(たとえば、図6のコントローラ78)から電源に命令が出てパワーを除氷器に加えて、エアロホイル表面への氷の付着を実質的に変更および/または破壊するように、エアロホイル表面上の氷の界面層を融解する。その結果、氷をエアロホイル表面から、空気抵抗力によって除去することができる。このような例のエアロホイル・システムを作製およびテストして、表42−7の理論的な予想に非常に近い性能を証明した。
【0264】
(摩擦係数操作の方法)
以下の実施形態では、対象物表面(たとえば、スライダの一部として)と氷または雪との間の摩擦係数を変更する。一例では、図4のシステム40のようなシステムにおいて、図1の方程式を用いて、スライダと雪との間の摩擦係数に影響を及ぼす(たとえば、図47および48に関連して説明するように)。このようなシステムによって、特定の応用例によって決まるような表面界面と雪との間の引っ張り力の増加または減少を助けることができるたとえば、本明細書で説明されるあるスライダでは、このようなシステムを、スライダが雪を渡って移動するときにスライダをブレーキするためのパルス・ブレーキとして用いている。
【0265】
図47および48では、一実施形態によるスライダ、たとえばスキーまたは自動車タイヤの特性を例示する。スライダは、スライダ基板632および加熱素子633を含んでいる。加熱素子633は、スライダ基板632に取り付けられていて、氷および/または雪630と直接に接触状態となることができる。加熱素子633は、パワーを電源から、たとえば図1の方程式に従って、受け取ることができるように構成されている。
【0266】
図48に、パワーが加熱素子633にパルス形態で加えられたときの、スライダ基板632および氷630内での温度拡散を例示する。たとえば、図48では例示的に、所定の時間tの間に氷630および基板632の中を通る熱拡散距離をX軸636に沿って、氷−対象物界面でのT軸639に沿っての温度変化Tの関数として示す。曲線t1は、所定のパルス継続時間に対する、氷630内および基板632内への熱拡散によって生じる温度変化を表わす。図示したように、曲線t1のピークは、T軸639上のある温度638においてである。温度638は、氷630の界面層を融解するのには十分である。曲線t1の下の斜線領域(m)は、融解した界面層を表わす。
【0267】
パワーを加熱素子633へ加える前に、周囲温度を点637で表わす。パワーのパルスが加熱素子633へ加えられたらすぐに、素子633の温度が、上昇し始めて、氷630内へ距離631だけ(氷の界面層630の距離)、および基板632内へ、トランスファする。この温度は、氷が融解し始める点635まで上昇し、そしてパルス・パワーが加えられる継続時間の間、上昇し続ける。熱エネルギーによって、氷630の薄い界面層(m)が融解する。パワーが加熱素子633から取り除かれたらすぐに、温度は下降し始めて、融点635を下回る(曲線t2)。加熱素子633の温度が減少すると、スライダ基板632に対する氷630の付着力が、再凍結によって変更される。この再凍結によって、基板632に対する氷630の付着力が増加して、加熱素子633の界面でのスライダのブレーキングが助長される。
【0268】
一実施形態においては、スライダの特性は、図10の方程式に従う。たとえば、X軸636に一致する長さLに渡る拡散時間は、以下のような形態であっても良い。
【0269】
【数76】
ここでDは熱拡散係数であって、以下のように示される。
【0270】
【数77】
ここでλは熱伝導係数、ρは材料密度、cは材料の熱容量である。すなわち、方程式11−1および11−2では、氷630および基板632内に捕捉される熱エネルギーは、時間tの平方根に比例する距離に渡って拡散することが例示されている。加熱素子633にパワーを加える継続時間が短いほど、影響を受ける氷の界面層の厚さは薄くなる。一実施形態においては、加熱素子633に加える時間tおよびエネルギーQ(氷の界面層630を周囲温度Tから融点温度Tm(融点638)まで加熱するため)は、図1で説明した方程式に従う。
【0271】
図49に、氷−対象物界面での摩擦変化のテスティングを例示するために、1つのスライダ640を示す。スライダ640は、アクリル製スライダ644、力センサ642、および加熱素子646(たとえば厚みが約12.5μm〜25μmの範囲のTiホイル)を含んでいる。スライダ640が用いる加熱素子646は、スライダ640に隣接する氷の界面層641を、層への熱エネルギーを、たとえば図1の方程式に従ってパルス状にすることによって、融解する。パワーを加熱素子646へ、端子645および647で加えて、加熱素子646が氷の界面層641を融解するようにしても良い。氷の界面層641は、融解するとすぐに、周囲温度の方が冷たいために再凍結して、氷641とスライダ644との間に結合が生じる。
【0272】
力センサ642は例示的に、スライダ644から氷641の方へ加えられる力に関する力情報を受け取る。力センサ642は、このような情報をコントローラ643へ、パワーを加熱素子646へ加える方法を決定するために、中継しても良い。そして本明細書で説明したような電源によって、パワーを加熱素子646へ供給して、氷の界面層641を融解しても良い。氷641の界面層を融解することによって、スライダ640に対する氷641の付着強度が変更され、氷641とスライダ644との間の摩擦係数が変化する。
【0273】
図50および51に、一実施形態により1つのスライダ650をスキー654の形態で応用する例を例示する。スライダ650は、金属加熱素子652(たとえばTiホイル)を含み、この金属加熱素子652は、スキー表面651に結合されている。スキー表面651は、雪653と接触状態になる。加熱素子652は、雪653の層へのエネルギーを、たとえば図1の方程式に従ってパルス状にすることによって、表面651と接する界面の雪の層を融解するように構成されている。パワーはたとえば、本明細書で説明した複数のデバイスの1つによって、加熱素子652に加えられる。雪653の界面層は、融解したらすぐに、周囲温度の方が冷たいために再凍結して、雪653と表面651との間に結合が生じる。結合によって、雪653に対する引っ張り力が、氷とスライダ650との間の摩擦係数が変更されることで改善される。
【0274】
図51に示すように、スライダ650は、バインディング658も含んでいても良い。スイッチ660がバインディング658とともに配置されていて、パワーを加熱素子652へ送る仕方を制御するようになっている。スイッチ660の一例は機械的スイッチである。またスイッチ660には、マニュアル・スイッチ、スキー動作スイッチ、圧力作動スイッチ、加速度計、遠隔制御スイッチ、および/または動作センサが含まれていても良い。このような各スイッチをスライダ650とともに用いて、氷の界面層の加熱および再凍結を作動させて、所望の摩擦係数を得ても良い。
【0275】
より詳細には、図50ではさらに、加熱素子652をスキー654に取り付けることができる仕方が示されている。図51では、スキー・ブーツ656がバインディング658内に挿入されている。必要に応じて、スキー・ブーツ656を用いてスイッチ660を制御することで、パワーを加熱素子652に加えても良い。パワーは、本明細書で説明した電源によって供給しても良い。一例では、ブーツ656がスイッチ660をトリガしたときに、スイッチ660によってパワーが電源から加熱素子652へ伝えられて雪653の界面層を融解することによって、スキー654と雪653との間の摩擦係数を変更する。
【0276】
図52に、スノーボード674の形態の1つのスライダ670を例示する。スライダ670は加熱素子672を含み、この加熱素子672は、スノーボード674の底面675に取り付けられている。表面675は、スノーボード674の動作中に、雪と接触状態になる。スライダ670の動作特性は、図50および51のスキー654のそれと類似していても良い。また加熱素子672は、一実施形態によれば、スノーボード674の内部にあるが、表面675と熱連絡しているようであっても良い。
【0277】
図53にシューズ684の形態の1つのスライダ680を例示する。スライダ680は、金属加熱素子682(たとえばTiホイル)を含み、この金属加熱素子682は、ヒール688およびソール686に取り付けられている。ヒール688およびソール686は、人が、雪の上または氷の上を歩いたときに、雪または氷に接触する。また加熱素子682は、ヒール688の最も外側と熱連絡する限り、シューズ(show)684(またはヒール686)の内部にあっても良い。加熱素子682は、薄い伝導性膜(たとえばTiN膜、Cr膜)を、ポリマー基板(たとえばカプトン、ABS)上またはセラミック基板(たとえばガラス・セラミック、ジルコニア・セラミック)上にスパッタリングしたもので形成しても良い。パワーを加熱素子682へ加えて、加熱素子682が、ヒールおよび/またはソール688、686に隣接する氷の界面層を融解するようにする。氷または雪の界面層は、融解するとすぐに、周囲温度のせいで再凍結し、その結果、ヒールおよび/またはソール688、686に対する氷または雪の結合が生じる。パワーを加熱素子652へ、たとえば図1との関連で説明したように加える。一実施形態においては、スライダ680は、小さいバッテリ683(たとえば、Dセル・バッテリ)を、電源として用いる。図4のスイッチ48などのスイッチによって、電源からのパワーが加熱素子682へ接続される。一例では、ユーザがスイッチをトリガしたときに、スイッチによってパワーがバッテリ683から加熱素子682へ伝えられて、氷または雪の界面層が融解されおよびシューズ684と氷または雪との間の摩擦係数が変更されることで、シューズ684の引っ張り力が助長される。
【0278】
図54では、タイヤ692の形態の1つのスライダ690を例示する。スライダ690は、金属加熱素子694を含み、この金属加熱素子694はタイヤ692に埋め込まれている。パワーを加熱素子694へ加えて、加熱素子694が、氷または雪693の界面層を融解するようにする。氷の界面層693は、融解するとすぐに、周囲温度のせいで再凍結し、その結果、氷/雪693とタイヤ692との間に結合が生じる。パワーを加熱素子694へ、本明細書で説明した複数の技術のうちの1つによって、加えても良い。
【0279】
一実施形態においては、スライダ690は乗用車バッテリを、その電源として用いる。一例では、加熱素子694は薄い金属ワイヤを含み、この薄い金属ワイヤは、パワーを受け取ってそのパワーを熱エネルギーへ変換して、タイヤ692と接触している氷の界面層/雪693を融解するように、構成されている。さらに、スライダ690は、図6のコントローラ78などのコントローラを含んでいて、そのパワーを、図1の方程式に従って制御可能に加えるようになっていても良い。一実施形態においては、ユーザはスイッチを作動させることで(たとえば、本明細書で説明した他の実施形態と同様に)、タイヤ692と氷および雪693で覆われた道路表面との間でさらに引っ張り力が必要なときに、パワーを加熱素子694へ加える。一例では、ユーザがスイッチを、乗用車内のコンソール上の事前に構成されたボタンを押圧することによって、トリガしたときに、スイッチによってパワーが電源から加熱素子694へ伝えられて、氷および雪693の界面層が融解され、その結果、界面層が再凍結して雪/氷693上のタイヤ692の引っ張り力が増加したときに、タイヤ692と道路表面を覆う氷および雪との間の摩擦係数が変更される。
【0280】
こうして加熱素子694は、加熱パルスをタイヤ692と雪/氷693との間の界面に送ることによって、「パルス・ブレーキ」として動作しても良い。たとえば、ブレーキングが必要なときには、氷の界面層を融解させる。パルスが停止すると、タイヤ692上の融解スポットは通常、周囲温度のせいで数ミリ秒内で再凍結し、その結果、強い結合がタイヤ692と氷/雪693との間で得られる。これらの結合によって、氷/雪693に対するタイヤ692の動きをブレーキングすることが助長される。一実施形態においては、ペルチエ素子695を用いて、融解した氷の界面層をより急速に冷却する。
【0281】
ペルチエ素子695の一例は、電流の大部分を運ぶ一方のタイプの電荷担体(たとえば、正または陰)の半導体ペレットにテルル化ビスマスをドーピングしたもののアレイからなる、熱電モジュールである。正および陰のペレット対は、電気的には直列に接続するが熱的には並列に接続するように、構成されている。メタライズされたセラミック基板によって、ペレット用の台にしても良い。熱電モジュールは、単一で機能しても良いし、直列、並列、または直列−並列の電気接続によってグループで機能しても良い。
【0282】
DC電圧がペルチエ素子695に加えられると、ペレット・アレイ内の正および陰の電荷担体によって、熱エネルギーが一方の基板表面から吸収されて、対向して位置する基板に放出される。熱エネルギーが吸収される表面によって、可動部分、コンプレッサ、またはガスを用いることなく、温度を下げることができる。対向して位置する基板では、熱エネルギーが放出されるが、結果として温度が増加する。
【0283】
図55に、1つのスライダ700のテスト構成を例示して、スライダが、隣接する雪または氷に対する摩擦に影響を及ぼす方法を示す。スライダ700は、複数の金属製加熱素子を含み、これらの金属製加熱素子は、タイヤの電気伝導性ゴムを示す領域704に埋め込まれている。パワーが加熱素子712に加えられて、氷714の界面層が融解する。氷の界面層は、融解するとすぐに、周囲温度のせいで再凍結して、氷714とスライダ700との間に結合が生じる。
【0284】
一実施形態においては、加熱素子712は、薄い金属ワイヤであって、パワーを受け取ってそのパワーを熱エネルギーに変換して、スライダ700と接触している氷の界面層714を融解するように、構成されている。加熱素子の周りの薄い電気絶縁体706によって、加熱素子712を囲んでも良い。加熱素子712がパワーを電源702から受け取ると、加熱素子712はパワーを熱エネルギーに、抵抗を通して変換する。熱エネルギーは、氷714へ、そして加熱領域708内へ伝えられ(熱輻射線710)、加熱領域708で氷の界面層714が融解する。融解した界面氷によって、スライダ700と氷714との間の摩擦係数が変化して、スライダ700と氷714との間の引っ張り力が増加するようになる。摩擦係数は、融解および再凍結が原因で変化し、これはそれぞれ、電力が加熱素子712に加えられそして除去されるときでる。たとえば、図1の方程式1.4に従う継続時間を有する電力のパルスによって、これが熱エネルギーに加熱素子712によって変換したときに、氷の界面層714が融解される。電力のパルスが低くなると、周囲温度の方が冷たいためにまた融解していない氷714のために、領域708は再凍結する。この氷714の融解および再凍結によって、摩擦係数が変更され、また引っ張り力およびブレーキングが向上されることが、たとえば、スライダ700がタイヤまたはスキーなどの対象物のときに起こる。
【0285】
図56に、スノーモービルなどで用いられるトラック724の形態の1つのスライダ720を例示する。スライダ720は、トラック724に埋め込まれた加熱素子722を含む。パワーを加熱素子に加えて、加熱素子722が、トラック724に隣接する氷の界面層を融解するようにする。氷の界面層が融解してパワーをもはや加えないとすぐに、融解した水の界面層は、周囲温度のせいで再凍結して、トラック724に対する氷の結合が生じる。一実施形態においては、スライダ720はバッテリを、電源として用いる。例示的に、トラック724を、トラック・ホイール725の回りに示す。加熱素子722は、薄い金属ワイヤの形態で、または薄い金属ホイルの形態で、パワーを熱エネルギーに変換してトラック724と接触している氷の界面層を融解しても良い。ユーザは、必要に応じてスイッチを作動させて、パワーを加熱素子722へ加えても良い。これはたとえば、ユーザが、トラック724と氷および雪によって覆われる地形との間で、さらに引っ張り力が必要であると決定したときである。ユーザがスイッチをトリガすると、スイッチによってパワーが電源(たとえば、スノーモバイルのバッテリ)から加熱素子722へ伝えられて、氷/雪の界面層が融解され、その結果、その後の再凍結に起因して、トラック724と雪との間の摩擦係数が変更され、雪の上でのトラック724の引っ張り力が増加する。
【0286】
図57に、スキー782の形態の1つのスライダ780を例示する。図781において、スキー780をより詳細に示す。典型的な実施形態においては、スライダ780は、加熱素子784を含み、また動作特性は図50および51のスキー654と同様であっても良い。加熱素子784(説明のために図781では誇張されている)は、Tiホイルもしくは耐摩耗性伝導性ペイント(たとえば、ニッケル・ベースおよび銀ベースのペイント)またはTiNのスパッタリング層などの材料から形成しても良い。加熱素子784は、スキー782の表面に取り付けられており(または他の方法で、表面と熱的に連絡するようになっており)、雪と断続的に接触して、雪または氷の界面を融解することは、たとえば図1との関連で説明した通りである。
【0287】
図781に、加熱素子784をスキー782に取り付けることができる1つの仕方を示す。たとえば、図781には、加熱素子784がスキー782にポスト783を介して取り付けられる分解組立図を示す。ポスト783は通常、金属製導体として形成されていて、電気バス端子として機能し、またダメージから加熱素子784を保護する。ポスト783を用いてパワーを電源から加熱素子784へ伝えて、雪の界面層を融解することによって、スキー782と雪との間の摩擦係数を変更しても良い。
【0288】
一実施形態においては、加熱素子784は、保護コーティング785を含んで、岩からのダメージから保護する。加熱素子784、ポスト783、および基板786は、取り替え可能であっても良い。加熱素子784がペイントの伝導層を含んでいるときには、引っかき傷をタッチ・アップ・ペイント・キットによって修復しても良い。
【0289】
図58には、一実施形態によるタイヤ802の形態の1つのスライダ800を例示する。スライダ800は、加熱ユニット806と、任意の空気排気サブ・システム804とを含んでいる。空気排気サブ・システム804は、自動車空気コンディショナの冷気排気を含んでいても良い。加熱ユニット806は、加熱ランプまたは他の加熱デバイスを含んで、タイヤ802の領域805をパルス状または連続的な熱エネルギーによって加熱しても良い。スライダ800は、車両のバッテリを電源として用いても良い。
【0290】
一実施形態においては、加熱ユニット素子806は、乗用車の空気コンディショナまたはエンジンの排気を含むか用いている。他の実施形態においては、加熱ユニット806は、細かい水霧を発生する水スプレイを含むか用いている。水霧は、乗用車のタイヤを薄い水被膜で覆う。水被膜は、氷と接触すると凍結し、その結果、タイヤと氷との間に強い結合が生じる。
【0291】
他の実施形態においては、加熱ユニット806は、タイヤに接触する高温シリンダを含む。シリンダは、タイヤとともに回転しても良い。高温の回転シリンダの加熱を、乗用車の電気システムによって、乗用車の空気コンディショナによって、および/または乗用車の排気ガスによって行なっても良い。
【0292】
1つの動作例では、加熱ユニット806は、パワーを受け取ってそのパワーを熱エネルギーに変換し、タイヤ802と接触している領域807において氷810の界面層を融解するように構成されている。加熱ユニット806は、パワーを電源から受け取ると、パワーを熱エネルギーに変換して、加熱領域805を形成する。熱に露出される継続時間が短いために、通常は。タイヤ・ゴムの薄い層のみが加熱される。タイヤ802が回転すると、加熱領域805は、領域807において氷810の界面層を融解する。タイヤが回転を続けると、氷の融解層が領域808で凍結し、タイヤ802と氷810との間の摩擦係数がゾーン809で変化する。その結果、タイヤ802と氷810との間に結合が形成されて、タイヤ802と氷810との間の引っ張り力が増加するようになる。
【0293】
タイヤ802は、氷810との間の接触領域がかなり大きいため、タイヤ802のゴムは通常、加熱ユニット806によって再び加熱される前に、再冷却される。そのため、周囲温度が氷の融点よりも低いときには、普通はさらに冷却する必要がない。それにもかかわらず、さらに冷却することを用いても良い。たとえば、乗用車の空気コンディショナからの冷気を用いて、タイヤを排気サブ・システム804を介して冷却しても良い。
【0294】
加熱ユニット806は、熱エネルギーをパルス状にできるため、摩擦係数は不連続的に変化することが考えられる。これは、界面氷810が融解および再凍結することが、それぞれ電力が加えられおよび除去される(たとえば、タイヤ802が、回転とともに徐々に加熱および冷却する)ときに起こる結果である。一実施形態においては、加熱ユニット806は、加熱された金属ブラシを含み、この加熱された金属ブラシは、回転するタイヤ802に押圧されていても良い。ブラシからタイヤ802の表面801への熱流束によって、タイヤ・ゴムの薄い層が加熱されて、その後に界面氷が融解する。
【0295】
加熱ユニット806によって使用される平均的なパワーは通常、周囲温度および乗用車速度に依存するが、約10ワット〜100ワットの範囲であっても良い。ある極端な場合では、約1ワット〜1000ワットの範囲であっても良い。同様にこれらの温度および速度条件に依存するが、タイヤ802のゴムが加熱ユニット806によって照射または加熱される継続時間は、約3ms〜100msであるが、より極端な場合には約1ms〜1sであっても良い。再凍結時間は、パルス除氷器システムの場合とほぼ同じであっても良く、たとえば図1〜6で説明した時間である(たとえば、通常は約1ms〜100msの範囲)。これらの時間を調整して、道路−タイヤ間の接触領域のほとんどが凍結するときの最大引っ張り力が得られるようにしても良い。
【0296】
図59に、一実施形態による1つのスライダ820のテスト構成を例示する。スライダ820は、スライダ界面825および閃光電球826を含む。閃光電球826は、スライダ界面825を光のパルス(たとえば、閃光)で照射するように構成されている。閃光電球826は、パワーを電源822から受け取って氷821の界面層を融解する。閃光電球826は、光をパルス状にして、氷821と接する薄い黒ずんだ層827へ送る。ランプ826のパルス当たりの典型的な継続時間およびエネルギーは、約1ms〜10msで、発生するエネルギーは約1J〜100Jである。
【0297】
一実施形態においては、閃光電球826からの単一の閃光によって氷の界面層821が融解することが、閃光電球826がスライダ界面825を照射したときに起こる。スライダ界面825は通常は透明であって、光が、黒ずんだ層827に入射したときに、閃光からのエネルギーを熱エネルギーに変換する。たとえば、ランプ826からの光(たとえば、可視光または赤外光)が層827によって吸収されて、熱エネルギーに変換される。次に、変換された熱エネルギーは、スライダ820に隣接する氷821の界面層内に吸収される。エネルギーが氷821の界面層によって吸収されると、層は融解する。次に、層は、周囲温度のせいで再凍結して、スライダ824と氷821との間に結合が生じる。
【0298】
(摩擦係数変更分析)
次に、摩擦係数が氷−対象物界面または雪−対象物界面で変更されるある分析について説明する。これらの分析は、摩擦係数の変更を実験的およびグラフ的に例示する。
【0299】
図60に、一実施形態により、あるスライダの摩擦係数とスライダに取り付けられた加熱素子に加えられる電圧との間の典型的な関係を例示するグラフを示す。図2に示すような電気回路を用いて、2.35mFのキャパシタを充電した。次にキャパシタを、加熱素子を通して放電した。図60では、Y軸831は摩擦力を表わし、X軸832は電圧を表わす。グラフ830では2つの同様なスライダが区別されている。各スライダとも加熱素子を有している(一方の加熱素子は、約12.5μm厚みのTiホイルを含み、他方の加熱素子は約25μm厚みのTiホイルを含んでいる)。図示したように、約50Vのパワーを加熱素子に加えたときに、スライダと雪との間の摩擦係数が変化する。約100Vにおいて、雪に対するスライダの摩擦係数は、互いと異なり始める。すなわち、加熱素子材料の厚みは実質的に約100Vまで電圧に無関係であり、このことはデザイン上の検討事項に影響するものと考えられる。
【0300】
図61に、一実施形態により、あるスライダの静的な力と雪の上に及ぼされるスライダの法線圧力との間の典型的な関係を例示するグラフ840を示す。図61では、Y軸841は静的な力を表わし、X軸842は法線圧力を表わす。グラフ840では、2つの同様なスライダが区別されている。各スライダとも、加熱素子を有している(一方の加熱素子は、約12.5μm厚みのTiホイルを含み、他方の加熱素子は、約25μm厚みのTiホイルを含む)。以下の2つのグラフでは、加熱パルスを加えないで測定したときの、同じスライダに対する静的な摩擦力を示す。他の実験的な詳細、たとえばDC電圧(90V)、温度(−11℃)、および図2の回路で用いられるキャパシタは、グラフの挿入図に示す。
【0301】
図62に、一実施形態により、あるスライダの摩擦係数と取り付けられた加熱素子に加えられる電圧との間の典型的な関係を例示するグラフ850を示す。図62では、Y軸853は摩擦力を表わし、X軸852は電圧を表わす。グラフ850では、2つの同様なスライダが区別されている。各スライダとも加熱素子を有している(一方の加熱素子は、約12.5μm厚みのTiホイルを含み、他方の加熱素子は約25μm厚みのTiホイルを含んでいる)。各スライダの平均的な曲線が、特定の印加電圧に付随する摩擦係数の範囲によって決定される。たとえば、スライダとして加熱素子が25μm厚みのTiホイルを有するものは、摩擦係数が約4.9N〜6Nの範囲で変化する(点851)。図62では、周囲温度が融点(−2℃)に非常に近くても、パルス・ブレーキが良好に動作することが示されている。良好なブレーキング力は、−0.5℃であっても実現されている。
【0302】
図63に、1つのスライダの摩擦係数と3.5mm/秒の一定速度でスライディングしている時間との間の典型的な関係を例示するグラフ860を示す。図63では、Y軸863は摩擦力を表し、X軸864は時間を表す。加熱パワーの4つの短いパルスが実験中に加えられ、その間、スライダは約3.5mm/秒の速度で移動していた。1.36mFのキャパシタから電流が加熱素子へ放電された。これは、約110Vにおいて、4つのパルス861で行なわれた。加熱パルスの継続時間は約2.5msであった。スライダに取り付けられた加熱素子が、パワーを電源から、制限された継続時間だけ(パワーのパルスとして)、たとえば図1の方程式に従って受け取った。加熱素子は、そのパワーを熱エネルギーに変換して、その熱エネルギーを表面−氷間の界面へ加えた。加熱素子は、スライダに隣接する雪または氷の界面層を融解した。界面層を融解することによって、スライダ表面での雪の付着力が変更され、スライダと雪または氷との間の摩擦が変化する。各パルス861の間に、摩擦係数が変化する。スライダと雪との間の摩擦が変わることによって、スライダがスライディングに抵抗し、こうして摩擦力が増加する。このことは図63で、摩擦力の鋭いピークとして見ることができる。パルス・エネルギーとパルス間の間隔とを変えることによって、平均の摩擦力を望ましい大きさに調整することができる。当業者であれば、このような調整可能なブレーキを速度測定システムと結合させて、スキーを「クルーズ・コントロール」システムに容易にできることが理解される。スキーヤは、望ましい最大スピードを、本人のためにまたは子供のために事前に設定して、安全なスキーを行なうことができる。
【0303】
図64に、一実施形態により、1つのスライダの摩擦係数と取り付けられた加熱素子に加えられる電圧との間の他の典型的な関係を例示するグラフ870を示す。図64では、Y軸871は摩擦力を表わし、X軸872は電圧を表わす。この実施形態においては、電圧を変化させて、パワーに依存する摩擦係数を求めた。約50Vのパワーを加熱素子に加えたときに、摩擦係数が変化した。約90Vにおいて、雪に対するスライダの摩擦係数は飽和して、その後、約110Vまでほぼ一定である。すなわち、90Vと110Vとの間の電圧によって、摩擦係数を増加させることができる。摩擦係数は実質的に、90Vと110Vとの間では電圧に無関係である。この情報は、スライダ・デザイン用の電源を選択するときに有用である。
【0304】
図65および66に、1つのスライダの熱エネルギーQと冷却時間tcoolとを例示するグラフを示す。図65では、Y軸881は雪の中での熱拡散長LDを表わし、X軸882は時間を表わす。図66では、Y軸891は熱エネルギーを表わし、X軸892はヒータの抵抗を表わす。この例では、最初の10ミリ秒の加熱の間に熱が雪の中に浸透する深さは、たった36μmである。このような薄い雪の層は熱容量が小さく、融点(すなわち273K)まで加熱するのに必要なエネルギーはほとんどない。下表65−1では、10μm厚みの氷の層を融解して界面の雪およびスキー材料をΔ℃だけ加熱するのに用いられる総エネルギーQ(Δ、R)が計算されている。加熱パワーがTに依存しない場合に、その結果が表65−1に示されている。
【0305】
(表65−1)
【0306】
【数78】
図65および66に例示したように、熱拡散長LD(たとえば、プロット880、図65)は、以下のようになる。
【0307】
【数79】
ここでSはヒータ領域、Tmは融解温度、Tは周囲温度、λは熱伝導係数、ρは材料密度、およびCは材料熱容量(添え字「ice」は氷および/または雪を示し、添え字「ski」はスキーまたはスノーボードなどの基板材料を示し、添え字「heater」は加熱素子を示す)、Qは熱エネルギー、Dは熱拡散係数、Δは温度変化を示し、tは時間、Vは電圧、dは厚み、Rは抵抗、Wは平方メートル当たりのパワー、lmeltは融解層の厚み、およびqは融解の潜熱である。したがって、非常に短いパルスの場合、ほぼ全部の熱エネルギーQが、薄い雪の層の融解に用いられる(プロット890、図66)。Qに対する雪およびスキーの熱容量の寄与はほとんどない。以下の表65−2に、融解層に対する再凍結時間の計算を示す。
【0308】
(表65−2)
【0309】
【数80】
表65−3に、パルス・ブレーキ応用例での電源として用いられる一般的なバッテリの典型的な容量を例示する。たとえば、クロス・カントリ・スキーヤが約1時間走行する場合に、一対の小さいAAバッテリをパルス・ブレーキ応用例において用いても良い。
【0310】
(表65−3)
【0311】
【数81】
図67に、スライダがタイヤ902を構成する実施形態における摩擦増大を例示する1つのスライダ900の1つの分析を示す。スライダ900が示すタイヤ902は、ここでの分析を助けるために異なる熱ゾーンを有している。すなわち、φ0は加熱ゾーン、φ1は空気冷却ゾーン、φ2は融解ゾーン、φ3は再凍結ゾーン、φ4は結合ゾーン、ω0はタイヤの角速度、v0は乗用車の線速度、Rはタイヤ902の半径、およびAはタイヤ902の幅である。加熱ーンφ0が、総パワーw’によって均一に加熱されていると仮定して、平方メートル当たりのパワー密度は以下の式に従い得る。
【0312】
【数82】
加熱ゾーンφ0内部の各点は、以下のように時間tの間「表面加熱」され得る。
【0313】
【数83】
たとえば、v0=(30m/秒)(108km/時)および、φ0R=0.1mにおいて、t≒(0.1m秒)/(3・101m)≒3.3・10−3秒であり、および加熱ゾーンφ0は以下のエネルギー密度を得る。
【0314】
【数84】
Qとして最小限のもの見積もり、融解した氷の厚みを10μmと仮定して、以下の式が得られる。
【0315】
【数85】
dはφ2ゾーンで融解した層の厚み、ρiは氷密度、およびqは氷の融解潜熱である。したがって、以下のようになる。
【0316】
【数86】
次に、摩擦係数をμ=0.5まで増加させる再凍結面積の概算を求める。たとえば、2・10−5Paの法線圧力において、μ=0.5に対応する平方メートル当たりの摩擦力は、105Paである。氷/ゴム界面の場合、付着せん断強度は約1Mpaである。したがって、μ=0.5を得るためには、氷/タイヤ接触面積の約10%のみが再凍結する必要があり得る(たとえば、再凍結ゾーンφ3)。氷の融解層の厚みが約3.3μmであるときに、速度v0が約108km/時に等しい場合には、必要なパワーは約500ワットである。同じ厚みにおいて速度v0が約7.2km/時の場合には、必要なパワーは約33ワットのみである。
【0317】
速度v0が20km/時の場合には、タイヤ表面上の各点が氷と接触しているのは、約t=(2・10−1m)/(6m/秒)=30ミリ秒の間であり得る。この時間は、融解および再凍結作用に利用することができ、またこのような作用を行なうには十分に長い。
【0318】
図68および69に、氷の摩擦を、HFパワーの印加(図68)、または低エネルギー加熱パルスの印加(図69)によって小さくした実験結果を、例示する。図68では、Y軸915は摩擦力を表わし、X軸914は時間を秒で表わす。たとえば図68では、摩擦力N対時間を、周囲温度Tが約−5℃、法線圧力Pが約42kPa、およびスライディング速度vが約1cm/秒でスライダが氷上で動いている場合に対して示す。この実施形態においては、摩擦を変更するシステムには、氷と接するスライダ底面に取り付けられたインターデジタル回路が含まれている。インターデジタル回路には、銅クラッド・カプトン・ポリイミド膜が含まれている。またインターデジタル回路には、電極間の間隔が約75μmの銅電極が含まれている。電源から、HF・AC電圧を約30V・rmsおよび約20kHzで電極に供給した。電極によって、氷内に約100ワット/m2密度の熱が発生した。スライダが約(1cm/秒)の速度で動いてパワーを電極に加えると、摩擦力は約40%だけ低い。たとえば、電源からHFパワーを電極に、時点910(たとえば、ほぼ10秒に等しい時間t)で供給した。電極によって、パワーが熱エネルギーに変換されて、氷の方向に拡散した。スライダが、時点912(たとえば、ほぼ13秒に等しい時間t)でスライディングを開始する。この実施形態においては、HFパワーを、時点911(たとえば、ほぼ28秒に等しい時間t)で停止させた。HFパワーがない状態では、氷の摩擦は、4Nから7Nへと上昇する。後者は、パワーをスライダに加えていない状態でのバックグラウンドの氷摩擦力であり、時点913(たとえば、ほぼ33秒に等しい時間t)で終了した。
【0319】
この実施形態においては、連続HF電源によって氷の温度を上げることによって、氷の融解を引き起こすことなく氷の摩擦を小さくし、その結果、摩擦係数を変更している。
【0320】
図69に、摩擦力N対時間を、周囲温度Tが約−10℃、法線圧力Pが約215kPa、およびスライディング速度vが約3mm/秒でスライダが氷上で動いている場合に対して示す。図69では、Y軸925は摩擦力を表わし、X軸926は時間を秒で表わす。この実施形態においては、摩擦を変更するシステムには、薄いチタン・ホイル・ヒータが含まれている。DCパワーの短い加熱パルスをヒータに、時点922および923で加えることで、雪の摩擦を減らす。これは、前述した同じシステムによるブレーキング効果とは対照的である。この実験の主な違いは、パルス・ブレーキングである。図69に示した通り、加熱エネルギーの大きさは、雪の融解には十分ではない。融解層がない状態では、再凍結は起こらず、ブレーキング作用は発生しない。それにもかかわらず、ヒータが雪を加熱するため、摩擦は減少する。図69の実験では、雪の表面をパルスによって加熱して、−10℃から約−1℃にする。スライダは、時点921(たとえば、およそ31秒に等しい時間t)において、氷とスライダとの間の静止摩擦の急激な増加を経る。電源からパルス・パワーが、時点922および923(それぞれ38秒および42秒に等しい時間t)において、電極に供給される。この実施形態においては、スライダは、時点924(時間tが50秒に等しいとき)で停止する。
【0321】
いくつかの実施形態において、インターデジタル回路の電極は、回路の耐摩耗性を高めるために、硬い伝導性材料で形成されている。たとえば、窒化チタン、酸化ジルコニウム(たとえば、ジルコニア)に他の酸化物(たとえば、酸化イットリウム)をドープしたもの、チタンおよびステンレス鋼ホイルにTiNコーティングを施したものである。他の実施形態では、アルミナなどの保護膜のコーティングによって電極保護を設けても良い。
【0322】
前述した方法およびシステムにおいて、その範囲から逸脱することなくある程度の変形を行なっても良いため、前述の説明に含まれるかまたは添付の図面に示されている事項はすべて、説明のためであると解釈すべきであって、限定する意味で解釈すべきではないことが意図されている。また、以下の特許請求の範囲は、本明細書で説明されているすべての属および種の特徴を網羅しており、その範囲の記述はすべて、言い方の問題として、それらの間に存在すると言っても過言ではないことが理解される。
【技術分野】
【0001】
(関連特許出願)
本出願は、米国仮出願第60/356,476号(2002年2月11日出願)の利益を主張する。なお、この文献は本明細書において参照により取り入れられている。また本出願は、米国仮出願第60/398,004号(2002年7月23日出願)の利益を主張する。なお、この文献は本明細書において参照により取り入れられている。また本出願は、米国仮出願第60/404,872号(2002年8月21日出願)の利益を主張する。なお、この文献は本明細書において参照により取り入れられている。
【背景技術】
【0002】
背景
氷は、多くの問題を種々の工業界に対して示している。このような問題の1つの例は、航空工業界で見ることができ、氷が航空機の表面に形成される場合である。航空機たとえば翼の表面上に氷があると、航空機にとって危険な状態が生じる可能性が、特に航空機が飛行中の場合にある。他の例は、陸上輸送業界で見ることができ、氷が自動車のウィンドシールド上に形成される場合である。ウィンドシールド上に氷があると、自動車のドライバにとって危険な運転環境が生じる可能性がある。このような表面から氷を除去することによって、危険な状態を最小限にすることができる。
【0003】
現在、氷を除去するシステムとしては、抵抗素子にパワーを加えて熱を発生させる電気ヒータがある。現在の他のシステムとしては、化学反応を起こして氷を熱的に溶解させる化学溶液がある。電気ヒータは、ある大きさのパワーを抵抗素子に加えて、電気ヒータと接触している表面から氷をすべて直接かつ対応して融解する。化学溶液は、氷を熱的に溶解させ得るが、長期間は続かず、自然環境にとって望ましくない条件を生み出す。これらのシステムは、氷をすべて完全に融解しようとしているため、効率が悪い。
【0004】
氷を除去する方法として、機械的なスクレーパを用いることが挙げられる。機械的なスクレーパは、氷が対象物の表面に付着する問題に対処するために用いられることが多い。しかし機械的なスクレーパは、手持ち式で操作がしにくいことが多い。さらに機械的なスクレーパは、氷の除去にいつも効果があるというわけではなく、氷が付着した表面を傷つけることもある。
【0005】
対象物の表面から氷を適切に除去することができない場合、破壊的な結果になりかねない可能性がある。たとえば、飛行中の航空機上に過剰な氷があると、航空機の揚力を低下させて、一部の航空機コンポーネントの適切な動作を拒む可能性があって危険である。他の例としては、自動車ウィンドシールド上に氷が蓄積することがある。氷を除去しないと、ドライバの視力が悪くなって、ドライバが車両をもはや適切に操縦できないほどになることが考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
以下の特許および特許出願は、有用な背景を与えるものであるため、本明細書において参照により取り入れられている。米国特許第6,027,075号明細書、米国特許第6,427,946号明細書、PCT出願PCT/米国/第25124号明細書(1999年10月26日出願)、PCT出願PCT/米国/第28330号明細書(1999年11月30日出願)、PCT出願PCT/米国/第01858号明細書(2002年1月22日出願)、PCT出願PCT/米国00/35529号明細書(2000年12月28日出願)、米国特許出願第09/971,287号明細書(2001年10月4日出願)、および米国特許出願第09/970,555号明細書(2001年10月4日出願)。
【0007】
一態様においては、パルス除氷器システムによって、界面から対象物の表面までが加熱されて、氷および/または雪(本明細書で用いる場合、氷および/または雪を「氷」と示すこともある)と表面との付着が剥離される。必要なエネルギーを減らすために、パルス除氷器の一実施形態では、非金属固体材料(氷および雪を含む)内での熱伝搬が非常に低速であることが検討され、加熱パワーが界面に、熱が界面ゾーンから遠くへ逃げることに対して十分に短い時間の間、加えられる。その結果、ほとんどの熱は、氷の非常に薄い層(以後「界面の氷」)のみを加熱および融解するのに用いられる。本システムは、ある大きさのパワーを発生するように構成された電源を含んでいる。一態様においては、パワーの大きさは実質的に、界面での氷を融解するのに用いられるエネルギーの大きさに反比例する関係にある。またパルス除氷器システムは、パワーの大きさを電源が発生する継続時間を制限するように構成されるコントローラを含んでいる。一態様においては、継続時間は実質的に、パワーの大きさの2乗に反比例する関係にある。電源はさらに、電圧をパルス状にできるスイッチング電源を含んでいても良い。パルス状の電圧を、貯蔵デバイス、たとえばバッテリまたはキャパシタによって供給しても良い。こうしてバッテリまたはキャパシタを用いて、界面と熱連絡している加熱素子へパワーを供給することができる。任意に、パルス状の電圧を直接に加熱素子へ供給して、表面での氷の付着を剥離しても良い。他の態様においては、加熱素子には、伝導性材料の薄膜、または半導体材料を含む薄膜が含まれる。半導体材料の場合、薄膜を通して見ることが妨げられないため、乗用車ウィンドシールドとともに、たとえば「対象物」として、容易に用いることができる。電源は、パワーを変調して半導体材料へ送って、パワーを熱エネルギーに変換しても良い。変調されたパワーによって、表面に対する氷の付着を剥離可能な適切な大きさの熱エネルギーが伝達される。
【0008】
ある態様においては、キャパシタは、スーパーキャパシタまたはウルトラキャパシタの何れかである。他のある態様においては、電源は、フライホイールおよび/または高電圧電源である。電源からのパワーを熱エネルギーに変換して、対象物の表面に対する氷の付着を剥離することができる。たとえばシステムは、電源を用いて、氷および雪を、航空機、タイヤ、自動車ウィンドシールド、ボート、道路、橋、歩道、冷凍機、冷蔵庫、建造物、滑走路、または窓の表面から除去しても良い。当業者であれば、他の対象物を、パルス除氷器システムによって除去しても良いことが理解される。
【0009】
他の態様においては、サーマル・トランスファ・システムは、加熱素子と接続された熱貯蔵器サブ・システムを用いる。加熱素子には、金属などの熱伝導性材料が含まれていても良い。加熱素子にはさらに、加熱素子に取り付けられたメンブレンが含まれていても良い。メンブレンはたとえば、膨らませることが可能であって、メンブレンが膨張したときに、除氷すべき対象物の表面に熱が伝達することが防止される。メンブレンが収縮すると、加熱素子から熱エネルギーが表面へ伝達されて、表面への氷の付着が剥離される。メンブレンを頻繁に膨張および収縮して、表面への熱エネルギー伝達を変調することができる。
【0010】
サーマル・トランスファ・システムの他の態様においては、加熱素子には、断熱材によって分離された熱伝導性材料の2つの領域が含まれている。熱伝導性材料の領域の少なくとも一方は移動可能に断熱材に取り付けられていて、領域が特定の仕方で位置したときに、2つの領域が互いに物理的に接触するようになっている。少なくとも一方の領域の動きをある周波数で変調することで、熱伝導性材料の一方の領域から適切な大きさの熱エネルギーが他方の領域へ伝達されるようにしても良い。熱エネルギーを伝達するこによって、他方の領域の表面への氷の付着が剥離される。
【0011】
一態様においては、対象物と氷との間の界面において界面の氷を熱的に変更するための方法が提供される。方法には、加熱エネルギーを界面に加えて氷の界面層を融解するステップが含まれる。そして、加えるステップは、継続時間が、界面に加えられる加熱エネルギーの氷内での熱拡散距離が氷の界面層の厚みを越えて延びないように制限される。
【0012】
一態様においては、加熱エネルギーを加えるステップは、パワーを界面に、少なくとも氷の界面層の融解に用いられるエネルギーの大きさにほぼ反比例する大きさで加えるステップを含む。関連する態様においては、継続時間を制限するステップは、パワーを界面に加えるステップの継続時間を、継続時間が少なくともパワーの大きさの2乗にほぼ反比例するように、制限するステップを含む。
【0013】
一態様においては、加熱エネルギーを加えるステップは、パワーを界面に、少なくとも界面氷の融解に用いられるエネルギーの大きさに実質的に反比例する大きさで加えるステップを含み、継続時間を制限するステップは、継続時間を、継続時間が実質的にパワーの大きさの2乗に反比例するように、制限するステップを含む。
【0014】
一態様においては、方法は、氷の界面層の再凍結を促進して、対象物と氷との間の摩擦係数に影響を及ぼすさらなるステップを含む。一例として、促進するステップは、(1)継続時間を制限するステップの後に再凍結を待つステップと、(2)冷気を界面に吹き付けるステップと、(3)水霧を界面に与えるステップと、のうちの1つまたは複数を含んでいても良い。
【0015】
本明細書におけるある態様においては、対象物は、航空機構造、ウィンドシールド、鏡、ヘッドライト、パワー・ライン、スキー・リフト構造、ウィンドミルのロータ表面、ヘリコプタのロータ表面、屋根、デッキ、建造物構造、道路、橋構造、冷凍機構造、アンテナ、人工衛星、鉄道構造、トンネル構造、ケーブル、道路標識、スノー・シューズ、スキー、スノーボード、スケート、およびシューズのうちの1つである。
【0016】
他の態様においては、加熱エネルギーを界面に加えるステップは、加熱エネルギーを界面に加えて厚みが約5cm未満の氷の界面層を融解するステップを含む。一態様においては、方法のステップが継続時間を、氷の界面層の厚みが約1mm未満となるように制限する。関連する態様においては、熱拡散距離がさらに、パルス継続時間を制限することによって、界面の氷の厚みが約1μm〜1mmのとなるように制限される。
【0017】
一態様においては、継続時間を制限するステップが、加熱エネルギーを界面に最大100秒の間加えるステップを含む。他の態様においては、継続時間を制限するステップが、加えられる熱エネルギーの継続時間を約1ms〜10sに限定する。
【0018】
他の態様においては、加熱エネルギーを界面に加えるステップが、界面と熱連絡する加熱素子、対象物内の加熱素子、および/または界面と接触している加熱素子にパワーを加えるステップを含む。関連する態様においては、加熱エネルギーを加えるステップが、加熱素子によってパワーに電気的に抵抗するステップを含んでいても良い。
【0019】
一態様においては、加えるステップと制限するステップとを周期的に行なって、対象物と氷との間の所望の摩擦係数を発生させる。
【0020】
一態様においては、界面層が再凍結した後にパワーを界面に再び加えて、対象物が氷の上を移動する間の氷と対象物との間の摩擦係数を選択的に制御する。
【0021】
当業者であれば、ある態様において、本発明の範囲から逸脱することなく、氷に雪が含まれるか、または氷を雪と交換しても良いことが分かる。
【0022】
一態様においては、対象物は、シューズ、スノーボード、またはスキーなどのスライダである。
【0023】
また、対象物と氷との間の摩擦係数を制御する方法であって、
(1)パワーをパルス状にして対象物と氷との間の界面に送って、界面での氷の界面層を融解して摩擦係数を減少させるステップと、
(2)界面での界面氷の再凍結を促進して、摩擦係数を増加させるステップと、
(3)ステップ(1)および(2)を、制御可能な方法で繰り返して、対象物と氷との間の平均の摩擦係数を制御するステップと、含む方法が提供される。
【0024】
一態様においては、再凍結を促進するステップが、対象物を氷の上で移動させて対象物の温度を下げるステップを含む。たとえば、乗用車のタイヤを加熱した後に回転させて(乗用車の動作中に)、加熱されたタイヤを、氷で覆われた道路と接触させて再凍結を促進しても良い。
【0025】
一態様においては、パワーをパルス状にするステップが、第1の空気を対象物(たとえば車両タイヤ)上に吹き付けるステップであって第1の空気の温度は凍結よりも高いステップと、氷と接触している対象物を動かすステップとを含む。関連する態様においては、再凍結を促進するステップが、第2の空気を対象物(たとえば、タイヤ)上に吹き付けるステップであって第2の空気の温度は第1の空気の温度よりも低いステップを含む。
【0026】
また、氷または雪と接するように意図された表面を有するスライダが提供される。電源(たとえば、バッテリ)がパワーを発生する。加熱素子が、パワーを表面で熱に変換するように構成され、熱は界面での氷の界面層を融解するには十分である。コントローラが、パワーを加熱素子へ送ることを制御して、スライダと氷または雪との間の摩擦係数を制御する。
【0027】
一例として、スライダは、シューズ、スノーボード、スキー、またはスノー・シューズの形態を取っても良い。
【0028】
一態様においては、スライダは、スキー、スケート、またはスノーボードの形態であり、コントローラは、ユーザ命令に応答して、表面に加えるパワーを変調してスライダのスピードが制御可能となるようにする。このようにして、たとえば、スキーヤは必要に応じて、本人のスキー傾斜をくだるスピードを制御しても良い。
【0029】
さらに他の態様においては、ウィンドシールド除氷器が提供される。ウィンドシールド除氷器は、ウィンドシールドと、ウィンドシールドとともに配置される実質的に透明な加熱素子であって、加えられたパワーに応答して、ウィンドシールド上の氷の界面層を融解するのに十分な大きさで熱を発生する加熱素子とを有する。
【0030】
一態様においては、加熱素子は、電子ギャップが約3eVよりも大きい視覚的に透明な半導体材料から選択される。たとえば、材料は、ZnO、ZnS、およびこれらの混合物のうちの1種であっても良い。
【0031】
他の態様においては、加熱素子は、透明の導体材料から選択される。たとえば、透明の導体材料は、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化スズ、薄い金属膜、およびこれらの混合物のうちの1種であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、対象物と氷との間の界面を変更する1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図2】図2は1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図3】図3は1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図4】図4は1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図5】図5は1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図6】図6は、航空機翼に適用される1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図7】図7は、1つのパルス除氷器加熱素子ラミネートを示す図である。
【図8】図8は、1つのパルス除氷器加熱素子を示す図である。
【図9】図9は、1つのパルス除氷器装置に対する所定の時間に渡る典型的な熱拡散距離を示す図である。
【図10】図10は、1つのパルス除氷器装置に対する所定の時間に渡る典型的な熱拡散距離を示す図である。
【図11】図11は、1つのパルス除氷器システムに対する除氷時間および除氷エネルギーの依存性を示すグラフである。
【図12】図12は、氷−対象物間の界面を変更するための1つのHF除氷器システムを示す図である。
【図13】図13は、1つのHF除氷器システムを示す図である。
【図14】図14は、1つのHF除氷器システムの分析を示す図である。
【図15】図15は、1つのHF除氷器システムで使用するための1つのインターデジタル回路を示す組立図である。
【図16】図16は、1つのHF除氷器システムで使用するための典型的なインターデジタル回路を示す図である。
【図17】図17は、氷伝導率および氷誘電率の周波数依存性を示すグラフである。
【図18】図18は、1つのHF除氷器を特徴づける典型的な回路を示す図である。
【図19】図19は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図20】図20は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図21】図21は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図22】図22は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図23】図23は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図24】図24は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図25】図25は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図26】図26は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図27】図27は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図28】図28は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図29】図29は、図18の回路のあるテスト分析を示すグラフである。
【図30】図30は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図31】図31は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図32】図32は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図33】図33は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図34】図34は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図35】図35は、1つのHF除氷器システムの対流を通しての熱伝達、およびHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を示すグラフである。
【図36】図36は、対象物−氷間の界面を変更するための1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図37】図37は、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図38】図38は、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図39】図39は、熱除氷器伝達システムとの比較を示す1つのパルス除氷器システムを示す図である。
【図40】図40は、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図41】図41は、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムを示す図である。
【図42】図42は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図43】図43は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図44】図44は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図45】図45は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図46】図46は、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの分析を示すグラフである。
【図47】図47は、1つのスライダの特徴を示す図である。
【図48】図48は、1つのスライダの特徴を示す図である。
【図49】図49は、氷−対象物間の界面での摩擦変化のテストを示す1つのスライダ装置を示す図である。
【図50】図50は、スキーの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図51】図51は、スキーの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図52】図52は、スノーボードの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図53】図53は、シューズの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図54】図54は、タイヤの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図55】図55は、1つのスライダのテスト構成を示す図である。
【図56】図56は、トラックの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図57】図57は、スキーの形態での1つのスライダの応用を示す図である。
【図58】図58は、タイヤの形態の1つのスライダを示す図である。
【図59】図59は、1つのスライダのテスト構成を示す図である。
【図60】図60は、あるスライダの摩擦係数とスライダに取り付けられた加熱素子に印加される電圧との間の典型的な関係を示すグラフである。
【図61】図61は、あるスライダの静的な力と、雪の上に及ぼされるスライダの法線圧力との間の典型的な関係を示す図である。
【図62】図62は、あるスライダの摩擦係数と取り付けられた加熱素子に印加される電圧との間の典型的な関係を示すグラフである。
【図63】図63は、1つのスライダの摩擦係数とスライダの停止に必要な時間との間の典型的な関係を示すグラフである。
【図64】図64は、1つのスライダの摩擦係数と取り付けられた加熱素子に印加される電圧との間の他の典型的な関係を示すグラフである。
【図65】図65および66は、1つのスライダ熱エネルギーおよび冷却時間を示すグラフである。
【図66】図66は、1つのスライダ熱エネルギーおよび冷却時間を示すグラフである。
【図67】図67は、スライダがタイヤを形成する実施形態における摩擦増大を示す1つのスライダの1つの分析を示す図である。
【図68】図68は、スライダと雪との間の1つの摩擦分析を示す図である。
【図69】図69は、スライダと雪との間の1つの摩擦分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(図面の詳細な説明)
以下に説明するある実施形態は、対象物と氷との間の界面を変更するシステムおよび方法に関する。一実施形態においては、たとえば、システムがエネルギーを、氷(雪)と対象物の表面との間の界面に加えて、表面から氷を除去し、対象物を「除氷」する。他の実施形態においては、たとえば、システムが氷−対象物界面における氷の界面層での融解を変調して、融解した界面層が迅速に再凍結して対象物表面と氷との間の摩擦係数が変更されるようにする。
【0034】
除氷器またはスライダのある実施形態では、交流(AC)高周波数(HF)電源を用いるが、除氷器またはスライダの他の実施形態では、直流(DC)電源および/または熱エネルギー伝達システム(たとえば、熱貯蔵器システム)を用いる。
【0035】
後述するあるセクションは、以下の見出しで分類される。パルス除氷器システム、パルス除氷器システムで用いられる加熱素子、パルス除氷器システム分析、HF除氷器システム、HF除氷器システムで用いるためのインターデジタル回路、HF除氷器システム分析、サーマル・トランスファ除氷器システム、サーマル・トランスファ除氷器システム分析、摩擦係数の操作方法、および摩擦係数操作の分析。
【0036】
パルス除氷器システムを説明するあるセクションでは、たとえば、ある実施形態において、対象物の表面に付着する氷の表面層を融解することによって氷を除去する動作が説明される。また、あるパルス除氷器システムの加熱素子を用いて界面層を融解しても良い。これはたとえば、DCまたはAC電源への電気接続を通して行なう。パルス除氷器システムの他のある実施形態では、氷−対象物間の界面での加熱を、対象物が凍結するように(非加熱の周期の間に)、および摩擦係数が対象物と氷との間で変化するように、変調する。あるパルス除氷器は、スライダとして、またはスライダとともに動作する。これについ
ては、後述する。
【0037】
HF除氷器システムを説明するあるセクションでは、たとえば、ある実施形態において、対象物の表面に付着する氷の表面層を融解することによって氷を除去する動作が説明される。たとえば、あるHF除氷器システムのインターデジタル電極を、界面層を融解するために用いても良いし、またAC電源によって電力を供給しても良い。
【0038】
HF除氷器システムの他のある実施形態を用いて、氷と「スライダ」との間の摩擦係数を変更しても良い。本明細書で用いる場合、「スライダ」は、氷および/または雪と接することが考えられる対象物である。スライダは、その上で、氷および/または雪との相互作用、ならびにスライダと氷および/または雪との間の摩擦係数との相互作用に起因して、「スライド」しても良い。スライダの例としては、これに限定されないが、タイヤ、スキー、スノーボード、シューズ、スノーモービル・トラック、小型そり、航空機着陸装置などが挙げられる。
【0039】
サーマル・トランスファ除氷器システムを説明するあるセクションでは、ある実施形態を用いて、対象物の表面に付着する氷の表面層を融解することによって氷を除去しても良い。サーマル・トランスファ除氷器システムを、熱エネルギーを貯蔵する熱貯蔵器サブ・システムを含むように記述することができる。これらの貯蔵器サブ・システム内の熱エネルギーを、対象物−氷間の界面と熱連絡する加熱素子へ伝達しても良い。サーマル・トランスファ除氷器システムのある実施形態では、熱エネルギーを貯蔵して、そのエネルギーを対象物−氷間の界面に、選択的におよび/または制御可能な仕方で伝達する。
【0040】
以下の他のある実施形態では、氷とスライダとの間の摩擦係数を、スライダに隣接する氷の界面層を融解することによって変更するシステムを説明する。融解するとすぐに、氷の界面層は再凍結して、スライダと氷との間に結合が形成される。この結合は、スライダおよび氷に対する摩擦係数を増加させる「ブレーキ」として機能する。次に、このようなシステムは、界面層を再融解して結合を壊し、摩擦係数を再び変更する。この対象物−氷間の界面での凍結および再凍結の変調された相互作用によって、摩擦係数を所望の量に制御しても良い。この制御された摩擦係数はたとえば、クロス・カントリ・スキー、スノー・シューズ、シューズ、タイヤ、スノーボード、スケートなどのデバイス、および氷および雪と相互作用する他のデバイスにおいて有用である。
【0041】
(パルス除氷器システム)
次に、パルス除氷器システムについて説明する。パルス除氷器システムを用いて、対象物の表面から氷を除去しても良い。また以下のシステムを用いて、氷の界面層を融解しても良いし、および/または対象物−氷間の界面の摩擦係数を変更しても良い。これについては後で詳述する。
【0042】
図1に、対象物16と氷11との間の界面15を変更するための1つのパルス除氷器システム10を示す。システム10は、電源12、コントローラ14、および加熱素子13を含んでいる。一実施形態においては、電源12は、界面15での界面の氷(以後、「界面氷」)を融解するのに用いられるエネルギーの大きさに実質的に反比例する大きさのパワーを発生するように構成される。加熱素子13が、電源12に結合されていて、界面15においてパワーを熱に変換するようになっている。コントローラ14が電源12に結合されていて、加熱素子13がパワーを熱に変換する継続時間を制限するようになっている。一実施形態においては、加熱素子13が界面15においてパワーを熱に変換する継続時間は実質的に、パワーの大きさの2乗に反比例する。
【0043】
より詳細には、加熱パワー密度W(ワット/m2)を、時間tの間、氷と基板との間の界面に加えると、熱は、氷内を距離lDiだけ、および基板内を距離lDSだけ伝搬する。これらの加熱層の厚み、およびそれらの個々の熱容量によって、どの程度熱が吸収されるかが求まる。λiおよびλSが、氷および基板の個々の熱伝導率であり、ρiおよびρSが個々の密度であり、CiおよびCSが個々の熱容量であるならば、氷内の熱流束Qiおよび基板内の熱流束QSに対して、以下の式が、熱交換の当業者によって理解される。
【0044】
【数4】
ここで、Tm−Tは界面の温度変化である。
【0045】
【数5】
方程式(0−1)〜方程式(0−4)を、界面から脱出する総熱量に対して解くことで
、以下の式が導き出される。
【0046】
【数6】
ここで、Wは界面上の加熱パワー密度密度である。
【0047】
一実施形態においては、その結果、前述の代数的な分析によって、1つのパルス除氷器システムおよび付随する方法において必要なパワーに対する概算的な結果が返ってくる。正確な数学的な考察によって、偏微分方程式の系を解くことで、除氷時間tおよび除氷エネルギーQに対して、以下の典型的な実施形態が予測される。
【0048】
この例では、コントローラ14が、パワーを加熱素子13へ送る時間を、以下の関係に従って制御しても良い。
【0049】
【数7】
ここで、Tmは氷の融解温度、Tは周囲温度、Aは熱伝導係数、ρは材料密度、Cは材料熱容量(添え字「i」は氷および/または雪を示し、添え字「s」は基板材料を示す)、およびWは平方メートル当たりのパワーである。
【0050】
この例ではまた、コントローラ14は、加熱素子13へ送るパワーの大きさを制御して、界面14でのエネルギーQがパワーの大きさに実質的に反比例するようにする。この例では、コントローラ14はパワーの大きさを、以下の関係式に従って制御する。
【0051】
【数8】
したがって、所望の温度に到達する(たとえば界面15での氷を融解する)ためのエネルギーを少なくするために、加熱パワーWを増加させる一方で、加熱パワーを加える時間を短くする。比較として、方程式0−5の簡単化された分析結果は、方程式1−2のより精密な解答とは、π/4=0.875だけ異なる。これらの方程式は、熱拡散長がターゲット対象物の厚み(たとえば、界面15内の界面氷)を下回る場合の短いパワー・パルスを記述するのに、特に有用である。
【0052】
一実施形態においては、界面氷の非常に薄い層の融解と、厚みがdheaterの薄いヒータの加熱とに用いられるエネルギー、Qmin、を加えることによって、より正確な近似が見出される。
【0053】
【数9】
ここで、liは層厚み、ρiは氷密度、qiは氷の融解潜熱、およびCheaterおよびρheaterはそれぞれヒータ比熱容量および密度である。したがって、例では、コントローラ14は、パワーの大きさを以下の関係に従って制御しても良い。
【0054】
【数10】
方程式1−4のエネルギーは、平方メートル当たりで与えられる(J/m2)。対流熱交換を方程式1−4に加えることもできる。しかしこの項は、加熱パルス継続時間が非常に短いために、通常は無視される。基板および/または氷層が、熱拡散長(それぞれ方程式0−3、方程式0−4)よりも短い場合、エネルギーは方程式1−4での値をさらに下回る。
【0055】
例示的な動作では、システム10を、たとえば自動車とともに用いて、ウィンドシールド(対象物16としての)から氷11を除去しても良い。この例では、加熱素子13は透明でウィンドシールド16内に埋め込まれ、電源12およびコントローラ14は協同して、方程式1−1および1−2に従って界面15での界面氷を融解させるのに十分なパワーを提供する。
【0056】
システム10の動作をさらに示すために、氷の特性を考えてみる。
【0057】
【数11】
典型的なウィンドシールド(基板として)の特性は、以下の通りである。
【0058】
【数12】
方程式1−1に基づいて、パワー・レートが100kW/m2において−10℃から始まって氷の融点(0℃)に達するまでの時間は、ガラスまたはガラス様基板16について、t≒0.142秒である。方程式1−3からの補正によって、約0.016秒を継続時間に、すなわち約10%を、加えても良い。ピーク加熱パワーを、10分の1に(たとえば100kW/m2から10kW/m2に)減らすことによって、この時間は約2桁増加する。比較として、−30℃では、W=100kW/m2での総除氷時間は、1.42秒もの長さである。したがってW=100kW/m2および−10℃での対応する総除氷エネルギーQを、次のように規定しても良い。
【0059】
【数13】
しかし、同じ温度の−10℃およびより低いパワーのW=10kW/m2において、方程式1−4によって与えられるエネルギーQは以下の通りである。
【0060】
【数14】
この結果は、W=100キロ・ワット/m2における値よりも、ほぼ1桁だけ大きい。
【0061】
前述の例の1つの利点は、従来技術のシステムと比較して、使用される除氷エネルギーが約1桁だけ減ることである。これは、パワー・レートを約1桁だけ増加させるとともに、パワーを印加する時間を約2桁だけ短くすることによって、なされる。パワーを界面15に印加する時間を制限することによって、熱エネルギーが環境およびバルク氷11中に流れ出ることが、制限される。その代わり、パワー・パルスが短くなった結果、より多くのエネルギーが、界面15に従って残って、界面氷を融解することになる。
【0062】
図2に、一実施形態による1つのパルス除氷器システム20を示す。除氷器システム20は、DC電源22、充電キャパシタ26、抵抗性加熱素子28およびスイッチ24を有する。DC電源22は、スイッチ24がノード23上で閉じたときにキャパシタ26を充電するためのパワーを供給するように構成されている。キャパシタ26は、ノード25を介して抵抗性加熱素子28に協調的に結合されたときに、図1の方程式にしたがってある大きさのパワーを供給するように構成されている。スイッチ24は、たとえば、コントローラまたはマイクロプロセッサによって動作可能に制御されて、スイッチ24がノード25上で閉じたときに、図1の方程式1−1にしたがって、キャパシタ26からの電流をパルス状にして抵抗性加熱素子28へ送る。一例では、スイッチ24がノード23上で閉じたときに、DC電源22はキャパシタ26を充電する。キャパシタ26が充電されたらすぐに、スイッチ24はノード25上で開閉して、抵抗性加熱素子28へ電流を放電する。そして抵抗性加熱素子28は、対象物界面(たとえば、界面15、図1)での氷の界面層を融解するのに十分な加熱パワーを発生させる。パルス除氷器システム20の応用例に依存するが、界面層を融解することは、対象物の表面から氷を除去し、表面上でのその形成を防ぎ、および/またはその付着強度を変更し、および/または氷または雪と対象物との間の摩擦係数を変えるのに有用である。
【0063】
図3に、一実施形態による1つのパルス除氷器システム30を示す。パルス除氷器システム30は、一対のパワー・バス32、加熱素子34、キャパシタ38、スイッチ36、および電源37を含む。パルス除氷器システム30は、要素34に隣接する氷を除去するように構成されている(たとえば要素34は、除氷すべき対象物とともに、除氷すべき対象物内に、および/または除氷すべき対象物上に配置される)。図3の例示した実施形態においては、キャパシタ38は、貯蔵容量が約1000Fで電位が約2.5Vのスーパーキャパシタであり、たとえばマクスウェル・テクノロジ(Maxwell Technology)製のPC2500スーパーキャパシタである。またこの実施形態においては、加熱素子34は、50μmシートのステンレス鋼ホイルが1cm厚みのプレキシガラス・プレートに取り付けられており、また電源37は2.5VDC電源である。スイッチ36は、高電流機械的スイッチとして動作して、電源37がパワーを加熱素子34へ供給する継続時間を制限しても良い。任意に、スイッチ36は、コントローラたとえば図1のコントローラ14から制御を受ける電気スイッチとして動作する。加熱素子34の抵抗は、約6mΩである。初期のパワー密度が約40kW/m2、総貯蔵エネルギーが約3.125kJ、および総エネルギー密度が約83.33kJ/m2である場合、パルス除氷器システム30は、周囲温度が約−10℃において、エネルギー密度として約40kJ/m2を用いて、約375cm2の表面積上の約2cmの氷をほぼ1秒で効果的に除氷する。
【0064】
パルス除氷器システム30の他の実施形態においては、キャパシタ38は乗用車バッテリたとえばEverStart&commat(エバー・スタート&コマット)(登録商標)社のピーク電流が約1000A、電位が約12Vの乗用車バッテリである。またこの実施形態においては、加熱素子34は、100μmシートのステンレス鋼ホイルが1cm厚みのプレキシガラス・プレートに取り付けられている。スイッチ36は、たとえばスタータ・ソレノイドスイッチであっても良い。初期のパワー密度が約25kW/m2である場合、パルス除氷器システム30は、周囲温度が約−10℃において、エネルギー密度として約50kJ/m2を用いて、約375cm2の表面積上に成長した約2cmの氷を、ほぼ2秒で、効果的に除氷する。他の実施形態においては、電源37は、キャパシタ38を充電する2.5VDC電源である。
【0065】
図4に、一実施形態による1つのパルス除氷器システム40を示す。パルス除氷器システム40は、DC電源42、キャパシタ45、抵抗性加熱素子46、DCDCコンバータ44、およびスイッチ48を用いている。DC電源42は、スイッチ48がノード41上で閉じたときに、キャパシタ45を充電するために、DCDCコンバータ44を介してパワーを供給するように構成されている。DCDCコンバータ44は、DC電源42からの電圧を「ステップ・アップ」するように構成しても良い。一例では、DCDCコンバータ44は、DC電源42のパワーをブーストするブースト・エレクトロニクスを有している。一実施形態においては、キャパシタ45は、抵抗性加熱素子46にノード43を介して協調的に結合していて、図1の方程式にしたがってある大きさのパワーを供給するように構成されている。そしてスイッチ48は、コントローラまたはマイクロプロセッサなどの変更手段によって動作可能に制御されて、スイッチ48がノード43上で閉じたときに、キャパシタ45からの電流をパルス状にして抵抗性加熱素子46内へ入れることを、たとえば図1に方程式1−1に従って行なう。一例では、DC電源42は、スイッチ48がノード41上で閉じたときにキャパシタ45を充電する。キャパシタ45が充電されたらすぐに、スイッチ48がノード43上で開閉して、抵抗性加熱素子46内へ電流を放電する。そして抵抗性加熱素子46は、氷の界面層を融解するのに十分な加熱パワーを発生する。パルス除氷器システム40の応用例に依存するが、氷の界面層を融解することは、たとえば、対象物の表面から氷を除去し、表面上でのその形成を防ぎ、および/またはその付着強度を変更し、および/または氷と対象物との間の摩擦係数を変えるのに有用である。またパルス除氷器システム40は、大きな電源を利用することができないとき、または雪と接触する対象物の表面積が小さいとき、たとえばシューズ(シューズ684、図61など)の場合に、有用である。一実施形態においては、パルス除氷器システム40は「パルス・ブレーキ」(後で詳述する)として用いられる。
【0066】
図5に、一実施形態による1つのパルス除氷器システム50を示す。パルス除氷器システム50は、対象物を除氷するように構成されている。パルス除氷器システム50は、除氷器62、一対のパワー・バス64、熱電対63、熱電対モジュール52、増幅器54、バッテリ58、スタータ/ソレノイド59、キャパシタ61、ソリッド・ステート・リレー(SSR)60、およびコンピュータシステム57を有している。除氷器62は、パワー・バス64に結合して、パワーをバッテリ58から受け取るようになっている。コンピュータシステム57は、除氷器62に熱電対モジュール52および増幅器54を通して結合していて、除氷器62についての温度情報を熱電対63を通して受け取るようになっている。コンピュータシステム57は、アナログ−デジタル(A/D)コンバータボード・55を含んでいても良い。アナログ−デジタル(A/D)コンバータボード55は、アナログ形態の温度情報を受け取って、アナログ温度情報をデジタル・フォーマットに変換して、コンピュータシステム57によって使用するように構成されている。またコンピュータシステム57は、除氷器62にSSR60を介して結合していて、除氷器62に加えるパワーの継続時間および大きさを、たとえば、図1の方程式にしたがって、制御するようになっている。一例では、コンピュータシステム57は、SSR60およびスタータソレノイド59を動作可能に制御して、バッテリ58からのパワーを除氷器62へ加えるようになっている。
【0067】
SSR60の代わりに、インダクタ68およびスイッチ65を用いても良い。またスタータ−ソレノイド59は、インダクタ67およびスイッチ66を含んでいても良い。コンピュータシステム57はさらに、トランジスタ・トランジスタ・ロジック(TTL)モジュール56を含んで、制御情報をSSR60へ送ることで、インダクタ68がステップ入力をTTLモジュール56から受けたときに、インダクタ68がスイッチ65を閉じるようにしても良い。スイッチ65が閉じたらすぐに、キャパシタ61がインダクタ67内へ放電してスイッチ66を閉じる。スイッチ66が閉じたらすぐに、バッテリ58がパワーを除氷器62へ送る。一実施形態においては、コンピュータシステム57は、熱電対63によって決定されるように温度が所定のレベルまで上がったときに、除氷器62からのパワーを切り離す。一例では、コンピュータシステム57は、温度情報を、熱電対63から熱電対モジュール52および増幅器54を介して、受け取る。熱電対モジュール52は、温度情報をコンピュータシステム57へ中継する。増幅器54は、温度情報を増幅して、A/Dコンバータボード55がコンピュータシステム57に対する温度情報をデジタル化するようにする。除氷器62の温度が、氷の界面層を融解するのに十分な所定のレベルに達したらすぐに、コンピュータシステム57はTTLモジュール56に命令を出して、スイッチ65をインダクタ68を介して開けるようにする。スイッチ65が開くのは、パワーを除氷器62から切り離すべきであるとコンピュータシステム57が判断したときである。そのため、インダクタ67はもはや電圧を維持しないため、キャパシタ61は放電して、スイッチ66は開く。こうして、インダクタ67はキャパシタ61の充電を開始する。
【0068】
一実施形態においては、除氷器62は、50μm厚みのステンレス鋼から形成され、小さいエアロホイルの前縁(たとえば、航空機翼の前方の露出部分)に取り付けられる。この実施形態においては、エアロホイルは長さが約20cmで厚みが約5cmであり、また除氷器62は寸法が約20cmx10cmである。
【0069】
システム50を以下のようにテストした。除氷器62を、エアロホイル内に形成して、凍結風トンネル内に配置する。除氷器62を、約142km/時の空気スピードで、約−10℃において、約20μmの水滴を用いて、テストした。大気の氷がエアロホイル上に形成された。氷が約5mmから10mmの厚みに成長した後、コンピュータシステム57からバッテリ58に命令を出して、たとえば図5で説明したように、パワーを除氷器62にパルス状で加えるようにする。パワー密度Wが約100kW/m2で、パワー・パルス継続時間tが約0.3秒である場合、除氷器62は氷からエアロホイルまでの界面層を融解して、エアロホイル表面への氷の付着が実質的に変更および/または破壊されるようにする。その後、氷は、エアロホイル表面から、空気抵抗力によって除去することができる。この例でのパルス継続時間は、ウィンドシールド除氷器の例の場合よりも長い。と言うのは、金属−ホイルヒータ内の熱容量の方が大きいからからである。
【0070】
図6に、一実施形態により、航空機翼80に適用した1つのパルス除氷器システム70を示す。パルス除氷器システム70は、電源74およびコントローラ78を有している。電源74は、界面73で氷の界面層の融解に用いられるエネルギーの大きさに実質的に反比例する大きさのパワーを発生するように構成されている。図示したように、界面73は、氷および/または雪と接触する航空機翼80の表面である。またパルス除氷器システム70は、加熱素子75が電源74に結合されていて、パワーを界面73での熱に変換するようになっている。システム70は、コントローラ78が電源74に結合されていて、加熱素子75がパワーを熱に変換する継続時間を制限するようになっている。パワーが加えられる継続時間は、たとえばパワーの大きさの2乗に反比例する。
【0071】
一実施形態においては、システム70は、氷検出器72および温度センサ76も含んでいる。温度センサ76が界面73に結合されていて、界面73での温度を検出するようになっている。温度センサ76は、界面73に関する温度情報を、フィードバック信号の形態で、コントローラ78に供給する。そしてコントローラ78は、温度情報を処理して、パワーを加熱素子75および/または界面73へ加える仕方を制御する。
【0072】
氷検出器72は、界面73上の氷の厚みを検出するように構成されている。氷検出器72はたとえば、氷厚みの測定を容易にする電極のグリッドを含んでいても良い。氷の誘電率は、水および空気の誘電率とは異なる特有のものであるので、氷の存在および厚みを、氷検出器72の電極間キャパシタンスを測定することによって決定しても良い。氷検出器72は、氷に関する情報(たとえば、氷の存在および厚み)をコントローラ78へ中継する。コントローラ78は、情報を処理して、パワーを加熱素子75へいつ加えるべきかを決定する。一実施形態においては、航空機翼80上の氷がある厚みに達したら、コントローラ78は、氷を除去すべきであると自動的に決定した後、電源74を動作可能に制御してパワーを加熱素子75へ加える。
【0073】
次に、システム70の動作特性の例について説明する。除氷器環境として、周囲温度Tが約−10℃、空気スピードが約320km/時、および航空機翼80の厚みが約10cmであり、対流熱交換係数hcが約1200ワット/K・m2(実験データに基づく)であるものを考える。
【0074】
比較として、従来技術の除氷器システムの動作は、パワーWを航空機翼80の表面へ加えて、航空機翼80の表面での温度Tmを氷の凝固点(たとえば、0℃)よりも上に維持するように行なわれる。これは以下の方程式の通りである。
【0075】
【数15】
そのパワーを3分間の間維持することによって大量のエネルギーQとなる。これは、以下の方程式から決定される。
【0076】
【数16】
一方で、パルス除氷器システム70が、従来技術の除氷器システムとは異なるのは、数ある特徴の中でも、すべての氷を融解するのとは対照的に、界面における氷の界面層を融解することである。一例では、パルス除氷器システム70は、氷のエアロホイルを、30kジュール/m2だけを用いて取り除く。パルス間の間隔が3分間である場合、パルス除氷器システム70が消費するのは、以下のような非常に低い「平均的な」パワーである。
【0077】
【数17】
すなわち、方程式6−3の結果は、方程式6−2により従来技術の電熱除氷器で使用されるもののたった1.4%である。
【0078】
一実施形態においては、パルス除氷器システム70は、加熱素子75へのエネルギーを、図1の方程式に従ってパルス状にする。加熱素子75はたとえば、界面73での氷の界面層を融解するために、電極のグリッドを含んでいても良い。氷の厚みがあるプリセット値(たとえば、3mm)に達したら、コントローラ78は電源74に命令を出して、短いパルスのパワーを加熱素子75へ送るようにする。パルスの継続時間は、温度センサ76から与えられる温度、電源74から供給されるパワー、および基板材料の物理的特性(たとえば、航空機翼80および/または加熱素子75の表面)に依存する。たとえば、パワーを加えるパルス継続時間は、図1の方程式1−1に従っても良い。
【0079】
一実施形態においては、パルス除氷器システム70は、第2の温度センサ(図示せず)を加熱素子75の付近で用いることで、パワー制御を向上させる。たとえば、パルス・パワーを加えたときに界面の温度が所定の値に達したらすぐに、コントローラ78から電源74に命令を出してパワーを加熱素子75から切り離し、エネルギー使用量を一定に保っても良い。
【0080】
種々のヒータたとえばHF誘電損失ヒータおよびDCヒータを用いた実験の結果、前述した理論的予想に適合する結果が得られている。本明細書のある実施形態においては、除氷領域が大きすぎて電源が領域全体を同時に加熱することができない場合、除氷をセクションごとに行なっても良い。一例として、これらのセクションを除氷することによって、構造全体を順次除氷しても良い。航空機に付随する空気抵抗力によってさらに氷がエアロホイルから除去されることがある。しかし、航空機翼80の最も前方に進んだ部分(たとえば、仕切り板)を未凍結の状態に保つには時間がかかるため、方程式6−3に示した平均のパワーが増えることが考えられる。他のヒータをパルス除氷器システム70とともに用いことも、本発明の範囲から逸脱しないならば良い。たとえば、多くの航空機で見られる高温のブリード・エア・ヒータである。
【0081】
(パルス除氷器システムで用いられる加熱素子)
以下の実施形態のうちいくつかにおいて、種々のパルス除氷器システムで用いられる加熱素子について説明する。これらの加熱素子はたとえば、パワーをDC電源などの電源から受け取った後、対象物の表面対氷間の界面における氷の界面層を融解する。氷の界面層が融解したらすぐに、後で詳述するような応用例などの所望の応用例に依存して、氷をたとえば除去または再凍結する。
【0082】
図7に、氷を構造92から除去することを、たとえば図1の方程式に従ってパワーを加えることによって行なう、典型的なパルス除氷器加熱素子ラミネート90を示す。ラミネート90は、電気絶縁および基板断熱材94、電気伝導層96、および保護層98を含んでいる。層96はパワーを受け取り、そのパワーを熱に変換して、氷の除去および/または構造92上での氷の形成の防止を行なう。層96はたとえば、本明細書で説明した種々の加熱素子の1つである。一実施形態においては、ラミネート90は、構造92に取り付けられた複数の別個のコンポーネントを含むことで、氷を別個に除去する(たとえば、セルごとに、またはセクションごとに除去する)ことができる「セル」を形成している。
【0083】
一実施形態においては、ラミネート90に送ることができるパワーは、約10kW/m2〜100kW/m2の範囲である。したがって、このようなパワーを送るために選択する電源は、所望の除氷時間および外部温度に依存するが、容量が約10kJ/m2〜100kJ/m2でなければならない。これらの特性を有するある電源は、化学的バッテリの形態であり、たとえば乗用車バッテリ、スーパーキャパシタ、ウルトラキャパシタ、電解キャパシタ、発電機に結合されたフライホイール、DC/DCおよびDC/ACインバータ、およびこれらの組み合わせである。
【0084】
最新の化学的バッテリは、貯蔵される電気エネルギーが高密度であることが知られている(たとえば、鉛バッテリの場合に約60kJ/kg)。しかし、化学的バッテリは、パワー密度が比較的低い。たとえば、乗用車バッテリは、最大で約1000Aを12ボルトで約10秒の間、送ることができ、これはパワーとして約12kWに対応する。典型的な乗用車バッテリは、容量が約Q≒12Vx100Ax3600秒=4.32・106Jと大きい。したがって、パルス除氷器システムおよび方法で用いる場合、乗用車バッテリは、最大で約1.5m2の領域を効果的に除氷することができる。この領域は、自動車ウィ
ンドシールドに対しては理想的である。
【0085】
スーパーキャパシタおよびウルトラキャパシタは、ピークパワーおよびピーク容量の両方に対して良好な電源として知られている。あるスーパーキャパシタは、10kJ/kgを貯蔵することができ、1.5kW/kgのパワーを送ることができる(たとえば、マクスウェル・テクノロジ(MaxwellTechnology)製のPC2500スーパーキャパシタ)。電源としては、スーパーキャパシタは、パルス除氷器システム内のラミネート90ととともに用いることに非常に適していることが考えられる。
【0086】
軽い複合材料で形成されたフライホイールを発電機に結合することによって、別のエネルギー貯蔵器が得られる。あるフライホイールは、最大で約2MJ/kgまで貯蔵することができ、また発電機と結合すれば、パワー密度として約100kW/kgを送ることができる。一例としては、モータ−発電機は最初、モータとして動作して、フライホイールを高スピードまで回転させる。モータは、低電力源たとえば100ワット〜1000ワット源(たとえば、バッテリ)を用いる。ピークパワーが必要な場合には、モータ発電機のコイルを、低電力源から外して、低インピーダンス負荷(たとえば、電気伝導層96)に接続することによって、フライホイールに貯蔵された運動エネルギーを熱に転化させる。
【0087】
パルス方法除氷器のある用途では、高電気インピーダンスの(たとえば、自動車ウィンドシールド除氷器の抵抗性加熱素子)を用いても良く、したがって高電圧電源を必要としても良い。たとえば、自動車ウィンドシールド除氷器は、約120ボルトを、また最大で240ボルトまでを用いても良い。この電圧は、典型的な乗用車バッテリの出力電圧(たとえば、約12ボルト)およびスーパーキャパシタの電圧(たとえば、約2.5ボルト)を上回っている。バッテリ・バンクを用いて電圧を上げる代わりに、DC/ACインバータまたはステップ・アップDC/DCコンバータを用いて電圧を上げることができる。
【0088】
薄い電気加熱層(たとえば、電気伝導層96、図7)が、要求されるエネルギーおよび除氷熱慣性を下げるのに有用である。層96として用いても良い材料の例は、薄い金属ホイル、たとえばステンレス鋼ホイル、チタンホイル、銅ホイル、およびアルミニウムホイルである。金属、合金、伝導性金属酸化物、伝導性繊維(たとえば、カーボン・ファイバ)および伝導性ペイントをスパッタリングすることも用いて良い。層96の典型的な厚みは、約50nm〜100μmの範囲であっても良い。しかし他の範囲、たとえば約10nm〜1mmの範囲も用いて良い。
【0089】
1つの任意の実施形態においては、保護層98が、層96を過酷な環境から保護するように構成されている。たとえば、層98は層96を、磨耗、侵食、高速衝突、および/または引っかきから保護する。保護層98は、誘電体でも伝導体でも良く、また層96に直接塗布しても良い。たとえば層96は、熱伝導特性が比較的良好で、機械的強度が比較的高くでも良い。保護層98として用いても良い材料の例としては、TiN、TiCN、タングステン・カーバイド、WC、Al203、SiO2、Cr、Ni、CrNi、TiO2、およびAlTiOが挙げられる。保護層98を層96に塗布することを、スパッタリング、化学的気相成長法(「CVD」)、物理的気相成長法(「PVD」)、および/またはゾル・ゲル方法(たとえば、シリカ粒子のコロイド懸濁液をゲル化して固体を形成する)。スパッタリングは、当業者に知られている。これは、基板を真空チャンバ内に配置することを含んでいても良い。受動的ソース・ガス(たとえばアルゴン)によって生成されたプラズマによって、イオン衝撃を発生して基板上のターゲットに向けて送ることによって、基板材料を「スパッタリング」する。スパッタリングされた材料は、チャンバ壁および基板上に集まる。CVDおよびPVD技術も当業者には知られている。
【0090】
パルス法の除氷器に必要とされるエネルギーは、基板特性(たとえば、方程式1−1、1−2、1−4の
【0091】
【数18】
)に依存する可能性があるため、基板材料が低密度、低熱容量、および/または低熱伝導性である場合には、除氷パワーを下げることができる。多くのポリマーは、積(ρSCSλS)が小さく、一方で金属は、積(ρSCSλS)が大きい。固体発泡体も積(ρSCSλS)は小さい。ガラスの積(ρSCSλS)は、典型的なポリマーのそれよりも大きいが、金属のそれよりは比較的小さい。応用例に依存して、基板の断熱材94は、約100nm〜1mmの厚みとすることができるが、通常は約0.1mm〜20mmの厚みである。
【0092】
図8に、一実施形態による1つのパルス除氷器加熱素子100を示す。加熱素子100は、対象物上の氷の界面層の融解を、パルス状のエネルギーを受け取ることによって、たとえば図1の方程式にしたがって、行なうように構成されている。たとえば、パワーを、加熱素子100に端子101および102において加えて、加熱素子100が氷の界面層を融解するようにしても良い。本明細書で説明したような電源によってパワーを加熱素子100に加えて、氷の界面層を融解しても良い。加熱素子100の応用例に依存するが、氷の界面層を融解することは、対象物の表面から氷を除去し、表面上でのその形成を防ぎ、および/またはその付着強度を変更し、および氷と対象物との間の摩擦係数を変えることに、有用であると考えられる。素子100は、たとえば、除氷すべき対象物表面に、表面内に、または表面に隣接して、配置しても良い。
【0093】
(パルス除氷器システム分析)
次に、種々のパルス除氷器システムのある動作特性について、分析して説明する。以下の典型的な分析では、加熱素子からの熱がどのようにして氷内に拡散して氷を対象物から除去するかを示すために、ある成分値を例示する。
【0094】
図9に、1つのパルス除氷器装置120を示す。例示的に、氷124が熱伝導性基板126に付着して、氷−対象物界面122を形成している。本明細書で説明したような加熱素子を、界面122とともに(たとえば、基板126内に)配置して、パルス状のエネルギーを界面122へ送ることを促進する。基板126が表わす構造は、たとえば航空機翼、乗用車ウィンドシールド、窓、外部鏡、ヘッドライト、ウィンドミルのロータ、建造物、道路構造、橋、冷蔵庫、アンテナ、通信塔、列車、鉄道、トンネル、道路標識、パワー・ライン、高圧線、スキー・リフト構造またはスキー・リフト・ケーブルである。
【0095】
図10に、氷−対象物界面122での温度Tから、氷124および基板126を通しての、所定の時間t(たとえば、t1およびt2)に渡る熱拡散距離を例示的に示す。X軸123は、図9に示す通り、界面122に垂直な距離を表わし、Y軸125は温度Tを表わす各曲線t1またはt2は、界面122の反対側である熱伝導性基板126および氷124内への熱拡散距離に対する時間を表わす。図示したように、各曲線t1およびt2のピークは、Y軸125上の融点温度127にあり、すなわち、界面122において氷の界面層を融解するのに十分な温度である。
【0096】
2つの曲線t1およびt2は、氷の界面層を融解するパルス状のパワーによって決まる。図示したように、t1はt2を下回っており、したがって、より高いパワー・レートに対応している。いずれの曲線t1およびt2の下で加えられるパルス状のエネルギー量も、界面122で氷の界面層を融解するのには十分であるので、このようなパルス状のエネルギーを、t1に従って加えることが好ましい。その結果、より高いパワー・レートを用いることになるが、全体としてはt2と比較して用いるパワーは小さい。
【0097】
より詳細には、X軸123と一致する長さLに渡る拡散時間tに対する以下の方程式を考える。
【0098】
【数19】
ここで、Dは熱拡散係数の係数であり、以下の式によって記述される。
【0099】
【数20】
ここでλは熱伝導性係数、ρは材料密度、およびcは材料の熱容量である。継続時間のより短いパワーのパルスを界面122へ加えることで、加熱される氷の界面層が薄くなる。必要に応じて、加熱パワー継続時間を制御することによって、界面122へのフォーカスが良好になる。一実施形態においては、界面122へ加えられる時間tおよびエネルギーQ(氷124の界面層を周囲温度Tから融点温度127まで加熱するため)は、図1に関連して説明した方程式に従う。図1の方程式を用いることによって、装置120を用いて除氷するときのエネルギーが節約される。加えて、加熱パルス間の時間tを制御して、時間tが氷の成長速度および氷厚みに対する許容範囲によって規定されるようにしても良い。たとえば、氷が、航空機翼上で約3mmの厚みに達したときに、たとえば図6の関連で説明したように、フィードバック・メカニズムによって、装置120が氷124を除去することができる。
【0100】
図11に、一実施形態により、乗用車ウィンドシールドに加えられた、1つのパルス除氷器システムに対する加熱パワー密度への、除氷時間および除氷エネルギー(たとえば、熱エネルギー)の依存性を示す。たとえば、0.5μm層の伝導性の酸化インジウム・スズ(ITO)を、ガラス製で寸法が約10cmx10cmx5mmのウィンドシールドの一方の側にコーティングして、パルス除氷器システム内の加熱素子として用いても良い。氷が、約−10℃の環境においてウィンドシールド上で約2cm厚みに成長したときに、約60HzのACパワーのパルスを加熱素子へ加えて、氷の界面層を加熱する。氷の界面層が融解したらすぐに、重力の力によって氷を除去しても良い。氷の界面層を融解するのに必要な熱エネルギーQは、パワーを加熱素子へ加える時間およびパワー密度に依存しても良い。図11に、このような依存性を例示する。ここで、Y軸132は除氷時間および除氷エネルギーを表わし、X軸133は加熱パワー・レートWを表わす。時間を秒で表わし、エネルギーをキロ・ジュール/m2で表わす。
【0101】
2つのプロット130および131は実質的に、図1の方程式1−4で与えられる理論的な予想に一致する。たとえば、プロット130および131によって、除氷時間が加熱パワー・レートWの2乗に反比例し、一方で、熱エネルギーQは加熱パワー・レートWの1乗にほぼ反比例することが、示されている。したがって、このようなパルス除氷器システムによって、氷を対象物から除去するために、または対象物上でのその形成を防ぐために、加熱素子へ送られる平均のパワーの大きさが小さくなる。
【0102】
(HF除氷器システム)
次に、HF除氷器システムについて説明する。HF除氷器システムはたとえば、対象物の表面から氷を除去するために用いられる。前述したように、HF除氷器システムによって対象物−氷間の界面において氷の界面層を融解して、表面への氷の付着を剥離、変更、および/または破壊するようにしても良い。氷の付着が剥離されたらすぐに、氷を表面から、たとえば重力および/またはウィンドシアの力によって、除去しても良い。
【0103】
図12に、一実施形態によるHF除氷器システム140を示す。HF除氷器システム140は、バイファイラ巻きコイル141が誘電体基板142上に埋め込まれている。例示的に、氷および/または雪143は、誘電体基板142の表面144に付着した状態で示されている。コイル141に誘電体層をコーティングして、機械的および環境的な劣化を防ぐように、および/または空気の電気絶縁破壊を防ぐようにしても良い。コイル141の巻き線は、誘電体基板142上で距離Dだけ間隔が開けられている。パワーをコイル142に、たとえば図1の方程式に従って加えると、HF除氷器システム140が、氷および/または雪143の付着を表面144から剥離しまたは変更する。次に、HF除氷器システム140の典型的な動作特性について説明する。
【0104】
典型的な氷の平方メートル当たりのキャパシタンスは、以下の通りである。
【0105】
【数21】
また平方メートル当たりのHFのコンダクタンスは以下の通りである。
【0106】
【数22】
ここでDはメートルで示し、Tはケルビンで示す。空気の電気絶縁破壊は、ほぼ以下の値の電圧VBで起こる。
【0107】
【数23】
海面で計算し、また空気絶縁破壊の電界として約30kV/cmを用いているため、平均2乗平方根D(rms)電圧VBはほぼ以下の値となる。
【0108】
【数24】
デザイン上の好みの問題として、最大電圧は、(方程式10−4)のVBの約70%であると決定した。これは安全上の考慮からである。したがって、Vmaxを以下のように決定した。
【0109】
【数25】
方程式12−2および12−5を組み合わせることで、最大加熱パワーWmaxが以下のように決定される。
【0110】
【数26】
HF除氷器システム140の除氷時間を、以下の方程式に従って、「安全な」電圧を加えることによって、ヒューリスティックに決定する。
【0111】
【数27】
コイル141内で0.5mmワイヤを仮定し、安全な電圧として600ボルトrmsを仮定して、HF除氷器システム140の除氷時間は、周囲温度−30℃で表面144にて氷143の界面層を融解するのに、約13秒であるとヒューリスティックに決定される。他の除氷時間は、周囲温度−20℃において約4.3秒であり、周囲温度−10℃において約1.2秒であると、ヒューリスティックに決定される。
【0112】
典型的な氷の成長速度は1.5mm/分を超えないことが分かっている。したがって、約3分間ごとに表面144から氷を落としたい(たとえば除氷したい)場合には、除氷に対するおおよその平均パワーを以下のように計算することができる。
【0113】
(方程式12−8)−30℃にて1.75kW/m2。
【0114】
0.2インチ幅の仕切り板に氷がない状態を保つために必要なパワー密度の決定は、40kW/m2の典型的なパワー密度を仮定して、8インチ幅の保護バンドのパワー密度を方程式10−8の各パワー密度に加えることによって行なっても良い。たとえば、5mm幅の仕切り板に8インチ幅の保護バンドが付いたものに対する典型的なパワー密度は、以下のようにして決定される。
【0115】
(方程式12−9)W=40(kワット/m2)・0.2インチ/8インチ=1kワット/m2。
【0116】
したがって、方程式10−9を方程式12−8のパワー密度に加えることによって、以下の結果が得られる。
【0117】
(方程式12−8)−30℃にて4.1kW/m2。
【0118】
したがって、−30℃でのHF除氷器システム140に対するパワー密度(たとえば、4.1kW/m2)は、従来技術のDCヒータのそれの約10%のみである。
【0119】
図13に、一実施形態による他のHF除氷器システム150を例示する。HF除氷器システム150は、複数の電極154が、誘電体基板152上に、インターデジタル電子回路の形態で埋め込まれている。HF除氷器システム150は、氷151を表面156から、電力を電極154にHFのAC電源155から加えることによって、除去する。HF除氷器システム150の除氷特性は、加熱パワー密度が実質的に回路寸法aおよびbに依存することである。ここでaは電極154間の距離であり、bは電極幅である。一実施形態においては、電極154は織り込まれてメッシュになっている。
【0120】
電力を電極154に加えると、図示したように、電界線153が電極154の周りに形成される。HF除氷器システム150では、回路コンダクタンスGは、誘電体基板152上方の電界線153によって引き起こされる平方メートル当たりの回路キャパシタンスCに比例する。たとえば、以下の通りである。
【0121】
【数28】
ε0は自由空間での誘電率(たとえばε0=8.85・10−12F/m)、εは氷の比誘電率、およびσは氷の伝導率である。a=bを仮定して、以下のように結論することができる。
【0122】
【数29】
ここで、lは、aプラスbに等しく、構造周期としても知られている。平均的な電界Eは、以下の通りである。
【0123】
【数30】
ここでVは、除氷器システム150のHFの回路に加えられるrms電圧である。したがって、立方メートルあたりの加熱パワーWは、以下の通りである。
【0124】
【数31】
したがって、最大加熱パワーWmaxがHF除氷器システム150内で、最大可能電界Emax(たとえば、絶縁破壊電界)によって制限される場合には、Wmaxは、以下の方程式に従う。
【0125】
【数32】
したがってこの実施形態においては、Wmaxは、lの増加とともに直線的に増加する。加えて、Wmaxの体積密度WmaxVは、lに依存しない。その理由は以下の通りである。
【0126】
【数33】
したがって、Wを一定に保つためには、lの増加とともにEを増加させる。したがって、コロナ放電がまったく存在しないようにEを小さくすることができる(たとえば、ポリマー基板および電極絶縁を用いる場合には有益である)。
【0127】
実験的に、HF除氷器システム150を、−12℃において、種々の加熱パワーおよび電圧で、また電極の寸法がa=b=75μm(たとえば、5μmのポリイミド膜たとえばカプトン(登録商標)ポリイミド「カプトン」をコーティングした場合)で、動作させた。以下の結果が得られた。
【0128】
【数34】
新しい寸法a=b=500μm(たとえば、mmの構造周期)を課せば、新しい構造周期と以前の構造周期との比の平方根としてパワー成長を維持する電圧は、以下のような結果になる。
【0129】
【数35】
HF除氷器システム150の利点の1つは、その回路を、曲面上であってもフォトリソグラフィを用いずに製造できるということである。また電界強度を小さくするレートを、実質的にlの増加と同じにすることができる。
【0130】
(HF除氷器システムで用いるためのインターデジタル回路)
以下に、HF除氷器システム内の加熱素子として用いても良いインターデジタル回路の実施形態および分析を示す。加熱素子は、HF−ACパワーをAC電源から受け取るように構成しても良く、また対象物の表面−氷間の界面で氷の界面層を融解するために用いても良い。氷の界面層が融解したすぐに、氷を除去または再凍結しても良いが、これは、以下のセクション「摩擦係数操作の方法」で後述されるように所望する応用例に依存する。
【0131】
図14に、一実施形態による図13のHF除氷器システム140の分析を示す。この分析では、改善されたa/b比が所定のlに対して決定される。たとえば、
【0132】
【数36】
ここでG’はセル当たりのコンダクタンスである。コンダクタンスがキャパシタンスに比例するため、G’はセル当たりキャパシタンスに以下のように比例する。
【0133】
【数37】
方程式14−2から、加熱パワーを以下のように決定することができる。
【0134】
【数38】
ここで0≦a≦lである。図14のグラフに示すように、Eを一定に保つと、最大加熱パワーWmaxに、a/l≒0.576である点159で到達する(たとえば、l=a+bであるので近似a≒bが比較的良好である)。加熱パワーWは、a=b=0.5lであるならば、最大加熱パワーWmaxのほぼ97%である。また図14のグラフでは、比10%および90%が個々の点157および158で例示されており、これらの点では、加熱パワーWが最大加熱パワーWmaxの17%および43%である。対照的に、電圧が一定に維持されると、電極(たとえば、寸法「b」)が広くなるにつれて、加熱パワーの量が増加する。
【0135】
図15に、一実施形態による典型的なインターデジタル回路の組立図160−163を示す。図15のインターデジタル回路は、除氷器システム、たとえば前述したHF除氷器システムおよびパルス除氷器システムで、用いても良い。図160では、インターデジタル回路を最初に、厚いアルミニウムホイル171の一方の側を硬質陽極酸化することによって(たとえば、「硬質陽極酸化層172」)、組み立てる。図161では、硬質陽極酸化されたアルミニウムホイル171/172を、ポリマー基板174に粘着剤173を用いて物理的に取り付ける。図162に示すように、硬質陽極酸化されたアルミニウムホイル171/172をポリマー基板174に取り付けたらすぐに、アルミニウムホイル171を全体の構造からエッチングおよび/またはパテニングすることによって(たとえば、パテニングされたエッジ175)、電極を形成する。その後、デザインの選択の問題として、構造を曲げるか、または望ましい形状にはめ込む。図163に示すように、アルミニウムホイル171の残りの露出面を硬質陽極酸化して、形成された電極を封入するとともに、曲げによって生じた硬質陽極酸化層172のクラックを直す。
【0136】
図160−163に、インターデジタル回路を形成する方法の1つを示したが、インターデジタル回路を形成する他の方法も本発明の範囲内である。他の方法の例としては、銅ホイルをエッチングおよび/またはパテニングして銅電極を形成し、銅電極をカプトン基板に取り付けることが挙げられる。図16に、カプトン基板上の銅インターデジタル回路の一例を示す。
【0137】
図16には、一実施形態による典型的なインターデジタル回路180の2つの図を示す。インターデジタル回路180は、銅陽極181、インターデジタル電極182、銅陰極183、およびカプトン基板184を含んでいる。インターデジタル回路180は、図15で説明した仕方に類似する仕方で形成しても良い。図185に、インターデジタル回路180の等角投影図を示し、図186に、上から見た図を示す。図186に示すように、インターデジタル回路180のピッチによって、インターデジタル電極182の電極間の遠位の間隔が規定される。またインターデジタル回路180のピッチによって、銅陽極181の電極間の遠位の間隔を規定しても良い。インターデジタル回路180のずらしによって、インターデジタル電極182の電極と銅陽極181の電極との間の間隔が規定される。インターデジタル回路180の幅によって、陽極181の電極の幅寸法が規定される。またインターデジタル回路180の幅によって、インターデジタル電極182の電極の幅寸法を規定しても良い。
【0138】
インターデジタル回路180を用いて、対象物と氷および/または雪との間の摩擦を、電力をインターデジタル電極182に加えることによって、変更しても良い。たとえば、図1の方程式に従って、DC電力をインターデジタル電極182に加えても良い。他の例では、AC電力をインターデジタル電極182に加えても良い。
【0139】
一実施形態においては、インターデジタル回路180は、温度変化による対象物と氷または雪との間の自然な摩擦変化と相まって、対象物表面−氷間の界面の摩擦係数を変更する。たとえば、鋼製の対象物「スライダ」が氷上をスライドして速度が3.14m/秒の場合に、氷上のスライダの摩擦係数は、−15℃での0.025から−1℃での0.01へと降下する。スライダと直接接触する氷の温度を上げるために、インターデジタル回路180は、HF電界を用いて直接氷を加熱することもできるし、またはスライダの表面を加熱することもできる。
【0140】
インターデジタル回路180を、通常氷および雪と接触しているスライダ表面に取り付けても良い。ACまたはDC電力のいずれかをインターデジタル回路180に加えて、スライダの表面を加熱しても良い。たとえば、図1の方程式に従って電力をスライダの表面に加えることによって、氷および/または表面を加熱しても良いし、またスライダ表面と氷との間の摩擦係数を変えても良い。
【0141】
一実施形態においては、HFのAC電力をインターデジタル回路180に加えて、氷を直接加熱する。HFパワーをインターデジタル回路180の電極に加えると、図13の電界線153などの電界線が、氷の界面層内に浸透して、ジュールの電気加熱が氷内に、以下のように発生する。
【0142】
(方程式16−1)Wh=σi・E2
ここで、Whは、立方メートルあたりのワットで示した加熱パワーであり、σiは氷または雪の伝導率であり、Eは電界強度である。電界が氷または雪に浸透する深さは、インターデジタル回路180の電極間の距離d、またはピッチ、とほぼ同じである。したがって、加熱パワーWhは以下の方程式に従う。
【0143】
【数39】
ここでVはrmsAC電圧である。方程式16−2のパワーWhは、単位体積当たりの電気パワーに関係しているが、氷/スライダ界面の平方メートル当たりのパワーWsの方が重要である。平方メートル当たりのパワーWsを見積もるために、パワーWhに加熱層の厚み、ほぼd(すでに示した)をかける。したがって、平方メートル当たりのパワーWsは、以下の方程式のようになる。
【0144】
【数40】
電界強度Ebの空気の電気絶縁破壊によって制限されることが考えられる。すなわち、
【0145】
【数41】
方程式16−3および16−4から、スライダ単位領域当たりで測定したHF電圧の最大加熱パワーに対する関係が、以下のように導き出される。
【0146】
【数42】
−10℃での実質的に純粋な氷の場合、高周波数(たとえば、10kHz超)での氷の伝導率は、約2・10−5S/mである。伝導率σiの値、電界強度Eb、および距離D≒0.25mm(たとえば、HF除氷器内の典型的な寸法)を方程式16−5に入力して、HF−加熱パワーに対する最大限度が定められる。
【0147】
(方程式16−6)Ws≦45kW/m2。
【0148】
氷の界面層の温度をΔTだけ上げるために用いられる、より現実的なパワーは、以下の方程式に従って計算することができる。
【0149】
【数43】
ここでvはスライダ速度、ρは氷または雪の密度、aはスライダ幅、Cは氷の比熱容量、lDは氷または雪内の熱拡散長である。熱拡散長lDは、以下の形である。
【0150】
【数44】
ここでtは、氷の特定の位置がスライダと接触している時間で、以下の形である。
【0151】
【数45】
ここでLはスライダの長さであり、Dは熱拡散係数であって以下の形である。
【0152】
【数46】
ここでλは、氷または雪の熱伝導率である。方程式16−8、16−9および16−10を方程式16−7へ代入することによって、氷とスライダとの間の摩擦係数変更するためにの以下のパワー見積もり値が得られる。
【0153】
【数47】
実際的な数値例として、全体の幅がほぼa=10−1mで長さがL=1.5mである2つのスキーでインターデジタル回路180を用いて、スキーと雪との間の摩擦係数を変更する。スキーは速度v=10m/秒で移動していると仮定する。雪の密度ρは、以下の通りである。
【0154】
【数48】
雪の界面層の温度変化ΔTは、以下の通りである。
【0155】
(方程式16−13)ΔT=1℃。
【0156】
雪の比熱容量Cは、以下の通りである。
【0157】
【数49】
これらの値から、必要なパワーの見積もり値Wspeedを以下のように計算することができる。
【0158】
(方程式16−15)Wspeed=134W。
【0159】
実際に雪と常に接触しているのは、スキーのほんの一部だけであると考えられるため、必要なパワーの見積もり値Wspeedは、さらに小さくなって、以下のように、Wspeedの一部、またはWspeed−fractionとなる可能性がある。
【0160】
【数50】
ここでWはスキーヤの重量であり、Hは雪の圧縮強度をパスカル(Pa)で示したものである。スキーヤが重く(たとえば、100kg)、H=105Paの場合、Wspeed−fractionは、以下のように計算することができる。
【0161】
【数51】
したがって、摩擦係数を変更するのに必要なHFパワーは、以下の通りである。
【0162】
【数52】
この実施形態では、インターデジタル回路180の応用例の1つを示しているが(たとえば、スキーへの応用)、当業者であれば、インターデジタル回路180を用いて氷と他の対象物(たとえば、スノーボードおよびスノー・シューズを含む)の表面との間の摩擦係数を変更しても良いことを、理解するであろう。
【0163】
(HF除氷器システム分析)
次に、種々のHF除氷器システムのある動作特性について分析し、説明する。以下の典型的な分析では、ある成分値を変化させて、種々の条件を例示する。たとえば、環境条件を変える、および/または熱伝達方法を変えるなどである。
【0164】
図17に、氷伝導率および氷誘電率の周波数依存性を例示するグラフ190を示す。グラフ190では、Y軸193は誘電率εを表わし、X軸194は周波数を表わしている。またグラフ190では、図16のインターデジタル回路180インターデジタル回路用のHF加熱パワーがまとめられている。
【0165】
電気伝導性材料を電界E内に置くと、立方メートル当たりの熱密度Wは以下のように発生する。
【0166】
(方程式17−1)W=σE2
ここで、σは材料の電気伝導率(たとえば、氷の伝導率)である。方程式17−1から明らかなように、熱密度は伝導率に直線的に比例し、電界強度に二次関数的に依存する。したがって、加熱レートを上げるためには、すなわち除氷時間を短くするためには、氷伝導率および/または電界強度を上げれば良い。
【0167】
氷の電気伝導率は、温度、周波数、および氷中の不純物に依存する。氷と対象物の表面との間の摩擦係数を変更するために用いるACパワーの周波数を調整することによって、氷伝導率を例示的に上げる。したがって、氷伝導率の周波数依存性は、以下のように書いても良い。
【0168】
【数53】
ここでσSおよびσ∞は、それぞれ氷の静的およびHF伝導率であり、ωはACパワーの径方向周波数であり、τDは氷の誘電緩和時間である。
【0169】
グラフ190では、典型的な温度環境である約−10.1℃において周波数が増加すると、伝導率が変化する。たとえば、曲線191では周波数が増加すると伝導率は増加するが、曲線192では周波数が増加すると伝導率は減少する。したがって、曲線191および192は、HF加熱パワーの周波数を調整することで氷−対象物界面の伝導率を変える異なる方法を例示している。
【0170】
グラフ190では、−10.1℃において、氷の電気伝導率は、ほぼ10kHzにて約0.1S/mである。氷の伝導率は、温度が下がると急激に減衰する。すなわち、−30℃での氷の伝導率は、−10℃での氷の伝導率よりも、約1桁小さい。
【0171】
HF除氷器加熱素子、たとえば図16のインターデジタル回路180の寸法は、氷の伝導率および所望の加熱レートに依存することが考えられる。すなわち、平方メートル当たりの熱W’を氷の界面層の厚み内で、印加電圧Vを用いて電極間の距離dで発生するときには、電界強度Eは以下の方程式に従う。
【0172】
(方程式17−3)E=V/d。
【0173】
したがって平方メートル当たりの熱W’は、以下の式に従う。
【0174】
(方程式17−4)W’=W・d。
【0175】
方程式17−1〜17−4を組み合わせた後に、平方メートル当たりの加熱パワーが、以下のように導き出される。
【0176】
(方程式17−5)W’=σ・V2/d。
【0177】
一例として、乗用車ウィンドシールドに対する典型的な加熱密度は、約1kW/m2であり、典型的な印加電圧Vは約100ボルトである。これらの値および氷伝導率に対する値を方程式17−5で用いることによって、電極のピッチに対して約0.1mmの値が得られる。この例では、電極ピッチに対する典型的な見積もり値を示しているが、他の実施形態では異なっていても良い。たとえば、氷伝導率および電極寸法は、電極を覆う保護層の厚みおよび電気特性に依存しても良い。
【0178】
図18に、一実施形態によるHF除氷器を特徴づける典型的な回路200を示す。回路200は、AC電源201、キャパシタ203、キャパシタ204、抵抗器202、および抵抗器205を有している。抵抗器202は、電源201とキャパシタ203とに結合し、電源201の内部抵抗を表わす抵抗Rsを有している。抵抗器205は、キャパシタ204に並列に結合し、氷の抵抗を表わす抵抗Riを有している。キャパシタ204は、氷の層のキャパシタンスを表わすキャパシタンスCiを有している。キャパシタ203は、抵抗器205とキャパシタ204とに結合され、除氷電極(たとえば図12に示して説明したコイル141)上の保護誘電体層のキャパシタンスを表わすキャパシタンスCdを有している。回路200は、本発明のある除氷システムをシミュレートし分析するのに適した電気回路図を表わしている。
【0179】
図19〜23では、一実施形態による回路200のあるテスト分析をグラフで例示しており、ここでは、回路200において、誘電体層が電極を包んでいる(たとえば、図16のインターデジタル回路180などの回路において、誘電体層が電極を包んでいる)。この実施形態においては、回路200の特徴は、以下の表19−1のようであっても良い。
【0180】
(表19−1)
【0181】
【数54】
【0182】
【数55】
【0183】
【数56】
ここでε0は自由空間での誘電率、fは増分周波数、ωは径方向周波数でfの関数、Tは増分周囲温度(K)、τDは氷の誘電緩和時間、εSは氷の静的誘電率、εinfは氷の高周波数誘電率、σinfは氷の高周波数伝導率、σ0は氷の静的伝導率、εは氷誘電率(たとえば、周波数fおよび温度Tの関数)、σは氷伝導率(たとえば、周波数fおよび温度Tの関数)、dは保護誘電体層の厚み、εdは保護誘電体層lの誘電率、Vは電圧、Ziは氷のインピーダンス(たとえば、周波数f、温度T、および距離dの関数)、Z(f、T、d)は、氷が電極を覆っている場合の総回路インピーダンス(たとえば、周波数f、温度T、および距離dの関数)、Iは印加電流(たとえば、周波数f、温度T、および距離dの関数)、Piは、氷を加熱するために送られるパワー(たとえば、周波数f、温度T、および距離dの関数)、εWは水に対する誘電率、σWは水に対する伝導率、RWは水の抵抗、CWは水のキャパシタンス、Z(T、d)は、氷が電極を覆っている場合の総回路インピーダンス(たとえば、周波数fおよび距離dの関数)、ZWは水に対するインピーダンス(たとえば、周波数fおよび距離dの関数)、IWは印加電流(たとえば、周波数fおよび距離dの関数)、およびPWは水に送られるパワー(たとえば、周波数fおよび距離dの関数)である。電力を、以下の場合の両方に対して計算した。すなわち、氷が電極を覆っている場合、および氷が融解して水が電極と接触している場合である。
【0184】
図19では、加熱パワーの、電極上の誘電体コーティングの厚みに対する依存性を、加熱パワーが20℃の蒸留水中で発生した場合(すなわち、プロット210)、および−10℃の氷中で発生した場合(すなわちプロット211)について例示する。図19では、Y軸213は、m2当たりの加熱パワーを表わし、およびX軸212は、誘電体コーティングの厚みをメートルで表わす。この実施形態においては、コーティングはアルミナ・コーティングであった。ACパワーの周波数は、電圧が約500ボルトrmsの場合に約20kHzであった。コーティング厚みが約25μmの場合に、水および氷に対する加熱パワーはほぼ等しい。
【0185】
図20では、加熱パワーの、周波数に対する依存性を、加熱パワーが20℃の蒸留水中で発生した場合(すなわち、プロット220)、および−10℃の氷中で発生した場合(すなわちプロット221)について例示する。図20では、Y軸223は加熱パワーをワット/m2で表わし、X軸222は周波数をHzで表わす。周波数が約20kHzの場合に、水および氷に対する個々の加熱パワーは等しい。氷が融解する除氷器上のコールドまたはホット・パッチを防ぐために、水および氷に対する加熱パワーをマッチングさせることは、有用なことである。
【0186】
図21では、加熱パワーの、温度に対する依存性を、加熱パワーが水中で発生した場合について例示する(たとえば、プロット230)。図21では、Y軸は231は加熱パワーをワット/m2で表わし、X軸232は温度をKで表わす。したがって、HF除氷器の電極上の誘電体コーティングを用いて、除氷器性能を調整しても良い。
【0187】
図22では、熱伝達係数(ワット/m2・K)の空気速度(m/秒)への依存性を例示する(すなわち、プロット240)。図22では、Y軸241は熱伝達係数hを表わし、X軸242は速度vを表わす。図22は、平坦なウィンドシールド上の除氷および/または防氷に対するHFパワーの計算を決定する際に役立つことが考えられる。図22で用いるウィンドシールドのサイズは0.5mである。例示した実施形態においては、回路200は、ウィンドシールドに適用する際に、除氷モードおよび防氷モードなどの異なるモードを有するHF除氷器として動作する。表19−2に、乗用車ウィンドシールドに対する対流熱交換係数を計算する際に用いるマスキャド・ファイルを示す。
【0188】
(表19−2)
【0189】
【数57】
ここで、vは空気速度、Lはウィンドシールド表面の長さ、Reはレイノルズ数の範囲105〜107、h(v、L)は熱伝達係数(たとえば、電圧およびLの関数)、kは空気熱伝導率、およびPrは空気プラントル数、νは空気運動粘度係数である。この実施形態においては、約30m/秒および長さが約0.5mの場合の熱伝達係数h(v、L)は、89.389W/m2Kであった。したがって図22は、熱伝達係数h(v、L)の、空気速度に対する関係をグラフで例示している(プロット240)。
【0190】
図23では、回路200の最小限のHFパワーWminの、外部温度T(°)に対する依存性を、車両速度が10m/秒の場合(プロット252)、20m/秒場合(プロット251)、および30m/秒の場合(プロット250)ついて、例示している。図23では、Y軸253は最小限のHFパワーWmin(ワット/m2)を表わし、X軸254は温度Tを表わす。以下の表19−3(マスキャド・ファイル)に、ウィンドシールドの外面を約1℃に維持するための最小限の加熱パワーWmin示す。
【0191】
(表19−3)
【0192】
【数58】
ここで、Sはウィンドシールド領域である。
【0193】
すなわち、プロット250、251、および252は、回路200を用いて車両の速度vに従ってパワーを印加することについて決定を下す際に、役立つことが考えられる。
【0194】
図24〜26では、図18の回路200の他の分析をグラフで例示しており、ここでは、回路200において、誘電体層が電極を包んでいる(たとえば、図16のインターデジタル回路180などの回路において、誘電体層が電極を包んでいる)。この実施形態においては、回路200の特徴は、以下の表24−1(マスキャド・ファイル)のようであっても良い。
【0195】
(表24−1)
【0196】
【数59】
【0197】
【数60】
ここで、変数は、表19−1で見られるものと同じであるが、値は異なっている。たとえば、σWは、水に対する伝導率であって、同じ値5x10−4S/mである。
【0198】
図24〜26では、加熱パワーの依存性を、加熱パワーが20℃の蒸留水中で発生した場合(個々の図24、25、26のプロット261、270、281)、および−10℃の氷中で発生した場合(個々の図24、25、26のプロット260、271、280)についてグラフで例示しており、図ごとに誘電体層の厚みが異なっている。すなわち、10−5m(図24)、10−6m(図25)、2・10−5m(図26)である。図24、25および26に示した加熱パワーは、ACパワーの周波数に依存している。周波数が増加すると、氷の界面層を融解するために用いられる印加パワーの量は横ばいになる。AC電圧は約500vであった。図24から示されるように、コーティング厚みが約10μm(10−5m)の場合には、水および氷に対するそれぞれの加熱パワーは実質的に等しい。
【0199】
図27〜29では、回路200のあるテスト分析をグラフで示しており、ここでは、回路200をスライダ(たとえば後で詳述するようなもの)に適用している。この実施形態においては、スライダの下での雪温度の変化を考慮に入れている。回路200の特徴は、以下の表26−1(マスキャド・ファイル)のようであっても良い。
【0200】
(表27−1)
【0201】
【数61】
ここでpは雪密度、xは、スライダから雪内部への距離、Cは、雪の熱容量、λは雪の熱伝導係数、Wは加熱パワー、Dは雪の熱拡散係数、tは、パワーを加える継続時間、aはスライダ幅、Lはスライダの長さ、Vはスライダ速度、yは積分変数、Wspeedは、スライダのスピードに対する加熱パワー、およびΔは過熱温度Δである。
【0202】
図27に、スライダからの距離に対する雪過熱温度Δ(たとえば、摂氏温度℃)の依存性を例示する。図27では、Y軸295は過熱温度Δ(℃)を表わし、X軸294はスライダからの距離(メートル)を表わす。加熱パワーWが約1キロ・ワット/m2であるとして、プロット290、291、292、および293は、加熱パルスのおおよその継続時間がt=0.1秒、0.2秒、0.5秒、および1秒の場合に対する温度依存性を、それぞれ例示する。図28に、HFパワーとして密度1000ワット/m2を加えたときの、雪スライダ界面温度の、時間に対する依存性(プロット300)を例示する。図28では、Y軸301は過熱温度D(℃)を表わし、X軸302は時間(秒)を表わす。
【0203】
図29に、スライダが約30m/秒の速度vで移動しているときに、界面温度を1℃だけ上げるのに必要な加熱パワーを例示する。図29では、Y軸311は加熱パワーWspeedを表わし、X軸312は速度vを表わす。この例では、スライダが約5m/秒で移動する場合に、加熱パワーは約100ワットである。加熱パワーWspeedが、速度vに対してプロットされている(プロット310)。
【0204】
図30〜35に、1つの除氷器システムの対流を通しての熱伝達、および1つのHF除氷器システムの基板を通しての熱伝達の1つの分析を例示するグラフを示す。この例では、定常解(たとえば、一定パワー)を典型的に特徴づけている。図30に、熱伝達係数hcの、空気速度に対する依存性(プロット320)を、円筒形のエアロホイル(航空機翼の前縁)を仮定した場合について示す。図30では、Y軸321は熱伝達係数hcを表わし、X軸322は速度vを表わす。エアロホイルに対する熱伝達係数hcは、以下の表30−1にしたがって計算しても良い。
【0205】
(表30−1)(マスキャド・ファイル)
【0206】
【数62】
ここでvは空気速度であり、Dはエアロホイル直径である。レイノルズ数として約1.9x105を用いた場合に、熱伝達係数hcのおおよそ半分が、エアロホイルの前方セクションに起因すると考えられる。
【0207】
一例では、熱伝達係数hcとして約165ワット/m2KをHF除氷器で用いた場合に、パワーWとして平方メートル当たり約4.5キロ・ワットが生成される。除氷器には、厚みdで熱伝導性係数がλdのポリマー層が含まれている。氷が除氷器上に、厚みLで成長する。氷の熱伝導係数はλであり、氷の加熱される界面層の厚みは、ほぼ1つの電極間間隔または約0.25mmである。氷の界面層の定常状態での過熱温度であるΔ=Ti−Ta(ここでTiは界面温度であり、Taは周囲温度である)を、以下の表30−2(マスキャド・ファイル)に従って計算しても良い。
【0208】
(表30−2)
【0209】
【数63】
図31に、定常状態(定常解)の過熱Δ(℃)の、氷厚み(メートル)に対する依存性を示す。図31では、Y軸335は過熱dを表わし、X軸336は厚みLを表わす。プロット330では、定常状態の過熱(℃)の、氷厚み(メートル)に対する依存性を、理論的に完全な絶縁層を除氷器とエアロホイルとの間に仮定した場合について示し、一方でプロット331では、2mm厚みのテフロン(登録商標)膜が除氷器とエアロホイルとの間にある場合に対する依存性を示す。除氷性能は、厚みがほぼ1mmを超えたとき(理論的に完全な絶縁層の場合に点333、2mm厚みのテフロン(登録商標)膜の場合に点334)に、最大となる。
【0210】
図32に、定常状態過熱Δ(℃)の、電極サイズ(メートル)に対する依存性を(プロット340)、完全な絶縁層および1cm厚みの氷を仮定した場合について示す。図32では、Y軸341は過熱Δを表わし、X軸342は電極サイズlを表わす。この例では、氷の界面層上でバブリングが見られる場合がある。バブリングは、氷の気化(たとえば蒸気)の結果であり、110℃超によって過熱された証拠である。
【0211】
動作環境で用いたときに、除氷器の性能は、研究室環境で達成される性能よりも良好であることが考えられる。たとえば、エアロホイル上で成長している大気の氷は、物理的特性が固体氷の物理的特性とは異なっている。大気の氷には、未凍結の水および/または気泡が含まれている可能性がある。大気の氷に対するこれらの付加物によって、氷の熱伝導性および密度が下がることが考えられる。たとえば、水の熱伝導性はほぼ0.56W/mKであるのに対し、固体氷の熱伝導性はほぼ2.22W/mKである。氷の界面層(たとえば、除氷器に隣接する氷の層)は、残りの氷よりも温度が高く、また水を含んでいる場合がある。
【0212】
熱交換の除氷器を運転環境条件で用いた場合のモデリングは、氷の熱伝導係数λを約0.5W/mKと2.22W/mKとの間の数であると概算することによって、行なっても良い。一例を、以下の表30−3に従って計算する。
【0213】
(表30−3)
【0214】
【数64】
図33に、定常状態(定常解)の過熱Δ(℃)の、氷厚み(メートル)への依存性を示す。図33では、Y軸355は過熱Δを表わし、X軸356は厚みLを表わす。プロット350では、定常状態の過熱(℃)の、氷厚み(メートル)への依存性を、理論的に完全な絶縁層を除氷器とエアロホイルと間に仮定した場合について示し、一方でプロット351では、2mm厚みのテフロン(登録商標)膜が除氷器とエアロホイルとの間にある場合に対する依存性を示す。除氷性能は、氷厚みがほぼ1mmを超えたとき(理論的に完全な絶縁層の場合に点352、2mm厚みのテフロン(登録商標)膜の場合に点353)に最大となる。
【0215】
不均一な電力パワー分布が除氷電極付近に存在することによって、氷の界面層のバブリングが生じる場合もある。たとえば、電極表面の局所的なパワー密度は、電界強度の変動が原因で、平均的なパワーを約1桁だけ超す可能性がある。したがって、パワーが平均的なパワーを超える場所で電極が氷の界面層を加熱する速度は、他の場所で蒸気を発生させるために加熱する速度よりも速いことが考えられる。
【0216】
時間に依存する解の結果は、定常状態の解の結果と異なることが考えられる。たとえば、氷は熱拡散係数の小さい材料であるので、HFパワーが氷の界面層へ加えられたときに、「熱波」が氷の中を伝搬する。したがって、氷の薄い層を、氷の熱絶縁層と考えても良い。したがって、除氷器がパワーを加えるのは、主にその層のみであると考えられる。時間に依存する温度曲線Δ(x、t)(図4のプロット360、361、362、363)は、以下の表30−4に従って計算しても良い。
【0217】
(表30−4)(マスキャド・ファイル)
【0218】
【数65】
ここでρは氷密度、Cは氷の氷熱容量、λは氷の熱伝導係数、xはヒータからの距離、Wは平方メートル当たりの印加パワー、Dは熱拡散係数、およびtは、パワーを印加する(たとえば、熱パルスとして)継続時間である。図34に、パワーWとして約4.5キロ・ワット/m2を、固体氷、未凍結水、および気泡からなる大気の氷の混合物(熱伝導係数λが1W/m・K)に、200秒、100秒、25秒、および5秒の時間でそれぞれ加えた場合に対する、プロット360、361、362、および363を例示する。図34では、Y軸365は過熱Δを表わし、X軸366はヒータからの距離を表わす。
【0219】
界面温度(すなわち、氷の界面層の温度)の典型的な拡散時間τは、以下の表30−5に従って計算される。
【0220】
(表30−5)(マスキャド・ファイル)
【0221】
【数66】
図35に、界面温度が時間に依存する様子を例示するために、界面の過熱温度Δ(℃)の、時間に対する依存性を示す。図35では、Y軸371は過熱Δを表わし、X軸372は時間を表わす。短パルスの加熱を加えた場合に、熱エネルギーを最小限にして、かつ依然として氷の界面層を融解するようにすることができる。たとえば、熱エネルギーを以下の表30−6に従って計算しても良い。
【0222】
(表30−6)(マスキャド・ファイル)
【0223】
【数67】
ここでtは、氷の界面層の所望の過熱温度Δに到達するのにかかる時間であり、Qは、その温度に到達するのに必要な総熱エネルギーである。図1の場合と同様に、総熱エネルギーQは実質的に印加パワーWに反比例しており、パワー出力がより高い除氷器を用いることで、総電力が節約されることが考えられる。
【0224】
(サーマル・トランスファ除氷器システム)
以下の実施形態においては、サーマル・トランスファ除氷器システムについて説明する。サーマル・トランスファ除氷器システムは、対象物の表面から氷を除去するために用いても良い。一部の実施形態においては、以下のシステムを用いて、氷の界面層を融解し、また対象物表面と氷の界面の摩擦係数を変更しても良い。一例では、このようなサーマル・トランスファ除氷器システムが、熱エネルギーを貯蔵して、熱エネルギーを加熱源から加熱素子に、断続的に伝達(または加熱供給)する。
【0225】
図36に、一実施形態による1つのサーマル・トランスファ除氷器システム460を示す。サーマル・トランスファ除氷器システム460を、2つの状態、460Aおよび460Bで例示する。サーマル・トランスファ除氷器システム460は、電源464、断熱材462、加熱素子466、メンブレン470、およびメンブレンバルブ468を含んでいる。サーマル・トランスファ除氷器システム460は、氷472を、航空機、航空機翼、タイヤ、自動車ウィンドシールド、ボート、航空機、道路、橋、歩道、冷凍機、冷蔵庫、建造物、滑走路、および窓などの対象物の表面(たとえば、メンブレン470の外面471など)から除去するように構成されている。サーマル・トランスファ除氷器システム460は熱貯蔵器となっていて、熱が貯蔵されたらすぐにそれを熱パルスとして氷−対象物界面に、必要に応じて加えるようになっていても良い。電源464には、スイッチング電源、バッテリ、キャパシタ、フライホイール、および/または高電圧電源が含まれていても良い。キャパシタは、スーパーキャパシタまたはウルトラキャパシタであっても良い。
【0226】
状態460Aでは、メンブレン470は、メンブレンバルブ468を通るガスによって膨張されている。典型的なガスには、空気、または熱絶縁特性を有する他のガスが含まれていても良い。パワーを加熱素子466へ加えると、パワーはある大きさの熱エネルギーに変換されて、加熱素子466に貯蔵される。状態460Bに示すように、加熱素子466に貯蔵された熱エネルギーは界面層473へ、メンブレン470を収縮させることによって、伝達される。メンブレン470が収縮されるときに、熱エネルギーが加熱素子466から界面層473へ伝達されて界面層473を融解し、その結果、氷472が除去される。一実施形態においては、状態460Bは、氷472の界面層を融解するのに必要な間だけ維持される。
【0227】
図37に、一実施形態による1つのサーマル・トランスファ除氷器システム480を示す。サーマル・トランスファ除氷器システム480を、2つの状態、480Aおよび480Bで例示する。サーマル・トランスファ除氷器システム480には、電源484、断熱材486、および加熱素子482が含まれている。サーマル・トランスファ除氷器システム480は、氷492を、対象物493の表面491から除去するように構成されている。対象物493は、本明細書で説明した対象物の種類であっても良い。サーマル・トランスファ除氷器システム480は熱貯蔵器となっていて、熱が貯蔵されたらすぐにそれを熱パルスとして表面491での氷−対象物界面に、必要に応じて加えて、界面氷を融解するようになっていても良い。
【0228】
状態480Aでは、加熱素子482が、断熱材486を「サンドイッチする」2つの層482Aおよび482Bとして示されている。断熱材486は、加熱素子層482Aと482Bとの間に移動可能に取り付けられていて、両方の層がスライドして互いと接触するようになっている。電源484は、ある大きさのパワーを加熱素子482に加える。電源484は、1つまたは複数の図36に記載した電源であっても良い。パワーを加熱素子482へ加えると、パワーが熱エネルギーに変換される。層482Aが層482Bと接触状態にあると、熱エネルギーが加熱素子482から氷492の界面層へ、界面層を融解するのに十分な量で伝達する。一実施形態においては、加熱素子層482Aと482Bとを互いに対して頻繁に動かすことで、断熱材486が周期的に層482Aと482Bとを熱的に絶縁して、熱エネルギーが表面491での氷の界面層に周期的に伝達されるようにする。熱エネルギーを周期的に伝達することで界面層に実現する平均のエネルギーによって、対象物に氷がない状態が維持される。
【0229】
加熱素子482は、伝導性材料で形成されていても良く、たとえば金属、金属合金ホイル、誘電体基板上の薄い金属層、基板上の薄い金属酸化物層、伝導性ポリマー膜、伝導性ペイント、伝導性粘着剤、ワイヤー・メッシュおよび伝導性繊維などである。透明の導体の例としては、Sn02、ITO、TiN、およびZnOが挙げられる。伝導性繊維の例としては、カーボン・ファイバが挙げられる。
【0230】
図38に、一実施形態による1つのサーマル・トランスファ除氷器システム500を示す。熱エネルギー伝達除氷器500には、電源504、加熱素子502、水ポンプ508、タンク506、およびチューブ510が含まれている。サーマル・トランスファ除氷器システム500は、氷512を対象物の表面511から除去するように構成されている。サーマル・トランスファ除氷器システム500は、熱貯蔵器として動作して、熱が貯蔵されたらすぐにそれを熱パルスとして表面511での氷−対象物界面に加えることができるようになっていても良い。
【0231】
電源504は、パワーを加熱素子502へ加える。電源504は、1つまたは複数の図36に記載した電源であっても良い。パワーを加熱素子502へ加えると、パワーが熱エネルギーに変換される。加熱素子502は、タンク506内の熱伝導性液体の温度を上げる。熱伝導性液体には、水またはいくつかの他の熱伝導性液体が含まれていても良い。熱伝導性液体を、チューブ510を通して、ポンプ508によってポンピングする。熱伝導性液体がチューブ510内へポンピングされると、熱エネルギーが表面511での氷512の界面層へ伝達される。熱エネルギーが界面層へ伝達されると、氷512の付着が、表面511から剥離される。一実施形態においては、熱伝導性液体が頻繁にチューブ510を通してポンプ508によってポンピングされて、熱エネルギーが界面層に実質的に周期的に伝達されることで、界面に熱エネルギーが供給されてこのエネルギーが平均化され、対象物から氷がない状態が維持される。
【0232】
図39に、パルス除氷器システム520を示す。システム520は、図37および38のサーマル・トランスファ除氷器システムと、以前に説明したシステム(たとえば、図1のシステム)との間の違いを対照させるために示している。この実施形態においては、氷528は例示的に、表面531に、表面531に隣接する対象物−氷界面において、付着している。パルス除氷器システム520には、電源524、1つまたは複数の加熱素子526、ならびに層522Aおよび522Bが含まれている。パルス除氷器システム520は、氷528を、層522Bの表面531から除去するように構成されている。たとえば層522Bは、除氷すべき対象物、たとえばウィンドシールド、である。
【0233】
加熱素子526は、層522B内に埋め込まれ、また電源524に電気的に接続されて、パワーを電源524から受け取る。一例では、層522Aおよび522Bは、ウィンドシールド内でまたはウィンドシールドとして用いるための実質的に透明な材料で形成されている。電源524からパワーが加熱素子526(透明であっても良い)へ送られると、熱エネルギーが加熱素子526から放射されて、層522Bの表面531に対する氷528の付着が剥離される。一実施形態においては、電源524からパワーが加熱素子526へ、図1の方程式に従って送られる。電源524は、たとえば、1つまたは複数の図36に記載した電源であっても良い。
【0234】
したがってパワーを加熱素子526へ加えると、パワーがある大きさの熱エネルギーへ変換される。熱エネルギーが、表面531での氷の界面層528へ伝達されて、表面531上への氷528の付着が剥離される。一実施形態においては、パワーが頻繁に加熱素子526に律動的に送られて、熱エネルギーが界面層に実質的に周期的に、方程式1−1に記載されるような周期的な継続時間の間、伝達される。
【0235】
比較として、サーマル・トランスファ除氷器システムの電源(たとえば、図37および38でのそれぞれの電源484および504)から、パワーが加熱素子に送られ、次にこのパワーによって熱エネルギーが生成される。次に、サーマル・トランスファ除氷器システムは、熱エネルギーを、熱エネルギーとして氷−対象物の界面に加えられるまで、貯蔵する。
【0236】
パルス除氷器システム520の加熱素子526は、たとえば、金属、金属合金ホイル、誘電体基板上の薄い金属層、基板上の薄い金属酸化物層、実質的に透明の導体、伝導性ポリマー膜、伝導性ペイント、伝導性粘着剤、ワイヤー・メッシュおよび/または伝導性繊維で形成されていても良い。透明の導体の例としては、Sn02、ITO、TiN、およびZnOが挙げられる。伝導性繊維の例としては、カーボン・ファイバが挙げられる。また加熱素子526には、パワーを熱エネルギーへ変換するように構成された半導体デバイスが、含まれていても良い。複数の加熱素子を用いることによって、必要なエネルギー全体を、分割することまたは別個に決定することができる。たとえば、表面531のセグメント535が、その領域内の氷の界面層の融解に必要とするエネルギーは、表面531全体に対する氷の界面層を融解する場合と比べて、かなり小さい。したがって、氷528の付着を剥離するために瞬時に必要なエネルギーは、セグメントまたはセクションの全体に順次にパルス的に送って氷528を表面531全体から時間をかけて別個に剥離したときに、小さくなる。
【0237】
図40に、一実施形態による1つのサーマル・トランスファ除氷器システム540を示す。サーマル・トランスファ除氷器システム540には、熱伝導体542(たとえば、「ホット・プレート」)、誘電体プレート546、および加熱素子544(たとえば、薄い金属ホイル)が含まれている。サーマル・トランスファ除氷器システム540は、対象物上の氷545の界面層を、熱エネルギーをパルス状にして氷545へ送ることで融解するように構成されている。たとえば、サーマル・トランスファ除氷器システム540は、加熱パワーが加熱素子544に加えられたときに氷545の界面層が融解するように、対象物の表面に対して位置づけられていても良い。
【0238】
一実施形態においては、熱伝導体542によってパワーが熱エネルギーに変換される。熱エネルギーは熱伝導体542から加熱素子544へ、誘電体プレート546中の孔547を通して伝達される。一例では、熱伝導体542が振動して、熱伝導体542が加熱素子544に接触したときに、熱伝導体542から熱エネルギーが加熱素子544へ伝達されて、次にこの熱エネルギーが氷の界面層を融解するようにする。サーマル・トランスファ除氷器システム540の応用例に依存するが、氷の界面層を融解することは、対象物の表面から氷を除去し、表面上でのその形成を防ぎ、またはその付着強度を変更し、および氷と対象物との間の摩擦係数を変えることに、有用であると考えられる。
【0239】
一実施形態においては、サーマル・トランスファ除氷器システム540を、「パルス・ブレーキ」として用いる。この場合には、熱伝導体542が、スライダの底面(氷と接する)に取り付けられた加熱素子544に接触したときに、加熱パルスが熱伝導体542から加熱素子544へ伝達される。ブレーキングが必要なときには、熱伝導体542が加熱素子544に数ミリ秒の間、誘電体プレート546中の孔547を通して接触して、氷が融解する「ホット・スポット」が形成される。熱伝導体542を引っ込めた後、通常、融解スポットは数ミリ秒で凍結して、スライダ底面と氷との間に結合が生じる。
【0240】
パルス・ブレーキのパラメータの1つは、氷/雪が融解してそして再凍結するのにかかる時間である。界面の冷却が氷または雪とスライダ底面との間で行なわれた場合、その時間は、以下のように見積もっても良い。
【0241】
【数68】
ここで、Tmは氷の融解温度、Tは周囲温度、λは熱伝導性係数、ρは材料密度、およびcは材料の熱容量(添え字「snow」は氷および/または雪を示し、添え字「ski」はスライダ底面として用いられる材料を示す)、Wは平方メートル当たりのパワー、Qは、分散すべき熱エネルギー、およびSはスライダ底面領域である。
【0242】
図41に、図36の一実施形態により作製されテストされた1つのサーマル・トランスファ・システム560を示す。この実施形態においては、サーマル・トランスファ・システム560には、約6インチの直径および1mm厚みの2つのアルミニウム・ディスク562および563が含まれている。一実施形態においては、ディスク562および563の内面をラッピングおよびバフ仕上げして、光放射率を減らす。ディスク562および563の外面を、約15%の硫酸溶液中で陽極酸化して、厚みが約10μm〜12μmの酸化アルミニウム被膜を得る(硬質陽極酸化)。ディスク562および563を、プレキシガラス・リング569に、ゴム製Oリング570Bによって取り付ける。ディスク562および563をさらに、プレキシガラス・リング572に、したがってバルブ571に、ゴム製Oリング570Aによって取り付ける。
【0243】
またサーマル・トランスファ・システム560は、ディスク563に取り付けられた加熱素子565を含み、また電力を電源566から受け取って、パワーを熱エネルギーに変換するように構成されている。加熱素子565は、カプトン・ポリイミド基板568に封入されたカーボン・ホイルを含んでいる。熱電対564がディスク563に、加熱素子565内の孔579を通して、熱伝導性の接着剤によって取り付けられていても良い。この実施形態においては、熱電対564は、加熱素子565から熱がディスク563に伝達されたときに、ディスク562の温度を制御するように構成されている。一実施形態においては、電源566は、約20Vを供給するように構成されたDC電源である。
【0244】
真空ポンプがバルブ571に物理的に結合して、「低温」および「高温」ディスクを接触させ、熱エネルギーを高温ディスクから低温ディスクへ伝達しても良い。たとえば、電源566がパワーを加熱素子565へ供給するときに、加熱素子565がパワーを熱エネルギーへ変換して、そのエネルギーをディスク563へ伝達することによって、高温ディスクが形成される。真空ポンプが空気をチャンバ573から引いて、チャンバ573を潰し、そしてディスク562をディスク563と接触させる(たとえば、低温ディスク)。ディスク562がディスク563に接触したらすぐに、ディスク563の熱エネルギーがディスク562へ伝達する。熱エネルギーの伝達がもはや要求されないときには、真空ポンプによってチャンバ573を空気で膨張させて、ディスク562と563とを分離する。
【0245】
約−10℃において、および氷がディスク562およびサーマル・トランスファ・システム560上に垂直位置で成長している場合、ほぼ10〜25ワットのパワーが加熱素子565に加えられたときに、ディスク563が約20℃まで加熱される。真空ポンプが空気をチャンバ573から引いて、ディスク562および563が互いに接触するようにしたときに、氷577がディスク562から、たとえば重力によって、除去される。通常、空気がチャンバ573内で用いられるが、他の断熱ガスを代わりに、チャンバ573内で用いても良い。
【0246】
(サーマル・トランスファ除氷器システム分析)
以下の説明では、種々のサーマル・トランスファ除氷器システムを分析し、その動作特性を示す。たとえば、キャパシタンスが既知(たとえば、図18のCi)のある温度における氷などの種々の材料の特性を分析する。これらの分析では、成分値によって、種々の条件、たとえば環境条件および/または熱伝達方法などを例示する。
【0247】
図42−46に、サーマル・トランスファ除氷器システムの1つの典型的な分析を例示するグラフを示す。この例では、サーマル・トランスファ除氷器システムは、第1および第2の熱伝導体と、熱容量が等しい加熱素子とを有する。このシステムは、空気ギャップを介しての自然対流の熱交換Nuによって特徴づけることができる。すなわち、2つの熱伝導体が互いに接触したときに、加熱素子が第1の熱伝導体を加熱して、第2の熱伝導体の温度を約275.5Kにする。このようなシステムは、以下の表42−1によって特徴づけることができる(図41のディスク562、563間の空気の自然対流に対するヌッセルト数を計算する)。
【0248】
(表42−1)(マスキャド・ファイル)
【0249】
【数69】
ここで、Tsは基板材料(ディスク562)の温度、Thは加熱素子(ディスク563)の温度、υは空気運動粘度、Lはディスク562および563間の距離、gは重力加速度、β空気熱膨張係数、Prは空気プラントル数、Tmは氷融解温度、TSはディスク562の増分温度、Δは温度差、Raは空気レイリー数、Nu1、Nu2はヌッセルト数である。
【0250】
したがって図42(プロット580)に、ヌッセルト数の、外部温度(低温ディスク562)に対する依存性を示す。表42−2では、ディスク562および563間の自然対流熱伝達率が計算されている。
【0251】
(表42−2)(マスキャド・ファイル)
【0252】
【数70】
ここで、λaは空気の熱伝導性係数、Wc/2は、ヒータがディスク563をTsからThへ加熱しするときの、平均的な熱伝達率である。図42では、Y軸581は対流Nuを表わし、X軸582は基板材料の温度Tsを表わす。図43(プロット590)に、空気ギャップを通しての平均的な熱損失Wcを示す。図43では、Y軸591は対流熱伝達Wc/2、X軸592は基板材料の温度Tsを表わす。
【0253】
図44に、背面絶縁材(たとえば、第1の熱伝導体を支持する絶縁材、プロット600)を通しての熱伝達Winを例示する。この実施形態においては、絶縁材は、硬質ポリウレタン発泡体であり、厚みlが約0.025mで熱伝導性係数λaが約0.026である。ヒーティング・トランスファWinを、以下の表42−3に従って計算することができる(背面絶縁層を通しての熱損失)。
【0254】
(表42−3)(マスキャド・ファイル)
【0255】
【数71】
したがって、空気ギャップを通しての放射熱伝達WRは、以下の表42−4に従って計算しても良い(放射を通しての熱損失)。
【0256】
(表42−4)(マスキャド・ファイル)
【0257】
【数72】
ここで、εは、ディスク562および563エミッタンスのエミッタンスであり、σはステファン・ボルツマン定数である。表42−4から、放射熱伝達WRを、図44の温度Ts(TsおよびTmは前に定義済み)の関数としてプロットすることができる(プロット600)。図44では、Y軸601は放射熱伝達WRを表わし、X軸602は基板材料の温度TSを表わす。
【0258】
図45に、加熱素子からの平均的な総熱損失Wを例示する(プロット610)。図45では、Y軸611は平均的な総熱損失Wを表わし、X軸612は基板材料の温度TSを表わす。加熱素子の温度はTmとThとの間で反復するため、加熱素子と環境との間での平均的な温度差は、ほぼ(3/4)*(Th−Ts)である。平均的な総熱損失Wは、以下の表42−5に従って計算しても良い(環境に対する総熱損失)。
【0259】
(表42−5)(マスキャド・ファイル)
【0260】
【数73】
図46に、1つのサーマル・トランスファ除氷器システムで用いられる電源からの平均的なパワーWmを例示する。図46では、Y軸623は平均的なパワーWmを表わし、X軸624は温度を表わす。平均的なパワーの結果を、3つの周囲コールド・プレート温度Tsの関数として表わす(プロット620、621および622)。加熱素子を基板材料の温度TSからThまで加熱するのに必要な熱エネルギーの総量Qを、2つの成分Q1およびQ2として計算する。Q1は、加熱素子の熱容量に起因する熱エネルギーであり、Q2はヒータから環境へトランスファされる熱エネルギー(システムからの総エネルギー損
失)である。熱エネルギーの総量Qは、以下の表42−6に従って計算しても良い。
【0261】
(表42−6)(マスキャド・ファイル)
【0262】
【数74】
ここで、dは加熱素子の厚み、tは、熱が交換される継続時間(たとえば熱パルスに対する)、Cは材料熱容量、λは熱伝導性係数、ρは材料密度(添え字「i」は氷および/または雪を示し、添え字「s」は基板材料、大抵はアルミニウム合金を示す)、TSは基板の温度、Thは加熱素子の温度、およびTmは氷の温度である。この例のサーマル・トランスファ除氷器システム(除氷は3分間(180秒)ごと)で用いられる電源からの平均的なパワーを、以下の表42−7に従って計算しても良い
(表42−7)(マスキャド・ファイル)
【0263】
【数75】
一例では、前述の特性を有する除氷器システムは、エアロホイル(たとえば、航空機翼)除氷器に対して有用である。このような除氷器システムは、1mm厚みのアルミニウム合金で形成することができ、小さいエアロホイルの前縁(すなわち、航空機翼の前方の露出部分)の後方に取り付けることができる。この例では、エアロホイルは長さが約20cmで、厚みが約5cmである。除氷器の寸法は約20cmx10cmである。空気スピードが約142km/時、ほぼ−10℃で約20μmの水滴の場合に、大気の氷がエアロホイル上に形成される。氷が約5mm〜10mmの厚みまで成長した後に、コンピュータシステム(たとえば、図6のコントローラ78)から電源に命令が出てパワーを除氷器に加えて、エアロホイル表面への氷の付着を実質的に変更および/または破壊するように、エアロホイル表面上の氷の界面層を融解する。その結果、氷をエアロホイル表面から、空気抵抗力によって除去することができる。このような例のエアロホイル・システムを作製およびテストして、表42−7の理論的な予想に非常に近い性能を証明した。
【0264】
(摩擦係数操作の方法)
以下の実施形態では、対象物表面(たとえば、スライダの一部として)と氷または雪との間の摩擦係数を変更する。一例では、図4のシステム40のようなシステムにおいて、図1の方程式を用いて、スライダと雪との間の摩擦係数に影響を及ぼす(たとえば、図47および48に関連して説明するように)。このようなシステムによって、特定の応用例によって決まるような表面界面と雪との間の引っ張り力の増加または減少を助けることができるたとえば、本明細書で説明されるあるスライダでは、このようなシステムを、スライダが雪を渡って移動するときにスライダをブレーキするためのパルス・ブレーキとして用いている。
【0265】
図47および48では、一実施形態によるスライダ、たとえばスキーまたは自動車タイヤの特性を例示する。スライダは、スライダ基板632および加熱素子633を含んでいる。加熱素子633は、スライダ基板632に取り付けられていて、氷および/または雪630と直接に接触状態となることができる。加熱素子633は、パワーを電源から、たとえば図1の方程式に従って、受け取ることができるように構成されている。
【0266】
図48に、パワーが加熱素子633にパルス形態で加えられたときの、スライダ基板632および氷630内での温度拡散を例示する。たとえば、図48では例示的に、所定の時間tの間に氷630および基板632の中を通る熱拡散距離をX軸636に沿って、氷−対象物界面でのT軸639に沿っての温度変化Tの関数として示す。曲線t1は、所定のパルス継続時間に対する、氷630内および基板632内への熱拡散によって生じる温度変化を表わす。図示したように、曲線t1のピークは、T軸639上のある温度638においてである。温度638は、氷630の界面層を融解するのには十分である。曲線t1の下の斜線領域(m)は、融解した界面層を表わす。
【0267】
パワーを加熱素子633へ加える前に、周囲温度を点637で表わす。パワーのパルスが加熱素子633へ加えられたらすぐに、素子633の温度が、上昇し始めて、氷630内へ距離631だけ(氷の界面層630の距離)、および基板632内へ、トランスファする。この温度は、氷が融解し始める点635まで上昇し、そしてパルス・パワーが加えられる継続時間の間、上昇し続ける。熱エネルギーによって、氷630の薄い界面層(m)が融解する。パワーが加熱素子633から取り除かれたらすぐに、温度は下降し始めて、融点635を下回る(曲線t2)。加熱素子633の温度が減少すると、スライダ基板632に対する氷630の付着力が、再凍結によって変更される。この再凍結によって、基板632に対する氷630の付着力が増加して、加熱素子633の界面でのスライダのブレーキングが助長される。
【0268】
一実施形態においては、スライダの特性は、図10の方程式に従う。たとえば、X軸636に一致する長さLに渡る拡散時間は、以下のような形態であっても良い。
【0269】
【数76】
ここでDは熱拡散係数であって、以下のように示される。
【0270】
【数77】
ここでλは熱伝導係数、ρは材料密度、cは材料の熱容量である。すなわち、方程式11−1および11−2では、氷630および基板632内に捕捉される熱エネルギーは、時間tの平方根に比例する距離に渡って拡散することが例示されている。加熱素子633にパワーを加える継続時間が短いほど、影響を受ける氷の界面層の厚さは薄くなる。一実施形態においては、加熱素子633に加える時間tおよびエネルギーQ(氷の界面層630を周囲温度Tから融点温度Tm(融点638)まで加熱するため)は、図1で説明した方程式に従う。
【0271】
図49に、氷−対象物界面での摩擦変化のテスティングを例示するために、1つのスライダ640を示す。スライダ640は、アクリル製スライダ644、力センサ642、および加熱素子646(たとえば厚みが約12.5μm〜25μmの範囲のTiホイル)を含んでいる。スライダ640が用いる加熱素子646は、スライダ640に隣接する氷の界面層641を、層への熱エネルギーを、たとえば図1の方程式に従ってパルス状にすることによって、融解する。パワーを加熱素子646へ、端子645および647で加えて、加熱素子646が氷の界面層641を融解するようにしても良い。氷の界面層641は、融解するとすぐに、周囲温度の方が冷たいために再凍結して、氷641とスライダ644との間に結合が生じる。
【0272】
力センサ642は例示的に、スライダ644から氷641の方へ加えられる力に関する力情報を受け取る。力センサ642は、このような情報をコントローラ643へ、パワーを加熱素子646へ加える方法を決定するために、中継しても良い。そして本明細書で説明したような電源によって、パワーを加熱素子646へ供給して、氷の界面層641を融解しても良い。氷641の界面層を融解することによって、スライダ640に対する氷641の付着強度が変更され、氷641とスライダ644との間の摩擦係数が変化する。
【0273】
図50および51に、一実施形態により1つのスライダ650をスキー654の形態で応用する例を例示する。スライダ650は、金属加熱素子652(たとえばTiホイル)を含み、この金属加熱素子652は、スキー表面651に結合されている。スキー表面651は、雪653と接触状態になる。加熱素子652は、雪653の層へのエネルギーを、たとえば図1の方程式に従ってパルス状にすることによって、表面651と接する界面の雪の層を融解するように構成されている。パワーはたとえば、本明細書で説明した複数のデバイスの1つによって、加熱素子652に加えられる。雪653の界面層は、融解したらすぐに、周囲温度の方が冷たいために再凍結して、雪653と表面651との間に結合が生じる。結合によって、雪653に対する引っ張り力が、氷とスライダ650との間の摩擦係数が変更されることで改善される。
【0274】
図51に示すように、スライダ650は、バインディング658も含んでいても良い。スイッチ660がバインディング658とともに配置されていて、パワーを加熱素子652へ送る仕方を制御するようになっている。スイッチ660の一例は機械的スイッチである。またスイッチ660には、マニュアル・スイッチ、スキー動作スイッチ、圧力作動スイッチ、加速度計、遠隔制御スイッチ、および/または動作センサが含まれていても良い。このような各スイッチをスライダ650とともに用いて、氷の界面層の加熱および再凍結を作動させて、所望の摩擦係数を得ても良い。
【0275】
より詳細には、図50ではさらに、加熱素子652をスキー654に取り付けることができる仕方が示されている。図51では、スキー・ブーツ656がバインディング658内に挿入されている。必要に応じて、スキー・ブーツ656を用いてスイッチ660を制御することで、パワーを加熱素子652に加えても良い。パワーは、本明細書で説明した電源によって供給しても良い。一例では、ブーツ656がスイッチ660をトリガしたときに、スイッチ660によってパワーが電源から加熱素子652へ伝えられて雪653の界面層を融解することによって、スキー654と雪653との間の摩擦係数を変更する。
【0276】
図52に、スノーボード674の形態の1つのスライダ670を例示する。スライダ670は加熱素子672を含み、この加熱素子672は、スノーボード674の底面675に取り付けられている。表面675は、スノーボード674の動作中に、雪と接触状態になる。スライダ670の動作特性は、図50および51のスキー654のそれと類似していても良い。また加熱素子672は、一実施形態によれば、スノーボード674の内部にあるが、表面675と熱連絡しているようであっても良い。
【0277】
図53にシューズ684の形態の1つのスライダ680を例示する。スライダ680は、金属加熱素子682(たとえばTiホイル)を含み、この金属加熱素子682は、ヒール688およびソール686に取り付けられている。ヒール688およびソール686は、人が、雪の上または氷の上を歩いたときに、雪または氷に接触する。また加熱素子682は、ヒール688の最も外側と熱連絡する限り、シューズ(show)684(またはヒール686)の内部にあっても良い。加熱素子682は、薄い伝導性膜(たとえばTiN膜、Cr膜)を、ポリマー基板(たとえばカプトン、ABS)上またはセラミック基板(たとえばガラス・セラミック、ジルコニア・セラミック)上にスパッタリングしたもので形成しても良い。パワーを加熱素子682へ加えて、加熱素子682が、ヒールおよび/またはソール688、686に隣接する氷の界面層を融解するようにする。氷または雪の界面層は、融解するとすぐに、周囲温度のせいで再凍結し、その結果、ヒールおよび/またはソール688、686に対する氷または雪の結合が生じる。パワーを加熱素子652へ、たとえば図1との関連で説明したように加える。一実施形態においては、スライダ680は、小さいバッテリ683(たとえば、Dセル・バッテリ)を、電源として用いる。図4のスイッチ48などのスイッチによって、電源からのパワーが加熱素子682へ接続される。一例では、ユーザがスイッチをトリガしたときに、スイッチによってパワーがバッテリ683から加熱素子682へ伝えられて、氷または雪の界面層が融解されおよびシューズ684と氷または雪との間の摩擦係数が変更されることで、シューズ684の引っ張り力が助長される。
【0278】
図54では、タイヤ692の形態の1つのスライダ690を例示する。スライダ690は、金属加熱素子694を含み、この金属加熱素子694はタイヤ692に埋め込まれている。パワーを加熱素子694へ加えて、加熱素子694が、氷または雪693の界面層を融解するようにする。氷の界面層693は、融解するとすぐに、周囲温度のせいで再凍結し、その結果、氷/雪693とタイヤ692との間に結合が生じる。パワーを加熱素子694へ、本明細書で説明した複数の技術のうちの1つによって、加えても良い。
【0279】
一実施形態においては、スライダ690は乗用車バッテリを、その電源として用いる。一例では、加熱素子694は薄い金属ワイヤを含み、この薄い金属ワイヤは、パワーを受け取ってそのパワーを熱エネルギーへ変換して、タイヤ692と接触している氷の界面層/雪693を融解するように、構成されている。さらに、スライダ690は、図6のコントローラ78などのコントローラを含んでいて、そのパワーを、図1の方程式に従って制御可能に加えるようになっていても良い。一実施形態においては、ユーザはスイッチを作動させることで(たとえば、本明細書で説明した他の実施形態と同様に)、タイヤ692と氷および雪693で覆われた道路表面との間でさらに引っ張り力が必要なときに、パワーを加熱素子694へ加える。一例では、ユーザがスイッチを、乗用車内のコンソール上の事前に構成されたボタンを押圧することによって、トリガしたときに、スイッチによってパワーが電源から加熱素子694へ伝えられて、氷および雪693の界面層が融解され、その結果、界面層が再凍結して雪/氷693上のタイヤ692の引っ張り力が増加したときに、タイヤ692と道路表面を覆う氷および雪との間の摩擦係数が変更される。
【0280】
こうして加熱素子694は、加熱パルスをタイヤ692と雪/氷693との間の界面に送ることによって、「パルス・ブレーキ」として動作しても良い。たとえば、ブレーキングが必要なときには、氷の界面層を融解させる。パルスが停止すると、タイヤ692上の融解スポットは通常、周囲温度のせいで数ミリ秒内で再凍結し、その結果、強い結合がタイヤ692と氷/雪693との間で得られる。これらの結合によって、氷/雪693に対するタイヤ692の動きをブレーキングすることが助長される。一実施形態においては、ペルチエ素子695を用いて、融解した氷の界面層をより急速に冷却する。
【0281】
ペルチエ素子695の一例は、電流の大部分を運ぶ一方のタイプの電荷担体(たとえば、正または陰)の半導体ペレットにテルル化ビスマスをドーピングしたもののアレイからなる、熱電モジュールである。正および陰のペレット対は、電気的には直列に接続するが熱的には並列に接続するように、構成されている。メタライズされたセラミック基板によって、ペレット用の台にしても良い。熱電モジュールは、単一で機能しても良いし、直列、並列、または直列−並列の電気接続によってグループで機能しても良い。
【0282】
DC電圧がペルチエ素子695に加えられると、ペレット・アレイ内の正および陰の電荷担体によって、熱エネルギーが一方の基板表面から吸収されて、対向して位置する基板に放出される。熱エネルギーが吸収される表面によって、可動部分、コンプレッサ、またはガスを用いることなく、温度を下げることができる。対向して位置する基板では、熱エネルギーが放出されるが、結果として温度が増加する。
【0283】
図55に、1つのスライダ700のテスト構成を例示して、スライダが、隣接する雪または氷に対する摩擦に影響を及ぼす方法を示す。スライダ700は、複数の金属製加熱素子を含み、これらの金属製加熱素子は、タイヤの電気伝導性ゴムを示す領域704に埋め込まれている。パワーが加熱素子712に加えられて、氷714の界面層が融解する。氷の界面層は、融解するとすぐに、周囲温度のせいで再凍結して、氷714とスライダ700との間に結合が生じる。
【0284】
一実施形態においては、加熱素子712は、薄い金属ワイヤであって、パワーを受け取ってそのパワーを熱エネルギーに変換して、スライダ700と接触している氷の界面層714を融解するように、構成されている。加熱素子の周りの薄い電気絶縁体706によって、加熱素子712を囲んでも良い。加熱素子712がパワーを電源702から受け取ると、加熱素子712はパワーを熱エネルギーに、抵抗を通して変換する。熱エネルギーは、氷714へ、そして加熱領域708内へ伝えられ(熱輻射線710)、加熱領域708で氷の界面層714が融解する。融解した界面氷によって、スライダ700と氷714との間の摩擦係数が変化して、スライダ700と氷714との間の引っ張り力が増加するようになる。摩擦係数は、融解および再凍結が原因で変化し、これはそれぞれ、電力が加熱素子712に加えられそして除去されるときでる。たとえば、図1の方程式1.4に従う継続時間を有する電力のパルスによって、これが熱エネルギーに加熱素子712によって変換したときに、氷の界面層714が融解される。電力のパルスが低くなると、周囲温度の方が冷たいためにまた融解していない氷714のために、領域708は再凍結する。この氷714の融解および再凍結によって、摩擦係数が変更され、また引っ張り力およびブレーキングが向上されることが、たとえば、スライダ700がタイヤまたはスキーなどの対象物のときに起こる。
【0285】
図56に、スノーモービルなどで用いられるトラック724の形態の1つのスライダ720を例示する。スライダ720は、トラック724に埋め込まれた加熱素子722を含む。パワーを加熱素子に加えて、加熱素子722が、トラック724に隣接する氷の界面層を融解するようにする。氷の界面層が融解してパワーをもはや加えないとすぐに、融解した水の界面層は、周囲温度のせいで再凍結して、トラック724に対する氷の結合が生じる。一実施形態においては、スライダ720はバッテリを、電源として用いる。例示的に、トラック724を、トラック・ホイール725の回りに示す。加熱素子722は、薄い金属ワイヤの形態で、または薄い金属ホイルの形態で、パワーを熱エネルギーに変換してトラック724と接触している氷の界面層を融解しても良い。ユーザは、必要に応じてスイッチを作動させて、パワーを加熱素子722へ加えても良い。これはたとえば、ユーザが、トラック724と氷および雪によって覆われる地形との間で、さらに引っ張り力が必要であると決定したときである。ユーザがスイッチをトリガすると、スイッチによってパワーが電源(たとえば、スノーモバイルのバッテリ)から加熱素子722へ伝えられて、氷/雪の界面層が融解され、その結果、その後の再凍結に起因して、トラック724と雪との間の摩擦係数が変更され、雪の上でのトラック724の引っ張り力が増加する。
【0286】
図57に、スキー782の形態の1つのスライダ780を例示する。図781において、スキー780をより詳細に示す。典型的な実施形態においては、スライダ780は、加熱素子784を含み、また動作特性は図50および51のスキー654と同様であっても良い。加熱素子784(説明のために図781では誇張されている)は、Tiホイルもしくは耐摩耗性伝導性ペイント(たとえば、ニッケル・ベースおよび銀ベースのペイント)またはTiNのスパッタリング層などの材料から形成しても良い。加熱素子784は、スキー782の表面に取り付けられており(または他の方法で、表面と熱的に連絡するようになっており)、雪と断続的に接触して、雪または氷の界面を融解することは、たとえば図1との関連で説明した通りである。
【0287】
図781に、加熱素子784をスキー782に取り付けることができる1つの仕方を示す。たとえば、図781には、加熱素子784がスキー782にポスト783を介して取り付けられる分解組立図を示す。ポスト783は通常、金属製導体として形成されていて、電気バス端子として機能し、またダメージから加熱素子784を保護する。ポスト783を用いてパワーを電源から加熱素子784へ伝えて、雪の界面層を融解することによって、スキー782と雪との間の摩擦係数を変更しても良い。
【0288】
一実施形態においては、加熱素子784は、保護コーティング785を含んで、岩からのダメージから保護する。加熱素子784、ポスト783、および基板786は、取り替え可能であっても良い。加熱素子784がペイントの伝導層を含んでいるときには、引っかき傷をタッチ・アップ・ペイント・キットによって修復しても良い。
【0289】
図58には、一実施形態によるタイヤ802の形態の1つのスライダ800を例示する。スライダ800は、加熱ユニット806と、任意の空気排気サブ・システム804とを含んでいる。空気排気サブ・システム804は、自動車空気コンディショナの冷気排気を含んでいても良い。加熱ユニット806は、加熱ランプまたは他の加熱デバイスを含んで、タイヤ802の領域805をパルス状または連続的な熱エネルギーによって加熱しても良い。スライダ800は、車両のバッテリを電源として用いても良い。
【0290】
一実施形態においては、加熱ユニット素子806は、乗用車の空気コンディショナまたはエンジンの排気を含むか用いている。他の実施形態においては、加熱ユニット806は、細かい水霧を発生する水スプレイを含むか用いている。水霧は、乗用車のタイヤを薄い水被膜で覆う。水被膜は、氷と接触すると凍結し、その結果、タイヤと氷との間に強い結合が生じる。
【0291】
他の実施形態においては、加熱ユニット806は、タイヤに接触する高温シリンダを含む。シリンダは、タイヤとともに回転しても良い。高温の回転シリンダの加熱を、乗用車の電気システムによって、乗用車の空気コンディショナによって、および/または乗用車の排気ガスによって行なっても良い。
【0292】
1つの動作例では、加熱ユニット806は、パワーを受け取ってそのパワーを熱エネルギーに変換し、タイヤ802と接触している領域807において氷810の界面層を融解するように構成されている。加熱ユニット806は、パワーを電源から受け取ると、パワーを熱エネルギーに変換して、加熱領域805を形成する。熱に露出される継続時間が短いために、通常は。タイヤ・ゴムの薄い層のみが加熱される。タイヤ802が回転すると、加熱領域805は、領域807において氷810の界面層を融解する。タイヤが回転を続けると、氷の融解層が領域808で凍結し、タイヤ802と氷810との間の摩擦係数がゾーン809で変化する。その結果、タイヤ802と氷810との間に結合が形成されて、タイヤ802と氷810との間の引っ張り力が増加するようになる。
【0293】
タイヤ802は、氷810との間の接触領域がかなり大きいため、タイヤ802のゴムは通常、加熱ユニット806によって再び加熱される前に、再冷却される。そのため、周囲温度が氷の融点よりも低いときには、普通はさらに冷却する必要がない。それにもかかわらず、さらに冷却することを用いても良い。たとえば、乗用車の空気コンディショナからの冷気を用いて、タイヤを排気サブ・システム804を介して冷却しても良い。
【0294】
加熱ユニット806は、熱エネルギーをパルス状にできるため、摩擦係数は不連続的に変化することが考えられる。これは、界面氷810が融解および再凍結することが、それぞれ電力が加えられおよび除去される(たとえば、タイヤ802が、回転とともに徐々に加熱および冷却する)ときに起こる結果である。一実施形態においては、加熱ユニット806は、加熱された金属ブラシを含み、この加熱された金属ブラシは、回転するタイヤ802に押圧されていても良い。ブラシからタイヤ802の表面801への熱流束によって、タイヤ・ゴムの薄い層が加熱されて、その後に界面氷が融解する。
【0295】
加熱ユニット806によって使用される平均的なパワーは通常、周囲温度および乗用車速度に依存するが、約10ワット〜100ワットの範囲であっても良い。ある極端な場合では、約1ワット〜1000ワットの範囲であっても良い。同様にこれらの温度および速度条件に依存するが、タイヤ802のゴムが加熱ユニット806によって照射または加熱される継続時間は、約3ms〜100msであるが、より極端な場合には約1ms〜1sであっても良い。再凍結時間は、パルス除氷器システムの場合とほぼ同じであっても良く、たとえば図1〜6で説明した時間である(たとえば、通常は約1ms〜100msの範囲)。これらの時間を調整して、道路−タイヤ間の接触領域のほとんどが凍結するときの最大引っ張り力が得られるようにしても良い。
【0296】
図59に、一実施形態による1つのスライダ820のテスト構成を例示する。スライダ820は、スライダ界面825および閃光電球826を含む。閃光電球826は、スライダ界面825を光のパルス(たとえば、閃光)で照射するように構成されている。閃光電球826は、パワーを電源822から受け取って氷821の界面層を融解する。閃光電球826は、光をパルス状にして、氷821と接する薄い黒ずんだ層827へ送る。ランプ826のパルス当たりの典型的な継続時間およびエネルギーは、約1ms〜10msで、発生するエネルギーは約1J〜100Jである。
【0297】
一実施形態においては、閃光電球826からの単一の閃光によって氷の界面層821が融解することが、閃光電球826がスライダ界面825を照射したときに起こる。スライダ界面825は通常は透明であって、光が、黒ずんだ層827に入射したときに、閃光からのエネルギーを熱エネルギーに変換する。たとえば、ランプ826からの光(たとえば、可視光または赤外光)が層827によって吸収されて、熱エネルギーに変換される。次に、変換された熱エネルギーは、スライダ820に隣接する氷821の界面層内に吸収される。エネルギーが氷821の界面層によって吸収されると、層は融解する。次に、層は、周囲温度のせいで再凍結して、スライダ824と氷821との間に結合が生じる。
【0298】
(摩擦係数変更分析)
次に、摩擦係数が氷−対象物界面または雪−対象物界面で変更されるある分析について説明する。これらの分析は、摩擦係数の変更を実験的およびグラフ的に例示する。
【0299】
図60に、一実施形態により、あるスライダの摩擦係数とスライダに取り付けられた加熱素子に加えられる電圧との間の典型的な関係を例示するグラフを示す。図2に示すような電気回路を用いて、2.35mFのキャパシタを充電した。次にキャパシタを、加熱素子を通して放電した。図60では、Y軸831は摩擦力を表わし、X軸832は電圧を表わす。グラフ830では2つの同様なスライダが区別されている。各スライダとも加熱素子を有している(一方の加熱素子は、約12.5μm厚みのTiホイルを含み、他方の加熱素子は約25μm厚みのTiホイルを含んでいる)。図示したように、約50Vのパワーを加熱素子に加えたときに、スライダと雪との間の摩擦係数が変化する。約100Vにおいて、雪に対するスライダの摩擦係数は、互いと異なり始める。すなわち、加熱素子材料の厚みは実質的に約100Vまで電圧に無関係であり、このことはデザイン上の検討事項に影響するものと考えられる。
【0300】
図61に、一実施形態により、あるスライダの静的な力と雪の上に及ぼされるスライダの法線圧力との間の典型的な関係を例示するグラフ840を示す。図61では、Y軸841は静的な力を表わし、X軸842は法線圧力を表わす。グラフ840では、2つの同様なスライダが区別されている。各スライダとも、加熱素子を有している(一方の加熱素子は、約12.5μm厚みのTiホイルを含み、他方の加熱素子は、約25μm厚みのTiホイルを含む)。以下の2つのグラフでは、加熱パルスを加えないで測定したときの、同じスライダに対する静的な摩擦力を示す。他の実験的な詳細、たとえばDC電圧(90V)、温度(−11℃)、および図2の回路で用いられるキャパシタは、グラフの挿入図に示す。
【0301】
図62に、一実施形態により、あるスライダの摩擦係数と取り付けられた加熱素子に加えられる電圧との間の典型的な関係を例示するグラフ850を示す。図62では、Y軸853は摩擦力を表わし、X軸852は電圧を表わす。グラフ850では、2つの同様なスライダが区別されている。各スライダとも加熱素子を有している(一方の加熱素子は、約12.5μm厚みのTiホイルを含み、他方の加熱素子は約25μm厚みのTiホイルを含んでいる)。各スライダの平均的な曲線が、特定の印加電圧に付随する摩擦係数の範囲によって決定される。たとえば、スライダとして加熱素子が25μm厚みのTiホイルを有するものは、摩擦係数が約4.9N〜6Nの範囲で変化する(点851)。図62では、周囲温度が融点(−2℃)に非常に近くても、パルス・ブレーキが良好に動作することが示されている。良好なブレーキング力は、−0.5℃であっても実現されている。
【0302】
図63に、1つのスライダの摩擦係数と3.5mm/秒の一定速度でスライディングしている時間との間の典型的な関係を例示するグラフ860を示す。図63では、Y軸863は摩擦力を表し、X軸864は時間を表す。加熱パワーの4つの短いパルスが実験中に加えられ、その間、スライダは約3.5mm/秒の速度で移動していた。1.36mFのキャパシタから電流が加熱素子へ放電された。これは、約110Vにおいて、4つのパルス861で行なわれた。加熱パルスの継続時間は約2.5msであった。スライダに取り付けられた加熱素子が、パワーを電源から、制限された継続時間だけ(パワーのパルスとして)、たとえば図1の方程式に従って受け取った。加熱素子は、そのパワーを熱エネルギーに変換して、その熱エネルギーを表面−氷間の界面へ加えた。加熱素子は、スライダに隣接する雪または氷の界面層を融解した。界面層を融解することによって、スライダ表面での雪の付着力が変更され、スライダと雪または氷との間の摩擦が変化する。各パルス861の間に、摩擦係数が変化する。スライダと雪との間の摩擦が変わることによって、スライダがスライディングに抵抗し、こうして摩擦力が増加する。このことは図63で、摩擦力の鋭いピークとして見ることができる。パルス・エネルギーとパルス間の間隔とを変えることによって、平均の摩擦力を望ましい大きさに調整することができる。当業者であれば、このような調整可能なブレーキを速度測定システムと結合させて、スキーを「クルーズ・コントロール」システムに容易にできることが理解される。スキーヤは、望ましい最大スピードを、本人のためにまたは子供のために事前に設定して、安全なスキーを行なうことができる。
【0303】
図64に、一実施形態により、1つのスライダの摩擦係数と取り付けられた加熱素子に加えられる電圧との間の他の典型的な関係を例示するグラフ870を示す。図64では、Y軸871は摩擦力を表わし、X軸872は電圧を表わす。この実施形態においては、電圧を変化させて、パワーに依存する摩擦係数を求めた。約50Vのパワーを加熱素子に加えたときに、摩擦係数が変化した。約90Vにおいて、雪に対するスライダの摩擦係数は飽和して、その後、約110Vまでほぼ一定である。すなわち、90Vと110Vとの間の電圧によって、摩擦係数を増加させることができる。摩擦係数は実質的に、90Vと110Vとの間では電圧に無関係である。この情報は、スライダ・デザイン用の電源を選択するときに有用である。
【0304】
図65および66に、1つのスライダの熱エネルギーQと冷却時間tcoolとを例示するグラフを示す。図65では、Y軸881は雪の中での熱拡散長LDを表わし、X軸882は時間を表わす。図66では、Y軸891は熱エネルギーを表わし、X軸892はヒータの抵抗を表わす。この例では、最初の10ミリ秒の加熱の間に熱が雪の中に浸透する深さは、たった36μmである。このような薄い雪の層は熱容量が小さく、融点(すなわち273K)まで加熱するのに必要なエネルギーはほとんどない。下表65−1では、10μm厚みの氷の層を融解して界面の雪およびスキー材料をΔ℃だけ加熱するのに用いられる総エネルギーQ(Δ、R)が計算されている。加熱パワーがTに依存しない場合に、その結果が表65−1に示されている。
【0305】
(表65−1)
【0306】
【数78】
図65および66に例示したように、熱拡散長LD(たとえば、プロット880、図65)は、以下のようになる。
【0307】
【数79】
ここでSはヒータ領域、Tmは融解温度、Tは周囲温度、λは熱伝導係数、ρは材料密度、およびCは材料熱容量(添え字「ice」は氷および/または雪を示し、添え字「ski」はスキーまたはスノーボードなどの基板材料を示し、添え字「heater」は加熱素子を示す)、Qは熱エネルギー、Dは熱拡散係数、Δは温度変化を示し、tは時間、Vは電圧、dは厚み、Rは抵抗、Wは平方メートル当たりのパワー、lmeltは融解層の厚み、およびqは融解の潜熱である。したがって、非常に短いパルスの場合、ほぼ全部の熱エネルギーQが、薄い雪の層の融解に用いられる(プロット890、図66)。Qに対する雪およびスキーの熱容量の寄与はほとんどない。以下の表65−2に、融解層に対する再凍結時間の計算を示す。
【0308】
(表65−2)
【0309】
【数80】
表65−3に、パルス・ブレーキ応用例での電源として用いられる一般的なバッテリの典型的な容量を例示する。たとえば、クロス・カントリ・スキーヤが約1時間走行する場合に、一対の小さいAAバッテリをパルス・ブレーキ応用例において用いても良い。
【0310】
(表65−3)
【0311】
【数81】
図67に、スライダがタイヤ902を構成する実施形態における摩擦増大を例示する1つのスライダ900の1つの分析を示す。スライダ900が示すタイヤ902は、ここでの分析を助けるために異なる熱ゾーンを有している。すなわち、φ0は加熱ゾーン、φ1は空気冷却ゾーン、φ2は融解ゾーン、φ3は再凍結ゾーン、φ4は結合ゾーン、ω0はタイヤの角速度、v0は乗用車の線速度、Rはタイヤ902の半径、およびAはタイヤ902の幅である。加熱ーンφ0が、総パワーw’によって均一に加熱されていると仮定して、平方メートル当たりのパワー密度は以下の式に従い得る。
【0312】
【数82】
加熱ゾーンφ0内部の各点は、以下のように時間tの間「表面加熱」され得る。
【0313】
【数83】
たとえば、v0=(30m/秒)(108km/時)および、φ0R=0.1mにおいて、t≒(0.1m秒)/(3・101m)≒3.3・10−3秒であり、および加熱ゾーンφ0は以下のエネルギー密度を得る。
【0314】
【数84】
Qとして最小限のもの見積もり、融解した氷の厚みを10μmと仮定して、以下の式が得られる。
【0315】
【数85】
dはφ2ゾーンで融解した層の厚み、ρiは氷密度、およびqは氷の融解潜熱である。したがって、以下のようになる。
【0316】
【数86】
次に、摩擦係数をμ=0.5まで増加させる再凍結面積の概算を求める。たとえば、2・10−5Paの法線圧力において、μ=0.5に対応する平方メートル当たりの摩擦力は、105Paである。氷/ゴム界面の場合、付着せん断強度は約1Mpaである。したがって、μ=0.5を得るためには、氷/タイヤ接触面積の約10%のみが再凍結する必要があり得る(たとえば、再凍結ゾーンφ3)。氷の融解層の厚みが約3.3μmであるときに、速度v0が約108km/時に等しい場合には、必要なパワーは約500ワットである。同じ厚みにおいて速度v0が約7.2km/時の場合には、必要なパワーは約33ワットのみである。
【0317】
速度v0が20km/時の場合には、タイヤ表面上の各点が氷と接触しているのは、約t=(2・10−1m)/(6m/秒)=30ミリ秒の間であり得る。この時間は、融解および再凍結作用に利用することができ、またこのような作用を行なうには十分に長い。
【0318】
図68および69に、氷の摩擦を、HFパワーの印加(図68)、または低エネルギー加熱パルスの印加(図69)によって小さくした実験結果を、例示する。図68では、Y軸915は摩擦力を表わし、X軸914は時間を秒で表わす。たとえば図68では、摩擦力N対時間を、周囲温度Tが約−5℃、法線圧力Pが約42kPa、およびスライディング速度vが約1cm/秒でスライダが氷上で動いている場合に対して示す。この実施形態においては、摩擦を変更するシステムには、氷と接するスライダ底面に取り付けられたインターデジタル回路が含まれている。インターデジタル回路には、銅クラッド・カプトン・ポリイミド膜が含まれている。またインターデジタル回路には、電極間の間隔が約75μmの銅電極が含まれている。電源から、HF・AC電圧を約30V・rmsおよび約20kHzで電極に供給した。電極によって、氷内に約100ワット/m2密度の熱が発生した。スライダが約(1cm/秒)の速度で動いてパワーを電極に加えると、摩擦力は約40%だけ低い。たとえば、電源からHFパワーを電極に、時点910(たとえば、ほぼ10秒に等しい時間t)で供給した。電極によって、パワーが熱エネルギーに変換されて、氷の方向に拡散した。スライダが、時点912(たとえば、ほぼ13秒に等しい時間t)でスライディングを開始する。この実施形態においては、HFパワーを、時点911(たとえば、ほぼ28秒に等しい時間t)で停止させた。HFパワーがない状態では、氷の摩擦は、4Nから7Nへと上昇する。後者は、パワーをスライダに加えていない状態でのバックグラウンドの氷摩擦力であり、時点913(たとえば、ほぼ33秒に等しい時間t)で終了した。
【0319】
この実施形態においては、連続HF電源によって氷の温度を上げることによって、氷の融解を引き起こすことなく氷の摩擦を小さくし、その結果、摩擦係数を変更している。
【0320】
図69に、摩擦力N対時間を、周囲温度Tが約−10℃、法線圧力Pが約215kPa、およびスライディング速度vが約3mm/秒でスライダが氷上で動いている場合に対して示す。図69では、Y軸925は摩擦力を表わし、X軸926は時間を秒で表わす。この実施形態においては、摩擦を変更するシステムには、薄いチタン・ホイル・ヒータが含まれている。DCパワーの短い加熱パルスをヒータに、時点922および923で加えることで、雪の摩擦を減らす。これは、前述した同じシステムによるブレーキング効果とは対照的である。この実験の主な違いは、パルス・ブレーキングである。図69に示した通り、加熱エネルギーの大きさは、雪の融解には十分ではない。融解層がない状態では、再凍結は起こらず、ブレーキング作用は発生しない。それにもかかわらず、ヒータが雪を加熱するため、摩擦は減少する。図69の実験では、雪の表面をパルスによって加熱して、−10℃から約−1℃にする。スライダは、時点921(たとえば、およそ31秒に等しい時間t)において、氷とスライダとの間の静止摩擦の急激な増加を経る。電源からパルス・パワーが、時点922および923(それぞれ38秒および42秒に等しい時間t)において、電極に供給される。この実施形態においては、スライダは、時点924(時間tが50秒に等しいとき)で停止する。
【0321】
いくつかの実施形態において、インターデジタル回路の電極は、回路の耐摩耗性を高めるために、硬い伝導性材料で形成されている。たとえば、窒化チタン、酸化ジルコニウム(たとえば、ジルコニア)に他の酸化物(たとえば、酸化イットリウム)をドープしたもの、チタンおよびステンレス鋼ホイルにTiNコーティングを施したものである。他の実施形態では、アルミナなどの保護膜のコーティングによって電極保護を設けても良い。
【0322】
前述した方法およびシステムにおいて、その範囲から逸脱することなくある程度の変形を行なっても良いため、前述の説明に含まれるかまたは添付の図面に示されている事項はすべて、説明のためであると解釈すべきであって、限定する意味で解釈すべきではないことが意図されている。また、以下の特許請求の範囲は、本明細書で説明されているすべての属および種の特徴を網羅しており、その範囲の記述はすべて、言い方の問題として、それらの間に存在すると言っても過言ではないことが理解される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷と対象物との間の界面に配置された該氷の層を熱的に融解するエネルギー節約方法であって、本願明細書に記載の方法。
【請求項1】
氷と対象物との間の界面に配置された該氷の層を熱的に融解するエネルギー節約方法であって、本願明細書に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【公開番号】特開2009−255925(P2009−255925A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187891(P2009−187891)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【分割の表示】特願2003−568934(P2003−568934)の分割
【原出願日】平成15年2月10日(2003.2.10)
【出願人】(504303713)ザ トラスティーズ オブ ダートマウス カレッジ (12)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【分割の表示】特願2003−568934(P2003−568934)の分割
【原出願日】平成15年2月10日(2003.2.10)
【出願人】(504303713)ザ トラスティーズ オブ ダートマウス カレッジ (12)
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