説明

永久磁石型回転電機の回転子およびその製造方法

【課題】振動・騒音を悪化させることなく突極性を向上させ、容易に回転位置を検出することができる回転電機の回転子を提供することを目的とする。
【解決手段】回転子2は、回転軸4と、回転軸4の外周側に固定される回転子鉄心5と、回転子鉄心5の外周面に周方向に所定間隔で配設された複数の永久磁石6と、永久磁石6の磁極間に配置された一対の第1導体71とこの第1導体71を電気的に接合する第2導体72とにより各永久磁石6を取り囲むように配設された導通回路7と、各永久磁石6の表面に配設された磁性体8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、整流子を用いずに回転する永久磁石型回転電機の回転子構造およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のセンサレスブラシレスDCモータに用いる永久磁石にて構成した回転子において、回転子の外表面に、該回転子のN極とS極とを区分する極間から、回転子の正回転方向に向かって所定の角度区間(例えば、電気角80〜100°)、また、回転子の逆回転方向に向かって正回転方向側と同様の角度区間にまたがって、導電性の非磁性材料からなる非磁性体層を形成している(例えば、特許文献1参照)。
また、従来のブラシレスモータにおいて、ロータに、各相の駆動コイルに対する電気特性または磁気特性を円周方向に関して変化させた筒状部材を外嵌固定することにより、各相の駆動コイルに対するロータの回転角度に応じてこれら各相の駆動コイルのインダクタンスを変化させている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−56193号公報(段落番号[0010]、図2等)
【特許文献2】特開2006−109663号公報(段落番号[0014]、図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、あらゆる製品への適用が増えつつある永久磁石型回転電機(以下、回転電機とする)において、低コスト化・小型化が求められている傾向にある。それらの要求を満たす手段の一つとして、角度検出装置を必要としないセンサレス駆動方式がある。厳しい環境で使用される製品(例えば電動パワーステアリング装置)に搭載された回転電機においては、位置検出装置が故障した場合でも、センサレスで駆動できることは大きな利点である。
センサレス駆動方式の中で、低速〜高速の全域に渡って位置検出を可能とするために、回転電機の突極性を利用する方法があり、突極性を持たせた回転電機の回転子としては埋め込み磁石型回転子(IPM型回転子)がよく知られている。しかし、IPM型回転子は、回転子内での磁束漏れが大きい、表面磁束密度分布が歪むなどの問題があり、高トルクかつ低振動・低騒音を求められるような製品には不向きであった。
【0005】
そこで、上記従来の回転電機は回転子内の磁束漏れが少ない表面配置型永久磁石回転子(SPM型回転子)を採用し、SPM型回転子に突極性をもたせるために回転子表面に非磁性体あるいは磁性体を配置している。そして、回転電機に電圧を印加した際に生じる固定子側の駆動コイルのインピーダンス変化により、回転子位置を検出している。
しかしながら、上記従来の回転電機では、回転位置を検出するのに十分なインピーダンス変化が得られにくく、例えば特許文献1の回転電機ではインピーダンス変化を大きくするため、印加する高周波電圧の振幅を大きくする必要がある。これにより、高周波電圧の振幅が大きくなると、回転電機の振動・騒音も大きくなるという問題がある。
また、特許文献2の回転電機ではインピーダンス変化を大きくするため、電気特性または磁気特性の円周方向の変化分を大きくする必要がある。このため円筒部材の厚さの変動を大きくして円筒部材の偏心率を大きくしたり、均一厚さの円筒部材に透孔(スリット)などを設けている。そして、このような構成では、例えば円筒部材が磁性材であれば低次のコギングトルク発生の要因となったり、機械的ギャップが不均一であるため、回転子の寸法管理が難しくなるという問題がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、振動・騒音を悪化させることなく突極性を向上させ、容易に回転位置を検出することができる回転電機の回転子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る回転子は、回転軸と、回転軸の外周側に固定される回転子鉄心と、回転子鉄心の外周面に周方向に所定間隔で配設された複数の永久磁石と、永久磁石の磁極間に配置された一対の第1導体と一対の第1導体を電気的に接合する第2導体とにより、少なくとも永久磁石の1磁極分を取り囲むように配設された導通回路と、導通回路で取り囲まれた永久磁石の外周側表面に配設された磁性体とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
この発明の回転子によれば、永久磁石を取り囲むように導通回路が配設され、その永久磁石の表面に磁性体が配設されているため、回転子の突極性を大きくすることができる。従って、回転電機に印加される高周波電流が少ない場合でも回転子位置を精度よく検出でき、振動・騒音を抑えた永久磁石型回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1における回転電機の構成を示す平面図である。
【図2】この発明の実施の形態1における回転子の構成を示す斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態1における回転子の特徴を説明するための説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2における回転子の構成を示す斜視図である。
【図5】この発明の実施の形態2における回転電機に印加された高周波電流をdq変換して、d軸電流を横軸、q軸電流を縦軸にとった場合のリサージュ波形と、比較例の回転電機のリサージュ波形を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1および2の回転電機の実測のリサージュ波形を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1および2の回転電機のリサージュ波形の傾きと負荷電流との関係を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態3における回転子の構成を示す平面図である。
【図9】この発明の実施の形態3における磁性体板の構成を示す斜視図である。
【図10】この発明の実施の形態3における別例の回転子の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における永久磁石型回転電機(以下、回転電機とする)の構成を示す平面図である。また、図2は回転電機を構成する回転子の構成を示す斜視図である。
図1、2に示すように、回転電機1は、回転子2と回転子2の外周側に配置される固定子3とから構成される。
固定子3は、回転子2と所定の空隙(エアギャップ)を介して配置される。その構成は詳しくは図示していないが、例えば本実施の形態1では、ヨーク部31aとティース部31bとを有する固定子鉄心31とティース部31bに巻回される固定子コイル32(図示せず)とから構成されている。
回転子2は、回転軸4と、回転軸4の外周側に固定される回転子鉄心5と、回転子鉄心5の外周面に周方向に所定間隔で配設された複数の永久磁石6と、永久磁石6の磁極間に回転軸4に略平行に配置された一対の第1導体71とこの第1導体71を電気的に接合する第2導体72とにより永久磁石6を取り囲むように配設された導通回路7と、各永久磁石6の表面に配設された磁性体8と、回転子2の最外周面を覆うように配設される略円筒状の飛散防止部材9とから構成される。なお、回転子2の構成をわかりやすくするため、図2中回転軸4および飛散防止部材9は省略している。
【0011】
以下、回転子2の構成をさらに詳しく説明する。
永久磁石6は回転子2の磁極を形成し、極性の異なる永久磁石6が交互に周方向等間隔で回転子鉄心5の外周表面に配置されている。本実施の形態1では10極分配置されている。
例えば本実施の形態1では、一対の第1導体71は各永久磁石6の周方向両端に永久磁石6と接するように配置され、一対の第1導体71の端部同士を、回転子鉄心5の軸方向両端面に配置される第2導体72により繋ぐことにより、各永久磁石6をそれぞれ導通回路7が取り囲んだ構成としている。
導通回路7の製造方法の例としては、例えば一本のマグネットワイヤを各永久磁石の外郭形状に沿うように巻き付けて端部を接合することに形成する方法がある。これにより材料歩留まりよく導通回路7を容易に形成することができる。また、導通回路7の製造方法の別例として、例えば銅管のようなパイプ状の導電材を永久磁石3の外郭形状に合うように拡管成形することにより形成してもよい。これにより、材料歩留まりがよいとともに、端部の接合なしで導通回路7を得ることができる。
なお、本実施の形態1では、全ての永久磁石6の周囲にそれぞれ導通回路7を設けているが、導通回路7の配置パターンは必ずしもこれに限られるものではない。導通回路7は少なくとも永久磁石6の1磁極分を取り囲むように配置すればよく、例えば1の導通回路で2磁極分取り囲むパターンや、永久磁石一つおきに導通回路を配置するパターン等、導通回路の個数や位置のパターンは様々である。また、導通回路の配置間隔は等間隔でなくてもよく、隣り合う導通回路の間隔が永久磁石の配置のピッチ(例えば10極であれば36度)の整数倍となるようにすれば、永久磁石の配置ピッチに対応したインピーダンスを変化を得ることができる。
【0012】
磁性体8は永久磁石6と略円筒状の飛散防止部材9との間に、各永久磁石6の磁極中心部分(永久磁石6の周方向中心部分)の表面を覆うように周方向等間隔に配設されている。磁性体8の幅(周方向の長さ)は永久磁石6の幅(周方向の長さ)以下となるように設定している。磁性体8の厚み(径方向の長さ)は、通常の小型回転電機の機械的ギャップ長が0.3〜1.0mm程度であることを鑑みると、0.1〜0.5mm程度とすることが望ましい。磁性体8の形成材料は、回転子鉄心5と同等程度の高い透磁率を有し、導通回路7より小さい導電率を持つことが望ましく、例えば電磁鋼板等を使用する。上記の通り磁性体8の厚みが0.1〜0.5mm程度と薄肉であれば、汎用の電磁鋼板を使用して磁性体8を形成することができる。
なお、本実施の形態1では、磁性体8は10極全ての永久磁石6に配置されたが、必ずしもこれに限られるものではなく、少なくとも導通回路7が配置される永久磁石6に設けられれば良い。
【0013】
このような構成の回転電機1において、回転子2の回転位置の検出は、固定子コイル32(図示せず)に、回転電機1の駆動電流より高い周波数の高周波電流を注入し、固定子コイル32のインピーダンス変化を検出することにより行う。
この位置検出の際、回転子2が導通回路7および磁性体8を備えることによって生じる回転子2の特徴について図3を参照して説明する。
【0014】
永久磁石6を取り囲むように配設された導通回路7には、高周波電流によって作られた磁束が鎖交することで誘導電流が流れる。この誘導電流は導通回路7と鎖交する磁束量に応じて変化する。誘導電流の変化に伴って固定子コイル32のインピーダンス(インピーダンスの内のインダクタンス分)が変化する。
例えば、磁極方向と同じ向きであるd軸方向(図3中実線矢印A参照)に磁束を鎖交させたときは、導通回路7と鎖交する磁束量が最大となり、導通回路7に流れる誘導電流も最大となる。これにより磁束が打ち消され固定子コイル32のインピーダンスが最小となる。
また、磁極方向と直交する向きであるq軸方向(図3中一点鎖線矢印B参照)に磁束を鎖交させたときは、導通回路7と鎖交する磁束がないため、導通回路7に誘導電流が流れず、固定子コイル32のインピーダンスが最大となる。
【0015】
永久磁石6の表面に配設された磁性体8は、上述の通り透磁率が高い材料により形成されているため、q軸方向のパーミアンスが高くなり磁束が通りやすくなる(図3中破線矢印C参照)。固定子コイル32のインピーダンスはパーミアンスに比例するため、d軸方向で最小、q軸方向で最大となる。これは導通回路7による固定子コイル32のインピーダンス変化と一致する。なお、磁性体8の形成材料として透磁率が高くかつ導電率が低い材料を使用すれば、導電率が低いことにより磁性体8そのものに流れる誘導電流(渦電流)の影響を少なくすることができる。また、磁性体8を各永久磁石6の磁極中心に等間隔に配置すれば、低次のコギングトルクの発生を防止することができる。
【0016】
このような構成により、回転子2の突極性を大きくすることができ、d軸とq軸における固定子コイル32のインピーダンスの差を大きくすることができる。従って、固定子コイル32に回転電機1の駆動電流より高い周波数の高周波電流を注入し、固定子コイル32のインピーダンスを検出することにより、容易に回転子2の位置把握することができる。
【0017】
以上のように、本実施の形態1の回転子は、永久磁石を取り囲むように導通回路が配設され、その永久磁石の表面に磁性体が配設されているため、SPM型の回転子でありながら、高い突極性が得られる。従って、固定子側から印加される高周波電流が小さい場合でも大きなインピーダンス変化が得られる。よって回転子位置を精度よく検出でき、振動・騒音を抑えた回転電機を提供することができる。
また、固定子コイルのインピーダンス変化により回転子の位置検出を行うことができるため、レゾルバやエンコーダといった回転位置検出部材を別途設ける必要がなく、回転電機の小型化、軽量化をはかることができるとともに、その包装を減量、小型化することができる。また、レゾルバ等が不要であるため、回転電機の耐久性を向上することができ、長期使用可能である。
【0018】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、各永久磁石をそれぞれ独立した導通回路が取り囲んだ構成であったが、本実施の形態2では、この導通回路の構成が異なる場合について説明する。なお、実施の形態1と同様の部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0019】
図4は本実施の形態2の回転子10の構成を示す斜視図である。回転子10の構成をわかりやすくするため、図4中回転軸4および飛散防止部材9は省略している。
図4に示すように回転子10の導通回路11は、各永久磁石6の磁極間に回転軸4と略平行に配置された軸方向に延びる第1導体12と、回転子鉄心5の軸方向両端面に配置され全ての第1導体12の軸方向端部と電気的に接合される略環状の第2導体13とにより構成されている。各永久磁石6の磁極間に配置された全ての第1導体12は全周に渡って第2導体13により短絡され、各永久磁石6を取り囲むような導通回路11が一体に形成されている。各第1導体12はその両隣に配置される永久磁石6をそれぞれ取り囲む導通回路の一部として共用されている。
なお、本実施の形態2では全ての磁極間に第1導体12が配置されているが、必ずしも全てに配置する必要はない。第1導体12と第2導体13とで構成する導通回路11が、少なくとも永久磁石6の1磁極分を取り囲むように配設されていれば、第1導体の配置位置や個数はどのようなものであってもよい。
【0020】
導通回路11の製造方法としては、例えばダイカスト方法によるものがある。まず、回転軸4および回転子鉄心5を金型内(図示なし)に挿入する。そして、アルミまたは銅などの導電材料を金型内に鋳込み、第1導体12および第2導体13で構成される導通回路11を形成する。このような方法により、導通回路11を容易に一体形成することができるとともに、導通回路11と回転子鉄心5との固定も導通回路11の形成と同時に行うことができる。また、回転子鉄心5に導通回路11が形成されることにより、永久磁石6を回転子鉄心5の表面に取り付ける際には、導通回路11を位置決め部材として使用することができる。
【0021】
このような構成により、導通回路11は各永久磁石6を取り囲むように配設されるため、上記実施の形態1と同様の効果を有する。すなわち、鎖交する磁束量に応じて誘導電流が変化する導通回路11と、永久磁石6の表面に配置されq軸方向の磁束を通りやすくする磁性体8とによって、固定子3の固定子コイル32から高周波電流を印加した際に発生するd軸とq軸とのインピーダンスの差を大きくすることができる。
【0022】
上記の通り本実施の形態2は上記実施の形態1と導通回路の構成が異なっている。以下、この導通回路の構成の違いにより得られる効果の違いについて説明する。
【0023】
図5は、本実施の形態2の回転子10を使用した回転電機に注入された高周波電流をdq変換して、d軸電流を横軸、q軸電流を縦軸にとった場合の電流ベクトルの軌跡を示すリサージュ波形である(図中実線で示す)。比較のため、例えば従来から使用されているような突極性のないSPM構造の回転子を使用した回転電機(以下比較例の回転電機とする)についてのリサージュ波形も示す(図中破線で示す)。なお、高周波電流は回転電機の駆動電流(負荷電流)がかかった状態で注入されている。
図に示すように、突極性のない比較例の回転電機のリサージュ波形の形状は円形である。これに対し、突極性のある回転子10を使用した回転電機のリサージュ波形の形状はd軸電流側が長軸(図中一点鎖線で示す)となる楕円形である。突極性が高くなるほどd軸とq軸におけるインピーダンスの差が大きくなるため、楕円形状の長軸は長くなる。また、このリサージュ波形は、回転電機の駆動電流(負荷電流)の影響により、楕円形の長軸がd軸に対して傾き(図中θで示す)をもった波形となる。これは、回転電機の固定子鉄心の磁気飽和により、d軸およびq軸の磁束の流れがアンバランスになるために生じると推測される。楕円の長軸の傾き角度は位置検出誤差の目安となり、傾きが大きくなれば、位置検出誤差も大きくなることを示す。
【0024】
図6は、上記実施の形態1および本実施の形態2の回転子を使用した回転電機の実測のリサージュ波形を示す図である。なお、図6のリサージュ波形は、無負荷(負荷電流が0)の状態で10kHzの高周波電流を注入した場合のリサージュ波形である。
図中破線は上記実施の形態1の場合、図中実線は本実施の形態2の場合のリサージュ波形を示す。これによると、実施の形態1の場合の方が実施の形態2の場合に比べ楕円形の長軸が長く、突極性が大きいことがわかる。従って、上記実施の形態1の回転電機の方が、印加する高周波電流の振幅または周波数をより低くすることができ、振動・騒音をより抑制することができる。
【0025】
次に、実施の形態1と実施の形態2の回転電機において、無負荷の状態から、負荷電流を加えた状態に変えて10kHzの高周波電流を注入し、リサージュ波形を測定する。図7はその測定結果を示す図であり、負荷電流の大きさを横軸、リサージュ波形の楕円の傾きの角度(図5で示すθに対応する角度)を縦軸としたグラフである。
図中破線は上記実施の形態1の場合の測定結果であり、図中▲印は測定値を示す。図中実線は本実施の形態2の場合の測定結果であり、図中○印は測定値を示す。これによると、実施の形態2の場合の方が実施の形態1の場合に比べ負荷電流の増加に伴う楕円の傾き角度の増加が小さいことがわかる。従って、本実施の形態2の回転電機では、負荷電流が高い場合でも、回転子の位置検出誤差を低く抑えることができる。なお、この結果は、実施の形態2の導通回路11の構成により生じたと考えられる。導通回路11は、磁極間に配置された第1導体が第2導体により全周に渡って短絡されて形成されているため、電流経路の自由度が高くなる。これにより、他磁極の誘導電流の影響を受け、d軸q軸間の相互干渉が低減されるため、d軸およびq軸の磁束の流れがアンバランスになることを抑制していると推測される。
【0026】
次に、製造方法の面から実施の形態1と実施の形態2の導通回路の効果の違いを説明する。
上記実施の形態1に記載の通り、実施の形態1の導通回路は各永久磁石をそれぞれ独立して囲むような形で形成されている。従って、永久磁石と導通回路とを一体として扱うことができ、回転子鉄心との組立が容易であるとともに、リサイクル時の分離も容易である。
一方、本実施の形態2の導通回路はダイカスト法などによって、容易かつ低コストに得ることができ、生産台数が多い場合などに有利である。
【0027】
導通回路の構成により以上のような効果の違いがあり、回転電機に要求される仕様、例えばトルクや音やコスト等に応じて、上記実施の形態1および本実施の形態2のうち適した導通回路構成とすればよい。
【0028】
以上のように、本実施の形態2の回転子は、導通回路および磁性体によって回転子の突極性を高めるとともに、特に高い負荷電流を必要とするような高トルクの回転電機に使用される場合にも、回転子の位置検出を誤差なく高精度に行うことができる。
また、導通回路はダイカスト法などによって、容易かつ低コストに得ることができ、生産台数が多い場合などに有利である。
【0029】
実施の形態3.
上記実施の形態1では、各永久磁石の表面にそれぞれ独立して形成された磁性体を配設していたが、本実施の形態3ではこの磁性体の構成が異なる場合を説明する。なお、実施の形態1と同様の部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0030】
図8は、本実施の形態3の回転子の構成を示す正面図である。
図8に示すように本実施の形態3の回転子20の磁性体21は、磁極部22と極間部23とから形成される略円筒状の磁性体である。磁極部22は各永久磁石6の磁極中心部分の表面を覆うような位置に配置され、各磁極部22間を薄肉の極間部23で連結している。このような構成により、回転子20の最外周面を略円筒状の磁性体21で覆っている。
極間部23の肉厚は磁極部22の肉厚より薄く、これによりq軸方向に磁束が漏れることを防ぐ。磁極部22の肉厚が0.1〜0.5mm程度であれば、極間部23はそれ以下の肉厚とし、例えば0.1〜0.2mm程度の薄さであることが望ましい。
【0031】
次に磁性体21の製造方法を説明する。
磁性体21の製造方法としては、例えばエッチング工法を利用するものがある。エッチング工法とは、金属の表面を化学的な溶解作用により除去して所望の形状を得る工法で、主にプリント基板の製造等に用いられている。
図9はエッチング工法により得られた磁性体板24である。磁性体板24は、磁極部22の肉厚と同じ厚さの電磁鋼板等の被加工板に、エッチング加工を施して極間部23となる溝部23aを形成することにより得られる。残された厚肉部22aは磁極部22となる。このような磁性体板24を円筒状に丸め端部同士を溶接またはロウ付け等で電気的に接合して略円筒状の磁性体21を形成する。
【0032】
溝部23aは磁極数+1個設けられており、各溝部23aの幅は極間部23の幅と同じである。ただし、磁性体板24の両端部に設けられた溝部23aは円筒状に接合された際に極間部23の幅となるように形成されている。このような構成により、略円筒状の磁性体21の接合箇所が極間部23となるため、磁気回路への影響が少ない。
なお、略円筒状の磁性体21の接合箇所は必ずしも極間部23とする必要なく、例えば極間部23と磁極部22との境界部分に接合箇所を設けてもよい。その場合、磁性体板24には磁極数分の溝部23aを設け、磁性体板24の一方の端部に溝部23aが他方の端部に厚肉部22aが形成されるようにエッチング加工を施し、これを円筒状にして磁性体21を形成すればよい。
【0033】
図10は、本実施の形態3の別例の回転子の構成を示す正面図である。別例の回転子20aでは略円筒状の磁性体21を構成する磁極部22は永久磁石6の形状に沿うように配設されている。これにより、q軸方向に流れる磁束(図中点線矢印参照)がより増え回転子の突極性が大きくなる。なお、本実施の形態3では永久磁石6の外周面の形状が円弧状であるため、磁極部22がこの円弧に沿うよう、磁極部22と極間部23との境界部分を折り曲げて、磁性体21を形成している。
【0034】
以上のように、本実施の形態3の回転子は、磁極部と極間部とからなる略円筒状の磁性体を備えている。従って、導通回路および磁性体を構成する磁極部により上記実施の形態1、2と同様回転子の突極性を高めることができる。また略円筒状の磁性体により回転子の最外周面を覆うことになるため、永久磁石や導通回路の飛散を防止することができ、実施の形態1、2のように別途飛散防止部材を設ける必要がない。
なお、本実施の形態3の導通回路の構成は実施の形態1と同様の構成としているが、上記実施の形態2の導通回路と同様の構成としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 回転電機、2 回転子、4 回転軸、5 回転子鉄心、6 永久磁石、
7 導通回路、8 磁性体、10 回転子、11 導通回路、12 第1導体、
13 第2導体、20,20a 回転子、21 磁性体、22 磁極部、
22a 厚肉部、23 極間部、23a 溝部、24 磁性体板、71 第1導体、
72 第2導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、上記回転軸の外周側に固定される回転子鉄心と、上記回転子鉄心の外周面に周方向に所定間隔で配設された複数の永久磁石と、上記永久磁石の磁極間に配置された一対の第1導体と上記一対の第1導体を電気的に接合する第2導体とにより、少なくとも上記永久磁石の1磁極分を取り囲むように配設された導通回路と、上記導通回路で取り囲まれた上記永久磁石の外周側表面に配設された磁性体とを備えた永久磁石型回転電機の回転子。
【請求項2】
上記導通回路は、上記永久磁石の1磁極分を取り囲むように配設された導通回路であることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石型回転電機の回転子。
【請求項3】
上記導通回路は、上記各永久磁石に配設されたことを特徴とする請求項2に記載の永久磁石型回転電機の回転子。
【請求項4】
上記第2導体は、上記回転子鉄心の軸方向両端側に配置され、全ての上記第1導体の端部と電気的に接合される略環状の導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の永久磁石型回転電機の回転子。
【請求項5】
上記磁性体は、上記永久磁石の磁極中心部分を覆うように配設されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の永久磁石型回転電機の回転子。
【請求項6】
上記磁性体は、上記永久磁石の外周側表面に配設された磁極部と、上記磁極部間を連結する薄肉の極間部とから形成される略円筒状の磁性体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の永久磁石型回転電機の回転子。
【請求項7】
被加工板にエッチング加工を施して上記極間部となる溝部と上記磁極部となる厚肉部とを設けた磁性体板を形成し、上記磁性体板の端部同士を接合して上記略円筒状の磁性体を形成することを特徴とする請求項6に記載の永久磁石型回転電機の回転子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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