説明

汎用性抗体フレームワークを用いたイエウサギ抗体のヒト化

本発明は、汎用性抗体アクセプターフレームワークと、汎用性抗体アクセプターフレームワークを用いて、非ヒト抗体、例えばイエウサギ抗体を融合させるための方法とに関する。本発明の方法によって生成された抗体は、様々な診断上および治療上の適用に有用である。本発明は、本発明に開示の可溶性かつ安定的な軽鎖および/または重鎖ヒト抗体フレームワーク配列中に、イエウサギCDRおよび他の非ヒトCDRを融合させ、それによって、優れた生物物理特性を有するヒト化抗体を生成する方法を提供する。特に、本発明の方法によって生成されたイムノバインダーは、溶解性および安定性などの優れた機能特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連情報)
この出願は、2008年6月25日に出願されたUS61/075,697への優先権を主張し、さらに2009年2月24日に出願されたUS61/155,041および2009年2月24日のUS61/155,105への優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
モノクローナル抗体、それらの結合体および誘導体は、治療剤および診断剤として商業的に非常に重要である。非ヒト抗体は、通常、単一の低用量注射後、患者において強い免疫応答を誘発する(Schroff、1985年、Cancer Res、45巻、879〜85頁、Shawler、J Immunol、1985年、135巻、1530〜5頁、Dillman、Cancer Biother、1994年、9巻、17〜28頁)。したがって、マウスおよび他の齧歯動物の抗体の免疫原性を低減するためのいくつかの方法、ならびに、完全ヒト抗体を、例えば、トランスジェニックマウスまたはファージディスプレイを用いて生成する技術が開発された。齧歯動物の可変領域をヒト定常領域と共に併せ持つキメラ抗体(例えば、Boulianne Nature、1984年、312巻、643〜6頁)が遺伝子工学的に構築され、免疫原性の問題をかなり低減させた(例えば、LoBuglio、Proc Natl Acad Sci、1989年、86巻、4220〜4頁;Clark、Immunol Today、2000年、21巻、397〜402頁)。ヒト化抗体も構築された。ヒト化抗体では、可変領域自体の齧歯動物配列が、少なくとも元のCDRを保存しながら、できるだけヒト配列に近くなるように遺伝子工学的に操作されたか、あるいは齧歯動物抗体のCDRがヒト抗体のフレームワーク中に融合させられた(例えば、Riechmann、Nature、1988年、332巻、323〜7頁;特許文献1)。イエウサギ(rabbit)ポリクロナール抗体は、ELISAまたはウエスタンブロットなどの生物学的アッセイに広く用いられている。ポリクローナルイエウサギ抗体は、それらが通常はるかに高い親和性を有するので、ポリクローナル齧歯動物抗体よりもしばしば好まれる。さらに、イエウサギはしばしば、マウスでは免疫原性が乏しい抗原、および/またはファージディスプレイで用いた場合に良好なバインダーをもたらさない抗原に対して良好な抗体反応を誘発できる。イエウサギ抗体のこれらの周知の利点のため、イエウサギ抗体は、治療用抗体の発見および開発での使用に理想的である。これが一般的になされない理由は、主に、モノクローナルイエウサギ抗体の生成における技術的困難にある。骨髄腫様の腫瘍は、イエウサギでは知られておらず、モノクローナル抗体を生成する従来のハイブリドーマ技術は、イエウサギ抗体には適用できない。イエウサギ抗体発現細胞の融合細胞系パートナーを提供する先駆的仕事は、Knightらによって行われ(Spieker−Poletら、PNAS、1995年、92巻、9348〜52頁)、改善された融合パートナー細胞系が2005年にPytelaらによって記載された(例えば、特許文献2参照)。しかし、対応するノウハウが基本的に単一の研究グループによって制御されているため、この技術は広範に普及していない。RT−PCRを介した、選択された抗体発現細胞からの抗体のクローニングを伴うモノクローナル抗体の生成のための代替方法は文献に記載されているが、イエウサギ抗体については一度も成功の報告がなされていない。
【0003】
イエウサギ抗体は、ヒト治療に用いたならば、マウス抗体と同様に、強い免疫応答を誘発すると予測される。したがって、イエウサギ抗体は、それらが臨床的に使用され得る前に、ヒト化される必要がある。しかし、それぞれ、イエウサギ抗体とマウス抗体との間、およびイエウサギ抗体とヒト抗体との間の構造差のため、ヒト化齧歯動物抗体を作るのに用いられる方法をイエウサギ抗体に対して当てはめることは容易にはできない。例えば、軽鎖CDR3(CDRL3)は、以前に知られていたヒトまたはマウス抗体由来のCDRL3よりはるかに長いことが多い。
【0004】
従来技術に記載されたイエウサギ抗体ヒト化アプローチがごくわずかに存在するが、それらは、非ヒトドナーCDRがヒトアクセプター抗体に移植される古典的な融合アプローチではない。特許文献3は、いわゆる「リサーフェーシング(resurfacing)」ストラテジーを記載する。「リサーフェーシング」ストラテジーの目標は、非ヒトフレームワークの溶媒アクセス可能残基を、それらが、よりヒト様(more human−like)になるように再構築することである。特許文献3に記載されている、イエウサギ抗体のための類似のヒト化技法が当該分野で公知である。特許文献4および特許文献5の両方が、イエウサギモノクローナル抗体をヒト化する方法を開示しており、これらは、親イエウサギ抗体のアミノ酸配列の類似ヒト抗体のアミノ酸配列との比較を含む。続いて、親イエウサギ抗体のフレームワーク領域が、類似ヒト抗体の同等なフレームワーク領域に、配列においてより類似するように、親イエウサギ抗体のアミノ酸配列が改変される。良好な結合能を得るためには、各イムノバインダーについて個々に、手間のかかる開発努力を行う必要がある。
【0005】
上述のアプローチの潜在的問題は、ヒトフレームワークが使用されておらず、イエウサギフレームワークが、それがよりヒト様に見えるように遺伝子工学的に操作されることである。そのようなアプローチは、タンパク質のコアに埋められているアミノ酸ストレッチがなお免疫原性T細胞エピトープを含み得るという危険性を有する。
【0006】
これまでに、本出願者らは、現況技術の融合アプローチを適用することによってヒト化されたイエウサギ抗体を同定していない。これは、イエウサギCDRがヒトまたは齧歯動物CDRとはかなり異なったものであり得るという事実によって説明され得る。当該分野で公知の通り、多くのイエウサギVH鎖は、マウスおよびヒトの対応物と比較して、追加の対システインを有する。cys22とcys92との間で形成される保存されたジスルフィド架橋に加えて、cys21−cys79架橋もあり、さらに、いくつかのイエウサギの鎖では、CDRH1の最後の残基とCDRH2の最初の残基との間で形成されるCDR間S−S架橋もある。その上、対のシステイン残基がCDR−L3でしばしば見出される。さらに、多くのイエウサギ抗体CDRは、以前から公知のいかなる標準的構造にも属さない。特に、CDR−L3は、ヒトまたはマウスの対応物であるCDR−L3よりもはるかに長いことが多い。
【0007】
したがって、ヒトフレームワーク中への非ヒトCDR抗体の融合は主要なタンパク質工学的課題である。自然進化したフレームワークからの、人工的に選択された異なるヒトフレームワークへの抗原結合ループの移行は、抗原結合のために天然ループコンフォメーションが保持されるように行われなければならない。抗原結合親和性が、ループ融合後に大きく低減するか、または消失することがよくある。抗原結合ループの融合において、慎重に選択されたヒトフレームワークの使用によって、ヒト化分子において結合親和性を保持する確率が最大となる(Roguzkaら、1996年)。文献中の利用可能な多くの融合実験はCDR融合のおおまかな手引きを与えているが、パターンを一般化することは不可能である。典型的な問題は、CDRループを融合した後に、特異性、安定性または産生能を失うことにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5693761号明細書
【特許文献2】米国特許第7429487号明細書
【特許文献3】国際公開第04/016740号
【特許文献4】国際公開第08/144757号
【特許文献5】国際公開第05/016950号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、治療剤および診断剤として使用するため、イエウサギ抗体を確実かつ迅速にヒト化するための改良法について緊急の必要性がある。さらに、イエウサギ抗体を確実にヒト化するためのヒトアクセプターフレームワークの必要性があり、このヒトアクセプターフレームワークは、薬物様生物物理特性を有する機能的抗体および/または抗体フラグメントを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の概要)
驚いたことに、(WO0148017およびAuf der Maurら(2001年)、FEBS Lett、508巻、407〜412頁に開示のような)品質管理(QC)アッセイによって同定された高可溶性かつ安定的なヒト抗体フレームワークが、他の非ヒト動物種由来のCDRを、例えばイエウサギのCDRを、収容するのに特に適することが見出された。したがって、第1の態様において、本発明は、特定のヒト抗体(いわゆる「FW1.4」抗体)の軽鎖および重鎖可変領域を提供する。該抗体は、CDR中にジスルフィド架橋が存在しているか否かに依存せず、様々な結合特異性の種々の抗体、特にイエウサギ抗体からのCDRのための汎用性アクセプターとして特に適している。さらに、本発明は、前記特定のヒト抗体フレームワークの2つの変異体配列、すなわちrFW1.4およびrFW1.4(V2)を提供する。両者ともイエウサギCDRの融合のための汎用性アクセプターフレームワークとして特に適したフレームワークである。別の態様において、本発明は、他の非ヒト動物種由来のCDR、特にイエウサギのCDRを収容するのに適したヒトフレームワークをもたらす、フレームワーク残基のモチーフを提供する。
【0011】
これらの高適合性可変軽鎖フレームワークおよび重鎖フレームワーク中にイエウサギCDRを融合することによって生成されたヒト化イムノバインダーは、イエウサギ抗体(ドナーCDRはこれに由来する)の空間的配向を一貫して、確実に保持する。したがって、ドナーイムノバインダーの構造的に重要な位置をアクセプターフレームワーク中に導入する必要がない。これらの利点のため、結合能の最適化なしで、またはほとんどなしで、ハイスループットな(high−throughput)イエウサギ抗体のヒト化を実現することができる。
【0012】
したがって、別の態様では、本発明は、本明細書に開示の可溶性かつ安定的な軽鎖および/または重鎖ヒト抗体フレームワーク配列中に、イエウサギCDRおよび他の非ヒトCDRを融合させ、それによって、優れた生物物理特性を有するヒト化抗体を生成する方法を提供する。特に、本発明の方法によって生成されたイムノバインダーは、溶解性および安定性などの優れた機能特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、高度に可溶性かつ安定的なヒト抗体フレームワーク中に、イエウサギモノクローナル抗体由来の抗原結合部位を融合させるためにここで使用されるCDR H1の定義を示す。
【図2】図2は、細胞内色素4で染色された標的発現細胞3と相互作用する、蛍光抗体2で標識されたB細胞1を模式的に示す。選択された標的:5;BCR:6。
【図3】図3は、ESBA903可溶性標的に結合するイエウサギB細胞のFACS選択プロセスを示す。図3A:リンパ球は前方散乱および側方散乱によりゲーティングされる。図3B:それらのなかでIgG+IgM−細胞(おそらく記憶B細胞)が選択される(赤色ゲート)。図3C:ESBA903−PEおよびESBA903−PerCPで二重で染色された細胞(緑色ゲート)は、ESBA903に対して高親和性のIgGをコードしていると予測される。最も明るい蛍光を示す細胞(ピンク色ゲート)を96穴プレート中に選別した。
【図4】図4は、抗TNFα抗体(PE標識)でコーティングされたビーズはTNFαトランスフェクトCHO細胞(上側パネル)に結合すること、抗CD19抗体(APC標識)でコーティングされた対照ビーズはTNFαトランスフェクトCHO細胞(中央パネル)に結合しないこと、抗TNFα抗体(PE標識)でコーティングされたビーズは野生型(wt)CHO細胞(下側パネル)に結合しないことを示す。左側のドットプロットは、前方散乱および側方散乱を示し、これらはイベントのサイズおよび粒度をそれぞれ示す。単一ビーズ(約3μm)集団はP2にゲーティングされる。最終的にビーズに結合したCHO細胞(約30μm)はP1にゲーティングされる。中央のドットプロットは、PEまたはAPC染色に関してP1イベント(CHO細胞)を示す。したがって、細胞が抗TNFαビーズと相互作用するならば、それらはP3ゲートに示され、それらが抗CD19ビーズと相互作用するならば、それらはP4ゲートに現れる。右側に、各試料に関する統計の詳細を示す。
【図5】図5は、抗TNFα−PEでコーティングされたビーズおよび抗CD19APCでコーティングされたビーズがTNFαトランスフェクトCHO細胞と混合され、CHO細胞がゲーティングされ(P1)、それらのなかで、抗TNFαPEでコーティングされたビーズまたは抗CD19−APCでコーティングされたビーズのいずれかに結合する細胞がそれぞれゲートP3およびP4に示されており、非結合のビーズがゲートP2に見えることを示す。
【図6】図6は、Kabatデータベースから抽出されたイエウサギ抗体配列の分析であり、これにより、可変重鎖のCDR3は通常、、そのマウス対応物より3アミノ酸長いことを確認する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本発明がより容易に理解され得ることを目的として、特定の用語を以下の通りに定義する。さらなる定義は、この詳細な説明全体にわたって記載される。
【0015】
「抗体」という用語は、完全な抗体および任意の抗原結合フラグメントを指す。「抗原結合ポリペプチド」および「イムノバインダー」という用語は、本明細書で同時に使用される。「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続されている少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含み、場合によりグリコシル化されているタンパク質またはその抗原結合部分を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVと略記される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、すなわちCH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVと略記される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、すなわちCLを含む。VおよびV領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域と、超可変領域が散在する、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域とにさらに細区画できる。各VおよびVは、3つのCDRおよび4つのFRで構成され、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で、アミノ末端からカルボキシ末端へ配置されている。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有している。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(Clq)を含めた、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0016】
抗体の「抗原結合部分」(または、単純に「抗体部分」)という用語は、抗原(例えば、TNF)に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つまたは複数のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は完全長抗体のフラグメントによって行われ得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合フラグメントの例には、(i)V、V、CLおよびCH1ドメインからなる1価フラグメントであるFabフラグメント、(ii)ヒンジ領域のジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む2価フラグメントであるF(ab’)フラグメント、(iii)VおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単腕のVおよびVドメインからなるFvフラグメント、(v)1つのVドメインからなる、単一ドメインすなわちdAbフラグメント(Wardら(1989年)、Nature、341:544〜546)、ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、または(vii)合成リンカーによって場合により連結されていてもよい2つ以上の単離されたCDRの組合せが挙げられる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメイン、すなわちVおよびVは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、それらを単一タンパク質鎖として作るのを可能にする合成リンカーによって組換え方法を用いて連結でき、この単一タンパク質鎖では、VおよびV領域が対をなして一価の分子(単鎖Fv(scFv)として公知;例えば、Birdら(1988年)、Science、242巻、423〜426頁;およびHustonら(1988年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85巻、5879〜5883頁を参照)を形成する。そのような単一鎖抗体も、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されるものとする。これらの抗体フラグメントは、当業者に公知の従来の技法を用いて得られ、インタクトな抗体と同じ様式において有用性を求めてスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技法によって産生されたものでも、インタクトな免疫グロブリンの酵素的または化学的切断によって産生されたものでもよい。抗体は、異なったアイソタイプ、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgEまたはIgM抗体のものであり得る。
【0017】
「イムノバインダー」という用語は、抗体の抗原結合部位の全部または一部、例えば、重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインの全部または一部を含有する分子を指し、したがって、イムノバインダーは、標的抗原を特異的に認識する。イムノバインダーの非限定的な例として、完全長の免疫グロブリン分子およびscFv、さらに、これらに限定されないが、(i)Fabフラグメント、すなわち、Vドメイン、Vドメイン、CドメインおよびC1ドメインからなる一価のフラグメント;(ii)F(ab’)フラグメント、すなわち、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結されている2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメント;(iii)本質的には、ヒンジ領域の一部を有するFabであるFab’フラグメント(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY(Paul編、第3版、1993年)を参照されたい);(iv)VドメインおよびC1ドメインからなるFdフラグメント;(v)抗体の単腕のVドメインおよびVドメインからなるFvフラグメント;(vi)VドメインまたはVドメインからなるDabフラグメント(Wardら、(1989年)Nature 341巻:544〜546頁)、ラクダ抗体(Hamers−Castermanら、Nature 363巻:446〜448頁(1993年)、およびDumoulinら、Protein Science 11巻:500〜515頁(2002年)を参照されたい)、またはサメ抗体(例えば、サメIg−NAR Nanobodies(登録商標))等の単一ドメイン抗体;ならびに(vii)単一の可変ドメインを含有する重鎖可変領域および2つの定常ドメインであるナノボディを含めた、抗体フラグメントが挙げられる。
【0018】
「単鎖抗体」、「単鎖Fv」、または「scFv」という用語は、リンカーによって連結されている抗体重鎖可変ドメイン(または領域;V)および抗体軽鎖可変ドメイン(または領域;V)を含む分子を意味する。このようなscFv分子は、一般構造:NH−V−リンカー−V−COOHまたはNH−V−リンカー−V−COOHを有することができる。現況技術における適したリンカーは、反復GGGGSアミノ酸配列またはその改変体からなる。本発明の好ましい実施形態では、配列番号8に記載のアミノ酸配列の(GGGGS)リンカーが使用されるが、1〜3反復の改変体も可能である(Holligerら(1993年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90巻、6444〜6448頁)。本発明に使用できる他のリンカーは、Alfthanら(1995年)、Protein Eng.、8巻、725〜731頁、Choiら(2001年)、Eur. J. Immunol.、31巻、94〜106頁、Huら(1996年)、Cancer Res.、56巻、3055〜3061頁、Kipriyanovら(1999年)、J. Mol. Biol.、293巻、41〜56頁およびRooversら(2001年)、Cancer Immunol.によって記載されている。
【0019】
本明細書で使用する場合、「機能特性」という用語は、例えば、ポリペプチドの製造上の特性または治療有効性を改善するために、当業者にとって、(例えば、従来のポリペプチドと比べた)改善が望ましくかつ/または好都合であるポリペプチド(例えば、イムノバインダー)の特性である。1つの実施形態では、機能特性は、安定性(例えば、熱安定性)である。別の実施形態では、機能特性は、(例えば、細胞性条件下における)溶解性である。さらに別の実施形態では、機能特性は、凝集挙動である。さらに別の実施形態では、機能特性は、(例えば、原核生物細胞中における)タンパク質発現である。さらに別の実施形態では、機能特性は、製造プロセスにおける封入体の可溶化後のリフォールディング挙動である。特定の実施形態では、機能特性は抗原結合親和性の改善ではない。別の好ましい実施形態では、1つまたは複数の機能特性の改善はイムノバインダーの結合親和性に実質的な影響を与えない。
【0020】
「CDR」という用語は、抗原の結合に主に寄与する抗体の可変ドメイン内の6つの超可変領域の1つを意味する。6つのCDRに対して最も一般的に用いられる定義の1つは、Kabat E.A.ら、(1991年)Sequences of proteins of immunological interest.、NIH Publication、91〜3242頁によって提供されたものである。本明細書で用いられるように、CDRのKabatの定義は、軽鎖可変ドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3(CDR L1、CDR L2、CDR L3、またはL1、L2、L3)ならびに重鎖可変ドメインのCDR2およびCDR3(CDR H2、CDR H3、またはH2、H3)に対してのみあてはまる。しかし、本明細書で用いられる場合、重鎖可変ドメインのCDR1(CDR H1またはH1)は、位置26で始まり位置36の前で終了する残基の位置(Kabatナンバリング)よって定義される。これは、基本的には、KabatおよびChotiaにより異なって定義されるCDR H1の融合物である(説明のために図1も参照されたい)。
【0021】
本明細書で用いられる「抗体フレームワーク」という用語は、可変ドメインの抗原結合性ループ(CDR)に対する骨格として働く、VLまたはVHいずれかの可変ドメインの部分を意味する。本質的に、これはCDRのない可変ドメインである。
【0022】
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は、免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原上の部位を指す(例えば、TNF分子上の特定部位)。エピトープは通常、特有の空間的コンフォメーションにある少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の連続または非連続のアミノ酸を含んでいる。例えば、「Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology」、66巻、G. E. Morris編集(1996年)を参照のこと。
【0023】
「特異的な結合」、「選択的結合」、「選択的に結合する」および「特異的に結合する」という用語は、所定の抗原のエピトープへの抗体結合を指す。通常、抗体は、約10−8M未満、約10−9M未満もしくは約10−10M未満またはさらに低い値などの、約10−7M未満の親和性(K)で結合する。
【0024】
「K」または「Kd」という用語は、特定の抗体−抗原相互作用の解離平衡定数を指す。通常、本発明の抗体は、例えば、BIACORE装置の表面プラズモン共鳴(SPR)技術を用いて決定した場合、約10−8M未満、約10−9M未満もしくは約10−10M未満またはさらに低い値などの、約10−7M未満の解離平衡定数(K)でTNFに結合する。
【0025】
「核酸分子」という用語は、本明細書で使用される場合、DNA分子およびRNA分子を指す。核酸分子は、1本鎖でも、2本鎖でもよいが、2本鎖DNAであることが好ましい。核酸は、それが別の核酸配列と機能的関係に置かれている場合に、「作動可能に連結されている」。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を与える場合に、その配列に作動可能に連結している。
【0026】
「ベクター」という用語は、連結されている別の核酸を輸送できる核酸分子を指す。一実施形態では、ベクターは「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントがライゲーション(ligate)され得る環状2本鎖DNAループを指す。別の実施形態では、ベクターはウイルスベクターであり、この場合、追加のDNAセグメントはウイルスゲノム中にライゲーションされ得る。本明細書に開示のベクターは、導入される宿主細胞において自律複製が可能なものであり得る(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。または、宿主細胞への導入の際に宿主細胞のゲノム中に組み込まれて、それによって宿主ゲノムと共に複製され得るものであり得る(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)。
【0027】
「宿主細胞」という用語は、発現ベクターが導入されている細胞を指す。宿主細胞としては、細菌細胞、微生物細胞、植物細胞または動物細胞、好ましくは、Escherichia coli、Bacillus subtilis;Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞系)またはNS0細胞が挙げられる。
【0028】
「ウサギ(lagomorph)」という用語は、分類学上のLagomorpha目のメンバーを指し、Leporidae科(例えば、ノウサギおよびイエウサギ(rabbit))およびOchotonidae科(ナキウサギ)を含む。最も好ましい実施形態では、ウサギはイエウサギである。「イエウサギ」という用語は、本明細書で使用される場合、leporidae科に属する動物を指す。
【0029】
本明細書で用いられる「同一性」は、2つのポリペプチド間、分子間、または2つの核酸間でマッチする配列を意味する。比較された2つの配列の両方におけるある位置が同じ塩基、または同じアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合(例えば、各々の2つのポリペプチドにおけるある位置がリジンによって占められている場合)、それぞれの分子はその位置で同一である。2つの配列間の「パーセント同一性」は、それら2つの配列の最適なアラインメントのために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮に入れた、それらの配列によって共有される同一の位置の数の関数である。一般的に、2つの配列を、最大の同一性をもたらすようにアライメントさせた場合に比較が行われる。このようなアラインメントは、例えば、Blossum62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、ならびにギャップウェイト16、14、12、10、8、6、または4およびレングスウェイト1、2、3、4、5、または6を用いて、GCGソフトウェアパッケージにおいてGAPプログラム中に組み入れられた、NeedlemanおよびWunsch(J. Mol. Biol.、(48巻)、444〜453頁(1970年))のアルゴリズムの方法を用いて提供され得る。
【0030】
別段に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および物質に類似または同等の方法および物質を本発明の実施または試行に用いることができるが、適した方法および物質は下記に記載のものである。相反する場合には、定義を含めた本明細書が優先される。加えて、物質、方法、および実施例は、例示にすぎず、限定することを意図しない。
【0031】
本発明の様々な態様を、以下のサブセクションにおいてさらに詳しく記載する。様々な実施形態、選択、および範囲を任意に組み合わせることができることが理解される。さらに、特定の実施形態によっては、選択された定義、実施形態、または範囲を適用しなくてもよい。
【0032】
別段の言及がない場合、アミノ酸位置はAHoナンバリングスキームに従って示される。AHoナンバリングシステムは、Honegger, A.およびPluckthun, A.(2001年)、J. Mol. Biol.、309巻、657〜670頁)にさらに記載されている。代わりに、Kabatら(Kabat, E. A.ら(1991年)、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、第5版、U.S. Department of Health and Human Services、NIH出版番号91−3242)に、より詳細に記載されたKabatナンバリングシステムを使用できる。抗体重鎖および軽鎖可変領域内のアミノ酸残基位置を同定するのに使用される2通りの異なったナンバリングシステムの変換表が、A. Honegger、J. Mol. Biol.、309巻(2001年)、657〜670頁に提供されている。
【0033】
第1の態様では、本発明は、他の動物種、例えばイエウサギからのCDRを融合させるための汎用性アクセプターフレームワークを提供する。いわゆる「品質管理」スクリーニング(WO0148017)で同定されたヒトフレームワークを含む抗体または抗体誘導体が概して高い安定性および/または溶解性を特徴とすることが以前に記載されている。ヒト単一鎖フレームワークFW1.4(配列番号1(WO03/097697でa43と命名されている)および配列番号2(WO03/097697でK127と命名されている)の組合せ)は、品質管理アッセイでは明らかに低成績であったが、驚いたことに、このフレームワークは、異なった様々なCDRと組み合わせても、高度な内因的熱力学的安定性を有し、かつ再現性が良いことが見出された。この分子の安定性は大部分、そのフレームワーク領域に起因すると考えることができる。FW1.4はイエウサギ抗体の抗原結合部位と本質的に高適合性であることがさらに示されている。したがって、FW1.4は、イエウサギループの融合から得られる安定したヒト化scFv抗体フラグメントを構築するのに適した骨格である。したがって、一態様において、本発明は、配列番号1に少なくとも90%の同一性を有するVH配列および/または配列番号2に少なくとも85%の同一性を有するVL配列を含み、より好ましくは、イエウサギCDRの融合のためのFW1.4の配列(配列番号3)、または配列番号3に少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を有する配列を含むイムノバインダーアクセプターフレームワークを提供する。
【0034】
さらに、FW1.4の重鎖のいくつかの残基位置を置換することによって、および/またはFW1.4の軽鎖における1つの位置を置換することによって、FW1.4を最適化できることが見出された。それによって、驚いたことに、ドナーフレームワークの配列に主として非依存的に、VHにおける広範なイエウサギCDRのループコンフォメーションが完全に維持され得ることが見出された。FW1.4の重鎖における前記残基および軽鎖における1つの位置がイエウサギ抗体で保存されている。重鎖における該位置および軽鎖における1つの位置のコンセンサス残基がイエウサギレパートリーから推測され、ヒトアクセプターフレームワークの配列中に導入された。
【0035】
結果として、改変フレームワーク1.4(以下、rFW1.4と呼ぶ)は、事実上いかなるイエウサギCDRとも適合性である。さらに、様々なイエウサギCDRを含有するrFW1.4は、イエウサギ野生型単一鎖とは反対に、良好に発現され、良好に産生され、なおかつ元のドナーイエウサギ抗体の親和性をほぼ完全に保持する。
【0036】
したがって、本発明は、イエウサギイムノバインダー由来のCDRのコンフォメーションを概ね支持する1つまたは複数のアミノ酸残基をさらに含む、配列番号1の可変重鎖フレームワークを提供する。特に、前記残基は、24H、25H、56H、82H、84H、89Hおよび108H(AHoナンバリング)からなる群より選択される1つまたは複数のアミノ酸位置に存在する。これらの位置は、CDRコンフォメーションに影響を与えることが判明しており、したがって、ドナーCDRを収容するための変異が企図される。前記1つまたは複数の残基は、位置24のスレオニン(T)、位置25のバリン(V)、位置56のグリシンまたはアラニン(GまたはA)、位置82のリジン(K)、位置84のスレオニン(T)、位置89のバリン(V)および位置108のアルギニン(R)(AHoナンバリング)からなる群より選択されることが好ましい。少なくとも3残基、より好ましくは4、5、6残基、最も好ましくは7残基すべてが存在することが好ましい。驚いたことに、上述の残基の存在がイムノバインダーの安定性を改善することが見出された。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明は、位置24のスレオニン(T)、位置25のバリン(V)、位置56のアラニン(A)またはグリシン(G)、位置84のスレオニン(T)、位置82のリジン(K)、位置89のバリン(V)、および位置108のアルギニン(R)(AHoナンバリング)からなる群のうち少なくとも1残基、より好ましくは少なくとも3残基、より好ましくは4、5、6残基、最も好ましくは7残基が存在することを条件として、配列番号4に少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、およびさらにより好ましくは100%の同一性を有するVHを含むイムノバインダーアクセプターフレームワークを提供する。好ましい実施形態では、イムノバインダーアクセプターフレームワークは、イエウサギCDRのためのイムノバインダーアクセプターフレームワークである。
【0038】
好ましい実施形態では、前記可変重鎖フレームワークは、配列番号4もしくは配列番号6であるか、または配列番号4もしくは配列番号6を含む。前記可変重鎖フレームワークは両方とも、例えば、任意の適した軽鎖フレームワークと組み合わされ得る。
【0039】
したがって、本発明は、
(i)配列番号4に少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有する可変重鎖フレームワーク、および/または
(ii)配列番号2に少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有する可変軽鎖フレームワーク
を含むイムノバインダーアクセプターフレームワークを提供する。
【0040】
大いに好ましい実施形態では、可変重鎖フレームワークが位置24のスレオニン(T)、位置56のグリシン(G)、位置84のスレオニン(T)、位置89のバリン(V)および位置108のアルギニン(R)(AHoナンバリング)を含む。
【0041】
好ましい実施形態では、可変軽鎖が位置87のスレオニン(T)(AHoナンバリング)を含む。
【0042】
好ましい実施形態では、前記イムノバインダーアクセプターフレームワークが、
(i)配列番号1、配列番号4および配列番号6からなる群より選択される可変重鎖フレームワーク、および/または
(ii)配列番号2もしくは配列番号9の可変軽鎖フレームワーク
を含む。
【0043】
好ましい実施形態では、可変重鎖フレームワークがリンカーによって可変軽鎖フレームワークに連結される。リンカーは任意の適したリンカー、例えば、1から4反復の配列GGGGSを含むリンカー、好ましくは(GGGGS)ペプチド(配列番号8)、またはAlfthanら(1995年)、Protein Eng.、8巻、725〜731頁に開示されているリンカーであり得る。
【0044】
別の好ましい実施形態では、イムノバインダーアクセプターフレームワークは、配列番号5に少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有する配列であり、一方、該配列は、好ましくは、配列番号3ではない。イムノバインダーアクセプターフレームワークは、配列番号5を含むか、または配列番号5であることがより好ましい。
【0045】
別の好ましい実施形態では、イムノバインダーアクセプターフレームワークは、配列番号7に少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有する配列であり、一方、該配列は、好ましくは、配列番号3ではない。イムノバインダーアクセプターフレームワークは、配列番号7を含むか、または配列番号7であることがより好ましい。
【0046】
さらに、驚いたことに、上述のアミノ酸モチーフの存在は、フレームワーク、好ましくはヒトフレームワークを、他の非ヒト動物種からのCDR、特にイエウサギCDRの収容に特に適したものにすることが見出された。前記モチーフは、イムノバインダーの安定性に負のインパクトを与えない。該CDRは、イエウサギイムノバインダーにおけるそれらの天然の空間的配向に類似したコンフォメーションで現れ、したがって、いかなる構造的に重要な位置も、アクセプターフレームワークに融合される必要性はない。したがって、ヒトまたはヒト化イムノバインダーアクセプターフレームワークは、位置24のスレオニン(T)、位置25のバリン(V)、位置56のアラニン(A)またはグリシン(G)、位置82のリジン(K)、位置84のスレオニン(T)、位置89のバリン(V)および位置108のアルギニン(R)(AHoナンバリング)からなる群のうち少なくとも3アミノ酸、好ましくは4、5、6アミノ酸、より好ましくは7アミノ酸を含む。
【0047】
本明細書に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワークは、重鎖フレームワーク、好ましくは位置12、103および144(AHoナンバリング)に、溶解性を促進する置換を含み得る。疎水性アミノ酸は、より親水性のアミノ酸によって置換されることが好ましい。親水性アミノ酸とは、例えば、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、セリン(S)およびスレオニン(T)である。より好ましくは、重鎖フレームワークは、(a)位置12のセリン(S)、(b)位置103のセリン(S)もしくはスレオニン(T)、および/または(c)位置144のセリン(S)もしくはスレオニン(T)を含む。
【0048】
さらに、可変軽鎖フレームワークの位置1、3、4、10、47、57、91および103(AHoナンバリング)のうちの1つまたは複数に安定性増強アミノ酸が存在してもよい。可変軽鎖フレームワークは、位置1のグルタミン酸(E)、位置3のバリン(V)、位置4のロイシン(L)、位置10のセリン(S);位置47のアルギニン(R)、位置57のセリン(S)、位置91のフェニルアラニン(F)および/または位置103のバリン(V)を含むことが、より好ましい。
【0049】
グルタミン(Q)は脱アミノ化(desamination)の傾向があるので、別の好ましい実施形態では、VHが位置141にグリシン(G)を含む。この置換はタンパク質の長期保存を改善し得る。
【0050】
例えば、本明細書に開示のアクセプターフレームワークは、非ヒトCDRが由来する非ヒト抗体の結合特性を保持するヒトまたはヒト化抗体を生成するのに使用できる。したがって、好ましい実施形態では、本発明は、ドナーイムノバインダー、好ましくは哺乳動物イムノバインダー、より好ましくはウサギイムノバインダー、最も好ましくはイエウサギからの重鎖CDR1、CDR2およびCDR3、ならびに/または軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3をさらに含む、本明細書に開示のイムノバインダーアクセプターフレームワークを包含する。したがって、一実施形態では、本発明は、
(i)ウサギの可変軽鎖CDRと、
(ii)配列番号4に少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、最も好ましくは100%の同一性を有するヒト可変重鎖フレームワークと
を含む、所望の抗原に特異的なイムノバインダーを提供する。
【0051】
好ましい一実施形態では、前記ヒト可変重鎖フレームワーク配列中に、位置24のスレオニン(T)、位置25のバリン(V)、位置56のアラニン(A)またはグリシン(G)、位置84のスレオニン(T)、位置82のリジン(K)、位置89のバリン(V)および位置108のアルギニン(R)(AHoナンバリング)からなる群のうちの少なくとも1つのアミノ酸が存在するという条件がある。
【0052】
好ましくは、ウサギはイエウサギである。イムノバインダーは、ドナーイムノバインダー由来の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3と、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3とを含むことがより好ましい。
【0053】
当該分野で公知の通り、多くのイエウサギVH鎖が、マウスおよびヒトの対応物と比較して、追加の対システインを有する。cys22とcys92との間で形成される保存されたジスルフィド架橋に加えて、cys21−cys79架橋もあり、さらに、いくつかのイエウサギの鎖では、CDRH1の最後の残基とCDRH2の最初の残基との間で形成されるCDR間S−S架橋もある。さらに、CDR−L3において、対システイン残基がしばしば見出される。さらに、多くのイエウサギ抗体CDRは、以前に公知のいかなる標準構造にも属さない。特に、CDR−L3は、ヒトまたはマウスの対応物であるCDR−L3よりもはるかに長いことが多い。
【0054】
上述の通り、本明細書に開示のフレームワークへの非ヒトCDRの融合は、該CDRが適切なコンフォメーションで現れる分子を産する。必要な場合、イムノバインダーの親和性は、非ヒトドナーイムノバインダーの抗原相互作用フレームワーク残基を融合させることによって改善され得る。これらの位置は、例えば、
(i)それぞれの生殖細胞系前駆体配列を同定すること、またはその代わりに、高い相同性のフレームワーク配列の場合にはコンセンサス配列を用いること、
(ii)工程(i)の生殖細胞系前駆体配列またはコンセンサス配列とドナー可変ドメイン配列との配列アラインメントを生成すること、および
(iii)相違している残基を同定すること
によって同定され得る。
【0055】
分子の表面上の相違している残基は、多くの場合、おそらく抗原への親和性を生成するために、インビボにおける親和性生成プロセス中に変異させられた。
【0056】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワークを含むイムノバインダーを提供する。例えば、前記イムノバインダーは、scFv抗体、完全長免疫グロブリン、Fabフラグメント、Dabまたはナノボディーであり得る。
【0057】
好ましい実施形態では、イムノバインダーは、1つまたは複数の分子、例えば、細胞毒性剤、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子もしくは他のシグナル伝達分子などの治療剤、造影剤、または転写活性化因子もしくはDNA結合ドメインなどの第2のタンパク質に結合している。
【0058】
本明細書に開示のイムノバインダーは、例えば、診断適用、治療適用、標的評価または遺伝子療法で使用できる。
【0059】
本発明は、本明細書に開示のイムノバインダーアクセプターフレームワークまたは本明細書に開示のイムノバインダー(単数または複数)をコードする単離された核酸をさらに提供する。
【0060】
別の実施形態では、本明細書に開示の核酸を含むベクターを提供する。
【0061】
本明細書に開示の核酸またはベクターは、例えば、遺伝子療法で用いることができる。
【0062】
本発明は、本明細書に開示のベクターおよび/または核酸を含む宿主細胞をさらに包含する。
【0063】
さらに、本明細書に開示のイムノバインダーアクセプターフレームワーク、本明細書に開示のイムノバインダー、本明細書に開示の単離された核酸または本明細書に開示のベクターを含む組成物を提供する。
【0064】
本明細書に開示の配列は、以下の通りである(X残基はCDR挿入部位である)。
【0065】
【化1】

【0066】
【化2】

別の態様では、本発明は、安定的かつ可溶性の抗体フレームワークに非ヒトドナー抗体のCDRを融合させることによって非ヒト抗体をヒト化する方法を提供する。特に好ましい実施形態では、イエウサギ抗体からのCDRステムおよびフレームワークは上述のものである。
【0067】
参照により全体として本明細書に援用される、米国特許第5225539号でWinterによって、WO9007861 A1でQueenらによって、ヒトアクセプターフレームワーク中にCDRを融合させる一般的方法が開示されている。イエウサギモノクローナル抗体からのCDRを、選択されたフレームワークに融合させる一般戦略は、WinterらおよびQueenらのものに関連するが、特定の主要な点で異なっている。特に、本発明の方法は、ヒトまたは非ヒトドナー抗体のための汎用性アクセプターとして、本明細書に開示のヒト抗体フレームワークが特に適している点で、当該分野で公知の典型的なWinterおよびQueen方法論とは異なる。したがって、WinterおよびQueenの一般的方法とは異なり、本発明のヒト化方法に使用されるフレームワーク配列は、必ずしも、ドナーCDRが由来する非ヒト(例えば、イエウサギ)抗体の配列に最高の配列類似性を示すフレームワーク配列ではない。加えて、CDRコンフォメーションを支持するためにドナー配列からのフレームワーク残基融合は必要とされない。最大で、フレームワーク中に位置する抗原結合アミノ酸または体細胞超変異中に起きた他の変異が導入され得る。
【0068】
高い可溶性および安定性を有するヒト化されたイエウサギ由来抗体を生成する融合方法の特定の詳細を以下に記載する。
【0069】
したがって、本発明は、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、ならびに/または軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列を含むイエウサギCDRドナーイムノバインダーをヒト化する方法を提供する。この方法は、
(i)重鎖上、配列番号1に少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するヒト重鎖アクセプターフレームワーク中に、CDR1、CDR2およびCDR3配列からなる群のうち少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つのCDRを融合させる工程、および/または
(ii)軽鎖上、配列番号2に少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するヒト軽鎖アクセプターフレームワーク中に、CDR1、CDR2、およびCDR3配列からなる群のうち少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つのCDRを融合させる工程
を含む。
【0070】
好ましい実施形態では、可変鎖アクセプターフレームワークは、(i)配列番号1、配列番号4、および配列番号6からなる群より選択されるフレームワークアミノ酸配列を含むヒト重鎖フレームワークと、(ii)配列番号2または配列番号9のフレームワークアミノ酸配列を含むヒト軽鎖フレームワークとを含む。
【0071】
大いに好ましい実施形態では、該方法は、配列番号3、配列番号5または配列番号7に少なくとも75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するイムノバインダーの、(i)重鎖中に重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列を融合させる工程と、(ii)軽鎖中に、軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列を融合させる工程とを含む。イムノバインダーは、配列番号3、配列番号5もしくは配列番号7であるか、または配列番号3、配列番号5もしくは配列番号7を含むことがより好ましい。
【0072】
別の実施形態では、抗原結合性を改善するために、該方法は、抗原結合性に関与するドナー残基によってアクセプターフレームワーク残基を置換する工程をさらに含み得る。
【0073】
本発明の方法の例示的実施形態では、CDRドナー抗体のアミノ酸配列が最初に同定され、該配列は、従来の配列アラインメントツール(例えば、Needleman−WunschアルゴリズムおよびBlossumマトリックス)を用いてアラインメントされる。ギャップの導入および残基位置の命名は、従来の抗体ナンバリングシステムを用いて行われ得る。例えば、免疫グロブリン可変ドメインについてAHoナンバリングシステムを使用できる。Kabatナンバリングスキームは、抗体中の残基をナンバリングするのに最も広く採用されている標準法であるので、これも適用できる。Kabatナンバリングは、例えば、SUBIMプログラムを用いて割り当てることができる。このプログラムは、抗体配列の可変領域を分析し、Kabatらによって確立されたシステムに従って配列をナンバリングする(Deretら、1995年)。フレームワーク領域およびCDR領域の定義は、通常、Kabatの定義に従って行われるが、これは配列可変性をベースにしたものであり、最も一般的に使用されている。しかし、CDR−H1については、そのような指定は、Kabatの定義、3D複合体構造のサブセットの抗体と抗原との間の接触の分析によって生成された平均接触データ(MacCallumら、1996年)、および構造的ループ領域の位置に基づくChotiaの定義の組合せであることが好ましい(図1も参照)。抗体重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸残基位置を同定するのに使用される2つの異なったナンバリングシステムの変換表がA. Honegger、J. Mol. Biol.、309巻(2001年)、657〜670頁に提供されている。Kabatナンバリングシステムは、Kabatら(Kabat, E. A.ら(1991年)、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S. Department of Health and Human Services、NIH出版番号91−3242)に、より詳細に記載されている。AHoナンバリングシステムは、Honegger, A.およびPluckthun, A.(2001年)、J. Mol. Biol.、309巻、657〜670頁で、より詳細に記載されている。
【0074】
イエウサギモノクローナル抗体の可変ドメインは、例えば、配列分析アルゴリズムのEXCELインプリメンテーション(implementation)およびヒト抗体レパートリーの分析に基づいた分類方法を用いて、例えば、対応するヒトサブグループに分類できる(Knappikら、2000年、J Mol Biol.、2月11日、296(1)巻、57〜86頁)。
【0075】
CDRコンフォメーションをドナー抗原結合領域に割り当てることができ、続いて、様々な標準構造を維持するのに必要な残基位置を同定することもできる。イエウサギ抗体の6つの抗体超可変領域(L1、L2、L3、H1およびH2)のうち5つのCDRの標準構造はChothia(1989年)の定義を用いて決定される。
【0076】
好ましい実施形態では、以下の方法に従ってCDRの生成、同定および単離を行う:B細胞(好ましくはイエウサギB細胞)を、(i)標的抗原(好ましくは精製されたもの)または(ii)表面に標的抗原を発現している細胞とインキュベートする。
【0077】
(ii)の場合、標的抗原を発現する前記細胞は、例えば、選択した標的を天然で発現するか、または標的タンパク質を表面に発現するように形質転換されている哺乳動物細胞、好ましくはCHOまたはHEK293細胞、酵母細胞、好ましくは酵母スフェロプラスト(spheroblast)、または細菌細胞であり得る。発現の際、標的抗原は、細胞膜に組み込まれるか、または細胞膜に結合して細胞表面に発現され得る。細胞は、例えば、細胞培養において単離株として培養されても、それらの自然環境、例えば、組織、臓器または生物から単離されてもよい。
【0078】
標的抗原が細胞表面で発現されている場合、すなわち(ii)の場合、膜貫通タンパク質が特に好ましく、GPCR(Gタンパク質共役受容体)もしくはイオンチャンネルなどの複数回膜貫通タンパク質、または組換え発現および精製の際に天然のコンフォメーションを維持するのが困難である任意の他のタンパク質がさらに好ましい。組換えタンパク質による伝統的な免疫化は、これらの場合、精製処理中の内在性膜タンパク質/複合体の天然のコンフォメーションの喪失か、純粋なタンパク質の量が不十分であることにより、推奨されないか、または不可能である。本発明の好ましい実施形態では、組換えタンパク質の代わりにDNAで哺乳動物、より好ましくはイエウサギを、例えば、WO/2004/087216に開示のDNAワクチン接種プロトコールにより免疫化する。DNAワクチン接種は、天然抗原に対する迅速な免疫応答を誘導する。組換えタンパク質は必要ではないので、この技術は、一方では費用対効果に極めて優れており、もう一方では、より重要なことに、この方法は、膜内在性複合体および/または複数回膜貫通膜タンパク質の天然発現を可能にする。B細胞は、前記免疫化哺乳動物、好ましくは前記イエウサギから単離されたものであり得、または代わりにナイーブB細胞であり得る。
【0079】
前記方法の後続の工程において、B細胞、好ましくは記憶B細胞は、免疫化された動物、好ましくは免疫化されたイエウサギのリンパ器管(脾臓またはリンパ節など)から単離される。抗原を表面に発現している細胞、または蛍光標識された可溶性抗原との混合物中でこれらのB細胞をインキュベートする。標的特異的抗体をそれらの表面に発現し、その結果、標的抗原、または細胞表面に発現された標的抗原に結合するB細胞を単離する。大いに好ましい実施形態では、フローサイトメトリーベースのB細胞/標的細胞複合体またはB細胞/抗原複合体の選別による単離が可能となるように、B細胞および/または標的細胞を染色する。フローサイトメトリーは、通常、単一細胞がレーザービームを横切るときに単一細胞から放出される蛍光を測定する。しかし、一部の研究者は既に、細胞間相互作用、例えばカドヘリン(Panorchanら、2006年、J. Cell Science、119巻、66〜74頁;Leong et Hibma、2005年、J. Immunol. Methods、302巻、116〜124頁) またはインテグリン(Gawazら、1991年、J. Clin. Invest、88巻、1128〜1134頁)によって媒介される接着を調査するために、サイトメーターを使用している。したがって(ii)の場合、選択した標的を発現する細胞を細胞内蛍光色素(例えば、カルセイン)で染色する。細胞表面特異的マーカーに結合する蛍光抗体でB細胞を染色する。したがって、B細胞受容体−標的相互作用を介して相互に接着している2つの細胞に存する2色「イベント」を選択できる(図2参照)。
【0080】
IgGは通常IgMより高い親和性を有するので、IgMではなくIgGをそれらの表面に発現している(これは記憶B細胞に特有である)陽性B細胞が選択されるのが好ましい。前記目的のために、IgGに特異的な抗体とIgMに特異的な抗体とが、示差的に、例えば、それぞれAPCおよびFITCで標識される多色染色の使用が好ましい。
【0081】
特定の一実施形態では、B細胞選別のためのリードアウト(read−out)は、受容体シグナル伝達を機能的に遮断または活性化する相互作用の能力を求めて選択することもできる。例えば、GPCR(Gタンパク質共役受容体)を機能的に発現する細胞と共にB細胞をインキュベートすることができる。GPCRを介してシグナル伝達するアゴニストを混合物に添加して、GPCR媒介性の小胞体からのCa2+流出を誘導することができる。B細胞に提示されている抗体がアゴニストのシグナル伝達を機能的に遮断する場合、その結果として、この細胞間相互作用によっても、Ca2+流出が遮断される。Ca2+流出は、フローサイトメトリーによって定量的に測定できる。したがって、Ca2+流出の増加または減少のいずれかを示すB細胞/標的細胞集合体のみが選別される。
【0082】
選択工程に続いて、抗体が培地中に分泌されるのに適した条件下でB細胞を培養する。産生される抗体はモノクローナル抗体である。培養は、胸線腫ヘルパー細胞系などのヘルパー細胞系の使用を要し得る(例えばEL4−B5、Zublerら、1985年、J. Immunol.、134(6)巻、3662〜3668頁参照)。例えば、標的タンパク質以外の細胞表面で発現されているタンパク質に対して産生される抗体を除くために、標的に特異的に結合する抗体の生成を試験する検証工程が行われることが好ましい。例えば、CELISA、すなわち、コーティング工程が細胞全体で行われる改変酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)が前記目的に適している。前記方法は、リガンドと競合する抗体の選択性および能力の評価を可能にする。
【0083】
次いで、上述の工程で生成された抗体を、前記抗体のCDRを同定するために分析する。これは、抗体の精製、それらのアミノ酸配列および/または核酸配列の解明などの工程を要し得る。
【0084】
最後に、例えばオリゴ伸長法を用いた遺伝子合成によって、CDRをアクセプターフレームワーク、好ましくは上述のアクセプターフレームワークに融合させることができる。一実施形態では、ドナーCDRをアクセプターフレームワーク中に移すのに、当該分野で認識されているCDR融合の方法を用いることができる。大抵の場合、重鎖由来の3つのCDRすべてをドナー抗体から単一のアクセプターフレームワークに移植し、軽鎖由来の3つのCDRすべてを別のアクセプターフレームワークに移植する。一部のCDRは抗原への結合に関与していない可能性があり、異なった配列(および同じ長さ)を有するCDRが同じフォールディングを有し得る(したがって、異なった配列にも関わらず、抗原から主鎖接触までの接触が保持され得る)ので、これらのCDRすべてを移植する必要が常にあるわけではないと予測される。実際、単一ドメイン(Wardら、1989年、Nature、341、544〜546頁)または単一CDR(R. Taubら、1989年、J. Biol Chem、264巻、259〜265頁)でさえ単独で抗原結合活性を有することができる。しかし、すべてのCDRが移植されようが、またはいくつかのCDRのみが移植されようが、CDR融合の意図は、同一またはほとんど同一の抗原結合部位を動物からヒト抗体に移植することである(例えば、米国特許第5225539号(Winter)参照)。
【0085】
別の実施形態では、ドナー抗体のCDRは、アクセプターフレームワーク中に組み入れられる前または後に改変され得る。
【0086】
代わりに、抗体の特徴付けが、それらの最終イムノバインダーフォーマットでのみ行われる。このアプローチのために、選別されたB細胞上に発現された抗体のCDR配列を、選別されたB細胞の培養物から、または選別されたB細胞の単一細胞から直接的にRT−PCRによって回収する。前記目的には、B細胞の増殖および/または上述の検証工程および/または上述の分析工程が不必要であり得る。1つのオリゴヌクレオチドプールがCDRをコードし、第2のプールが、適したイムノバインダー足場のフレームワーク領域をコードする、部分的に重複を有する2つのプールのオリゴヌクレオチドの組合せによって、ワンステップPCR手順でのヒト化イムノバインダーの生成が可能となる。細胞培養上清中に分泌されたIgGを特徴付ける代わりに、ハイスループット配列決定、クローニング、および産生は、精製されたヒト化イムノバインダーの成績に基づいたクローン選択の実施を可能にする。その好ましい実施形態では、イムノバインダーはscFvである。
【0087】
しかし、CDRの融合は、抗原に接触しているフレームワーク残基のため、生成されたイムノバインダーの、抗原への親和性の損失をもたらし得る。そのような相互作用は体細胞超変異の結果であり得る。したがって、ヒト化抗体のフレームワークへのそのようなドナーフレームワークアミノ酸の融合がまだ必要であり得る。抗原結合に関与する、非ヒトイムノバインダーのアミノ酸残基は、イエウサギモノクローナル抗体可変領域配列および構造の検査によって同定され得る。生殖系列と異なっている、CDRドナーフレームワーク中の各残基は重要であるとすることができる。最も近い生殖系列を確定できない場合、サブグループコンセンサスまたは高いパーセントの類似性を有するイエウサギ配列のコンセンサスに対して配列を比較することができる。希少なフレームワーク残基は、体細胞超変異の結果であり得、したがって結合における役割を果たしていると考えられる。
【0088】
本発明の抗体は、強化された機能特性、例えば、強化された溶解性および/または安定性を示すようにさらに最適化することができる。特定の実施形態では、本発明の抗体は、参照により本明細書に援用される、2008年3月12日に出願された、「Sequence Based Engineering and Optimization of Single Chain Antibodies」という名称のPCT出願番号PCT/EP2008/001958に開示されている「機能的なコンセンサス」法に従って最適化される。
【0089】
例えば、イムノバインダーにおける対応位置より可変性への耐性が大きいかまたは小さいアミノ酸残基位置を同定するのに使用される機能的に選択されたscFvのデータベースと、本発明のイムノバインダーを比較し、それによって、そのような同定された残基位置が、安定性および/または溶解性などの機能性を改善するための操作に適したものであり得ることを示すことができる。
【0090】
置換のための例示的フレームワーク残基位置および例示的フレームワーク置換は、「Methods of Modifying Antibodies,and Modified Antibodies with Improved Functional Properties」という名称の、2008年6月25日出願のPCT出願第PCT/CH2008/000285号、および「Sequence Based Engineering and Optimization of Single Chain Antibodies」という名称の、2008年6月25日出願のPCT出願第PCT/CH2008/000284号に記載されている。例えば、以下の置換の1つまたは複数を、本発明のイムノバインダーの重鎖可変領域におけるアミノ酸の位置に導入することができる(以下に列挙する各アミノ酸位置に対してAHoナンバリングが参照される):
(a)アミノ酸位置1のQまたはE;
(b)アミノ酸位置6のQまたはE;
(c)アミノ酸位置7の、T、S、またはA、より好ましくはTまたはA、さらにより好ましくはT;
(d)アミノ酸位置10の、A、T、P、V、またはD、より好ましくはT、P、V、またはD、
(e)アミノ酸位置12の、LまたはV、より好ましくはL、
(f)アミノ酸位置13の、V、R、Q、M、またはK、より好ましくはV、R、Q、またはM;
(g)アミノ酸位置14の、R、M、E、Q、またはK、より好ましくはR、M、EまたはQ、さらにより好ましくはRまたはE;
(h)アミノ酸位置19の、LまたはV、より好ましくはL;
(i)アミノ酸位置20の、R、T、K、またはN、より好ましくはR、T、またはN、さらにより好ましくはN;
(j)アミノ酸位置21の、I、F、L、またはV、より好ましくはI、F、またはL、さらにより好ましくはIまたはL;
(k)アミノ酸位置45の、RまたはK、より好ましくはK;
(l)アミノ酸位置47の、T、P、V、AまたはR、より好ましくはT、P、V、またはR、さらにより好ましくはR;
(m)アミノ酸位置50の、K、Q、H、またはE、より好ましくはK、H、またはE、さらにより好ましくはK;
(n)アミノ酸位置55の、MまたはI、より好ましくはI;
(o)アミノ酸位置77の、KまたはR、より好ましくはK;
(p)アミノ酸位置78の、A、V、L、またはI、より好ましくはA、L、またはI、さらにより好ましくはA;
(q)アミノ酸位置82の、E、R、T、またはA、より好ましくはE、T、またはA、さらにより好ましくはE;
(r)アミノ酸位置86の、T、S、I、またはL、より好ましくはT、S、またはL、さらにより好ましくはT;
(s)アミノ酸位置87の、D、S、N、またはG、より好ましくはD、N、またはG、さらにより好ましくはN;
(t)アミノ酸位置89の、A、V、L、またはF、より好ましくはA、V、またはF、さらにより好ましくはV;
(u)アミノ酸位置90の、F、S、H、D、またはY、より好ましくはF、S、H、またはD;
(v)アミノ酸位置92の、D、Q、またはE、より好ましくはDまたはQ、さらにより好ましくはD;
(w)アミノ酸位置95の、G、N、T、またはS、より好ましくはG、N、またはT、さらにより好ましくはG;
(x)アミノ酸位置98の、T、A、P、F、またはS、より好ましくはT、A、P、またはF、さらにより好ましくはF;
(y)アミノ酸位置103の、R、Q、V、I、M、F、またはL、より好ましくはR、Q、I、M、F、またはL、さらにより好ましくはY、さらにより好ましくはL;および
(z)アミノ酸位置107の、N、S、またはA、より好ましくはNまたはS、さらにより好ましくはN。
【0091】
さらに、またはあるいは、以下の置換の1つまたは複数を、本発明のイムノバインダーの軽鎖可変領域中に導入することができる:
(aa)アミノ酸位置1の、Q、D、L、E、S、またはI、より好ましくはL、E、S、またはI、さらにより好ましくはLまたはE;
(bb)アミノ酸位置2の、S、A、Y、I、P、またはT、より好ましくはA、Y、I、P、またはT、さらにより好ましくはPまたはT;
(cc)アミノ酸位置3の、Q、V、T、またはI、より好ましくはV、T、またはI、さらにより好ましくはVまたはT;
(dd)アミノ酸位置4の、V、L、I、またはM、より好ましくはVまたはL;
(ee)アミノ酸位置7の、S、E、またはP、より好ましくはSまたはE、さらにより好ましくはS;
(ff)アミノ酸位置10の、TまたはI、より好ましくはI;
(gg)アミノ酸位置11の、AまたはV、より好ましくはA;
(hh)アミノ酸位置12の、SまたはY、より好ましくはY;
(ii)アミノ酸位置14の、T、S、またはA、より好ましくはTまたはS、さらにより好ましくはT;
(jj)アミノ酸位置18の、SまたはR、より好ましくはS;
(kk)アミノ酸位置20の、TまたはR、より好ましくはR;
(ll)アミノ酸位置24の、RまたはQ、より好ましくはQ;
(mm)アミノ酸位置46の、HまたはQ、より好ましくはH;
(nn)アミノ酸位置47の、K、R、またはI、より好ましくはRまたはI、さらにより好ましくはR;
(oo)アミノ酸位置50の、R、Q、K、E、T、またはM、より好ましくはQ、K、E、TまたはM;
(pp)アミノ酸位置53の、K、T、S、N、Q、またはP、より好ましくはT、S、N、Q、またはP;
(qq)アミノ酸位置56の、IまたはM、より好ましくはM;
(rr)アミノ酸位置57の、H、S、F、またはY、より好ましくはH、S、またはF;
(ss)アミノ酸位置74の、I、V、またはT、より好ましくはVまたはT、R、さらにより好ましくはT;
(tt)アミノ酸位置82の、R、Q、またはK、より好ましくはRまたはQ、さらにより好ましくはR;
(uu)アミノ酸位置91の、LまたはF、より好ましくはF;
(vv)アミノ酸位置92の、G、D、T、またはA、より好ましくはG、D、またはT、さらにより好ましくはT;
(xx)アミノ酸位置94の、SまたはN、より好ましくはN;
(yy)アミノ酸位置101の、F、Y、またはS、より好ましくはYまたはS、さらにより好ましくはS;および
(zz)アミノ酸位置103の、D、F、H、E、L、A、T、V、S、G、またはI、より好ましくはH、E、L、A、T、V、S、G、またはI、さらにより好ましくはAまたはV。
【0092】
他の実施形態において、本発明のイムノバインダーは、「Solubility Optimization of Immunobinders」という名称の、2008年6月25日出願の、米国仮出願第61/075,692号に記載されている、安定性を増強する変異を1つまたは複数含んでいる。ある好ましい実施形態において、イムノバインダーは、12、103、および144(AHoナンバリング法)からなる重鎖アミノ酸位置の群から選択されるアミノ酸位置に溶解性を増強する変異を含んでいる。好ましい一実施形態において、イムノバインダーは、(a)重鎖アミノ酸位置12のセリン(S);(b)重鎖アミノ酸位置103のセリン(S)またはスレオニン(T);および(c)重鎖アミノ酸位置144のセリン(S)またはスレオニン(T)からなる群より選択される置換を1つまたは複数含んでいる。別の一実施形態において、イムノバインダーは、以下の置換:(a)重鎖アミノ酸位置12のセリン(S);(b)重鎖アミノ酸位置103のセリン(S)またはスレオニン(T);および(c)重鎖アミノ酸位置144のセリン(S)またはスレオニン(T)を含んでいる。
【0093】
特定の好ましい実施形態では、イムノバインダーは、AHoナンバリングシステムによる軽鎖可変領域の位置1、3、4、10、47、57、91および103のうちの少なくとも1つに、軽鎖アクセプターフレームワークのフレームワーク残基で安定性増強変異を含む。好ましい実施形態では、軽鎖アクセプターフレームワークは、(a)位置1のグルタミン酸(E)、(b)位置3のバリン(V)、(c)位置4のロイシン(L)、(d)位置10のセリン(S)、(e)位置47のアルギニン(R)、(e)位置57のセリン(S)、(f)位置91のフェニルアラニン(F)、および(g)位置103のバリン(V)からなる群より選択される1つまたは複数の置換を含む。
【0094】
上述の変異を含むヒト化抗体を産生する様々な利用可能な方法のいずれを用いることもできる。
【0095】
したがって、本発明は、本明細書に記載の方法に従ってヒト化されたイムノバインダーを提供する。
【0096】
特定の好ましい実施形態では、前記イムノバインダーの標的抗原はVEGFまたはTNFαである。
【0097】
例えば、当該分野で公知の技法を用いて、本発明に記載のポリペプチドまたは本発明の方法で生成されたポリペプチドを合成できる。代わりに、所望の可変領域をコードする核酸分子を合成すること、および組換え法によってポリペプチドを生成することができる。
【0098】
例えば、ヒト化可変領域の配列がひとたび決定されると、分子生物学の分野で周知の技法によって、その可変領域またはそれを含むポリペプチドを生成することができる。より具体的には、核酸配列で宿主細胞を形質転換することによって、広範なポリペプチドを産生するのに、組換えDNA技法を用いることができる(例えば、所望の可変領域をコードするDNA配列(例えば、改変重鎖または軽鎖;その可変ドメインまたはその他の抗原結合性フラグメント))。
【0099】
一実施形態では、少なくともVまたはVをコードするDNA配列に作動可能に連結するプロモーターを含む発現ベクターを調製できる。必要または望ましい場合、相補的な可変ドメインをコードするDNA配列に作動可能に連結するプロモーターを含有する第2の発現ベクターを調製することができる(すなわち、親発現ベクターがVをコードし、第2の発現ベクターがVをコードする場合、およびその逆)。その後、細胞系(例えば、不死化哺乳動物細胞系)を該発現ベクターの一方または両方で形質転換し、キメラ可変ドメインまたはキメラ抗体の発現を可能にする条件下で培養することができる(例えば、Neubergerらの国際特許出願第PCT/GB85/00392号を参照)。
【0100】
一実施形態では、ドナーCDRおよびアクセプターFRのアミノ酸配列を含む可変領域を作り、次いで、CDRアミノ酸置換をもたらすように核酸分子に変化を導入し得る。
【0101】
ポリペプチドのアミノ酸配列改変体をコードする核酸分子を作るための当該分野で認識されている例示的方法には、部位特異的(またはオリゴヌクレオチド媒介)変異誘発、PCR変異誘発、および該ポリペプチドをコードする事前調製DNAのカセット変異誘発による調製が含まれるが、これらに限定されない。
【0102】
部位特異的変異誘発は、置換改変体を調製するのに好ましい方法である。この技法は、当該分野で周知である(例えば、Carterら、Nucleic Acids Res.、13巻、4431〜4443頁(1985年)、Kunkelら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、82巻、488巻(1987年)を参照)。簡潔には、DNAの部位特異的変異誘発を行う際に、親DNAの改変を、最初に、上記親DNAの単一鎖に所望の変異をコードするオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせることによって行う。ハイブリダイゼーションの後に、ハイブダイズしたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、親DNAの単一鎖を鋳型として用いて、DNAポリメラーゼを用いて第2鎖全体を合成する。それによって、所望の変異をコードするオリゴヌクレオチドが、結果として得られる2本鎖DNAに組み込まれる。
【0103】
PCR変異誘発もポリペプチドのアミノ酸配列改変体を作るのに適している。Higuchi、PCR Protocols、177〜183頁(Academic Press、1990年);Valletteら、Nuc. Acids Res.、17巻、723〜733頁(1989年)参照。簡潔には、PCRにおける出発物質として少量の鋳型DNAが用いられる場合、鋳型DNAの対応する領域と配列が若干異なるプライマーを使用して、プライマーが鋳型と異なっている位置のみで鋳型配列と異なっている、比較的多量の特異DNAフラグメントを生成することができる。
【0104】
改変体を調製するための別の方法であるカセット変異誘発は、Wellsら、Gene、34巻、315〜323頁(1985年)によって記載された技法に基づいている。出発物質は、変異導入されるDNAを含むプラスミド(または他のベクター)である。変異導入される親DNA中のコドン(単数または複数)を同定する。同定された変異部位(単数または複数)の各側にユニークな制限エンドヌクレアーゼ部位がなければならない。そのような制限酵素認識部位が存在していない場合、ポリペプチドをコードするDNA中の適切な位置に制限酵素認識部位を導入する上述のオリゴヌクレオチド媒介変異誘発方法を用いて、生成させることができる。これらの部位でプラスミドDNAを切断して、それを線状化する。制限酵素認識部位間のDNAの配列をコードするが、所望の変異(単数または複数)を含有する2本鎖オリゴヌクレオチドは標準的手順を用いて合成され、ここで、オリゴヌクレオチドの2本の鎖は、標準的な技法を用いて別々に合成され、次いで、互いにハイブリダイズされる。この2本鎖オリゴヌクレオチドはカセットと呼ばれる。このカセットは、プラスミドに直接的にライゲーションされるように、線状化されたプラスミドの末端と適合する5’末端および3’末端を有するように設計される。このプラスミドは、この時点で、変異導入されたDNA配列を含有する。
【0105】
本発明の方法によって生成された可変領域は、リモデリングを行って、抗原結合性がさらに増強するようにさらに改変することができる。したがって、上述の工程は、例えば、親和性成熟を含めた追加工程に先行することも、それらの後にくることもできる。加えて、さらなる最適化に、経験的な結合データを用いることもできる。
【0106】
アミノ酸配列は相違するが所望の活性は相違しないように本発明のポリペプチドをさらに改変できることを当業者は理解する。例えば、「非必須」アミノ酸残基でのアミノ酸置換を導く、さらなるヌクレオチド置換をタンパク質に加えてもよい。例えば、免疫グロブリンポリペプチド中の非必須アミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基で置換できる。別の実施形態では、ひと続きのアミノ酸を、順序および/または側鎖ファミリーメンバーの組成が異なる構造的に類似したひと続きで置換することができ、すなわち、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換される保存的置換を加えることができる。
【0107】
類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当該分野で定義されており、それらとしては、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および、芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。
【0108】
アミノ酸置換とは別に、本発明では、例えば、改変されたエフェクター機能を有するFc領域改変体を生成するためのFc領域アミノ酸配列への他の改変も企図されている。例えば、FcRへの結合を減少または促進するために、Fc領域の1つまたは複数のアミノ酸残基を除去することができる。一実施形態では、そのようなFc領域改変体を生成するために、1つまたは複数のFc領域残基を改変することができる。通常、本発明のこの実施形態によれば、1〜約10以下のFc領域残基が除去される。ここで1つまたは複数のアミノ酸欠失を含むFc領域は、好ましくは、開始Fc領域または天然配列ヒトFc領域の少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%を保持する。
【0109】
改変されたエフェクター機能を有するアミノ酸挿入Fc領域改変体も生成できる。例えば、本明細書でFcR結合にインパクトを与えるものとして同定された1つまたは複数のFc領域位置に隣接する少なくとも1つのアミノ酸残基(例えば、1から2アミノ酸残基、通常は10残基以下)を導入できる。「隣接する」とは、本明細書で同定するFc領域残基の1〜2アミノ酸残基以内にあることを意味する。そのようなFc領域改変体は、FcRn結合の強化または低減を示し得る。
【0110】
そのようなFc領域改変体は通常、Fc領域内に少なくとも1つのアミノ酸の改変を含む。一実施形態では、アミノ酸改変が組み合わされ得る。例えば、改変体Fc領域はその中に、例えば本明細書で同定された特定のFc領域位置のうちの2、3、4、5箇所などの置換を含み得る。別の実施形態では、ポリペプチドは、FcRnとの結合および別のFc受容体との結合が改変されたものであり得る。
【0111】
一実施形態では、本発明に記載されているポリペプチド、または本発明の方法で生成されたポリペプチド、例えば、ヒト化Ig可変領域および/またはヒト化Ig可変領域を含むポリペプチドは、組換え法によって産生されたものであり得る。例えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を組換え発現のために適した発現ベクターに挿入できる。ポリペプチドが抗体である場合、定常領域に場合により連結された、追加の軽鎖可変領域および重鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが同じかまたは異なった発現ベクターに挿入され得る。親和性タグ配列(例えば、His(6)タグ)を、下流の精製を容易にするためにポリペプチド配列に場合により結合または包含させることができる。免疫グロブリン鎖をコードするDNAセグメントは、免疫グロブリンポリペプチドの発現を確実にする、発現ベクター(単数または複数)中の制御配列に作動可能に連結されている。発現制御配列としては、プロモーター(例えば、天然付随または異種のプロモーター)、シグナル配列、エンハンサーエレメントおよび転写終結配列が挙げられるが、これらに限定されない。発現制御配列は、真核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトすることができるベクター中の真核細胞プロモーター系であることが好ましい。ひとたびベクターが適切な宿主に組み入れられれば、ヌクレオチド配列の高レベル発現ならびにポリペプチドの収集および精製に適した条件下で宿主は維持される。
【0112】
これらの発現ベクターは通常、エピソームとして、または宿主染色体DNAに組み込まれた部分として宿主生物内で複製可能である。一般的に、発現ベクターは、所望のDNA配列で形質転換された細胞の検出を可能にするために、選択マーカー(例えば、アンピシリン耐性、ハイグロマイシン耐性、テトラサイクリン耐性またはネオマイシン耐性)を含有している(例えば、米国特許第4,704,362号参照)。
【0113】
E.coliは、本発明のポリヌクレオチド(例えば、DNA配列)をクローニングするのに特に有用な原核細胞の宿主の1つである。使用に適した他の微生物の宿主には、Bacillus subtilusなどの桿菌、ならびにSalmonella、Serratiaおよび様々なPseudomonas種などの他の腸内細菌科が含まれる。
【0114】
酵母などの他の微生物も発現に有用である。SaccharomycesおよびPichiaは例示的酵母宿主であり、適したベクターは、所望により、発現制御配列(例えば、プロモーター)、複製開始点、終止配列などを有する。典型的なプロモーターとしては、3−ホスホグリセレートキナーゼおよび他の解糖系酵素が挙げられる。誘導性酵母プロモーターとしては、とりわけ、アルコールデヒドロゲナーゼ、イソシトクロムC由来のプロモーター、ならびにメタノール、マルトースおよびガラクトース利用を担っている酵素群由来のプロモーターが挙げられる。
【0115】
本発明の範囲内では、E.coliおよびS.cerevisiaeが好ましい宿主細胞である。
【0116】
微生物に加えて、哺乳動物組織培養も、本発明のポリペプチドを発現および産生させるのに使用できる(例えば、免疫グロブリンまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド)。Winnacker、From Genes to Clones、VCH Publishers、N.Y., N.Y(1987年)を参照されたい。異種タンパク質(例えば、インタクトな免疫グロブリン)を分泌できる多くの適した宿主細胞系が当該分野で開発されているので、真核細胞が事実上好ましく、それらには、CHO細胞系、様々なCos細胞系、HeLa細胞、293細胞、骨髄腫細胞系、形質転換B細胞およびハイブリドーマが挙げられる。これらの細胞のための発現ベクターは、複製開始点、プロモーターおよびエンハンサーなどの発現制御配列(Queenら、Immunol. Rev.、89巻、49頁(1986年))、ならびにリボソーム結合部位、RNAスプライシング部位、ポリアデニル化部位、転写ターミネータ配列などの必要なプロセシング情報部位を含むことができる。好ましい発現制御配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、サイトメガロウイルスなどから得られたプロモーターである。Coら、J. Immunol.、148巻、1149頁(1992年)を参照されたい。
【0117】
目的のポリヌクレオチド配列(例えば、重鎖および軽鎖をコードする配列ならびに発現制御配列)を含有するベクターを、周知の方法(細胞宿主のタイプに応じて異なる)によって宿主細胞内に導入できる。例えば、塩化カルシウムトランスフェクションは原核細胞に一般的に利用され、一方、リン酸カルシウム処理、エレクトロポレーション、リポフェクション、バイオリスティクス(biolistics)またはウイルスベースのトランスフェクションは他の細胞宿主に使用され得る(全般的にSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press、第2版、1989年を参照)。哺乳動物細胞を形質転換するのに使用される他の方法には、ポリブレンの使用、プロトプラスト融合、リポソーム、エレクトロポレーション、および微量注入が挙げられる(全般的に、Sambrookら、同上を参照)。トランスジェニック動物の産生には、受精卵母細胞内に導入遺伝子を微量注入すること、または、胚幹細胞のゲノム中に組み入れ、そのような細胞の核を除核卵母細胞内に導入することができる。
【0118】
トランスジェニック動物のゲノム中に導入して、それに続いて、例えば、トランスジェニック動物の乳中に発現させるために、対象となるポリペプチドを導入遺伝子に組み入れることもできる(例えば、Deboerら、5,741,957;Rosen、5,304,489;およびMeade、5,849,992参照)。適した導入遺伝子には、カゼインまたはベータラクトグロブリンなどの乳腺特異的遺伝子由来のプロモーターおよびエンハンサーに作動可能に連結した、軽鎖および/または重鎖のコード配列が挙げられる。
【0119】
ポリペプチドは、単一ベクターを用いて発現させることも、2つのベクターを用いて発現することもできる。例えば、抗体重鎖および軽鎖を、別々の発現ベクターにクローニングして、細胞中に共トランスフェクト(co−transfect)してもよい。
【0120】
一実施形態では、本発明のポリペプチドの発現を促進するのに、シグナル配列を使用できる。
【0121】
ひとたび発現されれば、そのポリペプチドを、硫酸アンモニウム沈殿、親和性カラム(例えば、プロテインAまたはプロテインG)、カラムクロマトグラフィー、HPLC精製、ゲル電気泳動などを含めた、当該分野の標準的手順(全般的に、Scopes、Protein Purification(Springer−Verlag, N.Y.(1982年))を参照のこと)に従って精製することができる。
【0122】
ヒト化Ig可変領域またはそれらを含むポリペプチドを宿主細胞または培養細胞系によって発現させることができる。それらは、インビボの細胞で発現させることもできる。改変された抗体を産生するように形質転換(例えば、トランスフェクト)される細胞系は、不死化哺乳動物細胞系であり得、例えば、リンパ球系出自のものである(例えば、骨髄腫、ハイブリドーマ、トリオーマまたはクアドローマ細胞系)。この細胞系としてはまた、ウイルス(例えば、エプスタインーバーウイルス)を用いた形質転換によって不死化された、B細胞などの正常なリンパ系細胞が挙げられ得る。
【0123】
ポリペプチドを産生するのに使用される細胞系は通常、哺乳動物細胞系であるが、他の供給源からの細胞系(細菌および酵母など)も使用できる。特に、E.coli由来の細菌株を使用でき、とりわけ、例えば、ファージディスプレイを使用できる。
【0124】
骨髄腫細胞株など、一部の不死化リンパ系細胞系は、それらの正常な状態で、単離されたIg軽鎖または重鎖を分泌する。本発明の方法中に調製された改変抗体を発現するベクターでそのような細胞系が形質転換された場合、通常分泌される鎖が、事前に調製されたベクターによってコードされたIg鎖の可変ドメインに相補的な鎖であるという条件では、該方法の残りの工程を実行する必要はない。
【0125】
不死化細胞系が分泌しない、または相補鎖を分泌しない場合、適切な相補鎖またはそのフラグメントをコードするベクターを細胞内に導入することが必要である。
【0126】
不死化細胞系が相補的な軽鎖または重鎖を分泌する場合、形質転換細胞系は、例えば、適した細菌細胞をベクターで形質転換し、次いで、その細菌細胞を不死化細胞系と(例えば、スフェロプラスト融合によって)融合させることによって産生され得る。代わりに、エレクトロポレーションによってDNAが不死化細胞系に直接的に導入され得る。
【0127】
一実施形態では、本発明で記載されるヒト化Ig可変領域、または本発明の方法によって生成されるヒト化Ig可変領域は、任意の抗体の抗原結合性フラグメント中に存在し得る。これらのフラグメントは、組換えによって産生され得、ならびにタンパク質分解酵素で抗体を消化することによって操作、合成または産生され得る。例えば、フラグメントは、Fabフラグメントであり得、パパインによる消化は、2本の重鎖を連結する鎖間(すなわち、V−V)ジスルフィド結合の前の領域で抗体を切断する。これは、軽鎖ならびに重鎖のVおよびC1ドメインを含有する2つの同一なフラグメントの形成をもたらす。代わりに、このフラグメントは、F(ab’)フラグメントであり得る。これらのフラグメントは、ペプシンで抗体を消化することによって生成され得る。ペプシンは、鎖間ジスルフィド結合の後で重鎖を切断し、その結果、両方の抗原結合部位を含有するフラグメントをもたらす。さらに別の代替手段は、「単一鎖」抗体を用いることである。単鎖Fv(scFv)フラグメントは、様々な方法で構築できる。例えば、VのC末端をVのN末端に連結できる。通常、リンカー(例えば(GGGGS))をVとVとの間で配置する。しかし、鎖が連結され得る順序は、逆にすることができ、検出または精製を容易にするタグ(例えば、Mycタグ、HisタグまたはFLAGタグ)が含まれ得る(これらなどのタグを本発明の任意の抗体または抗体フラグメントに追加することができる;それらの使用はscFvに限定されない)。したがって、以下に述べるように、タグ付きの抗体は本発明の範囲内にある。代わりの実施形態では、本明細書に記載の抗体または本明細書に記載の方法によって生成される抗体は、重鎖2量体または軽鎖2量体であり得る。さらに、抗体軽鎖もしくは重鎖またはその部分、例えば単一ドメイン抗体(DAb)も使用できる。
【0128】
別の実施形態では、本発明に記載のヒト化Ig可変領域、または本発明の方法で生成されるヒト化Ig可変領域は、単一鎖抗体(ScFv)またはミニボディー(minibody)で存在する(例えば、米国特許第5,837,821号またはWO94/09817A1参照)。ミニボディーは、それぞれScFv分子(1つまたは複数の抗原結合部位を含む単一ポリペプチド、例えば、接続ペプチドを介してCH3ドメインに融合したVドメインに柔軟なリンカーによって連結されたVドメイン)を含む2本のポリペプチド鎖で作られた2量体分子である。ScFv分子は、V−リンカー−V配向または、V−リンカー−V配向で構築できる。抗原結合部位を作るVおよびVドメインを連結する柔軟なヒンジは、約10〜約50アミノ酸残基を含むことが好ましい。この目的のための例示的接続ペプチドは、(Gly4Ser)3である(Hustonら(1988年)、PNAS、85巻、5879頁)。他の接続ペプチドは当該分野は公知である。
【0129】
単一鎖抗体を生成する方法は、当該分野で周知であり、例えば、Hoら(1989年)、Gene、77巻、51頁;Birdら(1988年)、Science、242巻、423頁;Pantolianoら(1991年)、Biochemistry、30巻、10117頁;Milenicら(1991年)、Cancer Research、51巻、6363頁;Takkinenら(1991年)、Protein Engineering、4巻、837頁。ミニボディーは、当該分野で記載されている方法を用いて、ScFv成分および接続ペプチド−CH成分を構築することによって生成できる(例えば、米国特許第5,837,821号またはWO94/09817A1参照)。これらの成分を、別々のプラスミドから制限フラグメントとして単離し、その後、適切なベクター中にライゲーションおよび再クローニングすることができる。適切なアセンブリを制限酵素消化およびDNA配列分析で確かめることができる。一実施形態では、本発明のミニボディーは接続ペプチドを含む。一実施形態では、接続ペプチドは、Gly/Serリンカー、例えばGGGSSGGGSGGを含む。
【0130】
別の実施形態では、4価のミニボディーを構築できる。例えばアミノ酸配列(GS)ASを有する柔軟なリンカーを用いて2個のScFv分子が連結されることを除けばミニボディーと同じ方法で、4価のミニボディーを構築することができる。
【0131】
別の実施形態では、本発明で記載するヒト化可変領域、または本発明の方法で生成されるヒト化可変領域はダイアボディーで存在し得る。ダイアボディーはscFv分子に類似しているが、通常、両方の可変ドメインを接続する短い(10未満、好ましくは1〜5)アミノ酸残基リンカーを有し、それゆえ、同一ポリペプチド鎖上のVドメインとVドメインとは相互作用できない。代わりに、1本のポリペプチド鎖のVおよびV領域が(それぞれ)第2のポリペプチド鎖上のVおよびVドメインと相互作用する(WO02/02781)。
【0132】
別の実施形態では、本発明のヒト化可変領域は、FcR結合部分に作動可能に連結した抗体(例えば、scFv分子、ミニボディー、4価のミニボディー、またはダイアボディー)の免疫反応性フラグメントまたは部分に存在し得る。例示的な一実施形態では、FcR結合部分は完全なFc領域である。
【0133】
本明細書に記載のヒト化法は、ドナー抗体と比較して実質的に抗原の親和性が変化していないIg可変領域をもたらすことが好ましい。
【0134】
一実施形態では、本発明の可変ドメインを含むポリペプチドは、約10−1、約10−1、約10−1、約10−1、約10−1、約1010−1、約1011−1または約1012−1超の(またはそれに等しい)結合定数Kaの結合親和性で抗原に結合する(これらの値の中間値の親和性を含む)。
【0135】
様々な方法で親和性、アビディティーおよび/または特異性を測定できる。通常、親和性が定義または測定される正確な方法に関わらず、本発明の方法によって、作製元の抗体(または複数の抗体)よりも臨床適用の任意の側面で優れた抗体が生成される場合、該方法は、抗体親和性を改善するものである(例えば、改変された抗体が、作製元の抗体(または複数の抗体)よりも低用量または低頻度または好都合な投与経路で投与できる場合、本発明の方法は有効または好成果であると考えられる)。
【0136】
より詳細には、抗体と、それが結合する抗原との間の親和性は、例えば、ELISAアッセイ、BiaCoreアッセイまたはKinExATM3000アッセイ(Sapidyne Instruments(Boise(ID))から入手可能)を含めた様々なアッセイで測定できる。簡潔には、セファロースビーズを共有結合によって抗原(本発明の方法で使用される抗原は、任意の目的の抗原(例えば、がん抗原;細胞表面タンパク質または分泌タンパク質;病原体の抗原(例えば、細菌またはウイルス抗原(例えば、HIV抗原、インフルエンザ抗原または肝炎抗原));アレルゲンであり得る)でコーティングする。試験される抗体の希釈物を調製し、各希釈物をプレートにおける指定された穴に添加する。次いで、それぞれの穴に検出抗体(例えば、ヤギ抗ヒトIgG−HRP結合体)を添加し、続いて色素形成の基質(例えば、HRP)を添加する。次いで、プレートをELISAプレートリーダーで450nMにて読み取り、EC50値を計算する(ここに記載された方法は概ね適用可能である;それらは、いかなる特定の抗原または抗原のクラスに結合する抗体の産生にも限定されないと理解される)。
【0137】
当業者ならば、親和性の決定が常に単一の数値を見るだけですむほど単純ではないと認識している。抗体は2つの腕を有するので、通常、それらの見かけの親和性は、可変領域と抗原との間の固有の親和性よりはるかに高い(これはアビディティーによるものと考えられている)。scFvまたはFabフラグメントを用いて固有の親和性を測定できる。
【0138】
別の一態様において、本発明は、本発明のヒト化されたイエウサギ抗体またはそのフラグメントを含む二重特異性分子を特徴としている。本発明の抗体、またはその抗原結合部分を、誘導体化するか、または例えば別のペプチドまたはタンパク質(例えば、別の抗体もしくは受容体に対するリガンド)などの別の機能性分子に連結して、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二重特異性分子を産生することができる。本発明の抗体を、誘導体化するか、または2つ以上の他の機能性分子に連結して、3つ以上の異なる結合部位および/または標的分子に結合する多重特異性分子を産生することができ、このような多重特異性分子は、本明細書で用いられる「二重特異性分子」の用語によって包含されることも意図される。本発明の二重特異性分子を作り出すには、本発明の抗体を、別の抗体、抗体フラグメント、腫瘍特異的もしくは病原体特異的な抗原、ペプチド、または結合性模倣物(mimetic)などの1つまたは複数の他の結合性分子に、二重特異性分子が生じるように、(例えば、化学カップリング、遺伝子融合、非共有性の会合、またはその他によって)機能的に連結してよい。したがって、本発明は、第1の標的に対する特異性を有する少なくとも1つの第1の結合性分子、および1つまたは複数のさらなる標的エピトープに対する特異性を有する第2の結合性分子を含む二重特異性分子を含む。
【0139】
一実施形態において、本発明の二重特異性分子は、結合特異性として、少なくとも1つの抗体、またはその抗体フラグメント(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、または単鎖Fvを含む)を含む。抗体は、その内容が参照によって明示的に援用されるLadnerら、米国特許第4,946,778号に記載されているように、軽鎖もしくは重鎖のダイマー、または任意の最小のそのフラグメント(Fvまたは単鎖の構築物など)であってもよい。
【0140】
ヒトモノクローナル抗体が好ましいが、本発明の二重特異性分子に用いることができる他の抗体は、マウスの、キメラの、およびヒト化のモノクローナル抗体である。
【0141】
本発明の二重特異性分子を、当該分野では公知の方法を用いて、構成成分の結合特異性を結合体化することによって調製することができる。例えば、二重特異性分子の各結合特異性を別々に産生し、次いで相互に結合体化してよい。結合特異性がタンパク質またはペプチドである場合、様々なカップリング剤またはクロスリンク剤を共有性の結合体化に用いることができる。クロスリンク剤の例としては、プロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DNTB)、o−フェニレンジマレイミド(oPDM)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、およびスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)が挙げられる(例えば、Karpovskyら、(1984年)J. Exp. Med.、160巻、1686頁;Liu, MAら(1985年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA、82巻、8648頁を参照されたい)。他の方法としては、Paulus(1985年)Behring Ins. Mitt.、78巻、118〜132号;Brennanら(1985年)Science、229巻、81〜83頁、およびGlennieら(1987年)J. Immunol.、139巻、2367〜2375頁に記載されているものが挙げられる。好ましい結合体化剤(conjugating agent)はSATAおよびスルホ−SMCCであり、両方ともPierce Chemical Co.(Rockford、IL)から入手できる。
【0142】
結合特異性が抗体である場合、2本の重鎖のC末端ヒンジ領域のスルフヒドリル結合によってこれらは結合体化されてよい。とりわけ好ましい一実施形態において、ヒンジ領域を、奇数個、好ましくは1個のスルフヒドリル残基を含むように修飾した後、結合体化する。
【0143】
あるいは、両方の結合特異性を同じベクター中にコードさせ、同じ宿主細胞中で発現、アセンブルさせてもよい。この方法は、二重特異性分子が、mAb×mAb、mAb×Fab、Fab×F(ab’)、またはリガンド×Fab融合タンパク質である場合にとりわけ有用である。本発明の二重特異性分子は、1つの単鎖抗体および結合決定基を含む単鎖分子、または2つの結合決定基を含む単鎖の二重特異性分子であってよい。二重特異性分子は、少なくとも2つの単鎖分子を含んでいてよい。二重特異性分子を調製するための方法は、例えば、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,455,030号、米国特許第4,881,175号、米国特許第5,132,405号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,476,786号、米国特許第5,013,653号、米国特許第5,258,498号、および米国特許第5,482,858号に記載されている。
【0144】
二重特異性分子によるそれらの特異標的への結合は、例えば酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、フローサイトメトリーベースの単一細胞選別(例えば、FACS分析)、バイオアッセイ(例えば、増殖阻害)、またはウエスタンブロットアッセイで確認できる。これらの各アッセイは、一般的に、目的の複合体に特異的な標識した試薬(例えば、抗体)を用いることによって、特に目的とするタンパク質−抗体複合体の存在を検出するものである。例えば、抗体複合体を、例えば、抗体−VEGF複合体を認識して特異的に結合する、酵素が連結した抗体または抗体フラグメントを用いて検出することができる。あるいは、複合体を、様々な他の任意のイムノアッセイを用いて検出することができる。例えば、抗体は、放射性標識されていてよく、ラジオイムノアッセイ(RIA)において用いられてよい(例えば、参照によって本明細書に援用される、Weintraub, B.、Principles of Radioimmunoassays、Seventh Training Course on Radioligand Assay Techniques、The Endocrine Society、1986年3月を参照されたい)。放射性同位元素を、γ線計数器、もしくはシンチレーションカウンターの使用などの手段によって、またはオートラジオグラフィーによって検出することができる。
【0145】
別の一態様において、本発明は、細胞毒、薬物(例えば、免疫抑制薬)、または放射性毒などの治療用部分に結合体化している、ヒト化イエウサギ抗体、またはそのフラグメントを特色としている。このような複合体を、本明細書において「イムノコンジュゲート」と呼ぶ。1つまたは複数の細胞毒を含むイムノコンジュゲートを「免疫毒素」と呼ぶ。細胞毒または細胞毒性剤には、細胞にとって有害な(例えば、死滅させる)あらゆる薬剤が含まれる。例としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、エチジウムブロマイド、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、ならびにこれらの類似体または同族体が挙げられる。治療剤としては、例えば、代謝拮抗薬(例えば、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−フルオロウラシル、ダカルバジン(decarbazine))、アルキル化薬(例えば、メクロレタミン、チオテパ(thioepa)、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド(cyclothosphamide)、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびシス−ジクロロジアミン白金(II)(DDP)、シスプラチン)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前のダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前のアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、ならびに抗有糸分裂剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)がやはり挙げられる。
【0146】
本発明の抗体に結合体化することができる治療用細胞毒の他の好ましい例としては、デュオカルマイシン、カリケアマイシン、メイタンシン、およびオーリスタチン、ならびにこれらの誘導体が挙げられる。カリケアマイシン抗体結合体の一例は市販されている(MylotargTM、Wyeth−Ayerst)。
【0147】
細胞毒を、当該分野で利用可能なリンカー技術を用いて、本発明の抗体に結合体化することができる。細胞毒を抗体に結合体化するのに用いられているリンカーのタイプの例としては、それだけには限定されないが、ヒドラゾン、チオエーテル、エステル、ジスルフィド、およびペプチド含有のリンカーが含まれる。リンカーは、例えば、リソソーム区画内の低pHによる切断を受けやすいもの、またはカテプシン(例えば、カテプシンB、C、D)など、腫瘍組織において優先的に発現されるプロテアーゼなどの、プロテアーゼによる切断を受けやすいものが選択され得る。
【0148】
細胞毒、リンカーのタイプ、および治療剤を抗体に結合体化するための方法のさらなる考察に関して、Saito, G.ら、(2003年)Adv. Drug Deliv. Rev.、55巻、199〜215頁;Trail, P. A.ら、(2003年)Cancer lmmunol. Immunother.、52巻、328〜337頁;Payne, G.(2003年)Cancer Cell、3巻、207〜212頁;Allen, T. M.(2002年)Nat. Rev. Cancer 2巻、750〜763頁;Pastan, I. およびKreitman, R. J.、(2002年)Curr. Opin. Investig. Drugs、3巻、1089〜1091頁;Senter, P.D.およびSpringer, C.J. (2001年)Adv. Drug Deliv. Rev.、53巻、247〜264頁も参照されたい。
【0149】
本発明の抗体は、また、放射性同位元素に結合体化して、ラジオイムノコンジュゲート(radioimmunoconjugate)とも呼ばれる、細胞毒性の放射性医薬品を産生することもできる。診断に、または治療に用いるための抗体に結合体化することができる放射性同位元素の例としては、それだけには限定されないが、ヨウ素131、インジウム111、イットリウム90、およびルテチウム177が挙げられる。ラジオイムノコンジュゲートを調製するための方法は、当該分野において確立されている。ラジオイムノコンジュゲートの例はZevalinTM(IDEC Pharmaceuticals)およびBexxarTM(Corixa Pharmaceuticals)を含めて市販されており、本発明の抗体を用いてラジオイムノコンジュゲートを調製するのに同様の方法を用いることができる。 本発明の抗体結合体を用いて、所与の生物学的応答を調節することができ、薬物部分は古典的な化学療法剤に限定されると解釈してはならない。例えば、薬物部分は、所望の生物活性を有するタンパク質またはポリペプチドであってよい。このようなタンパク質としては、例えば、酵素的に活性な毒素、またはその活性なフラグメント、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナスの体外毒素、もしくはジフテリア毒素;腫瘍壊死因子もしくはインターフェロン−γなどのタンパク質;または生物学的応答調節物質、例えば、リンホカイン、インターロイキン−1(「IL−1」)、インターロイキン−2(「IL−2」)、インターロイキン−6(「IL−6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM−CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G−CSF」)、もしくは他の成長因子が挙げられ得る。
【0150】
このような治療部分を抗体に結合体化するための技術は周知であり、例えば、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy、Reisfeldら(編集)、243〜56頁、(Alan R. Liss, Inc. 1985)における、Arnon ら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」;Controlled Drug Delivery(第2版)、Robinson ら(編集)、623〜53頁(Marcel Dekker, Inc.、1987年)における、Hellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」;Monoclonal Antibodies ’84: Biological And Clinical Applications、Pincheraら(編集)、475〜506頁(1985年)における、Thorpe、「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review」;Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy、Baldwinら(編集)、303〜16頁(Academic Press 1985年)における、「Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」、およびThorpeら、「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody−Toxin Conjugates」、Immunol. Rev.、62巻、119〜58頁(1982年)を参照されたい。
【0151】
1つの態様では、本発明は、疾患の処置のためのヒト化イエウサギ抗体を含む薬学的処方物を提供する。用語「薬学的処方物」とは、明白に有効である抗体または抗体誘導体の生物活性を可能にするような形態であり、処方物を投与した被験体に毒性のある追加の成分を含まない調製物をいう。「薬学的に許容される」賦形剤(ビヒクル、添加剤)とは、被験体である哺乳動物に合理的に投与し、採用する活性成分の有効用量を実現できるものである。
【0152】
「安定的な」処方物とは、処方物中の抗体または抗体誘導体が、保存に際しその物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物活性を本質的に保持するものである。タンパク質の安定性を測定するための様々な分析技法は、当該分野で入手でき、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery、247〜301頁、Vincent Lee編、Marcel Dekker, Inc.、New York、N.Y.、Pubs.(1991年)、およびJones, A. Adv. Drug Delivery Rev.10巻:29〜90頁(1993年)に概説されている。安定性は、選択した期間の間、選択した温度で測定することができる。好ましくは、処方物は、少なくとも1カ月間、室温(約30℃)または40℃で安定であり、および/または少なくとも1年間または少なくとも2年間、約2〜8℃で安定である。その上、処方物は、好ましくは、処方物の凍結(例えば−70℃まで)および解凍の後も安定である。
【0153】
色および/または透明さの視覚的検査で、あるいはUV光散乱またはサイズ排除クロマトグラフィーによって測定したときに、凝集、沈殿および/または変性の徴候をまったく示さない場合、抗体または抗体誘導体は、薬学的処方物において「その物理的安定性を保持する」。
【0154】
抗体または抗体誘導体は、所与の時間での化学的安定性が、タンパク質が以下に定義されるようなその生物活性をなおも保持すると考えられるほどであれば、薬学的処方物において「その化学的安定性を保持する」。化学的安定性は、化学変化したタンパク質の形態を検出および定量化することによって評価することができる。化学変化は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、SDS−PAGEおよび/またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型質量分析(MALDI/TOF MS)を用いて評価できる、サイズ変更(例えばクリッピング(clipping))に関わり得る。他のタイプの化学変化には、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって評価できる電荷変化(例えば、脱アミドに起因して起こる)が挙げられる。
【0155】
抗体または抗体誘導体は、所与の時間での抗体の生物活性が、例えば、薬学的処方物を抗原結合アッセイで決定されるように調製したときに示される生物活性の、約10%以内(アッセイのエラー内)であれば、薬学的処方物において「その生物活性を保持する」。抗体に関する他の「生物活性」アッセイは、本明細書で以下に詳しく述べる。
【0156】
「等張」とは、目的の処方物が、本質的にヒト血液と同じ浸透圧を有することを意味する。等張処方物は、一般的に約250から350mOsmの浸透圧を有する。等張性は、例えば、蒸気圧またはアイスフリージング型浸透圧計を用いて測定することができる。
【0157】
「ポリオール」は、複数のヒドロキシル基を有する物質であり、糖(還元および非還元糖)、糖アルコールおよび糖酸が挙げられる。本明細書における好ましいポリオールは、約600kD未満(例えば、約120から約400kDの範囲)の分子量を有する。「還元糖」とは、金属イオンを還元できるか、またはリジンおよびタンパク質中の他のアミノ基と共有結合的に反応できるヘミアセタール基を含むものであり、「非還元糖」とは、還元糖のこれらの特性をもたないものである。還元糖の例は、フルクトース、マンノース、マルトース、ラクトース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトースおよびグルコースである。非還元糖には、スクロース、トレハロース、ソルボース、メレジトースおよびラフィノースが挙げられる。マンニトール、キシリトール、エリスリトール、トレイトール、ソルビトールおよびグリセロールは、糖アルコールの例である。糖酸について、これには、L−グルコネートおよびその金属塩が挙げられる。処方物が凍結−解凍に対して安定であることが望まれる場合、ポリオールは、好ましくは処方物中の抗体が不安定になるような凍結温度(例えば−20℃)での結晶化をしないものである。スクロースおよびトレハロースなどの非還元糖は、本明細書において好ましいポリオールであり、トレハロースの優れた溶液安定性の理由から、スクロースよりトレハロースが好ましい。
【0158】
本明細書で使用するとき、「緩衝液」とは、酸−塩基の結合体化成分の作用によるpHの変化に耐える緩衝溶液をいう。本発明の緩衝液は、約4.5から約6.0、好ましくは約4.8から約5.5の範囲のpHを有し、最も好ましくは約5.0のpHを有する。この範囲でpHを制御する緩衝液の例には、酢酸塩(例えば酢酸ナトリウム)、コハク酸塩(コハク酸ナトリウムなど)、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩および他の有機酸の緩衝液が挙げられる。凍結−解凍に対して安定的な処方物が望まれる場合、緩衝液は、好ましくはホスフェートではない。
【0159】
薬理学的な意味において、本発明に関連して、抗体または抗体誘導体の「治療有効量」とは、抗体または抗体誘導体が有効である処置に関して、障害の予防または処置に有効な量をいう。「疾患/障害」とは、抗体または抗体誘導体を用いた処置により利益を得る任意の状態である。これには、哺乳動物を問題の障害にかからせる病理学的状態を含む、慢性および急性の障害または疾患が含まれる。
【0160】
「保存剤」とは、処方物中に含まれ得、本質的にそこで細菌の作用を低減できる化合物であり、したがって、例えばマルチユーズ(multi−use)の処方物の製造を容易にすることができる。可能性のある保存剤の例には、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド(アルキル基が長鎖の化合物であるアルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリドの混合物)、およびベンゼトニウムクロリドが挙げられる。保存剤の他のタイプには、フェノール、ブチルおよびベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノールならびにm−クレゾールが挙げられる。本明細書における最も好ましい保存剤は、ベンジルアルコールである。
【0161】
本発明はまた、生理学的に許容される少なくとも1つの担体または賦形剤と一緒に、1つまたは複数の抗体または抗体誘導体化合物を含む薬学的組成物も提供する。薬学的組成物は、例えば、1つまたは複数の水、緩衝液(例えば、中性緩衝生理食塩水またはホスフェート緩衝生理食塩水)、エタノール、鉱油、植物油、ジメチルスルホキシド、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン)、マンニトール、タンパク質、アジュバント、ポリペプチド、またはグリシンなどのアミノ酸、抗酸化剤、EDTAもしくはグルタチオンなどのキレート剤、および/または保存剤を含むことができる。上述のように、他の活性成分を、(必ずしも必要ではないが)本明細書で提供される薬学的組成物中に含めることができる。
【0162】
担体は、しばしば化合物の安定性または生物学的利用能を制御する目的のため、患者に投与する前に、抗体または抗体誘導体に関連し得る物質である。かかる処方物内部で使用するための担体は、一般的に生体適合性を有し、生分解性も有し得る。担体には、例えば、血清アルブミン(例えばヒトまたはウシ)、卵アルブミン、ペプチド、ポリリジンなどの一価または多価分子、およびアミノデキストランなどの多糖類およびポリアミドアミンが挙げられる。担体はまた、例えば、ポリラクテート、ポリグリコレート、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリアクリレート、ラテックス、デンプン、セルロースまたはデキストランを含む、ビーズおよびミクロ粒子(microparticle)などの固体担体物質も含む。担体は、共有結合(直接的またはリンカー基を介してのいずれか)、非共有結合の相互作用または混合(admixture)を含む、様々な方法において化合物を有し得る。
【0163】
薬学的組成物は、例えば、局所(topiocal)、経口、経鼻、直腸または非経口投与を含む、任意の適切な投与方式に関して処方することができる。ある種の実施形態では、経口使用に適切な形態の組成物が好ましい。このような形態には、例えば、丸剤、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性懸濁物、分散性粉末もしくは顆粒、エマルジョン、硬もしくは軟カプセル、またはシロップもしくはエリキシル剤が挙げられる。さらなる他の実施形態内では、本明細書で提供される組成物は、凍結乾燥物として処方することができる。本明細書で使用されるような非経口という用語は、皮下、皮内、血管内(例えば静脈内)、筋肉内、脊髄、頭骸内、くも膜下腔内および腹腔内注射、ならびに任意の類似の注射または注入技法を含む。
【0164】
経口使用を意図する組成物は、薬学的組成物の製造のための当該分野では公知の任意の方法にしたがって調製することができ、魅力的かつ風味のよい調製物を提供するために、甘味剤、矯味矯臭薬、着色剤、および保存剤などの1つまたは複数の薬剤を含むことができる。錠剤は、錠剤の製造に適する生理学的に許容される賦形剤と混合した有効成分を含む。このような賦形剤としては、例えば、不活性な希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム)、造粒剤および崩壊剤(例えば、コーンスターチ、またはアルギン酸)、結合剤(例えば、デンプン、ゼラチン、またはアカシア)、ならびに潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルク)が挙げられる。錠剤はコーティングされていなくてもよく、または消化管における崩壊および吸収を遅らせ、それによって長期間にわたって作用の持続を提供するために公知の技術によってコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を使用してもよい。
【0165】
経口の使用のための処方物は、有効成分が不活性な固体希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、もしくはカオリン)と混合されている硬ゼラチンカプセル剤として、あるいは有効成分が水または油の媒体(例えば、ピーナツ油、流動パラフィン、もしくはオリーブ油)と混合されている軟ゼラチンカプセル剤として与えられてもよい。水性懸濁物は、水性懸濁物の製造に適する賦形剤と混合された抗体または抗体誘導体を含んでいる。このような賦形剤には、懸濁化剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース(hydropropylmethylcellulose)、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、およびアカシアゴム)、ならびに分散剤または加湿薬(例えば、レシチンなどの天然に存在するホスファチド、ポリオキシエチレンステアレートなどのアルキレンオキシドの脂肪酸との縮合生成物、ヘプタデカエチレンオキシセタノールなどのエチレンオキシドの長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートなどの脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物、もしくはポリエチレンソルビタンモノオレエートなどの脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物)が挙げられる。水性懸濁物は、1つまたは複数の保存剤(例えば、エチルもしくはn−プロピルp−ヒドロキシ安息香酸)、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の矯味矯臭薬、および1つまたは複数の甘味剤(例えば、ショ糖もしくはサッカリン)を含むこともできる。シロップ剤およびエリキシル剤は、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、またはショ糖などの甘味剤と一緒に処方されてもよい。このような処方物は、1つもしくは複数の粘滑剤、保存剤、矯味矯臭薬、および/または着色剤も含むことができる。
【0166】
油性懸濁物は、植物油(例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、胡麻油またはココナツ油)または流動パラフィンなどの鉱油中に活性成分を懸濁することによって処方され得る。油性懸濁物は、蜜蝋、固形パラフィン、またはセチルアルコールなどの増粘剤を含有し得る。風味のよい経口調製物を提供するために、上述のものなどの甘味剤および/または矯味矯臭薬を添加できる。そのような懸濁物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加によって保存され得る。
【0167】
水の添加による水性懸濁物の調製に適する分散性の粉末および顆粒は、分散剤または加湿薬、懸濁化剤、および1つまたは複数の保存剤と混合した有効成分を提供する。適切な分散剤または加湿薬、および懸濁化剤は、すでに上記で言及したものによって例示される。さらなる賦形剤、例えば、甘味剤、矯味矯臭薬、および着色剤も存在してよい。
【0168】
薬学的組成物は水中油型乳剤の形態であってもよい。油相は植物油(例えば、オリーブ油もしくはラッカセイ油)、鉱油(例えば、流動パラフィン)、またはこれらの組合せであってよい。適切な乳化剤としては、天然に存在するゴム(例えば、アカシアゴムまたはトラガカントゴム)、天然に存在するホスファチド(例えば、大豆、レシチン、ならびに脂肪酸およびヘキシトールに由来するエステルまたは部分エステル)、無水物(例えば、ソルビタンモノオレエート)、ならびに脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルのエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。乳剤はまた、1つまたは複数の甘味剤および/または矯味矯臭薬を含むことができる。
【0169】
薬学的組成物は、使用するビヒクルおよび濃度に依存して、モジュレータがビヒクル中に懸濁または溶解されている、無菌注射が可能な水性または油性懸濁物として調製することができる。かかる組成物は、上述のものなどの、適切な分散剤、加湿薬および/または懸濁化剤を使用する公知の技術に従って処方することができる。採用できる許容されるビヒクルおよび溶媒には、水、1,3−ブタンジオール、リンゲル液および等張食塩水がある。さらに、無菌の固定油は、溶媒または懸濁媒体として採用することができる。この目的のために、合成のモノグリセリドまたはジグリセリドを含む、刺激の少ない任意の固定油を採用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸を、注射可能な組成物の調製に使用でき、局所麻酔剤などのアジュバント、保存剤および/または緩衝剤を、ビヒクル中に溶解することができる。
【0170】
薬学的組成物は、持続放出処方物(すなわち、投与後にモジュレータの徐放をもたらすカプセルなどの処方物)として処方することができる。かかる処方物は、一般的に周知の技術を用いて調製でき、例えば、経口、直腸もしくは皮下移植によって、または所望の標的部位に移植することによって投与することができる。かかる処方物内で使用するための担体は、生体適合性を有し、生分解性も有し得て、好ましくは、処方物は比較的一定レベルのモジュレータ放出を可能にする。持続放出処方物内に含まれる抗体または抗体誘導体の量は、例えば、移植の部位、放出の速度および期待される持続期間、ならびに処置または予防する疾患/障害の特性によって決まる。
【0171】
本明細書で提供される抗体または抗体誘導体は、一般的に、検出可能な程度に例えばVEGFなどの標的に結合し、例えばVEGF媒介性疾患/障害などの標的媒介性疾患/障害を予防または阻害するのに十分な、体液(例えば、血液、血漿、血清、CSF、滑液、リンパ、細胞間質液、涙または尿)中の濃度に達する量で投与する。用量は、本明細書に記載のような認識できる患者の利益をもたらすとき、有効であると考えられる。好ましい全身の用量は、1日につき、体重1キログラムにつき約0.1mgから約140mg(1日につき患者1人につき約0.5mgから約7g)の範囲であり、経口での用量は、一般的に静脈内での用量より約5〜20倍多い。担体物質と組み合わせて単一投薬形態を産出できる抗体または抗体誘導体の量は、処置される受給者(host)および特定の投与様式によって変化する。投薬単位形態には、一般的に約1mgから約500mgの間の活性成分が含まれる。
【0172】
薬学的組成物は、例えばVEGFに向けられる抗体または抗体誘導体に応答する状態を処置するためにパッケージすることができる。パッケージされた薬学的組成物は、本明細書に記載のような少なくとも1つの抗体または抗体誘導体の有効量を保持する容器、および患者への投与後に1つの抗体または抗体誘導体に応答する疾患/障害を処置するために含有組成物を使用することを示す説明書(例えばラベル)を含むことができる。
【0173】
本発明の抗体または抗体誘導体は、化学的に修飾することもできる。好ましい修飾基は、例えば、場合によって置換した直鎖もしくは分岐鎖ポリアルケン、ポリアルケニレンもしくはポリオキシアルキレンポリマー、または分岐したかもしくは分岐していない多糖類などのポリマーである。かかるエフェクター基は、インビボでの抗体の半減期を長くすることができる。合成ポリマーの特定の例には、場合によって置換した直鎖または分岐鎖ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)またはその誘導体が挙げられる。天然に存在する特定のポリマーには、ラクトース、アミロース、デキストラン、グリコゲンまたはその誘導体が挙げられる。ポリマーのサイズは、所望のように変化できるが、一般的に平均分子量は500Daから50000Daの範囲である。局所(local)適用のために、抗体を組織に浸透するようにデザインする場合、ポリマーの好ましい分子量は、約5000Daである。ポリマー分子は、抗体、特に、WO0194585に記載のように、共有結合的に連結するヒンジペプチドを介して、Fabフラグメントの重鎖のC末端部に付着することができる。PEG部分の付着に関しては、「Poly(ethyleneglycol)Chemistry, Biotechnological and Biomedical Applications」、1992年、J. Milton Harris(編)、Plenum Press、New York、および「Bioconjugation Protein Coupling Techniques for the Biomedical Sciences」、1998年、M. Aslam and A. Dent、Grove Publishers、New Yorkを参照されたい。
【0174】
上記のように目的の抗体または抗体誘導体を調製した後、それを含む薬学的処方物を調製する。処方される抗体は、事前の凍結乾燥に供さず、本明細書で目的の処方物は、水性処方物である。好ましくは、処方物中の抗体または抗体誘導体は、scFvなどの抗体フラグメントである。処方物中に存在する抗体の治療有効量は、例えば、所望の用量体積および投与様式(複数可)を考慮に入れて決定する。約0.1mg/mlから約50mg/ml、好ましくは約0.5mg/mlから約25mg/ml、および最も好ましくは約2mg/mlから約10mg/mlが、処方物中の典型的な抗体濃度である。
【0175】
水性処方物は、pH緩衝溶液中の抗体または抗体誘導体を含めて調製する。本発明の緩衝液は、約4.5から約6.0、好ましくは約4.8から約5.5の範囲のpHを有し、最も好ましくは約5.0のpHを有する。この範囲内でpHを制御する緩衝液の例には、酢酸塩(例えば酢酸ナトリウム)、コハク酸塩(コハク酸ナトリウムなど)、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩および他の有機酸の緩衝液が挙げられる。緩衝液の濃度は、約1mMから約50mM、好ましくは約5mMから約30mMであってよく、例えば緩衝液および処方物の所望の等張性によって決めることができる。好ましい緩衝剤は、酢酸ナトリウム(約10mM)、pH5.0である。
【0176】
トニシファイアー(tonicifier)として働き、抗体を安定化できるポリオールは、処方物中に含まれる。好ましい実施形態では、抗体または抗体誘導体の沈殿を引き起こし得、および/または低pHで酸化を引き起こし得るため、処方物は塩化ナトリウムなどの塩をトニシファイ量(tonicifying amount)で含まない。好ましい実施形態では、ポリオールは、スクロースまたはトレハロースなどの非還元糖である。ポリオールは、処方物の所望の等張性に対して変化できる量で処方物中に添加する。好ましくは、水性処方物は等張であり、この場合、処方物中の適切なポリオール濃度は、例えば、約1%から約15%w/vの範囲、好ましくは約2%から約10%whvの範囲である。しかし、高張性または低張性処方物も適切であり得る。添加するポリオールの量も、ポリオールの分子量に対して変えることができる。例えば、二糖(トレハロースなど)と比較して、より少量の単糖(例えばマンニトール)を添加することができる。
【0177】
界面活性剤も、抗体または抗体誘導体処方物に添加する。典型的な界面活性剤には、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、80など)またはポロキサマー(例えばポロキサマー188)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。添加する界面活性剤の量は、処方した抗体/抗体誘導体の凝集を減少させ、および/または処方物中の粒子の形成を最小化し、および/または吸着を低下させるほどの量である。例えば、界面活性剤は、約0.001%から約0.5%、好ましくは約0.005%から約0.2%、および最も好ましくは約0.01%から約0.1%の量で処方物中に存在し得る。
【0178】
一実施形態では、処方物は、上記で同定した薬剤(すなわち、抗体または抗体誘導体、緩衝液、ポリオールおよび界面活性剤)を含み、本質的に、ベンジルアルコール、フェノール、m−クレゾール、クロロブタノールおよび塩化ベンゼトニウムなどの1つまたは複数の保存剤を含まない。別の実施形態では、特に処方物が複数用量の処方物である場合、保存剤を処方物中に含むことができる。保存剤の濃度は、約0.1%から約2%、最も好ましくは約0.5%から約1%の範囲であってよい。Remington’s Pharmaceutical Sciences 21st edition、Osol, A.編(2006年)に記載のものなどの、1つまたは複数の他の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤を、それらが処方物の所望の特徴に悪影響を及ぼさないという条件で、処方物中に含めることができる。許容される担体、賦形剤または安定剤は、採用する投与量および濃度でレシピエントに毒性がなく、追加の緩衝剤、共溶媒、アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤、EDTAなどのキレート剤、金属錯体(例えばZn−タンパク質複合体)、ポリエステルなどの生分解性ポリマー、ならびに/またはナトリウムなどの塩形成対イオンを含む。
【0179】
インビボの投与に使用する処方物は、無菌でなければならない。これは、処方物を調製する前または後に、無菌ろ過膜を通すろ過によって容易に成し遂げられる。
【0180】
処方物は、抗体を用いる処置が必要な哺乳動物、好ましくはヒトに、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内(intracerobrospinal)、皮下、関節内、滑膜内、鞘内、経口、局所(topiocal)または吸入経路による、ボーラスとしてかまたはある期間にわたる持続的注入による静脈内投与などの公知の方法に従って投与する。好ましい実施形態では、処方物は、静脈内投与によって、哺乳動物に投与する。かかる目的のために、処方物は、例えば注射器を用いて、またはIVラインを介して注射することができる。
【0181】
抗体の適切な投与量(「治療有効量」)は、例えば、処置する病状、病状の重症度および経過、抗体を予防または治療のどちらの目的で投与するか、以前の治療、患者の病歴および抗体への応答、使用する抗体のタイプ、ならびに主治医の自由裁量によって決まる。抗体または抗体誘導体は、1回または1連の処置にわたって患者に適切に投与し、診断以降の任意の時間に患者に投与することができる。抗体または抗体誘導体は、単独の処置としてか、または問題とする病状の処置に有用な他の薬物もしくは治療と併せて投与することができる。
【0182】
一般的な提案として、投与する抗体または抗体誘導体の治療有効量は、1回投与であろうとまたは複数回投与であろうと、患者の体重に対して約0.1から約50mg/kgの範囲となり、使用する抗体の典型的な範囲は、例えば、毎日の投与で約0.3から約20mg/kg、より好ましくは約0.3から約15mg/kgとなる。しかし、他の投薬レジメンも有用であり得る。この治療の進行は、従来の技法によって容易にモニターされる。
【0183】
本発明の別の実施形態では、本発明の薬学的処方物を、好ましくは水性処方物を保持する容器を含む、製造品が提供され、その使用に関する説明書が場合によって提供される。適切な容器には、例えば、ボトル、小瓶および注射器が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成することができる。典型的な容器は、3〜20ccの単回使用のガラスの小瓶である。あるいは、複数用量処方物用に、容器は3〜100ccのガラス小瓶であってよい。容器は処方物を保持し、容器上のラベルにより、または容器に付随したラベルにより、使用に関する指示を示すことができる。製造品は、商業および使用者の視点から望まれる他の物質をさらに含むことができ、これには、他の緩衝液、希釈剤、フィルタ、針、注射器、および使用に関する説明の付いた添付文書が挙げられる。
【0184】
特定の好ましい実施形態では、製造品は、本明細書に記載されている凍結乾燥したイムノバインダー、または本明細書に記載の方法によって生成された凍結乾燥したイムノバインダーを含む。
【実施例】
【0185】
(例示)
本開示を、さらに限定するものと解釈すべきではない以下の実施例によってさらに説明する。全ての図ならびにこの出願全体にわたって引用される全ての参考文献、特許および公開された特許出願の内容は、それらの全体が参照により本明細書に明示的に援用される。
【0186】
(材料および方法)
一般的に、本発明の実施では、特に示さない限り、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(特に、例えば抗体技術)の従来技法、およびポリペプチド調製の標準技法を採用する。例えば、Sambrook、FritschおよびManiatis、Molecular Cloning: Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989年);Antibody Engineering Protocols(Methods in Molecular Biology)、510巻、Paul, S.、Humana Pr(1996年);Antibody Engineering: A Practical Approach(Practical Approach Series、169巻)、McCafferty編、Irl Pr(1996年);Antibodies: A Laboratory Manual、Harlowら、C.S.H.L. Press, Pub.(1999年);およびCurrent Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、John Wiley & Sons(1992年)を参照されたい。イエウサギおよび他の非ヒトモノクローナル抗体からの、選択されたヒト抗体フレームワークへのCDRの融合の方法は、上に詳細に記載されている。そのような融合実験の実施例を以下に示す。
【0187】
より良い理解を目的として、「min」と命名された融合片は、CDRがフレームワーク1.4またはその可変ドメインに融合されているものであり、一方、「max」と名付けられた融合片は、CDRがフレームワーク1.4またはその可変ドメインに融合されており、かつフレームワークが抗原と相互作用するドナーフレームワーク残基をさらに含むものである。
【0188】
(実施例1:rFW1.4の設計)
(1.1.一次配列分析およびデータベース探索)
(1.1.1.イエウサギ免疫グロブリン配列の収集)
イエウサギの成熟抗体の可変ドメインおよび生殖系列の配列を様々なオープンソースデータベース(例えば、KabatデータベースおよびIMGT)から収集し、1文字コードアミノ酸配列として、カスタマイズされたデータベースに入力した。全分析について、本発明者らはV(可変)領域に対応するアミノ酸部分のみを用いた。70%未満の完全性、またはフレームワーク領域内に複数の未決定残基を含有する、KDBデータベース中の配列は捨てた。データベース中の任意の他の配列に95%超の同一性を有する配列も、分析におけるランダムノイズを避けるために除いた。
【0189】
(1.1.2.イエウサギ配列のアラインメントおよびナンバリング)
イエウサギ抗体配列は、Needleman−WunschアルゴリズムおよびBlossumマトリックスに基づく従来の配列アライメントツールを用いてアライメントさせた。ギャップの導入および残基位置の命名法は、免疫グロブリン可変ドメインのAHoナンバリングシステムに従って行った(HoneggerおよびPluckthun、2001年)。Kabatナンバリングスキームは、抗体中の残基をナンバリングするのに最も広く採用されている標準法であるので、これも併用した。Kabatナンバリングは、SUBIMプログラムを用いて割り当てた。このプログラムは、抗体配列の可変領域を分析して、Kabatらによって確立されたシステムに従って配列をナンバリングする(Deretら、1995年)。
【0190】
フレームワーク領域およびCDR領域の定義は、Kabatの定義に従って行われるが、これは配列可変性をベースにしたものであり、最も一般的に使用されている。それにも関わらず、CDR−H1の指定は、AbMの定義、kabatの定義、3D複合体構造のサブセットの抗体と抗原との間の接触の分析によって生成された平均接触データ(MacCallumら、1996年)および構造的ループ領域の位置に基づくChotiaの定義を含めた様々な定義間の妥協であった(上述および図1に示す)。
【0191】
(1.1.3.残基位置の頻度および保存)
kabatデータベースから得た423のイエウサギ配列のセットを用いてアミノ酸配列の多様性を分析した。成熟イエウサギ配列中の各位置iの残基頻度f(r)は、特定の残基がデータセット中で観察される回数を配列の総数で割ることによって計算した。各位置iの保存の程度は、存在する異なったアミノ酸の数と、各残基の相対存在量とを考慮に入れて、Simpsonの指標を用いて計算した。
【0192】
【数1】

式中、Nはアミノ酸の総数、rは各位置に存在する異なったアミノ酸の数、nは特定のアミノ酸タイプの残基の数である。
【0193】
(1.1.4.イエウサギのV領域の系列分析)
系統学的分析ツールを用いて、イエウサギレパートリーを調査した。クラスターおよび位相的アルゴリズムの両方を用いて、V領域のアミノ酸配列をクラスタリングした。アレイ全体について距離行列を計算し、生殖系列使用の指標として用いた。各クラスターのコンセンサス配列を計算し、最も近いイエウサギ生殖系列配列対応物を同定した。総合的コンセンサス配列も、セット全体の配列から得た。
【0194】
(1.1.5.ヒトサブグループの割り当て)
様々なクラスターのそれぞれのイエウサギ代表配列について、配列分析アルゴリズムのEXCELインプリメンテーションおよびヒト抗体レパートリーの分析に基づいた分類法(Knappikら、2000年)を用いて、最も相同的なヒトサブグループを同定した。
【0195】
(1.2.ヒトアクセプターフレームワークの設計)
上述の配列分析からのイエウサギレパートリーの青写真を用いて、イエウサギCDRの位置決定に一般的に関与する、フレームワーク中の残基を同定した。イエウサギレパートリーに対して高い相同性を有するフレームワークおよびそれぞれのクラスターのなかから、良好な生物物理特性を有するものを1つ完全ヒト配列のプールから選択した。アクセプターフレームワークとして用いるために選択されたフレームワークは、ESBATechのID KI27、a43に対応する、可変軽鎖サブグループカッパ1および可変重鎖サブグループIIIに属する。この安定的かつ可溶性の抗体フレームワークは、「品質管理」システムと名付けられた酵母ベースのスクリーニング法(Auf der Maurら、2004年)を用いて、ヒト脾臓scFvライブラリーのスクリーニングによって同定され、「FW1.4」と名付けられた。安定的かつ可溶性のフレームワーク配列FW1.4は高い相同性を示すが、それは利用可能な最も高い相同性の配列ではなかった。同定された残基を前記アクセプターフレームワーク中に組み込み、rFW1.4を生成した。
【0196】
イエウサギ抗体のアミノ酸配列多様性、生殖系列使用および構造的特徴についての情報を用いて、本発明者らは、新規のヒトフレームワークにおいてCDRコンフォメーションを保存するのに必要な残基位置の適合性についてFW1.4を分析した。本発明者らは、以下の特徴の適合性についてFW1.4の可変領域を検査した:
i.ループ構造の基準配列の一部である残基
ii.VL/VH境界面に位置するフレームワーク残基
iii.CDRのすぐ下の残基のプラットフォーム
iv.上側および下側コア残基
v.サブタイプを定義するフレームワーク残基。
【0197】
(1.3.イエウサギCDRの融合)
融合片は、1抗体からのCDR配列(上記の定義による)をFW1.4またはrFW1.4のフレームワーク配列と単純に結合させることによって生成させた。潜在的に結合に関与する残基を同定した。イエウサギ可変ドメイン配列それぞれについて、最も近いイエウサギの生殖系列対応物を同定した。最も近い生殖系列が確立できなかった場合、配列は、サブグループのコンセンサスまたは高いパーセント値の類似性を有するイエウサギ配列のコンセンサスに対して比較した。希少なフレームワーク残基は、体細胞超変異の結果であり得、それゆえ、結合における役割を果たしていると考えた。したがって、そのような残基をアクセプターフレームワークに融合させた。
【0198】
(1.4.結果)
イエウサギ抗体レパートリーを構造、アミノ酸配列多様性および生殖系列使用に関して分析することによって、イエウサギCDRのループコンフォメーションを維持するために改変された、FW1.4の軽鎖中の5箇所の残基位置を見出した。これらの位置はイエウサギ抗体で高度に保存されている。これら5箇所の位置のコンセンサス残基をイエウサギレパートリーから推論し、ヒトアクセプターフレームワーク1.4中に導入した。これらの保存位置の改変によって、前記フレームワークは、事実上、任意のイエウサギCDRの6つの相補性決定領域(CDR)すべてと適合性となった。様々なイエウサギCDRを含有するマスターrFW1.4は、野生型の単一鎖とは反対に良好に発現され、よく産生された。このフレームワークとイエウサギCDRとの組合せから得られた16のメンバーが作製され、詳細な特徴付けによって機能性が示された。
【0199】
(実施例2:B細胞スクリーニング系)
目的とする標的にそれらのB細胞受容体(BCR)を介して結合するB細胞を選択するためのFACS(フローサイトメトリーベースの単一細胞選別)ベースのスクリーニング系がESBATechで確立されている。1つの標的は、例えば、可溶性タンパク質、すなわち、蛍光色素(PEおよびPerCP)で標識された単一鎖抗体(ESBA903)であった。リンパ球懸濁物は、組換え体標的で免疫化されたイエウサギの脾臓から調製した。次いで、細胞を、PEおよびPerCP標識されたESBA903ならびにIgGに特異的な抗体(APC標識)またはIgMに特異的な抗体(FITC標識)と共にインキュベートした。それらの表面にIgGを発現するが、IgMを発現しないESBA903陽性B細胞を96穴プレート中に選別した(図3;表2)。胸線腫ヘルパー細胞系(EL4−B5:Zublerら、1985年、J. Immunol、134(6)巻、3662〜3668頁を参照)によって、増殖し、形質細胞に分化し、抗体を分泌したB細胞を選択した。標的に対するこれらのIgGの親和性は、ELISAおよびBiacore測定によって評価した。7株の選択されたクローンの動態パラメータを表1に示す。約200の選別細胞のプールから得られた、これらのクローンは、低ナノモルからピコモル範囲にある結合親和性を示す。最後に、目的の6クローンからmRNAを単離し、単鎖フレームワークFW1.4にCDRを融合させた。
【0200】
【表1】

【0201】
【表2】

(実施例3:抗TNFα抗体でコーティングされたビーズと、膜結合TNFαを発現するCHO細胞との間の相互作用の検出)
フローサイトメトリーストリーム中の高圧によって2つの細胞間の非共有結合が壊れるか否かを評価するために、以下の実験を行った。膜結合TNFαで安定的にトランスフェクトされたCHO細胞(B−220細胞)を、PE標識された抗TNFα抗体でコーティングされたビーズと共にインキュベートした。このセットアップにおいて、ビーズは記憶B細胞を模倣する(それらはほぼ同じサイズを有する)。陰性対照として、非トランスフェクトCHO細胞およびAPC標識された無関係の抗体(抗CD19)でコーティングされたビーズを用いた。撹拌を伴った4℃で2時間のインキュベーションの後に、細胞ビーズ懸濁物をFACS(130μmのノズルを用いた)によって分析した。図4は、抗TNFαビーズとTNFαトランスフェクトCHO細胞との間の特異的な結合がFACSで明確に検出可能であることを示す。実際、この試料(上側パネル)では、ビーズの約2/3が細胞に結合している(585が結合し、対して267が非結合であった)。対照的に、対照試料(中央および下側パネル)では、ほとんどのビーズがCHO細胞に結合しない。さらに、両方のビーズ集団(抗TNFα−PEおよび抗CD19−APC)をTNFαトランスフェクトCHO細胞と混合した。図5および表4は、抗TNFαビーズの約半分がCHO細胞に結合し、一方、抗CD19ビーズの大部分が非結合のままであることを示す。各試料中における細胞結合のビーズのパーセントを表5に詳細に示す。したがって、それらのB細胞受容体を介して膜内在標的タンパク質に結合する単一B細胞の特異的選択がフローサイトメトリーを用いて可能であることを実証する。
【0202】
【表3−1】

【0203】
【表4−1】

【0204】
【表5】

(実施例4:抗TNFαイエウサギドナー抗体のCDR融合および機能的なヒト化)
4種の抗TNFαイエウサギ抗体「Rabmab」(EPI−1、EPI−15、EP−34、EP−35およびEP−42)をCDR融合用に選択した。ヒト化イエウサギドナー抗体のCDR融合、ヒト化、および予備的特徴付けの一般的実験スキームは、詳細な説明で概説した通りに行った。非ヒトドナー抗体と最大の配列相同性を共有するヒト抗体アクセプターフレームワークを利用する伝統的なヒト化法とは異なり、品質管理アッセイ(WO0148017)を用いて、所望の機能特性(溶解性および安定性)について事前選択されたヒトフレームワーク(FW1.4)にイエウサギCDRを融合させた。これらの安定的かつ可溶性のフレームワーク配列はRabMabに高い相同性を示した。
【0205】
本明細書に記載の方法論を用いて、RabMabのそれぞれについてCDR融合片を作製した。「Min」融合片では、イエウサギCDRのみをイエウサギドナー抗体のVLおよびVHドメインからヒトアクセプターフレームワークFW1.4に移植した。「Max」融合片は、rFW1.4へのイエウサギCDRの融合を指す。
【0206】
本明細書に記載および特徴付けられているscFvを、以下の通り産生した。配列番号8のリンカーを介してヒト化VL配列をヒト化VH配列に接続して、NH−VL−リンカー−VH−COOHという配向のscFvをもたらした。多くの場合、様々なscFvをコードするDNA配列を、サービス供給者Entelechon GmbH(www.entelechon.com)で新規に合成した。結果のDNA挿入フラグメントを、scFvのDNA配列の5’および3’末端にそれぞれ導入したNcoIおよびHindIIIの制限酵素認識部位を介して、細菌発現ベクターpGMP002に、クローニングした。VLドメインのDNA配列とVHドメインのDNA配列との間に、BamHI制限酵素認識部位が位置する。いくつかの場合、scFvをコードするDNAを新規に合成せず、scFv発現構築物をドメインシャッフルによってクローニングした。したがって、VLドメインを切り出し、NcoIおよびBamHI制限酵素認識部位を介して新しい構築物に導入し、VHドメインを切り出し、BamHIおよびHindIII制限酵素認識部位を介して導入した。他の場合、点変異を、先端技術のアセンブリPCR(assembling PCR)方法を用いて、VHおよび/またはVLドメインに導入した。GMP002のクローニングは、WO2008006235の実施例1に記載されている。scFvの産生は、WO2008006235の実施例1に記載の、ESBA105に関して同様に行った。
【0207】
表3は、4種のイエウサギモノクローナル(EP6、EP19、EP34、EP35およびEP43)およびそれらのCDR融合改変体の詳細な特徴付けデータの概要を示す。これらのCDR融合片はBIACore結合アッセイおよびL929、TNFα媒介の細胞毒性アッセイで広範な活性を示したが、4種の最大(「max」)融合片のうち3種は治療上重要な活性を示した。EP43maxは、最も好ましい結合親和性(0.25nMのKd)と細胞毒性アッセイにおける優れたEC50とを示した。このデータは、FW1.4(配列番号1および2)が、イエウサギCDR融合のための例示的な可溶性かつ安定的なヒトアクセプターフレームワーク領域であることを示す。
【0208】
(効能アッセイ)
抗TNFαバインダーの中和活性をL929 TNFα媒介細胞毒性アッセイで評価した。アクチノマイシンで処理されたマウスL929線維芽細胞の毒性を組換型ヒトTNF(hTNF)で誘導した。最大hTNF誘導細胞毒性の90%を、1000pg/mlのTNF濃度であると決定した。ウシ胎仔血清(10%v/v)を補ったL−グルタミン培地で、フェノールレッドを含むRPMI 1640ですべてのL929細胞を培養した。抗TNFαバインダーの中和活性は、フェノールレッドなし、5%ウシ胎仔血清のRPMI 1640中で評価した。アンタゴニスト作用が最大半量阻害(EC50%)に達する濃度を決定するために、様々な濃度(0〜374ng/mL)の抗TNFバインダーを1000pg/ml hTNFの存在下でL929細胞に添加する。可変勾配を有する非線形S字型回帰に用量反応曲線をフィットさせ、EC50を計算した。
【0209】
(抗TNF scFvのBiacore結合分析)
結合親和性測定のために、BIAcoreTM−T100を用いた表面プラズモン共鳴測定を、NTAセンサーチップおよびHisタグ付きのTNF(ESBATechにて生成)を用いて利用した。NTAセンサーチップの表面は、Ni2+NTAキレート化を介してヒスチジンタグ付き分子を捕捉するために、ニトリロ三酢酸(NTA)で前固定(pre−immobilize)されたカルボキシメチル化デキストランマトリックスからなる。ヒトTNFα N−his三量体(5nM)を、それらのN末端hisタグを介して、ニッケルによって捕捉し、3倍系列希釈ステップにおいて、30nMから0.014nMまで及ぶいくつかの濃度でESBA105(分析物)を注入する。再生工程で、ニッケル、リガンドおよび分析物によって形成された複合体を洗い流す。これは、様々な試料に同じ再生条件を用いるのを可能にする。表面プラズモン共鳴法(SPR)技術によって反応シグナルを生成させ、共鳴単位(RU)で測定する。すべての測定を25℃で行う。インライン参照セル補正およびそれに続き緩衝液試料を引いた後、それぞれの抗TNF scFv試料についてセンサーグラムを作成した。見かけの解離速度定数(k)、見かけの会合速度定数(k)、および見かけの解離平衡定数(K)を、BIAcore T100評価ソフトウェアバージョン1.1を用いて、1対1のLangmuir結合モデルを使用して計算した。
【0210】
【表3−2】

(実施例5:抗VEGFイエウサギドナー抗体のCDR融合および機能的ヒト化)
8種の抗VEGF Rabmab(375、435、509、511、534、567、578および610)をCDR融合用に選択した。非ヒトドナー抗体と最大の配列相同性を共有するヒト抗体アクセプターフレームワークを利用する伝統的なヒト化法とは異なり、品質管理アッセイ(WO0148017)を用いて、所望の機能特性(溶解性および安定性)について事前選択されたヒトアクセプターフレームワークFW1.4(配列番号1および2)にイエウサギCDRを融合させた。
【0211】
本明細書に記載された方法論を用いて、RabMab(イエウサギ抗体)のそれぞれについて多くのCDR融合片を作製した(実施例4参照)。「Min」融合片は、最小の融合片を含んでいた。これにおいては、イエウサギCDRのみをイエウサギドナー抗体のVLおよびVHドメインからヒトアクセプターフレームワークFW1.4(配列番号1)に移植した。「Max」融合片は、VLおよびVHについてイエウサギCDRだけでなく、抗原結合性に重要であると予測された、イエウサギドナーからのいくつかの追加のフレームワーク残基も含んでいた。578maxの場合、FW1.4の重鎖可変ドメインフレームワーク領域は、Kabat位置23H、49H、73H、78Hおよび94Hに追加のアミノ酸改変を有する。
【0212】
表4は、「Min」および「Max」CDR融合改変体の詳細な特徴付けデータに関する概要を示す。VEGFR競合ELISAおよび/またはHUVECアッセイを用いて測定される、VEGFインヒビターとしてのそれらの効能を示す。このデータは、FW1.4(配列番号1および2)がイエウサギCDR融合のための例示的な可溶性かつ安定的なヒトアクセプターフレームワーク領域であることを示す。
【0213】
(抗VEGF scFvのBiacore結合分析)
scFvのBiacore結合能を試験し、結合親和性を、BIAcoreTM−T100による、例示的な表面プラズモン共鳴法を用いて測定した。この実施例および後の実施例において、これらのscFv候補による結合を試験したVEGFタンパク質には、精製したEscherichia coli発現の組換えヒトVEGF165(PeproTech EC Ltd.)、組換えヒトVEGF121(PeproTech EC Ltd.)、組換えヒトVEGF110(ESBATech AG)、組換えマウスVEGF164(PeproTech EC Ltd.)、組換えラットVEGF164(Biovision)、組換えイエウサギVEGF110(ESBATech AG)、および組換えヒトPLGF(PeproTech EC Ltd.)が挙げられる。表面プラズモン共鳴実験のために、カルボキシメチル化デキストランのバイオセンサーチップ(CM4、GE Healthcare)を、供給業者の説明書に従って、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリドおよびN−ヒドロキシスクシンイミドを用いて活性化した。上記に例示された6つの異なる各VEGF形態を、標準的なアミンカップリング手順を用いて、CM4センサーチップ上の4つの異なるフローセルのうちの1つに結合させた。カップリングおよびブロッキング後に、これらの固定されたVEGF分子で得られた応答の範囲は、hVEGF165では約250〜500応答単位(RU)、hVEGF110、hVEGF121、マウスVEGF164、ラットVEGF164、およびイエウサギVEGF110では約200RU、PLGFでは約400RUであった。タンパク質をブロッキングの前に固定化しなかったことを除き、各チップの第4のフローセルを同様に処理し、このフローセルをインラインの参照として使用した。HBS−EP緩衝液(0.01MのHEPES、pH7.4、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%界面活性剤P20)中の様々な濃度の抗VEGF scFv(例えば、90nM、30nM、10nM、3.33nM、1.11nM、0.37nM、0.12nMおよび0.04nM)を、5分間、30μl/分の流速でフローセルに注入した。CM4チップ上のVEGFからの抗VEGF scFvの解離を、25℃で10分間進行させることができた。インライン参照セル補正に続いて緩衝試料を差し引いた後、センサーグラムを各抗VEGF scFv試料に関して作成した。見かけの解離速度定数(k)、見かけの会合速度定数(k)、および見かけの解離平衡定数(K)を、BIAcoreT100評価ソフトウェアバージョン1.1を用いて、1対1のLangmuir結合モデルを使用して計算した。
【0214】
(VEGF阻害のHUVECアッセイ)
HUVECアッセイは、開示の抗VEGF scFv候補の、VEGFインヒビターとしての効能を測定する方法である。
【0215】
数人のドナーからプールしたヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)(Promocell)を、2継代から14継代で使用した。細胞を、0.4%ECGS/H、2%ウシ胎仔血清、0.1ng/mlの上皮細胞増殖因子、1μg/mlのヒドロコルチゾン、1ng/mlの塩基性線維芽細胞因子および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を含む、50μlの完全内皮細胞増殖培地(ECGM)(Promocell)中で、1000細胞/穴で播種した。7から8時間後、50μlの飢餓培地(0.5%熱不活性化FCSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むサプリメントなしのECGM)を細胞に添加し、細胞を15から16時間、飢餓状態にさせた。3倍連続希釈した抗VEGF scFv(0.023〜150nM)、および組換えヒトVEGF165(0.08nM)、組換えマウスVEGF164(0.08nM)または組換えラットVEGF164(0.3nM)の1つを飢餓培地中に調製し、室温で30〜60分間プレインキュベートした。異なる濃度のVEGFを、それらの異なる相対的な生物活性を補うために使用した。準最大(submaximal)のVEGF誘導型増殖を刺激する濃度(EC90)を使用した。混合物100μlを、HUVEC懸濁物を含む96穴組織培養プレートに添加し、37℃/5%COの加湿インキュベータ中で4日間インキュベートした。Sunriseマイクロプレートリーダー(Tecan)を用いて、20μl/穴のWST−1細胞増殖試薬(Roche)を添加した後、HUVECの増殖を、450nm(参照波長として620nmを使用した)での吸光度を測定することによって評価した。データを、4パラメータロジスティックカーブフィット(curve−fit)を用いて分析し、50%のHUVEC増殖阻害に必要な抗VEGF scFvの濃度(EC50)を、阻害曲線から導き出した。
【0216】
【表4−2】

(均等物)
前述の記載を考慮すると、本発明の多くの修正および代替の実施例が、当業者に明らかである。したがって、この記載は、単なる例示として解釈すべきであり、本発明を実行するのに最良の様式を当業者に教示するためのものである。構造の詳細は、本発明の精神から逸脱することなく実質的に変えることができ、添付の特許請求の範囲内となるすべての修正の独占的使用権を保有する。本発明は、添付の特許請求の範囲および適用可能な法律の規則によって要求される程度にのみ制限されるものであると意図する。
【0217】
特許、特許出願、論説、書籍、論文、論述、ウェブページ、図および/または添付書類を含む、この出願に引用された全文献および類似物は、かかる文献および類似物の書式に関わらず、参照によりそれらの全体が明示的に援用される。援用された文献および類似物の1つまたは複数が、定義された用語、用語の使用法、記載された技法または同様のものを含むこの明細書と異なるか相反する場合には、本明細書が優先される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ウサギの可変軽鎖CDR、および
(ii)配列番号4に少なくとも50%の同一性を有するヒト可変重鎖フレームワーク
を含む、所望の抗原に特異的なイムノバインダー。
【請求項2】
前記可変重鎖フレームワークが配列番号4および配列番号6からなる群より選択される、請求項1に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項3】
配列番号2に少なくとも85%の同一性を有する可変軽鎖フレームワークをさらに含む、前述の請求項のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項4】
前記軽鎖可変フレームワークの位置87(AHoナンバリング)にスレオニン(T)を含む、請求項3に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項5】
可変重鎖フレームワークおよび可変軽鎖フレームワークを含み、両者がリンカー、特に配列番号8のリンカーで連結されている、前述の請求項のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項6】
配列番号3、配列番号5もしくは配列番号7に少なくとも70%の同一性を有するフレームワーク、特に、配列番号3、配列番号5もしくは配列番号7を含むかまたは配列番号3、配列番号5もしくは配列番号7であるフレームワークを含む、前述の請求項のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項7】
位置24のスレオニン(T)、位置25のバリン(V)、位置56のアラニン(A)またはグリシン(G)、位置82のリジン(K)、位置84のスレオニン(T)、位置89のバリン(V)および位置108のアルギニン(R)(AHoナンバリング)からなる群のうち少なくとも3つのアミノ酸を含む、ヒトまたはヒト化イムノバインダー可変重鎖アクセプターフレームワーク。
【請求項8】
位置12、103および/または144(AHoナンバリング)のアミノ酸が親水性アミノ酸に置換された、前述の請求項のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項9】
前記重鎖フレームワーク中に
(a)位置12のセリン(S)、
(b)位置103のセリン(S)もしくはスレオニン(T)、および/または
(c)位置144のセリン(S)もしくはスレオニン(T)
(AHoナンバリング)を有する、請求項8に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項10】
前記可変軽鎖フレームワークにおいて位置1のグルタミン酸(E)、位置3のバリン(V)、位置4のロイシン(L)、位置10のセリン(S)、位置47のアルギニン(R)、位置57のセリン(S)、位置91のフェニルアラニン(F)および/または位置103のバリン(V)(AHoナンバリング)を有する、前述の請求項のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項11】
ドナーイムノバインダー、特に哺乳動物イムノバインダー、好ましくはイエウサギイムノバインダーからの重鎖CDR1、CDR2およびCDR3、ならびに/または軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3をさらに含む、前述の請求項のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項12】
抗原結合に関与するドナーフレームワーク残基をさらに含む、請求項11に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項13】
前記可変重鎖の位置141にグリシン(G)(AHoナンバリング)をさらに含む、前述の請求項のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク。
【請求項14】
イエウサギCDRの融合のための、請求項1〜13のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワークの使用。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワークを含むイムノバインダー。
【請求項16】
scFv抗体である、請求項15に記載のイムノバインダー。
【請求項17】
1つまたは複数の結合分子、特に、細胞毒性剤、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子もしくは他のシグナル伝達分子などの治療剤、造影剤、または第2のタンパク質、特に転写活性化因子もしくはDNA結合ドメインをさらに含む、請求項15〜16のいずれか一項に記載のイムノバインダー。
【請求項18】
診断適用、治療適用、標的評価または遺伝子療法における、請求項15〜17のいずれか一項に記載のイムノバインダーの使用。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワークまたは請求項15〜17のいずれか一項に記載のイムノバインダーをコードする核酸、特に単離された核酸。
【請求項20】
請求項19に記載の核酸を含むベクター。
【請求項21】
請求項20に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項22】
遺伝子療法における、請求項19に記載の核酸または請求項20に記載のベクターの使用。
【請求項23】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のイムノバインダーアクセプターフレームワーク、請求項15〜17のいずれか一項に記載のイムノバインダー、請求項19に記載の核酸、または請求項20に記載のベクターを含む組成物。
【請求項24】
イエウサギイムノバインダーをヒト化する方法であって、前記イエウサギイムノバインダーが重鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列、ならびに/または軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列を含み、前記方法が、
(i)配列番号1に少なくとも50%の同一性を有するヒト重鎖アクセプターフレームワーク内に、CDR H1、CDR H2およびCDR H3配列からなる群の少なくとも1つの重鎖CDRを融合させる工程、ならびに/または
(ii)配列番号2に少なくとも50%の同一性を有するヒト軽鎖アクセプターフレームワーク、すなわちヒト軽鎖フレームワーク内に、CDR L1、CDR L2およびCDR L3配列からなる群の少なくとも1つの軽鎖CDRを融合させる工程
を含む、方法。
【請求項25】
(i)前記ヒト重鎖フレームワークが、配列番号1、配列番号4または配列番号6のフレームワークアミノ酸配列を含み、
(ii)前記ヒト軽鎖フレームワークが、配列番号2または配列番号9のフレームワークアミノ酸配列を含む、
請求項24に記載の方法。
【請求項26】
抗原結合に関与する前記イエウサギイムノバインダーのフレームワーク残基で、フレームワーク残基を置換する工程をさらに含む、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
重鎖アミノ位置12、103、および144(AHoナンバリング)の少なくとも1つにおける置換で、特に親水性アミノ酸に置換することによって、好ましくは、(a)位置12のセリン(S)、(b)位置103のスレオニン(T)、および(c)位置144のスレオニン(T)からなる群より選択される置換によって、重鎖アクセプターフレームワークのフレームワーク残基を置換する工程をさらに含む、請求項24から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
AHoナンバリングシステムによる、軽鎖可変領域の位置1、3、4、10、47、57、91および103の少なくとも1つにおける安定性強化置換で、特に、(a)位置1のグルタミン酸(E)、(b)位置3のバリン(V)、(c)位置4のロイシン(L)、(d)位置10のセリン(S)、(e)位置47のアルギニン(R)、(e)位置57のセリン(S)、(f)位置91のフェニルアラニン(F)、および(g)位置103のバリン(V)からなる群より選択される置換で、軽鎖アクセプターフレームワークのフレームワーク残基を置換する工程をさらに含む、請求項24から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
請求項24〜28のいずれか一項に記載の方法によるヒト化イムノバインダー。
【請求項30】
前記標的抗原がVEGFまたはTNFαである、請求項29に記載のイムノバインダー。
【請求項31】
a)イエウサギB細胞を標的抗原と共にインキュベートする工程、b)前記標的抗原に結合するイエウサギB細胞を選択する工程、およびc)前記B細胞によって生成された抗体可変ドメインのCDRを同定する工程による、B細胞によって生成される抗体可変ドメインのドナーCDRの同定をさらに含む、請求項24から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記B細胞が、好ましくはDNAワクチン接種によって、前記標的抗原に対して免疫化されたイエウサギから単離される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記B細胞および前記標的抗原が異なって染色され、前記2種の染色の共在が、フローサイトメトリーベースの単一細胞選別によってポジティブ選択される、請求項31または32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記標的抗原が可溶性タンパク質である、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記標的抗原が細胞の表面に発現され、特に、前記標的抗原が膜貫通タンパク質、特に複数回膜貫通タンパク質である、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
細胞内の蛍光色素による、前記標的抗原を発現する細胞の染色によって、前記標的抗原が間接的に染色される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記B細胞が、B細胞表面マーカーに特異的な1種または複数種の標識抗体で染色される、請求項31から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
B細胞が、標識された抗IgG抗体で染色される、請求項31から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
B細胞が、標識された抗IgG抗体および異なって標識されている抗IgM抗体で染色される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記標識された抗IgM抗体で染色されたB細胞がネガティブに選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記生成した抗体が、特にヘルパー細胞系の存在下で、培地中に分泌されるように、請求項31に記載の工程b)で選択された前記B細胞を培養する工程をさらに含む、請求項31から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記標的抗原への特異的な結合について、前記分泌された抗体を試験する工程をさらに含む、請求項41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記抗体のCDRが、特にRT−PCRによって、増幅させられ、イムノバインダーを産生するためにアクセプターフレームワーク中に融合させられ、続いて前記標的抗原への特異的な結合について試験される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有する配列および/または配列番号2に対して少なくとも85%の同一性を有する配列を含むイムノバインダーアクセプターフレームワークの、イエウサギCDRの融合のための使用。
【請求項45】
前記フレームワークが配列番号1および配列番号2を含み、両者がリンカーで、特に配列番号8を有するリンカーによって接続されている、請求項44に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−525360(P2011−525360A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515051(P2011−515051)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/CH2009/000222
【国際公開番号】WO2009/155726
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(502233344)エスバテック、アン アルコン バイオメディカル リサーチ ユニット、エルエルシー (19)
【氏名又は名称原語表記】ESBATech, an Alcon Biomedical Research Unit, LLC
【Fターム(参考)】