説明

汚染土壌の浄化方法

【課題】有機物質により汚染された土壌を効率よく浄化することのできる、バイオスティムレーション技術の提供。
【解決手段】有機物により汚染された土壌に、1〜500μmの細孔を有すると共に、酸化還元電位がマイナスサイドにある木炭の微粉砕物を混合することにより、前記土壌中の土壌菌を活性化させて前記有機物質の分解を促進させることを特徴とする、汚染土壌の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機物により汚染された汚染土壌の浄化方法に関し、特に、該汚染土壌中に既に存在している土壌菌を活性化させ、或いは有機物質分解能を有する土壌菌を増殖させて、汚染原因となっている有機物質の分解を促進させる、バイオスティムレーション技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、芳香族炭化水素、パラフィン、ナフテン等の炭化水素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、テトラクロロエタン等の有機塩素系化合物等による環境汚染が問題となっている。これらの汚染原因物質の多くは土壌中に浸透し、分解されずに徐々に地下まで浸透し、地下水を通じて汚染流域が拡大するという問題がある。
【0003】
有機物質に汚染された土壌を浄化する技術としては、微生物が有する有機物質分解能を活用する、土壌浄化技術(バイオレメディエーション)が知られている。
【0004】
このようなバイオレメディエーションの中でも、(1)汚染土壌に、汚染源となる有機物質を分解することのできる微生物を積極的に注入する方法、(2)汚染土壌中に既に存在している微生物を増殖させることにより、或いは、該微生物が有する有機物質分解能を増強させて土壌を浄化する技術(バイオスティムレーション)が、近年注目されている。
【0005】
特にコストの面からは、後者による方法が近年種々検討されており、例えば、油で汚染された土壌に、窒素源、リン源、ビタミン類及び金属類を供給する方法が提案されている(特許文献1)が、未だ満足できる性能は得られていない。
【特許文献1】特開2007−268451号公報
【0006】
そこで、バイオスティムレーションを利用した、有機物質により汚染された土壌を効率よく浄化するための、優れた土壌浄化方法の開発が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、有機物質により汚染された土壌を効率よく浄化することのできる、バイオスティムレーション技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の木炭の微粉砕物が、有機物質の分解能を有する微生物を活性化することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は、有機物により汚染された土壌に、1〜500μmの細孔を有すると共に、酸化還元電位がマイナスサイドにある木炭の微粉砕物を混合することにより、前記土壌中の土壌菌を活性化させて前記有機物質の分解を促進させることを特徴とする、汚染土壌の浄化方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機物質による汚染土壌を、安価且つ効率的に浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る、汚染土壌の浄化方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明は、汚染土壌中に存在する汚染物質捕食菌を活性化させる手段として、栄養物質等の不確定要因物質を用いるのではなく、該汚染土壌中に既に存在する汚染物質捕食菌を増殖させるための培地を提供し、これによって汚染物質捕食菌を増殖させ、或いは、バクテリア等の捕食生物から汚染物質捕食菌を保護し、その結果として該捕食菌を増殖させて汚染物質の分解を促進することを特徴とする。
【0013】
本発明は、細孔が1〜500μmであると共に、酸化還元電位がマイナスサイドにある木炭の微粉砕物を使用する点に最大の特徴がある。上記木炭の細孔が、1μm未満では、活性化させようとする土中菌が入り込める大きさ以下となり、500μmを超えると、活性化させようとする土中菌を捕食するバクテリア等の捕食生物が入り込む可能性が高くなる。また、酸化還元電位が、プラスマイナスゼロまたはプラスサイドであると、土中菌の増殖環境に好ましい環境を提供することができない。
【0014】
本発明で使用する前記木炭を製造する方法は特に制限されるものではなく、例えば土釜法式などの方法を用いて行われる。木炭に使用する樹木は特に限定されるものではないが、酸化還元電位をマイナスサイドとする観点から、広葉樹を使用することが特に好ましい。
【0015】
本発明で使用する木炭を微粉砕する方法は特に制限されるものではなく、例えば、らいかい機、ボールミルなどの方法を用いて行うことができる。微粉砕物の平均粒径は、1〜1000μmであることが好ましく、特に10〜300μmであることが好ましい。この範囲の粒径の微粉砕物を使用することによって、有機物により汚染された土壌を浄化する微生物を活性化することが可能となる。
【0016】
本発明において、木炭の微粉砕物を汚染土壌と混合する方法は特に制限されるものではなく、混合機等を用いて混合する方法、薬液注入等の地盤改良工法などの方法等によって行うことができる。
【0017】
以下実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
6号硅砂と田んぼの土を、質量比が200:100となるように混合して試料砂とした。この試料砂に、プロピレングリコールベースで平均分子量1000のポリエーテル(ADEKA製ポリエーテルP−1000)を、汚染有機物質として1質量%の割合となるように混合し、汚染砂とした。
【0019】
一方、ナラ材を岩手土釜方式で焼いて、土中菌を増殖させるために使用する木炭とした。得られた木炭を粉砕し、炭:水の質量比が10:90となるように混合して土中菌増殖液とした。粉砕後の木炭を走査型電子顕微鏡で観察したところ、図1に示したように、表面には10〜20μmの丸い細孔が観察された。また粉砕した木炭の平均粒径は20〜50μmであった。更に、上記土中菌増殖液の酸化還元電位を測定したところ、−45mVとマイナス側であった。
【0020】
[比較例1]
松材を岩手土釜方式で作成した木炭を、炭:水の質量比が10:90となるように混合し、比較液とした。得られた木炭を粉砕し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面には50〜80μmの四角な細孔が観察された(図2)。また、粉砕した木炭の平均粒径を測定したところ50〜100μmであった。更に、上記の比較液について酸化還元電位を測定したところ、40mVとプラス側であった。
【0021】
上記の薬液を、それぞれ、汚染砂:薬液の質量比が10:90となるように混合し、実施例としての試料及び比較試料とした。また、ブランク用として、汚染砂:水を質量比で10:90となるように混合したものも作製した。これらの各試料を好気条件のもとで養生し、一定間隔で、土とメタノールを質量比で10:100の割合となるように混合・攪拌し、試料中の残存メタノールを液体クロマトグラフィーにて定量し、メタノールの分解・消失の割合を観察した。結果を図3に示す。
【0022】
ブランクでは汚染有機物質の減少がほとんど見られないのに対し、ナラ炭を粉砕したものを混入した増殖液(実施例)の場合には、4週間後から分解の効果が確認された。初期の3週間に低下が見られないのは、この間は土中菌の増殖段階であったためである。比較として使用した松炭はナラ炭よりも大きな細孔が確認できているが、酸化還元電位がプラスサイドにあるため菌の増殖には不向きであり、結果としてメタノールの分解効率はブランクとほとんど変わらない結果となっていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のバイオスティムレーション技術は、安価に汚染原因となっている有機物質の分解を促進することができるため、本発明は汚染された土壌を安価に且つ効率よく浄化するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施例で使用したナラ材由来の木炭の、写真代用図面である。
【図2】比較例で使用した松材由来の木炭の、写真代用図面である。
【図3】メタノールの分解に対する、本発明の有効性を実証するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物により汚染された土壌に、1〜500μmの細孔を有すると共に、酸化還元電位がマイナスサイドにある木炭の微粉砕物を混合することにより、前記土壌中の土壌菌を活性化させて前記有機物質の分解を促進させることを特徴とする、汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
前記木炭が、広葉樹由来の木炭である、請求項1に記載された汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記木炭の微粉砕物の粒径が1〜1000μmである、請求項1又は2に記載された汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
前記木炭の微粉砕物の粒径が10〜30μmである、請求項3に記載された汚染土壌の浄化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−247960(P2009−247960A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97473(P2008−97473)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】