説明

汚水処理施設及び同施設における後付け組立式止水装置

【課題】多数の汚水処理槽がその汚水流入口を一本の汚水流路の側壁に開設してなる汚水処理施設において、前記汚水流路や汚水処理槽を点検、補修、改修する際、汚水流路への汚水流入を停止することなく、点検、補修、改修する部分の汚水流路や当該汚水処理槽にのみ汚水の流入を阻止するため汚水流路に配設できる組立式止水装置を提供する。
【解決手段】汚水流路に跨設しその両端部が両岸に固着される2本の梁材と、前記梁材に垂設されその下部が汚水流路中に挿入されて止水ユニットの装着時の案内と止水時の支持を行うガイドレールとでなる止水ユニット案内支持機構と、前記ガイドレール、又はガイドレールに備えられたガイド板に沿って汚水流路内に挿入され、水流を遮断、又は流路を制限する止水ユニットと、前記止水ユニットの汚水流路壁面及び底面に当接する縁端部に貼着されたパッキング材と、前記パッキング材を汚水流路の壁面及び底面に押圧して水密性を高めるジャッキ機構とで構成された組立式止水装置による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一本の汚水流路の側壁に多数の汚水処理槽がその汚水流入口を開設してなる汚水処理施設において、
前記汚水流路や前記汚水処理槽を部分的、又は個別に点検、補修、改修する際、汚水流路への汚水流入を停止することなく、点検、補修、改修する部分の汚水流路や当該汚水処理槽にのみ汚水の流入を阻止するための開閉自在の後付け組立式止水装置、及び同装置を汚水流路の流れ方向面一な壁面に上から挿入当接して設置してなる汚水処理施設に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理施設やし尿処理など汚水を処理する汚水処理施設において水路の保守点検あるいは補修、改修を行う際には、水路の内部に作業員が入って躯体壁に対する作業を行うが、前記躯体壁を目視する上からも作業員の衛生面からも、当該個所の通水を部分的に遮断する必要がある。このため、従来から一旦汚水の流通を止めた後当該個所に土嚢を水路上部から多数投入して山状に積み上げて水流を堰き止め、あるいは土嚢で周囲を囲み内側に貯まった水を排水し、止水が確認されてから汚水の流通を復旧するなどの対策がとられているが、流水量が多く、流速の速い場合には土嚢の設置が容易でなく、このような場合には水路への送水を一時全面的に停止して水路内に汚水を滞留させた状態とした後に土嚢を積み、下流側を排水することが行われてきた。そして送水再開後に漏水個所が見つかった場合には再度送水を停止して土嚢を積み直す作業を必要としていた。
しかし、汚水処理施設のように大量の処理水を汚水流路によって複数の汚水処理槽に送水する施設においては、処理すべき汚水は24時間流入してくるので、汚水流路への送水停止可能時間は短時間に限られ、しかもその時間帯も水使用量の少ない夜間に限定されるため、止水作業の確実性や何度も止水作業が必要となるかどうかの作業効率性、さらには作業員の安全確保が重要な課題となっていた。
また、水路の堰き止めに使用できる構造体として、遮水板(特開2001−241029号公報参照)や角落し(特開平11−21861号公報参照)を使用した発明も開示されているが、いずれも、水路堰堤に遮水板や角落しをスライドして挿入するレール状の受け材やスライド壁が予め用意されており、流水遮断に当たっては、この受け材やスライド壁に複数個の止水板または角落しを順次挿入していくものであって、受け材やスライド壁が設けられていない従来から使用されている汚水処理施設の水路ではこれらの技術は使用できない。
これに対して特開2001−303539号公報には、
「水路内に装入されて水路の水を堰き止める水路堰止器具において、水路断面よりも小さく形成されて水路内装入可能な器具本体を備え、器具本体の下面部から両側面部にかけて、対面する水路の内面と密着可能な外側面を有する弾性シール材を配設し、前記器具本体の少なくとも一方の側面部を、外向きに低く傾斜した傾斜面部として形成するとともに、前記弾性シール材を、器具本体の傾斜面部に上下移動自在に配設される可動側弾性シール材と、器具本体の下面部、ないしは下面部から他方の側面部にかけて配設される固定側弾性シール材とから構成し、固定側弾性シール材を水路の底面ないし内側面に密着させた状態で可動側弾性シール材を器具本体の傾斜面部に沿って降下させることにより、対面する水路の内側面に可動側弾性シール材を密着させることを特徴とする水路堰止器具」
が、水路堰堤に前記受け材やスライド壁などを必要としない堰止器具として開示されている。
しかし、この水路堰止器具は、U字溝等比較的流水量が少ない水路での使用が前提とされたもの(明細書段落〔0006〕、〔0014〕参照)で、水路への挿入時には何らの支持機構がなく、水量が多く水流の早い汚水処理施設などの大型水路では可動側弾性シール材を密着させる前に水路堰止器具自体が流されてしまい使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−241029号公報
【特許文献2】特開平11−21861号公報
【特許文献3】特開2001−303539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記背景技術に鑑み、一本の汚水流路の側壁に多数の汚水処理槽がその汚水流入口を開設してなる汚水処理施設において、前記汚水流路や前記汚水処理槽を部分的、又は個別に点検、補修、改修する際、汚水流路への汚水流入を停止することなく、点検、補修、改修する部分の汚水流路や当該汚水処理槽にのみ汚水の流入を阻止するための開閉自在の後付け組立式止水装置を提供し、それを汚水流路の流れ方向面一な壁面に上から挿入当接して設置して汚水処理施設の運用の効率化に資するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を下記の手段により解決した。
(1)一本の汚水流路の側壁に多数の汚水処理槽がその汚水流入口を開設してなる汚水処理施設において、
前記汚水流路や前記汚水処理槽を部分的、又は個別に点検、補修、改修する際、汚水流路への汚水流入を停止することなく、点検、補修、改修する部分の汚水流路や当該汚水処理槽にのみ汚水の流入を阻止するための開閉自在の後付け組立式止水装置を汚水流路の流れ方向面一な壁面に上から挿入当接して設置してなることを特徴とする汚水処理施設。
【0006】
(2)前項(1)に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置が、
汚水流路に跨設しその両端部がアンカーボルトの固定手段で汚水流路の肩上部に強固に固着される2本の梁材と、前記梁材に垂設されその下部が汚水流路中に挿入されて後記止水ユニットの装着時の案内と止水時の支持を行う複数本のガイドレールとからなる止水ユニット案内支持機構と、
前記止水ユニット案内支持機構のガイドレールに沿って汚水流路内に挿入され、汚水流を遮断、又は流路を制限する止水ユニットと、
前記止水ユニットを汚水流路の壁面及び底面に押圧して水密性を高めるジャッキ機構と
で構成されてなることを特徴とする汚水処理施設における後付け組立式止水装置。
【0007】
(3)前記止水ユニットが、前記汚水流路の断面形状に合わせて僅かに小さく形成された汚水流れ方向上流側を表面とした金属板平板の裏面に複数の補強用横桟を備えた止水板本体と、
前記複数の補強用横桟の各左右側端部近傍、及び前記金属板平板下隅が汚水流路の断面形状に合わせて形成された部分の端部近傍に突設された取付板に取着されたジャッキボルトによって前記止水板本体の金属板平板に当接して水密を保ちつつ摺動し、かつパッキング材がその外側に貼着されてなる止水用可動枠とで構成されてなり、
そして、前記止水ユニット案内支持機構が、前記止水ユニットの左右両端部近傍を表裏から挟持する2対のガイドレールを備えてなることを特徴とする前項(2)に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置。
【0008】
(4)前記止水ユニットが、汚水流路側壁に当接する面を開口部とする水平断面がコの字形状をなし、相対する2側面の下端部が汚水流路側壁の下端部断面形状に合わせて切除された金属板の止水壁体と、前記止水壁体の汚水流路壁面及び底面に当接する縁端部に固着された止水枠と、前記止水枠に貼設されたパッキング材とで構成されてなり、前記止水壁体の外側の上端部を含む複数個所に補強用横桟が固着され、かつ前記相対する2面に固着された上下2個所の補強用横桟にそれぞれ外側に向けてガイドピンが設けられてなり、
前記止水ユニット案内支持機構のガイドレールが、前記止水ユニットの左右側面に設けられた各2本のガイドピンを鉛直下方向に誘導しながら汚水流路側壁側へ誘導する傾斜面を有するガイド板を備えてなることを特徴とする前項(2)に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置。
(5)前記上下2個所のガイドピンが、上方のガイドピンより下方のガイドピンの方が汚水流路壁面方向に30〜50mm近寄った位置に設けられてなることを特徴とする前項(4)に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置。
(6)前記ガイドピンを案内するガイド板が、止水ユニットを押圧下降させることによって前記2本のガイドピンをそれぞれ斜め下方に案内移動して止水壁体の開口部を汚水流路壁面に当接させる2つの傾斜面と、止水壁体の開口部が汚水流路壁面に当接した後、さらに前記2本のガイドピンを下方に案内移動させて前記止水壁体の下端部を汚水流路底面に当接させる2つの垂直部とが交互に形成されてなることを特徴とする前項(4)又は(5)に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組立式止水装置によって下記の効果が発揮できる。
〈1〉一本の汚水流路の側壁に多数の汚水処理槽がその汚水流入口を開設してなる汚水処理施設において、
前記汚水流路や前記汚水処理槽を部分的、又は個別に点検、補修、改修する際、汚水流路への汚水流入を停止することなく、点検、補修、改修する部分の汚水流路や当該汚水処理槽にのみ汚水の流入を阻止するための開閉自在の後付け組立式止水装置を、汚水流路の流れ方向面一な壁面に上から挿入当接して設置しているので、施設の運用を停止することなく点検、補修、改修作業が実施でき、作業効率の向上、及び安全の確保が図れる。
【0010】
〈2〉請求項1に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置が、
汚水流路に跨設しその両端部がアンカーボルトの固定手段で汚水流路の肩上部に強固に固着される2本の梁材と、前記梁材に垂設されその下部が汚水流路中に挿入されて後記止水ユニットの装着時の案内と止水時の支持を行う複数本のガイドレールとからなる止水ユニット案内支持機構と、
前記止水ユニット案内支持機構のガイドレールに沿って汚水流路内に挿入され、汚水流を遮断、又は流路を制限する止水ユニットと、
前記止水ユニットを汚水流路の壁面及び底面に押圧して水密性を高めるジャッキ機構と
で構成されているので、
流水量が多く流速の速い汚水処理施設等の汚水流路においても、送水を行っている状態で止水ユニットを安全確実に汚水流路内に挿入でき、かつ、止水ユニットと汚水流路側壁、又は汚水流路底面との間の水漏れをジャッキ機構によって押圧されるパッキング材によって抑止でき、完全な水密状況にでき、汚水流路や汚水処理槽の点検、補修、改修作業が安全確実に実施できる。
また送水を止めることなく作業が行えるので、止水作業を行う時間帯の制限ががなくなり、日中の明るい時間帯に無理のない工程が組め、作業員の安全が確保され、作業効率が高まり、工期短縮が図れる。
【0011】
〈3〉前記止水ユニットが、前記汚水流路の断面形状に合わせて僅かに小さく形成された汚水流れ方向上流側を表面とした金属板平板の裏面に複数の補強用横桟を備えた止水板本体と、
前記複数の補強用横桟の各左右側端部近傍、及び前記金属板平板の下隅が汚水流路の断面形状に合わせて切り落とされた部分の端面に突設された取付板に取着されたジャッキボルトによって前記止水板本体の金属板平板に当接して水密を保ちつつ摺動し、かつパッキング材がその外側に貼着されてなる止水用可動枠とで構成されてなり、
そして前記止水ユニット案内支持機構が、前記止水ユニットの左右両端部近傍を表裏から挟持する2対のガイドレールを備えているので、汚水流路全幅の止水が可能となる。
そして流水が止まった汚水流路の下流側を排水することによって前記止水ユニットと汚水流路壁面との漏水状態が目視により確認できるので、粗排水後に水路に入った作業員により、前記ジャッキボルトを操作して前記止水用可動枠を汚水流路壁面に押圧し、パッキング材の作用によって漏水を容易に停止でき、以降の点検、補修、改修等の作業が完全かつ確実に実施でき、工期の短縮も図れる。
【0012】
〈4〉前記止水ユニットが、汚水流路側壁に当接する面を開口部とする水平断面がコの字形状をなし、相対する2側面の下端部が汚水流路側壁の下端部断面形状に合わせて切除された金属板の止水壁体と、前記止水壁体の汚水流路壁面及び底面に当接する縁端部に固着された止水枠と、前記止水枠に貼設されたパッキング材とで構成されてなり、前記止水壁体の外側の上端部を含む複数個所に補強用横桟が固着され、かつ前記相対する2面に固着された上下2個所の補強用横桟にそれぞれ外側に向けてガイドピンが設けられてなり、
前記止水ユニット案内支持機構のガイドレールが、前記止水ユニットの左右側面に設けられた各2本のガイドピンを鉛直下方向に誘導しながら汚水流路側壁側へ誘導する傾斜面を有するガイド板を備えているので、汚水流路全幅を止水することなく、点検、補修、改修作業を行う汚水流路の片側の一部区間、あるいは汚水処理槽の流入口などに配置すれば、作業個所より下流に配置された通常運用部分への送水が確保でき、施設の能力を必要以上に低下させることなく継続して運用できる。
〈5〉前項〈4〉の効果に加えて、前記止水壁体の相対する2側面に突設されたガイドピンを案内するガイドレールが、前記2本のガイドピンをそれぞれ下方斜め方向に案内移動させて止水壁体の開口部を汚水流路壁面に当接させる2つの傾斜部と、止水壁体の開口部が汚水流路壁面に当接した後、さらに前記2本のガイドピンを下方に案内移動させて前記止水壁体の下端部を汚水流路底面に当接させる2つの垂直部とが交互に形成されているので、前記止水壁を下方に押圧移動することによる操作のみによって前記止水壁体の開口側面を汚水流路壁面に、下端部を汚水流路底に当接させることができ、かつ、止水壁の挿入完了後は、前記ガイドピンが前記ガイドレールの垂直部に位置するため汚水流路壁面に当接したパッキング材からの水平方向の反力によって垂直部に押しつけられ静止し、前記止水壁体は安定に保持され、止水壁体で隔離された部分内を排水しても水密性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明組立式止水装置の斜視図(実施例1)
【図2】図1に示す組立式止水装置の止水ユニットの構成斜視図
【図3】図1に示す組立式止水装置の止水ユニット案内支持機構の構成斜視図
【図4】図2の止水ユニットを図3の止水ユニット案内支持機構への挿入時の状態斜 視図
【図5】図2の止水ユニットを図3の止水ユニット案内支持機構に挿入完了時の状態 斜視図
【図6】本発明の組立式止水装置斜視図(実施例2)
【図7】図6に示す組立式止水装置の止水ユニットの構成斜視図
【図8】図6に示す組立式止水装置の止水ユニット案内支持機構の構成斜視図
【図9】図7の止水ユニットを図8の止水ユニット案内支持機構に挿入完了時の状 態斜視図
【図10】実施例1の組立式止水装置の汚水流路における使用状態を示す平面 図
【図11】実施例2の組立式止水装置の汚水流路における使用状態を示す平面 図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の組立式止水装置を実施するための形態を、実施例の図面に基づいて説明する。
図1は本発明組立式止水装置の斜視図(実施例1)、図2は図1に示す組立式止水装置の止水ユニットの構成斜視図、図3は図1に示す組立式止水装置の止水ユニット案内支持機構の構成斜視図、図4は止水ユニットの止水ユニット案内支持機構への装着説明図(装着開始時)、図5は止水ユニットの止水ユニット案内支持機構への装着説明図(装着完了時)であり、そして、図6は本発明の組立式止水装置の斜視図(実施例2)、図7は図6に示す組立式止水装置の止水ユニットの構成斜視図、図8は図6に示す組立式止水装置の止水ユニット案内支持機構の構成斜視図、図9は図7の止水ユニットを図8の止水ユニット案内支持機構に挿入完了時の状態斜視図である。
また、図10は実施例1の組立式止水装置の汚水流路における使用状態を示す平面図、図11は実施例2の組立式止水装置の汚水流路における使用状態を示す平面図である。
図に表示した符合は、実施例1の図(図1〜図5)においては、Aが止水ユニット、Bが止水ユニット案内支持機構を示し、11が梁材、12がガイドレール、14が平鋼、15がH字状に組んだ梁材、20が止水板本体、21が金属板平板、22が補強用横桟、23が取付板、24が止水用可動枠、41が油圧ジャッキ、42がジャッキボルトを示す。
また実施例2の図(図6〜図8)においては、A’が止水ユニット、B’が止水ユニット案内支持機構を示し、11が梁材、12がガイドレール、13がガイド板、14が平鋼、16が跨設ガイド、17が継ぎ材、18が連結材、19がジャッキ取付用梁材、31が止水壁体、32が補強用横桟、33が底部背面止水枠、34が底部側面止水枠、35がハンチ部止水枠、36が壁面止水枠、37,38がガイドピン、39がジャッキ取付板、41が油圧ジャッキを示している。
さらに、図10、図11においては、51、51’が本発明の組立式止水装置、52が汚水流路、53が汚水処理槽、54が汚水供給口を、そして矢印で水流を示している。
【0015】
多数の汚水処理槽53が、その汚水流入口を一本の汚水流路52の側壁に開設してなる汚水処理施設において、前記汚水流路52や前記汚水処理槽53を部分的、又は個別に点検、補修、改修する際、汚水流路52への汚水流入を停止することなく、点検、補修、改修する部分の汚水流路52や当該汚水処理槽53にのみ汚水の流入を阻止する必要がある。
このためには図10、図11に示すように汚水流路52内に組立式止水装置を配設するが、図10に示すように汚水流路52の端末に配置された処理槽No.1への送水を停止する場合や、汚水流路52の中央部に流入口を持つ処理槽No.3、No.4への送水を停止する場合には汚水流路の全幅を遮断する板状の組立式止水装置51でよいが、汚水供給口54近くに流入口を有する処理槽No.2への送水を停止し、他の処理槽には送水を継続するためには図11に示すように、汚水流路52の流水幅を狭め処理槽No.2の流水口を塞ぐ水平断面がコの字状の組立式止水装置51’が必要となり、このような汚水処理施設ではこの2種の組立式止水装置51、51’を準備する。
【0016】
本発明の後付け組立式止水装置は、上記の要望を満たすものであって、基本構成は
汚水流路52に跨設しその両端部がアンカーボルトの固定手段で汚水流路の肩上部に強固に固着される2本の梁材11と、前記梁材11に垂設されその下部が汚水流路中に挿入されて後記止水ユニットの装着時の案内と止水時の支持を行う複数本のガイドレール12とからなる止水ユニット案内支持機構B又はB’と、
前記止水ユニット案内支持機構Bのガイドレール12、又は止水ユニット案内支持機構B’のガイドレール12に備えられたガイド板13に沿って汚水流路52内に挿入され、水流を遮断、又は流路を制限する止水ユニットA又はA’と、
前記止水ユニットA又はA’の汚水流路壁面及び底面に当接する縁端部に貼着されたパッキング材Pと、
前記止水ユニットの縁端部に貼着されたパッキング材Pを汚水流路の壁面及び底面に押圧して水密性を高めるジャッキ機構(油圧ジャッキ41、ジャッキボルト42)とで構成されている。
以下、止水ユニットA又はA’の形状を異にする2つの本発明の後付け組立式止水装置51、51’についてその実施例をそれぞれの図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の前記板状の組立式止水装置51の実施例は、その止水ユニットAが、図2に示すように、汚水流路52(図1参照)の断面形状より30〜50mm小さく形成された汚水流れ方向の上流側を表面とした金属板平板21の裏面に複数の補強用横桟22を備えた止水板本体20と、
前記複数の補強用横桟22の各左右側端部近傍、及び前記金属板21下隅が汚水流路52の断面形状に合わせて切り落とされた場分の端面に突設された取付板23に取着されたジャッキボルト42によって前記止水板本体20の金属板21に当接して水密を保ちつつ摺動し、かつパッキング材Pがその外側に貼着されてなる止水用可動枠24とで構成されている。
そして、図3に示すように、前記止水ユニット案内支持機構Bは、前記止水ユニットAの左右両端部近傍を表裏から、裏面は補強用横桟22の側面と、表面は金属板平板21自体の面を挟持する2対のガイドレール12を備えたものである。
したがって、本実施例1における止水ユニット案内支持機構Bは、前記汚水流路52に跨設される2本の梁材11が、前記止水ユニットAの厚みと同止水ユニットAを表裏から挟持する2本のガイドレール12の幅によって定まる間隔に保てるようその両端が平鋼14に溶着され、4本のガイドレール12とともに一体化されている。
【0018】
本実施例1の組立式止水装置51は、上記構造から図10に示すように汚水流路52の流水を全面的に遮断しても他の処理槽53への汚水流入を阻害しない部位に使用され、汚水流路52への設置は図3〜図5に示す次の手順で行われる。
a.前記止水ユニット案内支持機構Bを図3に示すように、そのガイドレール12の下部を汚水流路52内に挿入して梁材11を汚水流路52に跨設し、前記平鋼14をアンカーボルトの固定手段によって汚水流路の両肩上部に強固に固定する。
b.前記止水ユニットAを、汚水流路52に跨設固定された止水ユニット案内支持機構Bの上部から4本のガイドレール12に沿わせて挿入する(図4参照)。この場合、汚水流路52の当該部分の流速を落としてから挿入するのが望ましいが、ガイドレール12が強固なので、流れが少々あってもかまわない。
c.4本のガイドレール12に沿って挿入され自重で汚水流路52内に降下して静止した前記止水ユニットの上端よりも高い位置まで延びた前記4本のガイドレール12(図3参照)の上端にH字状に組んだ梁材15を渡し、前記H字状の梁材15の中心と前記止水板本体20の上端との間に油圧ジャッキ41を取り付ける(図1参照)。
d.前記油圧ジャッキ41を稼働して止水ユニットAの下端部に貼着されたパッキング材Pを汚水流路52の底面に押圧して水流を遮断し、前記止水ユニットで遮断された下流側を排水し、水のなくなった止水ユニットAの裏面側の汚水流路52に作業員を降り立たせ、その作業員により前記止水板本体20に設けたジャッキボルト42を回動させることによって止水用可動枠24を移動させ、その外側に貼着されたパッキング材Pを汚水流路壁面に押圧して止水ユニットの側面からの漏水を目視しながら抑止する。その後完全に排水すると、ドライな環境での作業が可能となる。
e.本実施例1の組立式止水装置51の撤収は、上記設置手順と逆の手順で行えばよい。
【実施例2】
【0019】
本発明の前記断面がコの字状の組立式止水装置51’に係る第2の実施例は、その止水ユニットA’が、図6に示すように汚水流路52の側壁に当接する面を開口部とする水平断面がコの字形状をなし、相対する2側面の下端部が汚水流路52側壁の下端部断面形状に合わせて切除された金属板の止水壁体31と、前記止水壁体31の汚水流路壁面及び底面に当接する縁端部に固着された止水枠33、34、35、36と、前記止水枠33、34、35、36に貼設されたパッキング材Pとで構成されてなり、前記止水壁体31の外側の上端部を含む複数個所に補強用横桟32が固着され、かつ前記相対する2面に固着された上下2個所の補強用横桟32にそれぞれ外側に向けてガイドピン37、38が設けられている。
そして、本実施例2における止水ユニット案内支持機構B’は、図8に示すように、前記止水ユニットA’の左右を挟むようにして前記汚水流路52に跨設される2本の梁材11と、前記2本の梁材11のそれぞれの中央部近傍に固着され前記止水壁体31の相対する2側面の補強用横桟32に突設されたガイドピン37、38を鉛直下方向に誘導しながら汚水流路側壁側へ誘導する傾斜面を有するガイド板13を備えたガイドレール12と、そして梁材11の両端に固着され該梁材11を汚水流路52の肩上部に固定するための平鋼14とから構成されている。
前記ガイド板13は、前記止水ユニットを押圧下降させることによって前記2本のガイドピン37、38をそれぞれ斜め下方に案内移動して止水壁体31の開口部を汚水流路52の側壁に当接させる2つの傾斜部と、前記止水壁体31の開口部が汚水流路52の側壁に当接した後、さらに前記2本のガイドピン37、38を下方に案内移動させて前記止水壁体31の下端部を汚水流路底面に当接させる2つの垂直部とが交互に形成されている。
さらに前記梁材11には、前記止水ユニットA’が前記ガイド板13によって確実に汚水流路52の側壁に当接するように前記梁材11を跨設させるための跨設ガイド16が垂設され、また前記止水ユニットを押圧下降させる油圧ジャッキ41を配設するために前記止水ユニットの上方に架設される梁材19を支持する継ぎ材17が設けられている。
上記構成の止水ユニット案内支持機構B’は、図6に示すように前記止水ユニットA’を左右から支持し案内するものであるから、前記ガイド板13の傾斜部と垂直部とでなる側面に前記止水ユニットのガイドピン37、38が当接する間隔に保持され、左右の止水ユニット案内支持機構B’は、所定長さの連結材18で連結されて使用される。
【0020】
本実施例2の組立式止水装置51’は、上記構造から図11に示すように特定の処理槽への送水を停止し、かつ下流に位置する処理槽には送水を継続する必要のある場合に使用され、汚水流路52への設置は次の手順で行われる。
a.前記止水ユニット案内支持機構B’の片方を、そのガイドレール12の下部が汚水流路52内に垂設されるようにして梁材11を汚水流路52に跨設し、前記平鋼14を汚水流路52の両岸にアンカーボルトの固定手段によって強固に固定する。この際前記梁材11に垂設された跨設ガイド16を止水側の汚水流路52の側壁に当接させ、使用時の水密性の確保を保証するようにしておくことが肝要となる。
b.もう一方の止水ユニット案内支持機構B’の梁材11を、前記aの手段と同様にして汚水流路52に跨設し、次いで先に跨設、固定した片方の止水ユニット案内支持機構B’に連結材18で連結した後、両端に平鋼14をアンカーボルトの固定手段によって汚水流路52の両肩上部に固定する(図8参照)。
なお、図8では汚水流路52に跨設する梁材11の長さを等しく描いたが、図11に示したように、梁材11が跨設される汚水流路の幅が異なる場合には、その幅に適合するよう長さの異なる梁材11が用いるられることはいうまでもない。
c.一定間隔を保って汚水流路52に跨設、固定された左右1対の止水ユニット案内支持機構B’のガイド板13に、止水ユニットA’のガイドピン37、38が当接するようにして止水ユニットA’を装着する。
d.装着された止水ユニットA’が2本のガイドレール12に沿って自重で汚水流路52内に降下して静止した後(図9参照)、左右の止水ユニット案内支持機構B’の継ぎ材17、17間にジャッキ取付用梁材19を渡し、前記止水ユニットA’の相対する2側面の上端に内側に向けて突設されたジャッキ取付板39との間に油圧ジャッキ41を取り付ける(図6参照)。
e.前記油圧ジャッキ41を稼働して止水ユニットA’を下方に押圧することによってし止水ユニットA’のガイドピン37、38が、ガイド板13の形状に沿って斜め下方に案内誘導され、まず側面止水枠36に貼着されたパッキング材Pを汚水流路52の側面に押し付けて側壁側を水密性を確保し、さらに前記ガイドピン37、38が下方垂直方向に案内誘導されることによって、底部背面止水枠33、底部側面止水枠34、ハンチ部止水枠35にそれぞれに貼着されたパッキング材P汚水流路52の底面及びハンチ面に押し付けて汚水流路52の底面側の水密性を確保する。
f.水密性が確保押された前記止水ユニットA’の内側に残存した汚水を排出して、汚水のないドライな作業空間を確保する。
g.本実施例2の組立式止水装置の撤収は、上記設置手順と逆の手順で行えばよい。
【符号の説明】
【0021】
A、A’:止水ユニット
B、B’:止水ユニット案内支持機構
11:梁材
12:ガイドレール
13:ガイド板
14:平鋼
15:H字状に組んだ梁材
16:跨設ガイド
17:継ぎ材
18:連結材
19:ジャッキ取付用梁材
20:止水板本体
21:金属板平板
22:補強用横桟
23:取付板
24:止水用可動枠
31:止水壁体
32:補強用横桟
33:底部背面止水枠
34:底部側面止水枠
35:ハンチ部止水枠
36:壁面止水枠
37、38:ガイドピン
39:ジャッキ取付板
41:油圧ジャッキ
42:ジャッキボルト
51、51’:後付け組立式止水装置
52:汚水流路
53:汚水処理槽
54:汚水供給口
P:パッキング材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の汚水処理槽が、その汚水流入口を一本の汚水流路の側壁に開設してなる汚水処理施設において、
前記汚水流路や前記汚水処理槽を部分的、又は個別に点検、補修、改修する際、汚水流路への汚水流入を停止することなく、点検、補修、改修する部分の汚水流路や当該汚水処理槽にのみ汚水の流入を阻止するための開閉自在の後付け組立式止水装置を汚水流路の流れ方向面一な壁面に上から挿入当接して設置してなることを特徴とする汚水処理施設。
【請求項2】
請求項1に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置が、
汚水流路に跨設しその両端部がアンカーボルトの固定手段で汚水流路の肩上部に強固に固着される2本の梁材と、前記梁材に垂設されその下部が汚水流路中に挿入されて後記止水ユニットの装着時の案内と止水時の支持を行う複数本のガイドレールとからなる止水ユニット案内支持機構と、
前記止水ユニット案内支持機構のガイドレールに沿って汚水流路内に挿入され、汚水流を遮断、又は流路を制限する止水ユニットと、
前記止水ユニットを汚水流路の壁面及び底面に押圧して水密性を高めるジャッキ機構と
で構成されてなることを特徴とする汚水処理施設における後付け組立式止水装置。
【請求項3】
前記止水ユニットが、前記汚水流路の断面形状に合わせて僅かに小さく形成された汚水流れ方向上流側を表面とした金属板平板の裏面に複数の補強用横桟を備えた止水板本体と、
前記複数の補強用横桟の各左右側端部近傍、及び前記金属板平板下隅が汚水流路の断面形状に合わせて形成された部分の端部近傍に突設された取付板に取着されたジャッキボルトによって前記止水板本体の金属板平板に当接して水密を保ちつつ摺動し、かつパッキング材がその外側に貼着されてなる止水用可動枠とで構成されてなり、
そして、前記止水ユニット案内支持機構が、前記止水ユニットの左右両端部近傍を表裏から挟持する2対のガイドレールを備えてなることを特徴とする請求項2に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置。
【請求項4】
前記止水ユニットが、汚水流路側壁に当接する面を開口部とする水平断面がコの字形状をなし、相対する2側面の下端部が汚水流路側壁の下端部断面形状に合わせて切除された金属板の止水壁体と、前記止水壁体の汚水流路壁面及び底面に当接する縁端部に固着された止水枠と、前記止水枠に貼設されたパッキング材とで構成されてなり、前記止水壁体の外側の上端部を含む複数個所に補強用横桟が固着され、かつ前記相対する2面に固着された上下2個所の補強用横桟にそれぞれ外側に向けてガイドピンが設けられてなり、
前記止水ユニット案内支持機構のガイドレールが、前記止水ユニットの左右側面に設けられた各2本のガイドピンを鉛直下方向に誘導しながら汚水流路側壁側へ誘導する傾斜面を有するガイド板を備えてなることを特徴とする請求項2に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置。
【請求項5】
前記上下2個所のガイドピンが、上方のガイドピンより下方のガイドピンの方が汚水流路壁面方向に30〜50mm近寄った位置に設けられてなることを特徴とする請求項4に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置。
【請求項6】
前記ガイドピンを案内するガイド板が、止水ユニットを押圧下降させることによって前記2本のガイドピンをそれぞれ斜め下方に案内移動して止水壁体の開口部を汚水流路壁面に当接させる2つの傾斜面と、止水壁体の開口部が汚水流路壁面に当接した後、さらに前記2本のガイドピンを下方に案内移動させて前記止水壁体の下端部を汚水流路底面に当接させる2つの垂直部とが交互に形成されてなることを特徴とする請求項4又は5に記載の汚水処理施設における後付け組立式止水装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−152724(P2012−152724A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16444(P2011−16444)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000001834)三機工業株式会社 (316)
【Fターム(参考)】