説明

汚濁防止膜の変形抑制装置

【課題】汚濁防止膜の敷設および撤去に係る作業負担増を招くことがなく、さらには計画水深の異なる浚渫工への適用が容易な汚濁防止膜の変形抑制装置を提供する。
【解決手段】汚濁防止膜の変形抑制装置10は、汚濁防止膜12のフロート部14に設置されたウィンチ20によってカーテン部16の内側に吊り下げられた上枠26と、上枠26と柱30で連結された上枠26と略同一形状の下枠28と、上枠26と下枠28とに跨って装着される複数の防護壁32を備え、上枠26、下枠28および防護壁32によって囲まれた領域をカーテン部16の進入のない安全なグラブ浚渫区域として確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラブ浚渫におけるグラブバケットの動作に伴う汚濁防止膜の変形を抑制する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋土木工事の分野において、海底の土砂を浚う浚渫工と呼ばれる工種があり、その中でも特に、グラブバケットを使用して海底の土砂を掘削するグラブ浚渫工が多用されている。グラブ浚渫工においては、土砂の掘削時に生じる海水の濁り(汚濁粒子)が周辺海域に拡散しないように浚渫区域の周囲に汚濁防止膜を敷設している。一般的な汚濁防止膜は、海面に浮かぶフロート部と、海中に垂れ下がるカーテン部と、カーテン部の下端に取り付けられるウェイトチェーンで構成されている。カーテン部はフロート部による浮力とウェイトチェーンの重量で上下方向に展張されている。このカーテン部は可撓性の素材ゆえに外力の影響を受けて変形しやすく、特にグラブバケットの上昇時に生じる水圧変化によりグラブバケット側に吸い寄せられることがあるため、グラブ浚渫工においてはカーテン部がグラブバケットに巻き込まれたり接触したりして破損するなどの事故が絶えない。
【0003】
このような事故を避けるために、従来、カーテン部の変形を防止もしくは抑制するための様々な技術が提案されている。例えば特許文献1には、カーテン部に複数のフロートを上下方向に適宜の間隔をおいて設け、これらのフロートに作用する浮力によってカーテン部全体を外側に展張させることで、グラブバケット側に吸い寄せようとする力に対抗させるという技術が開示されている。また特許文献2には、カーテン部の下端部にウェイトチェーンに代えて剛体の底枠を設け、特に撓みやすい下端部の変形を抑制しようとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】公開実用新案平3−69028号公報
【特許文献2】実用新案登録第3145479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの従来技術に対しては次のような問題点を指摘することができる。まず特許文献1に開示された技術においては、多数設けられたフロートによってカーテン部には大きな浮力が作用することになるため、カーテン部が浮かび上がってしまわないように通常より重量のあるウェイトチェーンを設ける必要がある。また重いウェイトチェーンを支持するためにカーテン部自体にも十分な強度が必要となり、これが結果としてカーテン部の重量の増加を招いてしまう。これにより汚濁防止膜全体の重量が増加し、設置や撤去に係る作業の負担増をもたらすことになる。この問題は特許文献2に開示された技術においても同様である。
【0006】
次に何れの技術もカーテン部そのものに加工することを前提としているため、加工中は汚濁防止膜を使用することができないという問題がある。またカーテン部は浚渫の計画水深によって長さを変える必要があるが、カーテン部自体に加工が必要な従来の技術では長さ変更への対応が極めて困難である。
【0007】
本発明は、これら従来の技術にあった問題点を解消することを解決すべき課題としてなされたものであり、その目的は、汚濁防止膜の敷設および撤去に係る作業負担増を招くことがなく、さらには計画水深の異なる浚渫工への適用が容易な汚濁防止膜の変形抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、汚濁防止膜のフロート部に設置されたウィンチによってカーテン部の内側に吊り下げられた上枠と、前記上枠と連結された前記上枠と略同一形状の下枠と、前記上枠と前記下枠とに跨って装着される防護壁を備えた、汚濁防止膜の変形抑制装置を提供する。
【0009】
カーテン部の内側に設置された汚濁防止膜の変形抑制装置によって囲まれた領域を安全なグラブ浚渫区域として確保する。グラブバケットとカーテン部は上枠および下枠、防護壁によって隔てられるため、カーテン部はグラブバケットの動作による水圧変化の影響を受けにくくなり、カーテン部を吸い寄せる吸引力も大幅に減少する。また仮に吸い寄せられたとしても上枠および下枠、防護壁によって進路が妨げられるので、グラブバケットと接触する事故は起こり得ない。
【0010】
汚濁防止膜の変形抑制装置は汚濁防止膜のフロート部に設置したウィンチによって吊り下げるだけであるので、既存の汚濁防止膜に簡単に設置することができる。また既に浚渫区域に敷設された汚濁防止膜に設置することができるので、汚濁防止膜の敷設および撤去に係る作業負担増という問題はない。さらにはウィンチの起動のみで設置高さを変更することができるので、様々な計画水深への対応が容易であり、浚渫作業中の潮位の変化にも作業を中断することなく即時に対応することができる。
【0011】
汚濁防止膜の変形抑制装置は、前記上枠に前記防護壁が上下方向に移動可能に係合する上溝を備え、前記下枠に前記防護壁が上方向にのみ移動可能に係合する下溝を備えたものとすることができる。この汚濁防止膜の変形抑制装置では、上方から防護壁の取り付けおよび取り外しが可能になるので、先に上枠と下枠のみを汚濁防止膜に設置し、その後に防護壁を取り付けることができる。
【0012】
汚濁防止膜の変形抑制装置を浚渫区域に敷設された汚濁防止膜に設置する方法として、前記ウィンチを前記フロート部に設置する工程と、前記上枠および前記下枠を前記カーテン部の内側に搬入する工程と、前記カーテン部の内側に搬入された前記上枠を前記ウィンチのワイヤローブと連結する工程と、前記防護壁を前記上枠と前記下枠とに跨るように装着する工程と、前記防護壁が装着された前記上枠および前記下枠を所定の水深まで下降させる工程を含む、方法を採用することができる。
【0013】
この方法では、汚濁防止膜を敷設するために使用した起重機をそのまま上枠と下枠の設置作業、および防護壁の設置作業に用いることができるので、工費の削減と工期の短縮が実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提供する汚濁防止膜の変形抑制装置によれば、計画水深の異なる浚渫工への適用が容易であり、また浚渫作業中の潮位の変化にも作業を中断することなく即時に対応することができるので、工費削減および工期短縮が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】汚濁防止膜の変形抑制装置の概略構造を示す斜視図
【図2】汚濁防止膜の変形抑制装置の側面図
【図3】防護壁の取り付け部の構造を示す(a)正面図と(b)側面図
【図4】防護壁の取り付け部の構造を示す(a)正面図と(b)側面図
【図5】汚濁防止膜の変形抑制装置の作用を説明するための側面図
【図6】汚濁防止膜の変形抑制装置の設置方法を示す側面図
【図7】汚濁防止膜の変形抑制装置の設置方法を示す側面図
【図8】汚濁防止膜の変形抑制装置の設置方法を示す側面図
【図9】汚濁防止膜の変形抑制装置の設置方法を示す側面図
【図10】汚濁防止膜の変形抑制装置の設置方法を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について添付した図面を参照しながら説明する。図1と図2は汚濁防止膜の変形抑制装置10(以下、単に装置10とする。)を汚濁防止膜12に設置した状態を示している。汚濁防止膜12は、フロート部14とカーテン部16とで構成されており、フロート部14に作用する浮力によって海面に浮揚している。カーテン部16は下端に取り付けられたウェイトチェーン18の重さによって海中に垂下している。
【0017】
フロート部14は平面視して正方形の枠体をなしている。カーテン部16はフロート部14の4辺からそれぞれ垂下する4面が横方向に連続した形状であり、その内側に平面視して正方形の遮蔽空間を形成している。この遮蔽空間にてグラブ浚渫が行われる。フロート部14にはそれぞれ4隅に1機ずつ合計で4機のウィンチ20が設置されている。各ウィンチ20からはそれぞれウィンチワイヤ22がカーテン部16の内側に垂下している。ウィンチワイヤ22は図示しないシャックルなどで上枠26に設けられた取付金具24に連結されている。
【0018】
上枠26は平面視して正方形の枠体をなしており、フロート部14と相似形であるが各辺の長さは若干短めである。上枠26は4隅と連結された4本のウィンチワイヤ22によってカーテン部16の内側に吊り下げられた状態で支持されている。下枠28は上枠26と同一形状であり、それぞれ4隅部と各辺の中央部が柱30によって連結されている。上枠26、下枠28および柱30はそれぞれH鋼で製作することができる。
【0019】
上枠26と下枠28にはそれぞれ各辺に2枚ずつ合計8枚の防護壁32が互いに間隔をおいて装着されている。防護壁32は上枠26と下枠28とに跨るだけの長さを有する矩形の薄板である。
【0020】
図3は防護壁28を上枠26および下枠28に装着する部分の構造を示している。上枠26および下枠28には、それぞれ1枚の防護壁32につき左右一対の上ガイド枠34および下ガイド枠36が形成されている。上ガイド枠34は上枠26との間に防護壁32の左右両端部と係合する上溝38を形成している。上溝38は上ガイド枠34の上下両端まで開放された縦溝であるため、防護壁32は左右一対の上ガイド枠34の間で上下方向に移動可能である。下ガイド枠36は下枠28との間に防護壁32の下端部の左右両端と係合する下溝40を形成している。下溝40は下ガイド枠36の上端のみが開放され、下端は閉鎖された縦溝であるため、防護壁32は左右一対の下ガイド枠36の間で上方向に移動可能であり、下方への移動は阻止される。
【0021】
上ガイド枠34および下ガイド枠36が以上のように形成されているので、防護壁32は左右の上ガイド枠34の間を下方にスライドさせるだけで装着することができる。防護壁32を取り外すときは逆に上方にスライドさせるだけでよい。
【0022】
次に図5を参照しながら装置10の作用について説明する。一般にグラブ浚渫においては、グラブバケット50が海底と海上の土運船の間を何度も往復して海底土砂の浚渫を行う。このときグラブバケット50の上下移動時、特に上昇時に汚濁防止膜12の内側で海水の一部に上昇流が起こり、これに伴う水圧の変化によってカーテン部16が内側に吸い寄せられる現象が発生する。汚濁防止膜12の内側に設置された装置10には、この現象を緩和し、カーテン部16の変形を抑制する働きがあり、装置10の内側でグラブ浚渫作業を行うようにすれば、カーテン部16は水圧の変化を受けにくくなり、変形量も大幅に減少する。また吸い寄せる力が過大な場合であっても防護壁32によって変形が妨げられるので、カーテン部16が装置10の内側にまで進入することは起こり得ない。
【0023】
なお防護壁32には必ずしも遮水性は求められないため、エキスパンドメタルを用いて軽量化を図ることもできる。
【0024】
次に図6乃至図10を参照しながら装置10の設置方法について説明する。装置10は既設の汚濁防止膜12に海上で設置することができるという点に構造上の特徴がある。図6は海上に敷設された汚濁防止膜12の真上に装置10を運搬する様子を示している。
【0025】
汚濁防止膜12は所定の浚渫工事箇所に敷設されている。カーテン部16で囲まれた領域がグラブ浚渫区域である。先ずフロート部14に4機のウィンチ20を装着する。装置10は起重機船60のクレーン62で吊り下げた状態で汚濁防止膜12の真上に位置させる。このとき防護壁32は未装着である。防護壁32は上溝38と下溝40に係合するだけで装着され、完全には固定されていないので、予め装着しておくと運搬時の振動や衝撃などによって落下するおそれがある。
【0026】
装置10の位置決めが完了したら、図7に示すように装置10を下降させ、カーテン部16の内側に搬入する。取付金具24が完全に水没する直前で一旦停止し、クレーンワイヤ66で装置10を吊り下げたままの状態でウィンチワイヤ22の先端フックをシャックルを用いて取付金具24に連結する。その後、装置10を僅かに下降させ、ウィンチワイヤ22で装置10の全荷重を支えるようにする。装置10の全荷重がクレーンワイヤ66からウィンチワイヤ22に移動したら、クレーンワイヤ66を取付金具24から取り外す。これにより装置10は4本のウィンチワイヤ22のみによって海中に吊り下げられた状態となる。
【0027】
次に装置10に防護壁32装着する。防護壁32の装着には装置10の運搬に用いたクレーン62を使用する。取付金具24から取り外したクレーンワイヤ66を用いて、図8に示すように防護壁32を吊り下げ、装着箇所の真上に位置決めを行う。位置決め後は防護壁32を緩やかに下降させながら上枠26および下枠28に装着する。
【0028】
全ての防護壁32の装着が完了したら、全てのウィンチ20を起動させ、図9に示すように装置10を海底の近くまで下降させる。またクレーン62のフック64を取り外し、代わりにグラブバケット50を取り付ける。
【0029】
以上の工程により、汚濁防止膜12への装置10の設置が完了し、グラブ浚渫を開始するための準備が整う。
【0030】
図10に示すように、汚濁防止膜12に設置された装置10はカーテン部16のグラブバケット50側への進入を妨げ、変形を抑制するので、浚渫作業が円滑に進捗し、クレーン62の操縦者にかかる負担も大幅に軽減する。
【0031】
グラブ浚渫作業中に潮位に変化があった場合は、ウィンチ20を起動させ、装置10を最適水深まで移動させる。
【符号の説明】
【0032】
10 汚濁防止膜の変形抑制装置
12 汚濁防止膜
14 フロート部
16 カーテン部
20 ウィンチ
26 上枠
28 下枠
32 防護壁
34 上ガイド枠
36 下ガイド枠
38 上溝
40 下溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚濁防止膜のフロート部に設置されたウィンチによってカーテン部の内側に吊り下げられた上枠と、
前記上枠と連結された前記上枠と略同一形状の下枠と、
前記上枠と前記下枠とに跨って装着される防護壁を備えた、汚濁防止膜の変形抑制装置。
【請求項2】
前記上枠に前記防護壁が上下方向に移動可能に係合する上溝を備え、前記下枠に前記防護壁が上方向にのみ移動可能に係合する下溝を備えた、請求項1に記載の汚濁防止膜の変形抑制装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の汚濁防止膜の変形抑制装置を浚渫区域に敷設された汚濁防止膜に設置する方法であって、
前記ウィンチを前記フロート部に設置する工程と、
前記上枠および前記下枠を前記カーテン部の内側に搬入する工程と、
前記カーテン部の内側に搬入された前記上枠を前記ウィンチのワイヤローブと連結する工程と、
前記防護壁を前記上枠と前記下枠とに跨るように装着する工程と、
前記防護壁が装着された前記上枠および前記下枠を所定の水深まで下降させる工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−207475(P2012−207475A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74787(P2011−74787)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【特許番号】特許第4864167号(P4864167)
【特許公報発行日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【出願人】(510290072)株式会社池間組 (4)
【Fターム(参考)】