説明

汚濁防止膜

【課題】万全な衝突防止対策が施された汚濁防止膜を提供する。
【解決手段】カーテン部102と、カーテン部102に浮力を提供するフロート部104とを含んでおり、衝突防止対策としての標識灯12が、フロート部104に直接取り付けられていることから、従来のごとく、浮標灯係留索を用いることなく、フロート部104に対して標識灯12が係止される。このため、標識灯12の流出防止を図るとともに、特に荒天時に標識灯12の流出防止のためのメンテナンスに要する労力が軽減されることとなる。しかも、フロート部104と標識灯12が一体となって水面Sを動揺するものであることから、波高によるフロート部104の浮き沈みに、標識灯12が連動し、標識灯12のみ波間に隠れてしまうこともなくなるので、船舶からの視認性が向上し、汚濁防止膜10に対する、より万全な衝突防止対策に、大きく貢献するものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚濁防止膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、港湾工事等により発生する汚濁の拡散を防止するため、汚濁防止膜は必要不可欠な設備である。しかし、一般航行船舶にとっては、衝突の恐れのある水上浮遊物となり、特に夜間は、汚濁防止膜自体の視認性も悪いことから、衝突の防止対策を実施する必要がある。
図4には、従来の衝突防止対策が施されている汚濁防止膜を示している。この汚濁防止膜100は、水中に垂下されたカーテン部102と、カーテン部102の上端に連結され、水面Sに浮上するフロート部104と、フロート部104の下端に連結されたフロート部係留索106と、から構成されている。フロート部係留索106は、自重により水底の定位置に静止するアンカー108を含んでおり、又、カーテン部102は、その下端に重錘110を含んでいる。そして、船舶の衝突防止対策として、浮標灯112が、フロート部104の横水面、或いはアンカー108の上部水面に、浮標灯係留索114により接続されている。
このように従来は、汚濁防止膜に対する一般航行船舶の衝突防止対策として、汚濁防止膜のフロート部付近に、浮標灯を設置することが一般的となっている。
【0003】
又、浮標灯112を係留する方法として、例えば、図5に示すような方法が用いられる(特許文献1参照)。図示によれば、水底GLに静止するアンカー108に、保護筒124で覆われた係留索126と、中間浮き輪122とから構成される係留設備により、浮標120が接続されている。この方法によれば、海流による異物との接触を保護筒124で防護することができ、又、水位の変化により係留索126が弛む場合でも、中間浮き輪122の浮力により、係留索126の水底Gへの接触をなくすことができるため、結果として係留設備の破損防止に繋がることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−313967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図4のごとく、浮標灯112を衝突防止対策として用いた汚濁防止膜100は、荒天による波浪の影響で、設置した浮標灯112の浮標灯係留索114が破損し、流出してしまうという問題がある。又、浮標灯112の係留手段として、独立したアンカー108を設置する場合には、その作業のためにクレーン船等の作業船が必要となり、工費が増してしまう。更に、波浪時でなくとも、浮標灯112が波高により浮き沈みし、その点灯状況が確認できない場合があるため、その対応策として、浮標灯112をフロート部104の両側に設置する必要がある。
ここで、図5に示すように、係留索の破損を防止するような方法で、浮標灯112を係留させた場合においても、工費の増加や、浮標灯112の視認性の確保といった問題は解決できていない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、メンテナンスの負担が少なく、かつ、視認性が高く、より万全な衝突防止対策が施された汚濁防止膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0008】
(1)カーテン部と、該カーテン部の上端に連結されたフロート部とを有する汚濁防止膜であって、前記フロート部に標識灯が取り付けられている汚濁防止膜(請求項1)。
【0009】
本項に記載の汚濁防止膜は、水中に垂下するカーテン部と、カーテン部の上端に連結され、水面に浮上し、カーテン部に浮力を提供するフロート部とを含んでいる。そして、衝突防止対策としての標識灯が、フロート部に直接取り付けられていることから、浮標灯係留索を用いることなく、フロート部に対して標識灯が係止される。しかも、フロート部と標識灯が一体となって水面を動揺するものであることから、波高によるフロート部の浮き沈みに、標識灯が連動し、標識灯のみ波間に隠れてしまうこともなくなるので、船舶からの視認性が向上する。なお、カーテン部は、例えば下端に取り付けられた重錘の重さにより、水中に垂下するものである。
【0010】
(2)上記(1)項において、前記標識灯は、前記フロート部の上端に設けられた削孔穴に取り付けられている汚濁防止膜(請求項2)。
本項に記載の汚濁防止膜は、フロート部の上端に削孔穴が設けられており、その削孔穴に挿入された状態で、標識灯が取り付けられている。そして、フロート部と標識灯が一体となって、水面を動揺するものである。
【0011】
(3)上記(2)項において、前記フロート部と前記標識灯との間に、発泡系充填接着剤が充填されている汚濁防止膜(請求項3)。
本項に記載の汚濁防止膜は、フロート部の上端に設けられた削孔穴と、その削孔穴に挿入された標識灯との隙間に、発泡系充填接着剤が充填されていることにより、フロート部と標識灯との接続を強固にするものである。
【0012】
(4)上記(1)から(3)項において、前記フロート部と前記標識灯とを結びつける、落下防止補助ロープが設けられている汚濁防止膜(請求項4)。
本項に記載の汚濁防止膜は、フロート部と、フロート部に直接取り付けられた標識灯とを結びつける、落下防止補助ロープによっても、標識灯のフロート部からの落下防止を図り、標識灯の流出防止に万全を図っている。
【0013】
(5)上記(1)から(4)項記載の汚濁防止膜の施工方法であって、標識灯の取り付け作業は、全て人力施工で行う汚濁防止膜の施工方法。
本項に記載の汚濁防止膜の施工方法は、標識灯のフロート部への取り付け作業を、クレーン船等の作業船を使用せずに、全て人力施工で行うものである。すなわち、フロート部の削孔、標識灯の設置、発泡系充填接着剤の充填、及び落下防止補助ロープによる固定といった作業は、全て人力施工で行う。又、この施工方法によれば、既設の汚濁防止膜にも、標識灯の設置が容易となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明はこのように構成したので、メンテナンスの負担が少なく、かつ、視認性が高く、より万全な衝突防止対策が施された汚濁防止膜を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る、汚濁防止膜の構成を模式的に示す模式図である。
【図2】図1に示される汚濁防止膜の、標識灯の取り付け手順を示すためのフロート部の断面図であり、(a)〜(d)に示されているのは、取り付け手順の前半部分である。
【図3】図1に示される汚濁防止膜の、標識灯の取り付け手順を示すためのフロート部の断面図であり、(a)〜(d)に示されているのは、取り付け手順の後半部分である。
【図4】従来の衝突防止対策が施されている、汚濁防止膜の構成を模式的に示す模式図である。
【図5】従来の浮標灯の係留方法を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。すなわち、図1に示されるように、本発明の実施の形態に係る汚濁防止膜10は、図4に示される従来の衝突防止対策が施されている汚濁防止膜100との対比において、浮標灯係留索114により係留される、浮標灯112が設けられていないという点を除き、大略同様の構成を有しており、各部の構成については図4と同一の符号を付している。
【0017】
図示のように、汚濁防止膜10は、フロート部104の上端に設けられた削孔穴20に、標識灯12が取り付けられている。そして、衝突防止対策として取り付けられた標識灯12は、浮標灯係留索を用いることなく、直接フロート部104に取り付けられているため、フロート部104と標識灯12が一体となって、水面Sを動揺するものである。
【0018】
図2及び図3には、本発明の実施の形態に係る汚濁防止膜10のフロート部104に、標識灯12を取り付ける手順を示している。フロート部104は、フロート14がラッキングテープ(図示省略)で綴じられた外側フロートカバー16、及び内側フロートカバー18の二重のカバーで覆われた構造となっている(図3(d)の完成状態を参照)。
【0019】
まず、作業開始に際して、図2(a)に示されるように、ラッキングテープを解き、外側フロートカバー16の上部を開ける。次に、図2(b)に示されるように、内側フロートカバー18の上部を開き、フロート14の表面を露出させる。続いて、図2(c)に示されるように、露出したフロート14の上端に、ハンドドリル等を用いて、標識灯12の下側半分程が挿入できるだけの、直径及び深さを有する削孔穴20を開ける。更に、図2(d)に示されるように、フロート14の上端に開けられた削孔穴20に、標識灯12を挿入し、取り付ける。
【0020】
続いて、図3(a)に示されるように、フロート14の上端に開けられた削孔穴20と、標識灯12との隙間に、発泡系充填接着剤22(便宜上、グレーでのみ示す。)を充填し、標識灯12をフロート14に固着する。次に、図3(b)に示されるように、標識灯12の設置部分を、カバー24で被覆する。このカバー24は、内側フロートカバー18と同材質で、フロート14の上端に開けられた削孔穴20の周囲を、十分に覆えるような大きさのものを用意する。そして、カバー24には、中央部に標識灯12が通せる程度の大きさの穴を開け、更に標識灯12が通し易いように、穴の周囲に切り込みを入れる。そして、カバー24の中央部に開けられた穴に、フロート14の上端に取り付けられている標識灯12を通し、カバー24をフロート14に被せている。
更に、内側フロートカバー18に切り込みを入れ、その切り込みにフロート14の上端に取り付けられている標識灯12を通すようにして、図3(c)に示されるように、内側フロートカバー18を戻し、カバー24の上からフロート14を覆っている。
最後に、図3(d)に示されるように、外側フロートカバー16を戻し、ラッキングテープにより上部を綴じている。この際に、フロート14の上端に取り付けられている標識灯12の上部が、ラッキングテープの隙間から突出するようにし、更に、突出した標識灯12の周囲は、結束バンド等(図示省略)で固定して、ラッキングテープを綴じている。又、標識灯12のフロート部104からの落下防止を目的として、フロート部104と標識灯12とを、落下防止補助ロープ26により結びつけている。
【0021】
なお、図2及び図3に示された、本発明の実施の形態に係る汚濁防止膜10のフロート部104に、標識灯12を取り付ける作業は、全て人力施工で行うことが可能である。更に、作業の万全を期すために、この取り付け作業中には、作業員とは別に監視要員を配置し、フロート屑等が水中へ飛散することのないように監視をすると共に、フロート屑等が飛散した場合においても、回収袋等により飛散物を回収することが望ましい。
【0022】
又、本発明の実施の形態に係る汚濁防止膜10に用いられる標識灯12の大きさとしては、フロート14の削孔穴20に挿入し、更に外側フロートカバー16、及び内側フロートカバー18の二重のカバーでフロート14を覆った後も、標識灯12の灯部が、フロート部104から突出して確認できるような長さを有するものが望ましい。更に、本発明の実施の形態に係る汚濁防止膜10の標識灯12の例として、灯部の灯質が4秒1閃光程度で、灯部の光達距離が3.5km程度のものを用いている。又、汚濁防止膜10に対し、標識灯12を取り付ける間隔の例として、汚濁防止膜10の設置距離が100mごとに、標識灯12を1基取り付けている。
【0023】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、図1に示すように、下端に取り付けられた重錘110の重さにより、水中に垂下するカーテン部102と、カーテン部102の上端に連結され、水面Sに浮上し、カーテン部102に浮力を提供するフロート部104とを含んでおり、衝突防止対策としての標識灯12が、フロート部104に直接取り付けられていることから、従来のごとく、浮標灯係留索114(図4参照)を用いることなく、フロート部104に対して標識灯12が係止される。このため、標識灯12の流出防止を図るとともに、特に荒天時に標識灯12の流出防止のためのメンテナンスに要する労力が軽減されることとなる。しかも、フロート部104と標識灯12が一体となって水面Sを動揺するものであることから、波高によるフロート部104の浮き沈みに、標識灯12が連動し、標識灯12のみ波間に隠れてしまうこともなくなるので、船舶からの視認性が向上し、汚濁防止膜10に対する、より万全な衝突防止対策に、大きく貢献するものとなる。
【0024】
又、フロート部104の上端に削孔穴20が設けられており、その削孔穴20に挿入された状態で、標識灯12が取り付けられているため、フロート部104と標識灯12が一体となって、水面Sを動揺するものであることから、標識灯12の流出防止に対する労力が軽減され、更に、船舶からの視認性の向上により、汚濁防止膜10に対する、より万全な衝突防止対策に繋がるものとなる。
【0025】
又、フロート部104の上端に設けられた削孔穴20と、その削孔穴20に挿入された標識灯12との隙間に、発泡系充填接着剤22が充填されていることにより、フロート部104と標識灯12との接続を強固にし、フロート部104からの標識灯12の流出を防止するものとなる。
【0026】
更に、フロート部104と、フロート部104に直接取り付けられた標識灯12とを結びつける、落下防止補助ロープ26によっても、標識灯12のフロート部104からの落下防止を図り、標識灯12の流出防止に万全を図っているため、標識灯12のメンテナンスに要する労力が、より軽減されることとなる。
【0027】
又、本発明の実施の形態に係る汚濁防止膜10の施工方法は、標識灯12のフロート部104への取り付け作業を、クレーン船等の作業船を使用せずに、全て人力施工で行うものである。すなわち、図2及び図3で示すような、フロート部104の削孔、標識灯12の設置、発泡系充填接着剤22の充填、及び落下防止補助ロープ26による固定といった作業は、全て人力施工で行うため、その作業手順は簡易なものとなっており、更に、クレーン船等の作業船を使用しないため、工費を安くすることができる。又、この施工方法によれば、既設の汚濁防止膜にも、標識灯12の設置を容易にするものとなる。
【符号の説明】
【0028】
10:汚濁防止膜、12:標識灯、20:削孔穴、22:発泡系充填接着剤、26:落下防止補助ロープ、102:カーテン部、104:フロート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーテン部と、該カーテン部の上端に連結されたフロート部とを有する汚濁防止膜であって、
前記フロート部に標識灯が取り付けられていることを特徴とする汚濁防止膜。
【請求項2】
前記標識灯は、前記フロート部の上端に設けられた削孔穴に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の汚濁防止膜。
【請求項3】
前記フロート部と前記標識灯との間に、発泡系充填接着剤が充填されていることを特徴とする請求項2記載の汚濁防止膜。
【請求項4】
前記フロート部と前記標識灯とを結びつける、落下防止補助ロープが設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の汚濁防止膜。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−14904(P2013−14904A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147282(P2011−147282)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】