説明

油ちょう食品用バッター、油ちょう用加工食品、油ちょう食品、油ちょう食品の保存方法

【課題】油ちょう後に時間が経過した場合や、油ちょう後に冷凍又は冷蔵保存した後に再加熱処理をし、さらに時間が経過した場合にも、油ちょう食品特有のサクサクとした食感を維持できる油ちょう食品、該油ちょう食品に用いることのできる油ちょう食品用バッター、及び油ちょう用加工食品、並びに油ちょう食品の保存方法の提供。
【解決手段】澱粉、大豆タンパク、及び油脂を含むことを特徴とする油ちょう食品用バッター、前記油ちょう食品用バッターで処理してなることを特徴とする油ちょう用加工食品、前記油ちょう用加工食品を油ちょうしてなることを特徴とする油ちょう食品、前記油ちょう食品を、30〜70℃において保存することを特徴とする油ちょう食品の保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油ちょう後に時間が経過した場合や、油ちょう後に冷凍又は冷蔵保存した後に再加熱処理をし、さらに時間が経過した場合にも、油ちょう食品特有のサクサクとした食感を維持できる油ちょう食品、該油ちょう食品に用いることのできる油ちょう食品用バッター、及び油ちょう用加工食品、並びに油ちょう食品の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロッケ、エビフライ、魚介類フライ等の油ちょう食品は、中具や素材の周囲にバッターを付け、さらにパン粉を付けて製造される。これらの油ちょう食品は、工業的規模でも製造されている。
バッターは通常、小麦粉を主成分とし、油脂、澱粉等の副成分と水とを加えたものが用いられる。小麦粉を主体とすることにより、価格を低下させることができ、さらに、油ちょう直後のサクサクとした食感を提供できるという利点がある。しかしながら、油ちょう後、時間の経過とともに中具や素材から外部のパン粉へと水分移行が進み、油ちょう直後のサクサクとした食感がなくなってしまうという欠点もあるため、油ちょう後に時間が経過した場合にもサクサクとした食感を保持できる新たなバッターが望まれている。
【0003】
近年、内食、外食に続く、第三の食事の形態として、惣菜などを外で購入し、家庭で食べる、中食という食事の形態が広がりつつある。中食用の油ちょう食品としては、油ちょう前の冷凍商品を店舗にて油ちょうし、油ちょう後の商品を、スーパーの惣菜コーナーや、コンビニエンスストア等で、50〜70℃に保温するホットウォーマー内に並べて販売する形態が増加している。しかしながら、ホットウォーマーを用いて上記のような温度帯で保存することにより、常温保存よりもさらに乾燥が進みやすく、劣化が早いという問題点が指摘されていた。
また、最近ではさらに、油ちょうから喫食までの時間が長くなる傾向にある。例えば、スーパーの惣菜売り場で購入したものを、家庭の夕飯に喫食する場合を考えてみると、惣菜売り場にて14時頃にフライしたものが、15〜16時頃に惣菜売り場で購入され、18〜19時頃に夕飯として喫食される。このように、油ちょうから喫食まで4〜5時間が経過する場合が多いため、油ちょう後の6時間程度にわたって、品位を継続することができる油ちょう食品が求められている。
【0004】
最近では、上記のような事情から、常温下、あるいは加温下での保存安定性を有する油ちょう食品に関し、様々な検討が行われている。
例えば、特許文献1には、具材に衣を施して油揚げを行った後、具材の含水率に実質的な変化を与えることなく衣層の水分の10〜70%が除去されるように熱風乾燥し、次いで凍結することにより得られる冷凍油揚食品を、略密閉された装置内に入れ、該冷凍油揚食品に装置内の少なくとも2方向から赤外線を照射する冷凍油揚食品の解凍・保存方法が開示されている。
また、特許文献2には、小麦粉、脱脂粉乳、粉末卵白、食塩、香辛料、調味料を主成分にしたバッターミックスにセルロースを加えたセルロース入りバッターミックスを用いた、電子レンジ調理加熱用油ちょう済パン粉付フライ食品の製造方法が開示されている。
さらに、特許文献3には、α化米粉、焙焼小麦粉、及びα化コーンを含むフライバッター粉が開示されており、特許文献4には、小麦粉、水並びに調味料からなるバッターに熱凝固性を有する起泡材を加え、混合攪拌して含気させる電子レンジ調理用冷凍フライ食品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−79756号公報
【特許文献2】特許第2538510号
【特許文献3】特開平4−179453号公報
【特許文献4】特公平8−4464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された方法では、常温下、あるいは加温下での保存安定性が未だ不十分であった。また、赤外線を少なくとも2方向から照射するために、新たに専用の装置を設置する必要があり、コストや手間の面で問題があった。
上記特許文献2に開示された方法では、レンジ再加熱時は、食感がカリカリし、好ましい食感が得られるも、再加熱後の経時変化という面では、水分移行が見られ、バッター層のヒキも感じられ、まだまだ不十分であった。
上記特許文献3に開示されたフライバッター粉では、油ちょう直後は良好だが、電子レンジ再加熱に該当する冷凍フライ品では不十分との指摘がある。
上記特許文献4に開示された方法では、バッターを含気させることにより、加熱直後の食感は良好だが、経時変化後は水分移行が進み、またバッター主要成分に小麦粉を使用しているため、ヒキが見られるようになり、調理後保存という点ではまだまだ不十分であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、油ちょう後に時間が経過した場合や、油ちょう後に冷凍保存した後に再加熱処理をし、さらに時間が経過した場合にも、油ちょう食品特有のサクサクとした食感を維持できる油ちょう食品、該油ちょう食品に用いることのできる油ちょう食品用バッター、及び油ちょう用加工食品、並びに油ちょう食品の保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、澱粉、大豆タンパク、及び油脂を含むことにより、油ちょう後に時間が経過した場合や、油ちょう後に冷凍保存した後に再加熱処理をし、さらに時間が経過した場合にも、油ちょう食品特有のサクサクとした食感を維持できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有する油ちょう食品用バッター、油ちょう用加工食品、及び油ちょう食品を提供するものである。
(1)澱粉、大豆タンパク、及び油脂を含むことを特徴とする油ちょう食品用バッター。
(2)前記大豆タンパクの10質量%水溶液の10℃における粘度が、500cP以上である(1)記載の油ちょう食品用バッター。
(3)(1)又は(2)に記載の油ちょう食品用バッターで処理してなることを特徴とする油ちょう用加工食品。
(4)(3)に記載の油ちょう用加工食品を油ちょうしてなることを特徴とする油ちょう食品。
(5)(4)に記載の油ちょう食品を、30〜70℃において保存することを特徴とする油ちょう食品の保存方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油ちょう食品用バッター、油ちょう用加工食品を用いてなる油ちょう食品は、油ちょう後に時間が経過した場合や、油ちょう後に冷凍保存した後に再加熱処理をし、さらに時間が経過した場合にも、油ちょう食品特有のサクサクとした食感を維持することができる。
また、本発明の油ちょう食品の保存方法によれば、本発明の油ちょう食品を、サクサクとした食感を維持したまま保存することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の油ちょう食品用バッターは、澱粉、大豆タンパク、及び油脂を含むものであり、油ちょう食品に用いることができる。
【0012】
本発明において澱粉としては、澱粉構造を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、タピオカ、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、コメ、緑豆、小麦等の様々な原料から精製して得られる澱粉類、これらの澱粉類を適宜化学的に加工して得られる加工澱粉類が挙げられる。本発明では、従来用いられていた小麦粉に代えて澱粉を用いることにより、中具や素材から染み出した水分が小麦粉のグルテンと反応することに起因する油ちょう食品の経時劣化を防ぐことができる。
なかでも、本発明における澱粉としては、澱粉粒が膨潤しづらく、老化が遅いことから、加工澱粉が好ましい。
【0013】
油ちょう食品用バッターにおける澱粉の配合量は、特に限定されるものではなく、用いる油ちょう食品の種類等に応じて適宜決定することができるが、バッター全量に対して、2〜40質量%であることが好ましく、4〜30質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。澱粉は多すぎても、脆すぎる食感となり、上記範囲内とすることにより、バランスのとれた食感の良い衣を提供することができる。
【0014】
本発明において大豆タンパクとしては、大豆由来のタンパクを含有するものであれば特に限定されず、全脂大豆又は脱脂大豆を粉砕して得られる大豆粉であってもよく、大豆から種皮成分と油脂成分とを除いてタンパク質含有量を高めることにより製造される分離大豆タンパクであってもよく、大豆から特定のタンパクのみを抽出したものであってもよい。
本発明において、大豆タンパクとしては、分離大豆タンパクであることが好ましい。分離大豆タンパクは、例えば、大豆を脱皮及び脱脂後、酸性又はアルカリ性の水溶液により抽出し、必要に応じてオカラ成分やホエー成分を除くことにより製造することができる。分離大豆タンパクとしては、市販品を用いることもできる。市販品として具体的には、「ソルピー4000」(商品名、日清オイリオグループ社製)、「フジプロ FR」、「フジプロ MC」、「プロリーナ 700」、「プロリーナ 250」、「プロフィット 1000」(いずれも商品名、不二製油社製)が挙げられる。
なかでも、本発明における大豆タンパクとしては、水に溶解して10質量%水溶液とした場合、10℃における粘度が、500cP以上であるものが好ましく、1000cP以上であるものがより好ましく、1500cP以上であるものがさらに好ましい。10質量%水溶液における粘度が500cP以上の大豆タンパクを用いることにより、油ちょう後に時間が経過した場合や、油ちょう後に冷凍保存した後に再加熱処理をし、さらに時間が経過した場合にも、サクサクとした食感や、を得ることができる。なお、大豆タンパク水溶液の粘度は、常法により測定することができる。具体的には、JIS Z8803に準拠し、市販の粘度計、例えば、円盤型スピンドル粘度計、円筒型スピンドル粘度計等を用いて測定することができる。スピンドル粘度計の場合は、1〜100rpmの回転スピードにおいて測定することが好ましい。
【0015】
油ちょう食品用バッター中の大豆タンパクの配合量は、特に限定されるものではなく、用いる油ちょう食品の種類等に応じて適宜決定することができるが、全粉体類に対して、10〜30質量%以上であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましく、16〜23質量%であることがさらに好ましい。上記下限値以上とすることにより、中具や素材の周囲に大豆タンパクによる被膜を好適に形成することができ、中具や素材から外部への水分移行を抑制することができ、結果として、時間経過後の乾燥による質量低下を抑制することができる。また、上記上限値以下とすることにより、大豆タンパクによって形成された被膜が、バッターの外側に形成される衣層にヒキのような噛み切りにくい食感を与えるのを防ぐことができる。なお、本発明において全粉体類とは、澱粉、大豆タンパク、並びに、後述する任意成分の粉体類を総称していう。
また、油ちょう食品用バッター中の全粉体類の配合量は、油ちょう食品用バッター全量に対して、10〜40質量%であることが好ましく、12〜30質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明において油脂としては、食用油脂であれば特に限定されるものではなく、植物性油脂、動物性油脂、及びそれらの加工油脂のいずれであってもよい。また、当該油ちょう食品用バッターを用いて、中具や素材を被覆する際に液状となる油脂であればよく、液状油脂であってもよく、常温で固体である固形油脂を加熱溶融したものであってもよい。このような油脂としては、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、ゴマ油、紅花油、綿実油、米油、ピーナッツ油、オリーブ油、パーム油、やし油、カカオ脂、バター、マーガリン、ショートニング、牛脂、ラード等が挙げられる。
油ちょう食品用バッターにおける油脂の配合量は、特に限定されるものではなく、用いる油ちょう食品の種類等に応じて適宜決定することができるが、油ちょう食品用バッター全量に対して、10〜40質量%であることが好ましく、12〜35質量%であることがより好ましく、15〜30質量%であることがさらに好ましい。
上記範囲内の油脂を加えることにより、油ちょう食品用バッター全体の安定性が向上し、経時後の水分の増加を防ぐことができる。
【0017】
本発明の油ちょう食品用バッターは、上記澱粉、大豆タンパク、及び油脂に加えて、さらに、水、上記以外の粉体類、並びに、増粘剤、乳化剤、着色剤、保存料等の食品添加物を配合することができる。
水を配合する場合、水の配合量は、油ちょう食品用バッター全量に対して、30〜90質量%であることが好ましく、35〜85質量%であることがより好ましく、40〜80質量%であることがさらに好ましい。
上記以外の粉体類としては、例えば、小麦粉を用いることができる。小麦粉の種類は特に限定されるものではないが、上述のように小麦粉のグルテンは中具や素材から染み出した水分と反応し経時劣化を引き起こすため、グルテン含有量の少ない小麦粉を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の油ちょう食品用バッターの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、水、油脂等の液体成分を予め混捏した後、澱粉、大豆タンパク、小麦粉等の固体(粉体)成分を添加して混捏することにより、製造することができる。より具体的には、例えば、ミキサーを用いて水及び油脂を30秒〜3分間程度混捏した後、澱粉及び大豆タンパクを加えて、さらにミキサーで1〜5分間程度混捏することにより、本発明の油ちょう食品用バッターを製造することができる。
【0019】
本発明の油ちょう用加工食品は、上記油ちょう食品用バッターで処理してなる食品である。
なお、本発明では、油ちょう処理用の加工がなされ、且つ、油ちょう処理前である食品を、「油ちょう用加工食品」といい、油ちょう用加工食品を油ちょうしてなる食品を「油ちょう食品」という。
具体的には、中具又は素材に、少なくとも油ちょう食品用バッターを付着させることにより、本発明の油ちょう用加工食品が得られる。また、この油ちょう用加工食品を、常法により油ちょうすることにより、本発明の油ちょう食品が得られる。
【0020】
このような油ちょう用加工食品としては、例えば、油ちょう食品用バッターと、コロモとを中具又は素材に付着させて得られる、油ちょう処理前の、コロッケ、トンカツ、エビフライ、魚介類フライ等のフライ類;油ちょう食品用バッターで直接コロモ層を形成する、油ちょう処理前の、天ぷら類や唐揚げ類等が挙げられる。
【0021】
例えば、本発明の油ちょう用加工食品として油ちょう前コロッケを製造する場合、ジャガイモ、タマネギ等の野菜類と、牛肉、豚肉等の肉類とを混捏し、成形して得られた中具の表面に、本発明の油ちょう食品用バッターを均一に付着させ、次いでパン粉を付着させることにより、油ちょう前コロッケを得ることができる。また、中具に一次パン粉を均一に付着させた後に、本発明の油ちょう食品用バッターを付着させ、ついで、二次パン粉を付着させてもよい。
上記油ちょう前コロッケの製造方法において、中具を、エビ、豚肉、魚介類等の素材に代えることにより、油ちょう前の、エビフライ、トンカツ、魚介フライ等を製造することができる。
【0022】
このようにして製造された油ちょう用加工食品は、直後に油ちょう処理を加え、油ちょう食品としてもよく、冷凍又は冷蔵保存し、その後に油ちょう処理を加えて油ちょう食品としてもよい。
冷凍又は冷蔵の方法は特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば冷凍保存の場合、エアーブラスト式凍結法、セミエアーブラスト式凍結法、コンタクト式凍結法等の凍結法に基づくフリーザーを用いて油ちょう用加工食品を凍結した後に、−18℃以下で保存する方法や、液化窒素や液化炭酸を噴霧して油ちょう用加工食品を凍結した後に、−18℃以下で保存する方法を用いることができる。
【0023】
本発明の油ちょう食品は、上記油ちょう用加工食品を、油ちょうしてなるものである。具体的には、製造された直後の油ちょう用加工食品、又は、製造された後に冷凍若しくは冷蔵保存された油ちょう用加工食品を、140〜200℃の食用油脂中で60〜600秒間油ちょう加熱することにより、油ちょう食品を得ることができる。
【0024】
このようにして製造された油ちょう食品は、すぐに食卓に供されてもよく;冷凍又は冷蔵保存し、その後マイクロ波調理等の二次調理を施した後に食卓に供されてもよく;常温で保存された後に食卓に供されてもよく;後述する油ちょう食品の保存方法により保存された後に食卓に供されてもよい。なかでも、後述する油ちょう食品の保存方法により保存された後に食卓に供されることが好ましい。
本発明の油ちょう食品は、澱粉、大豆タンパク、及び油脂を含むことで、油ちょう後に時間が経過した場合や、油ちょう後に冷凍又は冷蔵保存した後に再加熱処理をし、さらに時間が経過した場合にも、油ちょう食品特有のサクサクとした食感を維持することができる。
【0025】
本発明の油ちょう食品の保存方法は、上記油ちょう食品を、30〜70℃において保存する方法である。
上記油ちょう食品の保存温度は、30〜70℃であり、40〜70℃であることが好ましく、喫食に適した温度であることから50〜70℃であることが特に好ましい。
油ちょう食品を上記温度において保存する方法としては、特に限定されるものではないが、ホットウォーマー等の加温器又は保温器を用いて、その内部で油ちょう食品を保存する方法が挙げられる。
本発明の油ちょう食品の保存方法によれば、上記油ちょう食品を上記温度において保存した場合にも、油ちょう食品特有のサクサクとした食感を維持することができる。また、30〜70℃において保存することにより、保存後に再加熱処理をする必要がなく、再加熱による油ちょう食品の食感の劣化を防ぎ、再加熱の手間を省き、すぐに喫食することができる。
【実施例】
【0026】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例では、官能試験の各項目について、5を最も良い、1を最も悪いとする5段階で評価を行い、官能試験の訓練を受けた5人のパネラーの平均値を、各試験の結果とした。
【0027】
また、以下の各実施例において、各表中に示す原材料としては、それぞれ以下のものを用いた。
加工澱粉1:「パインベークCC」(商品名、タピオカリン酸架橋澱粉、松谷化学工業社製)
加工澱粉2:「エヌクリーマー46」(商品名、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、日本エヌエスシー社製)
大豆粉:「アルファプラスHS−600」(商品名、全脂大豆粉、タンパク含量32.0%、日清オイリオグループ社製)
分離大豆タンパク1:「ソルピー4000」(商品名、タンパク含量90.0%、日清オイリオグループ社製)
分離大豆タンパク2:「フジプロ FR」(商品名、タンパク含量91.2%、不二製油社製)
分離大豆タンパク3:「プロリーナ 700」(商品名、タンパク含量91.0%、不二製油社製)
分離大豆タンパク4:「プロリーナ 250」(商品名、タンパク含量89.0%、不二製油社製)
分離大豆タンパク5:「フジプロ MC」(商品名、タンパク含量86.0%、不二製油社製)
分離大豆タンパク6:「プロフィット 1000」(商品名、タンパク含量64.0%、不二製油社製)
小麦粉:「パンドラ2」(商品名、準強力粉、日清製粉社製)
サラダ油:日清サラダ油(商品名、日清オイリオグループ社製)
【0028】
[実施例1]
食感の経時変化に対する、植物タンパクの種類及び量の影響について、コロッケを製造して検討した。
表1に示す配合量の油脂と、水とを、ミキサーを用いて1分間混捏した。その後、表1に示す粉体類を添加し、ミキサーを用いてさら2分間混捏し、油ちょう食品用バッター(以下、単に「バッター」ということがある。)を製造した。製造されたバッターの、表1中に示す温度における粘度を、円盤型スピンドル粘度計(BLOOKFIELD社製、DV−I+)を用いて、20rpmの回転スピードにおいて測定した結果を、表1に併記する。
また、みじん切りにしたタマネギと、牛挽肉を炒め、蒸した後に皮を剥いてミンチしたジャガイモと、調味料とを混捏し、室温まで冷却後、45〜47gずつ取り分けて成型し、コロッケ中種とした。
得られた中種の表面に、1〜2gの一次パン粉を付着後、上記にて得られたバッターを14g付着させ、さらに14〜15gの二次パン粉を付着させ、再度成型を行って、油ちょう用加工食品とした。
【0029】
プレフライ品として、得られた油ちょう用加工食品を、直後にパーム油(日清デリカエースSO、日清オイリオグループ社製)を用いて180℃で2分30秒間油ちょうし、油切りした後に、急速凍結庫にて凍結し、−18℃で冷凍保存した。30日冷凍保存した後、6個ずつ皿に載せてラップをせずに、電子レンジを用いて1000Wで1分30秒間加熱調理を行った。調理後、ホットウォーマーを用いて60℃にて保存を開始した。
また、ディープフライ品として、得られた油ちょう用加工食品を、急速凍結庫にて凍結し、−18℃で冷凍保存した。30日冷凍保存した後、パーム油を用いて170℃で4分間油ちょうし、油切りした後にホットウォーマーを用いて60℃にて保存を開始した。
保存開始時点から2時間おきに、6時間経過後まで、コロッケの質量を測定した。また、4時間経過後及び6時間経過後(ディープフライ品は6時間経過後のみ)に、官能試験を行った。プレフライコロッケの結果を表2に、ディープフライコロッケの結果を表3に示す。
なお、本実施例1中、本願発明に係る実施例は、表中の1−4〜1−9であり、1−1〜1−3は比較例である。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
上記の結果から、本発明に係る油ちょう食品用バッターを用いた1−4〜1−9のコロッケは、1−1〜1−3のコロッケに比べて、時間経過後にもサクサクとした食感(サク感)を保ち、且つ、良好なひき、軽さ、及びパン粉の硬さを有し、コロッケとして好ましいものであった。また、プレフライ品、ディープフライ品ともに、1−6及び1−8の結果が特に良好なことから、分離大豆タンパクを適量用いることにより、時間経過に対する食感改善効果が高まることが予想された。
さらに、プレフライ品、ディープフライ品ともに、タンパク含有量が多い程、時間経過後の質量変化が少ないことが確認できた。
【0034】
[実施例2]
食感の経時変化に対する、大豆タンパク、大豆粉の影響について、コロッケを製造して検討した。
表4に示す配合の油ちょう食品用バッターを用いた以外は上記実施例1と同様にして、プレフライ品のコロッケを製造した。実施例1と同様にして測定した粘度を併せて表4に示す。
実施例1と同様にしてコロッケの質量を測定した結果、及び、官能試験を行った結果を、表5に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
上記の結果から、本発明に係る油ちょう食品用バッターを用いた2−1〜2−4のコロッケは、時間経過後にも乾燥による質量変化が少なく、サクサクとした食感(サク感)を保ち、且つ、良好なひき、軽さ、及びパン粉の硬さを有し、コロッケとして十分に好ましいものであった。
また、同じ大豆タンパクであっても、分離大豆タンパクの割合を多くすることにより、質量変化が小さく、食感も良好となることが確認できた。
【0038】
[実施例3]
食感の経時変化に対する、分離大豆タンパクの種類の影響について、コロッケを製造して検討した。
表6に示す配合の油ちょう食品用バッターを用い、油ちょうを170〜175℃で4分30秒間行った以外は、上記実施例1と同様にして、プレフライ品のコロッケを製造した。実施例1と同様にして測定した粘度を併せて表6に示す。
また、用いた分離大豆タンパク1〜6を水に溶解して水溶液とした際の粘度を表7に示す。具体的には、水300gに、表7に示す量の各分離大豆タンパクを添加し、ジューサーを用いて低速で120秒間混捏し、得られた水溶液の10℃における粘度を、円盤型スピンドル粘度計(BLOOKFIELD社製、DV−I+)を用いて、20rpmの回転スピードにおいて測定した。
実施例1と同様にしてコロッケの質量を測定した結果、及び、官能試験を行った結果を、表8に示す。
【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
【表8】

【0042】
上記の結果から、本発明に係る油ちょう食品用バッターを用いた3−1〜3−6のコロッケは、時間経過後にも乾燥による質量変化が少なく、サクサクとした食感(サク感)を保ち、且つ、良好なひき、軽さ、及びパン粉の硬さを有し、コロッケとして十分に好ましいものであった。
また、3−1、3−2、及び3−4のコロッケの食感が特に好ましかった。このことから、同じ分離大豆タンパクであっても、10質量%水溶液の10℃における粘度が500cP以上の大豆タンパクを用いた場合に、特に食感が良好となることが確認できた。
【0043】
[実施例4]
常温で保存した場合における、大豆タンパクの影響について、コロッケを製造して検討した。
表9に示す配合の油ちょう食品用バッターを用いた以外は、上記実施例1と同様にして、プレフライ品及びディープフライ品のコロッケを製造した。実施例1と同様にして測定した粘度を併せて表9に示す。
実施例1と同様にしてコロッケの質量を測定した結果を、表9に併せて示す。
【0044】
【表9】

【0045】
上記の結果から、本発明に係る油ちょう食品用バッターを用いた4−1〜4−2のコロッケは、時間経過後にも乾燥による質量変化が少ないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の油ちょう食品用バッターは、食品製造分野で好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉、大豆タンパク、及び油脂を含むことを特徴とする油ちょう食品用バッター。
【請求項2】
前記大豆タンパクの10質量%水溶液の10℃における粘度が、500cP以上である請求項1に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油ちょう食品用バッターで処理してなることを特徴とする油ちょう用加工食品。
【請求項4】
請求項3に記載の油ちょう用加工食品を油ちょうしてなることを特徴とする油ちょう食品。
【請求項5】
請求項4に記載の油ちょう食品を、30〜70℃において保存することを特徴とする油ちょう食品の保存方法。