説明

油を局所的に供給するスロットを有する摩擦材料

【課題】所望の深さ及び仕様の別個の冷却溝パターンを有する摩擦材料を製造する。
【解決手段】油を局所的に供給する複数のスロットを有する摩擦材料に関する。摩擦材料10は、複数の接続した部分18と、油を局所的に供給する複数のスロット20とを有している。接続した部分18の各々は、摩擦材料10に油を局所的に供給する隣接したスロット20により画成される。油を局所的に供給するスロットは、摩擦材料10が最終用途製品にて所望の形状に形成されたとき、油を局所的に供給するスロット20内に流体を保持するリザーバを画成する対向した側部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、摩擦材料に関する。より具体的には、本発明は、油を局所的に供給する複数のスロットを有する摩擦材料に関する。摩擦材料は、クラッチ、ブレーキ、自動変速機、滑り制限差動装置、ホイスト、シンクロナイザ、丸形バンド、円板、及び同様の最終用途製品のような、動力伝動−エネルギ吸収組立体に対して有用である。
【背景技術】
【0002】
摩擦材料は、通常、フェノール樹脂を含浸させた焼結金属又は繊維マットからつくられている。摩擦材料は、一般に、ダイすなわち切断装置を通して供給される摩擦材料から成る矩形のシート材の連続的な片から切り取られる。摩擦材料は、比較的高価であり、このため、製造工程からの廃物が解消されるように最適化することが望ましい。
【0003】
更に、製造工程からの廃物の発生を解消することは、法令の基準に適合することに役立つ。全てのスクラップを適正に処分することは、現在の環境保全機関が多数制定する規則の法律の中心となるものである。切り取り工程から生ずる全てのスクラップは、適正な仕方にて処分しなければならず、摩擦フェーシングを製造する材料のため、この処分は、益々、コスト高となりつつある。
【0004】
更に、摩擦材料が使用される製品の有効寿命、作動の滑らかさ、最終用途製品の冷却効率を最適化することを目的として、摩擦材料に関係する文献及び技術は、多岐に亙る摩擦フェーシング材料を製造する多数の設計及び摩擦フェーシング材料の設計を提供する。現在、利用可能な一般的な摩擦フェーシングは、クラッチと共に使用すべく、摩擦材料にて製造され且つ、複数の別個の円弧状部分を接続することにより製造された摩擦円板を開示する、米国特許第4,260,047号及び米国特許第4,674,616号の開示により示されている。円弧状部分には、クラッチの作動中、冷却油が摩擦フェーシングを亙って流れるのを許容すべく予め溝が切ってある。
【0005】
米国特許第5,094,331号、米国特許第5,460,255号、米国特許第5,571,372号、米国特許第5,776,288号、米国特許第5,897,737号及び米国特許第6,019,205号には、板の上に極めて多数の摩擦材料部分を有するクラッチの摩擦板が開示されている。該部分は、隣接した各部分の間に油溝が提供されるように隔てられている。
【0006】
米国特許第3,871,934号及び米国特許第4,002,225号には、両側部にて円板と重なり合うように、円板の外周に巻かれた摩擦材料が示されている。その後に、重なった部分は、外周の周りで間隔を置いて切断し、円板の表面上に折り曲げられる。
【0007】
米国特許第5,335,765号には、半径方向平面内に配置され且つ、回転方向に対して斜め後方に傾斜した1つの組の第一の溝及び第二の溝を有する摩擦部材が開示されている。
【0008】
米国特許第5,615,758号及び米国特許第5,998,311号には、溝が無いが、縦糸及び充填糸が、流体が貫通して流れるのを許容する通路を形成する、摩擦糸フェーシング材料が示されている。
【0009】
これら摩擦材料の各々の製造は、多量の不使用材料すなわちスクラップ材料を生じさせる。このため、本発明の1つの目的は、摩擦材料を切り取った後に残るスクラップの量を
効果的に減少させることである。
【0010】
最終用途製品及び摩擦材料に過剰な摩耗を生じさせることなく、最終用途製品の滑らかな係合及び非係合状態が維持されるように、摩擦材料が十分に冷却及び潤滑されるようにすることも望まれる。多くの従来技術の摩擦材料の設計は、油のような流体が摩擦フェーシングを通るのを許容することにより、望ましい冷却及び潤滑を実現し得るよう溝又はスロットのパターンをフェーシング材料内に組み込んでいる。かかる冷却溝は、一般に、3つの労働集約的な方法の1つによって製造される。1つの方法は、米国特許第4,260,047号により示されたような仕方にて、切り取られ且つクラッチ板に取り付けられる前に、摩擦材料に予め溝を形成されるようにする。溝を形成する別の方法は、所要形態の加工装置を利用して接着工程の間、摩擦材料の複数の部分を圧縮する。第三の方法は、板を固定具に取り付け且つ多数のフライス削り及び研磨車を摩擦材料に通して所望の深さ及び仕様の別個の溝を切ることにより、仕上がった摩擦板に切り込んだ溝を形成することを含む。
【特許文献1】米国特許第4,260,047号
【特許文献2】米国特許第4,674,616号
【特許文献3】米国特許第5,094,331号
【特許文献4】米国特許第5,460,255号
【特許文献5】米国特許第5,571,372号
【特許文献6】米国特許第5,776,288号
【特許文献7】米国特許第5,897,737号
【特許文献8】米国特許第6,019,205号
【特許文献9】米国特許第3,871,934号
【特許文献10】米国特許第4,002,225号
【特許文献11】米国特許第5,335,765号
【特許文献12】米国特許第5,615,758号
【特許文献13】米国特許第5,998,311号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
摩擦材料の従来の設計の共通の欠点は、複雑な形状及び設計のものを形成することにあり、その結果、製造の複雑さ、スクラップ発生量の増大、及びそれに伴うスクラップの適正な処分に関する問題点が生じることである。更に、従来の摩擦材料は、全て、特定型式の摩擦クラッチに合うように個別に製造され、このため、一般に、広範囲の用途にて使用することができない。
【0012】
本発明の1つの目的は、二次的な工程及びそれに付随する機械装置を必要とせずに、所望の深さ及び仕様の別個の冷却溝パターンを有する摩擦材料を製造することである。
本発明の更に別の目的は、複数の所望の溝を有する摩擦材料を提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、生産性を向上させ、特に、耐久性、熱的安定性及び圧縮永久ひずみ(compression set)を向上させる設計とされた構造上の利点を有する摩擦材料を提供することである。
【0014】
本発明の更に別の目的は、最終用途製品の作動中、摩擦材料の溝内に静圧力を維持し且つ動的流体流れを保持する能力を有する摩擦材料を製造することである。
本発明の更に別の目的は、異なる型式の最終用途製品に汎用的に適用可能である摩擦材料を提供することである。摩擦材料は、クラッチ、ブレーキ、自動変速機、滑り制限差動装置、ホイスト、シンクロナイザ、丸形バンド、円板、及び同様の最終用途製品のような動力伝動−エネルギ吸収組立体と共に特に使用可能である。
【0015】
摩擦材料は、油を局所的に保持し、また供給する複数のスロットを有しており、また、特定の実施の形態において、単一の又は連続的な材料片である。摩擦材料は、摩擦材料に形成された油を局所的に供給するスロットを通して所望の潤滑及び圧送機能を発揮し得るように最終用途製品にて調整されている。摩擦材料の油を局所的に供給するスロットを調整することは、最終用途製品の内部に又はその外部に半径方向への所望の油の流れ方向を実現し、また、所望の程度の静液圧を形成する。摩擦材料の寸法及び形状、油を局所的に保持し、また供給するスロットの間隔及び向きは、全て、流体の圧送量、静液圧の程度及び最終用途製品の冷却の程度を制御する作用を果たす。
【課題を解決するための手段】
【0016】
1つの特徴において、本発明は、直線状の材料片として所望の数の油を局所的に供給するスロットを有して打ち抜かれ、次に、シンクロナイザのような最終用途製品の面を覆うよう周方向に取り巻くように配置される摩擦材料を示す。
【0017】
別の特徴において、本発明は、直線状の材料片として局所的に供給する所望の数のスロットを有して打ち抜かれ、その後に、最終用途製品の所望の部分に少なくとも部分的に配置される摩擦材料について説明する。
【0018】
1つの好ましい特徴において、油を局所的に保持し、また供給するスロットは、全体として「涙滴」の形状をしており、ここで、油を局所的に供給するスロットの各々は、丸味を付けた頂点を有し、また、その最大幅にて油を局所的に供給するスロットの幅よりも狭い開口部を有している。1つの好ましい側面において、頂点は、油をスロット内に保持することを許容する、全体として円形の形状を有している。涙滴形スロット及びその頂点の特異な幾何学的形態は、使用中、油を摩擦面の相互作用部に望ましいように保持し且つ拭き取り又は除去することの双方を促進する。
【0019】
別の好ましい特徴において、油を局所的に保持し、また供給するスロットは、全体として「鳩の尾状」又は三角形の形状を有しており、ここで、油を局所的に供給するスロットの各々は、全体として平坦な頂点を有し、また、その最大幅箇所にて油を局所的に供給するスロットの幅より狭小な開口部を有している。1つの好ましい側面において、該頂点は、油をスロット内に保持することを許容する全体として平坦な形状を有している。鳩の尾形状又は三角形のスロット及びその頂点の特異な幾何学的形態は、使用中、油を望ましいように保持し且つ油を摩擦面から拭き取り又は除去することの双方を促進する。
【0020】
油を局所的に供給するスロットは、使用中、油を摩擦面から除去するために使用される拭き取り縁部を画成する。このことは、摩擦材料及び相手となる構成要素が摩擦接触し且つ2つの構成要素間にトルクを発生させることを許容する。この摩擦面は、摩擦材料の接触側面と相手となる構成要素との相互作用部である。例えば、特定のシンクロナイザの実施の形態において、相手となる構成要素は、マルチコーンすなわち多円錐式(multi
cone)シンクロナイザの歯車円錐又は接続構成要素の何れかである。
【0021】
特定の実施の形態において、油を局所的に供給するスロットは、「全深さ(full−depth)(摩擦材料の厚さと等しい深さ)」であり、スロットの一端からスロットの他端まで流れる流体は存在しない。
【0022】
本発明の摩擦材料における油を局所的に供給するスロットの形状、間隔及び向きを決定するときの1つの基準は、最終用途製品に配置される摩擦材料の長さにおける円周(360°)と溝の所望の数との比である。すなわち、360個の溝の数=油を局所的に供給するスロットの各々の半径方向角度である。
【0023】
最終用途製品の性能要件が益々厳しくなるのに伴い、最終用途製品は、高表面速度時、大きいトルクを提供し、これにより高温度にて効率的に作動し得るようにしなければならない。このため、この性能条件は、摩擦材料として使用するため、より高価で、より高性能の材料を必要とする。このように、材料のコストが増すに伴い、本発明は、冷却及び潤滑の必要性を保つべく努力すると同時に、摩擦表面積を最小にする摩擦材料を製造する効率的な方法を提供する。油を局所的に供給するスロット付き摩擦材料は、所望の性能標準に適合するのに必要な最終用途製品内でより大きい熱放散を許容する。
【0024】
本発明の最終用途製品を製造する方法において、油を局所的に保持し、また供給するスロットの各々を画成する所望の幾何学的形態にて摩擦材料片を打ち抜き又は切欠く。打ち抜いた摩擦材料片を所望の長さに切断する。
【0025】
その後、摩擦材料を所望の仕方にて最終用途製品に接着させる。油を局所的に供給するスロット付き摩擦材料を最終用途製品に接着させる1つの方法は、最終用途製品に被覆される熱硬化性接着剤を使用することを含む。その後、摩擦材料及び最終用途製品は適宜な仕方にて加熱する。
【0026】
本発明の目的に適用するときの本発明のいろいろな実施の形態は、本発明の好ましい実施の形態に関する添付図面及び以下の説明を参照することにより、より容易に理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
1つの最終用途製品は、図面に参照番号8にて概略図的に図示されている。最終用途製品がシンクロナイザである実施の形態において、製品8は、全体として、外面を有する截頭円錐形の部材9を備えている。
【0028】
特に、本発明は、最終用途製品の外面に接着されることが好ましい摩擦材料に関する。該摩擦材料は、複数の接続した部分と、油を局所的に供給する複数のスロットとを有しており、ここで、接続した部分の各々は、摩擦材料の隣接したスロットにより画成される。スロットの各々は、摩擦材料が円形の形状に形成されたとき、油を局所的に供給するスロット内に流体を保持するリザーバを画成する対向した複数の側部を有する。
【0029】
本発明の摩擦材料の特異な油を局所的に供給するスロット付きの幾何学的形態は、以下により詳細に説明するように、所望の幅を有する油溝及び油リザーバを提供する。特定の好ましい実施の形態において、摩擦材料は、所望の長さの摩擦材料に約12から約20、好ましくは、約15のスロットを保持している。別の実施の形態において、スロットの数は、最終用途製品の所望の形態及びその製品が使用されるであろう作動状態に依存する。
【0030】
次に、図1及び図3を参照すると、本発明の摩擦材料10の1つの実施の形態が図示されている。摩擦材料10は、上述したように樹脂を含浸させた焼結金属又は繊維マットのような適宜な連続的摩擦材料片から製造される。摩擦材料10は、打ち抜き又は切り取り工程中、利用可能な摩擦材料のほぼ全てを使用し得るようにダイ打抜きした形状を有する。
【0031】
摩擦材料10は、外縁部14と、内縁部16と、油を局所的に保持し、また供給する所望の数のスロット20により画成された複数の接続した部分18とを有している。このように、摩擦材料10は、個々のスロット20により分離された複数の取り付けた部分18を備えている。図示した実施の形態において、摩擦材料10は、外縁部14に向けた方向に内縁部16から放射し、又はこれと交互に、内縁部16に向けた方向に外縁部14から
それぞれ放射する交互になったスロット20、20´を有している。
【0032】
図1及び図3には、1つの好ましい実施の形態が図示されており、ここで、スロット20の各々は、全体として涙滴の形状を有しており、スロット20の第一の側部22及び第二の側部23の各々は、実質的に同一の湾曲又は円弧状の形状を有している。すなわち、スロット20の各々の側部22、23は、内縁部16から外縁部14に向けて同一であるが、反対の角度で伸びている。
【0033】
摩擦材料10におけるスロット20の所望の数は、最終の用途によって決まり、また、油を局所的に供給する所望のスロット数を与えるように、360(単位は長さ(mm)或い角度(度))を隣接するスロット間の間隔の程度(単位は長さ(mm)或いは角度(度))で割ることにより決定することができる。例えば、図面に示した実施の形態において、360÷24=15個の油を局所的に供給するスロットとなる。
【0034】
スロット20の側部22、23は、溝又は空隙24を画成する。摩擦材料10が最終用途製品8にて円形の形状であるならば、溝24は、側部の長さに沿って変化する幅を有する。図1及び図3に示した実施の形態において、溝24の幅は、側部22、23に沿った中間点にその最大幅の点があるようになる。溝24の最大幅点における長さは、第一の距離(D1)によって画定される。このため、距離D1は、溝の最大幅の点にて測定される。スロット20の側部22、23の各々は、対向した端部26、27にてそれぞれ終わる。端部26、27は、第二の距離D2により画成される幅を有する開口部28を画成する。第二の距離D2は、第一の距離D1よりも短い。
【0035】
油を局所的に供給するスロット20は、頂点30にて終わっている。図1及び図3に示した実施の形態において、頂点30は、実質的に丸味を付けた形状、すなわち円形の形状を有する。しかし、その他の実施の形態において、長円形、楕円形等のようなその他の形状も使用可能であり、従って、本発明の企図する範囲に属するものであることを理解すべきである。
【0036】
頂点30は、考慮されるスロットに依存して、外縁部14又は内縁部16の何れかから好ましい距離(H)にて終わる末端34を有している。距離Hは、摩擦材料10の架橋部分32を画成する。架橋部分32は、頂点30の末端34と外縁部14又は内縁部16の何れか一方との間で伸びている。図示した実施の形態において、1つのスロット20の距離Hは、隣接するスロット20´における隣接した距離H´を越えて伸びている。
【0037】
架橋部分32は、上述した所望の幾何学的形態を有することが好ましく、それは、架橋部分32が過大であるならば、摩擦材料は、不均一に裂断し、また、架橋部分32が過小であるならば、摩擦材料は過度に弱くなるからである。頂点30の形状は、制御された状態で且つ一貫して摩擦材料10を形成することを許容する。
【0038】
スロット20の側部22、23は、摩擦材料10が最終用途製品8に周方向に接着されたとき、溝24内に所望の流体の流れパターンを形成する形態とされている。半径方向に伸びる溝24の側部22、23及び頂点30は、流体リザーバ36を形成し、該流体リザーバ36は、流体が溝24内に流れ且つ、頂点30にて終わるとき、所望の静液圧を提供する。溝24及び頂点30の形態の油リザーバ36は、最終用途製品8の作動を助ける。
【0039】
これらの実施の形態の各々において、油を局所的に供給するスロット20の側部22、23間の溝24のリザーバ36内に形成された圧力は、流体を溝24内に押し込み、これにより溝24及び頂点30内に圧力水頭を形成する適宜な圧送作用を提供する。
【0040】
距離D1、D2の長さは、望まれる冷却流体の所望の量及び望まれるの圧力の増加(pressure build−up)を計算することにより決定される。本発明の摩擦材料10は、油を局所的に供給するスロットの向きに依存して、リザーバ36の半径方向内側に又は半径方向外側に圧送するように容易に適応可能である。摩擦材料は、油を局所的に供給するスロット20内で圧力を増大させる。摩擦材料は、最終用途製品の相対的な向き及びその回転方向に依存して、任意の所望の目的に汎用的に適用可能である。
【0041】
油を局所的に供給するスロットは、油の流れを油リザーバ36内に向け得るよう所望の特定の形状を有している。次に、油は、リザーバ36内で部分的に保持され、スロットの保持側部により摩擦面から外に且つ摩擦面から離れるように逆流することが防止される。この保持側部は、最終用途装置の回転方向によって決まる。すなわち、図1において、回転方向は、全体として矢印Aで示してある。スロット20の保持側部は、スロット20の前縁であり、拭き取り又は除去縁部は、スロット20の後縁である。このように、スロット20´において、保持縁部は23´であり、拭き取り又は除去縁部は22´である。特定の実施の形態において、保持縁部及び拭き取り縁部は、最終用途製品の回転方向によって決まることを理解すべきである。スロット20の拭き取り縁部は、使用中、油を摩擦面から除去するために使用される。例えば、摩擦材料がシンクロナイザと共に使用されるとき、このことは、摩擦材料及び相手となる構成要素が多円錐式シンクロナイザの歯車コーン又は接続構成要素の何れかとすることのできる2つの相手となる構成要素間にて摩擦接触し及びそれに伴うトルクを発生させることを許容する。
【0042】
このように、開口部28は、スロット20の幅よりも狭小であり、リザーバ36が形成されるようにすることが望ましい。摩擦面に維持された少量の油は、製品の使用中、界面すなわち相互作用部の温度を冷却することを助ける。縁部26、27は、隔てられており、このため、スロット20を開口部28にて開放させることを許容し、これにより、摩擦材料が多孔質の材料で出来ているならば、油は、摩擦材料自体の内部に侵入することができる。この摩擦材料自体内への油の侵入は、また、最終用途製品の作動温度を降下させることに役立つ。
【0043】
次に、図2及び図4を参照すると、本発明の摩擦材料110の別の実施の形態が示されている。摩擦材料110は、上述したように樹脂を含浸させた焼結金属又は繊維マットのような適宜な連続的摩擦材料片から製造される。摩擦材料110は、打ち抜き又は切り取り工程の間、利用可能な摩擦材料のほぼ全てを使用し得るようダイ打抜きした形状を有する。
【0044】
摩擦材料110は、外縁部114と、内縁部116と、油を局所的に保持し、また供給する所望の数のスロット120により画成された複数の接続した部分118とを有している。このように、摩擦材料110は、個々のスロット120により分離された複数の取り付けた部分118を備えている。図示した実施の形態において、摩擦材料110は、内縁部116から外縁部114に向けた方向に放射し又はこれと交互に、外縁部114から内縁部116に向けた方向に放射する交互になったスロット120、120´を有している。
【0045】
図2及び図4には、1つの好ましい実施の形態が示されており、ここで、スロット120の各々は、全体として三角形又は鳩の尾形状を有し、スロット120の第一の側部122及び第二の側部123は、各々、内縁部116により画成された線から実質的に同一の角度にて伸びている。すなわち、スロット120の各々の側部122、123は、内縁部116から外縁部114に向けて同一であるが、反対の角度で伸びている。
【0046】
摩擦材料110におけるスロット120の所望の数は、最終用途により決まり、また、
360(単位は長さ(mm)或い角度(度))を隣接したスロットの間隔(単位は長さ(mm)或い角度(度))で割り、油を局所的に供給する所望のスロット数を与えることにより決定することができる。例えば、360÷24=15個の油を局所的に供給するスロットとなる。
【0047】
スロット120の側部122、123は、溝又は空隙124を画成する。摩擦材料110が最終用途製品にて円形の形状をしているとき、溝124は、側部の長さに沿って変化する幅を有している。図2及び図4に示した実施の形態において、溝124の幅は、側部122、123の一端すなわち末端の点にその最大幅の点がある。溝124の最大幅の点における長さは、第一の距離(D1)により画成される。このように、距離D1は、溝の最大幅の点にて測定される。スロット120の側部122、123の各々は、対向した端部126、127にてそれぞれ終わっている。端部126、127は、第二の距離D2により画成された幅を有する開口部128を画成する。第二の距離D2は、第一の距離D1よりも短い。
【0048】
油を局所的に保持し、また供給するスロット120は、頂点130にて終わっている。図2及び図4に示した実施の形態において、頂点130は、実質的に平坦な形状を有しており、このため、側部126、127及び頂点130は、鳩の尾形状又は三角形の形状を形成する。しかし、その他の実施の形態において、五角形等のようなその他の形状も有用であり、従って、本発明の企図する範囲に属することを理解すべきである。
【0049】
頂点130は、どのスロットが調べられるかに依存して、外縁部114又は内縁部116の何れかからの好ましい距離(H)にて終わる末端134を有している。距離Hは、摩擦材料110の架橋部分132を画成する。架橋部分132は、頂点130の末端134と外縁部114又は内縁部116の何れか一方との間を伸びる。図示した実施の形態において、1つのスロット120の距離Hは隣接したスロット120´における隣接する距離H´を越えて伸びている。
【0050】
架橋部分132は、上述した所望の幾何学的形態を有することが好ましく、それは、架橋部分132が過大であるならば、摩擦材料は不均一に裂断し、また、架橋部分132が過小であるならば、摩擦材料は過度に弱くなるためである。頂点130の形状は、制御した状態で且つ一貫して摩擦材料110形成することを許容する。
【0051】
スロット120の側部122、123は、摩擦材料110が最終用途製品に接着されたとき、溝124内に所望の流体の流れパターンを形成するような形態とされている。半径方向に伸びる溝124の側部122、123及び頂点130が、流体リザーバ136を形成し、該流体リザーバは、流体が溝124内に流れるとき、所望の静液圧を提供し且つ頂点130にて終わっている。溝124及び頂点130の形態の油リザーバ136は、最終用途製品を作動させることを助ける。
【0052】
これらの実施の形態の各々において、油を局所的に供給するスロット120の側部122、123の間にて溝124内でリザーバ136内に形成された圧力は、流体を溝124内に押し込み、これにより溝124及び頂点130内に圧力水頭を形成する適宜な圧送作用を提供する。
【0053】
距離D1、D2の長さは、望まれる冷却流体の所望の流量及び望まれる圧力の増加を計算することにより、決定される。本発明の摩擦材料110は、油を局所的に供給するスロットの向きに依存して、油をリザーバ136の半径方向内側に又はリザーバ136の半径方向外側に圧送するよう容易に適応可能である。摩擦材料は、油を局所的に供給するスロット120内に大きい圧力増大(pressure build−up)を生じさせる。
摩擦材料は、最終用途製品のその相対的な向き及び回転方向に依存して、任意の所望の目的に汎用的に適用可能である。
【0054】
油を局所的に供給するスロットは、油の流れを油リザーバ136内に向け得るよう所望の特定の形状を有している。次に、油は、リザーバ36内に部分的に保持され且つスロットの保持側部により摩擦面から外に且つ離れるように逆流するのが防止される。この保持側部は、最終用途製品の回転方向によって決まる。すなわち、図4において、回転方向は、全体として矢印Aで示してある。スロット120の保持側部は、スロット120の前縁であり、拭き取り又は除去縁部は、スロット120の後縁である。このように、スロット120において、保持縁部が123であり、拭き取り又は除去縁部は122である。保持縁部及び拭き取り縁部は、変速機内の最終用途製品の回転方向によって決まることを理解すべきである。スロット120の拭き取り縁部は、使用中、油を摩擦面から除去するために使用される。このことは、摩擦材料及び相手となる構成要素が、例えば、シンクロナイザにおいて、多円錐式シンクロナイザの歯車コーン又は接続構成要素の何れかとすることのできる2つの相手となる構成要素の間にて摩擦接触し且つそれに伴うトルクを発生させることを許容する。
【0055】
このように、開口部128は、スロット120の幅よりも狭小であり、リザーバ136が形成されるようにすることが望ましい。摩擦面に維持された少量の油は、使用中、相互作用部の温度を冷却することを助ける。縁部126、127は、隔たった関係にあり、これによりスロット20を開口部128にて開放することを許容するから、摩擦材料が多孔質材料で出来ているならば、油は摩擦材料中に浸透することもできる。この摩擦材料自体内への油の浸透は、また、最終用途製品の作動温度を低下させることに役立つ。
【0056】
摩擦材料の第一の縁部から第一の角度にて伸びる第一の半径方向に伸びる縁部を画成し、また、摩擦材料の第一の縁部から第二の角度にて伸びる第二の対向した半径方向に伸びる側部を更に画成する油を局所的に供給するスロットの少なくとも1つを摩擦材料が有することも本発明の範囲に属する。
【0057】
特定の好ましい実施の形態において、スロット20、120は、摩擦材料の全厚さを通じて切り込まれる。この完全な切込みは、拭き取り面の大きい断面積を形成する。断面積は、摩擦材料に切込みを入れ、又はプレス成形する従来の接着後の溝切り工程の場合よりも著しく大きい。これら後者の2つの場合、溝切りの程度は、最終的な摩擦材料の厚さの約35から40%であり、実際の「拭き取り面積」は、摩擦材料の全厚さを亙って形成される場合よりも著しく小さくなるであろう。本発明において、溝24の実際の拭き取り面積は、従来の摩擦材料に従来の方法で溝切りする場合よりも著しく大きい。
【0058】
別の有利な効果は、本発明によれば、所定の直径の摩擦面積に対し同一数の溝は最早、不要な点である。必要とされる溝が少ないとき、より大きい有効な摩擦表面積が維持される。
【0059】
更に別の有利な効果は、同一の作動パラメータの場合、使用中、摩擦材料に作用する特定の荷重又はエネルギが減少する一方、このことは、摩擦材料の熱的安定性、圧縮永久ひずみ及び耐久性を向上させる。更に、本発明の摩擦材料を同一の直径を有する従来の摩擦材料と比較したとき、本発明の摩擦材料は、作動パラメータが向上している。
【0060】
油を局所的に供給するスロット付き摩擦材料は、全体として既知であり、従って、本明細書にて説明する必要のない、打ち抜き法、組み立て及び接着方法を使用して一貫して製造することができる。製造工程は、バッチ毎に別個に行うか、又は、全自動の工程となるように一体化することができる。自動工程の結果、摩擦材料の効率的な使用、また、労働
集約的な手動工程と比較して、機械組み立てが低コストであるから、コストを更に著しく削減することになる。
【0061】
本発明の更に別の有利な効果は、摩擦材料の部片に打ち抜いたスロットにより形成された全深さ(full depth)、盲端の油溝は、別個(及び高コスト)のフライス削りによる溝切り又は成形工程を不要にすることである。
【0062】
本発明の好ましい実施の形態及び代替的な実施の形態の上記の説明は、単に一例であり、また、請求項の範囲及び内容を制限することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】スロットが涙滴の形状を有する、円弧状の形状に配置された油を局所的に供給するスロット付き摩擦材料片の概略頂面図である。
【図2】スロットが鳩の尾形状を有する、円弧状の形状に配置された油を局所的に供給するスロット付き摩擦材料片の概略頂面図である。
【図3】シンクロナイザのような最終用途製品の概略図における、図1の摩擦材料にて油を局所的に供給するスロットの概略図である。
【図4】シンクロナイザのような最終用途製品の概略図における、図2の摩擦材料にて油を局所的に供給するスロットの概略図である。
【符号の説明】
【0064】
8 最終用途製品 9 截頭円錐形の部材
10 摩擦材料 14 外縁部
16 内縁部 18 複数の接続した部分
20 油を局所的に供給するスロット/交互になったスロット
20´ 交互になったスロット 22 スロット20の第一の側部
22´ 拭き取り又は除去縁部 23 スロット20の第二の側部
23´ 保持縁部 24 空隙
26、27 縁部 28 開口部
30 頂点 32 摩擦材料10の架橋部分
34 頂点30の末端 36 流体リザーバ
110 摩擦材料 114 外縁部
116 内縁部 118 複数の接続した部分
120 スロット/交互になったスロット 120´ 交互になったなスロット
122 スロットの第一の側部 123 スロットの第二の側部
124 溝 126、127 対向した端部
128 開口部 130 頂点
132 摩擦材料110の架橋部分 134 頂点130の末端
136 流体リザーバ/頂点130の油リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の接続した部分と、油を局所的に供給する少なくとも1つのスロットとを備え、接続した部分の各々は、摩擦材料の油を局所的に供給する隣接したスロットにより画成された摩擦材料において、
油を局所的に供給する少なくとも1つのスロットは、摩擦材料が円形の形状に形成されたとき、油を局所的に供給するスロット内に流体を保持するリザーバを画成する対向した側部を有する、摩擦材料。
【請求項2】
請求項1の摩擦材料において、油を局所的に供給する少なくとも1つのスロットは、実質的に涙滴の形状又は実質的に鳩の尾形状を有する、摩擦材料。
【請求項3】
請求項1の摩擦材料において、油を局所的に供給するスロットの少なくとも1つは、摩擦材料が円形の形状に形成されたとき、対向し且つ収斂する側部を画成する、摩擦材料。
【請求項4】
請求項1の摩擦材料において、油を局所的に供給する少なくとも1つのスロットは、摩擦材料の第一の縁部から第一の角度で伸びる第一の半径方向に伸びる側部を画成し、摩擦材料の第一の縁部から第二の角度で伸びる第二の反対の半径方向に伸びる側部を更に画成する、摩擦材料。
【請求項5】
請求項1の摩擦材料において、油を局所的に供給する少なくとも1つのスロットは、流体を摩擦材料内に保持する保持側部と、拭き取り側部とを有し、油を局所的に供給するスロットの保持側部及び拭き取り側部は1つの溝を画成し、該溝は、摩擦材料が円形の形状に形成されるときに形成され、該溝は、溝の側部の長さに沿って変化し且つ油を局所的に供給するスロットの両側部からずらした距離D1により決定される幅を有する、摩擦材料。
【請求項6】
請求項5の摩擦材料において、距離D1は、各側部の中間点にて油を局所的に供給するスロットの両側部から測定される、摩擦材料。
【請求項7】
請求項5の摩擦材料において、距離D1は、各側端部の点にて油を局所的に供給するスロットの両側部から測定される、摩擦材料。
【請求項8】
請求項5の摩擦材料において、油を局所的に供給するスロットの保持側部及び拭き取り側部の各々は対向した端部にて終わっており、該端部は、第一の距離D1よりも短い第二の距離D2により画成された幅を有する開口部を画成する、摩擦材料。
【請求項9】
請求項1の摩擦材料において、油を局所的に供給する少なくとも1つのスロットは、摩擦材料に閉端溝を画成する、摩擦材料。
【請求項10】
冷却流体と共に使用される最終用途製品において、
外面を有する摩擦部材と、
外面に接着された摩擦材料であって、複数の接続した部分と、油を局所的に供給する複数のスロットとを備え、接続した部分の各々は、摩擦材料の油を局所的に供給する隣接したスロットにより画成される、摩擦材料とを備え、
少なくとも1つの油を局所的に供給するスロットが、摩擦材料が所望の形状に形成されたとき、油を局所的に供給するスロット内に流体を保持するリザーバを画成する対向した側部を有する、冷却流体と共に使用される最終用途製品。
【請求項11】
請求項10の最終用途製品において、油を局所的に供給する少なくとも1つのスロット
は、実質的に涙滴の形状又は鳩の尾形状を有する、最終用途製品。
【請求項12】
請求項10の最終用途製品において、油を局所的に供給する少なくとも1つのスロットは、摩擦材料が所望の形状に形成されたとき、対向し且つ収斂する側部を画成する、最終用途製品。
【請求項13】
請求項10の最終用途製品において、油を局所的に供給する少なくとも1つのスロットは、摩擦材料の第一の縁部から第一の角度にて伸びる第一の半径方向に伸びる側部を画成し、摩擦材料の第一の縁部から第二の角度にて伸びる第二の対向した半径方向に伸びる側部を更に画成する、最終用途製品。
【請求項14】
請求項10の最終用途製品において、油を局所的に供給するスロットの保持側部及び拭き取り側部は、摩擦材料が円形の形状に形成されたときに形成される溝を画成し、該溝は、溝の側部の長さに沿って変化し且つ油を局所的に供給するスロットの両側部からずらした距離D1により決定される幅を有する、最終用途製品。
【請求項15】
請求項14の最終用途製品において、距離D1は、各側部の中間点にて油を局所的に供給するスロットの対向した側部から測定される、最終用途製品。
【請求項16】
請求項14の最終用途製品において、距離D1は、各側部の端部点にて油を局所的に供給するスロットの対向した側部から測定される、最終用途製品。
【請求項17】
請求項16の最終用途製品において、油を局所的に供給するスロットの保持側部及び拭き取り側部の各々は、対向した端部にて終わっており、該端部は、第一の距離D1よりも短い第二の距離D2により画成される幅を有する開口部を画成する、最終用途製品。
【請求項18】
請求項10の最終用途製品において、油を局所的に供給する少なくとも1つのスロットは摩擦材料に閉端溝を画成する、最終用途製品。
【請求項19】
摩擦部材を有する最終用途製品を製造する方法において、
複数の接続した部分と、油を局所的に供給する複数のスロットとを備え、接続した部分の各々が、摩擦材料の油を局所的に供給する隣接したスロットにより画成された摩擦材料の供給部を摩擦部材に配置するステップと、
油を局所的に供給する所定の長さのスロット付き摩擦材料を摩擦部材の少なくとも一側部に取り付けるステップとを備える、摩擦部材を有する最終用途製品を製造する方法。
【請求項20】
請求項19の方法において、所定の長さの摩擦材料は、摩擦部材の少なくとも一側部に取り付ける前に、円形の形状に形成される、方法。
【請求項21】
請求項19の方法において、接着材料の供給部は、油を局所的に供給するスロット付き摩擦材料が摩擦部材の側部に取り付けられる前に、摩擦部材の一側部の一部分又は摩擦材料の一部分の少なくとも一方に取り付けられる、方法。
【請求項22】
請求項19の方法において、油を局所的に供給するスロット付き摩擦材料が取り付けられた摩擦部材は、スロット付き摩擦材料を摩擦部材へ接着させ得るように適宜な圧力にて適宜な時間、加熱される、方法。
【請求項23】
請求項10の最終用途製品において、クラッチ、ブレーキ、自動変速機、滑り制限差動装置、ホイスト、シンクロナイザ、丸形バンド、円板、クラッチ及び同様の最終用途製品を含む動力伝動−エネルギ吸収組立体の少なくとも1つを備える、最終用途製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−174619(P2011−174619A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92110(P2011−92110)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【分割の表示】特願2004−207102(P2004−207102)の分割
【原出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(500124378)ボーグワーナー・インコーポレーテッド (302)
【Fターム(参考)】