説明

油中水型乳化組成物及びその製造方法

【課題】水相に添加される各種素材の風味、特に塩味がぼやけることなく、明瞭に感じられる、風味豊かな油中水型乳化組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、1種類の油相に、少なくとも2種類以上の水相を別々に乳化した後、急冷し、練りを加えてなることを特徴とする油中水型乳化組成物の構成とした。また、1種類の油相に、第1の水相を混合して1次W/O乳化物を作製し、次に前記1次W/O乳化物に、第2の水相を混合して2次W/O乳化物を作製し、続いて前記2次W/O乳化物を急冷し、練りを加えてなる油中水型乳化組成物の製造方法であって、前記第1又は第2の水相の何れか一方の水相が、1.5重量%以下の乳タンパク成分を含む食塩濃度9〜27重量%の水相であり、前記油相に食塩を含む前記水相を最終製品の食塩濃度が0.5〜4.0重量%の範囲内で添加することを特徴とする油中水型乳化組成物の製造方法の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味良好なマーガリン類等の油中水型乳化組成物、及び油中水型乳化組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリン類(マーガリン、ファットスプレットなど)は、塩、乳製品、糖類、香辛料などの呈味成分を溶解・混合した水相を、油相に乳化、混合した油中水型乳化物(以下、W/O乳化物ともいう。)である。風味の多くは、水相に由来する。
【0003】
従来技術として、例えば、塩味発現性を改善し、マイルドでコクのある風味良好な可塑性油脂組成物の提供を目的とする特許文献1の発明が公開されている。
【0004】
特許文献1に記載の可塑性油脂組成物は、岩塩、自然塩、天然塩の中から選ばれた1種又は2種以上の塩を含有することを特徴とする(請求項1)。
【0005】
特許文献1によれば、従来から可塑性油脂組成物の1種であるマーガリンに塩分は添加されているが、一般的に精製塩を用いることが多く、このような精製塩を用いたマーガリンは、塩味のとげとげしさが目立つものであったとされている。
【特許文献1】特開2002−78448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、従来のマーガリンなどの油中水型乳化組成物では、水相をまとめて1原料と考えていたことから、水相中の各種呈味原料の相互作用と、各素材本来の風味の発現性には注意が注がれていなかった。従って、水相中の各成分の相互作用を考慮して、風味を引き立たせる技術は知られていない。
【0007】
特に、「塩味」は、経験上、水相に共存する乳成分等、特に乳タンパク成分の影響により、「ぼやける」傾向にあった。
【0008】
そこで、本発明は、水相に添加される各種素材の風味、特に塩味がぼやけることなく、明瞭に感じられる、風味豊かな油中水型乳化組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の目的を達成するために、1種類の油相に、少なくとも2種類以上の水相を別々に乳化した後、急冷し、練りを加えてなることを特徴とする油中水型乳化組成物の構成とした。また、前記2種類以上の水相の内、少なくとも1つの水相には、1.5重量%以下の乳タンパク成分と、乳タンパク成分以外の呈味成分とを含むことを特徴とする前記油中水型乳化組成物の構成とした。加えて、前記呈味成分が、食塩であり、水相中の食塩濃度が9〜27重量%で、かつ最終製品の食塩濃度が0.5〜4.0重量%の範囲内で添加されることを特徴とする請求項2に記載の油中水型乳化組成物の構成とした。
【0010】
さらに、1種類の油相に、第1の水相を混合して1次W/O乳化物を作製し、次に前記1次W/O乳化物に、第2の水相を混合して2次W/O乳化物を作製し、続いて前記2次W/O乳化物を急冷し、練りを加えてなる油中水型乳化組成物の製造方法であって、前記第1又は第2の水相の何れか一方の水相が、1.5重量%以下の乳タンパク成分を含む食塩濃度9〜27重量%の水相であり、前記油相に食塩を含む前記水相を最終製品の食塩濃度が0.5〜4.0重量%の範囲内で添加することを特徴とする油中水型乳化組成物の製造方法の構成とした。
【発明の効果】
【0011】
呈味成分を別々に溶解した2種類以上の水相を、別々に1種類の油相に乳化させ、W/O乳化物を作製するため、各種素材の風味が明瞭に感じられる風味豊かな油中水型乳化組成物を提供することができる。
【0012】
特に、1種類の油相に、1.5重量%以下の乳タンパク成分及び食塩を含む水相を、他の呈味成分を混合した水相と別々に乳化することで、塩味がぼけることなく明瞭に感じられる、風味豊かな油中水型乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、実施例に基づき詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明である実施例1の油中水型乳化組成物の配合組成である。実施例1の油中水型乳化組成物は、次のようにして作製した。油相を60℃に加熱溶解し、第1水相を投入し5分間撹拌、乳化させて1次乳化物を作製した。その後、60℃を維持した1次乳化物に第2水相を投入し、5分間撹拌し、乳化させて2次W/O乳化物を作製した。続いて、2次W/O乳化物を90℃の殺菌機に通し、パーフェクターを用いて、急冷・練りを加え、可塑化させてマーガリンとした。
【0015】
[比較例1]
図2は、比較例1の油中水型乳化組成物の配合組成である。比較例1の油中水型乳化組成物は、次のようにして作製した。油相を60℃に加熱溶解し、水相を投入し10分間撹拌、乳化させて乳化物を作製した。その後、前記乳化物を90℃の殺菌機に通し、続いてパーフェクターを用いて、急冷・練りを加え、可塑化させてマーガリンとした。
【0016】
即ち、比較例1の配合組成は、実施例1と同一であるが、実施例1は、水相を食塩を除く呈味成分の第1水相と、食塩のみの第2水相とを、別々に油相に乳化させ油中水型乳化組成物であるマーガリンとしたのに対して、比較例1は、食塩と他の呈味成分が共存した水相を油相に乳化させ油中水型乳化組成物である従来製法のマーガリンである。
【0017】
図3は、実施例1及び比較例1の官能検査結果である。官能検査は次のようにして行った。熟練したパネラー20人が、実施例1と比較例1のマーガリンを、塩味の感じ方、乳風味の感じ方を基準に、対比し、良いものを選択した。
【0018】
その結果、図3に示すように、全てのパネラーが、比較例1の従来製法のマーガリンより、実施例1のマーガリンの方が「塩味」及び「乳風味」の点においていずれも「良い」と感じた。従って、明らかに実施例1のマーガリンの風味が優れていることが分かる。即ち、食塩を含む水相を、乳成分を含む水相と別々に、油相に乳化した油中水型乳化組成物では、塩味、乳風味が引き立つことが明らかになった。
【0019】
このような結果は、乳成分の内、乳タンパク成分と、食塩の相互作用によるものと考えられる。従って、乳タンパク成分と食塩が共存した水相でなければ、食塩と乳糖が共存しても問題ない。
【0020】
また、実施例1の結果から、乳成分を含む水相と、食塩を含む水相とを別々に油相に乳化させた油中水型乳化組成物では、乳成分を含む第1水相と、食塩のみの第2水相は、油相において、乳化工程中に統合することないとは言えないが、それらの統合は極めて少なく、油相中に第1水相及び第2水相の多くが別々に乳化している。
【0021】
ここで、乳タンパク成分としては、脱脂粉乳の他、濃縮乳、発酵乳の他、牛乳、全脂粉乳、ヨーグルトなど乳タンパク含有の一般的な乳製品の乳タンパク、又はそれら乳製品から抽出したアルブミン、ホエーなどの乳タンパク、或いは前記乳製品、乳タンパクなどを酵素などによって分解したペプチドなどが該当する。
【0022】
ただし、それらから乳タンパクを除いた乳成分は、例えば、乳糖などは乳タンパク成分以外の呈味成分となる。従って、それらと食塩とを共存させた水相を油相に乳化しても、塩味がぼけることはない。また、乳タンパク成分であっても、食塩を溶解した水相に、1.5重量%程度共存されていても、マーガリン類において、塩味を風味よく感じることができる。極めて良好な塩味を感じるマーガリン類としては、好ましくは、乳タンパク成分を含まない食塩を溶解した水相を、乳タンパク成分と別々に油相に乳化することである。
【0023】
水相に添加される食塩の濃度としては、水相中では9〜27重量%の範囲が好ましい。下限より低濃度では、過剰に水相を油相に添加する必要があり、マーガリン類において好適な物性を得づらい、また上限より高濃度では、常温において、食塩が水相に全て溶解せず或いは析出してしまい、食塩を油相に均一に分散させることが困難である。
【0024】
食塩9〜27重量%の水相を油相に乳化させた最終製品であるマーガリン類においては、食塩濃度は0.5〜4.0重量%の範囲内であることが好ましい。下限より低濃度では塩味を他の成分の影響で感じづらく、また上限より高濃度では塩味が強すぎる。
【0025】
一方、乳タンパク成分以外の呈味成分としては、食塩、香辛料、糖類、酸味料、グルコン酸等の酸味料、着香料、調味料、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等がある。
【0026】
これらは、各々別々の水相として調整され、別々に油相に乳化されてもよいし、まとめて1の水相に溶解或いは混合して、油相に乳化或いは混合されてもよい。これらを乳タンパク成分と別々に油相に乳化、混合することで、それらの風味が乳タンパク成分にマスクされることなく、本来の風味をマーガリン類に付与することができ、風味良好なマーガリン類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明である実施例1の油中水型乳化組成物の配合組成である。
【図2】比較例1の油中水型乳化組成物の配合組成である。
【図3】実施例1及び比較例1の官能検査結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類の油相に、少なくとも2種類以上の水相を別々に乳化した後、急冷し、練りを加えてなることを特徴とする油中水型乳化組成物。
【請求項2】
前記2種類以上の水相の内、少なくとも1つの水相には、1.5重量%以下の乳タンパク成分と、乳タンパク成分以外の呈味成分とを含むことを特徴とする請求項1に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項3】
前記呈味成分が、食塩であり、水相中の食塩濃度が9〜27重量%で、かつ最終製品の食塩濃度が0.5〜4.0重量%の範囲内で添加されることを特徴とする請求項2に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項4】
1種類の油相に、第1の水相を混合して1次W/O乳化物を作製し、次に前記1次W/O乳化物に、第2の水相を混合して2次W/O乳化物を作製し、続いて前記2次W/O乳化物を急冷し、練りを加えてなる油中水型乳化組成物の製造方法であって、
前記第1又は第2の水相の何れか一方の水相が、1.5重量%以下の乳タンパク成分を含む食塩濃度9〜27重量%の水相であり、前記油相に食塩を含む前記水相を最終製品の食塩濃度が0.5〜4.0重量%の範囲内で添加することを特徴とする油中水型乳化組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−148478(P2010−148478A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332283(P2008−332283)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000165284)月島食品工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】