説明

油中水型含気食品

【課題】発酵乳の好ましい風味を有しているにも拘らず、なめらかな外観を有する油中水型含気食品を提供する。
【解決手段】
発酵乳の風味を有した油中水型含気食品において、乳酸発酵卵白を配合してあることを特徴とする油中水型含気食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型含気食品に関し、さらに詳しくは、発酵乳の好ましい風味を有しているにも拘らず、なめらかな外観を有する油中水型含気食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油中水型含気食品としてバタークリーム等が知られている。これらの油中水型含気食品はなめらかな外観を有しており、各種のスプレッド、フィリング等の材料として広く利用されている。しかしながら、発酵乳の好ましい風味を付与する目的で、上述したような油中水型含気食品にヨーグルト等の発酵乳を添加した油中水型含気食品は、なめらかな外観が損われてしまうという問題があった。
【0003】
このような問題を解決する方法としては、例えば、特許文献1には、発酵微生物を生菌の状態で含有させ、発酵乳と食用固形脂を混合し油中水型の乳化物とした油中水型含気食品が提案されている。しかしながら、この方法ではなめらかな外観が得られるとはいい難いものであった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−333755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、発酵乳の好ましい風味を有しているにも拘らず、なめらかな外観を有する油中水型含気食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、他の蛋白質と比較しアミノ酸バランスに優れた蛋白原料であり、熱凝固性、起泡性などの特殊な機能を有している卵白を用いて上記目的が達成出来るならば、卵白の汎用性がさらに広がると考え、上記目的を達成すべく卵白の加工方法について鋭意研究を重ねた。その結果、乳酸発酵卵白を油中水型含気食品に配合するならば、発酵乳の好ましい風味を有しているにも拘らず、意外にも、なめらかな外観を有する油中水型含気食品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)発酵乳の風味を有した油中水型含気食品において、乳酸発酵卵白を配合してある油中水型含気食品、
(2)乳酸発酵卵白の配合量が固形分換算で0.5〜20%である(1)記載の油中水型含気食品、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発酵乳の好ましい風味を有しているにも拘らず、なめらかな外観を有する油中水型含気食品を提供することができる。したがって、油中水型含気食品の更なる需要拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳しく説明する。尚、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
本発明の有効成分である乳酸発酵卵白とは、液状の卵白に乳酸菌を添加して発酵させることにより得られるものであり、このような乳酸発酵は、一般的には、卵白に栄養源として乳酸菌資化性糖類を加え、さらに必要に応じ酵母エキス等の発酵促進物質を添加し、乳酸菌を1mLあたり好ましくは10〜10、さらに好ましくは10〜10供し発酵させれば良い。
【0011】
本発明の有効成分である乳酸発酵卵白の形態は、種々の形態(例えば、液状、粉末状、マイクロコロイド状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状)を有することができる。特に、粉末状にすることで、油中水型含気食品中に蛋白質原料として高濃度に含有させることができ好適である。乾燥処理は、上記乳酸発酵卵白をそのまま、あるいは必要に応じてデキストリン等の賦形材や清水等の水系媒体を添加後、スプレードライ、フリーズドライ、パンドライ等、任意の方法を採用し乾燥させることが出来る。
【0012】
上記乳酸発酵卵白に用いる卵白としては、例えば、鶏等の鳥類の卵を割卵し卵黄を分離したものであり工業的に得られるもの、またこれを殺菌、凍結したもの、濃縮または希釈したもの、特定の成分(リゾチームやアビジン等)を除去したもの、乾燥させたものを水戻ししたもの等が挙げられる。また効果に影響を及ぼさない程度に卵黄が一部混入したもの(卵白液に対して0.01〜0.3%)を用いても良い。
【0013】
上記乳酸発酵卵白に用いる乳酸菌としては、一般的にヨーグルトやチーズの製造に利用される、例えば、ラクトバチルス属(Lactobacillus bulgaricus等)、ストレプトコッカス属(Streptococcus thermophilus、Streptococcus diacetylactis等)、ラクトコッカス属(Lactococcus lactis等)、ロイコノストック属(Leuconostoc cremoris等)、エンテロコッカス属(Enterococcus faecalis)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium Bbifidum等)等が挙げられる。
【0014】
上記乳酸発酵卵白に用いる乳酸菌資化性糖類としては、例えば、単糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、N−アセチルグルコサミン等)、二糖類(ラクトース、マルトース、スクロース、セルビオース、トレハロース等)、オリゴ糖類(特に3〜5個の単糖類が結合しているもの)、ブドウ糖果糖液糖等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて液卵白に添加することができる。
【0015】
上記乳酸発酵卵白に用いる発酵促進物質としては、本発明の効果を損なわない範囲で発酵を促進するものであれば、特に限定するものではない。例えば、アミノ酸やペプチド等の蛋白質分解物、酵母エキス、ビタミン類、ミネラル類等が挙げられる。
【0016】
上記乳酸発酵卵白の代表的な製造方法を以下に示す。卵白蛋白質2〜8%、乳酸菌資化性糖類1〜15%、及び発酵促進物質0.5〜10%を水に加え、乳酸、塩酸等の酸材を用いてpH5〜7.5にpH調整し仕込み液を調製する。なお、酸材としては風味の面から乳酸を用いるのが好ましい。得られた仕込み液を60〜110℃で5〜120分間加熱した後、乳酸菌スターターを1mLあたり10〜10になるように添加する。25〜50℃で8〜48時間発酵し乳酸発酵卵白が得られる。また、必要に応じて上記乳酸発酵卵白を加熱殺菌し、高圧下で均質化処理を施してもよく、あるいは、フリーズドライ、スプレードライ等の乾燥処理を施して粉末状にしても良い。
【0017】
本発明において油中水型含気食品とは、水相原料が水滴として油相原料中に略均一に分散して油中水型の乳化状態が維持され、気泡を含有した食品をいう。このような油中水型含気食品としては、具体的には、例えば、バタークリーム、ホイップドバター等が挙げられる。
【0018】
油中水型含気食品には、本発明の油中水型含気食品の必須原料である乳酸発酵卵白の他に本発明の効果を損わない範囲で必要に応じて、ナタネ油、大豆油、オリーブ油、パーム油、卵黄油、バター、牛脂、豚脂等の動植物油及びこれらの精製油、並びに硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂等の食用油脂、グラニュー糖、果糖ブドウ糖液糖、トレハロース等の糖類、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉等の澱粉、難消化性デキストリン、結晶セルロース、アップルファイバー等の食物繊維、モノグリセリン脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化材、液全卵、液卵白、液卵黄及びこれらをろ過、酵素処理、起泡等の各種処理を行なったもの等の卵原料、ヨーグルト等の発酵乳、リンゴ、みかん、いちご等の果実類、トマト、にんじん等の野菜類、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止材、香料、調味料、発色材等を挙げることができる。
【0019】
本発明の油中水型含気食品に対する乳酸発酵卵白の配合量は、固形分換算で好ましくは0.5〜20%、より好ましくは1〜20%である。乳酸発酵卵白の配合量が前記範囲より多い場合、製した油中水型含気食品がなめらかな外観を有し難いため好ましくない。一方、乳酸発酵卵白の配合量が前記範囲より少ない場合、発酵乳の風味を感じ難く好ましくなかった。
【0020】
次に、本発明の油中水型含気食品の代表的な製造方法について説明するが、特にこれに限定するものではない。本発明の乳酸発酵卵白を配合する他は、従来の一般的な油中水型含気食品の製造方法に準じて製造することができる。具体的には、例えば、バターをホバートミキサー等の攪拌機で泡立てながら、乳酸発酵卵白、メレンゲを徐々に添加し、乳化と含気を同時に行なうことで本発明の油中水型含気食品が得られる。
【0021】
以下、本発明について、実施例、比較例に基き具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0022】
〔実施例1〕
液卵白50%、グラニュー糖4%、酵母エキス0.05%、50%乳酸0.15%及び清水45.8%からなる卵白水溶液を攪拌、調製した。得られた卵白水溶液を70〜90℃で5分間加熱した後、乳酸菌スターター0.02%(Lactococcus lactis subsp. lactis、Leuconostoc mesenteroides subsp.cremoris、Streptococcus diacetylactis、Lactococcus lactis subsp.cremoris)を添加し、30℃で24時間発酵を行った後、70〜90℃で10分間加熱殺菌し、次いで高圧ホモゲナイザーを用いて10MPaの圧力で処理し、本発明の有効成分である乳酸発酵卵白を製した。
【0023】
次に、上記乳酸発酵卵白を用いて、バタークリームを製した。具体的には、室温(20℃)に戻したバター50部をホバートミキサーに投入し、泡立てながら、上記乳酸発酵卵白30部(固形分換算3%)と予め液卵白10部及びグラニュー糖10部を混合し製したメレンゲとを徐々に添加し、乳化と含気を同時に行なうことで本発明のバタークリームを製した。
【0024】
〔比較例1〕
実施例1において、乳酸発酵卵白30部を配合しないで、ヨーグルト(明治乳業(株)社製「メリーソフト」)30部を配合した他は、実施例1と同様の方法を用いてバタークリームを製した。
【0025】
〔試験例1〕
実施例1及び比較例1で得られた2種類のバタークリームを室温(20℃)で5分間静置した後、バタークリームの外観と風味を下記の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
※表中の評価記号
<外観評価>
A:なめらかな外観を有しており、大変好ましい。
B:なめらかな外観にやや欠けるが、問題のない程度である。
C:なめらかな外観にやや欠ける。
D:なめらかな外観に欠け、好ましくない。
【0028】
<風味評価>
A:発酵乳の風味を強く有しており、大変好ましい。
B:発酵乳の風味がやや弱いが、問題のない程度である。
C:発酵乳の風味がやや弱い。
D:発酵乳の風味がなく、好ましくない。
【0029】
表1より、乳酸発酵卵白を配合した実施例1の油中水型含気食品は発酵乳の好ましい風味を有しているにも拘らず、なめらかな外観を有しており、大変好ましいことが理解できる。一方、ヨーグルトを配合した比較例1の油中水型含気食品はなめらかな外観にやや欠けるため、好ましくないことが理解できる。
【0030】
〔試験例2〕
実施例1において、乳酸発酵卵白の配合量を表2に示す配合量に変えた他は、実施例1と同様の方法で6種類の油中水型含気食品を製した。得られた6種類の油中水型含気食品を用いて、試験例1と同様の方法を用いて外観及び風味を評価した。なお、表2のNO.5及びNO.6で用いた乳酸発酵卵白は、実施例1で製した乳酸発酵卵白を送風温度160℃、排風温度65℃の条件でスプレードライし粉末状に製したもの(固形分含有量95%)を用いた。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

※外観及び風味の評価記号は試験例1と同じ
【0032】
表2のNO.2〜5及びNO.3〜5より、乳酸発酵卵白の配合量が固形分換算で好ましくは0.5〜20%、より好ましくは1〜20%であると、発酵乳の好ましい風味を有しているにも拘らず、なめらかな外観を有するため好ましいことが理解できる。なお、乳酸発酵卵白の配合量が固形分換算で25%配合したNO.6の油中水型含気食品は、なめらかな外観にやや欠けており、好ましくなかった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵乳の風味を有した油中水型含気食品において、乳酸発酵卵白を配合してあることを特徴とする油中水型含気食品。
【請求項2】
乳酸発酵卵白の配合量が固形分換算で0.5〜20%である請求項1記載の油中水型含気食品。