説明

油入電気機器の内部異常の診断方法

【課題】油入電気機器の内部異常の有無を正確に判断可能な診断方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る診断方法は、部分放電が検出されない複数のタイミングで絶縁油中の所定ガスの溶存量を測定することにより、溶存量が減少する速度定数を予め算出するステップと、部分放電を検出するステップと、部分放電が検出されたときに所定ガスの溶存量を測定するステップと、前回測定した所定ガスの溶存量と算出した所定ガスの溶存量が減少する速度定数とに基づき、前回測定してから所定ガスが新たに発生しなければ今回測定されるべき所定ガスの溶存量推定値を算出するステップと、今回測定した所定ガスの溶存量と算出した溶存量推定値とに基づき、前回測定してから今回測定するまでに新たに発生した所定ガスの発生量推定値を算出するステップと、算出した発生量推定値に基づき、油入電気機器の内部異常の有無を判断するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器やコンデンサなど、内部に絶縁油が含まれる油入電気機器の内部異常(機器内部の絶縁劣化、導体接続部の弛み、接触不良など)の有無を診断する方法に関する。特に、本発明は、油入電気機器の内部で発生する部分放電の検出と、絶縁油の油中ガス分析とを併用する、油入電気機器の内部異常の診断方法であって、油入電気機器の内部異常の有無を正確に判断することが可能な診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器やコンデンサなどの高電圧機器には、機器の絶縁と冷却を行うために、広く絶縁油が使用されている。これら絶縁油が内部に含まれる高電圧の油入電気機器は、故障すると電力系統への影響が非常に大きい。また、故障を修復することが非常に困難であり、長時間の停止を余儀なくされる。このため、油入電気機器の内部異常によって発生した絶縁油の油中に含まれるガスの成分や溶存量の分析(油中ガス分析という)を行なったり、或いは、運転中の機器に内部異常が生じたときに発生する部分放電を検出することにより、内部異常の早期発見と傾向管理による予防保全の手法がとられている。部分放電の検出による内部異常の診断よりも、油中ガス分析による内部異常の診断の方が精度が高いと考えられているため、一般的には油中ガス分析を主体とした管理が行なわれている。ただし、油中ガス分析を行うには絶縁油を油入電気機器の外部に抽出する必要があるため、油入電気機器内部の絶縁油の量が過度に減少することを避けるには、油中ガス分析を行う頻度は限られている。
【0003】
油入電気機器の内部異常の診断に関連する従来技術として、例えば、特許文献1には、受変電設備機器の接地電流を検出する電流センサーにより、部分放電を長時間に亘って測定し、部分放電が発生しない時間と、受変電設備機器の運転経過年数とをパラメータとして、受変電設備機器の余寿命を評価する受変電設備の絶縁診断装置が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、電流センサーのみを用いて部分放電を検出するため、電気的ノイズに起因して部分放電を誤検出することが多い。このため、部分放電の発生や停止を正確に見極めることが難しく、内部異常の有無を正確に判断することが困難である。
【0005】
また、特許文献2には、油入電気機器の保護装置に関する技術が記載されている。具体的には、電気的ノイズや音響的ノイズに起因して部分放電を誤検出することが多く、真の部分放電を検出しにくいため、部分放電の検出のみでは正確な内部異常の有無を判断することが困難であるという従来の問題に鑑み、装置の信頼性を向上させることを目的として、機器内部で発生する部分放電を検出する判断部と、絶縁油のガスを抽出分析するガス分析装置とを備えた保護装置が記載されている。この保護装置は、まず超音波(音響的検出)及び電流パルス(電気的検出)を用いて判断部が部分放電を検出し、部分放電が検出された場合には、所定時間後にガス分析装置によって絶縁油中のガス分析を行ない、このガス分析の結果、異常が認められれば警報を出力するようにした装置である。この装置によれば、部分放電が検出されたときにのみ、絶縁油の油中ガス分析を行えばよいため、油入電気機器内部の絶縁油の量が過度に減少することを回避できる。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の技術における油中ガス分析には、以下のような問題がある。
【0007】
(1)現在は油入電気機器に内部異常が生じていなくても、過去に内部異常が生じて絶縁油中にガスが発生した場合には、このガスが油中ガス分析によって検出されることにより、現在も内部異常が生じているという誤った判断をしてしまう虞がある。例えば、過去に内部異常が生じてその異常部位を修復した場合は無論のこと、異常部位を特定できずに修復を行っていない場合であっても、異常部位の状態変化や油入電気機器の負荷率の変化等によって、異常部位の異常状態が自然消滅するケースもある。このようなケースでは、現在は油入電気機器に内部異常が生じていないにも関わらず、過去に発生したガスが検出されることにより、現在も内部異常が生じているという誤った判断をしてしまう虞がある。また、過去に生じた内部異常の修復のため、古い絶縁油を新しい絶縁油に交換したとしても、油入電気機器の例えばコイルや鉄心に付着したわずかな古い絶縁油からガスが検出されることにより、現在も内部異常が生じているという誤った判断をしてしまう虞もある。
【0008】
(2)油入電気機器に内部異常が生じた場合に発生するガスとして、アセチレンがよく知られており、油中ガス分析においては、絶縁油中におけるアセチレンの溶存量を評価することが多い。上記の(1)において、過去の内部異常によって発生したアセチレンの溶存量が仮に一定で経時変化を生じないとすれば、過去の油中ガス分析によって検出したアセチレンの溶存量と、現在の油中ガス分析によって検出したアセチレンの溶存量とを比較することにより、新たに発生したアセチレンの溶存量を算出することができる。そして、この新たに発生したアセチレンの溶存量に基づき、現在における内部異常の有無を判断することができると考えられる。しかしながら、実際にはこのアセチレンは、油入電気機器に通常含まれる銅と反応して減少することが報告されている(非特許文献1参照)。従って、現在の油中ガス分析によって検出したアセチレンの溶存量を評価するだけ、或いは、この溶存量と過去の油中ガス分析によって検出したアセチレンの溶存量とを比較するだけでは、内部異常によって新たに発生したアセチレンの溶存量を把握することができず、結果的に現在における内部異常の有無を正確に判断することができない虞がある。
【特許文献1】特許第2836623号公報
【特許文献2】特開昭60−80207号公報
【非特許文献1】大野高宏、他3名、「油入変圧器におけるアセチレンの減少挙動」、電気学会論文誌B、平成11年1月、vol.119、No.1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、斯かる従来技術に鑑みなされたものであり、油入電気機器の内部で発生する部分放電の検出と、絶縁油の油中ガス分析とを併用する、油入電気機器の内部異常の診断方法であって、油入電気機器の内部異常の有無を正確に判断することが可能な診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、内部に絶縁油が含まれる油入電気機器の内部異常を診断する方法であって、以下の第1ステップ〜第6ステップを含むことを特徴とする油入電気機器の内部異常の診断方法を提供するものである。
(1)第1ステップ
油入電気機器の内部で発生する部分放電が検出されない複数のタイミングで、絶縁油中の所定ガスの溶存量を測定し、該測定した複数の所定ガスの溶存量に基づいて、前記所定ガスの溶存量が減少する速度定数を算出する。
(2)第2ステップ
油入電気機器の内部で発生する部分放電を検出する。
(3)第3ステップ
第2ステップで部分放電が検出されたときに、絶縁油中の前記所定ガスの溶存量を測定する。
(4)第4ステップ
第3ステップで前回測定した前記所定ガスの溶存量と、第1ステップで算出した前記所定ガスの溶存量が減少する速度定数とに基づき、前回測定してから前記所定ガスが新たに発生しなければ前記第3ステップで今回測定されるべき前記所定ガスの溶存量推定値を算出する。
(5)第5ステップ
第3ステップで今回測定した前記所定ガスの溶存量と、第4ステップで算出した前記所定ガスの溶存量推定値とに基づき、前回測定してから今回測定するまでに新たに発生した前記所定ガスの発生量推定値を算出する。
(6)第6ステップ
第5ステップで算出した前記所定ガスの発生量推定値に基づき、油入電気機器の内部異常の有無を判断する。
【0011】
本発明によれば、まず油入電気機器の内部で発生する部分放電を検出し(第2ステップ)、部分放電が検出されたときに、絶縁油中の所定ガスの溶存量を測定する(第3ステップ)ことになる。従って、実際に油入電気機器の内部異常を診断する際には、部分放電が検出されたときにのみ、絶縁油中の所定ガスの溶存量を測定すればよいため、油入電気機器内部の絶縁油の量が過度に減少することを回避できる。
そして、本発明によれば、前回測定した前記所定ガスの溶存量と、前記所定ガスの溶存量が減少する速度定数とに基づき、前回測定してから前記所定ガスが新たに発生しなければ今回測定されるべき前記所定ガスの溶存量推定値を算出する(第4ステップ)。すなわち、過去に生じた内部異常に起因して前回測定の際に既に存在していた前記所定ガスの溶存量が、経時的に減少することを考慮して、今回測定の際に残存している前記所定ガスの溶存量を推定する。
そして、本発明によれば、今回測定した前記所定ガスの溶存量と、前記所定ガスの溶存量推定値とに基づき、前回測定してから今回測定するまでに新たに発生した前記所定ガスの発生量推定値を算出する(第5ステップ)。すなわち、今回測定した前記所定ガスの溶存量には、過去に生じた内部異常に起因して今回測定の際にも残存している前記所定ガスの溶存量(溶存量推定値)と、前回測定してから今回測定するまでに新たに発生した前記所定ガスの溶存量(発生量推定値)とが含まれる。従って、例えば、今回測定した前記所定ガスの溶存量から溶存量推定値を減算して発生量推定値を算出すれば、この発生量推定値は、前回測定してから今回測定するまでに新たに発生した前記所定ガスのみの溶存量を示すことになる。
本発明は、前記所定ガスの発生量推定値に基づき、油入電気機器の内部異常の有無を判断する(第6ステップ)ため、内部異常によって新たに発生した前記所定ガスの溶存量のみを把握することができ、油入電気機器の現在の内部異常の有無を正確に判断することが可能である。
なお、前記所定ガスの溶存量が減少する速度定数は、予め、油入電気機器の内部で発生する部分放電が検出されない(従って、新たな内部異常が発生していないと推定される)複数のタイミングで、絶縁油中の所定ガスの溶存量を測定し、該測定した複数の所定ガスの溶存量に基づいて算出することが可能である(第1ステップ)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、過去の内部異常によって発生した絶縁油中の所定ガスの溶存量が経時的に減少することを考慮して、内部異常によって新たに発生した前記所定ガスの溶存量のみを把握するため、油入電気機器の内部異常の有無を正確に判断することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明に係る油入電気機器の内部異常の診断方法の一実施形態について、油入電気機器が変圧器である場合を例に挙げて説明する。
図1は、本実施形態に係る変圧器の内部異常の診断方法を実施するための診断装置の構成例を模式的に示す図である。図2は、本実施形態に係る診断方法の概略手順を示すフロー図である。図3は、絶縁油中のアセチレンの溶存量が経時的に減少することを考慮して、新たに発生したアセチレンのみの溶存量を推定する方法を説明する説明図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る診断装置100は、変圧器10の接地線11に配置された電流検出器1と、変圧器10の周辺に配置された電磁場センサ2と、解析装置3と、ガス分析装置4とを備える。
【0015】
本実施形態に係る電流検出器1は、先端部が分割されたクランプ式の電流変成器とされている。接地線11を電流検出器1の先端部で挟むことにより、接地線11を取り外すことなく、接地線11を流れる電流を検出可能である。
【0016】
前述した特許文献2に記載の技術では、部分放電を検出するための検出器がブッシングに取り付けられている。ブッシングは高電圧となるため、取り付け時の危険性が高く、検出器も耐電圧の高いものを用いる必要がある。このため、検出器を取り付けるには、油入電気機器を一旦停止して無電圧の状態にする必要がある。
一方、高電圧の油入電気機器は、法律により第一種接地工事を行なうよう定められており、どのような機器であっても接地線が取り付けられており、油入電気機器本体はアース状態となっているため安全である。
本実施形態によれば、油入電気機器である変圧器10の接地線11に電流検出器1を配置し、接地線11を流れる電流信号を検出することにより部分放電を検出するため、ブッシングに電流検出器を取り付ける場合に比べて、安全に取り付け可能である。また、変圧器10を停止せず、運転中でも取り付けることができるので、取り付けの機会に制約が生じないという利点も有する。換言すれば、電流検出器1を変圧器10の接地線11に常時配置しておく必要はないため、所定のタイミング毎に取り付け、部分放電を検出した後に取り外せば、変圧器10の運転に支障を来すことがない。
【0017】
本実施形態に係る電磁場センサ2は、変圧器10の内部で部分放電が生じた際に発生する電磁波を検出可能である。
【0018】
本実施形態に係る解析装置3には、電流検出器1で検出した接地線11を流れる電流信号と、電磁場センサ2で検出した電磁波信号とが入力される。解析装置3は、入力された電流信号と電磁波信号とに基づき、統計的手法を用いて部分放電を検出するように構成されている。
【0019】
具体的には、例えば、部分放電が生じたとき、変圧器10の接地線11にはパルス状の電流が流れる。これが高感度の電流検出器1で検出され、電圧信号に変換されて解析装置3に入力される。一方、電磁波センサ2は、部分放電が生じたときに空間を伝搬する電磁波を捉え、これを電圧信号として解析装置3に入力する。解析装置3は、2つの異なる計測手法によって得られた信号のうち、例えば、時間的にほぼ同時に発生している信号を抽出する。抽出の方法としては、各計測手法によって得られた信号をそれぞれ一旦整流した後、信号の時間差を算出し、この差がある値以下のものを抽出する。通常、部分放電によって生じる電流信号と電磁場信号の時間差は、数十ナノ秒から数十マイクロ秒である。その後、抽出された電流信号と電磁波信号の相互相関値を算出する。解析装置3は、ある時間範囲内での相互相関値が、予め定めた値以上である場合には、この時間範囲内で部分放電が生じていると判断する。これにより、ノイズの影響を受け難く、部分放電を精度良く検出可能である。
【0020】
本実施形態に係るガス分析装置4は、変圧器10の内部から分析に必要な量だけ抽出した絶縁油を分析し、絶縁油中のアセチレンの溶存量を測定可能に構成されている。後述するように、本発明に係る診断方法によれば、実際に変圧器10の内部異常を診断する際には、部分放電が検出されたときにのみ、絶縁油中のアセチレンの溶存量を測定すればよいため、ガス分析装置4を変圧器10に併設してアセチレンの溶存量を連続的に測定する必要はない。従って、本実施形態に係るガス分析装置4は、変圧器10から離間した測定環境に優れた場所に設置することができ、これによりガス分析装置4として高精度のガス分析装置を適用可能である。また、変圧器10に併設する必要がないため、複数の変圧器10について内部異常を診断する場合であっても、変圧器10毎にガス分析装置4を用意する必要がなく、設備コストの高騰を回避可能である。
【0021】
以上に説明した構成を有する診断装置100を用いて変圧器10の内部異常を診断する際には、まず最初に解析装置3によって部分放電を検出する(図2のS1)。解析装置3によって部分放電が検出されず(図2のS2)、なお且つ、アセチレンの溶存量が減少する速度定数を算出しないとき(図2のS3)には、変圧器10の内部異常は生じていないと判断する(図2のS4)。一方、解析装置3によって部分放電が検出されず(図2のS2)、なお且つ、アセチレンの溶存量が減少する速度定数を算出するとき(図2のS5)には、ガス分析装置4によってアセチレンの溶存量を測定する(図2のS6)。測定したアセチレンの溶存量が予め定めたしきい値A(例えば、A=0ppm)を超える場合(図2のS7)には、部分放電が検出されなかった複数のタイミングで測定したアセチレンの溶存量に基づいて、アセチレンの溶存量が減少する速度定数を算出する(図2のS8)。
【0022】
具体的な算出方法は、次の通りである。
絶縁油中のアセチレンの溶存量をC2H2とし、油入電気機器(変圧器10)の材料とアセチレンとの反応の速度定数をkとすれば、非特許文献1にも記載のように、
−d(C2H2)/dt=k(C2H2)・・・(1)
の関係がある。
反応開始時のアセチレンの溶存量をaとし、反応開始時から時間tだけ経過するまでのアセチレンの反応量をxとすれば、時間tだけ経過した後のアセチレンの溶存量は、a−xとなる。そこで、上記の式(1)における(C2H2)を(a−x)に置き換えれば、
−d(a−x)/dt=k(a−x)・・・(2)
となる。t=0において(C2H2)=aという初期条件で、上記の式(2)を積分すれば、
ln(a−x)=−kt+ln(a)・・・(3)
が成り立つ。
すなわち、絶縁油中のアセチレンの溶存量の対数ln(a−x)と、反応開始時からの経過時間tとの間には直線関係が見られ、その傾きkが、アセチレンが減少する速度定数となる。
【0023】
一方、解析装置3によって部分放電が検出されたとき(図2のS9)には、ガス分析装置4によってアセチレンの溶存量を測定する(図2のS10)。
【0024】
測定したアセチレンの溶存量が予め定めたしきい値A(例えば、A=0ppm)以下の場合(図2のS11)には、変圧器10の内部異常は生じていないと判断する(図2のS12)。ただし、解析装置3によって部分放電が検出されているため、ブッシング等の変圧器10の外部に異常が生じている可能性がある。このため、必要に応じて、変圧器10の外部の点検や修復を行えばよい。
【0025】
一方、測定したアセチレンの溶存量が予め定めたしきい値Aを超える場合(図2のS13)には、ガス分析装置4によって前回測定したアセチレンの溶存量(図3のMi−1)と、前述のようにして算出したアセチレンの溶存量が減少する速度定数kとに基づき、前回測定してからアセチレンが新たに発生しなければ今回測定されるべきアセチレンの溶存量推定値(図3のMi−1’)を算出する(図2のS14)。
すなわち、前回測定してから今回測定するまでの経過時間をtとすれば、前述の式(3)における(a−x)をMi−1’に、aをMi−1に置き換えることができるため、
ln(Mi−1’)=−kt+ln(Mi−1)・・・(4)
が成り立つ。
従って、今回測定されるべきアセチレンの溶存量推定値Mi−1’は、下記の式(5)で表される。
i−1’=e(−kt+ln(Mi−1))・・・(5)
【0026】
次に、今回測定したアセチレンの溶存量(図3のM)と、算出したアセチレンの溶存量推定値(図3のMi−1’)とに基づき、前回測定してから今回測定するまでに新たに発生したアセチレンの発生量推定値(図3のΔM)を算出する(図2のS15)。具体的には、今回測定したアセチレンの溶存量(図3のM)から溶存量推定値(図3のMi−1’)を減算して発生量推定値(図3のΔM)を算出する(すなわち、ΔM=M−Mi−1’)。
【0027】
算出したアセチレンの発生量推定値(図3のΔM)が予め定めたしきい値B(例えば、B=0ppm)以下の場合(図2のS16)には、変圧器10の内部異常は生じていないと判断する(図2のS17)。
【0028】
一方、算出したアセチレンの発生量推定値(図3のΔM)が予め定めたしきい値Bを超える場合(図2のS18)には、変圧器10の内部異常が生じていると判断する(図2のS19)。
【0029】
以上に説明した本実施形態に係る診断方法によれば、過去の内部異常によって発生した絶縁油中のアセチレンの溶存量が経時的に減少することを考慮して、内部異常によって新たに発生したアセチレンの溶存量のみを把握するため、変圧器等の油入電気機器の内部異常の有無を正確に判断することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る変圧器の内部異常の診断方法を実施するための診断装置の構成例を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る診断方法の概略手順を示すフロー図である。
【図3】図3は、絶縁油中のアセチレンの溶存量が経時的に減少することを考慮して、新たに発生したアセチレンのみの溶存量を推定する方法を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1・・・電流検出器
2・・・ループアンテナ
3・・・解析装置
4・・・ガス分析装置
10・・・変圧器(油入電気機器)
100・・・診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に絶縁油が含まれる油入電気機器の内部異常を診断する方法であって、
油入電気機器の内部で発生する部分放電が検出されない複数のタイミングで、絶縁油中の所定ガスの溶存量を測定し、該測定した複数の所定ガスの溶存量に基づいて、前記所定ガスの溶存量が減少する速度定数を算出する第1ステップと、
油入電気機器の内部で発生する部分放電を検出する第2ステップと、
前記第2ステップで部分放電が検出されたときに、絶縁油中の前記所定ガスの溶存量を測定する第3ステップと、
前記第3ステップで前回測定した前記所定ガスの溶存量と、前記第1ステップで算出した前記所定ガスの溶存量が減少する速度定数とに基づき、前回測定してから前記所定ガスが新たに発生しなければ前記第3ステップで今回測定されるべき前記所定ガスの溶存量推定値を算出する第4ステップと、
前記第3ステップで今回測定した前記所定ガスの溶存量と、前記第4ステップで算出した前記所定ガスの溶存量推定値とに基づき、前回測定してから今回測定するまでに新たに発生した前記所定ガスの発生量推定値を算出する第5ステップと、
前記第5ステップで算出した前記所定ガスの発生量推定値に基づき、油入電気機器の内部異常の有無を判断する第6ステップと、
を含むことを特徴とする油入電気機器の内部異常の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−266988(P2009−266988A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113437(P2008−113437)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【出願人】(596094577)ユカインダストリーズ株式会社 (4)