説明

油分捕捉具

【課題】 従来の水分と混じった油分をきわめて容易に且つ簡易な手段で確実に分離して容易に且つ安価に油分を回収することができる油分捕捉具を提供するものである。
【解決手段】 少なくとも水密な縦壁11を有するとともに底部12には水分が通過可能な支持体13が配置された容器状の捕捉具本体1と、捕捉具本体1の底部12に形成した支持体13の内側に設置される油水分離フィルター2とからなり、油水分離フィルター2が10〜700μmの気孔径を有するとともに保水率が100〜1400%の連続気孔の親水性合成樹脂スポンジからなるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に浮遊した状態の油分や水と混合している油分を水と分離して捕捉するために使用する油分捕捉具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ビルや工場などのように多量の排水を行う施設では下水口に排水処理設備を備える必要があり、例えばレストランやラーメン店等の飲食店の厨房のように油脂を含む排水が多量に排出される場合には下水への垂れ流しを防ぐ目的で下水への排出口にグリーストラップ(油分分離槽)を設けて油脂成分を回収することが義務づけられている。
【0003】
ところで、従来、一般に用いられているグリーストラップは、貯水槽の一側壁に流入口を、他側壁に流出口をそれぞれ設け。例えば二枚の仕切板を槽底との間に隙間をあけて取付けるとともに流入口のある一側壁と流入口側の仕切板との間には粗集籠が装着されたものであり、油脂分や固形分を含んだ排水が流入口から粗集籠に流入すると、比重の軽い油の粒子は浮力により粗集籠内部の水面へ浮上して分離され、大きい固形物は粗集籠の底に溜まって分離されるものである。
【0004】
そのため、分離して上層に堆積している油分を回収する必要があるが、多量の油分を水分の中から捕捉することは極めて困難であり、通常は上層に浮遊している油分を水分ともに例えば柄杓のような掬い具で掬い取って、これを例えば吸油シートのような吸油材を用いて分離していた。そのため、処理作業が大変で多大な労力が必要であるとともに作業する面積が必要であり、最終的に油分だけを容易に回収することができず、常時、水面に取りきれない油分が滞留して悪臭などの原因となっている。
【0005】
また、微生物、薬剤などを用いて油分を分解してしまう手段も知られているが、大掛かりな設備と管理が必要であり、各店舗に設置するようなグリーストラップには向かない。
【0006】
このことは例えば河川や海上で油分が流出した場合なども同様である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の水分と混じった油分をきわめて容易に且つ簡易な手段で確実に分離して容易に且つ安価に油分を回収することができる油分捕捉具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明である油分捕捉具は、少なくとも水密な縦壁を有するとともに底部には水分が通過可能な支持体が配置された容器状の捕捉具本体と、前記捕捉具本体の底部に形成した支持体の内側に設置される油水分離フィルターとからなり、前記油水分離フィルターが10〜700μmの気孔径を有するとともに保水率が100〜1400%の連続気孔の親水性合成樹脂スポンジからなることを特徴とする。
【0009】
容器状の捕捉具本体内に油分と水分との混合物を掬い取ると、掬い取られた前記混合物が捕捉具本体の底部に配置される油水分離フィルターが配置されている。この油水分離フィルターは分離作業を始める前に水分を含ませると、10〜700μmの連続気孔の全てが水で埋まるとともに保水率が100〜1400%と高いことからフィルター全体が水を含んで湿潤な状態となる。従って、この状態でフィルターに油分と水分との混合物が水分は連続気孔を通して重力によりフィルターを通過し、油分は通過せずにそのまま残留するので例えば油分の貯留容器にあければよい。
【0010】
特に、本発明はフィルターが親水性合成樹脂スポンジにより形成されるので気孔以外の部分も親水性を呈するのでフィルターの表面は気孔を含めて水分で覆われた状態でその水分の上に混合水から分離した油が載った状態で保持される。そのため、表面に油が付着したり気孔に油が詰まったりすることもない。
【0011】
また、連続気孔は10〜700μm程度が好ましく、10μmよりも小さいと水の透過抵抗が大きく加圧を必要としたり時間を要することになり、700μm以上になると100〜1400%の保水率を維持できない。
【0012】
また、本発明において、気孔率が50〜95%であると透過率が高くなって分離が迅速になるとともに表面に多量の水分が露出するようになり、フィルタとしての効果が向上する。
【0013】
特に、本発明である合成樹脂スポンジがPVAを原料とする連続気孔の多孔質体である場合には製造が容易で保水性にも富み、有害物質を用いることなく実施することができ環境的にも優れており、布状、板状だけでなく成型品も簡単に且つ多量に製造することができる。さらに、気孔が微生物の担体として適している。
【0014】
勿論、本発明における親水性合成樹脂スポンジとしてポリウレタンスポンジのような熱可塑性樹脂を用いても実施することができる。
【0015】
また、本発明において捕捉具本体に握り棒、取手などの把持部材を付設しておくと更に掬い、分離、あけ作業の効率が向上する。
【0016】
更に、前記捕捉具本体に注ぎ口が形成されている場合には捕捉具本体内で分離した油分をあける際に散乱する心配がなく、前記油水分離フィルターに前記支持体がインサート成型により内包されている場合には、支持部材が不要であり、油水分離フィルターの装着作業や保守作業などが容易である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構造で水上に浮遊している油分や水中に混在している油分を単に容器で掬い取るだけの簡単な作業で油分だけを分離して捕捉、回収することができる。処理に要する労力や時間を必要とせず、特に油分の容量が多くても廉価に且つ油を吸収させる用具や機器も不要で設置場所もとらず、フィルターの寿命も長く、一番家庭や料理店などを問わずに使用することができ、多量に油分を排出する料理店などにおいても設置されているグリーストラップの負担を大幅に軽減し労力や経費の節減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好ましい実施の形態を示す説明図。
【図2】図1に示した実施の形態の拡大断面図。
【図3】図1に示した実施の形態の使用状態を示す説明図。
【図4】図1に示した実施の形態の分離作用を示す説明図。
【図5】本発明の異なる実施の形態を示す説明図。
【図6】本発明の更に異なる実施の形態を示す説明図。
【図7】本発明の更に異なる実施の形態を示す説明図。
【図8】本発明の更に異なる実施の形態を示す説明図。
【図9】図8に示した実施の形態の部分図。
【図10】図8に示した実施の形態の使用状態の説明図。
【図11】図8に示した実施の形態の異なる使用状態を示す説明図。
【図12】本発明の更に異なる実施の形態の説明図。
【図13】図12に示した実施の形態の使用状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1および図2は本発明である油分捕捉具の好ましい実施の形態を示すものであり、少なくとも水密な円筒状の縦壁11を有するとともに底部12には水分が通過可能な例えば網体である支持体13が配置された容器状の捕捉具本体1と、前記捕捉具本体1の底部12に形成した支持体13の内側に設置される油水分離フィルター2とからなり、特に、本実施の形態では前記捕捉具本体1の頂端に注ぎ口と握り棒からなる把持部材15が付設されているとともに前記捕捉具本体1の底部12に配置した油水分離フィルター2の上面に配置される網状の押え部材16が配置されて、ほぼ柄杓状に警醒されている。
【0020】
また、前記油水分離フィルター2は、例えば、気孔径200μm、保水率1100%、気孔率90%のPVA(ポリビニルアルコール)を原料とする多孔質体である親水性合成樹脂スポンジ(アイオン株式会社製 商標「ベイルータ」 品番 F(A))の厚さ1mm程度の板状を呈するものである。
【0021】
尚、PVA(ポリビニルアルコール)を原料とする多孔質体である親水性合成樹脂スポンジの製造方法は公知であり、例えば、特開平7−278343号公報、特開平7−165932号公報、特願2001−81227号公報などに提示されている。
【0022】
次に本実施の形態の使用方法を説明する。図3は例えばグリーストラップのような貯留槽3内に貯留した水分4の上部に浮遊している油分5を捕捉、回収する場合を示すものであり、図示(A)の状態から柄杓で掬うように図示(B)、(C)、の順に貯留槽3内の上層に存在する油分5を水分4とともに掬い取り、図示(D)に示すようにほぼ水平な状態に保持すると直ちに水分だけが油水分離フィルター2を通過して油分5が捕捉具本体1内に濾過されて貯留する。従って、これを油分の貯留容器(図示せず)に開けて回収する。この操作を貯留槽3内の油分がなくなるまで繰り返す。また、繰り返し使用して油水分離フィルター2が劣化した場合には交換する。
【0023】
本実施の形態で油水分離フィルター2は、図4に示すように、連続する気孔21が表面のものを含めて水分4により埋まっており、油水分離フィルター2を形成するPVA(ポリビニルアルコール)を原料とする多孔質体である親水性合成樹脂スポンジは例えば次の示すように、酸を触媒としてPVAにホルムアルデヒドを結合させる掘るマール反応により生成するものであり、PVAの部分ホルマール化物(PVAF)によりできており、分子内にOH基を有し、強い親水性を発揮する。
【式1】
【0024】

【0025】
そのため、油水分離フィルター2の気孔21部分に水分4が供給保持されるだけでなく表面を含めた全てにわたって水を吸着し、表面には水の層41が形成される。そのため、その表面に混合水が注がれると水分4は油水分離フィルター2の表面を覆う水の層41に結合して気孔21を通じて透過するが油分5は水の層41にブロックされてそのまま水の層41上に溜まり分離される。
【0026】
尚、本実施の形態では油水分離フィルター2として厚さ1mmの板状のものを用いたが、予め支持体13に合致させた形状に成型することもできる。
【0027】
また、本発明である油水分離フィルター2は、例えば親水性合成樹脂スポンジとしてポリウレタンスポンジのような熱可塑性合成樹脂についても同様に実施することができる。尚、製造方法は公知であり例えば特開2004−155886号公報などに提示されている。
【0028】
図5は本発明の異なる実施の形態を示すものであり、全体の構成は前記図1および図2に示した実施の形態とほぼ同様であるが、油水分離フィルター2に支持体13をインサート成型により内包されている点が異なる。
【0029】
本実施の形態では油水分離フィルター2が内包されている支持体13により支持、補強されているので捕捉具本体1に支持体13を設置することがなく製造が容易であるとともに清掃など保守も容易である。
【0030】
更に、図6は捕捉具1を前記図1に示した実施の形態における円筒から角筒にしたものであり、多く、使用することが考えられる対象であるグリーストラップのような直線的な壁に沿って掬い易いし、あける場合にも隅部を使って散乱することなく注出させることができる。
【0031】
加えて、本実施の形態は、捕捉具1の各縦壁11が底部12方向へ収束するように傾斜しているので油分と水分との混合物を掬ったときに、掬った混合物が底部12方向へ加圧されるのでより一層分離が促進される。
【0032】
図7は本発明の更に異なる実施の形態を示すものであり、捕捉具本体1の底部12に油水分離フィルター2の嵌装凹部18を形成した底部材18がねじ部19,20により着脱自在に固着されていたものであり、油水分離フィルター2の脱着が容易であるとともに清掃などの保守も容易である。
【0033】
図8は本発明の更に異なる実施の形態を示すものであり、捕捉具本体が角形の所謂、ちりとり型を呈しており、底部12の後部である深部に形成した開口部に網状の支持体13が形成されており、図9に示すようにその裏面に油水分離フィルター2の嵌装部17を形成した裏蓋21が軸22により開閉可能に且つ開放端を係止部材23,24により係脱自在に固着されており、通常は図9(a)に示すように裏蓋21を閉じた状態で使用し油水分離フィルター2を交換するときには図9(b)に示すように、裏蓋21を開放する。従って、油水分離フィルター2の交換や保守が簡単である。
【0034】
また、図10は前記図8に示した実施の形態の使用状態を示すものであり、図10(a)に示すように、前記図3に示したように水分4と油分5との混合物を捕捉具本体1で掬い取り、図10(b)に示すように捕捉具本体1を後部方向へ傾け、掬い取った前記混合物を支持体13に沿って配置した油水分離フィルター2により水分4を分離してそのまま流出させ、捕捉具本体1に溜まっている油分を捕捉具本体1を先端側に傾けてあければよい。
【0035】
特に、本実施の形態では例えば貯留槽3に設置した機械式の捕捉機についても使用することができる。尚、本図では回転式のものを示したがこれに限らず例えば回転と往復運度を組み合わせた掬い取り式(図示せず)のものについても同様に実施することができる。
【0036】
更にまた、図12は本発明の更に異なる実施の形態を示すものであり、全体の構成は前記図9に示した実施の形態と似ているが把持部材15が角筒形の捕捉具本体1の四隅に掛けて所謂、四つ手網のように配置されており、底面の少なくとも一部(中央部が好ましい)或いは全面に支持体13と油水分離フィルター2とが配置されている。
【0037】
本実施の形態は、前記図9に示した実施の形態の使用状態を示す図10と同様にして使用することができるが、図13に示すように、貯留槽3の開口部とほぼ同形の底部12を有する大きさに形成しておくことにより、図13(a)に示すように、貯留槽3内に沈めた捕捉具本体1を図13(b)に示すようにそのまま引き揚げることにより一度の操作で油分5を掬い取ってしまうことができきわめて作業効率がよい。
【符号の説明】
【0038】
1 捕捉具本体、2 油水分離フィルター、11 縦壁、12 底部、13 支持体、14 注ぎ口、15 把持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水密な縦壁を有するとともに底部には水分が通過可能な支持体が配置された容器状の捕捉具本体と、前記捕捉具本体の底部に形成した支持体の内側に設置される油水分離フィルターとからなり、前記油水分離フィルターが10〜700μmの気孔径を有するとともに保水率が100〜1400%の連続気孔の親水性合成樹脂スポンジからなることを特徴とする油分捕捉具。
【請求項2】
前記掬い具本体に把持部材が付設されていることを特徴とする請求項1に記載の油分捕捉具。
【請求項3】
前記捕捉具本体に注ぎ口が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の油分捕捉具。
【請求項4】
前記油水分離フィルターに前記支持体がインサート成型により内包されていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の油分捕捉具。
【請求項5】
前記油水分離フィルターの気孔率が50〜95%であることを特徴とする請求項1,2,3または4記載の油分捕捉具。
【請求項6】
前記親水性合成樹脂スポンジがPVAを原料とする連続気孔の多孔質体である請求項1,2,3,4または5記載の油分捕捉具。
【請求項7】
前記親水性合成樹脂スポンジがポリウレタンスポンジである請求項1,2,3,4,5または6記載の油分捕捉具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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