説明

油吸着材

【課題】安価に製造することができ、かつ油吸着性に優れ、しかも環境負荷の少ない油吸着材を提供する。
【解決手段】
SiOとAl又はCaOとの結合結晶を主成分とし、無数の微細孔を有する砂状をなす油吸着材である。多孔質のセラミック粒子であるため高い油吸着能力を有し、化学的に安定した物質であるため、環境負荷も小さい。この油吸着材は、製紙工程で発生する廃材である製紙スラッジを燃焼させることにより生じた残渣物又はこの残渣物を再燃焼させることにより焼成処理した焼成物として得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油類の吸着処理に用いられる油吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、油類は、燃料用、機器の潤滑用、油圧機器用、食用など、一般家庭から公共施設を含む各産業分野まで、さまざまな分野で使用され、不可欠なものとなっている。しかしながら、これらの油類は、使用時あるいは貯蔵時に、事故などによって過って流出した場合、重大な環境破壊を引き起こすおそれがある。したがって、過って流出した油類は、速やかにこれを回収し、あるいは吸着処理する必要がある。
【0003】
従来、油類を吸着するために使用される油吸着材としては、木材チップ、綿などの天然植物系のものや、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維などの合成繊維系のものや、発泡ポリウレタンフォームなどの発泡樹脂系のものが知られており、用途によっては、ウエス(ぼろきれ)、砂、おがくず、粘土系の吸着材なども用いられ、廃材を利用したものとしては、ALC廃材や建設廃材を用いたものが下記の特許文献に開示されている。
【特許文献1】特開2000−5746号公報
【特許文献2】特開2003−210978号公報
【0004】
しかしながら、合成繊維系や発泡樹脂系の油吸着材は製造コストが高く、しかも、必ずしも油吸着能力が高いものではなく、含有成分によっては、焼却処理したときに有害ガスを発生して環境に悪影響を及ぼすおそれもあり、粘土系の吸着材などは、吸着材自体が周辺を汚すため、後処理が困難になる問題が指摘される。また、上記特許文献に開示された油吸着材は、ALC廃材や建設廃材に塗料や殺虫剤など有害物が付着していることによって、有効利用が困難な場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、安価に製造することができ、かつ油吸着性に優れ、しかも環境負荷の少ない油吸着材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係る油吸着材は、SiOとAl又はCaOとの結合結晶を主成分とし、無数の微細孔を有する砂状をなすことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明において、SiOとAl又はCaOとの結合結晶を主成分とする物質は、製紙スラッジを燃焼させることにより生じた残渣物又はこの残渣物を再燃焼することにより焼成処理した焼成物として得ることができる。
【0008】
すなわち、本発明に係る油吸着材は、SiOとAl又はCaOとの結合結晶を主成分とし、無数の微細孔を有する砂状(顆粒状)をなす多孔質のセラミック粒子であるため、高い油吸着能力を有し、化学的に安定した物質であるため環境負荷も小さいものである。しかもこの油吸着材は、製紙の工程で発生する再利用不可能なパルプ繊維や、古紙から原料パルプを取り出した後に残った短繊維及び粘土分、又は水分を含んだ炭酸カルシウムが主体の泥状物である製紙スラッジを燃焼させることにより生じた残渣物、又はこの残渣物を再燃焼させることにより焼成処理した焼成物として得られるため、製紙工程で発生する廃材を有効利用することができ、安価な製造コストで提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る油吸着材によれば、事故などにより流出した油類、あるいは作業中に漏出した油類などに散布することで、これらの油類を瞬時(極めて短時間)に吸着し、環境負荷を低減することができる。しかも本発明に係る油吸着材は、SiOとAl又はCaOとの結合結晶を主成分とする化学的に安定な物質であるため、油類を吸着した後で燃焼処理しても有害ガスを発生することはなく、製紙工程で発生する廃材である製紙スラッジを利用して得られるものであるため、この点からも環境負荷を低減することができる。
【0010】
また、本発明に係る油吸着材は、無数の微細孔によって高い油吸着能力を有するため、速やかに、かつ効率良く流出油の回収が可能であり、このため回収コストが安価であり、油の種類や量に拘らず使用可能であり、砂状であるため、使用場所も限定されず、散布するだけで良いため、使用が容易であり、例えば事故などの復旧に緊急を要する場合に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明に係る油吸着材の好ましい実施の形態について説明する。
【0012】
本発明に係る油吸着材は、製紙工程で発生する再利用不可能なパルプ繊維や、古紙のリサイクルによる再生紙の製紙工程で、再生紙の原料となるパルプを取り出した後に残る、短繊維と粘土分(主にカオリン)又は水分を含んだ炭酸カルシウムが主体の泥状物を含む製紙スラッジを、800〜1500℃で燃焼することによって得られる多孔質のセラミックからなる燃焼残渣物、又はこの燃焼残渣物中に残存する未燃カーボンを800〜1500℃で再燃焼させることによって焼成処理した焼成灰からなる。
【0013】
詳しくは、上述の燃焼残渣物油吸着材は、SiO(シリカ)とAl(アルミナ)又はCaO(石灰)との結合結晶を主成分とし、またMgO(酸化マグネシウム)を含有し、例えばSiOとAlが結合した結晶物、CaOとSiOが結合した結晶物、SiOとAlとCaOが結合した結晶物、もしくはそれら化合物(SiO、Al、CaO、MgO)と前記結合結晶物との混合物であって、化学的に非常に安定しており、無数の微細孔を有するため、高い油吸着能力を有するのに加え、発生した臭気を吸収する効果も期待できる。
【0014】
この油吸着材は、砂状を呈するため、散布場所が限定されない。また、その粒度は細かいもののほうが、表面活性が高まって油吸着効果を高めることができる。また、この油吸着材は水分を含んでいると油吸着性が低下するため、絶乾状態としておくことが好ましく、使用の際には、乾燥した状態で油類に散布する。散布量は、吸着対象の油脂の種類や性状、施工条件などによって異なるが、一般的には油脂1リットルに対して1.5〜1.7リットル程度散布すれば十分である。
【0015】
本発明に係る油吸着材により吸着可能な油類は、灯油やエンジンオイルのほか、ガソリン、原油、重油、軽油、油圧機器用作動油、潤滑油、鉱物油、植物性の食用油、動物性の食用油、それらの廃油など、あらゆる液状油脂である。このため、道路等での事故による油の流出、火災現場、石油産業(製油所、石油備蓄設備、給油所など)、各種製造業(化学工業、自動車工業、機械工業など)、運輸業(海運、空港、鉄道、車両による輸送、バス会社など)、建設業(建設現場、油汚染土壌処理など)、その他、油類を取り扱うあらゆる産業、あるいは一般家庭で、油の吸着処理に用いることができる。
【実施例】
【0016】
本発明に係る油吸着材の具体的な実施例の化学成分を表1に示す。
【表1】

【0017】
図1は、表1の製紙スラッジ灰からなる本発明の実施例の油吸着材と、市販のパ-ライト系の油吸着材(比較例1)及び市販の珪藻土系の油吸着材(比較例2)を用いて、エンジンオイル及び灯油に対する吸着試験を行い、その吸着率を測定した結果を示す図表である。詳しくはこの図表は、油吸着材が吸収した油の体積を、使用した油吸着材の体積で除した値を百分率で表したものである。
【0018】
図2は、表1の製紙スラッジ灰からなる本発明の実施例の油吸着材と、市販の吸着材(比較例1,2)を用いて、エンジンオイル及び灯油に対する吸着試験を行い、その吸油速度を測定した結果を示す図表である。詳しくはこの図表は、直径20mmのガラス管に乾燥させた油吸着材を高さ150mmまで充填し、吸油高さの経時変化を測定したものである。
【0019】
上述の試験結果、図1に示されるように、実施例の油吸着材は、比較例1,2の油吸着材に比較して高い油吸着力を有し、しかも粘性の異なるエンジンオイル及び灯油に対して同程度の油吸着力が得られることが確認された。また図2に示されるように、実施例の油吸着材は、比較例1,2の油吸着材に比較して優れた吸油速度を示すことが確認された。
【0020】
なお、上述の試験のほか、コンクリート床面に100gのエンジンオイルをこぼして、これに実施例の油吸着材を200g散布したところ、10秒で完全に床面の油分を吸着することができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例の油吸着材と、市販の吸着材(比較例1,2)を用いて、エンジンオイル及び灯油に対する吸着率を測定した結果を示す図表である。
【図2】本発明の実施例の油吸着材と、市販の吸着材(比較例1,2)を用いて、エンジンオイル及び灯油に対する吸油速度を測定した結果を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOとAl又はCaOとの結合結晶を主成分とし、無数の微細孔を有する砂状をなすことを特徴とする油吸着材。
【請求項2】
SiOとAl又はCaOとの結合結晶を主成分とする物質が、製紙スラッジを燃焼させることにより生じた残渣物又はこの残渣物を再燃焼することにより焼成処理した焼成物であることを特徴とする請求項1に記載の油吸着材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−472(P2010−472A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162847(P2008−162847)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】