説明

油圧回路を備えた機器における作動油漏れ検知装置

【課題】 ダイカストマシン等の油圧回路を備えた機器において、作動油として水溶性作動油を使用した場合に、油圧回路からの作動油の漏れを早期に発見することが可能な油圧回路を備えた機器における作動油漏れ検知装置を提供すること。
【解決手段】 機器Aの油圧回路から漏出した水溶性作動油がその他の水性液と混ざり合って排水タンク1に貯留され、該排水タンク1に貯留された廃液LのpH値を計測するpH測定器2を備えてなり、該排水タンク1に貯留された廃液LのpH値を計測することにより当該廃液L中に混合された作動油の有無を検知するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシン等の油圧回路を備えた機器において当該油圧回路で使用している作動油の漏れを検知するための検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシン等の油圧回路を備えた機器では、当該油圧回路から作動油が漏出するのを完全に防止することは至難である。しかし、機器の使用(作動)に伴ってその油圧回路から作動油が漏出して減少すると、それにつれて機器が所定の能力ないし機能を発揮し得なくなるので、作動油の漏出(減少)に気付くまでダイカストマシンであれば不良品を鋳造し続けてしてしまうことになる。
その為に、油圧回路からの作動油の漏出をできるだけ早期に発見できる装置の提供が希求されている。
【0003】
一方、機器の油圧回路から漏出した作動油は、排水路(排水ピット)を通して排水タンク等に貯留されるが、排水タンクには機器の油圧回路から漏出した作動油以外にも、ダイカストマシンであれば金型キャビティに噴射された水溶性離型剤や水溶性潤滑剤、或いは金型冷却水、洗浄水なども排水路(排水ピット)を通して流れ込むため、特に作動油として水溶性のものを使用した場合には、油性の作動油とは異なり完全に混ざり合ってしまうので、作動油が混ざっているのか否か目視による確認ができない状態となる。
【0004】
その為に、油圧回路からの作動油の漏れに気付くのが遅くなって機器が動作不良を起こし、更には、作動油が混ざった廃水を水処理するのに多大の環境負荷と処理費用がかかることになる。
ちなみに、油圧回路に使用される水溶性作動油としては、一般的にエチレングリコールが使用される。
【0005】
尚、本願出願人が知っている上記の先行技術は、文献公知発明に係るものではないため、本願明細書には先行技術文献情報を開示しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、機器の油圧回路に水溶性作動油を使用した際に、特に、機器の油圧回路から漏出した水溶性作動油がその他の水性液と混ざり合って排水タンクに貯留される場合に、いかにして油圧回路からの作動油の漏れを早期に発見し得るものかを鋭意研究している中で、水溶性作動油が強いアルカリ性を呈し、油圧回路から漏出した水溶性作動油がその他の水性液と混ざり合うと作動油の有無ないし作動油の量によりpH値が変化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の目的は、ダイカストマシン等の油圧回路を備えた機器において、作動油として水溶性作動油を使用した場合に、油圧回路からの作動油の漏れを早期に発見することが可能な作動油漏れ検知装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる目的を達成する本発明の油圧回路を備えた機器における作動油漏れ検知装置は、機器の油圧回路から漏出した水溶性作動油がその他の水性液と混ざり合って排水タンクに貯留され、該排水タンクに貯留された廃液のpH値を計測するpH測定器を備えてなり、該排水タンクに貯留された廃液のpH値を計測することにより当該廃液中に混合された作動油の有無を検知することを特徴としたものである(請求項1)。
この際、前記pH値が設定値を超えた場合に警報を発するように構成され(請求項2)、また前記pH値を目視し得る手段が設けられている(請求項3)ことが好ましい。
更に、前記排水タンクは、前記油圧回路を備えた機器と同じ設置床上にあって機器の近傍に配設することが好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油圧回路を備えた機器における作動油漏れ検知装置は斯様に、機器の油圧回路から漏出した水溶性作動油がその他の水性液と混ざり合って排水タンクに貯留され、該排水タンクに貯留された廃液のpH値を計測することにより当該廃液中に混合された作動油の有無を検知するように構成したので、排水タンクにpH測定器を設置するだけで、油圧回路からの作動油の漏れを早期に発見することが可能となる。
その結果、油圧回路から漏出した分の作動油を早期に補充することが可能となるので、作動油の漏れに気付かずに不良品を鋳造してしまうような恐れがなくなり、更には他の水性液と混ざり合って排水タンクに流出するのを早期に食い止めることが可能となる。
【0010】
この際、前記pH値が設定値を超えた場合に警報を発するように構成することにより、他の作業中であっても機器の油圧回路から作動油が漏出したことを直ちに知って対応することが出来るようになる。
【0011】
更に、前記pH値を目視し得る手段が設けられていれば、前記pH値が設定値を超える前にもっと迅速に作動油の漏れに対応することが容易となる。
【0012】
また、前記排水タンクを油圧回路を備えた機器と同じ設置床上にあって機器の近傍に配設することにより、pH測定器等のメンテナンスが容易となるだけでなく、排水タンク内の廃液の色や水量などの状況観察を行いやすくなる。
従って、作動油の漏出を発見しやすくなると同時に、作動油が混じった廃液を次の水処理工程に回すのを直ちに停止して、廃液処理に伴う環境負荷及び処理費用を軽減させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な好適実施例を、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は図示した実施例のものに限定されるものではない。
【0014】
図中の符号Aはダイカストマシン等の油圧回路を備えた機器を示し、この機器Aの油圧回路から漏出した作動油は、機器Aが設置されている床Bの地下に形成された排水路(排水ピット)Cを通して一旦地下排水槽Dに貯留され、地下排水槽DからポンプEで汲み上げられて地上に設置された排水タンク1に貯留される。
【0015】
地下排水槽Dには、機器Aの油圧回路から漏出した作動油の他に、機器Aがダイカストマシンの場合には、金型キャビティに噴射された水溶性離型剤や水溶性潤滑剤、或いは金型冷却水、洗浄水等の他の水性液も排水路(排水ピット)Cを通して流れ込み、油圧回路から漏出した作動油と混じり合うことになる。従って、排水タンク1にも機器Aの油圧回路から漏出した水溶性作動油とその他の水性液とが混ざり合った廃液Lが貯留されることになる。
【0016】
そして、排水タンク1ないしはその近傍に、排水タンク1の内部に貯留された廃液LのpH値を計測するためのpH測定器2が設置される。
【0017】
pH測定器2は、排水タンク1内の廃液L中に浸漬させて廃液LのpH値を計測する電極部21と、計測されたpH値を演算する操作機構部22等から構成され、更に操作機構部22には計測したpH値を表示する表示窓23や、pH値の設定などを行うための操作部24等を備えてなる。
【0018】
また、pH測定器2の操作部24では、計測されたpH値が設定値を超えた場合に警報を発するように予めpH値の設定操作を行う。
更に、このpH測定器2ないしその近傍には、警報を発するための警報器3を設置し、pH測定器2の表示窓23を、現在計測されているpH値を目視するための目視手段とする。従って、pH測定器2は油圧回路を備えた機器Aの近傍に配置することが好ましい。
【0019】
また、排水タンク1は、油圧回路を備えた機器Aと同じ設置床B上の近傍に配設せしめ、その内部には、排水タンク1に貯留された廃液Lを次の廃水処理工程に送る直前の廃水を一時的に蓄えておくための貯留タンク4を設け、その貯留タンク4の内部に廃水を次の廃水処理工程に送るためのポンプ5を備えてなる。
【0020】
而して、機器Aの油圧回路から漏出した作動油は、金型キャビティに噴射された水溶性離型剤や水溶性潤滑剤、或いは金型冷却水、洗浄水等の他の水性液と一緒になって排水路(排水ピット)Cを通して一旦地下排水槽Dに貯留され、作動油とその他の水性液が混ざり合った廃水は地下排水槽Dから地上に設置された排水タンク1に移送されるので、排水タンク1内の廃水のpH値をpH測定器2で常時計測するようにする。
【0021】
現在計測されているpH値はpH測定器2の表示窓23を通して常時観察することができるが、pH測定器2で計測したpH値が設定値を超えると、警報器3から警報が発せられるので、その際には地下排水槽Dの排水を排水タンク1へ送るポンプEを停止させると同時に、油圧回路を備えた機器Aも停止させて、油圧回路の油漏れ箇所を探し修理を行うと共に、漏出して不足した分の作動油を油圧回路に補充し、然る後に、機器A及びポンプEを再び動作させる。
【0022】
一方、排水タンク1及び地下排水槽Dに貯留された排水は、バキュームカー等で回収して油分貯槽へ放流し、特別な廃水処理を行う。
【0023】
下記の表1に、水溶性離型剤(村松石油研究所製、SAFETY-LUBE1804)1000mlに作動油(村松石油研究所製のエチレングリコール(ハイドールHAW))を0.1%づつ加えた時のpH値の変化を示す。
この表1から、作動油(エチレングリコール)が増加するに従ってpH値が高くなることが理解される。
【0024】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明実施の一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0026】
A:油圧回路を備えた機器 B:機器が設置されている床
C:排水路(排水ピット) D:地下排水槽
E:ポンプ L:廃液
1:排水タンク 2:pH測定器
21:電極部 22:操作機構部
23:表示窓 24:操作部
3:警報器 4:貯留タンク
5:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の油圧回路から漏出した水溶性作動油がその他の水性液と混ざり合って排水タンクに貯留され、該排水タンクに貯留された廃液のpH値を計測するpH測定器を備えてなり、該排水タンクに貯留された廃液のpH値を計測することにより当該廃液中に混合された作動油の有無を検知することを特徴とする油圧回路を備えた機器における作動油漏れ検知装置。
【請求項2】
前記pH値が設定値を超えた場合に警報を発するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の油圧回路を備えた機器における作動油漏れ検知装置。
【請求項3】
前記pH値を目視し得る手段を設けてなる請求項1又は2に記載の油圧回路を備えた機器における作動油漏れ検知装置。
【請求項4】
前記排水タンクを、前記油圧回路を備えた機器と同じ設置床上の近傍に配設してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の油圧回路を備えた機器における作動油漏れ検知装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−157867(P2008−157867A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349588(P2006−349588)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000005256)株式会社アーレスティ (44)
【Fターム(参考)】