説明

油水分離フィルター

【課題】 混合水からの油分の分離が確実で且つ迅速であり、目詰まりもなく連続使用が可能であり、取り除いた油の処理も簡単であるばかりか、使用方法も簡単で従来の各種の排水処理手段に用いられているフィルターにそのまましようすることができ、また、飲食店や家庭の流し場などにおいて簡易な装置でも使用可能な油水分離フィルターを提供する。
【解決手段】 気孔径が10〜700μmの連続気孔を有するとともに保水率が100〜1400%の親水性を有する多孔質体からなることを特徴とし、分離作業を始める前に油水分離フィルター1に水分を含ませると、10〜700μmの連続気孔の全てが水で埋まるとともに保水率が100〜1400%と高いことからフィルター全体が水を含んで湿潤な状態となり、この状態でフィルターに混合水が注がれると水分は連続気孔を通して重力によりフィルターを通過し元の状態に復帰する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と油の混合液(以下「混合液」という)から油を回収するために用いられる油水分離フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から一般家庭や営業用調理場、ビルの排水、公共事業体の汚水廃液処理施設への導管からの排水には油・ラード類が混入しており、このような排水は、下水道管の詰まりや臭気などの原因となるばかりか公共下水道施設の機能の著しい妨げとなったり、大雨の後等に下水道施設からの油塊(白色固形物)が港湾に流出するという問題等もあり、地域では飲食店事業者に対し、混合液中の油脂類等を分離、阻止する阻集器を設置させて下水道への油・ラード類を流出させないという対策もとられている。
【0003】
一方、従来から混合液の水と油を分離する方法が考えられて、例えば特開2008−173574号公報などに提示されているような凝集剤を用いるもの、特開2007−268380号公報などに提示されているようなサイクロンなどの遠心分離等の機械によるによるもの、特開2005−34752号公報等に提示されているような比重分離によるもの、特表平10−502904号公報などに提示されている比重分離手段にさらに加圧手段を併設したもの、特開2005−87926号公報などに提示されているような微生物分解によるものなどが知られている。
【0004】
ところが、凝集剤を用いるものは経費が日常的に掛かるばかりか濾過した凝集物の処理も手間と費用が掛かる。また、遠心分離器のような機械によるもの、比重分離によるものは多量に且つ大型の施設においては有効かもしれないが簡易ないとともに最終的に水と油が界面で接触した状態となることからさらにドレーン装置などが必要であって完全な分離ができないという問題がある。さらに、微生物を用いるものは時間が掛かるとともに管理が大変であるという問題がある。
【0005】
そこで、簡易な手段で混合水を油と水とに分離する手段として微細な多孔質を有するフィルタが用いられており、特開平8−52305号公報、特開平9−150003号公報、特開平9−201502号公報、特開平11−156104号公報などが提示されている。
【0006】
しかしながら、前記特開平8−52305号公報に提示されているものは多孔質のセラミックスを用いたもので、従来から微細な多孔質体の機能の1つとして用いられている油分を精製するために用いられるものであり、水分中の油分を除去をする目的で用いられるものではない。
【0007】
さらに、特開2000−402号公報にはポリビニルジフルオライトのフィルターに夜ものが提示されているが、メンブランフィルターの状態で実施するものであって、実用的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−173574号公報
【特許文献2】特開2007−268380号公報
【特許文献3】特開2005−34752号公報
【特許文献4】特表平10−502904号公報
【特許文献5】特開2005−87926号公報
【特許文献6】特開平8−52305号公報
【特許文献7】特開平9−150003号公報
【特許文献8】特開平9−201502号公報
【特許文献9】特開平11−156104号公報
【特許文献10】特開2000−402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来の油水分離手段に用いられるフィルターが有する課題を解決するためになされたものであり、混合水からの油分の分離が確実で且つ迅速であり、目詰まりもなく連続使用が可能であり、取り除いた油の処理も簡単であるばかりか、使用方法も簡単で従来の各種の排水処理手段に用いられているフィルターにそのまましようすることができ、また、飲食店や家庭の流し場などにおいて簡易な装置でも使用可能な油水分離フィルターを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために成された本発明は、気孔径が10〜700μmの連続気孔を有するとともに保水率が100〜1400%の親水性を有する多孔質体からなることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、分離作業を始める前に油水分離フィルターに水分を含ませると、10〜700μmの連続気孔の全てが水で埋まるとともに保水率が100〜1400%と高いことからフィルター全体が水を含んで湿潤な状態となる。従って、この状態でフィルターに混合水が注がれると水分は連続気孔を通して重力によりフィルターを通過し、元の状態に復帰する。
【0012】
特に、本発明は親水性多孔質体により形成されるので気孔以外の部分も親水性を呈するのでフィルターの表面は気孔を含めて水分で覆われた状態でその水分の上に混合水から分離した油が載った状態で保持される。そのため、表面に油が付着したり気孔に油が詰まったりすることもない。この際、多孔質体自体が親水性を有していない場合には表面に従来周知の各種の親水性を有する物質をコーティングなどのような周知の手段を用いて付与する。
【0013】
また、連続気孔は水の表面張力の関係で保水性と透過性を考慮すると10〜700μm程度が好ましく、10μmよりも小さいと水の透過抵抗が大きく加圧を必要としたり時間を要することになり、700μm以上になると100〜1400%の保水率を維持できない。
【0014】
また、本発明において、気孔率が50〜95%であると透過率が高くなって分離が迅速になるとともに表面に多量の水分が露出するようになり、フィルタとしての効果が向上する。
【0015】
特に、本発明である親水性の合成樹脂スポンジがPVAを原料とする連続気孔の合成樹脂スポンジである場合には製造が容易で保水性にも富み、有害物質を用いることなく実施することができ環境的にも優れており、布状、板状だけでなく成型品も簡単に且つ多量に製造することができる。さらに、気孔が微生物の担体として適しているので油分離機能とび生物の担体としての機能を発揮させる用い方もできる。
【0016】
勿論、本発明における多孔質体を形成する親水性合成樹脂スポンジとしてポリウレタンスポンジ、合成樹脂焼結体のようなものなど熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂についても実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好ましい実施の形態を示す斜視図。
【図2】図1に示した実施の形態の分離作用を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の好ましい実施の形態を示すものであり、気孔径200μm、保水率1300%、気孔率91%、水に対する濾過流速30cm/min.のPVA(ポリビニルアルコール)を原料とする多孔質体である親水性合成樹脂スポンジ(アイオン株式会社製 商標「ベイルータ」 品番 F(A))の厚さ1mm程度の板状の油水分離フィルター1を示すものである。
【0019】
尚、PVA(ポリビニルアルコール)を原料とする多孔質体である親水性合成樹脂スポンジの製造方法は公知であり、例えば、特開平7−278343号公報、特開平7−165932号公報、特願2001−81227号公報などに提示されている。
【0020】
次に本実施の形態を図2に示す分離作用を示す説明図に基づいて使用方法を説明する。
【0021】
本実施の形態を使用するには、前記図1示した油水分離フィルター1を例えば器状に湾曲させた金網などのフィルター台に設置する(図示せず)。ついで、先ず、混合液を注水する前に水を油水分離フィルター1に充分注水し飽和状態に吸水させておく、尚、フィルター台に設置する前に容器に貯溜させた水に浸けて保水させてもよく、この場合には油水分離フィルター1が水分を含んで柔軟になるので設置し易い。
【0022】
フィルター台に設置された油水分離フィルター1は、連続する気孔2が表面のものを含めて水分3により埋まる。また、油水分離フィルター1を形成するPVA(ポリビニルアルコール)を原料とする多孔質体である親水性合成樹脂スポンジは例えば次の示すように、酸を触媒としてPVAにホルムアルデヒドを結合させるホルマール反応により生成するものであり、PVAの部分ホルマール化物(PVAF)によりできており、分子内にOH基を有し、強い親水性を発揮する。
【式1】
【0023】

【0024】
そのため、図2に示すように、油水分離フィルター1の気孔2部分に水分3が供給保持されるだけでなく表面を含めた全てにわたって水が吸着し、表面には水の層4が形成される。そのため、その表面に混合水が注がれると水分は油水分離フィルター1の表面を覆う水の層4に結合して気孔2を通じて透過するが油分5は水の層4にブロックされてそのまま水の層4上に溜まり分離される。
【0025】
本実施の形態について、水1リットルに油(サラダ油)5mlを添加した混合水を注いだところ、即座に油水分離フィルター1を透過して分離が行われ、ほぼ添加した量の油が油水分離フィルター1に残存したことが確認された。また、油水分離フィルター1を透過させる前の混合水では表面に油が確認できたが透過後の水分には表面を含めて油を目視により確認することができず、迅速且つ確実な分離が確認された。
【0026】
尚、本実施の形態では厚さ1mmの板状のものを用いたが、予め各種の形状に成型することもできる。
【0027】
また、本発明は、例えば親水性合成樹脂スポンジの素材としてはポリウレタンスポンジのような熱可塑性合成樹脂、或いは熱硬化性合成樹脂、更には高密度ポリエチレンパウダの焼結体などについても同様に実施することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 油水分離フィルター、2 気孔、3 水分、4 水の層、5 油分



【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔径が10〜700μmの連続気孔を有するとともに保水率が100〜1400%の親水性を有する多孔質体からなることを特徴とする油水分離フィルター。
【請求項2】
気孔率が50〜95%であることを特徴とする請求項1に記載の油水分離フィルター。
【請求項3】
前記多孔質体の表面に親水性物質を付加することにより親水性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の油水分離フィルター。
【請求項4】
前記親水性多孔質体が親水性合成樹脂スポンジであることを特徴とする請求項1,2または3に記載の油水分離フィルター。
【請求項5】
前記親水性合成樹脂スポンジがPVAを原料とする親水性合成樹脂スポンジである請求項4に記載の油水分離フィルター。
【請求項6】
前記親水性合成樹脂スポンジが焼結体である請求項4に記載の油水分離フィルター。
【請求項7】
前記親水性合成樹脂スポンジがポリウレタンスポンジである請求項4に記載の油水分離フィルター。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate